Facebook「いいね」機能は、経営陣は反対だった

SNSに投稿する人たちがどうしても気になるのが「いいね」の数ですね。「いいね」の機能は、FacebookがSNSの世界で初めて実装しました。Facebook急成長の1つの要因はこの「いいね」機能でした。いまやTwitterやInstragranなどの多くのSNSが「いいね」機能を標準装備しています。

でもこの機能、当初は経営陣が反対していたことをご存じでしょうか。

この機能は2007年に、同社のプロダクトマネジャーだったリア・パールマンが中心になって開発した機能です。

当時のFacebookは創業3年目。問題を抱えていました。人気投稿にはコメントが沢山つきますが「すごい」「おめでとう」という簡単なモノが多く、意味のあるコメントが埋もれていたのです。

パールマンたちは「解決策はないか?」と社内で議論を繰り返し、9ヶ月かけて辿り着いたのが「awesome (すごい)」というボタンを付けること。実際にプログラムを作って動かしてみたら、社内の評判も上々です。

しかし2007年年末、ザッカーバーグCEOなどの経営陣に最終承認を得ようとしたところ、「簡単に応答できてしまうと、ちゃんとしたコメントが減るんじゃないの? あとawesome(すごい)よりは、like(いいね)がいいと思う」と反対されてしまいました。

そこで開発チームは「この機能でユーザー同士のやり取りは増える」という実データを見せて、経営陣を説得。そして「awesome(すごいね)」は「like(いいね)」に変更しました。

2009年2月、ザッカーバーグの最終承認の後、2009/2/10、「いいね」機能は発表されました。当時の発表文はこちら

この「いいね」機能のおかげで、Facebookは極めて強い拡散力を獲得し、GAFAの一角を占めるまでに成長しました。

(以上は、こちらの記事を参考にしました)

当時、Facebookの開発チームも経営陣も、この小さな「いいね」機能が、SNS全体をここまで変貌させる強力な機能だったとは知りませんでした。

このように「実際にやってみないとわからない」という話は、世の中にたくさんあります。

マクドナルドがビッグマックの肉を大幅増量した「メガマック」を発売した際にも、「ヘルシー志向の世の流れと逆行するのでは?」という反対もありました。しかし大ヒットしました。

さらに昔でいうと、日本ビクターが開発したVHSビデオも当初は社内で大反対のお荷物プロジェクト。しかし大成功して、ビデオデッキの標準になりました。

商品が成功するかどうかなんて、事前にはなかなかわかりません。サケの産卵のようなものです。サケは3000個の卵を産みますが、成魚になるのは2-3匹。卵を一つ一つ選別しても、それが成魚になるかなんてわからないのと同じです。でも「成功確率は2/3000で低いから、産卵なんてやめよう」ともしサケが考えたとしたら、サケは絶滅してしまいます。

だから大ヒット商品を生み出すには、現場社員が様々なことに自由に挑戦し、意思決定者(日本企業では部長や部門長レベル)が反対しても現場社員が対等に反論できるような組織文化が必要です。

あなたの組織はいかがでしょうか?

 

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プレゼンは事実でなく、インサイトを示せ

多くの人のプレゼンを見てきました。

感覚的な話しですが、全体の8〜9割くらいの人が「プレゼン資料で、このポイントを改善するだけで、説得力が格段に上がるのになぁ」と感じることがあります。

それは、事実だけを述べていること。

たとえばプレゼンで、こんなチャートをよく見かけます。

でもこれだけの情報を見せられても、聴き手は「で?」なんですよね。

こんな事実を次々と列挙する話を延々と聞かされて終わり…というプレゼンも、たまにあります。確かに事実は大事なのですが、プレゼンで事実を伝えるだけでは、聴き手の時間をムダにしています。

プレゼンの目的は、聴き手を動かすこと。
聴き手が知りたいのは、「だから、要はナニ?」なのです。

このように資料を変えると、資料にメッセージが宿ります。(これは先週のコラムで紹介したGOの事例を、私がチャートに書き起こしたものです)

ポイントは、「この事実には、こんな意味がある。だから私はこうしたい」なのです。

聴き手がそのメッセージに共感すれば、聴き手は動きます。「聴き手を動かす」という目的を達成できるプレゼンとは、事実ではなく、インサイト(洞察)を伝えるプレゼンなのです。

そのためには、その事実を元に「これはどういう意味か?」→「自分はこの事実を元に、何をしたいのか?」を考えて、言葉にすることです。

あなたの今度のプレゼンに、インサイトはありますか?

今一度考えてみるだけでも、今度のプレゼンの説得力は、大きく変わってくると思います。

 

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タクシーに乗って、DXの本質を知る

先日、タクシーでやや長距離を移動したときのこと。

私は長距離は、なるべく個人タクシーを使うようにしています。
運転が丁寧ですし、道に迷うことがまずないからです。
しかしこの時はラッシュ時で、個人タクシーが掴まりません。
そこでタクシーアプリの「GO」で、日本交通のタクシーを呼びました。

5分程度で来てくれました。運転手は20代の若い男性です。いつも通り道順を伝えると…。

「その道順よりも、こっちの道順の方が3分ほど早く着きますが、いかがしましょう?」

GOでタクシーを呼ぶ際、目的地の住所指定をしたので、行き先はカーナビに自動セットされているのですね。(ちなみにタクシーを呼ぶ時は住所入力は不要で、地図上で建物をクリックするだけです)

お任せしたところ、「こんな道あったの?」と思うほどの抜け道を走り、あっという間に到着しました。

でもこの若い運転手が、抜け道を知っているわけではありません。カーナビの通りに走ったわけですね。

2022年11月18日のテレビ東京・ワールドビジネスサテライトを見ていたら、まさにこのことを紹介していました。

番組に登場した20代の女性運転手は、乗務歴4ヶ月。でも既に売上は営業所の平均です。その秘密が、GOの活用。

これまでタクシー運転手は、空車の時には流しで運転し客を掴まえるのに独特の勘が必要でした。運転には土地勘も必要でした。つまりタクシー業界は、ベテラン運転手が稼げる市場だったわけです。

しかしGOなら、自動的に乗客と車両をマッチングして、行き先も丁寧に教えてくれます。つまり知識がなくても稼げるわけです。しかもタクシー運転手は、比較的時間に拘束されずに自由に働けます。ですので20代でタクシー運転手になる人も増えています。

GOを運営するMOT(モバイルテクノロジーズ)の中島宏社長によると、タクシー会社に入社して数ヶ月で年収600万円稼げる方も出てきているそうです。

このため、GOでは決済システム、配車アプリ、タクシーに乗せるタブレットなどが全て連動しています。この結果、タクシーは利用者にとっても実に使いやすくなりました。

・乗車率 6割(GO開始前)→9割(GO開始後)
・支払い時間 40秒(車内決済)→15秒(GO決済)
・待ち時間 6分半(電話配車)→3.4分(アプリ配車)

この先のビジネスもあります。

GOに登録する全国15,000台のタクシーは、常にドライブレコーダーで道路の状況を撮影して走っています。そこで撮影画像から標識や信号をAIが自動検知し、地図会社と連携して地図データ更新に活用しています。1日で地球10週分の走行距離の情報量。まさにビッグデータです。

さらにこのデータを活用して、自動運転の研究も進めています。

DXの本質は、ケタ違いの利便性と大きな価値を生み出して、業界を変革し、市場を拡大して、新たなビジネスを創造することです。

これまでタクシーは不便が沢山ありました。しかしその不便さは、同じ業界にいる人ほど、ある意味で当たり前でした。その不便を解決したのがGOでした。

GOの前身は、ジャパンタクシーというタクシー会社である日本交通が設立した会社です。10年前に「このままでは日本のタクシー業界は、ぜんぶUberにやられる」という危機感を持った日本交通トップ・川鍋一朗さんが、タクシー配車アプリを始めたのがきっかけです。

このGOの挑戦は、まさにDXの本質です。

あなたの業界では、どのような危機感を持っていますか?
その危機を克服するために、どんな取り組みをしていますでしょうか?

 

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「役職定年」、賛成? 反対?

2022年11月9日の日本経済新聞に、こんな記事が記載されていました。

「NEC、さらば役職定年 管理職に1000人復帰」

役職定年とは、ある年齢(55歳とか)になったら一律管理職から外す制度です。 組織の新陳代謝を図り、人件費を削減することが目的です。だから管理職を外れた方は、収入も減ります。この「役職定年」は多くの企業で導入されていますが、最近、この制度を廃止する企業が増えているという記事です。この記事ではNECが1000人を管理職に復帰させた例が紹介されています。

これは色々な見方ができますね。

「もっと若手に機会を与えるべき。役職定年は継続すべきだ」
「55歳で一律給料を減らすのは、やる気を失わせる。廃止に賛成」
「ウチの部長、役職定年でいなくなってよかったと思ったら、役職定年廃止で部長に復帰だよ。カンベンして欲しい」
「会社に数十年勤めているということは、スキルが高い裏返し。もったいない。廃止に賛成」

どれもごもっともな意見に見えます。あなたはどのように考えますか?

私は年齢的に、会社員だと役職定年をされる立場です。
ですので私の同年代の会社員と会う機会が多いのですが、彼らを見ていると、役職を外されたり給料が下がったりして、ちょっとつらそうです。

高いスキルを持つ人も多いので「これって、社会全体で見て損失じゃないの?」と思ったりします。

もちろんシニアにもいろいろあります。時代遅れのスキルしか持っていなければ、責任ある仕事はちょっとムリでしょう。ですので役職定年を廃止する場合でも、ちゃんとその人が役職に見合ったスキルを持っているかを検証することが大前提だと思います。

年齢で役職を区切るのは、そもそも年齢的な差別でもあります。
しかし本来、これはシニアだけの問題ではありません。

「女性だから管理職はどうかな」というのも差別。
「若いからまだ課長には早い」というのも差別。
「日本人じゃないから管理職は無理じゃないの?」というのも差別です。

女性だったり、若かったり、外国籍だからという理由で役職に就けないのも「社会全体で見て損失」ですし、公平とは言えませんよね。

役職定年は確かに不公平ですし社会の損失ですが、日本では他にも様々な点で不公平と社会の損失があります。

不公平がなくなり、誰もがやりがいをもって能力を発揮できる世の中になるといいですね。

 

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ダイヤモンド「銃・病原菌・鉄」から考えた、昆虫食

「昆虫食」をご存じでしょうか? 牛や豚に代わって、コオロギや蚕を蛋白源にしよう、という考え方が登場し、昆虫食ビジネスを手掛けるスタートアップ企業が注目を集めています。

「コオロギや蚕を食べるの? ムリムリ」と思うかもしれませんが、粉末状にしたりして無理なく食べる技術も開発されています。

ジャレド・ダイヤモンドの名著「銃・病原菌・鉄」を読んでいたら、この昆虫食が優れていることを裏付けるヒントが書かれていました。

本書は壮大な人類史の進化について書かれた本です。1997年刊行なので、当然のことながら昆虫食については何も書かれていません。

一方で本書には、人類が家畜を飼うようになった経緯の一節があります。人類は野生動物を家畜化したわけですが、家畜化するには次の5つの条件をすべて満たす必要がある、と書かれています。

①餌の問題 草食哺乳類は体重の10倍の餌が必要になります。肉食哺乳類は、餌の動物を育てるために体重の100倍の餌が必要。なので肉食哺乳類は効率が悪いため家畜化できません。

②成長速度 牛や豚は早く成長します。ゴリラや象は成長に15年かかるので、家畜としては効率が悪いのです。

③繁殖上の問題 家畜は繁殖させる必要があります。しかしチータのように人前で交尾しない動物は繁殖できません。人前で交尾を恥ずかしがらないことが家畜の条件です。

④気性の問題 大型哺乳類は人を殺せるので、気性が穏やかでないと危険です。熊は実は美味しいそうです。でも人を殺すので家畜化できません。

⑤序列ある集団を作るか 群れを作る動物は序列が明確なので、人間が頂点に立てば支配できます。山羊の群れとかはまさにそうですよね。

昆虫をこの5つの条件に当てはめてみると、こうなります。

①餌の問題 2013年に国連食糧農業機関が発表した昆虫食に関する報告書によると、タンパク質1Kgを生産するために必要なエサの重量は、コオロギは1.7Kgだそうです(ただし諸説あり)。資源効率化が問われる現代では、この効率性は極めて重要です。

②成長速度 コオロギは卵から1ヶ月で3cmに育ちます。従来の家畜と比べて、もの凄く速いですね。

③繁殖上の問題 昆虫の繁殖は、哺乳類と比べて比較的簡単です。

④気性の問題 昆虫は適切に管理すれば人に危害を与えません。

⑤序列ある集団を作るか これも適切に人間が管理できます。

こうして整理してみると、コオロギや蚕などの昆虫は、驚くべきことに理想的な家畜であることがわかります。

少し見方を変えることで、今まで私たちが当たり前に見ていたモノが、大きな可能性があるビジネスに変わります。ビジネス・チャンスは、この潮目を見極められるかどうかにあるのですね。

 

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発破をかけるほど、イノベーションは起きない

仕事で大手企業の経営幹部の方とお話しすると、時々こんなお悩みをお伺いします。

「イノベーションを生もうとして、私は社員に発破を掛けているんですよ。でもねぇ。社員からなかなかいい提案が挙がってこないんですよ。困ったもんです」

実は大手企業で成果が挙がらない最大の原因の一つは、「その企業の心理的安全性の低さ」にあると常々感じています。こういう会社、実に多いのです。

心理的安全性とは「ここでは何でも言える。心置きなくリスクが取れる」と感じる雰囲気のことです。経営学者のエイミー・エドモンドソンが提唱した概念です。

たとえば現場社員が、手間と労力をかけて新事業アイデアを考え、経営幹部に提案する、ということはよくあります。「自分たちのビジネスを少しでも良くしたい」という想いですね。実に素晴らしいことです。

しかしそんな提案に、こんな対応をする経営幹部もよく見かけます。

「うーん。ダメだね。話にならん」
「こんなの何も目新しくないよ」
「あなた、今のお客さんを何だと思っているの? 無責任な発言はやめよう」

実はこう言っている経営幹部は、心の中でこう考えていることもよくあります。

「その心意気、いいね。実は提案もいい線行っているんだけどね。もう少し鍛えてやれば、よくなるな」

しかし厳しく言われた社員は、発言を額面通りに受け取って、こう思ってしまうのです。

「自分の力不足か。提案しない方がよかったのかなぁ」
「この会社、もう何を言ってもダメなのかな。…転職考えようかなぁ」

このような会社が「心理的安全性が低い会社」です。

終身雇用だった昭和の時代は終わっています。今の会社員は、転職の選択肢があります。やる気がある社員ほど「提案すると厳しく言われてチェックされるけど、なかなか話しが進まない」心理的安全性の低い職場から、「何でも言えてリスクも取れて、サクサク挑戦できる」心理的安全性が高い職場へと、次々と流れていきます。

そして心理的安全性が低い職場には、言われたことしかやらない社員が残ります。これで新しいイノベーションを起こすなんて、ムリです。

「発破かけているんだけど成果が挙がらない。困ったもんです」と苦笑いする経営幹部は、実は自分自身が原因であることに気付いていません。

これは日本企業独特の問題ではありません。あくまで、その会社の問題です。

エドモンドソンは心理的安全性を提唱した名著「恐れのない組織」で、「福島第一原発事故の根本原因は、権威に異を唱えず盲目的服従をする日本文化に深く染みついた慣習が問題」という調査委員会の報告書に対し、こう反論しています。

「それは日本文化に限ったものではない。心理的安全性のレベルが低い文化に特有のものだ」

しかしこう言うと、こんな声も聞こえてきそうです。

「いやぁ。でもウチの会社はそういう社風ですからねぇ」

そのような社風だと、発破をかければかけるほどイノベーションが生まれなくなり、心ある社員が離れていきます。そのまま放置していいのでしょうか? いいわけ、ありませんよね。

あなたの会社は、心理的安全性は高いでしょうか?

 

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それって本当に事実ですか?

安倍元首相の国葬が行われた際に、官房長官として安倍内閣を支えた菅さんの追悼の辞が、感動的だったと話題になりました。

すると翌朝、とある放送局のモーニングショーで、とあるアナウンサーがこう発言しました。

「演出側の人間として、それはそういう風に作りますよ。これ、電通が入っていますから」

この後、実際には電通は入っていないことが発覚。このアナウンサーの思い込みでした。アナウンサーは後日、番組で謝罪することになりました。

世の中を見ると、このように「それって本当に事実ですか?」といいたくなる情報が多いですよね。ワイドショーなら笑い話ですが、ビジネスでこのあたりの判断を間違えると、場合によっては致命傷になります。

ここで参考になるのが、ハロルド・ジェニーンは1984年に刊行したベストセラー「プロフェッショナル・マネジャー」です。(10月の朝活永井塾でテキストに使用しました)

ジェニーンは、1959年に米国のコングロマリット・ITTのCEOに就任。58四半期連続増益を達成。18年後に辞任するまでに売上・利益20倍、「フォーチュン500」で第11位の企業に育て上げた経営者です。

ジェニーンは…

「ほとんどのサプライズは悪い知らせだ。だからマネジメントの基本は『ノーサプライズ』。95%のサプライズを未然に防げば、残りのエネルギーを本当に必要なことに注ぎ込める。そこで必要なことは、本当の事実を、それ以外の情報から嗅ぎ分けることだ」

とした上で、こう述べています。

「4つの事実を見極めよ」

具体的には次の4つです。

❶表面的事実

例「この商品は売れ筋の最重要商品!」

→表面的に売れ行き好調に見えても、実は赤字販売だったら、最重要商品ではありません。

❷仮定的事実

例「品質は絶対的に重要だ!」

→ある日本の鉄鋼メーカーは品質に絶対の自信を持っていましたが、ある自動車メーカーへの入札で敗れました。この自動車メーカーは普及車のグローバル生産を目指していたので、そこそこの品質で、かつ全世界で調達できることを重視していたのです。このように盲目的に「品質は絶対」と信じている方は多いのですが、実は過剰品質に陥っていることも少なくありません。

❸報告された事実

例「○○さんがこう言っていた」

→冒頭の話しのように裏付け不十分なことも少なくありません。たとえば私たちは「テレビの情報だから正確だ」と思い込みがちですが、実際には正確ではないことも実に多いのです。私もテレビのワイドショー制作会社の担当者から「明朝放送分のこの情報を教えてください」と急に電話がかかってくることがよくあります(結構ドタバタ状態で制作していることもあるようです)。情報は盲目的に信じずに、ちゃんと裏を取りたいものです。

❹希望的事実

例「この案件、競合はいません」

→実は希望的観測でそう思い込んでいるだけで、実はお客様は想像もしなかった別の選択肢を検討中だったりすることもあります。

事実を見極めるには、その情報がまずこの4つのいずれかに該当しないかをチェックして、フィルターに通すことです。

そのためはジェニーンはこう言ってます。

「必要なのは、事実を確認するひたむきさ。知的好奇心。必要に応じて無作法さ」

出発点は「なんとしても事実を突き止めるぞ」という知的好奇心です。

そのためには、場合によっては相手に根掘り葉掘り聞く必要もあります。
「それはどうやって確かめたの?」「誰が言っているの?」「その人がそう言っている根拠は?」

実は私も何かあるとこのように色々と聞くので、煙たがれることも少なくありません。
ただ事実を見誤って間違った方向にいくよりはマシです。

知りたいのは事実であって、相手を信じていないわけではない、ということを伝えた上で、事実を見極めたいものです。

 

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「在宅とマスクではビジネスで勝てない」

最近SNSを見ていて目に付くのは、飲み会が復活していること。
マスクを外して大人数で宴会をしている様子をとてもよく見かけます。

コロナ禍出で在宅一辺倒だった世の中は変わってきていることを感じます。

そんなことを思っていましたら、日経ビジネス2022.10.10号の記事「オフィスのマスク着用を任意に GMO、対話力低下に危機感」で、こんなことが紹介されていました。

GMOはコロナ禍初期にいち早く在宅勤務態勢に移行した会社です。記事のポイントは、下記です。

・GMOの本社オフィスに社員が戻っている。3割の社員がマスクしていない
・同社は感染対策を続けつつ、共有スペースを除き、マスク着用を個人の自由とした
・社内アンケートでも6割弱の社員が「着用不要」と回答
・熊谷会長兼社長は「在宅勤務とマスクを続けていたら、ビジネスでは勝てない」
・「コロナ禍の2年半、コミュニケーションの機会も質も定量化できないくらいに落ちた。…このロスは計り知れないほど大きい」
・同社は足元の出社率は6割まで戻っている
・国立医療福祉大学大学院の高橋泰教授は「流行中のBA.5の重症化率・死亡率は初期型の80分の1。少なくともインフルエンザより低く、通常の風邪と変わらないレベル」

ビデオ会議で対面コミュニケーションはかなり代替可能です。しかしカメラを通しているので目線のコミュニケーションはできませんし、微妙な息づかいも伝わりません。人間の脳にある「共鳴(レゾナンス)」という仕組みで、人間はお互いの感情を無意識に伝え合うことができますが、最近出てきた様々な研究結果を見ていると、このレゾナンスはネットでは十分に機能しないようです。

コロナ禍が一段落しつつある今、第8波の動きを見極めながら通常モードのコミュニケーションを取り戻すタイミングの見極める一方で、コロナ禍で普及したオンラインコミュニケーションをどの程度残すかという判断が、今後の課題になりそうです。

 

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2022-10-15 | カテゴリー : ビジネス | 投稿者 : takahisanagaicom

どうすれば学びが定着するのか

色々と本を読んだり講義を受けたりしてマーケティングを勉強している。
でもなかなか身につかない。
こんなお悩みをお持ちの方、多いかも知れませんね。

ちょうど先週、永井経営塾を受講されている方から、こんなご質問をいただきました。

「学びを定着するための良い方法があれば、教えてください」

永井経営塾では毎月2時間、様々なマーケティングや経営戦略理論を講義動画でお伝えしています。そこでいい機会なので、回答内容を共有したいと思います。

現実には、座学だけではなかなか身につきません。そこで私はこんなことを心がけてきました。

①実際に学んだ事を仕事で使ってみる

理論を頭で理解したつもりでも、十分に自分の中で消化していないと、仕事で使えません。頭で理解したことと、実際にやってみるのとは、全く違うからです。

たとえば、泳げない人が泳ぎ方を本で学んだとします。でもそれだけでは、プールに入っても泳げません。身体がちゃんと動かないからです。本で学んだ方法をプールの中で実際に試して、身体で覚えることで、泳げるようになります。

ここで大事なのは本で学んでおくということ。

本で学ばずにプールに飛び込み自己流で色々やってる人でも、いつか泳げるようになるでしょう。でも、予め本で学んだ人と比べると、泳げるようになるのは遅いですよね。

マーケティング理論や経営戦略理論も同じです。
理論を学んだ上で、実際に仕事で使ってみることが大事なのです。

実際に仕事で使ってみると、色々とうまくいかない部分が出てきます。
泳ぎ方マニュアルの通りに身体が動かないのとまったく同じです。
そして試行錯誤しながら調整していくと、学びが定着していきます。

②学んだ事をアウトプットする

私の企業研修を受講された方で、学んだ内容を元に、営業所内や自分の課で勉強会を開いている方が多くいらっしゃいます。これは実に素晴らしい方法です。

何かを学んだらそれを人に教えて、質疑応答して学びを深めることは、自分自身の学び定着のためにも有効です。しかもチームの力も向上します。

人に教えるためには、自分が教える内容の本質を理解する必要があります。本質とは「要は、こういうこと」と一言で言えて、相手がハラ落ちすることです。この教える準備をする過程で、理解が進み、知識が定着します。

一方向に教えるだけでなく、できれば教えた後に相手から率直な意見をもらうことをオススメします。これで教える側の自分の理解度も確認できます。

私も会社員時代、社内の勉強会を引き受けてお話ししたり、学んだ事をブログに書いてアウトプットしていました。

学んだ事はどんどん仕事で使ってみて成果を出し、あわせてアウトプットする。

こうすることで学びは定着していくのです。

 

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「10年前に挑戦してよかった」となるために

「もう○○歳だから、いまさら挑戦するなんてムリだよなぁ」

こんな言い方したりすること、多いですよね。
○○は、いろいろな数字が入ります。

「もう30歳だから、いまさら新しい仕事に挑戦するのなってムリだよなぁ」
「もう50歳だから、いまさら英語に挑戦するなんてムリだよなぁ」
「もう60歳だから、いまさら新しい仕事に挑戦するのなってムリだよなぁ」

そしてその10年後、たいていこう思います。

「10年前に挑戦しておけばよかった」

でも10年前の時点では、なかなかこのように頭が切り替えて決断ができません。

「10年前に挑戦してよかった」となるためには、どうすればいいのでしょうか?

ここで参考になる本があります。

「プロフェッショナル・マネジャー」(ハロルド・ジェニーン著)

ファーストリテイリングの柳井正社長が「これが私の最高の教科書だ」と絶賛する一冊です。

30代中頃にユニクロを中部地方で数店舗展開していた柳井さんは、ジェニーンのこんな言葉に衝撃を受け、「経営者として自分はまだまだ未熟だ」と痛感したそうです。

「経営は、終わりから始めて、そこに到達するために、できる限りのことをせよ」

当時の柳井さんは「カジュアルウェアの郊外店、面白そうだな」と思ってユニクロを始めて、未来の具体的な姿を描かないまま、「このままやっていればうまくいくんじゃないかな」と思っていたそうです。

そこで
「①世界一になる」
「②その前に、日本一になる」
「③その前に、売上1000億円になる。その時に、経営陣を一新する」
「④その前に、100店舗を展開して株式上場する」

と考えた上で、
「⑤いまは中国地方に数店舗。④を実現するために何をするか?」
と考えました。ユニクロの快進撃はここから始まったのです。

この「未来のある時点に何になりたいか?」と考えて、逆算して今何をするかを考える方法は、私たち個人も使えます。

①今から10年後、自分はどうなりたいかを考えてみる。
②そのためには、5年後にどうなる必要があるかを考えてみる。
③そのためには、3年後にどうなる必要があるかを考えてみる。
④そのためには、いま、何をすればいいかを考えてみる。

このように考えれば、

「もう○○歳だから、いまさら□□□するなんてムリだよなぁ」

と考えることもなくなりますし、

「10年前に挑戦しておけばよかった」

と悔やむこともなくなります。

ちなみに私は22歳に新卒で日本IBMに入社しましたが、実は「プロの写真家になりたい」という夢が捨てられませんでした。

そこで仕事に慣れ始めた24歳に、こう考えました。

「30歳までに都内有名ギャラリーで写真の個展を行う」

周囲からは、

「会社員でしょ。プロの写真家でも個展なんてできないのに、ムリムリ」
「あなた、月に残業200時間もやっているんでしょ。ムリムリ」

とバカにされましたが、「20代後半で写真展を行うとしたら、今何をすべきか?」と逆算して色々と準備をしているうちに、27歳、銀座キヤノンサロンで写真展を開催できました。

そしてこれがきっかけでプロの写真家は夢の世界でないと知り、「自分は写真が好きなのであって、写真で仕事をしたいわけでない」と分かり、プロの写真家として食っていくのはやめて、ビジネスの世界で生きることにしました。

これも写真展に挑戦したからわかったことですね。
もし挑戦していなければ、今も「あの時、プロの写真家を目指せばよかった」と思っていたかもしれません。そして写真はいまもライフワークとして楽しんでいます。

「いい歳して、新しい挑戦なんて…」と思う必要はまったくありません。

私も50歳で始めて人材育成の仕事に関わりましたが、今や人材育成は天職です。

何事も10年間続ければ、人間はかなりのことを達成できます。
「10年後の自分はどうありたいか」を考えて、どんどん挑戦を続けましょう。

 

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学び方を変えると、同じ労力でも成長スピードが全く違う

私がIBMの新入社員だった頃、最大の悩みが英語の習得でした。
入社3ヶ月目に受けたTOEIC(ビジネス向け英語テスト)は475点。
上司に言われました。「これじゃ仕事させてあげられないねぇ」

私の仕事は、海外IBM研究所が開発するソフトウェアの日本語化の技術支援。英語は必須です。IBM社内の規定で、短期海外出張はTOEIC600点、3ヶ月以上の長期出張は730点を取る必要がありました。

上司から「475点では話にならない」とダメ出しされ、英語漬けの日々が始まりました。往復3時間の通勤時間は英語を読み、英語を聞き、週末も英語を勉強。時間がかかりましたが、何とかTOEICのスコアはクリア。海外出張に行けるようになりました。

私は海外の人とスムーズに英語コミュニケーションする必要があったので、英語力そのものの力を底上げする必要がありました。ですのでTOEICに特化した勉強はしませんでした。

しかし最近、TOEIC高得点が昇進の条件になっている会社も増えています。ある意味、TOEICに生活がかかっているわけです。TOEIC高得点だけを狙うのであれば、実は別の方法もあります。

10年ほど前までTOEIC高得点最短の方法は、TOEICの問題集を買ってきて、ひたすら繰り返し、問題に慣れることでした。試験問題には一定のパターンがあるからです。

具体的には、問題集の問題ページを見て、自分で時間管理しながら答えを記入。リスニング問題では、自分でCDを再生。テスト終了後、正解ページを開き、自分で答え合わせ。わからない部分は調べます。これを何回か繰り返します。

ところが最近、もっと新しい方法が生まれています。

従来の方法では、本来の勉強とは別の作業(試験の時間管理、CD再生、答え合わせなど)に、意外と時間と労力がかかります。

最近は、パソコンやスマホを使い、ネット経由でTOEICに特化した勉強ができるようにした学習ツールが増えています。文字だけでなく音声や画像も出ますし、答え合わせも自動でやってくれます。思考が分断されるCD再生・時間管理・答え合わせが不要になるので、紙の問題集をやるよりもずっと効率的にTOEIC対策ができます。

学びの方法は、常に進化しているのですね。

完全オンライン形式でご提供している永井経営塾も、いつでもどこでも、厳選されたマーケティング・経営戦略理論を学べる仕組みを楽しくラクに学べるように、リーズナブルな価格で広く日本中のビジネスパーソンに提供したいと思って始めたものです。

忙しいビジネスパーソンが勉強に使える時間は、限られています。

10年以上前の学びの常識に囚われずに、新しいテクノロジーを使った新しい学びの方法を使うことで、得られる学びは格段に大きくなります。

目的にあわせて効率よく学びたいものですね。

 

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諸刃の刃の「ほめ言葉」。使用上の注意

以前、私が生徒として受講していた、とある先生のクラスでの話です。

この先生、とにかくほめます。ほめまくります。その生徒が「ほめて欲しい」というツボを見つける力がきわめて高く、ほめられた生徒はたいていは嬉しそうにしています。

さてこの方法、皆様はどう思われますか?

教育の現場では「ほめて育てろ」とよく言われます。エリザベス・B・ハーロックは、1925年にこんな実験をしました。子供たちを3つのグループにわけて、算数のテストを5日間実施したのです。結果は…

①常にできた箇所をほめる →71%の生徒が成績向上
②常にできていない箇所を叱る→2日目、20%の生徒が成績向上。その後、次第に成績低下
③何も言わない:2日目、5%の生徒が成績向上。その後、ほぼ変化なし

この結果を見る限り、確かにほめると成績が上がります。こう考えると、「とにかくほめる」というこの先生のやり方は王道に見えます。

一方でこの先生、ほめると喜ぶ生徒に対しては「これってほめる所なのか?」という所でも、とにかくほめるのです。

一方でほめてもあまり喜ばない生徒は、あまりほめません。(ということで私はあまりほめられませんでした)

私は、この先生のほめるという行動から、「この人を気持ちよくさせておけばいいんだ」というどこか操作主義的な意図を感じていました。

過剰にほめる生徒でも、間違いをしていることもありますが、ほとんどの場合、この先生は間違いを指摘しません。しかし時に大きな間違いをしていることもあります。こんな時にさりげなく間違いを指摘するのですが、ほめられて自己肯定感が強くなっているその生徒は、たいていそのさりげない間違いに気付きません。そして時に強く間違いを指摘すると、一気にやる気をなくしてしまうのです。

ほめるって、実はなかなか難しいのですよね。

教育心理学者の鹿毛雅治先生は、著書「モチベーションの心理学」で、ほめ言葉の使用上の注意を紹介しています。

まず優れたほめ言葉は、良質のフィードバックです。励ましのメッセージであると同時に、効果的なアドバイスでもあるのです。

つまり何でもかんでもほめればいいわけではありません。「これはいい。本人に伝えるべきだ」と思ったら、ちゃんとほめる。それが本人の気づきとなり、行動の継続につながるです。

一方で、ほめ言葉にはデメリットもあります。

①「これでいい」と過度に正当化する。なんでもかんでもほめ続けると低いレベルで満足してしまうのですね。

②ほめられることが目的になる。「この先生からほめられたい」と考えてしまい、ほめられることが目的になったとしたら、本末転倒ですよね。

③プレッシャーを感じてしまう。人によっては「ほめられた。これからも期待に応えなきゃ」と感じることもあります。

不適切なほめ方は、むしろやる気に悪影響を与えます。これって教育の現場だけでなく、ビジネスでもまったく同じですよね。

ほめるべき所があったら、アドバイスの形でちゃんとフィードバックする。

当たり前のことですが、このやり方が間違いないようです。

 

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やる気を育てる方法

KOKUYOサイトより https://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/yarukipen/

小学生くらいの子どもって、「宿題やりなさい!」と言えば言うほど、悪ふざけして誤魔化して、ますますやろうとしませんよね。お悩みの親御さんたちも多いと思います。

そんな中、使ってみたら8割の子どもが勉強をやる気になった(*)というスグレモノがあります。 それが「KOKUYOしゅくだいやる気ペン」です。→リンク先の動画をご覧下さい。

(*) コクヨしゅくだいやる気ペンモニター調査 (2019年6月2日~6月16日実施。N=86)

「しゅくだいやる気ペン」の素晴らしい点は、「やらない→叱る」から「がんばる→ほめる」へ変えたところです。

■まず「自分でがんばる」
頑張って勉強するとペンの色が変わり、勉強後にペンをスマホアプリに付けると水を注ぐ音がコポコポ鳴って「やる気の木」が育ちます。育っていくとアイテムゲット。楽しいですね。

■「やる気の見える化」
勉強時間は記録されます。母親がアプリでチェックして、花マルのフィードバックができます。親子コミュニケーションですね。

動機付けには大きく分けて、外発的動機付け内発的動機付けがあります。
外から動機を与えられる(ご褒美やお叱り)が、外発的動機付けです。
自分がやりたいからやるのが、内発的動機付けです。

継続性があって楽しいのは、内発的動機付けですよね。

この内発的動機付けで重要なのは、自律性と有能感を尊重することです。
「しゅくだいやる気ペン」は、この内発的動機付けの本質を見事に突いています。

■まず「自分でがんばる」
→「言われたからやる」ではなく、「楽しいからやろう」という自律性の尊重ですね。

■「やる気の見える化」
→「叱られるからイヤ」ではなく、「勉強が進んでほめられた。ボクにもできる」という有能感の尊重です。

このように内発的動機付けで大切なのは、自己決定感です。
自ら学ぶことで、成果も上がり、満足を得る、というわけですね。

ビジネスもまったく同じです。

「人は管理しないと動かない。だから統制する」と考えるマネジャーは、外発的動機付け重視です。

「人は自ら学び成長する。だから一人の人間として尊重し、自律性を支援する」と考えるマネジャーは、内発的動機付け重視です。

前者は「やらない→叱る→ますますやらない→ますます叱る」という悪循環の子どもと同じで、長期的に見ると成果はなかなかあがりません。

後者は「がんばる→ほめる→もっとがんばる」という好循環の子どもと同じで、長期的に見ると成果があがっていきます。

働くならば、やる気を育てる組織で働きたいですよね。

 

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「顔ダニ」の存在を知り、企業の行く末を学ぶ

先週日曜(2022/9/4)の日本経済新聞に、こんな記事がありました。

『「顔ダニ」、人間の一部に 絶滅危機回避、共生へ進化中』

なかなかショッキングな記事です。簡単に内容を紹介しますと…。

実は私たちの顔には「顔ダニ」が住んでいます。図のように、生息地は人間の毛穴。大きさ0.3ミリ。細胞の数はわずか900個。あの小さなショウジョウバエでもこの500倍ありますから、とてもシンプルな生き物です。

この顔ダニ、最小限のゲノム(遺伝子情報)しか持っていません。そもそも生き抜くための重要な遺伝子を欠いています。

なぜかというと、地上で最強生物・人間の顔での生活では、外敵がいないからです。敵は人間が追い払ってくれます。加えて食料である人間の皮脂は豊富。そこで顔ダニは、使わない遺伝子は次々と手放してしまいました。

日光で目覚める遺伝子もないし、夜の活動に必要なメラトニンも作れません。寄生先の人から拝借すればこと足りるからです。

こうして顔ダニは、人の顔という最高の生存環境に最適化していきました。進化というべきか、退化というべきか、なんとも微妙です。快適で外敵のいない環境だと、生物はどんどん退化していくのですね。

でも人間が絶滅した瞬間、顔ダニは人間の顔の外では生きられませんから、絶滅してしまいます。

なんか、色々と考えさせられます。

まず、こんな会社、時々見かけますよね。政府などの規制で守られていて、ほとんど競争がない業界は、日本にはまだ数多く残っています。こんな会社は、外敵がほとんどいない環境に最適化しています。

だから規制撤廃は、自分たちの生死がかかるわけで、強硬に反対します。

しかし世の中は全体として、常に規制緩和の方向に進んでいます。規制がなくなった瞬間、未経験の激烈な競争に晒され、たいへんなことになります。

競争が厳しい業界ほどエクセレントカンパニーが多いのも、同じことですね。厳しい競争環境では、エクセレントカンパニーに進化しない限り、生き残れません。

さて、御社の環境はどちらでしょうか?

一方で勤務先に最適化した会社員も、よく見かけます。その会社の中だけで通用する作法は完璧に身についているのですが、社外で汎用的に通じるスキルは皆無という方です。このような方は、いまの勤務先がなくなったり、色々な事情で勤務先から離れると、途端に困るわけです。

顔ダニの生き様から、考えさせられます。

 

ところでこの記事、読んでいるとちょっと顔がムズムズしてきますね。

 

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「歯の白さ」のマーケティング

ある日、妻に言われました。

「歯が黄ばんでいるよ。歯医者さんでホワイトニングしたら?」

あなたはご自分で、自分の歯がどんな色かをご存じでしょうか?
私は全く意識していませんでした。
洗面所で身支度する時も、口は基本的に閉じたまま。

早速洗面所で自分の歯を見ると、意外と黄ばんでいます。ちょうど湯飲みが茶渋で色が付くのと同じで、長年歯を使っていると食べ物の色で染まるようですね。

そこで早速、歯医者さんにホワイトニングをしてもらうことにしました。

ホワイトニングの当日、まず説明を受けます。

「1回目で、ある程度白くなります。でも2〜3回行うと、より白くなります」

と言われながら、診察台にあるディスプレイで、3人の実例写真(1回目、2回目、3回目)で見せていただきました。歯がもともと白い人。やや黄色い人。茶色い人の3人です。私は茶色い人のケースと同じ状態でした。

どの人も、1回目でそこそこ白くなっています。しかし3回目になると「芸能人?」と思えるほど白くなっています。

説明後に、まず承諾書にサイン。そして実際のホワイトニングです。

施術前に自分の歯の写真を撮り、90分の施術後にまた歯の写真を撮って、ビフォーvs.アフターの比較をします。

結果は事前の説明の通り、そこそこ白くなりました。しかしもっと白くしたいので、早速2回目の予定を入れました。

帰宅して妻にホワイトニングした歯を見せると、「すごく白くなった。もうこれでいいんじゃないの?」と驚かれましたが、「もっと白くなるので、3回目もやることにした」と答えると、「へぇ〜」。

このホワイトニング・ビジネス、なかなかよくできています。カギは「事前説明」です。

人の期待値は主観なので、人によって様々です。だから期待値を事前にセットする必要があります。

事前説明をしないと、こうなりがちです。
「1回で真っ白になると思っていたのに、そうでもないじゃん」
「2回目も必要なの? またお金取るの?」

事前説明した上で、施術前に承諾書にサインをさせることで、こうなります。
「ほぼ事前の説明通りだね」
「2回目と3回目をすると、もっと白くなるのか。予算があればやろうかな」

事前説明ではさらにこんな話もありました。

「一度ホワイトニングをしても、歯は徐々にまた色が付いてきます。歯の白さを保ちたければ、定期的なホワイトニングがオススメです」

つまり事前説明により「消費者の期待値」のマネジメントをすることで、
①顧客満足度向上を図りつつ、
②2回目・3回目の予約に繋げて売上拡大を図り、
③さらにリピートオーダーに繋げているのですね。

恐らくホワイトニングの技術や施術道具を販売する会社が、この「事前説明の徹底」というマーケティング手法とセットで、歯科医に売り込んでいるのでしょうね。

ポイントは「1回だけでは白くならない」「白さはホワイトニング後、徐々に失われる」というデメリットを正直に伝えて、そのデメリットをビジネスに繋げている点です。

正直に伝えることで、デメリットを転じて、売上拡大に繋げる。

このやり方は、私たちのビジネスでも参考になるなぁ、と実感しました。

 

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恥の多い人生を送っていた21歳の私

「恥の多い生涯を送って来ました。」
これは太宰治の名著「人間失格」第1の手記の書き出しです。

かく言う私も振り返ると、21歳の就活で、恥の多いことを散々やっておりました。

基本的に内気で根暗だった学生時代の私は、就活では「明朗快活。やる気に溢れ、ポジティブな若者」を演じ、いい会社に入ろうと考えました。

やろうと思えば、これは意外と簡単なのです。

雑誌でよく性格診断テストなどがあります。これで「今日は優等生キャラで回答」「今日はパッション系キャラで回答」と頭を切り替えて回答すると、その通りの結果になります。これはいい訓練になりました。

さらに就活面接では他の就活生とひと味違う「問題意識がある意識が高い若者」感を出すために、「この面接先の会社に対する自分の問題意識は何だろう?」と考えて、集団面接で質問するようにしたりしました。

たとえば日本IBMの集団面接で、IBMに務めるOB社員から「何か質問ありますか?」と聞かれた時、こんな質問をしました。

「IBMは、今年の初めにTIMEで特集されましたよね。実際にIBMでお仕事をなさっていて、いかがですか?」

(お。こいつ。ちょっと問題意識がありそうだな)と思われることを狙っての質問でした。改めてこうやって書き出してみると、もの凄くイヤなヤツですね。

幸いながら当時のIBMは新卒大量採用をしていたこともあり、無事IBMに入社できました。(実は並行して某中央官庁の面接も受けていました。こちらは若手官僚の方々と延々と面接を繰り返した末に、見事落ちました)

最近になって就活生の方々とのやり取りをする機会があります。そこで気がついたことがあります。

就活生だった私は色々と演じていたわけですが、熟練ビジネスパーソンから見ると、そんな就活生のたくらみなどはすべてお見通しである、ということです。

ヒントは、至る所に転がっています。

メールのちょっとした言葉遣い。電話のやり取り。面接時のわずかな仕草や振る舞い。他の人に対する気遣い。目線のかすかな動き。呼吸…。対面で話したりすると、自分では気付かないようなわずかな所作でも、その人の内面がありありと見えてきます。(Zoom経由でも結構わかります)

そして演じているキャラとわずかな所作にギャップがあると、無意識にセンサーが働き「この人、演じているな」と感じるのですね。

就活当時の私のこざかしい考えなどはすべてお見通しだったわけです。しかし当時はまったく気付きませんでした。いま振り返ると、実に恥の多い人生を送っていた21歳の就活生だった私でした。

社会人になってもしばらくの間、そうやって演じていた私ですが、気がつくとやめていました。

いろいろやっているうちに、「結局、素の自分が好感度を持たれることが一番である」とわかってきたのですね。20代後半くらいから、私の座右の銘は「自然体」になりました。

最近になって「あるべきリーダーの姿」を演じるのは間違いだ、という考え方が出てきています。この半世紀、リーダーシップの研究者は1000以上の調査研究で「あるべきリーダーの姿」を探ってきました。しかし理想のリーダーシップ像は突き止められませんでした。共通の特徴・特性・スキルはなかったのです。

そこで広がりつつあるのが「オーセンティック・リーダーシップ」という考え方です。オーセンティックとは「本心に偽りのない」「本物の」という意味。つまり「自分らしさを貫くリーダー」です。

ムリめにリーダーを演じても、人間の脳には、わずかな感情や行動の表現を読み取る「共鳴」(レゾナンス)という仕組みが備わっていて、偽りを察知します。違和感を感じると瞬時に不快な感じがしたり、「この人は本心で話しているな」と共感すると瞬時に好意を持つようになるのはこのためです。

つまり「ウソはすぐバレる」。だから自然体が一番なのです。そして自然体で振る舞っても好意を持たれるためには、まず自分を磨くことです。

自然体で、常に自分磨きをしていきたいものです。

 

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毎日一生懸命やる。するといつの間にか終わっている

今月(2022年8月)の日本経済新聞「私の履歴書」は、俳優の山崎努さん。

8月14日の連載13回目は、黒澤明監督「天国と地獄」(1963年公開)で、山崎努さんがオーディションを受けた時の回顧録でした。

「天国と地獄」は誘拐事件を描いた作品。三船敏郎、仲代達矢、志村崇といった黒澤映画を代表する役者が登場する中、犯人役には当時新人だった山崎努さんが抜擢されました。

当時、山崎努さんは25歳。この頃の山崎努さんは「演技はこうあるべし」という強い信念を持ちつつも、試行錯誤を繰り返していました。「天国と地獄」ラストシーンの狂気じみた演技は鳥肌ものです。

「私の履歴書」では、オーディションの演技テストが終わり、山崎努さんは黒澤監督に「この役、やる気ある?」と問われ、「黒澤組はキビしいと聞いているので、やりたくない気持ちもあります……」と答えた後のことが紹介されています。

—(以下、引用)—

黒澤さん、苦笑。そして

「あのね、映画作りは、自動販売機にコインを入れてジュースを買うようなわけにはいかないんだよ。毎日毎日、目の前にある仕事を一生懸命やる。そうするといつの間にか終わっているんだ」

この言葉を僕は今も大切にしている。

—(以上、引用)—

「まさに仕事はそうだよな」と思いました。

黒澤作品はどれも大作。2時間を超える大作映画の企画立上げ、脚本、オーディション、撮影、編集といった膨大な作業を想像すると、まさにエンドレスにも思えます。

しかし、結局、毎日毎日、目の前にある仕事を一生懸命やって、順番に片づけるしかありません。そうすれば必ず終わります。

現在、私も膨大な時間を費やして次回作の執筆中です。書いていて「この作業、本当に終わるのか?」と雑念がよぎることもあります。

しかしこれも目の前の仕事を毎日全力を挙げて粛々と片づけるしかありません。そうするといつの間にか終わっています。うむ。確かにこれまで書いてきた二十数冊の本は全てそうですね。

当たり前のことかもしれませんが、一歩一歩の積み重ねで頂上に向かう山登りとまったく同じであることを、改めて教えていただきました。

今日も、お互いにお仕事、頑張りましょう。

 

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商品づくりよりも、組織づくり

ソニーの創業は1946年。
戦争が終わってまだ1年。日本は焼け野原でした。
当時のソニーは、東京通信工業という社名でした。

この時、ソニーはラジオの修理や改造をする傍ら、様々な商品を開発していました。

たとえば電気炊飯器。木のお櫃(ひつ)にアルミ電極を貼り合わせたものです。でもお米は炊けませんでした。失敗作第1号です。

電気座布団も開発しました。紙の間にニクロム線を入れて温かく過ごせる、というもの。温度調節もできないしろものでしたが、売れに売れました。ただ自社の名前を付けるのは気が引けて、「銀座ネッスル(熱する)商会」という名前を付けました。

この間、創業者の井深大(まさる)さんは商品開発よりも恐らく大事にしていた仕事がありました。それは、こんな文章で始まる「設立趣旨書」です。

「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき
 自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」

そうして東京通信工業(のちのソニー)は、まさにこの趣旨書にあるような創意溢れる技術者たちが集まり、様々なイノベーションを起こしていきます。

時は60年以上が経過して、2012年。

成長を続けて大企業になったソニーは、業績低迷で苦しんでいました。この時、ソニーの舵取りを任されたのが、平井一夫CEOです。

平井さんは、井深さんが作った設立趣旨書を穴が開くほど読みました。ここに書いていることは、まさにソニーの原点。しかし平井さんは、この設立趣旨書は時代に併せてアップデートする必要がある、と感じました。そして考えに考えた末に、新たなソニーのあるべき姿を一言にまとめました。

「感動 KANDO」

既にソニーはグローバル・カンパニー。日本人以外の海外社員が過半数です。そこで平井さんは、世界中のソニーの拠点を回ってタウンミーティングを続けて、『ソニーは「感動 KANDO」を生み出す会社なんだ』ということを、日本語で、時に流暢な英語で、語り続けました。

そしてソニーは見事、復活しました。

「ビジョナリー・カンパニー」を書いたジム・コリンズは、業界トップを何十年も維持する超一流企業を「ビジョナリー(未来志向)・カンパニー」と名付け、世界で18社のビジョナリーカンパニーを選び、共通する8つの基本原則を本書にまとめました。その最初の基本原則がこれです。

『時を告げるのではなく、時計をつくる』

「時」とは、商品づくりのたとえです。

トップが陣頭指揮で商品作りしても、商品には必ず寿命があります。トップがいないと商品が作れない組織は、トップがいなくなると途端に低迷を始めます。

しかしトップが社員の創造性を引き出し、優れた商品を次々生み出せるような優れた組織を作れば、会社は成長し続けることができます。(なお「組織作り」とは、単に「組織図を作ればいい」ということではありません。「組織作り」とは、組織の行動原理や使命、基本理念を作るということです)

ソニーはまさに、創業時に井深大さんが『時を告げるのではなく、時計をつくる』ことに注力して成長しました。そして低迷した時に、再び平井一夫さんが『最新型の時計にアップデートする』ことで復活したのです。

あなたの会社は、時計を作っているでしょうか?

 

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スマホの「フィード」が、私たちの認知に影響を与えていく

スマホは便利ですね。待ち時間などで手持ち無沙汰にしているとついスマホを見ています。

スマホでSNSを眺めていると、様々な情報が次々流れていきます。私たちは人差し指でスクロールし続けるだけ。自分がフォローしている情報(つまり自分が関心ある情報)だけ表示されるので、楽しいわけですね。自分の投稿への反応も気になりますよね。

そんなわけで、気がつくと1時間SNSを見続けたりします。

先日、永井経営塾ゲストライブに、最新メディアにお詳しい藤村厚夫さんをお招きし、色々とお話しを伺いました。藤村さんはITmedia会長を務められた後、SmartNews創業時にシニア・ヴァイス・プレジデントに就任してメディア事業開発を担当され、2018年より同社フェローを務めておられます。

藤村さんは、最新メディアで現在最も注目している動きの一つが、この冒頭の状況だとおっしゃっています。この仕組みを「フィード」と呼びます。

これは、人類は初めて経験する究極のメディア体験です。

❶様々な情報(文字・写真・音声・動画)が融合されている

❷見る側のエネルギー消費がほぼゼロ。暇があればずっと見ている

❸自分の興味関心にあった情報にカスタマイズされている

❷を補足すると、人間は情報入手の際には、通常ある程度手間をかけます。ネット検索でも、「①キーワードを入力」→「②検索をクリック」→「③検索結果から必要なものを探しクリック」という手間がかかります。しかしフィードは、人差し指を縦になぞるだけ。面倒な操作は不要。頭をほとんど使わず、次々と情報が得られます。

❸を補足すると、フィードされる情報を見た人は「世の中はこうなっているのか!」と刷り込まれていきます、しかしそれは自分用に濾過された情報。自分の知らない世界は、完全に遮断されています。

最近、安倍元首相の国葬について色々と議論されています。賛成派も反対派も、こんな感覚なのではないでしょうか?

「私の周りは、私と同じ意見の人が多いんだよね」

これはSNSでは同じ意見の人をフォローする傾向があるからです。つまり、自分用にカスタマイズしてフィードされた情報を見た結果を見ています。トランプもこの仕組みを巧みに活用して大統領に選ばれました。

フィードの問題は、多様な意見に接しなくなることです。

私たちは他の人から「あの人に、こんなことを言われちゃったよ。心外だなぁ。落ち込むなぁ。でも確かにあの意見ももっともかもな。ちょっと考えてみるか」というような経験を通じて、自分の知見を広げていきます。

しかしフィードでは、そのような情報は自動的に除外してしまいます。これはSNSのビジネスモデルも関係しています。

多くのSNSでは、広告が基本的なビジネスモデルです。フィード上に、自然な形でできるだけ多くの広告を出せば、売上は拡大します。

ユーザーに「心外だなぁ。落ち込むなぁ」なんて思わせずに、「そうそう。自分もそう思っていたんだ。いいこと言うじゃん」と心地よくワクワクしてもらった方が、SNS上に長時間滞在してくれます。

そうすればユーザーも情報を発信するので、SNSが賑やかになります。こうしてSNSビジネスが繁盛するわけです。(注:広告モデルではないSNSもあるので、全てのSNSがこうなっているわけではありません)

結果、世の中の見え方が変わってしまうわけです。

これはSNSを非難しているのではありません。SNSとはそういうものなのです。

現代の私たちは、このようなメディア・リテラシー(言い換えれば「自分の見ている情報は、こんな形でバイアスを受けている」ということを認識する能力)を身に付けていくことも必要なのでしょう。

 

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ワインボトルを変えたら、CO2排出量&物流費が半分に!

写真は https://packamama.com より

実は私、お酒を飲みません。 以前は少々たしなんでいましたが、飲まなくなってもう10年ほど経ちました。

飲んでいた頃はワインを買って飲むこともありました。ワインの問題は、ボトルです。店で買って家に持ち帰る際の重いこと。しかも割れやすいし、かさばりますよね。いつも持ち帰りが大変でした。

現在のガラス製ワインボトルは、17世紀に英国で生まれた丸いボトルが原型(写真の左)で、19世紀にフランスのブルゴーニュとボルドーで現在の形状(写真の真ん中)が生まれました。

21世紀なのに、私たちは19世紀のボトルを使っているわけです。

2022年7月24日付の日経産業新聞の記事「平らなワインボトル、豪で新風」で、この世界を変える挑戦を紹介しています。

オーストラリアで、平たくて軽いプラスティックのワインボトル(写真の右)が普及を始めているのです。

英国企業パッカママが開発したもので、厚みは3.5cm、重さ63グラム。店の同じ棚面積に2倍の本数を並べることができます。さらに空間をムダにせずに並べられるので、運送用物流パレットに搭載できる本数は通常のワインボトルの2倍。物流費高騰の今、これは有り難いですね。

同社CEOによると、ワインのカーボンフットプリント(CO2排出量)の68%は、ボトル由来だそうです。

新ボトルでワインの品質を保てるのは、19ヶ月間。ボトル内で熟成させる高級ワインには向きませんが、値ごろ感重視のワインであれば物流コストを大幅に削減できます。

記事で書かれているのは以上ですが、ガラス製のワインボトルの問題は他にもあります。捨てるのが大変です。家でパーティなんかしようものなら、大量の空き瓶を捨てるのは重労働です。さらにそんな空き瓶を回収するのにもコストがかかるわけです。

レストランの裏口にワインの空き瓶が大量に溜まっている…なんてこともなくなります。

このように考えると、先進テクノロジーは一切使っていませんが、これは素晴らしいイノベーションですね。

同社はワイン小売をしていましたが、重さと形状が物流上の悩みの種。そこで自社商品向けにエコフラットボトルを開発したそうです。

世の中に大きなインパクトを与えるイノベーションのヒントは、意外と私たちの身の丈の悩みの中に転がっていることを、改めて教えてくれる取り組みだと思います。

 

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自動化は、DXではありません

ITの世界で、RPAという考え方があります。RPAとは、ロボティック・プロセス・オートメーションの略。パソコン操作を自動化してくれる仕組みです。キーボードやマウスの操作が自動化されます。

たとえばクラウド上からファイルをダウンロードして、データを転記したり集計する作業とかありますよね。これまでこのような作業は、人間がマウスとキーボードを操作して、人手をかけてやっていました。でもRPAを使えば、そんな作業を自動でやってくれます。

この手の作業が膨大にある企業は少なくありません。たとえばメガバンクは、データを大量に処理する事務作業があります。そんな職場では、RPAが絶大な労働コスト削減を実現してくれます。

このように言うと…。

「なるほど、RPAを活用して、我が社もDXを推進するぞ!」

と考える方もおられるのですが、これはRPAとDXの大きな勘違いです。

ちなみにDXは、デジタル・トランスフォーメーションの略です。
デジタルを使って、いまの仕事のやり方を一気に変えてしまうのが,DXです。

RPAとDXは、実は真逆なのです。

3年ほど前に、「書類の押印作業を自動化する」という押印自動化ロボットが展示会で出展されて、「そもそも押印作業を不要にすべきじゃないの?」と話題になりました。この場合、「押印作業をロボットで自動化しよう」と考えるのがRPAで、「そもそも押印作業をなくそう」と考えるのがDXだ、と考えると分かりやすいと思います。

RPAの大前提は、「いまのパソコン定型作業を、自動化する」。たとえば、「①クラウドから顧客情報をダウンロードして→②Excelで開いて→③顧客の情報を転記して→④ファイルしたらクラウドにアップロードする」という現在の作業を、自動で行います。つまり、現在の業務を肯定します。

DXの大前提は、「いまの業務を根本的に変える」。たとえば「そんな作業は廃止しよう。顧客がスマホ入力したデータを、直接クラウドに反映させた方が、コスト削減できるし、顧客もリアルタイムでデータを確認出来るから、サービスレベルも上がるよね」と考えます。つまり、現在の業務を否定します。

既存業務を高速化するよりも、既存業務をなくした方が、全体の業務プロセスはスピードアップすることが多いですよね。DXはそこを狙うわけです。

現場主導で考え、現場の生産性を大きくアップするのがRPA。
経営者主導で考え、会社の業務そのものを変えて、生み出す価値と効率性を変革するのがDX。
このように考えると、分かりやすいと思います。

自動化の意外な盲点ですが、「自動化=DX」ではなく、むしろ真逆なので、注意したいですね。

 

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「日本は○○だから、大丈夫」という思い込み

「安倍元首相、奈良市で不審な男に襲われる」

この一報を日経新聞の速報メールで知ったのは、2022年7月8日11:59AMでした。

この時点で、メールのタイトルを見た私は、(「襲われた」というけど、ここは安全社会の日本だ。周囲にはSPもいるだろうし、大ごとにはなっていないだろう。でも安倍さんも大変だなぁ)と思い込んでいました。

その後、続々と入ってくるニュースで、安倍さんが深刻な状況にあることを知り驚愕。その日の夕方、安倍さんは亡くなりました。

これと同じ体験をしたのは、11年前の東日本大震災で「福島第一原発が大変らしい」というニュースが伝わってきた時のこと。

この時も私は、(日本の原発だから大丈夫な筈だ)と思っていました。しかしこの時に、既にメルトダウンが発生していたのです。

我が身を振り返って感じたのは、(日本は○○だから、大丈夫なはず)というのは、幻想に過ぎないということです。

考えてみると、(日本は○○だから、大丈夫)というロジックには、何の根拠もありません。

認知心理学では「人間にはさまざまな認知バイアスがあって、事実を大きく歪めて認識してしまうことがある」と考えます。たとえば…

【確証バイアス】先入観に基づき、都合のいい情報を集めて先入観を補強する。[例] 「戦後、要人の暗殺はなかった→だから今後も大丈夫」「日本では大きな原発事故はない。品質も高い→だから大丈夫」

【正常性バイアス】災害が予想される状況でも、都合の悪い情報を無視して、「今回は大丈夫」と過小評価したがる。[例] 「あの人、不審行動しているけど問題ないだろう」「電源が失われたけど、原発事故は起こらないだろう」

(日本は○○だから、大丈夫)と思っていた私も、振り返ってみると、まさに認知バイアスに陥っていたのです。

今回の件で「SPは何やっていたんだ」と憤る方もおられるようです。確かに緩んだ警備体制見直しは急務でしょう。

一方で、ビジネスで責任を持っている私たちは、どうでしょうか?
仕事で根拠もなく、(○○だから大丈夫)と思い込んでいないでしょうか?

「今、仕事が順調でいい感じ。だから何の問題もない」
たいていはそんな時に、大きな問題の原因が見えないところで発生しています。

あらゆる人が「自分が見えていないところで何か問題が起こっていないか」と考えるようになると、メンタルにストレスがかかってしまいます。

しかし、ビジネスで責任を持つ立場であれば、自分が責任を預かっている範囲は「自分が見えないところで、何か問題が起こっていないか?」という意識を持つことが必要だと思います。

それが「経営者目線を持つ」ということだと思います。

今回の件で、一度我が身を振り返り、身を正す機会にしたい、と思いました。

 

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デル・モデルを実現・進化させたテスラ

成長を続けるテスラは、テクノロジーに注目が集まりがちですが、最近こんな記事がありました。

『【記者の目】テスラ、製造業で異例の「運転資金不要」』
(日本経済新聞、2022年6月23日)

じっくり読むとなかなか凄いお話しなので、解説しながらご紹介したいと思います。

普通はモノを作る時、まず原材料調達や生産にお金を払った後に、商品を売って売掛金を回収します。この「お金を払ってから、売上を回収するまでの期間」を、会計ではキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)といいます。

この自動車業界ではこのCCCは、記事によるとトヨタが31日フォルクスワーゲン(VW)が74日。世界に冠たる「トヨタ生産方式」を推進するトヨタがVWの半分というのは、さすがです。トヨタの方がVWよりも効率的にお金を回せるということです。

しかしテスラは、なんとCCCはマイナス15日。

つまり、お客からお金をもらい、そのお金で生産しているということです。こうなると運転資金が不要になり、余剰資金が生まれます。その分の資金を新たな投資に回して、成長できるわけですね。

記事によると、テスラは様々な方法を駆使してこれを実現しています。

【ものづくり革新】ガソリン車の部品は3万点ですが、EVは2万点に減ると言われています。テスラはさらに少ない1万点程度。たとえばクルマを制御するECU(電子制御装置)は、通常のクルマでは50〜70個ですが、テスラは数個だけ。おかげで配線も少なくて済みます。複雑な形状の大型部品も一度に成形できる巨大な鋳造設備も導入しました。さらに車種も絞り込んでいます。モデル3とモデルYのⅡ機種で生産台数の95%。内装もシンプル。メーターやボタンはなく、中央にタッチパネルがあるだけです。

【地産地消】テスラはEVが成長する中国でも、現地に工場を作りました。おかげで生産して販売までの時間が短くなります。

【自社直販】自社店舗の販売をやめて、オンラインでお客に直販します。

こうして、調達・生産から顧客に届けるまでのバリューチェーン(価値連鎖)を最短化することで、CCCをマイナスにしているのです。

一見すると、これは1980年代にPC業界で、デルが確立した「デル・モデル」です。デルも…

・販売店やディーラーを通さずに、顧客に直販
・全てお客の希望にあわせてカスタマイズする注文販売
・サプライチェーンマネジメントを徹底効率化。在庫を徹底追求
・自社は技術を持たず、他社の最新汎用技術を採用し、いち早く製品化

こうしてデルも、PC業界で唯一CCCマイナスを実現しました。デルはデル・モデルを磨き込み続け、2001年にパソコン業界で世界トップシェアを獲得。その原資で、今やIT総合ベンダーに進化中です。

テスラは、このデル・モデルを自動車業界で実現した、という見方もできます。
しかもテスラは、デル・モデルを進化させています。

・最新汎用技術を採用したデルとは異なり、テスラは自社で先進技術を研究開発し続けています

・さらに一台当たりの単価は、デルは10万円。テスラは500万円。50倍です。デルモデルも様々な業界にインパクトを与えましたが、実にすそ野が広い自動車業界で新たなモデルを実現することによるインパクトは計り知れません。

・単品PCのデルとは異なり、テスラのクルマは様々な仕組み(自動運転や充電ステーションなど)と連動することで価値を発揮します。クルマはその一手段にすぎません。

テスラが創りだした「テスラ・モデル」とも言うべきこのビジネスモデルは、今後大きな影響力を持ってくると思います。

 

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マーケティングはビジネスパーソンの必須科目

私がマーケティングの仕事を始めたのは、1990年代です。

当時、私はIBM社員でした。1994年、破綻寸前に追い込まれたIBMは、ガースナーがCEOに就任。様々な手を打って復活を果たしたのですが、その一つがマーケティングの強化でした。このためにガースナーはアメックス社長時代にマーケティング分野の右腕だった元部下(アビー・コンスタン)をIBMに招き、マーケティング部門を任せたのです。

「マーケティング専門職を育成しよう」と考えたアビーは、IBM社内でマーケティング専門職を育成することにしました。

この時、製品開発マネジャーだった私は異動して、マーケティング専門職の一期生になりました。IBMはマーケティング専門職の人たちの人材育成に戦略的に投資しました。

当時、マーケティングはマーケティング専門職の人が学ぶものだったのです。

これが、現代ではまったく変わりました。
あらゆる仕事で、マーケティングは必須科目になったのです。

私は企業向けにマーケティング研修を行っています。営業、商品開発、生産、管理、人事など、様々な職種の方々が参加していますが、マーケティングを学ぶと例外なくこうおっしゃいます。

「早くマーケティングを学べば良かった。これ、自分の仕事ですぐに役立ちます」

永井経営塾にも、実に様々な職種の方々が参加しておられます。

理容・美容店の美容師さんたちも拙著「100円のコーラを1000円で売る方法」を読んでいます。理由を聞くと、「だって100円のコーラを1000円で売りたいじゃないですか」。

これはマーケティングが「顧客の潜在ニーズを見つけ出し、価値を創り出して、顧客に提供し、ビジネスにすること」を、首尾一貫した方法論でまとめた考え方だからです。

モノを作れば売れる時代はとうの昔に終わりました。
現代は価値を創らないと売れない時代です。
だからマーケティングがわかれば、一気に仕事力がアップします。

最近注目されているリスキリングで、DXやITだけでなくマーケティングにも注目が集まっているのは、こんな理由です。

ただマーケティングを学ぶ上での大きな壁が、横文字の専門用語や一見難しそうに見える理論。この壁が意外に大きくて、多くの方々が挫折してしまうのです。

実はマーケティングは、いったん理解してしまえば、その本質は子どもでもわかるほどシンプルなものです。難しいことは、本質を理解した上で実践していくうちに次第に分かってきます。

ビジネスパーソンにとって大事なのは、限られた時間と労力の投資で、仕事で成果を挙げること。

そのためにも、いまやビジネスでは必須科目となったマーケティングを一人でも多くのビジネスパーソンに学んでいただける環境作りをしていきたいと思います。

 

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福利厚生アピールで人材募集。いいの?


こんなお話しを聞きました。

中小企業には、なかなか人材が集まりません。
そこで合同で採用面接会をすることがあります。
しかしそれでも応募者がゼロで、悩んでいる社長さんがいました。

あるコンサルタントが、こんなアドバイスをしました。

「福利厚生をアピールするといいですよ」

そこで社長さんは「当社は福利厚生が充実。夫婦で1泊付の人間ドックも受けられます」とアピール。すると面接希望者が殺到し、社長さんのお悩みが一気に解決しました。

さて、あなたはこの話を聞いて、どのように思われるでしょうか。

まず私は「とても現実的な方法だな」と思いました。
人手不足で悲鳴を上げている社長さんは、かなり助かるでしょう。
一方で「これでいいのだろうか?」とも思いました。

従業員の採用は、言うまでもなく会社にとって大きな投資です。この会社の問題は、会社のビジョンや業務内容よりも、表面的な福利厚生で判断する人材を集めていることです。確かに働く人にとって福利厚生は重要ですから、そうして会社を選ぶのは大事なことでしょう。

一方で、会社にとってこの方法が有効か否かはケースバイケース。「従業員に何を期待するか」で変わってきます。

仕事が単純作業のルーチンワークで、「このやり方でやってください」と指示すれば誰でもその通りできるような仕事であれば、「福利厚生が充実していますよ」とアピールして人手をかき集める方法も有効でしょう。実際に、そのような仕事は、まだまだあります。

しかしもし仕事が様々な創意工夫を必要とする創造的な仕事であれば、意欲的で自律的に動ける人材が必要です。そこで必要になるのが、福利厚生だけを求めるのではなく、会社が目指す方向に心から共感する人材です。

でもこのように言うと、この社長さんからこのように言われそうですね。

「確かにウチも創意工夫が必要な仕事だ。でもそれは理想論だね。まずは会社を動かさなければいけない。そのためにはまずは人が必要なんだ。それにいくら募集しても、うちのような会社に、目指す方向に共感するような人材なんて来ないよ」

もしそうだとしたらば、求職者から見て会社の目指す方向が明確でなかったり、仮に目指す方向が明確でもその方向に共感する人がいなかったり、情報発信が不足していることの方が、問題なのかもしれません。

これは企業経営者だけでなく、会社のマネジャーでも同じです。

自分の課や部が人手不足で新しい人材が必要な場合、自分の部門で何を目指すのかを明確にして、そのために必要な人材を社内から探して、「ここで仕事をしてみたい」と思っていただくことです。そんな人材が集まる部門が、強い部門になるのです。

 

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イノベーションは、「猿まね」で起こせ

2022/5/31付の日本経済新聞 経済教室で、早稲田大学の井上達彦教授がこんな論文を寄稿しておられます。

「【経済教室】日本企業、戦略不全からの脱出(上) 「猿まね」批判を恐れるな」

本論文で井上教授は、日本企業が長期の戦略不全状態でイノベーションが起こらない原因は「イミテーション実践力=模倣力の喪失である」と述べています。

そして『世界的に見て日本は「模倣的創造」にたけた民族である』として、下記の例を挙げています。

・トヨタ生産方式(ジャスト・イン・タイム方式)は、大野耐一さんが米国のスーパーマーケットの仕組みを応用したもの

・セブン・イレブンも、米国で展開していたセブン・イレブンの考え方を取り入れつつ、マニュアルを全て日本流に作り変えたもの

「模倣的創造力」は日本人の強みなのだから、自ら捨てる必要はない、ということです。

シュンペーターが100年前に「イノベーションは既存知の新しい組み合わせ」といいました。こう考えると、「創造的模倣」がイノベーションを生むという考え方は納得です。むしろ「模倣的創造が、イノベーションの本質」とも言えるかもしれません。

思い返せば1980年代まで日本企業が成長していた頃、海外からは「日本製品は猿まねばかり」とよく言われていました。しかしその猿まねは、実は「模倣的創造」だった、と解釈すれば、本論文の指摘はとても腹落ちします。

当時は「欧米に追いつき追い越せ」が原動力になり、海外から必死に学びつつ、日本流に作り変えることが「創造的模倣」になり、結果としてイノベーションを生み出したのでしょう。

現在の日本は、「失われた30年」といわれる停滞に陥っています。これは裏を返せば、「海外には学ぶべき先行事例が山のようにある」ということです。

いまこそ日本人の強みである「模倣的創造力」を発揮する絶好のタイミングなのかもしれません。

そのためには、

・「イノベーション=全く新しいものを創造すること」という思い込みを、まず捨てる

・アジアを含む海外から、謙虚に好奇心を持って学んでいく

ということが必要なのだと思います。

 

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値上げと企業ブランディング

原材料費の高騰、なかなか厳しいですよね。「ウチも値上げしないと厳しいなぁ」とお考えの方も多いのではないかと思います。

一方で、値上げは消費者に痛みを強います。ですので値上げが企業ブランディングにどんな影響を与えるかも考える必要があります。では、どのように考えれば良いのでしょうか?

世界的なブランドの大家であるデービッド・アーカーは、1980年代に「これまでのマーケティング活動の蓄積が、いまのブランドを創り上げている」というブランド資産(ブランド・エクイティ)の概念を提唱しています。

アーカーは1996年にこの考えをさらに進化させ、『「われわれはこんなブランドを目指すのだ」と考え、あるべきブランドの姿に向かってマーケティング戦略を考えるべきだ』というブランド・アイデンティティという概念も提唱しています。

ブランド資産「マーケティング活動の結果(ゴール)」です。ブランドアイデンティティは逆に「マーケティング活動の出発点」になります。

値上げを考える際には、この2つの視点で考えると、わかりやすく整理できます。

■私たちは「強いブランドなら、値上げしても理解は得られるのでは?」と考えがちです。

しかしこれは間違いです。一般論ですが、値上げは顧客に痛みを強いるために、ブランド資産を毀損します。
「強いブランド(=既にブランド資産がある状態)」ならば、弱いブランドよりも理解が得られやすい可能性があります。しかし値上げはブランド資産を毀損するわけですから、その毀損を最小限に留める努力は必須です。

■また、私たちは「ステルス値上げならブランド価値は守れるのでは?」とも考えがちです。

ステルス値上げとは、価格据え置きで商品量を減らすような隠れた値上げのことです。確かに気付かれにくい面がありますが、これは好ましくありません。

プライシングスタジオ株式会社が2022年6月2日に「ステルス値上げに関する調査」(調査数341件、回収期間4月1〜15日)を発表しています。→リンク

・ステルス値上げを知っている人は66%
・ステルス値上げが増えていると感じる人は69%
・「不快に感じる人」は26-35歳が最も多く63%。一番少ない46歳以上は43%
・「仕方ないと思う人」は46歳以上が最も多い57%。一番少ない26-35歳は38%

つまり消費者は、意外とステルス値上げに気がついています。しかも一定数の人が不快に感じてます。これらの人たちには「この企業は誠実ではない(=消費者が気づかぬように損失を与えている)」という印象を与えているわけで、ブランド資産が毀損していることを示しています。これってあまりいいことではありませんよね。

一方で数年前と比較して、現在は原材料などの高騰が社会的に広く共有されています。誠実に説明をすることで、消費者が値上げを受け容れる素地が整っています。透明性ある説明をすることにより、逆に消費者に誠実さを訴求する機会となり、ブランド資産の毀損を最小限に留められる可能性が高いと思います。

■「値上げが続いているので、環境対応とかのメッセージを大々的に訴求すれば、値上げも理解を得られるのでは?」と考える人もいます。

ここで重要なのが「ブランドで何よりも大切なのは、顧客から見た首尾一貫性(言行一致)だ」ということです。

そのメッセージが、会社が常日頃言い続けているビジョンや使命(目指すブランドのあり方を示すブランド・アイデンティティ)と首尾一貫していれば、確かに受け容れられる可能性があります。

しかし「環境対応はブームみたいだから、取りあえずこれと組み合わせればいい」という企業の安易な姿勢は、確実に消費者に足下を見られます。

値上げは苦渋の決断です。そんな場面だからこそ企業の姿勢が問われます。対応次第では「お里が知れますよ」っていうことですね。

なお、ここまでの話はあくまで値上げ発表とブランディングについて考察したものです。

消費者が店頭でどのような反応をするかは、別途詳細な検討が必要です。たとえば消費者が商品棚にあるA商品とライバルのB商品を見比べて、お値打ち感があるB商品を選ぶ…ということが起こります。

ともあれ、原材料高騰は、長いことデフレが続いてきた日本経済にとって一大転機になり得ます。この値上げを、長期低迷が続いていた人件費アップに繋げて、日本を豊かにするチャンスに転じたいですね。

 

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内田和成著「イノベーションの競争戦略」は、イノベーションの教科書

多くの人は「イノベーションは、画期的な商品やサービスを生み出すことだ」と考えています。そして画期的な商品を作ろうとしますが、空振りします。そしてこんな反省をします。

「敗因は、新たな価値を生み出せなかったことだな…」

これは正しいのでしょうか?

先月末(2022年4月)の新刊「イノベーションの競争戦略」(東洋経済新報社)の著者・内田和成先生は、国内外のイノベーション事例を1000件近く調べた末に、こんな結論を提示しています。

『世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスは、企業におけるイノベーションの必要条件ではない。それよりも新しい製品・サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそがイノベーションの本質である』

2001年、ビル・ゲイツ、ジョブズ、ベゾスといった大物達が「人の移動を変える革命的商品」と絶賛した商品が発売されました。「セグウェイ」です。人が立ったまま乗るボードの両側に2つ車輪が付き、真ん中にハンドルがついて、立ち乗りで最高時速19Km/hで走れます。当時の画期的技術でした。

しかし交通ルール上、乗る場所が限られていましたし、価格も100万円近くておいそれと買えません。結局普及せず、世紀の大失敗になりました。

一方で、2007年に登場したiPhone。携帯電話も、インターネット用デバイスも、iPodも既存技術。画期的技術は何もありません。

しかしiPhoneは、説明不要で誰にでも使える優れたユーザーインターフェイスで様々なアプリを使えました。その後ウーバー、Airbnb、メルカリなどの新しいサービスが立ち上がり、世の中を大きく変えるイノベーションになりました。

内田先生は、本書でこのように述べています。

『「顧客の価値観・態度が変わって、結果として生活やビジネス上の行動が変わったか?」という問いに対する答えが「YES」のものがイノベーションなのだ』

では、どのようにすればよいのでしょうか?

本書では「イノベーションストリーム」という概念を紹介しています。次の4ステップです。

①価値創造のドライバー

②価値創造

③態度変容

④行動変容

具体的に見ていきましょう。

①価値創造のドライバー… 価値創造を受け容れる世の中の変化を見極めます。たとえばコロナ禍で人々の行動は大きく変わり、様々な変化を受け容れるようになりました。

②価値創造… 技術革新・社会構造・心理変化を見極めて、新しい価値を提供します。たとえば「レストランの宅配サービスの提供」。

しかし残念ながら、多くの企業はこの②で留まっています。イノベーションを起こすには、しつこく③と④を追求することが必要です。

③態度変容… 「お、これ使えるね」というように顧客の態度が変わることです。たとえば外出できない中で「外食したい」という人が「なるほど、宅配サービスであの店のメニューを自宅で食べられるのはいいなぁ」と考えるようになりました。

④行動変容… 実際に顧客の行動が変わり、定着することです。「実際に出前館やウーバーイーツを使って注文する」という行動が定着することです。

ここで紹介したiPhoneもウーバーイーツも出前館も、新しい技術は何もありません。しかし人々の行動変容を起こしたイノベーションです。

誤解を恐れずに言えば、イノベーションが起こせれば、技術革新とか新しい価値創造とかは、はっきり言ってどうでもいいのです。イノベーションで重要なのは、顧客の行動変容を生み出したか否かです。

もう12年も前の話ですが、2010年1月16日の日本経済新聞の1面「企業 強さの条件」に、中国企業や政府に広がるこんな言葉が紹介されていました。

「三流企業がものをつくり、二流企業が技術を開発、一流企業がルールを決める」

日本は自分たちを「技術先進国」と思っています。確かに技術は大事です。しかし技術はイノベーションの一要素です。このことがわかっている人たちにとって、日本の先進技術はイノベーションを起こすための「単なる燃料」に過ぎないのかもしれません。

「イノベーション」は1956年の経済白書で取り上げられ、日本で広く知られるようになった、と言われています。しかしこの時、「イノベーション=技術革新」と訳しました。この世紀の誤訳が、日本人のイノベーション下手を招いているのかも知れません。

内田先生はこのように書いています。

「トンビに油揚げをさらわれるという格言があるが、油揚げをさらったものがイノベーターである」

シュンペーター曰く「イノベーションとは既存知と既存知の新しい組み合わせ」です。それを「油揚げをさらったものがイノベーターである」と表現するあたりが、いかにも内田流です。

そして内田先生はこのように続けます。

「…となるとポイントは新しい価値を自社で生み出すことではなく、その価値をいかに顧客に根づかせるか、にあるということが理解できるだろう。そのためには自社の資源にこだわることなく、使えるものは何でも使うという考え方に行きつく。それができないのが日本企業の弱いところである」

その上で本書では次の4つの提言をしています。

【提言1】行動変容にコミットする…新しい価値を生むよりも、人々の態度変容と行動変容を起こせ

【提言2】イノベーションを見るレンズを変える…態度変容と行動変容の種を探せ

【提言3】事業継続に強くこだわる…ユーザーの態度・行動が変わるところまで継続できるかがカギ

【提言4】自前主義を放棄する…イノベーションを分業で実現せよ


実は内田先生には、本書刊行の2ヶ月前に永井経営塾のゲストライブに登壇いただき、本書の内容を特別にお話しいただきました。

この時も直接内田先生からお話しをお伺いして「なるほど」と思ったのですが、本書を実際に読んで「行動変容を起こすのがイノベーションだ」という考え方がストンと腹落ちしました。1000件近くの事例を分析した成果なので、事例も実に豊富です。

現代におけるイノベーションの教科書として、ビジネスに関わるあらゆる人たちに強くオススメしたいと思います。

 

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「どうしても他人のことが気になってしまうんです」

「自分は、どうしても他人のことばかり気になってしまうんです。永井さんっていつもマイペースですね。他人のこととか気にならないんですか?」

最近、こんなことを聞かれました。

実は私、20歳を過ぎるまでいつも他人のことばかりクヨクヨ考えていました。大学生時代、友人にこんなことを言われたこともあります。

「他人はお前のことなんて、そんなに考えてないからさ。気にしない方がいいよ」

そう言われても、私は「あの人が言ったのはこんな裏があるんじゃないか?」「この人はこう思っているんじゃないか?」と気になっていました。ですので、この質問をされた方のお気持ち、よくわかります。

しかし私は社会人になってからは、他人のことはあまり気にならなくなりました。 現在の私は、他人がどう思っているかはそれなりに気になりますが、ほとんど引きずらなくなりました。

恐らくそのきっかけは、社会人になってから急に「まずこれやって、次にあれやらなきゃ」というようにやるべきことが増えたからです。

「他人のことが気になる」という行動は、過去を振り返る行動です。
一方で「まずこれやって、次にあれやらなきゃ」というのは、未来を考える行動です。

「過去を振り返る」という行動自体は学びと改善の作業なので、必要なことです。しかし脳内のほとんどがこれで占められたり、他人のことばかり考えるようになると、これはこれで困りものですよね。

「どうしても他人のことが気になってしまう」という人は、感覚的な表現ですが、脳内の2/3以上が過去を振り返る作業で占められているのではないでしょうか? しかし今やるべきことは、すっかり忘れ去ってしまいがちです。

一方で「まずこれやって、次にあれやらなきゃ」という人は、脳内のほとんどが「今これをやろう」「次にあれをやろう」というように未来のことを考える作業で占められています。

自分の脳が集中する方向性を「過去」から「未来」に切り替えることが必要です。

そこでオススメは、毎朝「やるべきことリスト」を作ることです。
重要な順番でリストに書き出して、上から順番に片づける度に、見直すのです。

「あの人のことが気になる」と思ったら、すぐにそのリストを見れば「こんなことを考えているヒマはないぞ。いまはこれやらなきゃ」というようになります。

大事なことは、リストは必ず毎朝、書き出すことです。
書き出すことで、目と身体でやることをしっかり思い出すことができます。
そして書き出すうちに、「あれもある」「これもある」と芋づる式にやることが出てきます。

毎朝これをやっていれば、「他人のことをクヨクヨ考えるヒマなんてない」ということを毎朝、しっかりと自分に意識付けすることができます。

思い返せば、私は新入社員時代からこれを毎朝やっていました。この積み重ねで、いつの間にか他人のことをあまりクヨクヨ考えないようになったのだと思います。

ぜひお試しを。

 

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デパ地下で体験した「俺の」戦略

写真は「俺のEC」より

近所のデパ地下の特設コーナーに、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」が出店していました。お店のメニューが8種類ほど冷凍食品で売られています。

早速購入し、その晩、家で食べてみて驚きました。「俺のフレンチ」で食べるのと全く同じクオリティなのです。

「でも特設コーナー、5月末まで。この後どうしよう? もしかしたらECサイトがあるかも…」

検索したら「俺のEC」というサイトがありました。しかもメニューは数十種類。

そこで考えました。「これって次世代店舗戦略そのものだ…」

最近、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)に特化したネット直販企業が様々な分野で台頭しています。

D2Cは問屋・小売店を通さないので、流通コストは最小限。消費者と直接繋がり、消費者も深く理解できます。一見万能。ただ致命的なジレンマがあります。

リアル顧客の接点がないので、体験を提供できません。体験の提供という点で、リアル店舗は圧倒的に優位です。

そこでD2C企業は、リアル店舗を展開し始めています。米国で男性用スーツを提供するD2C企業IndochinoのCEOは、こう言っています。

「街に出店するたびに、その地域の認知度や売上がオンラインだけの場合と比べて4倍に伸びた」

消費者認知が広がり、売上が伸びるのです。

私もデパ地下で「俺のフレンチ」体験をしなければ、「俺のEC」を検索しませんでした。リアル店舗で体験した結果、「ECで買おう」と考えたわけです。

「俺のEC」では「俺のサブスク」もあります。毎月、食パン15個(月額4,298円税込)、またはスープ8食(月額3,218円税込)を配送します。抜かりないですね。

当初、「俺の」はリアル店舗の客を高回転で入れ替え、薄利多売で高収益を狙う戦略が大当たりしました。

しかしコロナ禍で、店に人が来なくなりました。

そこで「一流シェフによる美味しい料理を、リーズナブル価格で楽しめる」という自社の強みを活かして、リアル店舗に依存しない戦略を進めているのでしょう。これを実現するには、冷凍食品でも味が劣化しない調理法の模索など、裏では様々な工夫をしているのではないかと思います。

そこで「一流シェフの美味しい料理を、リーズナブル価格で…」という強みを活かし、「…自宅で楽しめる」という新戦略を進めているのだと思います。

この戦略実現には、冷凍食品でも味が劣化しない調理法など、裏では様々な工夫をしていると想像します。

デパ地下の「俺の」体験で、色々と学ぶことができました。おかげで体重も少し増えてしまいました。

 

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30秒で描いた絵に100万円請求したピカソから学ぶべきこと

20世紀最大の芸術家ピカソにこんな逸話があります。

あるご婦人がレストランでピカソに近づいて「ナプキンに何か描いてくださらない?」と頼み、ピカソは絵を描きました。

気に入った彼女は「いくらでも払うわ」
ピカソは「1万ドル(130万円)ですね」

驚いた女性はこう言いました。「あなた、30秒で描いたんじゃない」

ピカソはこう答えました。「ここまで描くのに40年間かけたんですよ」

これは経営者であり著述家のマーク・マコーミックが1984年の著書で紹介した逸話です。「実はフィクションでは?」とも言われていますが、これは労働の意味について考えさせてくれる逸話でもあります。

労働には、単純労働と複雑な労働があります。高いスキルを要する複雑な労働は、単純な労働よりもずっと高い価値を持ちます。

ここで参考になるのが、カール・マルクスの「資本論」です。マルクスは「資本論」第1巻第5章で、このように書いています。

「社会的平均労働にたいして、より高度な、より複雑な労働と見なされる労働は、より高い養成費を含み、その生産により多くの労働時間を要する、したがって単純な労働力よりもより高い価値をもつ労働力の発現である」

天賦の才能を持つピカソが40年間かけてスキルを高めてきた結果が、この30秒の絵にこめられています。 ピカソがご婦人に請求したのは、30秒への対価でなく、40年間への対価だったのです。

さらにマルクスは、先の文章の後にこのように続けています。

「宝石細工労働者が、彼自身の労働力の価値を置換えるにすぎない労働部分は、彼が剰余価値を創造する追加的な労働部分から、質的には決して区別されない」

これもわかりにくい文章なので、解説します。

マルクスによると、低スキルの労働者は、組織の歯車に徹して自分の労働力を提供し、その労働力から生み出された利益(余剰価値)を資本家に搾取されています。そして「この状況って、たとえ高スキルを持つ労働者でも変わりませんよね」と言っています。

マルクス的に言うと「たとえピカソでも、もしどこかの組織に属していれば、誰かに搾取されていますよ」ということです。実際のピカソは、自由人に生きました。ちなみに共産党員だったそうです。

私個人はマルクス思想は「ややモノ中心で考えすぎの極論」と思っていて、ある程度の距離を持って眺めています。しかし一方で、このマルクスの考え方は、現代に生きる私たちにヒントを与えてくれます。

会社員は、会社の中で様々な仕事を経験することで、自分のスキルや経験値を高めることができます。こうしてスキルを高め続けていくと、会社の看板に頼らなくても仕事ができるレベルに達する時がやってきます。ピカソのように30秒で100万円…まではいかないにしても、自分のスキルに対してそれなりの対価を得られるようになります。さらに現代では、ほんの20〜30年前と比べても、個人が独立する敷居は格段に低くなっています。

会社員を続けるか、あるいは独立するかを判断する際に、これらマルクスの指摘は一つの判断軸を提供してくれると思います。

※当コラムは私の政治的信条とは関係はありません。

 

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生産性向上では成長せず、売上は下がる


こんな発言をよく見かけます。

「我が社は徹底的な生産性向上を追求して、成長する」
「日本は生産性向上を徹底して、成長しなければいけない」

確かに生産性向上は大切です。効率を上げることは、ビジネスの必須課題です。

しかし生産性向上だけでは、成長はしません。むしろ縮小します。これは簡単な計算でわかります。

売上1億円を達成するために、コスト5000万円かけていたとします。
営業利益は1億円-5000万円=5000万円。ですので営業利益率は50%ですよね。

ここで生産性向上を頑張って、コストを3000万円に下げたとします。しかし当然ながら、ライバルも生産性向上に励んでいます。そこで多くの場合、値下げしなければなりません。

でも値下げしても、営業利益率(=儲け)は維持したいですよね。そこで営業利益50%を維持する、と仮定しましょう。

 売上 = コスト + 営業利益
 営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上

ですよね。

コスト3000万円で営業利益率50%を達成する場合の売上は、この式にあてはめて考えると6000万円になります。(計算式は省略します)

つまり生産性向上を頑張ったのに、売上は1億円→6000万円に下がってしまいました。

実はこれが、日本の「失われた30年」の正体です。生産性向上は必要です。でも生産性向上だけでは、売上は下がるのです。しかしこんな反論がありそうです。

「でも日本って、生産性向上でずっと成長してきたんじゃないの?」

その通りです。ただし、それは高度成長期までの話。市場が成長していて、日本の生産性がまだ低かったので、ライバルよりも頑張って生産性向上すれば、成長して新たに生まれた市場をゴッソリ獲得できました。しかし現代では市場は成長していません。

問題は、もはや市場が成長していないのに、高度成長期に生まれたこの成功パターンを続けていることです。

生産性向上は常に行っていく必要がありますが、それだけではダメなのです。

いま必要なのは、新しい価値を生み出すこと。つまり価値創造です。

いまのやり方を改善するのは必要なことですが、長い目で見ると、それだけではジリ貧に陥ります。

いまのやり方をむしろ忘れて、全く新しい商品やサービスを生み出すチャンスはないか?

お客様は本当は何を熱望していて、喜んでお金を払おうと考えているのか?

低成長時代のいまこそ、「ウォンツ(潜在的ニーズ)の発掘」が必要なのです。

 

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強みを活かして業界常識を否定し、シェア倍増したプリンター会社

ビジネスプリンター業界の鉄則は、「販売後の補修や保守管理で稼ぐ」。いわゆる「ジレットモデル」(髭剃りのように、本体を低価格で売って替え刃で儲けるモデル)です。

この市場で、OKIのプリンターのシェアは4%程度に甘んじていました。OKIのプリンターはLED方式。ビジネスプリンターの主流であるレーザー方式よりも部品が少なくシンプルな構造、かつコンパクトでした。しかしこの強みが活かせず、大手と価格勝負に陥っていたのです。

そこでOKIの国内営業部長はこう考えました。

「部品数が少なく、構造がシンプルなら、故障は少ないはず。保守モデル自体がナンセンスだ」

そこでOKIは、常識の真逆を行く大胆な方針を打ち出しました。

「5年間無償保証」

結果、4%だったシェアは、2013年には10%と倍増しました。

この営業部長が、2022年4月1日に取締役を経ずに執行役員から12人抜きでOKIの新社長に就任した森孝廣氏です。(詳細は、今週発売の日経ビジネス2022年4月18日号(p.92)に掲載されていますので、ぜひご覧下さい)

この話は、自分たちが持つ強みを徹底的に見直した上で、業界の常識を「そもそもそれって違うんじゃないの?」と疑うことが、大きなチャンスをもたらしてくれるということを教えてくれます。

現在の常識は、神様が決めたことではありません。過去にどこかの会社にいる誰かが「自分たちの強みを活かせば、こんなおいしい商売ができる」と考え、それが顧客に受け容れられた結果、出来上がったモノです。

だから業界の常識は、私たちが自分に有利なように自由に上書きしてもまったく問題はないのです。それが顧客のお困りごとを解決できれば、新しい常識として定着します。いまの常識は上書きされるためにあります。そして、世の中はこうして常に進歩していきます。

御社で生かし切れていない、他社にはない強みは、何でしょうか?
その強みで、業界の常識はどのように変えられるでしょうか?

 

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30年ぶりのアサヒ新スーパードライ号

アサヒスーパードライ発売は、日本が元気だったバブル期前夜の1987年。この時期、アサヒビールは販促の一環で、全国で飛行船「スーパードライ号」を飛ばしました。

当時、空を見上げると、銀色のボディに「スーパードライ」と書かれた飛行船が青い大空に浮かんでいました。40代以降の方は、当時のことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか?

この頃、私は東京湾岸の写真撮影に凝っていました。1993年頃、早朝の横浜の大黒ふ頭に停泊しているスーパードライ号を撮影したのが、この写真です。

なかなか存在感があります。

そんなアサヒですが、このたびスーパードライをフルリニューアル。味も変えました。その販促の一環で、日本列島の空に新スーパードライ号を飛ばしています。

「空を見上げようよ!」

というメッセージは、新型コロナで家に籠もりがちだったり、戦争などの暗い話題が多い中、分かりやすいですね。反響も大きいようです。

一方でヒット商品の味を変えるのは、鬼門です。

■1996年、キリンは主力商品ラガービールを生化しました。

当時、キリンは新商品「一番搾り生ビール」がヒットしていましたが、スーパードライが「生売上No.1」を訴求して一番搾りを攻撃してきました。そこでキリンは「スーパードライの生売上No.1は阻止すべし。世の中は熱処理のラガーでなく生を求めている → よってラガーを生にしよう」と考えたようです。

しかしラガービールのファンは「オレのラガーに何してくれた」と激怒。離れてしまいました。これがきっかけで、キリンはビール業界トップシェアの座をアサヒに譲り渡しました。

■1980年代、コカ・コーラも味を変えてニュー・コークを発売しました。

当時、ライバルのペプシが「ペプシチャレンジ」という目隠しテストキャンペーンで、消費者がコークでなくペプシを選んでいる様子をCMで大量に流し、コカ・コーラのシェアを奪い続けていました。

コカ・コーラは「だったら、ペプシよりも美味しくしよう」と素直に考え、消費者テストを重ねて、より美味しいニュー・コークを発売したわけです。

しかしコークファンは「オレのコークに何をする!」と大反発。不買運動にまで発展してしまいました。

そこでコカ・コーラは半年後に誤りを率直に認め、ニューコークを撤回し、オリジナルのコークを「クラシックコーク」という名前で発売しました。これでコークファンが一気に戻り、コカコーラは業績を拡大しました。

では、なぜブランドリニューアルは鬼門なのか?

消費者のブランド認知は、消費者の脳内にあります。ヒット商品ほど、このブランド認知は消費者の脳内に強くこびりついています。

「ブランドは企業の所有物」と勘違いするビジネスパーソンが多いのですが、ブランド認知は消費者の脳内にあるわけですから、ブランドの所有者は消費者です。ですので企業が勝手にブランド認知を書き換えることは、本来はご法度なのです。

当然のことながら、マーケティング巧者のアサヒはすべて熟知した上で、スーパードライをリニューアルし、周到な手を打っているはずです。

新しいスーパードライの味は、SNSを見る限り好評のようです。当初のアサヒの狙いだった「スーパードライを知らない若い世代への訴求」は、ひとまずは順調のようです。

一方でスーパードライのコアファンは、おそらく1990年頃のアサヒ・スーパードライ号を見ていた50〜80代のシニア層でしょう。大多数の彼らは、あまりSNSをやりません。サイレントマジョリティである彼らは、どのように反応しているのでしょうか?

果たしてスーパードライの大胆なリニューアルは、吉と出るのか、凶と出るのか。

今後の動きを注目していきたいと思います。

 

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「仮説思考」で、企画の速度が一ケタ上がる

いまから15年前、私はある1冊の本に衝撃を受けました。その後、その本は私のビジネスマンとしてのパフォーマンスを大きく向上させ、人生を変えるきっかけを与えてくれました。

その本は、これです。

 内田和成著『仮説思考』

本書は2006年に出版されベストセラーになりました。

特に衝撃を受けたのは、次の点です。

■「問題の答えを先に決めつけてしまえ」

私は「まず情報を網羅的に集めて分析した上で解決策を考え、最後に答えを出すべきだ」と考えていました。「最初に答えを決めつける」という発想はそれまで全くありませんでした。

■「決めた答えに必要な部品を集めていけばいい。網羅的に100をやらず、もっともらしい2、3をやる」

答えを決めてから、その検証をするということですね。

■「仮説思考は繰り返せば繰り返すほど経験がものをいうし、精度も上がる」

要は「仮説思考とは、慣れ」ということです。

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の日本代表だった内田和成先生は、BCGの戦略コンサルタント達が活用している方法論を本書にまとめたそうです。

その後、この方法を実践した私は、大きく変わりました。

■企画の速度 →1ケタ向上しました。
■企画の品質 →1レベルアップしました。
■インパクト 残業なしで、勤務の傍らで執筆、合唱団運営、毎日ブログ執筆などができるようになりました。

2013年に会社を辞めて独立できたのも、このおかげです。

たいていの問題は、ビジネススピードがあれば解決できます。
そして仮説思考を身に付けると、ビジネススピードは格段にアップします。
結果、仮説思考力でビジネス力が大きくアップします。

ビジネスで必要なのは「問題発見力」と「問題解決力」です。
このうち、日本人は「問題解決力」は超一流ですが、「問題発見」は苦手です。
これはスキルの問題。
仮説思考で、問題発見力を身に付けることができるのです。

ということで、本書は昨年11月に出版した拙著『世界の起業家が学んでいるMBA経営理論の必読書50冊を1冊にまとめてみた』でも紹介させていただきました。

「そうか。仮説思考、ちょっと興味あるなぁ」

という方は、ぜひ本書『仮説検証』をお読みになることを強くオススメします。

 

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「マーケティングなんぞ、やらん」という社長


こんなご相談をいただきました。

「社長に『ウチもマーケティングやりましょうよ』と提案したら、烈火のごとく怒り始めたんですよ。『ウチはそんなものはやらんぞ!』というんです。どうしたもんでしょうか?」

実は、こんな人は少なくありません。

そもそも一言で「マーケティング」といいますが、人によって捉え方は様々です。

「マーケティングって、要は販売促進でしょ」
「広告や宣伝がマーケティングだよね」
「マーケティング、日々やってますよ。ボク、セールスですから」
「市場調査のことだよね」

残念ながら、これはみな大きな勘違いです。

ひらたく言うと、マーケティングとは新たな価値を創り出し、その価値を相手に伝えて、価値を届ける方法です。

販促、広告・宣伝、セールス、市場調査、ブランディングなどは、マーケティング活動の一環です。

ちなみに日本マーケティング協会は1990年にこのように定義しています。

「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。」

しかし現実にはマーケティングを正しく理解している人は、世の中にはあまりいません。

この社長さんは、恐らく次のように思っている可能性大です。

「マーケティングなんて、要は安いもののブランドイメージを高めて、高い値段で騙して売る方法だ」

確かにこう思っていたら「ウチはそんなものはやらんぞ!」ってなりますよね。でもマーケティングの考えって抽象的なので、なかなか説明してもわかってもらえないもの。なかなか悩ましいですよね。

そこでこんな人に会った時にオススメの方法があります。「マーケティング」という言葉を使わずに、マーケティングの概念を考えながら対話をするのです。こんな感じです。

「そもそも社長って、どんなお客さんの問題を解決しようと思っているんですか?」
「そりゃ、○○○で困っているお客さんだよ。この会社を始めたのも、A社さんがこの問題で困っていたのがきっかけなんだ」
「なるほど、その問題って、ウチの会社でどうやれば解決できるんですか」
「前から取り組んでいた技術があってね。これを使えば△△△できるんだよね」
「いいですね。ではそのお客さんって、この世の中にどのくらいいますかね?」
「オレの感覚ではものすごく多いよ。A社さん以外にも、業界で最低1000社くらいいるんじゃないかな? みんな困っているんだよな」
「どのくらいの効果が出るものなんですか?」
「かなりコスト削減できるんだ。生産コストを1割下げて、生産時間も2割短縮できるね」
「すごいですね。どの位で売れるものなんでしょうか?」
「そうだなぁ。生産コスト削減分の2〜3割程度の価格だったら売れるから、300万円くらいかな」
「案件1件あたり300万円で、最低1000社ですから、30億円くらいの市場規模ってことですね。じゃぁ、そのお客さんにどのようにすれば知ってもらえますかね」
「そうだな。お客さんの社長がよく読んでいる業界紙があるんだ。これで取り上げもらえば、お客さんに知ってもらえると思うな。業界初の商品だから、きっと記者さんも興味があると思うんだ」
「じゃぁ、その業界紙に連絡を取って、取材してもらいましょうよ。私の知り合い経由で頼んでみますよ」
「お! いいね。そうしよう」

かなり端折って書いていますが、こんな感じで社長と会話を続けて、実際に仕事を進めることで、マーケティングの考え方が社内で根付いていきます。成果が出始めたら…

「ところで社長、このやり方を、世の中ではマーケティングって言うらしいですよ」

と言えば、社長も、

「へぇ。オレがいつもやっているやり方が、マーケティングっていうのか」

と思ってくれるかもしれません。

ちなみに先日、獺祭で有名な旭酒造の桜井会長と永井経営塾ゲストライブで対談した時も、桜井会長は「ウチはマーケティング、やらないんですよ」とおっしゃっていましたが、実に自然にマーケティングをやっておられる最強のマーケターでした。マーケティングという言葉を使わなくても、出来る方は当たり前にやっておられるのですね。
→詳細は『本気でお客様を考えれば、自ずから最強のマーケティングになる』

 

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PRは、広告ではありません

「あ、PRね。広告のことでしょ。でもウチは宣伝しないんだよね」

マーケティングの仕事をしている方でも、こんなことを言う人がいます。

これは大きな勘違い。PRと広告は、全く違います。
「正反対」と言っても過言ではありません。
しかし意外と多くの方が、このことをご存じないようです。

PRはパブリック・リレーション(public relation)の略です。
ひらたく言えば「広報活動」のことです。(実際にはより広い概念ですが)

よく新製品発表などで、記者やメディア関係者を集めて製品説明会を行いますよね。
そして記者たちは新聞・雑誌・Web記事などでその様子を記事にします。
テレビのニュースで流れることもあります。
これは典型的なPRの活動です。

広告とPRを比較すると、こんな違いがあります。

        【広告】   【PR】
伝達手段    広告枠    メディア、SNS
メディア支払い 有り     無料
発信者     企業     メディアや消費者
企業による管理 100%管理可能 全く管理不可
代理店     広告代理店  PR会社
メディア担当者 広告部    記者・編集者
信頼度     低い     比較的高い

このように説明すると、「お。PRって無料なんだな。つまり無料の広告ってことだね。わかった」という人がいたりするのですが、これは大きな勘違いです。

広告とは違って、PRはどんな形で世の中に情報が出るかは管理できません。「まったく無反応」ということは少なくありませんし、伝え方が悪いと大きく誤解された情報が出回り、現場が苦労することもあります。

「だったらメディアに出す情報を事前チェックすればいい」という方もいるのですが、これはまさに「PR=無料の広告」という勘違いです。記者やメディア担当者が客観性を持って報道することが、読者や視聴者に対する信頼感に繋がります。情報発信者に対して第三者のスタンスを維持する必要があるのです。ですのでPRでは基本的に事前チェックはできません。このようなメディアの洗礼を受けた末に世の中に出されるので、PRは信頼度が広告よりも高いのです。

なかには「おカネと手間をかけて発表会をしたのに、どこも取り上げない」と言う人もいます。

記者やメディア担当者は、読者や視聴者にとって価値がある情報を発掘しようとしています。

あなたはニュースを見ていて、「お!これ凄いゾ」と思って見入るのは、どんなニュースでしょうか?
「どこぞの大企業が新商品を発表した…」とかいうニュースは興味ないはずです。「これまでになかった商品」とか「これが欲しかったんだ」「驚いた」「世界最高」といったニュースなら、見ようとするのではないでしょうか?

記者やメディア担当者も同じです。労力をかけて取材をするのは、価値がある情報を世の中に届けたいからです。どこもニュースで取り上げてくれないのは、「ニュースバリューがない」と思われた結果なのです。

実際には、巧みなPR活動で商品を広く世の中に認知させる企業は少なくありません。

その典型がアップル。新商品が出るとこぞってメディアでは詳細を報道します。これは消費者がアップルの新商品情報を求めているからです。

「それ、アップルだからでしょ? 参考にならないよ」という方もおられるかもしれませんね。

しかし資金力に劣る小さな会社や組織だからこそ、ニュースバリューさえあれば、PR活動は実に有効です。

バルミューダの寺尾玄社長は、新商品を出す度に記者会見で商品の思いを語ります。
「子供たちの目を守りたかった。だからBALUMUDA THE LIGHTを作った」
「パンが美味しくなるなら、ご飯も美味しくなるはずだと考えた。だから18ヶ月かけて、BALUMUDA THE GOHANを作った」

鳥取県の平井知事は「ダジャレ知事」で有名です。
「鳥取にはスタバはないですけれども、日本一のスナバ(鳥取砂丘)があります」
「私たちは、カニはあるけど、カネはない。(だから知恵を出している)」

また「日本一の星空の村」として今や全国ブランドの阿智村でプロジェクトリーダーを務める松下さんとお話しした時に、100名以上が記載されているメディア関係者リストを見せていただいたことがあります。松下さんは何か星にまつわる阿智村のニュースがあるたびに、それをメディアで取り上げられやすい形に加工して、プレスリリースにしてこのメディア関係者に送っています。阿智村が「日本一の星空」ブランドを獲得したのは、こんな地道な努力を重ねた結果です。

広告とPRの違いを理解し、PR活動を地道に積み重ねることで、強いブランドが築き上げられるのです。

 

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日本の大企業は、顧客体験で圧倒的に負けている現実を知るべきだ

最近、何かと注目の顧客体験。CX (Customer eXperience)とも言われます。

「CXねぇ。スマホアプリとかの世界でしょ。ウチは関係ないなぁ」

と思ったら、要注意。御社は知らない間に、既に顧客体験で圧倒的に負けていて、ビジネスを失っている可能性があります。

最近もこのことを実感しました。

日本を代表する大手保険会社との契約が満期になりました。
この解約→払戻金を受け取る、という簡単な作業が、一苦労なのです。

まず数ヶ月前、書類が届きました。でも何をすればいいか書いていません。

1週間後、担当者から電話がありました。解約・払い戻しの意向を伝えましたが、「当社ルールで、電話だけでは承れませんので、対面でご説明します。空いているお時間をください」とのこと。

そこでオンラインでの打合せをお願いしました。

打合せはZoomでなく、この会社独自仕様のオンライン会議システムでした。
しかしこれが繋がらないのです。先方から電話を受けつつ、15分間試行錯誤をしましたが、結局繋がらず。「こちらでZoom会議セットしましょうか?」と提案しましたが「当社はZoomは使えないので」。

結局、電話での説明を受けることになりました。30分かけて書類を1枚1枚丁寧に説明を受け、解約・払い戻しの意向を再度伝えました。

1ヶ月後、この会社からなぜか契約再延長の書類が届きました。なぜか振込用紙に金額も記入されてます。

「あれ?なんだろう、これ?」

念のため担当者にメールで確認したところ、満期のお客さん全員に送っているとのこと。これまでのやり取りは一体、何だったのでしょうか?

書類の文面は生命保険用語満載でとてもわかりずらいので、よくわからない人は「払えばいいのね」と振込用紙記載の金額を払ってしまう可能性大でしょう。確かに売上が上がるかもしれません。しかし控えめに言っても品がよいとは言えないやり方ですよね。

…ということで、いまだに解約できておりません。日本を代表する大手保険会社なのですが、これはお世辞にも優れた顧客体験とは言えませんよね。

私はネット系の保険会社と契約していたことがあります。こちらの解約は、数個のクリックだけで完了。実にスムーズでした。

もし知人に保険を勧めるとしたら、私はネット系の保険会社の方を勧めるでしょう。この大手保険会社は、知らぬ間に既に顧客体験で圧倒的に負けており、ビジネスを失いつつあるのです。

問題は、この大手保険会社が時代の2つの変化を、いまだに知らないことです。

1つ目は、現代の消費者が、手間がかかることを嫌悪するようになったこと。

一例を挙げると、ほんの十年前にウェブサイトでモノを買うとき、私たちは3〜4回のクリック+文字入力を当たり前に受け容れていました。いまはスマホで1回ポチるだけ。3〜4回のクリック+文字入力が必要だと、「このサイト、使いにくいから、パス」です。

マシュー・ディクソンは著書「おもてなし幻想」で、顧客努力(顧客が問い合わせに要した努力)の違いで、顧客ロイヤルティ(再購入率)がどの程度下がったかを、消費者97,176人に調査しました。結果は…

・顧客努力を強いられる問い合わせ 96%の顧客が下がった
・顧客努力を強いられない問い合わせ 9%の顧客が下がった

つまり顧客努力が強いられると、次はほぼ確実に買わなくなる、ということです。

さらに顧客努力の減少は、売上に直結します。

・高努力を強いられる場合 再購入率4%、購入拡大率4%
・低努力で済む場合    再購入率94%、購入拡大率88%

顧客努力を減らすことで、売上が増える、ということです。

世の中で使いやすいサイトや使いやすいサービスが成長しているのは、使いやすくなるように地道な努力を続けた結果なのです。

2つ目は、「顧客の口コミ」が圧倒的に強くなっていること。

顧客体験の第一人者であるジョン・グッドマンが提唱した「ジョン・グッドマンの法則」というものがあります。

第1法則… 不満客の中で、苦情を言って解決に満足した客の再購入率は、苦情しない客よりも極めて高い

第2法則… 苦情処理に不満な客の非好意的口コミの影響は、満足客の好意的な口コミの影響に比較して、2倍強く販売の足を引っ張る

この法則は数十年前に提唱されました。いまや消費者の声は、SNSでさらに強くなっています。

しかし大きな企業ほど、そんな状況は蚊帳の外。社内事情しか目に入りません。そのため現場の担当者だけでなく、意志決定をするマネージャーや責任者ほど「消費者は手間がかかるのを嫌悪する」「悪い噂はSNSで拡散する」という状況に疎いようです。

大きな企業に勤める方ほど、もう少し世界を外に向けて、自分の判断が世の中の動きとギャップがないかを確認した方がいいのではないかと思います。

 

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9割のメッセージは伝わらない。だからWHYから語れ

全く伝わらないマーケティングメッセージ、実に多いですよね。
感覚的には世の中の9割が全く伝わらずスルーされる感じです。

たとえば…

・業界最軽量のカメラを新発売
・扉が開いていたらスマホで通知する冷蔵庫
・プロがこだわり抜いた食材を使った逸品

どれも真心こめて開発された商品やサービスなのだと思いますが、残念ながらどれもメッセージが心に残らないので、スルーされがちです。結果、膨大なライバルのメッセージに埋もれてしまい、売れません。

一方で、伝わるマーケティングメッセージもあります。

たとえばジョブスは2007年、当時世の中に氾濫していたボタンだらけの「スマートフォン」と呼ばれていた写真を見せながら…

「スマホっていうけど、キーボードって全然スマートじゃないよね」

と言った上で、

「だからiPhoneを作ったのさ」

と言いました。

さらに他社の分厚いノートパソコンの写真を見せながら…

「薄型ノートっていうけど、分厚いよね」

と言った上で、大型封筒を取り上げて

「だからMacBook Airを作ったのさ」

と言いながら、封筒から超薄型のMacBook Airを見せました。

またバルミューダの寺尾玄社長は、

「子供たちの目を守りたかった」

と言った上で、

「だからBALUMUDA THE LIGHTを作った」

と言いながら、定価37,000円の卓上ライトを発売しました。

伝わらないメッセージと伝わるメッセージの違いを解明する上で参考になるのが、サイモンシネックが著書「WHYから始めよ」で提唱した「ゴールデン・サークル・モデル」です。これはメッセージを「WHY」「HOW」「WHAT」という3つの円(サークル)を重ねたものです。

伝わるマーケティング・メッセージは、WHYから語っています。

WHYとは、マーケティング的に言えば、「顧客の便益」(カスタマーベネフィット)です。

1割の伝わるメッセージは、WHY→HOW→WHATの順で語ります。こんな構造になっています。

①まず顧客の便益から語る。(WHY)
②その実現のために、どうしたかを語る。(HOW)
③その結果、どんな商品やサービスに仕立てたかを語る。(WHAT)

逆に冒頭の9割の伝わずスルーされるメッセージは、WHATから語っています。WHYはなかったり、あっても最後にオマケで付いている程度。こんな構造です。

①どんな商品やサービスかを語る。(WHAT)
②どうやって作ったかを語る。(HOW)
③顧客の便益を語る。(WHY)←そもそもこれがないものも多い

WHY(=顧客の便益)から語るようにすれば、あなたのメッセージは伝わるようになるのです。言われてみれば実に当たり前のことなのですが、実際には9割のメッセージができていないのもまた、現実なのです。

いまの御社のメッセージ、WHYから始めていますでしょうか? この機会に、ぜひチェックしてみて下さい。

 

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「目からウロコ」のイノベーションは、例外中の例外

2月24日に行った永井経営塾ゲスト・ライブは、いつもたいへんお世話になっている早稲田大学ビジネススクール・内田和成先生をお迎えして、1時間の対談でした。とても学びが多く濃い時間でした。

その中の1トピックをピックアップしたいと思います。

内田先生は、4月1日に東洋経済新報社から『イノベーションの競争戦略: 「0→1」を狙うか? 横取りするか?』を刊行されます。その内容について、先取りしてお話しいただきました。

内田先生は、2年半かけて1000件もの世の中の様々なイノベーション事例を調べて、本書を書かれたそうです。

そしてわかったのは、「目からウロコの大発明」が成功するケースはまったく少数派だということ。

実際のイノベーション成功事例は、多くは、

・地道にやり続けたらようやく到達した
・最初に発明した人が途中で力尽きたプロジェクトを横取りしたら、成功した

…というものが、圧倒的に多かったそうです。

イノベーションとは、「新しいことを生み出すことだ」と言われます。ただこれは必要条件に過ぎません。

それに加えて、「新しいことを定着させて、消費者の態度や行動の変容を生み出すこと」がイノベーションの十分条件になってくる、ということです。

まとめると、イノベーションを生み出すには、

・新しいことを生み出す
・それを定着させて、消費者の態度や行動の変容を生み出す

この二つが必要なのだ、というのが、内田先生の新刊のメッセージです。

つまり、お客さんを変えることがカギ。

これは納得のお話しでした。

お話しを伺って思い出したのが、あのイーロン・マスクでした。テスラを創業してEV(電気自動車)で世界トップシェアを獲得、さらにスペースXを立ち上げて宇宙ビジネスを軌道に乗せ、さらに都市間交通システムハイパーループや、脳とコンピューターを繋げるニューラリンクも立ち上げています。

イーロン・マスクを見ると、「目からウロコの大発明」を次々と成功させているように見えますが、そのイーロン・マスクもこう言っています。

・「すごいアイデア」や「最高の戦略」は全体の5%
・95%は、ひたすら愚直な積み重ねの繰り返し。(仮説→検証→再試行)
・正しい方向を戦略で定めて、愚直に学び、修正し続ければ、成功する可能性はどんどん高まる。

要は「しつこさ」「愚直さ」が成功のカギということです。

「自分は地道にしつこく続けている」という方は、多いのではないでしょうか? 意外なことにイノベーションはそんな先に待っているのかもしれません。

 

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