『宣伝会議』にインタビュー記事『増税下の安易な価格勝負は「筋肉増強剤」。なぜ顧客は「買う」のか?』を掲載いただきました

4月の消費増税を控え、本日3月1日発売の宣伝会議2014年4月号では「不思議で面白い価格の心理学」と題して、p.22からp.44まで巻頭特集をされています。

この特集のp.28-30に、インタビュー記事を掲載いただきました。こんな感じです。(版権の問題で解像度を落としています、ご了承ください)

201403011  

当インタビューの冒頭は、ウェブでもご覧になれます。(購読すると全文読めます)

2014年4月号 宣伝会議 価格の心理学
増税下の安易な価格勝負は「筋肉増強剤」。なぜ顧客は「買う」のか?
 

消費増税を控えて、

「消費者は財布の紐を締めるから、価格勝負をさらに徹底しよう」とか、

「3月は駆け込み需要を狙って大プロモーションだ」

….、と考えるケースがあります。

 

しかし、消費者は財布の紐を締めてより選別を厳しくするからこそ、本来は価値勝負をさらに徹底する必要がある、というのが今回の論旨です。

もしよろしければ、ご覧ください。

 

2月20日、「第50回 日販マネジメントセミナー」で講演しました

2/20、「第50回 日販マネジメントセミナー」で講演致しました。

日本出版販売様の2/26付プレスリリースでも、紹介いただきました。

「第50回 日販マネジメントセミナー」を開催

本プレスリリースでもご紹介いただいている通り、今回は「改めて顧客中心主義について考えよう(書店様バージョン)」と題し、書店様が顧客中心主義を考えていく糸口について、消費者の視点で考えた提案をお話ししました。

 

私の後には、次の3名の皆様が講演されました。

■DeNAファウンダー・南場智子さんの、「永久ベンチャー」

■「クープ・ジョエルジュ・バティスト」サーヴィス世界コンクール優勝・宮崎辰さんの、「世界一のおもてなし」

■野球解説者・古田敦也さんの、「チームマネジメントの方程式」

 

セミナー事務局様のご厚意で、3つの講演も拝聴することができました。さすがに超一流のプロフェッショナルの皆様、素晴らしいご講演でとても勉強になりました。

 

このような機会をいただき、有り難い限りです。

 

Googleトレンドで、どんなキーワードが旬なのか調べて見た

Googleトレンドで、キーワードの過去10年間のトレンドが簡単にわかるので、チェックしてみました。

 

これは「朝活」。結構キていますね。

これは「マーケティング」。これは使い古された感がありますね。

こちらは「戦略」。これも使い古された感があります。

こちらは「イノベーション」。こちらはまだまだといった感じですね。

こちらは「仮説思考」

こちらは「ブルーオーシャン」。ううむ。

こちらは「カフェ」。意外とこの1−2年はブームですね。

念のため「コーヒー」もチェック。こちらも来ていますね。

何か言葉を考える際に、Googleトレンドでチェックしていると、何らかの参考になりそうですね。

 

「顧客の言いなり」だと皆が同じものを作ることになり、「価格勝負」に陥って市場が縮小する。では、「価格勝負」できない各社同一価格の業界ではどうなる?

企業は、顧客も気がつかない課題を先取りした解決策を提示して価値を訴求することで、価格勝負から抜けだして、成長することができます。

逆に、「顧客の言いなり」状態になってしまうと、どこも同じものを作ることになるので、差が付けられるのは「価格」だけ。そして価格勝負に陥ってしまうのです。もし業界全体がこのような状況に陥ると、全体の市場は徐々に縮小してしまいます。

…と、ここまではいつも私が講演でお話ししていることです。

 

しかし世の中には、価格がどこの会社も同じ業界があります。

例えば書籍は、指定再販商品として、定価販売されています。どの書店でも、同じ書籍は同じ価格です。

このように「値引き」の概念が存在しない業界が「顧客の言いなり」状態になった場合、どのような結果になるのでしょうか?

 

実はやはり同じ結果になります。全体の市場が徐々に縮小するのです。

顧客の選択肢は非常に多岐に渡ります。書店を例に考えても、顧客にとって代替となる選択肢は、ネット書店、電子書籍の他にも、スマホやネットのコンテンツ、ソーシャルメディア等、非常に幅広くあります。

このような状況で、「顧客の言いなり」になり、新しい価値を提供できないと、どうなるか?

顧客は、徐々に「楽しそうな」代替市場に流れていきます。そして市場全体が縮小するのです。

顧客は一気に流れません。時間をかけてゆっくりと移動します。例えばリアル書店で2-3日に1冊買っていたのが、次第に1週間に1冊になり、1ヶ月に1冊になり、そしてほとんど買わなくなります。

その代わりに、スマホのコンテンツを見たり、ネット書店で買い物をするようになるのですね。

そして全体の市場が徐々に収縮するのです。

 

これを回避するにはどうするか?

やはり、顧客の言いなりになるのではなく、顧客が「面白い」あるいは「まさにこれが欲しかった」と言うような、新たな価値を創造する必要があるのはないでしょうか?

値下げをしない業界であっても、「価値勝負」の重要性は変わらないと思います。
 

 

まさに「ユーザー目線」— “猫を虜にする”ダイレクトメールで開封率が向上

こんな記事を見つけました。

“猫を虜にする”ダイレクトメールで開封率が向上

この動画はこれ。


 

ここで出てくる”Catnip”とは何か調べたところ、日本語では「イヌハッカ」と言われる、マタタビに似た香りが出るハーブだそうです。(猫が好きなのに「イヌ」というのは面白いですね)

 

「顧客のことを徹底的に考えよう」と言われます。

しかし実際には、顧客には「お金を出す人」と「ユーザー」の2種類がいます。

多くの場合、両者は同一です。

例えば「美味しいコーヒーを飲みたいなぁ」と思ってカフェに入る場合はそうですね。

しかし違う場合もあります。おむつは「お金を出す人」は親、「ユーザー」は赤ちゃんです。

 

このプロモーションの場合、「お金を出す人」は飼い主、「ユーザー」は猫ということですね。

まさに「ユーザー目線とは何か」を考える上で、素晴らしい事例だと思います。
 

 

昨晩2/14(金)、文化放送「オトナカレッジ」に出演しました (スタジオ写真付き)

昨晩2014/2/14(金) 21:00-21:55の文化放送「オトナカレッジ」に、特別講師として出演しました。

12/13の第1回目「100円のコーラを1000円で売る方法」第1巻をベースにお話ししました。

第2回目の今回は「100円のコーラを1000円で売る方法2」をベースに、ビジネス戦略論・『時間を味方につけるサーフィン思考』というテーマで講義致しました。

放送スタジオの中を、エンジニアの皆様がいるスタジオ外から見るとこんな感じです。

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放送の合間に撮影した、スタジオの中の様子はこんな感じです。手前の後ろ姿が放送作家の鈴木さん、奥がアナウンサーの砂山さんです。

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今回、2回目の生放送で少し慣れてきました。

第1回目(12/13)は初の生放送ということもあって、1時間弱の放送で自分が話す部分はナレーション原稿を全て書き上げ、暗唱できるまで記憶しました。おかげで話がつかえたり忘れることなく、スムーズに話ができました。一方で反省もありました。自分の言いたいことに集中してしまい、アナウンサーの砂山さんとの対話が若干おろそかになってしまったのですよね。ともすると一方的に話してしまいましたが、アナウンサーの砂山さんはとても上手にフォローしてくださいました。

 

第1回目の反省を踏まえて今回は方針を大きく変更。放送作家の鈴木さんが、打合せて作っていただいた、ポイントを記した台本だけで進めることにして、ナレーション原稿は作りませんでした。実は前日夜まで、本の執筆やお客様の研修があり、事前に前回のような準備時間が取れなかった、という現実的な事情もあります。

しかしナレーション原稿を作らなかったことで、砂山さんとの対話が起こり、当初は考えていなかった話まで広がりました。

実は、放送局の方々からは、『むしろ、居酒屋で「少しためになる面白い話」を雑談しているようなイメージの方が、より楽しめるしスムーズに入っていけますよ』というアドバイスをいただきました。

ラジオのリスナーの方にとっては、ナレーション原稿に沿った話はまるで「講演」のように聞こえて面白くないのかもしれません。 

「対話とは、起こるもの」なのだ、と改めて実感しました。 

 

今晩21:00、文化放送「オトナカレッジ」に2回目の出演。「時間を味方につけるサーフィン思考」です

今晩、文化放送「オトナカレッジ」の「経済・ビジネスの21時台」に出演します。

今回は、2回目の出演になります。

  

昨年12月13日の第1回目「100円のコーラを1000円で売る方法」第1巻をベースに、「顧客中心主義」についてお話ししました。

第2回目の今回は、「100円のコーラを1000円で売る方法」第2巻をベースに、「時間を味方につけるサーフィン思考」と題して、仮説思考についてお話しします。

番組をお聴きになったリスナーの方からの質問にお答えしますので、よろしければ是非お聴きになってみてください。

 

radikoにアクセスすると、インターネット経由でもお聴きになれます。

 

 

4/10(木)、実戦的ワークショップ「改めて顧客中心主義について考えよう」を行います

4/10(木)の夜、ITmedia Executiveで、講演+実戦的ワークショップを行います。

「改めて顧客中心主義について考えよう」……「価値を売るとは?」その本当の意味を考える、実戦的ワークショップ

(ITmedia エグゼクティブへの入会が必要です。詳しくはこちら)

 

いつもお客様にお話ししている内容を、90分で行います。

ご都合のつく方は、是非どうぞ。

「考えるべきは顧客だ。集中しよう」…「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」

ブラッド・ストーン著「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」を読んでいます。アマゾンの創業者、ペゾスの生い立ちから現在までを追った物語です。

500ページを超す大著ですが、iPad mini上でKindleで読んでいます。大きな本を持ち歩かずに済むため、すきま時間に読み進めています。

今読んでいるのは、まだ全体の分量のうち2割を超えたあたり。創業期の話です。

そこで、ペゾスのこんな発言が引用されています。

—(以下、引用)—

….だが、他社の心配などするな。他社が我々にお金をもたらしてくれることなど、いずれにしてもないのだから。考えるべきは顧客だ。集中しよう。

—(以上、引用)—

ペゾスのこの発言は1990年代後半のものです。まだバーンズ&ノーブルも、規模の勝負を仕掛ければアマゾンに余裕で勝てる、考えていた時期。(その後、オンライン販売と既存の書店販売をなかなか両立できず、苦しむことになります)

この発言は、急成長している新市場で、まだ勝負が決まっておらず、誰もが暗中模索をしていた時期であることを考慮する必要があるでしょう。

ある程度成熟し、競合が増えてきて同等のサービスを提供するようになると、競合のことを考えざるを得なくなります。

アマゾンが凄いのは、常に新市場を他社に先駆けて開拓し続け、他社が真似できないような領域でビジネスを続けていることなのかもしれません。

私たちも自社独自の価値が明確な市場で勝負して、「考えるべきは顧客だ。集中しよう」と言えるようになりたいものです。

 

「自分たちの会社をどうすればいいのかを人に聞くなど、もってのほかだ」…古森重隆著「魂の経営」

富士フィルムの経営変革を率いた古森重隆さんのご著書「魂の経営」で、古森さんは次のように書いておられます。

—(以下、引用)—

新規事業を決める議論は、基本的に社内だけで行った。その間部下たちには、「社外のコンサルタントなどの意見を信用しすぎるな。自分たちで考えろ」と言い続けてきた。もちろん、外部の専門家の意見に耳を傾けなければいけないこともある。しかし、専門家の意見は、あくまでも外部の意見として聞くべきである。自分たちの会社をどうすればいいのかを人に聞くなど、もってのほかだ。

—(以上、引用)—

自分が日頃から思っていたことを古森さんはズバリと書いており、「なるほど」と思いました。

企業では、言葉では伝えられない、自分たちしかわからないことは沢山あります。このため、社外の意見というのは、悪い面とよい面があります。

 

悪い面は、社外の正論が必ずしも解決策とは限らないこと。

社内の人しかわからない微妙なことは多いのです。

社外の人が正論で「こうするべき」と言っても、社内の様々な事情で実行できないことも多いのです。その場合、正論はそのまま解決策にはならないのです。しかしその状況がなかなか説明できないこともまた、多いのです。

 

では、社外の意見が意味がないか、というと、そういうことはありません。よい面もあります。

先の例で、「なぜ正論が解決策でないか」を突きつめていくと、これまで気がつかなかった新しい別の解決策が見つかることもあります。

それは、社内で常識と考えていた思い込みとはまったく違った視点が得られたからです。

社内全体がある価値観に染まっている場合、なかなか他の考え方に思いが及ばないことがあります。このような新しい発想を得ることで、ブレイクスルーのきっかけが得られます。

加えて、社内の人が言ってもなかなか説得できないことでも、社外の人が別の言い方で伝えると、説得力があるケースもあります。

 

私も「社外の専門家」としてお客様の仕事に参加する機会が増えてきました。常に新しいことを学んでお客様に提供する価値を高めつつ、お客様の状況に柔軟にあわせた問題解決が図れるように努めていきたいと思います。

 

企業の成功事例・失敗事例

本や記事などでは、企業の成功や失敗の事例が紹介されています。これはどの程度役立つものなのでしょうか?

 

本日2014/2/10の日本経済新聞の記事『今こそ問われる「ケネディ大統領、核軍縮の理念」』で、池上彰さんが次のように書いておられます。

—(以下、引用)—

 歴史は決して暗記科目ではありません。歴史の前後には常に因果関係があり、いくつもの出来事が積み重なって、かたちづくられているものだと私は考えています。

 その因果関係には人間が大きく関わっています。「なぜこんなにも愚かだったのか」と思うこともあれば、「どうしてこれほど重大な決断を下せたのか」と考えさせられます。それによって、人間の弱さ、強さが見えてくるはずです。

—(以上、引用)—

池上さんもおっしゃるように、歴史に学び、人がなぜ過ちを犯したのか、あるいは成功を収めたのかを学ぶことは、とても意味があることです。

同様に、企業の様々な事例の物語には、実際に体験した人ならではの真実があります。それらを学び、失敗や成功を追体験することで、得られるものはとても大きいはずです。私も事例の物語を読むことは好きです。

 

一方で、事例で書けることには限界があります。形式知で表現できることには限界があるからです。当事者にしかわからないことがあります。

このように考えると、実は自分自身の成功体験や失敗体験こそが、最高の事例なのではないでしょうか? 自分の体験を振り返り、深掘りしてみることで、得られることは大きいと思います。

 

4月の消費税増税でも、価格勝負は避けて、価値勝負を継続するセブン&アイ

消費税増税が4月に迫ってきました。

2014/2/4の日本経済新聞の記事「消費増税の駆け込み反動、車に懸念、家電は緩やか」によると、新車販売や住宅着工件数を見ると、消費税増税をにらんだ駆け込み需要が発生しています。一方の家電は、家電エコポイントや地デジ移行の買い替え需要が先行した影響で今回は買い換え需要はそれほど発生していないとのこと。

確かに住宅や車のような高額商品では、消費税増税(+3%)による価格差は少なくありません。たとえば100万円の軽自動車なら3万円。住宅など5000万円程度の物件では150万円。けっこうな金額ですよね。

「需要の先取り」は「将来の需要の先食い」でもありますので、悩ましいところですが、消費者が駆け込み購入をするのはやむを得ない面もあります。

一方で、「消費税増税直前駆け込みセール」のようなものを企業側が仕掛けるのはいかがでしょうか?

増税前に駆け込み購入を勧めるのは、消費増税前と後の価格差を訴求するという意味では、実質的に価格勝負です。しかし当ブログや拙著で繰り返し書いているように、安易な価格勝負は筋肉増強剤のようなもの。一時的に体力は上がりますが、企業の体力を蝕んでしまいます。そして「食事を減らす」ダイエットのリバウンドのように、繰り返すことで泥沼にはまっていきます。

 

では、どのように考えるべきなのでしょうか?

 

今年1月7日に日本経済新聞に掲載された「企業トップの年頭発言」でセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長が語った言葉は、この状況に対して明確な示唆を与えてくれます。

—(以下、記事より引用)—

消費増税というマイナス影響には、新しい商品やサービスをどれだけ投入できるかが重要となる。反動減の一巡後、7~8月ごろにどれほど消費が盛り返すかを見る必要があるだろう。

—(以上、引用)—

確かに消費増税のマイナス影響は避けられませんが、需要は盛り返します。マイナス影響を最小限にし、盛り返した時点で成長できる準備をしておくことが大切です。

 

本日2014/2/8の日本経済新聞の記事「セブン&アイ、高品質PB商品拡大 増税後も路線明確化」では、セブンが着実に施策を展開してることを紹介しています。

—(以下、記事より引用)—

セブン&アイ・ホールディングスは2014年度、質の良さを打ち出した価格が高めのプライベートブランド(PB=自主企画)の商品を増やす。傘下のイトーヨーカ堂は食品の新シリーズを投入。グループで販売する高品質PB「セブンゴールド」では4月の消費増税直後に全体の約3割の商品を刷新する。増税で消費者の節約志向が強まる可能性があるが、品質の高さを訴える路線を明確にし、価格競争とは一線を画す。

….セブン&アイが増税後も質を訴えて価格が高めの商品に力を入れるのに対し、他の大手スーパーは値ごろ感を打ち出す見通し。イオンはPB「トップバリュ」の大半の商品の価格を増税後も据え置く方向で調整している。発注量の拡大や物流の効率化などでコストを下げ、割安感を出す方針。

—(以上、引用)—

もしセブンイレブンに行く機会があれば、10分くらいかけて店頭をじっくり眺めてみることをお勧めします。最近、「セブンゴールド」や「セブンプレミアム」といったPB商品が増えています。実際にそれらの商品を買ってみるとわかりますが、高品質です。

セブン&アイによれば、セブンプレミアムの2013年度売上見込は6500億円で対前年+30%。2015年度には1兆円にする計画です。

セブンが展開しているように、本来は値引きをしなくても売れるように、常に価値を上げ続けていくことが必要です。

確かに消費増税の反動で、マイナスの影響は避けられませんが、この時期こそ「価格勝負ではなく、価値勝負」をいかに継続するかが大切なのではないでしょうか?

反動減が一巡した後、今年後半に入って消費を盛り返す時点で、それは効いてくると思います。
 

2/14(金) 9PM、文化放送「オトナカレッジ」に再び出演します

昨年12月13日に文化放送「オトナカレッジ」に出演しましたので、2月14日ですので、ちょうどその2ヶ月後になりますね。

前回は「100円のコーラを1000円で売る方法」第1巻で書いた「顧客中心主義」についてお話ししましたが、今回は「100円のコーラを1000円で売る方法」第2巻で書いた「仮説思考」についてお話しします。

生まれて2回目の生放送ですが、いい内容になるようにしたいと思います。

 

Kindleを使ってみて、改めて著者視点で興味を持ち、さらに考えたこと

昨日のiPadを使ってみた感想の続きです。

といっても、今回はiPadではなくKindleです。

私がはじめてKindleを使ったのは、もう4年前です。まだ日本語版はなく、英語版Kindleを米国Amazonで注文。数日後に届きました。

日本の自宅でスイッチを入れたら、何も設定していないのにそのまま電話回線に繋がり、本のダウンロードを始めた時は、グローバル展開を考慮したそのビジネスモデルの斬新さに驚いた記憶があります。

その後、日本語版が生まれ、PC、iPadなどのタブレット、スマホでも使えるようになったのはご存じの通りです。

 

Kindleでは、気になった部分には簡単に線も引けますしコメントも記入できます。iPad版ではこんな感じ。(表示している本は、古森重隆著「魂の経営」です)

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上記の本をiPhoneで開くと、こうなっています。

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つまり、線やコメントのデータはKindleクラウドに送られており、登録している他のKindleデバイスにも自動的に反映されます。これは読者としては便利ですね。

 

このような読者の関心データをあらゆる本について蓄積しているのは、考えてみると凄いことです。

著者の立場では、常に「読者の反応を知りたい」と思っています。私の場合は、TwitterやFacebook、ネット検索などで、常に本の感想をチェックしています。

しかしどうしても分からないのが、読者の皆様が、自分の本のどこにどんなチェックや注釈をしているのか、ということ。

これはこれまで、マーケティング戦略を立てる人たちが、どんなに欲しくても入手できなかったデータです。

Kindleクラウド上には、このようなデータが集積しているわけです。自分の著書についての読者の反応は、是非知りたいことですね。もちろんプライバシーの問題もあり、個人情報が特定できないようにする必要があります。

また、このようなデータはアマゾンにとっては自分しか持っていない大きな武器でもあります。

 

もしアマゾンが普通の会社であれば、このようなデータを活用してビジネスを始め、収益に繋げるでしょう。

そしてそれは、当たり前の手堅い方法に見えます。

しかしアマゾンの最優先事項は、新市場を開拓し、豊富な資金力により収益度外視で消費者の利便性を徹底的に高めて、圧倒的なシェアを獲得し、市場に浸透すること。

収益向上は経営が存続できる限りできるだけ遅らせる判断です。

日経ビジネスオンラインの記事「タフな交渉で相手をたたきつぶすのがアマゾンの文化」でも、アマゾンCEOであるペゾスの次の言葉が紹介されています。

—(以下、引用)—

通常、価格競争はある分野で優位に立った企業に対して後発企業が仕掛けるのが通例だ。しかしアマゾンは、「先制価格戦争」あるは「予防的価格戦争」を仕掛ける。新事業のスタートの際に意識的に赤字覚悟の料金を設定する(ちなみに、その時点で競争相手は存在しないから被害を受ける相手もいないので反トラスト法が定める不正競争行為に該当しようがない)。

—(以上、引用)—

 

おそらくアマゾンは小規模の収益化は捨ててひたすら規模の拡大に邁進し、将来、圧倒的なシェアを背景に、本よりもはるかに網羅性が高く、質の高い消費者データを把握していることでしょう。

このようなデータをどのように活用し、アマゾンはどのような新しいビジネスを生み出すのか?

注目したいところです。

韓国版「100円のコーラを1000円で売る方法2」に、アジア中小企業協議会長の書評が

先日当ブログでもご紹介した、韓国版「100円のコーラを1000円で売る方法2」の翻訳者である林載徳(リムジャエドゥック)さんから、韓国のアジア中小企業協議会長が書評を書いていただいていることを教えていただきました。

このサイトですが、こんな感じです。

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ハングル文字で書かれていますが、便利な世の中になったもので、Google翻訳を使うと何が書いているかおおよそのことが分かります。翻訳サイトはこちら

若干文章を直すと、こんな感じです。

—(以下、意訳版)—-

[5.低成長への課題に対して]小さな組織が、どのように大きな組織に勝つか?|永井孝尚

「10以上の解決策がある報告書は、ゴミである」-ギムギチャンカトリック大経営学部教授·アジア中小企業協議会長

「小さな組織が、どのように大きな組織に勝つか」

それには、戦略とゴミ箱を用意することだ。まず不要なものを捨てることから始めるのだ。 この本は、強者の同質化戦略に対抗する弱者の差別化戦略が、いかに素晴らしいかを示している。「根回し重視型経営」ではなく、「企画型経営」が推奨されているのもその理由からだ。 「根回し重視型」は、一糸乱れずに目標に邁進することができるが、デジタル時代では戦略的対応が遅れてしまう。 一方、「企画型」の企画力とは、企画立案力のことではなく、「実行」する力、すなわち、組織を動かす力である、としている。

優れた企画のためには、すべての問題と論点を網羅的に考えるという過ちから脱する必要がある。最も重要な論点を2〜3個に絞った後に、その対策を考えることが必要なのだ。米国では、解決策が10以上あるコンサルティングの報告書は、ゴミレポートであると言われている。実行する力が弱まるからだ。また、作った商品が売れないので販売強化策を繰り返しても、売上が伸びない「悪魔のループ」が生まれることもある。そして結局、差別化ができず、収益を生み出さない。この本で「網羅的思考」に陥っていないか、振り返ってみてはいかがだろうか?

—(以上、意訳版)—-

ちなみに、以前ご紹介しましたように、「100円のコーラを1000円で売る方法」(第1巻)の韓国版書評も、こちらで見ることができます。

各国での書評がすぐに見ることができるのは、有り難いですね。

倉重英樹著「シグマクシス経営論Z」…平易な言葉で書かれた経営書ですが、実は深い問いかけをする本です

日本IBMの大先輩である倉重英樹さんが書かれた「シグマクシス経営論Z」を読了しました。

本書は、創業5周年で2013年12月18日に上場を達成したコンサルティング会社「シグマクシス」を創業した倉重さんが語る経営書です。

 

この本は、とても平易な言葉で、やさしく、かつ読みやすく書かれています。

しかし一方で、実は怖い本です。

熟練経営者として多くの実績をあげられた倉重さんならではの深い洞察に基づいて書かれています。

誰にでもわかる平易な言葉から何を掴み取るのか、読者に深い問いかけを投げかけてくる本でもあります。

 

いくつか引用します。

—(以下、p.41から引用)—-

 では、ビジネスのスピードは一体どこで決まるのでしょう。3つあります。「意志決定(デシジョン)のスピード」、「コミュニケーションのスピード」、そして「プロセスのスピード」です。

—(以上、引用)—-

さらに倉重さんは「100点の答案は作るの大変だし実行するのはもっと大変。60点でもいいので、方向性をしぼり、現実的な目標やハードルを設定し、まずは組織を動かしてみる方がいい」(p.44-45)とおっしゃっています。

私が「100円のコーラを1000円で売る方法2」で書いた、「網羅思考から論点思考」「三カ月の完璧な企画よりも、半日の仮説検証」を、「100点満点よりも、60点」というように、よりわかりやすい言葉で述べておられます。

 

—(以下、p.80から引用)—

 このようにスピード重視で動かしていく時、私たちが大切にしているのが「PoV (Point of View) = シグマクシスの視点」です。これは様々なテーマにおいて、①世の中の変化、②それによってもたらされるであろう経営課題、③その解決策の3点セットです。一言で言えば、私たちなりの「仮題」です。

…クライアント企業を取り巻く環境を一通り理解すれば、「このあたりが課題なのではないか」ということはおおよそいくつか思い浮かびます。そこで私たちのPoVの中からこれはご興味あるだろうというものを選んで、経営者の方にお話しします。

—(以上、引用)—-

PoVは、倉重さんが代表を務めておられたPwC Consulting Japan時代からあった考え方です。

2002年にIBMがPwC Consultingを買収した際、IBMもPwC ConsultingからPoVを学びました。そして私も日本IBM在職中は、ソリューションマーケティングを展開するために、コンサルティンググループが実践していたPoVについて学びました。

現在「オフィス永井」でお客様にご提供している個別研修も、このPoVの考え方を応用し、お客様と議論を深めるスタイルで進めています。その意味では、倉重さんのこの考え方を間接的に受け継いできたのだな、と実感します。

 

—(以下、p.117から引用)—-

…この考え方の背景に横たわっているのは、「人財は教育ではなく学習で成長する」という考え方です。

….「あれを勉強しろ」「この研修を受けろ」と組織から社員に求めるのではなく、成長したい、という社員の意欲を支援していくプログラムと環境を追求するのが、経営者の仕事だと考えています。

—(以上、引用)—

ともすると人材育成責任者は、「全員必須研修」として全員が研修を受けたかを厳しくチェックすることもあります。確かにコンプライアンス関連などでは、このタイプの研修も必要な場合があります。しかしすべての研修に、このスタイルが有効なわけではありません。

倉重さんがおっしゃるように、人は自ら成長したいと思って学ぶときが、一番成長します。

その意味では、研修は、深い人間洞察を必要としているのでしょう。

私もお客様にワークショップをご提案する際には、ノミネーション制ではなく、「是非参加したい」という希望者を募る形式をお勧めしています。

 

—(以下、p.154から引用)—

トップクラスの営業マンに共通するのは、2つのことです。まず一つはお客様のことを徹底的に知ろうとしています。….優秀な営業マンは相手とものすごく親しくなる。…緊密なリレーションができていれば、何か問題があった時は、「彼に頼めばなんとかしてくれるかな」と思ってくれるからです。…

もう一つ、彼らがやっているのは、仮説提案をひたすら相手にぶつけていることです。…仮説ですから100点満点の説でなくてもいいわけです。「私はこう思っています」というものを明確にして、それを持っていくと相手の反応で、「あ、今のは外したな」とか「これは当たった」とか感触が分かります。それを繰り返すことで、相手の本質的な課題を探っていく。優秀な連中ほど、この繰り返しを嫌がらない。

—(以上、引用)—

これも日々実践していきたいことですね。

 

私が日本IBMに新卒入社した1984年、倉重さんは私の所属部門の統括本部長でした。22歳の私にとっては、まさに雲の上の人。当時倉重さんは41歳。若き幹部候補生の筆頭でした

1993年に日本IBMを退職されるまでの9年間、私は倉重さんとお話しする機会はありませんでした。

昨年暮れに倉重さんが代表を務められる日本IBM OB/OG会があり、同じIBM卒業生である大里真理子さんのご仲介で、初めて倉重さんとお話しする機会をいただきました。

大里さんが「永井さん、本を出しているんですよ」と紹介されたところ、倉重さんは「おお、是非読みたいな」。後日、本をお送りしたところ、メールでご丁寧な御礼をいただきました。

倉重さんの部下になった人たちが、倉重さんを慕う理由がよくわかる気がします。

 

この本、折に触れて、読み返したいと思います。

北電技術コンサルタント様で講演いたしました

昨日、富山の北電技術コンサルタント様で、「改めて顧客中心主義について考えよう」と題して、講演+ワークショップを行いました。

前日の夕方は都内で仕事だったので、東京駅近くのホテルに宿泊。

早朝、ホテルから徒歩8分で東京駅に到着。都内に泊まると、さすがに近いですね

先日ブログでご著書を紹介した川島良彰さんから紹介いただいた、東京駅グランスタにあるDrip Maniaで、朝一番のコーヒーをゲット。サン・セバスチャン・ブルボン・ナチュラルというコーヒーでした。

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Drip Maniaは一杯ずつ注文の度にドリップで入れてくれます。コーヒーハンターの川島さんがオススメするだけあって、「いつまでも飲んでいたいなぁ」と思えるような極上の味。JR東日本が展開している店です。

早朝から素晴らしく美味しいコーヒーをいただけるのは有り難いですね。

上越新幹線で、乗り継ぎの越後湯沢を目指します。

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越後湯沢には1時間で到着。乗り継ぎの電車を待つ間、雪です。東京よりもかなり寒いです。まぁ、スキーの観光地ですからね。

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日本海沿岸を走って、富山に到着。雪は降っておらず気温も東京と同じ程度でした。

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東京駅から乗り継ぎで3時間半以上かかりましたが、来年北陸新幹線が富山まで伸びれば、東京から富山まで2時間10分で行けるそうです。

 

タクシーで20分乗り、正午前に会場に到着。

北電技術コンサルタント様の松田社長、中村部長、田知部長と昼食をいただきました。

北電技術コンサルタント様は北陸電力様の100%子会社。社会インフラのコンサルティングを担う専門技術集団です。

松田様は1年半前に北陸電力から北電技術コンサルタント社長に着任されました。

「電力会社は会計帳簿上、固定資産を莫大に持っている。しかしこの会社は固定資産がほとんどない。電力会社はいかに社会インフラとして確実に設備を稼働し続けるかが肝心。一方でコンサルティングは社員個人個人が商品そのもの。着任して、これまでとは、まったく畑違いのビジネスだと実感した」とおっしゃっていたのが、私にとって新鮮でした。

確かにコンサルティング会社の経営資産は人財であり、人財が商品そのもの。しかし会計帳簿上では資産になりません。ビジネス形態としては、親会社である電力会社とはまったく異なるのですね。

ですので、いかに人財の価値を上げていくのか、ということに細かく配慮をなさっておられました。

今回の講演も、その一環で企画されたものでした。

松田様は昨年出版した「『戦略力』が身につく方法」(PHPビジネス新書)をお読みになり、「この本の内容を全社員に伝えたい」とお考えになって、今回の講演にお招きをいただきました。

「会社をこうしたい」という強い気持ちとリーダーシップをお持ちの方でした。

 

オープニングで、松田社長にお話しをいただきました。

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今回は、120名もの方々がご参加。

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講演40分 + ワークショップ60分 + フォローアップ講演20分 + 質疑応答、という内容でした。

いつものワークショップ結果発表の様子です。今回のワークショップでは5人1チームで24チームに分けて25分間議論をいただき、4チームの方々に発表をいただきました。

各チームの代表が口頭で発表されたを、私がホワイトボードに書き取っている様子です。

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「ウチの社員は、徹底的に仕事を頑張るのが誇り」と松田社長がおっしゃる通り、皆様真剣に参加されました。

このような講演の機会をいただき、本当に有り難いですね。

 

講演終了後、17:00前の富山駅発の電車に乗り、越後湯沢経由でとんぼ帰りです。新幹線が通れば、もう少し余裕を持って移動できるのでしょうね。

越後湯沢では、夜のスキー場が見えました。スキー帰りと思われる女性客が数人、乗ってきました。そう言えばスキーシーズンなのですね。

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昨年7月の独立後、名古屋、神戸、兵庫県小野市、島根県浜田市、富山と、日本の各地からお招きをいただいています。

出張する度に、色々な発見や出会いがあります。

ありがたいですね。

顧客を理解する上で、アンケートはどの程度有効か?

「顧客を理解するのが大切」と一言で言っても、どのように理解するかは、なかなか難しいものです。

アンケートを採るのは、一つの有効な方法です。私も講演や研修ではできる限り参加された皆様にアンケートを記入していただいています。

しかしアンケートだけではわからないことも多いのです。

ネスレ日本の高岡浩三CEOは、ハーバード・ビジネス・レビュー 2013年10月号の論文「消費者はデータから見えない」で、次のように述べておられます。

—(以下、引用)—

消費者の声を聞くことは否定しないが、ネスレが消費者にニーズを直接尋ねることはない。

….消費者は…自らが持つ潜在的なニーズに気づいていないため、言語化できないのだ。

….消費者になりきる。
商品やブランドになりきる。
そこから時代にマッチした仮説が導き出されていく。

—(以上、引用)—

消費者を相手にビジネスをしているネスレが消費者に直接尋ねることをしないのは、意外ですね。

では、どのように顧客を理解すればよいのでしょうか?

顧客は自分が知っている情報のごく一部しかアンケートに書きません。知っている情報の全てを書くのは不可能ですし、ネスレ日本の高岡CEOがおっしゃっているように知らないこともあるのです。

ですので、アンケート情報だけではわからないことが多いのも事実。

 

たとえば、業務用ミラーでシェア8割を占めるコミーは、実際に使われている現場を自ら見て、それを全社員の様々な視点で見て、知恵を出し合う仕組みを作っています。

どのようにやっているかというと、全社正社員14名+パート社員で毎年恒例の「一斉US(顧客満足)訪問」を実施。正社員+パート2人の一組で、一組10件の既存顧客を訪問、使用現場を写真撮影、話を聴き、丁寧に情報収集し、持ち帰った結果を全社員で議論、社内で徹底共有するのです。

 

では、弊社でどのようにやっているか、というと、次の3つの方法でお客様の理解に努めています。

■お客様の状況の理解:予め会社ホームページで会社概要、経営方針、製品群、対象顧客などを理解し、さらにウェブや日経テレコン21などでお客様の市場の状況や過去の取り組みを押さえておく。(形式知情報ですね)

■定性的な理解:上記を元に、お客様と徹底的な議論を通じて理解していく。(これは暗黙知情報)

■定量的な把握:講演・研修ではできる限りアンケートを実施。(ふたたびこれは形式知です)

実際にお客様と対話することでわかることは、実に沢山あります。

一方で、品質管理のためには客観的なベンチマーキングが必要です。そのためには同一基準で定量的な把握をする必要があります。この目的でアンケートを実施しています。

2013年度は、のべ2000名以上の方に31回の講演・研修を行いました。このうちアンケートは19回実施し、のべ800名以上の方にアンケートに回答いただきました。

こちらに書きましたように、総合満足度(NSI*)は87.8。

* NSI: Net Satisfaction Indexの略。アンケートの5段階評価で、「とてもいい」=100点、「いい」=75点、「まあまあ」=50点、「よくない」=25点、「とてもよくない」=0点に換算し、加重平均を取ったスコア。講演の顧客満足度を把握するために使用します

目標値として、毎回NSI 90を超えることを目指しています。2013年度は、アンケート実施19回中、11回はNSI 90をクリアしたものの、90以下は残念ながら8回ありました。この理由を、コメントと講演の様子を撮影した動画から探り、改善に努めています。

 

「測定できないものは、管理できない」と言われます。

当面はお客様との対話+アンケート調査の組み合わせで進めていますが、今後も色々な試行錯誤を繰り返していきたいと思います。

アンケートだけでは限界があります。しかしアンケートが役立つ部分も多いのです。長所短所を理解し、使い分けることが必要なのですね。

「バリュープロポジションが大切」…と言っても、どうやってバリュープロポジションを考える?

ターゲットのお客様が抱えている課題やニーズに対して、競合他社が提供できない自社だけが訴求できる価値のことを、バリュープロポジションといいます。

これまで講演や研修で、このバリュープロポジションの考え方を多くの方々に説明してきましたし、著書でも書いてきました。

「バリュープロポジション」という考え方があまり一般的でなかったこともあり、多くの方々から「参考になる」という有り難いご意見をいただいています。

 

一方で、バリュープロポジションという考え方が普及していくにつれて、最近、新しいご要望をいただくようになりました。

「じゃぁ、ウチの場合、バリュープロポジションってどうやって考えればいいのだろう?」

 

実際には、自分達のバリュープロポジションは、誰も教えてくれません。自分自身で徹底的に考え抜き、答えを出すことが必要です。

しかし方法論は必要です。

そこで最近、バリュープロポジションを考えていく方法論をまとめています。

 

バリュープロポジションを作るためには、二つのことを掘り下げて考えていく必要があるのではないかな、と考えています。

■自社ならではの強みは何か?

多くの日本企業の場合、「自社ならではの強み」とは「コア技術」です。

しかし、自社の「コア技術」とは何かを意外と突きつめられていないケースは少なくありません。

たとえば富士フィルムは、2000年以降のデジカメの爆発的普及で、本業である写真フィルム市場を喪失してしまう危機に直面しました。

皆さんは「富士フィルムにとってコア技術である写真フィルムの市場がなくなると、大変だな」と思われるのではないでしょうか?

確かに富士フィルムは、当時の古森社長が「もう、数年も保たない!」「これは天命である。断固として乗り切る」とおっしゃったように、大変な状況でした。

しかしこの危機に際して、富士フィルムは自社の「コア技術」を「写真フィルム」とは考えませんでした。

実は、「写真フィルム」は製品技術なのですね。

この時、富士フィルムは自社のコア技術は6つあると考えました。

それは「有機材料」「無機材料」「薄膜技術」「光学」「画像」「メカ・エレキ」です。

この6つのコア技術があって、それまでの主力事業である写真フィルムやカメラといった製品技術に結びつけられたのですね。

そこで危機に際して、新たにこの6つのコア技術を活かせる製品分野を徹底的に検討した結果、「イメージ・プリンティング」「高機能材料」「ヘルスケア」といった新事業を展開したのです。

富士フィルムが松田聖子さんのCMで有名な化粧品事業を始めたのも、自社のコア技術を活かして、顧客が必要とする製品技術に結びつけた結果です。

このように、自社のコア技術とは何かを改めて徹底的に考えてみることが、大切なのではないかと思います。

大切なのは「コア技術と製品技術とは、異なる」という点。製品技術はコア技術をベースに顧客の課題を解決するために発展させたもの。顧客の課題が変われば、製品技術もコア技術をベースに変えるべきなのです。

 

メーカー以外でも「コア技術」に相当する「コアとなる強み」はあります。

たとえばセブンイレブンが圧倒的に強いのは、次の三つが連携しているからではないでしょうか?

・国内16000店舗からの顧客情報
・粘り強く愚直な仮説検証の実行力
・業界を超えた商品開発(チームMD)

まず自社ならではの強み=コア技術を突きつめて考えてみることが、第一歩ではないかと思います。

 

■顧客は誰か?

その上で、「自社ならではの強み」を必要とする顧客について考えていくことが必要です。

しかし、市場を過度に大きく定義し、多くの顧客に売り込んでいるケースも少なくありません。実際には課題を徹底的に見極めて、小さな市場でダントツのシェア獲得を目指した方が、市場で強みを発揮できるケースが多いのです。

また市場を絞って定義しても、必ずしも正しい顧客にアプローチできていないケースもあります。たとえば「購買金額の最小化」を常に考えている購買部門に価値を訴求しても、なかなか相手には伝わりません。本来、価値を訴求する相手は別部門にいることも多いのです。

また法人の場合、購買契約に至るまで下記プロセスを通ります。

1.課題の発見
2.解決策の特定
3.解決策の調査
4.業者に提案要請(RFP)
5.提案検討
6.提案受諾
7.契約

ここで4の「提案要請があった」段階から入っても、価格勝負になってしまいますし、成約率は低いのが現実。

1〜3の段階で入ることで、価格勝負から価値勝負にシフト出来ますし、成約率も高まります。このためには、顧客の課題に訴求できる自社ならではの強みが明確になっていて、かつ顧客の課題を把握して売ることが大切です。

 

このように考えると、バリュープロポジションを作るためには、

・自社ならではの強み(コア技術)
・顧客は誰か?

この2点を結びつけて、徹底的に考え抜くことが必要なのではないかな、と最近思っています。

お客様とも、バリュープロポジションをいかに考えていくかを、ワークショップやプロジェクトを通じて、一緒に考えていくようにしています。

色々なモノを「見える化」しているサイトvisualizing.infoが素晴らしい

ある市場の市場規模を調べていて、「市場規模マップ」というサイトを見つけました。html5を活用して拡大縮小もでき、年度別の変化も見ることができますし、ソースも詳しく調べることができます。

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このように見える化できるのは素晴らしいですね。

様々な調査で数字を調べる際も、見える化すると全体像をすんなり理解できますし、見える化することで相手にも伝わります。

 

このサイトはvisualizing.infoというサイトで、他にも色々なデータを見える化しています。

たとえば、こんな感じです。

Photo_2あらためて、国債負担と社会保障負担の重さ、公共投資の大きさが認識できる図ですね。

 

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データとして参考にになりますし、自分がデータを見せる際にも見せ方の参考になります。

ご興味がありましたら、お時間がある時に是非どうぞ。

やはりお客様と会うことが、一番の勉強になる

本の執筆以外にも、講演や研修といった仕事をしています。

講演や研修の前には、できる限りお客様とお話しし、事前に課題や狙いをお伺いするようにしています。

研修によっては、フルカスタマイズしてご提供するタイプがあります。このケースでは、お客様の社内変革プロジェクトチームの方々と一緒に、変革プロジェクトの課題と解決策をじっくり話し合い、社内のキーマンを集めたワークショップをどのように実施するのかを、何回も話し合います。

名前は「研修」ですが、実際にはお客様の課題解決に特化してカスタマイズした、コンサルティングに近いものになっています。

 

このプロセスが、実に勉強になります。

変革プロジェクトで目指すゴールは何なのか、現状とのギャップは何か、そして利害関係者がハラ落ちしないポイントはどこで、どのようにすれば障害を乗り越えられるのか、新しい視点はないのか、等を話し合っていくのですが、やはり真実はお客様の現場にあることを実感します。

議論し尽くして得られた課題に対して、さらに解決策の方補を議論し合い、新しい価値を生み出し、それをキーマンを集めたワークショップの研修プログラムとして提供していくのです。

 

「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ。」という名ゼリフがありましたが、「真実は会議室にはない。顧客の現場にある」ということを実感します。

ただ、お客様に価値を提供するためには、自分が提供できるものを常にプールしておくことが大前提。お客様が心から満足していただける価値を提供できるように、日々勉強に努めたいと思います。
 

このように講演や研修で学んだエッセンスが、また本の執筆で活きてきます。

世の中は激しく変化しています。もし執筆だけを本業にしていたら、執筆の基礎となる私の会社員時代のビジネス体験は急速に陳腐化してしまい、それは本の内容の陳腐化に繋がりかねません。

講演や研修を通じてお客様と会う機会をいただけるのは、本当に有り難いことです。

 

スターバックスのインスタント「VIA」が、意外に美味しい

あのスターバックスは、実はインスタントコーヒーを開発・販売しています。

インスタントコーヒーを開発した経緯については「スターバックス再生物語」の第27-28章(p.304-332)に書かれています。

ドン・バレンシアという細胞生物学者が、自分の研究室で細胞をフリーズドライにする機械と手法を使って風味と香りを保ったままコーヒー濃縮液を乾燥させようとしてチャレンジした試作品がもとになりました。

ドンはこの試作品をスターバックスに持ち込み、その試作品を1989年に飲んだCEOのハワード・シュルツは「これがインスタント」と知って驚愕します。

1993年、ハワード・シュルツの招きで、ドン・バレンシアはスターバックスの研究開発責任者に就任。

「インスタントコーヒーを飲まない人が飲むためのインスタントコーヒーを作る」ことを目標に試行錯誤が続けられ、2007年に製品は完成。同じ2007年末、ドン・バレンシアは癌でこの世を去りました。

「スターバックス再生物語」で、ハワード・シュルツはなぜインスタントコーヒー発売を決意したかを述べています。

—(以下、p.321から引用)—-

インスタントコーヒーを販売するという大きな決定ができるのは、その商品が成功することを知識に基づいて信じているからだ。まず、品質が素晴らしいということ。また、巨大な市場があるということ(だから開発した)。世界的にインスタントコーヒーは全コーヒー消費の40%を占め、年間売上は200億ドル。そのうち高級市場は34億ドルに近い。何十年も革新が起こっていない市場は、刷新の機が熟している。消費財事業を本気で大きな収益源にしようとするのであれば、インスタントコーヒーはまさに最適だ。

–(以上、引用)—

2009年2月、この商品は「VIA」と名付けられて発売されました。イタリア語で「道」という意味があり、さらに開発者のドン・バレンシア(ValencIA)の意味も込められていました。

スターバックスがインスタントコーヒーを発売することについては、投資サイトに「スターバックスよ、やめてくれ!」という見出しの記事が掲載されるなど、大きな反響がありました。

2009年2月17日の記者会見場では、いつも通り、会見前にコーヒーが提供されました。しかしその日提供されたのは、名前を伏せた新製品のVIAでした。

記者会見の後、各社の記事では、

「筋金入りのコーヒー中毒者たちは驚いた。店舗で買うドリップコーヒーと区別がつかなかった」(アドエイジ・ドットコム)

「スターバックスのヴィアを試してみて驚いた。コーヒーの味がするのだ」(スマートマネー・ドットコム)

といったような反応がありました。

 

実は「スターバックス再生物語」のこの部分、近所のスターバックスで読みました。

ふと見ると、店頭でVIAが売っています。

「ライトノート ブレンド」「コロンビア」「イタリアン ロースト」の3本のスティックがセットで300円。「インスタントコーヒー」と考えるとかなり高いですが、購入。

自宅で飲んでみました。お湯を注ぐと、インスタントにない香りに驚き。味もこれまで飲んだことがあるインスタントとは別世界と思えるような美味しいものでした。飲みながら仕事をしましたが、気がつくとコーヒーカップが空になっていました。

私はあまりコーヒーの味覚には詳しくないので、ご参考までに、GIGAZINE編集部での評価があったのでご紹介します。→リンク

誠の記事によると、日本発売は2010年4月だったようです。

 

確かに美味しいのですが、1本100円という価格も「ちょっと別物」という感じです。

先日、近所の東急ストアーに買い物に行ったところ、店頭でもVIAは売っていました。スターバックスの小売戦略は着実に浸透しています。

一方で、日本のインスタントコーヒー市場で70%の圧倒的シェアを持つネスレ日本も、2013年8月末に「さよならインスタント」という大きなイベントを行い、製品を刷新。

コーヒー業界でインスタントコーヒー市場がどのような方向に向うのか、今後の展開を注目したいところです。

 

日経テレコン21に加入。お金はかかりますが、それだけの価値はありそうです

最近、色々と調べることが多くなりました。

現在起こっていることは、ほとんどが過去の様々な事象の積み重ねで起こっています。そこで、しっかりと過去に何が起こっているかを検証することは、意外なほど大切です。

そこでGoogleで検索することが多いのですが、残念ながら、ネットで検索できる情報には限界があります。

たとえば、最近の情報は出てくるのですが、5年前の情報はソースがなくなっていたりして、なかなか出てきません。10年前になると探すのはとても困難。2000年(西暦)以前のものになるとほぼ無理。

さらにソースの信頼性は、必ずしも高いとは言えません。

 

そこで、日経テレコン21に加入してみました。これは普通に加入すると毎月8000円+消費税がかかります。→リンク

一方で、例えば平河町ライブラリーの会員になると、3150円(消費税込)で使えます。→リンク

幸い私は平河町ライブラリーの会員なので、こちら経由で加入しました。

他にも同様に安く加入できるサービスを提供している会社もあるようです。また、日経テレコン21を検索できる図書館も、大学を中心に多いようです。

 

実際に使ってみると、なかなか便利です。

『「日経テレコン」だから、日経記事しか検索できない』と思いがちかもしれません。実際、私もそう思いこんでいました。しかし実は、日経以外の全国の新聞(業界紙や地方紙含む)および雑誌の記事も、過去30年間分検索できます。これは便利です。

先日、当ブログで書いた『実は5度目の挑戦だった「セブンカフェ」。その試行錯誤・仮説検証の歴史を調べてみた』も、日経テレコンで過去の情報を調べて、裏付けを得た上で書きました。

ここに書いた情報は、Google等のネット検索だけでは見つけられませんでした。

 

なお、日経テレコン21の月会費は基本料金のみ。実際に記事を読む場合は、検索の一覧見出しで1記事毎に5円(表示件数は表示前に確認できます)、読む記事毎に100円前後の料金がかかります。料金は媒体により異なります。→2013年11月時点の料金

ちなみに私が先のブログを書くために調べた時は、合計4,115円がかかりました。

ブログに書いた情報だけだともっと少ない金額なのですが、周辺情報も調べたのでこれだけの料金がかかりました。

しかし他の手段ではなかなか見つけられない情報ですし、図書館などで自分の目見でくまなく調べる手間を考えると、決して高くないかな、と思います。

 

日々の調べ物に多用するとお金がどんどんかかってしまいますので、万人向きではありませんが、ある程度の目的性があって、重点的に過去の情報を調べたい場合、「日経テレコン21」は、結構重宝しそうです。

 

ソーシャルとリアルを融合し、「顧客の絆」を強化してきた、スターバックスの「ブランドスパークス」について調べてみた

1月3日、当ブログで「スターバックスが、広告にお金をかけない理由」というエントリーを書きました。

ここで、スターバックスの「ブランドスパークス」という手法について触れ、同社ブランド担当バイスプレジデントであるChris Abruzzoの講演ビデオのリンクをご紹介しました。ただ英語ですし、わかりにくい点もあるかと思います。

また日本語で「ブランドスパークス スターバックス」で検索しても、現時点で私の先のブログのほか、「スターバックス再生物語」の書評が出てきます。

このように、スターバックスの「ブランドスパークス」について書かれた情報は、日本語では意外なほどありません。

「ブランドスパークスを調べると、ソーシャルとリアルの融合活用について、多くのことが学べるのではないか?」と考え、調べてみました。ご紹介します。

 

先日、私が書いたブログを簡単におさらいすると、

(1) 2008年11月4日の米国大統領選挙は、54%と低い投票率が予想されていた。そこでスターバックスは、投票率アップのために下記メッセージの60秒TV広告を1回だけ流し、デジタルやソーシャルメディアで、メッセージを増幅した。

11月4日に「投票に行ってきた」とスタバで言うと、「お疲れ様」と言ってトールサイズのコーヒーを差し上げます。

(2) 選挙当日、無償提供されたコーヒーは200万杯(通常の平日の2.5倍)。さらにスターバックス店内は「コミュニティ」の感覚に包まれた。YouTube、Facebook、Twitterの反応や、従来の紙媒体、放送、オンラインニュースのインプレッションの反響も極めて大きかった

(3) このキャンペーンは、スターバックスが「莫大な費用をかけることなくブランドに合った方法で来店客を増やし、お客様と積極的に関わる方法を見つけた」、大きなきっかけになった。これをブランドスパークスと名付けた。

ここまでがブログに書いていた内容です。

「スターバックス再生物語」ではブランドスパークスについて、「利己的な売り込みをせず、文化や人道的な問題にからめることができる機会を活用し、巧みで、意表をつくマーケティング手法」(p.278)と説明しています。(これは多くの方々が書評で紹介しておられます)

 

その後、ブランドスパークスがどのように展開されたか、Chris Abruzzoが講演ビデオで語っています。

スターバックスはブランドスパークスをもっと大がかりに行うようになりました。その一つが、”Starbucks Shared Planet”です。

そのCMを、海外のある方がYouTubeにアップしていますので、引用します。(スターバックスが投稿した動画でないので、将来削除されるかもしれません。ご了承下さい)

これは地球温暖化を考え、紙コップからマグパックに切り替えるためのキャンペーンです。

・一人が切り替えれば、何本もの木が救える。
・みんなで切り替えれば、森が救える。
・世界で、あなたも一緒に。
・4月15日、スタバにマグを持ってきて下さい。コーヒーを1杯差し上げます。
・”YOU AND STARBUCKS. IT’S BIGGER THAN COFFEE.”

これを全世界16カ国、グローバル規模で増幅しました。

このCMは米国・カナダのTVだけで流されましたが、動画はYouTubeでも公開。

“Starbucks Shared Planet”というブランディングもグローバルで統一。

ペイドメディアに加え、FacebookやTwitterでも流されました。

スターバックス各国の広報チームには統一したガイドやツールを用意。

さらにグローバルで統一した店舗ディスプレイを展開、パートナー(店舗従業員)も積極的に参画しました。

顧客とスターバックスが、「地球温暖化防止に少しでも貢献しよう」というテーマで、ひとときの共有(shared moment)をしたわけですね。(下記は同氏の講演ビデオより作成)

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このキャンペーンの結果、全米のモーニングショーや各地のローカルニュースなど、様々パブリシティで取り上げられたほか、Facebookファンが6%増加、Starbucks.comのアクセスは4倍になりました。

このような活動を積み重ねていったのですね。

このように、スターバックスはブランドスパークスを始めたことがきっかけで、デジタルメディアと従来型メディアの相乗効果を前提に、Go To Marketモデル(顧客へ価値を届ける方法)を大きく変えました。(下記は同氏の講演ビデオより作成)

Starbuckscrossmedia 

現在スターバックスは、この仕組みを「スターバックス成長モデル」としてよりシンプルに説明しています。

「店舗」「消費財」「店舗とソーシャルでの感情の絆」をクロスチャネルで相乗効果を出し、成長を図っていくモデルです。

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現在、スターバックスは数字の上でも、消費者向け小売業のデジタルマーケティング活用で他社を圧倒しています。

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現時点で、スターバックスのFacebookファン数は3600万人、Twitterフォロワー数558万人。途方もない数です。スターバックスジャパンの数も、日本国内ではかなり大きな数字です。

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同社ブランド担当バイスプレジデントのChris Abruzzoは講演ビデオで、

「実際、自分たちはまだあまり多くのことわかっていない。この広大なインターネットの世界で自分たちが知っていることは、まだほんのわずかだ」

「学んでいる最中なんだ。数年後にはもっとわかっていると思う」

と語っています。(Chrisの講演ビデオは3年半前、2010年6月に収録されたものです)

デジタルマーケティングでは、この姿勢こそ大切なのでしょう。

実際に色々なことにチャレンジする。その体験から謙虚に学ぶ。

戦略を立てた上で、これをひたすら愚直に実行し続けたことで、スターバックスがソーシャル活用で他社を圧倒するようになったのだ、と改めて思いました。
 

 

今、足りないもの。それは「パッション」かもしれない

日本企業は、1990年頃までは、マーケティングのテキストに掲載されるような様々なイノベーションを実現してきました。しかしその後のイノベーションはかなり少なくなり、「失われた20年」を過ごしてしまいました。

イノベーションを起こす原動力は何か?

それは「パッション」なのではないか、と思います。

 

最近ブログで書いているコーヒー・ビジネスのことを振り返ってみても、イノベーションを起こしてきた裏には、戦略に加えて、個人の熱いパッションがありました。

ドトール150円コーヒー:「日本人に本格的コーヒーを毎日飲んで欲しい」

UCC缶コーヒー:「缶入りにすれば、どこでもいつでも飲める。流通も簡単」

スタバの再生:「スタバらしさを取り戻す。戦略や戦術ではない。情熱だ」

セブンカフェ:「コーヒー好きの自分が毎日飲みたくなるものを作りたかった」

 

しかしバブル崩壊を経て、リスクに過敏になってしまい、誰もが損得勘定で失敗するリスクを考え、チャレンジを怖れるようになりました。

かつての「バブルの三つの過剰(雇用・設備・債務)」など、様々なやむを得ない面もありました。一方で、パッションなきこと(持たないようにしたこと)が、「失われた20年」を生み出した面もあるのではないかと思います。

アベノミックスでだいぶ景気も上向きになり、明るい雰囲気になってきました。

しかし一時的に景気が回復しても、パッションなきまま、損得勘定だけでビジネスを続けても、継続した成長は望めないかもしれません。

逆にパッションを持ち、失敗を怖れずに挑戦を続ければ、仮に最初はうまく行かなくてもそこから学び続けることで、成功する可能性はどんどん上がります。(セブンカフェの事例のように) 以前からたびたび言われていることですが、社会全体が失敗を許容するようになることもまた、必要なのでしょう。

  

一方でパッションとは、あくまで個人的で、内発的なもの。外部から「さあ、パッション、持ちましょう!」と言われて、持てるものではありません。

「気がついていたら、知らない間に、やる気にすごく火がついていた」というのがパッションの実態なのかもしれません。

 

景気が上向きの今、私たちは今一度、「パッション」の大切さを思い出し、自分や周囲の人が、その火を消さないようにすることが必要なのかな、と思います。

 

セブンカフェを生み出した、黄金のチームワーク

群雄割拠のコーヒー業界の中で、「美味しい」という評価を確立したセブンカフェは、セブンならではのチームMD(マーチャンダイジング)により生み出されました。

「チームMD」とは、セブンがプロジェクトリーダーとなり、原料・製造・資材・機材などを提供するメーカーと共同で商品を開発する仕組みです。

Md (「セブンイレブンの横顔2013-2014」より)

 

店頭で受け取る一杯のセブンカフェには、次のような各社の協力がありました。

■コーヒーマシン…富士電機

一杯ずつ豆を挽いて入れられる、セブンが求めるようなコンパクトなマシンは存在しませんでした。そこで富士電機に協力を仰ぎ、豆を挽くグラインダー、挽いた豆を空気を送り込み湯の中で攪拌する仕組み、出がらしを入れるバケツ、店舗オーナーの操作しやすさなどを徹底吟味。1年を費やして開発しました。

 

■コーヒー豆調達→三井物産と丸紅、コーヒー豆焙煎→AGFとUCC上島珈琲

各国の最高グレードに限定。100%アラビカ種で、生豆の精製方法は焙煎時に雑味が残らないウォッシュド方式に。さらに4種類のハイグレード豆を使用しそれぞれの特徴を引き出すダブル焙煎を採用。モニター調査を繰り返し、あらゆる場面にあう味を探りました。さらに全国16,000店舗に供給するために、安定して入手できることも重視しました。

コーヒー豆の調達は三井物産。のちに売上拡大に伴い丸紅も参加。

コーヒー豆焙煎は、現在は東日本はAGF、西日本はUCC上島珈琲が担当しています。

 

■ブランディング…佐藤可士和さん

黒と白で統一された様々なデザイン、コーヒーマシンのインターフェイス、など、カップ、ふた、マドラー、ストロー、マシンなどのアートディレクションを担当。

モノとしてコーヒーを売るだけではなく、カフェとして上質な時間を提供したいとの思いから、「セブンカフェ」という名前も生まれました。

 

■氷…小久保製氷冷蔵

意外に見逃し勝ちなのがアイスコーヒーに使われる氷。溶けにくくて雑味が少ない氷を追求、24時間かけて不純物が少ない透明な水を製造しています。昨年の夏には売れすぎて氷が品薄になったそうです

 

他にも、紙コップ製作は東罐興業が担当しています。

 

このように各業界の第一人者が結集していますが、ただ結集しただけでは、いい商品は生まれません。

昨日のブログでもご紹介したように、徹底的な仮説検証で蓄積した、数字で裏付けられた膨大な顧客の知見があるからこそ、この黄金のチームワークも活きてくるわけです。

セブンイレブンで購入する際、店員が顧客の年齢を推定し、精算の前にPOSで性別・年齢別キーボードで入力する仕組みになっているのはご存じでしょうか?

一つ一つは簡単で単純なデータです。しかし、このデータに、商品名・時間帯・購入場所などのデータが組み合わさって、日本全国規模のデータになると、日本の消費者動向そのものがわかる膨大な知見が得られるのです。

現在「ビックデータ」と言われている取り組みを、既にセブンは20世紀から始めていたのです。

このような取り組みがあって、セブンカフェは生まれたわけですね。

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実は5度目の挑戦だった「セブンカフェ」。その試行錯誤・仮説検証の歴史を調べてみた

昨日のブログで、「セブンカフェ」の凄さを数字面から見てみました。

「セブンカフェ」の展開が始まったのは2013年1月。コンビニカフェとしては最後発。しかし、セブンは必ずしも焦っていませんでした。

セブンで当時開発を担当した高橋広隆さんは、次のように述べています。(*1)

「コーヒー好きの自分が毎日飲みたくなるものを作りたかった。けれど、セブンが手がけてきたフレッシュコーヒーの歴史は、試行錯誤の連続。セブンカフェ発売までの2年以上に及ぶ開発期間は、その過程をきちんと学ぶことが、一番大切な仕事だったんです」

実際、セブンは30年前から入れたてコーヒーの販売を手がけてきました。

開発すること実に4度。それでも販売は伸び悩み、やがて店頭から姿を消したのです。(*2)

私は「セブンカフェ」が成功した要因は、開発に2年間をかけて万全を尽くしたことに加え、セブンの真骨頂である仮説検証プロセスを通じて得られた学びの蓄積があったからだ、と思います。

 

ではセブンはどのように仮説検証で学びを蓄積してきたのでしょうか?

その詳細情報は、恐らくセブンの企業機密。私たちが全てを入手することは難しいと思います。しかし、メディア情報から、かなりの程度は推測できるはずです。

そこで調べてみました。以下は調べた結果を繋ぎ合わせたものです。出典は明示していますが、私の推測も入っていますのでご了承ください。(セブンは最近までメディア露出を抑えていたので、一部不明な部分もあります)

 

■挑戦その1:サイフォンでつくりおき、小分け方式 (1980年代前半頃)

30年前からセブンは店頭でコーヒーを出していました。下記は1983年当時の日経ビジネスに書かれていた記事からの抜粋です。(*3)

—(以下、引用)—

「7846杯」。都内にあるセブンーイレブン加盟店が某月1ヶ月に販売したコーヒーの量である。一日で約260杯。平均的な喫茶店のコーヒー販売量は一日50-100杯というから大変なもの。こまめに足を運ばれる方には良くおわかりと思うが、最近、セブンーイレブンではこのコーヒーをはじめ、弁当、ハンバーガー、サンドイッチなど手を加えずに即座に食べられる商品の品揃えが急速に抱負になりつつある。

—(以上、引用)—-

現在セブンの店頭でおなじみの原型が、既にここにあります。「お客様が集まるところには、ビジネスがある」のですね。

この頃は、コーヒーサイフォンであらかじめコーヒーを作りためて、注文があると“小分け”する方式でした。(*4)

 

■挑戦その2:ドリップ方式を導入 (1988年)

しかしこの方法は問題がありました。1988年の日経流通新聞に詳しい記事(*4)がありましたので、引用します。

【サイフォン小分け方式の問題点を検証】
味覚と香り保持のため、店舗の運営マニュアルでは一時間ごとに作り替えることになっていましたが、商品の回転が落ちる店や時間帯では必ずしもマニュアル通りに実行されないケースがありました。

【新たなチャレンジ】
そこで、注文を受けてから入れるドリップ方式に切り替えることにしました。「ドリップ方式だと、サイフォン小分け方式の問題点を以下のように克服できる」と仮説を立てたのですね。

(1)常に新鮮さが保てる
(2)余ったコーヒーを捨てる必要がなくなりロス率が下がる
(3)衛生管理が容易になる

→この結果、コンビニ業界に広がる「入れたてコーヒー市場」で優位に立てる

このため、木村コーヒー店がセブンイレブン用に開発した「ニュードリップコーヒーマシーン」を使用しました。「木村コーヒー店」とは、翌1989年に社名変更した、あの「キーコーヒー」のことです。

さらにコーヒーの種類を一種類から「ライト」「ミディアム」「ビター」の三種類に増やしました。

この「ニュードリップコーヒーマシーン」は、3500店舗に導入されました。

 

■挑戦その3:カートリッジ方式を導入 (1990年頃)

【ニュードリップマシンの問題点を検証】
焦げたような香りが店内に漂ってしまう点が問題だったようです。(*1) 調べる限り、詳しい情報はメディアからは見つかりませんでした。もしご存じの方がおられましたらお知らせ願えれば幸いです。

 

【新たなチャレンジ】
この問題を解決するために、1990年代にカートリッジ方式が考えられました。(*1)

 

■挑戦その4:「バリスターズカフェ」の立ち上げ (2000年代)

【カートリッジ方式の問題点を検証】
カートリッジ方式では粉を粉末状にしなければならず、肝心の風味が飛んでしまい、納得のいく味になりませんでした。(*1)

さらにこの時期、スタバなどのカフェが大人気。エスプレッソやカフェラテが、消費者に受け容れられ始めました。

 

【新たなチャレンジ】

2002年には数店舗でセルフ方式のエスプレッソコーヒー「バリスターズカフェ」を開始。カフェラテもメニューで用意しました。(*5) 一部店舗では、店舗奥にカウンター10席程度のイートインコーナーも設置。(*6)

2005年には関西・東海地区中心に約1000店。(*6) 最終的にはオフィス街を中心に2000店に展開されました。(*1)

 

■挑戦その5:「セブンカフェ」(2013年)

【バリスターズカフェの問題点を検証】
「バリスターズカフェ」は安定した人気がありましたが、それでも店舗あたり1日25杯しか売れませんでした。さらに店舗のコーヒー売上比率は、缶コーヒー 97%に対して、わずか3%。

ビジネス面では決して満足いく結果ではありませんでした。(*1)

セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長は、記事の取材で詳細な分析結果をお話ししておられます。(*7)

—(以下、引用)—

これまで展開してきたコーヒーサーバーの味わい、オペレーションなどの課題を再度見直した。先行して約2000店で展開しているエスプレッソタイプ(圧力抽出式)の『バリスターズカフェ』は若い世代を中心に一定の客層の取り込みに寄与するものの、独自の調査で日本人の嗜好にはペーパードリップ式の方が合うということがわかった。

 圧力抽出式は抽出過程で豆の微粉が出るため、雑味の原因となる。女性やシニアを含め、幅広い層の嗜好に合う本格的な味わいで、新しい消費を喚起できるコーヒーを目指した。

—(以上、引用)—

確かにエスプレッソは美味しいのですが、万人向きではありません。

そこでセブンは、もっと幅広い客層にアピールするために、「美味しく、飲みやすい本格派コーヒー」を目指したのですね。

 

【新たなチャレンジ】
そこで、2年間の開発期間をかけて、満を持して2013年に発表したのが「セブンカフェ」。

日経記事(*7/*8)によると、

・まず味の素ゼネラルフーヅ(AGF)に声をかけ、外食など200社のコーヒーの味を徹底分析し、飲みやすさと飲み応えの最適なバランスを見つけた。

・さらに電機、焙煎技術を持つメーカー、商社とチームを組み専用コーヒーマシンを開発。

・2012年8月から北海道/秋田県/鹿児島県で先行導入。2013月1月27日までに北海道全861店含む1799店で展開。

・実施した結果は… スタートの2012年8月は1日店舗あたり平均54杯で推移。さらに北海道地区の客数は全国平均を上回った。(9月は6.3%増、10月は4.0%増、11月は2.9%増、12月は3.8%増)

・加えて、缶コーヒーやチルド飲料などとカニバリも起さず、セブンカフェが売上に上乗せとなった。

・また北海道では、調理パン売上が3割増、スイーツが2割増だった。コーヒーとの買い合わせを訴求できる。

これらの結果から、「新しい利用シーンを創出できる」と考え、全店導入を決定したのですね。

 

このように見ていくと、コンビニ各社が「コンビニコーヒー」を次々と出していく中で、最後発のセブンが全く焦っていなかった理由がよくわかります。

実はコンビニ各社の中には、今でもポットの小分け方式で出している店もあります。これは1980年代にセブンが既にやっていた方式。セブンは他社を大きく先行しています。

一見、簡単に見える「セブンカフェ」ですが、30年間におよぶ現場での周到な仮説検証の積み重ねを振り返ると、年間4.5億杯・500億円の大ヒット商品に育った理由がよくわかります。

 

この「粘っこい」とも言える執念は、成功している日本企業に共通です。これは日本人の美徳なのかな、とも思います。

セブンカフェから、「決してあきらめず、学び続ける」大切さを、改めて学びたいと思います。

 

出典
(*1) ..「アエラムック企業研究 セブンイレブン 勝ち続ける7つの理由 強さの法則」(朝日新聞出版)
(*2) ..「独り勝ちの秘密を徹底解剖 セブンの磁力」(週刊東洋経済 2013/7/13号) p.39-40
(*3) .. 「ケーススタディ-セブン-イレブン・ジャパン-どこまで続く「商人」と「企業」の2人3脚」(日経ビジネス 1983/02/21号 p.78)
(*4) …「セブンイレブン、注文受けてから入れます――コーヒー販売一新。」 (日経流通新聞 1988/11/10)
(*5) ..「セブン-イレブン、超都心の昼食対応「丸の内センタービル店」で試み」(日本食糧新聞 2002/08/28)
(*6) ..「セブン-イレブン、都庁舎にイートイン導入店舗を開店」(日本食糧新聞、2005/02/04)
(*7) .. 「セブン-イレブン・ジャパン・「セブンカフェ」を全店導入へ 差別化商品・付加価値商品開発の一環」 (日刊流通ジャーナル, 2013/01/30)
(*8) ..「「後追い」逆転も得意技――焦らず、外部と作り込み(セブンイレブン40年)」(日経MJ 2013/11/13)

 

登場わずか1年で日本のコーヒー消費量1%を占めた、「セブンカフェ」の凄さ

セブンイレブン(以下、セブン)の「セブンカフェ」。ご存じの通り、2013年の日経MJヒット商品番付で、東の正横綱に選ばれました。ネットでも「コスパ凄い」「普通に美味しい」と、高く評価されています。

私もいただきました。本当に100円(Sサイズ)とは思えないほど、香り豊かで美味しいですね。

 

セブンカフェの凄さについては、既に色々なメディアで報道されていますが、まとめてみました。

■年間4.5億杯を販売

2013年1月の導入から販売量はうなぎのぼり。16,000のセブン全店へマシン設置完了した9月には、2億杯を突破。

当初の目標は、1日あたり1店舗60杯で年間3億杯でしたが、直近では約95杯。年間4.5億杯の販売を見込んでいるとのこと。(*1)

ちなみに1日1店舗あたりの損益分岐点は40杯。(*2) 95杯ということはその2.5倍近いわけで、店側にとってセブンカフェは商品単体で見ても高収益になっています。

またネスレ日本によると、日本の年間コーヒー消費量は480億杯。セブンカフェは登場わずか1年で、日本のコーヒー消費量の1%弱を占めたことになります。

 

■数字で見るセブンカフェ

セブンカフェのこんな数字もあります。

・リピート購入率 55% …セブンの食品中、ダントツです。ちなみに弁当のリピート率は40% (*1) 顧客の固定化に貢献しています

・男女比 5:5 …セブン利用客の男女比は6.5:3.5。缶コーヒーは7:3。女性利用率は高めです (*1)

・売れる時間帯 0-10時 42%/10-16時 37%/16-24時 21% …つまり朝の一杯が人気ということですね (*1)

・併せ買い率 2割 …セブンカフェと一緒にサンドイッチ、菓子パン、スイーツを買っており、朝食と一緒に購入する人も多いようです。(*2) 店の売上も増幅されます

・缶コーヒー販売は横ばい …当初はセブンカフェの影響で落ちると思われていました。(*3) 新たな客層を取り込んでいることを示しています。

・売上見込み 500億円超 (*4) …日本マクドナルドのドリンク年間売上は1400億円なので、セブンカフェだけでマクドナルド総ドリンクの1/3。スターバックスのビバレッジ年間売上は869億円なので、スタバ総ドリンクの半分以上になります。(*5) 外食業界に与えるインパクトはかなり大きなものがあります。

  

■コーヒー調達手段の拡大

販売目標を引き上げたことで、原料となるコーヒー豆の調達手段も、セブンは拡充しています。(*6)

これまでコーヒー豆は三井物産から仕入れてましたが、丸紅を追加。

さらに調達したコーヒー豆の焙煎を委託しているAGFは数億円を投じて工場のラインを増強し6月から供給量を倍増。さらにUCCにも焙煎を委託。東日本はAGF、西日本はUCCから豆を供給する体制にしています。

セブンカフェが、コーヒー業界全体にかなり大きなインパクトを与えていることがわかります。

 

■コンビニ各社の取り組みは?

発売がコンビニ最後発となったセブンカフェに牽引されて、コンビニ各社全体のコーヒー売上は、7億杯になると言われています。ではコンビニ各社はどのように取り組んでいるのでしょうか?
 
関西国際大学教授 王利彰さんは次のように書いておられます。

—(以下、(*5)から引用)—

 スターバックスは、本場(イタリアのバール)の良い雰囲気を導入し、チェーン展開のために、『サードプレイス』という顧客がくつろげる場所を提供し、コーヒーだけに専念させた。これが急成長の背景だ。

 コンビニのFFコーヒーは、戦略が二つに分かれている。

 スタッフがサーブする時間と手間を省いたセルフサービス方式と、スタッフが提供する方式だ。セルフサービス方式は店の負担が小さいが、スターバックスの成功要因は取り込めない。スタッフが提供する方式は、トレーニングが必要だが、顧客との絆を作り上げる可能性がある。

 豊富な品揃えとグルメコーヒー、そして店舗数の多さに伴う利便性。顧客との絆を築けば、コンビニのFFコーヒーは最強になるはずだ。

—(以上、引用)—

将来の動向を見定める上で、とても有益な視点だと思います。

この視点からコンビニ各社の取り組みを分類すると、次のようになります。(比較のために、マクドナルドも入れています。価格は最安値のホットコーヒー) (*5)

・セルフサービス型

セブン ..100円
ファミリーマート …150円
サークルKサンクス …100円
ミニストップ …150円

・スタッフ提供型

ローソン …180円
マクドナルド …100円

 

一方で、最近私が気になるのは、コンビニ店内で様々なにおいが混ざっていることです。

コンビニでは実に様々なものを売っています。おでんの暖かいにおい、コーヒーの香り、揚げ物の油っぽいにおい、と単品では香しいものが、混ざってしまうと魅力がかなり落ちてしまいます。

「スターバックス再生物語」で、2008年にCEOに復帰したハワード・シュルツが、売上を伸ばしていたブレックファスト・サンドイッチの販売を、CEO判断で中止させる場面が描かれています。

暖めることでチーズが溶けて強い香りが店内に流れ、店内の香しいコーヒーの香りを消し去ってしまい、「第3の場所」の魅力を半減させ、顧客離れを招いていたのです。

そしてスターバックスは「第3の場所としてのスターバックスは何か」を徹底的に考え、再生していきます。

コーヒーを核にコンビニが「顧客との絆」を築くには、「第3の場所としてのコンビニとはどうあるべきか」を考えていくことが必要になってくるのではないでしょうか?

あるいは、あくまで「コンビニらしさ」の利便性を追求する道もあります。

恐らくその答えは、セブンが日々行っているように、顧客動向を元に、どのように仮説を立てて検証していくか、にかかっているのではないかと思います。

 

セブンカフェについては、学べることが実に多いので、日を改めてまたご紹介したいと思います。

  

出典
*1 ..「アエラムック企業研究 セブンイレブン 勝ち続ける7つの理由 強さの法則」(朝日新聞出版) p.10-11
*2 ..「独り勝ちの秘密を徹底解剖 セブンの磁力」(週刊東洋経済 2013/7/13号) p.39-40
*3 ..「アエラムック企業研究 セブンイレブン 勝ち続ける7つの理由 強さの法則」(朝日新聞出版) p.14
*4 ..「セブン&アイ営業最高益 3~11月、コーヒー効果」(日本経済新聞 2013/12/19)
*5 ..「セブン vs マック」(月刊コンビニ 2013/8号)
*6 …「100円コーヒー、販売4割増 セブンイレブンが計画上方修正」(日本経済新聞 2013/5/24)

 

コーヒー業界の「ジレットモデル」を進化させて、周到な戦略を展開する日本ネスレ

オフィスでコーヒーを飲む方、多いですよね。かく言う私も、半年前まで会社員をしていた頃は、机の上に常にコーヒーを置いてました。独立した今も、机の上には常にコーヒーがあります。

では、このコーヒー、オフィスで皆さんはどのように買うのでしょうか?

20年ほど前、私は自販機で買っていましたが、味覚や香りは喫茶店で飲むレギュラーコーヒーと比べると大きく見劣りします。そのうちオフィス近くにスタバやタリーズが出来るようになり、これらの店で買うようになりました。

しかしオフィスから外に出てコーヒーを買うのは時間がかかります。最近のオフィスは高層ビルなのでエレベータの順番待ちもあり、ますます時間がかかります。

さらに会社によっては、スペースと維持コスト削減のために、オフィスから自販機を撤去するケースもあるようです。

オフィスのコーヒー需要が高まる一方で、提供側から見ると、いろいろ工夫する余地がありそうです。

 

「ネスカフェ」で有名な日本ネスレは、これを「ビジネスチャンス」と考えて、新しいビジネスを展開しています。

まず2009年、「ネスカフェゴールドブレンド・バリスタ」(以下、「バリスタ」)というコーヒーマシンを販売開始しました。

「バリスタ」とはインスタントコーヒー(ネスレでは「レギュラーソリュブルコーヒー」と呼称)用のコーヒーマシン。

「そもそもインスタントで、コーヒーマシンが必要なのか?」と思いがちですが、「お湯を沸かす」→「コーヒーを適量図る」→「お湯を適量入れる」→「かき混ぜる」という作業は結構手間がかかりますし、人により品質もバラバラです。

これを自動化すべく、2004年から開発を開始していたのですね。詳しくはこちらの記事を参照ください。

バリスタの希望小売価格は9,000円 (実売は7,980円)。コーヒー一杯のコストは、約20円程度です。

記事にもありますように、ネスレはバリスタ本体で儲けずに、そこで使われるネスカフェゴールドブレンドで儲けようと考えて、他社が真似出来ない一台9,000円という値付けをしています。

これは古くから「ジレットモデル」として知られる、消耗品ビジネスで儲ける仕組みです。カミソリの「ジレット社」で有名になったので、この名前が付きました。例えば、

髭剃り:持ち手部分は安くし、替え刃で儲ける。(ジレット)
プリンターやコピー:本体は安くし、インクやトナーで儲ける。 (エプソン、キヤノン、HP、ゼロックス、リコー)

いずれも継続的に高収益をもたらすストックビジネスに育っています。

広い意味ではソフトウェアも、この「ジレットモデル」と言えます。(但し、売切りではなく、保守契約前提のケース)

 

ネスレはバリスタを活用して、さらに「ネスカフェアンバサダー」というプログラムに進化させています。 バリスタを無償でオフィスに貸し出し、日々消費するゴールドブレンドで収益を上げる仕組みです。

冒頭の「オフィスでコーヒーを飲む人たちのニーズの変化」に伴って、オフィスのコーヒー需要を取り込もうとしているのですね。

 

私が「スゴイ!」と思ったのは、法人向けのビジネスなのにも関わらず、法人契約を前提にしていないこと。

これを知った時は、ちょっと大袈裟ですが、目から鱗が落ちました。よく考えられています。

 

消費者ビジネスは多くの場合「お金を払う人」=「使う人」です。「欲しい」という気持ちにさせると、消費者はお金を払ってくれます。

一方で法人ビジネスに携わった方はよくご存じかと思いますが、法人契約を締結するのは、なかなか大変です。色々な人が関与してくるからです。

やや専門的な話になりますが、DMU (Decision Making Unit – 日本語で「意志決定ユニット」)という言葉があります。法人が購買を意志決定する場合、社内では次の人たち(DMU)の同意が必要になります。

・ゲートキーパー(門番)..購買の窓口になる人
・インフルエンサー(ご意見番)..専門知識を提供する人
・キーマン(実質責任者) ..購買を必要とする人
・ディシジョンメーカー(意志決定者) ..購買の最終承認をする人

長らく消費者ビジネスをやってきたネスレ日本にとって、法人ビジネスにおける複雑な購買プロセスを突破するのは、恐らく大きな課題であったのではないかと想像します。

 

では、ネスレは「ネスカフェアンバサダー」で、どのように法人契約をせずに、法人需要を取り込んだのでしょうか?

 

「ネスカフェアンバサダー」では、バリスタとゴールドブレンドの二つを提供しています。

まずバリスタは無償提供なので、法人契約は不要です。

さらに日々消費するゴールドブレンドを個人契約とし、これも法人契約を不要にしているのです。

「アンバサダー」とは「大使」という意味。つまり「ネスカフェアンバサダー」とは、「ネスカフェの大使」という意味です。「自分のオフィスにバリスタを設置したい」という会社員の方に手を挙げてもらい、その人が個人のクレジットカードを使用してゴールドブレンドを購入し、オフィスにいる同僚から代金を回収するのですね。

日本人はお金に関して潔癖なので、集金ボックスを置いておくとちゃんとお金を入れてくれるのです。(これが別の国になると、集金ボックスが盗まれるかもしれませんね)

 

ネスカフェアンバサダーの成果については、ネスレ日本CEOの高岡浩三さんが、ご著書「ゲームのルールを変えろ」で書いておられます。

—(以下、p.167-168から引用)—

募集開始は2012年9月末。2013年7月末日の段階で、アンバサダーの応募は9万人を超えた。…「バリスタ」も、売上が200%で伸び、品薄状態になることもあった。

アンバサダー一人あたりコーヒーを飲む人が20人いるとすると、毎日100万人以上がテイスティングしているようなものだ。街のカフェのコーヒーを飲み、「ネスカフェ」を飲まなかった若い世代が、意外とおいしいといって飲み始めている。….

何が起こったか。会社で「バリスタ」でいれた「ネスカフェ」を飲んでおいしいと感じた人が、自分の家庭用に購入する連鎖が始まっている。アンバサダーが新たな販売チャネルとなったのだ。

既存チャネルでの販売だけを考えず、新たなチャネルを作ることを模索したことから、このイノベーションが生まれたと言えるだろう。ゲームのルールを変えたのだ。

—(以上、引用)—

 

アンバサダーもオフィスでは自分の仕事を持っています。つまりボランタリーで片手間に「アンバサダー」をやっています。そこでアンバサダーが活動しやすくするために、ネスレはアンバサダーのサイトで色々なツールを提供しています。

らくらく社内説得キット:上司を説得するための資料です

アンバサダー用オンラインショップ:コーヒーを購入できます。(キットカットも販売しているのはさすがです)

コーヒーはかる君:一ヶ月で必要なコーヒーの量を計算できるツールです

アンバサダーVOICE:アンバサダーの生の声(写真付)を投稿できるサイトです

アンバサダー便利グッツ:記録シート/コーヒーチケット/ポスターなど、アンバサダーにとって便利なツールをダウンロードできます

  

個別製品や個別プログラムを関連付けて見ていくと、ネスレ日本は、とても周到に練られた戦略を展開していることがよくわかります。

改めて、コーヒーの世界はとても奥が深いと思います。

  

 

コーヒーは、世の中を反映している、実に奥深い世界。マーケティング事例の宝庫

ブログにここ何回か続けて書いていますが、年末から年始にかけて色々とコーヒーについて勉強しています。改めて思うのは、コーヒーは実に深い世界だということ。

実際、「商品」という観点で考えてみると、コーヒーというのは不思議な商品です。

まず食べないと生きていけない食品とは異なり、なくても生存はできます。

一方で嗜好品であり、精神的に癒やされたり安らぎが得られます。習慣性がありますが、摂取し過ぎてもアルコールやタバコのような害はない、とされています。

また、コーヒーは、発展途上国で作られ、先進国で消費される南北問題を象徴する商品でもあります。

下記のように、2002年のコーヒー生産国と消費国のトップ10は以下のようになっています。消費国のうち、ブラジル・エチオピア以外は全て自国で生産できない先進工業国です。

消費国上位10カ国(千トン)    
米国    1121
ブラジル    765
ドイツ    567
日本    404
フランス    319
イタリア    307
スペイン    188
イギリス    138
エチオピア    98
オランダ    95

生産国上位10カ国(千トン)    
ブラジル    1941
ベトナム    676
コロンビア    560
メキシコ    387
インドネシア    361
コートジヴォワール    328
インド    324
グアテマラ    312
エチオピア    210
ウガンダ    186

社会が経済的に豊かになると、一人あたりのコーヒーの消費が増える傾向にあります。最近はアジアなどでの消費が増えており、コーヒー各社は現地に進出しています。

 

このような商品なので、昔から様々なマーケティングが行われてきました。

この50年間を見ても、

1960年代:インスタントコーヒーのマスマーケティング →参考リンク
1970年代:缶コーヒーのイノベーション →参考リンク
1980年代:ドトールのような格安本格派カフェ登場 →参考リンク
1990年代:スタバのようなスペシャリティコーヒー。「第3の場所」 →参考リンク1 →参考リンク2

さらに、オフィス需要を取り込むため、日本ネスレが始めたネスカフェアンバサダーのような取り組み(→参考リンク)も始まっています。(*1)

そしてここ10年間は業種を超えて、マクドナルドのようなファストフード(→参考リンク)や、セブンカフェのようなコンビニでも本格派コーヒーを出すようになりました。

一方でこの流れの対極として、かつての喫茶店には「サードウェイブ」として自家焙煎でこだわりのコーヒーをフルサービスで提供する動きもあります。

 

2013/11/16の日本経済新聞の記事「ドトール出店「接客型」に セルフから転換、客単価高く」によると、ドトールも、「今後は約1100店あるドトールコーヒーショップの総店舗数は増やさず、コーヒー店の拡大は『星乃珈琲店』を主体とする」と発表しています。

 

このように、コーヒー市場は常にホットであり、コーヒーの歴史はイノベーションと競争の歴史でもあります。リアルなマーケティング事例としてもとても面白いですし、特にここ数年は従来の業界を超えたビジネスが展開されてきています。

またコーヒーの利益率はとても高いのです。

週刊東洋経済 2013年9月28日号の特集「激変!コーヒー市場最前線」によると、100円で売っているコンビニコーヒーの原価構造は以下のようになっています。

コーヒー原料代 約10-20円
カップ、フタ、マドラー、氷など 約30-40円
粗利益 約50円

さらに習慣化により、店にとって顧客固定化もしやすいのです。

 

一方で、この高い利益率が「生活に苦しんでいるコーヒー生産者にもっと利益を分けるべき」というフェアトレードの議論を呼んでいます。

 

コーヒーは世の中の様々なことを反映している、奥深い世界だと実感します。

 

(*1) … 2013/1/10追記

 

 

「本当のお客様に会えているか?」…ヒントは意外と身近にある

「お客様の課題を理解することが大切」とよく言われます。

それでは「お客様とは誰か?」…答えは、実は簡単ではありません。

 

それでも消費者ビジネスでは、多くの場合、比較的簡単です。「ユーザー」=「お金を出す人」だからです。例えば、お店に入って香しいコーヒーの香りがして、「どうしても飲みたい」と思い、その場でお金を出してコーヒーを味わうようなケースです。

しかし、消費者ビジネスでも、「ユーザー」と「お金を出す人」が異なる場合もあります。こうなるとちょっと複雑です。

例えば予備校では、「ユーザー」は学生、「お金を出す人」は両親です。予備校の立場で考えると、「使う人」には「学ぶ楽しさ」を、「お金を出す人」には「学力向上」と、訴求する内容が少し変える必要があります。

 

法人ビジネスの場合はさらに複雑です。企業などの法人では、購買意志決定に色々な人が絡んで来るからです。

購買に関与する人たちのことを、マーケティングの世界では、「DMU (Decision Making Unit)」、日本語では「意志決定単位」と呼びます。DMUの役割については色々な定義の仕方があります。例えばこんな役割に分かれます。

■ゲートキーパー:購買活動の窓口になる人たちです。

■インフルエンサー:いわゆる「ご意見番」。企業が購買の判断をする際に、「この人の意見を聞いた上で考えよう」という形で影響を与える人のことです。

■キーマン:実質的な責任者です。その商品やサービスを購買後、最も便益を得る立場になります。

■ディシジョンメーカー:購買する際の最終意志決定者です。

 

このように整理して考えると、法人営業でゲートキーパーに一生懸命売り込んでいるケースは、結構多いのではないでしょうか?

ゲートキーパー=購買部門のケースはよくあります。購買部門のミッションは、「全社の購買・調達コストを下げること」。当然、厳しい値引き要請をいただくことになります。購買部門のミッションから考えると、これはとても合理的な行動ですね。

このようにゲートキーパーだけに会っている限り、一生懸命価値訴求しても、「価格勝負」からは抜け出すのは困難です。訴求された価値を判断するのは、ゲートキーパーのミッションではないからです。

「価格勝負」から抜け出し「価値勝負」に持っていくカギは、その先にいるインフルエンサー、キーマン、ディシジョンメーカーにアプローチし、正しく価値を訴求すること。価値を判断するのは彼らの仕事です。

しかし、普段からゲートキーパーにしか会えない状況に陥っていると、なかなかインフルエンサー、キーマン、ディシジョンメーカーには辿り着けません。その結果、価値を訴求しても納得いただけず、厳しい値引き要請を持ち帰り、社内で値引き交渉をすることになるのです。

 

ここから抜け出すのは難しく思えます。しかし視野を広げてみてはいかがでしょうか?

例えば日々の活動の中心がセールスだ、という人は、セールス後のフォローをしてみる。いつも同じ人にしか会っていない人は、別の人に会ってみる、という具合です。

たとえば、成約後、ユーザーにマメに会っていると、ユーザーの中にインフルエンサーやキーマンが隠れているケースがあります。そういう人がこんなことを言う場合があります。

「XXX社さん、これやってくれないかなぁ。どこも対応してくれないんだよね」

これは千載一遇のチャンスです。もしこれが自社の強みを発揮できる分野であれば、ライバルが誰も手がけていない「ブルーオーシャン」を開拓できる可能性もあるからです。(ただし、「商材を作るのは自分の仕事じゃない」と思わずに、社内のしかるべき人にちゃんと伝えることが大切です)

 

答えのヒントは、意外と見逃していた自分の身近にあったりするのです。
 

 

ゼロから8000億円の市場を生み出した缶コーヒー

昨年6月に出版した「100円のコーラを1000円で売る方法3」のテーマは、「イノベーションのジレンマ」でした。

本書では、グローバル企業参入によって起こるイノベーションでコモディティ化する会計ソフト市場を物語として描きました。

また「イノベーションのジレンマ」の例として、トランジスタラジオと真空管ラジオの話を紹介しました。

 

実は私たちが何気なく飲んでいる缶コーヒーも、まさにこの「イノベーションのジレンマ」を体現したものです。

缶コーヒーは1969年に日本で生まれました。UCC上島珈琲の創業者・上島忠雄さんのある体験がきっかけでした。

1968年、UCC上島珈琲は売上数十億円規模の中小企業でした。創業者の上島さんは全国を忙しく飛び歩いていました。

ある日、上島さんは列車の出発前にビン入りのミルクコーヒー(いわゆる「コーヒー牛乳」)を飲んで休憩していました。そこで発車ベルが鳴り、飲みかけのビンをやむなく売店に返却し、電車に飛び乗りました。

この様子について詳しく書いている「歴史群像シリーズ 77 実録創業者列伝 II」 (学習研究社、2005年)からご紹介します。

—(以下、p.144より引用)—

「ああ、なんてもったいないことをしてしまったのか」−米一粒を大事にするような農家に育った忠雄は、「飲み残したコーヒー」のことがなかなか念頭を去らなかった。そしてひらめいたのである——コーヒーを缶入りにしたらどうだろう。いつでもどこでも飲めるではないか!、—と。….忠雄はこのアイデアを実行すべく、すぐに社員に缶コーヒーの開発を命じた。

—(以上、引用)—

 

しかし開発は困難を極めました。

—(以下、引用)—

ミルクとコーヒーが分離してどうしてもミルクが浮いてしまう。殺菌処理のため風味が悪くなる。缶の鉄イオンがコーヒー成分のタンニンと結合して真っ黒になってしまう。…失敗続きで費用ばかりが嵩んでいく。

—(以上、引用)—

 

困難を乗り越えて1969年、世界初の缶コーヒーがついに完成。

しかしこの画期的新商品に対して『缶コーヒーは邪道』と一蹴されてしまいます。そんな中、UCC社員は全社一丸となって営業に奔走します。

1年後の1970年、大きな転機がやってきました。

—(以下、引用)—

願ってもない機会がやってきた。日本万国博覧会である。忠雄はこのチャンスを逃さなかった。猛烈なセールスの結果、日本のパビリオン・売店で80%、海外パビリオンに至っては100%、UCCのコーヒーを納入させたのである。

万博という檜舞台で缶コーヒーは目覚ましい売れ行きを見せる。

—(以上、引用)—

万博での成功により缶コーヒーは社会に認知され、1970年代に大発展していきます。

缶コーヒーは登場当初は「こんなのは邪道」と言われていましたが、「どこでも飲める」という新しい価値を生みだしたことで、「どこでも飲みたい」という新しい顧客を創造し、徐々に品質を改善し、大きな市場に育ちました。

その一方で、コーヒー牛乳は市場から徐々に消えていきました。

 

1950年代にトランジスタラジオが登場した当初も、真空管ラジオと比較して音質が悪く「こんなのオモチャ」と言われていました。

一方で若者は、当時流行のエルビス・プレスリーが大好きでしたが、両親は「ロックは不良の音楽」として聴くのを許しませんでした。真空管ラジオは両親がいる自宅の居間にあるので、エルビスの歌は聴けなかったのですね。

そこで若者は、「どこでも聴ける」というトランジスタラジオに新しい価値を見いだし、こぞって買い、野外や自分の部屋で聴きました。

トランジスタラジオは新しい顧客を生みだし、市場は育っていきました。そして音質は徐々に改善されていきました。

その一方で、真空管ラジオは徐々に消えていきました。

 

缶コーヒーはトランジスタラジオと同様、まさにクレイトン・クリステンセンが提示した「イノベーションのジレンマ」そのものです。

では、缶コーヒーはどのくらいのビジネスを生み出したのでしょうか?

 

これについては、「グッとくるコーヒー」(徳間書店、2013年)に書かれています。

—(以下、p.47から引用)—

万博翌年の昭和46年(1971年)、UCCの売上高は前年と比べて2倍以上の100億円を突破。缶コーヒーの大ヒットがこの巨大な数字に貢献したのは言うまでもない。…いまや缶コーヒーの市場規模は8000億円を超えている。

—(以上、引用)—
 

まったくゼロの状態から、なんと日本国内8000億円の大市場に育ったのです。

 

イノベーションを実現するのは簡単でなく、困難を極めます。

しかし一方で、イノベーションのビジネス上の威力も、凄まじいものがあります。

 

 

顧客が言うことと、実際の行動は、違う

私は講演で

「顧客は自分の課題やニーズを知らないことが多い。だから、顧客の言いなりになる(=顧客絶対主義)のではなく、顧客のニーズをサキどりする(=顧客中心主義)ことが必要」

ということを、色々な事例を交えてお話しします。

先日のブログでご紹介した「勝ち続ける経営」(原田泳幸著)でも、原田さんはハンバーガーを例にまったく同じことをおっしゃっていましたので、引用します。

—(以下、p.46-47から引用)—

 例えばお客さまに「どんな商品が欲しいですか」とアンケート調査すると、必ず「低カロリー」とか「オーガニック」とか「ヘルシー」とか、健康重視のメニューが挙がります。

 ところが、…若い女性が平気でメガマックやダブルクォーターパウンダーを食べているわけです。すなわち、お客さまのおっしゃることと、実際の行動はまったく違うということです。つまりお客さまの希望ばかりを聞いて、その通りにしていたらダメなのです。

 お客様の要望以上のことをやらなければならない。しかも「自分らしさ」を忘れてはいけないのです。

—(以上、引用)—

 

同じことがHarvard Business Review 2006/10号の記事「 法人営業は提案力で決まる ―バリュー・プロポジションへの共感を促す― 」に書かれています。

この事例では「環境に優しい商品」ことを全面にアピールして商品を出しましたが、不思議なことになかなか売れませんでした。

実際には消費者は、「使いやすい」「全体のコストが下げられる」といったことをより高い優先順位で評価していたのです。

実際に「地球に優しい商品、買いますか?」と聞くと、恐らく多くの顧客は「Yes」と答えますよね。しかし顧客は決してウソをついているのではないのです。

 

「顧客の言いなり」から「顧客のサキどり」に進化できればいいですね。

 

「ゴールドブレンド」と「ネスカフェ」のシェア食い合いを回避し、ネスレがインスタントコーヒーで「独占的市場シェア」7割を獲得した理由

1960年、日本でコーヒー豆輸入が全面自由化になりました。多数の国内メーカーがインスタントコーヒー製造を開始しました。

そして1961年、インスタントコーヒー輸入が全面自由化になりました。(出典:全日本コーヒー協会)

こうして1960年代、インスタントコーヒー業界は熾烈な競争に突入しました。

 

このインスタントコーヒー市場で、シェア7割を押さえたのがネスレ。

1960年中頃、ネスレは既に「ネスカフェ」(のちの「ネスカフェ・エクセラ」)で日本の市場シェア5割を押さえていました。この「ネスカフェ」はスプレードライ製法という従来のインスタントコーヒー製法で作っていました。

そして1967年、ネスレは新たに「ゴールドブレンド」の発売を控えていました。「ゴールドブレンド」は、独自のフリーズドライ製法という、香味は保持できるものの手間がかかる方法で作っていました。

当時のネスレにとって至上命題は、インスタントコーヒー市場で、新たに発売する「コールドブレンド」が、既にシェア5割を持っている「ネスカフェ」のシェアを浸食しないこと(カニバライゼーションを起こさないこと)でした。

結果として、「ゴールドブレンド」は市場導入後7年でシェア20%を獲得する一方、「ネスカフェ」はシェアを維持。この時からネスレはインスタントコーヒー市場で両ブランド併せて7割のシェアを保持し続けています。

ネスレはどのようにして、カニバライゼーションを避けて、シェア7割を実現したのでしょうか?

 

「良い広告とは何か」(百瀬伸夫著)で、当時電通側の広告責任者を務めておられた百瀬伸夫さんが、この時のことを書いていらっしゃいます。(以下、同書p.59-105より抜粋)

「ゴールドブレンド」発売は、当時、極秘事項でした。ネスレのトップマネジメントと電通の精鋭メンバーで、二つの議題について打合せが繰り返されました。

1.マーケティングの方針と広告の目標

前述の通り、ネスカフェとのカニバライゼーションを最小限に止めること

2.コピー戦略

コンシューマー・プロミス(消費者に訴求する商品の特徴)=「ゴールドブレンドは、新鮮な味と香りに関しては、レギュラーコーヒーと変わらない良さがある」

ターゲット=「レギュラーコーヒーと変わらない味と香りのインスタントコーヒーを期待する男女。(品質を求めて、そのぶん高いお金を払ってもよいと考える人々)」

 

これらを元に、「ゴールドブレンド」のコミュニケーションが展開されました。

 

「ゴールドブレンドって言えば、あの『ダバダ〜』」と思いがちですが、実はその『ダバダ〜』の前に、あるテレビCMがありました。

当初、そもそも「ゴールドブレンドとは何か」が認知されていませんでした。そこで第一段階として、テレビCMでフリーズドライ製法をビジュアルで紹介するコピー戦略が必要だったのです。

「コーヒー豆をマイナス40度で凍らせて、これに瞬間的に熱を加えて爆発させ味や香りを封じ込め、コーヒー豆を顆粒状にする」という新しい製法を特殊撮影して、映像で流し、ヘッドライン。

「この一瞬に甦るあのうまさ、挽き立てのコーヒーのうまさ」

これが新発売広告キャンペーンで流されました。

発売直後のタイミングでは、「こうやって美味しく作っています。今までのインスタントと違いますよ」という認識を、消費者に浸透させる必要があったのですね。

この結果、「ゴールドブレンド」は発売から数年で5%弱の市場シェアを獲得。「イノベータ理論」で言うところの、イノベータとアーリーアダプターの間に浸透したことになります。

 

その上で、顧客層を「アーリーマジョリティ」に引き上げるべく、大規模な広告キャンペーンが行われました。

新しいクリエイティブチームはこう考えました。

ゴールドブレンドをインスタントコーヒーと考えるのはやめよう。フリーズドライ製法で通常のインスタントでは得られない本格的な味を生み出すことに成功している。だから味を主体にしていこう。自分はコーヒー通だと公言したり、自慢する人にアピールしたい」

しかしテレビCMの時間は30秒。この限られた時間で「ゴールドブレンドは今までの常識を覆す、コーヒー通にも認められた美味なインスタントコーヒーです」と言っても、視聴者には伝わりません。

クリエイティブチームはホテルに泊まり込んで徹夜作業。苦しみ抜いていたある時、ある飲食店の看板に目が止まります。「違いがわかる店」

「これだ!こだわりをもつ人、コーヒー通というのは、要は『違いがわかる人』のことなんだ」

「違いがわかる男」の名ヘッドラインが誕生した瞬間でした。

このヘッドラインが優れた点は、粉のインスタントコーヒーより格が上だと言っているにもかかわらず、それをうまくオブラートに包んでいる点。

これまでインスタント市場に存在しなかった、味にこだわった初めてのインスタントコーヒー。コーヒー通の人にも、コーヒーの味にうるさい人にも、認めてもらえるコーヒー。これらすべての訴求内容を含んだヘッドラインになりました。

ちなみにネスレ経営陣の承諾を得る際、知恵を絞って”For the man who can appreciate the difference.”と英訳したそうです。これも名訳ですね。

 

コーヒーは欧米の商品として見られていたので、先行する「ネスカフェ」は「国際都市」シリーズとしてニューヨーク、パリ、ロンドンなどの都市を舞台に広告を出していました。そこで「ゴールドブレンド」は「ネスカフェ」とのカニバライゼーションを避けるため、舞台を日本に設定。

また当時、コーヒーは贅沢品。街には音楽喫茶など、静かな雰囲気でコーヒーを味わうことが多かったため、文化的趣きを演出することになりました。さらにインスタントコーヒーの利便性については、カップにお湯を注ぐシーンを挿入することで言外に伝えることにしました。

『ダバダ〜』で有名なCMソング「めざめ」も作曲家・八木正生さんが作曲し、”スキャットの女王”と言われた伊集加代さんが歌声を担当。

「違いがわかる男」の人選は、「一芸に秀でて、かたくなに味にこだわりそうな、物事に執着し、頑固一徹の魅力的なプロ中のプロ」という路線で選ばれました。

1985年に「違いがわかる男」シリーズを一旦終了した時点で、「ゴールドブレンド」がインスタントコーヒー市場に占めるシェアは1/4を超えていました。

その後、「上質を知る人」シリーズ(1999年まで)、「違いを楽しむ人」シリーズ(2000年から)と継続しています。

 

一口に「シェア7割」と言いますが、これは凄い数字です。

ランチェスターの法則を研究したクープマンが作った「クープマン目標値」では、以下のようになっています。

■独占的市場シェア:73.9% …完全な独占シェア。短期的に見ればトップが逆転されることの可能性は殆どあり得ない。

■相対的安定シェア:41.7% …首位のブランド/企業がこのシェアを占めている場合、トップの地位は安定。不測の事態に見舞われない限り、逆転されることは無い。

■市場影響シェア:26.1% …トップの場合の数字としては不安定な数字。二番手でもこの数字の場合は、市場に影響を与える地位にある。

■並列的競争シェア:19.3% …安定的トップの地位をどの企業も得られておらず、複数ブランドや企業が横並びに拮抗している状態。

■市場認知シェア:10.9% …市場でその存在が認知される水準。

■市場存在シェア:6.8% …市場で存在を許されるシェア。これ以下のレベルでは、成長性が見込めない限り撤退も必要

世の中を見ると、「独占的市場シェア」と言われる7割を握っていても、数十年のスパンで見ると、逆転されているケースや市場そのものが消失しているケースは少なくありません。

そんな中で、ネスレは1970年代にインスタントコーヒー市場でシェア7割を獲得し、40年以上維持しています。

これは凄いことですね。

 

2013年8月28日、ネスレ日本は「さよならインスタント」と銘打ち、インスタントコーヒー全ラインアップを「レギュラーソリュブルコーヒー」に切り替えることを発表しました。日経トレンディの記事

50年以上使い続けてきた「インスタントコーヒー」という名前を、自ら捨てる決心をしたわけです。

数日前の2013年年末、近所のスーパーの特売コーナーに「ゴールドブレンド」が置いていました。容器裏のラベルを見ると「インスタントコーヒー」と書いていました。一方で、コーヒーの棚には新たに「レギュラーソリュブルコーヒー」が陳列されていました。商品は着実に入れ替わっています。

 

新たなネスレのメッセージを、消費者がどのように受け止めるか。

そして、「レギュラーソリュブル」を含めたインスタントコーヒー市場がどのように変わっていくか。

見守っていきたいと思います。

 

 

マクドナルドは、コーヒーを売ろうとして「プレミアムローストコーヒー」を出したのではなかった

日本全国に3000以上の店舗を持つマクドナルドは、以前より年間1億2000万杯のコーヒーが売れていました。しかし必ずしも美味しいとは言えませんでした。

2008年2月15日、日本マクドナルドは高等級アラビカ豆を使用した本格的コーヒー「プレミアムローストコーヒー」を、Sサイズ100円(当時)で発売しました。

この結果、日本マクドナルドの発表によると、2008年度はホット・アイス含め2億6000万杯にも上る販売実績がありました。同年、オリコンの「買いたいコーヒー No.1」にも選ばれました。また日経トレンディによると、この4年間で10億杯販売しています。(プレミアムローストコーヒーは2012年2月17日にリニューアル)

 

実は日本マクドナルドは、1998年と2007年、カフェ形態の店舗に挑戦してきましたが、撤退しています。

こんな中で、なぜ「プレミアムローストコーヒー」は成功したのでしょうか?

 

日本マクドナルドホールディングス株式会社CEOの原田泳幸さんは、著書「勝ち続ける経営」でこのように書いています。

マクドナルドのコーヒーは他の競合店と対抗するための商品ではない。 (p.59)

これはどういうことでしょうか?

 

同書で、原田さんはこのように書いています。(p.57-59)

・売上は客単価×客数。そして客数は顧客獲得率×来店頻度

・つまり客数を上げるには、「来店頻度をいかに上げるか?」「新規顧客をいかに獲得するか?」の二通りしかない

・コーヒーはある意味コモディティだが、摂取頻度は非常に高い。

・そこで顧客獲得施策として、ベストクオリティのコーヒーを最もお得感ある価格で提供すべく、高等級アラビカ豆を使用した「プレミアムローストコーヒー」を開発した。

 

実は、マクドナルドはコーヒーを売るために「プレミアムローストコーヒー」を出したのではなかったのです。原田さんはこのように続けています。

・コーヒーが売れればビックマックが売れる。ビックマックを売るために新メニューを出している。ビックマックは広告宣伝をしなくてもお金儲けをしてくれる「金のなる木」(キャッシュカウ)だ。

・これは商品ポートフォリオ戦略だ。「ビックマックはもう伸びないから、コーヒーで別の柱を立てよう」と考えると、おかしくなる

 

原田さんは、伊藤元重さんとの共著「マクドナルドの経済学」でも同じことをおっしゃっています。

—(以下、p.40から引用)—

コーヒーを提供することで、ビックマックなど、当社のコア商品の販売機会を増やそうというわけです。…

つまり、コア商品の販売力を高めていくためには、適時的確に新商品を出してゆき、新規顧客を獲得していくことが当社の施策だといえるでしょう。あくまでも主体はハンバーガーであって、他のことをやりすぎるとよくない。

…基幹ビジネスが成長していかないような新規ビジネスには、手を出してはいけないと考えています。経営資源が分散するからです。

—(以上、引用)—

 

前著「勝ち続ける経営」でも、原田さんは「その会社らしさ」にこだわる重要さについて、書いておられます。

—(以下、p.25から引用)—

業績不振になった会社をある角度で見ると、必ずといっていいほど、その会社らしさを失っています。業績を回復した会社を見ると、必ずといっていいほど、「らしさ」を取り戻していると思います。

—(以上、引用)—

 

先日当ブログでも紹介したスターバックスCEOのハワード・シュルツも、「スターバックス再生物語」で、「第3の場所としてのスターバックスらしさを取り戻す」ことをスターバックスの変革の柱に据えました。

 

2003年まで7年連続マイナスの状況で原田さんはCEOに就任、その後震災を乗り越えて2011年まで8年連続で売上成長を達成し、「原田マジック」とも讃えられた日本マクドナルド。この2冊は、その時に出版されたものです。

しかしその後、2013年2月に発表された2012年度業績は、既存店売上-3.3%/純利益-3%。

2013年8月に発表された2013年前半期業績は、既存店売上-6.3%/純利益-35%。

減収減益に苦しんでいます。

日本マクドナルドホールディングス株式会社傘下の日本マクドナルド株式会社CEOも、サラ・カサノバさんに変わりました。→リンク

恐らく色々な要因があり、現在日本マクドナルド社内では、新リーダーのカサノバさんのもとで、活発な議論が行われていることと思います。

 

日本マクドナルドが再び「マクドナルド」らしさを取り戻し、成長されることを祈っております。

 


 

スターバックスが、広告にお金をかけない理由

1998年に出版された「スターバックス成功物語」で、こんな下りがあります。

—(以下、引用)—-

(p.335-336より)
1987年から10年間の広告費は1000万ドルにも達していない。広告を信用していなかったからではなく、そちらに回す資金がなかったからだ。

(p.338より)
スターバックスの成功は、全国的なブランドを確立するために広告宣伝費に何百万ドルもかける必要はないことを証明している。大企業のような巨大資金源がなくても一度に一人の顧客、一度に一つの店舗、一度に一つの市場と向き合っていれば必ず成功する。それどころか、これは顧客の信頼を勝ち取る最善の方法かもしれないのだ。

—(以上、引用)—-

まさに「スターバックスの店舗は、会社の広告塔」(p.344)なのですね。

Starbucks(この写真は、スターバックス本社サイト上にあるこちらから引用しました)

   

13年後の2011年。「スターバックス再生物語」では、さらに「ソーシャルの時代」にふさわしい取り組みとして、スターバックス史上二回目になるテレビ広告を行う様子が描かれています。(以下、p.267-278から抜粋)

2008年10月、その年の11月4日に行われる米国大統領選挙が迫ってきましたが、54%と低い投票率が予想されていました。

そこで、投票率アップのために、

11月4日に「投票に行ってきた」とスタバで言うと、「お疲れ様」と言ってトールサイズのコーヒーを差し上げます。

という60秒のTV広告を流しました。

このTV広告には背景があります。

同じ年の秋、格安の「マックカフェ」展開中のマクドナルドは、スターバックス本社近くで「4ドルも払うのは馬鹿らしい」という掲示板広告を出していました。

そこでCEOのハワード・シュルツは「喧嘩するのではなく、積極的にみずからを定義し、声をあげ、会社の個性を表現したい」と考えていたのですね。

 

このTV広告は、選挙番組の最中に1回だけ流されました。

しかしそれだけでは効果は限定的です。

そこでTV広告直後から、デジタルやソーシャルメディアで、メッセージを増幅しました。

・ホームページからYouTubeに誘導
・スターバックスカード所有者にメールで告知
・Twitterでも拡散
・作ったばかりのFacebookページで告知
・Facebook広告でも増幅 (オリジナルで7500万回表示、さらに口コミで1400万回増加)

選挙当日、無償提供されたコーヒーは200万杯(通常の平日の2.5倍)、さらにスターバックスの各店は、コミュニティという感覚に包まれました。

YouTubeではCMが419,000回再生。Facebookでは405,000人が「行く」「たぶん行く」と意思表明。Twitterでは、スターバックスのことが8秒に1回つぶやかれました。さらに従来の紙媒体、放送、オンラインニュースで7000万回のインプレッションが得られました。

このキャンペーンは、スターバックスが「莫大な費用をかけることなくブランドに合った方法で来店客を増やし、お客様と積極的に関わる方法を見つけた」(p.278)、大きなきっかけになりました。

スターバックスではこのマーケティング手法を「ブランドスパークス」と名付けました。

この「ブランドスパークス戦略」について、同社でブランド担当バイスプレジデントのChris Abruzzoが2010年6月に語っている13分のビデオがあります。ご興味のある方はご覧ください。→リンク

 

この2008年年末の大統領選から5年が経過した現在、どうなっているのでしょうか? 

2013年3月20日に行われたスターバックスの年次株主会議で、最高デジタル責任者(Chief Digital Officer)のAdam Brotmanはこのような数字を示しています。→資料のリンク

MyStarBucksIdea.com:5年間で10万件のアイデアが寄せられ、275件を実現
  (本日2014/1/3に確認したところ、アイデア件数は12万件を超えています)

・Facebookファン:世界中で5,400万人

・Twitterフォロワー:3,400万人..最もつぶやかれているブランドの1つに

・Web/モバイル:ビジター3,480万人

  

スケールは途方もなく大きくなりました。

さらに仕組みも高度に進化しています。

現在は、スターバックスカードやロイヤルティプログラムで購買状況を分析し、メールやモバイル、デジタル広告やソーシャルメディアと連動させるプロセスが確立しているのです。

Starbucksdigital   

この正月、「スターバックス成功物語」「スターバックス再生物語」を精読し、さらにスターバックス本社のIRライブラリーにある資料も読み込んで、スターバックスから学べることが実に沢山あることを実感しました。

  


 

「スターバックス再生物語」…「第3の場所」再生を実現した原動力は、情熱と、絆だった

「スターバックス再生物語」を読んでいます。本書は2011年の出版なので、もう3年前の本です。

タイトルや装丁を見ると、「スターバックス成功物語」の続編的な位置づけの本に見えます。実際に中身も、創業者であるハワード・シュルツ自身が書いた「『成功物語』のその後の苦難と再生」がテーマです。

しかし原書である英語のタイトルは、「成功物語」が”Pour Your Heart Into It” (情熱を注ぎ込め)であるのに対して、「再生物語」は”Onward” (未来へ)。

別の本なのですね。

 

物語は2008年2月、大成功したスターバックスが、自らの良さを失い低迷を始め、全米の店舗を半日休業して、135,000人のバリスタ全員を一斉に再研修をするところから始まります。

実際、スターバックス本社の2008年Annual Reportを見ると、当時のビジネスはこのような状況でした。

          2007年  2008年
店舗数       15,011  16,680
売上        9.4B$  10.4B$
営業利益     1,054M$   504M$
売上営業利益率   11.2%   4.9%
店舗売上(対前年)    5%    -3%
純利益       673M$   315M$
株主資本利益率    29%    13%

グラフにするとこんな感じです。

Starbucks2008ar  

売上は順調に伸びていますが、利益率は急落。一方で店舗当たりの売上の伸びはジワジワ下がり、ついにマイナス。

この数字だけを見ると、こう考え勝ちなのではないでしょうか?

「確かに利益は落ち始めているけど、売上は伸びている。この勢いを保持して、利益率を上げて店舗当たりの成長率を回復するために、無駄を省いて効率化を徹底しよう」

しかし実際はまったく逆でした。

無駄を省き、効率性を追求し、成長を追い求めた結果が、こうなったのです。

 

創業者のハワードがCEOを退任し、二人のCEOを経て、スターバックスでは「売上成長至上主義」が蔓延していました。

スターバックスの良さが急速に失われ、顧客が徐々に離れていた結果が、ついに数字に表れ始めたのです。

たとえば、それまでバリスタは徹底的に教育されて店舗に出ていたのが、店舗急拡大で人材育成が追いつかず、テキストを渡され自習しただけで、店舗に出るようになりました。

また、効率性の追求で店舗デザインは簡略化されてしまいました。

それまでコーヒー豆は店舗で挽いていたのが、効率化のために工場で挽いて真空パックされ店舗に届けられました。味は落ちてしまいます。

売上拡大のため、様々な商品が投入されました。その一つがブレックファスト・サンドイッチ。暖めることでチーズが溶けて強い香りが店内に流れ、店内のかぐわしいコーヒーの香りを消し去ってしまいました。「第3の場所」の魅力が半減です。

これらが積み重なった結果、2007年のコンシューマレポートで行われたコーヒーの味テストで、不名誉なことに、マクドナルドの「マックカフェ」よりも低評価になってしまいました。厳選したコーヒー豆を焙煎するコーヒー専業のスターバックスが、ファストフード店に味で負けるということ自体、スターバックスにとって大きな屈辱でした。(p.112)

自宅と職場の間にある「第3の場所」としてのスターバックスは、急速にその魅力を失っていたのです。
 

ハワードは色々と悩んだ末にCEO復帰を決意。2008年1月にCEOに再び就任します。その際に、このように考えました。(p.76)

・「原点回帰」をしなければならないが、スタバの歴史を守るのではない。改革や革新の気風に結びつける。

・過去の間違いは責めない。

・戦略や戦術では混乱は乗り切れない。必要なのは情熱だ。

そして、下記方針を決めました。(p.90-91)

【即座に実行すること】
・米国店舗ビジネスの現状改善
・お客様との感情の絆を取り戻す
・ビジネス基盤の長期的改革をすぐに開始する

【手を付けないこと】
・コーヒーの品質 (豆自体の品質はよかったのです)
・従業員の健康保険 (米国では健康保険は未整備)

そして2008年前半、「変革に向けたアジェンダ」(=すべてのパートナーがやるべきこと)と「新たなミッションステートメント」(=スターバックスの存在理由)を定めました。この二つが改革の柱になりました。

「変革に向けたアジェンダ」(p.139-141より)

わたしたちが望むもの 魂を刺激し、育む企業として知られ、世界で最も認められ、尊敬されるブランドを有する優れた企業であり続ける

七つの大きな取り組み

1.コーヒーの権威としての地位を揺るぎないものにする
2.パートナーとの絆を確立し、彼らに刺激を与える
3.お客様との心の絆を取り戻す
4.海外市場でのシェアを拡大する。各店舗はそれぞれの地域社会の中心になる
5.コーヒー豆の倫理的調達や環境保全活動に率先して取り組む
6.スターバックスのコーヒーにふさわしい創造性に富んだ成長を達成するための基盤をつくる
7.持続可能な経済モデルを提供する

 

ミッションステートメント (p.147-149より …一部文章を短縮化)

スターバックスの使命———人々の心を豊かで活力のあるものにするために———ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そして一つのコミュニティから。

・わたしたちのコーヒー——常に最高級の品質を追求
・わたしたちのパートナー——一人一人が輝き働きやすい環境。お互いに尊敬と威厳をもって接する
・わたしたちのお客様——感動体験。完璧なコーヒーの提供はもちろん、人と人とのつながりを大切に
・わたしたちの店——くつろぎの空間
・わたしたちのコミュニティ——コミュニティの一員としての責任と、日々の貢献
・わたしたちの株主——すべての人々の繁栄

 

この4年後の2012年のAnnual Reportからは、スターバックスは2008-2009年の店舗閉鎖、人員解雇、売上/利益減といった大きな苦痛を乗り越えて、再び力強い成長を取り戻していることがわかります。

Starbucks2012ar_2  

しかしこれらの数字も、「第3の場所」を再生し、「人々の心を豊かで活力のあるものにする」という使命に向かって動いた結果に過ぎないこともまた、認識すべきでしょう。 

また、世界で現在展開している新型店舗も実におしゃれで、まさに「第3の場所」といった趣きです。

Starbucksnewstore_2(2013/11/19の”Starbucks at Morgan Stanley Global Consumer Conference Presentation”資料より)
 

こんな店なら、いいコーヒーを飲みながら、ずっと時を過ごしていたいですよね。

先日入ったスターバックス・銀座マロニエ通り店の2Fも、このような感じに改装されていました。

 

実際に2012年のAnnual Reportによると、2012年は全世界で、1,063の新店舗を出店する一方で、2,025の既存店舗をリノベーションしています。(全世界のスターバックス店舗数は18,066)

 

なぜ創業者のハワードは、このような変革ができたのでしょうか?そのことを語っている一文があります。

—(以下、p.57から引用)—

創業者の強みは、会社の基盤となるブロックの一つひとつを知っていることだ。会社を活気づけるのはなにか、そのためにはどうすればいいかがわかっている。その知識が、その歴史が、成功のために必要な情熱を呼び起こし、なにが正しくて、なにが間違っているかを判断する直感につながる。

—(以上、引用)—-

「株主至上主義」「数字至上主義」と言われがちな米国企業ですが、情熱と絆の大切さは、実はどこの国でも同じなのだ、ということを実感できた本でした。

現在の企業変革の事例として、ご一読をお勧めします。

 



「2013年ベストビジネス書」に選んでいただきました

「Webook of the Day」編集長・松山真之助さんに、「100円のコーラを1000円で売る方法3」を「2013年ベストビジネス書」に選んでいただきました!

ダイヤモンドオンライン特別レポート:

これを読めば2014年にスタートダッシュが切れる!年末年始に読みたい「2013年ベストビジネス書」――「Webook of the Day」編集長・松山真之助

 
「マーケティング関連の書籍で、今年出版された一押しは、やはりこの本でしょう」

「第3巻が一番読みごたえがあり、深みのあるストーリーになっています」

有り難い限りです。

松山さんにもご紹介いただいたとおり、

「100円のコーラを1000円で売る方法」は、2011年12月
「100円のコーラを1000円で売る方法2」は、2012年9月
「100円のコーラを1000円で売る方法3」は、2013年6月

に出版しました。

日本IBM社員だったこの時期、週末や休暇中に2年間書き続けた本です。

この3冊で、現代のビジネスパーソンに役立つマーケティングやビジネスの考え方を網羅しています。

もし機会がありましたら、是非ご覧ください。
 

 

鳥羽博道著『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』読了…1杯150円でも高収益な理由は、顧客第一主義だった

鳥羽博道著『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』を読了しました。書名の通り、ドトールコーヒー創業者である鳥羽博道さんの自伝です。

現在ドトールの出店数は1,100店舗。全国津々浦々にあります。このドトール一号店が出来たのは、1980年、原宿でした。

当時は純喫茶が大ブーム。全国に15万店の喫茶店があり、コーヒーは1杯300-400円でした。そこへドトールは、本格派コーヒーを150円(当時)で提供しました。

 

本書でこのように書かれています。

—(以下、p.125から引用)—

ある企業のトップから、

「いつまでディスカウントを続けるつもりですか」

と聞かれたこともあった。

これには正直言って驚かされた。私はディスカウントでやっているつもりなど毛頭なかったからだ。

—(以上、引用)—

 

ではなぜ、当時の半値である150円の値付けにしたのでしょうか?

 

鳥羽さんの原体験は、パリのシャンゼリゼ通りで見た、低価格でおしゃれな立ち飲みスタイルのコーヒーショップでした。

日本のお客様にもコーヒーを毎日飲んで欲しい。そこで、これを日本でも実現したいと思ったのですね。

しかし当時の喫茶店のコーヒーは300-400円。毎日飲むには高すぎました。

そこで「毎日飲んでも負担に感じない価格」ということで、まず150円という価格を設定したわけです。

鳥羽さんはこのように書いています。

—(以下、p.127から引用)—

 価格設定をする際にまず考えるべきことは、いくらで売ろうかということではなく、お客様はその商品にどういう価値を見出しているのか、いくらなら買ってくれるだろうか、ということだ。それが価格を決定する最大の要素と言ってもいい。

—(以上、引用)—

 

そして、150円でも利益を生み出せる仕組み作りを考えていきました。

 

鳥羽さんがまず考えたのは、「一杯150円なのだから、ひとりでも多くの人にドトールを利用してもらえるようにすること」

そこでまず駅前や繁華街などの一等地に出店しました。

常識では「テナント料が高いから採算に合わない」と思いがちですが、「150円で売るからこそ一等地に出店し、低価格・高回転にしてひとりでも多くの人に利用してもらう」と考えたのですね。

 

次に考えたのは、「より多くのお客様にきめ細かいサービスをいかに提供するか」ということ。

そのためにスタッフの労働負担を少なくし、笑顔でサービスにあたれるセルフサービスのコーヒーショップにしました。

徹底的な機械化を図るため、高価なドイツ製フルオートマチックのコーヒーマシンを導入。パン焼きも当時珍しかったコンベアトースト、食器洗浄も人手でなくスウェーデン製の洗浄機を導入しました。

この結果、経験が浅いアルバイトでも仕事ができるようになり、従来のフルサービス型では200名のお客さんに常時スタッフ4名が必要だったところ、ドトールでは同じスタッフ4名で800名にサービスを提供できるようになりました。

価格を半分にしても、お客様が4倍来ていただければ、売上は2倍です。

 

一方で、「本格派コーヒー」提供のために、品質には徹底的にこだわっています。

鳥羽さんはこのようにおっしゃっています。

–(以下、p.135から引用)—

お客様はいくらなら買ってくれるだろうかというところから価格設定をして、あとから売上げを高めていくということでコストダウンを図り、利益率を高めるというやり方を貫いている。つまり、「顧客第一主義」というのは価格設定の段階からすでに始まっている。

—(以上、引用)—

 

マーケティングでは、価格付けには、大きく分けて3つあるとしています。

①コスト基準型価格
→コストに利益を上積み…「これだけお金がかかるから、この価格」

②価値基準型価格
→顧客価値を元に、コスト検討…「この価格だと買っていただけるので、このように作る」

③競争志向型価格
競争を意識し価格付け…「ライバルはxxxx円だから、ウチはもっと安くxxxx円」

世の中の多くの価格設定は、「コスト基準型」または「競争志向型」になっているのが現実です。

ドトールは言うまでもなく「価値基準型」。

そして「本格派コーヒーを150円で提供し、多くの顧客に楽しんで欲しい」という考えが先にあるので、コスト削減だけを考えるのではなく、サービス向上も突きつめ、両立させた点がポイントです。

 

実は100年以上前にも、「価値基準型価格」を実践し、歴史を大きく変えた成功例があります。

それは、フォードの「T型フォード」。

ハーバード大学教授のセオドア・レビットは、1960年に書いた論文「マーケティング近視眼」で、次のように述べています。(セオドア・レビット著『マーケティング論』ダイヤモンド社、22ページより引用)

—(以下、引用)—

世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。

フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、五〇〇ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが一台五〇〇ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。

大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

—(以上、引用)—

 
一見、先進的なマーケティングの世界ですが、このように30年前のドトールや、100年前のT型フォードなど、昔の事例からも、学べる点は沢山あります。

鳥羽さんの自伝を拝読し、時代が変わっても、顧客起点で考える大切さは同じだと実感しました。

 


 

山田眞次郎・井関利明著「思考 日本企業再生のためのビジネス認識論」を読了。目からウロコが落ちました

山田眞次郎さん「パナソニックは日本企業再生の道しるべか?」というブログを拝読して「面白いなぁ!」と思い、これがきっかけになって、最後に紹介されていたご著書「思考 日本企業再生のためのビジネス認識論」(学研パブリッシング)を読了しました。

本書は,山田さんと慶應義塾大学の井関利明名誉教授の対談。400ページを超える大著です。

今まで自分が考えていた常識を覆してくれると同時に、深く納得する様々な気づきを与えてくれました。

特に参考になった点をご紹介します。沢山ありましたので長くなってしまいますが、ご容赦ください。

■日本ビジネスの強みと言われている「メティキュラス」(几帳面で細かい)と「コンフォート」(心地よいサービス)からは、イノベーションは起こせない。だから「失われた20年」になってしまった (p.16)

■大手メーカーが一時期「六重苦」と言っていた。全て自社責任ではなくビジネス環境が悪いと考えている。実は重大な問題は企業の中にある (p.47)

■GE・ウェルチの「選択と集中」。本来の意味は「現在から未来にかけての選択肢を考慮して選択し、未来に集中する」ということ。だから未来の可能性である異質なものも囲うことが大事だった。しかし多くの日本人は誤解し、異質なものを排除してしまった。 (p.88)

■標準化は、ある意味でイノベーションの対局概念。(p.92) 標準化とは大量生産による弊害。(p.125)

■イノベーションは社内に異質性と多様性を保つから生まれる。全社一丸となるとイノベーションは起きない。 (p.94)

■日本国民は「日本はモノづくりが強い国」と誇りに思っている。しかし実際には(後述するように)日本の技術は半世紀遅れている。(p.132)

■第3発明期の本質である「仕組み連動テクノロジ−」は目に見えないのでなかなか認識できない。戦後からアポロ計画のころまで(1945年-1969年)の25年間、米国で第3発明期の基礎技術が確立されたときに、日本は参加できなかった。それを未だに認識できていない。日本の技術は、厳しい言い方をすると半世紀遅れている。(p.186)

■「仕組み連動テクノロジー」は、目的に合わせて複数の単品が、それぞれ絡み合いながら最適に機能する。たとえば、ミサイル迎撃のための衛星、航空機、イージス艦、迎撃用ミサイル、操作する作業員、関係省庁への連絡網。米国ではそれぞれが一つのシステムとして繋がっている。日本は単品としては揃っている。単品同士を連動させるシステムもある。しかし突発的なミッションにこれらを繋ぎ合わせ、思うとおりに「仕組み連動」させるテクノロジーがない。(p.190-194)

■1993年は歴史的な転換点。91年に冷戦が終わり、インターネットとGPSが軍事から民間に開放され、世界に新しいビジネスチャンスを創り出した。93年にクリントンが「情報ハイウェイ構想」で大統領に選出。その後、94年にネットスケープとアマゾンが設立、95年にWindows95発売、Yahoo!とeBayが設立、98年にGoogleが設立。これらは人とモノとシステムを目に見えないネット上で連動させる仕組みだ。Appleも現在は壮大な「仕組み連動」を構築している。その間、日本は「失われた20年」だった。問題のポイントは、戦後の25年間(1945年-1969年)、米国を中心に起きた第3発明期のイノベーションに貢献できなかったこと。一週遅れとでも言えるくらいの差がついている。(p.219-227)

■「日本は世界一の技術国だ」「やっぱりモノづくりこそが、日本の生きる道だ」と安易に結論づけるのはやめるべき。強みと弱みを明確にし、弱い部分(=仕組み連動テクノロジー)を謙虚に受け容れ、チャレンジすべき。それは若い人たちにしかできない。理解力が高く、感性が鋭く、経験に邪魔されない柔軟な思考を持っているからだ。(p.229-230)

■価格競争の中でクォーツ時計を7000円で売り出したスウォッチや、ホンダやヤマハに機能・性能で劣るハーレーやドゥカティは、独自の「文化価値」を創り上げ価格競争から抜け出し、いまでは優良企業。この「文化価値」こそが、価格競争の次に来る「価値」のあり方。言い換えれば生活のコンテクストの中の「仕組み連動」。供給者である企業サイドだけでは、新しい「価値」を生み出すことは難しくなっている。(p.243-248)

■「マーケティング」の定義も変わる。提供物が単一商品だった過去は4P (Product, Price, Place, Promotion)戦略という企業サイドからの一方向な働きかけが必要だった。(今でも4Pが有効な分野は残ってはいる) パラダイム変換が必要になったひとつのきっかけは、2001年にP.シーボルト出した「個客革命」という著作。ポイントは「顧客が力を持ったという認識」「顧客は企業の資産」「顧客の関係づくりが決め手」「顧客経験」。新しいマーケティングの定義は「課題解決と新しい価値創造のための、関係づくりの社会的作法」である。(p.250-262)

■「イノベーション」を「技術革新」と翻訳したのは誤訳だ。本来は「人々に新しい『生活経験』を約束すること」 まだこの世に存在しない「生活革新」の製品やサービスや情報の組み合わせは、需要サイドと供給サイドや第三者が関わり合い、相互作用の中で初めて生まれてくる。(p.269-273)

■ある程度大きな企業は社内がサイロ構造になっている。改めて全社を見れば、社内は実はきわめて多様性に富んでいるが、横断的に関わって「イノベーションチーム」を作ろうという発想がない。この社内多様性の認識と活用こそ、「創発するマーケティング」の最初のチャンス。(p.282-284)

■イノベーションを起こすにはリーダーは不要。今はイノベーションは個人技ではなくチーム作業だから。役職の裏付けがある人ではなく、組織経験が乏しい若者の方が良い。そういう人たちを集めて自然発生的に異なる役割を担うようにするとチームの生産性は一番高くなる。イノベーションはリーダーによって窒息する。権威を振りかざすリーダーの所為で、対等な人たち同士の相互行為を通じて形成されるはずの共同学習と共進化、共形成が不発に終わる。リーダー待望論があるうちは、積極的な”当事者”は育たない。(p.291-300)

■競争ほど無駄なものはない。競争し合うよりは協力し合う方が、地球全体のためにはどれだけ有効か。さらに今は他産業からどんどん参入し入り乱れているので誰と競争しているのかわからなくなっている。「脱競争」を主張する人は増えている。競争論で著名なM.ポーターも「企業の定義を『シェアードバリューをつくること』に変えなければならない」と言っている。(p.313-318)

 

ごく一部を紹介しました。

実際には本書を読まれると、もっと多くのことを学ぶことができます。上記を読んで「これはいい」と思った方は、是非本書をご一読することをお勧めします。

本書を執筆され、ブログでもご紹介された山田さんには、深く感謝です。