looops斉藤さん講演『ソーシャルメディア時代の企業ブランディング』をお聞きし、ソーシャルメディアでビジネス成果を出すために必要なのは、忍耐力と分る

先週金曜日のオルタナティブブロガー定例会議で、looopsの斉藤さんのご講演

『ソーシャルメディア時代の企業ブランディング』
~コントロール不能なクチコミと仲良くするために~

をお聞きしました。

斉藤さんもブログで資料を公開されています。

まさにタイトルの通り、ソーシャルメディアを企業ブランディングで活用していくべき方法論を明快に提示されたご講演でした。

 

講演では、looopsさんご自身が、即効性はある一方で支出がかかる従来型コミュニケーションメディアを2009年から一切止め、即効性はないものの支出がかからず長期的な顧客との関係構築可能なソーシャルメディアに全面的に切替えられた理由も説明されていました。

looopsさんが狙う顧客は、従来型のコミュニケーションメディアでは十分にカバーできないアーリーアダプター層です。

この顧客層は、広告やセミナー等の「受け身型」メディアには、必ずしも影響されません。

自分から能動的に情報を探しに行きます。

このような顧客層に対しては、ソーシャルメディアにより、価値ある情報を無償で惜しみなく出し続けることが、とても大切になります。

そのような価値を認める顧客層が、固定ファンになるからです。

looopsさんご自身、そのようなlooopsさんの価値を認めていただける顧客との長期的な関係構築を望んでおられるとのこと。

このような関係が構築できると、looopsさんは顧客にとってオンリー・ワンの存在となり、価格競争とは無縁のビジネス展開が可能になります。

ソーシャルメディアで無償で価値ある情報を出し続けることで、結果的にlooopsさんご自身と、looopsさんの価値を認める顧客が、相思相愛の関係になる訳ですね。

 

しかし、このようになるまでは、『忍耐』が必要だったとのことです。

実際には、従来型の広告の効果が年々下がっていき、2009年には費用対効果の観点で、広告にお金を掛けられなくなったという現実的な事情もご説明がありました。(このように費用対効果を時系列で把握されているのもさすがです)

また、2009年4月にブログを書き始め、若干の問い合せはあったものの、実際に十分な効果が出始めたのは2010年のゴールデンウィーク明けだったとのお話しもありました。

1年以上かかっています。

ソーシャルメディア自体が即効性があるメディアではない、ということですね。

いわゆる『ウィッフィー』が蓄積するまで、まる1年間が必要だったということになります。

逆に、このような蓄積を行えれば、それ自身が差別化要因になるということでもあります。

このように考えると、ソーシャルメディアのビジネスでの活用は、忍耐力があるかどうか、ということなるのかもしれませんね。

【資料&動画あり】「『お客様は神様です』は、間違い!!』…「顧客中心主義のマーケティング」を第5回朝カフェ次世代研究会で講演しました #asacafestudy

昨日の朝、第5回朝カフェ次世代研究会で、

「『朝カフェマーケティング』に学ぶ、 顧客中心主義のマーケティング」

というテーマで講演しました。

悪い風邪が流行っているようで、今回は申込30名中、欠席のご連絡が6名。当日参加24名。

実は私も2週間前に風邪をひいて長引きました。お互い、気をつけたいですね。

講演では、『朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング』『戦略プロフェッショナルの心得』に書いていたことからの抜粋に加え、新たに追加した話も入れて、下記3つについて1時間お話しさせていただきました。

・マーケティングの出発点は、バリュープロポジション

・セールスとマーケティング

・なぜ、売れないのか?

お伝えしたかったのを敢えて一つに絞ると、

「『お客様は神様です』というのは、間違いです!』

ということです。

その理由は、下記の講演資料と、講演の様子をご覧下さい。

 

講演の様子は下記Ustreamでご覧になれます。(1分後位から60分程の講演が始まります)

 

Twitterのログは、こんな感じでした。

 

参加された皆様からは、アンケートでこんなご意見をいただきました。感謝です!

・新製品を売るのがいかにたいへんかよくわかりました。とくにセールスとマーケティングの部分が興味深かったです。

・マーケティングについて勉強し始めたので、すごく興味深い話でした。本も買いましたので、読んで、改めて、何かありましたらご質問させてください。

・改めて気付きを得ました。事例はわかりやすくてイイですね。

・狩猟型から農耕型、ブログも拝見しましたが、とてもわかりやすく、納得でした。声が素敵です!! (永井コメント:恐縮です…. ^^;ゞ)

・永井さんの著書を購入して、再度、本日の内容をかみしめてみたいと思います。

・未来を考える。のタイムスパンが難しいなと思いました。

・目から鱗の連続でした。セールスとマーケティングの違い、狩猟生活と農耕生活に例えていてすごく分りやすかったです。最後にあった「地道な社内マーケティングの継続」も大変参考になりました

・マーケティング初心者ですが、大変分りやすかったです。ブログと永井さんのご本を読んでもっと勉強したいと思います。

・とても勉強になりました。ありがとうございました。

・「売れないことは問題ではない→総営業化」のお話しは、以前の会社でもあったことなので、大変興味深いです。

・マーケティングについて理解がより深まりました。奥が深いことは分っていますが、その一端を知ることが出来ました。

・自分が買ったカメラのことで話が拡がったことを嬉しく思いました。マーケティング視点での自分自身の行動について、思いもしなかった気付きがありました。あとでもブログにでもまとめてみようと思います。

・現場での経験とマーケティングの体系的な知識が組み合わさっており、非常に納得感が高かった。

・マーケティングを一般理論化するチャレンジは素晴らしい。顧客の気がつかないニーズを拡げる図が目に焼き付いています。

おかげさまでNSIは96でした。

 

ところで、私はこのテーマの講演では、いつもバリュープロポジションの説明をする前に、参加者の方々に、「最近買った商品と、他の選択肢、買った決め手」をお聞きします。

今回は、私が現在とても欲しいと思っているソニーのデジカメ(ミラーレス一眼)を持ってきて下さった方がおられました。

その時は「講演が終わったら、絶対触らせてもらわなければ!」と思っていました。

しかし講演後、名刺交換の時間になり、緊張が解けてひと息ついたためか、すっかり忘れてしまいました。

思い出したのは、オフィスに向かう電車の中で、上記のアンケートを読んだ時でした。

「あー、忘れていた!触らせてもらう筈だったのに!」

後の祭りですね。(笑)

実は結構緊張していたのだ、ということを改めて実感した次第です。

 


「営業力強化、悪魔のループ」に陥らないために

なかなか売上が上がらない時、こんな意志決定がされること、ありませんか?

・「問題の本質」は、売れていないことだ

→だから、営業戦力を増強するのだ

….ということで、例えば技術者をセールスに異動したりして、セールス部隊の増強を図る。

 

でも、必ずしもこの施策で売れるようになるとは限りません。こうなると、

・「問題の本質」は、売れていないことだ

→だから、営業戦力を増強する

 

→売上は一時的に上がったが、すぐに、さらに売れなくなった

 

→やはり、「問題の本質」は、売れていないことだ

→だから、もっと営業戦力を増強する

→さらに、案件獲得のために尻を叩く

 

という形になります。

でも、ますます売れない。

「営業力強化、悪魔のループ」です。(勝手に命名しました)

 

何でこんなことが起こっているかというと、「課題」を「問題の根本原因」にすり替えているために起こっています。

「売れていない」ことは課題です。

でも「売れていないこと」は、「問題の本質」ではありませんし、「問題の根本原因」でもありません。

確かに、営業力を強化すると一時的にカンフル剤的に売上は伸びるかもしれません。

しかし、「売れていない根本的な原因」は、販売活動プロセスの中にはないかもしれません。

だとしたら、セールスの活動を細かく洗い出しても、原因は見つかりません。

顧客から見た、ビジネスプロセス全体の中で、考えていく必要があります。

 

例えば、売れていないのは、セールスが原因ではなく、顧客に対する技術支援力が低下し、顧客満足度が下がり、次第にボディブローのように効いてきて、既存顧客が離反していることが原因かもしれません。

この状況を知らずに、技術者をセールスに異動すると、….技術力はますます弱体化し、顧客満足度はさらに下がり、さらにボディブローが効いて、既存顧客の離反に拍車がかかり、売上はさらに下がり続けます。

こうなると、なかなか回復は難しいのです。

 

昨年、こちらの記事で、肩凝りの原因究明を例に、対症療法と根本療法の違いについて説明しました。

簡単に説明すると、肩凝りの原因を血行が悪いためと考えてマッサージに行っても、また肩が凝ってきます。これは、肩凝りの根本原因を解決していない対症療法です。

血行が悪い理由をさらに深掘りし、「身体を動かしていないから」→「それは、デスクワークが多いから」と考えて、就業時間後に定期的に運動し、肩凝りが起こらないようにするのが、根本療法です。

 

根本的な原因をしっかり捉えて、根本療法を行い、「営業力強化、悪魔のループ」に陥らないためには、現状否定が必要な場合も多いのです。

だから、難しいのですよね。

私がIBMに勤め続けている理由、それは最高の戦略を学べる場だから

私は1984年に日本IBMに新卒入社してから、26年間IBMに勤めています。

正直に言いますと、転職の話もなかった訳ではありません。

しかし、IT業界の同業他社への転職は、あまり考えていません。

 

その理由は、最高の戦略構築を目の当たりにできるからです。

 

例えば、1990年代にIBMが提唱した「eビジネス」。

eビジネスという言葉は世の中に一般用語としても定着していることからも分るように、マーケティングの歴史に残るマーケティング戦略であったと思います。

しかし「eビジネス」を提唱した後も、IBMはその概念を「オンデマンド」「イノベーション」「Smarter Planet」と進化させてきています。

IBMの中にいると、いかにこれらの概念を生み出しているかがよく分ります。

まず世の中の動きを、定期的に技術面・市場面・顧客面で把握し、自社のバリュープロポジションを常に再定義し、それをマーケティング戦略に展開し、さらにそれを様々な施策として実施しているのです。

ビジョンや戦略をいかに作っていけばよいか、とか、バリュープロポジションをいかに考えるべきか、ということを身を以て体験できる、グローバル全体で見ても数少ない場の一つが、IBMだと思います。

 

私は、一昨年に「戦略プロフェッショナルの心得」、昨年に「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」といった本を出版しました。

これらの著書の中では、様々な事象を理論立てて説明するために、世の中の既存のマーケティング理論を活用しています。

しかしその解釈を行う際には、IBMの中でマーケティングや戦略の仕事を通じて学んだことをを適用しています。

 

最高の戦略を学べるこの場からは、まだ当分卒業することはなさそうです。

「狩猟生活」から、「農耕生活」へ進化する、セールスのスタイル

時代と共に、セールスのあり方は進化します。

これは、「狩猟生活」と「農耕生活」に例えて考えると、分りやすいかもしれません。

 

現在でも、狩猟で生活を営んでいる人達がいます。しかし少数派です。

一方、数万年前の昔は、人類の多くは狩猟生活を営んでいました。

これは自然界に食料である獲物が比較的豊富だったために、可能だったようです。

実際、縄文時代の日本は、割と豊かな生活だった、という話も聞いたことがあります。

ここから先は想像ですが、この時代、見つけた獲物はその場で確実に捕獲していたのではないでしょうか? そのために、どんな獲物でも仕留められるように、狩りの個人技を究めていたのではないかと思います。

これをセールスに例えると、顧客の現場に出向き、そこで案件を見つけ、顧客の要望には絶対Noと言わず、個人のセールススキルを徹底的に極めて案件を獲得する、といった感じでしょうか?

「どんな要望にも、対応できます」というイメージですね。

案件ベースでの視点が中心で、市場という視点はありません。

ただこのスタイルは、古き良き時代のセールスとも言えますね。需要が飽和し、要望が高度化する時代には、顧客の要求レベルに応えるのは難しいように思います。

 

一方で、人類はある時期から農耕生活を始めています。

自然界の獲物の減少や人口増などで、自分達で食料を確保する必要性に迫られたから、という説もあります。(もちろん、地域差はあるでしょう)

このような時代は、食料は水田などで自分で大切に育てますし、個人技ではなくチームワークが必要になります。

セールスに例えると、顧客要望が高度化してきたため、顧客課題を考えて市場を捉え、予め課題解決手段を開発しておき、それに合う案件の種を見つけてきて、個人技ではなくチームワークで(場合によっては顧客にも入ってもらって)案件を育てていく、といった感じになります。

予め顧客課題を定義するのですから、顧客要望が想定している課題や解決手段に合っていない場合、Noと言うこともアリでしょう。

ニーズ単位で市場全体を捉える視点も必要になります。

 

このように考えると、「農耕生活」は、ソリューション・セールスの基本的な考え方であるとも言えると思います。

逆に言えば、「どんな要望にも、対応できます」というのは、本来のソリューション・セールスとは言えないのかもしれませんね。

旧人類型マーケティング

マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー教授は、「ネアンデルタール・マーケティング」(旧人類型マーケティング)として、以下を挙げています。

1.マーケティングと販売を同一視

2.既存顧客の維持よりも、新規顧客の獲得を重視

3.顧客の生涯価値を大切にし利益を得るよりも、個々の取引から手っ取り早く稼ごうとする

4.顧客価値による目標価格の設定ではなく、原価ベースで価格を設定している。

5.マーケティング・コミュニケーション手段を統合せず、個々のコミュニケーション手段を個別に管理

6.顧客の真のニーズを理解し、対応することよりも、製品の販売に終始

 

現代でネアンデルタール・マーケティングを実施していると、業績低迷は必至で、徐々に自然淘汰されていくことでしょう。

この6つが全て当てはまるケースは実際には少ないかもしれません。

しかし、いくつかは当てはまってしまうこともあるのではないでしょうか?

気をつけたいものです。

ラーメン屋が成功する秘訣は、まず値段を決めること。味は最後

表題は、5/13発売のモーニングに連載されている「エンゼルバンク」に描かれていた話です。

ネタバレになりますので、詳しくは本誌をご覧いただければと思います。

それにしても、ラーメン屋を始める人は、「こういう味のラーメンを作りたい」という思い入れがとっても強いのではないでしょうか?

しかし、思い入れをこめて作った新商品がなかなか売れないように、確かにこの考え方で売れるラーメン屋は、ごくわずかかもしれません。

 

マーケティングの視点でも、この考え方はとても重要です。

例えば、2008年のリーマンショックを契機に、ハイブリッドカーが爆発的に売れています。

これも、ホンダがインサイトを、そしてトヨタがプリウスを、それぞれ戦略的に最初から200万円以下に価格設定し、その価格でペイするように車を作ったのが大きな理由です。

もし同じ時代背景で、「こんな車を作りたい」から出発すると….、確かに味にこだわって売れないラーメンと同じ話になりかねないですね。

日本のハイブリッドカーと同じ有名な事例が、既に100年前に米国で生まれています。

既に何回かご紹介していますが、フォードのT 型フォードです。

ハーバード大学教授だったセオドア・レビットは、1960年に書いた歴史的論文「マーケティング近視眼」で以下のように述べています。

—(以下、引用)—

世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。

フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、500ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが一台500ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。

大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

….フォードがその経営哲学を簡潔に述べた文章を紹介しよう。

「当社のポリシーは、価格を引き下げ、事業を拡大し、製品を改良することである。価格の引き下げを第一に挙げたことに注意して欲しい。….まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つように懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない。新しい価格が決められると、それにつれてコストを下げるからである。….

….まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ。….このように追い込まれた状況の中で、製造方法や販売方法について発見を重ねていくのであって、時間をかけてゆっくり調査研究した結果ではない」

—(以上、引用)—

ラーメン屋に例えると、まず最初に両者とも価格を考え、その次に「生産方法=店の立地条件等」を考え、「車の性能や装備=味」を決めるのは最後、ということですね。

 

「エンゼルバンク」はしっかりした理論に基づいた話が多く、「なるほど、あの理論は、このように説明すると、ハラに落ちるのか!」という新鮮な発見があります。

勉強になります。

『顧客中心主義のためのマーケティング』の講演をしました(講演資料付)

昨日(4/26)の夜、アイティメディア様の新入社員の方々を対象に、『顧客中心主義のためのマーケティング』というお題で、講演をさせていただきました。

新入社員の方々が対象ですが、フレッシュな3名の新入社員の方々に加え、アイティメディア社員の方々が30名程参加されました。ありがたいことです。

講演1時間10分 + Q&A20分、あっという間の1時間30分でした。

今回お話しした内容は、法人マーケティングの話が中心です。

PDF版無償配布している『戦略プロフェッショナルの心得』『朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力』で書いた事を、ベースにしました。

さらに、企業と個人にとってのソーシャルメディアの役割や、今後個人がグルーバル社会でどのように考えていくべきかも追加してみました。

 

下記が講演資料です。(Web公開版のため、主に個人情報等、8枚程削除しています)


 

最近、このような内容をお話しする機会を社内外で多く頂くようになりました。

とてもありがたいし、光栄なことです。

いい機会ですし、お座敷がかかった際には、スケジュールが許す限りお引き受けするようにしています。

このようなことをお話しして、Q&Aしたり、感想をいただくことで、私自身大変勉強になっています。

以前、ライフネット生命保険の出口社長から、『個人の競争力を高めるには、まず自分が知っていることを情報発信すること』というお話しを伺ったことがあります。

色々と講演をしてみて、実感しますね。

 

ご参加いただき、19:30までお付き合いして下さった皆様、ありがとうございました。

マーケティング担当はアンケートの生コメントを何度も熟読すべし!500件の中のわずか3件の要望をヒントに、大ヒット商品を生んだ事例

言うまでもなく、アンケートは宝の山です。

全体の傾向を把握するには、アンケートで多数派の意見がどこに集約されているのかを見ることが大切です。

例えば、ある製品群(例えば先日紹介した自動掃除ロボット)の普及率を把握する場合。

アンケートで、「既に使っている」、「購入予定」、「購入検討中」、「興味あり」、「興味なし・知らない」の比率を把握すると、その製品が製品ライフサイクルのどの段階にあり、どのようなマーケティングや販売施策を講じればいいのかが分ります。

例えば「既に使っている」、「購入予定」、「購入検討中」を合計しても15-16%以下なら、カズムを超える以前の段階ですので、まずはアーリーアダプターに完全に浸透させつつ、アーリーマジョリティをいかに掴まえるかを考えていくことになります。

 

一方で、顧客の潜在ニーズも、アンケートの生コメントから読み取ることができます。

実際、生コメントを何度も熟読すると、将来の大ヒットに繋がる非常に貴重な原石が、少数派の意見として隠れているのを発見することもあります。

本日(4/19)の日本経済新聞朝刊「私の課長時代」は、花王社長の尾崎元規さんが、ブランドマネージャーだった頃のころが書かれています。

—(以下、引用)—-

ある調査でシャンプーへの要望を聞くと総数500件の中に「髪を軽くしたい」という要望が3件。

普通なら見逃す少数意見ですが、「髪を軽く」という耳慣れない表現が気になって、開発部門と研究を始めました。よく調べると皮脂や整髪料の影響で実際に髪が重くなることが判明。

「髪を軽くするシャンプーがあれば、売れるはず」という結論に達したのです。

—(以上、引用)—

1983年に商品化した「ピュアシャンプー」は大ヒットしたそうです。

 

このようなヒントは、アンケート集計結果からは決して読み取れません。

アンケートの生コメント、できれば記入した用紙そのものを、何回も熟読し、仮に極めて少数派の意見でも、気になった点は「なぜだろう?」と考え続けることが必要です。

 

アンケートの生コメントは、マーケット担当者にとって、普段考えていてなかなか分らない顧客の課題を把握し、解決するヒントが満載です。

しかも、顧客自身の声で書かれています。

活用しない手はないですよね。

 

私は社外で講演をさせていただく度に、主催者にお願いして、可能な限りアンケートを取らせていただきます。

アンケートからは実に様々なことが読み取ることができ、次回の講演へのヒントが得られるからです。

何よりも、自分が仮説を立てて講演した内容が、実際に聴いて下さった方々にちゃんと価値があったのかを検証するのが楽しみだから、でもあります。(逆に、それは「審判」という意味で怖さでもあります)

 

マーケット担当は、時間が許す限り、アンケートの生コメントを熟読するようにしたいものです。

「自宅を小さく建て替えたい」という潜在市場規模は、年間100億円

かつて、海外から「ウサギ小屋」と揶揄された日本の家。

私は二十歳までは、45平米の団地に両親と妹の4人で住んでいました。

一時期は叔父が半年ほど一緒に住んだり、従兄弟が1年住んだりで、5人になった時期もありましたし、2週間大柄なアメリカ人2名を預かって6人になったこともありました。

当時は当り前と思っていた広さでしたが、仕事で疲れて寝ている父の枕元で、小さい音でテレビを見ていたりしていました。

45平米に5人とか6人も住む状況は、今からふり返るとなかなかなものでしたね。

「広く大きな家に住みたい」というのは、昔からの願望でした。

 

ということで、私はこれは日本人にとってかなり普遍的なニーズだと思い込んでいました。

そんな私にとって、4月16日の日本経済新聞朝刊の記事「自宅心地よい狭さに、小さく建て替え、大胆にリフォーム、建築価格下落も追い風」という記事は、とても新しい発見でした。

—(以下、引用)—

中高年の間で一戸建ての自宅を小ぶりに建て替える人が増えている。子どもの独立などで家族の人数が減ると、狭い方が生活が楽なためだ。…500万円台の住宅が登場するなど価格の下落でハードルも低くなったようだ。

…アキュラホームが昨年4月に売り出した際は、30歳代の子育て夫婦を見込んでいた。ところが2月末までに実際に受注した90棟のうち60歳代が22棟で最も多かった。同社によれば「管理のしやすさを考えて狭い住宅に建て直す高齢者が多い」。

…ミサワホームが2008年に発売した平屋建て住宅「スマートスタイル・エー」。70平方メートル前後の延べ床面積で1100万円台からとプレハブ住宅としては割安で、09年度の販売実績120棟のうち3割は60歳代以上だった。

…住友林業ホームテック(東京・千代田)は「高齢者でリフォームする人は住みやすさと同時に、耐震性を重視しているようだ」と話す。

…一戸建ての住宅を小さくする「減築」は今後、じわじわと広がりそうだ。野村総合研究所が首都圏に持ち家のある55歳以上を対象に昨年実施した調査では「減築をした」人は0・6%にとどまるが、「減築したいと思っている」人の割合は5%だった。

—(以下、引用)—

これは全く新しい市場ですね。

55歳以上の世代の5%が潜在市場だということなので、市場サイズを計算してみました。

日本人の人口:1億2000万人

55歳以上の人口数:40%強として、上記の40%強の5000万人

55歳以上の世帯数:2人で1世帯と見積もって、上記の半分の2500万世帯

潜在顧客は5%:上記の5%の125万世帯

市場サイズ:小さめの価格500万円 x 潜在顧客125万世帯 = 625億円市場

年間で見るために、えいやで5-6年くらいで割ると、年間100億円程度の潜在市場規模があるということですね。

 

このように考えてみると、まさにニーズがあるところに、市場あり、ということを実感します。

やりたいことだけをやっていては、負け続ける

3/31の日本経済新聞夕刊「十字路:やりたいことだけでは勝てない」で、東レ経営研究所産業経済調査部の増田貴司さんが記事を書かれています。

この記事では、世界市場で躍進している韓国企業サムソンは「顧客に選ばれる力」を高めて商売に勝つことを何よりも重視しているのに対して、日本企業は作り手側のこだわる「いいもの」づくりが優先され、海外の顧客ニーズからずれている場合が多い、と述べられています。

この中で、ファーストリテイリング・柳井正会長兼社長が雑誌インタビューで語った発言が紹介されていました。

「(結果が出ない会社は、)たぶんやりたいことだけをやってるんじゃないでしょうか。お客様がほしいと思う選択肢にまず入らないと売れない。自分の好みに入り込むと売れなくなります」

「プロダクト・アウトから、マーケット・インへ」とよく言われています。

マーケティングをちゃんとやりましょう、ということですね。

 

この「マーケット・イン」という、ある意味で消費尽くされた言葉を使うと、「またか」と思われることも、多いと思います。

しかし自分でマーケット・インのつもりでも、実態は出来ていないことが多いのですよね。

あるいは、やりたいことへの思いが強すぎて、お客様が見えない。

消費尽くされた言葉の中に、本当に重要なことがある場合も、多いのです。

「作り手の思いを存分にこめた、ものづくり」から、「世の中が本当に必要としているものを提供する、ものづくり」への本当の転換が求められているのだと思います。

 

日本経済新聞「私の履歴書」で、ユニチャーム高原会長の連載が昨日終わりました。

生理用品・赤ちゃん用おむつ・大人用おむつ、どれも顧客自身が商品の使い心地を直接には教えてくれない商品です。しかし、まさに現場主義でマーケット・インを実践し続けてきた歴史でもあったと思います。

 

世の中が必要としているものを、提供する。

この当り前のことを実践するのが、本当に難しい。

今一度、本当にできているか、考えたいですね。

マーケティング・メッセージは、絶対値ではなく、相対値で訴求する

昨年12月に「8つの広告禁止用語」で書いたように、マーケティングメッセージは常に具体的にする必要があります。

しかし、

「この最新マシンは、毎秒100万件処理できます」とか、
「200人が5年かけて開発しました」

….と言われても、なかなかピンと来ません。

恐らくその分野の専門家なら分るのでしょうね。

「毎秒100万件処理!従来は数千件が限界だったのにスゴイ!」

とか。

でも、200名が5年かけて開発しても、それが顧客にとってどんな価値があるかは、全く分りません。

 

そこで、表題になります。

専門家なら絶対値で理解できることもあるでしょう。

メッセージを訴求したい人が全て専門家に絞られているのであれば、絶対値で訴求しても問題はありません。

でも、世の中の圧倒的多数は専門家ではありません。

さらに多くの場合、専門家以外に購買に大きな影響力を行使する人がいます。

 

これを、マーケティングでは「インフルエンサー」と言います。

例えばご主人がパソコン関連機器を買う時の奥さんを想像すると、分りやすいのではないでしょうか?

ご主人が「2テラバイトの外付けハードディスク」で「すごい!」と思っても、財布の紐を握っている奥さんが「テラってお寺?何がスゴイの?」という人だったら、なかなか買えません。

そこで、絶対値ではなく、相対値で示すべきだ、と思うのです。

例えば、先の「2テラバイト」を購入したいと思った旦那さんが奥さんを説得する場合、「今使っているハードディスクよりも5倍大きくて、しかも3倍速い」という説明をしたりするわけです。(まぁ、中には「ダメ!そう言って一昨年も、昨年も買っているじゃない」と言われる人もいるかもしれません。そういう人は信頼回復が先かもですね。蛇足でした)

この場合、買いたいと思っている顧客はご主人ですが、財布の紐を握っている奥さんがインフルエンサーです。ハードディスクを売るためには、奥さんの同意を獲得することが必要です。

 

法人マーケティングでは、商品購入の意志決定に様々な人達が関与します。

だからこそ、数字を出すときでも、分りやすく顧客が自社のケースにあてはめて考えやすい数字にする必要があります。

具体的な数字を示す場合、つい絶対値を使い勝ちですが、顧客が理解しやすいような相対値で比較することように心掛けたいですね。

当り前の「顧客起点」を実践すると、なぜ大きく差別化できるのか?

企業の活動の起点は、顧客。

当り前のことなんですが、当り前のことを当り前にやることって、難しいんですよね。

ともすると、何かをやろうとすると、この顧客の視点を忘れて、自分の思い入れで始めてしまうことが多いのです。

 

例えば、私がボランタリーで色々な人にマーケティングの勉強会を行う時には、まず自分達が顧客の立場で、どうしても欲しいと思って購入した商品を思い出していただき、その要因分析を行います。

そして次に、それを裏返して、自分達のビジネスのことを考えてみます。

本当はコインの裏表なので、顧客から見た商品の価値は同じように捉えられる筈なんですが、これが大きく違ってくるのですよね。

自分達のビジネスについては、「顧客は必ず分ってくれる」と思いがちなのです。

なぜか、甘い評価になるんですよね。

勉強会に参加する多くの参加者が、「気がつかなかった。でも、考えてみると当り前のことですね」とおっしゃってくださいます。

 

マーケティング・コミュニケーションも、顧客を起点として構築した戦略に基づき、ターゲット顧客に対して、そのターゲット顧客に効果的にアプローチできるコミュニケ―ションチャネルを使い、ターゲット顧客の課題に直接訴えるコンテンツを届けていくことが必要です。

でも、この流れがぶつ切りになってしまい、本来の成果が挙げられないことが、世の中では非常に多いのです。

 

逆に言うと、これらが顧客起点で最後まで全てちゃんと見事に繋がっていると、マーケティングは大きな成果を挙げることができるのです。

なぜなら、他の人達は、うまく出来ていないことが多いからです。

ちゃんとやるだけで大きく差別化できるんですから、考えてみると、これは大きなチャンスでもありますよね。

 

だからこそ、マーケティングのことをしっかり考え、日々キッチリと当り前のように実践していくことが、とても大切なのだな、と思います。

最初は顧客起点で考えていても、世の中の多くの事例が語っているように、ちょっとしたきっかけで顧客のことを忘れてしまいます。

恐いことですね。

 

蛇足ですが、これはマーケティングに限ったことではなく、「目の前のお客様がいるから、自分達は日々顧客を起点にビジネスをやっている」と思いがちなセールスの場合も同様です。

「顧客第一主義の自社が価格の高いライバルに負ける理由」で書きましたように、顧客の言いなりになることが、「顧客が起点」という意味ではないのですよね。

気をつけたいですね。

なぜ、ほとんどのプロジェクトが成功するのか?

この方が手がけるプロジェクトは、かなりの確率で成功しています。

以前、この方とプロジェクトをご一緒させていただく機会をいただき、その理由が分りました。

 

あるプロジェクトの企画をまとめる作業で参加させていただいたのですが、かなり綿密に話し合い、徹底的に様々な視点で考えながら戦略を立てて、企画書を仕上げました。

さらに、私と打合せをするだけでなく、大勢の関係者とのネゴシエーションでも、きめ細やかに一人一人と打合せを繰り返しておられました。

何回かチェックポイントをもうけて、そのたびに最新状況を企画書に反映していきました。

企画書の作り方も極めてきめ細やかで、一言一句、丁寧に見ていきました。

 

しかし、様々な状況を考慮した結果、このプロジェクト実施を取り止めることになりました。

その時に、この方がおっしゃった言葉が忘れられません。

私が手がけるプロジェクトは、なぜほとんど全てが成功するのか、とよく聞かれます。

その理由は非常に簡単です。

負け戦をしない、ということです。

成功する条件が整っているかを見極め、整っている時には勝負する。

整っていない時は勝負しない。

それを常に徹底しているからです。

 

先日のエントリー「共感をエンジンとして成長していく、ライフネット生命保険」に書いたライフネット生命の出口社長も、次のようにおっしゃっています。

「森の姿をしっかりとらえなければ、木を育てることはできない」

「風が吹かない時は、凧を揚げることはできない」

同じことですね。

 

プロジェクトは一人ではできません。

多くの方々が関わってきます。

その方々の、かけがいのない人生の時間を預かるからこそ、負け戦は避けるべきなのです。

だから、勝負すべきでない時は、勝負しない。

しかし、そのためには徹底的に状況を理解することが必要です。

 

企画を立てる時には細心に立てて、

状況を見極めるためにあらゆる努力を惜しまず、

引くべき時にはそれまでの努力を惜しげもなく捨てる。

その姿勢は、多くの人々の二度と還ってこない貴重な人生の時間を、負け戦に費やさせたくないという覚悟なのだということが、このプロジェクトを通じて実感できました。

 

取り止めになったこのプロジェクトからは、個人的に、実に多くのことを学ぶことができました。

論点思考(2):膨大なデータと格闘する作業屋としての経験が、重要な理由

前回に続き、内田和成著「論点思考」の紹介です。

本書p.131に、コンサルタントとしての心得の一つとして以下のような記述があります。

—(以下、引用)—–

私は頭の中に20の引き出しをもっている。その20の引き出しの中に、さらに20ずつのネタが入っている。…

例えば、20の引き出しのタイトルとしては、「リーダーシップ」「パラダイムシフト」「ビジネスモデル」などがある。….例えば、「リーダーシップ」の引き出しには「キャプテンの唇」とか、「オフト監督の牛」といった興味を引きそうな見出しをつけておく。

—(以上、引用)—–

この引き出しという考え方は、コンサルタントとして顧客の課題を聞き整理する際に活用できる方法です。

20の引き出しそれぞれに20のネタがあるということは、合計400のネタが整理されているということですね。

本書p.214には、この引き出しを作っていく方法が紹介されています。

—(以下、引用)—–

昔は意図的に引き出しを増やそうと努力した。しかし情報の収集と整理すなわちインプット作業で手一杯になってしまって、肝心の情報の活用がほとんどできなかった。

….発想が変わった。具体的にいえば、情報を集める段階で徹底的に手抜きをするのである。見聞した事象を感情(興味)の赴くままに情報としてとらえ、しかも集めた情報は一切整理しないし、特に無理して覚える必要もしない。…..

問題意識をもっていると、なにかと頭に引っかかることが出てくるはずである。その際、パソコンやカードに記録するのは面倒だから、脳に入れて〆点を打つ。

—(以上、引用)—–

何回も見ていると記憶に刷り込まれるので、それでいい、ということです。

このためには、常に問題意識を持って物事を見ていく必要があると言うことですね。

この文章を読んで、毎日ブログに書くという行為は、自分の引き出しを増やす上でとても有効な手段だと気がつきました。

ブログは単なるメモ書きではなく、他の方々に読んでいただくために、頭の中に気になったことを論理的に整理した上で分りやすく書く必要があります。この作業を毎日続けることで、自分の引き出しが確実に増えていくと思います。

 

長年のコンサルのご経験で論点を見出し、意志決定に繋げていく内田さんですが、その力を鍛える方法についても、p.173で紹介されています。

—(以下、引用)—–

 私も作業屋だった。ずっとパソコンをたたき、データを集積していった。その反省から、作業屋に終わってはいけないと盛んにいっているのだが、そのプロセスを経験したから論点が設定できるようになる。作業に没頭したことがない足腰が弱い人間に、ちゃんとした判断が出来るのかとも思う。だから、一度、作業屋になることが避けて通れない道なのではないかと思う。

 どの作業をどのくらいやって、なんの答えが出せるのかという感覚がない人には、正しい問いと仮説はもてない。ビジネスパーソンの場合、どんな業界でも現場をやっているというのは大事だ。経営の意志決定は0か、1かの世界ではない。グレーの世界の意志決定になってくる。それができるのは現場での経験だ。

—(以上、引用)—–

これは全くその通りだと思います。

膨大なデータを整理していくという経験を経ると、他の人がまとめた整理されたデータを見ても、その裏に膨大なデータの全体像が想像できます。

逆にそのような経験をせずに、整理されたデータだけしか接していないと、その裏にあるデータが想像できず、整理された数字をそのまま受け入れてしまうことになりがちです。こうなるとグレーの世界が理解できず、0か1のどちらかを求めることになります。

内田さんも作業屋だった、と知り、僭越ながら存在を身近に感じました。

 

とても多くの気付きをいただいた本でした。

 

論点思考(1):いかに課題を設定し、課題を捨てるか?

内田和成著「論点思考」を読みました。

内田さんはボストンコンサルティンググループ(BCG)の日本代表を務められ、現在は早稲田大学ビジネススクール教授です。

先日ご紹介した「嶋口・内田研究会」で、たまたま参加していた私の同僚のSさんが社会人大学院・内田ゼミの現役ゼミ生をやっていたご縁で、そのSさんから本書をいただきました。(Sさん、ありがとうございました!)

25年間のコンサルタントの経験が凝縮された、読みやすく、かつ深い本で、2日で一気に読みました。

現役コンサルタントや、経営戦略を考える立場にある人にとって、教科書になる本だとも思いました。

非常に学びが多かったので、これから2回に分けてご紹介したいと思います。

もちろん、私がご紹介するのは一部ですので、ご興味がある方はぜひ本書をご覧になってみてください。

 

まず、タイトルにもなっている「論点」。

BCGでは「解くべき問題(課題)」のことを「論点」と呼んでいます。

最初にこの論点設定を間違えると、間違った問題に、多大な時間とワークロードをかけて取り組み、かつ何も成果を挙げないことになります。

本書は一貫して、最も重大な過ちは間違った論点、不要な論点に答えることであり、成果を出すためには「正しい答え」ではなく「正しい論点」が重要である、としています。

例えば、本書p.48では下記のような記述があります。

—(以下、引用)—–

まず大前提として、現象や観察事実と論点を間違えないことが大切だ。一般に問題点と呼ばれるものの多くは、現象や観察事実であって、論点でないことが多い。現象を論点ととらえて問題解決を図ろうとしても、多くの場合、成果はあがらない。

—(以上、引用)—–

本書では、現象(例えば「会社に泥棒が入った」)に対して、論点(課題)を4つの観点で設定する例が挙げられています。それぞれの論点で、打ち手が全く変わってきます。「会社に泥棒が入った」こと自体は現象であって問題ではないと言うことです。

これはまさに我々が陥りやすいトラップですね。

手前味噌ですが、昨年出版した「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」の第5章でも、課題設定を間違って主人公が堂々巡りに陥っている様子を描きました。

 

また論点の捨て方として、p.104に下記のような記述があります。

—(以下、引用)—–

BCGの先輩コンサルタント….に教えてもらった言葉に「戦略とは捨てることなり」という言葉がある。

…..治療の優先順位を決めることを「トリアージ(Triage)」という。

JR福知山線脱線事故の際、この「トリアージ」が行なわれた。緊急処置で救命の可能性がある人には「赤タッグ」、早期に処置が必要な人には「黄タッグ」、救命不可能な人には「黒タッグ」がつけられた。この判断が一人当りわずか30秒で行なわれたそうだ。通常では考えられない厳しい決断が瞬時に求められ、「黒タッグ」の人には治療が施されなかった。

—(以上、引用)—–

私達はともすると、結論を出すまでに多くの時間をかけてしまうことがあります。

しかしその間にも、多くの機会が失われています。

限られた救急資源しかない状態で、大規模事故に遭遇した場合、誰にどの順番で治療を施すかを検査して時間をかけていると、さらに多くの人命が失われます。

経営の現場でも、時間と人的な資源が無限にあると考えると、同じことが起こります。ただ、それが見えにくい点が異なります。

経営と救急医療の現場は異なりますが、学べることは多いと思います。

 

次回も本書についてご紹介したいと思います。

 

イノベータの成功方程式が学べる、「直球勝負の会社」

先日のエントリー「共感をエンジンとして成長していく、ライフネット生命保険」で講演された、出口社長の著書「直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた 」を読み終えました。

日本では74年ぶりに生まれた独立系生命保険会社であるライフネット生命保険が、どのように生まれ育ったかを描いています。

ライフネット生命保険は、インターネット販売に特化することで間接コストを削減し、保険料半額を実現、徹底した透明性を確保するなど、成熟している生命保険業界の中でイノベーションを起こそうとしています。

クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」「イノベーションの解」で描いた、破壊的技術を開発したイノベータが、成熟市場を切り開く際に直面する様々な場面を具体的に描いています。

 

生命保険業界に新規参入するにあたって、非常に高い参入障壁がありました。

一つの理由は、許認可制の保険業免許です。

実際、「保険業免許なんて取れるわけない」という方も多く、ライフネット生命保険の社員が、免許を取った時にブログに書いた話が紹介されていますが、周囲の全ての人達は「そんなとこに免許が出るわけない」「それでいいのか?」「あんたはどこまでお人好しなの?」と言われ続けたようです。

 

「74年ぶりの独立系生命保険会社である」ということは、「74年間新規参入がなかった」、ということです。

考えてみたら凄いことです。

一方で、この業界に74年ぶりに新規参入できたのも、出口社長の時代の潮目の変化を見極める目の賜物でしょう。

この本では、今まで誰もチャレンジをしなかった生命保険の新規参入ですが、創業を考えた際に出口社長は金融庁のウェブサイトで保険に関する部分を5年分丁寧に読み込んだ様子が描かれています。

そして、行間に散りばめられた金融庁の真意を探ったところ、金融庁は健全な競争を望んでおり、「必要な条件を満たせば新規参入会社でも必ず免許を取得できる」との確信を持たれたそうです。

本書で出口社長は、「風が吹かない時は凧が揚がらない」と述べていますが、このような風向きの変化をいち早く察知できたのも、出口社長が保険の世界で豊富な経験を持ち、かつ、官公庁関連の仕事も多く手がけていて、行政の方針も理解していたからでしょう。

「規制緩和がイノベーションを推進する」という好例でもあると思います。

 

本書の最後には、このように書かれています。

—(以下、p.200から引用)—

私は、既存の生命保険会社と同じことをやっていては、金輪際、競争に勝てないと思っています。既存の生命保険会社がやれないことを徹底的にやる。す
なわち、異質の競争を行なうことが、ライフネット生命の活路を切り開くのです。わが国では同質的な競争は激しく行なわれていますが、異質の競争となると、
大いに疑問符が付きます。

—(以上、引用)—

停滞している市場だからこそ、イノベータが勝利する可能性が高い訳ですが、ただ参入するだけでは勝てません。

タイミング、消費者ニーズの理解、戦略の立案、軸をぶらさない戦略の実行力、どれが一つ欠けても、成功にはたどり着けません。

消費者にとって何が必要かを早くから見抜き、他人と違うことをあくまで軸を全くぶらさずに「直球勝負」、消費者のためを貫き通しす、その具体的な方法論が、本書には書かれています。

 

デジタル家電業界におけるイノベーションのジレンマ

デジタル家電市場において、上位企業のシェアが減少しています。

2010/1/29の日本経済新聞一面の記事「デジタル家電、中下位、安値でシェア拡大、09年、薄型TVなど7品目」では、以下のように紹介されています。

—(以下、引用)—

 薄型テレビやノートパソコンなどデジタル家電で、低価格を武器に上位企業のシェアを中下位メーカーが切り崩す動きが広がっている。

….薄型テレビでは東芝が割安な価格で販売を拡大して3位に浮上、首位シャープのシェアは4年ぶりに40%を下回った。

…ノートパソコンでは小型軽量で機能を絞り込んだ「ネットブック」の販売を増やした東芝や台湾エイサーの日本法人がシェアを伸ばした。エイサーは世界3位の規模を生かして部品を安く調達、国内勢より2万円程度安い価格が支持を集め5位以内に入ったもようだ。

…プリンターでも低価格な製品を多くそろえたブラザー工業や日本ヒューレット・パッカード(HP)がシェアを伸ばし、キヤノンとセイコーエプソンの2強のシェア合計は08年に比べて4・8ポイント下がった。

…デフレ経済下で消費者の価格志向は依然として強く、10年もデジタル家電の開発・生産コスト低減に向けた取り組みが加速しそうだ。

—(以上、引用)—

これは、クレイトン・クリステンセンが著書「イノベーションのジレンマ」で述べたように、デジタル家電の性能が向上し、製品の性能が、市場で消費者が求める性能を超えてしまったために起こっているのですね。

 

最近発表されたiPADは、一つの解決策を提示しているように思います。

アップルによると、「パソコンと携帯の中間を狙った」ということですし、アップル独自開発の半導体も使っているということですが、実際に使われている基本的な技術は、恐らくNetbookとそんなに変わりません。

一方で値段は現時点でネットブックよりやや高めです。

様々な付加価値を付けて、スペックや価格だけの競争から抜け出ています。

技術が成熟し、製品の性能が消費者が求めるレベルを超えてしまった中でも戦い続けなければならないメーカーに対して、「付加価値を付けて」「戦う場所を変える」一つの方法論を、iPADは提示しているように思います。

ただ、それが難しいのですよね。本当に。

共感をエンジンとして成長していく、ライフネット生命保険

1月22日(金)に行なわれたライフネット生命保険・出口社長の講演を聞いて来ました。

ライフネット生命は、ご存じない方も多いのではないでしょうか?

実際、ある調査によると、認知度は低いにも関わらず、週刊ダイヤモンドが調査した「プロが選ぶ保険ランキング死亡保障部門」で第1位だそうです。

出口社長のお話しでは、1位の理由は、インターネット経由で保険を販売することで、セールスやマーケティング等の支出を最小限に抑えて保険の価格を半額で提供し、かつ、経営内容を全てガラス張りにして公開しているから、ということです。

また、ライフネット生命は日本で72年ぶりに生まれた独立系保険会社でもあります。

戦後に生まれた数多くの保険会社は、全て系列系だったのですね。

 

講演の冒頭で、出口社長が最初に示された3つの言葉が、印象的でした。

(1).森の姿をしっかりとらえなければ、木を育てることはできない

(2).風が吹かない時は、凧を揚げることはできない

(3).人間が望んだことは、99.9%実現しない

(3).については、異論がある方もおられるかもしれませんが、この後に次の言葉が続きます。

但し、望まなかったことは100%実現しない。

 

ご講演はこの3つの言葉に沿って、世界の中での日本の大きな動きを述べ、その動きの中でなぜライフネット生命が世の中に必要とされたのか、そしてどのようにライフネット生命が育っていったかをお話しされました。

深く広範囲なお話しでした。

その中で、特にライフネット生命に関して、印象的だった話をご紹介します。

1.調査によると、消費者が保険に望んでいることは、「安く」「分りやすく」「比較情報があること」の3つ。現在、これらを実現できていない保険が多いとのこと。

2.そこでライフネット生命では、自社のマニフェストを「どこよりも正直な経営を行い、どこよりもわかりやすく、シンプルで便利で安い商品・サービスの提供を追求する」と定めています。単なる理念に留まらず、人事考課もこれで評価しており、人事責任者は結構大変だそうです。

3.ガラス張り経営は徹底しており、「付加価値保険料率」(保険会社の手数料部分)を、日本で初めて公開しました。系列系の保険会社では、このような情報を公開しようとしても親会社の反対で実現できないため、非常に高い新規参入障壁を乗り越えて、72年ぶりに独立系保険会社として創業したということです。

4.同社は月率8%で成長しています。中国が年率8-10%の成長ですが、これを月単位で実現しているということですね。

5.ライフネット保険では定年はなく、30歳までが新卒扱いです。海外では、大学の学部を卒業した人達は、海外を放浪して色々と体験したり、大学院で勉強したり、と色々な経験をした後に会社に入ります。そのような異質で多様な体験をしてきた人達を求めているということです。

6.「保険料半額実現のためにセールスやマーケティングにお金をかけない」というのは徹底していて、一部地方を除き、TV CM等も行なっていないそうです。そこでブログや口コミでファンを増やそうとしています。講演では、出口社長はこのように話しながら、ライフネットを1枚で紹介したはがき大の紙を「好きなだけ取って周りに差し上げて下さい」と配っていました。講演等の依頼もどんどん引き受けておられるそうです。

7.創業当初、出口社長は「給料は高くできないし、保険のプロを集めなければいけないから、社員は65歳のリタイアした人達中心かな?」と考えていたそうですが、実際にはブログを見た若い人達からの応募が多かったそうです。新しい世の中を作っていく出口社長のビジョンへ共感したからでしょうね。

 

大量生産・大量消費の名残を残している20世紀型企業とは全く異なり、身の丈で共感した人達がゆるやかな繋がりで広がっていくという21世紀型企業の姿を見た思いです。

その出発点は、顧客に対する深い共感にあるのではないでしょうか?

講演の最後の質疑応答で、出口社長が語られた次の言葉が、心に残っています。

経営とは、人と違うことを考えることです。
しかし、それは奇異なことを考えるということではありません。
原理原則で考えるということです。

原理原則ではなく、世の中で当り前と思っている(しかし間違っているかもしれない)情報で考えることが、私達は多いのではないでしょうか?

未来の日本と世界をよりよくしたい、と真剣に考えておられる出口社長のお志にも、深く共感しました。

古今東西の様々なお話しを交えて講演される出口社長のお話しをお伺いして、教養がとても大切であることがよく分った、充実した2時間でした。

 

この講演は、毎月、嶋口・内田研究会が六本木にある日本マーケティング協会で開催しているもので、誰でも参加できます。

私は数週間前に、嶋口先生とお話しする機会があり、その場でこの研究会をご紹介いただきました。

メルマガに登録すると、案内が届きますので、マーケティングにご興味がある方は登録なさってみてはいかがでしょうか?

三流企業がものをつくり、二流企業が技術を開発、一流企業がルールを決める

これは、昨日(1月16日)の日本経済新聞の1面「企業 強さの条件」に掲載されていた言葉です。

以下、引用します。

—(以下、引用)—-

 危機感の裏にあるのは中国の台頭。技術水準の向上だけではない。「三流企業がものをつくり、二流企業が技術を開発、一流企業がルールを決める」。中国企業や政府に広がる言葉を原田は何度も聞いた。明確な国家戦略の存在に驚く。

—(以上、引用)—-

「日本では、中国よりも高品質・高付加価値なものを作っていく」という発想があります。

確かに、そのように差別化して考えていくことも、大切なことです。

しかし、闘いの場を「ものつくり」よりももっと広く意識していくことも、また必要なのでしょう。

プロフィールだけで、ターゲットを絞ってはいけない

マーケティング担当者がターゲットとなる顧客を絞る時、往々にしてプロフィールで絞ることがあります。

例えば、「30代」というように、年齢で絞る

例えば、「家庭の主婦」や「ITエンジニア」というように、職業で絞る

でも、このように絞るのは必ずしも正しくない場合が多いように思います。

 

昨年出版させていただいた「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」のターゲット読者を例にして、考えてみましょう。

元々、この本は、30代前半の新任マーケティング担当者を想定読者として考えていました。

そして、その想定読者のニーズを考えて、書いていきました。

しかし実は、想定読者とターゲット読者は別物と考えていました。

ターゲットは「より分りやすく、かつ面白く、マーケティング理論を理解したい」という人達です。

実際には、必ずしも30代前半ではなく、20代の方も、40代・50代の方も買っています。

 

ここで、仮にタイトルを「30代のための、朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」としたら、どうでしょうか?

30代以外の方は買わなくなります。

また最近、この本はIT業界の方に多く読んでいただいていることが最近分りました。

そこでタイトルを「朝のカフェで鍛える実戦的IT業界のマーケティング力」としたら、どうでしょうか?

IT業界以外の方は買わなくなります。

いずれの場合も、プロフィールを使って絞り込むことで、本来取り込める読者層を外してしまっています。

 

先程、本書のターゲットは「より分りやすく、かつ面白く、マーケティング理論を理解したい」という人達だ、と書きました。

実は、これはニーズでターゲットを絞っているのです。

確かに、プロフィールで絞ると、ターゲットにアプローチすることが容易になります。

そして、プロフィールで絞ることが、必ずしも間違いなのではありません。

問題は、ニーズを考慮しないことです。

ニーズでターゲットを絞り、十分に考慮した上で、そのニーズに基づいたターゲットにアプローチする手段としてプロフィールを活用するようにしていきたいものです。

クレームは、実はとっても稀少な資源

クレームを言ってくる顧客は、不満足を感じた顧客のたった4%だけだそうです。

25名に1人ということですね。

もし今、オフィスにいて視界に入る人が20-30名いたと仮定すると、クレームを言ってくるのはそのうち1名だけということです。

では、残りの人達はどうするか?

クレームを一切言うことなく、去っていきます。

クレームを言うのはエネルギーが必要です。

通常、不満を感じた顧客は、企業に対してこれ以上エネルギーを使いたくない、ということですね。

確かに自分の立場を顧客の立場に置換えて考えると、その通りです。

 

今の時代、顧客満足を実現できない企業は生き残れないと言われています。

そのためには、不満足を感じている顧客の理由を理解し、対応することが必須です。

しかし、ほとんどの顧客はクレームをつけず、去っていくという事実。

だから、クレームは非常に稀少な、宝の山となる資源なのですね。

大切にしたいですね。

 

そう言えば、40代後半になる私は、間違ったことをしても、叱って下さる方がすっかり少なくなりました。20代の頃とはかなり違います。

これもある意味で、クレームと同じです。

叱られるということは、相手も大きなエネルギーを使って下さっている訳で、とてもありがたいことなのですね。

叱られる時に心が穏やかな状態を維持するのは難しいことかもしれませんが、自分のエゴを見つめながら、静かに聞けるように心掛けたいと思います。

【補足】なぜ、顧客の言うとおり返金・交換するのが、合理的なのか?

昨日書いたエントリー「なぜ、顧客の言うとおり返金・交換するのが、合理的なのか?」
について、補足です。

このような行為がローリスク・ハイリターンの投資であるためには、2つ条件があると思います。

妥当でない理由では返品をしないという社会倫理が確立されていること(言い換えればモラルハザードが起きていないこと)、競業他社が同様のことをやっていないことです。

 

妥当でない申し出に対する返品が増加すると、当然ですが、費用が増加します。

実際、こちらの記事を読むと、驚くべき米国の実態が書かれています。

「明らかに何度か使った物であっても、顧客は平気で返品してくる。店側は文句も言わず、さっさと返品処理をする」

2006年の米国の返品率は20%(日本は3%)

という状況です。

 

また競業他社が同様のことを始めると、当然のことですが差別化が図れずに、投資に対するリターン効果(=顧客の定着化)も弱まります。

米国でも、大手小売りのウォルマートが始めて、多くの小売業に浸透していったとのことです。

 

みなが同様のことを始める前に、顧客との信頼関係構築のためにさらなるどのように差別化を図るか、日々見直していくこと。

言うことはたやすいですが、難しいことですね。

 

 

http://twitter.com/takahisanagai

なぜ、顧客の言うとおり返金・交換するのが、合理的なのか?

私達が顧客として店や会社のサービスを利用する際に、色々な問題が発生することがあります。

 例えば、スーパーで買った野菜が一部腐っていたり。

 パッケージの箱に入っているはずの商品が一部なかったり。

一昔前は、このようなことがあっても、店側はなかなか対応してくれませんでした。

証拠となる色々なモノを用意して、やっと返金や交換を認めてもらうことが多かったのではないでしょうか?

 

しかし最近は、不具合を申し出ると、その場で即座に返金や交換等の対応を行うことが、以前よりもかなり多くなってきているように感じます。

私の場合、昨年、ある大手サイトでハードディスクを購入しパソコンの古いハードディスクを換装しようとしたところ、どうしてもうまく換装できませんでした。ダメモトで交換を申し出たところ、即座に対応してもらえました。

 

当ブログで何回かご紹介している「ビューティフルカンパニー」(嶋口充輝著、ソフトバンククリエイティブ)に、その理由が書かれていました。

—(以下、p.134から引用)—

 たとえばディズニーランドでは、お客様が「お金を払ったのにチケットが足りなかった」と申告した場合、決してその申し出を疑わない。アメリカのパブリックというスーパーでは、お客様が昨日買った食品がまずかったというと即座に返金するという。そうした例は多い。

 なぜそんなことができるのか。それは、こうした行為、信頼は投資だからだ。投資には確かにリスクが付きまとう。しかし、この投資は株式投資のようにハイリスク・ハイリターンではない。これは、あくまでも時間差を前提としたローリスク・ハイリターンの投資行為なのだ。だから、これをコストと考えた途端に、関係性の構築は終わってしまう。

—(以上、引用)—

また、「顧客の信用を勝ちとる18の法則 アドボカシー・マーケティング」(山岡隆志著、日本経済新聞出版社)でも、下記のことが書かれています。

—(以下、p.16より引用)—

 このようなシステムでは、顧客が企業を騙すリスクが懸念されるかもしれません。しかし、騙されるリスクより顧客を信用しないために顧客が離れるリスクの方が大きいと、長期的な展望を持つ企業は悟っています。目先の企業利益を考えていては、安定して大きな収益を望むことは難しいでしょう。

—-(以上、引用)—

確かに私の場合、その大手サイトが返品を受け付けた一件の後、商品をネットで買う場合は、返品できるかどうか分らない他通販サイトから買うよりも、少々高くても万が一の場合に確実な対応が期待できるその大手サイトから購入するようになりました。

顧客のLTV (Life Time Value)を考えると、返金・交換をほぼノーチェックで受け付ける行為に伴う費用は非常に安いものです。

まさに、「企業にとって、顧客との信頼関係構築は、確実な投資対象」ということですね。

http://twitter.com/takahisanagai

 


顧客満足と利益との関係は、どのように考えればよいのか?

現代では、「顧客満足の追究」が企業にとって最重要課題であることは言うまでもありません。

一方で、この当り前のことが繰り返し言われ続けているのは、それが実現できていないことの裏返しでもあります。

この顧客満足については、先日もご紹介した「ビューティフルカンパニー」(嶋口充輝著、ソフトバンククリエイティブ)で、下記の文章がありました。

—(以下、p.137-138から引用)—

 以前、アメリカのある長老教授との雑談の折、「これまでマーケティングはいろいろな表現で時代を語ってきたが、結局、顧客が最も大切だと言い続けてきただけさ」といった言葉に強い印象を受けたことがある。

….

 しかし、こんな簡単なことが今でも経営・マーケティング全体の最重要課題になるのは、一体なぜなのだろうか。

 さまざまな理由の中で、特に大きいと思われる原因は、結局、目先の利潤に目を奪われ、顧客の喜びに向かってもっと正直に対応し続けないから、といえそうである。

—(以上、引用)—

しかし一方で、企業としては利益を生まなければ存続できません。

利益の追求と顧客満足の実現との関係は、どのように考えればよいのでしょうか?

2009年12月30日の日本経済新聞「経済教室」に掲載された、神戸大学教授・加護野先生が書かれた論文に、その回答がありました。

—(以下、引用)—

….利益が出ているということは(ステークホルダーへの)支払義務が果たせているということを意味する。利益が出ていないということは、この支払い義務が果たせないあるいは果たせなくなりそうだということである。この意味では利益は重要なのである。しかし、それは企業の目的ではない。われわれは呼吸をしていないと生きていけないが、呼吸をするのが人間の目的だろうか

…..

 利益よりも大きな目的とは何か?ドラッカー自身は「企業の目的は一つしかない。それは顧客の創造である」(『マネジメント・上』)とはっきりと述べている。この目的しかないかどうかについては議論の余地はあろう。しかし利益よりも大切な目的があるのは確かである。不思議なことに、利益よりも大切な目的があるといい続けた企業家・経営者ほど多くの利益を上げている。利益にとらわれてしまうと見えなくなってしまうものがあるからだ。….

—(以上、引用)—

企業を個人の人間にたとえると、

「利益が出ている状態」とは、「息ができ、食べたいものが食べられる状態」

「顧客満足の実現」とは、「生きている目的の実現」

と考えると、分りやすいかもしれません。

顧客満足を追究すると、利益はついてくる。

利益を追求すると、顧客満足は下がっていく。

前者を継続的に実現し続けるようにしたいものですね。

 

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セグメンテーションというのは古い考え方なのか?

セグメンテーションというのはマーケティングでは基本の一つです。

しかしセグメンテーションという考え方は、もしかしたら古くなりつつあるのかもしれません。

「ビューティフルカンパニー」(嶋口充輝著、ソフトバンククリエイティブ)p.104-110で、3つの商売の取引パターンが紹介されています。

—(以下、引用)—

第一の取引パターン
「刺激・反応型」取引は、供給者、つまり一般的には企業が顧客に働きかけて需要を「操作」する取引である。売り手が買い手に商品やサービスの価値観を与え、買い手の顧客反応を引き出そうというものといえる。

第二の取引パターン
「交換型」取引は、顧客の持つ需要に対して企業がうまく「適応」する取引だ。

企業がまず買い手のニーズや欲求を探し当て、それに合うサービスを提供しようとする。その意味で、マーケティングの形としては、「顧客適応型」マーケティングと言われる。….「顧客適応型」マーケティングを行う上で前提条件となるのが、顧客のセグメンテーションである。

第三の取引パターン
「関係型」取引においては、顧客と「共同」するマーケティングが必要になる。第二の取引は、売り手企業があらかじめ顧客のニーズをわかっていることが前提になる。ところが、近年は顧客ニーズの高度化によって、企業が複雑な調査技法を駆使しても正確なニーズがとらえられないことが多い。しかも、そうした対応では、改善・改良はできても、ブレークスルーも起こりにくい。

—(以上、引用)—-

最近、セグメンテーションと顧客中心マーケティングの間のなんとなく違和感を感じていました。

顧客の対象を絞るためにはセグメンテーションの大切さは変わりませんが、一方で、顧客中心に考えるとニーズは一定でない訳で…。

この本で明確にその理由が分りました。

本書では、解決策も提示しています。

—(以下、引用)—

…..第一次的な関係づくりにあたっては、まず関係の場を自らの事業ドメインとして明確にすることが大事だ。一般論でいえば、現在の顧客の上位20%と強力な関係づくりを行えば、80%の安定的な収益源が可能となるため、この20%の顧客を関係の場の主な対象とする。

….そこでまず、売り手が自らの思いや理想を元に事業コンセプトを設定し、そこから仮説的な価値物をつくり上げる。

次にその価値物を顧客に投げかけることによって、顧客からの反応を引き出していく。しばしばこの反応は自律的な顧客の創造的な受け入れや拒絶によって偶発的な結果がもたらされる。その偶発的な反応を無視するのではなく、売り手は自らの思いや理想と調整しながら当初の価値物を新たな価値に再編成して再び買い手顧客に投げかける。このようにしながら、売り手、買い手双方の納得するスイートスポットを追いかけていくのである。

—(以上、引用)—-

いかに顧客と関係性を構築し、「思い」や「理想」を独りよがりではなく、顧客の反応を見ながら調整していくか?そして、変更し続けるか?

将来を予測できない世の中でこそ、このような仮説検証プロセスが有効であることが分ります。

 

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人口減少経済による慢性的な需要不足は、国家予算で需要を作っても解決しない。どうするか?

先日ブログで書きましたように、これからの日本は、人口が減少し、需要は減少傾向にあります。

現時点でも需要不足は35兆円と巨額です。

その需要不足を、政府は国家予算による各種公共投資で補おうとしています。

公共投資は本来、公共投資に伴って、支出した金額以上に国民所得を向上させる「乗数効果」を狙っています。

しかし国家予算全体の半分は、国債に頼っています。

乗数効果を狙っているとはいえ、需要不足を補う分を、未来への借金である国債でまかなうというのは、異常事態です。 

 

ある程度の公共投資は必要なことですが、本来は、官の役割は、規制緩和等で需要を喚起するための仕組みを作ることです。 

ピーター・ドラッカーは「企業の目的は、顧客の創造にある」と言っています。

本来、需要は官ではなく民である企業が顧客創造を通して作っていき、恒常的な需要拡大につなげていくべきなのでしょう。

そしてドラッカーは、「顧客の創造」のためには、顧客の要求からスタートする「マーケティング」と、新しい満足を顧客に生み出す「イノベーション」の二つが必要である、と述べています。

 

現在の日本ほど、顧客中心主義のマーケティングと、それを実現する本来の意味での変革が求められている時代はありません。

今後、いかにマーケティングを実践していくべきか、自分自身の実務においても考えていきたいと思います。

 

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アマゾンの書評が広告になる時代

昨日(2009/12/19)の新聞を読んでいて、ちょっと驚きました。

ある新刊書の広告ですが、アマゾンの書評がそのまま掲載されていました。

 

従来、広告で著名人の書評が掲載されていることはよくありますが、一般の人達が書くアマゾンの書評が広告に掲載されるということは、あまり記憶にありません。

しかし、色々なしがらみがある(かもしれない)著名人による書評よりも、忌憚のない一般人によるアマゾンの書評の方が、読者にとって不思議と説得力があるように感じられました。

 

マスメディアの代表であった広告の世界でも、ネットの集合知を活用し始めているのですね。

 

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入社2年目の女性がヒット商品を生んだ理由は、マーケティングの王道を地道に歩んだから

ITmediaに掲載された『男の知らない“きれい”とは――4000枚以上の写真から完成したカシオ端末の「美撮り」』は、徹底的に顧客視点で考え抜いた、とても素晴らしいお話しですね。

当時、入社2年目だったカシオ日立モバイルコミュニケーションズの中澤優子さんが開発チームに抜擢されて、考案したのがこの「美撮りモード」です。

「人物をきれいに撮れる」ケータイに搭載された機能です。

中澤さんは1984年生まれで当時23歳。

この機種が女性を主なターゲットにしていたこともあって抜擢されたそうです。

中澤さんは中学1年生からケータイを使い始め、今まで43機種使い続けてきたとか。

現在でも4機種同時に使っているそうです。

43機種という数も、4機種同時というのも、驚きです。この世代にとって普通なのでしょうか? (私は14年間で6機種しか使っていません。うむむ)

 

リンク先の記事には、中澤さんご本人がモデルになって、「通常モード」と「美撮りモード」で撮り比べた写真が掲載されています。

これで注目の画質が比較できます。

確かに微妙な差ですが、本当に決定的な差ですね。

この写真の差を見るだけでも、女性の心がいかに微妙なものなのかということが、よく分ります。

素晴らしいのは、この微妙な差は、4000パターンもの写真をチェックするという地道な作業を行った末に辿り着いた結果である、ということです。

単なる思い入れだけではなく、あくまで事実に基づいて仮説検証を繰り返して、「具体的にはよく分からないけどきれい」という狙いをまさに実現しているのですね。

マーケティングの王道を地道に歩んで、微妙な人の琴線にタッチした、素晴らしい作品だと思います。

 

「顧客中心主義」というものは、大上段に「お客様第一」を唱える環境ではなく、中澤さんのように、当り前にごく自然に顧客やユーザーのことを考え抜いていくという環境から生まれてくるのでしょう。

大きな拍手喝采を差し上げたいですね。

 


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じゃんけん勝ち抜き戦で勝ち残ったAさんの強みって、何だろう?

100人でじゃんけん勝ち抜き合戦を行いました。

じゃんけん勝ち抜き勝負では、必ず勝者が一人生まれます。

今回はAさんが勝ちました。

そして、Aさんの強みについて色々と分析することになりました。

その結果、ある人は「Aさんの強みは、じゃんけんが滅法強いこと」と結論づけました。

 

うーん、なんか違う感じが。

次に100人でじゃんけん合戦をしたら、Aさんが勝ち残る可能性は恐らく1/100ですよね。

 

これは、後付解釈の典型です。

でももっと複雑な状況では、私たちは十分に考えずこんな結論を出してしまうことも、多いような気がします。

 

一方で、2年前に「統計的手法で、ジャンケンで勝つ方法」という記事で書いた理論もあります。

もしAさんが人知れずこの手法を使って勝率を上げていたとしたら、Aさんの強みはむしろ「理論を実践に応用できる力」と言えるかもしれません。

 

人にしても、企業にしても、強みの見極めって、難しいですよ。

 

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売上が伸びる値下げと、売上が減る値下げの違い

先日ご紹介した「なぜ顧客は逃げてしまうのか」(ジェフリー・J・フォックス著 原田喜浩訳 光文社)から、「8つの広告禁止用語」を紹介しましたが、本書のp.45-47でもう一つ参考になることが書かれていたので、紹介します。

 

商品を値下げする目的の一つは、値下げすることで需要を掘り起こして、全体の売上を伸ばすことです。

しかし、値下げしても需要が増えず、逆に全体の売上が下がる商品もあります。

両者の違いは何でしょうか?

 

商品の需要を、「直接需要」と「派生需要」に分けると、この違いが分ります。

「直接需要」とは、最終消費者の需要です。

「自分が欲しいから買う」ケースで、多くの場合は消費財が該当します。

このような場合、値段を下げたり、クーポン等で買いたい人を増やすことで、需要を喚起し、より沢山売り、売上拡大を図ることができます。

一方の「派生需要」は、最終商品を作るために購入する顧客からの需要です。

たとえば、芝刈り機のタイヤメーカーは、タイやを値下げしても芝刈り機の消費者を増やすことはできません。逆に芝刈り機メーカーの売上が落ちると、タイヤメーカーもあおりを受けます。

結局、商品が派生需要に属するものであれば、どれだけ値下げしても、需要に影響を与えることはできません。

 

ということで、派生需要の商品を扱っている場合、値下げしても全体の需要は減ります。

競争に勝つために企業が値下げ合戦をしても需要は増えることはなく、企業の収益は圧迫され、シェアも変わらないという結果になります。

本書では、「値下げではなく、巧みな広告と営業活動でライバルに差をつけよう。」と締めくくっています。

マーケッターは、市場全体の需要構造を理解する必要があるのですね。

 

法人市場における各種IT製品・サービス(つまり私たちの売り物)は、「企業が生産物を生み出すためのもの」という観点で考えると、派生需要になりそうです。

とは言っても、「ライバルは価格勝負してきているし、この案件は絶対負けられないし」という状況、多いですよね。

ううむ、「いかに価格を下げずに、価値を上げるか」、大きなチャレンジですね。

本社トップダウンで戦略を策定する外資系企業でも、日本で戦略が必要な理由

先週金曜日のオルタナティブ・ブロガー会議の忘年会で、出た話題です。

世界はますますフラット化し、小さくなってきています。

そこで最近のグローバル・カンパニーは、全世界をカバーする戦略を策定して、その戦略を各地域で展開するようになりました。

これを日本の外資系企業に当てはめると、戦略は本社で策定し、日本でその戦略を実行することが求められる、ということになります。

「このような時代、各地域で立てる戦略には、意味があるのか」ということを議論しました。

これは実際に、日々身を以て体験しているテーマですね。

 

結論から言うと、外資系企業で本社が戦略を作っていても、日本でも戦略が必要です。

 

たとえば現在のIBMの基本戦略は、SMARTER PLANETです。

SMARTER PLANETは戦略であるとともにビジョンでもあり、マクロな視点で、お客様の課題を定義したものです。

これがさらに業界別・テーマ別に分れ、各々の課題への解決策が定義されています。

実はSMARTER PLANETのような概念自体は、IBMの中では全く新しい概念ではありません。

1990年代に提唱した「eビジネス」、その後提唱してきた「オンデマンドビジネス」、「イノベーション」が進化した延長線上にあります。

私が所属するソフトウェア事業でも、このSMARTER PLANET戦略をいかにソフトウェアの立場で実現していくかという観点で、グローバルでソフトウェア事業戦略を定義しています。

SMARTER PLANETを実現するためには、様々な仕組み・仕掛けをソフトウェアで構築する必要がある訳で、ある意味で、ソフトウェアはSMARTER PLANETの根幹にあります。

 

このSMARTER PLANET戦略とソフトウェア事業戦略、IBM社員の私が言うのも手前味噌ですが、詳細に理解すると、とてもよくできています。

また日本のお客様の現状の課題に対しても、有効な解決策を提示しています。

最近、IBMのSMARTER PLANET戦略とソフトウェア戦略、及び日本市場の現状分析・お客様の課題と、お客様にとっての意味、日本での展開について、講演させていただく機会をよくいただきます。

おかげさまで、多くの場合、お客様から高い評価をいただき、「IBMのソフトウェアをもっと知りたい」というお言葉をいただきます。

 

一方で、各地域では様々な事情があります。

よく、「日本は世界の他地域と違う。グローバルで立てた戦略は有効ではない」という指摘がありますが、これは、一部当たっていて、かなりの部分ははずれています。

前半の「日本は世界の他の地域とは違う」、確かにそうです。

しかし、日本だけが特殊なのではありません。中国も、韓国も、ドイツも、フランスも、ブータンも、ガーナも、世界の他の地域とは異なります。

各地域がそれぞれ違うことは当り前です。この違いを自分達でどのようにするのかを考えることが必要なのです。

後半の「グローバルで立てた戦略は有効ではない」という指摘、確かに、中には日本で適用できないようなグローバル戦略もあります。

しかし一方で、グローバルで立てた戦略が消化不十分なまま、このように言っているケースも結構あります。

グローバルで立てた戦略を十分に咀嚼して理解し、かつ日本で適用できる部分と修正が必要な部分を認識して、展開していくことが必要なのです。

 

このことは、映画の製作に例えると分りやすいかもしれません。

本社で策定した戦略は、映画のシナリオに相当します。

そして、映画はシナリオに沿って作っていくことが基本的です。

しかし、シナリオだけでは映画は作れません。

シナリオをベースにして、配役や撮影現場の良さを引き出して映画を作っていくことになります。

これを実行するのは、プロデューサーだったり、映画監督になります。

戦略は立案するだけでなく展開して始めて意味がある、と考えると、各地域の戦略担当やマーケティングマネージャーは、このプロデューサーや映画監督に相当すると考えれば分りやすいかもしれません。

 

古くは大化の改新、最近では明治維新、終戦直後の頃の日本は、海外から貪欲に学び、海外のよい部分は日本のよさと積極的に同化させていきました。

考えてみると日本人の得意分野です。

日本のよさと、グローバル企業のよさを活かした組合わせをいかに作り、世の中をよりよくしていくかを考えていくことが、私のような外資系企業に勤めるビジネスパーソンが果たすべき役割なのかもしれません。

8つの広告禁止用語

「なぜ顧客は逃げてしまうのか」(ジェフリー・J・フォックス著 原田喜浩訳 光文社)のp.100-101に、「広告禁止用語」として、8つの単語が挙げられています。

ちょっと長いですが、とても参考になるので、以下に引用します。

—(以下、引用)—

….広告や営業で使ってはいけない言葉があることを知らない人も多いはずだ。広告禁止用語とは、いくら繰り返しても効果が上がらない言葉である。

ある企業は、趣向を変えた広告で読み手を唸らせてやろうと思った。その狙いは見事に成功した。読み手はその広告を見て、唸ってしまったのだから。

「優れた技術 + 卓越した品質 = 違いを生むソリューション」

何を言いたい広告なのだろう?ウーン……。

 

■私、私たち
他人の企業にわざわざ注意を払ってくれる顧客などいない。顧客は、自分のことを考えるのに精一杯である。「私」、「私たち」の代りに、ブランド名か企業名を使おう。客観的なコピーを作るように心がけよう。

■違い
「当社は違います」こんな見栄っ張りの宣伝をあちこちで見かける。え、違いは何かって?「違い」をアピールしたければ、きっちりと「違い」を説明するべきだろう。

■ソリューション(解決策)
問題に対するソリューション以外に何を売るというのだろうか?広告では具体的な解決方法を伝えよう。たとえばあなたの製品が水漏れのトラブルを解消するなら「ドリップストップは水漏れを解消します」と言うべきである。そうすれば顧客は、自分に必要な製品かどうかを判断してくれるだろう。

■クオリティ(品質)
お粗末であれ、高性能であれ、「品質」のない製品などあり得ない。品質を評価するのは、顧客の仕事である。

■テクノロジー(技術)
テクノロジーを活用していない製品などあるだろうか?「ハイテク」というものは存在せず、古い技術と新しい技術があるだけである。シンバルを作るためには300年来の技術が使われるし、ワインを造るためには1000年来の技術と最新の技術を組合わせている。顧客がお金を払うのは、技術ではなく、技術から得られるものに対してである。仕組みを知らなくても、みんなが携帯電話やファックスを使っているのだ。

■生涯(一生)
「生涯価値」「一生モノ」が典型である。ハエと人間では、ずいぶんと寿命が違うが、どちらの長さを意味しているのだろうか?お好きなように解釈して下さい。

■本物
「これが本物です」が典型である。本物とは何だろうか?顧客が魅力を感じると思うのなら、もっと具体的に書くべきだろう。

■最上級の形容詞
例:最高の、最善の、最も優れた、最適化した、最小化した、最も速い、最も明るい、など。中身のない形容詞ではなく、数字を使おう。事実とデータを使うのだ。事実こそが雄弁に語ってくれる。

—(以上、引用)—

 

ううむ、「ごめんなさい!」って感じです。

どの言葉も何かしらの心当たりがあります。

 

この本の著者は、消費財メーカーのマーケティング部門責任者を歴任した後に独立、現在は営業戦略とマーケティング戦略に特化したコンサルティング会社を経営しています。

薄い本ですが、非常に具体的にあるべきマーケティングを提示しています。

自分自身への戒めのためにも、時々読み返したいですね。

 

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「顧客中心主義」と「近視眼的顧客対応」を分けるポイント

「顧客のことを真剣に考えること」は、必ずしも「顧客の言いなりになること」ではありません。

しかし「お客様は神様」という意識が強い日本では、顧客対応が過剰品質になり、顧客に十分な価値を提供できず、過当競争に陥り、低収益にあえぐケースも見受けられます。

 

「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」では、3-1章で、主人公・宮前久美が勤務するA社が、顧客から値引きや個別要件対応を求められて苦戦する中、顧客のいいなりにならずしかも価格が高いライバルX社に、競合案件で負ける場面を描きました。

ご参考までに、ご興味ある方は本書を買わなくても、抜粋記事をここでご覧になれます。

 

顧客目線で徹底的に考え抜くX社を「顧客中心主義」、顧客が言ったことにすべて対応しようとするA社を「近視眼的顧客対応」と区別するのは簡単です。

しかし、実際にビジネスの現場にいると、自分が行っている対応はどちらなのか、認識するのがなかなか難しいのが現実なのではないでしょうか?

 

X社のように高い価値を提供している企業の実例として、2年半前に当ブログの記事『ソリューションのキモは「問題は解決を待っている!!」という視点』で書いた、前川製作所があります。

ある鶏肉加工場で作業員が手作業で鶏のモモ肉の骨をはずしていました。

鶏肉加工業者は、「この業界では昔から手で骨を取り出すことになっている。それ以外の方法があるのではと考えること自体がばかげている」と思っていました。

これを見た前川製作所の社員は、苦労の末、自動脱骨機を開発しました。

鶏肉加工業者に見せたところ、一目でその価値が理解されて、その便利さに飛びつきました。

「自動で脱骨する」というニーズはあったのに、顧客自身は気がついていないということですね。

 

もちろん、ご自身の課題をしっかり分析し、解決策を正確に把握している顧客もいます。このような場合は、顧客からいただく要望を解決することで、大きな価値を提供することができます。

しかし一方で、顧客が自身の課題を十分に把握していないケースもあります。多くの場合は、自分達が問題を感じていないので、あえてそこまで把握していないことも多いように思います。

このような場合、顧客自身が気がついていない課題を掘り起こせるかどうかが、「顧客中心主義」を実現できるか、「近視眼的顧客対応」に終始するかの分かれ目です。

そのためには、「課題掘り起し力」と「課題解決力」が必要になるのでしょう。

前者は、顧客を理解する力、後者は自分達が持っている製品やサービスに基づいたスキルがベースになると思います。

IT業界特化のマーケティング教科書って、いいかも

「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」を出版してから、2ヶ月が経ちました。

ブログやTwitter、mixi等でも多くのご感想をいただき、おかげさまで好評です。

いただいた中には、「ソフトウェア会社がマーケティングを実施する際に出会う問題の多くが網羅されている」というご感想もありました。

「マーケティング研修用に大量に購入して活用する予定」というご意見もありました。(このような場合はセミナー講師をさせていただきますので、お気軽にお声掛け下さいませ)

実際、先日の「ビジネスパーソンのための出版戦略」セミナーでも、「本書を企業内での研修に活用するように、展開されてはいかがですか?」というアイディアもいただきました。

是非やりたいですね。

 

「朝カフェ」は特にIT業界だけではなく多くの業界でも適用できるように書きました。

実際にIT業界以外の方々からも「分りやすく参考になる」というご意見をいただきました。

しかし、私自身がIT業界で長年仕事をしていたこともあり、本書の中で出てくるケーススタディには知らず知らずのうちにIT業界で多く発生する事例が反映されているようです。

 

実は、IT業界特有のマーケティングに特化して考えると、さらに深掘りできる可能性があります。

一例を挙げると、ソフトウェア製品は初期投資費用は莫大ですが、生産コストはほぼゼロという、他の商品にはない特色があります。例えばオープンソースソフトに関わる様々なビジネスは、この性格を活用した応用編です。この辺りを深掘りしていくとか…。

また、日本では、サービスビジネスは人月の価格勝負になっています。この部分をいかに高付加価値なものにシフトするかが、日本のIT業界にとって大きな課題ですが、この辺りの問題を顕在化させて、解決策を提示するとか…。

 

もしかすると結構面白いかもしれませんね。

 

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慶応ビジネスコンテスト(KBC) Study Tourで講演しました

オルタナブロガーの方波見さんのご紹介で、10/10(土)、慶応大学の学生の皆様にマーケティングの講演を行いました。

元々、『朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力』を出版したことがご縁でいただいた話で、方波見さんがご自身のブログに経緯を書いて下さっています。

方波見さんのブログその1

方波見さんのブログその2

方波見さんのブログその3

方波見さんのブログその4

 

(2009/10/11 22:00追記) 講演の様子も書いて下さいました。
方波見さんのブログその5

 

慶応大学・日吉/矢上キャンパスは、25年前まで4年間通っていました。

最後に行ったのは、6-7年前の連合三田会以来でしょうか?

考えてみたら、1984年3月に卒業後、日吉キャンパスに足を運んだのは、在学中に所属していたカメラクラブ(=写真部)の現役生写真展批評会にOBとして参加したくらいで、10回に届きません。本当に久し振りです。

 

今回の講演は、来年1月に行われる慶応ビジネスコンテスト(KBC)のために、定期的にシリーズで行っている勉強会(Study Tour)という位置付けでした。

予定されている勉強会はこちら。この中で、私の担当は「第3回 マーケティング」です。

改めてセッション全体を見ると、充実の内容です。

KBCからの輩出案件はこちらにありますが、「聞いたことがある」という案件も多いのではないでしょうか?

母校の現役学生の方々が主体になって、このような取り組みを行っていることは、OBにとって大きな誇りです。

 

本日の講演では、『朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力』の中から、特にバリュープロポジションと、それを受けた具体的なマーケティング戦略の立て方についてお話しさせていただきました。

さらに、参加者自身が考えているビジネスのバリュープロポジションがどうになるのか、ワークショップ形式でチームを組んで考えていただき、発表し、お互いに講評し合う場も持ちました。

ワークショップの様子はこちらです。参加者は約20名でした。

Kbc200910101

講評では、メンバー間でレベルの高い質疑応答が行き交いました。さすが、意識が高いメンバーが集まっていると、納得です。

また、一見当たり前に思える「顧客中心主義」ですが、このように自分が考えるビジネスに実際にあてはめて深く考えたり、お互いに議論し合うことで、その意味するところがハラに落ちた形で理解できる、ということを再認識しました。

方波見さんからも、ITベンチャーを何社も立ち上げた経営者ならではの深いご洞察に基づくアドバイスをいただきました。

方波見さんの優しい視線からは、次代を担う若い方々に対する方波見さんの熱い気持ちが伝わってきます。

講演終了後も、参加者の方々から具体的で活発な質問をいただきました。

 

私が大学生の頃をふり返ると、写真ばかり撮っていて、このような形でビジネスのことを考えることは全くありませんでした。

最近の若い方々は凄いですね。

私自身も大変勉強になりました。

 

最後に参加者で集合写真も撮ってみました。(最後列一番左が方波見さん、最前列左から3番目が私です)

Kbc200910102

すがすがしい気分になった、よき一日でした。

今回のご縁を下さった方波見さん、Study Tourにご尽力なさっている現役学生のスタッフの皆様には、感謝です。

 

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インサイト/新型プリウスの価格設定、実は100年前のあの車と同じ

インサイトに続き、新型プリウスが発売になりました。

インサイトも新型プリウスも、戦略的な価格設定になっています。

価格設定には大きく分けて「コスト基準型」と、「価値基準型」があります。

自動車の価格付けは、製造コストを積み上げたうえで利益を乗せる「コスト基準型」が一般的だったのではないでしょうか?

これに対して新型プリウスでは、「この値段だったら売れる」という価格(最低価格205万円)を設定しています。スペックアップにも関わらず、この価格でも利益が出ているのは「さすがトヨタ」ですが、この割安感のために予約受注は8万台を越えたとのことです。

インサイトも189万円という戦略的な価格設定で、先月の新車販売台数第一位を獲得しています。

これらは、まさに「価値基準型」ですね。 まず「これなら売れる」という価格を設定し、必要な利益を差し引いて、残ったコストで製品を作る、という考え方です。

一般に、「価値基準型」の価格設定は、現代の価格付けであると言われています。

しかし、実は100年前にこの方法で価格設定を行った有名な事例があります。

そして、その事例について述べた論文が書かれたのは1960年。もう50年も前のことです。

ハーバード大学教授だったセオドア・レビットは、歴史的論文「マーケティング近視眼」で以下のように述べています。

—(以下、引用)—

世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。

フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、500ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが1台500ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。

大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

….フォードがその経営哲学を簡潔に述べた文章を紹介しよう。

「当社のポリシーは、価格を引き下げ、事業を拡大し、製品を改良することである。価格の引き下げを第一に挙げたことに注意して欲しい。….まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つように懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない。新しい価格が決められると、それにつれてコストを下げるからである。….

….まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ。….このように追い込まれた状況の中で、製造方法や販売方法について発見を重ねていくのであって、時間を掛けてゆっくり調査研究した結果ではない」

—(以上、引用)—

この方法、現代の日本でインサイトと新型プリウスが実現した価格付けと同じですね。

T型フォードは、米国で、それまで限られた富裕層の贅沢品だった自動車を大衆のものにしました。

それから100年後、インサイトと新型プリウスは、日本で、ハイブリッド車を普通の車に変え日本の省エネ化と地球温暖化防止を実現できるでしょうか?期待したいところです。

しかし、進化著しいマーケティング戦略の世界で、50年前の論文が今でも輝いているという事実は、改めてマーケティングの奥深さを認識させてくれます。

デービッド・アーカー最新著 “Spanning Silos – The New CMO Imperative”その2

デービッド・アーカー著・"Spanning Silos: The New CMO Imperative" (「サイロを橋渡しせよ 新しいCMOの規範」)を読了しました。

縦割り組織の弊害を打破するために、マーケティングが行うべき役割が具体的に書かれています。

前回、第二章までご紹介しました。

今回はその続きです。

サイロを橋渡しするための「クロス・サイロ・チーム」について第三章で紹介されています。

—(以下、p.74-88より引用)—–

サイロ組織の弊害を打破するために最もよく活用されるのは、「クロス・サイロ・チーム」だ。

もともとGMのCEOだったアルフレッド・スローンが中央集権排除のために事業部制を導入した際に、相乗効果・規模の経済・アイディア共有を図る上で「クロス・サイロ・チーム」が必要だったのだが、この必要性は100年近く経った今でも不変である。

クロス・サイロ・チームは、ブランド戦略確立の他に、サイロ組織間の相矛盾する利害を調整したり、解決すべき問題を特定する役割を持つ。

クロス・サイロ・チームを成功させるための要因は下記である。

1.ミッションを明確にすること

目的、数値化した目標、アプローチ方法について、お互いをお互いで補完しあえるようなメンバーにより構成されるチームであるべきである。

また、目的についてはあいまいさを排除し、明確にすることが必要である。

2.正しい人選

参加者のクオリティとタイプが、成功の出発点となる。「時間が空いているから」という理由でメンバーに任命すべきでない。自分が所属するサイロ組織について熟知し、仕事の能力、対人能力を持ち、自ら変革を起こす特性を持っていることが必要である。

また、チーム全体でオープンで「ギブ・アンド・テイク」の空気を育んでいくべきだ。他人の言うことをよく聞き、アイディアを育て、対立を建設的に受け入れ、グループ志向の目標を受け入れられることは、チームメンバーとしての重要な特性である。他人と協業し、チームのために努力する時間をコミットできる人が必要なのだ。

無関心だったりネガティブな人間が一人でもいると、グループ全体の努力を壊す可能性がある。

イノベーションの教祖であるトム・ケリーは、(議論の最中に)「では、ちょっとだけ『悪魔の代弁者』(注:あえてあら探しをする人)の役割をしてみようか」という言葉を挟んで自分の自尊心を満たそうとする人の破壊的な力について語っている。現実主義者であることはよいことである。しかしそれは常にネガティブであることではないのだ。

3.リーダーシップ能力

効果的なリーダーは、よいコミュニケーターであるとともに、権限委譲できる人だ。矛盾がある場合はメンバー間で隠さずに議論の遡上に乗せ、各メンバーにオーナーシップを持たせ、コミュニケーションの方法を定めることが必要だ。

4.複数の組織文化への対応

クロス・サイロ・チームは全く異なる組織文化の人間で構成されることがある。

マーケティングの人はエンジニアとモノゴトの見方が全く異なることが多い。また、マーケティングの中にセールスの人がいると宣伝やブランディングについて全く異なった見方をすることも多い。

これらの組織文化の違いは、コミュニケーションの解釈やチームへの参加意欲に多大なる影響を与えうるので、チームとリーダーは組織文化の違いによる現実について注意を払うべきである。

—-(以上、抜粋)—-

一つ一つの指摘は、実際に業務で経験したことと照らし合わせて考えると、「なるほど」と非常に納得できます。

会社の中では、複数部門をまたがったチームで仕事を進める場面が増えています。その際には上記の考え方は参考になるのではないでしょうか?

本書の最後に、CMOが最初の90日で行うべきこととして、二つ挙げています。

—-(p.197より抜粋)—-

最初に行うべきことは、サイロを橋渡しする組織の能力を評価することである。

二番目に行うべきことは、その対応策である。どのような活動と対応策を行うか、そして何よりもどのような優先順位で行うかである。

—-(以上、抜粋)—-

p.199とp.200、及びp.202-204に、これらのための具体的なチェックリストが掲載されていますが、これは大変に参考になります。

このようなチェックリストを見ると、この本に重厚な実用書という趣きを感じます。

机の上に置き、時々確認しながら実務で役立てたい本ですね。

デービッド・アーカー最新著 “Spanning Silos – The New CMO Imperative”

ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。

年末から新年にかけて、色々な本を読んでいます。

その中の一つ。ブランド戦略の第一人者であるデービッド・アーカーが書いた"Spanning Silos: The New CMO Imperative"

タイトルを意訳すると「サイロを橋渡しせよ 新しいCMOの規範」といった感じです。

農産物を貯蔵する倉庫のことを「サイロ」と言います。よく北海道や米国の農村で見かけますね。

部門単位で人材やマネージメントを組織に閉じ込めて、他の組織と協業する意欲に乏しい部門縦割り組織を、「サイロ」という言葉で比喩することがよくあります。

この本では、「CMO(最高マーケティング責任者)の新しい役割は、全社的な視点でサイロ構造を打破し、橋渡しをすることである」と定義し、なぜ多くの企業でCMOが縦割り組織の橋渡しができないのか、橋渡しするためには何をすればよいのか、ということを、全世界40社のCMOにインタビューした結果をもとにまとめています。

このデービッド・アーカーのインタビュー記事で、この本のことを知り、興味を持ちました。

ただ残念ながら、邦訳版はまだ出ていません。

英語の本はどうも苦手で、日本語の本と比べて読むのがかなり遅くなってしまうので、買うのを躊躇していました。

しかし現在私が抱えていて解決したいと思っている問題意識にまさにピッタリです。

いかに部門同士で協業を深め、お客様に対する会社全体の価値を最大化するか、ということは、私がマーケティングの仕事を始めてから10年間、常に大きなテーマでした。

そこで、何らかのヒントが得られればと考え、購入してみました。

清水の舞台から飛び降りる覚悟(お金と言うよりも、読む時間的投資の観点で)で購入しましたが、読んでみると非常に具体的で参考になります。

それぞれの文章で書いてあることが自分の経験や現在抱えている問題に当てはまり、「それでは自分のケースでどのようにすればよいか」と考えながら読み進めることができます。対話的な読書というのはこのようなことを言うのでしょうね。この本と出会ってよかったと思います。

現在は全体の1/4程度を読んだところですが、参考になった点を意訳しながらまとめてみます。(尚、上記引用記事で既に紹介されている部分は割愛します)

—(以下、引用)—-

■(p.34より)CMOの役割(引用記事に記述)を決定づける組織的要因は下記である

・CEOのコミットメントがあるか?
・マーケテイング部門の人材が優れているか?
・事業ビジョンが明確か?
・組織として危機感を持っているか?
・CMOに変革推進者の役割を与えているか?

■(p.52-55より) インテルのCEOであったアンディ・グローブは、ブランド戦略の大切さを本質的に理解していた。1990年代前半、ブランド・ストラテジストであるデニス・カーターと一緒に"Intel Inside"のキャンペーンを立ち上げた。この事例でCMOは「企業戦略のキャプテン」の役割を演じ、サイロである各部門が戦略を実行した。CEOの力なしでは、このようなブランドの成功事例は生まれ得なかった。

CMOがCEOの支援を得るためには、下記が必要。

・マーケティングを事業戦略の推進役として再構成する
・成果のメジャーメントを定める。具体的には、顧客の観点で強力なサイロ横断的な市場トラッキング・データを整備し、現在のマーケテイングプログラムを改善するための必要な実験的プログラムを開発する
・積極的にCレベルの経営層との同盟を図る
・マーケティング戦略やブランドビジョン策定にあたって、CEOの関与を図る

■(p.56-57より) 影響力を行使するにあたって最強の源は、顧客に関する知識である。セグメンテーション・スタディ、民族・地域的な研究、満足度調査、トラッキングデータ等、を整備して信頼を育んでいく。顧客に関する系統的な知識を蓄積することが極めて重要である。

■(p.62より)CMOの最優先項目の一つは、サイロ組織の責任者と対話し問題点について傾聴し学ぶこと。その際にサイロ組織の事業と全社マーケティングの関連づけることが必要である。もう一つの最優先項目は、個人的な関係を築くことである。実際、GoogleのCMOも「サイロの問題に対応するためには個人的な関係確立がカギ」と述べている。

■(p.64-67より) マーケティング・スタッフに必要なスキルは、

(1)下記のような知識

・マーケティングの方法論に関する知識
・ブランドに関する知識
・市場に関する知識
・製品・サービス・技術に関する知識
・組織に関する知識

(2)協業志向であること。特にサイロ志向組織の場合は重要

(3)説得力があること

(4)変革推進者であること

(5)多様な文化を受け入れられること

—(以上、引用)——

一つ一つは、経験などを通じて既に断片的に知識として持っているものではありますが、このように構造的に説明されるととても納得できます。

企業の中にある営業・技術・開発・サービス等の様々な組織の中で、事業戦略の観点で組織全体を横断的にまとめて統合するのはマーケティングにしかできません。

企業の競争力が、製品単体で提供できる価値から、企業全体がお客様に提供できる価値へと大きくシフトしている現代、マーケティングに求められる役割は大きいと思いますし、本書で提言されている内容は極めて大きい意義があると思います。

今後も折を見て本書の内容をフィードバックさせていただきます。

48年前のマーケティング論文で知った、100年前の米国史上最も優れたマーケター

セオドア・レビットが1960年に書いた論文「マーケテイング近視眼」を読んでいます。

この論文は、企業経営におけるマーケティングの本質的な役割を定義した記念碑的な論文です。

例えば、米国の鉄道会社が衰退したのは、自社を「輸送事業」ではなく「鉄道事業」である、と製品主体の発想で狭く定義してしまったため、顧客の新しい需要を満たすことが出来ず、車や飛行機などの他の交通機関に顧客を奪われたためである、という指摘は有名です。

改めて熟読すると、素晴らしい知見に溢れています。

特に素晴らしいと思ったのが「ヘンリー・フォードは、アメリカ史上、最も優れたマーケターであると同時に、最も非常識なマーケターだった」という指摘です。

以下、一部を引用します。

—(以下、引用)—–

世間はきまってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。

フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、500ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが1台500ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。

大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

….フォードがその経営哲学を簡潔に述べた文章を紹介しよう。

「当社のポリシーは、価格を引き下げ、事業を拡大し、製品を改良することである。価格の引き下げを第一に挙げたことに注意して欲しい。….まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つように懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない。新しい価格が決められると、それにつれてコストを下げるからである。….

….まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ。….このように追い込まれた状況のなかで、製造方法や販売方法について発見を重ねていくのであって、時間をかけてゆっくり調査研究した結果ではない」

—(以上、引用)—–

■まず、顧客ニーズから考える。

→そのためには価格から考える。(4Pの中のPriceを、最初に定義)

→その上で生産システムを考える。(Priceの定義に基づき、Productを定義)

…という発想、現代でも出来ている企業は少ないかもしれません。

しかし、今から100年前に既にヘンリー・フォードが実現していたのです。

奇しくもその100年後、ビッグスリーが存続の危機に瀕しているのは皮肉なことです。

「製品ではなく、まず顧客ニーズから考える」という、当たり前のことができず、危機に瀕する会社や事業がいかに多いことか。

私達は、48年前の論文と、100年前の米国史上最も優れたマーケターから学ぶことは、まだまだ沢山あります。

ちなみに、この本、レビットの1960年から2001年までの論文26編が収められています。この正月休みに熟読したいと思います。