永井孝尚ブログ

ブログ一覧

ムラ社会こそ、日本企業の強み

日本社会は「ムラ社会」と言われます。

これは農村社会のイメージです。周りの人は、子供の頃から知っている人ばかり。誰がどんな人なのか、皆がよく分かっています。だからあうんの呼吸でコミュニケーションできます。

日経ビジネス最新号(2023.6.12号)で、半導体用シリコンウェハーで信越化学工業と世界トップを競うSUMICOの橋本会長のインタビューが掲載されています。

この記事で橋本会長は「このムラ社会こそ我々の強み」とおっしゃっています。ムラ社会の強みが、最先端技術の半導体材料で活きるのは、意外なことですよね。さっそく一部引用してみましょう。

—(以下、引用)—

シリコンウェハーは日本人に最も向いている事業だと思います。ウェハーには(インゴットを円盤状にスライスしたり、研磨したりする)多くの工程がありますが、擦り合わせ技術だらけです。隣のヒトと協力して和気あいあいと、いいモノを作ろうというメンタリティーが大事なんです。中国の人には「俺だけが」という意識が強いし、米国もスタンドプレーが好きですよね。日本のムラ社会的なメンタリティは特別だとつくづく思います」

—(以上、引用)—

ちなみにシリコンウェハーは極めて高純度と高精度が求められます。たとえると、「九州2個分の面積に、一円玉が数個転がっている程度の異物しかない精度」だそうです。この精度は、他の国ではなかなか真似できません。

この品質を維持し、かつ高い歩留まりを維持できるのは、お互いがあうんの呼吸で連携できる日本のムラ社会のおかげだというのは、確かに納得できます。

日本企業が強みを発揮できるのは、この擦り合わせ技術です。

1990年代まで日本の電機業界が世界を制したのも、当時の電機業界の主流がアナログ家電で、擦り合わせ技術の固まりだったからです。しかしその後、電機業界は擦り合わせ技術が不要になり、部品の組み合わせで完成品が作れるデジタル家電が主流になって、日本の家電メーカーは衰退しました。

当時の電機業界の衰退は、自分たちの強みは十分に見極められなかったから、という見方もできます。

日本企業の強みは、この擦り合わせ技術にあり、その要因は組織がムラ社会だからだ、ということですね。

一方でムラ社会にも課題があります。

閉鎖的で、ともすると組織に協力しない人が村八分扱いになることです。これが行き過ぎると、組織内の不正が表面化しにくくなります。最近、日本企業の不正や不祥事隠蔽が増えているのも、日本が古いムラ社会のままだからです。

今後、少子高齢化が進んでくると、企業には様々な地域や価値観を持つ多様な人材が入ってきますし、人材も流動化していきます。

こんな時代だからこそ、日本企業はムラ社会の連帯感という強みを活かす一方で、ルールや透明性(ダメなものはダメ)、ビジョン(≒パーパス)の明確化と共有によって、進化していく必要があるのだと思います。

  

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。

朝活永井塾 第76回 『日本の安心はなぜ消えたのか』を行いました

6月7日は、第76回の朝活・永井塾。テーマは『日本の安心はなぜ消えたのか』でした。

日本人は集団主義でお互いに助け合う美風があるといわれています。 

しかし「これは集団というタガをはめられた環境での話」ということを豊富な研究データで露わにしたのが、日米で比較研究を続け、「日本型・ 安心社会からグローバル型・信頼社会へ」と提唱し続けてきた社会心理学者の山岸俊男氏です。

日本人は、実はタガが外れた途端に他人を信用せず、きわめて個人主義的に振る舞うというのです。

「まさか」と思うかもしれませんが、山岸氏の著書『日本の「安心」はなぜ消えたのか』は私たちの常識を次々と覆し、日本社会の本質を露わにした、知る人ぞ知る隠れた日本人論の名著です。

グローバル時代に日本の組織をいかに進化させるべきかを考える上で、本書の洞察は実に示唆に富んでいます。

その影響は、現在日本企業が進めているジョブ型雇用や、ガバナンスの分野にまで及びます。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本を使って、日本の組織について学んでいきました。

『日本の安心はなぜ消えたのか』(山岸俊男著)

5月の朝活『中根千枝 「タテ社会の人間関係」』と同様、今回も日本型組織がテーマでした。前回と今回の内容をあわせることで、日本型集団組織をどのように進化させていくべきなのかを原理原則からより深く考えていくことができます。

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回7月12日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『自ら学ぶ組織を作る方法
ピーター・センゲ『学習する組織』』です。申込みはこちらからどうぞ。

クルマの製造コスト半減に挑戦するテスラ

Tesla発表より

2023年3月、テスラがEVの新しい生産方法「Unboxed Process」を発表しました。これでEVの生産コストが半減する、と言っています。

2023年6月1日の日経産業新聞に詳しい解説記事がありますので、これを参考に見ていきましょう。

とてもひらたく言うと、Unboxed Processとは、車を6つのモジュールに分解し、各モジュールを組み立てて、最後に完成車を作るという方法です。

従来の車作りは、シャーシ(骨格)とボディ(車体)が一体化した車両構造(箱)を作り、そこに外板を取り付けていく、という流れ作業のプロセス。基本は100年以上前のT型フォードの生産方式と同じです。世界に名だたるトヨタ生産方式も、基本的にこの方法です。車の基本的な生産方式は、100年間変わりませんでした。

テスラのUnboxed Processは、名前の通り「箱」を作らずに、6つのサブラインで各モジュールを作り、最後にメインのラインで完成車を組み立てます。

この結果、作業性が向上します。たとえてみれば、ユニットバスのようなものです。マンションで風呂を作り込むのではなく、工場でバス設備一式を予め作っておき、マンションで組み立てて設置する感じです。

テスラはこれで大幅なコスト削減を狙っています。テスラは、現在の最廉価版EV「モデル3」と比べて半額のEVを作ろうとしています。そのためのコスト削減なわけですね。

一方で自動車の専門家は「コストはさほど下がらないのでは?」という意見。組立て工程コストは5割減らせますが、部品・材料を考えるとそれほどならないし、モジュール接続の材料で高くなる部分もある、と指摘します。

一方で工場の専門家は「組み合わせ型からモジュラー型に移行することで、コスト半減の可能性は十分ある」との意見です。実際、パソコンやデジタル家電はまさに同じ事が起こっていますね。

ちなみに7月の朝活永井塾のテーマ「学習する組織」で、経営学者ピーター・センゲはこんな事例を紹介しています。

米国自動車会社の重役が日本の自動車会社の工場を見学しました。 その重役は「本物の工場は見せてくれなかった」と不満顔です。在庫がなかったからです。

重役曰く、「私は製造業に30年携わってきたからわかる。在庫ゼロなんて視察用の芝居に決まっている」

その工場とは、在庫ゼロを実現したあのトヨタ生産方式の工場でした。「工場には在庫がある」と思い込む彼の目には、その後、米国自動車会社を圧倒した最新工場の真の姿が見えなかったのです。

業界への新規参入者は、ときに想像を超えた手を打ってきます。しかしその手は、業界で昔からやってきた人には非常識かもしれませんが、新規参入者にとっては当たり前の常識であることも多いのです。

テスラも、自動車業界の常識には囚われません。

たとえば今では多くの自動車メーカーが取り組んでいるソフトウェアでクルマの機能を追加するOTA (Over The Air)という技術も、もとはテスラが始めたものです。

長年自動車に関わってきた技術者は「クルマの機能追加は、カーディーラーで行うべき」と考えるのではないでしょうか? クルマの機能追加を無線ネットワークで更新するなんて発想は、なかなか難しかったでしょう。

しかしイーロン・マスクが熟知するIT業界では、ネットワーク経由での機能追加は常識。イーロン・マスクは、彼にとっての常識を自動車業界で行っているだけなのかも知れません。

これは新市場を開拓する際に、私たちも参考にすべき考え方だと思います。

自分たちが熟知する常識が、その新市場では非常識であれば、それは大きな武器になり得る、ということです。

テスラの挑戦は、私たちもぜひ参考にしたいものです。

  

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。

英国で大絶賛。「とにかく明るい安村」から学べ!

「安心してください。はいてますよ」
と言えば、あのとにかく明るい安村さん。

実は今、海外でブレイク中です。

英国の人気オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演。あの芸を披露し、拍手喝采でなんとスタンディングオベーション。審査員全員が合格判定したのです。

ステージでは、サッカー選手、競馬騎手、ジェームズ・ボンド、スパイス・ガールズのネイキッド・ポーズを披露しました。このネタ、改めてよく見て下さい。全て英国向けに周到にカスタマイズされたネタばかりです。

ステージ上では、コテコテの正統派ジャパニーズ・イングリッシュで語った安村さん。

あの独特のノリに、審査員もノリノリ。

決めセリフ“Don’t worry. I’m wearing.” (「安心してください。はいてますよ」)と言うと、 審査員の女性二人は立ち上がって、大声で“Pants!”

ちなみに”wear”は英語で他動詞。”I’m wearing.”は英語として不完全。英国人は、他動詞で目的語(O)がないとムズムズするのかもしれません。(英語の第3文型SVOですね)

で、審査員の女性二人は”Pants!”と叫んだのではないか、と思ったりします。まぁ、安村さんの勢いとノリに乗せられたのですね。

まさにボケとツッコミ。そこまで考えて”Don’t worry. I am wearing”と言っていたとしたら、安村さん畏るべしです。

安村さんの芸は、誰でも一目見ればすぐに面白さがわかります。つまりハリウッド映画のように、世界の誰が見ても理解できる「ロー・コンテキスト」なコンテンツです。かつて世界的にブレイクしたピコ太郎も、一瞬でおかしさが伝わる点でロー・コンテキストです。

逆に日本でウケても、世界でウケないコンテンツもあります。たとえばシン・ゴジラは日本でウケましたが、世界ではウケませんでした。ゴジラが市街地にいるのに自衛隊が攻撃できない理由は、日本人ならわかりますが、海外の人からすると意味不明。「攻撃すればいいのに、ホワーィ?」となるわけです。つまりシン・ゴジラは、日本人しかわからない「ハイ・コンテキスト」なコンテンツだったわけです。これでは海外に持っていっても、なかなか難しいですよね。

安村さんの場合、ロー・コンテキストな一発芸を、さらに英国風にわかりやすくアレンジして磨き上げて、ウケるようにしたわけですね。

安村さんの勇気ある挑戦から、私たちが学べることは大きいと思います。

日本で一時ブームになったモノなら、海外用に少々カスタマイズして持っていけば、ブレイクする可能性があるかもしれない、ということです。

勝負を分けるポイントは、「やるか、やらないか」の勇気
そして「数で勝負」。そもそも成功するかどうかなんて、いくら考えても絶対にわからないわけで、どんどん数をこなし、うまくいかなかったら原因を探して再挑戦です。

この二つに尽きるのではないでしょうか?

私は高速に仮説検証を回して学びを積み重ねて進化していく「トルネード式仮説検証」を提唱していますが、まさにそれを実践することですね。

失敗しても、多くの人は気付きません。
でも成功すれば、多くの人の目に止まります。
そして人々が覚えているのは、成功の方なのです。

ぜひ挑戦したいものです。

安村さんにおかれましては、次の挑戦先としてエンターテイメントの本場であるラス・ベガスか、巨大市場・中国への横展開を期待したいところです。

ちなみに安村さん、女性用ビキニのパンツを後ろ前に履いているそうです。

また一時期は仕事が増えたせいで体重が5Kgほど減って腹が引っ込み、パンツが隠しきれなくなって「パンツ見えてる」と客から突っ込まれたため、体型には気を遣っているそうです。

安村さんも色々と工夫をしているのですね。私たちも見習いたいものです。

 

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。

なぜいまだに紙の決算資料を投函するのか?

5月のGW明けは決算発表のピーク。
ということでニュースを何の気なしに見ていたら、驚愕したことがありました。

東京証券取引所(東証)の記者クラブで、企業の担当者が、決算資料をマスコミ各社ごとに忙しそうに投函している場面が映ったのです。当然、紙です。

実際には、企業の情報開示は東証が用意している適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で開示した時点で、投資家に開示したと見なされるので、紙資料を投函しなくても全く問題はないそうです。

念のため過去を調べてみると、大企業を中心に「投函を取りやめる」というニュースも散見されます。

■「トヨタ、決算資料の投函とりやめ」(日本経済新聞、2019年4月11日)  …トヨタは記者クラブの投函をやめる方向で検討。TDnetを通じて公開、ペーパーレス化を進める。

■「日立のある決断で、東証記者クラブ消滅の危機?」(Business Journal, 2015年5月2日) …日立は資料投函を中止すると記者クラブに申し入れ。理由はコスト削減。

しかし2023年になっても相変わらず多くの企業が紙の資料の投函を続けられています。地方の企業もわざわざ手間をかけて資料投函に来たりします。このため投函代行サービスというサービスを提供している会社もあるようです。

実は私がこの場面を見た後、もっと驚いたのが、番組の報道キャスターがそれを当たり前のように報じていたことです。

日頃は「日本のDXなかなか進まないのはナゼ!?」という論調で日本企業の姿勢を嘆いているマスコミ各社が、自分たちマスコミ向けの紙の決算資料投函については、あたかも季節の風物詩のように普通に報道しているわけです。

本来は継続する必要はないのに、今でも紙の投函を継続する人たちにも、恐らくそれなりの理由があると思います。

しかし本来のDXは、このような紙の投函作業の効率化をするのではなく、このような紙の投函作業自体をやめることです。

このようなことが起こる理由は、自分が日々行っていることは、それが当たり前になっているので、外部から言われないと気がつかないためなのでしょう。

振り返ると、私たち自身の身の回りにも、そのような「当たり前=外から見るとおかしいこと」が意外と多いかも知れません。

 

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。