永井孝尚ブログ
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朝活永井塾 第77回 『ピーター・センゲ「学習する組織」』を行いました
7月12日は、第77回の朝活・永井塾。テーマは『ピーター・センゲ「学習する組織」』でした。
ピーター・センゲ著『学習する組織』は、組織が目指すべき進化の方向を描いた、歴史的な経営書です。 ハーバード・ビジネス・レビュー誌も「この75年間でマネジメントに最も影響を与えた本の一冊」に本書を選出しています。
本書が描く「学習する組織」とは、激しい変化の中で自ら学び、進化し続ける組織のこと。そのために人が生まれながらに持つ「自ら学びたい」という力を引き出し、組織全体が学んでいく仕組みを考えていきます。
しかし現実には、従来型組織は真逆。社員は目標に沿って管理され、結果で業績評価されて、「自ら学びたい」という力・自尊心・喜び・好奇心・創造性は失われていますし、目標は社内でバラバラです。従来型組織はもう限界なのです。
そこで学習する組織では、①システム思考、②自己マスタリー、③共有ビジョン、④メンタルモデル、⑤チーム学習といった5つの学習能力を組織が身につけることを目指します。
ただ580ページにも及ぶ本著は「難解で読めない」という人も多いのが現実。そこで今回の朝活永井塾では、ポイントを絞って本書のエッセンスをご紹介し、自ら学ぶ組織のあり方について学んでいきました。
『学習する組織』(ピーター・センゲ著)
久しぶりの経営理論系のテーマでした。
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】





またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
次回8月2日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『アージリス「組織の罠」』です。申込みはこちらからどうぞ。
サイバーエージェントが、生成AIを脅威に思う理由

生成AIは、様々な業界を再編する起爆剤になりつつあります。
ネット系広告で国内最大手の代理店であるサーバーエージェントも、生成AIの登場に強い危機感を持つ企業の一つです。
「サーバーエージェントってIT企業だから、チャンスと思うかもしれないけど、脅威はいい過ぎじゃないの?」と思ってしまいますが、実は本当にヤバいのです。
日経産業新聞2023.6.29号に、サーバーエージェント内藤貴仁常務のインタビューが紹介されています。内藤さんは、広告分野でのAI DX事業を統括しています。
ネット系広告メディアは、グーグルやメタ(Facebook)が圧倒的シェアを握っています。サーバーエージェントの仕事は、企業がこれらの広告メディアで効果的な広告を出すのを支援することです。
しかしグーグルやメタも、生成AIに大規模に投資しています。彼らが生成AIを使って企業に効果的な広告を自動提案できるようになると、サーバーエージェントの存在意義は消滅してしまいます。
つまり企業と広告媒体が直接繋がってしまう、いわゆる「中抜き現象」が起こる可能性があることになります。これって、サイバーエージェントにとって、凄くヤバい状況です。
改めて、「広告仲介者としてのサーバーエージェントの価値とは何か?」を突き詰めた上で、具体的な価値を顧客に分かりやすく示すことが必要になってきます。
そこで同社は日本語の大規模言語モデル(LLM)を公開し、スーパーコンピュータ富岳の活用で大学とも連携しています。そしてAIでキャッチコピーを作ったり、広告効果を予測したり、画像生成AIの活用も推進しています。
つまり「どうすれば、グーグルやメタよりも価値あるネット系広告の提案ができるか」を必死に考えているわけですね。
「でもLLMって技術のカギでしょ。公開しない方がいいのでは?」と思いがちですが、内藤さんは「自分たちだけでいいものを作るよりも、大学を含めて多くの研究者の力を活用して作る方が、良いモノができる可能性が高い」と判断しています。まさにクローズド・イノベーションではなく、オープンノベーションのアプローチです。
振り返ると、ECが流行始めた頃も、「企業と消費者が直接繋がり、仲介者は不要になるのではないか」と言われました。しかし結果として、アマゾンや楽天のように企業と消費者の間を仲介する企業が成長しました。
1990年代前半にIBMが倒産しかけた時もそうでした。当時はマイクロソフト、デル、オラクルなどの強い専業会社が次々と登場し、全て手掛けるIBMは個別製品で戦うと負ける、という状況が続き、IBMを小さな会社に分社化する動きが始まっていました。しかしこの時、外部からCEOに就任したガースナーは「違う。いまや顧客が様々なIT商品を統合しなければならない。顧客にとってこれは困る。IBMなら全領域を熟知しているので、顧客システムを統合できる。問題はその統合スキルを活かしていないことだ」と考えて、分社化の動きをストップ。逆に統合化を進め、サービス事業とソフトウェア事業を立ち上げました。IBMもIT商材を統合する仲介者としてのポジションを見いだして、復活したわけです。
サーバーエージェントの取り組みのように生成AIの登場で、今後様々な業界で再編が進んでいく可能性が高くなっています。
この機会に、あなたの業界では、顧客から見て生成AIが自社のどんな業務を代替し、その結果、自社にどのような影響があるかを具体的に考えてみてはいかがでしょうか?
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監視技術は、人類の価値観を変える?

2023年6月30日の日本経済新聞一面に、こんな特集がありました。考えさせられる内容でした。
『テクノ新世 「ビッグ・ブラザー」姿現す日』
ポイントをピックアップすると…
・中国の監視カメラによる監視技術が、アフリカ諸国などに浸透中
・中国は政府主導で、この2005年以降40ヶ国に輸出
・西側諸国は「監視技術? プライバシー侵害でイヤだよね」となりがち
・アフリカ諸国は「中国製のカメラで監視?別にいいよ。犯罪がなくなり暮らしやすくなった。何が問題?」
・作家オーウェルは1949年にディストピア小説「1984年」で、あらゆる言動を国家が監視する近未来を描いた。しかし今や監視社会は安心安全の理想郷の姿を装う
・一方で使途を逸脱すれば権力の暴走の危険もはらむ。法の支配と人権の配慮は?
…という内容です。
歴史の経緯を考えると、悩ましい問題ですね。
西側諸国もかつて犯罪が多発してきました。しかし数百年間かけて「犯罪は厳罰」「倫理的に振る舞うべきだ」という価値観が徐々に浸透して、信頼社会が構築されました。
しかしデジタルの仕組みを使えば、すぐに「犯罪すると損」という社会が構築できます。そして国民も「安心して歩けるようになった」と歓迎しています。
監視技術を導入する国は、西側諸国から「権力の暴走を生む」と言われてもピンとこないでしょう。国内犯罪は減りますし、政権側からすると権力強化はむしろ歓迎されるかも知れません。
監視技術を輸出する中国政府は、彼らの課題に確実に応えているわけです。中国政府からすると「みんなハッピーで、誰も困っていないじゃん。何が悪いの?」なのかもしれません。
00年代に中国で電子マネーが普及した時のこと。アリババが電子マネーの決済履歴を活用し、融資の際に借り手の信用度を貸し手に提供する「芝麻信用」というサービスを始めました。
「個人情報を勝手に使うのってダメでしょ」と思われがちですが、信用スコアが高い人は有利な条件で融資を受けられるので、利用者は積極的に情報を提供したそうです。現実的な判断ですよね。
一方で西側諸国がこのような監視技術を懸念しているのは…
・よき振る舞いは、倫理観に基づくものなのか?
・よき振る舞いは、損得勘定に基づくものなのか?
この辺りの価値観の違いが生まれてくる懸念が、根底にあるのかもしれません。
「損得勘定でよき振る舞いをしよう」という考え方は、「損しなければ、勝手に振る舞ってもいいんだ」となりがちです。
現在、デジタル監視技術を導入しているのは、人口が急増する発展途上国です。デジタル技術の活用で、従来の西側諸国とは違う価値観を持つ国が、急速に増えつつあることに対する不安が背景にあるようにも思います。
そして50年〜100年後に振り返ると、人間の価値観が大きく変わっていく過渡期がこのタイミングなのかもしれませんね。
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ヒョンデEV戦略成功のカギは、サービスマーケティング

2023年6月5日のテレビ東京「ワールド・ビジネス サテライト」で、韓国ヒョンデ(現代自動車)のEV戦略が紹介されていました。
ヒョンデは20年前にも日本市場に参入しましたが、撤退しています。この時の反省が「日本市場に合わせていなかった」。そこでEV時代を迎えて、満を持しての日本市場再参入です。
この戦略が、実に興味深いものでした。
まず、オンライン販売のみです。
現時点でEVを買うのは、キャズム理論でいうところの新しいモノに抵抗がない「イノベータ」「アーリーアダプター」です。だったらアーリーマジョリティやレイトマジョリティが重視する店舗展開は不要、との判断なのでしょう。
さらに、災害が多い日本市場に併せて外部電源機能付きモデルを投入。ちなみに日本で人気のテスラは、外部給電機能はないそうです。電気代が安い夜間などに充電すれば、電気代を抑制することもできます。
以上は商品戦略とチャネル戦略ですが、さらにカギとなるのがサービスマーケティング戦略。
買う側からすると「店舗がないとしたら、保守サービスはどうなるの?」となるわけですが、ヒョンデは、整備拠点から来た出張整備士が各家庭を訪問しています。
EVはガソリン車よりも部品点数が少ないのが特徴。だから出張整備で修理が間に合うことも多いのです。
そんなヒョンデは、1年でこの新型EVのアイオニック5を700台を販売したそうです。
これは、まさにEVの特性を考えたサービスマーケティングですね。
デジタル時代になって、本格的にモノとサービスが融合し始めています。
このモノとサービスの融合について、慶応大学名誉教授の井関先生は、「牛肉の赤身=モノ、脂身=サービス」にたとえて、次の3段階でわかりやすく説明しています。
■第1段階 すき焼きと脂身(顧客の要望で脂身)
この段階ではサービスは必要悪です。従来の店舗での保守サービスはこちらですね。
■第2段階 サーロインステーキ(脂身は赤身に付随するが分離)
サービスは差別化要素です。ヒュンデの出張サービスはこの段階です。
■第3段階 松阪牛(赤身と脂身は霜降り)
サービス/モノが一体化します。EVで言えば、自動運転サービスになるとこの段階ですね。
いまやモノづくり企業こそ、サービスマーケティング戦略の巧拙が問われる時代。自社が展開可能なサービスがどの段階にあり、将来はどの段階に進化できるかを考える上で、参考になる考え方だと思います。
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「AIだからマチガイないと思うの。だってAIなんでしょ」

先日、テレビニュースを見ていたら「うわッ」と思いました。
それはAIを活用した何かのサービスについて、街頭でインタビューする場面でした。家庭の主婦と思われる女性が、こう答えているのです。
「これ、AIだからマチガイないと思うの」
この時、こう思いました。
「うわッ! これが普通の反応なんだなぁ。でもそりゃ、そう思うよね」
chatGPTを使った人はわかると思いますが、AIは実によく間違えます。
数ヶ月前、charGPTに『永井孝尚が書いた「100円のコーラを1000円で売る方法」について教えてください』と聞いた時も、『永井孝尚は「100円のコーラを1000円で売る方法」を書いていません』という回答が戻ってきて「おいおい。違うよ」と思いました。(先ほど念のためchatGPTで試してみたら、なぜか直っていましたが…)
先日6月12日に行った永井経営塾のゲストライブで、元Microsoftシニアプロジェクトマネジャーの板垣政樹さんをお招きして話し合ったときにも、この「AIよく間違う問題」が話題になりました。
そもそもAIはウソを付こうと思っていません。
AIが間違えるのは、AIの仕組みのためです。
AIは、世の中のある大量の情報を集めて、その中からパターンを見つけます。
そして質問に対して回答候補をいくつか作って、質問への整合性が高い順に答えます。
でも集めた情報の中に答えがあることもあれば、情報が間違っていたり、情報はなかったりすることもあります。
だから正解率が100%のこともあるし、10%だったり0.1%のこともあります。
AIはこんな仕組みで、決して「わかりません」とは言わずに、単に回答候補を並べるだけなのです。
でも普通の人は、こんなAIの仕組みは知りません。
だからこう思うわけです。
「この答え、AIだからマチガイないと思うの。だってAIなんでしょ」
普通の人はAIに100%正解を期待するわけです。
今はまだAIがそれほど一般的ではないので、笑い話で済みます。
でもAIが本格的に普及する近い将来、実はよく間違うAIを「AIだからマチガイない」と思うことは、実に危ういことです。
確かにAIによる自動運転のように、100%に限りなく近い絶対的な正確さが求められるAI活用場面もあります。
一方で、自動運転のようにパターン化できる状況とは異なり、答えが色々あったり、そもそも答えがない状況もあります。たとえば自分の将来の進路だったり、人間関係の問題です。
そのような答えがない状況こそ、私たちはいろいろと考え続けて、場合によってはAIを相談相手にしたりしながら考え続けつつ、自分なりの答えを見つけていく必要があります。
しかしそんな時に、自分で考えずにAIに思考を丸投げし、返ってきた答えを「AIだから正しい」と信じることは、実に危ういことです。
今後、AIを活用したサービスを売り物にする会社も増えていきます。
サービス提供者はともすると「AIは間違うこともありますよ」なんてやぶ蛇なことは言わずに、「AIが答えるので、人間よりも安心です」ということを売り物にする可能性が高いでしょう。これはこれで、問題ですよね。
AIが普及していく近い将来で必要なのは、この「AIは実はよく間違う仕組みになっている」というAIリテラシーを高めることではないかと思った次第です。
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