永井孝尚ブログ
ブログ一覧
朝活永井塾 第75回 『日本組織の特徴は何か? 中根千枝「タテ社会の人間関係」』を行いました
5月10日は、第75回の朝活・永井塾。テーマは『日本組織の特徴な何か? 中根千枝「タテ社会の人間関係」』でした。
「日本人って、やっぱり○○○だよね」
私たちはつい、こう口走ってしまいます。では日本人と海外の人は何が具体的にどう違うか、説明できるでしょうか?
もし答えに詰まるようなら、本書『タテ社会の人間関係』(中根千枝著)がおすすめです。1967年に刊行された、116万部超の超ロングセラーです。
著者の中根氏は、社会人類学者の草分けです。中根氏はインド、英国、イタリアに長期滞在し、現地で社会学の研究をした後、日本に戻り、こう思いました。「そういえば日本の集団構造って、どこも同じよね」。
日本社会は近代化しましたが、基本的な人同士のやり取りは変わっていません。たとえば年功序列。学生時代は先輩・後輩の上下関係が明確。国会議員は当選回数が重要。海外では年齢にかかわらず、能力があれば若くても抜擢されます。なぜ、こんな違いがあるのでしょうか?
そこで、中根氏がホテルにこもり、2週間で書き上げた論文が本書の元です。本書は半世紀を経ても色あせません。
最近はジョブ型雇用なども始まり、「古い慣習は変えよう」という機運も高まり、日本の組織は大きく変わり始めています。しかし日本の組織には日本の組織ならではの個性があります。日本組織の個性を理解することで、より日本にあった形の変革がスムーズにできるようになります。
そこで今回の朝活永井塾では、下記の本を使って、日本の組織について学んでいきました。
『タテ社会の人間関係』(中根千枝著)
『タテ社会の力学』(中根千枝著)
日本組織の特性をちゃんと理解した上で手を打つことが、ビジネス戦略実行の成否を握ることも多いのです。
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】




またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
次回6月7日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『和を以て貴しはウソ? 山岸俊男「日本の「安心」はなぜ消えたのか」』です。日本人論が続きますね。申込みはこちらからどうぞ。
最新商品は、1〜2年で陳腐化する

永井経営塾では、毎月テーマを決めて様々な経営・マーケ理論の講義動画を配信しています。
このために私が講義資料の叩き台を作り、運営チームの皆さんとかなり時間をかけて話し合いながら、講義内容をチューニングしています。おかげさまでの会員の皆様からは高評価をいただいています。
先日、来月配信分講義の打ち合わせをした時のこと。
私の講義はパターンがあり、必ず聴き手の問題意識から入るようにしています。
今回もそのパターンで叩き台を作ったのですが、運営チームの皆さんはビミョーな様子で「うーん。ちょっと違うかも…」という反応。
叩き台は、5年前に多くの企業様からのご依頼でお話しした内容を元に作りました。5年前はとても好評でした。そしてしばらくこのテーマではお話ししていませんでした。つまりわずか5年間で、完全に賞味期限が切れていたということです。
私は10年前に独立してマーケティング戦略の講演をやってきましたが、確かに振り返ると、当初は好評な内容でも1〜2年経つと、同一内容でお客様も違うのに、お客様の満足度が着実に下がるのです。そして最新の知見を入れて内容をバージョンアップすると、お客様の満足度が回復します。
1〜2年で満足度低下が見えるのですから、5年前のプレゼン資料が賞味期限切れするのは当然ですよね。
これはプレゼン資料の話ですが、プレゼン資料は弊社の商品でもあります。
つまりこの話は、多くの商品に当てはまる話です。
たった1〜2年で、商品は陳腐化するということです。
そしてこれは、お客様の満足度をリアルタイムに測定していれば、確実に把握できることです。
御社の数年前の最新商品、賞味期限切れを起こしていませんでしょうか?
そしてお客様の変化を、把握しておられるでしょうか?
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。
「AIでバックオフィス職30%削減」のIBM発表から学べること

世界の金融ニュースを配信するBloombergでこんな記事が掲載され、大きな話題になっています。
「AIが5年で代替へ、バックオフィス職の30%-IBMのCEO予想」
ポイントをまとめますと、
・IBMのクリシュナCEOは5月1日のインタビューで、AIで代替可能な職務は、今後数年間、新規採用を一時停止すると言明
・バックオフィス部門(人事など)で顧客に接しない業務に携わる従業員26,000人のうち、5年間で30%がAI/自動化で代替すると想像→雇用7,800名に相当
私は長年IBMに勤務してきて感じることは、IBMが経営で取り組んでいることは、ほぼ5-10年遅れで世の中に波及していく、ということです。たとえば…
・全社統一CRM
→ IBMでは90年代にプロジェクト開始、00年頃から運用 → 日本では00年代後半から本格化
・コモディティ化した事業の売却
→ IBMではlenovoへのPC事業売却は2004年 → 日本では10年代から本格化
・オフショア化(インドなどへのリソースシフト)
→ IBMでは90年代前半に試行、00年代から本格化 → 日本では00年代後半から本格化
・人事評価へのAI活用試行(ワトソン)
→ IBMでは10年代前半から試行 → 日本では現在試行開始?
IBMで一貫しているのは、徹底した事業の効率化とムダの削減です。現場の努力に頼らずに、トップダウンで仕組み化して効率化を進めているのです。さらにIBMは先進AIテクノロジーも持っています。
そんなIBMが「この5年間でAIによって多くの職務を代替する」とCEO自ら言明しました。今後5-10年で、AIによる職務代替は確実に本格化していくでしょう。
では、何が残るか? そのヒントもインタビューに書かれています。
・(クリシュナCEOによると) 具体的には人事業務のうち、雇用証明発行、部署間人事異動は自動化される。一方で従業員構成や生産性評価などは今後10年間で代替されないと予測。またソフトウェア開発部門と顧客対応業務での採用は継続する
つまり事業戦略に関わる業務、開発業務、顧客に直接接する業務などは、AI時代でも価値を生むということです。むしろこれらの業務は、AI活用で著しく価値を高める可能性もあります。
人類の歴史は、テクノロジーの進化とともにより大きな価値にシフトしていった歴史でもあります。たとえば…
18世紀… 産業革命で動力が生まれ、奴隷制度がなくなり、第二次産業が生まれました。
19世紀… 蒸気機関車が生まれ、駅馬車がなくなり、大量消費社会が生まれました。
20世紀… コンピュータが生まれ、計算業務が消滅し、知識労働が生まれました。
今回の発表も、この流れの中にあるのだと考えると理解しやすいかもしれません。
問題は、私たちビジネスパーソンがこの時代の激流の中にあってどうするか、です。これは抽象的な言い方になりますが、結局は「お客様が必要としている、自分だけの価値」を提供することに尽きるのではないか、と思います。
AIが異次元の進化をしているいま、自分自身のマーケティング戦略が問われる時代になったとつくづく感じます。
引用記事リンク 「AIが5年で代替へ、バックオフィス職の30%-IBMのCEO予想」(Bloomberg.com)
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。
宇宙ロケットの各社失敗から学べること

この数ヶ月で宇宙関係の失敗のニュースが続きました。
昨年10月18日 JAXAのイプシロン6号機、打ち上げ失敗。
3月7日 JAXAのH3初号機、Ⅱ段目が着火せずに打ち上げ失敗。
4月20日 イーロン・マスク率いるスペースXの「スターシップ」が、第2段目を分離できず地上からの指令で空中爆発。
4月26日 宇宙ロケットではありませんが、ispaceの月面着陸失敗。(成功すれば民間企業として世界初)
注目したいのが、その後の対応です。
■JAXAのイプシロン:JAXAで原因究明中。原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定。今後の原因是正処置を検討中。次回打ち上げ未定。
■JAXAのH3:原因絞込み中。現行のH−ⅡAへの影響評価も継続。次回打ち上げ未定。
■スペースXのスターシップ:数ヶ月後に次回テスト。当初から「成功確率は半々」と言っていました。今回の失敗でもイーロン・マスクは「次のテストに向けて多くのことを学んだ」と述べています。もともとスペースXは、当初は打ち上げは失敗続きでしたが、失敗からデータを取得して地道に改善を続けたことが今のビジネスに繋がっています。(ちなみにスターシップは、人類の火星移住のために開発された完全再使用型の超大型ロケットで、従来ロケット比で打ち上げコスト1/100を目指しています)
■ispace: 袴田CEOは会見で明るい顔で「着陸するまでのデータを取得しているのは非常に大きな達成で、次のミッションに向けた大きな一歩だと考えている」。今回得られた知見を活かし、2024年に2回目、2025年に3回目の着陸船打ち上げを計画。将来的には月面への定期輸送サービスの収益化を目指します。
いまや宇宙開発は、日本の国策です。JAXAや関連企業で、現場で宇宙開発に携わっておられる技術者の皆様の苦労は大変なものとお察しします。
しかしその一方で、いくら完璧を目指して検討を重ねても、机上でできることには限界もあります。実際にやってみることで、多くの学びが得られます。
そして宇宙ビジネスは競争が激化し、スピード勝負の世界になりつつあります。
高いリスクがある競争をスピードで制するためには、迅速に仮説を立てて→すぐ実行し→迅速に学んで対策を立てて→また試すこと。これに尽きます。
スペースXやispaceは、この大切さを知り抜き、現場からの学びを重視するアプローチを徹底しています。
JAXAも現在の「完璧な計画を立てる」というアプローチを、大きく見直すべき時期に来ているように感じます。
同様に「完璧を期す」という新規事業のアプローチを変えないばかりに、なかなかビジネスが立ち上がらない企業も多いように感じます。
あなたの会社は、スペースX/ispace型でしょうか? JAXA型でしょうか?
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。
chatGPTの社内活用判断は、鳥取県庁に学べ

chatGPTが相変わらず大きな話題です。実に興味深いのは、組織によって対応が様々なことです。
まず組織で活用する事例が次々と出てきています。
・パナソニックHD:同社傘下のパナソニックコネクトが開発した対話型AIを国内グループ企業で活用できるようにしたと発表。9万人が対象。情報漏洩を防ぐため、社内情報や営業秘密、個人情報を入力しない利用ルールも整備。
・横須賀市:実証実験を開始。文章作成・要約・誤字脱字チェックから。
・農林水産省:一部業務(ウェブサイトのマニュアル書き換えなど)で活用開始。業務効率化を狙う。公表済みの情報のみ
・広島市:県行政で活用。庁内向けプレゼン資料作成、県民サービス広報を目指し活用方法・課題を探る。
・総務省:情報の取扱いに留意しつつ、試行開始。
・東京都:小池知事が「都政における活用のあり方について検討を深める」
・東大:太田副学長より「傍観せずに変化を先取りせよ」
一方で情報漏洩リスクから社員に注意を喚起している会社も多くいます。
・ソフトバンク:業務利用のルールを周知徹底。
・アマゾン:機密情報を入力しないように注意喚起
・みずほFGなどの大手銀行:社員が業務端末からアクセスできないように設定
明確に禁止する組織もあります。
・ニューヨーク市:公立学校の学内ネットワークで使用禁止
・中国当局:国内主要IT企業にChatGPTのサービスを提供しないように指示。(政権に批判的な回答をしかねないため)
・イタリア:一時的に禁止。個人情報保護の対策中。
・鳥取県庁:答弁資料作成、予算編成、政策決定などの件の業務で使用することを当面禁止。
一方で色々な企業様のお話しを伺っていると、現実には「ChatGPTって使ったことがないので、よくわからない。どうも情報漏洩するらしいが、それは困る。だから念のため社内使用は禁止しておこう」という企業様も結構多いようです。
このように整理すると、世の中でchatGPTの問題として大きく取り上げられているのは、情報漏洩ですね。
しかし情報漏洩は、しかるべき対策を取れば対応可能な問題です。実際にパナソニックHDではそのような対策を取っているようです。
私は、chatGPTを組織で展開する上での問題は、もう一段深いところにあると思います。
ここで参考になるのが、chatGPT禁止を打ち出した鳥取県・平井知事の発言です。
『「charGPT」じゃなくて「ちゃんと地道」に。自治体の意志決定に関わることは機械任せにしない。議会答弁で使うとか色々な構想が語られているが、それは民主主義の自殺だ。入力情報には個人情報も含まれるので、秘密保持の観点でも課題がある』
平井知事は、chatGPTの本質をよく考え抜いた上で判断しているように思います。
いまやAIは、それらしい回答をすぐに作ることができます。しかしこれは、全て過去の情報に基づいています。
そしてAIが答えるのは、ネット上にある「誰それがこう言った」というの「事実」に基づく情報のみ。言い換えれば、「真実」を検証しません。
「事実」と「真実」は異なります。
その「事実」(誰それがこう言った)が「真実」なのか、そして「人として正しいことなのか」を検証できるのも、人間だけです。
そして未来のことを考えられるのも、人間だけです。
つまりchatGPTを業務で活用するには、「chatGPTは、間違っている可能性が高い」という前提で使える人が、組織にどれだけいるのか、という問題に辿り着きます。
現実にはSNSのフェイクニュースに騙される人は、決して少なくありません。お恥ずかしいことに、私もフェイクニュースに騙され、Twitterでリツィートしてしまったことがあります。(後ほどお詫びとともに訂正しました)
「chatGPTの回答は、間違っている」という前提で検証し、活用できることが必要です。
そこで必要なのが「仮説検証思考」です。
「間違っているかもだけど、仮に答えを○○○としておこう」と考え、○○○を実際に検証し、間違っていたら即座に修正し、再度確かめる、という思考法です。
現実には、この仮説検証思考を身につけている方は、多くありません。そこで社内のchatGPT展開とあわせて、この機会に仮説検証思考の習得を社内で徹底し、chatGPT活用との相乗効果を図るのも、一つの方法だと思います。
私が気になるのは、chatGPT活用の解禁や禁止を発表する組織の中で、このことを明言しているのが「議会答弁でchatGPTを使うのは、民主主義の自殺」とまで踏み込んで発言する鳥取県の平井知事しかいないことです。
いまやAIビジネス活用の判断は、待ったなし。
だからこそ、私たちはAIの本質を考えていく必要があるのだと思います。
御社の社内では、chatGPTをどのように活用しますか?
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。