「ファミマ、ユニー統合」…企業統合で生まれる顧客価値向上が、統合ロスタイムによる損失を上回るか?

企業買収や合併が増えてきました。

規模の追求を狙い、二社合併を発表するケースもあります。

企業買収や企業統合はどのように考えればよいのでしょうか?

 

そのことを考える上で、週刊東洋経済 2015/3/21号に掲載された「ファミマ、ユニー統合で始まる コンビニ大淘汰」という特集は、買収や合併による効果、イノベーションの追求などを考える上で、とても示唆に富む内容でした。

本記事に2001年のサークルKとサンクスの合併について考察している箇所がありますので、引用します。

—(以下、引用)—

もっとも、今まで違う歴史をたどってきた企業が一緒になったうえで、重複する部分を合理化し、かつ相乗効果を生み出すことは容易でない。くしくもサークルKサンクスの 現実がそれを物語っている。

……並んでいる商品やサービスは一緒なのだが、消費者からは違う店に見えるという、何とも不思議な状態だ

サークルKサンクスはその理由を「それぞれのブランドに顧客が付いている」などと説明してきた。こうした姿勢に業を煮やし、ライバル社 に移ったエリアFC(フランチャイ ズ)会社幹部は「商品や販促、オーナーへの支援、いずれも劣る。どういうコンビニを目指すか見えてこなかった」と憤る。

—(以上、引用)—

 

確かに海外や異分野などの新市場に進出するために買収・企業統合を行い、成功しているケースは多くあります。

 

一方で競合が激しい同一市場内で規模の追求を狙って買収・合併しても、その効果が不十分な事例は、世の中に少なくありません。

この章の「負け組同士、統合の正否」という辛口タイトルに象徴されるように、企業文化が異なる2社を融合しようとしても、それぞれの「組織の論理」が邪魔をしてしまいがちです。

その結果、本来はイノベーションに裂くべき企業の体力が、企業統合というイノベーションを生み出さない作業に費やされます。

そしてその間にライバルのトップランナーは、新しい分野で着々と仮説検証を繰り返し、イノベーションを進めています。

 

ちょうど、チームによる競走レースをイメージするとわかりやすいかも知れません。

Robert Gesink Climbing Alpe D'Huez

先頭チーム(セブン)は、順調に走っています。

追いかける後続チーム(ファミマとユニー)はなかなか追いつけません。そこで複数の後続チーム同士で一体化することで体力増強を図り、キャッチアップを目指します。

一体化するためには、立ち止まって服を着替えたり靴を履き替えたりマシンの調整をしたりする必要があります。

しかしこの時間は完全にロスタイム。その間に先頭チームはどんどん先に進み、タイムは開くばかりです。

ロスタイムを挽回するためには、統合した後に先頭チームを上回る速度で追いかける必要があります。

もし統合後に速度が遅くなると、さらに差が開くばかりです。

 

このように考えると、施策も見えてきます。

 

まず統合のロスタイムを考慮しても、一体化することによる統合化メリットを、数字で把握すること。

両社合計の売上高や店舗数だけで評価すると、どんな統合でも数字は増えます。これだけで判断すると、あらゆる統合ケースで「統合=正しい」になりますよね。統合による価値の本質を見失いがちです。

たとえばこのケースでは、店舗当たりの1日の売上(ファミマ52万円、ユニー43万円)が、統合することで向上し、セブン(66万円)にキャッチアップできるかどうかというのも、一つの指標になり得ます。

統合化メリットが生まれるシナリオが作れるのであれば、一体化するメリットが出てきます。

 

もう一つは、そのシナリオを確定した上で、早期にそのシナリオを実現するために、統合化のロスタイム最小化を図ること。

統合化自体は、顧客に対して新たな価値を生み出す作業ではありません。たとえば統合するとユニーでもファミマの新商品を売ることができます。しかし顧客からすると、統合しなくてもファミマに行けば商品は買えるわけで、顧客にとって大きな価値があるとは言えません。

競走で着替える時間はカウントされるのに距離はまったく進まないのと同じことです。

だからこそ、企業統合はできるだけスムーズに速く進めることが必要です。

合併は結婚のようなもの。結婚同様に、事前にお互いに一つ屋根の下で一緒に暮らしていけるのか、相性を見極めることが大切です。

また、放っておいて現場で自然に二つの会社が融和することもありません。

さらに2社間でどちらの会社に寄せて統合するのか、あるいは藤森さんが率いるリクシルのように全て壊して一から作り直すのか、リーダーシップを明確にすることも大切です。

 

統合化のメリットが、統合化のロスタイムによる損失を上回るのであれば、統合は意味があるものになります。

 

ファミマはかつてam/pmを統合した経験もあります。

ファミマとユニーの統合が成功し、コンビニ業界が活性化して、消費者の利便性がさらに向上するようなイノベーションが生み出されるように願っています。

 

エレクトラックスが価格競争に陥らない理由

「黒船家電の掃除機」というと、ダイソンとアイロボットが有名です。それぞれ「吸引力」や「自働ロボット」といった尖った機能を売りにしています。

実は他にも、国内掃除機市場で伸びている黒船家電があります。北欧のエレクトラックスです。

この会社の売りは、「音が静かなこと」。

「掃除機は音がうるさい」という常識を覆し、赤ちゃんが寝ていたり、家族がテレビを見ていても、安心して掃除機をかけることができます。

 

日経ビジネス2015年3月9日号『企業研究:エレクトロラックス 「音」で打倒ダイソン』という記事で、詳しく紹介されています。

—(以下、引用)—

確かに、「音」は、日本の掃除機市場を牽引する外資2大勢力、ダイソン及びルンバシリーズの数少ない弱点の一つだ。サイクロン方式と強力なモーターでゴミを吸引するダイソン製掃除機は、その構造上、静粛性を追求するには限界がある。ルンバも在宅の際に利用すると、稼働音は人によっては気になるレベルに達しかねない。

 一方、エルゴスリーの運転音は約43デシベル。一般的な掃除機(約70デシベル)の6割程度で、例えると図書館や深夜の市街地レベルしかないという。この静粛性へのこだわりこそが、エルゴスリーが日本で評価を高めている原動力となっている。……

—(以上、引用)—

補足すると、実際には10デシベル違うと大きさは1/10になります。つまり43デシベルのエルゴスリーは、70デシベルの一般的な掃除機よりも、音量が数百分の一。

圧倒的な静音ですね。

 

成熟市場のように思われがちな白物家電ですが、エレクトロラックスはどのように考えてこのような製品を出しているのでしょうか?

記事ではその点についても言及しています。

—(以下、引用)—

 ……なぜエレクトロラックスは家電事業を拡大させようとするのか。その背景には、「白物家電には膨大な改良余地が残されており、そこをクリアすれば需要は掘り起こせる」という独自の発想がある。

 ……ある1つの信念で結び付いている。「現状の家電はまだまだ使う人に心地よくない部分が残っている」だ。

 同社の開発部隊は、掃除機の運転音に限らず、「現状の家電が持つ人に優しくない部分」を根絶するため、日々、異常とも言える実験を続けている。

—(以上、引用)—

 

記事では、経営幹部の言葉を紹介しています。

—(以下、引用)—

掃除機などのデザインを担当するペルニラ・ヨハンソンVPは説明する。

 仮に白物家電市場が成熟しつつあっても、“使って心地よい家電”を追求していくことには広大なフロンティアが残されていると考える。「これからも音や重さ、デザインなどに限らず、ユーザー自身さえ気が付いていない不快の源やニーズを探っていく」。

—(以上、引用)—

 

まさに消費者自身も「当たり前」と思っていて気がつかない困っている課題を先取りし、解決することで伸びているのですね。

しかし改めて、なぜ白物家電なのか?

そこにはしたたかな戦略があります。

—(以下、引用)—

実はそこには、「使う人にとって心地よい白物家電はまだ改良の余地がある」という思想に加え、もう一つ、重要な理由がある。「白物家電市場はデジタル家電に比べ安定している」(マクローリンCEO)がそれだ。

 冷蔵庫や洗濯機、掃除機、調理家電は、「清潔に生活したい」「おいしいものが食べたい」など人間の根源的欲求を満たす製品で、市場が消えることはない。買い替え需要が発生するし、新たな付加価値を打ち出し顧客に認められれば、高くても買ってくれる顧客がいる。

……着実に成長を遂げることができたのは、「主戦場は白物家電」「作るのは人に優しい家電」という2つの絶対軸をかたくななまでに貫き続けた結果だ。

—(以上、引用)—

 

顧客が気がつかないニーズを掘り起こし、応え続ければ、差別化を続けることができ、価格競争に陥らない、ということですね。

 

あらためて、「顧客が気がつかないニーズを掘り起こし続け、自社の強みを活かして、応えること」が、差別化の源泉になるということがわかります。

これは家電業界に限らず、ほとんどの業界で共通なことだと思います。

「安かろう、悪かろうのLCCは時代遅れ」

「格安航空会社」とも言われるLCCは、1970年代に米国で生まれました。1967年に設立され1971年に就航したサウスウェスト航空はその代表格。それから40年以上経過し、今、数多くのLCCが生まれています。

そしてともすると、「LCCは価格勝負に陥っている」とも言われます。

実際のところ、どうなのでしょうか?

 

週刊東洋経済 2015/3/21号の記事「この人に聞く ピーチ・アビエーションCEO 井上慎一 安かろう、悪かろうのLCCは時代遅れだ」で、井上CEOが次のようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—-

LCCの事業モデルを日本流にカスタマイズした。原則としてLCCは払い戻しに応じないが、それでじゃお客様に対して愛がない。そこでチケット代金の10%分を支払えば、一定の条件下で全額を補償する保険をつけた。また、LCCは払い戻しには機内エンターテイメントがない。そこでお客様のスマートフォンなどに、事前に映画や音楽をダウンロードし、機内で楽しめるようにした。

—(以上、引用)—-

 

「なるほど」と思いました。

前者は、払い戻しに応じつつ、ちゃんと収益が出るモデルにしています。

後者は、搭乗客のスマホを画面として使うことで、テレビを各席に装備するコスト増を避けながら、実質的なサービス強化を図っています。

知恵を出して、価値を生み出しておられます。

 

では、なぜこのようなチャレンジが必要なのでしょうか?

井上CEOはこの問いについても答えておられます。

—(以上、引用)—-

……われわれも機材繰りなど基本的なプラットフォームは従来のLCCモデルを踏襲している。それに加えて何か「おもしろいこと」が必要だ。お客様の期待が世界的に変わりつつある。

—(以上、引用)—-

 

お客様の期待は、常に変わっています。

それはLCCに限らず、全てのビジネスでも同様です。

だからこそ現状に留まらず、常に頭に汗をかき、自社の強みを意識しつつお客様から学び続け、価値向上を図っていくことが大切なのだと思います。

「仕事の失敗は、人材教育である」という考え方

最近は少なくなりましたが、社内で部下や同僚を激しく怒る方が、たまにおられます。(叱ると怒るの違いを考え始めるとまた深いテーマですが、当ブログではこのことには触れません)

この是非を考える上で、2015年3月3日の日本経済新聞に掲載されたコラム「森下幸典と経営書を読む なぜ、わかっていても実行できないのか(4) 知識を行動に変えるには 背景の考え方、正しく理解」は、とても参考になりました。

—(以下、引用)—-

 十分な計画ができていなくても、まず行動を起こして様々な経験をしながら修正した 方が良いのです。行動すれば間違いも起きますが、これを寛容に受け入れ、人材教育の機会と捉えることが企業にとって重要です。

叱責ばかりしていては、人は失敗を恐れて行動しなくなります。組織に恐怖心を植え付けるのも、解放するのもトップの行動次第です。現実的に組織には階層が存在します が、むやみに権力の差を見せつけない配慮が、恐怖心からの解放につながります。

フェファーらは「個人として社内の競争に勝利することと、組織ぐるみで市場の戦い に勝つことを混同してはならない」と強調しています。……同僚を打ち負かすという行為 は無用なのです。

—(以下、引用)—-

 

「なるほど」と思いました。

 

世の中が激しく変わっているので、計画通りに行くことはまずありません。

そこで現代では、「仮説を立てて検証する」という試行錯誤、「新しいことに積極的に挑戦し、失敗から学ぶ」ことが、ますます重要になっています。

新しいことに挑戦し、失敗しても、その原因を深掘りして自分の言葉で説明できるようにする。

計画外のことからの学びを、推奨することが必要です。

Confident Businessman

 

このような状況なのに、人の失敗を責め始めると、人は挑戦しなくなり、失敗からも学ばなくなります。

 

「仕事の失敗は、人材教育」という考え方、身につけたいですね。

売上や利益だけを管理しても企業は成長しない。星野リゾートから学ぶ「ノウハウの数値化」と「顧客満足度の数値化と共有」

多くの企業は、売上や利益目標を設定し、日々邁進しています。

中には、今期の売上達成が危うくなると、今期売上に直結しないあらゆる社内活動を禁止し、セールス活動を最優先する企業もあります。

この是非を考える上で、ハーバードビジネスレビュー2015年2月号に、星野リゾート代表の星野佳路さんが寄稿された論文「数値で管理すべきは結果よりプロセスである」は、とても参考になります。

—(以下、引用)—

私は計画が嫌いである。

…予算を策定し、目標必達と言い始めるとやっかいなのだ。

…あらゆる場面で、物事が計画通りに進むことなどほとんどない。

…重要なことは、ある局面で計画通りにやることが本当に正しいのかどうか、判断できる能力を身につけることである。

…目標達成のための計画は「目安」に留め、走りながら変えていくことが大事になる。計画を進めながら、毎日でも変えていくことが理想である。思考停止に陥らず行動できれば、計画も意味を持つだろう。

—(以上、引用)—

 

「計画は、まず計画通りには進むことはない」ということは、多くの方々が経験されていると思います。

ではどうすればいいのか?

星野リゾートでは「ノウハウの数値化」を図っています。

—(以下、引用)—

…社員に、その日いつどこで何をやっていたかを入力してもらうことで、すべての施設に関するサービスチームのマルチタスクのレベルや効率が、レーダーチャートになって出てくる。ノウハウが年々進化していれば、たとえ売上や件数が伸びていなくても心配ない。件数や売上は、後からついてくるからだ。

—(以上、引用)—

 

星野リゾートで取り組むのは、ノウハウの数値化だけに留まりません。

顧客満足度の数値化と共有も図っています。

—(以下、引用)—

……スタッフはだれでも施設の端末から、不満に感じている点、評価されている点を、客観的なデータとして把握することができる。

…利益率などは毎月の決算報告で把握できるが、そこに満足度やノウハウの数字は出てこない。そのため、この部分の数値化は非常に大切だと感じている。

…ノウハウの進化こそ私たちが数値化し、目標設定しなければならない部分である。

—(以上、引用)—

 

ノウハウの進化は、顧客満足度向上に繋がります。そしてノウハウの進化は、社員一人一人が考え、実現しなければならないものです。

だから、社員一人一人が、自分たちのお客様の満足度を把握でき、自分のノウハウをいかに進化させるべきかを自分自身で考えるようにする。素晴らしい仕組みだと思います。

では、これは経営にはどのように繋がるのでしょうか?

星野さんは、その点についても言及しておられます。

—(以下、引用)—

 利益や売上は、競争力の結果である。そして、ノウハウの高さこそ競争力の源泉であろう。だからこそ、ノウハウを数値化し日々マネジメントしていくことが、企業の成長にとって必要なのだ。

 だとすれば、本来は売上や利益や件数などを目標にするのではなく、ノウハウを進化させて、競争力を高めることを目標にすべきだ。それを数値化し、目に見える目標として設定することが、企業の成長に繋がるのだ。

—(以上、引用)—

 

つまり、

(1)ノウハウ進化→(2)顧客満足度向上→(3)競争力向上→(4)売上/利益向上

と考えれば、最初の2つをキッチリ数値化して把握し、(1)のノウハウ進化をしっかり管理すればいい。

至極当たり前のことですよね。

ともすると、(1)と(2)を把握せずに、(4)の結果だけに集中している企業は、冒頭の例にあるように、短期志向に陥ってしまい、長期的に見ると低迷しがちです。

星野リゾート自身が、「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げておられます。まさにノウハウ目標がビジョンになっています。

 

本論文を拝読し、改めて、私自身、企業の「ノウハウ進化」に貢献できるように、日々邁進したいと思いました。

企業が短期志向に走るのも、同族企業が非同族企業よりもの業績がよいのも、「エージェンシー理論」で説明できる、という話

ハーバードビジネスレビュー2015年4月号に、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授の連載「世界標準の経営理論 第8回 エージェンシー理論 人が合理的だからこそ、組織の問題は起こる」が掲載されています。

昨日書いたブログ『「経営者の年収は、上限2000万円でいい」という話』の問題を整理する上で参考になりましたので、ご紹介します。

 

エージェンシー理論では、まず経済主体(プリンシパル)がある行為を代理人(エージェント)に依頼して代わりに行動してもらっている状況を考えます。こんな感じですね。

Principle-Agent

ここで、

(1)両者の「利害不一致」と、

(2)プリンシパルがエージェントの細かい行動をチェックできないこと(「情報の非対称性」)により、

エージェントが合理的に行動することで、結果的にプリンシパルに不利益な行動を取ってしまうことがあります。(「モラルハザード」と呼びます)

エージェンシー理論は、これをどのように回避するかという理論です。

(なお、「モラルハザード」というと倫理的・精神的に捉えがちでしが、ここではそのような議論はしていません。あくまで「情報非対称性」「利害の不一致」によるエージェントの合理的な行動の結果として、プリンシパルにとって不利益な行動を取ってしまう状況を「モラルハザード」と呼んでいます)

 

ちょっとわかりにくいので、例で説明します。

たとえば「会社は株主のもの」という考えのもとでは、株主というプリンシパルが「株主価値最大化」という行為を、経営者というエージェントに依頼しています。

 

ここでまず「利害の不一致」が起こります。

株主は株主価値最大化を経営者に期待していますが、経営者はリスクが高い戦略を採って失敗すると職を失う可能性があります。そこで大きなリスクを伴う経営判断を避けて無事に任期を終えたいと考えがちです。

株主としては、ある程度リスクを取って株主価値最大化を図って欲しいわけですね。

そこで作ったのが、ストックオプションという動機付け(インセンティブ)の仕組みです。株主価値が上がると、経営者も金銭的収入が入ることになります。

 

また、「情報の非対称性」の問題が起こります。

株主は経営者に株主価値最大化を期待していますが、日々の経営者の行動をチェックできません。

収益最大化により株主価値最大化を実現するには、人員整理や給与カットなどの痛みを伴う判断もしなければなりません。しかし痛みは避けたいですよね。そこで経営者は売上増などの規模拡大を追求します。売上が伸びていれば、人員整理や給与カットは避けられます。

そこで作ったのが、コーポレートガバナンスという考え方。たとえば大株主が取締役会に参加するなどして、株主の価値に見合った経営をしているかモニタリングしています。

 

つまり、利害の不一致という問題をインセンティブの仕組みで、情報の非対称性という問題をモニタリングという仕組みで、解消を図っているのですね。

 

プリンシパル=株主、エージェント=経営者、という考え方では、このようになるわけです。

一方で株主などの機関投資家は、長期志向よりも短期志向になりがちです。

昨日のブログでご紹介した城南信用金庫の吉原毅理事長は、まさに「長期的視点よりも短期的視点を優先し、目先の経営にこだわることが問題だ」とおっしゃっています。

このことはどのように考えればよいのでしょうか?

 

これを考える上で、一つのヒントがあります。

「創業家が大手株主で、経営陣に入っている同族企業の方が、非同族企業よりも業績がよい」という結果が、多くの実証研究で得られています。

株式会社の基本は所有と経営の分離ですが、これによりモラルハザードが起こります。

同族企業であれば、株主と経営者の「利害の不一致」と「情報の非対称性」がきれいに埋まり、大胆な戦略を採っても解任リスクは少ないのです。

実際、創業者が大手株主で経営している会社で、長期的視点で大胆な戦略を採り、成功している企業も多いのです。

 

このように、エージェンシー理論に基づいて、誰が経済主体(プリンシパル)で、誰が代理人(エージェント)かを見極め、どのようなモラルハザード(プリンシパルに対する不利益な行動)が発生しているのかを考えると、組織の問題を整理する思考の軸が確立できます。

日々直面する組織の問題を整理する考え方として、身につけたいものです。

詳しく知りたい方は、ハーバードビジネスレビュー2015年4月号の入山准教授の連載をご一読を。

「経営者の年収は、上限2000万円でいい」という話

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日本でも、10億円を超える高額年収を得る経営者が現れていますが、これに対して2015年3月9日の日経ビジネス「異説異論 億単位の高額報酬は無意味 経営者が保身に走るだけ」で、城南信用金庫の 吉原毅理事長が次のように述べておられます。

—(以下、引用)—

……こうした高額報酬は、経営者の意欲を高めることにはつながらない。それどころか逆効果だと私は思う。なぜか。人間は大金を目の前にすると保身に走るものだからだ。そもそも「お金で経営者は動く、人は動く」というその発想自体が大間違いと言える。

……米国を中心に何が起きたか。多くの経営者が巨額の報酬に目がくらみ、長期的な視点を捨て、目先の経営に走るようになった。不正な経営、不正な経理も多発した。揚げ句の果てに起きたのがリーマンショックだ。

 だから経営者、役員の報酬は低くていい。「大企業の経営者こそ収入制限を設けるべき。それは一般社員の給与よりも低いぐらいでもいい」と声を大にして言いたい。規模や業種など企業ごとに状況が異なるため一概に言うのは難しいが、あえて制限ラインの金額を言うなら年収2000万円くらいだろう。

 私自身、理事長に就任後、自らの報酬を大幅に減額、支店長の給与水準以下にした。ほかの役員報酬も順次、減額した。つまり役員になっても報酬は増えない。報酬だけ考えたら支店長のままの方がいい状況を作った。

—(以下、引用)—

「積極果敢な経営をしていない」と言うと、高額を得ている多くの経営者は「そんなことはない」と真っ向から反論するでしょう。

しかし吉原理事長のポイントは、「短期的視点は『積極果敢』ではない。長期的視点の思い切った経営判断こそ重要。長期的視点よりも短期的視点を優先し、目先の経営にこだわることが問題だ」ということです。

短期的視点にこだわることがむしろ保身に繋がる、ということですね。

 

城南信用金庫の吉原理事長は思い切った経営をなさる方と聞いていましたが、自らの給与を大幅に減額したというのは、このコラムで初めて知りました。

では、結果はどうなのでしょうか?

—(以下、引用)—

 そうすれば「会社を変えたい。もっと大きなチャレンジがしたい」というお金が目的ではない、高い志を持った人だけが役員になろうとするからだ。

……私自身の経験から、高額報酬がなくなれば経営者はかえって自由になれると実感している。思い切った経営判断をしても失うものはない。仮に失敗して役員失格となっても、一般社員として出直せばいい。給与面ではダメージがないから腹をくくれるのだ。

—(以下、引用)—

自らの痛みを伴いながら実際に実行なさっているところに、凄みを感じます。

 

1980年代に私が社会人になった頃、日本企業の新入社員と社長の年収差は、欧米企業と比べてかなり低いと言われていました。正確な数字は記憶していませんが、大企業でも10倍以内だったように思います。

当時、日本企業の強みは、短期的な利益追求に走らず長期的に考え、人材をじっくり育成して定着させているところにある、と言われていました。

その後30年かけて、日本企業は徐々に欧米型経営(というより米国型経営)を取り入れてきました。よい面も確かにありましたが、悪い面もあったように思います。

 

日本史教科書にも載っている西暦600年頃の遣隋使・遣唐使のように、古来より日本は海外からの文化や習慣を様々な形で取り込み、自分のモノにしてきました。日本に取り入れる過程で試行錯誤もあったのでしょう。

米国型経営の取り込みも、今後見直されていく方向にあるのかもしれません。

 

 

Business Journal連載第6回目『なぜあの製品は、標準の1.4倍の価格でもヒットしたのか?価格競争から脱出する方法』

Business Jornal連載「企業の現場で使えるビジネス戦略講座」第6回目の記事が掲載されました。

「なぜあの製品は、標準の1.4倍の価格でもヒットしたのか?
価格競争から脱出する方法」

色々とお話しすると、「品質は自信があるのだけれども、値下げ圧力が強くて困っている」とお嘆きの方がとても多いのです。

なぜこうなるのか?

営業が日々会っている方々を見ると、ヒントがあります。

今回は、そのことについて書きました。

ご一読いただければ幸いです。

新事業にこそ、活路がある:自社の強みと足りないスキルを見極め、新常識を既存市場に持ち込み、差別化を図る

昨日のブログ「業種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」」の続きです。

 

日経ビジネス2015年3月2日号の特集「業態転換 常識のウソ・ホント 中小でも富士フイルムになれる」の掲載事例に共通するのは、自社のコア技術(強み)と、新事業で足りないスキルの見極めです。

それぞれの事例をまとめてみました。

■ブランチ
コア技術:建設業で培った店舗の施工・設計
従来製品:建設業
新製品:カフェ・コーヒー豆の輸入販売
足りなかったスキル:カフェ運営スキル
差別化ポイント:カフェ開業したいオーナーに、元建設業の経験を生かし、設計図面の段階から最適な設備を提案可能

■太田組
コア技術:建設業時代の道具。機械の扱い
従来製品:建設業
新製品:農業+自社栽培のタマネギ/ショウガ/ニンニクを原料とした焼肉のタレの製造・販売
足りなかったスキル:農産品の販売
差別化ポイント:自家製のたれのレシピ再現のため、機械扱い技術を活かし、専用の調理設備を導入。

■エアウィーブ
コア技術:ブラスティックス成形加工技術
従来製品:プラスティックス射出成形機
新製品:寝具
差別化ポイント:寝ている人の疲れを軽減できる

■ディージータカノ
コア技術:高い加工精度と設計力
従来製品:業務用ガスレンジの火力調節つまみ
新製品:省エネ機能付き水道部品
足りなかった技術:水関連技術。そこでエキスパートを結集
差別化ポイント:水の勢いを変えないまま水量を10分の1に節水

■幸和産業
コア技術:シルバーカーや車椅子で培った軽量化、安定化、タイヤの形状工夫スキル
従来製品:乳母車/シルバーカー
新製品:高齢者向け歩行器(介護補助対象商品)
足りなかった技術:販路。介護補助対象商品はGMSやスーパーでは販売していない
差別化ポイント:「重い」「不安定」「タイヤが溝にはまる」という3つの不満解消

■オオアサ電子
コア技術:液晶加工技術
従来製品:液晶表示装置加工
新製品:ハイレゾスピーカーやスマホ保護カバーガラス、タッチパネル式看板
足りなかったスキル:営業(ずっと下請けで来たため)
差別化ポイント:部屋のどこでも同じ音質で音楽を楽しめる全方位型スピーカー。ハンマーでも割れないiPhone保護ガラス。大手電機メーカーも販売

 

これらの事例は、市場参入前こそ門外漢ですが、門外漢だからこそ市場の常識に囚われずに新らたなスキル(自社の強み)を市場に持ち込み、学びながら足りないスキルを身につけて、新しい常識を生み出し、その結果差別化を実現しています。

新市場にこそ、活路がある

自社に当てはめて考えると、学びがあるのではないかと思います。

 

改めて感じるのは、様々な状況で新事業への転換を図っているということ。

オオアサ電子長田社長が「事業転換なんてきれいなもんじゃない。ドラマなら面白いかもしれないが、これほど苦しいことはなかった」とおっしゃっている言葉には、当事者しかわからない重みがあります。

業種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」

日経ビジネス2015年3月2日号で、「業態転換 常識のウソ・ホント 中小でも富士フイルムになれる」という特集があります。

ここで富士フイルムの名前が出ているのは、言うまでもなく、フィルム市場が消滅しつつある中、液晶や医療など非写真事業を強化して企業を変革し生き残りに成功したからです。

市場の変化が激しい中、富士フイルムが直面した危機が、多くの市場で起こっています。

この記事では、実際に業態転換をした中小企業を例に挙げて、次のように検証しています。

(ウソ1) 業態転換は最後の手段 → (真実1)業態転換は好調時にこそ決断する

(ウソ2) まずは周辺分野を狙え → (真実2)「飛び地」に出るから、知恵が生まれる

(ウソ3)宝は成長分野にある → (真実3)成熟分野にこそ宝は眠る

 

私は拝読して、これら企業に共通するのは「企業の強み」を徹底的に見極めて活かし、足りないスキルを補強している点ではないか、と感じました。

取り上げられている企業をすべて見てみたいと思います。

 

■ブランチ(愛媛県西条市)

業態転換:建設業→カフェ・コーヒー豆の輸入販売

きっかけ:公共事業の急減

活きるスキル:建設業で培った店舗の施工・設計

欠けているスキル:カフェ運営スキル

—(以下、引用)—

 「飛び地だからといって、既存の技術が応用できないとは限らない。むしろ飛び地に活路を求めたからこそ、既成概念にとらわれず事業に取り組めたと思う」と越智社長は振り返る。

—(以上、引用)—

 

■太田組(大阪府松原市)

業態転換:建設業→農業

きっかけ:公共事業の急減

活きるスキル:建設業時代の道具。機械の扱い

欠けているスキル:販売スキル

—(以下、引用)—

 偶然にも太田社長の祖母がたれ作りの名人で、近所の焼肉店に自家製のたれを卸すほどの腕前だったため、そのレシピを再現。思い切って専用の調理設備も導入した。建設と調理と分野は大きく違うが、機械の扱いなら多くの社員が手慣れたもの。こうして2013年、「大阪河内 万能焼肉のたれ」が誕生した。

—(以上、引用)—

 

■ディージータカノ(大阪府東大阪市)

業態転換:業務用ガスレンジの火力調節つまみ→省エネ機能付き水道部品

きっかけ:2005年頃から中国や韓国から低価格部品が流入

活きるスキル:高い加工精度と設計力

—(以下、引用)—

 2009年に発売した「バブル90」は蛇口に搭載するだけで、水の勢いを変えないまま水量を10分の1にできる。その省エネ性能の高さに消費不況に悩む多くの飲食業者が飛びついた。「あるラーメン店では年間120万円かかっていた水道代が66万円になった」(高野社長)。そんな口コミが2014年に一気に全国の飲食業者の間で広がり、累計販売個数が5万個を突破。2014年度の会社全体の売上高は2013年度の20倍に当たる2億円に到達した。

  「他の水道部品と異なり、バブル90の製造には高い加工精度と設計力が必要。海外勢には真似できない」と高野社長は説明する。

—(以上、引用)—

 

■エアウィーブ(東京都中央区)

業態転換:プラスティックス射出成形機メーカー→寝具業界

きっかけ:射出成形機は海外勢に押されて経営が悪化

活きるスキル:ブラスティックス成形加工技術

—(以下、引用)—

 こうして2007年に発売されたのが、“寝ている人の疲れを軽減できる寝具”エアウィーヴだ。同社はその後、敷布団だけでなく、枕など関連商品も開発。2007年は4000万円だったエアウィーヴの売り上げは2014年度には120億円を見込む。国際線のファーストクラスや高級ホテルにも採用されるなど、販路は今も急速に広がっている。

—(以上、引用)—

 

■幸和産業(大阪府堺市)

業態転換:乳母車→シルバーカー→高齢者向け歩行器(介護補助対象商品)

きっかけ:少子高齢化

活きるスキル:シルバーカーや車椅子で培った軽量化、安定化、タイヤの形状工夫スキル

欠けているスキル:販路。介護補助対象商品はGMSやスーパーでは販売していない

—(以下、引用)—

 歩行器事業は現在、幸和製作所の売上高のうち約3割を占める。2014年の会社全体の売上高は44億円。歩行器事業が牽引する形で、ここ数年、年率2ケタ増という急成長が続く。

—(以上、引用)—

 

■オオアサ電子(広島市山北郡)

業態転換:液晶表示装置加工→ハイレゾスピーカーやスマホ保護カバーガラス、タッチパネル式看板

きっかけ:売上8割の得意先からの契約解除

活きるスキル:液晶加工技術を核に、強みと付加価値を洗い出し

欠けているスキル:ずっと下請けで来たため営業がいない。

—(以下、引用)—

 ピーク時300人いた従業員の数は、115人程度まで減ったが、苦しい4年間も解雇はせず、雇用を守り抜いた。ただ、周辺事業が育ちつつあるとはいえ、2014年の売上高は、契約を解除される前と比べて3分の1。長田社長は「事業転換なんてきれいなもんじゃない。ドラマなら面白いかもしれないが、これほど苦しいことはなかった」と話す。

—(以上、引用)—

 

ただ、例外もあります。

■ディライト(奈良市)

創業者の教えで、15-20年ごとにまったく違う事業に業態変更してきました。

肌着生産工場→ホテル業→輸入雑貨販売→結婚式場運営→(将来、カフェ運営/写真館経営)

見極めポイントは、15-20年後に地域で最ももうかる事業ということ。

ディライトは、過去の事業の強みが活きない分野に多角化しています。

しかし実際には、「強み」についても考慮していまるのです。

—(以下、引用)—

もっとも、「15年後にもうかる」という基準で進出分野を決めてしまえば、白羽の矢が立つ事業は往々にして既存事業と無関係の分野になり、現在持つ技術やノウハウの応用は望めない。「だから準備の時間が必要」と出口社長は強調する。

—(以上、引用)—

 

■はせがわ

仏壇販売から墓石販売へ業態転換しました。

1995年に販売絶好調でしたが、バブル崩壊以降、注文住宅が減り狭くなるので仏壇サイズも小さくなることが予想されました。一方で高齢化社会で墓石販売は安定成長が望めます。

一方で、仏壇と墓石は営業方法が違うので墓石問屋へ修業に出し、時間をかけて事業シフトに着手、現在は200万円以上の仏壇はピークの10%に落ち込む一方、墓石事業が会社を支え、2014年の会社の営業利益は過去最高でした。

 

ディライトもはせがわも、多角化したい事業では現在の強みは活きないので、好調なうちに時間をじっくりかけて必要とされる強みを獲得してきました。

裏を返せば、強みはやはり重要と言うことですね。

 

満を持して渾身の新製品を出したのに、すぐにライバルに追いつかれるのはなぜか?どうすればいいか?

市場調査や顧客調査を徹底し、「これだ!」という課題を見つけだし、新製品を開発、満を持して発表します。

市場の受けもいい。

しかし数ヶ月もせずに、間もなく競合が似た商品を出してきて、価格勝負に陥ってしまう。

こんな経験をされている方、多いと思います。

なぜこうなるのでしょう?

 

大きな原因の一つが、「顧客が買う理由」(バリュープロポジション)の見極めが不十分だからです。

では「顧客が買う理由」を考える際に、どの点が不十分なのでしょうか?

 

当ブログでも何回かご紹介しているように、バリュープロポジションは次のように考えます。

(1) 自社の事業は何か?
(2) 自社の強みは何か?
(3) その強みを必要とするお客様は誰か?(= ターゲット顧客)
(4) そのお客様が必要とすることは何か?(= 顧客課題)
(5) お客様が自社を選ぶためにどうするか?(= 解決策)
(6) バリュープロポジション(お客様が買う理由)は何か?

この「(2) 自社の強みは何か?」の見極めが不十分なまま、ターゲット顧客と顧客課題を考えているので、他社に簡単に追いつかれてしまうのです。

 

とは言え、「自社の強みはどうやって見つければいいのか?」と思われる方は多いと思います。

方法論はあります。

たとえば、現在業績絶好調のユニチャームの強みは、

「不織布吸収体の成形加工技術により、
清潔・衛生・新鮮な快適環境を提供できる」

これをよく読むと、二段階構造になってることに気づかれるのではないかと思います。

「不織布吸収体の成形加工技術により、   →技術
清潔・衛生・新鮮な快適環境を提供できる」 →顧客の価値

 実はユニチャームは、2002年頃にこの「自社の強み」を徹底的に考えて、この強みを活かせない既存事業(芳香剤、幼児教育、さらに創業事業である建材事業など)から撤退を決断、そして強みを活かせる5事業に絞り込みました。

 

かつての強かった頃の日本企業も、「技術」+「顧客価値」で強みとなるコア技術を見極め、それをもとに「製品」を作り、成功してきました。

ソニー:小型化技術(技術)による携帯性(価値) →ウォークマン、ハンディカム(製品)

ホンダ:CVCC等のエンジン(技術)による省エネ・排ガス規制対応(価値) →初代シビック

強みを「技術」+「顧客価値」で考える大切さは、ユニチャームの事例を見ればわかるように、現代でも重要です。

ただ一方で、小型化技術で携帯機器を量産するアップルやサムソンに押されている現在のソニーの苦境を見ればわかるように、「強み」には賞味期限があります。

つまり強みは常に見直し、さらに強化していく必要があるのです。

 

とは言え、「自社の強み」は自分たちにとっては当たり前なので、どうしても過小評価してしまったり、気がつかないのが現実でもあります。

別の強みを持つパートナー企業と組んで事業を進めたり、第三者が入ったりして議論をするのも、一つの解決策です。

 

強みをさらに見極めるためには、ジェイ・B・バーニーが提唱しているVRIO分析や、マイケル・ポーターが提唱する「強みは掛け算で考える」といった方法論もあります。何やら難しそうな言葉ですが、考え方自体はシンプルです。

追って当ブログでご紹介していきたいと思います。

 

価格競争から脱して、新たな価値を生み出した後に起こることは、新たな価格競争。ではどうするか?

講演で、次のようにお話ししました。

「際限のない価格勝負を続けると企業は体力を消耗してしまい、次々と淘汰されてしまうので、業界全体としては永遠には続けられません。だから価格競争が行き着く先には、必然的に価値競争への転換があります」

そして質疑応答の際に、こんなご質問をいただきました。

「価値競争に転換した後、再び価格競争になる、といったように、それは繰り返されるのでしょうか?」

 

皆様は、このご質問にどのようにお答えになりますでしょうか?

 

私は、このように答えました。

「まったくおっしゃる通りで、価値競争に転じても、再び価格競争になります。

なぜかというと、新しい価値を創り出しても、価値には賞味期限があるからです。

たとえば、一時期「企業寿命30年説」というのが流行りました。新入社員として成長産業に入っても、50歳になった頃には構造不況産業になるケースはとても多くあります。企業が新しい環境に適応できず、新たな価値を提供できないと、成長産業と言えどもいつかは衰退してしまうのです。

だからこそ、常に新しい価値を創り出して、価格競争に陥らないようにしていかなければなりません。
その出発点は、どのターゲット顧客の、どのような課題に、どのような解決策を提供するか、です。」

 

常に、いかに新しい価値を顧客に提供し続けるかは、企業にとって永遠の課題。

そしてそれこそが、企業の存在理由でもあると思います。

 

なぜ「お客様が買う理由」(バリュープロポジション)を作ろうとしても、失敗するのか?

「お客様が買う理由」(=バリュープロポジション)は、仮説として徹底的に考えた上で、リアルなお客様に検証することが必要です。

その方法論は、先日のブログで紹介したり、講演などでも紹介している通り、ごく当たり前でオーソドックスなことです。

 

しかし世の中を見ると、失敗に終わるケースも少なくありません。それは「落とし穴」があるからです。

実は15年前に「バリュープロポジション」という考え方を知った私自身、最初の2年間は「バリュープロポジション」の概念をうまく使いこなせませんでした。3年目にやっと掴むことができました。

その後十数年間、私は様々なプロジェクトに参画し、リーダーとしてプロジェクトの中でバリュープロポジション策定を行ったり、戦略アドバイザーとして策定のご支援をしてきました。

 

私の経験を整理して振り返ると、下記の落とし穴があります。

□ ブレインストーミングに多くの時間を浪費してしまう。頭で考えるても答えは出ない。リアルな顧客の実態を知ることに時間を使うべき。

□ 思い込みで「課題」を作ってしまう。思い込みはあらゆる資源を浪費する。

□ 最終顧客(エンドユーザー)ではなく、普段会っている取引先の意見しか聞けない。そして顧客ニーズから乖離してしまう。本来、最重要は、最終顧客である。

□ 顧客の実態がわからないので、特定の課題に絞り込めない。結局、総花的な製品を作ることになり差別化できない。

□ あるいは十分な顧客ニーズの裏付けを持たずに、いきなり差別化しようとして的外れの尖った製品を作ってしまう。一方で顧客ニーズの裏付けがないので中途半端な妥協をし、失敗する。

□ 「ちょっとした差」程度の差別化しかできていないので、すぐにライバルに追いつかれる。強みの見極めが不十分だと弱い差別化しかできない。

□ バリュープロポジションを検証する際、最初の数名の顧客に「興味ない」と言われ、そこで断念してしまう。実際には、10名中9名の顧客は興味がないのが現実。その中で数少ない「興味ある」顧客を見つけるのがカギ。

□ 「課題」でなく、先に「解決策」を作り顧客に検証してしまう。結局、製品中心の発想から抜け出せない。最初に検証すべきは「課題」。「解決策」は「課題」を検証した後に考えるべきである。

□ 「製品開発前に顧客に商品のことは話せない」という強い思い込みがあり、リアルな顧客に検証しない。

□ 現場が試行錯誤しながら仮説検証して失敗を通じ学びを得るのには時間がかかる。現場が着実に学び成長している一方、この「学びの時間」をマネジメントが待てない。そして今度は別の方法で新製品開発の試みを始めてしまう。継続できないので組織として仮説検証思考が定着しない。

□ トップダウン思考から抜け出せない。この方法論のベースになるのは、「ニーズや課題は顧客の頭に、解決策は社員の頭に分散されている」という考え方。仮説検証は、学びを通じこれらの知識を集めるため。社員の自発性・チャレンジ精神を尊重することが重要である。社員が現場から学び続けている状況では、トップはアドバイスに徹することが求められる

 

上記の落とし穴のうち一つでも当てはまると、うまくいきません。

しかし落とし穴にはまっている当事者は、なかなか気がつかないのが現実。

 

私は経営者や事業責任者から、次のようなお悩みをよくお聞きします。

「新製品開発の失敗が多い」

「『いい製品を作れば売れる』という考え方から、なかなか抜けられない」

「『顧客中心主義』になりたいのだけれども、どうしても『顧客絶対主義』の考え方から脱却できない」

「新事業(製品、販売チャネル、顧客開拓)に、社員がなかなか自らチャレンジしようとしない」

これらは、先の落とし穴に嵌まっている可能性が多いというのが、私の実感です。

 

一つの解決策は、バリュープロポジション策定実績が豊富な経験者から、3ヶ月程度の期間、隔週程度の頻度で集中してガイドを受けつつ、新製品や新事業開発プロジェクト、あるいは事業変革プロジェクトを実施し、実業務を通じて学ぶことです。

社員が身を以て体験を通じて学んだことが、企業の力になるのです。

 

そこで弊社では、このようなことでお悩みの企業様へ、新事業戦略コンサルティングをご提供しています。

ご興味がある方は、こちらにより詳しい概要がまとまっていますので、ご一読を。

 

初めて「バリュープロポジション」という考え方に出会ったのは、15年前でした

「バリュープロポジション」を英語で書くと”Value Proposition”。

直訳だと、「価値訴求」とか「価値提案」といった言葉になります。ちょっとわかりにくいですね。

そこで私はお客様にはわかりやすく「お客様が買う理由」と言い換えて、お話ししています。

 

私がはじめてこの「バリュープロポジション」という考え方に出会ったのは、15年前の2000年。IBMで戦略マーケティングマネージャーとして事業戦略を担当し始めた時でした。

IBM米国本社の戦略部門より「バリュープロポジション」という言葉を初めて聞かされました。

「『バリュープロポジション』って、何だろう?」というのが、その時の自分の反応。意味がよくわかりませんでした。

しかしその後、戦略策定業務を通じてこのバリュープロポジションを徹底的に考えるようになりました。そして、「自社だけが提供でき、他社が提供できない、お客様が求める価値のこと。つまり『お客様が買う理由』のことなのだ」ということが、ストンとハラに落ちて理解できました。

その後数多くの事業で、バリュープロポジション開発を通して戦略を策定し、戦略を実践してきました。

たとえば2002年にCRMソリューションのマーケティング戦略立案・実施を担当した際、「IBMしか提供できない、お客様が必要とするCRMソリューションの価値って何だろう?」と考えた末、バリュープロポジションに基づいたマーケティング戦略立案と実践を行いました。チーム一丸となってバリュープロポジション強化を徹底し、日本市場シェア1位と市場認知度1位獲得に貢献しました。

「強いバリュープロポジションは、事業を大きく差別化させ、成果を生み出す」 ということを、身をもって学びました。

この自分自身の体験で、「バリュープロポジションという考え方は、同質の競争で疲弊している日本企業にこそ、まさに必要な考え方なのではないか」と考えるようになりました。

実は世の中にブログや著書などで積極的に情報発信を始めたのは、この頃からです。

 

とは言え普通の会社員なので、出版社に知り合いはいません。日本IBM在職中の2008年に上梓した初めての著書は「戦略プロフェッショナルの心得」という自費出版の本。本書で「バリュープロポジション」の考え方を紹介しました。

その後、2011年3月に再び自費出版で「バリュープロポジション戦略50の作法」を出版。

さらに同年11月には物語形式で「100円のコーラを1000円で売る方法」でバリュープロポジションの考え方を紹介しました。世の中に「バリュープロポジション」の考え方が広まるのに、少しお役に立てたのではないかと思います。

さらに2013年に日本IBMを退職し独立してからは、講演や研修活動でも、「バリュープロポジション」の考え方を広めています。

 

より多くの企業が、「バリュープロポジション」=「お客様が買う理由」を考え抜くようになれば、日本企業はもっと元気になる筈です。

自称「バリュープロポジションの伝道師」として、少しでもお手伝いをしていきたいと考えています。

「お客様が買う理由」を考えるための枠組みは、当たり前のことだった

色々な業界のお客様にお目にかかって、お話しをしていますが、実感することがあります。

「お客様が買う理由」(バリュープロポジション)がどの業界でも重要であること。

そして「お客様が買う理由」(バリュープロポジション)を考えるための方法論は、どの業界でも比較的共通であることです。

 

最近の講演では、

「お客様が買う理由」をいかに作るか?
「ニーズ断捨離」時代に求められる思考の変革

という演題で講演し、「お客様が買う理由」(バリュープロポジション)を考えるための次の枠組みをご提案しています。

(1) 自社の事業は何か?
(2) 自社の強みは何か?
(3) その強みを必要とするお客様は誰か?(= ターゲット顧客)
(4) そのお客様が必要とすることは何か?(= 顧客課題)
(5) お客様が自社を選ぶためにどうするか?(= 解決策)
(6) バリュープロポジション(お客様が買う理由)は何か?

これまで、IT企業、食品製造業、食品流通業、不動産開発業、旅行業、保険業、地方自治体、出版業、情報資産管理業など、色々な業界で講演や研修を行う機会がありました。

 

そしてわかったことは、この枠組みはどの業界でも有効だということです。

考えてみれば、この枠組みは何も新鮮なことはありません。当たり前のことです。

しかし成功している企業は、常に継続的にこれをリアルな顧客を相手に見直しながら、愚直に取り組んでいます。

「マジックはない。愚直にオーソドックスに継続するのみ」なのだな、と実感します。

私自身も、改めて愚直に継続していきたいと思います。

一社単独でなく、パートナーシップで強みを追求する…15年前のIBMの事例から

先日の講演で、こんな質問をいただきました。

当社はIT企業です。ご講演では、「自社単独で強みを追求する」というお話しが中心だったように感じます。一方で自社単独ではなく、他社と協業し、弱みを補いながら、強みを強化するような事例があったら、教えていただけますか?

私はこの場では、あるサービス業界でお互いの強みで弱みを補完し合う事例をご紹介しました。

講演が終わり、「もっといい事例があった!」と思い出しました。

実は9年前の2006年4月、当ブログでも書かせていただきました。

それはまさにIT業界で、しかも私もその渦中にいた、IBMの事例です。

1990年代まで、IBMの強みは「上流コンサルから、サービス、ハード・ソフト等、アプリなど、全てを揃えてでソリューションとして統合できること」でした。当時は自前主義でした。

しかし一方で、1990年代からSAPやSiebelといった業務系アプリケーションベンダーが急成長します。

そこでIBMはケースバイケースで、アプリケーションベンダーと協業しつつも、自社アプリケーションを持つ領域では、アプリケーションベンダーと競合していました。

ある意味、方針は首尾一貫していなかったのですね。

当時、私はCRMソリューションを担当しており、SiebelなどのCRMアプリケーションベンダーはライバルでした。

しかし1999年、IBMは全世界で方針転換しました。

その方針とは、

「今後IBMは、ビジネス・アプリケーション分野は業務系に強いアプリケーション・ベンダーとパートナーシップを組み、IBMの製品・サービスと組合わせて、お客様にソリューションをお届けする」

そしてIBM自社開発アプリケーションについては、既存顧客がいるケースを除き、原則中止しました。

この日を境に、ライバルがパートナーに一転します。

それまでCRMソリューションで競合していたSiebelは、突然、パートナーになりました。

お客様から見ても、IBMがハードやミドルウェア、構築サービスを提供し、その上で先進アプリケーションベンダーの製品を使えた方が、メリットが大きいわけですね。

IBMの強み: インフラや構築サービスに強い

アプリケーションベンダーの強み: 業務系アプリに特化して強い

という、両者の強みを発揮できたわけです。

数多くのアプリケーションベンダーにとって、IBMは強力なパートナーになりました。

それから15年以上が経過し、今や時代はすっかり変わり、クラウドやモバイルを前提として、システムを構築する時代になりました。

パートナーシップの組み方も変わっています。

しかしいずれにしても、「お客様から見た強みはどこにあるか?」がカギであることは変わりはありません。

そのためには、当時IBMが自社アプリをあきらめたように、自社で必ずしもお客に対して高い価値を提供できていない部分は、早急に見直していく必要があります。

強みを判断する基準は、やはりあくまで顧客の価値なのです。

メルマガを始めます

2月2日(月)から2月17日(火)まで、全国各地で講演を8回行いました。

名古屋 5回、大阪 1回、東京 1回、福岡 1回

参加されたお客様は経営者や経営幹部の方々を中心に、合計700名。

質疑応答や懇親会では、様々なご意見やご質問をいただきました。

私の本を「社内で教科書として使っている」という方も多くおられました。

本当に有り難いことです。

そこで、「このような方々に、定期的にメッセージをお届けしたい」と考え、メルマガ『お客様が買う理由を創ろう』を始めることにしました。

配信頻度は月数回程度。色々なことをお伝えしていきたいと思っております。

配信をご希望の方は、こちらからeメールアドレスを登録下さい。

配信開始は、2月下旬を予定しています。

『「それって社長がやりたいんでしょ。自分はやりたくない」という社員には、どのようにすればいいのでしょうか?』

2月は講演続きで名古屋・大阪・神戸・福岡・東京を回っています。

ある講演の質疑応答で、ある社長さんから、こんな質問をいただきました。

仕事では、「これをやりなさい」と上から指示するだけでなく、社員自身が「これをやりたい!」という仕事ができるようにすることが大切だ、ということはよくわかった。確かに知識社会の今は、そちらの方がいいアイデアが生まれてくる。

しかし自社を振り返ると、自分は社長なのでやりたいことばかりやっているが、社員からは「それって社長がやりたいんでしょ。自分はやりたいない」と言われることが多い。「やりたくない」という社員に対しては、どうすればいいのか?

まず、ご自身が「やりたい」と思っている仕事をしているのは素晴らしいことですね。一方で、さらに社員がどのように「やりたい仕事」が出来るようにするかが、このご質問です。

私は次のようにお答えしました。

まず必要なのは、社員との対話だと思います。これからお話しするのは、会社員だった頃の自分のマネージャーの経験です。

当時、私は30代中頃。前任マネージャーの頃から経験あるシニアな人たちが去り、若手中心で人数は半減した状態で、営業支援チームのチームリーダーを担当することになりました。

私自身、人から「これをやりなさい」と言われるのは嫌な性格でした。そこで
チームメンバーにも、「自分はこれをやりたい」という仕事ができる環境を作りたいと考えました。

ただ、いきなり「自分のやりたい仕事を教えて下さい」と言っても、普通はなかなか答えられません。普段から考えることが少ないからです。

そこで、「1週間後に1対1でお話しする時までに、自分が本当に何をやりたいのか、考えておいて下さい」とお願いし、一人一人と話し合いをしました。

意外なことがわかりました。前任マネージャーが各自にアサインした仕事は、実は本人がやりたい仕事ではなかったということです。

たとえばある女性は、容姿を買われて、製品デモの担当をしていました。しかし実際に話しを 聞いてみると、とても意外なことに、人前に出るのは大の苦手で辛かったということがわかりました。本当にやりたい仕事は、デザインや資料作成でした。そこ でお客様向けの資料作成の仕事をお願いしました。お客様別に色々な資料を作る仕事があったのですが、実にいい仕事をしていただき、お客様からも高い評価を いただきました。

色々な幸運に恵まれ、この若手中心の少人数チームは前年を凌ぐ成果を挙げました。その1つの要因は、各自が自分がやりたい仕事に取り組んだことだと思います。

マネジメントは、チーム内で発生する色々な仕事をメンバーにアサインする権限があります。だったらその仕事は、本人が希望する仕事をアサインした方がいいですよね。「やりたい仕事」なので、アイデアも次々生まれますし、成果に繋がります。

もちろん、仕事なので、状況によっては希望が叶えないこともあります。

しかし一方で、「対話をする」ということがとても大事だと思います。状況が変われば希望が叶える可能性も出ますし、何よりも社員ご自身の納得度が違ってくるのではないでしょうか?

皆様だったら、どのようにお答えになりますか?

ペッパーくんと実際に遊んでみた。そしてビジネス活用について考えた

この数週間、講演のため出張続きです。ということで先日、名古屋駅にあるビックカメラに行ってみました。

家電売場フロアーに行くと、あのペッパーくんがいました。ネスレのコーヒーマシンの説明のために、エスカレータを上がったところで待っていました。

【参考までに、これにはこんな背景があります→】「ソフトバンクのロボ「ペッパー」、ネスカフェマシンの売り子に」(Reuters)

実物のペッパーくんとのご対面は初めてです。

ペッパーくんが「あなたに最適なコーヒーマシンを選びます。お好きなメニューを選んで下さい」と言いいながらiPadを掲げるので、選んでみました。

4つほどの質問に答えると、質問にあわせて「あなたにお勧めのコーヒーマシンはコレです」と、お勧めのネスレのコーヒーマシンを教えてくれます。

このシステム自体は、普通のパソコンやタブレットでも出来ます。音声を付けるのも簡単です。

しかし実際にやってみて、「うまく出来ているなぁ!」と思ったことが1つあります。このおかげで、実は質問し始めると途中でやめられないのですね。

何かというと、ペッパーくんがつぶらな大きい瞳で、じっとこちらの目を見ながら話すこと。

こちらが移動しても、ちゃんと首を動かして追いかけます。目の奥にチラチラと赤い光が見えますが、これが画像(私の姿)を追跡しているそうです。

こちらが移動しても、じっと真っ直ぐに無邪気な顔でペッパーくんにじっと見つめられると、途中でやめるのはなかなか難しいですね。「目」というのは、実はとても強力な力を持っていることを実感しました。

もう一つ凄いと思ったのは、相手をするお客さんがいなくなると、周りをキョロキョロして、近くを歩いているお客さんに「いかがですか〜」と声をかけること。ペッパーくん、なかなか優秀な売り子さんでもあります。

これはタブレットやパソコンではできないですよね。

ということで、一旦話し始めたお客さんは、なかなか掴んで離さないペッパーくんでした。

現時点では話題性と物珍しさも手伝って、お客さんが集まっていますが、今後、本当に販売実績に繋げるためには、お客さんの悩みに当意即妙に答えるなど、もう一工夫必要かな、とも思いました。

考えてみると、ペッパーはクラウドベースで感情や経験を「集合知」として共有できる仕組みを持っています。

たとえば数年間のレンジで、店舗のお客さんから要望や質問をクラウドで蓄積し、集合知に基づいて回答する仕組みを作って運用すると、単なる話題性から脱して、大きな武器になりうるのではないかと思います。

原田泳幸氏インタビューから学べる、経営者の覚悟

昨日の続きで、President Onlineの下記記事についてです。

ベネッセホールディングス会長兼社長 原田泳幸「疫病神批判に答えよう」

 

引用しながら、考えたことをまとめたいと思います。

—(以下、引用)—

「トップダウンで強引だ」という声があることは承知しています。しかし、いわゆるクライシス(危機)に直面している会社のトップが、「誰がついてきて、誰がついてこないか」と心配していたら、誰もついてきません。

—(以上、引用)—

私は最近、有り難いことに講演などで経営者の方々とお話しする機会を多くいただきます。その多くは、社員数数十名から数百名程度の、オーナー経営者です。

実感するのは、経営者と企業のマネージャーの間にある意識の違い。誤解を怖れずに言うと、「覚悟の違い」と言ってもいいかもしれません。
私自身も会社員をしていたので経験がありますが、企業の中にいるマネージャーは、「会社が悪いのはココのせいだ。オレだったら、こうする」と言いがちです。

しかし実際に、その発言を実行する人は少ないのが現実。

その中でも問題意識がある人は、業務を超えた範囲であっても、自分で出来ることを実行し始め、そして成果を挙げていく人もいます。

このように考え実行する人は、素晴らしいですね。ちなみに経営者層もそういう人のことは、見ていないようでいてちゃんと見ていることが多いのです。

しかし一方で、現実に見えているのは、自分の業務範囲であるのは事実です。山で喩えれば、登山の最中に山の中腹で、山脈全体の中における山の位置づけを想像しながら考えています。

 

私も零細ながら会社経営に2年近く携わっています。まだまだ修業の入り口ですが実感するのは、経営者の場合、会社が悪いのは全て自分の責任。当たり 前のことですね。会社員生活を30年近く続けてきた私も、独立する前から理解していたつもりでした。しかし想像することと実際に経験するのは、やはり違 う。

経営者の場合、責任の業務範囲は、企業の製品開発・営業・総務系業務・保守・購買・財務・会計・人事など、あらゆることに拡がっています。そして売上・利益という結果責任を全て負います。

そして会社をよりよくする上で本当の阻害要因が何か、各要因の繋がりは何かを見極め、優先順位と繋がりをどう考えるか、常に考えています。

さきほどの山で喩えると、山腹ではなく、たとえそれがどんなに小さな山であっても山頂に登って山頂からまわりの山脈を見ながら、山脈全体の中におけ る自分の山の位置づけを考えています。山頂だから良い見晴らしとは限りません。近くに嵐がすぐに迫ってきているのが見えたりしますが、これは山腹にいても なかなかわからないことも多いのです。

これは、「いい」「悪い」ということではありません。

経営者は、山頂の風景を見て、会社として何を行うべきかを判断するのが仕事。(そして規模が小さい場合は遂行責任も伴います)

マネージャーは、会社の中で任された業務を遂行することが仕事。

経営者とマネージャーは、役割が違います。
しかし考えたことを実行しようとすると、多くの場合は社員との問題意識と乖離があるため、経営者が言葉を尽くして説明しても、なかなか理解されることが難しいのです。

特に今やっていることと正反対のことをやろうとすると、現場の反対は大きくなります。

山腹の登山の最中に、いくら言葉を尽くして山頂からの風景を話し、「目標を変えてコッチではなくアッチの山に登ろう」と言っても、なかなか伝わらないのと同じです。
私も講演の際に、経営者ならではの問題意識を抱えた重い質問をいただくことがよくあります。そのたびに身が引き締められる思いがします。

原田さんのようにハラを括る必要性は、実際には多くの経営者が実感していることだと実感します。
原田さんというと、「強引」「現場無視」というお話しをよくお聴きします。

本当は、現場重視で社員に優しく、かつ、どんな反対にも屈せず果敢かつ臨機応変に判断して改革を断行できる経営者が理想ですね。

ただ、これらは本質的に矛盾し合う要素です。

そもそも経営者の仕事は、会社の業績向上を果たすこと。仮に社員満足度が大きく上がっても会社を潰してしまったら、それは経営者失格なのです。
「ベネッセの仕事を、ビジネスにおける人生最後の集大成にする意識で臨みたい」と常々おっしゃっている原田さんのインタビューからは、そんな原田さんの覚悟を感じました。

原田泳幸氏インタビューから学べる、自社の強みと顧客価値の徹底追求

President Onlineで、こんな記事を読みました。

ベネッセホールディングス会長兼社長 原田泳幸「疫病神批判に答えよう」

勇気があるタイトルですが、読み応えがある良記事でもありました。引用しながら、考えたことをまとめたいと思います。

—(以下、引用)—

私が常に考えてきたのは、お客さまのこと。「顧客は何を求めているのか」「顧客のためにヒト・モノ・カネをどれだけ戦略的に使っているか」。これは普遍的です。

目的は顧客価値の向上です。商品の価値には、有形と無形のものがある。いまは有形の価値ではなく、無形の価値を高めているところが勝っている。レストランビジネスでも、ハンバーガーそのものより、利便性やスピード、つまり無形の価値が重要です。

ベ ネッセの価値も、実は教材の内容そのものにはありません。教材はどこにでもある。価値を生み出しているのは赤ペン先生や教材の編集者など学びへと導くノウ ハウを持つ「人」です。そういう無形の価値をどうつくるか。もっというと、情緒的・精神的価値をどうつくるか。それはずっと変わりません。

—(以上、引用)—

原田さんはこのインタビューで、

マクドナルドの強み… 利便性とスピード

ベネッセの強み… 学びへと導くノウハウを持つ「人」

と述べておられます。

私も、「まず自社の強みを徹底的に考えましょう。そしてその強みを必要とするお客様は誰か、そのお客様は何を必要としているか、お客様が自社を選ぶためにはどうすればよいかを考え、愚直に実行しながら学びましょう」とご提唱しています。

原田さんも、お客様にとって価値がある自社の強みをキチンと見極めた上で、戦略を立てておられます。

そしてこの強みをより活かすために、マクドナルドでは「メイド・フォー・ユー」というシステムを導入されましたし、現在ベネッセでは直接の顧客接点「エリアベネッセ」を全国500カ所を目標に展開しようとされています。

戦略を実行し、実行しながら学んで、実行の質を上げています。

特に、「実行しながら学ぶ」ことが大切です。戦略は賞味期限があります。実行して学ぶのは、その賞味期限をチェックすることも目的です。

恐らく「メイド・フォー・ユー」は現時点で賞味期限が切れた施策になっていますし、「エリアベネッセ」も長期的に見るとどこかの時点で賞味期限は切れます。だから「実行しながら学ぶ」ことが必要なのですね。

私にとって、学べるところがとても多い記事でした。

ちょっと長くなったので、続きは明日のブログで。

 

2月になりました

2月に入りました。

実は2月は、有り難いことに色々な方々からお声がけをいただき、講演が目白押しです。

 

今週は、名古屋で2件、東京で1件。

来週は、大阪、名古屋、福岡でそれぞれ1件。

再来週は、名古屋で1件、神戸で1件。

この間、お客様との打合せ、原稿書き、資料作り等もあります。

とは言え、前倒しできる仕事は1月中に一通り済ませておきました。

2月は講演に集中できるのも、有り難いですね。

 

貴重なお客様の時間をお預かりする講演です。

名古屋・大阪・福岡での新たな出会いを楽しみに、風邪などの体調には十分に注意して、万全の体調で乗り切りたいと思います。

2015-02-01 | カテゴリー : ビジネス | 投稿者 : takahisanagaicom

ゆるキャラから考える地方創世:あなたはいくつのゆるキャラがわかりますか?

いきなりですが、質問です。

ここに10体のゆるキャラがあります。

あなたはいくつご存じでしょうか?

ゆるキャラ1.jpg

 

 

「ちょっとマイナー過ぎるんじゃないの?」

「一つもわからない」

という方が多いのではないかと思います。

 

実は、この10体は、「2014年 ゆるキャラ グランプリ」の1位〜10位にランキングされたゆるキャラです。

答えは、こうなっています。

ゆるキャラ2.jpg

 

ちなみに、この「2014年 ゆるキャラグランプリ」の応募総数は1699体。その中からの選りすぐりが、この10体です。

いわば「甲子園組」とも言えるゆるキャラです。

でも、意外と知られていないのが現実なのですね。

 

では、なぜ地方自治体がこぞってゆるキャラに力を入れているかというと、恐らくこの方の影響が大きいのではないかと思います。

ゆるキャラ3.jpg

 

1244億円の経済効果って、スゴイですよね。ちなみに日銀熊本支店の試算だそうです。→詳しくはこちら

興味があったので、内訳を調べてみました。

1244億円のうち、物品販売効果は1232億円だそうです。実に99%です。商品としての「くまモン」は大成功ということですね。

一方で、観光消費効果は12億円。全体の1%。熊本県内観光地のアプリダウンロード数(14万)と、くまモン誕生祭来場者数(4.5万人)から試算したそうです。

あくまで試算なので、実際には12億円よりも多いかも知れませんし、実はそれよりも少ないかもしれませんね。

 

あの大成功したくまモンでも、観光集客効果は限定的です。

考えてみたら、「くまモンがあるから、熊本に行ってみた」という人は、それほど多くないのではないでしょうか?

私も試しに回りの人たちに聞いてみましたが、そういう方はいらっしゃいませんでした。

 

観光振興の一環でゆるキャラに力を入れている自治体が多いのですが、ゆるキャラグランプリへ1699件応募があったという話を聞いたりすると、つい「同じお金と時間、手間をかけるのならば、もっと大事なことがあるのではないかな」「ゆるキャラが有名になれば、地域振興ができると短絡的に考えておられるのでは…?」と心配してしまいます。

本来、ゆるキャラは「地域の魅力を高める一つの手段」に過ぎないのであって、目的ではないはずです。

 

いま、「地方創世」が日本で大きなテーマになっていますが、もっと地方自治体が、「自分たちの地域らしさは何か?」を考えるようになれば、日本の地方ももっと元気になるのではないかと思います。

JTB中部圏誘致協議会様 2015年新年賀詞交換会で講演しました

昨日2015/1/20、名古屋のウェスティン・ナゴヤ・キャッスルで行われたJTB中部圏誘致協議会様の2015年新年賀詞交換会で、『お客様が訪れたくなる理由をいかに作るか? ニーズ断捨離時代に求められる「おまけ付き思考」からの脱却』というテーマで講演しました。

 

参加者500名。実に多くの皆様にご参加いただきました。 

20150120 JTB中部圏誘致協議会講演全体像.jpg

中部圏の旅行業・宿泊業の皆様、航空会社・鉄道会社・バス会社などの輸送業の皆様、さらに国土交通省中部運輸局幹部の方々ほか自治体関係の皆様、旅行販売業の皆様、さらにJTB中部様をはじめとしたJTB関連会社の皆様でした。

参加された半数以上が、旅館経営者といった感じでしょうか。

 

日本の中部地方は、様々な観光資源の宝庫でもあります。

その中部地区のインバウンド観光拡大を目指し、30年近く継続してきたのが、このJTB中部圏誘致協議会です。

このように講演にお招きいただいたこと自体、とても名誉なことです。

  

講演時間は90分。前半30分は「ニーズ断捨離の考え方」をご紹介し、後半60分は観光業における価値創造について、中部地区での観光業の事例をもとにお話しをしました。

 

講演後は賀詞交換会でした。

IMG_3673.JPG

壇上に上がらせていただき、ご来賓及びJTB役員の皆様と一緒に、鏡開きをさせていただきました。

鏡開きをした3つの酒樽のうちの一つです。

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会場の真正面の窓からは、名古屋城も一望できました。

IMG_3670.JPG

 

賀詞交換会では、多くの方々と意見交換ができ、とても勉強になりました。

今回、講演の機会をいただいて観光業のことを学ばせていただき、「観光業が日本を元気にする」との確信を持ちました。

このような機会をいただきましたJTB中部の皆様に、深く感謝致します。

製品開発を顧客始点で考えるアイリスオーヤマ

昨日のブログでアイリスオーヤマの事例をご紹介しました。

別の本で、「アイリスオーヤマ 一目瞭然の経営術」(三田村 蕗子著)があります。この本も、アイリスオーヤマに綿密な取材を行い、その経営の秘密に迫っています。

 

本書の冒頭で、LED事業参入の様子が描かれています。当初、2009年2月にアイリスオーヤマの小野さんという社員の方が、社長にLED事業着手を提案しました。大山社長は大乗り気ではないものの、特に反対もありませんでした。

この時はLED電球を中国メーカーからOEM調達し、試験を重ねて、当時の市価の半額(4980円)で発売されました。ただ当初はあまり売れませんでした。

風が吹いたのは、この後です。

—(以下、引用)—

2009年11月末、LED事業にあまり関心を見せていなかった大山社長は、突然小野氏にこう命じた。

「内製して、4万時間持つLED電球を作り、いまの半分の値段で売れ」

—(以上、引用)—-

まさに晴天の霹靂。いきなり市価の1/4で、しかも内製です。

リーダーの小野さんは早急に対策を立てて「半年後の2010年5月なら発売できます」と回答しますが、社長にひどく怒られ、「何がなんでも2ヶ月縮めて3月発売にしろ」と指示されます。

そもそも大きなチャレンジ。しかも4ヶ月間しかありません。

しかし、なぜ3月なのでしょうか?

本書ではこのように書かれています。

—(以上、引用)—

電球の売れる時期は1年のうち、3月、4月と12月に集中している。とりわけ、人々が新生活に突入し、引っ越しが多く、電球を買い替える機会が爆発的に増える3月を逃す手はない。この時期を逸すれば、消費者は「もう電球は替えてしまったから」と考え、その後の買い替え行動は12月まで期待できない。

「だったら3月に発売時期を早めるしかないでしょう」

これが大山社長の論理だ。

—(以上、引用)—-

大きなチャレンジ。しかも他社は100人体制のところ、アイリスオーヤマはわずか6名。トラブル続きで開発プロジェクトを進め、解決したのは発売予定日の3週間前。

2010年3月26日、小売価格2300〜2500円のLED電球8種類が発売されました。

さらに2010年11月には実売価格1980円のエコルクスを発売。アイリスオーヤマのシェアはグンと上がりました。

2011年3月の大震災の影響で、省エネ製品の需要が高まり、さらに成長していくことになります。

 

私たちは、「現体制で、製品がいつ開発できるか?」「コストがいくらかかり、価格がいくらで作れるか?」と考えがちです。

しかしアイリスオーヤマの場合、「お客様はいつ製品を必要としているか?」「いくらなら買ってくれるか?」から逆算して製品を開発しています。

製品開発を顧客始点で考えているアイリスオーヤマの考え方は、参考になるのではないでしょうか?

2015年を迎えて…ビジネスとアートの融合へ

皆様、よいお年をお迎えのことと思います。

  
昨年2014年の後半、「今後、ビジネスとアートがますます融合していく」ということを感じました。

 

さまざまな企業様にお伺いすると、ロジックを追求する世界から、さらに一段進化して、人間らしさや美の追究とビジネスの両立を模索されていることを感じました。

 
巷では、「2045年にはコンピューターの性能が人間の脳を超える」というシンギュラリティ(技術的特異点)も大きな話題になっています。

機械的な仕事が技術の進化で急速にITに代替されていく中、「人間らしさとは何か」を問い続ける大切さは、ますます大きくなっています。

そして経営を担っている皆様も、このことに気づいておられるように感じます。

  

企業様に対する経営変革のご支援を続けながら、今年から、新たにこのテーマについても試行錯誤していきたいと考えております。

今年もよろしくお願いいたします。

“How Google Works” –必要なのは、スピードを高め、試行錯誤を繰り返すこと

“How Google Works”を読了しました。

既に多くの方々が書評を書いておられる通り、Google社内の様々な優れた取り組みを紹介している良書です。

参考になった箇所を一つずつ挙げていくと、それこそ一つの解説書くらいのボリュームになってしまいますが、特に私が「なるほど」と思ったのは次の箇所です。

—(以下、引用)—-

劇的に優れたプロダクトを生み出すのに必要なのは巨大な組織ではなく、数えきれないほどの試行錯誤を繰り返すことだ。つまり成功やプロダクトの優位性を支えるのは、スピードなのだ。
 
………あらゆる企業はプロダクト開発プロセスのスピードと、プロダクトの質を高めることを最優先すべきだ。産業革命以来の業務プロセスは、リスクを抑え、失敗を避けることに重きを置きすぎていた。こうしたプロセスやそこから生まれた経営手法の支配する環境では、スマート・クリエイティブは息が詰まってしまう。
 
—(以上、引用)—

 

Googleに限らず、勢いがあり成長する企業には、スピードがあります。無駄なことは行っていません。もし無駄があればすぐに見直して無駄を省きます。

「無駄かどうか」を判断する一つの基準は、「その仕事は顧客に対する価値を生みだしているか?」。

もし生んでいなければ、即刻止める。そして、顧客に対する価値を生み出す仕事に集中し、そのスピードを徹底的に追求するのです。

 

また失敗を怖れず、失敗を「管理」します。大きな失敗にならないように、小さな失敗を繰り返して学びを蓄積することを重視します。

 

「自分の会社で、応用できることはないか?」と自問しながら本書を読むと、得られることが多いのではないかと思います。

 

2014年の振り返り (7-12月)

今年後半の振り返りです。

■7月

e-Jan Networks様で講演しました

「100円のコーラを1000円で売る方法」の中国語(簡体字)版「把100元的可乐卖到1000元」が出版されました

「コミック版コーラ3」完成、コーラシリーズ全7冊が完結しました

・7月から11月にかけて、大手食品メーカー様へ新規事業戦略をご提供しました

 

■8月

ベライゾンジャパン社長の平手智行さんが、「財界」で私の本の書評を寄稿いただきました

動画編集は苦手でしたが、簡単にできるようになりました

Business Journalの連載を開始しました

・サービス業のお客様に、新事業戦略研修をご提供しました

 
■9月

AERAに、インタビュー「自分を変えるための2つのルールとは」を掲載いただきました

『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ』を出版。発売1日目で重版が決まりました

東洋経済オンライン連載「コーヒーで読み解くビジネス戦略」を開始しました。(計8回の連載)

Business Media誠でインタビュー『なぜ海外でウケたのか? ユニ・チャームの紙オムツとコミーの業務用ミラー』を掲載いただきました

 

■10月

経営革新協会様で講演をしました

誠ブログ・オルタナブログ合同オフ会で講演しました

iPhone5から、iPhone6に切り替えました

海外版8冊目となるタイ語版コーラ2「สาวมั่นกับชั้นเชิงการตลาด 2」が出版されました

IBM OB会BBJ若手サロンで講演しました

ジェイカレッジで講演しました

東洋経済オンライン記事『スタバが「ネガティブ広告」に反撃しない理由』が大ブレイク

沖縄タイムズ様主催・沖縄政経懇話会21様で講演しました

 

■11月

今年も日経フォーラム世界経営者会議に参加しました

ニッポン放送で、『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』が紹介されました

ニッポンクラウドワーキンググループで講演しました

ITmediaエグゼクティブで講演しました

日本経済新聞の記事に、世界経営者会議への私のコメントを掲載していただきました

文化放送「オトナカレッジ」に出演しました

OMNI MANAGEMENT 2014/12号に、「一杯のコーヒーが教えるビジネス戦略」を寄稿しました

 

■12月

Evernoteを使い始め、知的生産性が劇的に増幅することを実感しました

Bizima様の「わくわく著者イベント」で講演しました

静岡県菊川市様・地域経済・産業活性化セミナーで講演しました
 

改めて振り返ると色々な活動をしていますが、自分ひとりで行ったものは一つとしてありません。必ず一緒に汗を流してくださった方々のことが、心に浮かびます。本当に有り難いことです。

また、9月に『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』を上梓し、その販促の一環で講演・インタビュー・寄稿を行ったことが、その後の活動に繋がっています。本を書くことは、世の中に価値をお届けする上で大切なことだと、改めて実感します。

 

来年も引き続き、活動を拡げていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

2014年の振り返り (1-6月)

今年もそろそろ終わり。そこで振り返ってみたいと思います。今日は1-6月の前半戦の振り返りです。

■1月

『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』執筆準備のため、当ブログでコーヒーに関する様々なマーケティング事例を書いていました。反響が大きい内容は、執筆に際して参考にしました。

・執筆のため、日経テレコンに加入。おかげで情報収集力がアップしました。

オフィス永井のロゴが出来ました

「100円のコーラを1000円で売る方法2」韓国版が完成しました

韓国版「100円のコーラ」シリーズの翻訳をされた林載徳(リムジャエドゥック)さんとご対面しました

富山の北電技術コンサルタント様で講演いたしました
 

■2月

iPad miniを購入。この1年間、とても役立ちました

文化放送「オトナカレッジ」に出演しました

・ラジオ出演後、疲労が溜まっていたのでついタクシーで帰ろうとしたら、大雪に閉じ込められ、首都高で朝を迎えました

「第50回 日販マネジメントセミナー」で講演しました。私以外の講師は、南場智子さん、宮崎辰さん、古田敦也さんという錚々たる方々でした。

・あるITサービス企業様へ、1ヶ月間の研修をご提供しました
 

■3月

『宣伝会議』にインタビュー記事『増税下の安易な価格勝負は「筋肉増強剤」。なぜ顧客は「買う」のか?』を掲載いただきました。このご縁で、宣伝会議様とのお付き合いが始まりました

『師長主任業務実践』に、論文『看護管理力を高めるために見直したい5つのポイント』を寄稿しました

富士ゼロックス様が事務局として運営されているデジタルドキュメントサービス研究会(D.D.S.S.)様で講演いたしました

・なんと女性誌OZ plus 2014年5月号に、インタビュー記事を掲載いただきました

新型ルンバRoomba870購入。技術の進化はスゴイと実感しました

 
■4月

「図解版 100円のコーラを1000円で売る方法」を上梓しました

ITmedia エグゼクティブ勉強会で講演しました

・この1-2ヶ月間、『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』の執筆が佳境を迎えていました
 

■5月

自費出版の「バリュープロポジション戦略50の作法」を増刷、4刷目。累計6,000部になりました

「100円のコーラを1000円で売る方法」タイ語版”สาวมั่นกับชั้นเชิงการตลาด”が完成しました

「プロフェッショナルの視点」(畑哲郎監修)にインタビュー記事を掲載いただきました

ユーカリが丘の開発に尽力されている山万様で、講演しました。ここで学んだことは、9月に出版した『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』にも反映しました

 
■6月

韓国語版の「100円のコーラを1000円で売る方法 3」完成。アジアで出版した本は合計6冊になりました

日本販売士協会様で講演しました

静岡県産学交流センター(B-nest)様で講演しました

  

お客様との守秘義務でご紹介できない活動は割愛していますが、改めて振り返ると、色々なことをやっていますね。

 

今年後半の活動も、後ほどご紹介します。

2014-12-22 | カテゴリー : ビジネス | 投稿者 : takahisanagaicom

2014年の振り返り:年初の抱負は、達成できたか?

今年もそろそろ終わりです。

振り返ってみれば、今年は1月1日に当ブログで「2014年を迎えて、本年の抱負」を書いた際、大きく2つの抱負を持っていました。

1.新しい本を出版する
昨年、大好評だった「100円のコーラを1000円で売る方法」の第三部を書き上げ、「コーラシリーズ」は無事一段落しました。

「コーラシリーズの次に、何を書くか」が、実は自分にとって、とても大きなチャレンジでした。

そこで「コーラシリーズ越え」を目指し、1月1日にまっさらな企画段階だった新シリーズ『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』を9月11日に出版しました。

今回は「コーラシリーズ」の宮前久美や与田誠、井上クンとはまったく違った登場人物(新町さくら、町田南、永田兆司、藤岡雅治、玉川一郎)を設定、舞台もコーヒー会社に一新して書きました。

多くの方々のご支援で、おかげさまで現時点で7刷まで増刷。

アマゾンのコメントや、各書評サイトを見ても、好意的な多くのご感想をいただいております。有り難うございました。

今後も、難しい経営戦略のエッセンスを、誰もがわかりやすく理解できるような本を書き続けていきたいと思っています。

 

2.クライアント企業様の経営変革ご支援を拡大していく

おかげさまで多くの講演のご依頼をいただき、実施しました。(公開ご承諾分はこちら)

また、ユーカリが丘を開発する民間デベロッパーである山万様をはじめ、ITサービス企業様、大手旅行代理店様、食品メーカー様など、様々な業界の経営者様から研修のご依頼をいただき、各業界でお客様のバリュープロポジションはどうあるべきかをご一緒に考える貴重な機会をいただきました。

 

今年も、多くのことを学ぶことができた1年間でした。

貴重なご縁をいただいた皆様に、厚く感謝申し上げます。

 

来年も、活動をより拡げていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

「Facebook、LinkedIn、Amazonが、社内でのパワーポイントの使用を禁止」を読んで…

本を書くのって、結構大変です。

色々な方法があると思いますが、私の場合は、必要な情報を調べたりアイデアをため込んだりして材料を揃えて、全体の構成を作って、書いていって、構成して、……途中、編集者との打合せもあります。

かなり大変な作業ですが、これは読者に伝えたいことを確実に伝えたいからなのですよね。

 

講演会でのプレゼンも、本質的には同じ。色々なアイデアや考え方を、講演で伝わるように構成を作り、わかりやすく伝わるように作っていきます。

この時に、パワーポイントという道具は、私にとってとても役立ちます。

 

そんなことを思っていたら、こんな記事を見つけました。

 

Facebook、LinkedIn、Amazonが、社内でのパワーポイントの使用を禁止

 

「なるほど」と思いました。

本やプレゼンは「伝えること」が目的です。

一方で社内会議は「アイデアを生み出し」「決定すること」が目的です。

目的が違うのですよね。

振り返ってみると、私もたとえば編集者やお客様との打合せの場合は、パワーポイントは使わずに、WORD等でアイデアや提案を文章にまとめることがとても多いのです。

 

当たり前のことですが、ビジネスツールは目的に沿って選ぶようにしたいものです。

大野耐一著「トヨタ生産方式」…36年前の本ですが、大きな学びがあります

大野耐一さんが書かれた「トヨタ生産方式」は1978年の出版。36年前の本です。

これを読もうと思ったきっかけは、エリック・リース著「リーン・スタートアップ」で、頻繁に本書が引用されていたからです。

アマゾンで調べたところ、Kindle版がありました。これはありがたいですね。

 

ともすると「36年前のビジネス書は古いんじゃないか?」と思いがちですが、素晴らしい本はとても学びがあります。

—(以下、引用)—

 必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する「ジャスト・イン・タイム」をどのようにしたら実現できるかを私は考え続けた。私はものごとをひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、物の移動である。そこで私は物の運搬を逆に考えてみた…

 いま「後工程が前工程に、必要なものを、必要なとき、必要なだけ引き取りに行く」と考えてみたらどうか。そうすれば、「前工程は引き取られた分だけつくればよい」ではないか。たくさんの工程をつなぐ手段としては、「何を、どれだけ」欲しいのかをはっきりと表示しておけばよいではないか。  それを「かんばん」と称して、各工程間を回すことによって、生産量すなわち必要量をコントロールしたらどうか、という発想となった。

—(以上、引用)—

「まず必要なアウトプットを考える。そして、そこからさかのぼって考える」という考え方は、「最初にまず買いたいという顧客を見つける」というリーンスタートアップの考え方に大きな影響を与えたのではないかと思います。

 

ではトヨタは、どのようにこれを実現したのでしょうか?

—(以下、引用)—

 トヨタ生産方式の基本思想を支えるのは、これまで触れてきた「ジャスト・イン・タイム」と、つぎに触れる「自働化」であり、「かんばん」方式は、トヨタ生産方式をスムーズに動かす手段なのである。

(中略)

この自動機にニンベンをつけることは、管理という意味も大きく変えるのである。すなわち人は正常に機械が動いているときはいらずに、異常でストップしたときに初めてそこへ行けばよいからである。だから一人で何台もの機械が持てるようになり、工数低減が進み、生産効率は飛躍的に向上する。

(中略)

いっぽうの「自働化」は生産現場における重大なムダであるつくり過ぎを排除し、不良品の生産を防止する役割を果たす。そのためには、平生から各選手の能力に当たる「標準作業」を認識しておき、これに当てはまらない異常事態、つまり選手の能力が発揮されないときには、特訓によってその選手本来の姿に戻してやる。これはコーチの重大な責務である。

—(以上、引用)—

人が介さない「自動化」と、人が介する「自働化」が生み出す価値を区別して考えることは、ITが普及した現代こそ、再びじっくり考えるべきポイントです。

 

—(以下、引用)—

企業のなかのムダは無数にあるが、つくり過ぎのムダほど恐しいものはない。

—(以上、引用)—

「作りすぎ」を、「過剰在庫」ではなく、「顧客ニーズに合わない製品」と読み換えると、まさに顧客の課題に合っていない売れない商品を作り出している今の企業が抱えている課題そのものです。

だからこそ、トヨタ生産方式を現代の製品開発に進化させたリーンスタートアップのような方法に注目が集まっているのでしょう。

 

トヨタで有名な「五回のなぜ」についても書かれています。オリジナルの本書では、どう書かれているか見てみましょう。

—(以下、引用)—

たとえば、機械が動かなくなったと仮定しよう。

(1)「なぜ機械は止まったか」 「オーバーロードがかかって、ヒューズが切れたからだ」
(2)「なぜオーバーロードがかかったのか」 「軸受部の潤滑が十分でないからだ」
(3)「なぜ十分に潤滑しないのか」 「潤滑ポンプが十分くみ上げていないからだ」
(4)「なぜ十分くみ上げないのか」 「ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているからだ」
(5)「なぜ摩耗したのか」 「ストレーナー(濾過器)がついていないので、切粉が入ったからだ」

トヨタ生産方式も、実をいうと、トヨタマンの五回の「なぜ」を繰り返す、科学的接近の態度の累積と展開によってつくり上げられてきたといってよい。

五回の「なぜ」を自問自答することによって、ものごとの因果関係とか、その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができる。

私は、生産の現場に関しては、「データ」ももちろん重視してはいるが、「事実」をいちばんに重視している。問題が起きた場合、原因の突きとめ方が不十分であると、対策もピント外れのものになってしまう。そこで五回の「なぜ」を繰り返すというわけである。これはトヨタ式の科学的態度の基本をなしている。

—(以上、引用)—

このように「五回のなぜ」はただやみくもに考えるのではなく、あくまでも「事実」を起点に考えることが必要です。

商品開発の場合も、アイデアを考えるだけではなく、顧客のリアルな反応といった事実をもとに考えていくことが必要です。

そのための方法が仮説検証なのですね。

 

本書のごく一部を紹介しました。

本書は生産方式について書かれていますが、自分の仕事に当てはめて読んでいくと、とても学びが多い本です。

 


麻生川静男著『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』ー中国ビジネスに関わる人は、ご一読をお勧めします

前職の日本IBMに勤務していた頃は、中国の人たちと一緒に仕事をする機会を多くいただきました。

深い教養を感じさせる方が多い一方で、日本人の私からするとなかなか理解できない割り切りのよさや交渉の駆け引き、相手と自分の力関係を巧みに読み取り態度を変えるしたたかさに、「とても真似できないなぁ」と感じることが多くありました。

また一方で、大紀元のような中国政府とは独立している海外の中国メディアでは、中国共産党が日本国内で報道されない様々な蛮行を行っていることも報道されています。

自分の中では、一見両極端なこれらのことは、なかなか理解できませんでした。

 

このことについて、櫻井よしこさんが週刊東洋経済2014/11/08号のコラム「オピニオン縦横無尽 深い教養と残虐さを持つ中国人 対中外交で押さえるべき基本」で、次のように書いておられます。

—(以下、引用)—

……このように素晴らしい教養人を育んだ中国には、同時に幾千万の国民を死に追いやった毛沢東のような非道の人物が少なくない。習近平体制下で進行中の数々の蛮行、徹底した言論と情報の統制、表現の自由の規制、不条理な反日など、前述の深い教養がいかにして同じ漢民族の中に存在するのか、私には理解しにくかった。

 しかし『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』(麻生川静男、角川SSC新書)で多くの疑問が氷解した。資治通鑑は紀元前500年から紀元後1000年の約1500年の中国の歴史を、北宋の学者であり政治家だった司馬光がまとめたものだ。…

—(以上、引用)—

 

早速、『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』(麻生川静男、角川SSC新書)を読んで、櫻井さんが「多くの疑問が氷解した」と書いておられるのと同じことを感じました。

 

本書の冒頭、著者の麻生川さんは、資治通鑑の重要さについて次のように書いておられます。

–(以下、引用)—

■私たちにとって、資治通鑑を読むというのは…(中略)…、中国の隠された政治力学を読み取るという目的がふさわしい。中国の政治や社会は表面だけをみて、近代民主主義的な価値観から判断しても正しく理解できない。中国の政治や社会を動かしている根本理念は彼らの伝統的な価値観であるのだ。

■中国の本質を知ろうと思えば、悪の面だけ見たのでは一面的すぎる。中国には善(徳・仁・義)の実現をめざし、命がけの行動を起こした人が数多く存在する。その人たちの信念の強さやしぶとさは、ある面では日本人を遥かに凌駕する。言い換えれば、日本人は善悪のレンジが狭いのに対し、中国人はとんでもない極悪人から、ウルトラ善人まで、善悪のレンジが極めて広い。中国の悪だけでなく善のパターンが、それも極端な場合も含め、全て網羅されている資治通鑑という長編ドキュメンタリーはこの意味でも中国社会の実相を知るのに非常に有益な書であるのだ。

—(以上、引用)—

本書では多くの衝撃的な記述があります。

一例を挙げると、人が人を食うケースがしばしば書かれています。そのパターンは大きく分けて5種類。①美味・珍味として食べる。  ②罰として罪人の身内を殺して食べさせる。  ③薬として食べる。  ④憎い相手を食って鬱憤をはらす。  ⑤飢饉のとき、人を食べる。

人肉を家畜の肉同様の扱いをしているケースもあります。

 

また一方で、ビジネス面では次のような記述もあります。

—(以下、引用)—

■平和な時代にこつこつと富をためていざというときに備える、というような堅実思考は中国人には希薄だ。資治通鑑を通観してみると中国はどんなに荒廃していても、30年間、大きな天災がなく平和が続くと例外なく殷富(リッチ)になっている。そうすると、これまた判で押したように決まって贅沢モードに突入していく。…(中略)….つまり、現在の中国に蔓延している贅沢は何も鄧小平が始めた「社会主義的市場経済」下の改革開放運動の結果でなく、単に昔からの伝統に忠実に従っているにすぎないのだ。「資治通鑑を読まずして中国は語れない、そして、中国人を理解することも不可能である」というのはこういったことを指す。

■中国では法律や常識は身を守る役にたたない。各人が状況を把握し、理屈は二の次として、とにかく自分で判断し、行動することが求められる。

■現在、中国には数多くの日本企業が進出しているが頻発するトラブルに苦労していると聞く。その原因を考えるに、日本流の誠心誠意が中国人にも分かってもらえるはずと楽観的に考えている節が見える。トラブルの多くは日本人には思いもつかないような中国人の策略にある。その意味で予備的にでも中国人の策略を一通りは知っておく必要があ

■策略のパターン:  ①互いの妬みや怨みを利用する  ②高位者を利用して報復する  ③味方をも欺く  ④おだてて自滅を待つ  ⑤表では友好を装い、裏では陥れる策を練る  ⑥奸計で無実の人を陥れる  ⑦面子を守るためには、不正・不義も断行する  ⑧権道──義を貫くためには汚い手段も辞さない。

—(以上、引用)—

 

当ブログでは割愛しますが、こんな中でも自分の命を顧みずに徳を重んじた人たちの話も出てきます。

 

とは言え、グローバル化が進んでこれまでの中国のやり方は国際社会で通用しなくなりつつあります。今後、中国はどうなっていくのでしょうか?

そのことを考える上で、ライフネット生命CEOの出口治明さんが、著書『仕事に効く教養としての「世界史」』で、書いておられることがヒントになりそうです。

—(以下、引用)—

少し大胆なことを言えば、中国という国は、少なくともこれまでの歴史のうえでは、じつはあまり対外的には侵略的ではないのです。朝鮮やベトナムなど、地続きのところに対しては、始皇帝の時代から自分たちの庭だと思っていますから、かなり無遠慮です。しかし中国の本来的な強さは、むしろ侵略者を全部飲み込んでしまうところにある。飲み込んで自分の腸の中で吸収してしまう強さなので、……これまた、中国史のおもしろいところです。

—(以上、引用)—

 

このように、これまで中国は、周りの文化を飲み込んでいった歴史があります。

このような歴史を踏まえると、これから数十年から数百年間のレンジで考えると、中国はグローバル社会と積極的に関わりながらも、そのエッセンスを次第に呑み込み、さらに洗練化され、強くなっていく、ということも考えられます。

 

中国ビジネスに関わる立場にある方が歴史の視点で中国を理解する上で、本書はとても役立つと思います。


世界経営者会議(12) 再び2日目:ティファニー・アンド・カンパニー マイケル・コワルスキー 会長兼CEO 「不易と流行」…守るべき歴史と、変えるべきもの。

世界経営者会議レポートの続きです。

二日目に、ティファニー・アンド・カンパニー マイケル・コワルスキー 会長兼CEOが登壇しました。創業177年という、米国では異例なほど長く経営されている老舗のトップが話す内容は、参考になるところも多いお話しでした。

 

【講演より】

自分は15年間CEOを務めた。間もなくCEOは後継者に譲る。

ティファニーのコアバリューは、5つである。

①まず、デザイン。情熱を盛ってデザインに注力する

②クラフトマンシップ。職人技だ。

③最上級の材料を使っていること。

④サービス。お客様は生涯に渡るお付き合いになる。そこで専門家がサービスを提供する。

⑤責任ある行動。社会からの信頼

これらを踏まえて、我々の戦略は、

①長期的価値にフォーカスすること。公開企業だが、あくまで長期の経営健全性のために投資する。

②妥協することなく成長する。つまり、性急な成長は目指さない。必ずコアバリューに合っているかを照らし合わせ、着実な成長を図る。

③特化した製品ラインを維持する。製品を特化することで、価値を磨き続ける。

④垂直統合したサプライチェーン。製品は全て自分たちで作る。

⑤自前店舗の展開

製品中心の企業であるが、常に顧客の価値(人生の節目の記念、など)にフォーカスし続けている。

 

実はティファニーは、10年前はグローバル企業ではなかった。売上の80%は米国と日本から稼いでいた。そこでグローバル化にあたって、戦略の進化を図った。

①まず、各地域への進出。

②グローバルマネジメントチームを創設。

③製品の品揃えの見直し。

④新興市場においてブランド知識を育成する。

⑤ブランディングをよりわかりやすくする。日本や米国のブランディング方法だと新興国にはわかりにくかった。

これまでのティファニーのコアバリュー、ビジネスモデルは有効である。今後も着実に進化させていく。

 

【質疑応答】

(「資本市場といかにつきあってきたのか」という質問に対して)
株主に長期的ビジネスを伝え続け、理解してもらえた。そういった人たちが株主になっていたということだ。

(「歴史を守るために変えなければならなかったもの。逆に守らなければならなかったものは、どんなものか?また事業継承のプログラムはあるのか?」という質問に対して)
当社は、経営陣刷新の真っ最中だ。5年間をかけて私の後継者に移行している。

基本的なティファニーの強みは変わらない。重要なのは進化だ。誰もが177年の歴史が持つ資産を理解するということだ。

一方で、新興市場から学べたのはマーケティングのメッセージをシンプルかつ明確にしなければならない、ということ。歴史に甘んじてはいけないのだ。

(「今後の消費社会をどう見ているか?」という質問に対して)
もっと経験を重視するようになっていくと見ている。たとえば結婚式を祝う際に、それをいかに人生の重要な一部とするか、だ。製品そのモノだけではなく、顧客はどのように製品が作られているのか、物語を気にするようになっている。顧客とは、作り方や考え方を共有する方向にある。

 

【所感】

マンハッタンの5番街にあるティファニーのお店は日本人にも人気ですし、日本にも多くの店がありますが、ティファニーが10年前までグローバル企業ではなかったというのは、意外でした。

しかし一方で、

■「コアバリュー→基本戦略→グローバル化戦略」、とステップを踏んで構造的に戦略を立てる考え方

■製品中心の企業ではあるものの、常に顧客の価値にフォーカスしていること

これらはまさに「不易と流行」の方法論でもあります。

同じくグローバル化を進める日本企業にとっても参考になるのではないかと思いました。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

世界経営者会議(4)1日目: Evernote フィル・リービンCEO

世界経営者会議(5)2日目: LIXIL 藤森義明 社長兼CEO いないのは「プロの経営者」よりも、むしろ「プロのマーケター」

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO 「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

世界経営者会議(8)2日目:タイ石油公社(PTT) パイリン・チョーチョーターウォン社長兼CEO タイはバイオハブになる

世界経営者会議(9)2日目:サンミゲル ラモン副会長、社長兼COO ASEAN統合は、アジアの新たな発展の契機になる

世界経営者会議(10) 再び1日目:欧米製造業の対応 ーなぜ彼らはアジアにR&D拠点を移すのか?

世界経営者会議(11) 再び1日目:アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO

世界経営者会議(12) 再び2日目:ティファニー・アンド・カンパニー マイケル・コワルスキー 会長兼CEO 「不易と流行」…守るべき歴史と、変えるべきもの。

 

世界経営者会議(11) 再び1日目:アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO

世界経営者会議のレポートの続きです。

今回登壇した経営者19名の中には、テクノロジーベンチャーキャピタルの経営者もいました。

アミトコ共同創業者兼CEOのニクラス・ゼンストロームさんは、かつてスカイプを創業した方です。

ニクラスさんの話から、よく語られることが多いシリコンバレー視点とはまた別の視点で、テクノロジーベンチャーの今の姿を知ることが出来ました。

 

■アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO

なぜアミトコを作ったか?

スカイプはシリコンバレーの外で成功した、当時として非常に数少ないテクノロジーベンチャーになった。

実は2002年、スカイプの資金調達をしようとしたが、誰も資金提供してくれなかった。自分はスウェーデン人で、スカイプは欧州生まれだ。シリコンバレーの外では、このような会社に投資する仕組みは、当時なかったのだ。

この経験により、英国でテクノロジーベンチャーキャピタルのアミトコを創業した。シリコンバレーの外で、財務的インフラを提供するためだ。

現在、10億ドル以上の企業価値があるネット企業の6割以上がシリコンバレーから生まれている。たとえばストックホルムで生まれたSpotify(音楽ストリーミング配信サービス)のように、欧州でも新しい会社が続々生まれている。東京でも同様だ。

 

(日本のベンチャーをどう見ているか、という質問に対して)

昔から日本のモバイルを注目していた。多くの技術が日本にある。かつて日本の起業家は国内市場だけを見ていたが、最近になってグローバルも見るようになった。

日本のSmartNewsにも投資をした。パイオニアだと思う。既にニュースの世界でNo.1だし、海外にも出て行こうとしている。創業者が技術にフォーカスしているし、シンプルなユーザー体験を提供している。多くのスタートアップで、若い有能な人たちが増えるといいと思う。

 

(新しい技術のトレンドはどうか、という質問に対して)

人がその技術自体に気がつかなくなっていく方向にある。(気がつくととても使い勝手がよくなっていて、その裏で最新技術を活用している、というイメージ)

色々な技術の組合せて、モノゴトを単純化していくようになっていく。ソフトウェアだけでなく、ビッグデータやクラウドがある。オンライン・オフラインの境目がなくなる。そしてものすごく効率が上がっていく。

 

【所感】

シリコンバレーのようなインフラも、わずか10年間でグローバル化しつつあります。

日本では渋谷を「ビットバレー」と呼び、ベンチャー企業とベンチャーキャピタルが次々と生まれた時期がありました。同じタイミングで同じことが欧州でも起こっていたのです。

一時期、”The World is Flat”という本が流行りました。実体経済では必ずしもフラット化しておらずむしろ民族主義などの問題が起こっています。しかしテクノロジーベンチャーの世界では、世界のフラット化は急速に進んでいると感じました。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

世界経営者会議(4)1日目: Evernote フィル・リービンCEO

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世界経営者会議(8)2日目:タイ石油公社(PTT) パイリン・チョーチョーターウォン社長兼CEO タイはバイオハブになる

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世界経営者会議(10) 再び1日目:欧米製造業の対応 ーなぜ彼らはアジアにR&D拠点を移すのか?

世界経営者会議(11) 再び1日目:アミトコ ニクラス・ゼンストローム 共同創業者件CEO

 

世界経営者会議(10) 再び1日目:欧米製造業の対応 ーなぜ彼らはアジアにR&D拠点を移すのか?

世界経営者会議のレポートの続きです。

ここ数回、アジアの経営者の声を紹介してきました。ここで欧米の製造業トップの講演をご紹介したいと思います。

 

■BASF マルティン・ブルーダーミュラー副会長

2050年、世界の人口は90億人になる。リソース・環境・気候、食品と栄養、生活の質が重要になる。これらを解決する上で、化学はイネーブラー(enabler)だ。

BASFはサステイナブルな未来のために化学を作っていく。それが新しい企業戦略、”We create chemistry”だ。

R&D 18億ユーロ(2600億円)のうち、1/3は気候変動、エネルギー開発に投資していく。

市場規模と成長率を見ると、アメリカ地域が1900億ユーロ(28兆円)で年+6%。欧州中東アフリカ地域が2000億ユーロ(29兆円)で年+6%。アジア地域が2400億ユーロ(35兆円)で 年+9%。

つまりグローバルでは、アジアが最大市場で、かつ最も成長が速い。

そこで1/4のR&D支出をアジア に振り向け、アジアでイノベーションを推進し、世界に広げる戦略だ。

パートナーシップも重要だ。その際には、どのように関係性を管理するかが課題だ。

社内でも、別事業のR&D担当者同士が話し合うことで新しいアイデアが生まれている。R&Dだけでなく、SCMや生産も同様だ。

頭脳をつなげていくことが大事だ。一緒になることで効率性もスピードも高まる。全ての社員が、「我々はBASFという一つの会社である」という考えを持つことが大切だ。

 

■シュナイダーエレクトリック ジャンパスカル・トリコワ会長兼CEO

当社は25年前は電力管理を中心とした事業だった。

今や売上250億ユーロ(3.6兆円)。内訳はビルディング関連 102億ユーロ、インフラ関連 57億ユーロ、インダストリー関連 59億ユーロ、IT関連 34億ユーロだ。

R&Dに売上の4-5%を投資している。43%は新興国だ。さらに45%の人材がアジアにいる。

そこで本社をパリから香港に移した。当社では全世界45拠点に、11,000名のR&Dエンジニアがいる。顧客がいる現場近くに配置している。

パートナーシップも重要である。日本は生産性が高く、東芝、富士電機、TEPCOなどともパートナーシップを拡大している。

パートナーシップでは色々なものを組み合わせるので、複雑性との戦いになる。だから規格はオープンスタンダードでなければならない。標準化が必要だ。

大切なのは、小さい段階で失敗すること。その際、相手を信用できるかどうか。要は人である。人に尽きる。

 

■マイクロン・テクノロジー マーク・ダーカン CEO

マイクロンはメモリー半導体専業だ。

今、ムーアの法則が鈍化している。これまでデータセンターのデータが中心だった。今はモビリティとクラウドが普及しIoT (Internet of Things、モノのインターネット)のデータが急拡大している。

こんな時代の課題に、1社で全てに対応するのは難しい。だからパートナーシップが必須となった。

研究者たちのパートナーシップを拡大している。 パートナーシップのためには、Win-win(双方にとってのメリット)が何なのかをキチンと定義することが必要だ。真のWin-Winであれば競争ではない。これが真の差別化要因になっていて、持続できるかどうかがカギだ。

 

【所感】

欧米の製造業トップ3名の講演と対談でした。

共通して、R&D拠点としてアジアを重視していることが印象的でした。

現代では、多くの企業は顧客の近くにR&D拠点を置いています。その一つの理由は、R&Dの段階で顧客に「課題」を検証する必要性が、かつてよりもはるかに高まったからではないかと思います。

20−30年前は、門外不出の研究を本国で行うことが多く、R&D拠点も本国に置いていました。現代に比べてプッシュ型のアプローチ、つまり製品主導でも売れていましたし、顧客の課題が多様化していなかったから、というのが背景です。

しかし今は、この方法で製品開発を進めると、多様化・細分化・激変する顧客の課題を間違ったまま開発してしまい、製品を出してもまったく売れないということが起こってしまいます。

だから顧客の近くで、顧客に課題と解決策を検証しながら、製品開発を進めることが必要なのです。

このように考えると、欧米製造業各社が世界で一番成長しているアジア地域にR&D拠点を設置し始めているのは、ある意味必然なのでしょう。

 

昨年の世界経営者会議では、たとえば「欧米企業の多くは、いかにアジアの成長に対処するか苦慮している」という欧州・ヘンケルCEOの発言のように、アジアの成長への対応に悩む欧米企業トップの声が聞かれました。

一方で今年は、欧米企業はアジアの成長に対して、積極的に自社を変革してでも腰を据えて対応しようとする姿勢が印象的でした。

 

この世界経営者会議のレポート、登壇された19名の経営者のうち、まだ6名残っているので、もう少し続けます。

  

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

世界経営者会議(4)1日目: Evernote フィル・リービンCEO

世界経営者会議(5)2日目: LIXIL 藤森義明 社長兼CEO いないのは「プロの経営者」よりも、むしろ「プロのマーケター」

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO 「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

世界経営者会議(8)2日目:タイ石油公社(PTT) パイリン・チョーチョーターウォン社長兼CEO タイはバイオハブになる

世界経営者会議(9)2日目:サンミゲル ラモン副会長、社長兼COO ASEAN統合は、アジアの新たな発展の契機になる

世界経営者会議(10) 再び1日目:欧米製造業の対応 ーなぜ彼らはアジアにR&D拠点を移すのか?

 

世界経営者会議(9)2日目:サンミゲル ラモン副会長、社長兼COO ASEAN統合は、アジアの新たな発展の契機になる

世界経営者会議レポートの続きです。

サンミゲルはビール会社として有名ですが、多角化を積極的に推進され、今やフィリピンのインフラを担う大企業になっています。

2002年から社長兼COOを務められているラモン副会長が登壇されました。

【講演より】 

フィリピンは何十年かぶりに回復しつつある。そこで急成長するアジア市場で成功するための秘訣をお話ししたい。

フィリピンはGDP 7%成長で推移している。ビジネスが堅調なのにはいくつか理由がある。

まず、健全な財政運営がされている点。そして安定した輸出セクター。消費者支出も堅調だ。海外で働きフィリピン人の送金も増額している。この結果、格付会社からフィリピンは「投資適格」のランク付けをもらっている。

平均年齢23才という若い国民が1億人いる。この国へは日本企業も進出している。2012年からメトロ地域にユニクロも12店舗展開している。ラーメンの一風堂も進出している。

フィリピン政府は50以上のプロジェクトを進めており、サンミゲルは様々なプロジェクトに参画している。

サンミゲルは過去6年間、多様性に富んだ企業にすべく多角化を進めてきた。社会的インフラプロジェクトに投資してきている。その結果、サンミゲルの総資産額は270億ドル、売上は170億ドルになっている。

日本が技術や資金を提供してくれることで、フィリピンはより成長できる。ではどうすれば成功できるか?5つのポイントをお話ししたい。

1つ目は、正しい情報を得ることだ。不慣れな地域では様々なリスクが隠れている。信頼できるプロフェッショナルを雇うことだ。

2つ目は、適切なパートナーを選ぶこと。

3つ目は、信頼関係を築くために時間も含めた投資を怠らないこと。

4つ目は、挑戦すること。プレミアムブランド戦略は、このような新興国では機能しない。製品の価値と価格競争力を両立させることが必要になる。

5つ目は、想定されたリスクを取ることだ。

優勢な立場に立つためのチャンスを見極め、常にイノベーティブであることが必要だ。時間が経てば必ずよいものが出てくる。新しいものを作ることを恐れてはいけない。

そしてチームワークと対話が必要だ。効率の良い「対話戦略」と、事前計画を持つことが必要だ。

 
【質疑応答より】

(「中間所得者層が急拡大したこの10-20年で何が変わったか?」という質問に対して)
海外労働者からの送金は年間250億ドル、アウトソーシングは年間200億ドルの規模だ。これらのお金がフィリピンに入ってきており、国内で再投資され、ビジネスがさらに増えている。フィリピンは若いのでこれからもアジアの他の国よりも高成長が期待できる。政府は緊急なインフラプロジェクトをしてくれないと困る。フィリピンには莫大なチャンスがあるからだ。このチャンスを逃してはならない。

(「チャンスは多いが、課題は何か」という質問に対して)
マルコス時代に戒厳令があったこともあり、1980年代から色々な問題があって、フィリピンは遅れている。たとえばセメント消費量は1人当たり150Kgだ。他国は1000Kgなので少ない。だから不動産はまだまだ成長できる。多くの外国人がフィリピンに来ないのは、拉致や誘拐を恐れているかも知れないが、今はそんなことはない。

(「AEC (ASEAN経済共同体)が2015年末から始まると言われているが、これはうまくいくと思うか?」)
ASEAN統合は間違いなく実現される。フィリピンではリスクはあまりないと思う。消費者にとっては価格がより安くなり、入手しやすくなる。フィリピンにとってよいことであり、フィリピンの強みになる。

(「この5年、10年の中国の役割を聞きたい。特に中国が提唱しているAIIB(アジアインフラ投資銀行)についてどう思うか?」という質問に対して)
→中国は全ての近隣諸国に友好的であるとともに、全ての国と協力して、問題から遠ざかるべきだ。

 

【所感】

SMインベストメントのテレシタ・シー・コソン副会長もフィリピンの企業でした。今回の世界経営者会議に登壇された19名のうち、フィリピンからは2名の経営者が参加されています。それだけフィリピンの成長が著しいということでしょう。

実は対談は、記者と、ラモン副会長、SMインベストメントのコソン副会長、PTTのパイリンCEOの4名で行われました。

ASEAN統合や、中国の話題、AIIBの話に対する3名の反応を見ていると、アジアではさらに大きな躍動が始まっていることを実感します。

新聞記事でも経営者の講演や対談の様子を読むことができますが、やはりライブで見て得られるものは大きいですね。

 

2015年の世界経営者会議は、2015/11/10(火)と11/11(水)の予定です。ここでしか学べないことも多いので、また参加したいと思っています。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

世界経営者会議(4)1日目: Evernote フィル・リービンCEO

世界経営者会議(5)2日目: LIXIL 藤森義明 社長兼CEO いないのは「プロの経営者」よりも、むしろ「プロのマーケター」

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO 「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

世界経営者会議(8)2日目:タイ石油公社(PTT) パイリン・チョーチョーターウォン社長兼CEO タイはバイオハブになる

世界経営者会議(9)2日目:サンミゲル ラモン副会長、社長兼COO ASEAN統合は、アジアの新たな発展の契機になる

世界経営者会議(8)2日目:タイ石油公社(PTT) パイリン・チョーチョーターウォン社長兼CEO タイはバイオハブになる

世界経営者会議レポートの続きです。

タイ石油公社(PTT) 社長兼CEOのパイリンさんは、東京工業大学に留学され、修士と博士を取得された方でもあり、「東京は第二の故郷」とおっしゃっています。

 

【講演より】

PTTはグローバルFortune 84位にランクされる国営石油公社だ。積極的に多角化を進めている。そこで世界で何が起こっているか、その中でPTTの戦略が何かをお話ししたい。

世界では経済的・社会的な変革が起こっている。

高齢化が進展し2050年には65才以上の人口が3倍になる。グローバル化も進んでいるし、気候変動・資源減少の問題もある。一方で人々は、ICTの発達でソーシャルネットワークによりいつでもどこでも常に繋がるようになり、仕事とプライベートの境界が失われつつある。つまりノンストップでビジネスが進んでいる。

ビル・ゲイツが1999年に著書で「全てがリアルタイムに繋がり、ネットワーク化していく」と述べている状況が、まさに生まれている。

私は2014/4/21にシスコCEOのジョン・チェンバレンの招きでシスコ・リーダーシップ・カウンシルに参加した。その際、チェンバレンCEOは「企業は常に環境変化についていくことが必要だ。全ての企業がテクノロジー・カンパニーになっていく」と述べている。

常にイノベーションを生み出し続ける企業が生き残るということだ。だから私も、PTTをそういう会社になるように主導している。

では、イノベーションの観点でどうあるべきなのか?

社会は「サプライ・プッシュ」から「デマンド・プル」に変っている。供給が需要を生んでいたのは昔の話だ。新しい技術に基づいた新しいニーズが、革新的な製品を作る。最終的には消費者ニーズそのものが市場を作り出し、イノベーションがより速い速度で進んでいる。

では未来のマーケティングはどうあるべきなのか?

フィリップ・コトラーは「マーケティング3.0」で、「価値観と人間のスピリットが大切になる」と言っている。さらに我々は環境への影響が大きい生活をしている。持続可能性(サステナビリティ)がビジネスの場でも重要になっている。

 
では世界では何が起こっているのか?

2014/11/2に開催されたIPCC (気候変動に関する政府間パネル)は、「2050年までに再生可能エネルギー比率を現在の30%から80%に増やさなければいけない。さもないと、21世紀終わりには気温が5度上がる」と提言している。

また2014/9/23のClimate Summit 2014では、世界のリーダーたちが「世界の温度上昇を2度に抑える」と合意している。

エネルギーの供給サイド、需要サイドでも取り組みが始まっている、

まず供給サイド。世界最大の石油ガス会社であるサウジアラムコのCEOは2014/10/1に、CO2回収実証プロジェクトを始めるとともに、研究開発費を5倍に増やして排出削減を図ることを表明している。

一方の需要サイドでは、イケアも2014/9/23に、2020年まで販売する家具製品を100%再生可能にすると表明している。

 

このような状況で、PTTの戦略をお話ししたい。

まず「Bio-material (生物材料)時代が始まった」ということだ。

PTTは公営石油会社だが、資源ベースから知識をベースにした企業に変革していく。

既にPTTはバイオプラスティックスでは世界のリーダーだ。さらにタイを「バイオ・ハブ」とするために、エコな工業団地を建設するとともに、バイオハブのバリューチェーンを構築していく。2020年には売上の2%をグリーン関連製品から生み出す目標だ。

 

【質疑応答より】

(「中間所得者層が急拡大したこの10-20年で何が変わったか?」という質問に対して)
タイは日本に似ている。出生率は低く、高齢化が進み始めている。こういった経済的プレッシャーから、共働きがほとんどだ。色々なサービスが生まれている。たとえばガソリンスタンドがコミュニティセンターになっている。夫婦が待ち合わせをして、買い物をしたりおしゃべりをしたりして帰る。ライフスタイルがどんどん変わってきている。コンピュータも24時間x365日運用であり、アジア大陸全体を網羅している。X世代、Y世代が増えるに従って、こういうインフラも増えていく。デパートに行かなくなりガソリンスタンドに行くようになっているので、消費者に対応できるようにするため、たとえばPTTのガソリンスタンドではコーヒーも売っている。このような個人主義的な消費者に対応できるようにしている。

(「チャンスは多いが、課題は何か」という質問に対して)
タイは資金はあるが、ASEAN全体では資金が足りない。いかにして資金を調達するかが課題である。またタイは人的資本が不足している。失業率はマイナスになっているので、近隣諸国から移民を取り込んでいる。自由な労働力の流れが、ASEANの経済に追い風になっている。

(「AEC (ASEAN経済共同体)が2015年末から始まると言われているが、これはうまくいくと思うか?」という質問に対して)
PTTは色々な国で既に数百億ドルもの投資を行ってきた。AECが実現すれば、その投資を拡大していきたいし、ASEANを再活性化できる。6億人の人口を抱えるASEANは中国やインドとも繋がっている。中国やインドとビジネスをしたい人たちにもASEANに来て欲しい。
ASEAN統合はタイにとっても強みになるし、フィリピンと補完関係にある。まだまだ投資が必要だ。ASEAN諸国が我々の投資先になっていく。共同体には期待が高い。政府は、ASEANの他国は、ライバルではなくパートナーなのだ、というように考えを変えなければならない。

(「この5年、10年の中国の役割を聞きたい。特に中国が提唱しているAIIB(アジアインフラ投資銀行)についてどう思うか?」という質問に対して)
→AIIBは、最も歓迎する中国からのメッセージだ。インフラ投資を拡大するにはAIIBはよいコンセプトだと思う。
米国はアジア開発銀行(ADB)を主導している。AIIBとAIDは、もう一つの米中対決なのかもしれない。両国の狭間に入ってしまうので、いかにASEANが独自性を持つかというゲームなのかもしれない。ADB、 AIIBいずれであっても、ASEANにキチンと投資してくれるのであれば歓迎したい。

【所感】

まずパイリンさんのマーケティングへの深い造詣に感服しました。必死にメモを取り、後日、動画と講演資料も見直しました。

アジアで、しかも公営企業が、大きなマーケティング戦略をもって、このようにグリーンプロジェクトに統合的な取り組みをなさっていることに感銘しました。

一方の日本は要素技術はあるものの、このように全体を統合した取り組みはなかなか見られないのが現実ではないでしょうか。むしろ対抗しようとするのではなく、このようなプロジェクトには積極的に参画し、協業していくことが必要だと思います。

ASEAN統合本番が迫っていて、アジア各国の企業が大きな期待を寄せていることも印象的でした。

SMインベストメントのコソン副会長のお話と併せて、アジアのダイナミックな経済活動の一端に触れることができた、貴重なお話しでした。

 

明日も、ASEANにある他企業トップの講演をご紹介します。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

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世界経営者会議(5)2日目: LIXIL 藤森義明 社長兼CEO いないのは「プロの経営者」よりも、むしろ「プロのマーケター」

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO 「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

世界経営者会議レポートの続きです。

SMインベストメントはフィリピンの複合企業です。登壇されたコソン副会長は、中国から移り住んだお父様の靴屋で商売を覚え、今は大企業になった SMインベストメント副会長として、フィリピンで資産規模最大のBDOユニバンク銀行会長も務めておられます。

 

【講演より】 

フィリピンは今、大変良い状況だ。債務よりも海外外貨準備高の方が高い。一人当たりGDPも3000ドルを超えた。

要因は二つある。まず海外にいるフィリピン人の送金が毎年250億ドルにも及んでいる。さらに海外からのアウトソーシングも急増しているので、家庭にお金が貯まり始めている。

このおかげで、小売業が急拡大している。都市化が進み、低金利もあって不動産事業が急拡大し、不動産価格が上がっている。さらにサービス業も強いし、農業・漁業・森林・鉱山事業も活発だ。

SMインベストメントグループはフィリピンで50年以上サービスを提供してきた。着実な成長を果たしてきた結果、不動産、銀行、小売といった3つのコア事業分野で市場を独占している。

フィリピンには天然資源や観光資源もあり、経済的には活況を呈している。労賃も安く経済的にも良くなっているので、ビジネスを行うにはよい場所だ。一方で技術面やインフラ面では課題がある。日本企業にとってチャンスでもある。

フィリピンにはかつて政治的なノイズもあった。そこでフィリピンへの投資は中長期的な視点で考えるべきだ。中長期的視点であれば、得られるものも大きいはずだ。

 

【質疑応答より】

(「中間所得者層が急拡大したこの10-20年で何が変わったか?」という質問に対して)
当社は何十年も中間所得者層を相手にしている。所得が増えているのは素晴らしいこと。そういう消費者が望む価値を提供している。そのために技術をどんどん導入し、革新も進めている。次々と市場に参入する業者と協業するようにしている。

(「チャンスは多いが、課題は何か」という質問に対して)
フィリピンについて関心が払われていなかったこと。今やビジネスは加速している。

(「AEC (ASEAN経済共同体)が2015年末から始まると言われているが、これはうまくいくと思うか?」という質問に対して)
フィリピンは全体的に若い。その一方でタイは高齢化が進んでいるのが問題だ。このようにASEAN各国によって状況も課題も異なる。ASEANの統合が起こると、各国の違いが調和する。ASEAN統合により、たとえば日本企業から見ると、タイに本社を置いて、フィリピンでビジネスをする、というような形でも展開できる。ASEANは6億人の消費者がいる大きな市場だ。皆で調和した市場ができれば、移動も簡単になり、金融的な安定性も高まる。統一市場になることで、マイナスよりもメリットが大きい。

(「この5年、10年の中国の役割を聞きたい。特に中国が提唱しているAIIB(アジアインフラ投資銀行)についてどう思うか?」という質問に対して)
→中国は大きい国である。我々が輸出・輸入双方にとって中国が必要である。特にアジア統合というプロジェクトにおいては、AIIBは必要だ。

 

【所感】

コソン副会長が「フィリピンは経済的に今はとてもよい状況にあり、ビジネスチャンスは莫大だ。しかし関心が払われてこなかった」とおっしゃる通り、私もフィリピンについては古いイメージが残っていたため、現在の成長についてはよく知りませんでした。

ASEAN統合の動きや、中国に対する考え方についても、ASEANの大企業トップが何を考えているのかがよくわかりました。

豊かになりつつあるアジアには大きなチャンスがあり、企業のトップはその果実を得るためにとても現実的に考えていることが、講演や対談からもよくわかりました。

 

明日・明後日も、ASEANにある他企業トップの講演をご紹介します。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

世界経営者会議(2)1日目:KPMGインターナショナル・ビーマイヤー会長

世界経営者会議(3)1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた

世界経営者会議(4)1日目: Evernote フィル・リービンCEO

世界経営者会議(5)2日目: LIXIL 藤森義明 社長兼CEO いないのは「プロの経営者」よりも、むしろ「プロのマーケター」

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO 「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議(7)2日目: SMインベストメント テレシタ・シー・コソン副会長 平均年齢23才と若いフィリピンは、なぜ急成長しお金を持っているのか?

 

世界経営者会議(6)2日目: チャロン・ポカパン(CP)グループ タニン・チャラワノン会長兼CEO

「中国市場のチャンスは無限だ」「インターネットは飽和し、実体経済の変化が重要になる」

世界経営者会議レポートの続きです。二日目に、チャロン・ポカパン(CP)グループのタニン・チャラワノン会長兼CEOが登壇しました。

中国出身のチャラワノンさんは、1969年以来45年間、タイ最大の財閥であるチャロン・ポカパン(CP)グループを率いてこられた華僑です。チャラワノンさんのお話しは、日本経済新聞・井口アジア編集総局長との対談で進められました。

 

【対談より】

団結し、安定することが必要だ。分権し、リーダーを決め、委ねるのだ。必要なのはスピード。民主的な話し合いだと時間がかかりすぎてしまう。だからリーダーが主導権を持つことが必要だ。私の場合も、二人の兄が「お前がリーダーをやれ。私たちがサポートするから」と、リーダーシップを私に委ねてくれた。

7割正しく3割間違いであれば、進めるべきだ。たくさんやれば、成功するからだ。

私が唯一許さないのは、間違った時に人のせいにすることだ。間違いを自分のこととして、なぜミスに繋がったのかを考えることが大切だ。失敗は成功の母である。ミスしてもそこから学べば、一歩先に行ける。だからミスをしても私はサポートする。

ライバルと競争して一位になることは大切だが、利益が出ないのならば意味がない。自分たちがトップになれると判断した上で、参入するのが我々のやり方だ。一位になれる見込みがあるかで、事業を選ぶのだ。場合によっては一位になれる人とWin-Winの関係を結ぶ。

権限委譲する際には、範囲を明確にする。「自分が社長なのだ」と考えさせるようにし、処遇も与えた上で、意思決定させる。

CPグループの経営哲学は、国家、国民、CPグループのメリットを考える「三方良しの原則」だ。まず国家、そして国民、最後にCPグループだ。その国の国民がサポートしてくれることが最優先だ。国民に利益をもたらさないと成功するわけがない。国と国民が利益が上がれば、CPグループも利益が出る。まず与え、貧しい国が豊かになっていくことで、利益が生まれる。その1%を得るだけでも莫大な利益だ。「先に与えて、後で得る」のだ。儲けたいのならば、その国にとってよいことをすることである。

(「中国でビジネスをする日本企業へのアドバイスは?」という質問に対して)
中国企業は、世界中に投資するのが上手い。日本の起業家は、発展途上国が何を必要としているかを理解することだ。いかなる発展途上国であっても、日本の力は活きるはずだ。第二次世界大戦後、日本は全てを失ったが、発展した。このモデルをもって、発展途上国に利益をもたらすことを考えるべきだ。日本は技術を持っているし、市場を提供して世界で売るのを手伝うことも出来るし、資金もある。

(「中国経済については、どう考えているか?」という質問に対して)
中国の経済成長は減速しているが、それは必然だ。大きくなりすぎたのだ。今、成長の第二段階に入っている。今日の中国の改革がもう一歩進めば、大きなチャンスが生まれる。変化がなければ、チャンスはない。たとえば中国の土地は、現在全て国が所有している。売買されていない。さらに5億人の農民が、これから豊かになっていくし、都市部の貧しい人たちが豊かになりつつある。これまでのような高成長は不可能だが、中国国民13億人が購買力を付け始めている。成長率6%でも大変なものだ。中国市場のチャンスは無限である。東南アジア全体も同じような状況だ。

(「CPグループはタイで一日33万羽ものの鶏を生産している。生産性の秘密は何か?」という質問に対して)
CPグループは世界の変化を捉えている。モノを作る人にとってもチャンスである。たとえば鶏の生産では、今まで500名で生産していたのを、現在は十数名で生産している。最新機械を導入し、一人で20万羽を養うことができる。こういう時代になったのだ。
当社ではポイントを見極めて投資をしている。個人的には、間もなくインターネットは飽和すると見ている。誰もがネットで買うようになったその時が、飽和点だ。そうすると、モノを作る実体経済の変化や輸送ロジスティックスが重要になる。オンラインで配送できないモノ(実体)は、運ばなければならないからだ。だから今、人を物流に回している。陸運・海運・輸送装置・物流が重要になる。ストライキしないロボットを使わない手はない。モノは必要である。将来は、必ずその方向に進むと見ている。

【所感】

華僑の経営者のお話を聞く機会はあまりなかったのですが、このような形でお話しを伺い、大きな視野とロジカルな思考に感銘を受けました。

「7割正しければ実行する。沢山チャレンジする。但し、失敗したら必ず学ぶ」は、私も講演や研修などでお話ししていることで、とても共感しました。

また、「インターネットは飽和する」というお話しも説得力がありました。確かに、かつての「実体経済 > インターネット経済」の時代は、インターネットは実体経済を徐々に代替していくことで成長してきました。しかし代替可能な部分を全て代替すれば、「実体経済=インターネット経済」となり、実体経済そのものの成長が問われることになります。こうなると今度はCPグループのように、昔からある商材を扱う伝統的な産業が最新技術を取り込み、成長していく時代にシフトしていくのでしょう。

また中国市場についても、新たな視点を得られました。

日本国内ではともすると「中国の成長は既に限界。魅力的な市場ではなくなった」と言われています。海外からの投資縮小も報道されています。しかしチャラワノンさんが中国出身であることを割り引いて考えたとしても、中国市場のビジネスポテンシャルは課題を抱えつつ膨大であることに変わりはありません。

習近平主席も中国国内で汚職撲滅など様々な改革をしたたかに進めていますし、一方で懸念だった日中外交も雪解けの様相が見えてきました。

今回の世界経営者会議では、他にも中国やアジアの経営者が多く講演しました。

彼らの話からも中国ビジネスの現実がよくわかりましたし、アジア各国の企業が中国のビジネスチャンスを現実的に捉えていることも伝わってきました。

そこから見える姿は、国内メディアで伝えられる中国像とはまた違ったものでした。

 

後ほどの世界経営者会議のご報告でも、ご紹介していきたいと思います。

 

【世界経営者会議レポート】

世界経営者会議(1)1日目:IBM・ロメッティCEO、日立・中西CEO

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