2016年9月9日、富山で行われた拓新会主催 外部講師セミナーで講演しました。
参加者は約50名。
懇親会でもいろいろと意見交換のお時間をいただきました。
このような機会をいただき、ありがとうございました。
2016年9月9日、富山で行われた拓新会主催 外部講師セミナーで講演しました。
参加者は約50名。
懇親会でもいろいろと意見交換のお時間をいただきました。
このような機会をいただき、ありがとうございました。
シン・ゴジラが大ヒットしています。何回も見に行かれる人も多いようです。
かく言う私も、2回行きました。
個人的によかったのは、ゴジラ映画でお約束だった怪獣同士の戦いがなかったこと。
まさに「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」というキャッチフレーズそのもので、現在の日本が、ゴジラという大災害に遭遇した際に、どのように対応するのかがリアルに描かれていました。
海外での反応が気になるところですが、現時点では、絶賛する人もいる一方で、イマイチという人も多いようです。
■「面白かったけど日本語が分からないと厳しいかも?」日本のゴジラ最新作『シン・ゴジラ』に対する海外の反応【ネタバレあり】
米国とカナダで10月から限定公開が決まりましたが、先に公開が始まったシンガポールでは、こんな反応です。
■【悲報】『シン・ゴジラ』シンガポールで酷評「会議ばっかりでつまらない」「CGは玩具で演技は下手」
■シンガポールでもシン・ゴジラ公開。しかし観客の反応はいまいち。私もがっかり。
■『シン・ゴジラ』海外で酷評!!「会議ばかりで退屈」「なぜ2人逃げ遅れただけで攻撃中止?」と感性が違いすぎて楽しめない模様
日本人が「ああ、たしかに日本政府なら2人逃げ遅れただけで攻撃中止するだろうなぁ」と共感する場面も、シンガポールの人からすると、「逃げ遅れた人が二人いるくらいです攻撃中止とかありえない!」となるようです。
なぜこうなるのかは、ハイコンテクスト・コミュニケーションとローコンテクスト・コミュニケーションの違いを考えると、わかります。
たとえば私が会社員だった頃、社内の会議に参加した社外の人から、「何を話しているかさっぱりわからない」と言われたことがあります。同じような経験をされた方も多いのではないでしょうか?
会社の社内コミュニケーションでは、会社独自の用語や省略語が使われていたり、会社独自の文化を前提に話し合いが進みます。「あうん」の呼吸や「察すること」を前提としたコミュニケーションなのです。これが、暗黙知を共有しているハイコンテクスト・コミュニケーションです。
ローコンテクスト・コミュニケーションは、暗黙知を共有していない人同士のコミュニケーションです。
暗黙知を共有していないので、「あうん」の呼吸や「察すること」がまったく通用しません。だからシンプルなロジックと、わかりやすさが求められます。
先の2人が逃げ遅れた状況で日本政府が攻撃中止する場面に当てはめると、日本人の場合はハイコンテクスト・コミュニケーションが成立し、
・ああ、確か「命は地球よりも重い」って言っていた政治家もいたなぁ
・自衛隊に反対する人もいるから、自衛隊の攻撃で民間人が巻き添えになったら、自衛隊の存続問題になるよなぁ
・事故で民間人が死ぬのと、人為的に民間人を巻き添えにするは違うと、マスコミも叩くだろうし
・ここで首相が「攻撃中止」っていうのも、かなりリアルに描かれているよなぁ
というように、深く共感するわけです。
このように日本人ならば誰でも「ああ、確かに。あるある」と共感するような徹底したハイコンテキスト・コミュニケーションにこだわって作ったことも、日本でのシン・ゴジラ大ヒットの大きな要因なのかもしれません。実際に制作チームは霞ヶ関に「もしゴジラが現れたらどのように対応するか?」と取材を重ねています。
しかし海外では、日本のこのような状況を知らない人がほとんどです。つまりローコンテクスト・コミュニケーションなので、
・はぁ?2人逃げ遅れただけで攻撃中止?だってもう数百人か数千人死んでいるんだろう?被害を拡大するだけじゃん。あり得ない
となるわけですね。
ハイコンテクストとローコンテクストを、「お客さんの期待」と「コンテンツ」の2つの軸で整理すると、こんな感じになります。
ローコンテクストの「わかりやすくて誰にでも楽しめるコンテンツ」を、世界中のローコンテクストを期待するお客さんに提供し、世界中でヒットさせるのが、ハリウッド映画です。かつての「七人の侍」もここに入ります。
ハイコンテクストなコンテンツはハイコンテクストを期待するお客さんに大きく受けます。だから地域限定でヒットします。
ハイコンテクストなコンテンツをローコンテクストを期待するお客さんに提供すると、シンガポールでのシン・ゴジラ上映のように「ワケがわからない」となります。
ローコンテクストなコンテンツをハイコンテクストを期待するお客さんに提供すると、物足りなく感じます。
一方で、ハイコンテクストな内容でも、受け取る側がそこに深い意味を感じられるようになると、受け容れられることもあります。
ハリウッド映画でも最近のバットマンのように、シンプルな勧善懲悪ストーリーではなく、主人公が「本当に自分は善なのだろうか?」と悩む作品も、大ヒットするようになりました。30年前に最新作バットマンを公開しても、あれほどヒットはしなかったでしょう。主に米国で、受ける側が理解するハイコンテクストのレベルが上がってきたのかも知れません。
日本のカワイイ文化も、まさにそうなりつつあるように感じます。
シンガポールは世界の中でもローコンテクスト・コミュニケーションがかなり進んでいる地域なので、他地域では状況は異なる可能性もあります。ただそれは、日本文化がどの程度理解され、共感を得られるか次第なのかもしれません。
個人的には、10月の北米・カナダ限定公開で、多くの人たちがシン・ゴジラの世界観に共感するようになればと願っています。
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2016年9月4日(日)、石川県白山市で行われた金沢総合研究所様の夏期社員研修会で『お客様が買う理由を、いかに作るか? 「ニーズ対応」から、「ニーズサキドリ」への変革』と題して講演をしました。
金沢総合研究所様は、主に大学向けに基幹系(学事・法人)システム・ボータル系システムの製造販売、IT系インフラの支援をしておられます。
今回、日曜日にも関わらず、合計60名の社員の皆様が参加されました。
ありがとうございました。
人は誰でも、ムリなムダはしたくありません。
でも私たちは知らない間に、意外とムリなムダをしているものです。
たとえば私は以前、車を運転して、遊びや旅行によく出かけていました。
ふと気がつくと数年間、走行距離が毎年1000Km程度という時期がありました。引っ越しなどで生活パターンが変わり、いつの間にか車を使わなくなったのです。
不思議なもので慣れてしまうと、「将来、車が必要になるかもしれない」と考え、車がない生活に不安を感じるものです。
一方で車を持つデメリットも少なくありません。まず駐車場・保険・車検などの維持費。合計すると、毎月3〜4万円なので、家計には大きな負担です。運転すると事故リスクもあります。滅多に運転しないと運転技術も落ちるのでリスクも高まります。
結局10年近く前、思い切って車を手放しました。手放しても生活は変わりませんでした。むしろ車の維持費がなくなることで、家計は楽になりました。運転事故の心配もなくなり、精神的にも安心です。
つまり、以前の私は車を持つ理由があったのですが、気がつくと状況が変わり、知らない間に私はムリなムダをしていたわけですね。
これは個人の場合ですが、組織でも似たような状況がよくあります。
ほんの数年前、あるいは数十年前までは、必要だった仕事。今ではその必要性は消えたのに、相変わらず多大なコストと人員、時間をかけて行っている仕事は、意外と多いものです。これは私の車と同様、コストは発生しているのに価値を生まない、知らない間に発生しているムリなムダです。
外部の人間に指摘されて、「そう言えば、なんでこんなことをやっているんだろう?」と気がつくケースも少なくありません。先入観を持たない外部の視点でよく見えることも、内部にいるとなかなか気がつかないものです。
昔はその方法が正しくても、状況が変わると、やり方を見直すことが必要です。
身近な個人的なことであれば、自分の考え次第で直せますが、組織になるとこれがなかなか難しいのです。
まず「やり方が間違っている」ということを関係者が合意するのが、一苦労。
そして間違っていると認識できても、「昔の方法がいい」と思っている人も多いので、なかなか直せないのです。
会社組織の場合、ムリなムダを見つけるマジックワードがあります。
「その仕事って、お客さんにとって意味があるの?」
もしその仕事がお客さんにとって意味がないとすれば、見直しが必要なのです。
「顧客目線」は、使い古された言葉なのでつい忘れがちですが、常に持ち続けたいものです。
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実は順風満帆に見える人ほど、色々と失敗しているものです。
実は失敗した時の考え方で、その後の展開は大きく変わるのです。
プロジェクトで失敗した時、どこで間違ったのかを確認して失敗した原因を見つけて、どうすればよかったのかを考えていくことで、自分しか持っていない「学び」が蓄積され、成功する可能性が高まってきます。
しかしプロジェクトに失敗しても、「ダメだったか。じゃぁ次だ!」と、どこが悪かったのかを反省せずに、次に進むこともあります。
あるいは失敗を認めないこともあります。しかしこれはせっかくの改善のチャンスを、みすみす手放しているようなものです。
さらに失敗の犯人捜しすることもあります。でも犯人捜しは意味がありません。多くの場合、失敗の真の原因は人ではなくやり方にあるからです。だから犯人捜しをする組織は、別の人が担当すると再び同じ失敗を繰り返したりします。
これでは学びは蓄積できません。
「失敗は成功の母」ですが、失敗しても学ばなければ、「失敗は単なる失敗」にしかなりません。
失敗した原因を掘り下げられるのは、実際にプロジェクトに関わった人たちだけです。
うまくいかないことがあれば、当初の仮説に立ち戻り、何が悪かったのかを謙虚に検証することが必要なのです。
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ポケモンGOが大流行ですが、「規制すべし」という施設や地方の観光地が増えてきました。
そんな中、配信開始わずか3日後にポケモンGOを受け入れる表明をしたのが、鳥取県。
この鳥取県の取り組みは、マーケティングを考える上でとても参考になります。
鳥取県は、鳥取砂丘をスマホならぬ「スナホ・ゲーム解放区」にすると宣言しました。
鳥取砂丘はポケモンGOで、ポケストップが密集する一大スポットとなっています。
交通が激しい観光地でポケモンGOをするのは危険ですが、ここはだだっ広い砂丘。障害物も車も、一切ありません。思う存分、ポケモンGOができます。
鳥取県は、「とっとりGO」というポータルサイトを作るほど、本腰を入れています。
きっかけは、ポケモンGO配信日の2日後、鳥取県の平井伸治知事が鳥取砂丘でポケモンGOをプレイし、「ここなら安全にプレイできるんじゃないか」と思ったのがきっかけです。その翌日、ポケモンGO受け入れ表明。
トップの率先垂範とこのスピード感、素晴らしいですね。
平井知事というと、「ダジャレ知事」で有名です。
全国でも数少ない「スタバがない県」でしたが、そこを逆手にとって「うちは、スタバはないが、スナバはある」と、鳥取県をアピールしてきました。(その後、スタバは鳥取県に出店します)
この「スナホ・ゲーム解放区」でも話題になり、テレビ番組の取材を受けていました。
平井知事はこうおっしゃっていました。
「ウチの戦略は、タダで乗っかること。なぜなら、カニはあるけど、カネはない」
平井知事、一つ一つの言葉がキレまくっています。ダジャレ一つ一つに、必ず鳥取県の売り物を入れているあたり、底知れぬ深い「鳥取愛」を感じます。
「スナホ・ゲーム解放区」宣言以降は、鳥取砂丘に来る観光客も増えているとのこと。
ポケモンGOのブームをしっかり捉え、「見渡す限り障害物がない砂丘」という鳥取県の強みを活かし、「安全に気兼ねなくポケモンGOをプレイできる」という「お客様が買う理由」を創り出して、集客に繋げて成果を上げています。
鳥取県の取り組みから学べることは、多いと思います。
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日銀の「異次元金融緩和」が続いてますが、物価は上がらず、株価も低迷したまま。
一方で米国の株価は最高値を伺う展開です。
とはいっても、多くの人たちはどこか、「それは日銀と政府の仕事でしょ。自分は目の前の仕事で忙しいし」と思っているようです。
かなりヤバイ状況だと思います。
私は、物価が下がるのも、株価が低迷するのも、ビジネスパーソンのマーケティング思考欠如と、それを自覚していないことが、大きな原因だと思います。
「いいものを作っていれば売れたモノづくりの時代」、日本からは世界ヒット商品が続々生まれていました。
しかし今の日本からほとんど生まれていません。Pokémon GOのように新しい価値を生み出して頑張っている日本の企業(任天堂・株式会社ポケモン・米国ナイアンティックの3社)もありますが、極めて少数です。
「体験を求めるコトづくりの時代」になったのに、気がついていない。
だから、お客さんが心から「欲しい」と思うようなワクワクする商品やサービスが生まれない。
「お客様が買う理由」を創り出していないのが、大きな問題なのです。
その代わりにやっているのが、ムダを省く生産性向上です。
これも大切ですが、生産性向上だけでは需要は増えません。(政府は公共投資で需要を増やそうとしていますが、財源が必要なので限界もあります)
需要を増やさずに、生産性を向上させて供給力を増やせば、需要と供給の関係で、逆に価格は下がります。そしてデフレも進みます。
本来需要を増やすために必要なのは、「お客様が買う理由」を創り出すことです。
これは日銀や政府の仕事ではありません。
ビジネスパーソンが自分の仕事を通じて、「お客さんが買いたくなるような」価値を創り出すことを考え抜き、それを実現するしかありません。主役は私たちビジネスパーソンです。
では、どうすればよいでしょうか?
厳しい指摘をしている方がいます。一橋大院商学研究科のクリスティーナ・アメージャン教授です。
インタビュー記事で、日本のマネジメントのビジネス知識について「幼稚園レベル」と厳しいご指摘をしておられます。
十分なビジネスの基礎知識、ビジネスナレッジを備えた人材が足りないのです。社外取締役に限らず、日本の経営者、マネジメント層は基本的なMBA(経営学修士)の知識が不足しています。ハイレベルな知識を求めているのではありません。最も基礎的な知識を欠いているのです。厳しいようですが、幼稚園レベルです。
経営者も含めた私たちビジネスパーソン一人一人が、仕事で役立つ実践的で最低限のマーケティング思考を身につけ、日々の仕事を通じて「お客様が買う理由」を創り出していくことが必要だと思います。
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「お客様のために、この機能は必要だ」
「お客様のために、これを売りにすればいい」
私たちはよくこのように考え勝ちです。
しかし、このように考えるから失敗するのかもしれません。
かつて私も、実際にそのような経験をしました。
製品開発チームで、「お客様のためにはこの機能は必要だ」と考えて、苦労してある機能を製品に追加しました。営業活動で頑張った末、幸いながら大規模展開をするお客様に購入いただきました。
お客様になぜウチの製品を採用したのか、お伺いする機会がありました。
驚きました。苦労して追加したその機能はほとんど評価されず、オマケで考えていた機能が高く評価されていたのです。
「お客様のために」と考えて苦労して追加した機能は、多くのお客様ではそれほど必要としていなかったのです。
本来、実際にどの程度お客様がその問題を切実に解決したいと思っているか、確認した上で、開発に入るべきでした。
「お客様のために」という考え方は、危険なのです。お客様に対して、押しつけているのです。
「お客様の立場になりきって」考えるべきなのです。
一見同じように見えますが、実はとても大きな違いがあります。
「お客様のために」という考え方は、お客様に一方的に押しつけている考え方です。だから相手にされません。
お客様の立場で、
→ 本当に「お客様のために」必要と考えたその商品は必要なのか?
→ 本当に、それでお客様の課題は解決できるのか?
→ もしかしたら、お客様の立場ではもっと必要なものがあるのではないか?
私たちはもっともっと謙虚に考えなければいけないのです。
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講演で成功事例をご紹介すると、こんなご質問をいただくことがあります。
「結局そのケースは、運がよかっただけなんじゃないんですか?」
この後には、
「…そうは言っても、現実は難しい」
「…そもそも、ヒトモノカネがないし…」
「…しがらみばかりで、とても大変だ」
というお話しが続き、がんじがらめで身動きが取れないという現実がヒシヒシと伝わってきます。
ご紹介する事例が、「運がよかった」というのは、まさにその通りです。
しかし、その運は偶然ではありません。必然なのです。
言い換えると、「運がよかっただけ」ではないのです。
本コラムをご覧になっている方は、日本経済新聞の「私の履歴書」をお読みになったことがあると思います。
「私の履歴書」に登場するのは、どなたも成功した方々。
ある人が、成功した人が成功した要因を特定するために、「私の履歴書」を分析したそうです。そこで、共通する言葉がありました。
「たまたま」
「その時、偶然」
「不思議なことに」
つまり成功した人は、確かに幸運をたぐり寄せているのです。
その意味では、「運がよかった」というのはその通りなのです。
しかし重要なのは、「運がよかっただけ」ではない、ということです。
成功した人は、単に待っていて運に恵まれたのではありません。実際に色々な行動を起こしています。それらの行動は、すべて成功するということはありません。必ず失敗を伴います。
しかし実際に行動すると、一見無謀に見えることであっても、そのいくつかは「たまたま」成功します。そしてその成功が次の成功を呼び込み、周りの人々からの共感が広がり、次第に大きくなっていくのです。
そこで「幸運の式」を考えてみると、こうなるのではないでしょうか。
幸運 = 行動した回数 × 成功の確率
つまり行動した回数が多いほど、幸運が訪れる可能性も高まります。さらに行動した回数が多くなると、経験も蓄積し、成功する確率も高まります。
成功した人が「運がよかった」のは、何らかの行動した結果なのです。
何も行動もせずに、他人の成功を見て「あれは運がよかっただけ」と言っている間は、決して成功は訪れません。
確かに、現実には色々な障害があるでしょう。しかしがんじがらめの状況の中でも、できることは必ず1つや2つはある筈です。
まずは一歩。それをやってみる。
そこから、色々なことが変わってくるはずです。
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ある講演会で、こんな話をしました。
「お客様が満足するのは、期待を大きく上回った時です。
だからお客様の言いなりになっていては、期待は超えられません。
お客様のニーズをサキドリすることが必要です」
すると懇親会である経営者の方から、鋭いご指摘をいただきました。
「『期待を超える』『ニーズをサキドリすべし』、どちらもごもっとも。でも正直、違和感もあります。
ニーズのサキドリと言っても、その時点でお客様はニーズに気づいていません。つまりそもそも期待がない状態で、お客様の期待を超えてお客様に満足いただく、というのは矛盾していませんか?」
とても重要なご指摘なので、当コラムでご紹介したいと思います。
皆様はどのように考えますか?
この方がおっしゃる通りで、他社に先駆けてニーズをサキドリした時点で、ほとんどのお客様はニーズを意識していないので、期待も持っていません。わかりやすく言うと、ほとんどのお客様が「これってナニ?」という反応をします。
しかしごく少数のお客様は、ニーズを意識しているものの誰も対応してくれないので、あきらめている状態にあります。わかりやすく言うと、「これで困っているんだけど、でも仕方ないか…」と思っています。
たとえば2002年、アイロボット社は自動お掃除ロボット「ルンバ」を世界に先駆けて開発し、市場に出しました。当時のお客様は、「掃除に手間がかかる」のは当たり前でした。ほとんどの人は「自動で掃除できる」ことは期待していなかったのですね。私自身、この時期にルンバを見て「これってナニ?」と思っていました。
しかし、「困った。何とかしたい」と考えているお客様がごく少数いました。たとえば大都会の共働きの夫婦。2人とも仕事で遅くなることも多いので、掃除をする時間をなかなか作れません。掃除のことで夫婦げんかをすることもあるそうです。ご本人たちからすると結構深刻な問題ですよね。「帰宅したら、キレイな床で迎えて欲しい」というのは、切実なニーズでした。
そんなところへ、アイロボット社は初代ルンバを投入し、大都会の共働きの夫婦に向けて、通勤時間帯に都内の電車広告を出しました。
このように「ニーズのサキドリ」とは、ごく少数のお客様が持っているニーズを理解してサキドリし、誰よりも真っ先に解決策をご提供することなのです。
市場に真っ先に解決策を提供する場合、それを待ち望んでいる少数のお客様にとっては「もしあったら、御の字」という状態なので、もともとお客様の期待値はそれほど高くありません。
2002年のルンバ登場時も、自動で掃除できる掃除機は存在していませんでした。
そしてニーズを持っているお客様も、現代と比較すると、ごく少数。
さらに当時のお客様の期待も、「とりあえず掃除できれば、助かる」という状況。現代よりもずっと低い期待値でした。
2002年、このような状況で世に出た初代ルンバは、現在の最新ルンバと比べて機能的に見劣りしていていましたが、それまで自動お掃除ロボットを知らなかった顧客のニーズをサキドリしました。そして低かった期待値を大きく上回る価値を提供することで、初代ルンバは高い顧客満足を生み出したのです。
その後ルンバは顧客に対して価値を高めていき、当初「これってナニ?」と思っていた私のような顧客も満足させるようになっていきました。
つまり、
(1) 大きな課題を持っている、少数のターゲット顧客に絞り込む
(2) ターゲット顧客の課題を理解し、最も大きな課題に対応する
(3) ターゲットの顧客に、解決策を提供する
(4) さらに顧客の課題を深く理解して解決策を強化していくとともに、その解決策を他の顧客に拡げていく
これを愚直に繰り返し、「ニーズをサキドリし、期待を上回る顧客満足を生み出す」ことが必要なのです。
新商品開発の立ち上げ段階で、数多くのお客様をターゲットにすると、失敗します。
最初に必要なのは、お客様の徹底的な絞り込みなのです。
2016年7月4日、新潟で行われた新潟IBMユーザー研究会様の平成28年度 総会で講演しました。早朝に東京を出発し、上越新幹線で2時間で到着。当日、首都圏は猛暑でしたが、新潟は24度で過ごしやすい気候でした。
講演には約70名の方々にご参加をいただきました。
有り難いコメントを多数いただきました。
・今までの講演で一番良かったです。
・ユニークな考え方でビジネスPLAN/お客様への提案に役立たせることができそうである。
・日頃忘れている「知的感覚」を目覚めさせる、エキセントリックな話題で大変勉強になりました。
・話の最初から最後まで話に引き込まれました。特にモチベーション3.0、個人の働き方については自分でも今後よく考えたいと感じる点でした。
・阿智が成功した理由は非常に興味深く、自分の仕事に置き換えても参考になる点がたくさんありました。
・身近な例でお話をしていただいたので、とても興味深く講演を聞くことができました。
他社との差別化を考えたときに、ターゲットを絞って明確な目的を持って取り組んでいくことが大切だと思った。
・わかり易い説明でよかった。
・わかりやすい言葉で、聞きやすく、集中して聞くことができました。内容も自分の仕事に活用できる内容でよかったです。
横浜、大宮と続いて、今年3回目となるIBMユーザー研究会様の講演でした。
このような機会をいただき感謝いたします。
「市場規模は1000億円です。この新商品では、シェア5%獲得、売上50億円を狙っています」
新商品を企画しているというその方は、このようにおっしゃいました。
「ターゲットは、どんなお客様なのででしょうか?」
「色々なお客様がいるので、幅広くやりますよ。1000億円市場の5%です。売り込みを頑張れば、何とかなるかなと思っています」
「実際のところ、うまくいっていますか?」
「そこをいわれると厳しいですね。この2年ほど頑張っていますが、なかなか広がりません」
実はバブル期の25年前、私も同じ発想で商品企画を立てていたことがあります。販売活動は大変でしたが、そこそこの売上を達成できました。
しかし現代では、この考え方で新商品開発を進めても成果は出ません。現代のお客様は昔よりもわがまま。ニーズが多様化・細分化していて、お客様の要求レベルも高くなっています。
「市場シェア5%獲得」という目標が問題なのではありません。「シェア5%獲得が目標だから、幅広く販売すればいい」と考えるのが問題なのです。
これは「ターゲットのお客様とそのお客様の課題が、よくわからない」と言っているのと同じだからです。言い換えれば、目的地の地図を持たずに、初めて行く目的地に車を運転して向かっているようなものなのです。
時代は大きく変わってきました。
生産志向の時代:「作れば売れる」→力を持つのは、自社工場
↓
製品志向の時代:「よき製品が売れる」→力を持つのは、製品開発チーム
↓
販売志向の時代:「売り込めば売れる」→力を持つのは、自社営業
「市場シェア5%を獲得すれば、50億円」という考え方は、「製品志向」「販売志向の時代」までの発想です。
しかし「販売志向の時代」は既に終わり、時代はさらに変わっています。
↓
顧客志向の時代:「顧客が欲しいものが売れる」→力を持つのは、顧客
↓
社会志向の時代:「社会によきものが売れる」→力を持つのは、社会
売ろうとしてもなかなか売れないのが現代。こんな時代に、「どのような顧客が、どんな課題を持ち、どんな商品を必要としているか?」という具体的なシナリオを持たずに、「市場シェア5%を獲得すれば50億円」と考えて、お客様の課題に対する理解が浅いままで幅広いお客様に次々と売り込みを図っても、成功する可能性はほとんどありません。
ターゲットとなるお客様のプロフィールと課題を具体的に考える。
「これまで満たされていなかった、どのようなお客様の課題を解決するのか?」という視点で考え抜く。
そして、本当にターゲットとして想定したお客様がいるのか。
そのお客様は本当に仮説通りの課題を持っているのか。
そして解決策は正しいのか。
これらをリアルなお客様で検証し続けることが必要なのです。
そして、ターゲットとして考えたお客様の期待を大きく超える満足を提供することで、高い価値を生み出すのです。
多くの場合、仮説は大きな修正が必要です。そしてリアルなお客様から得られた学び自体が、自社の大きな差別化要因になるのです。
「商品企画がなかなか進まない」
「どんな新商品を作ればよいか、さっぱりわからない」
「開発チームに任せているが、全然進まない。何をしているんだろう?」
新商品や新規事業開発で、このようにお悩みの担当者やマネージャーは、少なくありません。
私も20年以上新商品開発に関わってきました。当初、同じ悩みを抱えていました。「こんな商品を作る」という大まかなコンセプトがあっても、それをなかなか具体的な形に落とせない。さらに新商品開発に関わる多くの関係者との合意形成も大変です。
しかし現在は、かなりのスピードで新商品開発を進められるようになりました。かと言って、徹夜したりしてアクセクと仕事をしているわけではありません。むしろ端から見ると、割とゆったりと仕事をしているように見えていることが多いようです。
この経験を活かし、弊社では「新規事業開発ご支援」を企業様にマーケティング実習の形でご提供しています。参加されたある企業様の社員の方々からは、「仕事のスピードが3〜4倍速くなった」という感想もいただいています。
以前と同じ会社、同じメンバーで新商品開発に取り組んでいるのに、なぜ急にスピードが速くなるのでしょうか?
それは、マーケティング的な考え方に基づいた仮説検証プロセスを徹底しているからです。
新商品開発プロジェクトがなかなか進まないのは、「何をすればよいか」が決められないから。「決める基準」がないために、決められないのです。
そこで「新規事業開発ご支援」では、最初に私も参加してメンバー同士で議論を徹底し、短時間で「お客様が買う理由」を仮説として作ります。この際に、参加しているチームメンバー主導で議論をしながら、
(1)我々の強みは何か?
(2)その強みを必要とするお客様は、誰か?(ターゲット顧客)
(3)そのお客様は、何を必要としているのか?(顧客の課題)
(4)そのお客様は、どうすれば我々を選んでいただけるか?(解決策)
これらを仮説として作ります。
その上で、メンバーで実際にお客様に会ったり、必要な調査を分担して行いつつ、この仮説を検証していきます。お客様に検証すると、多くの場合、新たな学びが得られます。そこで学びを元に新しい仮説に進化させていきます。
仮説検証のために必要なアクションをメンバーで合意しつつ、高頻度で回すので、お互いに最新の仮説と検証結果を共有でき、「お客様が買う理由」の仮説を高スピードで進化させることができるのです。
完成度が高い「お客様が買う理由」ができれば、どのような新商品を作ればよいかが明確になります。
さらに「お客様が買う理由」の最新版をマネジメントや他部門と共有することで、新商品開発の最新状況も見える化できます。「チームに任せているが、全然進まない。何をしているんだろう?」という経営者やマネージャーの悩みもなくなります。
また、このプロセスを通じて仮説検証プロセスを参加した社員の方々が身につけることで、その後の新商品開発も迅速に進めることができるようになります。
では、仕事のスピードが速いと、何がよいのでしょうか?大きく分けて3つの理由があります。
■業界内の競争に勝てる: 多くの場合、現在の業務スピードは同業他社のライバルと同等です。ライバルの数倍速く動くだけで、ライバルの機先を制して、競争に勝てる可能性が格段に高まります。これは経営者にとってとても大事なことですね
■より多くの仕事がこなせるようになる: 常に数倍のスピードで動けるようになれば、チームで複数の新商品開発を並行して実施できます。部門を預かるマネージャーにとって、部門でこなせる仕事が増えるのは重要です
■仕事が早く終わるので、プライベートが充実し、心身ともに健康を保つことができる: これは個人にとっても見逃せないメリットです
私自身、前職の日本IBM社員時代に、個人として、そしてマネージャーとして、この仮説検証プロセスを実施してきました。実際に、人材育成部長として部門の業績を上げつつ、社内の他の業務もこなす一方で、残業はゼロでした。さらにプライベートでは毎年数冊の本を執筆していました。私自身、この仮説検証プロセスを実践し、その威力を体験しています。
スピードは、全てを癒やしてくれるのです。
講演やワークショップで、よくいただく質問があります。
「新規事業に取り組んでいますが、なかなか立ち上がりません。『お客様が買う理由を作ろう』と言われても、ヒントがありません。困っています」
こんな時、私は採用実績と採用したお客様の採用理由をお伺いするのですが、なかなか立ち上がらないケースでは、共通点があります。
ある程度の期間、新規事業に取り組んでいるので採用実績は数件あることが多いのです。しかし採用したお客様がなぜ採用したのか、具体的に把握できていないのです。「実際にお客様には会ったことがない」という場合すらあります。
そこでこんなご提案をします。
「実際に採用したお客様に会って、どのように使っているのかお話しを詳しく聞いてみると、色々なヒントが得られるかもしれませんよ」
そして実際にお客様に会ってみると、お客様は「いやぁ、大きな課題があってね。色々な商品を試してみたんだけど、これを解決できるのはオタクの商品しかなかった。だから採用したんだ」とおっしゃることも多いのです。
つまり、自分たちが想像もしなかった使い方をしているのですね。
よくご紹介する事例は、業務用ミラー最大手のコミーが、業務用ミラーを手がけるようになったきっかけです。
40年ほど前、コミーは看板業を営んでいました。ある日、コミーは凸面ミラーを両面に貼り合わせて天井から吊してクルクルと回転させる「回転ミラー」を作り、商品展示会で出展しました。すると1個数万円もする商品にも関わらず、あるスーパーから30個もの注文が来ました。
数ヶ月後、そのスーパーでどのように使われているのかを見に行ったところ、店内の至る所に回転ミラーが吊されていました。なんと万引き防止用に使われていたのです。
万引きで倒産する店もあります。スーパーにとって万引きは死活問題。コミーの回転ミラーは、万引き防止に役立っていました。
これがきっかけで、コミーは業務用ミラーという市場があることを知り、様々な業務用ミラーのメーカーに成長していきました。
このコミーのような話は決して例外ではないことを、私は企業のお客様と一緒に新商品開発に関わりながら実感しています。
新商品を採用するお客様は、リスクを取るタイプのお客様です。このようなお客様は、何か大きな課題に直面すると、様々な商品を試した上で、ベストな解決策を見極め、採用します。そしてコミーが当初、回転ミラーが万引き防止用で使えるとは想像もしなかったのと同様、商品を作っている立場ではまったく気がつかなかったヒントを教えてくれることも多いのです。課題を持っているのはお客様だからです。
お客様が買わなかった理由は、高かった、機能が合わなかった、買いにくい、何か気に入らない…、それこそ無数にあります。これらを一つ一つ追いかけるのは大変ですし、買わなかった理由を1つずつ潰していっても、徒労に終わることが少なくありません。
一方で、お客様がお金を出して買った理由は、必ずあります。理由がないのにお金を出す人はいません。何らかの課題を持っているのです。そこを徹底的に掘り下げれば、大きな発見に出会うことも多いのです。
「お客様が買う理由」を作るカギとなるお客様の課題は、実際に買ったお客様のところにあるのです。
実際に買ったお客様から、学ぶようにしたいものです。
2016年5月31日、「そうだ、星を売ろう」の舞台・阿智村で、JTB協定旅館ホテル連盟様の研修があり、この中で『「そうだ、星を売ろう」 阿智村から学ぶ、「コト」発想への変革』と題して講演を致しました。
参加者合計約60名。全国から日々「いかにウチの地域を活性化していくか?」とお考えになっておられるリーダーの皆様が参加され、質疑や議論も活発でした。
当日の夜、「日本一の星空ナイトツアー」の体験会もありました。残念ながら曇り空でしたが、そのおかげでスターガイドで星が見えない日にどのように対応しているかがよくわかる体験会となりました。
2日間を通したJTB様のワークショップもあり、とても充実した内容でした。
参加された方々からいただいた感想の一部をご紹介します。
■地域主導で考えていた傾向があり、お客様が求める、買う理由が足りなかった。今回の講演で勉強になりました。
■一番印象に残ったのは、PDCAは円ではなく、らせんということでした。人の成長が企業の成長、そして地域の成長ということを学ばせていただきました。
■物事を変える手順を間違ってきた気がします。きちんとしたステップを踏んで変化させたい。
■プロセスが時系列でわかりやすく説明していただいたので、非常にわかりやすかったです。今後、8段階のプロセスを念頭に置きながら、地域とコミュニケーションを図っていきたいと思います。
■ターゲットの見極めやチーム作りなど、すぐにでもとりかかりたくなりました。ありがとうございました。
■知育づくりの前に、自社の社内改革にあてはめた時、非常に参考になった。是非、ジョンコッターの8段階プロセスに沿って、社会改革を進めたい。
このような機会をいただき、感謝致します。
「永井さんが言っていた『お客様が買う理由』、自分なりに考え抜きました」
その方は一枚の紙を持ってきました。
「お墨付きをいただいたら、会社に戻って、ヒトモノカネを投入してすぐに全社展開します」
「自分の会社をもっと良くしたい」という誠実で真摯な想いがヒシヒシと伝わってきます。ただ、この方法だと、必ずしもうまくいくとは限らないのです。
「お客様が買う理由」は、次のように考えていきます。
・自分たちの強みが、何なのか?
・その強みを必要とするお客様が、本当に存在するのか?
・そのお客様が、本当にその強みで解決できる課題を持っているのか?
・そしてそのお客様が、その解決策で本当に我々を選んでくださるのか?
これを考え抜いたのは素晴らしいことです。
しかし仮に実績豊富で超優秀なコンサルタントがいて、お墨付きを出したしても、必ずしもうまくいくとは限らないのです。「お客様が買う理由」は、あくまでも仮説。その仮説が正しいかどうかを決めるのは、リアルなお客様だけだからです。
特に変化が激しい時代は、ほんの短い期間で顧客ニーズが激変することもあります。ですからこの仮説が本当に正しいのか、リアルなお客様で検証し続けることが必要なのです。
ほとんどの場合、仮説通りには進みません。修正に次ぐ修正が必要です。
うまくいかない時、「まったくダメだ。ゼロからやり直しだ」と考え勝ちですが、ここで大切なのは、ゼロから考えるのではなく、当初の仮説に一度立ち返り、どこが悪かったのかを考えること。
・自分たちの強みの定義が間違っていたのか?
・ターゲットのお客様の設定が間違ったのか?あるいは絞り込みすぎているのか?
・想定していたお客様の課題把握が間違っていたのか?
・課題把握は正しいが、解決策が適切ではないのか?
「お客様が買う理由」は、一見シンプルに見えるので、ともすると簡単に作れそうに思えます。しかし完成させるためには、リアルなお客様に対して、上記の試行錯誤の繰り返しが必要なのです。そしてうまい組み合わせが見つかっても安心できません。時代とともに、賞味期限が切れるからです。変化対応が常に必要なのです。
このように考えると、冒頭のやり取りで何が問題なのかがわかるのでないでしょうか?
「お客様が買う理由」が正しいかどうかを決めるのは、お客様だけです。
そしてその答えを見つけて検証するのは、その事業のことが一番よくわかっている自分自身です。どこかにいる第三者ではありません。
私は、その答えを見つけようとする人たちと同じ道を一緒になって歩いて答えを見つけ、そしてその後は、その人たちが独力で歩けるようにご支援したいと考えています。そこで弊社ではこれを企業のお客様に半年間の新規事業開発実習としてご提供しています。
「リアルなお客様の反応」という事実に対して、私たちは常に謙虚でありたいものです。
「お客さんにご紹介すると、興味を持つ方が多いんです。でも『採用実績は?』とか、『本当に大丈夫?』とか聞かれて、どうも真剣に考えているように見えないんですよね」
その人は、新規事業立ち上げに挑戦中。なかなか案件が進まず、悩んでいるようです。
新商品や新サービスを立ち上げる際、私たちは「こんなの、今までにない。きっとみんな興味を持つはずだ」と思いがちです。しかし「興味は持たれるものの、なかなか売れない」という現実に突き当たる人はとても多いのです。
私もIT業界で色々な新商品立ち上げに関わってきましたが、まったく同じ経験をしてきました。斬新な製品に興味を持つお客様はとても多いのですが、その中で実際に採用にするお客様は意外なほど少ないのです。
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
この現象を説明する理論があります。「イノベーター理論」です。
まったく新しい商品が発売されると、必ず次の顧客グループの順番で採用が進んでいきます。
①イノベーター(全体の2.5%)…新しいモノに真っ先に飛びつく
→②アーリーアドプター(13.5%)…「役立つ」と思うと、リスクを取り採用する
→③アーリーマジョリティ(34%)…「リスクはないぞ」と思ったら、採用する
→④レイトマジョリティ(34%)…「使わないと困るな」と思ったら、採用する
→⑤ラガード(16%)…なんだかんだ言って、最後までなかなか買わない
顧客全体をこのように整理して考えると、冒頭の「興味を持つけど、なかなか買わない」のは、③の「アーリーマジョリティ」以降の顧客であることがわかると思います。このグループの顧客は、リスクがあるものには決して手を出しません。実際に買うのは「使っている人が既に存在しているから、リスクはない」とわかった後。その人たちが、全体の実に84%もいるのです。見込客が10人いたら、8人以上がこのタイプです。
言い換えれば、この人たちに新商品の良さを一生懸命になって売り込んでも、まず採用しません。念頭にあるのが「リスク回避」なので、最初に聞いてくるのが「採用実績はあるのか?」。しかし新商品はそもそも採用実績がほとんどありません。話はすれ違う一方で、商談がなかなか進まないのです。
商談を野球にたとえると、バットを振ってもヒットにならないボール球。全体の実に84%もあるのです。
ヒットを打つには、ストライク球に狙いを絞ること。つまり、①の「イノベーター」と、②の「アーリーアドプター」を狙うことです。このグループの顧客は、新商品が役に立ち、「これで他社と差別化できる」と考えれば、ある程度のリスクを取って採用します。「採用実績がない」ことは、この人たちにとっては朗報でもあります。他社と差別化できるチャンスだからです。
しかしこのストライク球は、全体の16%しかありません。
では、ストライク球はいかに見極めればよいのでしょうか?ポイントはいくつかありますが、個人的な経験では…
□ 採用実績を気にする顧客のほとんどは、③〜⑤のグループ(=ボール球)
□ 採用実績はほとんど気にせずに、むしろ「何ができるか」を気にするのは、①〜②のグループ(=ストライク球)
このように指摘されると、「ああ、自分の経験でもそうだ」と感じる方も多いのではないでしょうか?
私もマーケティングを学び始めた時、イノベーター理論でもまったく同じことを指摘していることを知り、「なるほど!」と思ったことをよく憶えています。実務の経験と理論が結びつくと、とても腹オチしますね。
新商品立ち上げは、まさに時間との闘い。ストライク球に集中したいものです。
「まったく新しい分野で事業を立ち上げようとしているんですよ。ヒト・モノ・カネも結構かけています」
知人が話し始めました。(成功して欲しい)と思いながら話を聞いていましたが、途中から感じたことがありました。
(これは厳しいかもしれない…)
そのように思ったきっかけは、次の会話でした。
「お客さんはいるのですか?」
「まずは商品のコンセプト固めとデザインですね。その上でターゲットのお客さんが誰かを考えます。実際にお客さんを探すのは、その後ですね。頑張って販売します」
私は様々な企業の新事業立ち上げをご支援していて、実感していることがあります。
「ヒト・モノ・カネをある程度かければ、新事業は立ち上がる」と多くの人が考えています。
しかし新事業がビジネスとして成立するためには、「ヒト・モノ・カネ」よりも大切なことがあるのです。
それは「課題を持つリアルなお客様が見えていること」
事業は売上がないと成り立ちません。その売上を生み出すのは、お客様です。
ではお客様とは、新事業を立ち上げると、現れるものなのでしょうか?
かつての「作れば売れた時代」は、事業を立ち上げた後に販売を頑張れば、ある程度はお客様に売れました。
しかし現代は顧客ニーズが多様化し、「作っただけでは売れない時代」。「事業立ち上げ→販売注力→売上増」という図式は成立しないのです。
なぜか?
現代では、あるべき姿の順番が逆だからです。
私たちの強みを必要とするお客様が、想像上の産物ではなく、現実に存在している
→ そのお客様が、大きな課題(=痛み)を抱えている
→ その大きな痛みを解決するために、私たちの強みを活かして、商品やサービスの試作品をご提供し、役立つかを検証する
→ そしてそれが役立つのであれば、同様の課題を持つ他のお客様に広げてご提供していく
たとえ当初のお客様の数が少なくても、そのお客様の痛みが大きく、さらに私たち以外に解決できる事業者がいなければ、ビジネスの成功確率は高まります。だから最初に、「大きな痛みを抱える」お客様を見つけて、その課題を理解することが必要です。
なぜならば、お客様と課題が変われば、提供すべき解決策(商品やサービス)も変わるからです。
先の友人の考え方は、これとは逆になっているのです。
まず事業(解決策)を立ち上げる
→(そして、望むらくは)お客様が、現れる
→(そして、望むらくは)私たちの事業で、そのお客様の課題を解決できる
成り行きに任せているのです。
まずは、大きな課題を持つリアルな顧客が存在していること。
これは企業が事業を立ち上げる場合でも、あるいは個人が独立して事業を興す場合でも、大切なことなのです。
宣伝会議が発行している季刊「100万社のマーケティング」2016年夏号に、記事「今、注目の手法&用語:イノベーター理論とキャズム理論」を寄稿しました。
知っているようで意外と知られていない「イノベーター理論」と「キャズム理論」について、テスラなどの電気自動車、浅田真央選手で有名になったエアウィーヴ、セールスフォース・ドットコムなどの事例を挙げながら、4ページでわかりやすく解説しています。
よろしければご一読ください。
研修や講演で、こんなご質問をよくいただきます。
「『お客様が買う理由を作ろう』ということですが、今の仕事を抱えて余裕もありませんし、新しい挑戦で失敗するわけにもいきません。結局、今の仕事の延長線上でやるしかないのが現実なんですが」
このようなご質問、とても多いのです。
「失敗という選択肢はない。だから新たな挑戦はできない」ということですね。
しかし失敗は、本当に悪いことなのでしょうか?
2016年5月10日の日本経済新聞に、ロケットの海上回収に成功した起業家イーロン・マスク率いるスペースX社のことが書かれています。
—(以下、引用)—
「失敗という選択肢はない (Failure is not an option)」。46年前、酸素タンクの爆発事故に見舞われたアポロ13号を無事に帰還させ、「伝説の飛行管制官」と呼ばれた米航空宇宙局(NASA)のジーン・クランツ氏は、2000年に出版した回顧録にこんなタイトルをつけた。
宇宙開発の重みと厳しさを表す言葉としてNASAでは今も好んで使われるが、マスク氏のとらえ方は違う。「失敗という選択肢はないというばかばかしい考え方がNASAにはあるようだが、スペースXでは失敗は選択肢の一つだ。何も失敗していないとすれば、十分にイノベーションを起こしていない証拠だ」。05年の米誌のインタビューでこう語っている。
–(以上、引用)–
従来ロケットは使い捨てでした。イーロン・マスクはロケットを回収することで、打ち上げ費用を1/100にすることを目指しています。そして実際に、彼はロケットの海上回収に成功するまで4回失敗しています。学びがあれば、失敗は素早く成功へ到達するためのステップになるのです。
イーロン・マスクは海の向こうの話ですが、同じように素早く成功に到達するために、失敗から学ぶ事例は身近にもあります。
先日上梓した「そうだ、星を売ろう」の舞台である長野県・阿智村でも、世界初の「星空エンターテイメント」への挑戦で、この失敗から学ぶプロセスを繰り返しています。この「星空エンターテイメント」は星が見えない日も行っています。失敗からの学びを通じて、星が見えない日でもお客様に喜んでいただいているのです。
とは言え、失敗して大きな問題になると困ります。そこで本書では「失敗から学ぶための3ステップ」をご紹介しています。
・新しいことを試す。ただし、挑戦に失敗はつきものであると覚悟しておく
・失敗しても大きな問題にならないようにする。実験規模を見極めギャンブルを避ける
・失敗を失敗と認める。失敗を認めなければ、学ぶことはできない
このためには、「失敗から学ぶ」文化が必要です。「失敗という選択肢はない。だから新たな挑戦はできない」と考えから抜け出せない会社は、「失敗から学ぶ」という原体験が必要になります。つまり仮説検証からの学びがいかに価値があるかを体験することです。
組織のトップが「失敗から学ぶ組織にしたい」と思っているのであれば、たとえばマネジメントの同意のもとで社内から有志を募り、期間限定で小さなプロジェクトチームを作り、経験者も入った形で仮説検証ワークショップを通じて新商品開発に取り組み、小さな成果を生み出し、「失敗をみとめ、失敗から学んでいく」スタイルを時間をかけて広げていくのも、一つの方法です。
私自身、実習をご提供する立場で、実際にお客様のプロジェクトに入る機会を多くいただいています。
「失敗という選択肢はない。だから新しい挑戦なんてできない」
この考えから抜け出すことが、企業で新たな価値を生み出す第一歩なのです。
人材育成は企業の生命線です。多くの企業では、研修予算を持っています。
しかし、その研修予算がカットされ続けることがよくあります。
実は私自身、同じことを経験しています。前職の日本IBM社員時代、戦略マーケティングマネージャーを15年間担当した後、人材育成部長を2年間担当しました。就任した際、驚きました。それまでの数年間で、予算・人員ともに半分に削減されていたのです。
同じ経験をされている人材育成ご担当の方も、多いのではないでしょうか?
企業の生命線である人材育成が、なぜカットされてしまうのでしょうか?
これまで人材育成の成果は、即座に成果が出なくても、大きな問題にはなりませんでした。
たとえば20年前、私がマーケティングマネージャーに異動した際、勤務先の日本IBMでは新任マーケティングマネージャーを集めて、1週間の泊まり込み研修を数回実施してくれました。人材育成には時間がかかります。だから長い目でじっくり人材を育てる。研修は将来への種まき、という考え方だったのです。そして企業も研修予算を確保していました。
しかし現在、企業はコスト削減が進んでいます。新入社員研修や管理職研修のように長い目で人材育成する場も確かに残っていますが、企業は余裕がなくなりつつあり、かつて聖域だった研修予算も例外でなく、カット・見直しの対象になっているのが現実なのです。
では企業は、人材育成をあきらめたのでしょうか?
そんなことはありません。かつて以上に、「強い人材」が求められています。
私は先にご紹介した人材育成部長への異動の際、このことを身をもって実感しました。
私が戦略マーケティングマネージャーから人材育成部長へ異動したのは、事業部長の希望でした。事業部長から「永井さんは私の事業戦略を理解している。そこで人材育成を通して事業部のビジネス力を上げて、事業戦略を実現して欲しい」と言われたのです。
確かに事業戦略を実現するのは社員。だから社員が事業戦略を実現するスキル獲得を支援すれば、事業戦略は実現できるはず。確かにこれは正しいと考え、異動したのです。
そこで私は最初に、事業戦略達成のために必要なスキルが何で、現状スキルと比較してどのスキルが足りないかを分析し、仮説として重点スキル強化分野を3つに絞りました。
そしてこれらのスキルを強化するために、業務密着型ワークショップを実施しました。講師は研修のプロではなく、その道で実績をあげてきたビジネスのプロでした。たとえば顧客プロジェクトで突出した実績を上げてきたシニアコンサルタント、あるいはIT企業の大規模イベントで印象的なキーノートスピーチを行ってきた他社のトップ営業経験者などです。
さらに外資系企業であることもあって、四半期毎に予算申請が必要です。
私の就任前は、この四半期毎の予算申請が鬼門でした。四半期毎に予算がカットされ続け、数年間で予算・人員とも数分の1になりました。そこで私は「四半期毎の予算申請は、予算増額のチャンス」と発想を転換しました。そして四半期毎に人材育成の効果測定を行い、「現四半期はこの仮説で人材育成をしてきた。結果と成果はこうなった。得られた学びを元に、来四半期はこの方針で人材育成をしたい。そのためにはこの予算が必要だ」と説明するようにしました。
「仮説検証」の一環として、トップに追加投資を求めたのです。
2年後。人材育成部門の仕事は事業部ビジネス成長に寄与し、予算も人員も倍増しました。
表題に戻り、なぜ人材育成予算がカットされ続けるのでしょうか?
それは効果が見えないからです。従来型の企業研修は、限界に突き当たっています。
では、なぜ限界に突き当たっているのでしょうか?
業務から乖離しており、人材育成の効果が不十分だと見なされているからなのです。
私が人材育成の仕事を通して学んだことは、「人材育成は業務密着型で行う必要がある」ということ。「単なる研修」ではなく「業務実習」が必要です。 そしてそこで求められる講師は、従来型の研修のプロではなく、実務のプロなのです。
私はこの人材育成部長の仕事を通じて、「人材育成こそ、ビジネス成長に貢献できる」ということを、身をもって知りました。
私の専門であるマーケティングの分野は、現在多くの企業が必要としているスキルです。しかし実態は、多くのビジネスパーソンがマーケティングスキルを身につけていません。つまり企業の現場では、求められるスキルと現状のスキルの間にギャップが大きく、極めて高いニーズがあります。
私はかつて人材育成部長として人材育成戦略を策定した際、これと同じ状況に出会っています。人材育成部長の時は、戦略策定とマネジメントに徹していました。今度は自分が直接、人材育成をする番です。
そこで私は、マーケティングの著作や講演とは別に、企業を対象に、1日間の業務密着型ワークショップや、半年間の新製品開発実習を行っています。
1日の業務密着型ワークショップでは、私がそのお客様のビジネスを事前にスタディした上で、参加する社員の方々がチーム単位で自社事業の「お客様が買う理由」を作り、チーム同士で1日かけて議論していきます。これにより、自社ビジネスに即したマーケティングの考え方が身についていきます。
しかし本来は、日常業務で、仮説検証を通じて「お客様が買う理由」を進化させていくことで、マーケティングスキルが身についていきます。これは1日の業務密着型ワークショップだけでは不十分。リアルなお客様に検証し続けることが必要です。
そこで1日の業務密着型ワークショップを実施したお客様を対象に、「新製品開発実習」を半年間行っています。目的は、新商品開発を通じて仮説検証思考を定着させること。マネジメントも参加し、私も新製品開発チームに参加し、実務として行います。定期的に経営陣への報告会も行います。
目標を「新製品開発」に置き、業務として実習をしますが、その最終目的は「マーケティングの仮説検証思考を身につけること」。一過性のコンサルティングではなく、再現性があるスキル育成を行います。
従来型研修は、限界に突き当たっています。
現代で求められているのは、実務に即した、戦略的人材育成です。
戦略マーケティングマネージャーと人材育成部長の仕事で学んだ経験をもとに、企業が求める新しい人材育成のあり方を作り、企業のビジネス力強化をご支援していきたいと考えています。
先日テレビ番組で、ある菓子店が紹介されていました。メーカーのエンジニアをしていた方が一念発起し、独立して開店した、単品のお菓子を売る店です。
この方は、「美味しいお菓子を、お客さんが負担なく買えるように、1個200円以下で売りたい」と考えました。市価の半額程度です。
美味しいお菓子を作るためにレシピを考え抜き、沢山の数を作っては試行錯誤を重ね、腕を磨きました。さらにコストを削るために、店舗は駅から遠い物件を借り、人は雇わずに朝から1人で作り続け、包装の無駄も徹底して省きました。
そして1個180円、1日200個限定で夕方から販売開始。美味しい上に安いので、不便な場所にあるにも関わらず、開店前からお客さんが行列して10個単位で購入。開店後わずか1-2時間で売り切れです。出遅れたお客さんは「えー、もう品切れなの?」 残念そうです。
一方で徹底コスト削減しているものの、この店だけでは生活費は十分に賄えない状態です。そこで週2回、別のバイトで生計の足しにしています。曰く、「売上や規模は追いたくない。お菓子作り、バイト、自分にとっては両方とも大切なものだから」
番組キャスターは「いい話だ。生き様を見た。ジーンと来た」と感動していました。
皆さんはこの話、「自己犠牲で安くて良い物を提供か。美談だなぁ」と思いますでしょうか?
色々な価値観や見方があると思います。しかし率直に申し上げて、私は「美談」とは感じられませんでした。
この美味しいお菓子を作ることができるのは、この人だけです。朝から1人で200個作り、180円で提供しているのは、素晴らしいこと。しかし儲かりません。
180円のお菓子が200個売れているのですから、1日の売上は3万6千円。週2回は他のバイトなので、1ヶ月20日営業として月間売上はおそらく72万円。材料費・人件費・賃料は不明ですが、生計のためバイトする必要があるので、おそらく自分の人件費も利益もギリギリなのでしょう。
確かにバイトの仕事も大切です。しかしそのバイトは、この人以外でもできる人はいるでしょう。そしてこの人がバイトをしている間、その美味しいお菓子は作れませんから、お菓子を待つお客さんに価値を提供できません。
一見、自己犠牲を払いお客さんに安く提供すべく献身的に奉仕しているように見えます。しかしあえて厳しい言い方をすれば、「いいものを安く提供している」という状況に自己満足しているように思えてならないのです。
「生計を立てるために週2回バイトをする」というこのやり方で、本当に継続性あるお菓子作りができるかも、疑問です。
この方は「人は雇いたくないし、売上や規模は追いたくない」とおっしゃっています。そのお考えを理解した上で、より多く売ることを考えてみます。
たとえばスタッフ増強で、毎日180円のお菓子を500個作って売ると、1日の売上は9万円。バイトを止めて週1回休みで1ヶ月25日営業として、月売上225万円。売上3倍で、提供できるお菓子の数も3倍です。繁華街で賃料が上がる物件を借りてより多くのお客さんに美味しいお菓子を提供できるし、増強したスタッフを雇う余裕が出ます。さらにお金に余裕ができ、同じ価格でもっと美味しい菓子を作れる可能性もあります。何よりもご自身がバイトで生計を立てる必要もなくなります。
人により、価値観は様々です。「良い物を安く提供したい。でも人を雇わず1人でやりたい。より多くより大きくという発想はしたくないし、売上や規模は追いかけたくない」と考えるのは、あくまで個人の自由。
しかし一方で、「良い物を安く(でも儲からない)」という「ものづくり発想」から、「お客さんを幸せにする(なおかつ儲ける)」という「マーケティング発想」に切り替えれば、より多くのお客様に幸せを、継続的に提供できます。
適度な儲けは悪ではなく、ビジネスを継続させ、お客さんにさらに価値をお届けして幸せにするための手段です。
そのためにも、マーケティング発想が浸透すれば、日本はもっと楽しく、よい社会になるのではないかと、改めて思いました。
一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年5月号に、『2020年東京オリンピックは、世の中を変えるイノベーションを生み出す』が掲載されました。
実は前回1964年の東京オリンピックでは、その後の日本を変える大きなイノベーションが数多く生まれました。それは1964年〆切厳守の無理難題にチャレンジせざるを得なかったからです。
今回2020年の東京オリンピックも、同じように今後の日本を変えるイノベーションを生み出す可能性は、とても高いのです。
本論文ではそのことを述べました。
もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。
今回で連載12回目、最終回となりました。このような連載の機会をいただきましたこと、感謝します。
1年半前に『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ』という本を書いた際、世の中のコーヒーのことを色々と調べました。実は本書で取り上げなかった話があります。
それは世界で一番高価と言われているインドネシア産のコーヒー「コピ・ルアク」。映画『最高の人生の見つけ方』で、ジャック・ニコルソン演じる大富豪が愛飲するコーヒーとして登場するので、ご存じの方もおられるかもしれません。
このコーヒー、ジャコウネコの糞から生まれたものなのです。
「コーヒー豆」は「豆」ではなく、果実の「種」です。コーヒーノキという植物の果実から、果肉を取り除いた種の部分が、いわゆる「コーヒー豆」と呼ばれています。これを熱をかけて焙煎すると、香ばしい香りを放つあの褐色のコーヒー豆になります。
通常は、この果肉を取り除くために、水で洗ったり空気で乾燥させます。
しかしコピ・ルアクで、異なる方法で果肉を除去しています。
インドネシアのコーヒー農園では、野生のジャコウネコがコーヒーの果実を餌として食べることがあります。ジャコウネコの体内で果肉部分は消化され、種の部分が消化されず糞として排泄されます。その糞を探し出し、綺麗に洗浄し、乾燥させ、焙煎したのが、このコピ・ルアクというコーヒー。ジャコウネコの腸内の消化酵素や腸内細菌でコーヒー豆が発酵し、コーヒーに独特の香味が加わるそうです。
ネットで「コピ・ルアク」で検索すると、非常に高価格で販売されていることに驚きます。海外では1ポンド(450g)でなんと300−500ドル(3万3千円から5万5千円)という高値で販売されています。
このコピ・ルアクはどのようにして生まれたのでしょうか?
「コーヒーの歴史」(マーク・ペンダーグラスト著)という有史以来のコーヒーの歴史をまとめた分厚い本に、このコピ・ルアクのことが書かれています。
—(以下、p.470から引用)—
そもそもジョン・マルティネスがコピ・ルアークを売り始めたのは、主に「私の売っているジャマイカ産ブルー・マウンテンの1ポンド40ドルという値段が、そう法外なものではないことを知ってもらう」ためだった。その努力に対して、彼は「イグ・ノーベル栄養賞」を授与された。
—(以上、引用)—
イグ・ノーベル賞とは、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるノーベル賞のパロディー。あのドクター中松さんも受賞しておられます。
しかしこうして売り出されたコーヒーが、皮肉なことに一部の顧客から希少性を高く評価され、世界で最も高値で取引されるコーヒーとなったわけです。
世の中では、「これは素晴らしい商品だ」と考えて、情熱とヒトモノカネをかけて開発し、販売にも注力した商品が、なかなか顧客に評価されないことがよくあります。このような経験をすると、コピ・ルアクの成功はまぶしく見えます。
しかし一方で、世の中に沢山ある「売れると思ったけど売れない商品」と、コピ・ルアクには、共通する点があります。
それは、「商品の価値を決めるのは、作り手ではなく、顧客である」という当たり前のことです。
顧客は決して思うとおりにはなりません。
だからこそ私たちは、自分たちで「お客様が買う理由」を考え抜くだけでなく、考え抜いた「お客様が買う理由」が正しいのかを、実際にリアルなお客様に検証し、顧客から謙虚に学び続けなければならないことを、このコピ・ルアクのエピソードが教えてくれます。
2016年4月28日、日本IBM社員時代からお世話になっており、尊敬するジェイカレッジ校長・松山真之助さんの企画で、「そうだ、星を売ろう」の出版記念講演を行いました。
直前のご案内で、しかも休日前の夜にも関わらず、多くの方々に参加いただきました。
講演では、阿智村の取り組みを中心に、「お客様が買う理由」の作り方、検証の方法、変革の考え方、個人の働く意味などについてお話ししました。
アンケートでも色々なご意見をいただきました。
■ご著書のストーリー性と講演の臨場感で、複層的な学びを得ることができました。HPも拝見していていたので、「お客様が買う理由」を見つけることの重要性、本質を深く感じることができました。ありがとうございました。
■単発コンサルティングでは再現性がない。研修でワークショップを行い、5〜7名のグループで強み探し、ターゲット顧客特定を議論して5分発表、それを聞いてまた話し合いの繰り返し。永井さんも中に入って仮説検証を繰り返すことで再現性を生み出すという話。実に良いキーワードを多くいただきました。
■つい課題やニーズから考えていたが、自分の強みを具体的に考えることが大事だということが新たな気づきでした。
■どんな組織においても実現可能なメソッドだと感じました。勇気づけられました。ワークショップに関心があります。
■失敗の方法論はとても腹オチしました。リアルな話で本では得られないような納得感と気づきが沢山ありました。
■いろいろなフレームワークを学ぶことが大事だなと改めて思いました。
ご参加いただいた皆様と松山さんに感謝です!
お客様への講演や研修で、大阪によく行きます。今月大阪に出張した時、心斎橋商店街を歩いてみました。歩く人たちの半分が海外観光客。とても賑わっています。その海外観光客の多くが中国人。ドラッグストアや昔ながらの大阪の店で買い物をしています。いわゆる「爆買い」ですね。
数年前、海外観光客が少なかった頃は、商店街も人が少なかったそうです。
数年前までの風景から一変した大阪を歩きながら、気がつきました。
心斎橋商店街に店を構える「ラオックス」も、中国人観光客で賑わっています。東京・銀座や秋葉原などでもよく見かける風景です。
家電量販店の雄として一時は全国に100店舗展開していたラオックスは、量販店間の競争に敗れて業績が悪化し直営店を数店舗に縮小。2009年には中国の大手家電量販店チェーンである蘇寧電器の傘下になりました。今は中国出身の羅怡文さんがトップになり、免税店チェーンとして全国展開しています。爆買需要の成長に沿うように、売上と営業利益はこのように爆発的に成長しています。(ラオックス業績ハイライトより)
日本国内に生まれた中国の爆買い需用を、中国資本により、中国人トップが陣頭指揮を執って、刈り取っているのですね。
心斎橋・ラオックスに吸い込まれていく中国人観光客を見ながら、思い出したのが、大阪出張に来る新幹線車中で読んだ雑誌「Wedge」の記事「訪日外国人を囲い込む 中国民泊」です。
「民泊」とは、旅行者が一般人の民家に対価を払って宿泊すること。インターネットで、ホストとゲストを仲介するAirbnb(エアビーアンドビー)が有名です。日本では旅館業法などの規制で、民泊は条件が限定されています。そこで2015年から規制緩和の検討が始まっていますが、既存のホテル・旅行業界の利害もあり、なかなか進展していないのが実情です。
しかしこの記事では、中国に本社を置く民泊業者が、日本を含む世界中でサービスを展開していることを紹介しています。
中国人観光客増加により、日本国内には膨大な宿泊需要が生まれています。実際、私が宿泊するホテルでも、朝食バイキングでは中国の方がとても多いことに改めて気づかされます。その中国人観光客の膨大な宿泊需要を、中国資本の民泊業者が刈り取っているのです。
中国人が日本国内で民泊を展開するというと、たとえば「タワーマンションの隣りの部屋が民泊で使われて住環境が悪くなる」というイメージを持つ方もいるかもしれません。 この点について、この記事ではある中国人事業家の言葉が書かれています。
「…その点、民泊目的で投資する中国人は、マンション丸ごと買い取るケースが多いので強いのです…」(「Wedge」2016年4月号 p.19より引用)
確かにマンションが丸ごと民泊に使われるのであれば、苦情は激減します。苦情対応はない方がよいわけで、合理的な考え方ですね。
しかし日本ではまだ民泊は規制緩和中。その点はどうなのでしょうか?本記事では、中国系民泊仲介事業者最大手「自在客」トップを務める張志杰CEOのインタビューも掲載されています。
−−現行の日本の法律では、特区等を除いて民泊は禁止されている。
張 中国では既に政府が民泊を許可しており、世界各国で合法化の流れがある。それに比べると、日本はやや法規制が遅れている印象がある。
−−現在、厚労省や観光庁が中心となって、民泊のルールづくりを進めているが、誘いがあればこの会議に参加する気はあるか?
張 呼ばれることがあれば、喜んで参加したい
−−これまでのトラブル事例は?
張 トラブルはほとんどない。事前に「土足厳禁」「ゴミ分別」などのルールをゲストに周知していることが功を奏しているのだと思う。
−−今後の目標を。
張 既に日本では、1万2000室を提供しており、2万6000室を提供しているAirbnbを上回りたいと考えている。……日本へ多くの観光客を呼び込む役割を担っていきたい。
(以上、「Wedge」2016年4月号 p.20より引用)
この民泊需要でも、日本の行政で「民泊をいかに規制緩和するか?」を議論している最中に、中国資本がリスクをとってビジネス展開を先行しています。
ビジネスで大切なのは、いかに商機をライバルに先んじて掴むか、ということ。
言い換えれば、いかに市場のニーズをサキドリするか。
タイミング勝負です。
ですから、あえてリスクをとることが必要になります。
先の記事でも、日本で民泊を展開しているある若い中国人事業者はこう語っています。
「いろいろ心配されているのはわかるのですが…民泊を提供しているわれわれのような業者の感覚は、一般の方が抱くものとは少し違っているようです。というのも、われわれは”事故”や”トラブル”をあまり恐れていないからです。民泊を求める市場のニーズも観光客が増えるという見通しも、その潜在的パワーに比べたら、民泊に吹いている逆風など、あまりにも小さな障害だと言わざるをえないからです。現在の日本の法律では、民泊事業はグレーだと知っていますが、実態として多くの人が利用していますし、この流れを止めることはできないでしょう」(「Wedge」2016年4月号 p.17より引用)
大阪出張を通して、「日本国内に生まれている中国人の爆買い需要に対して、内向き思考でなかなかリスクを取れない日本人をよそに、利にさとい中国資本家達はリスクを取ってしたたかに刈り取り続けている。ここから私たち日本人が学べることは、実はとても多いのではないか?」と実感した次第です。
2016年4月13日(水)、芝公園で行われた日本能率協会様のJMAマネジメント講演会で「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題し、Q&Aを含めて2時間の講演をさせていただきました。
今回は大手企業様の商品企画・人材育成管理職の皆様を中心に、約50名が参加されました。
今回の講演では、ちょうどこの週から店頭に並び始めた新著「そうだ、星を売ろう」から内容を引用し、「お客様が買う理由」づくりの考え方をお話ししました。
皆様からのご感想です。
・マーケティングと社内意識改革がつながったことが、今日の成果でした。
・明快な説明に感銘。
・点で散在していた課題が線で繋がりました。もう少しで面にできそうですが…。頑張ります。一側面のロジックではなくあらゆる視点が統合されたお話しで大変考えさせられる内容でした。
・社内にマーケティングに詳しい者がおらず、何から考えればよいのか分からなかったのですが、マーケティング用語を使用せず、例でお話しいただいたので、イメージしやすくとても参考になりました。まさにテーマにある今じゃニーズに答えるだけでは売れないと感じていたので、その解決策が見えました。
・開発の目標などどう考えるか、まさにニーズ対応であり出てこないことが多かった。今回聴けたことを元に提案力をつけて、かつ見方もかえてみたいと思う。
・我々もメーカーなので、フレームワークを使って考え抜いてみたいと思いました。また人材育成の仕事をしているので、最後は「人」だというお話し、人材育成にも応用したいと思います。
・社内でのマーケティングのコンセプト、考え方を導入するアイデアとなりました。特に「自分たちの強み→ターゲット顧客→やるべきこと」は、とてもわかりやすく、参考になりました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
私のライフワークは写真です。学生時代から約30年余り、色々なカメラやレンズに散財してきました。
気になるカメラやレンズが発売されると買うべきかどうかを色々と調べて、悩みに悩んだ末に、やっと買うわけです。しかし不思議なことがあります。買った後なのにも関わらずそのカメラの広告やメディア記事が目に入ると、じっくり読んでしまうのです。
たとえば新車を買ったりして、同じような経験をされている方は、多いのではないでしょうか?
他にも、時計とか、ゴルフクラブとか、ファッションなどでも、同じようなことが起こったりします。
悩みに悩んで買った商品なのに、買った後もつい色々な情報に見入ってしまうのは、考えてみると不思議ですよね。
マーケティングの世界では(より正確に言うと社会心理学の世界ですが)、これを説明する理論があります。
これは「認知的不協和の解消」をしようとしている行為なのです。
「認知的…???」なにやら難しそうな名前ですが、簡単に言うとどういうことなのでしょうか?
多くの人は「常に一貫性ある自分でありたい」と思っています。商品を買った後も、「これだけ高い買い物をしたんだ。自分は正しい判断をしたんだ」と思っています。しかし実は一方で、「本当に正しい買い物をしたのだろうか?」という密かな不安も抱えているのです。
たとえば、こんな心当たりはありませんでしょうか?
「このゴルフクラブ、飛距離が出るって聞いて買ったんだけど、本当なのか?」
「この車、走りがいいって評判で買ったんだけど、実はもっといい車があったんじゃないかな?」
実は私も「このカメラ、買ったはいいけど、すぐ後にもっといいカメラが出るかもしれないなぁ」とか、「プロ用なんだから、すぐに壊れる…なんてことはないよね」と密かに思っていたりします。
このように人は、ある程度の高額商品を買った後は、この相矛盾する状態に陥っていることがよくあります。これが「認知的不協和を抱えた状態」です。
そこでこの「認知的不協和」を解消するために、消費者は買った後も「自分は正しい買い物をした」という情報を集めようとするのです。だからつい買った商品の広告やメディア記事に目が行ってしまうのですね。
つまり商品を購入した消費者に、「この商品を選んだ自分は正しかった!」と思っていただくことは、マーケティング戦略の上でも、とても重要なことなのです。
商品を購入してくれたお客さんは、新たにお客さんになってもらうための費用(新規顧客獲得コスト)をかけることなく、今後も継続して自社商品を買ってくれる可能性が高い、とてもいいお客さんでもあります。私も実際にその後、「このカメラ、買って正解だった」と思ったので、その後は新しいカメラメーカーの軽量なカメラボディやレンズがいつの間にか増えていきました。
広告や宣伝、広報などのメディア記事は、新たなお客さんを獲得するためだけではなく、既存のお客さんも意識することが必要なのです。その積み重ねが、ブランドを育てていくのです。
一方で、もし「自分は正しい買い物をした」と思いたがっているお客さんが、「この買い物をして失敗だった」と思うと、「認知的不協和」を解消するために「それでは、この商品は二度と買わない」という行動をすることになります。
こうして良いお客さんが去って行くのです。
ご縁があって購入してくださったお客さんには、失望させずに、「買って正解だった」と思っていただけるようにしたいですね。
本日、新著「そうだ、星を売ろう」の見本が到着しました。
「100円コーラ」シリーズ同様、10章のストーリーでマーケ理論が学べる構成になっていて、目次はこうなっています。
プロローグ 廃れた温泉郷が、ディズニー超え?
第1章 温泉郷の強みは、温泉か? 【大量生産・大量販売時代の終わり】
第2章 そうだ、星を売ろう! 【「当たり前のもの」が強みに変わる】
第3章 星の村 【コッターの企業変革力】
第4章 星のガイド 【ヒト・モノ・カネより大切なもの】
第5章 見えない星空 【リスク管理と失敗の3ステップ】
第6章 星のタウンミーティング 【抵抗勢力を味方につける】
第7章 星の絆 【「やりたいからやる」モチベーション3.0】
第8章 星の特産品 【1を100に育てるリーンスタートアップ】
第9章 五平餅協力隊 【ビジネスは合理的に判断できない】
第10章 星の模倣 【競争優位性の終焉と終わらない変革力】
エピローグ 成功体験を捨てる勇気
いよいよ来週発売。書店に並ぶのは4月18日頃から。既にアマゾンでは予約受付中です。
3年前、北海道・帯広市にお招きをいただき、講演をした時、こんな話を聞きました。
「実は、帯広では真冬にマンゴーを1玉2万円で出荷しています」
最初に思ったのは、(なんで真冬に、帯広でマンゴー?しかも1玉2万円?)
北海道・帯広がある十勝地方と言えば、まさに厳寒の地です。
そもそもこんな場所で、どうしてマンゴーを、真冬に作っているのか?そして高く売れるのか?
しかも自然エネルギーだけで栽培しているそうです。
不思議ですよね。
日本国内のマンゴーの主産地は、宮崎です。九州の温暖な気候の中で、春から夏にかけて収穫されます。
一方でマンゴーは、年末年始の贈答用としても高い需要がありました。この時期はクリスマス需要も見込めます。
しかし九州とは言え真冬は当然ながら寒いわけで、マンゴーを栽培するのは難しかったのです。
「マンゴーを12月に出荷できないか?」
そこで宮崎のマンゴー農家と、帯広で事業を展開するノラワークスジャパンという会社が、協業を始めました。
2010年11月に宮崎県から成木を移植して栽培を開始。2011年5月には20個を収穫、十勝でもマンゴーが実ることを確認しました。
しかしマンゴーを冬に収穫するためには、マンゴーに6ー7月が冬で、12月が夏だと錯覚させる必要があります。そこで大型ハウス栽培に挑戦しました。
しかし石油や電気エネルギーを使って大型ハウスを暖房・冷房していては、お金もかかります。地球にも優しくありません。では、どうするか?
そこには逆転の発想があったのです。
十勝地方の冬、大雪が積もります。
そこで夏場は、木屑をかけて保存した雪山から、大型ハウス地下にパイプを通して水を循環させ、真夏の地水の温度を下げるようにしました。これでマンゴーは真夏を「南国の冬」と錯覚します。
また十勝地方には、「美人の湯」として知られる十勝温泉があります。
そこで冬場は、この温泉水を循環させて、冬場でもハウスを30度以上の温度を保つようにしました。これでマンゴーは、冬場を「南国の夏」と錯覚します。加えてミネラル豊富なこの温泉水は、マンゴーの木にも与えられています。
さらに十勝地方は年間平均日照時間が2033.2時間。これは北海道内ではトップクラス。日本国内でも、宮崎市や高知市、和歌山市といった日照時間が長い地域と比べて遜色がありません。冬も晴天が続きます。このおかげでマンゴーも完熟します。
実は帯広・十勝は食糧自給率は1100%。わが国有数の食料生産基地なのも、この国内有数の日照時間のおかげなのです。
このおかげで、日本一の糖度15度超、さらに繊維質も少なくとろける味わいのマンゴー生産に成功しました。
十勝で生まれたマンゴーは、「白銀の太陽」と名付けられています。
十勝マンゴーは、「マンゴーはシーズンもの」という従来の常識を覆して「クリスマスに美味しいマンゴーを届ける」というイノベーションを実現し、「年末年始の贈答」「クリスマス需要」という「お客様が買う理由」を創りあげ、新たな顧客を創造したのです。
【参考リンク】
■十勝マンゴー、冬取り成功(十勝毎日新聞社ニュース)
一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年4月号に、連載『新企画が通らない。どうすればいい?』が掲載されました。
会社組織では、ときに理不尽なことが起こります。必ずしもいい企画が通るとは限りません。自信を持ってつくった商品企画が却下されることもあります。では、どうするか?
本論文では2つの事例を紹介しています。
一つ目はキリンFIRE誕生物語。実は当初は当時の社長に大反対をされました。その反対を乗り越えたカギが仮説検証。二つ目はその仮説検証を新事業立ち上げで活用したザッポスの事例です。
いずれも商品企画担当者は商品のあらゆるプロセスに積極的に関わっています。商品企画担当者の仕事は「商品の企画を作ること」ではなく、「商品を買う顧客を作ること」。商品企画担当者は、自分の仕事のあり方について、考え方を変える必要があるのです。
本論文ではそのことを述べました。
もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。
昨日3月24日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演の最終回でした。
今回は「価値を生み出すビジネスは、社会貢献である」と題して、お話ししました。
今回の講義は、これまでの14回の総まとめの意味もあります。
ということで、今回の講義内容レジュメです。
1.「価値の創造」を追求すると、「社会貢献」になる!
2.何年たっても高齢化しないニュータウンの経営手法とは?
3.企業が生み出す利益は、企業が社会貢献をするための手段
後半のお話しでは、さらに深く掘り下げた上で、14回の振り返りをしました。
私が14回の講義を通じてお伝えしたかったことは、「お客様に売ろう」ではなく、「お客様が喜んで買う理由を作ろう」ということに尽きます。
かつては作れば売れました。だからニーズに対応していればよかったのです。しかし今は豊かな社会です。色々なニーズがある一方で、モノは余っています。だからお客様の言いなりになるのではなく、お客様が「欲しい」と思うようなニーズをサキドリして、見せることが必要です。
そのためには、(1) 自分の強みは何かを考えて、(2) その強みを必要とする人が誰かを具体的に考えて、(3) その人が何で困っているかを考え抜いて、(4) その上でどうすれば自分たちを選んでいただけるかを考えることが必要です。
さらに考えるだけでなく、それが正しいのかを試行錯誤して失敗を通じて学んでいくのです。
目の前に喜ぶお客様がいれば、仕事も次第にやりたい仕事になっていきます。そして、価値を創るということは、社会貢献につながり、よりよい世の中を作っていくことに繋がります。
私たちがマーケティングを学び、日々、実践することで、必ず世の中はもっとよくなるし、私たちも幸せになる。
これが14回を通じて、皆様にお伝えしたかったことでした。
今回のレギュラー番組を通じて、皆様に何らかの「価値」をご提供できたのであれば、とても嬉しく思います。
今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら
今シーズン最後のアナウンサー・砂山さんとのツーショットです。
これまで 「生放送のラジオで話す」なんて考えたこともなかった私が、無事半年間、14回のレギュラー番組を務めることができたのも、砂山さんをはじめ経験豊富な番組スタッフの皆様のおかげです。感謝しております。
14回の放送をお聴きくださった皆様、ありがとうございました!
週刊モーニングで、「銀座空丸百貨店 お客様相談室」というコミックが連載されています。舞台は、銀座にある老舗百貨店のお客様相談室。お客様の無理難題な苦情に対応する姿を描いた物語です。
お客さんの苦情を受けるのは、誰でも辛いもの。
この物語では、相談室スタッフが、お客さんの苦情に苦慮しながら対応する姿が描かれています。一癖二癖あるお客さんが多く、その対応もまた秀逸です。
先週の連載第27話(2016/3/17発売 第16号掲載)では、相談室スタッフの会話が描かれています。
『んー…』
『何よ?どうかした?』
『あ…いえ。週末に届いた苦情メールをチェックしているんですけど、量が多くて…』
『なーんだ、そんなこと?室長を見てみなさいよ』
『え?』
『さっきからうれしくて仕方がないって感じで、苦情の投書を読み込んでいるわよ。まるでお礼の手紙をいただいたような表情(かお)で』
『室長の口ぐせは「苦情は宝の山」ですからね…… いや 頭では理解できても、ハートが追いつかないっす』
実際、百貨店は苦情への対応に多くの人手、手間、お金をかけています。
しかしなぜ百貨店は、このように苦情対応を徹底しているのでしょうか?
そしてなぜこのお客様相談室の室長は、まるでお礼の手紙をいただいたような表情をするのでしょうか?
室長の口癖「苦情は宝の山」に、ヒントがあります。
その背景にあるのが「ジョン・グッドマンの法則」。第一法則から第三法則まであるのですが、ここでは第一法則のみをご紹介します。
第一法則は、不満を持った消費者が、苦情を言った場合と言わなかった場合で、再購入率がどのように変わるかを示したものです。
まず不満を持った場合、96%のお客さん、つまり大多数は苦情を申し立てません。その中で再購入するのはわずか9%(1万円程度の高額商品の場合)。 残りの91%は無言で去っていき二度と買わないのです。怖いですね。
一方で苦情を申し立てるのはわずか4%。25人中1人だけ。しかしこのうち、不満が迅速に解決され大変満足した人は、実に82%が再び購入します。つまり、苦情に迅速に対応して満足すると、その後は贔屓客になる可能性がとても高いということです。
「ジョン・グッドマンの法則」については、顧客ロイヤルティ協会のサイトで詳しく解説されています。(第二法則・第三法則も面白いので、ご興味がある方はご一読を)
私自身、「苦情に迅速に対応することで、贔屓客になる」ということは、顧客の立場で経験しました。
10年ほど前、アマゾンで買ったパソコン部品がうまく動きませんでした。困ってアマゾンに電話で相談したところ、親切丁寧に対応していただき、無償(かつ送料アマゾン負担)で迅速に商品交換に応じてくれました。
ただ困ったことにその交換した部品も不具合を起こしました。ダメモトでアマゾンに相談したところ、再び迅速に無償交換してくれました。
当時、ここまで商品交換を徹底している他社はありませんでした。私はその後、ネットでの購入のほとんどがアマゾン経由になりました。万が一の場合も商品交換に応じるので、安心だからです。ただ、その後は商品交換することはありませんでしたが。
私のこの経験は、贔屓客になると、何がいいのかを教えてくれます。贔屓客を獲得した企業は、利益が飛躍的に上がるのです。
10年前の出来事以来、私がネット経由で商品を購入する場合は、ほとんどがアマゾンで買っています。見方を変えると、私個人という顧客からアマゾンはかなりの利益を上げています。
新規顧客を獲得するにはお金(新規獲得コスト)がかかります。しかし贔屓客の場合、この新規獲得コストはかかりません。さらに返品はお客さんにとっても手間です。品質管理を徹底すれば、悪質なクレーマーを除けば、商品返品は頻繁には発生しません。その結果、一取引当たりの利益も上がります。さらに長期間購入し続けることで、累積売上高も上がり、累積利益をさらに押し上げます。
こうして、贔屓客の顧客生涯価値(=顧客の生涯で企業に払う価値)は、極めて高くなるのです。
一般に、取引や買い物には、様々な不満がつきものです。
不満を感じたお客さんの96%は苦情を言わず、そのうち91%が何も言わずに去ります。つまり不満を感じたお客さんに投下した新規獲得コストの多くは、無駄になっています。
しかし不満を感じたお客さんのうち、わずか4%は苦情を申し立てます。そしてそのようにして届いた苦情は、見方を変えると、贔屓客を生み出す大きなチャンスを秘めているのです。
そして苦情を申し立てたお客さん(あるいは困ったと言ってくるお客さん)の問題を解決し、贔屓客にすることが、長い目で見ると、企業に莫大な利益をもたらすのです。
昨日3月17日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第13回目。
今回は「<モチベーション3.0>とは何なのか?」と題して、お話ししました。
私たちは何のために仕事をしているんでしょうか?大変な仕事でも頑張れるのは、なぜなんでしょう?
仕事、中でも知的生産性を上げるためのキーワードが、モチベーション3.0と呼ばれるものです。
ということで、今回の講義内容レジュメです。
1.どうしたら仕事に対するモチベーションが上がるのか?
2.お客さんの喜びがモチベーションを上げる!
3.「やりたいこと」を仕事にする方法
<モチベーション1.0>は、生き残るために頑張る。
<モチベーション2.0>は、目標を与えられ、目標達成のために、頑張る。→定型業務で生産性が高い
<モチベーション3.0>は、自分がやりたいから、やる。→知的生産性が高い(現代ではこれが求められている)
後半のお話しでは、様々な事例について掘り下げてお話ししました。
今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら
恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。実はこのお話しは、4月14日に発売する新著「そうだ、星を売ろう」の一部を先行してご紹介したものです。
次回の第14回目は、来週3月24日(木)。ついに最終講義ですね。『価値を生み出すビジネスは、社会貢献である』というテーマでお話しします。
家の近所に、全国でチェーン展開している紳士服専門店があります。
店の前をよく通りがかるのですが、お客さんはあまり入っていません。店員もまばらですが、店内にはかなり多くの商品を展示しています。
「お客さんも店員も、ほとんどいない。商品は沢山ある。儲かっているんだろうか?」
同じように不思議に思っている方も多いのではないでしょうか?
私も不思議でしたので、調べてみました。
そもそも紳士服専門店各社は、儲かっているのでしょうか?大手4社の2015年度業績は次の通りです。
青山商事 売上 2221億円 経常利益 247億円
AOKI 売上 1838億円 経常利益 189億円
はるやま商事 売上 504億円 経常利益 31億円
コナカ 売上 386億円 経常利益 11億円
どこもしっかり儲かっていますね。
しかし「紳士服専門店」というと、思いつくのはこの4社。
他にも横文字チェーン店があります。でもThe Suit Companyは青山商事、ORIHICAはAOKI、Perfect Suit JOYははるやま商事、SUIT SELECTはコナカが展開しています。世の中で目にする紳士服専門店のほとんどは、この4社で占めています。よく考えてみると不思議ですね。
そこで「紳士服専門店」という業態ができた経緯を調べてみました。
紳士服専門店は、1970年代から1990年代にかけて急成長しました。先鞭を付けたのは「洋服の青山」の青山商事です。
1970年代当時、紳士服は主に百貨店で売られていましたが、1着で給与1ヶ月分と、会社員にとっては高価でした。
そこで青山商事創業者の青山五郎社長は、「スーツを気軽に1ヶ月分の小遣いで安く買えるようにしよう」と考え、自社で開発・生産し、自社の店頭で売るようにしました。
これはSPA(製造小売販売)モデルという形態で、ユニクロやGap、最近ではAppleも展開しています。自分で材料の調達から、生産、配送、さらに店舗でお客さんに売るところまですべてをカバーしているので、自社商品に最適化でき、高収益になるのですね。
ただ、「紳士服専門店が儲かっているのは、自社で調達・生産・販売するSPAモデルで展開しているのが理由だ」と言われても、なんだかしっくりきませんよね。他にも理由がありそうです。
そこで青山がどのように生まれて成長したかを見てみましょう。
1972年、既に紳士服販売に特化して6店舗を展開していた青山商事の創業者・青山五郎社長は、同業他社のトップと一緒に「米国商業視察ツアー」に行きました。
視察の途中、サンフランシスコ郊外の巨大ショッピングセンター(SC)に立ち寄りました。周囲は何もない荒野ですが、賑わっています。ここで青山社長は疑問を持ちました。
「そもそも誰もいない郊外に、こんな巨大な商業施設を作って、なぜ商売が成り立つんだろう?」
当時の日本の常識は、「人が集まるところに店を出そう」だったのですね。
翌日。青山社長は別の視察先に行く一行から離れ単独行動を決意。タクシーを100Km飛ばしてその巨大SCに戻り、気がつきました。
そのSCの前には幅100mの大きな幹線道路があり、建物の数倍の面積を持つ巨大な駐車場が併設されていたのです。「カーショッピング」という、当時の日本には存在しなかった、まったく新しい販売形態だったのですね。
当時、日本でも家庭に自家用車が急速に普及し始めていました。青山社長は考えました。
「これはそのうち日本にやってくる。しかも、まだ誰も気づいていない」
一方で、この販売形態で特有なこともわかってきました。
まずこのやり方は、土地代が高い都会では無理。郊外だからこそ可能です。
一方で都会の買い物では、店に立ち寄るお客さんは多いものの一見客も多く、必ず買うとは限りません。しかし青山の場合、カーショッピングで紳士服専門店に車で来るのですから、消費の目的は明確に「紳士服を買うこと」です。
「これはいける」と考えました。
1974年、周到に準備を重ねた青山商事は、郊外ロードサイド型店舗(幹線道路の脇に建てて車で買い物にくるタイプの店)の一号店を広島県東広島市の西条町に出店しました。
当時、紳士服店は繁華街に出店するのが常識。そこへ、田んぼの真ん中に売り場面積70坪の紳士服専門店が突然あらわれました。当時地元の同業者たちは、「青山は気がふれた」と笑っていたそうです。
さらにオープン当初、お客さんは店に一人も来ませんでした。目の前の幹線国道を走るのは、トラックやライトバンなどの商業車ばかりでした。そこで手持ちぶさたの店長と販売員は、手分けして半径15Kmにくまなくパンフを定期的に配りました。
半年後、徐々に客が来るようになりました。そしてその客はほぼ100%、紳士服を買いました。
2号店以降は事前に販促活動を徹底してから開店するようになり、開店日から売れるようになりました。
こうして郊外ロードサイド型店舗の紳士服専門店の全国展開が始まりました。
このタイプの店に来るお客さんは「スーツを買う」という目的が明確で一見客はいないので、販売員も実際に買うお客さんに対応できる人数でOK。さらに商品が紳士服なので、販売員に必要な専門知識も絞り込まれています。販売員一人当たりでカバーできる店舗面積は、他業態と比べて格段に広くなります。だから私の近所の紳士服店も店員がまばらだったのですね。
来店する買う気満々の客には、確実に買ってもらうことが必要です。そこで紳士服に絞り込み、要望に対応できるように品揃えを幅広く用意しました。紳士服は1着数万円程度と高単価です。一日に10人来店し、1着ずつスーツを購入すれば、売上は一日数十万円。加えてSPAモデルなので粗利はその半分。収益性は高いのです。
「洋服の青山」を展開する青山商事を追って、各社も参入。紳士服専門店は、1990年代まで市場の成長とともに急成長しました。
一方で紳士服専門店というと、先に述べたように現在は青山、コナカ、AOKI、はるやま商事の4社ですよね。なぜいま、他の会社は参入しないのでしょうか?
紳士服チェーンは、1店舗で5万人の商圏をカバーする、と言われています。日本の人口は1億2600万人ですので、大まかに言うと2500店舗で飽和します。2015年時点の店舗数は次のようになっています。
青山858/コナカ344/AOKI557/はるやま商事477 →合計2236店舗
既にほぼ飽和状態です。この状況で、紳士服チェーン各社は新規出店と閉店を繰り返しています。つまり飽和市場で、既に強力な先行企業4社で寡占状態になっており激しく争っているので、他社はなかなか新規参入できないのです。
言い換えれば市場への参入障壁が高いため、4社で「残存者利益」を得ていることになります。
では市場全体はどうなっているのでしょうか?
矢野経済研究所「アパレル産業白書」によると、2007年に3099億円(小売金額ベース)だったスーツ市場規模は、団塊世代退職やクールビズ浸透により、2013年には2183億円に減少しています。
市場の成長段階にわけて戦略を考える「製品ライフサイクル」という考え方があります。図にするとこうなります。
この「製品ライフサイクル」で整理すると、紳士服市場は次の状況になっています。
導入期(1970年代前半) →一般的に、赤字です
成長期(1970年代後半〜90年代) →一般的に、利益が拡大します
成熟期(2000年代〜現在) →一般的に、利益は最大です
衰退期(現在〜将来) →一般的に、利益は減少します
既に紳士服専門店は市場として衰退期に入りつつあることも、新規参入がない理由なのでしょう。
このままでは、紳士服専門店はどこも収益が下がっていきます。そこで各社も多角化戦略を打ち出しています。
青山商事は、周辺アイテム(ドレスシャツ/靴)やカジュアル事業の拡大を図るとともに、レディスを強化、さらにEC/オムニ戦略を推進、加えて飲食事業や海外展開(主に中国)が成長しています。 →参考リンク
AOKIホールディングスは、機能性商品開発やブランド化(CAFÉ SOHO)を図るとともに、レディスを強化。さらにブライダル事業、カラオケルーム運営事業、複合カフェ市場も展開を始めています。→参考リンク
各社の今後の戦略は、「アンゾフの成長マトリックス」という考え方で整理できます。
この考え方で各社の今後の戦略をおおまかに整理してみると、
市場浸透戦略(既存客に、既存商品をより浸透させる)→EC/オムニ戦略、機能性商品、ブランド化
市場開拓戦略(新規顧客に、既存商品を売る)→海外展開、レディス
新商品開発(既存顧客に、新商品を売る)→カジュアル化
多角化戦略(新規顧客に、新商品を売る)→飲食事業、カラオケ(郊外展開の相乗効果を考慮)
ということですね。
世の中の変化を誰よりもサキドリし、「お客様が買う理由」を創りあげたのが、青山をはじめとする紳士服専門店が成功した大きな理由です。
さらに市場全体を製品ライフサイクルなどの大きな時間軸で見ると、打つべき手も見えてきます。
そして各社の戦略も、マーケティングの考え方で整理できます。
身近な紳士服チェーンから、自社にあてはめて学べることも多いのではないでしょうか?
「商品企画会議、ウチもやっています。みんなで知恵を出し合っているのですが、なかなかヒット商品が生まれません。どうすればいいのでしょう?」
先週出演した文化放送「オトナカレッジ」で、「ヒット商品を生み出すヒントは、社員やお客さん一人一人の頭の中に散りばめられている。これらを集めることが大切」とお話しした後、こんなご質問をいただきました。
私もまったく同じ経験をしてきました。
参加者は誰もが力があるのに、なかなかいいアイデアが出てこない。
議論も深まらない。
しかしある時から、企画会議の生産性が急に高まるようになりました。それは次の3点を意識するようになってからです。
【その1:簡単な叩き台を作る】
「議論が発散するだけだった」という経験をされた方は多いのではないでしょうか?簡単な議論の「叩き台」を用意することで、これを防ぐことができます。できれば叩き台には、(1)現状の事実、(2)課題、(3)解決策をまとめておきたいところです。これを用意すれば、それぞれについて意見を言えるようになり、いいアイデアが生まれます。
必ずしも時間をかけて完璧な叩き台を作る必要はありません。むしろ方向性を誘導しつつ、適度に突っ込める「緩さ」があった方が議論が活性化します。
【その2:アイデアを肯定する】
企画会議でよいアイデアを殺すのは簡単です。アイデアが出た瞬間「それはダメだ」と言うことです。参加者は萎縮し、次第に誰もアイデアを出さなくなります。
たとえ荒唐無稽なアイデアでも、まず「いいですね!」と言うように習慣づけてはいかがでしょうか?そしてそのアイデアを否定せずに尊重した上で、そのアイデアをよりよくするためにどうすればよいのかを話し合うと、意外な方向でアイデアが育っていきます。
【その3:顧客視点を入れる】
商品企画会議でありがちなのは、技術重視で顧客不在のまま突っ走ってしまうこと。強みの源泉となる技術は大切ですが、顧客にとって価値がなければヒット商品になりません。「これはどんな顧客が考えられるだろうか?」「その顧客は何で困っていて、これはどのように課題を解決できるだろうか?」という顧客視点で議論するように習慣づけたいところです。
もう一つ、重要な点があります。一回の企画会議だけで終わらせず、プロジェクトとして継続することです。
経営学者の入山章栄先生は近著「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」で、「ブレインストーミングのアイデア出しは、実は効率が悪い」ということを、最近の研究を引用しながら紹介しておられます。
個人で分担してアイデアを出すのと比較すると、実は複数人でのアイデア出しは「他人への気兼ね」と「集団で話す際、他人の話を聞いている時に思考が中断する」ことで、生産性はむしろ低くなるという研究結果があります。
つまり「その場でアイデアを出す」という観点だけで見ると、実は効率が悪いのです。
ではブレインストーミングは意味がないかというと、そうではありません。多くのクリエイティブと呼ばれている組織は、ブレインストーミングを重視しています。
ブレインストーミングは、誰が何を知っているのかを知り、さらにブレインストーミング後も継続して意見交換し、非公式な場でアイデアを生み出す効果があるのです。つまり、組織全体で学習能力を高めるのですね。
確かに私自身も振り返ってみると、高い生産性を生み出してきたのは単発の商品会議ではなく、「プロジェクト」として継続して定期的に行う商品企画会議でした。
あくまで感覚的なものですが、よい企画会議は、5人いればアイデアが5倍になるのではなく、アイデアがアイデアを生み出す相乗効果で増幅され、アイデアが数十倍・数百倍にもなります。
しかし一回限りの会議でアイデアが生まれることはむしろ稀です。継続することが必要です。
たとえ最初の商品企画会議でアイデアが出なくても、一回だけで終わらせず、定期的に継続していきたいですね。
NHK大河ドラマ「真田丸」が人気です。かくいう私も毎回見ています。
人気ドラマで必ず話題になるのが、視聴率の推移。
ビデオリサーチ社の調査によると、関東地区の平均視聴率は次の通りです。
第一回「船出」 20.1%
第二回「決断」 19.9%
第三回「策略」 18.3%
第四回「挑戦」 17.8%
第五回「窮地」 19.0%
第六回「迷走」 16.9%
第七回「奪回」 17.4%
第八回「調略」 17.1%
この視聴率、下がっているようにも見えますが、実際のところどうなのでしょう?
視聴率調査は、実際に全世帯の視聴状況を調査しているわけではありません。もしわかるのであればベストですが、現代のITを活用してもこれは費用がかかりすぎるのです。
ではどうやっているかというと、統計学理論を活用し、その地域のごく一部の世帯をサンプル調査して、その地域全体の視聴状況を推測しています。
ビデオリサーチ社では、サイト上で視聴率調査について詳しく説明しています。
関東地区の視聴率は、600世帯でサンプリングすることで、関東地区1500万世帯全体の視聴率を推測しています。詳しくはこちら。
この際、どの程度の誤差が出るのでしょうか?これについてもビデオリサーチ社のサイトでこのように説明しています。
「標本数600の場合、信頼度95%(100回中95回はこの幅に収まる)で考えると、視聴率が10%での、考慮すべき標本誤差は±2.4%です。また、真の値は調査結果である10%の近くに多くあることを意味します。」
「標本誤差」とは、実際のリアルな数字(この場合は1500万世帯の本当の視聴率)と、この600件の標本との誤差の意味です。
このページの表にある通り、20%近辺の場合は実に±3.3%の標本誤差があることになります。
真田丸の平均視聴率では、最高視聴率は初回の20.1%、最低視聴率は第6回目の16.9%で、差は3.2%。一方で標本誤差は±3.3%。各回の視聴率は、この標本誤差の範囲で微妙に揺らいでいますね。真田丸については、BS視聴率の影響も指摘されています。
いずれにしても、コンマ1%の差はあまり意味がなさそうです。
数字の意味を考えるのは、ビジネスでも大切なこと。数字をもとに考える際は、そのサンプル数もあわせて考えるようにしたいものです。
本日2月29日、2月の大きなイベントが無事終了しました。
「美」と「健康」をテーマに事業展開をされているタカラベルモント様が毎年開催している「ルベルセールスフォーラム2016」で基調講演を行う機会をいただきました。
全国6カ所での開催でした。
2月08日(月) 広島 @ オリエンタルホテル広島
2月15日(月) 高松 @ 高松国際ホテル
2月16日(火) 東京 @ ホテルニューオータニ(夕方)
2月16日(火) 名古屋 @ 名古屋クレストンホテル(夜)
2月22日(月) 大阪 @ ホテル日航大阪
2月29日(月) 福岡 @ ホテルオークラ福岡
各地の参加者数は各地域の美容商品代理店様を中心に、100〜250名。
これは東京会場の様子です。
東京会場の様子は、新美容出版様のサイトでも紹介いただいています。
講演では、4月に出版を予定している著書を題材にして、サービス業でいかに「モノづくり」から「コトつくり」へ行っていくのかを、事例を紹介しながら75分間お話ししました。
本日、最後となる福岡での講演が無事終了。6会場でのべ1000名の方々に参加いただきました。
今回お世話になったタカラベルモントの皆様、参加いただいた皆様には、深く感謝申し上げます。
一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年3月号に、連載『模倣戦略が有効な条件を考えれば、競争優位性が理解できる』が掲載されました。
本論文では3つの事例を紹介しています。
一つ目は、新市場を開拓して先行し続けることで多数の追従メーカーがいるにも関わらずトップシェアを十数年間維持している自動お掃除ロボット・ルンバ。
二つ目と三つ目は、一方で先行するAltaVistaやソニーWalkManに対して、新たな価値を生み出して追い抜かしたGoogleやiPodです。
これらを事例として考察し、持続的競争優位性というものは消失している現代で必要なことは一時的競争優位性を獲得し続けることであることを述べています。
もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。