「仕事=やりたいこと」でないという悩み

やる気

 

「『仕事=やりたいこと』であるべきだ、という話ですが…。なかなか仕事がうまくいかないことも多くて、現実は難しいですね」

「お客様が買う理由を、いかに作るか?」という講演で、「やりたい仕事をすることで、知的生産性も高まり、より高い価値を生み出せるようになる」というお話しをした後、こんなご質問をいただきました。

たしかに実際のビジネスの現場では、当初から「仕事=やりたいこと」になっていないことがほとんどです。では、どうすればいいかか?

 

必要なのは、「目の前のお客さんに喜んでいただく」状態に持って行くことではないでしょうか?

4ヶ月前に当コラムでご紹介した、朝市で佃煮を10年間売り続けているおばあちゃんも、自分たちが作っている佃煮をお客さんが喜んで買ってくれることで、「仕事=やりたいこと」になりました。

外部のお客様に接することがない、内勤の仕事でも同じです。

たとえば私は、日本IBMに勤務していた最後の2年間、50歳を過ぎてから人材育成を担当していました。「目の前のお客さん=事業部の社員」です。マーケティング戦略を15年間担当した後でしたので、人材育成の仕事は全くの畑違いの仕事。率直に言って、当初は必ずしも「人材育成=心からやりたい仕事」とは言えませんでしたし、慣れない仕事で最初はなかなかうまくいきませんでした。

しかし社員の皆さんのスキル向上に役立つ人材育成プログラムを企画して実施し、次第に社員から「自分のスキル向上に役立った」「こんな研修を受けたかった」と喜んでいただくようになったことで、「人材育成=心からやりたい仕事」だったと気づきました。2013年に独立後、現在は人材育成の仕事が会社の大きな柱になっています。私の場合、50歳を過ぎてから「人材育成=心からやりたい仕事」とわかったのですね。

多くの仕事で、「目の前のお客さん」は必ずいます。
そのお客さんに、いかに喜んでいただくか?
それが「仕事=やりたいこと」になる大きなきっかけになります。
その原点が、「お客様が買う理由」を徹底的に考えて、お客様に検証すること。

 

たとえ全体の5%でも心から喜んでいただけるお客様がいることが、「仕事=やりたいこと」になるきっかけになり、喜んでいただけるお客さんを増やしていくことで、次第にビジネスが拡大し、世の中にも貢献していけるのではないでしょうか?

マーケティングの方法論を学び、日々実践することで、「仕事=やりたいこと」になっていくのです。

 

文化放送オトナカレッジ 第11回「無理めなお客さんの課題が、世の中を変える」

昨日2月18日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第11回目。

今回は「無理めなお客さんの課題が、世の中を変える」と題して、お話ししました。

前回の放送では、「お客さんが言うことに余裕で対応できるようになるのは、危険な兆候だ」という話をしました。逆に、無理めなお客さんの要望こそ、ビジネスの大きなチャンスです。今回はそのことについて考えてみました。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.お客さんの要望が高すぎて対応が難しい状況こそ、ビジネスの大きなチャンス

2.1964年の東京オリンピック、ホテルニューオータニ、「浴室工事は1年半かかるが、ホテルは1年で完成させろ」という無理めの要求で生まれたユニットバス工法→世界に広がった

3.1964年の東京オリンピック、ストップウォッチで計測したタイムを人力で順位を集計していたのを、コンピュータによる競技成績の集計システムを導入した日本IBMのケース→翌年、三井銀行が日本初のオンラインバンキングのサービスを開始

4.ゲリー・ハメル(経営学者)「イノベーションと変革への意思は情熱から生まれる。つまり、現状に対するもっともな不満の産物なのである」

 

後半のお話しでは、様々な事例について掘り下げてお話ししました。

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

 

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20160218

 

次回の第12回目は3月3日(木)、『ヒット商品のヒントは、どこにある?』というテーマでお話しします。

 

変革は、若者しかできないのか?

変革

「やはり、若い人でなければ変革はできないのでしょうか?」

講演の質疑応答で、こんな質問をいただきました。

この講演では、ある地域活性化の取り組み事例をご紹介しました。

5年前、急速に衰退する地域にいる30代の若い方が「このままでは子供たちにこの地域を引き継げない」という危機感を持ち、賛同する少人数の同志と一緒に地域活性化に取り組みました。そして5年間で大きな成果を上げ、仲間も広がり、この地域は賑わっています。仲間の多くは若い方々です。

そこで冒頭の質問をいただいたのです。

地域活性化は、大きな変革プロジェクトです。
経験豊富な反対派も次々と現れ、チームは様々な組織的な壁にぶつかります。ともすると若者だけでは突破が難しいケースもあります。

この地域では、最初に志を共有した同志の中には、60代の経営者もいました。経験豊富なこの人がいたおかげで、組織的な問題にも対応でき、突破できました。

 

人は経験を重ねて成功すると、その成功体験が正しいと思いがちです。
しかしその成功体験は、賞味期限が切れてしまいます。

たとえば高度成長期、かつては一部の人しか楽しめなかった旅行が、低価格化と可処分所得の増加により一気に大衆化しました。この現象が「マスツーリズム」です。実際に私が学生の頃は、単に「海外旅行したい」という単純な理由で欧州に行く人も少なくありませんでした。

かつては顧客は「大衆」と考えるマスツーリズムは、成功の方程式でした。

しかし価値観が多様化し、成熟化した現代では、「海外に行きたい」という単純な理由だけで旅行する人はほとんどいません。多くの人は「エジプトのピラミッドを見たい」とか「フロリダのディズニーリゾートで遊びたい」といったように、自分の価値観にあった明確な理由で旅行に行きます。

こんな時代に、高度成長期のマスツーリズムの成功体験で「大衆向け」の集客をしても、お客さんは集まりません。
顧客は「個客」になったからです。

このようにかつての成功体験は、時代の移り変わりとともに賞味期限が切れていきます。
ですから、その昔の成功体験を、問題意識と志を持ってリフレッシュできるかどうかが重要なのです。
この地域で若いリーダーと志を共有していた60代の経営者の方も、「このままでは衰退するばかりだ」という大きな問題意識を持っていました。だから変革出来たのです。

 

83歳になるセブンアンドアイの鈴木敏文会長は、常に「変化対応」と言い続けています。鈴木会長は、1945年に第二次世界大戦で日本が敗戦したことで、価値観が根底からひっくり返ったことが原体験になり、常に変革し成長し続けるセブンイレブンを生み出したのです。

 

確かに若い人は、シニアな人と比べて経験値が少ないので、過去の成功体験に囚われません。新鮮な目で現状を見ることができ、過去に囚われることなく危機感を持つことができます。

では、若い人でなければ変革はできないのか?

そんなことはありません。重要なことは、「志と危機意識を持って、現状を否定できるかどうか」

経験を重ねてもそれが可能なことは、この地域の60代の経営者も、そして鈴木会長も、証明しています。

 

年齢を重ねても、問題意識と志を常に忘れないようにしたいものです。

 

 

世界で話題騒然のウーバー(Uber)。東京都内で乗ってみた

Uber

Uber(ウーバー)というサービス、ご存じでしょうか?
米国で生まれた自動車配車ウェブサイトと配車アプリです。
現在は世界58カ国で展開。普通のタクシー配車に加えて、一般の人が自分の空き時間と自家用車を使い他人を運ぶ仕組みも提供しています。このため米国ではタクシー業界が大きな影響を受けています。

一般の人が自家用車で他人を運ぶサービスは、日本では国交省の「白タク規制」にひっかかります。
実はUberは既に2014年から、「白タク規制」に引っかからない部分でサービスを開始しています。文化放送「オトナカレッジ」でお世話になっている放送作家・鈴木さんに教えていただいて、このことを知りました。

ということで私も先週、Uberを使ってみました。色々な発見がありました。

 

まず、Uberのアプリをスマホにダウンロード。設定は簡単です。メールアドレス、携帯電話番号、氏名、クレジットカード情報を入力します。これで個人が特定でき、自動決済できます。

この日は、東京・赤坂アークヒルズで仕事し、浜松町に移動するためにUberアプリを起動。近くで走っているUber対応の車が表示されます。

TAXI、プレミアムTAXI、ブラックVAN、ハイヤーの4種類別に、利用可能な車がどこにいるのかが地図で表示されます。車も地図上で刻一刻と動いています。このときはブラックVANとハイヤーのみが利用可能でした。5分程度で到着とのことでしたのでブラックVANを指定。車種はトヨタAlphard。ドライバーの氏名と顔、車種とナンバーも表示されます。若いドライバーでした。「この人が来るんだな」と事前にわかるのですね。

すぐに運転手の方から携帯電話に着信があり、待ち合わせ場所を口頭で確認。

アークヒルズ前の待ち合わせ場所で待ちながらスマホでUberのアプリを見ていると、地図上で今どこにその車があるかが表示されます。時間通りに到着し、乗り込みます。

ドライバーとお話しします。

「タクシー会社にお勤めなんですよね?」
「はい。今はUber専属でお客さんを乗せています」
「どの程度のお客さんがいるんでしょう?」
「毎日20件くらいですね。海外の方にとっては便利なようです。自分のスマホで自国語で表示されますし、日本語が話せなくても確実に到着地に着きますからね。お金の受け渡しもないので、安心です。自分の国でUberを使うのとまったく同じ感覚で使えるのがいいようですね」
「なるほど」

そんなことを話しているうちに、浜松町に到着しました。事前登録しているクレジットカード決済なので、ドアが開きそのまま何もせずに降ります。お金のやりとりをせずにそのままタクシーを降りるのはちょっと新鮮な体験ですね。

降車するとタクシーの領収書がメールで届きました。Uberアプリでも履歴が確認できます。プレミアムタクシーなので、実は普通のタクシーと比べると料金は若干高めです。通常1000円程度の料金が1990円でした。評価を付けられるので、最高の★★★★★にしました。

 

このように「白タク規制」がある日本では、タクシー会社だけがUberのサービスを提供しています。海外でタクシー会社でなく一般人がサービスを提供する場合も、基本は同じ仕組みのようです。

乗る立場になると「一般人が運転する車に乗るの?ボッタくられるんじゃないの?」とか、運転する立場になると「どんな客が乗るかわからない。怖い」と思いがちです。しかし顧客と運転手が互いに評価しあい、その評価をオープンに公開することで、事前にどのような人が運転したり乗ったりするかがわかり、未然にトラブルを防いでいるのです。

さらに海外では、自家用車を運転する一般の人が「A地点から、B地点を経由して、C地点に車で移動します。乗りたい人はどうぞ」とネットに登録し、そこに乗りたい人が申し込む仕組みもあるようです。一般人がサービスを提供する場合は当然料金もタクシーと比べて安いですし、手軽に使えるので、今までタクシーを使わなかった新たな顧客を生み出し、需要も創造しているのですね。

Uberによる2015年半期の売上は推定500億米ドル(6兆円)にも達するとのことです。

 

当初、創業者がUberのサービスを思いついたときは、誰もが荒唐無稽なアイデアと言ったのではないでしょうか? しかしこのサービスが今や非常に大規模になっています。同じようなサービスを思いついた人は沢山いたでしょう。しかし実行するのが何よりも大切だということが、このUberの成功からわかります。

さらにこのUberの裏には、挑戦したけれども失敗して消えていった他の方々の膨大なアイデアがあるはずです。

 

「新規事業とは、こんな形で生まれて、育っていくのか」と思った次第です。

 

 

オムニマネジメント2016年2月号に連載第9回『売れる商品は模倣される。ではどうすればよいのか?』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年2月号に、連載『売れる商品は模倣される。ではどうすればよいのか?』が掲載されました。

オムニマネジメント201602

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

文化放送オトナカレッジ 第10回「なんで「オモチャ」に負けるのか?」

2月4日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第10回目。

今回は「なんで「おもちゃ」に負けるのか」と題して、お話ししました。

実際のビジネスの現場では、勝ち組の企業が見下していた意外なライバルに負けることもよくあります。そうした事態はなぜ起きるんでしょうか?

ということで、今回の講義内容レジュメです。

■任天堂はなぜグリーやDeNAに負けたのか?

■【イノベーションのジレンマ】とは?

■勝ち組企業は、どうして「オモチャ」に負けてしまうのか? 

 

後半のお話しでは、様々な事例について掘り下げてお話ししました。

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20160204

 

次回の第11回目は2月18日(木)、『無理めなお客さんの課題が、世の中を変える』というテーマでお話しします。

 

 

南信州の小さな村は、「失敗から学ぶ方法」で世界初の挑戦に成功した

星空

昨年7月に当ブログでご紹介した、南信州・阿智村で聞いたお話しです。

阿智村にある昼神温泉は、2005年から5年間で宿泊客が25%も激減しました。「温泉で癒やされる」だけでは他の温泉地と差別化できなかったのです。

しかし阿智村には隠れた強みがありました。星空です。阿智村にあるスキー場に勤めるスタッフは、夏の夜にゴンドラを動かして彼女と満天の星空を見ていたりしていたのです。実際に2006年、環境省が「日本一星空がよく見える場所」と認定したほど、綺麗な星空が見えます。

そこで「星空エンターテイメント」をテーマに、この星空を核にした地域づくりに取り組み始めました。

天体観測ではなく「星空エンターテイメント」であることが重要です。先のスキー場スタッフの例からもわかるように、ターゲットの顧客は20代の若いカップル。そういう人たちに星空で楽しんでもらうのですから、天体観測ではなく、星空の面白い話で楽しい体験をして欲しいわけですね。

そこで阿智村では、村に住む人たちから「星空ガイド」を募集して、この「星空エンターテイメント」に取り組み始めました。

 

しかしこの「星空エンターテイメント」は世界初の取り組みですから、他に参考にすべき事例がありません。では、どうするか?

阿智村で、この星空ガイドの採用・育成を担当する谷澤信さんからお話しを伺って、「なるほど」と思いました。

手本も正解もないのですから、自分で学ぶしかありません。実際、試行錯誤の連続だったそうです。

そこで毎晩、星空ガイドの仕事が終わった後、必ずスタッフで反省会を行い、よかったこと・悪かったこと・改善すべき点を話しあって解決策を決め、翌日に持ち越さないようにしました。この仕組みによりお互いに情報を共有し、学び続けるようにしたのです。

当初作成したマニュアルは、この学びを反映して、改訂を繰り返していきました。

 

この星空ガイドの挑戦は、「仮説検証による学びの蓄積」に他なりません。

仮説を立てる→実行する→検証する→対応する→新たな仮説を立てる→…

これをひたすら毎晩、繰り返してきたのです。

2012年8月に星空ガイドを始めてから3年以上が経過し、仮説検証の分厚い蓄積でノウハウも蓄積したことが「日本一の星空」阿智村ならではの強みになっているのです。継続的な仮説検証が差別化の手段になることがわかるエピソードです。

 

そしてこれは、私がよく講演でご紹介する、ティム・ハーフォードが著書「アダプト思考」で書いた「失敗から学ぶ方法」そのものです。

失敗から学ぶには、3つの方法があります。

(1) 新しいことを試すこと。ただし、挑戦に失敗はつきものであると覚悟しておく。星空ガイドも世界初の新しい挑戦です。ですから必ず失敗が起こります。星空ガイドの方からも、失敗を通じて色々な学びを得ました。

(2) 失敗しても大きな問題にならないようにする。実験規模を見極めギャンブルを避ける。星空ガイドも当初は客数が多くありませんでした。この段階で様々な試行錯誤を繰り返してきたのですね。

(3) 失敗を失敗と認める。失敗を認めなければ、学ぶことはできません。星空ガイドも毎晩の反省会を通じて学びを蓄積してきたのです。

 

世界初の挑戦である「星空エンターテイメント」は、「失敗から学ぶ3つの方法」を実践して生まれたのです。

 

 

北関東IBMユーザー研究会様で講演しました

2016年1月22日(金)、大宮で行われた北関東ユーザー研究会様の新春例会で「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題して90分の講演をさせていただきました。

1月13日の神奈川IBMユーザー研究会様の講演に続き、今年2回目となるIBMユーザー研究会様への講演です。

今回は約50名が参加されました。

北関東IBMユーザー研究会様講演20160122

 

このような機会をいただき有り難うございました。

 

その制約が、新しいアイデアの源になる

制約

1985年公開の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。

エンディングで、主人公のマーティは、時計台に落雷する雷が発生する膨大な電力で1955年から1985年に戻りました。時計台に落雷する時間ギリギリに間に合うか?手に汗を握るシーンの連続です。

しかしオリジナルのシナリオは核実験場に行って、核爆発を利用してタイムスリップをする予定だったそうです。
しかしこれは100万ドルの撮影費用が必要と試算されて、予算の都合から断念されました。1985年当時はCGはあまり使われることがなく、撮影が必要だったのですね。

その後、新しいアイデアが生み出され、皆様がよくご存じの落雷で未来に戻るシーンになりました。脚本担当は「結果として格段に良くなった」と語っているそうです。

 

これは、新しい商品やサービスを開発したり、あるいは著書を執筆したり、作品を制作する時に、勇気と励ましを与えてくれるエピソードです。

何か新しい価値を創ろうとする場合、必ず何らかの制約があります。
それは予算、時間、リソース、組織的な事情、あるいは人間関係などです。
何の制約もないことは、まずありません。

時として目の前に立ちはだかる大きな制約に、「こんな状況で、どうやって新しく価値を創ればいいのか」と思いがちです。
制約が、新しいアイデアの源になりうることを、このエピソードは教えてくれます。

 

与えられた厳しい条件の中、様々なアイデアを試して知恵を絞ることが、まったく新しい創造的な解決策に繋がっていくのです。

 

 

文化放送オトナカレッジ 第9回「うまく失敗する3つの方法」

昨日1月21日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第9回目。

今回は「うまく失敗する3つの方法」と題して、お話ししました。

世の中が激変する現代、新しいことに挑戦し続けることはますます重要になっています。しかしともすると失敗を恐れて挑戦しないことも多いのが現実です。新しいことに挑戦して成功するためには、「うまく失敗し、失敗から学ぶ」方法を実践することが必要になります。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

■ルンバが成功するまでにした14回の失敗とは?

■靴をオンラインで売るためにザッポスが行った奇想天外な実験とは?

■失敗から学ぶ3つの方法
(1)新しいことを試すこと
(2)実験規模を見極めギャンブルを避けること
(3)失敗を失敗と認めること。

後半のお話しでは、ホンダの米国市場進出や、米国陸軍のAAR (アフターアクションレビュー)の事例も挙げて、さらに失敗から学び成功する方法について掘り下げてお話ししました。

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20160121

「失敗から学ぶ3つの方法」は、組織でも個人でも大切です。

次回の第10回目は2月4日(木)、『なんで「オモチャ」に負けるのか?』というテーマでお話しします。

 

 

近畿島根経済倶楽部様で、講演しました

2016年1月15日(金)、リーガロイヤル大阪で行われた近畿島根経済倶楽部様の新年互礼会で、講演する機会をいただきました。

近畿島根経済倶楽部様20160115

近畿島根経済倶楽部様は、島根県ご出身の近畿圏におられる経営者の皆様で構成する会で、年に2回程度お集まりになっています。

懇親会では島根県知事も参加され、経営者の皆様から色々なお話しをお伺いすることができました。とても有意義な会でした。

 

講演にお招きいただき感謝です。

 

 

縮小する日本市場へ、海外有力メーカーが競って最新の掃除機を投入する理由

黒船

当コラムで何回かご紹介している掃除機市場では、海外の黒船家電メーカーが競い合って日本市場に最新異種を投入しています。

たとえばダイソン。日本市場で最新商品を先行販売しています。さらに日本の消費者モニターも募集しています。
アイロボット社が開発販売するルンバ。品ぞろえの半分は日本独自仕様です。
北欧の家電メーカー・エレクトロラックス。日本市場向けに静音性に優れた掃除機エルゴスリーを投入しています。

しかし考えてみると不思議ですよね。日本市場は少子高齢化で縮小しています。
なぜ海外有力メーカーは、縮小する日本市場へ、競い合うように最新機種や日本独自機種を投入するのでしょうか?

 

その理由を、アイロボットのコリン・アングルCEOはこう語っています。

「日本のお客さんを幸せにできれば、世界中のお客さんを幸せにできる」

 

ダイソンも、消費者の目が厳しい市場で商品を磨き上げるために、日本で最新機種を先行発売しています。
エレクトロラックスも、排気フィルター採用などの日本市場で得られた消費者の意見がグローバル商品の開発に生かされています。

きれい好きで、最新技術を受け入れ、要求レベルも厳しい消費者が集まっている日本市場は、掃除機の最先進ユーザーが集まっているのです。
言い換えれば、掃除機市場については、日本はニーズのサキドリができる貴重な地域なのです。

だから黒船家電メーカーは、技術の粋を極めた最新の掃除機を、競い合うように日本市場に投入しているのですね。

 

黒船家電メーカーは、技術面の「ものづくり」と、ニーズサキドリの「顧客づくり」の両輪を回すために、日本市場に最新の掃除機を競い合うように投入しているのです。

私たちも、黒船家電メーカーの考え方から学べることは多いのではないかと思います。

 

御社の商品・サービスの最先進ユーザーは、どこにいるか?

そこから見えてくるものが、きっとあるはずです。

 

 

神奈川IBMユーザー研究会様で講演しました

2016年1月13日(水)、横浜で行われた神奈川IBMユーザー研究会様の新春例会で「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題して90分の講演をさせていただきました。

昨年は7月に北陸IBMユーザー研究会様(@ 金沢)、11月に長野IBMユーザー研究会様(@ 長野)で講演の機会をいただきました。今年初めてのIBMユーザー研究会様への講演です。有り難いですね。

今回は約40名が参加されました。

冒頭、皆様に質問をさせていただいたところ、私がIBM大和研究所時代で製品開発を担当していた際に大変お世話になったお客様の丸谷さんが答えていただきました。

神奈川IBMユーザー研究会様講演

懇親会には、日本IBM最高顧問に就任された下野さん、15年前に私がCRMマーケティングを担当していた頃からお世話になり今年から日本IBMパートナー事業部長に就任された長南さんも参加されました。

IBMを卒業して2年半ですが、下野さんのご講演でコグニティブコンピューティングの取り組みや、懇親会でお客様からの出向社員を受け入れている取り組みなどのお話をお伺いし、日本IBM様も色々と新たな挑戦をなさっていることがよくわかりました。

このような機会をいただき感謝です。

オムニマネジメント2016年1月号に連載第8回『IBMは1999年にあることをやめて、2000年代に成長した』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年1月号に、連載『IBMは1999年にあることをやめて、2000年代に成長した』が掲載されました。

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もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

 

なぜ私の戦略は「ゴミだ」と言われ、目の前で破かれたのか?

ゴミ箱

「永井さん、あなたが作ったこの戦略はね。ゴミだ」

米国人上司はそう言って、私の説明資料を、私の目の前で破りました。

そしてこのように付け加えました。

「あなたの問題は、『自分の戦略』にこだわって、考え過ぎることだ。戦略は米国本社がちゃんと考えている。今あなたが行うべきは、本社の戦略を忠実に実行することだ。あなたが時間をかけて作ったこの戦略はまったく意味がないね」

いきなり資料を破られて「ムッとしなかった」と言えばウソになります。「本社の戦略だけ考えればいい」もやや誇張し過ぎでしょう。しかし一方で、彼の言っていることにも一理ありました。

この時、私はある業務の新任責任者を拝命し、自分なりに戦略を考えていました。しかし米国本社側の戦略をキチンと理解し、整合性を取る優先順位は落としていたのです。

実際には本社戦略に沿って、社内の各部署で多くの人たちが仕事をしています。本社戦略に沿えばそれらの成果を活用できます。しかし独自の戦略で進めば、これらの知見は活かせません。

本社戦略を表面的に聞くと「いや、自分の状況は違う」と思いがちです。しかし基本的な考え方や方向性をキチンと理解すれば、意外と共通点も多いものなのです。

 

彼の言うことに素直に従ってみることにしました。

ちゃんと見てみると、本社戦略がよく整理されていて、自分の戦略で採り入れるべき点も多いことがわかりました。一方で様々な事情で適用できない部分もあります。

そこで本社戦略で採用すべきものは採用し、独自に考えるべき点は直し、戦略を練り直しました。

本社戦略に沿った部分、独自に変えた部分、そのようにした理由が明確になりました。この構造をわかりやすくキチンと説明できるようになったことで、本社側のサポートも得られ、仕事の成果に繋がりました。

さらに本社は、私が独自に変えた部分に興味を持ちました。実は彼らも各部門の現実を知りたがっていたのです。私が独自に変えた部分の一部は、その後、本社戦略に反映されて全社に展開されました。

 

ある程度規模が小さい企業でも同じです。

企業様で現場を預かるマネージャーとお話ししていると、本社方針を理解不十分なまま、目の前の仕事を進めている場面によく出会います。

しかし組織の中では、1人で仕事は進められません。マネージャーの場合だったらなおさらのこと、複数の組織との協業が必須です。だからこそ、組織の中で方針を立てる場合は、常に全社戦略との整合性を考える必要があるのです。

 

私の戦略が「ゴミ」と言われた理由。
それは、全社的な整合性がない、独自の戦略を立ててしまったからなのです。

彼はなかなかそれを認めようとしない私に、ショック療法として目の前で破ってくれたのです。

 

 

文化放送オトナカレッジ 第8回「それは本当に、御社の強みですか?」

昨日1月7日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第8回目。

今回は「【それは本当に、御社の強みですか?」と題して、お話ししました。

「お客様が買う理由」を考えるには、自社の強みを見直すことが必要です。しかし自社の強みはなかなか見えません。
あるいは「『歴史があること』『人材』『高品質なサービス』といった抽象的なものが強みだ」と考えたりします。しかしこれらは強みではありません。本来の強みとは、具体的で、かつ、価値を生み出せるものです。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.なぜ、多くの会社は自社の「強み」が見えないのか?
2.ユニ・チャームはどのようにして売上を3倍以上に増やしたのか?
3.「企業の強み」=「コアの技術」+「顧客の利益」

後半のお話しでは、写真フィルム市場消失の危機に直面し、自社の強みの本質を見極めて乗り越えた富士フイルムなどの例を挙げて、さらに強みについて掘り下げてお話ししました。

 

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20160107

 

「コアの技術」+「顧客の利益」が、「コアコンピタンス」(企業固有の強み)を生み出すのですね。

 

次回の第9回目は1月21日(木)、「うまく失敗する3つの方法」というテーマでお話しします。

 

 

 

「それは”me, too戦略”。失敗する戦略の典型だよ」

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「それは”me, too戦略”って言うんだ。失敗する戦略の典型だよ」

前職の日本IBM社員時代、IBM本社のある事業責任者に言われた言葉です。

日本のある製品市場で、ダントツに強いライバル製品がありました。
シェア5割を超えており、様々な営業施策を繰り出してもこのシェアはビクとも動きません。ライバルは国内代理店チャネルをしっかり押さえ、顧客から圧倒的認知を獲得していたためです。

そこで同等の対抗商品を出そうと2年間検討し、営業戦略も練り直した上で、IBM本社の事業責任者に商品強化を強く要望しました。しかし事業責任者は冒頭の言葉の後、このように言いました。

「それは、”me too戦略”って言うんだ。失敗する戦略の典型だよ。
 圧倒的に強いライバルがいるんだから、同じ事をしても絶対に負ける。
 市場のルールを変えなきゃダメだ。
 『ルールを変える戦略』を立てて持ってくれば、投資を検討してもいいよ」

言われてみれば、確かにその通りです。

そこで『ルールを変える戦略を立てる』という宿題に答えるべく、プロジェクトを開始しました。

わかったことがありました。
圧倒的に強いライバルは、現在主流ではあるものの、古い技術を使っているということでした。古い技術をベースにしているために、顧客が使う際に様々な制約がありました。しかし顧客にとっては「制約があるのは当たり前」だったので、制約を受け容れていたのです。

一方で、数年前から市場では新しい技術が台頭していました。
この新技術を使うと、それまで「あって当たり前だった制約」がなくなります。そして市場にはこの新技術を活かした定番商品はまだありませんでした。

そこで、先の事業責任者に、「この新技術を活かした製品を投入すれば、現在の顧客の潜在ニーズを満足し、新市場を生み出せる可能性がある。投資すべきだ」と報告、新製品を開発するように依頼しました。
その後、新製品を市場に投入。「早く、安く、カンタン」を売りに製品市場での技術の世代交代を促進し、代理店経由で販売開始しました。新製品はライバルの牙城を切り崩し始めました。

このプロジェクトの出発点が、まさに事業責任者が言った、

それは、”me too戦略”って言うんだ。失敗する戦略の典型だよ。
圧倒的に強いライバルがいるんだから、同じ事をしても絶対に負ける。
市場のルールを変えなきゃダメだ。

という言葉でした。

 

仕事からは様々なことが学べるということを実感した、貴重な経験でした。

「マーケティング=プロモーション」と考えるから、低迷する

Marketing

「マーケティングとは、何をするものか?」と質問すると、色々な答えが返ってきます。
その中で一番多いのが、「販売促進やプロモーション」という答え。

実は、「マーケティング=プロモーション」と考えるところに、多くの日本企業の問題が現れています。これは「大量生産・大量販売」が有効だった、20〜30年間前までの高度成長期の考え方だからです。

かつてはいいものを作れば、売れました。
経済は成長していたので、需要増に追いつくことが課題でした。
大きな需要があり、ニーズも「より豊かにより多く」とシンプルだったので、いいモノを作れば売れたのです。

成功の方程式は、「顧客」に、「いいモノ」を、「確実に伝える」ことでした。

だから課題は、「『いいモノである』ということを、いかに潜在顧客に知ってもらうか?」
「マーケティング=プロモーション」と考えるのは、この時代の名残りです。

 

しかし今はいいモノを作っても、売れません。

経済は低成長で、需要はなかなか増えません。
技術進化で、多くの商品は必要十分な品質を持っています。
顧客はますます力を持っています。顧客の期待は高まる一方で、ニーズを満たすだけでは商品は買いません。

こんな状態で昔どおりに、「顧客」に、「いいモノ」を、「確実に伝え」ようと考えてプロモーション活動に大金を投じても、成果は微々たるものにしかならないのです。

 

ではどうするか?

「顧客づくり」が必要なのです。言い換えれば、「顧客が買う理由」を創造することです。
「マーケティング=プロモーション」ではなく、「マーケティング=顧客の価値を創造し、買う理由を作ること」なのです。
そして商品を求めている顧客への「プロモーション」ではなく、より賢くなった顧客との「コミュニケーション」をいかにキッチリ行い、顧客にファンになってもらうかが大切なのです。

 

マーケティングはプロモーションではなく、企業の目指すべき方向を指し示し、組織や製品を大きく変えるものなのです。
言い換えれば、マーケティングは、企業の販売促進部門や宣伝部門に任せればいいものではありません。
会社全体で考えていくべきものなのです。

最近私は、企業で営業の最前線にいるセールスの皆様や、研究開発部門のエンジニアの皆様に、マーケティング研修を行う機会を多くいただきます。まさに社員全員で考えるべきなのが、マーケティングなのです。この重要性をわかっている企業は、真摯に全社的な取り組みをしておられます。

企業は事業を通して社会に貢献するために存在します。だからこそこの大切なマーケティングの考え方を社員一人一人が理解し、企業活動にもっと定着すれば、企業だけではなく、社会もよりよくなるはずです。

 

 

文化放送オトナカレッジ 第7回「【ものづくりニッポン】はこれから何を作ればいいのか?」

昨日12月24日(木)イブの夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第7回目。

今回は「【ものづくりニッポン】はこれから何を作ればいいのか?」と題して、お話ししました。

 

「ものづくりニッポン」という言葉があります。「やはり日本はものづくりを追求しなきゃ」とおっしゃる方も少なくありません。

しかし、いいモノをキッチリと作ってお客さんに伝えれば売れるという時代は既に終わっています。

そこで必要なのは「顧客づくり」です。

 

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.1.「いいものを作れば必ず売れる」時代は終わった。
2.「GoPro」は、何を【作った】のか?
3.「価値創造」とは【顧客づくり】のことである

後半のお話しではこの「顧客づくり」について、色々な事例を掘り下げてお話ししました。

 

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20151224

「ものづくり」+「顧客づくり」=「価値づくり」なのですね。

 

次回の第8回目は1月7日(木)、「それは本当に、御社の強みですか?」というテーマでお話しします。

 

 

 

下町ロケット・佃航平は、ものづくりではなく顧客づくりをしていた

ロケット2

最終話は2015年連ドラ最高の視聴率22.3%を記録した、あの「下町ロケット」

私も第一話から最終話まで見ていました。池井戸ファンの私としては本も2冊読みました。そして気づいたことがあります。

この物語は一見、日本企業への「ものづくり賛歌」に見えます。
しかし物語が進むにつれて、実はそうではないことに気がつきました。

最初の頃の佃製作所は、高性能エンジン技術に特化してはいるものの、何に使えるかわからない儲からない技術にばかり投資し、過大な研究開発予算で会社のお金も回らなくなり、大口取引打ち切りもあって、何回も経営危機を迎えます。主人公の佃航平も、社員から「社長、もっと経営やビジネスのこと考えて下さい」と迫られ、「オレは経営者失格なのか」と悩みます。

その姿は、顧客が見えない「ものづくり」に没頭する日本企業の姿とダブります。

しかし物語が進むにつれて、佃製作所が蓄積してきた技術を必要とする顧客が現れてきます。

たとえば、帝国重工宇宙航空部の財前部長。
初の100%国産ロケット打ち上げの厳命を受けて、高性能バルブシステムを必要としています。

さらに「ガウディ編」では、財前部長はバルブに混入する異物をセンサーで感知して粉砕する佃製作所のシュレッダー技術が、将来ロケットの信頼性を格段に向上することを見抜き、その布石としての位置づけで、ガウディ計画への参画を決意します。

また、北陸医科大学・一村教授。
心臓手術に使用する人工弁「ガウディ」の開発責任者として、血栓を生じない高信頼性の人工弁を必要としています。

これらの難易度が高い課題に応えられる技術を持った企業は、佃製作所しかなかったのです。

 

つまり物語を通じて、佃製作所は、地道な技術蓄積の末に極めて強い「お客様が買う理由」を創り上げていったのです。
私がいつも提唱している「お客様が買う理由」のフレームワークで整理してみます。

 

■ロケットのバルブシステムの場合

(1) 佃製作所の強みは何か?
高性能タービン技術

(2) その強みを必要とするお客様は誰か?(= ターゲット顧客)
帝国重工宇宙航空部 財前部長

(3) そのお客様が必要とすることは何か?(= 顧客課題)
帝国重工社長からの至上命題は、初の100%国産ロケット打ち上げ。そのためには、燃料である液体水素と、酸化剤である液体酸素をタンクから高圧でエンジンに送り込む高信頼性のバルブシステムが必要としていた。(部下の富山が開発に成功したが、その特許は佃製作所が先に抑えていた)

(4) お客様が自社を選ぶためにどうするか?(= 解決策)
より高性能・高信頼性のバルブシステムを開発し、帝国重工へ供給する

 

■ガウディ計画の場合

(1) 佃製作所の強みは何か?
ロケット品質の高性能タービン技術

(2) その強みを必要とするお客様は誰か?(= ターゲット顧客)
北陸医科大学の一村教授

(3) そのお客様が必要とすることは何か?(= 顧客課題)
心臓弁膜症の治療に使われる人工弁は外国製のものが多く、成長期にある子どもの患者は、成長するたびに新しい人工弁に取り替える手術が必要になる。そこで取り替える必要がない人工弁を国産化したい。そのためには血栓が生じない高信頼性の弁を必要としていた

(4) お客様が自社を選ぶためにどうするか?(= 解決策)
人体の臓器よりも血栓発生率が少ない高性能・高信頼性の人工弁を開発し、供給

 

いずれの場合も、自社の強みを徹底的に見極めた上で、その強みを活かせる顧客を見定め、課題を徹底的に理解し、解決策を提供していることがわかります。

いわば、「ものづくり」だけではなく、その先にある「顧客」も見据えて、「顧客づくり」に邁進しているのです。

 

この裏にあるのは、主人公・佃航平の

「技術は人を支える。人間社会を豊かにする。人を幸せにする」

という強い想いです。泥臭くもがきながら技術を追求し続け、いかに顧客を幸せにし、よりよい社会にするかを考え抜いているのです。

 

「自分がやりたいことをやるための『ものづくり』」ではなく、「お客様が欲しいと思い、幸せになるような『ものづくり』」が必要であることを、私はあらためて下町ロケットから学ぶことができました。

オリックス生命保険様の代理店セミナーで講演しました

2015年12月3日(木)に大宮で行われたオリックス生命保険様の代理店セミナーで、『お客様が買う理由を、いかに作るか? 「ニーズ対応」から、「ニーズサキドリ」への変革』と題して、生命保険代理店様においていかに価値を作っていくかを講演しました。

セミナーには70名の代理店の皆様が参加されました。

このような機会をいただき、ありがとうございました。

 

模倣戦略は失敗の王道。しかし有効な場合もある

先週12月3日に出演した文化放送オトナカレッジでは、「柳の下にドジョウは2匹いるのか?」と題して、お話ししました。

ポイントをまとめると、

■1980年代くらいまでは、模倣戦略は有効だった

■しかし今、この戦略はうまくいかない。たとえばルンバは2002年に販売開始したが、2014年時点で日本国内シェアは66%。残り34%は他メーカー10社が分け合っている

■模倣戦略がうまくいかない理由は2つある

■1つは、商品寿命が短くなっている。1970年代と比べて1/10程度になっている

■2つは、模倣しても劣化版コピーにしかならない。時間が少ないので模倣が不十分になり、差別化しようとしてもそれが顧客が買う理由に繋がらない

■だから、「模倣戦略は失敗の王道」なのである

 

しかし実は、模倣戦略が有効な場合もあるのです。事例を2つご紹介します。

 【事例1:AltaVistaとGoogle】

実はネット全文検索を初めて実現して世の中で話題になったのは、Googleではなく、AltaVistaというサービスでした。 1995年の当時、私はAltaVistaを使ってみて、「おお、凄い!こういうことができるんだ!」と驚いたことをよく覚えています。

このAltaVistaは、コンピューターメーカーのDECが開発したAlphaサーバーの高性能をデモするために、インターネット上のあらゆるページをインデックス化することにより作ったサービスでした。(ちなみに後にCompaqがこのDECを買収。そのCompaqもHPにより買収されました)

一方でスタンフォード大学の博士課程だったセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジがGoogleの原型を開発したのは、翌年の1996年。そしてGoogle創業は1998年。実はGoogleは後発だったのです。

では、なぜ後発なのにGoogleは残り、AltaVistaは負けたのでしょうか?

AltaVistaはDECがAlphaの性能をデモすることが目的だったので、機能は十分ではありませんでした。たとえば検索結果の精度は徐々に悪化していきました。一方で後発のGoogleはネット検索専業として技術を磨いて検索精度を向上させ、追い越したのです。

 【事例2:ウォークマンとiPod】

携帯音楽プレイヤーで先行したのは言うまでもなくソニーのウォークマン。しかしデジタル音楽が普及した2001年に登場したAppleのiPodは、単にデジタル音楽機器として提供されただけでなくデジタル音楽を配信するインフラiTunesも用意しました。一方のソニーは従来型の音楽著作権のしがらみから抜けられず、iTunesのような仕組みは作れませんでした。

その結果Appleは、ソニーがデジタル音楽を配信するインフラを作れないジレンマを抱えて停滞している間隙を縫って、デジタル音楽の勝者になりました。

 

このように考えると、どのような場合に模倣戦略が有効かがわかります。

それは、先行企業が色々な理由により技術を磨かけずに、進化が停滞した場合です。

「商品寿命が短い」ということは、時間がますます希少な資源になっているということです。進化を怠ると、あっという間に後発企業に追いつかれます。

先行企業と言えども、油断をすると、後発企業に模倣されて抜かれてしまうのです。ビジネスがまさに「競走」であることを考えると、当たり前のことですね。

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逆に言えば先行企業は、常に技術を磨き続けて顧客の課題を解決し続けることが、勝利の鉄則なのです。

 

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文化放送オトナカレッジ 第6回「柳の下にドジョウは2匹いるのか?」

昨日12月3日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第6回目。今回は「柳の下にドジョウは2匹いるのか?」と題して、お話ししました。

新商品や新サービスの企画を立てるとき、「既にやっている会社はあるのかな?」と考えて調べることはないでしょうか? そして先行している会社があると、「ああ、大丈夫なんだ」と安心して、先行メーカーを参考にして企画を進めたりします。

以前はこれでもうまくいっていました。しかし今はこの方法だとなかなかうまくいきません。昔は「柳の下にどじょうは2匹」いたのですが、今は「常に一匹目のどじょう」を探す必要があるのですね。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.ソニーの先進的な製品を後追いした松下電器の戦略
2.「ルンバ」の模倣製品は失敗している
3.模倣戦略が失敗する2つの理由

後半のお話しでは、この模倣戦略について掘り下げてお話ししました。

 

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20151203

模倣戦略が失敗するのは、①商品寿命の短命化(1/10!)、②劣化版コピーにしかならない。

模倣するのではなく、お客様が買いたくなる理由を作りたいですね。

 

次回の第7回目は12月24日(木)のクリスマスイブ、「いいものを作れば、必ず売れるのか?」というテーマでお話しします。

お楽しみに。

カメラを再定義。4年間で売上が22倍に成長したGoPro

私のライフワークは写真です。20代の頃は若気の至りで、プロの写真家として生計を立てることも考えてました。

これまで色々な写真機材を使ってきましたが、そのほとんどは日本製。皆様ご存じの通り、日本のカメラは世界でも品質がダントツに優れています。そしてデジタル化が進んだことで、静止画と動画の融合も始まっています。

このカメラ市場で、急成長している米国企業があることをご存じでしょうか?

2010年 40万台
2011年 110万台
2012年 230万台
2013年 380万台
2014年 520万台

凄い成長ですよね。米国のGoProという会社です。

2010年に6400万ドル(77億円)だった売上は、4年間でなんと22倍になり、2014年には13億9400万ドル(1672億円)になりました。

GoProのカメラを使うと、このように今までとまったく違う写真が撮れます。

GoPro

(GoPro Investor Presentationより)

 

普通のカメラではこんな写真、なかなか撮れませんよね。

 

どんなカメラかというと、こんなカメラ。HEROという名前のカメラです。

GoProカメラ

(GoPro Investor Presentationより)

 

身体やヘルメット、あるいは人間以外のもの(ペットなどの動物や乗り物など)に付けて撮影します。撮影を意識することなく、スポーツなどに熱中し、その様子が本人の視点で撮影できるのです。

 

このGoProを創業し、現在CEOを務めるニック・ウッドマンさんと一橋大学の竹内弘高先生の対談を、先月の日経フォーラム世界経営者会議で伺う機会をいただきました。

ニックさんは20歳の時、「30歳までの発明家になる」と決めて、新規事業に挑戦してきました。24歳の時はゲーム会社で400万ドルの損失を出したりして、26際にはすべてを失い失敗。そこで5ヶ月間、自分が情熱を持てることに熱中しようと、好きなサーフィンをしながら世界を回ることにしました。ニックさんはサーファーだったのですね。

サーフィンをしながら波の上から見える景色は、地上とはまったく違います。ニックさんは「この目に見えるシーンを、写真に残したい」と考えました。そこで2004年、35mmフィルムカメラを自分の腕に括り付けて、ファインダーを見ることなく写真を撮れるようにしました。自分用に作ったカメラですが、サーファー仲間で「同じモノが欲しい」と大人気になり、製品化することにしました。これがGoProの始まりです。

なぜGoProという名前を付けたかというと、サーファーは誰もが「プロになりたい」と思うから。そこで「プロになる」(Go Pro)と名付けました。製品名HEROも、「自分がヒーローになる」という想いを込めています。

つまりGoProは「究極の自撮りカメラ」なのですね。

 

竹内先生が「かつてこういうガジェット系の製品は、ソニーが作っていた。なぜソニーでなくGoProが成功したのですか?」と質問すると、ニックさんは「組織が大きくなると製品も多くなるし色々と難しくなるのだろう。GoProは、情熱とアイデアを持つ個人を大切にしてきたから」と答えています。

 

 

GoProは、自社の使命を次のように定義しています。

「体験のコンテンツを記録し、共有し、管理するわずらわしさを、徹底的に排除する」
(OUR MISSION: ELIMINATE THE PAIN POINTS OF CAPTURING, MANAGING AND SHARING ENGAGING CONTENT)

この使命を実現するために、カメラを製造・販売するだけでなく。ソーシャルメディアなどで写真(動画)をすぐに共有できるような仕組みも整えています。

GoPro-Enablement

(GoPro Investor Presentationより)

 

ここまでお話しをお聞きして、GoProが成功した理由がわかりました。

1990年代にデジカメが登場した頃、銀塩フィルムと比較してデジカメの画質はかなり見劣りしていました。そこでカメラメーカー各社は、よりシャープに、より高精度に、より忠実に写真を記録できるように技術を磨き続けてきました。「写真をキレイに撮影する」ことに注力してきたのですね。

その進化のおかげで、現在のデジカメはかなりの高画質になりました。

たとえば私が来週の写真展の撮影のために使用したデジカメは1600万画素。数字の上ではそれほど高画素数ではありません。しかしこの画素数でも150cm × 100cmの大サイズにプリントして、十分な画質を確保できます。カメラを普通に使う分には、これ以上のサイズにプリントする人はそんなに多くないでしょう。

しかし日本のカメラメーカー各社はさらに高画質化に挑戦中で、間もなく1億画素のデジカメ登場も予想されています。

 

一方でGoProが追求しているのは、「キレイに撮影すること」ではなく、「コンテンツを通じて体験を共有すること」

そのために、カメラだけでなく、プラットホームも用意し、自分の感動を共有した人達をファンに取り込み、ブランドメッセージを強化し続けています。

 

GoProが対象とする顧客は、「自分の感動体験をすぐに共有したい。でも従来型のデジカメやビデオは煩わしい」と思う人。その人たちに強い「買う理由」を提供しています。

かくいうカメラのヘビーユーザーである私自身、「写真を撮影する時は、撮影に集中する」のは当たり前。何か面白そうな被写体を見つけても「これは撮影する体勢が確保できない」と判断すると、撮影を諦めることもよくありました。そして撮影後、画像を現像するなど、人に見せるまでに手間をかけるのも当たり前と思っていました。

GoProのように「写真を撮ることは忘れて、その『行為』に集中する」、さらに「手間をかけずに映像を共有する」という発想はできませんでした。

つまり従来のカメラユーザーに訊いても、GoProのような発想は生まれてこないのですね。

サーファーのように、まったく異なるニーズを持つ顧客を見つけ、その顧客の課題に対して応えたのが、GoProなのです。

 

ニックさんのお話をお聞きし、「ニーズのサキドリ」を実現した企業が勝つ時代なのだと改めて実感しました。

 

 

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オムニマネジメント2015年12月号に連載第7回『新規事業では、最初に解決策を検証してはいけない』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年12月号に、連載『新規事業では、最初に解決策を検証してはいけない』が掲載されました。

オムニマネジメント201512

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

 

文化放送オトナカレッジ 第5回「ブランドに頼るブランドはダメになる」

昨日11月26日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第5回目。今回は「ブランドに頼るブランドはダメになる」と題して、お話ししました。

ブランドとは、結果です。愚直な顧客満足の積み重ねで、ブランドは作られていきます。消費者が賢くなった現代では、お金をかけても強いブランドは作れません。

「ウチの売りはブランド」と思うのは、実は危険なことなのです。ブランドに頼り、顧客の期待値を上回ることができなければ、ブランドは徐々に崩壊してしまうからです。

 

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.「我が社の強みはブランドです」は間違っている。
2.ブランドは鍾乳洞だ。
3.「顧客満足」はどうやって生まれるのか?
4.「虎屋」と「IBM」が生き残ってきた理由

後半のお話しでは、「ブランド資産」についてご紹介しました。

コーラのロゴを見ると「喉が渇いた時、飲んだらスッキリするな」とか、アップルのロゴを見ると「使いやすくてカッコいいイデジタル機器だな」と考えるのが、まさに「ブランド資産」です。

ちなみに2015年グローバルブランドランキングによると、1位はアップルで1702億ドル、2位はGoogleで1203億ドル、3位はコカコーラで800億ドルだそうです。いずれも10兆円を超えています。凄いことですよね。

そして、ブランドが強い会社は、日々のビジネスで愚直に顧客満足を積み重ねているのです。

 

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

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「ブランドとは、顧客満足=信頼の積み重ね」なのですね。(3行目の「の」の字が、手で隠れてしまいました)

実は、人も同じです。「あの人は誠実だ」「信頼できるな」という人は、日々の行動の積み重ねですよね。自分のブランドも考えていきたいですね。

お聴きいただいた皆様、ありがとうございました。

 

次回の第6回目は12月3日(木)、「柳の下にドジョウは2匹いるのか?」というテーマでお話しします。

お楽しみに。

 

「ドリルが欲しい」というお客さんは、本当に穴が必要なのか?

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「1/4インチのドリルを購入した人々が必要としているのは、直径1/4インチの穴である」

 

この短い言葉の中に、製品志向と顧客志向の違いが凝縮されています。

「高性能の1/4インチのドリルを売る」と考えるのが、製品志向の考え方。
「直径1/4インチの穴を提供する」と考えるのが、顧客志向の考え方です。

 

なぜなら、顧客が直径1/4インチの穴が必要なのであれば、1/4インチのドリルが唯一の解決策とは限らないからです。

・危険な工具を使わずに住むように、穴開けサービスを提供する方法もあります。
・あるいは穴を開いた板を提供してしまう方法もあります。

 

さらに考えてみると、顧客が「穴が欲しい」と思っていても、実際には穴は不要なのかもしれません。

たとえば何かを固定するために穴が必要だと考えていたとしたら、本当は穴ではなくて接着剤を提供する方が、顧客にとってよりよい解決策かもしれないのです。

 

顧客が何かの製品やサービスを必要とする場合、必ず理由があります。

・「直径1/4インチの穴」を必要とする顧客の理由は、何か?
・「1/4インチのドリルが欲しい」のならば、それはなぜか?
・そもそも、本当に穴が必要なのか? よりよい方法は他に何か?

これを徹底的に考えることが、顧客志向なのです。

 

デフレを通じて価格競争一辺倒だった企業間の戦いは、いま、徐々に価値競争にシフトし始めています。

こんな時代だからこそ、顧客の表面的な課題を考えるのではなく、その課題の奥底にある本当の課題を見極めて、自社ならではの強みを活かして応えていくことが必要なのです。

 

 

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長野IBMユーザー研究会様で講演しました

2015年11月19日(木)、長野で行われた長野IBMユーザー研究会様のマネジメントセミナーで「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題して90分の講演をさせていただきました。

北信越地区でのIBMユーザー研究会様への講演は、今年2回目です。有り難いですね。

長野IBMユーザー研究会様の皆様、約30名が参加されました。

「どんな商品にするか?」を考えるのは、一番最後なのですよね。

アンケートでも様々なご感想をいただきました。

・大変貴重な話で有意義な時間でした。著書を読ませていただきます。

・具体例を踏まえた展開で興味をひく内容でした。自社の営業方針についても見直しが必要だと感じました。

・「やりたいことをやる」今後しっかり考えていきたいと思います。

・たくさんのヒントをいただきました。

・自社の強み、お客様のニーズを深堀する必要を感じました。

・サキドリの大切さを実感しました。

・顧客のニーズの取り方、大いにヒントをいただきました。

・素晴らしい内容でした。感動しました。

このようなご感想をいただき、本当に有り難く感謝致します。

不毛でない値下げ合戦なら、よいのか?

合戦

 

「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいんでしょうか?」

先週の文化放送オトナカレッジの放送で、「不毛な値下げ合戦は何を引き起こすのか?」というテーマをお話ししたところ、リスナーの方からこんなご質問をいただきました。

素晴らしいご質問ですね。

そもそも「不毛な値下げ合戦」とは何でしょうか?

 

 

それは利益を削ることで、価格を下げて戦う方法のことです。

牛丼業界は、一時期、どこも300円以下で販売していました。まさに価格競争で業界全体が疲弊している典型的な業界です。しかし利益を削るだけでは限界があるので、いずれ品質にも手を付けざるを得ません。

番組では、1960年代に始まった米国コーヒー業界の価格競争の事例をお話ししました。価格勝負に陥った結果、コーヒーの品質を下げて、顧客離れを引き起こしました。当時米国人1人あたり1日3.12杯飲んでいたのに、40年後には1.5杯と半分以下になりました。「米国のコーヒーは不味い」という評判が定着し、市場は半分以下になってしまいました。

 

牛丼業界、1960年代の米国コーヒー業界、いずれも利益も品質も削って値下げ合戦に陥っていたのです。このような値下げ合戦は、企業同士の体力勝負になります。

スポーツの「体力勝負」は、体力の限界まで追い込むことで、体力の限界値が徐々に上がりますが、利益や品質を削った値下げ合戦の体力勝負では、安くても低品質な商品を提供される顧客は離れていき、企業の体力は徐々に失われます。その先にあるのは企業の淘汰。行き着く果てが市場の大絶滅。だから「不毛」なのです。

 

ここで必要なのは、新たな価値を生み出して価格競争から抜け出すこと。牛丼業界はいま様々なメニューで試行錯誤していますし、米国コーヒー業界では「美味しいコーヒーを提供しよう」と考える人があらわれスターバックスのような会社が現れました。

 

番組でこのお話しをしたところ、リスナーの方から、「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいんでしょうか?」というご質問をいただいたのですね。

値下げの中には、利益を削らない値下げもあります。

それは最新技術の活用により、より低いコストで提供できるようなコスト構造を実現し、利益と品質を確保した上で、価格を下げる方法です。

たとえば生命保険業界では、長い間、営業職員が販売していました。人手や営業拠点などの販売コストはすべて保険料金に転嫁されるので、保険料金は割高になっていました。

この伝統的なコスト構造を大きく変えたのが、2008年に創業したライフネット生命保険。生命保険をネット経由のみで販売することで、販売コストを削減し、保険料金を大きく下げました。

これは最新技術を活用してコスト構造を変え、低価格を実現した例です。

 

「歯を食いしばってでも、頑張って、値下げ競争を勝ち抜け」という根性論には、限界があります。

価格勝負をするのならば、利益や品質を削って価格を下げるのではなく、利益も品質も確保した上で、智恵を絞ってコスト削減を図りたいところです。

 

しかし最新技術を活用して低コスト構造を実現しても、それだけでは不十分なのです。いずれライバルが追いついてくるからです。

ライフネット生命の創業から6年が経過した現在、ライバルのネット生保が増えてきました。既に「ネット専業だから低価格」だけでは差別化できない状態なのです。

ライフネット生命も当初から、わかりやすいシンプルな商品構成、保険の簡易請求の実現、業界で唯一の保険料内訳公開などにより、顧客満足度第一位を獲得するなど、低価格を売りにするだけでなく、企業努力を重ねています。

 

価格だけに頼らずに、常に高い価値を提供し続けることを追求すべきなのです。

 

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文化放送オトナカレッジ 第4回「不毛な値下げ合戦は何を引き起こすのか?」

11月12日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第4回目。今回は「不毛な値下げ合戦は何を引き起こすのか?」と題して、お話ししました。

利益を削った価格勝負は、体力勝負。しかし体力は徐々に失われていきます。品質も低下し、顧客満足度も下がっていき、顧客離れを引き起こします、その末にあるのは、市場の大絶滅。まさに悪循環ですね。

 

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.値下げ合戦が引き起こすもの。それは「大絶滅」。
2.1960年代アメリカのコーヒー業界のエピソード。〜値下げ競争→品質低下→市場が半分に
3.大絶滅の後に「価値競争」が生まれる。
4.絶滅した恐竜の子孫は、今も生き続けている
5.価格競争から抜けだして、“進化”しよう!

 

利益を削った不毛な値下げ合戦は大絶滅を引き起こしますが、一方でコスト構造を大きく変えて低コストにして、低価格で製品やサービスを提供するケースもあります。たとえばネット証券やネット生保などは、そうですね。

価格勝負をするのならば、利益を確保した上で、智恵を絞ってコスト削減を図る。

そうでなければ、高い価値を必要とする別の顧客の課題を理解して、解決策を提供したいものです。

 

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20151112

 

悪循環に陥らず、常に好循環を作っていきたいですね。

お聴きいただいた皆様、ありがとうございました。

 

次回の第5回目は11月26日(木)、「ブランドに頼るブランドはダメになる」というテーマでお話しします。

お楽しみに。

富士通ソフトウェアテクノロジーズ様で講演しました

2015年10月21日、富士通ソフトウェアテクノロジーズ様の情報活用サービスグループで行われた社員向け会議で、『お客様が買う理由」をいかに作るか? - 「ニーズのサキドリ」が、勝負の分かれ目』と題して、講演させていただきました。

富士通ソフトウェアテクノロジーズ様講演20151021

 

当日は会場の新横浜で参加された約70名に加えて、名古屋、静岡、浜松、松本などの各事業所の会場からも多くの社員の方々が参加されました。

ありがとうございました。

1999年、IBMはあることをやめて、2000年代に大きく成長した

太陽と新芽2

「永井さんはIBMご出身ですよね。IBM時代に事業変革に関わったご経験で、日本企業にとって参考になるエピソードがあったら教えてください」

研修の質疑応答で、こんなご質問をいただきました。

私はこのようにお答えしました。

 「強力なライバルが、一夜明けるといきなり最重要パートナーになる経験をしました。企業規模の大小や業種を問わず、様々な企業で参考になると思いますので、このお話をします」

 

1998年、私は製品開発マネージャーからマーケティングマネージャーに異動になり、IBMが自社開発していたある業務用アプリケーション製品のマーケティングを担当することになりました。他社の業務用アプリケション製品は、強力なライバルでした。(業務用アプリケーションとは、顧客管理、会計、人事管理のように、業務用に作られたソフトウェアのことです)

 

翌年の1999年11月。IBM本社は、ある宣言をしました。

「業務用アプリケーションの開発・販売をする会社は、IBMにとって重要なパートナーです。ですので、IBMは今後、業務用アプリケーション製品の自社開発は行いません」 (注:これは「デベロッパー憲章」と呼ばれています)

 

自社開発の業務用アプリケーションに携わっていた現場の私たちにとって「今やっていることはやめる」と言われたのですから、このIBM本社の方針転換はまさに晴天の霹靂(へきれき)でした。

 

なぜIBMは、このような宣言をしたのでしょうか?

実は当時、ユーザーがライバルの業務用アプリケーションを使う際には、IBMのハードウェア・システムソフトウェア・サービスと組み合わせて使うことが多かったのです。

その理由は、IBMが持つ本来の強みにありました。

1999年当時、お客様が業務用システムを使う場合は、自前でシステムを用意する必要がありました。システムを用意するためには、複雑なIT系システムをすべて統合することが必要です。(ちなみに現在は、多くの業務用システムがクラウドで提供されているので、ユーザーは自前ですべての業務用システムを用意しなくてもよくなりました)

そのような課題を持っているお客様にとってIBMの強みとは、「他社製業務用アプリケーションに、サービス・ハードウェア・システムソフトウェアを統合して、提供できること」だったのです。

たとえばIBMのサービス部門には、他社業務用アプリケーションを統合できる高いスキルを持つエンジニアが数多くいました。

IBMのハードウェア部門には、他社業務用アプリケーションに最適化した製品群がありました。

しかしIBMが自社開発アプリケーション製品に固執すると、他社製業務用アプリケーションに、IBMのサービス・ハードウェア・システムソフトウェアを提供する機会を失ってしまうことになります。

そこでIBMは、業務用アプリケーションの自前主義を捨てたのです。

 

現場で自社開発の業務用アプリケーションに関わっていた人達は、大変でした。

まず、それまで開発を続けてきた自社開発の業務用アプリケーションを今後どのようにしていくのかを決めなければなりません。私自身も、個別対応策に追われました。

 

さらにライバルだった会社が一夜明けると最重要パートナーになったので、営業の仕組みも大きく変わりました。

これまで自社開発の業務用アプリケーションに関わっていたマーケティングやセールス担当者は、それまでライバルだった他社の業務用アプリケーションと自社ハード・ソフト・サービスを組み合わせて、統合ソリューションとして販売することが仕事になりました。

それまではライバルには極秘だった案件情報も、新たにパートナーとなった相手に定期的に情報共有する仕組みを作り、お互いに協業責任者を置き、一緒に販売する体制も整えました。

 

自社開発アプリケーションをやめた結果、それまでの手強いライバルは、一緒にビジネスを開拓する心強いパートナーに変わりました。しかも、すべての業務用アプリケーションを開発・販売する会社がパートナーになったのです。

2000年代、IBMのハードウェア・システムソフトウェア・サービスといった主力製品/サービスのビジネスは、大きく成長しました。

 

この経験で私が学んだことは、自社の強みと、その強みを活かせるお客様の課題を見極めた上で、強化するモノ、やめるモノ、追加するモノを明確にし、全社でその戦略を共有し、首尾一貫して、徹底的に実行することの大切さでした。

今回のケースを整理すると、次のようになります。

IBMの強み:他社製業務用アプリケーションに、サービス・ハードウェア・システムソフトウェアを統合して、お客様に提供できること

お客様の課題:複雑なIT系システムをすべて統合すること

やめるモノ:自社開発の業務用アプリケーション

強化するモノ:他社の業務用アプリケーションに最適化したハードウェア・システムソフトウェア・サービス

追加するモノ:他社の業務用アプリケーション・パートナーとの協業体制

 

「IBMさんは大企業だからね。ウチは中小企業だから、参考にならないよ」と思われる方がいるかもしれません。

しかし、そうではありません。この基本的な考え方は、企業規模や業種が変わっても重要なのです。

御社がやっていることは、昔は意味があったとしても、もしかしたら今はお客様にとっては意味がないかもしれません。それをやめることによって、新しい事業が生まれる可能性もあるのです。

むしろIBMのような巨大組織でなく、小回りが利く小さな会社こそ、この考え方を迅速に実行できる環境は整っているはずです。

そのためには、常に「現時点で、お客様にとっての自社の強みは何か?」を問い続けることが必要なのです。

 

とは言え、多くの日本企業は、なかなか「やめるモノ」を決められません。決めても、なかなか実際に捨てることが実行できません。しかし「やめるモノ」を実際にやめなければ、新しいことに挑戦しても、中途半端になってしまうことが多いのが現実です。

逆に考えれば、1998年から1999年のIBMのように、戦略的に自社の強みと、その強みを活かせるお客様の課題を見極めて、「やめるモノ」「強化するモノ」を考えて実行することで、日本企業は大きく成長する余地が残されているはずです。

 

 

 

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「お客様が買う理由」を考えるのは大変。でも慣れる理由

疲れたランナー

「脳の中で、普段使っていない部分を使っている感じで。とても疲れました」

ワークショップに参加された方が、休憩時間にこのようにおっしゃいました。私は答えました。

「そうでしょうね。でもこれ、ジョギングのトレーニングと同じなんですよ」

 

私が企業様向けに行っているワークショップでは、お客様企業の新商品を題材に、「お客様が買う理由」(バリュープロポジション)をどうするかをチームで議論して作り上げ、発表し、社員同士で議論いただいています。

この「お客様が買う理由」を作るために、

・自社の強みは、何か?

・その自社の強みを必要とするお客様は、誰か?

・そのお客様は、どのような課題を持っているか?

・お客様は、どうすれば自社を選ぶか?

 これらを首尾一貫して、チームで議論をしながら、徹底的に考えていきます。

 

とは言え、これを徹底的に考えるのは結構大変です。「こんなこと、考えたこともない」とおっしゃる方も多く、皆さんは議論を通じて七転八倒しながら苦労して答えを導き出していきます。

 

実は、かく言う私も同じでした。

私の場合は、IBMでマーケティング戦略担当者だった2000年頃、IBMの戦略に接するうちに「バリュープロポジション」というまったく新しい概念に出会い、この考え方に沿って担当する事業のマーケティング戦略を一人で導き出して、成果を挙げられるようになるまで2〜3年間かかりました。

皆さんと同じ苦労をしてきましたので、「とても疲れる」とおっしゃるのもよくわかります。

しかしこれを苦労して徹底的に考え抜くことで、お客様の方から自社商品やサービスを選んでいただけるようになり、日々の販売活動では苦労が逆に大幅に減っていくのです。

さらに「お客様が買う理由」を自力で考えて導き出せる経験を積むことで、その後は次第に楽に導き出せるようになります。

 

だから、これはジョギングのトレーニングと同じなのです。

はじめてジョギングをして、500メートル走っただけで息が上がり心臓がバクバクする経験をした方は多いのではないでしょうか?

しかし最初は軽いウォーキング程度から始めたとしても、それを週に2〜3回行う習慣をつければ、数ヶ月後にはある程度の距離を楽々ジョギングできるようになります。次第に必要な筋肉が付いてくるからです。中には数年後にはフルマラソンに出る人もいたりします。

 

「お客様が買う理由」を考え抜くのも同じです。今まで考えたことがなかった方は、これを考えるのはとても頭を使いますし、疲れます。しかし日々この考え方をすることで、頭の中に「お客様が買う理由」を作る回路が作られるようになり、次第に割とスムーズに考えられるようになるのです。

私自身、このフレームワークで十数年間考えているので、ワークショップで各チームから発表される「お客様が買う理由」に対して、色々な視点で議論のポイントを見つけることが出来るようになっています。

 

「自社の強み」「お客様のこと」を一番知っているのは、外部のコンサルタントではありません。自社の社員です。

だからこそ、自社の社員が「お客様が買う理由」を作り検証する方法論を身に付ければ、その会社は必ずマーケティング志向に変革していくのです。

そしてそのような会社が増えていけば、日本の企業の競争力も大きく向上し、日本経済も元気になっていきます。

 

是非、習慣化したいものですね。

 
 

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オムニマネジメント2015年11月号に連載第6回『「当社の強みはブランド」と考えるのは危険な幻想である』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年11月号に、連載『「当社の強みはブランド」と考えるのは危険な幻想である』が掲載されました。

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私たちは「当社の強みはブランド」と考えがちですが、実はこれだけでは「お客様にいかに価値を提供するか?」という発想がなかなか生まれません。

ではどうすればいいのか?

ブランドとは顧客満足という事実の積み重ねです。

ですので、「顧客満足がいかに生まれるのか」を改めて考えるところにヒントがあります。

今回はそのことについて書きました。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

朝市のおばあちゃんから学んだ顧客中心主義

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「1年365日、この朝市には毎日顔を出して売っているんですよ」

先日のこと。ある温泉街の朝市で出会った女性が、このようにおっしゃいます。

「365日、一日も欠かさずに、ですか!凄いですね」

「そんなに凄いことなのかねぇ。この10年間、続けているんですけどね」

そう言いながら笑います。年齢は70歳頃でしょうか?とてもお元気そうです。

「10年間、1日も欠かさずに、ですか!それは大変ですね」

すると(とんでもない)と顔を振りながら、意外なことをおっしゃいました。

「ここに来るのが、毎日とても楽しいんですよ。お客さんとお話ししていると楽しくて、元気をいただけるのよねぇ。本当に有り難いことでねぇ」

ご長男は食品工場を、次男は店を継ぎ、息子さんたちが作っている佃煮などの加工食品を、この朝市で売っているそうです。

「息子たちが作っている佃煮の感想を、お客さんが試食して『美味しい』と言いながら、買ってくれるのが嬉しくてねぇ。気がつくと10年間、毎日来ているのよねぇ」

確かにお話ししながら試食した佃煮はとても美味しくて量も手頃で、私もお話ししながら買ってしまいました。

 

この時に思い出したのは、半年前の講演の際に、社員数百名規模のある中堅食品メーカーに勤める幹部の方からいただいた質問でした。

「『価格を下げずに価値を上げましょう』ということですが、それは理想論ですねぇ。現実はいつも『値引きしろ』と言われ続けていんですよ」

ちょっと疲れた感じのお話しの様子から、日々の仕事のプレッシャーがにじみ出ています。

「値引きしなければいけないほど、商品の競争力は弱いんですか?」

「とんでもない。商品競争力には自信を持っています。食べた方は、みんな『すごく美味しい』っておっしゃいますよ」

「ではなぜ価格勝負に陥っているのでしょうか?」

「あれ?そう言えば……。ナゼナンダロウ 」

よくお話しを伺うと、この会社の営業の方々は99%の時間を卸業者や小売業者などの取引先と会っていました。消費者と接点を持つ人は全社の中で極めて少数だったのです。

 

朝市のおばあちゃんと、この中堅食品メーカーの決定的な違いは何か?

二つあります。

 

一つ目は、最終消費者に会っているかどうかの違いです。

 

朝市のおばあちゃんは、10年間毎日消費者に会っています。

お客さんとのおしゃべりをしながらお客さんのプロフィールを理解し、試食したお客さんの反応を見ながら、どのお客さんにどの商品が受けるかを、身を以て肌身で感じ、理解しています。

食品工場や店の責任者である息子さん達には、おそらく日々の世間話に交えながら、そうやって得られた情報をフィードバックしているはずです。

この朝市で売られる佃煮には、この膨大な仮説検証によって蓄積された「お客様が買う理由」が凝縮されているのです。

 

一方の中堅食品メーカー。最終消費者にはほとんど会えていません。

食べてもらうと「美味しい」という反応が返ってきます。しかしその美味しいことは消費者に伝わっていません。

「美味しければ買う」と思っていますが、実際には、「お客様が買う理由」が美味しいこと以外にも様々な要因があります。

たとえばある商品は、かつては4人家族用を想定し4人分まとめて包装していましたが売上が徐々に落ちてきました。そこで単身家庭やシニア夫婦からの「美味しいけど多すぎる。残すのももったいないので、ウチでは買えない」という声を受けて、個包装にしたところ、販売が伸びました。

毎日お客さんと話している朝市のおばあちゃんなら、「ああ、そう言えば今朝、私と同年代のご夫婦が、『もっと小さくしてくれれば買うのに』って言ってたわよ」と息子さんに話して、息子さん達は「じゃぁ、これで売って来なよ」と個包装にした商品を渡して、その翌朝には対応しているのでしょう。

しかし最終消費者に会えていない会社ではそのようなニーズは拾えず、「美味しいのになぜ売れないのか?」と悩むのです。

 

決定的な違いの二つ目は、愉しんでいるかどうかです。

朝市のおばあちゃんは、「10年間、一日も欠かさずお客さんに会っている」と心から愉しそうにしています。「自分がやりたいことを、やっている」という実感、「働く喜び」が、小さな身体全体から湧き出ていました。好きなことをやっているので、アイデアもわき上がってきます。

一方の食品メーカーの幹部は、辛そうでした。思考も堂々巡りから抜け出せていません。

 

最終消費者は、価値を提供する相手でもあります。

自分たちの商品が、その人にいかに役に立っているか?

そのことを知り、学びながら価値を進化させていくことは、実は愉しいこと。いわば知的ゲームなのです。

 

温泉街の朝市で出会ったおばあちゃんとの会話は、10分程度でした。

しかし「最終消費者に会うこと」「仕事を愉しむこと」は、食品業界に限らず、あらゆる業界に共通して重要なこと。

顧客中心主義のあるべき姿について、実に多くのことを学ばせていただきました。

 

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文化放送オトナカレッジ 第3回「間違いだらけの価格戦略」

10月22日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第3回目でした。

今回は、「間違いだらけの価格戦略」と題して、お話ししました。

 

マーケティングの構成要素は、大きく分けて「商品」「価格」「チャネル」「プロモーション」の4つに分けられます。この4つを「マーケティングミックス」と言ったりします。この4つの中で「価格」は唯一利益に直結します。他の3つはコストなんですね。

ですので、収益性は「価格戦略」次第で左右されます。しかし、価格戦略を間違えて低収益にあえぐ企業が多いのもまた、真実です。

 

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.値引きを見て「もう買わない」と思ってしまった、私の経験
2.いい値引きと悪い値引き
3.価格を下げると、いいお客さんは去っていく
4.価格勝負は筋肉増強剤だ
5.価格を下げるな、価値を上げろ

 

実はこれ、人も同じです。この20年間、ネット普及やグローバル化の進展で、海外の安い労働力が日本の仕事を代替していき、付加価値がない仕事の賃金は下がっています。さらにITや人工知能などの普及で、機械的な仕事は自動化されています。いかに自分の価値を上げていくかを考えることが必要なのですね。

これは見方を変えると、人は機械的な仕事から解放されて、創造的な仕事ができるようになる、といういい面もあります。

 

ということで、今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

 

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20151022

「価格を下げるな、価値を上げろ。…人もそうなんですよね…」ということですね。

 

お聴きいただいた皆様、ありがとうございました。

 

第4回目は、「不毛な価格競争が引き起こす大絶滅。その次に来るのは?」というテーマでお話しします。

11月12日(木)の予定ですが、日本シリーズの予定次第では10月29日(木)に繰り上がる可能性もあります。

お楽しみに。

売れない原因は、ほとんどの場合、一つしかない

悩むビジネスマン

「ウチの営業が、全然わかっていないんです」

その方はこの数年間、新商品を担当していました。強力なライバルがいる市場に新規参入し、苦戦が続いているそうです。

「お客さんを絞り込んで、営業も専任にして集中的に攻めるべきなんです。でも営業部門がやっていることは、その正反対。卸売業者に任せて薄く広く販売しています。『これではダメだから、変えるべきだ』と1年間言い続けていますが、営業部門はまったく理解しない。ほとほと困っています」

かなりオカンムリです。そこで踏み込んで聞いてみました。

「どのようなお客さんに絞り込むべきですか?」

「たとえば、地域とか。あるいは特定の小売業者とか。どこかに絞り込んで、集中突破すべきですよ」

「たとえばどんな地域でしょう?」

「仙台とか、大阪ですかね」

「仙台や大阪を選ばれた理由は?」

「特に理由はありませんが、…。とにかく絞り込むべきですよ。そう思いませんか?」

ランチェスター戦略で言うところの「弱者の戦略」に沿っていますが、具体性に欠けている気もしました。そこで質問を変えて、新商品について聞いてみました。

「この数年間、新商品に取り組んでいるのですよね」

「そうですよ」

「その新商品は、御社のどんな強みを活かして、その強みを必要とするどのようなお客様を対象にして、そのお客様のどのような課題を、いかに解決するのでしょうか?」

「当社はチャレンジャーですからね。最初の強みについては、ライバルのリーダー企業と違って、まったく新しい視点で、挑戦できることですね」

「それはリーダー以外の他社さんでも同じですよね。御社しか持っていないどんな強みを活かしているのでしょうか?」

「うーん。そういう視点はないですねぇ。新商品はウチの技術を活かしてはいますが、他社でもできますし」

「他社もできるのなら、あえて御社を選ぶお客さんはいないのではないでしょうか?他社にない強みをどのように活かして、ターゲットを絞るか、考えることが必要だと思います」

「うーん。結局、『地道にやれ』ということですかね。今、ほとほと困っているので何かヒントがあればと思っていたのですが…」

 

数回のやり取りをダイジェストにしてまとめてみましたが、ここまでお話ししてわかりました。営業を説得できないのは、「お客様が買う理由」が不明確だからなのです。

 

私は、お客様から色々なご相談をいただきます。

・「営業です。営業に行っても、お客様から言われるのは値引きばかり。どうすればいいんでしょう?」

・「マーケ部門です。販促活動しているのですが、なかなか成果が上がりません。困っています」

・「チャネル戦略で販路拡大を図っていますが、売上が下降する一方です」

そこで「ターゲットのお客様が誰で、その方はどのような課題を持っていて、御社ならではのどのような強みを活かしてその課題を解決しているのですか?」と聞くと、9割以上の確率で異口同音に返ってくる答えは、「それはよく考えていない。とにかく問題を解決したい」。

今回、深掘りしてお話しを伺ってわかったのは、まさに同じケースだということでした。

 

売れない理由は、ほとんどの場合、一つだけ。「お客様が買う理由」が、ないのです。

言い換えれば、「商品を出してうまく販売すれば、売れる」と考えています。しかし現代では「お客様が買う理由」が不明確な商品を販売力に頼って売るのは至難の業。その結果、売れないのです。

 

当コラムで繰り返し述べているように、「お客様が買う理由」を作り上げるには、

「(1)自社の強み」を見極めて、
「(2)その強みを必要とするお客様」(ターゲット顧客)を決めて、
「(3)そのお客様が必要としていること」(顧客の課題)を徹底的に理解し、
「(4)自社ならではの強みを活かした課題の解決策」(商品やサービス)を提供することを考えることが必要です。

 

しかし、「お客様が買う理由」を考え抜くだけでは、必ずしも売れません。そこでリアルなお客様での検証が必要になります。

当初考えた上記(1)〜(4)のうち、いずれの仮説が間違っていたのかを順番に検証し修正していけば、「お客様が買う理由」に近づくことができるのです。その結果、売れていくのです。

 

「結局、『地道にやれ』ていうことですね」と言いたくなるお気持ちも、よくわかります。「お客様が買う理由」を作るのは、地道な作業の積み重ねだからです。もっと手っ取り早い方法を求めたくもなるかもしれません。

しかし、「お客様が買う理由」を考えることは、売れる商品を作る王道です。そしてお客様や市場、技術の変化が激しい今の時代は、必須条件でもあるのです。

 

たとえば冒頭のケースでは、なぜ営業がなかなか動いてくれないのでしょうか?

営業は、自社で開発された様々な商品を売るのが仕事です。同じ売るなら、お客さんが欲しがる、売りやすい自社商品を売りたくなるのは、営業にとって当然のことです。

その商品が、お客様が思わず買いたくなるような強い「お客様が買う理由」があれば、放っておいても営業はその自社商品を売ります。さらに営業ならではの色々な知恵を出して、より多く売ろうとします。

この新商品を営業が売ろうとしない理由は、この営業が動きたくなるような「お客様が買う理由」がないからです。自社の強みを徹底的に考えていないので、新商品で最も大切な、ライバルとの差別化ポイントが不明確。だからお客様に売れる以前に、自社の営業を説得できない。だから売れない。つまり戦略不在なのです。

本来「お客様が買う理由」は、新商品開発チームと営業がチームを組んで対話を続け、商品開発段階から一緒に考えることが必要です。しかしこのケースではチームワークも作らず、対話も不十分なまま、営業部門が具体的にどうすべきというか提案もせずに、営業部門が変わらないことを嘆き続けているのです。

 

質問された方は、この状況をなんとか変えるべく、悪戦苦闘しながら「そのものズバリの回答」がどこかにあるのではないかと探しています。

しかし、自社の強みとお客様のことを考えずして、「そのものズバリの回答」がどこかの誰かから得られることはないのです。

仮に第三者からのアドバイスで「そのものズバリの回答」が得られても、それは大きくライバルを差別化できるモノにはなり得ません。

第三者であるどこかの誰かが考えられることは、誰でも考えることが出来るからです。

自社の強みとお客様のことが一番わかっている自分自身が、「お客様が買う理由」を自分の頭で考え抜き、さらにリアルなお客様で「お客様が買う理由」を検証し続けるからこそ、誰も真似できない自分だけの学びを得ることができ、他社を圧倒する差別化を実現できるのです。

リアルなお客様に対する仮説検証は、実は差別化の手段でもあるのです。

 

「お客様が買う理由」を考え抜き、検証する作業は、一見すると地道な作業の積み重ねに見えます。しかし実際には、やりがいがある仕事でもあるのです。

私がこれまで出会った、「お客様が買う理由」を考え抜いて検証し抜き、大きく成功している人達は、誰もが楽しそうです。主体的に自分の仕事に取り組み、仕事を通じて自分だけの学びを得て、仕事でやりたいことを実現し、成果を挙げているからです。

 

「どこかに、『そのものズバリの答え』が転がっている」と考えるのは、幻想です。

「そのものズバリの答え」は、どこにも転がっていません。断片的に転がっている材料を元に、自分で考え抜いて、自分だけの答えを見つけるのです。そしてその挑戦は、実は楽しいものなのです。

一見「地道」に見える道を避けずに、まずは一歩踏み出してみると、きっと色々なことが変わってきて、次第に仕事が楽しくなるはずです。

 

 

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売れる商品は、必ず真似される。ではどうする?

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「せっかくいい商品をだしても、数年で他社に模倣されて、価格勝負になるんですよね」

製品担当のその方は、残念そうにおっしゃいました。

 

しかし現代では、売れた商品は、必ず真似されるのが宿命です。

先週のコラムでも、アイリスオーヤマの「半透明収納ケース」が大成功すると、コピーメーカーが多数出現し、供給過剰になり、価格競争に陥った話を紹介しました。この収納ケースはどのメーカーでも容易に真似できるのです。

 

ではどうすればいいのでしょうか?

模倣されても、多くの場合、「劣化版コピー」に過ぎません。形だけを真似しても、その背景にある課題・自社の強み・プロセスまでは真似できないからです。

だから模倣するライバルに対して、常に先行して「価値」を創り続けるのです。

そのためにはニーズのサキドリをし続けることです。

先週のコラムでも、「半透明収納ケース」を真似されたアイリスオーヤマが、「中味が見えると、リビングに置きにくい」という半透明収納ケースの声なき不満をサキドリし、木天板、硬質ポリスチレンの引き出しに金属レールを使った「HGチェスト」を新たに開発し、高収益商品にシフトして大ヒットした話を紹介しました。このような異なる素材の製品を作れるのは、多品種を製造するアイリスオーヤマならではの強みで、他社には難しいことだったのです。

 

現代では、模倣して追従しようとするライバルに対して、ニーズをサキドリし続けることが勝負を決めます。理由は2つあります。

1つ目の理由は、新規市場を開拓すると、先行者利益があるからです。たとえば「おそうじロボット」と言えば「ルンバ」、「半透明収納ボックス」と言えば「アイリスオーヤマ」というブランドが定着しています。先行メーカーだからこそ、ライバル不在の状況でブランドを確立でき、お客様に「〇〇〇〇と言えば、◎◎◎◎」と覚えてもらえるのです。追従するコピーメーカーは、確かに商品は真似できますが、市場でのブランド認知に関しては、後から頑張っても覆すのは容易ではありません。

2つ目の理由は、あらゆる変化が激速化しているからです。かつては技術進化も顧客の変化も今ほど激しくなかったので、模倣戦略は有効でした。真似することで先行メーカーに追いつくことは可能だったのです。しかし現代では、技術進化も顧客変化も格段に速くなっています。「時間」が「ヒト・モノ・カネ・情報」に次いで「第5の経営資源」とも言われる時代です。先行メーカーが常に新技術を磨き続けて、サキドリしたニーズに応える形で新商品を出し続ければ、先行し続けられるのです。

 

 

ですから、勝負の分かれ目 は、

・ニーズをサキドリし続けること。→つまり「顧客づくり」

・新しい技術開発を継続すること。→つまり「ものづくり」

この「顧客づくり」「ものづくり」の両輪を、常に継続して回し続けることが大切なのです。

せっかく技術を磨き続けても、「顧客づくり」を怠って「ものづくり」だけを考えていては、失敗を積み重ねるのです。

さらに、考えるだけで実行しなければ、時間を浪費し、先行しているメリットも失ってしまうのです。

 

2013年にリタ・マグレイスが書いた「競争優位の終焉」という本をご存じでしょうか?

本書では、次のように述べています。

・かつて多くの企業が「持続的な競争優位性」を目指していた。しかし現代で実現できている企業は、極めて少ない。

・競争が激しい現代においては、「持続的な競争優位性」という考え方は既に終焉している。

・今の時代に勝っている企業は、「一時的な競争優位性」を連続して獲得している企業である。

・だから、常に「一時的な競争優位性」を生み出せるように、会社の仕組みを変えていくことが必要だ。

 

短期間で「売れる商品」が模倣される競争が激しい現代の市場において、この「一時的な競争優位性」を生み出すポイントが、自社の技術的な強みを活かし、ニーズのサキドリをし続けることなのです。

 

そしてこの「一時的な競争優位性」を長く保つ1つのポイントが、当コラムで書いているとおり、

(1)「自社の強みは何か?」
 ↓
(2)「強みを必要とする顧客は存在するか?」(対象顧客の有無)
 ↓
(3)「その顧客は、何を必要としているか?」(顧客の課題)
 ↓
(4)「顧客が自社を選ぶために、どうすればよいか?」(解決策=商品・サービス)

これを首尾一貫して考え、「お客様が買う理由」を作り上げることなのです。

 

他社がなかなか真似できない自社の強みに基づいて「お客様が買う理由」を作り上げることで、「一時的な競争優位性」の寿命はより長くなるからです。

 

 

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文化放送オトナカレッジ 第2回「その人、本当にお客様ですか?」

10月8日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第2回目でした。

今回は、「その人、本当にお客様ですか?」と題して、お話ししました。

 

一生懸命に営業活動をしていても、実は本当のお客様に会っていないということが、よくあります。

 

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.なぜ価格競争になってしまうのか?
2.1枚10万円でも売れる鏡とは?
3.業務用ミラー最大手 コミーの場合
4.本当のユーザーは誰なのか?

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

 

アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

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お聴きいただいた皆様、ありがとうございました。

 

第3回目は、再来週10月22日。「間違いだらけの価格戦略」というテーマでお話しします。お楽しみに。

「お客様のニーズ?ないよ」そんな時こそマーケティングの出番。例えば、タンスでは?

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10月1日から文化放送・オトナカレッジという1時間番組のレギュラー出演が始まりました。第1回目は、『マーケティングは、アナタの人生に役立ちます!』と出して、そもそもマーケティングとは何かについてお話ししました。

 

この番組では十数分の講義後、リスナーからの色々なご質問にお答えしています。今回はこんなご質問をいただきました。

「お客様のニーズをサキドリして応えるのがマーケティングだということはわかりました。でもニーズが減っている商品でも、役立つのでしょうか?」

実は、このような場面こそ、マーケティングの出番なのです。

 

番組ではこんなエピソードでお答えしました。このコラムでは、時間の都合のため番組でお話しできなかったことも加えてご紹介します。

 

家にタンスを置いているご家庭は多いと思います。

日本でタンスが普及し始めたのは、1700年の江戸時代中期。一見すると、タンス市場は成熟していて新しいニーズはないように見えます。しかしある会社は、タンス市場での「隠れたニーズ=声なき不満」を発掘し、大ヒット商品を生み出しました。

「タンス市場での、隠れたニーズ=声なき不満」は、何だと思いますか?

 こんなご経験はありませんでしょうか?

衣替えの季節や旅行の際に、衣服を探してタンスの棚をいくつもひっくり返して探したけれども、なかなか見つからない。

実はタンスには、「どこに何をしまったかを忘れてしまって、欲しいモノが見つけられない」という声なき不満があったのです。

二十数年前、アイリスオーヤマは、その「声なき不満」に気がついて、半透明プラスティックスを素材として使って中味が見える収納ボックスを開発し、販売しました。ホームセンターでこの「半透明収納ボックス」をご覧になったり、使っておられる方も多いと思います。かく言う我が家でも使っています。

世界初の「半透明収納ボックス」は大ヒット商品になり、米国でも新市場を開拓しました。「どこにしまったか、見つけられない」というお客様の声なき不満に他社よりも先んじて注目し、ニーズをサキドリして開発・販売した、マーケティングの成果です。

 

このように、「お客様の新しいニーズなんて、もうないよ」という時こそ、マーケティングの出番なのです。

マーケティングの考え方を身に付ければ、お客様も気がつかないような「隠れたニーズ=声なき不満」を発掘し、いち早く対応することができます。そしてニーズをサキドリすることで、他社を大きく差別化できるのです。

 

しかしニーズをサキドリして成功すると、必ずあることが起こります。
ライバルが模倣して、類似品が市場に出回り始め、価格競争になるのです。
では、どうすればいいのでしょうか?

さらにお客様のニーズをサキドリし続け、自社の強みを活かし、より深くお客様の隠れた課題に応えていくのです。

 

アイリスオーヤマの「半透明収納ケース」も、コピーメーカーが多数出現しました。半透明プラスティックスを成形加工するのは簡単なので、模倣するのは容易です。つまり市場への「参入障壁」は低かったのです。そして市場が供給過剰に陥り、価格は急降下しました。そこで収納用品の点数を一気に縮小し、収益性が高い商品だけに絞り込むことにしました。

その絞り込みの基準も、「隠れたニーズ=声なき不満」です。

では、「半透明収納ケースの、隠れたニーズ=声なき不満」は、何だと思いますか?

実はこんな、「隠れたニーズ=声なき不満」があったのです。

「人目に触れる機会の多い場所だと、中味が見える収納ケースは、置きにくい」

そこでアイリスオーヤマは、天板を木天板、引き出し部分は硬質ポリスチレンにし、引き出しやすいように金属レールを使った「HGチェスト」を開発しました。リビングに置いても違和感のない高級感がある収納ケースになり、2012年までに累計700万個売り上げました。

実はプラスティックス・金属・ポリプロピレン・木材といった異なる素材を使った製品を作れるのは、多品種を製造するアイリスオーヤマならではの強みであり、他社には難しいことだったのです。つまり市場への「参入障壁」は高くなったのです。

 

このようにマーケティング思考が企業に定着していること自体が、企業の大きな強みになるのです。

 

今回のラジオ出演前半部分(講義11分間)は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でお聴きになれます。→こちら(なお、今回のコラムでご紹介した後半の質疑応答は割愛されていますので、ご了承下さい)

 

以上、「オトナカレッジ」の番組でお話しした一部を、さらに深掘りして補足させていただきました。

本番組では、このようなマーケティングのお話しを、わかりやすく解説します。マーケティングをご存じない方も、3月末までの十数回のお話しをお聴きいただくと、マーケティングのキモについてご理解いただけるようになるはずです。

 

次回、私のオトナカレッジへの出演は、明後日の10月8日(木) 21:00。「その人、本当にお客様ですか」というテーマでお話しします。本当のお客様は、実は意外と見えていないことが多いのですよね。お楽しみに。

 

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