永井孝尚ブログ
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日本地図をよく見直ると、全く気付かなかったことが見える

上の図は、皆さんよくご存じの日本地図です。
お隣の大陸には、北(地図の上)から、北海道の西側にはロシア、中国、北朝鮮、韓国があります。こうして見ると、日本はまさにアジアの端にあることがわかりますね。
では、大陸側の国からは、日本はどのように見えているのでしょうか?
これが下の「逆さ地図」です。

中国やロシアから見ると、日本列島は北海道から沖縄列島まで大きな弧を描き、彼らの太平洋への出入り口にスッポリと覆い被さる位置にあることがわかります。さらに沖縄列島の先には台湾があります。
こうして逆さに地図を見ると、色々なことがわかります。
現在、北海道の北側にある北方領土はロシアが支配しています。しかし北方領土は冬は氷に覆われて、船舶の出入りができません。ロシアの悲願は不凍港の確保です。120年前の日露戦争も、ロシアが不凍港を確保すべく朝鮮半島に進出してきたことがきっかけでした。
ロシアにとって不凍港の確保は最重要課題です。ちなみに太平洋戦争の終盤、日本の分割統治を米国などの連合国と議論していた際に「北海道はロシア(当時のソ連)が統治する」という合意の直前で日本が降伏し、ロシアの北海道進出を免れることができました。(詳細は拙著「教養書100冊」のBook61「昭和史1926-1945」参照)
また中国は「台湾は我が国の領土だ」という主張を断固として撤回しません。これもこの「逆さ地図」を見れば、台湾の確保が、中国にとって地政学的に重大な意味を持つことがわかります。最近の中国は、沖縄に対しても「沖縄はかつては琉球王国として中国との交流があった」という発言も始めて、ゆさぶりをかけてきています。
さらにこの図を見ると、この大きな弧を結んでいる日本・韓国・台湾の緊密な連携が安全保障上の観点でも、とても重要であることも、よくわかります。逆に中国とロシアから見ると、この弧を破るべく、日韓台の連携を崩す様々な工作を仕掛ける戦術が有効になります。
ちなみに東京市ヶ谷にある防衛省庁内には、「大陸側から日本がどう映るか」を理解するために、この「逆さ地図」があちこちにあるそうです。(出典:『【Deep Insight】日韓に迫る「同時危機」説』日本経済新聞 2023.11.23掲載)
このようにいままで当たり前に見ていたことでも、相手の視点で見直すことで、まったく異なる景色が見えてくるのです。
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ChatGPTで、ビジネス戦略策定を激速化させる具体例

マーケティング研修で新規事業の戦略立案のワークを行うことが多いのですが、多くの研修参加者が悩むのが、こんなことです。
「そうは言っても、顧客の課題がよくわからない」
私はワークで「①自分たちの強みは何か?」→「②その強みを必要とする顧客は誰か?」→「③その顧客はどんな悩みを抱えているか?」→「④その悩みをどのように解決できるか?」というフレームワークで考えていただくことが多いのですが、②と③で「うーん、誰が困っているんだろう?」と悩んでしまうわけですね。
この問題を解決するには、顧客を観察して自問自答し、「顧客も気付かない顧客の課題は何だろう?」と考えることです。これは王道なのですが、難点は時間がかかることです。
一方で、最近はChatGPTなどの生成AIがかなり使えるものになってきました。
そこでChatGPTを相手に自問自答して考えることで、顧客の課題を見つけることもできるようになりました。
たとえばあなたの会社が「省エネルギー技術に関する独自の研究成果を持つ」という強みがある場合、「ではこの強みを、マーケティング的にどうすれば活かせるだろう?」と考えてみます。
こんな場合、ChatGPTにこのように質問してみます。(なおChatGPTは有償版のChatGPT4.0を使用しています)
【質問文】
あなたはすご腕のマーケターです。
新規事業を成功させるコツは、「①自分たちの技術的な強みは何か?」→「②その強みを必要とする顧客は誰か?」→「③その顧客はどんな悩みを抱えているか?」→「④その悩みをどのように解決できるか?」と考えていくことです。
①について、私たちは「省エネルギー技術に関する独自の研究成果」を持っています。そこで「②その強みを必要とする顧客は誰か?」を考えてください。
実際にやってみると、こんな回答が出てきます。
【ChatGPTの回答】
省エネルギー技術に関する独自の研究成果の強みを必要とする顧客は以下のような人々や組織です。
1.工場や製造業:省エネルギー技術はエネルギー使用の削減や効率化を実現し、コスト削減や環境負荷の軽減を目指す工場や製造業にとって重要です。
2.商業施設やオフィスビル:オフィスビルや商業施設では多くの電力が消費され、省エネルギー技術は電力使用の最適化や節約に役立ちます。
3.住宅所有者や建築業者:省エネルギー技術は住宅のエネルギー消費を削減し、暖房や冷房の効率化、断熱性能の向上などを実現するため、住宅の所有者や建築業者にとって魅力的なソリューションです。
4.オープンイノベーションを目指す企業や研究機関:省エネルギー技術の研究成果を活用することで、新たなビジネスモデルの開発や技術の進化を図る企業や研究機関も顧客となり得ます。
5.政府や地方自治体:省エネルギー技術は環境目標の達成や持続可能な社会の実現に貢献するため、エネルギー政策の推進や地域のエネルギー効率化のための取り組みを行う政府や地方自治体も顧客として考えられます。
以上が、省エネルギー技術に関する独自の研究成果を必要とする顧客の一例です。
結構、いい感じで回答してくれました。そこで興味がある分野を深掘りしてみましょう。
【質問文】
では「2.商業施設やオフィスビル」の「③そのターゲット顧客の誰も解決できない深刻な悩み」について詳しく教えてください。
するとこんな回答が返ってきました。
【ChatGPTの回答】
商業施設やオフィスビルのターゲット顧客が抱える解決困難な悩みは、以下のようなものが考えられます。
1.エネルギーコストの高騰:商業施設やオフィスビルは多くの電力を消費するため、エネルギーコストが非常に高額になる場合があります。このため、エネルギーコストの削減を求める悩みがあります。
2.環境負荷の軽減:商業施設やオフィスビルは大規模なエネルギー使用により、環境負荷が高いとされています。環境保護への意識の高まりや法規制の厳格化により、環境負荷の軽減を求める悩みがあります。
3.維持管理の複雑化:商業施設やオフィスビルは多様な設備やシステムを保有しており、維持管理は高度な知識や技術を要求されます。維持管理の複雑化により、効率的な管理方法を求める悩みがあります。
4.快適性の向上:商業施設やオフィスビルは多くの人々が利用するため、快適な環境づくりが求められます。エネルギー使用の最適化と快適性の向上の両立を図ることは、難しい課題となっています。
5.技術の進化と更新:省エネルギー技術は進化しており、新たなエネルギー効率化の手法や設備が次々に登場しています。商業施設やオフィスビルのオーナーや管理者は、迅速な技術の更新や対応が求められています。
以上が、商業施設やオフィスビルのターゲット顧客が解決困難な悩みとして抱える可能性のある課題です。
こうなると、自社がどう解決できるかががぜん興味が出てきますね。そこで遠慮なくChatGPT先生に聞いてみましょう。
【質問文】
ではそれぞれについて「④その悩みをどのように解決できるか?」を考えてみてください。
するとこんな回答が返ってきました。
【ChatGPTの回答】
商業施設やオフィスビルのターゲット顧客が抱える悩みを解決する方法は以下のように考えられます。
1.エネルギーコストの高騰への対策:
・エネルギー効率の向上を図るために、省エネルギー設備やシステムの導入を検討する。
・エネルギー使用状況のモニタリングやデータ解析により、エネルギー使用のパターンやムダを把握し、改善策を見つける。
・創エネルギーソリューション(再生可能エネルギーの導入など)を検討し、自己生成のエネルギーを利用する。
2.環境負荷の軽減への対策:
・エネルギー効率の向上により、排出されるCO2や廃棄物の量を削減する。
・再生可能エネルギーの導入や環境に配慮した設備・システムの導入により、環境負荷を軽減する。
・エコフレンドリーな資材の利用やクリーンエネルギー認証の取得など、環境に配慮した施策を推進する。
3.維持管理の複雑化への対策:
・IoT技術やビッグデータの活用により、設備の状態やトラブルの予知・管理を効率化する。
・センサーを活用して自動化・遠隔監視を行い、設備運転の最適化を実現する。
・エネルギー設備の維持管理を外部の専門企業に委託することで、専門知識とスキルを活用する。
4.快適性の向上への対策:
・エネルギー効率の改善と快適性の向上の両立を図るため、スマート建築技術の導入を検討する。
・空調や照明などの設備を効率化し、エネルギー使用の最適化と快適性の両立を図る。
・ユーザーの利用パターンや要望を分析し、個別の快適性設定を可能にする。
5.技術の進化と更新への対策:
・持続的な技術監視と研究開発への投資により、最新の省エネルギー技術をキャッチアップする。
・イノベーションや新たな省エネルギー技術の探求を推進し、積極的な技術更新を図る。
・可能な限り早期に新技術を導入し、より効果的なエネルギー管理を実現する。
以上が、商業施設やオフィスビルのターゲット顧客が抱える悩みを解決するための一般的なアプローチです。実際の解決策は、具体的な施設や要件に合わせてカスタマイズする必要があります。
このようにChatGPTを相手に、アイデアの壁打ちをすると、ChatGPTはその道である程度レベルの専門家として相手をしてくれて、お客様の課題についてかなり高い解像度で仮説を立てるための材料を得ることが出来ます。
この材料を元に考えていくことで、スピードが向上するわけですね。
ただ、注意点もあります。
【注意点1】あくまで「アイデア出し」と割り切る。想定外のアイデアが即時に得られるのが最大のメリット。→「一人ブレインストーミングの壁打ち相手」と心得る。
【注意点2】万能ではない。意外とウソの回答も多い。また2年ほど前までの知識しか持っていない。(ただしChatGPT4.0ならば、URLを指定すればそのサイトの情報を学習して答えてくれる)
【注意点3】だから「結果は必ず検証」が大前提。自分が「仮説検証思考」を身につけた上で、「仮説を立てる手段」と割り切れば、新規事業での仮説構築が激速化する
【注意点4】質問がカギである。ただ同じ質問でも、毎回、答えが変わる。同じ質問を繰り返してみる。
【注意点5】マーケティングのフレームワークを理解して質問すると、アウトプット品質は格段に向上する。(この例でも、最初にマーケティングのフレームワークを質問で「新規事業を成功させるコツは…」という文章でChatGPTに示している)
【注意点6】ChatGPTに頼り過ぎない。「自分自身の閃き」も大事。→自分の閃きを得る手段と心得る。
【注意点7】以上のような仮説検証思考をせずにChatGPTを使うと、実に凡庸な結果しか出ない。言い換えればAIは「思考を節約する道具」ではない。「より頭を思考に特化させる道具」として使うべし。
つまり「ChatGPTをマーケティング戦略で活用する際のコツ」は
仮説検証を前提に、仮説作りでChatGPTを使うと、
企画が爆速化し、仮説品質が向上する
ということです。
「まだChatGPTを使ったことがない」という方は、ぜひ最新AIを仮説作りに活用してみてください。 そしてビジネス速度の変化を、疑似体験して下さい。
いままで全員が徒競走で争っていた世界で、いきなりクルマが手に入るような状況が起こっています。
そしてChatGPTを実務で活用する企業も徐々に増えています。徒競走で、クルマで疾走するライバルに勝つのは、至難の業。まずは実際に試してみましょう。
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経営者に必須の「危機感」は、「不安」「不満」とは全く違う

私は企業の経営幹部候補向けにリーダーシップ研修を行っています。
ここで重視しているのは「経営者目線を付けること」です。部下がいる・いないに関わらず、この「経営者目線」を持つか否かで、同じビジネス状況に直面しても、状況の捉え方が変わってくるからです。
たとえばお客様から大きなクレームがきた場合、私たちは「すぐ対応して、あらゆる手段でお怒りを解消しなければ」と考えて全力で対応します。
しかし経営者目線を持っていると、お客様のクレームに全力で対応しつつ、もう一段深く状況を捉えて、「ウチの会社のどこに問題があって、なんでこんな状況になったんだろう?」と考えるようになります。そして構造的な問題を見つけた場合、「気付かなかったけど、これを放置すると、ウチの会社はかなりヤバいぞ」と考えて、対応策を考えるようになります。
この経営者目線で大事なのは「危機感」です。
ファーストリテイリングCEOの柳井正さんは、著書「経営者になるためのノート」で、『「危機感を持つ」のが、正常な経営者』とした上で、こう述べています。
「経営者は不安ではなく危機感にもとついて経営をしなければいけません。会社を経営したことのない人は、経営を誤解しています。危機感を持たず、追い風を受けて前に進んでいる状態が「正常な経営」だと思ってしまうのです。現実は全く逆です。追い風にのって順調にいっているから安心だなどという経営をしていたら、あっという間に会社はつぶれます。」
でも、この「危機感」と、「不安」や「不満」の違いって、わかりづらいですよね。
たとえば私は企業研修で、受講者の皆様に「あなたは、自分の会社について、どんな危機感を持っていますか? そしてどうやってそれを解決しますか?」と考えていただくことがあります。
こんな時、「会社はこんな方針を出しているけど、現実にはこんなことをやっても、現場でうまくいくわけない。実際に□□□みたいなことも起こった。こんな方針、ムリである」というような答えが返ってくることがあります。そして対応策が「この方針はムリだということを、経営陣に直訴する」になったりします。
実はこれは「危機感」ではなく、「不安」「不満」です。
危機感とは、たとえばこんなモノです。
①「このままでは負けてしまう!」
②「ここで対応しないと、後で○○が起こるぞ!」
③「もしかして自分、間違ってないか?」
これらの危機感は、主体的な行動につながります。
①「このままでは負けてしまう!」→「勝つためにはこの手を打とう」
②「ここで対応しないと、後で○○が起こるぞ!」→「○○を回避するために、すぐこの手を打とう」
③「もしかして自分、間違ってないか?」→「こうしなきゃヤバいぞ」
何かを変革する際には、この「危機感」が原動力になります。それは主体的な行動が伴うからです。
一方で、不安とはたとえばこんなモノです。
「そんなの売れないよ」
「ダメに決まってる」
「こんなのムリ!」
また不満とは、たとえばこんなモノです。
「なんとかして欲しい!」
「これ、なんで私がやるの?」
「とにかくすべて会社が悪い」
これらは、主体的な行動につながりません。「上に直訴する」といった行動に留まります。主体的な行動が伴わない「不安」や「不満」は、変革には繋がりません。
「危機感」は、主体的な行動が伴っています。先の「こんな方針、現場では現実的にムリ」という場合でも、その「方針」の狙いを理解した上で、その「方針」をさらに現場に即したものにグレードアップして提案するのであれば、それは「危機感に基づいた主体的な行動」になります。
危機感は前向きな思考であり、不安・不満は後ろ向きの思考なのです。
そして危機の原因は、好調な時に密やかに仕込まれています。だから柳井さんも『「危機感を持つ」のが、正常な経営者』とおっしゃっているのです。
あなたは、「危機感」がありますか?
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朝活永井塾 第81回 「柳井正『経営者になるためのノート』を行いました
11月8日は、第81回の朝活・永井塾。テーマは『柳井正「経営者になるためのノート』でした。
私がつくづく感じるのは「ビジネスパーソンの人生はわからない」ということ。
ある私の友人は、学生時代はごく普通の人間でした。今では日本を代表する大経営者になっています。 一方で、新卒入社したときに超優秀だった同期の友人が、意外と伸び悩んでいたりします。
ファーストリテイリングの柳井正さんは日本を代表する大経営者ですが、大学時代はゼミにも入らず麻雀などしてブラブラ。仕事したくないと思いながらジャスコ(現イオン)に就職し、10カ月足らずで退職。 地元に戻り家業を継いで思うままやったら、一人を除いて全員が辞めてしまったそうです。 現在の柳井さんからは想像もできない姿ですが、それから覚悟を決めて「経営者」としての自分づくりを始めました。
そんな柳井さんが、数多くの失敗の中から経営の原理原則を学び、実践を繰り返し、考えて学んだことをまとめた一冊が、『経営者になるためのノート』です。
柳井さんは本書でこうおっしゃっています。「自分はダメな経営者だった」
「この本を読む人はあきらかに私より優秀な人たち。皆さんが早い段階で経営の原理原則を学び実践で身につければ、私より早く、より大きな経営者になれる」
会社員はともすると、言われたまま仕事をする日々を過ごしがちですが、これではなかなか成長できません。重要なのは経営者目線を養うことです。
「そんなの、自分はヒラだから関係ない」と思うかもしれませんが、これで結構大きな差がつきます。
経営者目線で「あるべき姿」を思い描き、「現状」を把握し、「何を行うべきか」を考え抜き、実現する。そんな力が身につけば、ヒラ社員でも仕事の成果は飛躍的に上がります。
そしてこの経営者目線は、一朝一夕には身につきません。磨き続ける必要があります。
そこでオススメしたいのが本書なのです。 ファーストリテイリングでは、店長から執行役員までこのノートをもとに教育を受けるそうです。社外秘でしたが、「日本をもっと元気にしたい」という柳井さんの思いで公開されました。
これは学んでおかないと、損する本です。
そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、経営者目線をいかにつけるかを学んでいきました。
『経営者になるためのノート』(柳井正著)
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】


またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
次回12月6日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『ジョブズ流・顧客に聞かない製品開発がわかる「フッサールの現象学」』です。申込みはこちらからどうぞ。
付加価値の意味は、マンション修繕とキーエンスから学べ

よく「商品の機能をアピールするのはやめて、付加価値をアピールしよう。ポイントは、顧客の痛みをどのように解決するかだ」と言われます。でも「抽象的すぎて、今一つハラ落ちしない」という方も多いのが現実です。
先日テレビのニュース番組を見ていたら、まさにそのものズバリの事例があったので、ご紹介したいと思います。
建て売りマンションに住んでいる方は多いと思います。
マンションは貴重な資産です。でも10-20年と放置するとボロボロになります。そこで大規模修繕のために、マンション住民は毎月「修繕積立金」を積み立てています。
しかし多くの修繕積立金は「段階増額積立方式」といって、当初は安く、徐々に増額する方式で組まれています。かくいう私も、今は賃貸住まいですが、かつて住んでいた持ち家のマンションは、当初の修繕積立金1万円が10年後には2万円になりました。
しかしそれでも、世の中にあるマンションの1/3は修繕積立金が不足です。
貴重な資産であるマンションがボロボロになるのは困ります。何よりも危険ですよね。
そこで多くのマンションの管理組合では、マンション住民の同意を得て修繕積立金を増額しています。それでも、積立金が逼迫するマンションも多いのが現実です。
大規模修繕では数千万円、場合によっては数億円の費用が発生します。
そもそも大規模修繕は、色々と面倒です。建設会社からの詳細なレポートや見積書を見ても、素人の住民は「工事が必要なのか?」「見積もりが適切な範囲なのか?」「誰に相談すればいいのか?」などの判断ができません。このため多くの場合、マンション管理組合はマンション管理会社に全てお任せでした。でもお金がない。これは困りますよね。
そこで、この問題を解決するサービスが立ち上がっています。
「スマート修繕」は、そんなスタートアップの一つです。
建築士の資格を持つ修繕コンサルタントが、マンションの外壁を道具で叩きながら劣化診断して、プロの目で修繕が必要な場所などをチェックした上で、第三者の立場で「大規模修繕のコストを削減するにはどうすればいいか」をアドバイスしていきます。
管理会社が提示した大規模修繕費用6000万円が、発注先を独立系に変えたり、工事内容を見直したり、複数の工事業者に見積もりを出したりすることで、費用を2/3となる4000万円に抑えられた、という事例も紹介されていました。
このスマート修繕は
・「大規模修繕費用を減らし、修繕積立金を抑制しつつ、マンションの資産価値を維持したい」というマンション住民の痛みに対して、
・「第三者のプロの視点で、大規模修繕の費用を大幅に削減する」という提案を行っています。
・「削減したコスト」(先の例では6000万円−4000万円=2000万円)が、具体的な付加価値です。
(以上は、テレビ東京ワールドビジネスサテライト「【追跡】国も見直し着手 どうする!? マンション修繕」 2023/11/8放送を参照)
似たような事例は、沢山あります。
国内時価総額ランキング5位のキーエンス(時価総額13兆円)は、営業利益率は54%、粗利は80%、さらに社員の平均年収は2200万円を超えています。
キーエンスも、まさに「顧客の痛み」に対して高付加価値の提案を行っています。
キーエンスは、中小製造業が抱える課題に対して、コストを大幅に削減する提案を行っています。
たとえば製造業にとって、部品の寸法を正確に測定することは、加工精度や高い品質を実現する上で必須です。しかしこれまで熟練作業者であっても、正確に測定するには長時間を要していました。
そこでキーエンスは「3D形状測定器」を開発しました。この機械に部品を置けば、レンズで撮影して部品の画像を取り込み、正確に寸法測定ができます。
これまで半年から2年間の訓練を受けた社員が数時間かけて行っていた作業が、新入社員でも部品を置いてボタンを押すだけで、数秒で完了できます。
もしこの会社が毎日10回検査があれば、1年間で人件費だけでも大幅に短縮できる上に、開発スピードも上がります。
「3D形状測定器」が高価格でも、コスト削減額とメリットが明確ですから、中小製造メーカーは喜んで買う訳です。
この場合の付加価値は、「削減コストと、作業の迅速化」です。
キーエンスの常識外れの粗利(80%)・営業利益率(54%)・平均年収(2200万円超)は、様々な製造業の現場で、このような高付加価値提案を行った結果です。(以上は「キーエンス 高付加価値経営の論理」延岡健太郎著を参照)
お客様が求めているのは商品ではなく付加価値であり、そこで必要になるのが「顧客の痛みの理解と、解決」なのです。
いずれのケースも、この付加価値はほぼ100%確実に実現できます。顧客側には痛みがあり、確実に痛みを減らせます。だから顧客は安心して買う訳です。
・マンション修繕…コストを6000万円から4000万円に削減
・3D形状測定器…人件費削減と作業の迅速化
しかし多くの場合、提案側が「付加価値」と思っても、顧客側はそう思っていません。痛みがなかったり、痛みが減らせるかどうか確実でないからです。たとえば「御社の売上を確実に2倍にします」と言っても、実際に詳しく話を聞くと色々な前提条件があって、机上の空論なことも多いのです。
お客様が求めているのは商品ではなく付加価値であり、そこで必要になるのが「顧客の痛みの理解と、確実な解決」なのです。
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