永井孝尚ブログ
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「都内23区は億ションだらけ」のウソ

最近、「マンション価格が高騰している」と言われていますね。
2023年、東京23区の新築マンションは、ついに平均価格1億円を超えて、1億1483万円になりました。
「もう都内でマンションに住むのはムリ!」と思ってしまいますよね。
でもちょっと待ってください。これは、実は統計のトリックなのです。
2024年8月10日の日本経済新聞の記事「東京23区、億ションだらけは誤解」に詳しく解説されています。この記事のソースである不動産経済研究所の調査も深掘りしながら、解説したいと思います。
世の中では、様々な新築マンションが売られています。価格はバラバラです。
ただ、バラバラにデータを見ても、人間は何が何だかわかりませんので、統計学では、データのバラツキと特徴を見る方法がいくつかあります。
平均値…一般的に使われるのが、コレ。全体の合計を取って、サンプル数で割ります。「東京23区の新築マンションは、ついに平均価格1億1483万円」は、これですね。
実は平均値には問題があります。大き過ぎたり、小さ過ぎる数字があると、その影響を受けてしまうのです。
たとえば一番高いマンションは「三田ガーデンヒルズ」の45億円(専有面積376.6平米)でした。2023年の東京23区の供給戸数は11,909戸。大雑把に見ると、この1戸だけで平均を約37万円も底上げしています。他にも10億円超の超高額物件が多かったので、平均が上がったのですね。
中央値…バラバラなデータを大きい数字から小さい数字へと順番に並べてみて、ちょうど真ん中にある数字のこと。東京23区の中央値は8200万円です。
中央値で見ると、「極端に大き過ぎる、または小さ過ぎる」数字の影響はなくなって、実態に近い数字になります。
そして平均値と中央値の差を見ると、どれだけ極端な数字の影響があるかがわかります。2023年の東京23区では、3283万円です。
ちなみに過去の推移は、不動産経済研究所のサイトで確認出来ます。
平均値 中央値 差
2023年 11,483万 8,200万 3,283万
2022年 8,236万 6,898万 1,338万
2021年 8,293万 6,830万 1,463万
2020年 7,712万 6,592万 1,120万
2019年 7,142万 6,298万 844万
2018年 7,089万 6,250万 839万
:
2014年 5,994万 5,408万 496万
2023年は、超高額物件の影響を大きく受けていることがよくわかりますね。
超セレブ層の人たちでない限り、10億円を超える物件に住むことはないでしょうから、今のところ「23区内のマンションは、もう1億円超えた。住むのはムリ」と悲観する必要はなさそうです。
「平均値」「中央値」という考え方は、小学校6年の算数で学ぶ統計学の初歩なので、思い出した方も多いかもしれません。
こういったちょっとした統計の知識があれば、メディアでセンセーショナルに報道される数字に惑わされることは減ると思います。
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朝活永井塾 第90回『ビジネスの本質が学べる アダム・スミス「国富論」』を行いました
8月7日は、第90回の朝活・永井塾。テーマは『ビジネスの本質が学べる アダム・スミス「国富論」』でした。
テスラCEOのイーロン・マスクは2018年、X (Twitter)にこんなポストをしています。
「アダム・スミス、最高」
(“Adam Smith FTW” FTW は”For The Win”の頭文字で「最高」という意味です)
「経済学の父」と称されるアダム・スミスの主著書『国富論』は、イーロン・マスクの愛読書です。
250年前の本ですが、現代社会でも通用するビジネスの本質が学べる本書は、ビジネスパーソンの必読書です。
ただ残念なことに「国富論? 市場で利己的に行動すれば適正価格が決まる『見えざる手』が書いてある本でしょ」と言う人が多いのが現実です。これはアダム・スミスの意図とはだいぶ違うのです。
本書が英国で刊行された1776年当時、英国では商品や貨幣の交換の場として「市場」が急成長していました。しかし当時は「経済学」という概念はなく、市場の概念をうまく説明できる理論も存在しませんでした。この難題に挑戦したのが、スミスです。
スミスは「どうすれば国家は豊かになるのか?」と考え、膨大な経済の出来事をベーコン以来伝統のイギリス経験論を駆使して地道に調べ上げて考え抜き、10年かけて書き上げたのが本書です。
そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、ビジネスパーソンの視点で、仕事で役立つ経済学の源流を学んでいきました。
『国富論』 (アダム・スミス著)
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】





またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
次回・9月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズ経済学とフリードマン経済学』です。申込みはこちらからどうぞ。
「お金と時間」の管理術

お金と時間。
全く違うものですが、似ている点があります。
両方とも予定を立てて管理しないと、いつの間にか消滅することです。
「あれ? お金があんなにあったのに、いつの間にか減ってる」という体験をしている人は、多いのではないでしょうか?
また小学生の頃に「夏休みが40日か。いっぱいあるなぁ」と思っていても、いつの間にか8/31になって終わった、ということは誰でも経験していると思います。
一方で、お金と時間は、まったく違う点もあります。
時間は放っておくと、つい使わないままに、どんどん減ります。だから時間はちゃんと使う必要があります。
お金は放っておくと、減りません。でも人はついお金を使いたくなります。そして使い始めると減ってしまいます。だから意外なことかもしれませんが、お金は使わないことがポイントです。
つまり時間とお金は、それぞれの特性にあわせて、使い方をうまく管理する必要があるわけです。
では、どうするか?
■時間をうまく管理するには「よい習慣」を身につけることです。
「よい習慣」を身につければ、無意識に「よい行動」を行うようになります。
「よい習慣」とは、読書の習慣、身体を動かす習慣、学んでアウトプットする習慣、人に感謝する習慣、などです。
時間が経過するとともに、こういった行動は蓄積していき、知らない間に大きな成果につながったり、能力が上がったり、その人の人格をつくりあげていきます。
■お金をうまく管理するには、お金は「必要最低限しか入ってこないもの」と考えた上で、出ていくお金をその金額を超えないように維持することです。
お金が貯まる人は、収入が多い人ではありません。入ってくるお金よりも、出ていくお金が少ない人です。
年収2000万円でも、豪華タワマンに住みお金がかかる暮らしをして、年間2000万円の出費がかかると、20年経ってもお金は1円も貯まりません。
しかし年収500万円でも、質素で慎ましい身の丈生活をして出費を年間350万円に抑える生活をすれば、20年経てば3000万円貯まっています。
こうして「一定収入以下で暮らしを維持するようにする」のも、ある意味で「よい習慣」ですね。
もちろん人によって別の考え方があるでしょう。
たとえば「ケチケチせずに、有り金は全部使っていい体験をすれば、自分への投資になる」という考え方もあります。
もしそういう考え方が自分に合うのであれば、「有り金は全部使う」という考え方で生きていくことで、納得のいく人生になるでしょう。ただお金は貯まらないことも納得した上で、そういう人生を過ごすことです。
人生100年時代です。
私たちは膨大な時間が与えられている素晴らしい時代になりました。
人生は必ずしも時間やお金だけではありませんが、時間とお金をうまく管理できれば、いい人生を送れるようになる可能性がグッと高まります。
時間を制する者が、人生を制する時代です。そしてお金と時間は密接な関係があります。うまく時間を使えば、膨大なお金が得られます。
自分流の時間とお金の管理方法を身につけたいものです。
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マーケティングの基本「STPと4P」で陥りがちな罠

マーケティングの基本はSTPと4Pです。
しかし日本企業では、マネージャーや経営幹部レベルでも「STP? 4P? それって何ですか?」という人が多いのが現実です。
さらにSTPと4Pを考える上で、多くの人が陥りがちな罠があります。
そこでその「陥りがちな罠」について紹介する前に、そもそもSTPと4Pとは何かを紹介しましょう。
■STPと4Pとは何か?
STPでは、次の3要素に分けて「どの市場をどう攻めるか」を考えます。
セグメンテーション(Segmentation):市場をどのように細分化し…
ターゲッティング(Targetting):その中でターゲットにするお客を決めて…
ポジショニング(Positioning):そのお客にどう認識してもらうかを考えること。
このSTPが「戦略策定」です。そしてこのSTPに基づいて、具体的なマーケティングを実施するための施策が4Pです。
製品戦略 (Product):どんな価値を顧客に提供するのか?
プロモーション戦略 (Promotion): どうやって製品の価値を伝えるのか?
価格戦略 (Price):その価値にどんな値付けをするのか?
チャネル戦略 (Place):その価値をいかに提供するのか?
つまりSTPで「どの市場をどう攻めるか」を考えた上で、具体的に市場を攻める施策を4Pで考えるわけです。
マーケティングでは、このSTPと4Pを考えるのが出発点です。
海外の先進国にいるマネジメントレベルのビジネスパーソンにとっては、マーケティングは必須科目であり、この「STP+4P」の概念は普通に通じます。
なぜなら、商品開発戦略、営業戦略、さらに経営戦略をちゃんと考えるには、このSTPと4Pが必須になるからです。彼らにとってSTPと4Pは「読み書き算盤」なのです。
しかし先述のように、日本ではマネジャーレベルでも「STP? 4P? それっておいしいの?」状態。そこで私は企業向けマーケティング研修では、先ずSTPと4Pの考え方をお伝えした上で、自社の既存商品のマーケティング戦略をSTPと4Pで読み解くことを考えていただくようにしています。
ただここで大きな課題があるのです。
■STPと4Pを策定する前段階のプロセスがある
STPと4Pをしっかり考えて成果を生み出すには、次の4ステップが必要です。
【ステップ1】顧客の課題とターゲット顧客を考える
【ステップ2】STPを考える
【ステップ3】4Pを考える
【ステップ4】STP+4Pで相乗効果が出てるか、確認する
しかし実に多くの場合、ステップ1の「顧客の課題とターゲット顧客を考える」ができていないのです。具体的には、「顧客は誰なのか?」「何に困っているか?」が見えてこないのです。
マーケティングの出発点は「顧客視点」です。顧客が抱えている誰も解決できない「生の悩み」を発見して、誰よりもいち早く解決策を提供した企業が、市場で勝利します。
つまりSTPを考える前段階にあるのが「顧客の課題とターゲット顧客の把握」なのです。STPはそこで見つけた顧客の課題を、ブレイクダウンして表現したものなのです。
「いや、私はお客様の課題はよくわかってますよ。ただ表現していないだけです」とおっしゃる人も多いのですが、「では、お客様の課題を教えて下さい」というと、うまく説明できないことも多いのです。
実は「わかっているつもり」と「説明できること」の間には、大きなギャップがあります。「わかっているつもり」のことは、言語化できない限り、説明できないのです。そして多くのビジネスパーソンが弱いのが、この「顧客の課題を、わかりやすく表現できる言語化能力」なのです。
この「顧客の課題を、わかりやすく表現できる言語化能力」が弱いので、顧客不在の商品が量産されてしまうのです。
これはスキルです。スキルですから、トレーニングで鍛えることができます。
ですので、「顧客は誰なのか?」「何に困っているか?」を常に言語化した上で、考え続ける習慣をつけましょう
そこでマーケティング研修では、私は受講生の皆様に「お客様は、誰なのですか?」「そのお客様は、何にお困りなのですか?」と常に問いかけ続けて、自分の言葉で言語化するのをお手伝いするようにしています。
私のマーケティング研修を受講されるビジネスパーソンの皆様は、実は答えを自分の中に持っています。それを引き出すお手伝いをしているわけです。言わばマーケティングのコーチングですね。
そうして「ターゲット顧客」と「その顧客の課題」を、考え続ける習慣をつけていただくのです。
これができることが、強いSTPと4Pを考えて、強いマーケティング戦略を策定する出発点になるのです。
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衰退市場はない。努力しない会社があるだけだ

企業に勤めるビジネスパーソンの皆様とお話ししていると、こんな話をよく伺います。
「ウチの業界って、衰退市場なんですよね。色々と頑張っているんですけど、市場がシュリンクしているのでどうしようもないんですよ」
今から64年前の1960年に「それは大間違いだ」と言ったのが、マーケティングの大家セオドア・レビットです。こうおっしゃる方は、昔からいたようですね。
レビットは歴史的論文「マーケティング近視眼」でこう述べています。
『事業衰退の原因は経営の失敗にある』
『成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである。失敗の原因は経営者にある。つまるところ、責任ある経営者とは、重要な目的と方針に対応できる経営者である』
『実は成長産業といったものは存在しない、と私は確信している。成長のチャンスを創り出し、それに投資できるように組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できるのだ。何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する』
確かに、自社が成長しないのを市場のせいにしている会社の方とお話ししていると、受け身でビジネスしていることが実に多いのです。
「お客さんから値引きの要請ばかり。困ったもんだ」
「コストが増えたけど、価格に転嫁できないんですよね」
「『価値を創れ』なんてアナタは言うけど、そんなの現場を知らない理想論ですね」
そんな方に、「でもいまの商品って必ず寿命がありますよね。新たなビジネスを立ち上げるために、何していますか?」とお伺いすると、「忙しくってそんなヒマ、あるわけはないよ」。
まさにレビットが『何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する』と言った通りになっていますよね。
成長する会社は、成長市場にいるから成長するのではありません。
成長する会社は、成長するための努力をした結果、成長市場を創り出し、成長しているのです。
ネットフリックスはビデオレンタル業界で創業しましたが、創業間もない弱小企業だった時期に「この市場の正体はヤバい」と考えて、ネット配信の切り替えました。その結果、いまやあのGAFAMに準ずるほどの規模に成長しています。
一方で、ネットフリックスがこの判断をした際に規模が100倍ほどあったビデオレンタル業界最大手のブロックバスターは、リアル店舗運営にこだわり続けた末に衰退を続けて、2010年に破産しました。
ブロックバスターが破産したのは、衰退産業にいたからではありません。ネットフリックスのような努力を怠ったからです。
あなたがいる業界は、衰退産業ですか?
そしてあなたは、成長するためにどんな努力をしていますか?
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