模倣戦略は失敗の王道。しかし有効な場合もある

先週12月3日に出演した文化放送オトナカレッジでは、「柳の下にドジョウは2匹いるのか?」と題して、お話ししました。

ポイントをまとめると、

■1980年代くらいまでは、模倣戦略は有効だった

■しかし今、この戦略はうまくいかない。たとえばルンバは2002年に販売開始したが、2014年時点で日本国内シェアは66%。残り34%は他メーカー10社が分け合っている

■模倣戦略がうまくいかない理由は2つある

■1つは、商品寿命が短くなっている。1970年代と比べて1/10程度になっている

■2つは、模倣しても劣化版コピーにしかならない。時間が少ないので模倣が不十分になり、差別化しようとしてもそれが顧客が買う理由に繋がらない

■だから、「模倣戦略は失敗の王道」なのである

 

しかし実は、模倣戦略が有効な場合もあるのです。事例を2つご紹介します。

 【事例1:AltaVistaとGoogle】

実はネット全文検索を初めて実現して世の中で話題になったのは、Googleではなく、AltaVistaというサービスでした。 1995年の当時、私はAltaVistaを使ってみて、「おお、凄い!こういうことができるんだ!」と驚いたことをよく覚えています。

このAltaVistaは、コンピューターメーカーのDECが開発したAlphaサーバーの高性能をデモするために、インターネット上のあらゆるページをインデックス化することにより作ったサービスでした。(ちなみに後にCompaqがこのDECを買収。そのCompaqもHPにより買収されました)

一方でスタンフォード大学の博士課程だったセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジがGoogleの原型を開発したのは、翌年の1996年。そしてGoogle創業は1998年。実はGoogleは後発だったのです。

では、なぜ後発なのにGoogleは残り、AltaVistaは負けたのでしょうか?

AltaVistaはDECがAlphaの性能をデモすることが目的だったので、機能は十分ではありませんでした。たとえば検索結果の精度は徐々に悪化していきました。一方で後発のGoogleはネット検索専業として技術を磨いて検索精度を向上させ、追い越したのです。

 【事例2:ウォークマンとiPod】

携帯音楽プレイヤーで先行したのは言うまでもなくソニーのウォークマン。しかしデジタル音楽が普及した2001年に登場したAppleのiPodは、単にデジタル音楽機器として提供されただけでなくデジタル音楽を配信するインフラiTunesも用意しました。一方のソニーは従来型の音楽著作権のしがらみから抜けられず、iTunesのような仕組みは作れませんでした。

その結果Appleは、ソニーがデジタル音楽を配信するインフラを作れないジレンマを抱えて停滞している間隙を縫って、デジタル音楽の勝者になりました。

 

このように考えると、どのような場合に模倣戦略が有効かがわかります。

それは、先行企業が色々な理由により技術を磨かけずに、進化が停滞した場合です。

「商品寿命が短い」ということは、時間がますます希少な資源になっているということです。進化を怠ると、あっという間に後発企業に追いつかれます。

先行企業と言えども、油断をすると、後発企業に模倣されて抜かれてしまうのです。ビジネスがまさに「競走」であることを考えると、当たり前のことですね。

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逆に言えば先行企業は、常に技術を磨き続けて顧客の課題を解決し続けることが、勝利の鉄則なのです。

 

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カメラを再定義。4年間で売上が22倍に成長したGoPro

私のライフワークは写真です。20代の頃は若気の至りで、プロの写真家として生計を立てることも考えてました。

これまで色々な写真機材を使ってきましたが、そのほとんどは日本製。皆様ご存じの通り、日本のカメラは世界でも品質がダントツに優れています。そしてデジタル化が進んだことで、静止画と動画の融合も始まっています。

このカメラ市場で、急成長している米国企業があることをご存じでしょうか?

2010年 40万台
2011年 110万台
2012年 230万台
2013年 380万台
2014年 520万台

凄い成長ですよね。米国のGoProという会社です。

2010年に6400万ドル(77億円)だった売上は、4年間でなんと22倍になり、2014年には13億9400万ドル(1672億円)になりました。

GoProのカメラを使うと、このように今までとまったく違う写真が撮れます。

GoPro

(GoPro Investor Presentationより)

 

普通のカメラではこんな写真、なかなか撮れませんよね。

 

どんなカメラかというと、こんなカメラ。HEROという名前のカメラです。

GoProカメラ

(GoPro Investor Presentationより)

 

身体やヘルメット、あるいは人間以外のもの(ペットなどの動物や乗り物など)に付けて撮影します。撮影を意識することなく、スポーツなどに熱中し、その様子が本人の視点で撮影できるのです。

 

このGoProを創業し、現在CEOを務めるニック・ウッドマンさんと一橋大学の竹内弘高先生の対談を、先月の日経フォーラム世界経営者会議で伺う機会をいただきました。

ニックさんは20歳の時、「30歳までの発明家になる」と決めて、新規事業に挑戦してきました。24歳の時はゲーム会社で400万ドルの損失を出したりして、26際にはすべてを失い失敗。そこで5ヶ月間、自分が情熱を持てることに熱中しようと、好きなサーフィンをしながら世界を回ることにしました。ニックさんはサーファーだったのですね。

サーフィンをしながら波の上から見える景色は、地上とはまったく違います。ニックさんは「この目に見えるシーンを、写真に残したい」と考えました。そこで2004年、35mmフィルムカメラを自分の腕に括り付けて、ファインダーを見ることなく写真を撮れるようにしました。自分用に作ったカメラですが、サーファー仲間で「同じモノが欲しい」と大人気になり、製品化することにしました。これがGoProの始まりです。

なぜGoProという名前を付けたかというと、サーファーは誰もが「プロになりたい」と思うから。そこで「プロになる」(Go Pro)と名付けました。製品名HEROも、「自分がヒーローになる」という想いを込めています。

つまりGoProは「究極の自撮りカメラ」なのですね。

 

竹内先生が「かつてこういうガジェット系の製品は、ソニーが作っていた。なぜソニーでなくGoProが成功したのですか?」と質問すると、ニックさんは「組織が大きくなると製品も多くなるし色々と難しくなるのだろう。GoProは、情熱とアイデアを持つ個人を大切にしてきたから」と答えています。

 

 

GoProは、自社の使命を次のように定義しています。

「体験のコンテンツを記録し、共有し、管理するわずらわしさを、徹底的に排除する」
(OUR MISSION: ELIMINATE THE PAIN POINTS OF CAPTURING, MANAGING AND SHARING ENGAGING CONTENT)

この使命を実現するために、カメラを製造・販売するだけでなく。ソーシャルメディアなどで写真(動画)をすぐに共有できるような仕組みも整えています。

GoPro-Enablement

(GoPro Investor Presentationより)

 

ここまでお話しをお聞きして、GoProが成功した理由がわかりました。

1990年代にデジカメが登場した頃、銀塩フィルムと比較してデジカメの画質はかなり見劣りしていました。そこでカメラメーカー各社は、よりシャープに、より高精度に、より忠実に写真を記録できるように技術を磨き続けてきました。「写真をキレイに撮影する」ことに注力してきたのですね。

その進化のおかげで、現在のデジカメはかなりの高画質になりました。

たとえば私が来週の写真展の撮影のために使用したデジカメは1600万画素。数字の上ではそれほど高画素数ではありません。しかしこの画素数でも150cm × 100cmの大サイズにプリントして、十分な画質を確保できます。カメラを普通に使う分には、これ以上のサイズにプリントする人はそんなに多くないでしょう。

しかし日本のカメラメーカー各社はさらに高画質化に挑戦中で、間もなく1億画素のデジカメ登場も予想されています。

 

一方でGoProが追求しているのは、「キレイに撮影すること」ではなく、「コンテンツを通じて体験を共有すること」

そのために、カメラだけでなく、プラットホームも用意し、自分の感動を共有した人達をファンに取り込み、ブランドメッセージを強化し続けています。

 

GoProが対象とする顧客は、「自分の感動体験をすぐに共有したい。でも従来型のデジカメやビデオは煩わしい」と思う人。その人たちに強い「買う理由」を提供しています。

かくいうカメラのヘビーユーザーである私自身、「写真を撮影する時は、撮影に集中する」のは当たり前。何か面白そうな被写体を見つけても「これは撮影する体勢が確保できない」と判断すると、撮影を諦めることもよくありました。そして撮影後、画像を現像するなど、人に見せるまでに手間をかけるのも当たり前と思っていました。

GoProのように「写真を撮ることは忘れて、その『行為』に集中する」、さらに「手間をかけずに映像を共有する」という発想はできませんでした。

つまり従来のカメラユーザーに訊いても、GoProのような発想は生まれてこないのですね。

サーファーのように、まったく異なるニーズを持つ顧客を見つけ、その顧客の課題に対して応えたのが、GoProなのです。

 

ニックさんのお話をお聞きし、「ニーズのサキドリ」を実現した企業が勝つ時代なのだと改めて実感しました。

 

 

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売れる商品は、必ず真似される。ではどうする?

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「せっかくいい商品をだしても、数年で他社に模倣されて、価格勝負になるんですよね」

製品担当のその方は、残念そうにおっしゃいました。

 

しかし現代では、売れた商品は、必ず真似されるのが宿命です。

先週のコラムでも、アイリスオーヤマの「半透明収納ケース」が大成功すると、コピーメーカーが多数出現し、供給過剰になり、価格競争に陥った話を紹介しました。この収納ケースはどのメーカーでも容易に真似できるのです。

 

ではどうすればいいのでしょうか?

模倣されても、多くの場合、「劣化版コピー」に過ぎません。形だけを真似しても、その背景にある課題・自社の強み・プロセスまでは真似できないからです。

だから模倣するライバルに対して、常に先行して「価値」を創り続けるのです。

そのためにはニーズのサキドリをし続けることです。

先週のコラムでも、「半透明収納ケース」を真似されたアイリスオーヤマが、「中味が見えると、リビングに置きにくい」という半透明収納ケースの声なき不満をサキドリし、木天板、硬質ポリスチレンの引き出しに金属レールを使った「HGチェスト」を新たに開発し、高収益商品にシフトして大ヒットした話を紹介しました。このような異なる素材の製品を作れるのは、多品種を製造するアイリスオーヤマならではの強みで、他社には難しいことだったのです。

 

現代では、模倣して追従しようとするライバルに対して、ニーズをサキドリし続けることが勝負を決めます。理由は2つあります。

1つ目の理由は、新規市場を開拓すると、先行者利益があるからです。たとえば「おそうじロボット」と言えば「ルンバ」、「半透明収納ボックス」と言えば「アイリスオーヤマ」というブランドが定着しています。先行メーカーだからこそ、ライバル不在の状況でブランドを確立でき、お客様に「〇〇〇〇と言えば、◎◎◎◎」と覚えてもらえるのです。追従するコピーメーカーは、確かに商品は真似できますが、市場でのブランド認知に関しては、後から頑張っても覆すのは容易ではありません。

2つ目の理由は、あらゆる変化が激速化しているからです。かつては技術進化も顧客の変化も今ほど激しくなかったので、模倣戦略は有効でした。真似することで先行メーカーに追いつくことは可能だったのです。しかし現代では、技術進化も顧客変化も格段に速くなっています。「時間」が「ヒト・モノ・カネ・情報」に次いで「第5の経営資源」とも言われる時代です。先行メーカーが常に新技術を磨き続けて、サキドリしたニーズに応える形で新商品を出し続ければ、先行し続けられるのです。

 

 

ですから、勝負の分かれ目 は、

・ニーズをサキドリし続けること。→つまり「顧客づくり」

・新しい技術開発を継続すること。→つまり「ものづくり」

この「顧客づくり」「ものづくり」の両輪を、常に継続して回し続けることが大切なのです。

せっかく技術を磨き続けても、「顧客づくり」を怠って「ものづくり」だけを考えていては、失敗を積み重ねるのです。

さらに、考えるだけで実行しなければ、時間を浪費し、先行しているメリットも失ってしまうのです。

 

2013年にリタ・マグレイスが書いた「競争優位の終焉」という本をご存じでしょうか?

本書では、次のように述べています。

・かつて多くの企業が「持続的な競争優位性」を目指していた。しかし現代で実現できている企業は、極めて少ない。

・競争が激しい現代においては、「持続的な競争優位性」という考え方は既に終焉している。

・今の時代に勝っている企業は、「一時的な競争優位性」を連続して獲得している企業である。

・だから、常に「一時的な競争優位性」を生み出せるように、会社の仕組みを変えていくことが必要だ。

 

短期間で「売れる商品」が模倣される競争が激しい現代の市場において、この「一時的な競争優位性」を生み出すポイントが、自社の技術的な強みを活かし、ニーズのサキドリをし続けることなのです。

 

そしてこの「一時的な競争優位性」を長く保つ1つのポイントが、当コラムで書いているとおり、

(1)「自社の強みは何か?」
 ↓
(2)「強みを必要とする顧客は存在するか?」(対象顧客の有無)
 ↓
(3)「その顧客は、何を必要としているか?」(顧客の課題)
 ↓
(4)「顧客が自社を選ぶために、どうすればよいか?」(解決策=商品・サービス)

これを首尾一貫して考え、「お客様が買う理由」を作り上げることなのです。

 

他社がなかなか真似できない自社の強みに基づいて「お客様が買う理由」を作り上げることで、「一時的な競争優位性」の寿命はより長くなるからです。

 

 

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「ヘッドピンの存在を信じる」マツダ スカイアクティブ成功の裏側

Ten Pin Bowling Pins And Ball

マツダは4年連続赤字やフォードの出資比率低下による信用低下などによる苦境を乗り越え、現在好調です。このマツダの好調に大きく貢献しているのがスカイアクティブ・テクノロジーです。

しかしマツダは業界トップのトヨタと比べると規模は1/10以下。エンジン周りの開発人員に至っては、フォードとの共同開発案件に駆り出されていたこともあって、数十分の一でした。そんな状況で、「燃費を30%以上改善しながら、走りの楽しさも実現する」という目標を立てて、スカイアクティブ・テクノロジーが開発されました。

 

マツダのスカイアクティブ・テクノロジーの挑戦については、「100円のコーラを1000円で売る方法2」や当ブログでも何回か紹介しました。

開発本部長としてこの開発を陣頭指揮された、マツダ・常務の人見 光夫さんが、著書を出されました。

「答えは必ずある---逆境をはね返したマツダの発想力」(人見 光夫著)

マツダの挑戦については、これまで主にマスコミの記事で報じられていましたが、人見さんご自身が何を語られるのかとても興味があり、拝読しました。

 

やはり現場で格闘されている人の言葉には重みがあります。

いくつかご紹介したいと思います。

—(以下、引用)—

もっとも、私たちの「選択と集中」は前述のとおり、多くの選択肢の中からどれかよさそうなものを選んでそこに集中するということではなく、さまざまな課題に共通している主要共通課題を賢く選択して、その部分の解決に集中するという意味である。 ボウリングのように、後ろのピンがすべて倒れるようにヘッドピンにうまく当てるのが理想だ。

(中略)

最も重要なことは、ヘッドピンの存在を信じることだ。 常に、そうした目でものごとを見るという習慣が何よりも大事だ。そうすれば、必ず見えてくる。一人ではダメでも、チーム力を駆使すればそれができる。

—(以上、引用)—

本書ではこの「ヘッドピン」という言葉がよく出てきます。

自動車開発に限らず、実に多くのケースでこの「ヘッドピン」というのは存在する、ということは、私も実感します。

ともすると私たちは、常識に囚われたりして、表面的な現象を問題の原因と考えがちです。しかし、様々な視点でその奥深くに潜む本当の原因は何かを徹底的に考えることが必要になります。

様々な現象の本当の原因を徹底的に考え、シンプルな原因に辿り着くことで、ヘッドピンが見えてくるのです。

逆に言えば、対策が10個もある状態では、まだまだ思考が不足している証でもあるのです

 

競争について語っている箇所もあります。

—(以下、引用)—

自動車業界を見渡せば、現在でもそうした後追いはある。なぜ後追いをするのか。不安だからだ。不安になるから真似をする。

—(以上、引用)—

「不安だから真似をする」というのは、まさにその通りだと思います。

日本企業に限らず、世界を見渡しても、成功している他社の模倣をする企業はとても多くあります。

しかし成功企業の真似をしようとしても、100%真似をするのは不可能です。成功企業は独自の強みを持っているからです。だからコピーしたつもりでも「劣化版コピー」にしかならず、「安価な代替品」になってしまうことも少なくありません。

我々は、「模倣は、実はリスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

 

仕事のあり方についても、語っている箇所があります。

—(以下、引用)—

だから、私はできるだけものごとをシンプルに考えて、仕事は減らさないといけないと言っている。もちろん、ラクをするためではない。無駄をなくし、より重要で、全体最適に貢献する仕事をするためだ。 そこを解決すれば、品質もよくなるし、性能もアップする。そしてコストも安く済む。そうした課題を見つけるという発想で課題を探し、ソリューションを考える。それがつまり、仕事を減らすということの意味だ。

—(以上、引用)—

「品質と性能をアップし、コストを削減し、仕事を減らす」

相矛盾するように聞こえますが、実はシンプルな理想形を徹底追求すると、不可能なことではありません。

無駄を排除すること、言い換えれば、不要な様々なモノを切り捨てればよいのです。

それは仕事だったり、製品だったり、あるいはお客様だったりします。

しかし私たちは、この「不要な様々なモノを切り捨てる」ことがなかなかできません。企業は組織ですから、当然ながら利害関係者の反対もあります。

そのためには、価値観と、全体最適の姿を徹底的に共有するチームワークが大切になってきます。

 

スーパーマンのように見える人見さんですが、先行開発部での仕事が長く、ご自身のキャリアの中で、実際の商品開発には関わってこられなかったため、このように語っておられる箇所もあります。

—(以下、引用)—

すでにそれなりの年齢になっていたのに、特に満足感や達成感が得られないまま過ごしているという焦燥感も強かった。自分の仕事がなかなか商品化されない。たとえ商品化されたとしても、技術者としてどれだけのことをしたのかと問われた時に説明ができない。山のようにある技術のうちの数種類に携わったというだけのことでしかないという虚しさだ。

(中略)

考え方、技術のとらえ方を変えないと、「何もできないまま、サラリーマン人生終わりだな」と日に日に強く感じるようになっていた。

—(以上、引用)—

会社に務められて、同じような気持ちを抱えながら仕事をしている方は多いのではないかと思います。

 

等身大で語られる本書から、私たちが学べることは多いと思います。

責任感と法令遵守精神が強すぎるから、日本企業は斬新なビジネスを立ち上げられない、という意見

businessman looking through keyhole

海外のベンチャー企業は様々な革新的なビジネスを立ち上げる一方で、日本からはなかなか斬新なアイデアが出てこない、と言われています。

 

たとえば、ハイヤーの配車サービスを提供するUberというサービスがあります。スマホで配車依頼をすると、個人でサービスを提供しているドライバーと引き合わせ、決裁も安全に行えます。

欧米ではUberのように斬新なサービスに挑戦する会社は少なくありませんが、日本では「そうはいっても、タクシーやハイヤーのサービスがあるし、法律的に色々と面倒なので、やめておこう」と思いがちです。

日本でこのような発想が出ない一つの要因として、「リスクにチャレンジしないから」という意見があります。

しかしそのような性格的な面だけでは、今ひとつ腹オチしませんよね。

 

先日読了した、「競争戦略としてのグローバルルール」(藤井敏彦著、東洋経済新報社)で、そのことがわかりやすく書かれていました。著者の藤井さんは、経済産業省の現役政府交渉官として世界的なルール策定に数多く関わってきた方です。

本書で「なるほど」と思ったのは、日本人は「法は守るもの」と考える傾向が極めて強いのに対して、欧州では「法は目標」と考える、という点。だから海外企業は「法はいくらでも変えられる」と考えて自由な発想でイノベーションを生み出しているのです。

 

たとえば本書では、著者と欧州議会議員が、実現が困難な環境規制について議論したエピソードが書かれています。

著者「…実際に遵守できないことがわかりながら規制するのは適切なこととは思えません」
議員「法は目標なのです。法のめざす方向に社会が動いていけばそれでよいのです」

 

また、非現実的な規制が設定されたエピソードが紹介されています。日本企業であれば「この規制は達成不可能だ。ヨーロッパ市場から撤退をするしかない」と悩むところですが、著者が欧米企業とどのように対処するか議論したところ、最終的な結論は「放っておこう。どうせ誰もこの義務は果たせない」。

本書では、このように書かれています。

—(以下、p.107より引用)—

国際ルールづくりの現場には日本人であればとうていできないような考え方が渦巻いているのだ。日本的に言えば単なる無責任であり、彼らに言わせれば未来志向である。

—(以上、引用)—

また元サッカー日本代表チームのオシム監督が、日本選手がゴールを積極的にねらえない理由として「責任感が強すぎるから」と述べたエピソードも紹介されています。裏を返せば「失敗を叱責しすぎる」ということです。

法令違反をした場合、日本だと「誰がやったのか?」という責任追及になりがちですが、欧米企業では「罰金はいくらだ?」になります。法令遵守のコストより安ければ罰金を払って済ませます。もちろんこの背景には、社会的バッシングが日本よりも少ないこともあります。

 

本書を読んで、過度な責任感の強さや法令遵守精神が日本企業の停滞を生み出しているとすれば、企業側が積極的に働きかけてその責任を企業側で負い、もっと社員に失敗前提でチャレンジすることを奨励すべきなのではないか、と改めて思いました。

また、規制緩和が成長戦略のために政府ができる最大の貢献であることも実感しました。

現状打破の意外なポイントは、まだまだありそうです。

Google/Appleは自動車業界を制覇するのか?

TechCrunchで、「自動車業界は1985年のIBMと同じ道を辿ろうとしている」という記事が掲載されています。

1985年当時のIBMは、コンピュータ業界で最強とも言える巨人でした。絶好調のパソコン事業では、OSはMicrosoft、CPUはIntelをパートナーとして組んでいました。しかしその後、Wintel連合が業界を牛耳ることになりました。

当記事の主張は、現在、自動車業界がダッシュボードをGoogleとAppleに明け渡そうとしているのは同じことである、という点です。

 

当時、私は新入社員としてIBMにいました。業界の中でリアルタイムにこの怖さを肌身で感じた世代です。

新規事業立ち上げの際に、自社に足りない部分を他社に頼る判断はよく行われます。「新技術でよくわからない分野はベンチャーや専門家に任せて、自分たちは現時点で大金を生み出すキャッシュカウに集中しよう」という考え方ですね。

そして任せた部分がいつの間にか業界標準プラットホームになり、各社がこのプラットホームに準拠しなければならなくなり、将来莫大なキャッシュフローを生み出すプラットフォームを明け渡してしまうのです。

 

今、自動車業界で起こっている変革は、人工知能、センサー機能、膨大な数のセンサーから生み出される巨大なビッグデータへの対応、自動運転、ロボット技術、など、かなり膨大なテクノロジーの集合体です。30年前にIT業界で起こっていたCPUやOSといったものと比較するとかなり大がかりな資本と人材を必要とします。

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現在アナログな自動車業界がデジタル化した時点を見据えて、Googleは莫大な資金と人材をこの分野に投入しています。

 

また現代では、企業や組織の壁を越えて、様々な技術を持ち寄って、イノベーションを推進していく「オープンイノベーション」も主流になりつつあります。

30年前と同様、少数企業がプラットホームを独占し業界を牛耳るのか?

それとも自動車業界や電機業界などのメーカー主導でいくつかの業界標準が生まれ、群雄割拠の状況になるのか?

大きな分かれ目でもあると思います。

 

IoT (Internet of Things)の時代になり、同じことは急速に様々な業界で起こりつつあるように感じています。

ルンバ大成功の裏にあった、14の新規事業失敗の意味。日本の電機メーカーは「ルンバという製品」でなく、「アイロボット社の考え方」を学ぶべき

iRobotロゴ

おそうじロボット「ルンバ」は、現在、アイロボット社の主力商品です。

この結果だけを見ると、

「なるほど。ロボット技術を活かして、自働おそうじロボットか。アイロボット社も、いいところに目を付けた。ラッキーだな」

と思いがちですよね。

 

しかし実際には、アイロボット社は偶然「おそうじロボット」を作ったのではありません。

2014年には全世界で売上5.57億ドル (約668億円) / 利益0.38億ドル (46億円)を稼ぎ出すアイロボット社は、自社の強みであるロボット技術を「儲かるビジネス」になかなか繋げられずに、苦しんだ時期があるのです。

2015年3月4日付のITmedia Life Styleの記事『困難に直面しても「楽しかった」――「ルンバ」登場までの軌跡』では、2014年に明治大学で講演したコリン・アングルCEOが儲からなかった時期について語っている様子を紹介しています。

この記事に掲載されたチャートによると、アイロボット社は下記14件の新規事業を計画しては止めることを繰り返していました。

Failed Business Models over time

1. Sell Movie Rights to and then perform to a Robotic mission to the moon
2. Sell Research Robots to Universities and Hobbyists
3. Earn Royalties on Robotic Toys
4. Develop and license technology for nano-robots to clean plaques from blood vessels
5. Sell Robots to the oil industry to stimulate production in wells
6. Sell Nuclear Power Plant Inspection Robots
7. Sell Educational Robots to Museums
8. License Technology for Industrial Floor Cleaning robots
9. Develop and Sell Smart Home solutions to supermarkets
10. Create and sell “Robot Wars” style location based entertainments experiences
11. Sell Landmine clearance robots
12. Develop and License a Robot Operating system
13. Sell Robots you can control over the internet to data centers
14. Develop and sell planetary rovers to the Ballistic Missiles

上記を日本語に訳してみました。

過去失敗したビジネスモデル

1. 映画化権利を反した上で、月面へのロボットミッションを遂行する
2. 研究段階のロボットを大学や愛好家に売る
3. おもちゃのロボットのロイヤルティで稼ぐ
4. 血管で血小板をきれいにする極小ロボットを開発し技術をライセンス供与する
5. 油田の生産工場のために石油業界にロボットを売る
6. 原子力発電所の検査用ロボットを売る
7. 博物館に教育ロボットを売る
8. 工場のフロアを掃除するロボットの技術をライセンス供与する
9. スーパーマーケットへスマートホーム·ソリューションを開発し販売する
10. 「ロボット戦争」スタイルの位置情報付きエンターテイメント体験を売る
11. 地雷除去ロボットを売る
12. ロボット用のオペレーティングシステムを開発しライセンスする
13. インターネット経由でデータセンターを管理できるロボットを売る
14. 惑星探査機を開発して売る

1/2/4/7/10/13/14などは、「こんなプロジェクトまで考えていたのか!」と驚きますね。

一方で、6の技術は福島第一原発に提供されましたし、11.の地雷除去ロボットもいいところまでいっています。

 

改めて思ったのは、アイロボット社がおそうじロボット「ルンバ」を成功させたのは、単なる幸運ではなかったということ。

ルンバ成功の過程で生み出されたのが、この14の新規事業の失敗。しかし実際には失敗とも言い切れず、継続してビジネスに繋がりかけているプロジェクトもあります。

アイロボットは自社の技術的な強みを活かして、いかに顧客を絞り込んで、その顧客の課題を解決することで、ビジネスに繋げるか、アイロボット社は考え抜いてきたのです。

つまり「ものづくり思考」ではなく、「マーケティング思考」なのです。

 

日本の電機業界も、「ルンバという製品」を学ぶのではなく、「アイロボット社の考え方」を学ぶべきではないでしょうか?

 

成功体験の賞味期限が短くなっている。だから成功体験の否定力が重要

GEが、2003年には全社営業利益の56%を占めた金融事業の比率を、2016年に25%まで下げる方針を打ち出しています。金融事業からの事実上の撤退です。

その背景には、金融ビジネスの収益悪化と、GEの本業である製造業における「インダストリアル・インターネット」への自信があります。

 

かつて総合スーパー業界の優等生であったイトーヨーカ堂も苦しんでいます。セブン&アイの鈴木会長も、日経ビジネス2015/4/27-5/4合併号で、このように語っています。

「伊藤雅俊・名誉会長から受けた教育が伝統になってしまっている」

そして、伊藤会長以来の成功モデルであり聖域となっていたチェーンストアという考え方を否定しようとしています。

 

日本のIT業界では、この7-8年、クラウドによる既存ITビジネスモデルの破壊が喧伝されています。

しかし一方で、ITサービスや製品を提供側の企業とお話ししていると、かつて成功体験であったSI受注型モデルの発想からなかなか脱却できない企業も多いように感じています。

 

成功体験には賞味期限があります。いつの間にか食べられない状態になっています。

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そして変化が激しくなっている現代、賞味期限はますます短くなっています。

かつて栄華を誇っていた恐竜が徐々に数を減らして大絶滅したように、成功体験に溺れた企業も新しい成功体験を得た企業に淘汰されます。

 

かつての成功体験を、いかに否定するか?

GEやセブン&アイのような巨大企業では、成功体験は全社の津々浦々まで染み渡っています。業界レベルでも同様です。

そして人の行動を変えるのは、一朝一夕には進みません。それは成功体験が各自の頭の中に存在しているからです。成功体験は、忘れることはできないのです。

仮にトップが「このように変われ」と言っても、そして頭ではわかっていても、成功体験が染みついているために、日々の行動を急激に変えるのはなかなか難しいのです。

だからこそ企業変革にあたっては、トップが明確に目指すべき方向性をメッセージとして出し続けると共に、経営戦略やマーケティング戦略だけに留まらず、業務変革戦略・人事戦略・人材育成戦略・オペレーション戦略などとシームレスに連携しながら、新しい成功体験を作っていく方向に持っていくことが必要であると、ますます感じています。

中原淳著『研修開発入門』…網羅的で実践的な企業研修のガイド

中原淳著『研修開発入門 会社で「教える」、競走優位を「つくる」』(ダイヤモンド社)を読了しました。

本書は、企業での研修を企画・実施する方法論を、とても網羅的・実践的に書いています。

自分の人材開発マネージャーの経験と照らし合わせて知識の棚卸しができましたし、現在の自分に足りない部分も色々と見つかり、とても勉強になりました。

人材開発に携わる方は、是非ご一読をお勧めします。

 

もう一つ、本書のあとがきで「なるほど!」と深く腹オチした言葉がありました。

著者の中原先生が、知財専門の法律事務所の先生から聞いた言葉が紹介されている箇所です。

—(以下、引用)—

「方法・手法に、法律は、著作権を認めませんでした。中原さん、それはなぜかおわかりですか? それは、私たちの文化を発展させるために、それらは自由に流通させた方が、社会全体のためになると法律が考えているためです。そのことで、『不利益を生じる個人』が、もしかすると生まれるかもしれません。でも、社会全体の功利を考えれば、方法、手法は流通した方がよいのです。方法・手法は流通することを待っているのです。」

—(以上、引用)—

 

ともすると、「研修や講演でビジネスしよう」と考えると、自分のノウハウを出し惜しみしがちです。

しかし実際には、そのノウハウを広く世の中に情報発信して拡げることで、よりよい世の中を創ることができます。

 

改めて、情報発信の継続が必要だと認識しました。

 

ドンキもドワンゴも、強みの源泉は、その強みを明確に説明できないこと

ドンキ

ドン・キホーテ(以下、ドンキ)の店内に入って、その密林のような商品展示に驚かれた方も多いと思います。

ドンキは2015年6月期で26期連続の増収増益、年商6000億円超が見込まれ、絶好調です。

ドンキの強みの秘密は何なのでしょうか?

 

週刊東洋経済2015年3月21号に、今年6月にCEO職を現社長に譲り引退することを発表した創業者・安田隆夫会長のインタビュー『ドン・キホーテ 安田隆夫 激白 わが「勇退」』が掲載されています。

ドンキの強みの一端を理解する上で、参考になりました。

—(以下、引用)—

SPA(製造小売業)と違い商品に独自性があるわけではない。単なる編集と演出をしているだけです。そうして成功している。にもかかわらず、新規参入がない。…この理由を、多くの経済学者を含めて誰も解き明かせないでいる。

最初は皆「あの会社、何なんだろう。ある種、ゲテモンなんやな」と思っていた。しかしそのゲテモンが年間6000億円も売り上げていると話が違ってくる。しかも、北海道から沖縄まで満遍なく繁盛し、都心の一等地でも、ほとんど人が住んでいないような地域でも繁盛している。その理由を考えて、最終的には 消化不良に陥って「もういいや、あの会社のことは」となる。そこがドンキの強さだ

—(以上、引用)—

 

安田会長は「強みがよくわからないことが、ドンキの強さだ」とおっしゃっています。

奇しくもKADOKAWA・DWANGO会長の川上量生さんも、ドワンゴ会長当時に執筆された著書「ルールを変える思考法」でこのようにおっしゃっています。

川上会長

—(以下、引用)—

独自性を保つ上では、明快で他社が追随しやすい差別化を行うよりも、何が差別化なのか、ちょっと考えただけでは理解できないものであり続けることが大切だというのが僕の考えです。  そのためには、自分自身が理解できることであってもダメなんじゃないかと実は思っています。なぜなら、自分が理解できるものは、他人も理解できる可能性が高いからです。自分でもわからないものであれば、他人もわかりようがありません。

…理解できそうで理解できないぎりぎりの境界線上に答えがあるというのが僕の結論です。

—(以上、引用)—

 

一方で安田会長は、もう少し踏み込んだ質疑応答をされています。

—(以下、引用)—

—-安田会長はその理由を知っている。編集、演出のほかに何があるのですか。

それがまさに権限委譲であり、一 人ひとりが商店主である。あるいは商品のファンドマネジャーといってもいい。ドン・キホーテはファンドマネジャーの集大成という、過去にはない流通業態のあり方なんです。

ただし、権限委譲はよほどうまくやらないかぎり、組織崩壊します。

一時期、業界問わず、どこもかしこも権限委譲がはやった。「個店対応」というキーワードで。個店対応はすごくいい。いいんだが、本当に個店対応するには、個店に主権がないといけない。そうでないかぎり、 個店修正ぐらいにしかならない。  一方で権限委譲ばかりやるとばらばらになって、スケールメリットが まったく発生しない。組織のていをなさなくなり、単なる烏合の衆になりかねない。 組織か現場か、ではなく、双方を「アンド」の精神で生かしていく。 「オア」ではなくて。その手法を長年かけて作ってきた。

—(以上、引用)—

 

ここから読み取れるのは、品物・立地・店舗といった目に見える業態よりも、店舗従業員との関わり方といった目に見えないところに強みの源泉がある、ということです。…ただ一方で、まだ十分に明確ではなく「モヤモヤ」っとしますね。

 

ジェイ・B・バーニーというマーケティング学者は、企業の競争優位性の源泉となる資源を分析するために「VRIO」というフレームワークを提唱しています。

Value: 顧客にとって価値がある
Rarity: 希少性がある
Inimitability: 模倣しにくい
Organization: 組織的な取り組みがある

インタビューからわかることは、ドンキもドワンゴも、このVRIOをちゃんと持っており、かつ、お二人の経営者ともそれについては確信を持っておられるようです。

 

グローバル化社会と言われてから、多くの日本企業は単純明快な戦略を徹底して攻めてくるグローバル企業に押されている面がありました。

その単純明快さは、「ローコンテキスト文化」(文化的背景が違うので、言語化しないと通じない文化)に根ざしたものです。

一方の日本企業は、「ハイコンテキスト文化」(文化的背景を共有するので、あうんの呼吸で通じる文化)なので、なかなか単純明快な戦略を徹底できない面がありました。

しかし安田さんや川上さんのお話しからは、このハイコンテキスト文化を逆手に取って、強みを活かしていることが読み取れます。

 

 

外部から分析しようとしても、ドンキもドワンゴも、強みを見極められない。
しかし実は、真似できない確かな強みを持っている。
そして実は強みを明確に言語化できず(あるいは行わず)、モヤモヤするところに本当の強みがある。

 

そのように思いました。

 

このように考えると、「強みを明確に説明できないドンキだからこそ、ドンキが永続するためには、自分が元気なうちに後進に経営を譲り、後進が独り立ちできるように支援する必要がある」という安田会長ならではの問題意識を読み取ることもできます。

「ファミマ、ユニー統合」…企業統合で生まれる顧客価値向上が、統合ロスタイムによる損失を上回るか?

企業買収や合併が増えてきました。

規模の追求を狙い、二社合併を発表するケースもあります。

企業買収や企業統合はどのように考えればよいのでしょうか?

 

そのことを考える上で、週刊東洋経済 2015/3/21号に掲載された「ファミマ、ユニー統合で始まる コンビニ大淘汰」という特集は、買収や合併による効果、イノベーションの追求などを考える上で、とても示唆に富む内容でした。

本記事に2001年のサークルKとサンクスの合併について考察している箇所がありますので、引用します。

—(以下、引用)—

もっとも、今まで違う歴史をたどってきた企業が一緒になったうえで、重複する部分を合理化し、かつ相乗効果を生み出すことは容易でない。くしくもサークルKサンクスの 現実がそれを物語っている。

……並んでいる商品やサービスは一緒なのだが、消費者からは違う店に見えるという、何とも不思議な状態だ

サークルKサンクスはその理由を「それぞれのブランドに顧客が付いている」などと説明してきた。こうした姿勢に業を煮やし、ライバル社 に移ったエリアFC(フランチャイ ズ)会社幹部は「商品や販促、オーナーへの支援、いずれも劣る。どういうコンビニを目指すか見えてこなかった」と憤る。

—(以上、引用)—

 

確かに海外や異分野などの新市場に進出するために買収・企業統合を行い、成功しているケースは多くあります。

 

一方で競合が激しい同一市場内で規模の追求を狙って買収・合併しても、その効果が不十分な事例は、世の中に少なくありません。

この章の「負け組同士、統合の正否」という辛口タイトルに象徴されるように、企業文化が異なる2社を融合しようとしても、それぞれの「組織の論理」が邪魔をしてしまいがちです。

その結果、本来はイノベーションに裂くべき企業の体力が、企業統合というイノベーションを生み出さない作業に費やされます。

そしてその間にライバルのトップランナーは、新しい分野で着々と仮説検証を繰り返し、イノベーションを進めています。

 

ちょうど、チームによる競走レースをイメージするとわかりやすいかも知れません。

Robert Gesink Climbing Alpe D'Huez

先頭チーム(セブン)は、順調に走っています。

追いかける後続チーム(ファミマとユニー)はなかなか追いつけません。そこで複数の後続チーム同士で一体化することで体力増強を図り、キャッチアップを目指します。

一体化するためには、立ち止まって服を着替えたり靴を履き替えたりマシンの調整をしたりする必要があります。

しかしこの時間は完全にロスタイム。その間に先頭チームはどんどん先に進み、タイムは開くばかりです。

ロスタイムを挽回するためには、統合した後に先頭チームを上回る速度で追いかける必要があります。

もし統合後に速度が遅くなると、さらに差が開くばかりです。

 

このように考えると、施策も見えてきます。

 

まず統合のロスタイムを考慮しても、一体化することによる統合化メリットを、数字で把握すること。

両社合計の売上高や店舗数だけで評価すると、どんな統合でも数字は増えます。これだけで判断すると、あらゆる統合ケースで「統合=正しい」になりますよね。統合による価値の本質を見失いがちです。

たとえばこのケースでは、店舗当たりの1日の売上(ファミマ52万円、ユニー43万円)が、統合することで向上し、セブン(66万円)にキャッチアップできるかどうかというのも、一つの指標になり得ます。

統合化メリットが生まれるシナリオが作れるのであれば、一体化するメリットが出てきます。

 

もう一つは、そのシナリオを確定した上で、早期にそのシナリオを実現するために、統合化のロスタイム最小化を図ること。

統合化自体は、顧客に対して新たな価値を生み出す作業ではありません。たとえば統合するとユニーでもファミマの新商品を売ることができます。しかし顧客からすると、統合しなくてもファミマに行けば商品は買えるわけで、顧客にとって大きな価値があるとは言えません。

競走で着替える時間はカウントされるのに距離はまったく進まないのと同じことです。

だからこそ、企業統合はできるだけスムーズに速く進めることが必要です。

合併は結婚のようなもの。結婚同様に、事前にお互いに一つ屋根の下で一緒に暮らしていけるのか、相性を見極めることが大切です。

また、放っておいて現場で自然に二つの会社が融和することもありません。

さらに2社間でどちらの会社に寄せて統合するのか、あるいは藤森さんが率いるリクシルのように全て壊して一から作り直すのか、リーダーシップを明確にすることも大切です。

 

統合化のメリットが、統合化のロスタイムによる損失を上回るのであれば、統合は意味があるものになります。

 

ファミマはかつてam/pmを統合した経験もあります。

ファミマとユニーの統合が成功し、コンビニ業界が活性化して、消費者の利便性がさらに向上するようなイノベーションが生み出されるように願っています。

 

エレクトラックスが価格競争に陥らない理由

「黒船家電の掃除機」というと、ダイソンとアイロボットが有名です。それぞれ「吸引力」や「自働ロボット」といった尖った機能を売りにしています。

実は他にも、国内掃除機市場で伸びている黒船家電があります。北欧のエレクトラックスです。

この会社の売りは、「音が静かなこと」。

「掃除機は音がうるさい」という常識を覆し、赤ちゃんが寝ていたり、家族がテレビを見ていても、安心して掃除機をかけることができます。

 

日経ビジネス2015年3月9日号『企業研究:エレクトロラックス 「音」で打倒ダイソン』という記事で、詳しく紹介されています。

—(以下、引用)—

確かに、「音」は、日本の掃除機市場を牽引する外資2大勢力、ダイソン及びルンバシリーズの数少ない弱点の一つだ。サイクロン方式と強力なモーターでゴミを吸引するダイソン製掃除機は、その構造上、静粛性を追求するには限界がある。ルンバも在宅の際に利用すると、稼働音は人によっては気になるレベルに達しかねない。

 一方、エルゴスリーの運転音は約43デシベル。一般的な掃除機(約70デシベル)の6割程度で、例えると図書館や深夜の市街地レベルしかないという。この静粛性へのこだわりこそが、エルゴスリーが日本で評価を高めている原動力となっている。……

—(以上、引用)—

補足すると、実際には10デシベル違うと大きさは1/10になります。つまり43デシベルのエルゴスリーは、70デシベルの一般的な掃除機よりも、音量が数百分の一。

圧倒的な静音ですね。

 

成熟市場のように思われがちな白物家電ですが、エレクトロラックスはどのように考えてこのような製品を出しているのでしょうか?

記事ではその点についても言及しています。

—(以下、引用)—

 ……なぜエレクトロラックスは家電事業を拡大させようとするのか。その背景には、「白物家電には膨大な改良余地が残されており、そこをクリアすれば需要は掘り起こせる」という独自の発想がある。

 ……ある1つの信念で結び付いている。「現状の家電はまだまだ使う人に心地よくない部分が残っている」だ。

 同社の開発部隊は、掃除機の運転音に限らず、「現状の家電が持つ人に優しくない部分」を根絶するため、日々、異常とも言える実験を続けている。

—(以上、引用)—

 

記事では、経営幹部の言葉を紹介しています。

—(以下、引用)—

掃除機などのデザインを担当するペルニラ・ヨハンソンVPは説明する。

 仮に白物家電市場が成熟しつつあっても、“使って心地よい家電”を追求していくことには広大なフロンティアが残されていると考える。「これからも音や重さ、デザインなどに限らず、ユーザー自身さえ気が付いていない不快の源やニーズを探っていく」。

—(以上、引用)—

 

まさに消費者自身も「当たり前」と思っていて気がつかない困っている課題を先取りし、解決することで伸びているのですね。

しかし改めて、なぜ白物家電なのか?

そこにはしたたかな戦略があります。

—(以下、引用)—

実はそこには、「使う人にとって心地よい白物家電はまだ改良の余地がある」という思想に加え、もう一つ、重要な理由がある。「白物家電市場はデジタル家電に比べ安定している」(マクローリンCEO)がそれだ。

 冷蔵庫や洗濯機、掃除機、調理家電は、「清潔に生活したい」「おいしいものが食べたい」など人間の根源的欲求を満たす製品で、市場が消えることはない。買い替え需要が発生するし、新たな付加価値を打ち出し顧客に認められれば、高くても買ってくれる顧客がいる。

……着実に成長を遂げることができたのは、「主戦場は白物家電」「作るのは人に優しい家電」という2つの絶対軸をかたくななまでに貫き続けた結果だ。

—(以上、引用)—

 

顧客が気がつかないニーズを掘り起こし、応え続ければ、差別化を続けることができ、価格競争に陥らない、ということですね。

 

あらためて、「顧客が気がつかないニーズを掘り起こし続け、自社の強みを活かして、応えること」が、差別化の源泉になるということがわかります。

これは家電業界に限らず、ほとんどの業界で共通なことだと思います。

「安かろう、悪かろうのLCCは時代遅れ」

「格安航空会社」とも言われるLCCは、1970年代に米国で生まれました。1967年に設立され1971年に就航したサウスウェスト航空はその代表格。それから40年以上経過し、今、数多くのLCCが生まれています。

そしてともすると、「LCCは価格勝負に陥っている」とも言われます。

実際のところ、どうなのでしょうか?

 

週刊東洋経済 2015/3/21号の記事「この人に聞く ピーチ・アビエーションCEO 井上慎一 安かろう、悪かろうのLCCは時代遅れだ」で、井上CEOが次のようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—-

LCCの事業モデルを日本流にカスタマイズした。原則としてLCCは払い戻しに応じないが、それでじゃお客様に対して愛がない。そこでチケット代金の10%分を支払えば、一定の条件下で全額を補償する保険をつけた。また、LCCは払い戻しには機内エンターテイメントがない。そこでお客様のスマートフォンなどに、事前に映画や音楽をダウンロードし、機内で楽しめるようにした。

—(以上、引用)—-

 

「なるほど」と思いました。

前者は、払い戻しに応じつつ、ちゃんと収益が出るモデルにしています。

後者は、搭乗客のスマホを画面として使うことで、テレビを各席に装備するコスト増を避けながら、実質的なサービス強化を図っています。

知恵を出して、価値を生み出しておられます。

 

では、なぜこのようなチャレンジが必要なのでしょうか?

井上CEOはこの問いについても答えておられます。

—(以上、引用)—-

……われわれも機材繰りなど基本的なプラットフォームは従来のLCCモデルを踏襲している。それに加えて何か「おもしろいこと」が必要だ。お客様の期待が世界的に変わりつつある。

—(以上、引用)—-

 

お客様の期待は、常に変わっています。

それはLCCに限らず、全てのビジネスでも同様です。

だからこそ現状に留まらず、常に頭に汗をかき、自社の強みを意識しつつお客様から学び続け、価値向上を図っていくことが大切なのだと思います。

新事業にこそ、活路がある:自社の強みと足りないスキルを見極め、新常識を既存市場に持ち込み、差別化を図る

昨日のブログ「業種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」」の続きです。

 

日経ビジネス2015年3月2日号の特集「業態転換 常識のウソ・ホント 中小でも富士フイルムになれる」の掲載事例に共通するのは、自社のコア技術(強み)と、新事業で足りないスキルの見極めです。

それぞれの事例をまとめてみました。

■ブランチ
コア技術:建設業で培った店舗の施工・設計
従来製品:建設業
新製品:カフェ・コーヒー豆の輸入販売
足りなかったスキル:カフェ運営スキル
差別化ポイント:カフェ開業したいオーナーに、元建設業の経験を生かし、設計図面の段階から最適な設備を提案可能

■太田組
コア技術:建設業時代の道具。機械の扱い
従来製品:建設業
新製品:農業+自社栽培のタマネギ/ショウガ/ニンニクを原料とした焼肉のタレの製造・販売
足りなかったスキル:農産品の販売
差別化ポイント:自家製のたれのレシピ再現のため、機械扱い技術を活かし、専用の調理設備を導入。

■エアウィーブ
コア技術:ブラスティックス成形加工技術
従来製品:プラスティックス射出成形機
新製品:寝具
差別化ポイント:寝ている人の疲れを軽減できる

■ディージータカノ
コア技術:高い加工精度と設計力
従来製品:業務用ガスレンジの火力調節つまみ
新製品:省エネ機能付き水道部品
足りなかった技術:水関連技術。そこでエキスパートを結集
差別化ポイント:水の勢いを変えないまま水量を10分の1に節水

■幸和産業
コア技術:シルバーカーや車椅子で培った軽量化、安定化、タイヤの形状工夫スキル
従来製品:乳母車/シルバーカー
新製品:高齢者向け歩行器(介護補助対象商品)
足りなかった技術:販路。介護補助対象商品はGMSやスーパーでは販売していない
差別化ポイント:「重い」「不安定」「タイヤが溝にはまる」という3つの不満解消

■オオアサ電子
コア技術:液晶加工技術
従来製品:液晶表示装置加工
新製品:ハイレゾスピーカーやスマホ保護カバーガラス、タッチパネル式看板
足りなかったスキル:営業(ずっと下請けで来たため)
差別化ポイント:部屋のどこでも同じ音質で音楽を楽しめる全方位型スピーカー。ハンマーでも割れないiPhone保護ガラス。大手電機メーカーも販売

 

これらの事例は、市場参入前こそ門外漢ですが、門外漢だからこそ市場の常識に囚われずに新らたなスキル(自社の強み)を市場に持ち込み、学びながら足りないスキルを身につけて、新しい常識を生み出し、その結果差別化を実現しています。

新市場にこそ、活路がある

自社に当てはめて考えると、学びがあるのではないかと思います。

 

改めて感じるのは、様々な状況で新事業への転換を図っているということ。

オオアサ電子長田社長が「事業転換なんてきれいなもんじゃない。ドラマなら面白いかもしれないが、これほど苦しいことはなかった」とおっしゃっている言葉には、当事者しかわからない重みがあります。

業種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」

日経ビジネス2015年3月2日号で、「業態転換 常識のウソ・ホント 中小でも富士フイルムになれる」という特集があります。

ここで富士フイルムの名前が出ているのは、言うまでもなく、フィルム市場が消滅しつつある中、液晶や医療など非写真事業を強化して企業を変革し生き残りに成功したからです。

市場の変化が激しい中、富士フイルムが直面した危機が、多くの市場で起こっています。

この記事では、実際に業態転換をした中小企業を例に挙げて、次のように検証しています。

(ウソ1) 業態転換は最後の手段 → (真実1)業態転換は好調時にこそ決断する

(ウソ2) まずは周辺分野を狙え → (真実2)「飛び地」に出るから、知恵が生まれる

(ウソ3)宝は成長分野にある → (真実3)成熟分野にこそ宝は眠る

 

私は拝読して、これら企業に共通するのは「企業の強み」を徹底的に見極めて活かし、足りないスキルを補強している点ではないか、と感じました。

取り上げられている企業をすべて見てみたいと思います。

 

■ブランチ(愛媛県西条市)

業態転換:建設業→カフェ・コーヒー豆の輸入販売

きっかけ:公共事業の急減

活きるスキル:建設業で培った店舗の施工・設計

欠けているスキル:カフェ運営スキル

—(以下、引用)—

 「飛び地だからといって、既存の技術が応用できないとは限らない。むしろ飛び地に活路を求めたからこそ、既成概念にとらわれず事業に取り組めたと思う」と越智社長は振り返る。

—(以上、引用)—

 

■太田組(大阪府松原市)

業態転換:建設業→農業

きっかけ:公共事業の急減

活きるスキル:建設業時代の道具。機械の扱い

欠けているスキル:販売スキル

—(以下、引用)—

 偶然にも太田社長の祖母がたれ作りの名人で、近所の焼肉店に自家製のたれを卸すほどの腕前だったため、そのレシピを再現。思い切って専用の調理設備も導入した。建設と調理と分野は大きく違うが、機械の扱いなら多くの社員が手慣れたもの。こうして2013年、「大阪河内 万能焼肉のたれ」が誕生した。

—(以上、引用)—

 

■ディージータカノ(大阪府東大阪市)

業態転換:業務用ガスレンジの火力調節つまみ→省エネ機能付き水道部品

きっかけ:2005年頃から中国や韓国から低価格部品が流入

活きるスキル:高い加工精度と設計力

—(以下、引用)—

 2009年に発売した「バブル90」は蛇口に搭載するだけで、水の勢いを変えないまま水量を10分の1にできる。その省エネ性能の高さに消費不況に悩む多くの飲食業者が飛びついた。「あるラーメン店では年間120万円かかっていた水道代が66万円になった」(高野社長)。そんな口コミが2014年に一気に全国の飲食業者の間で広がり、累計販売個数が5万個を突破。2014年度の会社全体の売上高は2013年度の20倍に当たる2億円に到達した。

  「他の水道部品と異なり、バブル90の製造には高い加工精度と設計力が必要。海外勢には真似できない」と高野社長は説明する。

—(以上、引用)—

 

■エアウィーブ(東京都中央区)

業態転換:プラスティックス射出成形機メーカー→寝具業界

きっかけ:射出成形機は海外勢に押されて経営が悪化

活きるスキル:ブラスティックス成形加工技術

—(以下、引用)—

 こうして2007年に発売されたのが、“寝ている人の疲れを軽減できる寝具”エアウィーヴだ。同社はその後、敷布団だけでなく、枕など関連商品も開発。2007年は4000万円だったエアウィーヴの売り上げは2014年度には120億円を見込む。国際線のファーストクラスや高級ホテルにも採用されるなど、販路は今も急速に広がっている。

—(以上、引用)—

 

■幸和産業(大阪府堺市)

業態転換:乳母車→シルバーカー→高齢者向け歩行器(介護補助対象商品)

きっかけ:少子高齢化

活きるスキル:シルバーカーや車椅子で培った軽量化、安定化、タイヤの形状工夫スキル

欠けているスキル:販路。介護補助対象商品はGMSやスーパーでは販売していない

—(以下、引用)—

 歩行器事業は現在、幸和製作所の売上高のうち約3割を占める。2014年の会社全体の売上高は44億円。歩行器事業が牽引する形で、ここ数年、年率2ケタ増という急成長が続く。

—(以上、引用)—

 

■オオアサ電子(広島市山北郡)

業態転換:液晶表示装置加工→ハイレゾスピーカーやスマホ保護カバーガラス、タッチパネル式看板

きっかけ:売上8割の得意先からの契約解除

活きるスキル:液晶加工技術を核に、強みと付加価値を洗い出し

欠けているスキル:ずっと下請けで来たため営業がいない。

—(以下、引用)—

 ピーク時300人いた従業員の数は、115人程度まで減ったが、苦しい4年間も解雇はせず、雇用を守り抜いた。ただ、周辺事業が育ちつつあるとはいえ、2014年の売上高は、契約を解除される前と比べて3分の1。長田社長は「事業転換なんてきれいなもんじゃない。ドラマなら面白いかもしれないが、これほど苦しいことはなかった」と話す。

—(以上、引用)—

 

ただ、例外もあります。

■ディライト(奈良市)

創業者の教えで、15-20年ごとにまったく違う事業に業態変更してきました。

肌着生産工場→ホテル業→輸入雑貨販売→結婚式場運営→(将来、カフェ運営/写真館経営)

見極めポイントは、15-20年後に地域で最ももうかる事業ということ。

ディライトは、過去の事業の強みが活きない分野に多角化しています。

しかし実際には、「強み」についても考慮していまるのです。

—(以下、引用)—

もっとも、「15年後にもうかる」という基準で進出分野を決めてしまえば、白羽の矢が立つ事業は往々にして既存事業と無関係の分野になり、現在持つ技術やノウハウの応用は望めない。「だから準備の時間が必要」と出口社長は強調する。

—(以上、引用)—

 

■はせがわ

仏壇販売から墓石販売へ業態転換しました。

1995年に販売絶好調でしたが、バブル崩壊以降、注文住宅が減り狭くなるので仏壇サイズも小さくなることが予想されました。一方で高齢化社会で墓石販売は安定成長が望めます。

一方で、仏壇と墓石は営業方法が違うので墓石問屋へ修業に出し、時間をかけて事業シフトに着手、現在は200万円以上の仏壇はピークの10%に落ち込む一方、墓石事業が会社を支え、2014年の会社の営業利益は過去最高でした。

 

ディライトもはせがわも、多角化したい事業では現在の強みは活きないので、好調なうちに時間をじっくりかけて必要とされる強みを獲得してきました。

裏を返せば、強みはやはり重要と言うことですね。

 

価格競争から脱して、新たな価値を生み出した後に起こることは、新たな価格競争。ではどうするか?

講演で、次のようにお話ししました。

「際限のない価格勝負を続けると企業は体力を消耗してしまい、次々と淘汰されてしまうので、業界全体としては永遠には続けられません。だから価格競争が行き着く先には、必然的に価値競争への転換があります」

そして質疑応答の際に、こんなご質問をいただきました。

「価値競争に転換した後、再び価格競争になる、といったように、それは繰り返されるのでしょうか?」

 

皆様は、このご質問にどのようにお答えになりますでしょうか?

 

私は、このように答えました。

「まったくおっしゃる通りで、価値競争に転じても、再び価格競争になります。

なぜかというと、新しい価値を創り出しても、価値には賞味期限があるからです。

たとえば、一時期「企業寿命30年説」というのが流行りました。新入社員として成長産業に入っても、50歳になった頃には構造不況産業になるケースはとても多くあります。企業が新しい環境に適応できず、新たな価値を提供できないと、成長産業と言えどもいつかは衰退してしまうのです。

だからこそ、常に新しい価値を創り出して、価格競争に陥らないようにしていかなければなりません。
その出発点は、どのターゲット顧客の、どのような課題に、どのような解決策を提供するか、です。」

 

常に、いかに新しい価値を顧客に提供し続けるかは、企業にとって永遠の課題。

そしてそれこそが、企業の存在理由でもあると思います。

 

「オンラインで靴を買う顧客は存在する」という仮説を、簡単な実験で検証したザッポス

2009年11月、アマゾン・ドットコムは約9億ドルもの大金を投じて、靴・アパレルのネット販売大手ザッポスを買収しました。

このザッポスの創業は1999年。靴のオンライン販売立ち上げを皮切りにビジネスを始めました。

 

1999年はネット販売が普及、急速にあらゆるものがネットに移行し始めた時期です。

当時、「靴のオンライン販売ビジネスを立ち上げよう」と思いつき、実行したのは凄いですね。 仮に思いついたとしても、「そもそも靴は履き心地を重視する。オンラインで売るのは無理」と考え、そこで思考停止する人が圧倒的に多いのではないかと思います。

Women shoes. many high heels.

 

実はザッポスの創設者ニック・スインマーンは、「靴をオンラインで買う顧客は存在する」と仮説を立てました。

ではどのようにその仮説を検証すればいいでしょうか?

1999年の当時、ネット販売サイトを作るだけでも大変です。

 

スインマーンは、実に簡単な方法でこの仮説を検証しました。

その事業立ち上げの頃の様子がエリック・リース著「リーンスタートアップ」で描かれています。

—(以下、引用)—

スインマーンは実験からスタートすることにした。まず、靴をオンラインで買う顧客がいるという仮説をたてる。そしてその仮説を検証するため、近所の靴店に頼んで在庫品の写真を撮らせてもらった。撮った写真はウェブに掲載し、それを誰かが買ってくれたらお店の売値で買うからと言って。

このようにザッポスはごく小さくシンプルな形でスタートした。このときの目的は、靴のオンラインショッピングにおいて優れた体験のニーズが十分に存在するか否かという問いに回答を得ることだった

—(以上、引用)—-

「靴のオンラインショップ」というと、「倉庫を用意して、複雑な受発注システムを構築したりしなければならないので大変だ」と思いがちです。さらに事業立ち上げの際には、我々は市場調査に頼ったりします。

しかしスインマーンはシステム構築は行わず、市場調査にも頼らず、1−2日あれば誰でも作れる簡単な仕組みでサービスを開始し、「お、これは売れるぞ」と検証してみたわけですね。

 

当時は靴をオンライン販売で売る業者は存在しませんでした。

しかし実際にやってみたら「売れた」のです。「顧客が存在するという事実」はビジネスを立ち上げる上では、何百時間もの議論よりも、はるかに貴重なデータです。

スインマーンは、実際に靴が売れたことがわかっただけでなく、様々なことを学びました。

–(以下、引用)—

ザッポスは以下のことが学べたのだ。

1.顧客の望みについて精度の高いデータが得られた。頭の中で考えただけの質問を発するのではなく、顧客が実際にどう動くのかを観察したからだ。

2.現実の顧客とやりとりする立場に自らを置き、顧客のニーズを学んだ。………

3.顧客が予想外の動きをする場合があり、そのときザッポスは、たずねようとも思わなかった情報を入手した。たとえば顧客が靴を返品してきた場合などだ。

ザッポスが行った実験からは、十分な数の顧客が靴を買う、あるいは買わないという、明快で定量的な結果が得られた

……小さくスタートすれば、全体的なビジョンを損なうことなく、実行時の無駄を大幅に減らせる。

—(以上、引用)—

 

新規事業を立ち上げる際に陥りがちな罠は、「考えすぎてしまう」ことです。しかしいくらオフィスで考え抜いても、決して正解にはなりません。

むしろザッポスのように、実際に行動して顧客に販売することで、学べることも多いのです。

さらに「オンラインで靴を売るのは無理」と考える人が圧倒的に多かったからこそ、「実は買う顧客が存在する」ということを発見したザッポスがブルーオーシャンを切り開けたのです。

顧客が洗練され、変化が激しい現代においては、「仮説を立てた上で、リアルな顧客から学ぶ」という仮説検証のプロセスが重要なのです。

高城 剛著「2035年の世界」 今後20年間に何が起こるか、ポイントを押さえて概観できます

高城 剛著「2035年の世界」を読了しました。

高城さんが書かれたので、当初は技術面が中心だと思っていたのですが、実際には社会や人間のあり方までが書かれていて、とても参考になりました。

以下のセクションで構成されています。

セクション1:身体科学

セクション2:科学

セクション3:移動

セクション4:スタイル

セクション5:リスク

セクション6:政治

セクション7:経済

セクション8:環境

 

ここ1-2週間話題になっている「指数関数的に進化する人工知能は、人類にとって脅威になるのではないか」という点についても、高城さんとしての回答を出しておられます。

コンパクトな本ですが、今後20年間に起こる可能性がある事象についてポイントを押さえて幅広く概観できます。

今後の社会動向を考えて戦略の打ち手を考える立場にある方には、ご一読をお勧めします。

SmartNews Compass 2014に参加しました

昨日2014/12/1に東京ANAホテルで行われたSmartNews Compass 2014に参加しました。

「日本のIT業界でも、マーケット・イン発想でテクノロジーに徹底的にこだわり、最初からグローバル展開を考え海外の経営人材も採用し、成果も出し始めているSmartNewsのような企業が出てきたのだなぁ」と、大きな感銘を受けました。

 

まず、SmartNews 40名の社員のうち、半数以上はエンジニア。物理系研究者出身の方が多く、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションのもとで、技術を磨いています。

戦後間もなく急成長したソニーやホンダといった日本のベンチャーも、設立当初はこんな感じだったのかもしれない、と思いを馳せました。

 

さらに、米国で政治記者を長年務め、The Wall Street Journal Onlineを立ち上げ、デジタルジャーナリズムの世界最大組織Online News Association(ONA)を創設した米国人も、SmartNewsの経営陣に参加しています。

またSmartNewsは最近、米国版を出荷しました。これは日本語版と同一です。設定で「各国版」の項目を「アメリカ合衆国」に変えると、米国と同一コンテンツを見ることができます。

2年前に当ブログの『消費者が「体験」を求めるグローバル時代に必要な、「サービス製造業」の考え方』というエントリーで書いたように、製品とインフラを世界共通プラットホームとして提供します。

 

またSmartNewsをお使いの方は、最近広告が違和感なく表示されるようになったことに気がついた方もおられるのではないでしょうか?

今回、SmartNews Adという広告事業の開始を発表しました。

“Ads as Contents”という考え方のもとで、広告もコンテンツの一部と捉えて、高度な最適化と配信アルゴリズムを持つAd Technologyにより広告配信しています。

SmatrNews Ad NetworkのPartnersとして、ミクシー・森田社長が登壇された他、産経デジタル、毎日新聞、サイバーエージェント、グリー、DeNAなども参加されています。

既にクライアントは50社。今回はその中からライフネット生命とエンジャパンのご担当者も登壇しました。

 

このようなイベントに参加するのは久しぶりでしたが、とても刺激を受けました。

何よりもITmediaにおられた時にとてもお世話になった藤村さんがお元気そうに活躍されていて、嬉しく思いました。

是非、SmartNewsが世界に羽ばたいていただくことを願っています。

 

詳しい様子は既にITmedia Newsでも紹介されていますので、興味がある方は、そちらもあわせてご参照ください。

現代の若い起業家たちに感じる、大きな可能性

東洋経済オンラインに掲載されていた、田原総一朗さんの対談にとても共感しました。

今の起業家は松下さんや盛田さんに似ている
田原総一朗が目にした、スタートアップの最前線

—(以下、引用)—-

共通するのは、事業の興し方が乱暴でないことだ。言葉遣いも割合丁寧だし、服装も普通の格好をしている起業家が多い。ここは堀江貴文の世代とは毛色が違う。

また大学を卒業して、いきなりベンチャーを作るのではなく、まず手頃な企業に就職しているのも、私が出会った起業家たちの特徴だ。そこで生きるノウハウをまず習得し、その後、自分の好きなビジネスを立ち上げている。

彼らが大事にしているのは、金儲けよりもソーシャルインパクトだ。本当はボランティアでやりたいが、それでは長続きしないからと、ソーシャルビジネスという形態で行っている。

—(以上、引用)—-

私も20代・30代の若い起業家にお目にかかる機会がよくあります。

多くの方がキチンとしています。パリッとしたスーツも着こなす方も意外と多く、礼儀作法もしっかりしています。「いかにいい社会を作るか」というビジョンが明確、ちゃんと日々の努力と学びが大切であることを理解し、謙虚に積み重ねておられます。

そして何よりも尊敬できる素晴らしい人間力を持った人が多いと感じています。

 

会社設立の起業のハードル(資本金、手続き等)がここ10年で大きく下がったことも一つの要因なのでしょう。

加えて、日々の会社経営に必要なリソースもクラウドやアウトソーシングを活用すればそれほどかかりません。損益分岐点をかなり低く下げることができるので、ある程度の売上を確保することができれば、会社経営を軌道に乗せることができます。

この結果、私が20代だった20-30年前と比べて、起業はかなり現実性ある選択肢になっていると思います。(かくいう私も起業しました)

 

ということで、この記事で紹介されていた田原総一朗著「起業のリアル」を早速Kindleで購入しました。16名の起業家と田原さんが個別に対談した対談集です。

読むのが楽しみです。

 

工期1年絶対厳守のホテル。浴室工事だけで1年半。どうする?

東京オリンピックが開催されたのは、51年前の1964年。日本は高度成長期の入り口にさしかかっていて、様々なイノベーションが生まれました。

開催直前、オリンピックの来場客のために、ホテルニューオータニが急ピッチで建設されていました。

ホテルニューオータニは、着工後1年以内の完成が求められていました。

しかし各部屋で行う浴室工事は、当初1年半かかると見込まれていました。

従来どおりの方法でやっていては、まず間に合いません。

 

そこで東洋陶器(現TOTO)と日立化成工業(現ハウステック)により新たに開発されたのが、ユニットバス工法。

工場で浴室の部品を成形し、工事現場で組み立てるというイノベーションが生み出されました。

この結果、浴室工事はわずか3ヶ月で完成できるようになり、ホテルは無事納期までに完成できました。

この様子は、TOTOのサイトでも紹介されています。

ユニットバスルームの発祥は?

今ではユニットバスの普及率は90%。

このユニットバスも、東京オリンピックがきっかけで世界に先駆けて生まれたのです。

ユニットバス

 

ゲリー・ハメル著「経営は何をすべきか」に、次のような一文があります。

「イノベーションと変革への意思は情熱から生まれる。つまり、現状に対するもっともな不満の産物なのである」

ユニットバスも、まさに大きな課題への挑戦で生まれた不満の産物です。

 

一見無謀に見えるような「顧客の課題」ほど、大きなイノベーションに育つ可能性があるのです。

「顧客の課題」は、まさにイノベーションの母なのです。

『デキる・デキない』や『常識』を捨て、『やってみたい』気持ちに従うと、人生が変わる

2014/7/18(金)にIBM OB会であるBBJ主催「若手サロン」があり、参加しました。

今回は、ともに日本IBM 2000年入社組の永田ジョージさん小野裕史さんのご講演でした。

 

永田ジョージさんは日本IBM入社後は、ITエンジニア、社内留学でMBA取得、その後はコンサルタント、営業の仕事をされていました。在職中から都内ライブハウス等でライブを行なっておられました。

2012年に日本IBMを退職され、現在はジャズミュージシャンとしてご活躍中です。CDも3枚リリースされ、精力的にツアーを行っておられます。

 

小野裕史さんは、日本IBM入社5ヶ月後、モバイルベンチャー企業に社員第1号として転職。2008年に同社専務を退任され、ベンチャーキャピタルを立ち上げて現在に至っています。出資企業にはあのfreeeやGroupon Japan、中国ではYeahka、DeNA China等があります。

一方で、35年間まったく運動していない状態から、2009年にWii Fitをきっかけにランニングを開始。5ヶ月後にフルマラソン出場、2年後に中国ゴビ砂漠やエジプトサハラ砂漠の250kmマラソン完走、3年後北極点でフルマラソン完走、南極アイスマラソン100kmの部で世界2位。4年後にチリアタカマ砂漠250kmマラソンのチーム戦で世界1位。そして文藝春秋社より「マラソン中毒者」という本を出版したこと。

 

小野さんのプレゼンに、

『デキる、デキない』や『常識』を捨て、『やってみたい』気持ちに従うことが大切

という言葉がありました。まさに永田さんと小野さんの生き方から、このことを学ばせていただきました。

 

人はともすると、『デキる・デキない』や『常識』で判断し、リスクを避けようとします。しかしこれは、過ぎ去った昔の経験で、未来を恐れているのです。

実際は、未来がどうなるかはわかりません。状況も変わるし、自分自身も、何歳になってもどんどん成長していきます。

未来は変えられるのです。そして変える原動力は『ワクワクすることを、やってみたい』という自分の想い。

だからこそ、『ワクワクすることを、やってみたい』という気持ちが、大切なのですね。今回の講演では、永田さんの場合は音楽、小野さんの場合はマラソンやベンチャーキャピタル経営ですね。

絵にすると、こんな感じです。

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以前ブログでも書きましたように、人は「これをやらなければ!」と思って仕事を頑張るよりも、「これをやりたい」と思ってやる方が、知的作業ははるかに大きなパフォーマンスを生み出します。現代は知識社会。だから「やりたい」ことをやることが、とても大切なのですね。(ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」ですね)

私も「やってみたい」ということばかりやってきたので、お二人の話にはとても共感しました。

また私はクライアント様に事業戦略の研修や講演を行う機会を多くいただくのですが、企業共通の悩みが「いかに会社として新しいことに挑戦するか」ということです。

これも結局、会社の中で「ワクワクする、やりたいこと」を見つけ出して、挑戦することなのですね。

今回の永田さん・小野さんの講演をお聞きして、個人でも企業でも、『コレをやってみたい』ということが何よりも大切なのだ、ということがよくわかりました。

 

永田さん・小野さんに感謝です。

 

『人が足りなかったから、突破口が見つかった』…規模10倍のライバルに、常識を覆したディーゼルエンジンで挑んだマツダ

マツダは、社員数2万人で売上2兆円。
一方の業界トップのトヨタは、社員33万人で売上22兆円。

規模10倍のライバルに同じ事をしていては勝てません。そこでマツダは、「スカイアクティブ」という省エネエンジンで差別化しました。圧縮比に注目し、徹底的に圧縮比を高めて燃費を改善。ノーマルのガソリンエンジンでハイブリッド並の省エネを達成し、デミオに搭載しました。

ここまでは2011年時点の情報を元に、「100円のコーラを1000円で売る方法2」でご紹介した話。

実は最近のマツダは、このガソリンエンジンとはまったく逆のアプローチで、ディーゼルエンジンを成功させていることをご存じでしょうか?

 

ディーゼルエンジンの取り組みで、日本の大手自動車メーカーは欧州メーカーに遅れを取っています。ここにマツダはディーゼルエンジン「スカイアクティブD」で挑戦しました。

ディーゼルエンジンは、低速トルクがあって燃費が良いものの、高回転が回らず、排気ガス浄化度はガソリエンジンンに及ばず、価格もガソリンエンジンに比べて高い、というジレンマがあります。

本当は静かでよく回り、排気ガスをキレイにし、価格下げたいところ。

さらに燃料を速く燃やすと窒素酸化物(NOx)が増え、ゆっくり燃やすと黒煙(PM)が増えるので排ガスの後処理装置が必要になり、コストがさらに上がります。

ディーゼルエンジンにはジレンマがあったのです。過去、自動車メーカー各社はここに色々と挑戦してきました。

 

マツダは全く異なる設計でチャレンジしました。このことは下記の記事に掲載されています。

「排ガス対策・静か・高回転」 常識を覆したマツダのディーゼル(モータージャーナル 池田直渡さん

ガソリン版のスカイアクティブでは圧縮率を上げました。

逆に、ディーゼル版のスカイアクティブDでは圧縮を下げたのです。

圧縮を落とせばNOxは減ります。加えて燃料噴射を高精細化して超緻密制御することで、まずNOx抑制エンジンの基本を作りました。

しかしこれだとパワーが出ません。そこで条件がよいときはターボで圧縮を補うようにしました。

つまり通常のディーゼルエンジンは、「エンジン高性能化→排ガス対策」という発想で取り組むところを、マツダは「排ガス対策→高性能化」という逆転の発想で取り組んだのですね。

おかげでディーゼル特有のガラガラ音も激減、強度設計に余裕ができたので鋳鉄製ブロックをアルミに置換して、軽量ディーゼルが誕生。回転部品が軽量化したことでエンジンも高回転化しました。

スカイアクティブD搭載車は走りもよいと評価されています。

 

2011/12/11に掲載された日本経済新聞の記事「イノベーション 成功の法則(3) 『欠乏』『不足』が新機軸生む」で、マツダの人見開発本部長は、『数十人の組織ではあれもこれもできない。一方で必ず燃費の良さは重要になる。エンジンの基本に立ち返り一から考え直すことにした』とおっしゃっています。

さらに『人が足りなかったから、突破口が見つかった』と加えておられます。

この取り組みの結果、圧縮比を上げたガソリンエンジンのスカイアクティブが生まれました。

 

この数年後に挑戦したディーゼル版スカイアクティブDも、方法は全く逆の「圧縮比を下げる」アプローチではありますが、同様の「エンジンの基本に立ち返り一から考え直した」結果生まれたのです。

私たちはつい「リソースが足りない」と思いがちです。

しかしリソースはイノベーションの必須条件ではありません。

むしろスタートアップ企業などを見ていると、リソースがなく、かつしがらみから解き放たれた組織の方が、自由な発想でイノベーションを起こすケースが多いように思います。

 

このマツダの挑戦は、しがらみから解き放たれて発想する大切さを教えてくれます。

 

 

「イノベーションのジレンマ」は製造業だけでなくあらゆる業界でのテーマである–米国小売業のケース

絶賛された企業でも、破綻します。その一つの理由が「イノベーションのジレンマ」。

イノベーションを起こした企業が、目の前の顧客のことばかり真剣に考え続けているうちに現状維持に陥り、次のイノベーションを起こした企業に破れ、そのうち破綻してしまうジレンマをあらわした言葉です。

私は講演で、1950年代に全盛期を迎えていた真空管ラジオが、トランジスタという新技術を使い急成長したトランジスタラジオに置き換えられた例を挙げて「イノベーションのジレンマ」を説明しています。

 

一方で講演後のご意見やアンケートの中で、「自分の業界は製造業でないので、参考にならなかった」というご指摘をいただくこともあります。

実はイノベーションのジレンマは、製造業に限らずあらゆる業界で起こることです。その本質が、「新しい技術を活用したイノベーターが、現在の覇者に勝ってしまう」ということだからです。

先日の日本販売士協会様の講演では、米国小売業でこの150年間起こったケースを例に、イノベーションのジレンマをご紹介しました。

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図の補足説明です。

・1800年代後半に生まれた鉄道技術で、全米を網羅する輸送能力が大きく向上しました。そこでシカゴのマーシャルフィールドのように、駅の拠点に百貨店が生まれました。

・1900年代前半、自動車が全米に普及しました。そこで自動車を持った消費者の利便性を考えて、大きな駐車場を用意したシアーズのようなGMS(総合スーパー)が生まれ、成長しました。

・1980年代から90年代になると、SCM(サプライチェーンマネジメント)技術が大きく進化しました。そこで人口5万人程度の市に出店し、各店に対して配送センターから最適化したサプライチェーンで商品を発送することで、コストを徹底的に下げて、EDLP(エブリーディ・ロー・プライス)戦略を実現したルマートに代表されるディスカウントストアが急成長しました。

・2000年代、インターネット技術を活用し、おなじみのアマゾンのようなネットショップが急成長を続けています。

このように、一つの理論を理解することで、様々な業界に展開できるのですね。

 

講演では、お客様の状況、課題やニーズに併せて、なるべくハラ落ちするように講演内容をカスタマイズしてお話しするようにしています。

 

ランダル・ストロス著「Yコンビネータ」…起業家精神とは何かを学べる本

「Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール」(ランダル・ストロス著)を読了しました。

「Yコンビネーター」(以下、YCと略す)とは、シリコンバレーの起業家養成スクール。本書はこのYCの3ヶ月間の活動に密着したノンフィクションです。

合格率3%を突破した、スタンフォード、MIT、UCバークレーなどの在校生や卒業生からなる64チームが、3ヶ月間かけて、自分たちの事業を立ち上げるために、「デモ・デー」と言われる数百人の投資家へのプレゼンを目指して、寝食を忘れて働き続けます。

各チームの事業は、「デモ・デー」では投資されるかどうかが決まります。

つまりYCは単なるスクールではありません。YCではシーズン毎に3ヶ月間、このようにリアルなお金を投資し、参加者はアドバイスを受けながら、自分の人生をかけて事業立ち上げに挑みます。

YCは基本的に、スタートアップの事業立ち上げのために、少数株と交換で、シード資金を投資として提供する「エンジェル投資」です。ただ実際に成功するのは100件のうち数件というのが現実。投資時点ではどの事業が成功するかはわかりません。そこで定期的に多数のスタートアップに同時に投資し、かつ徹底的にアドバイスをする仕組みになっているのです。

このYCからは、あのドロップボックスも生まれています。

 

本書を読んで、現代のシリコンバレーにおける起業がどのように行われているのか、その一端を知ることができました。

いくつか抜粋します。

—(以下、引用)—

10年前にはソフトウェアスタートアップがベンチャーキャピタルから資金を得るためには、創業者には業界での長い経験が求められるのが普通だった。また起業には高価なサーバーやデータベースソフトの購入、人材の採用のために数百万ドルを必要とした。現在のYC傘下の起業家たちには情熱とプログラミング能力以外何も必要ではない。

—(以上、引用)—

クラウド登場によりサーバーを所有する必要がなくなり、さらにシステムやソフトウェアも進化したことで、多くの場合、投資額は自分たちの人件費がまかなえれば事業が立ち上がる環境になり、起業の状況も変わってきています。

 

また投資案件を決める基準も、興味深く思いました。

YCでは、創業者たちが成功に必要な資質を備えていると思えるならば、アイデアに弱点があっても大目に許しています。

そして思考の試行錯誤が必要なので、立ち上げるビジネスは途中で変わってもOK。提供しようとするサービスやプロダクトの内容も、頻繁に変わります。

 

起業に適した年齢は、「学部学生よりは多少成熟しているものの、まだ家のローンや子育ての重荷を背負っていない」こと。つまり25歳前後。このことについても書かれています。

—(以下、引用)—

スタートアップを始めてもたぶん失敗するだろう。ほとんどのスタートアップは失敗する。それがベンチャー・ビジネスの本質だ。しかし失敗を受け入れる余裕があるなら、失敗の確率が90%ある事業に取り組んでも判断ミスにはならない。40歳になって養わなければならない家族がある状態での失敗は深刻な事態になる。しかしきみたちは22歳だ。失敗してもそれがどうした?22歳で在学中にスタートアップに挑戦して失敗したとしても、23歳の一文無しになるだけだ。そして得難い経験を積み、ずっと賢くなっていくだろう。これが私が呼びかけている学生向けプログラムの概要だ。

—(以上、引用)—

なぜ25歳なのかについても書かれています。

—(以下、引用)—

25歳はスタミナ、貧乏、根なし草性、同僚、無知といった起業に必要なあらゆる利点を備えている。

—(以上、引用)—

新卒一括採用などの仕組みもある日本と直接の比較はできませんが、米国のスタートアップの考え方がよくわかる一文だと思いました。

 

—(以下、引用)—

「まず一般的に言って、失敗を隠すな。きみたちがどんな失敗をしたって金を返せとは言わん。」

….

「期日までに仕事ができないと上司に『おい、遅れているぞ』と叱られる。そのままいつまでも仕事が終わらなければ最後にはクビにされるかもしれない。しかしわれわれはきみたちをクビにはしない。しかし市場がきみたちをクビにする。」

—(以上、引用)—

このあたりは、リスクマネーとはどのようなものなのかがわかる部分です。

 

—(以下、引用)—

「実は過去にイライラして口うるさくしたことがないではない。しかし何の訳にも立たなかった。まずい仕事をする人間はいつまでたってもまずい仕事をし続ける。泳ぎを覚えられるか、それともおぼれるか、だ。われわれはきみたちを手助けする。きみたちが望むならわれわれは喜んで手助けする。しかしきみたちがどこか見当はずれな方向にさまよい出てしまっても、われわれはきみたちの襟首をつかんで引っ張り戻したりはしない。これまで成功したスタートアップはみな一切脇目をしないチームだった。寝る、食う、運動する以外はプログラミングしどうしだった。」

—(以上、引用)—

ベンチャーの世界では、何が正しいかわかりません。「これは確実、大丈夫」と思ったアイデアが大失敗し、「これはダメでしょ」と思ったアイデアが思わぬ成功を収めます。だから失敗も多い半面、成功した場合は大きな見返りが得られます。変化が激しい環境では、口うるさく「こうあるべき」と言っても実は間違っているかも知れません。事実に対する謙虚さが求められるのですね。

 

—(以下、引用)—

アメリカの有権者は「アメリカ国民は全体として世界でもっとも起業家精神に富んでいる」と言う。グレアムはそれに強く反論する。彼の意見では、他の国で欠けているのは起業家精神ではなく、多くの創業者が集中する場所だという。そういう場所では多くの人々が起業家として成功する姿を目の前で見られるので起業へのモチベー

人類の歴史は、リスクへの挑戦の歴史

類人猿から人類が枝分かれしたのは、500万年ほど前、アフリカだと言われています。

当時、私たち人類の祖先は、森林の樹上で豊富な食料に恵まれて生活していました。しかし環境が激変して食料が減った時、快適だった樹上から下りて、勇気を持ってサバンナで直立二足歩行を始め、自由になった前肢を手として使い始めたことで、人類として進化を始めた、という説があります。(*注)

一方でリスクを取らなかった類人猿は、当時と同じ姿で森林の樹の上で暮らしています。しかしその森林は少なくなり、生活圏は狭まっています。

 

あえてリスクを取り、未知の世界に踏み出し、未来を築いていく。

この大切さは、現代でも変わりません。

たとえば企業はともすると、自社が得意な製品にこだわってしまう傾向があります。

しかし現在販売中の製品やサービスは、かつてお客様の課題を解決するために開発されたものです。お客様は常に変化しており、かつてのお客様の課題は変わっているかもしれません。

もし現在私たちが得意としている製品が「過去の栄光」になっているのであれば、新しい課題に挑戦することが必要です。

もちろん、挑戦しないことも選択の一つではあります。

ただ長い目で見ると、樹上で生活している類人猿の生活圏が狭まったのと同じ事が起こるかもしれません。

 

常に新しいことに挑戦することで、私たちの未来が開けるのだと思います。

(*注:人類の誕生については、他にも色々な説があるようです)

 

藤沢久美著「なぜ、川崎モデルは成功したのか?」…日本ならではのオープンイノベーションの姿が、ここにある

藤沢久美著「なぜ、川崎モデルは成功したのか?」を読了しました。

 

この本と出会えて「よかった」と思いました。元気になるからです。

 

そもそも「川崎モデル」とは何でしょうか?本書のオビには、次のように書かれています。

—(以下、オビから引用)—

川崎市から始まる 政府・省庁も注目 新・中小企業支援。

異色公務員集団が大企業や金融機関を巻き込みものづくりの町・川崎市を元気にする!
話題のオープン・イノベーションの最前線!

戦略は、「密着」「おせっかい」「キャラバン隊」

—(以上、引用)—-

本書では川崎モデルの様々な事例が紹介されています。たとえば、ある企業のケース。

墓石業を営むある会社は、川崎市からデザインコンペにエントリーすることを勧められました。そこでこの会社はガラス墓石の開発を検討しました。

そのことを知った川崎市のキャラバン隊の担当者は、ガラス工芸を手がける市内の事業者を紹介。ガラスを使った新たな墓石「シルエット」が誕生し、デザインコンペで優秀賞を受賞しました。(キャラバン隊とは、実際に企業に出向き、支援施策の情報を提供したり、連携先を紹介したりと、色々と世話をする川崎市のチームのことです)

さらにキャラバン隊は販売のために、市内のガラス工芸作家を集めて「メモリアルガラス研究会」を発足し、「かわさきガラスのお墓」が誕生、国の地域資源の認定を受け、この墓石の販売は拡大しています。

本書では、次のように書いています。

「社外の異分野の人々との協働の場を作り、これまでの常識を覆す新たな商品を生み出した。まさにオープンイノベーションだ」(p.210-211)

 

「役所がこんなことまでするのか!?」と驚かれる方もいるのではないでしょうか?この原動力が、熱い想いを持った、川崎市の公務員の方々です。

本書では、藤沢さんの優しい視線で、この川崎モデルに取り組まれてきた人たちの様子が丁寧に描かれています。

 

実はこの川崎モデル、最初から川崎市が組織全体で始めたものではありません。

1990年代中頃、中小企業についてまったくの門外漢だった若手中堅職員が、川崎市の中小企業が置かれた厳しい現実を知り、まず勉強会を立ち上げました。その熱い想いに共鳴した数名の職員が中小企業経営者の訪問や勉強会を繰り返して、徐々に育てていったものです。

現在の川崎市では考えられないことですが、当初は組織としての反対もありました。

たとえば、ものづくり企業の共同体である「ものづくり共和国」のために補助金を申請しようとすると、「共和国は会社ではないので、申請はまかりならん」。

川崎市のサイトからリンクを張ろうとすると「一企業だけにリンクを張るのは不公平なのでまかりならん」。

しかし今では、中小企業の支援をしているコーディネータは、川崎市だけでなく、国や都道府県の補助金までみつけて、申請支援をすることもあります。

もし「自分たちのミッションは、川崎市の中小企業の支援施策の活用推進だ」と考えると、ちょっとあり得ない行動かもしれません。

しかし「自分たちのミッションは、産業育成によるよりよき社会の実現だ」と考えると、至極まっとうな行動です。

自分たちのミッションを考え抜いて、メンバーで共有しているのです。

 

一人一人の熱い想いが大きな動きを生み出し、「川崎モデル」を作り上げている様子を、本書では様々な事例を通じて、活き活きと描いています。たとえば、このように書かれた一節があります。

「『官民連携』という言葉はどこでも耳にするが、連携の肝は人の交流。そして現場で一緒に本気で汗を流すこと。そして学びあうことだと、川崎市と関わる金融機関の皆さんが体験を通じて教えてくれた」(p.193-194)

コーディネーターには成功報酬はありませんが、中小企業支援のためなら徹夜も厭わないし、面倒な作業にも嫌な顔一つせずに取り組みます。その理由は、まさに「志」。コーディネーターのある一人は、このように語っています。

「喜んでもらえるのがうれしくて、喜んでもらえるために、いろいろとしてしまう」(p.72)

「働くとは、どういう意味なのか」ということを考えるきっかけをいただき、元気にさせてくれます。

 

「この本と出会えてよかった」と思った理由は、先の「読むと元気になる」ことに加えて、もう一つあります。

それは本書がアイデアの宝庫であること。現場で格闘してきた人たちならではの、ビジネスの知恵が散りばめられています。是非ご紹介したいのですが、ネタバレになってしまうので、当ブログでは割愛させていただきます。

  

本書には、日本ならではのオープンイノベーションの姿が描かれています。折りを見て、読み返していきたい本だと思いました。

 

藤沢さんは「社長Talk」という社長とのインタビューを、2006年7月14日の第一回放送以来毎週欠かさず続けておられます。→これまでのアーカイブ

また「藤沢久美の社長Talk News」というメルマガも、このたび配信200回を超えました。→登録はこちら

藤沢さんが積み重ねてこられた、この膨大な日々の蓄積があってこそ生まれた骨太な本なのだと実感します。

 

アマゾンは、あらゆる消費者体験を革新しようとしている

アマゾンのニュースを数多く目にするようになりました。

ここ数日のニュースに限っても、…

『「Amazon Dash」はネットショッピングに革命を起こしそう』

Amazon Dashを一言で言うと「買い物専用インプットデバイス」。

商品のバーコードを読み取り、注文できます。現在はPC経由。将来的にはこのデバイスが単独で直接ネットに繋がり、消費者が商品を手にしてバーコードを読み取った途端に直接注文できるようになっていく可能性が高いのではないでしょうか。

 

『「Amazon Prime Air」のドローンは第6世代試作機の飛行テスト中、第8世代が設計段階』

ドローン(無人航空機)を使って注文後30分以内に配達することを目指している「Amazon Prime Air」は、2015年の実現を目指しています。

一見ホラ話に思えますが、アマゾンは真剣に取り組んでいます。既に試作機の飛行テスト中で、2kg強の荷物を抱えて16km飛行できるだけの能力とバッテリーを搭載しようとしています。

 

『Amazon Fire TV について知っておくべき10のポイント』

99ドルのセットトップボックスです。テレビを見ていて、「これ買いたい」と思う場面は多いと思います。その際の購買の手間を大きく削減することになるのではないでしょうか?

 

(4/14 7:30AM追記) ■アマゾン、6月にもスマホ発表―9月末までの出荷目指す

Amazonはスマホ販売を検討していると報じられています。これも消費者がスマホ経由で購買することを考えると、アマゾンにとって自然な流れなのかも知れません。

 
 

数多くの消費者が日常的にアマゾン経由で購買するようになると、購買取次をするアマゾンの収益は莫大なものになります。

消費者を増やせば増やすほど、儲かります。

消費者を増やすためには、入り口の敷居をなるべく低くすること。

たとえば、Amazon DashやAmazon Fire TVのデバイスを無料で配布したり、Amazon Prime Airを極めて低料金で提供することで、将来的には莫大なキャッシュフローが得られます。

まさに消耗品の「ジレットモデル」に近い収益モデルを構築できる訳ですね。

 

ちなみに、日本国内ですが、最近もこんなニュースもありました。

『Amazon.co.jpが酒類の直販に参入 ビールや日本酒など5000種以上』

クール便対応などが行われるようになると、従来の酒屋のビジネスは変革を迫られそうです。

 

最近のアマゾンは、小売ビジネスにおけるある種の「クリティカルマス」を越えた感じがあります。

消費者の購買体験をより容易に簡単にすることにより購買機会を増やすために、廉価な最新テクノロジーを活用して、考えられうる様々な方法を展開しているように見えます。

 

ここしばらくの間は、アマゾンの動きから目を離せない状況が続きそうです。

(4/14 7:30AM追記) …赤字部分

 

ルンバのアイロボットCEO曰く、「日本の顧客を幸せにできれば、世界中の顧客を幸せにすることができる」

東洋経済オンラインに、こんな記事が掲載されています。

自動掃除機で独走状態、「ルンバ」強さの秘密
アイロボットCEOの描く「10年戦略」とは

本記事でアイロボットのコリン・アングルCEOは、次のようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—

アングル氏は、「日本の顧客を幸せにできれば、世界中の顧客を幸せにすることができる」と言う。開発テストでは、畳の上をはだしで歩いて、細かい粒状のゴミが感じられないかをチェックした。

—(以上、引用)—

この考えで、新型「800シリーズ」は、日本で先行販売したそうです。

先日のブログでも書きましたように、我が家もルンバ870を購入しましたが、確かに旧型の577と比べて格段に能力が上がっています。

拙著「100円のコーラを1000円で売る方法3」では、「日本企業が成功するための解決策」として、与田誠に次のように語ってもらいました。

—(以下、p.28から引用)—

「(世界で一番レベルが高い日本の)ユーザーの要求に、個別にカスタマイズせずに標準品で対応して世界中に展開すること。意思決定のスピードを速めること。そして何よりも考えるだけでなく実行することです。」

—(以上、引用)—

これらは考え方や問題解決アプローチを変えることで出来ることです。

しかし、なかなか出来ないのが現実。クライアント様とお話ししていると、組織の問題が大きいように感じています。

逆に過去のしがらみがない新しいベンチャー企業では、このあたりはリーダーの考え方次第で、軽やかにクリアなさっているようです。

 

マーケティングの問題と、組織論は、かなり深いところで繋がっているのではないか、というのが、最近の実感です。

 

「自社ならではの強み」は何か?いかに育んでいくか?

「自社ならではの強み」は何か?

今年1月末に「「バリュープロポジションが大切」…と言っても、どうやってバリュープロポジションを考える?」で書いたように、その一つの方法はコア技術を考えることです。

 

たとえば、デジカメの台頭で、本業である写真フィルム市場の90%が蒸発してしまった富士フィルムでは、コア技術は「写真フィルム」ではなく、「有機材料」「無機材料」「薄膜技術」「光学」「画像」「メカ・エレキ」の6つと考えました。そして化粧品や高機能材料などに多角化を進め、高収益を維持しています。

このように考えると、「写真フィルム」はコア技術ではなく、「製品技術」であることがわかります。

 

この「コア技術」について考える際に、とても参考になる書物が、「コアコンピタンス」という考え方。

「コアコンピタンス」という考え方自体は、1990年にゲリー・ハメルらがHarvard Business Reviewに寄稿した論文”The Core Competence of the Corporation”で登場し、広まった概念です。

もう24年前の論文ですが、ここには高度成長期の絶頂にあった多くの日本企業が登場します。

 

「コアコンピタンス」の考え方は、ゲリー・ハメル著「コア・コンピタンス経営 」(日経ビジネス文庫)にまとまっています。

既に20年近く前の本ですが、「コアコンピタンス」以外にも多くのことに触れられており、学ぶことがとても多い本でした。

本書から、特にコアコンピタンスについていくつか取り上げてみたいと思います。

 

—(以下、抜粋)—

(p.72から)

製品の開発は100メートル競走のようにスピードの勝負だが、産業の発展や変革を巡る競争は、100マイルの自転車競争、遠泳競争、マラソンを合わせたトライアスロンに相当する。

—(以上、抜粋)—-

ここでは後者がコアコンピタンスに相当します。製品開発とコアコンピタンスを明確に分けて、考えることが大切であり、時間軸のとらえ方を変える必要があるのです。

ともすると私たちは「製品こそが強み」と考え勝ちですが、そうではありません。そのことについて、次のように書かれています。

—(以下、引用)—

(p.134から)
コアコンピタンスとは、もっと広い意味の顧客にとっての付加価値を意味している。たとえば、アップルコンピュータの「ユーザーフレンドリー」や、ソニーの「ポケットサイズ」、あるいはモトローラの「コードレス」などである。キヤノンにはカメラ事業、コピー機事業、プリンター事業などいろいろな事業部門がある。しかし、キヤノンが自社をそれぞれのマーケットに対応した戦略的事業部門の集まりとしてしか見ていなければ、次のカメラ、次のコピー機、次のプリンターというイノベーションしか起きない特定の製品と市場をセットで自社を定義してしまう企業は、自社の運命を市場の運命に縛りつけてしまうことになる。

(p.315から)
コアコンピタンスとは、顧客に特定の利益をもたらす一定のスキルや技術を言う。ソニーにとってその利益とは携帯性で、そのためのコアコンピタンスが小型化である。フェデラルエクスプレスが提供する利益は定時配達で、そのための高いレベルのコアコンピタンスが物流管理である。

(p.319から)
コアコンピタンスは幅広い製品やサービス全体の競争力に貢献する。この意味でコアコンピタンスはどんな特定の製品やサービスよりも上位に置かれる存在であり、また社内のどの事業部よりも大切である。

(p.364から)
空白エリアのビジネスチャンスを明らかにするには、市場ではなくコアコンピタンスから始めて、ある特定の企業力を特定の顧客にもたらす利益を利用することを考えなければならない

—(以上、引用)—-

このように考えると、コアコンピタンスは「コア技術」の集合体でもあり、事業などのコアビジネスは市場や顧客ニーズに対応できるようにコアコンピタンスを元に生まれてくるものであり、製品はコアビジネスの周りで生まれるものである、ということがわかります。

 

このコアコンピタンスは不変なのか?それについては次のように述べられています。

—(以下、引用)—

(p.336から)
一〇年単位で見たときに、ある時期にコアコンピタンスであったものが、次の時期の単なる能力の一つになってしまうことがある。

(p.244-246から)
企業の経営資源をしのぐような野心やレバレッジする力がないと、ありあまるほどの経営資源があっても戦略の決定がおろそかになりかねない。….野心が経営資源を永遠に上回っているというストレッチこそが、競争優位を生み出すエンジンの燃料である

—(以上、引用)—

つまり、コアコンピタンスは陳腐化するし賞味期限がある、ということです。

たとえばかつてのソニーは本書にあるように「小型化技術」がコアコンピタンスでしたが、今や多くの企業がこの能力を身につけてしまいました。現在のソニーの苦境は、ここにあるのかもしれません。

 

5年・10年単位で常に「自社はどうあるべきか?」を考え、自社のコアコンピタンスを見据えて、長期的にどのように伸ばしていくか考えていく。

そのためには常に背伸びをし続けていくことが必要なのでしょう。
 

 

与えられた経営資源にこだわらず、「本来は…」で発想することが必要なのかもしれない

私たちはともすると、

「予算はこれだけ。この中で何をしよう?」
「これだけの人員がいる。何が出来るだろう」

と考えることが少なくありません。

失われた20年を通して人員削減やコストカットを繰り返して、現在に至っている状況の中で、このように考えてしまう気持ちはとてもよく分かります。

しかし、このように「与えられた条件の中で、何をするか」を考える発想では、さらなる縮小均衡に陥る危険性があります。

 

「コア・コンピタンス経営」 (ゲリー・ハメル著、日経ビジネス文庫)で、下記のような記述があります。

—(以下、p.244-246から引用)—

企業の経営資源をしのぐような野心やレバレッジする力がないと、ありあまるほどの経営資源があっても戦略の決定がおろそかになりかねない。….野心が経営資源を永遠に上回っているというストレッチこそが、競争優位を生み出すエンジンの燃料である

—(以上、引用)—-

 

これは企業全体の視点で語ったものですが、企業の中の各部署でも同じことではないでしょうか?

「本来、xxxをやるべき。しかし予算はこれだけ。いかに増やすか?あるいはやり繰りするか?」
「本来、xxxをやりたい。人員はxxしかいない。いかに外の力を借りるか?」

現実には経営資源の制限は常について回るので難しい面もあります。しかし見方を変えてこのように発想してみることで、同志も増えて、色々なブレイクスルーも可能になるのではないでしょうか。
 

坂本さんもよくおっしゃっていように、アントレプレナーシップが、ビジネスパーソン一人一人に求められているのだと思います。

 

 

新しいアイデアを、いかに言葉として紡ぎ出すかが大事

何か新しいアイデアや概念が生まれても、そのままではなかなか相手に理解してもらえません。

そして他の誰かに理解してもらえないことには、そのアイデアや概念は消えてしまいます。

ではどうするか?

相手が共感できる言葉にすることが大切です。

 

「コア・コンピタンス経営」 (ゲリー・ハメル著、日経ビジネス文庫)に、こんな言葉があります。

—(以下、p.159から引用)—

未来図を描く過程で一番難しいのは、それを表現する言葉を見つけることだ。

—(以上、引用)—

 

これを具体的にした言葉が、「思考 日本企業再生のためのビジネス認識論」(井関 利明, 山田 眞次郎著、学研パブリッシング)にもありました。

—(以下、p.55から引用)—

「新しい現象や事例を認識するためには、それらを表す新たな用語体系一式が必要なのです。たとえば、21世紀に入って、”ブルーオーシャン”や”ロングテール”などという用語が生まれて、初めてその用語に対応する現象が浮かび上がってきたわけです」

—(以上、引用)—

言葉を紡ぎ出すことが大事ですが、そのためには本質を理解しなければなりません。

本質を理解してこそ、誰もが「ああ、なるほど」と思えるような、わかりやすい言葉が生まれます。

 

新しいアイデアを生み出すだけではなく、その本質を理解し、いかに言葉に紡ぎ出すか?

なかなか難しい作業です。しかし、とても大切なことだと思います。
 

 

ジェフ・ベゾスの母校・プリンストン大学での卒業式スピーチを聴いて、考えたこと

こんな記事を見つけました。

『「才能と選択の違いを知ること」 Amazon創業者ジェフ・ベゾスが卒業式で語った、道の切り開き方』

アマゾンCEOのジェフ・ベゾスが、母校・プリンストン大学の卒業式でスピーチした内容です。

実際のスピーチもYouTubeでご覧になれます。

ペゾスが言う通り、人生はまさに「選択」の連続。

80歳になった時、過去を振り返って思い出す数々は、「自分が選択した結果」です。

挑戦することも、挑戦しないことも、自分自身の選択です。

 

私は22歳から51歳まで会社員としての立場で挑戦をしてきました。

昨年独立し、新しい挑戦を始めました。この判断をしてよかったと思っていますし、自分としてはベストタイミングだったと思ってます。

 

人によって様々な挑戦があると思います。

そして挑戦しないことには、成功はありません。

一方で、挑戦には必ず失敗を伴います。

このことは、ヤフーCEOの宮坂学さんが「爆速経営 新生ヤフーの500日」で語られていた次の言葉がもっとも的確に表現していると思います。

「今よりも10倍挑戦して、5倍失敗して、2倍成功する」

 

挑戦は、数多くの失敗を受け入れることが前提です。

 

ペゾスのスピーチを聴いて、

■信念:「自分のビジョンは正しい」という絶対的な自信。

■コスト意識:失敗は必要経費の一部と考えること。

■学習:失敗からは必ず貪欲に学び、成長するという腹決め。

挑戦の際には、これらが問われるのではないか、と改めて思いました。

 

「ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者」を読んで、事例を学ぶ心得について改めて考えた

「ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者」を読んでいます。

500ページを超える大著ですが、iPad miniのKindleで読んでいるので、持ち歩きは楽ですね。

 

アマゾンの成功について、アマゾンの関係者に徹底的に取材して書かれた本は、恐らく本書が初めてではないでしょうか?その意味でも本書は大いに価値があると思います。

一方で本書のAmazonの書評にも書いておられる方も多いのですが、ジョブスの本のようにドラマティックな展開は比較的少なく、やや単調でもあります。

逆にこの単調なこと(と言っても、その一つ一つも凄いばかりなのですが)を、着実に実行し、数多くのイノベーションを積み重ねてきたところに、未来を見据えているビジョナリーとしてのペゾスの非凡さがあるように思います。

 

一方で、アマゾンは多くのリスクにも直面してきました。アマゾンが成功してきたのは、ペゾスの凄さに加えて、特に初期の頃に幸運が味方した面も大きいのかもしれません。

「ベストプラクティス」として成功事例を学ぶ際の危険は、ここにあるのではないかと思います。成功事例の結果だけを見て、その成功をなぞろうとするのです。

「風がない日は、凧は上がらない」という言葉もあります。多くの成功事例は、絶妙なタイミングにも恵まれているのです。加えて運も味方している部分も大きいのでしょう。

私たちが事例で学ぶべきは、考え方や判断の基準、リスクへの処し方、リーダーとしての態度、成功までの失敗の過程、等ではないか、と改めて思いながら、読み進めています。

 

とは言え、まだ本書は半分まで読み進めたところ。後半も楽しみです。

 

 

スターバックスのインスタント「VIA」が、意外に美味しい

あのスターバックスは、実はインスタントコーヒーを開発・販売しています。

インスタントコーヒーを開発した経緯については「スターバックス再生物語」の第27-28章(p.304-332)に書かれています。

ドン・バレンシアという細胞生物学者が、自分の研究室で細胞をフリーズドライにする機械と手法を使って風味と香りを保ったままコーヒー濃縮液を乾燥させようとしてチャレンジした試作品がもとになりました。

ドンはこの試作品をスターバックスに持ち込み、その試作品を1989年に飲んだCEOのハワード・シュルツは「これがインスタント」と知って驚愕します。

1993年、ハワード・シュルツの招きで、ドン・バレンシアはスターバックスの研究開発責任者に就任。

「インスタントコーヒーを飲まない人が飲むためのインスタントコーヒーを作る」ことを目標に試行錯誤が続けられ、2007年に製品は完成。同じ2007年末、ドン・バレンシアは癌でこの世を去りました。

「スターバックス再生物語」で、ハワード・シュルツはなぜインスタントコーヒー発売を決意したかを述べています。

—(以下、p.321から引用)—-

インスタントコーヒーを販売するという大きな決定ができるのは、その商品が成功することを知識に基づいて信じているからだ。まず、品質が素晴らしいということ。また、巨大な市場があるということ(だから開発した)。世界的にインスタントコーヒーは全コーヒー消費の40%を占め、年間売上は200億ドル。そのうち高級市場は34億ドルに近い。何十年も革新が起こっていない市場は、刷新の機が熟している。消費財事業を本気で大きな収益源にしようとするのであれば、インスタントコーヒーはまさに最適だ。

–(以上、引用)—

2009年2月、この商品は「VIA」と名付けられて発売されました。イタリア語で「道」という意味があり、さらに開発者のドン・バレンシア(ValencIA)の意味も込められていました。

スターバックスがインスタントコーヒーを発売することについては、投資サイトに「スターバックスよ、やめてくれ!」という見出しの記事が掲載されるなど、大きな反響がありました。

2009年2月17日の記者会見場では、いつも通り、会見前にコーヒーが提供されました。しかしその日提供されたのは、名前を伏せた新製品のVIAでした。

記者会見の後、各社の記事では、

「筋金入りのコーヒー中毒者たちは驚いた。店舗で買うドリップコーヒーと区別がつかなかった」(アドエイジ・ドットコム)

「スターバックスのヴィアを試してみて驚いた。コーヒーの味がするのだ」(スマートマネー・ドットコム)

といったような反応がありました。

 

実は「スターバックス再生物語」のこの部分、近所のスターバックスで読みました。

ふと見ると、店頭でVIAが売っています。

「ライトノート ブレンド」「コロンビア」「イタリアン ロースト」の3本のスティックがセットで300円。「インスタントコーヒー」と考えるとかなり高いですが、購入。

自宅で飲んでみました。お湯を注ぐと、インスタントにない香りに驚き。味もこれまで飲んだことがあるインスタントとは別世界と思えるような美味しいものでした。飲みながら仕事をしましたが、気がつくとコーヒーカップが空になっていました。

私はあまりコーヒーの味覚には詳しくないので、ご参考までに、GIGAZINE編集部での評価があったのでご紹介します。→リンク

誠の記事によると、日本発売は2010年4月だったようです。

 

確かに美味しいのですが、1本100円という価格も「ちょっと別物」という感じです。

先日、近所の東急ストアーに買い物に行ったところ、店頭でもVIAは売っていました。スターバックスの小売戦略は着実に浸透しています。

一方で、日本のインスタントコーヒー市場で70%の圧倒的シェアを持つネスレ日本も、2013年8月末に「さよならインスタント」という大きなイベントを行い、製品を刷新。

コーヒー業界でインスタントコーヒー市場がどのような方向に向うのか、今後の展開を注目したいところです。

 

今、足りないもの。それは「パッション」かもしれない

日本企業は、1990年頃までは、マーケティングのテキストに掲載されるような様々なイノベーションを実現してきました。しかしその後のイノベーションはかなり少なくなり、「失われた20年」を過ごしてしまいました。

イノベーションを起こす原動力は何か?

それは「パッション」なのではないか、と思います。

 

最近ブログで書いているコーヒー・ビジネスのことを振り返ってみても、イノベーションを起こしてきた裏には、戦略に加えて、個人の熱いパッションがありました。

ドトール150円コーヒー:「日本人に本格的コーヒーを毎日飲んで欲しい」

UCC缶コーヒー:「缶入りにすれば、どこでもいつでも飲める。流通も簡単」

スタバの再生:「スタバらしさを取り戻す。戦略や戦術ではない。情熱だ」

セブンカフェ:「コーヒー好きの自分が毎日飲みたくなるものを作りたかった」

 

しかしバブル崩壊を経て、リスクに過敏になってしまい、誰もが損得勘定で失敗するリスクを考え、チャレンジを怖れるようになりました。

かつての「バブルの三つの過剰(雇用・設備・債務)」など、様々なやむを得ない面もありました。一方で、パッションなきこと(持たないようにしたこと)が、「失われた20年」を生み出した面もあるのではないかと思います。

アベノミックスでだいぶ景気も上向きになり、明るい雰囲気になってきました。

しかし一時的に景気が回復しても、パッションなきまま、損得勘定だけでビジネスを続けても、継続した成長は望めないかもしれません。

逆にパッションを持ち、失敗を怖れずに挑戦を続ければ、仮に最初はうまく行かなくてもそこから学び続けることで、成功する可能性はどんどん上がります。(セブンカフェの事例のように) 以前からたびたび言われていることですが、社会全体が失敗を許容するようになることもまた、必要なのでしょう。

  

一方でパッションとは、あくまで個人的で、内発的なもの。外部から「さあ、パッション、持ちましょう!」と言われて、持てるものではありません。

「気がついていたら、知らない間に、やる気にすごく火がついていた」というのがパッションの実態なのかもしれません。

 

景気が上向きの今、私たちは今一度、「パッション」の大切さを思い出し、自分や周囲の人が、その火を消さないようにすることが必要なのかな、と思います。

 

コーヒーは、世の中を反映している、実に奥深い世界。マーケティング事例の宝庫

ブログにここ何回か続けて書いていますが、年末から年始にかけて色々とコーヒーについて勉強しています。改めて思うのは、コーヒーは実に深い世界だということ。

実際、「商品」という観点で考えてみると、コーヒーというのは不思議な商品です。

まず食べないと生きていけない食品とは異なり、なくても生存はできます。

一方で嗜好品であり、精神的に癒やされたり安らぎが得られます。習慣性がありますが、摂取し過ぎてもアルコールやタバコのような害はない、とされています。

また、コーヒーは、発展途上国で作られ、先進国で消費される南北問題を象徴する商品でもあります。

下記のように、2002年のコーヒー生産国と消費国のトップ10は以下のようになっています。消費国のうち、ブラジル・エチオピア以外は全て自国で生産できない先進工業国です。

消費国上位10カ国(千トン)    
米国    1121
ブラジル    765
ドイツ    567
日本    404
フランス    319
イタリア    307
スペイン    188
イギリス    138
エチオピア    98
オランダ    95

生産国上位10カ国(千トン)    
ブラジル    1941
ベトナム    676
コロンビア    560
メキシコ    387
インドネシア    361
コートジヴォワール    328
インド    324
グアテマラ    312
エチオピア    210
ウガンダ    186

社会が経済的に豊かになると、一人あたりのコーヒーの消費が増える傾向にあります。最近はアジアなどでの消費が増えており、コーヒー各社は現地に進出しています。

 

このような商品なので、昔から様々なマーケティングが行われてきました。

この50年間を見ても、

1960年代:インスタントコーヒーのマスマーケティング →参考リンク
1970年代:缶コーヒーのイノベーション →参考リンク
1980年代:ドトールのような格安本格派カフェ登場 →参考リンク
1990年代:スタバのようなスペシャリティコーヒー。「第3の場所」 →参考リンク1 →参考リンク2

さらに、オフィス需要を取り込むため、日本ネスレが始めたネスカフェアンバサダーのような取り組み(→参考リンク)も始まっています。(*1)

そしてここ10年間は業種を超えて、マクドナルドのようなファストフード(→参考リンク)や、セブンカフェのようなコンビニでも本格派コーヒーを出すようになりました。

一方でこの流れの対極として、かつての喫茶店には「サードウェイブ」として自家焙煎でこだわりのコーヒーをフルサービスで提供する動きもあります。

 

2013/11/16の日本経済新聞の記事「ドトール出店「接客型」に セルフから転換、客単価高く」によると、ドトールも、「今後は約1100店あるドトールコーヒーショップの総店舗数は増やさず、コーヒー店の拡大は『星乃珈琲店』を主体とする」と発表しています。

 

このように、コーヒー市場は常にホットであり、コーヒーの歴史はイノベーションと競争の歴史でもあります。リアルなマーケティング事例としてもとても面白いですし、特にここ数年は従来の業界を超えたビジネスが展開されてきています。

またコーヒーの利益率はとても高いのです。

週刊東洋経済 2013年9月28日号の特集「激変!コーヒー市場最前線」によると、100円で売っているコンビニコーヒーの原価構造は以下のようになっています。

コーヒー原料代 約10-20円
カップ、フタ、マドラー、氷など 約30-40円
粗利益 約50円

さらに習慣化により、店にとって顧客固定化もしやすいのです。

 

一方で、この高い利益率が「生活に苦しんでいるコーヒー生産者にもっと利益を分けるべき」というフェアトレードの議論を呼んでいます。

 

コーヒーは世の中の様々なことを反映している、奥深い世界だと実感します。

 

(*1) … 2013/1/10追記

 

 

ゼロから8000億円の市場を生み出した缶コーヒー

昨年6月に出版した「100円のコーラを1000円で売る方法3」のテーマは、「イノベーションのジレンマ」でした。

本書では、グローバル企業参入によって起こるイノベーションでコモディティ化する会計ソフト市場を物語として描きました。

また「イノベーションのジレンマ」の例として、トランジスタラジオと真空管ラジオの話を紹介しました。

 

実は私たちが何気なく飲んでいる缶コーヒーも、まさにこの「イノベーションのジレンマ」を体現したものです。

缶コーヒーは1969年に日本で生まれました。UCC上島珈琲の創業者・上島忠雄さんのある体験がきっかけでした。

1968年、UCC上島珈琲は売上数十億円規模の中小企業でした。創業者の上島さんは全国を忙しく飛び歩いていました。

ある日、上島さんは列車の出発前にビン入りのミルクコーヒー(いわゆる「コーヒー牛乳」)を飲んで休憩していました。そこで発車ベルが鳴り、飲みかけのビンをやむなく売店に返却し、電車に飛び乗りました。

この様子について詳しく書いている「歴史群像シリーズ 77 実録創業者列伝 II」 (学習研究社、2005年)からご紹介します。

—(以下、p.144より引用)—

「ああ、なんてもったいないことをしてしまったのか」−米一粒を大事にするような農家に育った忠雄は、「飲み残したコーヒー」のことがなかなか念頭を去らなかった。そしてひらめいたのである——コーヒーを缶入りにしたらどうだろう。いつでもどこでも飲めるではないか!、—と。….忠雄はこのアイデアを実行すべく、すぐに社員に缶コーヒーの開発を命じた。

—(以上、引用)—

 

しかし開発は困難を極めました。

—(以下、引用)—

ミルクとコーヒーが分離してどうしてもミルクが浮いてしまう。殺菌処理のため風味が悪くなる。缶の鉄イオンがコーヒー成分のタンニンと結合して真っ黒になってしまう。…失敗続きで費用ばかりが嵩んでいく。

—(以上、引用)—

 

困難を乗り越えて1969年、世界初の缶コーヒーがついに完成。

しかしこの画期的新商品に対して『缶コーヒーは邪道』と一蹴されてしまいます。そんな中、UCC社員は全社一丸となって営業に奔走します。

1年後の1970年、大きな転機がやってきました。

—(以下、引用)—

願ってもない機会がやってきた。日本万国博覧会である。忠雄はこのチャンスを逃さなかった。猛烈なセールスの結果、日本のパビリオン・売店で80%、海外パビリオンに至っては100%、UCCのコーヒーを納入させたのである。

万博という檜舞台で缶コーヒーは目覚ましい売れ行きを見せる。

—(以上、引用)—

万博での成功により缶コーヒーは社会に認知され、1970年代に大発展していきます。

缶コーヒーは登場当初は「こんなのは邪道」と言われていましたが、「どこでも飲める」という新しい価値を生みだしたことで、「どこでも飲みたい」という新しい顧客を創造し、徐々に品質を改善し、大きな市場に育ちました。

その一方で、コーヒー牛乳は市場から徐々に消えていきました。

 

1950年代にトランジスタラジオが登場した当初も、真空管ラジオと比較して音質が悪く「こんなのオモチャ」と言われていました。

一方で若者は、当時流行のエルビス・プレスリーが大好きでしたが、両親は「ロックは不良の音楽」として聴くのを許しませんでした。真空管ラジオは両親がいる自宅の居間にあるので、エルビスの歌は聴けなかったのですね。

そこで若者は、「どこでも聴ける」というトランジスタラジオに新しい価値を見いだし、こぞって買い、野外や自分の部屋で聴きました。

トランジスタラジオは新しい顧客を生みだし、市場は育っていきました。そして音質は徐々に改善されていきました。

その一方で、真空管ラジオは徐々に消えていきました。

 

缶コーヒーはトランジスタラジオと同様、まさにクレイトン・クリステンセンが提示した「イノベーションのジレンマ」そのものです。

では、缶コーヒーはどのくらいのビジネスを生み出したのでしょうか?

 

これについては、「グッとくるコーヒー」(徳間書店、2013年)に書かれています。

—(以下、p.47から引用)—

万博翌年の昭和46年(1971年)、UCCの売上高は前年と比べて2倍以上の100億円を突破。缶コーヒーの大ヒットがこの巨大な数字に貢献したのは言うまでもない。…いまや缶コーヒーの市場規模は8000億円を超えている。

—(以上、引用)—
 

まったくゼロの状態から、なんと日本国内8000億円の大市場に育ったのです。

 

イノベーションを実現するのは簡単でなく、困難を極めます。

しかし一方で、イノベーションのビジネス上の威力も、凄まじいものがあります。

 

 

「スターバックス再生物語」…「第3の場所」再生を実現した原動力は、情熱と、絆だった

「スターバックス再生物語」を読んでいます。本書は2011年の出版なので、もう3年前の本です。

タイトルや装丁を見ると、「スターバックス成功物語」の続編的な位置づけの本に見えます。実際に中身も、創業者であるハワード・シュルツ自身が書いた「『成功物語』のその後の苦難と再生」がテーマです。

しかし原書である英語のタイトルは、「成功物語」が”Pour Your Heart Into It” (情熱を注ぎ込め)であるのに対して、「再生物語」は”Onward” (未来へ)。

別の本なのですね。

 

物語は2008年2月、大成功したスターバックスが、自らの良さを失い低迷を始め、全米の店舗を半日休業して、135,000人のバリスタ全員を一斉に再研修をするところから始まります。

実際、スターバックス本社の2008年Annual Reportを見ると、当時のビジネスはこのような状況でした。

          2007年  2008年
店舗数       15,011  16,680
売上        9.4B$  10.4B$
営業利益     1,054M$   504M$
売上営業利益率   11.2%   4.9%
店舗売上(対前年)    5%    -3%
純利益       673M$   315M$
株主資本利益率    29%    13%

グラフにするとこんな感じです。

Starbucks2008ar  

売上は順調に伸びていますが、利益率は急落。一方で店舗当たりの売上の伸びはジワジワ下がり、ついにマイナス。

この数字だけを見ると、こう考え勝ちなのではないでしょうか?

「確かに利益は落ち始めているけど、売上は伸びている。この勢いを保持して、利益率を上げて店舗当たりの成長率を回復するために、無駄を省いて効率化を徹底しよう」

しかし実際はまったく逆でした。

無駄を省き、効率性を追求し、成長を追い求めた結果が、こうなったのです。

 

創業者のハワードがCEOを退任し、二人のCEOを経て、スターバックスでは「売上成長至上主義」が蔓延していました。

スターバックスの良さが急速に失われ、顧客が徐々に離れていた結果が、ついに数字に表れ始めたのです。

たとえば、それまでバリスタは徹底的に教育されて店舗に出ていたのが、店舗急拡大で人材育成が追いつかず、テキストを渡され自習しただけで、店舗に出るようになりました。

また、効率性の追求で店舗デザインは簡略化されてしまいました。

それまでコーヒー豆は店舗で挽いていたのが、効率化のために工場で挽いて真空パックされ店舗に届けられました。味は落ちてしまいます。

売上拡大のため、様々な商品が投入されました。その一つがブレックファスト・サンドイッチ。暖めることでチーズが溶けて強い香りが店内に流れ、店内のかぐわしいコーヒーの香りを消し去ってしまいました。「第3の場所」の魅力が半減です。

これらが積み重なった結果、2007年のコンシューマレポートで行われたコーヒーの味テストで、不名誉なことに、マクドナルドの「マックカフェ」よりも低評価になってしまいました。厳選したコーヒー豆を焙煎するコーヒー専業のスターバックスが、ファストフード店に味で負けるということ自体、スターバックスにとって大きな屈辱でした。(p.112)

自宅と職場の間にある「第3の場所」としてのスターバックスは、急速にその魅力を失っていたのです。
 

ハワードは色々と悩んだ末にCEO復帰を決意。2008年1月にCEOに再び就任します。その際に、このように考えました。(p.76)

・「原点回帰」をしなければならないが、スタバの歴史を守るのではない。改革や革新の気風に結びつける。

・過去の間違いは責めない。

・戦略や戦術では混乱は乗り切れない。必要なのは情熱だ。

そして、下記方針を決めました。(p.90-91)

【即座に実行すること】
・米国店舗ビジネスの現状改善
・お客様との感情の絆を取り戻す
・ビジネス基盤の長期的改革をすぐに開始する

【手を付けないこと】
・コーヒーの品質 (豆自体の品質はよかったのです)
・従業員の健康保険 (米国では健康保険は未整備)

そして2008年前半、「変革に向けたアジェンダ」(=すべてのパートナーがやるべきこと)と「新たなミッションステートメント」(=スターバックスの存在理由)を定めました。この二つが改革の柱になりました。

「変革に向けたアジェンダ」(p.139-141より)

わたしたちが望むもの 魂を刺激し、育む企業として知られ、世界で最も認められ、尊敬されるブランドを有する優れた企業であり続ける

七つの大きな取り組み

1.コーヒーの権威としての地位を揺るぎないものにする
2.パートナーとの絆を確立し、彼らに刺激を与える
3.お客様との心の絆を取り戻す
4.海外市場でのシェアを拡大する。各店舗はそれぞれの地域社会の中心になる
5.コーヒー豆の倫理的調達や環境保全活動に率先して取り組む
6.スターバックスのコーヒーにふさわしい創造性に富んだ成長を達成するための基盤をつくる
7.持続可能な経済モデルを提供する

 

ミッションステートメント (p.147-149より …一部文章を短縮化)

スターバックスの使命———人々の心を豊かで活力のあるものにするために———ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そして一つのコミュニティから。

・わたしたちのコーヒー——常に最高級の品質を追求
・わたしたちのパートナー——一人一人が輝き働きやすい環境。お互いに尊敬と威厳をもって接する
・わたしたちのお客様——感動体験。完璧なコーヒーの提供はもちろん、人と人とのつながりを大切に
・わたしたちの店——くつろぎの空間
・わたしたちのコミュニティ——コミュニティの一員としての責任と、日々の貢献
・わたしたちの株主——すべての人々の繁栄

 

この4年後の2012年のAnnual Reportからは、スターバックスは2008-2009年の店舗閉鎖、人員解雇、売上/利益減といった大きな苦痛を乗り越えて、再び力強い成長を取り戻していることがわかります。

Starbucks2012ar_2  

しかしこれらの数字も、「第3の場所」を再生し、「人々の心を豊かで活力のあるものにする」という使命に向かって動いた結果に過ぎないこともまた、認識すべきでしょう。 

また、世界で現在展開している新型店舗も実におしゃれで、まさに「第3の場所」といった趣きです。

Starbucksnewstore_2(2013/11/19の”Starbucks at Morgan Stanley Global Consumer Conference Presentation”資料より)
 

こんな店なら、いいコーヒーを飲みながら、ずっと時を過ごしていたいですよね。

先日入ったスターバックス・銀座マロニエ通り店の2Fも、このような感じに改装されていました。

 

実際に2012年のAnnual Reportによると、2012年は全世界で、1,063の新店舗を出店する一方で、2,025の既存店舗をリノベーションしています。(全世界のスターバックス店舗数は18,066)

 

なぜ創業者のハワードは、このような変革ができたのでしょうか?そのことを語っている一文があります。

—(以下、p.57から引用)—

創業者の強みは、会社の基盤となるブロックの一つひとつを知っていることだ。会社を活気づけるのはなにか、そのためにはどうすればいいかがわかっている。その知識が、その歴史が、成功のために必要な情熱を呼び起こし、なにが正しくて、なにが間違っているかを判断する直感につながる。

—(以上、引用)—-

「株主至上主義」「数字至上主義」と言われがちな米国企業ですが、情熱と絆の大切さは、実はどこの国でも同じなのだ、ということを実感できた本でした。

現在の企業変革の事例として、ご一読をお勧めします。

 



川島良彰著「私はコーヒーで世界を変えることにした」…今日からの仕事に、元気がもらえます

川島良彰著「私はコーヒーで世界を変えることにした」を読了しました。

川島さんは「コーヒー界のインディージョーンズ」と言われるコーヒーハンター。

1956年、静岡県にあるコーヒー焙煎卸業の店に生まれ、コーヒーの香りとともに育ち、子どもの頃から「中南米でコーヒーの仕事をしたい」という強い想いを持って高校卒業後、エルサルバドルに留学しコーヒーを学び、様々なことを経験されます。

エルサルバドルの内戦中も残ってコーヒーの研究を続けていましたが、内戦が激化してやむを得ず一時期米国・ロサンゼルスに滞在中、UCC上島珈琲の創業者・上島忠雄氏に直々にスカウトされUCC上島珈琲に入社。当時25歳。

上島忠雄氏の「海外にコーヒー農園を持つ」という生涯の夢を託され、ジャマイカでゼロから農園を立ち上げます。

その後も、ハワイ、インドネシア等でコーヒー農園を次々と開発。

さらに「絶滅した」と言われるコーヒー種をマダガスカル島で発見、「コーヒーハンター」と呼ばれるようになります。

51歳でUCC上島珈琲を退職。

今は会社を創業し、コーヒーで世界を変えるために、様々な活動をなさっています。

 

私たちが何気なく毎日飲んでいるコーヒーは、実は南北問題を象徴する商品です。

世界トップ10の生産国は発展途上国ですが、一方で世界トップ10の消費国のうちブラジル・エチオピア以外は全て自国で生産できない先進工業国です。そしてトップ10消費国のうち、アジアでは唯一日本が入っています。

このようなコーヒーの世界で、本書にも書いているように、川島さんは、気候・人種・宗教・文化・言葉がまったく異なる様々な国でのコーヒー農園開発を通じて生産国の現状を知り、コーヒー栽培の知識があり、コーヒー屋で生まれてコーヒーを感覚的に理解し、さらに消費国の事情にも精通している、世界でおそらく唯一のコーヒー屋です。

このような仕事をなさってきた川島さんの生き方に感銘を受けると同時に、川島さんを社員として26年間守り、育ててきたUCC上島珈琲の度量の深さも、凄いと思いました。

「現代の日本にも、こんなスケールが大きい日本人がいたんだ!」というのが率直な感想でした。

コーヒー好きでない方も、本書を読むと、とても元気が出てくると同時に、仕事とは何かを深く考えるきっかけを得られると思います。

そしてもしかすると、読み終わるとコーヒーのことが好きになっているかもしれません。(笑)