文化放送オトナカレッジ 第1回「マーケティングは、アナタの人生に役立ちます!」

昨晩、文化放送オトナカレッジに出演しました。

本番組では来年3月まで、「マーケティングはエピソードで学べ」というテーマでマーケティングのことをわかりやすくお伝えしてまいります。

 

第1回となる昨日は、「マーケティングは、アナタの人生に役立ちます!」と題して、お話ししました。

今回の講義内容レジュメです。

●マーケティングとは何か?
●なぜ人はドリルを買うのか?
●お客様を本当に幸せにするためにはどうすればいいのか?
●お客様は本当の課題に気づいていない
●お客様の「言いなり」になってはいけない
●マーケティングの考え方を理解すると人生はどう変わるのか?

講義の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→こちら

この番組は全国放送なので、山口県など、全国の視聴者の皆さんからメール、Fax、Twitter等でいただいた色々なご質問にお答えしたりして、盛りだくさんな番組になりました。

ラジオのライブ感、いいですね。

 

アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

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お聴きいただいた皆様、ありがとうございました。

 

第2回目は、来週10月8日。「その人、本当にお客様ですか」というテーマでお話しします。お楽しみに。

新規事業では、最初から解決策を検証してはいけない

新市場はあの山のどこかにあるはずよね

「この資料を持っていって、お客さんの反応を見てこようと思います」

新規事業の立ち上げに挑戦しているチームのリーダーはこう言って、新サービス一覧を見せてくれました。

そこには新たに始めるサービスがリストされていました。しかし、中には従来から提供していたサービスもあります。今回の新事業では、「既存サービスにいくつかの新サービスを追加し、体系化したのが売り」とのことです。

「そうですか。どのお客様に行かれるのですか?」
「おつき合いがあるお客様に、セールスがチームで手分けをして行きます」

 

実はこれは、うまく行かないパターンです。

 

当コラムでご紹介しているように、新規事業では「お客様が買う理由」を徹底的に考えて作り上げ、さらにお客様に検証することが必要です。

そのためには、下記を首尾一貫して考え、検証していきます。

(1)「自社の強みはあるか?」
 ↓
(2)「強みを必要とする顧客は存在するか?」(対象顧客の有無)
 ↓
(3)「その顧客は、何を必要としているか?」(顧客の課題)
 ↓
(4)「顧客が自社を選ぶために、どうすればよいか?」(解決策=商品・サービス)

冒頭のケースは、(1)〜(3)のプロセスをサクッと済ませてお客様への検証をスキップした上で、既存サービスを若干手直ししただけで(4)の解決策(=新サービス)をお客様に検証しようとしています。

すると、どうなるでしょうか?

 

まず「新サービス一覧」を見たお客様は、こう考えます。

「またセールスから、新しいサービスの売り込みか?」

そして売り込みに身構えてしまい、本音で話してくれません。

 

さらに、その顧客が本当に正しい顧客なのかがわかりません。セールスが行きやすい自社の顧客にしか行っていないからです。しかし本当は、その顧客は自社の強みが活かせない「売り込んではいけない」顧客なのかもしれません。

自社のセールスがカバーしているのは、市場全体のほんの一部です。市場には、自社セールスとは接点がないけれども、自社の強みを必要としている顧客がいるかもしれません。

セールスが行きやすい自社顧客に行っている限り、それがわからないのです。

 

また、運良く「自社の強みを必要とする顧客」(=本来のターゲット顧客)に会えたとしても、課題についての仮説が十分に考えられていないので、その顧客の課題も検証できません。

課題を検証できないと、解決策がどの程度適切なのかもわかりません。

 

新規事業では、当初に立てた仮説の多くは間違っているので、修正が必要になります。しかしいきなりお客様に解決策を提示してうまくいかないと、どうなるでしょうか?

・対象顧客は、存在するのか?
・その顧客は、仮説で考えた課題を持っているか?
・その課題に対する解決策は、正しいのか?

これらが切り分けられないのです。「うーん、お客様に解決策を持っていったけど、どうもうまく行かないなぁ。なんだろう?」と堂々巡りに陥ってしまい、チームで議論しても結論は出ず、結局新規事業は失敗し、チームは解散になります。

 

→ 本来必要なのは、まず想定している対象顧客が存在するのか、確認すること。

→ その上で、その顧客が持っている課題が想定どおりなのか、確認すること。

→ 解決策が適切かを確認するのは、その後です。

 

ある事例をご紹介します。

1999年。ネット販売が産声を上げ、あらゆるものがネット販売に移行し始めた時期。米国でザッポスが靴のオンライン販売を始めました、

当時、「靴は履き心地を重視するので、オンラインで売るのは無理」と考えられていましたが、ザッポスの創設者は「靴をオンラインで買う顧客は存在する」と仮説を立てた上で、実験で検証しました。

しかし1999年の当時、ネット販売サイトを作るだけでも大変です。

そこで彼は、まず近所の靴店で靴の在庫品の写真を撮らせてもらいました。その写真をウェブに掲載し、誰かが買ったら店の売値で買い、注文主に配送しました。この仕組みなら数日で作れます。

実際にやってみると、靴は売れました。「オンラインで靴を買う顧客」が存在することを実験で確かめたのです。さらに値下げの反応、返品対応など、実際にやってみないとわからない様々なことを学ぶことができました。

ザッポスの事例は、最初に仮説を考えた上で、「そもそも対象顧客が存在するか?」を簡単だけども効果的な実験で検証した事例です。

 

もう一つ、私の事例も紹介します。

私は2013年に30年間勤務した日本IBMを退職し、ウォンツアンドバリュー株式会社(当時の会社名はオフィス永井株式会社)を創業しました。当社では、著作活動以外にも、講演や企業向け研修に力を入れています。そこで企業向け研修を提供するに至った経緯を、このフレームワークに沿ってご紹介します。

独立にあたって、「日本企業がよりマーケティング志向に変革していくお手伝いをしていきたい」と考えていました。

この仕事をするにあたって、私の強みは下記だと考えていました。

マーケティング理論を、現場のビジネスパーソンが納得できるように、専門用語を使わずにわかりやすく伝えられること。これは私自身が、30代中頃までマーケティング知識がなかったために仕事で失敗を繰り返した末、30代後半にマーケティング職に異動してマーケティングを体系的に学び、IBM米国本社などの事業戦略に接して、実業務で成果を出しながら学びを深めていった体験に基づいている。

そこでこの強みを活かして、日本企業がマーケティング志向に変革するご支援をすべく、「著作」「講演」「企業向け研修」を事業の三本柱としました。

しかし「企業向け研修」の市場は、激戦区でもあり、研修サービス大手は価格競争を余儀なくされています。新規参入で規模も小さい零細業者である弊社は、真正面から勝負してもまったく勝ち目はありません。

そこで、この市場でいかに研修サービス大手にない価値を生み出すかを考えました。

私は日本IBMを退職する直前の2年間、ソフトウェア事業の人材育成部長として所属社員1000人のスキル開発を担当しており、研修サービス会社の顧客の立場にいました。企業における人材育成の課題と、投資の判断基準も理解していました。そのおかげで、社内研修を必要とする経営トップの立場に立って、人材育成戦略と連携した研修プログラムを提案することが可能でした。

また独立前後に、著書を読まれた数名の企業経営者様から研修のご依頼をいただき、特に自分が得意とするマーケティング分野で人材育成のニーズが高まっていることも実感していました。

そこで、自分の事業における対象顧客・課題・解決策として、次のように仮説を立てました。

■対象顧客:「自社を変革したい」と考えている経営者、およびマネジメント

■課題:自社が変革期にある。「社員にもっとマーケティング思考を身に付けて欲しい」という問題意識を持っている。しかし世にあるマーケティング研修は理論中心であり、現場社員にとって難解であり、取っつきにくい。このため、マーケティング研修の投資をしても、マーケティング思考が社員になかなか定着しない。

■解決策:著書「100円のコーラを1000円で売る方法」に基づき、マーケティング専門用語をできるだけ使わずに、実務ですぐに使えるように「顧客中心主義」の考え方や「お客様が買う理由」を作るフレームワークを伝え、加えて業務で役立てるように、参加者の実務に即したワークショップを実施する。ワークショップは基本パターンを持ちながら、事例部分は顧客企業毎にカスタマイズする。必要に応じて、お客様企業の事業戦略と人材育成戦略との連携も含めて提案する。

 

この仮説を検証していきました。

有り難いことに著書のおかげで、私は2時間程度の講演依頼を多くの企業様からいただきます。講演の前後で、私に講演を依頼された経営トップとお話しする機会もあります。

多忙な経営トップが行動を起こす際には、必ず背後に何らかのビジネスニーズがあります。私に講演依頼をされているのも、必ず人材育成上で何らかの課題があるからなのです。

そこで経営トップと話し合う際には、上記の仮説で考えた課題をお持ちかどうか、経営トップにお伺いしています。もし課題をお持ちでしたら、解決策として半日から数日間(場合によっては数ヶ月間)のワークショップを提案します。

多くの場合、経営トップの皆様はその場でワークショップ開催を即断されます。

ワークショップ実施にあたっては、研修の基本部分は標準パッケージ化して品質を維持する一方で、事例部分については事前に社内資料を提供いただいたりお客様にインタビューを重ねて、お客様企業様のビジネス状況や提供する商品・サービスに合わせてカスタマイズを図り、参加者が腹オチするようにします。

経営トップにとっては、マーケティング研修を自社の状況に最適化した上で、社員にわかりやすく学ぶ機会を提供できます。

長い目で見ると、私にとっても大きなメリットがあります。それは自分が持っている「お客様が買う理由を作る」方法論やフレームワークを、数多くの業界で磨き上げられることです。これは将来的に、残り2本の柱である「著作活動」と「講演活動」にも活きてきます。

 

たとえ著書の高い認知度により講演の機会をいただいたとしても、もし「企業向け研修」として「対象顧客の定義」や「課題」の仮説を考えず、検証もせず、経営トップに一方的に自分が持っている企業向け研修を提案しても、このような結果にはなりません。世の中に数多くあるマーケティング研修の中に埋もれてしまいます。

 

いかがでしょうか?

強み → 対象顧客 → 課題 → 解決策

一見当たり前に見えますが、この順番で徹底的に考え、愚直に顧客に検証し続けることこそ、成功の近道なのです。

 

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10月1日から、文化放送「オトナカレッジ」のレギュラー出演が始まります

オトナカレッジロゴ

今年10月から来年3月まで、文化放送「オトナカレッジ」にレギュラー出演させていただくことになりました。

私の担当は隔週木曜21時台。「マーケティングはエピソードで学べ」というテーマで、大切なマーケティング戦略を、誰にでも、わかりやすく理解できるように、お話しします。

 

記念すべき第一回目は、10月1日(木) 21:00。

第一回のテーマは、「マーケティングは、アナタの人生に役立ちます!」

Radikoでもお聴きいただけます。→こちら

 

半年間で合計13〜14回の番組を担当しますが、すべてお聞きいただくと、マーケティングのことは一通りわかるように構成しています。

 

よろしければ、お聴きいただければ幸いです。

 

■番組サイト→こちら

■Podcastアーカイブで過去の私の放送もお聞きいただけます→こちら

 

ちなみにすべて生放送です。

考えてみれば、学生時代から会社員時代にかけて話すのが大の苦手だった引っ込み思案だった私が、独立して講演を仕事にし、ラジオの生出演までするようになるとは、人生、わからないものであります。

 

オムニマネジメント2015年10月号に連載第5回『戦うべきか?強みはあるのか?』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年10月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第5回目『戦うべきか?強みはあるのか?』が掲載されました。

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本来、戦略とは「戦って勝つ」ためのものではなく、「戦いを回避して勝つ」ためのものです。

しかし、戦うことが自己目的化したり、強みを持たずに戦ったりするケースも少なくありません。

 

今回はこのことを、次の4象限で整理してみました。

オムニマネジメント4象限201510

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

歩合給制常識の業界で、固定給制を堅持する2つの理由

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代理店業を営む、ある中小企業の社長とお話ししたときのこと。

「創業して30年以上が経ちますが、ウチは一度も歩合給制を採用したことがありません。ずっと固定給制です」

この業界はある商品の代理店業なので、個人や企業への販売活動が中心になります。そのために、セールスに対して、短期的な売上成績へボーナスを支給する歩合給制を採用する会社は少なくありません。

しかしこの会社は、短期的な成績が給与に反映されない固定給制を堅持したまま、地域に密着し、好業績を上げ続けておられます。

歩合給制という業界の常識を覆して、なぜこの会社は固定給制度を堅持してるのでしょうか?

詳しくお話しを伺って、2つ理由があることがわかりました。

 

1つ目の理由は、それが企業理念に沿ったものだからです。

この会社の企業理念は、「お客様の”生きる”を”本気”で考える」です。

そのためには目先の売上を追わずに、お客様の課題を徹底的に理解し、その課題に合った提案をしていくことが必要です。

お客様との対話を通じ、お客様自身も気がつかない課題を見つけることも少なくありません。そこでその課題を一緒に考え、解決策を提示していきます。

お客様の課題を解決するためには、必ずしも高価格帯の商品が適切とは限りません。むしろ低価格帯でも、課題解決に最適な商品もあります。

しかし歩合給制は、セールスが短期的な売上を増やす動機付けになります。そのために歩合給制を採る会社のセールスの場合、この状況では高価格帯の商品を提案するケースも多いのです。

しかし固定給制であれば、そのような動機付けは働きません。

むしろ「お客様の”生きる”を”本気”で考える」という企業理念があり、固定給制という給与体系があることで、たとえ低価格帯であってもセールスはお客様の課題解決のために最適な商品を提案できるのです。

そしてそのような提案を受けたお客様からの信頼を獲得し、次の案件も任されるようになります。

固定給制は、企業理念と一体化したものだったのです。

 

2つ目の理由は、より現実的な問題です。

社長は、このように話を続けました。

「そもそも歩合給制で成績を上げられるような優秀なセールスは、ウチのような小規模の会社にはまず入ってきません。だから歩合給制を採用しようにも、『できなかった』というのが現実なんです」

社長はこのように前置きをした上で、たとえ話をされました。

「大きなテーブルを一人で持ち上げられる人は、滅多にいません。でも四隅を4人で持てば、誰でも簡単に持ち上げられますよね。同じことです。ウチの会社もスタッフで役割を分担して、優秀な営業と同じ結果を皆で分担して挙げられるような仕組みにしたんです」

 

この業界では、優秀なセールスが独立して会社を立ち上げ、代理店を始めるケースが多いのです。

しかし経営者である自分と同じ力量を持つ優秀なセールスは、なかなか入社して来ません。そのままでは、経営者の個人技に頼ってしまうことになります。

この会社も、社長は優秀なセールスでした。しかし自分の営業スキルだけに頼っていては、会社は大きくなりませんし、自分もセールス活動で忙しいまま。なかなか時間は作れません。

そこで誰か一人の力に頼ることなく、社員全員が、社長である自分と同じ事ができるようにする必要があります。

個人技を追求するのではなく、組織力で対応できるようにするということですね。

そのためには、(1)社長と同じ判断ができるようにすることと、(2)スキルを付けることだ、と、この社長は考えられました。

(1)社長である自分と同じ判断ができるようにするために、経営理念を明確にした上で、社員のあるべき行動をクレドや行動指針などで明確化し、さらにそれらと一貫性がある人事評価基準を作りました。

(2)さらにスキルを付けるために、社員に対して手厚く研修を行っています。

そして歩合給制により短期的な売上拡大を狙うのではなく、固定給制で長期的な全体の給与の底上げを図っているのです。

 

お話ししていて、「お客様が買う理由を作る」ためには、

経営理念:いかに社会へ貢献するか
→自社の価値:お客様が買う理由の明確化
→企業文化:失敗からの学びの奨励・人事評価
→個人の働き方

これらがすべて首尾一貫していることが必要であることを改めて学ばせていただきました。

メットライフ生命保険様・特別セミナーで講演しました

2015年9月14日、東京浅草橋で行われた、メットライフ生命保険様の全国代理店・特別セミナーで講演をさせていただきました。

当日は400名の代理店経営者の皆様が参加されました。大きな会場でしたが満席でした。

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皆様、とても真剣にお聞きいただきました。

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演題はいつも通り「お客様が買う理由を、いかに作るか? 「ニーズ断捨離」時代に求められる思考の変革」で90分の講演ですが、全体の2/3は、保険代理店でいかに価値を創っていくかというお話しでした。

保険代理店から見た保険ビジネスの特徴は、全ての保険代理店が、同じ保険商品を取り扱えるという点です。だからこそ、差別化するポイントは、お客様の課題の理解。そこで、千葉県下で先進的な取り組みをされている保険代理店様へ取材させていただき、学んだ結果をベースにしてお話ししました。(「先進的な取り組みをされている保険代理店様」と書きましたが、実は基本に忠実で地道なお取り組みをしておられます)

 

前の週のJTBコーポレートセールス様の講演でも、実際のJTB様の「価値創造への挑戦」を取材し、観光業・地域活性化でいかに価値を創っていくかをお話ししました。

 

ここ1−2年間で、企業が求めているものが、一般的なマーケティングの学びから、さらに業界や企業特有の課題まで踏み込んだ提言へと変わってきていることを、日々実感しています。

このような講演を通して、私自身もとても勉強になっています。

 

企業様からこのような数多く機会をいただき、感謝しております。

大幅値引きなのに、「もう頼まない」

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「あの会社には、もうコンサルティングは頼みません」

ある会社のコンサルティングについて、知人がこのように言いました。

 

その会社は、「プロフェッショナルで高品質なコンサルティング」が売り物でした。詳しい話を聞いて、知人がその会社に「もう頼まない」と言った理由がわかりました。

 

その会社からの見積書には、「初回につき、特別に8割引」とありました。何もお願いしていないのに大幅に値引いていたので、知人は驚きました。

一方で値引きされた見積額は知人の想定金額。

つまり正規料金は彼が想定してた金額の5倍だったのです。

知人は、想定金額の5倍という高品質なコンサルティングを期待しながら発注しました。

 

「プロフェッショナルで高品質なサービスが売り物」ということでしたが、実際に担当したのは初心者でした。その会社は、OJTも兼ねてコンサルティングサービスを提供したのかもしれません。

結果として、成果はほとんどありませんでした。知人は残念そうに言います。

「『この仕事は苦手だから、プロにお願いしよう』と思って、この会社にお願いしたのですが…。独力でやった方が、ずっといい結果になったと思います。無駄な手間と時間がかかっただけでしたね。私の見極めが甘かったのですね」

 

「サービスの価格設定は、怖いな」と思いました。

 

改めて、整理して考えてみました。

顧客満足は、次の式になります。

顧客満足 = 提供価値 − 事前期待値

たとえば、100の事前期待値を持っている顧客に100の価値を提供しても、顧客満足は100引く100なので0。顧客の言いなりになっている限り、顧客の事前期待値は超えられないので「当たり前」と思われます。顧客満足を100にするには、事前期待値を大きく超える200の価値を提供する必要があります。

では、このケースではどうでしょうか?

最初に知人は、「正規料金は、想定金額の5倍」と告げられました。この時点で、通常の事前期待値が100とすると、たとえ8割引であったとしても、知人の事前期待値は正規料金の5倍の500にはね上がっています。

しかし実際に提供されたのは、初心者によるOJTを兼ねたサービス。恐らく提供価値は20程度でしょう。

顧客満足度は20−500なので、マイナス480。

このように考えると、知人が「もう頼みません」と言うのも、無理はありません。

仮にその会社が提示した価格を「正規料金の8割引」と言わず、正規料金を最初から1/5に設定した上で「これは値引きなしの正規料金」としていたらどうでしょう?事前期待値は100のままなので、提供価値は20でも、顧客満足度はマイナス80で留まっていた筈です。

 

このように、たとえ値引きしても正規料金を提示した時点で、顧客の事前期待値はその正規料金で設定されてしまいます。

一方でサービスには、必ずコストがかかります。サービスを、熟練者により8割引で提供すると、多くの場合は採算割れになります。そこで二通りの方法が採られます。

(1) 採算度外視で、熟練者がサービスを提供する

(2) 採算を合わせるために、初心者の担当者で対応する。(かつOJTを兼ねて、担当者スキル向上も図る)

 

正規料金を提示した上で値引きをしたのであれば、本来あるべき姿は(1)です。サービス提供者は、常にお客様の期待値を上回る価値を提供することが求められているからです。

 

知人が遭遇したのは、おそらく(2)のケースです。正規料金であれば熟練者に担当させるところを、8割引にしたために初心者にOJTを兼ねて担当させたのです。

熟練者が提供するサービスと初心者が提供するサービスでは、大きな差があるのは自明です。そして高品質を期待しているお客様に初心者によるサービスを提供することで、お客様の満足度は大きく下がります。

加えてサービスを受けるお客様は、サービスに支払う費用の他にも、時間や手間など様々な見えないコストをかけています。低品質なサービスを提供すると、それらの大きなコストも無駄になってしまうのです。さらに機会損失も莫大です。

「値引きしたから」という理由で採算性を考え、OJTを兼ねて初心者が対応するのは、サービス提供者側の発想です。

たとえ「値引きした」と言ったとしても、正規料金を提示した以上、正規料金のサービスを提供する義務があるのです。

 

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

サービス提供者が、「高い正規料金を設定すれば、プレミアム感を訴求できる一方で、値引率を大きく見せれて提示すれば割安感も訴求できる。いずれにしてもお客様が支払う金額(=売上)は同じ。だから一石二鳥だ」と考えているからかもしれません。

しかし実際には、高い正規料金を設定することにより事前期待値を必要以上に上げてしまう一方で、提供する価値の満足度を大きく下げることで、顧客離れを引き起こしてしまうのです。

 

価格設定こそ、周到な戦略思考が求められるのです。

そして値引きを提示する際には、慎重な上にも慎重を期して、明確な理由を持つべきなのです。

 

自戒を込めて、考えたいものです。

 

JTBコーポレートセールス様の法人営業マネージャー会議で講演しました

2015年9月2日(水)、虎ノ門ヒルズで行われたJTBコーポレートセールス様の法人営業マネージャー会議で講演しました。

JTBコーポレートセールス様は、JTBグループの中で、首都圏の法人顧客を担当しています。

今回は『「お客様が買う理由」をいかに作るか? 「ニーズ断捨離」時代に求められる思考の変革』と題して、法人ご担当の営業マネージャーの皆様200名に、JTB様の2020年ビジョンにおける今回の講演の位置づけをご説明し、「お客様が買う理由」を作る考え方、観光業と地域活性化における取り組みなどを90分間お話ししました。

このような機会をいただき、感謝致します。

 

 

マーケティングと人材育成は繋がっている、と実感した体験

人材育成の写真

「人材育成の責任者を担当して欲しい」

前職の日本IBM社員時代、戦略マーケティングマネージャーの仕事を始めて15年目。1ヶ月前に50歳の誕生日を向かえたばかりのある日のこと、事業本部長から、突然このように切り出されました。

(戦略マーケティングマネージャーの仕事は自分の天職。これからもこの仕事を続けて、究めていこう)と思い定めた矢先のことでした。

事業本部長はこのように続けます。

「永井さんが考える戦略と、ボクが考える戦略は、方向性が同じだ。だからウチの事業本部にいる1000名の全社員が、同じ戦略の方向性を理解して、仕事をするようにしたい」

2日ほど考えた末、(悩んでいるのならば、チャレンジしてみよう)と、異動することにしました。

 

とは言え、マーケティング業務で顧客中心主義については深く学んできたものの、人材開発の業務についてはまったくの門外漢。(なぜ自分が、人材育成の責任者に?)と思いました。

しかし、担当してみてわかったことが2つあります。

 

1つ目は、気づきを得たスキルが高い社員がいることが、顧客中心主義を実現する前提である、ということ。

お客様に本当に満足いただけるような製品やサービスを提供する主体は、社員。よくよく考えれば当たり前のことでした。

「自分の仕事で、世の中をよくしたい」という深い気づきを得た社員がいて、その社員がお客様にご満足を提供できる高いスキルを持つことが、あるべき姿です。

ではそのあるべき姿を実現するためには、現状はどうなっていて、何が足りないのか?

事業本部傘下にある十数の事業部毎に、あるべき姿、状況、課題は微妙に異なります。「仕事の気づき」「製品スキル」「ビジネススキル」「業界別スキル」に分けてそれらを見極め、優先順位を付けて、対策を打ち、結果を四半期毎に検証していきました。

仕事を通じて、「社員自身の気づきを深めて、さらにスキルを高めることが、とても大切なのだ」だと実感しました。

 

2つ目は、人材育成戦略とマーケティング戦略の方法論は、基本は同じである、ということ。

1つ目の方法論で書いたように、人材育成戦略の策定と実施にあたっては、

「あるべき人材像を見定める」→「スキルの現状を把握する」→「課題を見極める」→「対策を打つ」→「検証する」

この仮説検証の愚直な繰り返しが必要です。

「人材やスキル」を、「事業」に置き換えると、マーケティング戦略の策定と実施も同じです。

「あるべき事業を見定める」→「事業の現状を把握する」→「課題を見極める」→「対策を打つ」→「検証する」

自分が人材育成を担当することになった意味は、ここにあったのかもしれません。

米国系外資系企業ということもあって四半期毎という短期間で予算の獲得が必要なので、そのタイミングに合わせて結果を検証し、改善を積み重ねることで、事業部全体のスキルは上がり、ビジネス面の成果に繋がっていきました。

 

一方で、30代前半の頃から「50歳になったら独立しよう」と考えていました。人材育成責任者を1年半担当し、51歳の半ばを迎えて、独立しました。独立後は、著作・講演・研修などの活動を通じて、企業様の人材育成のご支援をしています。

マーケティング戦略の策定・実施と、人材育成戦略の策定・実施、ともに徹底的に究めた実戦経験があることは、現在の私自身の大きな強みになっています。

 

2013年7月に独立後は、色々な企業様から想定していなかったようなご依頼をいただきます。そしてそれらの多くは、私の人材育成業務での経験と同じように、様々な形で思わぬ方向に進化し、繋がっています。

独立して3年目を迎えて、様々な形で与えられた仕事の意味を解釈し、方向性を決めるのは自分次第であることを、改めて実感しています。

 

オムニマネジメント2015年9月号に連載第4回『仮説はあるか?検証しているか?』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年9月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第4回目『仮説はあるか?検証しているか?』が掲載されました。

オムニマネジメント201509号

「考えたことを、実行してみて、結果を検証した上で改善策を考え、また挑戦する」

この当たり前のことは、意外とできていません。

逆に、これをキッチリと行うことだけでも、大きな差別化を図ることができるのです。

 

今回はこの仮説検証について、「仮説はあるのか」「検証しているのか」の2つの観点で、次の4象限で事例をご紹介しながら整理してみました。

四象限201509

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』の台湾版『一杯咖啡的商業啟示』、できました

『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』の台湾版、『一杯咖啡的商業啟示』が、昨日届きました。

コーヒー台湾版IMG_4359s

日本語版の表紙や装丁を踏襲していて、いい感じです。

話題のコーヒーと言うことで、台湾でも話題になっているようです。→リンク

 

ご尽力下さった皆様に感謝です。

「シニア社員が変わらない」というマネジメントの悩み

シニアなビジネスマン

講演や研修にあたって企業のマネジメントの方々とお話しすると、多くの業界で共通して、こんなご相談を受けます。

「40代後半から50代のシニア層が、なかなか変わらないんですよね……」

多くの社員は、新卒入社してその会社一筋で働いています。40代後半〜50代になっている方は、四半世紀以上働いていることになります。

四半世紀も経つと、若い頃は当たり前だったことが、大きく変わります。しかし若い頃には当たり前なことは習慣化されることも多く、ともすると変わるのは難しいのです。

どうすればいいのでしょうか?

 

最近、新しいビジネスに取り組む企業や、地域活性化に取り組んでいる地域で、成果を挙げている方々とお話ししていて、気がついたことがあります。誰もがとても楽しそうなのです。たとえば、

■目を輝かせながら、「この仕事を、5年後、10年後にはこうしたいんです」

■ニコニコしながら、「仕事が本当に面白いんです。プライベートとほとんど区別がついていません」

■穏やかな表情で、「周りの人たちがどんどんサポートしてくれて、感謝しかありません」

皆さん、自分で心から「やりたい」と思っている仕事をしておられます。額に青筋を立てて、「歯を食いしばって、頑張っている」という感じがしないのです。そしてこれは、年齢を問わず様々な世代の方がおっしゃっているのです。

しかし詳しくお話しを伺うと、最初から「やりたいことをやる」というスタイルで仕事をしていなかった方も多いのです。

むしろ当初は、「不本意ながら仕事をしていた」という方も少なくありません。それがちょっとしたきっかけで「やりたいことをやる」ように変わり、成果を挙げて、好循環に入っているのです。

 

かつての企業では、仕事で「やりたいことをやる」社員はどちらかというと評価されず、会社で決まった方針を受けて組織人として粛々と進める人材が高く評価されてきました。

一昔前までは、決められた業務を進めるためには多くの人手が必要でした。だから「言われたことを、忠実に行う」ことは、企業でビジネスを進める上で必要なことだったのです。

加えて顧客ニーズも今ほど多様化しておらず、環境変化も穏やかで、一旦決めたことは頻繁に変える必要はありませんでした。

 

しかし現代では状況が大きく変わっています。

「無人工場」の出現が象徴するように、企業の定型業務の多くはITで自動化されつつあります。「言われたことを、忠実に行う」人手がかかっていた業務の多くは、急速にITで代替されているのです。

さらに顧客ニーズがきめ細かく細分化され、世の中の変化も激化しているので、一度決めたことでも場合によっては臨機応変に修正判断が必要になります。

 

このような状況になると、かつて高く評価されていた「言われたことを、言われた通り実行する」人材しかいない企業は、成果を挙げられなくなってきています。

中には、そのような人材を維持するために、本来IT化できる業務を自動化できずに人手で対応し続け、業務スピードの競争力が失われているという、あまり笑えない状況も起こっています。

 

これは先にご紹介した、「やりたいことをやる」人が成果を挙げていることと、表裏一体なのです。

 

「やりたいことをやる」のは、現代だからこそ求められています。

ダニエル・ピンクという人が、『モチベーション3.0』という本を書いています。彼はモチベーションを次の3つに分けています。

モチベーション1.0 …「生きるために、頑張る」
モチベーション2.0 …アメとムチ。「お金のために、頑張る」
モチベーション3.0 …自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づく。「やりたいから、やる」

モチベーション2.0(アメとムチ)は、「これを達成したら、ご褒美をあげる」という方法です。200年前の産業革命の時代に生まれたもので、ルーチンワークには極めて有効であり、現代社会に広く定着しています。

しかしこの「アメとムチ」が有効なルーチンワークは、現在、ITで急速に代替されています。加えて「アメとムチ」は、知的作業には必ずしも有効ではありません。本書でも、「創造的なアイデアを生みだしたら、お金をあげます」と言われると、逆に生産性が落ちてしまう例を挙げています。

一方で、自分が心から夢中になっていることに取り組んでいる場合、「寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまう」「やめろと言われても、絶対やる!」という経験がありませんでしょうか?これがモチベーション3.0です。

創造性が求められる知的作業では、心から「やりたい!」と思うことに挑戦することで、様々なアイデアが生み出されるようになり、生産性が極めて大きくなります。

知的生産性は、モチベーション2.0と比べて、モチベーション3.0の方がはるかに高いのです。現代は、知的生産性が求められる知識社会です。「やりたいから、やる」のは、知識社会の現代だからこそ、求められているのです。

 

では先にご紹介した、私が出会った、やりたいことをやって成果を挙げている人たちは、どういうきっかけで「やりたいことをやる」ようになったのでしょうか?

多くの場合、何らかの「危機感」が契機になっています。

たとえば、お客様からの真摯なクレーム。あるいは「このままでは大切なものが失われてしまう」という状況。

そこでちょっとした勇気を持って、小さな行動を起こしてみると、小さな成果が上がる。徐々に仲間も増える。仲間が増えると楽しいし、盛り上がっていきます。

これはIT普及とも関連しています。IT普及で、従来は個人では処理できなかった業務の手間が大きく削減されているのです。端的な例を挙げると、20年前までは1000人にイベント告知をするのは大きな手間がかかりました。今ならブログ、Facebook、Twitter等を使えばとても簡単です。

さらに個人の想いが出発点なので、その場で様々な問題が起こっても、上の判断を待たずに、自分の裁量で判断し、臨機応変に対応できます。

そして、個人の小さな行動が仲間を集めて徐々に大きくなり、より大きな成果を生み出しているのです。

この最初のきっかけが、「身近な危機感」と「小さな実行」です。

 

実際には、「やりたいことをやる」というスタイルで仕事を進めるためには、それに見合ったスキルが必要です。

そして40代後半〜50代のシニア社員は、四半世紀の会社生活で様々な成功体験や失敗体験を通じて多くのスキルを身に付けています。

一方で、「言われたことを、忠実に行う」スタイルで仕事をしてきた人も、少なくありません。

しかし現代で求められていることは、「やりたいことをやる」という仕事のスタイル。

経験豊かなシニア社員だからこそ、自分の専門分野で、他の人には見えない色々なものが見えるし、「このままではダメだ」という危機感も持っている筈です。

「やりたいこと」さえ見えれば、スキルはあるので、容易に「自分がやりたいこと」=「自分ができること」=「会社としてやるべきこと」とすることができます。

実際には、会社勤めをしていると、思い通りにならないことの方が多いものです。たとえば、プロジェクトが全社方針で中止と決まってしまったり、信頼する仲間が配置転換されたり、あるいは自分の部署や会社が、別の部著に統合されたり会社に買収されてたりすることは、少なくありません。

しかしそんな状況であっても、経験豊富でスキルもあるシニアな社員こそ、自分の周りを改めて見回してみて、「やりたいこと」を見つけられるはずです。

社員個人が「やりたいから、やる」というように、会社も社員も考え方を変えてみると、自分自身も楽しいし、会社にとっても大きな戦力になります。

 

組織の中に、「やりたいことをやる」人が数多くいる組織は、大きな成果を挙げていきますし、なによりもそのような組織にいる社員自身が楽しくなると思います。

 

マーケティングの講演・研修・著作活動を通じて、少しでもそんな社会になるお手伝いができれば、と思っています。

 

 

船井総合研究所様主催の経営戦略セミナーで講演しました

2015年8月21日(金)、船井総合研究所 第89回経営戦略セミナーで講演をさせていただきました。

今回の講演は、SPビジネス塾・印刷会社経営研究会合同分科会として、印刷業・メディア業の経営者の皆様が参加されました。

船井総研様講演20150821

 

参加された皆様からは、色々なご意見をいただきました。

■価格競争の波に巻き込まれている業界なので、いかに自社商品の価値を上げて提供できるのか参考になりました。今後弊社事業で新しい事をする場合にも、この考え方を参考に進めたいと思います。

■「お客様が買う理由」を作る。もう一度、具体的に明確にしたいと思います。頭の整理がされて大変よかったと思います。実行あるのみ。

■社内で新製品開発について考え直します。

■何か新しいサービスは?日々考えているつもりであったが、自分たちのできること、強みからできるサービスを徹底的に考えてみたいと思いました。強みからの対象顧客発掘を実践していきたいと思います。

■全社員で徹底的に考える、という言葉に、自分がやりたい事なので、後押ししていただきました。

■具体的にどのように考え抜くのか非常によくわかりました。ありがとうございます。

■表面的なニーズにしか応えられていないと思っています。もっと本質的なこと、見逃している課題(ニーズ)を把握することで、他社差別化が図れればと思います。

■「専門用語を少なく」と最初におっしゃられた通り、わかりやすく入ってきやすかったです。

■すべてのお客様の要望を考えすぎていたような気がしました。

■顧客価値にフォーカスし、問題解決できるよう全社で社員の自主性を高めていく。磨くべき自社の強みを考えて、どんなお客様のどんなニーズを解決するか考え抜きたいと思います。

■お話しを伺いながら、自社での取り組みにあてはめてみていました。とても充実した時間をありがとうございました。

 

さすがに会社を預かる経営者ならではの問題意識をお持ちの皆様で、私自身もとても勉強になりました。

 

このような場をいただき、感謝致します。

 

「当社の強みは製品」という考えは、危険です

「お客様が買う理由」を作るためには、

(1) まず自社の強みを考え抜き、
(2) その強みを必要とするお客様が誰かを考え、
(3) そのお客様はどのような課題を抱えているかを考え、
(4) どのようにすればそのお客様が自社を選ぶかを、

考えることが必要です。

しかし「まず自社の強みを考えましょう」と提唱すると、こんな答えが返ってくることが少なくありません。

「当社の強みですか?それは製品ですよ」

確かに、強い競争力がある製品を擁する企業様の場合、「自社の強みは、製品だ」と考え勝ちです。

しかし「製品」とは、自社が持っている何らかの「強み」を活かして、ターゲットの顧客の課題を解決するために生み出された「解決策」です。

言い換えれば製品とは、自社の強みを活かし、顧客の課題を解決するために生み出された結果です。

企業の強みとは、製品ではなく、もっと深いところにあります。

 

「企業の強み」について、富士フイルムの事例で考えてみましょう。

 

デジカメ登場前、カメラでは写真フィルムが使われていました。

写真フィルム

この写真フィルム業界で長年、世界で圧倒的な巨人として君臨していたのが米国コダック。富士フイルムはコダックに挑戦し続け、2000年頃、ついに写真フィルム市場で世界の頂点に立ちました。

しかし皮肉なことにこの時期に、急速に普及し始めたデジタル写真によって、この写真フィルム市場の9割以上が消滅することがわかりました。当時の富士フイルムは、写真フィルムで売上のなんと6割、利益の2/3を稼ぐ屋台骨。これがわずか数年のうちに音を立てて崩れ始めたのです。

ここで行うべきことは、 富士フイルムの強みを活かし、数年以内に写真フィルム市場を代替できる新事業を立ち上げることです。しかし、富士フイルムの強みとは何でしょうか?

もし「富士フイルムの強みは、写真フィルム技術」と考えていたら、富士フイルムの未来はありませんでした。事実、巨人・コダックは、「コダックの強みは、写真フィルム」という考えから抜け出すことができず、2012年に倒産しました。

 

実は1970年頃、写真フィルムは白黒からカラーへと世代交代をしています。かつての白黒写真フィルムの時代は、写真フィルムメーカーは世界中に何百社とありました。しかしカラー写真フィルムに世代交代すると、それらの会社の多くは淘汰され、残った主なカラー写真フィルムメーカーは、米国コダック、独アグファ、コニカ、そして富士フイルムの4社だけになりました。白黒フィルムの製造技術の延長ではカラー写真フィルムを製造できなかったからです。三原色の微妙なバランスにより天然色を再現するカラー写真フィルムを製造するには、極めて高度な基盤技術が必要だったからです。

 

このように考えると、一見「コア技術」(=強み)と思われがちな写真フィルム技術は、実は「コア技術」ではなく、「コア技術」によって生み出された「製品技術」であることがわかります。

カラー写真フィルムを製造していたメーカーは、高度な基盤技術の集合体である写真フィルム技術を生み出すために、自分たち自身も十分に意識していなかなかった「コア技術」(=強み)を持っていたのです。

そして米国コダックが倒産したのは、その「コア技術」(=強み)を活かして新規事業を立ち上げることができなかったからなのです。

当時、富士フイルムのトップだった古森重隆社長は、技術開発部門のトップに対して、富士フイルムが持つ技術の棚卸しを命じました。1年半ほどして十数件の基盤技術が整理されました。そして富士フイルムがどのような技術を持ち、市場ニーズに対してどのような可能性を秘めているのかを評価していったのです。その上で、新たに挑戦する新規事業として6つの事業分野が選ばれ、それらの事業が急速に衰退していく写真フィルム事業を代替していったのです。

 

それら新規事業の一つが「メディカル・サイエンス事業」。

松田聖子さん、小泉今日子さん、中島みゆきさん、松たか子さんといった大物歌手や女優が登場する、赤を基調とした広告とパッケージが印象的な化粧品「アスタリフト」をご存じでしょうか?このアスタリフトは、富士フイルムが「メディカル・サイエンス事業」において立ち上げた新規事業なのです。

 

実は富士フイルムが持っている十数個の基盤技術の中で、化粧品市場に活かせる技術がありました。

1つ目はコラーゲン技術。写真フィルムはコラーゲンでできていますが、肌の張りを保つのにもこのコラーゲンは必要です。

2つ目は抗酸化技術。写真の色褪せを防止する抗酸化技術は、肌の老化にも有効です。

3つ目はナノテクノロジー。カラー写真フィルム技術で培ったナノテクノロジーを活用すれば、化粧品を肌になじませることにもできます。

化粧品市場でこれらの富士フイルムが持つ技術上の強みを必要とする顧客は、「シワやたるみ、日焼けによるシミ・くすみを防止し、肌の張りを瑞々しく保ち、いつまでも若々しい肌を保ちたい」という課題を持っている30〜50代の女性です。

そこで富士フイルムは、アンチエイジング化粧品として、このスキンケア商品「アスタリフト」を開発したのです。まとめると、次のようになります。(「魂の経営」(古森重隆著)を参照して作成しています)

(1)自社の事業
アンチエイジング化粧品

(2)自社ならではの強みは何か?
【コラーゲン技術】 フィルムのベース → 肌の栄養
【抗酸化技術】   フィルム色褪せ防止 → 肌の老化防止
【ナノテクノロジー】 フィルム微細加工 → 肌へなじませる

(3)その強みを必要とするお客様は、誰か?
30代〜50代の女性

(4)そのお客様は、何を必要としているか?
シワやたるみ、日焼けによるシミ・くすみを防止し、肌の張りを瑞々しく保ち、いつまでも若々しい肌を保ちたい

(5)お客様が自社を選ぶためには、どうすればよいか?
アンチエイジング化粧品「アスタリフト」を開発し、スキンケア商品として提供する

 

「自社の強みを見極める」「その強みを必要とするお客様を見極める」「そのお客様の課題を見極める」「お客様が自社を選ぶためには、どうすればいいか考える」……一見、何も目新しいことはありません。むしろ言い尽くされており、陳腐化している言葉、といってもいいかもしれません。

実は、真実は言い尽くされた言葉の中にあります。そして、この言い尽くされたことを実行しようとしない企業や人も多いのです。

米国コダックが破綻し、富士フイルムが生き延びたのも、富士フイルムが自社の強みを見極め、その強みを必要とする顧客と課題を見極め、リアルな顧客で検証し続けるという、「当たり前のこと」を愚直に実行したからです。

成功する人や企業は、言い尽くされたことを愚直に実行しているのです。

 

「魔法の絨毯」は存在しません。当たり前のことを当たり前に行うことこそ、王道なのです。

SQUET 2015年8月号にインタビュー記事を掲載いただきました

三菱UFJリサーチ&コンサルティング様が発行されている会員誌「SQUET」(毎月1日発行)に、インタビュー記事を掲載いただきました。

SQUET201508

「外から見える日本市場の魅力とその可能性とは? ニーズの発掘と独自技術で新たなマーケットを切り拓く」というお題をいただき、お話しをさせていただきました。

 

会員誌「SQUET」は、三菱東京UFJ銀行様とお取引がある経営者の方々が多く読んでおられます。

このような機会をいただき、光栄です。

 

 

大震災で壊滅した気仙沼で、観光ビジネスが大きく復活した理由は、「み・か・た」だった

2011年3月11日夜。
気仙沼。

大地震で破壊された石油タンクから流出した油で、街中が大規模な火災に見舞われた衝撃的な映像が、テレビでも放映されました。

「この大火災の中に、どれだけの人が取り残されているのだろうか?」

私はネット経由のテレビで壊滅しつつある気仙沼を、何ひとつできない自分の無力さを感じながら、ただ見守るだけでした。

あれから4年。実は気仙沼で、観光ビジネスが大きく復活していることを、ご存じでしょうか?

 

先週2015年7月27日(月)の夜、原宿で行われたTourism Design Drinks Vol.2で、気仙沼プラザホテル・支配人の堺丈明さんのお話しをお伺いする機会をいただきました。

ちなみに会場はこんな感じ。

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下の写真で、右側の方が気仙沼プラザホテル・支配人の堺さん。真ん中がこの会を主催したグラグリッド代表の尾形さん。左が話の内容を絵でまとめられたグラグリッドの三澤さんです。

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講演の前に、私は何の前提知識も持たずに、堺さんとお名刺交換しました。大震災当日に大火災に見舞われた気仙沼のイメージを持っていたので、「大変だったのではないですか?」と堺さんに伺ったところ、ごく普通のさりげない様子で「いやぁ、大変でした」。

 

堺さんのお話しが始まりました。

まずは開口一番。「気仙沼のカツオを持ってきましたので、皆さん召し上がって下さい」

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これがまた美味でした。

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気仙沼で育った堺さんですが、ホテルに勤めながらも、実はあまり気仙沼が好きではなかったそうです。

「何もないし。魚臭いし」

そして気仙沼プラザホテルの支配人になってから間もなく、3.11の大震災が起こりました。

 

震災当日、堺さんは仕事がたまたま休みで、大島にある自宅にいました。ホテルから船で30分ほどの場所です。ご両親とお子様は無事でしたが、その日に気仙沼に仕事に行っていた奥様とは、震災直後に携帯で連絡が取れた後、連絡が取れませんでした。しかし堺さんも身動きが取れません。

震災1週間後、やっと気仙沼に行くことができました。そして船が到着した波止場に、なんと奥様がいました。

「生きていてくれてありがとう」という言葉しか出なかったそうです。

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気仙沼はまさしく壊滅状態。ホテルを再開したのはライフラインが通った翌日の5月1日。

しかし観光客が来るはずもなく、工事関係者やボランティアの方々の宿としての再出発です。

モチベーションが上がらないまま、ただ工事関係者に宿泊場所を提供するという仕事の日々が続きます。

そんな状況で半年が過ぎたある日、堺さんは、カンカンになったある宿泊客から叱責されます。

「なんだこの宿は?『いらっしゃいませ』もないし、布団も敷いていない。食事もセルフサービス。震災の上にあぐらをかいているだけじゃないか!」

この方は、被災されたご親戚の誕生祝いのために来られた、一般の旅行客でした。

その時、堺さんの口から自然に出た言葉は、「申し訳ありません」ではなく、「ありがとうございます」。

これを期に、堺さんの考え方が一気に変わりました。

 

震災前までは、堺さんは営業に出ると「ウチのホテルに来て下さい」と、気仙沼のことは何も言わずにホテルの宣伝ばかりしていました。

震災後は、ホテルを売る前に、まず気仙沼のことを売り込むようになりました。

 

同じようなことが、気仙沼のいろいろなところで起こり始め、気仙沼の事業者同士が協業するようになりました。

 

たとえば、気仙沼観光タクシーは、「タクシーは観光産業である」と考えて、気仙沼の観光に取り組んでおられます。
タクシーで気仙沼をまわりながら、タクシー運転手の皆さんも「震災の語り部」としてスキルを高めています。

また、新たに防潮堤を建設するために、海が見えにくくなりました。そこで「街や丘に魚を走らせて、海を感じられるようにしよう」と「おさかなタクシー」も始めました。

デザインも子供たちに公募しています。この写真は、気仙沼観光タクシー様のFacebookページから転載しました。

BEXI

また、日本酒の海中貯蔵も気仙沼で始まりました。海中貯蔵すると、瓶が波で四六時中かき回され、とても美味しい日本酒になるそうです。しかし通常の発想では、漁業と日本酒の協業連携はありえません。これも「気仙沼で何かできないか?」と事業者同士で新たに知恵を出し合った結果です。

 

また、映画監督の堤幸彦さんも、気仙沼を舞台にドキュメンタリードラマをシリーズで制作されています。日本で一番忙しいと言われる映画監督ですが、気仙沼では泥すくいなどのボランティアもなさっています。

 

さらに俳優の渡辺謙さん。最初はNHKの取材で何回か気仙沼に来られました。そのうちに渡辺謙さんは「自分でできることはないか?」と考え、気仙沼の人たちに聞いたところ「人との出会いの場所がない」。

そこで渡辺謙さんは、気仙沼にカフェK-portを作りました。ご自身が大病で、「生きる、死ぬ」の壮絶な体験をなさった渡辺謙さんならではの男気を感じるお話しです。

これが店内。真ん中にいるのが渡辺謙さん。スクリーンでは凄まじいオーラを発する渡辺謙さんも、お店では普通の人だそうです。

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ちなみに、この日の堺さんは二日酔いでした。なんと昨晩、K-portで渡辺謙さんと飲み明かしていたとのお話しでした。

 

このように気仙沼が大きく変わったきっかけは、やはり震災でした。

堺さんは、「いろいろな人に助けられて、感謝の気持ちが生まれ、本気で付き合うようになった。そして集まる場所ができた」とおっしゃっています。

人々と繋げて新たなものを生み出すために、堺さんは色々なところに行きます。そこで大切なのがSNS、特にFacebookです。情報発信をすることで、お互いに何を考えているかがわかるようになります。

たとえば、気仙沼プラザホテルで商品券を発行した時は、お店を一軒一軒回りました。この際にも、Facebookで情報発信をしていたことで、相手も事前にわかっていたそうです。

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堺さんの講演の後、堺さんが「師匠」と呼ぶJTBの山下さんが話されました。

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山下さんは、JTBで観光立国推進の戦略を担当しておられます。実は私も、山下さんのご紹介でこの会に参加しました。

 

山下さんは、「気仙沼の文化は、『おかえりなさい』文化」とおっしゃいます。

三陸沖での沖合漁業や、世界の海を対象にした遠洋漁業の基地として、全国から優秀な漁師を集めてきた気仙沼は、外の人をまったく気にせず受け入れる文化があります。気仙沼の人たちは、外の人とのネットワーキング作りが上手なのです。

さらに大震災で、地域が壊滅してしまいました。多くの地域は、様々な利害関係を抱えていて、なかなかスムーズに新しいことができません。しかし壊滅してしまった気仙沼では、協力するしかありませんでした。必死に自分たちの強みを考え、すぐに実行しているのです。

たとえば、先にご紹介した日本酒の海中貯蔵はその典型です。漁業と日本酒の協業連携は、通常はあり得ません。この気仙沼だから、生まれたのです。

ちなみにこの写真で、漁船に乗って突きん棒と言うメカジキを獲るための漁の道具を持っている竿を持って海中貯蔵している日本酒をチェックしているのがJTBの山下さん。後ろにいるのがグラグリッド代表の尾形さん。撮影は気仙沼プラザホテルの堺さん。皆さん、楽しそうです。 (赤字: 2015/8/7修正しました)

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「世界遺産にならなくても、観光振興はできる」と山下さんはおっしゃいます。そして、利害関係に始まる様々な壁を乗り越えるのは、堺さんのような若い世代。今回の震災で、気仙沼にも堺さんたちのような人たちが出てきたのです。

山下さんの懸念は、今、徐々に平時の意識になりつつあること。数十年後も継続し続けられるように、常に新しいことにチャレンジし続けるような仕組み作りを考え始めていく時期になっています。

 

最後にグラグリッドの三澤さんが、とてもわかりやすく議論をまとめてくださいました。

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この会のテーマでもある「ツーリズムデザイン」という新しい考え方に取り組まれている皆様の熱いパッションを感じた2時間の会でした。

 

私自身も勉強になりました。

先日の阿智村の取り組みをご紹介したブログで、「み・か・た」(「みんなで、かんがえ、たしかめよう」)が大切だと書きました。

しかし改めて気仙沼のお話しを伺って、むしろ「みんなで、かんがえ、たのしもうなのではないか、と思えてきました。

「み」。気仙沼は、事業者同士で繋がり、外の人も柔軟に受け入れて、衆知を結集している
「か」。気仙沼は、漁師の町という強みを考え抜き、その強みを活かしながらいかにお客様に価値を提供するかを考えている
「た」。考えるだけではなく、楽しみながら実行し、試行錯誤を繰り返している
・そして「みかた」をどんどん拡げて、気仙沼全体が活性化している

「み・か・た」は地域活性化のためのキーワードになるのではないかと、改めて実感しました。

 

そしてそれは、観光業に留まらず、様々な業界でも共通する重要な考え方だと思います。

多くの企業で変革の必要性が叫ばれながらも、既存の利害関係が乗り越えられずに、なかなか進みません。それは地域活性化は遅々として進まない地域も同じです。

一方で、危機に陥った企業が、それをバネにして社員が一致団結し、大きく復活することもあります。気仙沼の取り組みを見ていると、まさに同じ印象を受けました。

 

この会を企画・運営された皆様には、厚く感謝申し上げます。

最後に皆さんで集合写真です。まさに「みんなで、かんがえ、たのしもう」と盛り上がっています。

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私も、「いつか近いうちに、気仙沼に行ってみよう」と思いました。

 

 

 

オムニマネジメント2015年8月号に連載第3回『新規事業は、顧客ニーズで判断せよ』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年8月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第3回目『新規事業は、顧客ニーズで判断せよ』が掲載されました。

オムニマネジメント201508-2

 

新規事業は、顧客ニーズで判断する。

一見すると当たり前のことだと思いがちですが、実際にはそうなっていないことが多いのです。

 

今回は新規事業の判断について、「顧客から見たニーズ充足度」「企業から見たニーズの把握」の2つの観点で、次の4象限で事例をご紹介しながら整理してみました。

4象限20150731

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

「『お客様が買う理由』なんて作れれば、苦労しないよ」というご意見。正しいです

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講演後の質疑応答。ご意見をいただきました。

参加者「要は、『お客様が買う理由』を作るには、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値を考え抜け』ということですか?」

永井「はい。おっしゃるとおりです」

参加者「うーん。お客様から無理難題を言われ、とても苦労しているのが、営業の現実です。『お客様が買う理由』なんて都合のいいものが作れれば、こんな苦労しないんですけどね。それは理想論ではないでしょうか」

 

これは、ある意味で、実に正しいご意見です。

 

お客様から無理難題を言われ苦労しているのは、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値』が提供できていないから。そのような状況で苦労しても、必ずしも報われないことも多いのです。

同じ苦労をするのならば、『お客様が買う理由』を作ることで、報われる苦労をしたいですよね。

 

立場を変えてみるとわかると思います。

店頭で販売員や営業に、「これいいですよ!」といくら勧められても、乗り気になっていなければ、買わない人がほとんどです。

逆に「あの商品、欲しいなぁ」と常に思うような商品なら、少々高くても買う人は多いのではないでしょうか?

後者が、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値』を創り出し、『お客様が買う理由』を生み出している状態です。そのような商品は、「売る」ことに注力しているのでなく、「欲しくなる」ことに注力しています。

 

言い換えれば、「いかに売るか」というセールス視点から、「いかに買う理由を作るか」というマーケティング視点へ、発想を転換することが必要なのです。

かつての大量生産・大量販売の時代だった高度成長期は、「いいモノを作れば売れた」ので、「いかに売るか」という発想が有効でした。

しかしモノが余るようになり、ニーズが微細化・ナノ化した現代では、「いかに売るか」だけを考えても消費者は振り向いてくれません。だから「いかに買う理由を作るか」というマーケティング視点がますます大切になっているのです。

 

このように考えると、「『お客様が買う理由』を作れれば、理想だし、苦労しないよ」というご意見は、まさに本質を理解したご意見なのです。

重要なのは、それは「単なる理想」ではなく「実現すべき理想」であること。

そして、ちゃんと方法論が存在するということ。ポイントは当ブログでも繰り返しお伝えしている通り、

「自分たちの強みの見極め」

→「顧客の絞り込み」

→「継続的な試行錯誤」

なのです。

 

当ブログで前回と前々回ご紹介した、南信州・阿智村石川県・白山市の挑戦は、そんな取り組みの一例です。

普通の温泉地だった阿智村で、2012年から観光客が急増した理由は、自分では気づかない強みの発見だった

2016/3/30追記:この阿智村の話を、本にしました!→アマゾンへ

「そうだ星を売ろう」表紙

阿智村の挑戦を、わかりやすく面白い物語(+最新ビジネス理論)にまとめています。

 


先週の石川県・白山市の取り組み「恋のしらやまさん」に続き、今回も観光でいかに価値をつくるかという話です。

南信州・阿智村にある昼神温泉は、つい数年前まで、静かで観光客も少ない温泉地でした。
しかし現在、阿智村には観光客が大挙して来るようになりました。

阿智村の人は当たり前で強みになるとは思わなかった、阿智村にしかない「強み」を見極めて、必要とする人に提供するということを、数年間愚直に続けてきた結果です。

そのキーワードは、「星空」でした。

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阿智村の取り組みからは、「強みの見極め」→「顧客の絞り込み」→「継続的な試行錯誤」の大切さを学ぶことができます。

そこで先週、阿智村を見学させていただきましたので、ご紹介します。

 

自宅を午前9時に出発。新幹線で名古屋まで行き、高速バスに1時間50分乗って、午後3時前に「昼神温泉」に到着します。

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ここでJTBの武田さん、スタービレッジ阿智誘客促進協議会・事務局長の松下さんと合流。

昼神グランドホテル天心にチェックインします。

天心ホテル室内

ここで皆さんと記念写真。左から、武田さん、永井(私)、松下さん、昼神グランドホテル天心の今井社長です。

天心で、4名の写真

実は阿智村に大勢の観光客が来るようになった立役者が、この武田さんと松下さんなのです。

 

阿智村の見所を案内していただいた後、本日の目的地、ヘブンスそのはらに行きます。

ここはロープウェイの出発点であるヘブンスそのはら「山麓駅」。標高800メートルです。

ヘブンズそのはら昼間

実は阿智村は、環境省が「日本で一番、星空が輝いて見える場所」に認定した場所なのです。

YouTubeには、こんな素敵な動画もアップされています。

素晴らしい星空ですよね。

そこで阿智村は、冬はスキー客用に使っているロープウェイを活用して、日本一の星空を見たいという観光客向けに、雪のないシーズンは夜間に山頂まで運行させているのです。

ここに来るまで、紆余曲折がありました。

阿智村は以前から、「地域を巡るバスツアー」、「格安シャトルバス」、「温泉巡りパスポート」など色々と仕掛けてきました。しかしお客様は喜ばれるものの、新たな誘客に結びつかなかったり、宿泊に結びつかなかったりと、観光がなかなかビジネスになりません。

阿智村で観光を担当される方は、「実は、温泉郷の広告に使うネタにも困っている」というのが実情でした。

そこで2011年、JTBの武田さんが入って、阿智村の方々と議論を重ねました。そして、阿智村ならではの強みがあることがわかりました。

・環境省 全国星空継続観測で日本一になった
・スキー場があるので、ゴンドラで1400mの山頂へいける(でも夏の夜は動かしていない)
・多才な人たちがいる

そして2012年、阿智村ならではの強みを活かした「星空エンターテイメント」として、「天空の楽園 ☆ 日本一の星空ナイトツアー」というコンセプトを生み出し、Star Villageとして訴求を始めたのです。

しかし「星空が綺麗」なのは、阿智村に暮らしている人たちにとっては当たり前のことでした。実は当初は「本当に星空なんかを売りにして、お客さんが来るのか?」と疑心暗鬼な人もかなり多かったそうです。

 

ということで本命は夜なのですが、まずは昼間の様子を見学。ロープウェイに乗って、昼間の山頂駅を目指します。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

下を見ると、高速インターチェンジが見えます。

ゴンドラ昼高速

武田さんによると、阿智村は高速インターチェンジを降りてすぐ近くにあるのがとても大きなメリットだそうです。確かにこれだけ星が綺麗に見えて、しかも車を持っている人にとって便がいいのは、観光地としては強みですね

山頂の様子です。

山頂昼1

山麓駅からの標高差600mで、ここは標高1400m。山麓駅よりもかなり涼しく、空気も香しく、まるで別世界です。まさに「天空の楽園」ですが、夜になるとそれをさらに実感することになります。

ここは冬はスキー場ですが、夏は花が植えられています。

山頂昼2

 

昼の様子を一通り見た後は、一旦ロープウェイで山頂駅から山麓駅に戻ります。

ロープウェイ夕方

実はこの日、“Star Village Cafe by NAKED”のオープニングの日なのです。

PR TIMESでも紹介されています。→『日本一の星空の村にプロジェクションマッピング「STAR VILLAGE CAFÉ by NAKED」が7/11OPEN』

クリエイティブチーム・ネイキッドは、東京駅のプロジェクションマッピング、新江ノ島水族館ナイトアクアリウムなどを手がけてこられましたが、今回新たに阿智村のStar Village CAFEも手がけることになりました。そのオープニングが、この日なのです。

2012年からStar Villageの取り組みを始めた阿智村は、JAXAや、望遠鏡のビクセン、トヨタVoxyのCMなど、色々な団体と協業するようになりました。このネイキッドとの協業も、そんな中の一つです。

ネイキッドのスタッフの方々が、準備をなさっています。

Naked準備

以前よりJTB様を通じて阿智村とはご縁をいただいてきましたので、このオープニングセレモニーには私も来賓として呼ばれていました。

セレモニーの会場はこんな場所です。

オープニング会場準備

セレモニーでは、阿智村の熊谷村長、阿智村観光協会専務理事の小島様、ヘブンスそのはら体表取締役の白澤様、ネイキッド代表の村松様、来賓として東海ウォーカー編集長の嶋村様と私の、合計6名がそれぞれスピーチしました。

(2015/7/23追記:オープニング写真をいただきましたので掲載します)

阿智村オープニング

私はこんな話を致しました。

・私はいつも「お客様が『ぜひ欲しい』と思うような、買う理由を作りましょう」と提唱している
・阿智村は、まさにこれを徹底して実践されてきた
・ポイントは「み・か・た」
・「み・か・た」とは、「みんなで、かんがえ抜いて、たしかめよう」ということ
・まず、「み」。阿智村は村を挙げて、Star Villageに取り組んでいる。つまり衆知を結集している
・次に、「か」。阿智村は、日本一の星空という強みを考え抜き、それを必要とするお客様とニーズを考え抜き、そしていかに対応するかを考え抜いている
・次に、「た」。考えるだけでは「買う理由」は作れない。だから実行し試行錯誤を繰り返す。阿智村は2012年から試行錯誤を愚直に繰り返してきた
・「み・か・た」を徹底することで、まさに味方である協業相手も増えていく。望遠鏡のビクセンさんもそうだし、今回のネイキッドさんもそう
・ということで、今後も「みんなで、かんがえ抜いて、たしかめよう」を徹底し続けることで、阿智村はもっと味方を増やして、ますます発展していく筈です。応援しています

 

セレモニーをしている最中にも、ヘブンスそのはらへお客さんが車で次々と到着しています。

駐車場

ちなみに阿智村には、Star Villageにまつわる色々な商品もあります。

スタービレッジ関連商品

いよいよ日も暮れてきました。会場も暗くなってきて、いい雰囲気です。今井会長、阿智村の熊谷村長、小島様、白澤様が話で盛り上がっています。

夕方関係者の皆様

再びゴンドラで山頂駅に行きます。皆さん並んでいます。若いカップルやシニアなご夫婦が多いですね。長い列ですが、ゴンドラ1台で12名搭乗できるので、意外とすぐに乗れます。

ゴンドラで登る人の列

こんな感じでゴンドラが登っていきます。

ゴンドラ夜

15分後、再び山頂駅に到着。

昼間とは一変して、実に多くの人たちで賑わっています。まるでお花見会場です。

カウントダウンを待つ人たち

この日は600名の方がゴンドラで山頂に登りました。昨年の最高記録は、一晩でなんと2800名。
しかし2012年の開始初日は、お客さんはわずか10名。今からは想像もできませんね。
最初の立ち上げから尽力されてきた武田さんは、大勢集まっている様子を見ながら「これは嬉しいなぁ」と感無量な表情です。

 

私と武田さんとのおつき合いは、1年前からです。阿智村がここに至るまでの道のりも、以前からお伺いしてきました。

初年度の2012年。会長に熊谷村長、顧問にJTBが就任してスタービレッジ阿智誘客促進協議会を設立。阿智村全体でアイデア拡大、ワクワク感を演出しながら、現在のプログラムの原型を作りました。2012年は特に販促しなかったにも関わらず、クチコミで6,000人もの参加者がありました。

これで阿智村全体に火がつきます。

2年目の2013年。首都圏旅行会社に売り込みを始めました。熊谷村長も自ら営業に奔走、2013年7月7日にはJAXAタウンミーティングを開催したり、治部坂高原科学教室を開催したりしました。この年の目標は15000人でしたが、結果は1.5倍の22,000人の参加者がありました。

3年目の2014年。さらにブランド化を図りました。村内51店舗で利用可能な「星の里スターコイン」の流通を開始したり、阿智村スターマイスター認定試験を始めたりしました。星景写真家の宮坂雅博氏が年間を通じ阿智村で星空撮影を始め、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編」にも掲載されました。この年は33,000人が参加しました。

そして今年、4年目を迎えているのです。ここまで成長できたのは、素晴らしいですね。

 

このように、JTB様はこの阿智村や前回ご紹介した白山市の他にも、「モノづくり観光」の東大阪市、「道産酒」の北海道酒造組合など、日本の色々な地域の人たちと一緒に、地域ならではの独自の強みを活かして観光資源を開発する取り組みを、「交流文化事業」と名付けて取り組んでおられます。詳しくはこちら

このJTB様の交流文化事業のアプローチは、まさにマーケティング発想ですね。

 

ライトを消すカウントダウンを待ちます。

星空ライトアップ中

午後8時25分、ライトがすべて消灯すると、数百名の観光客から一斉に歓声が上がります。こんな星空が現れました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

噂に違わず、綺麗な星空です。ただちょっと雲がかかっていたのが残念です。

阿智村の方々によると、「雲がなければ、さらにもっと多くの星々が見えていたはず」とのこと。

真っ暗闇の中、星の物語のナレーションが場内に響きます。

 

30分ほどすると再びライトが点いてプログラムは終了。山頂駅から山麓駅に戻ります。

ゴンドラ夜の帰り

 

夜になり、“Star Village Cafe by NAKED”も、とてもいい感じです。

StarVillageCafe-by-Naked全景 StarVillageCafe-by-Naked調理場

この画像や照明は、パナソニックの協力でスポットライトとプロジェクターの機能を融合したSpace Player®(スペース プレーヤー)を活用したものです。

足下も、こんな感じでかっこいいですね。

StarVillageCafe-by-Naked

また、素通しの窓に画像が浮き上がっています。

StarVillageCafe-by-Naked窓

一見当たり前に見えますが、普通の窓だとこうなりません。実はJX日鉱日石エネルギーの協力で、窓ガラスに映像を投影することができる特殊なフィルムを貼り付けた「スペースディスプレイ」を、世界で初めてこの阿智村で使ったそうです。東京でもほとんどお目にかかれない、素晴らしくお洒落な空間を体験できます。

スタービレッジ阿智誘客促進協議会・事務局長の松下さんとお話ししたところ、「このイメージを、3〜4年後にはもっと拡げていきたい。この乗り場が、まさに宇宙船であり、宇宙への発信基地みたいにしたい」と熱く語っておられました。漆黒の闇で星しか見えない中、ゴンドラに乗っていると、本当に宇宙船に乗っている感覚を覚えます。

 

ただ、少し雲があったのが心残りです。そこで、もう一晩頑張ることにしました。

 

翌日。二日目もかなり暑くなりました。阿智村を散策している途中、涼む目的も兼ねて昼神温泉ガイドセンターに立ち寄ると、前日にヘブンスそのはらでお世話になった宮沢さんがいらっしゃいました。ガイドセンターの3名の方々の写真を撮らせていただきました。真ん中が宮沢さんです。

昼神温泉ガイドセンターの方々

「Star Villageを始める前と後で、いかがですか?」とお聞きしたところ、「まったく変わりました」とのこと。お客さんが急増し、村全体にとても活気が出るようになったそうです。観光振興と地域振興は、セットで行うことが必要なのですね。

 

初日は来賓扱いをしていただいたので、この日はホテルで正規チケットを購入。チケットは一人2200円で、こんなデザインです。

ナイトツアーチケット

ホテルからのバス送迎付きの、ゴンドラ往復券です。

夜7時半、バスに乗り込みます。

バス車内1

ヘブンスそのはら山麓駅に到着。夜は相変わらずいい感じです。

天空の楽園看板夜

ゴンドラも勢いよく上がっていきます。

ゴンドラ夜スピード

早速、星空撮影にチャレンジします。まだライトが灯っている間に、観光客が沢山いる場所から離れて、カメラと三脚をセットしてライトが消えるのを待ちます。

 

ライトが消えました。昨晩よりもちょっと雲が多いですねぇ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

待っている間に、雲が徐々に増えてきました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ちょっと残念な天気ですね。

 

一方で、この日も山頂には数百名の観光客が大勢います。「皆さん、どうしているのかな」と思い、真っ暗な中を観光客が集まってるところに戻ると………なんと観光客の皆さんは盛り上がっていました。

この写真は高感度で30秒露光をしたので明るく見えますが、実際には真っ暗闇です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

「星のお兄さん」が軽妙な関西弁で面白おかしく星の説明をしていて、お客さん一同大受けです。「星のお兄さん」は月に一回、阿智村で「星のお兄さんショー」を行うそうで、私の場合、ラッキーなことに遭遇できました。「星のお兄さん」は藤井フミヤさんともコラボするそうです。→詳しくはこちら

星のお兄さんがいない日も、村の星空ガイドの方々が同じように映像が画像を使って星の説明をするようになっています。星空ガイドの方は、「星空が見えない日も、キャンセルはありません。プレッシャーがかかります(笑)。こういう日こそ、トークにも熱が入ります」とおっしゃっています。

阿智村は、単に星がきれいなだけではなく、星というテーマを中心に、その強みを活かす仕組みを皆で作っている点が、素晴らしいですね。

 

この日は帰りのロープウェイで、シニアなご夫婦と、若いカップルの4名とご一緒しました。真っ暗なゴンドラの中で、皆さんが「うわぁ。まるで宇宙船みたい」と感激していたのを聞いて、私も嬉しくなりました。

写真を撮ろうとしましたが、真っ暗なのでカメラを最高感度のISO12800にしても全く写りません。高速インターチェンジの光でなんとか撮影できました。

夜のゴンドラ

 

翌日の3日目。阿智村を出発するために高速バスが出発する昼神温泉ガイドセンターに行くと、とても幸運なことに、阿智村の熊谷村長とバッタリと出会うことができました。早速、記念写真。

阿智村村長

熊谷村長とは、今年1月に名古屋で行われた講演会以来のご縁です。その時の「いつか阿智村に行きます」というお約束を、今回果たすことができました。

実は同じ場所で「星のお兄さん」ともバッタリ出会い、名刺交換とご挨拶をしたのですが、写真撮影をすっかり忘れていたのは残念。

 

阿智村は風情のある温泉地ですが、「温泉」だけでは他の温泉地と明確な差別化ができませんでした。私も温泉は大好きですが、「温泉だけなら当たり前」なのですね。

阿智村に滞在した3日間を通じて実感したのは、「日本一の星空」という阿智村独自の強みを見いだし、2012年からその価値を徹底的に訴求し、実際に色々と試行錯誤をしながら高めていった点に、阿智村の成功の秘密があるということです。

冒頭に書きましたように、

「強みの見極め」→「顧客の絞り込み」→「継続的な試行錯誤」

という当たり前のことを、愚直に継続することがいかに大切なのかが、よくわかります。

 

さらに前回ご紹介した白山市・鶴来と、この阿智村の取り組みに接して、観光振興のためには地域振興が必要であり、そのためには地域マーケティングの発想が必要である、ということがとてもよくわかりました。

今回の見学に際してご尽力をいただいた関係者の皆様には、深く感謝申し上げます。

 

 

【補足: 星空以外でも、実は奥深い阿智村】

ここまで阿智村の強みである星空を中心にご紹介しましたが、阿智村は星以外にも色々な見所があります。最後にまとめてご紹介します。

初日、武田さんのご案内で阿智村の様子を見てきました。ここは天台宗開祖・伝教大師最澄の創建と伝えられる信濃比叡・広拯院。

信濃比叡神社1

「比叡」の名は、天台宗本山である比叡山から、平成12年(2000年)に「信濃比叡」の称号として授かったそうです。

ここには驚くなかれ、1200年前から燃え続けている灯があります。これがその説明と、1200年間灯り続けている火。

信濃比叡神社2 信濃比叡神社3 火

奥にある金属の容器の中で、なたね油に浸されて燃えているのが1200年間灯り続けている火で、ロウソクはその火からわけたものです。

この寺では、鐘を突くこともできます。私と武田さんも、早速やってみます。

信濃比叡神社4 鐘 永井 信濃比叡神社5 鐘 武田さん

そこら中に大音響が響きます。近くにいると「ゴーン」という鐘の音の後に、何故かジリジリとした音も感じます。

 

伝教大師ご尊像もありました。比叡山峯道に建立されているものと同一のものだそうです。

羅漢像

隣接する東山道・園原ビジターセンター・はゝき木館でも、色々なものを見ることができました。

 

二日目の朝。ホテル近くで朝市をやっていました。

朝市1

早朝に取れた取れたて野菜ばかり。安いですね。

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朝市5 朝市6

阿智村に車で来ている方は、帰る当日に買うといいかもしれませんね。

 

朝食後、ホテルの近くにある阿智神社前宮に行きました。

阿智神社

写真を撮っていると、この神社にいた3人の女性から声をかけられました。

「あれ?昨晩のセレモニーでお話ししていた人ですよね?」

すでに完全に顔が割れています。もう悪いことはできません。いずれにしても、悪いことはしませんが。(笑)

 

昼神温泉ガイドセンターで宮沢さんに翌日の帰りのバスや、阿智村の見所を教えていただき、近くにあるカフェ”Blanc Brun”に向かいます。

ブランブラン

ここは素晴らしいカフェです。特にランチは絶品。こんな感じです。

写真 2015-07-12 11 52 02 写真 2015-07-12 11 58 32

写真 2015-07-12 12 06 45 写真 2015-07-12 12 24 21

順番に、カブのスープ、サラダ、アスパラのリゾット、デザートと濃いめのコーヒーです。店内もゆったりした空間でくつろぎます。

これで1,780円は安すぎます。

 

3日目の最終日、ホテルをチェックアウトしました。宿泊した昼神グランドホテル天心は、こんな感じです。

ホテル天心全体像

ホテル前の橋から見た様子。

阿智村の橋から

川沿いに30分ほど歩きながら、阿智村にあるもう一つのカフェ「十字屋可否茶館」に行きます。

森の中にあります。

十字屋看板 十字屋外観

実に色々なメニューがありますね。

十字屋メニュー

美味しいコーヒーです。自家焙煎だそうです。

十字屋コーヒー

店内の様子。癒やされる空間です。

十字屋店内

他にもご紹介しきれない見所が沢山あります。

阿智村は、星以外にも奥が深いところです。

 

 

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いま白山市で、若い女性観光客が急増している理由は、強みの徹底見極めと、顧客の絞り込みだった

石川県にある白山市をご存じでしょうか?

全国的な知名度はありませんが、実はとても奥深く、数多くのパワースポットがあり、そして若い女性観光客が急増中なのです。

北陸IBMユーザー研究会様への講演の翌日、金沢から少し足を伸ばして白山市に行き、多くの方々のご協力で見学して来ました。

そして白山市の観光への取り組みから、観光で「自分たちの強みを見つけて、ビジネスに繋げる」大切さを改めて学ばせていただきました。この白山市の取り組みは、観光振興を考える多くの地域にとっても、あるいは観光業以外のビジネスでも、参考になると思います。

そこで今回、写真を交えながらご紹介しながら、一緒に考えていきたいと思います。

 

今回の目的地は、白山市にある「鶴来」(つるぎ)という町。まず金沢市内にある北陸鉄道の野町駅に行きます。

野町駅

ここで、今回の鶴来見学の準備でお世話になったJTB金沢支店の寺澤様(右)と、北陸鉄道の河崎次長(左)にお会いしました。

寺澤様・河崎様

河崎次長より、「恋のしらやまさん」きっぷ一式をいただきます。電車一日乗車券・観光マップ・鶴来のバス乗車券・和菓子チケット・辻占チケットが、こんな形でセット販売されています。

恋しらきっぷ

この「恋のしらやまさん」とは、縁結びの神社である白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)(地元では通称「しらやまさん」と呼ばれています)にお参りし、鶴来の町並みや文化・歴史・味覚・パワースポット・人とのふれあいを堪能する旅行プログラムのこと。

どんな内容なのか、これから追ってご紹介していきます。

 

野町駅を出発し目的地の鶴来駅まで、単線で30分かけて、同乗いただいた河崎次長のお話しを伺いながら、向かいます。

2両編成の電車は、住宅地の間を縫うように走っていきます。金沢市を抜けて白山市に入ると、住宅はなくなり、車外には緑豊かな田んぼが広がります。

北陸鉄道車外景色

この野町駅と鶴来駅を結ぶ北陸鉄道石川線は、1916年に設立された金沢電気軌道株式会社が母体。間もなく創業100年になる歴史ある鉄道です。

この電車の正面には「恋のしらやまさん」というプレートがついています。

電車恋のしらやまさん

社内にも「恋のしらやまさん」のポスターがあります。

電車恋のしらやまさん社内

ピンクでハートの形をしたつり革もあります。これは1車両に1個しかないレアもの。これを掴むと幸せになれるそうです。

電車恋のしらやまさんつり革

 

鶴来駅に到着しました。高倉健さんが似合いそうな、昭和の香り漂う風情のある駅舎です。

鶴来駅

ここで観光協会の村田さん(一番左)と舟津さん(真ん中)と合流。河崎さんと3人の写真です。

鶴来3名集合

ここで河崎さんと村田さんはお仕事に戻られ、この後は舟津さんにご案内をいただきました。

この日、舟津さんは大阪出張の予定でしたが、私の案内のためにスケジュール調整をしていただきました。本当に有り難いですことです。

 

まず横町うらら館に到着。180年前に立てられた町屋で、無料休憩所にもなっています。

横町うらら館外見

中に入ると、なんと外の風情から想像できないような前衛芸術作品が展示されていました。

横町うらら館展示

ここでボランティアで観光ガイドをされている磯部さんと合流。この後はお昼まで、磯部さん・舟津さんのお二人と行動を共にします。

 

横町うらら館から、本日最大の目的地である白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)に向かいます。

 

大鳥居をくぐり、全部で108段あるゆったりとした表参道を上がって、白山比咩神社に向かいます。

この表参道は、緑一色です。おごそか、かつ神秘的で、とてもいい空気感を醸し出しています。

白山ひめ神社表参道1

苔むす参道の脇には、清らかな水が流れています。

白山ひめ神社表参道2 白山ひめ神社表参道3

こちらは、樹齢800年の老杉。根が左にある別の杉と繋がっていますが、このような杉は珍しいそうです。

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旧参道から持ち上げた大きな石でできた水飲み場もあります。

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表参道を登りきり、神門越しに望む拝殿です。

白山ひめ神社拝殿

 

ここで、この白山比咩神社について解説します。

白山比咩神社は、2,100年前の紀元前91年、第10代・崇神天皇の時代に、船岡山に白山の「まつりの庭」として白山比咩神社の社殿を創建したことから始まります。(白山大神宮御鎮座伝記)

白山比咩神社は、日本三名山の一つである白山(はくさん)を神体山として祀っています。白山は1,300年前の奈良時代に泰澄が登頂し開山しました。その後、修験道として体系化され、全国三千余社の白山神社の総本宮として、日本全国に白山信仰 (はくさんしんこう)を拡げていきました。

このような大昔からこの地に脈々と受け継がれてきたのが、この白山比咩神社なのです。

ちなみにイエス・キリストがキリスト教を広めたのは、2,000年前。

メッカ郊外で神の啓示を受けたムハンマドがイスラム教を広めたのは、西暦610年頃ですから、1400年前。

キリスト教やイスラム教と同じ時間スケールの歴史が、人々が日々暮らしているこの町で受け継がれているのです。考えてみると、すごいことですよね。海外観光客も来られますが、この歴史を聞くととても驚かれるそうです。

 

この白山比咩神社のご祭神が、菊理媛 (くくりひめ)。神話にも出てくる伊奘諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)の仲違いを、仲直りさせた縁結びの神で、この神社に祀られています。

白山比咩神社は、まさに歴史的に見ても、最強の縁結びパワースポットなのです。

 

拝殿には大きなしめ縄がかかっています。

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この鶴来の町では、ここ1年で若い女性観光客が増えているそうです。この日は平日でしたが、一人で来ている女性客を何人も見かけました。観光協会のお話しでは首都圏から来ている方が多いそうです。

この大きな理由が、昨年2014年9月に立ち上げた、この「恋のしらやまさん」プロジェクトです。

 

では、「恋のしらやまさん」、具体的にどのようにするのでしょうか?

まず、「恋のしらやまさん」きっぷ一式の中にある奉納恋文に、願いをしたため、住所と署名を書き込みます。

私は「夫婦円満」と一筆したためて、住所と署名をしました。(恥ずかしいので恋文と住所を伏せ字にしています)

恋文

これを捺印していただき、赤い糸で括って、奉納します。

恋文1

白山比咩神社では個人でも「初穂料」を奉納すれば祈祷することもできます。

しかしこの方法なら、奉納分は「恋のしらやまさん」きっぷ一式の料金に含まれていますし、他の方の奉納分とまとめて奉納してくれます。合理的ですね。

 

ここで白山比咩神社の権禰宜を務められる田中天善さんにお目にかかりました。左から、ボランティアガイドを務める磯部さん、舟津さん、大柄な方が田中さんです。

白山比咩神社権禰宜・田中さん

田中さんは、白山開山1300年に向けて、開祖泰澄ゆかりの三馬場(石川県(加賀)の白山比咩神社、福井県(越前)の平泉寺白山神社、岐阜県(美濃)の長滝白山神社)を回るスタンプラリーを企画した方です。

授与所に掲示されている先月6月30日の北陸中国新聞に取り上げられた記事でも、田中さんの写真が掲載されています。

三馬場

ちなみに、スタンプはこんな感じで押します。三馬場を巡り、このスタンプを3つ揃えるのですね。

スタンプラリーIMG_4181

早速、磯部さんも「越前と美濃に行かなきゃなぁ」といいながら、スタンプを押しています。

スタンプラリー2

 

神社の横には、白山比咩神社宝物館があります。

残念ながら撮影不可だったので写真はありませんが、歴史を感じさせる大変貴重な、まさに「宝物」が多数展示されています。たとえば、

木造獅子狛犬:平安時代末期の狛犬です。大陸の影響を色濃く受けたデザインです。
木造狛犬:こちらは鎌倉時代の狛犬。かなり現代のものに近くなっています。
ちなみに、この2体は時々いなくなります。大英博物館などへの海外博物館への展示のため、国外に行くそうです。

白山宮荘厳講中記録:鎌倉時代から戦国時代までの白山本宮の記録
真柄の大太刀:「信長公記」にも登場する越前朝倉氏被官の真柄十郎左衛門が使用したとされる巨大な大太刀。長さ2m以上、重さは数十Kg。
■江戸時代に日本全国に白山信仰を拡げるために旅立った僧侶が背中に抱えていた白山の模型。
■他にも、前田利家・利長・利常、……と加賀藩主・前田家代々の殿様の花押がある書状や、木曾義仲が戦勝祈願した書状などもあります。

どれもよく話を聞くと、凄い逸品ばかり。しかも平安時代、鎌倉時代、室町時代、江戸時代と脈々と受け継がれた文化財が揃っています。発掘して見つかったものも多いそうです。

先日読んだ「新・観光立国論」(デービッド・アトキンソン著)で、アトキンソンさんは「基本的に日本の文化財は、一見すると地味なのに、よくよく聞くと「すごい」というものが多いのです。」(p.221)と書いておられますが、まさに同じことを感じました。

 

神社の横には、白山から流れてくる霊水が湧き出る場所もあり、住民の方が家庭用に水を汲んでおられました。

白山霊水

私もペットボトルに汲んで飲んでみましたが、実に美味しい水です。もちろん無料。

白山霊水2

このように水が美味しい鶴来では、あとでご紹介するように、こうじを作っている店や、造り酒屋が沢山あります。

 

再び表参道を降りていきます。大鳥居の横に土産物店とお食事の店「おはぎ屋」があるので、ここで昼食にします。

大鳥居の店

天ぷらやおそばの他に、酢飯と鱒などの魚を笹で包んだ料理もあります。

白山・昼食

磯部さんによると、鶴来の家庭ではみなこれを作っているとのことです。このあたりにふんだんにある笹の葉で包むことで防腐効果もあり、富山の鱒寿司の起源にもなっているようです。

お店の中は、こんな感じです。天井に大きな梁があるのは、加賀ならではですね。

白山・昼食2

 

お昼をいただきながら、磯部さんのお話しを伺います。

もともと鶴来の町の人たちはあまり観光に積極的ではなかったそうですが、ここ数年でだいぶ変わってきたそうです。

そのきっかけの一つが、2年ほど前に、鶴来の人たちとJTBさんと一緒に行った5回のワークショップ。

ワークショップを通じて、鶴来の町のよさについて議論をしたところ、白山比咩神社を中心に、色々なアイデアが出てきました。実は、これまでにご紹介したもの以外にも、こんなものもあります。

■辻占(つじうら):加賀に伝わる正月菓子。おみくじが入っています。これが中華街に伝わりフォーチュンクッキーになって世界に拡がりました。(後でご紹介します)

■おついたちまわり:神恩感謝の真心を捧げ、無事に過ごせた感謝と、無病息災・家内安全などを、月初めの一日に祈念する習わしです

■町屋:200年以上前の町屋が沢山あります。(これも後でご紹介します)

■発酵文化:白山は、白山から湧き出る美味しい水で、日本酒・こうじ・味噌・酢・醤油などの発酵食品が盛んです。中にはふぐの卵巣の糠漬けのように、発酵技術を活かして青酸カリを上回ると言われる猛毒を持つふぐの卵巣を糠漬けにして無毒化するような世界でも類を見ない珍味もあります。

 実に色々な観光資源があったということですね。こんな中から「縁結び」というキーワードが浮かび上がり、「恋愛成就の旅」というコンセプトが生まれました。

 

白山比咩神社Facebookには、2014/9/30にこんなメッセージが投稿されています。

「実は1年前に描いた一枚の紙から、 プロジェクトは始まりました」

この一枚の紙をJTB様に見せていただいたことがあります。

「白山の新しい観光コンセプトと体験プログラム」というタイトルで、この5回の議論が1枚にまとまっています。「恋のしらやまさんプロジェクト」は、このような議論を通じてて生まれてきたのです。

統一コンセプトとして、「恋愛成就」

ターゲットとして、「20−30才の未婚女性」を設定

来訪者を喜ばせる仕掛けとして、切符、地図、ポスター、チラシ、商品を統一デザインで開発

これらを首尾一貫させて、戦略的に推進する。

まさに「白山ならではの強み」を徹底的に見直し、議論し尽くした末に生まれたのが、この「恋のしらやまさんプロジェクト」ということですね。

 

磯部さんによると、「鶴来の町は『実はよく聞くと凄い』というものが多い」

たとえば、鶴来にある造り酒屋の「萬歳楽」では、ノーベルナイトキャップ(ノーベル賞授賞式後のパーティー)に梅酒として初採用された梅酒を作っています。

しかし当初、お店ではあまりアピールしなかったそうです。磯部さんが観光客を連れて店に行って、「ここの梅酒はノーベルナイトキャップに初採用されていて……」と説明すると、誰もが「ぜひ」と購入されます。

あまり自分で「こんなに凄い」と言わないのは、日本人の性格なのかもしれませんね。

しかしそんな鶴来の町も、ここ数年でだいぶ変わってきて、町が一体となって観光に力を入れるようになってきました。

 

昼食を終えて、町中の散策に出かけます。

鶴来の町には、至る所に「辻占スポット」があります。「辻占スポット」では、「恋のしらやまさん」きっぷ一式の中にある「辻占券」を出せば、あのフォーチュンクッキーの元祖である加賀の正月菓子「辻占」がもらえます。

ここは神社から歩いて5分ほどの家具屋さん「町八家具」。入り口に巨大な椅子があるのが目印です。

町八家具入り口

中に入ると、「辻占スポット」と書かれています。

町八家具辻占スポット

近代的な建物の横に、蔵屋の建物が隣接している構造になっています。蔵屋の中は風情がありますね。町八家具・専務の町さんが案内してくれました。

町八家具店内

お茶をいただきながら休んでいると、町さんと、磯部さんが話し合っておられました。

町さん「無料で店を観光のお客さんに開放しようと思っているんですよ。駅からここまで数十分歩いている人が多いですし、知らない町を歩くのって大変ですよね。少しでも楽になれば、と思っているんです」

磯部さん「うーん。いいことだね」

まさに磯部さんがおっしゃっていたように、鶴来の町が全員で、観光客を歓迎しようとしておられることを実感します。

鶴来の町全体に、そんな感じが溢れています。

 

小さな鶴来の町には、和菓子店が10店舗もあります。この日の私の見学のために、常山生菓子店さんが、休業だったのにわざわざ店を空けていただきました。有り難い限りです。

常山生菓子店

ここでも「恋のしらやまさん」のポスターの横に、「和菓子スポット」と書かれています。

常山生菓子店和菓子スポット

ここで「恋しら大福」をいただきました。「恋のしらやまさん」プロジェクトで生まれた和菓子商品です。

常山生菓子店大福

このように「恋のしらやまさん」デザインを使っています。このデザインは、「恋しら」関連商品で無料で使えるそうです。「恋のしらやまさん」のブランディング戦略です。

商品を買うと、こんな御守りももらえます。5円玉を包んだもので「ご縁がありますように」ということで、心憎い演出ですね。

常山生菓子店5円

常山生菓子店の若旦那・常山さんと、舟津さんです。

常山生菓子店2

鶴来の町で育った常山さんは、大学卒業後、埼玉でIT関連のお仕事をされていました。鶴来で仕事をしている同級生は多く、帰郷した際でも、上京した常山さんを快く受け入れてくれました。2年前に鶴来の町に戻られ、ご実家の仕事を通じて和菓子で町おこしに携わっておられます。

 

ということで、店のベンチで「恋しら大福」をいただきます。お茶もいただきました。さすが鶴来の和菓子専門店。とても美味です。

常山生菓子店大福2

和菓子と一緒に置かれているハート型の石は、彫刻をなさっている舟津さんのご主人が作ったものです。「手触りがいいので、手にとって感触を楽しんでください」とのことで、手にとってみました。確かにいいご縁がありそうな感触です。

常山生菓子店ハートの石

常山さんのお母様が、店に飾っている嫁入り道具を説明してくれました。

常山生菓子店じゅうかけ

お母様が手にしているのは、加賀袱紗(ジュウカケ)。結婚式で配る生菓子を入れるための、輪島塗の重箱にかけるものです。

こんな感じで、重箱にかけます。

常山生菓子店じゅうかけ2

また、加賀の嫁入りでは、結婚式が終わるまでこのような「花嫁のれん」をかけます。きれいなデザインですね。

常山生菓子店のれん

この加賀袱紗も花嫁のれんも、実際にお母様が嫁入りの際に使われたものです。

加賀の文化を感じますね。

 

横町うらら館に戻りました。この180年前の町屋も「実はすごい」ものの宝庫です。

これは天袋のふすま。江戸時代に描かれたものです。表は金箔を張ってこのような画が描かれていますが、

うらら館・天袋1

磯部さんがふと気がついて裏を見てみると、実は裏にもこんな絵が描かれていたそうです。(一部破れています)

うらら館・天袋2

左手には富士、真ん中には活き活きとした躍動感が伝わってくる5人の田植女(たうえめ)。 右手には白山でしょうか?

普段は見えない裏にもこれだけの手間をかけた画が残っているのは、いかにも日本的です。

 

これは天井とふすまの間にある欄間(らんま)です。

うらら館・らんま

一見、普通の欄間ですが、今の技術では作ることができないそうです。

実は細木を填め込んだのではなく、一枚の板を彫りだして作っています。

 

これは普通の押し入れに見えますが、

うらら館・仏壇1

開くと豪華な仏壇です。

うらら館・仏壇2

 

昭和11年頃に鶴来の町で行われた祭りの写真が、大伸ばしして展示されています。真ん中の男性に抱っこされた男の子は、現在82歳でお元気だそうです。

うらら館・祭りの写真1

写真のアップです。

うらら館・祭りの写真2

誰もがいい男っぷりで、いまどきのジャニーズやExileにいそうなイケメンですね。

こうしてみると、日本人は案外と変わっていないようにも感じます。

 

細長い町屋の奥には、石造りの蔵があります。

うらら館・町屋

普段は作品展示に貸し出しているのですが、この日は展示の間が空いたので、磯部さんが描かれた絵が展示されていました。

うらら館・蔵

磯部さんはもともと船乗りで、色々な町に行って絵を描いておられたそうです。メルボルンなどの海外の絵もあります。どれも素晴らしい絵画です。磯部さん、多才です。

 

再び町に繰り出します。この「辻占スポット」は、こうじの店の「飛騨屋」さん。

飛騨屋1

辻占券を出して、いよいよ辻占体験をしてみます。

辻占券と交換すると、こんな辻占をもらいました。

飛騨屋2

辻占のお菓子の中に、おみくじが丸まって入っています。

飛騨屋辻占1

ぜんぶ拡げると、こんな感じ。

飛騨屋辻占2

辻占の結果は、

わたしやあなたのお心任せ
すまないなどと水くさい
よいことがかさなる

なんか、よさそうな感じです。

 

この店で麹(こうじ)を買いました。無料の塩こうじの作り方ガイドもあります。

麹と水を等量、それに塩を入れて、タッパーのような大きな容器に1週間入れ、毎日かき混ぜます。お店の女将さんが、実際にいま作っている塩こうじで実演してくれました。

飛騨屋塩こうじ

 

となりのお店「こうじ きぬや」さんも、麹のお店です。

きぬや

地下のこんなところで麹を作っています。

きぬや2

ご主人から、こうじの作り方のご説明を伺っていると、外から奥様二人がお客さんとして来られて、「こうじ、ありますか?」。

店の奥様が、こうじをわけています。

きぬや3

ご主人のこうじ作りの話を伺っていると、お店の奥様が、キュウリに麹味噌を付けて出して下さいました。

きぬや4

これが素晴らしく絶品。味噌なのですがまるでデザートのような甘さを感じます。

「美味しい!」と感激していると、この味噌をお土産にいただいてしまいました。

きぬや5

こんなに美味しいのに、……本当に、いいのでしょうか?感謝感激です。

 

「写真を撮らせて下さい」とお願いして、舟津さんとご主人で写真。

(一見ご夫婦に見えますが、奥様は「私、伝票書きがあるから……」と店の奥に行かれました(笑))

きぬや6

このお店も築200年の町屋です。

きぬや7

 

道を挟んで向こう側には、 造り酒屋の「萬歳楽」さんがあります。

萬歳楽1 萬歳楽2

こんな日本酒を造っています。

萬歳楽3

ここで作られている梅酒が、あのノーベルナイトキャップ(ノーベル賞授賞式後のパーティー)に初採用された梅酒です。また「萬歳楽 加賀梅酒 スパークリング」として北陸新幹線のグランクラスの車内飲料として採用されています。(詳しくはこちら)

ちなみにこの町屋はなんと築250年。きれいな作りです。

萬歳楽4

ここはお客様をご案内し、お茶などでおもてなしをする部屋です。

ちなみにこの囲炉裏、なんと二百数十年も火を絶やしていないとのこと。奥様は何十年も、毎朝炭をくべているそうです。

萬歳楽5

この居間を見せていただきながら、梅酒を仕込む時の様子をお伺いしました。梅一つ一つのヘタを手作業で 取り除くところから始まり、大変な作業だそうです。伝統的な産業はどれも、この地道て丁寧な作業の繰り返しなのですね。

 

ということで、この日いち日で、鶴来の町を堪能しました。

この日はあいにくの雨のため、ゴンドラで山頂まで行き金沢平野や日本海が一望できる獅子吼高原や、自然の一枚岩に刻まれた高さ8mの日本最大級の不動明王がある一閑寺などは見ることができませんでした。

ぜひ次回の楽しみに取っておきたいと思います。

 

鶴来の町で学んだこと。それは、

「自分たち(白山)の強みは何か?」

「それを必要とするお客様は誰で、どんなニーズを持っているか?」

「お客様が自分たちを選ぶためには、どうすればいいのか?」

これを、町全体で考え抜き、鶴来の町が一体となって進めているのが、この「恋のしらやまさん」プロジェクトだということです。

 

実際に今回、JTB様とのご縁で「恋のしらやまさん」体験をして、チームが一体となって「お客様が買う理由」を考え抜いて実行することで、地域全体が元気になるのだということを改めて実感しました。

また、一見何もないところからも、多くの人たちが集まって智恵を出し合うことで価値を生み出せるのだ、ということを学ぶことができました。

 

ご準備にご協力いただいたJTB中部の武田様・寺澤様、北陸鉄道の河崎様、スケジュールをやりくりして丸一日の見学スケジュールを組みご案内いただいた白山市観光連盟の舟津様、鶴来の町のよさを教えてくださったボランティアガイドの磯部様、休業のところを店を開いて対応いただいた常山生菓子店の常山様とお母様、白山比咩神社の田中様、家具店に忘れた私のカメラ道具をうらら館まで届けて下さった町八家具店の町様、白山市観光連盟専務理事の古田様、白山市観光文化部の村田様には大変お世話になりました。

また、おはぎ屋、飛騨屋、きぬや、萬歳楽の皆様にも、とても親切にしていただき、とても感謝しております。

「恋のしらやまさん」プロジェクトを通じて、鶴来の町のよさが日本全国、さらに世界に伝わっていくことを願っておりますし、当ブログが少しでもそのお役に立てれば、とても嬉しく思います。

 

【補足】

金沢から東京への帰りは、北陸新幹線・グランクラスに乗りました。試しにメニューにある「梅酒スパークリング」を注文していただいたのが、この「萬歳楽 加賀梅酒 スパークリング」。お酒はあまり飲めない私ですが、これは絶品です。

梅酒グランクラスIMG_4174
加賀梅酒 萬歳楽WEBSHOPでも注文できます。

 

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ラジオ番組「オトナカレッジ」で、マーケティング論を担当します

文化放送のラジオ番組「オトナカレッジ」で、半年間、隔週で出演させていただくことになりました。

木曜21時台の「マーケティング論」を、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのコンサルタントの方々と、隔週交替で担当します。

オトナカレッジ2015

私の出演は10月1日からになります。

 

半年聞き続けると、マーケティングがわかる内容を目指します。

木曜21:00は、お時間がありましたらぜひどうぞ。

北陸IBMユーザー研究会様で講演致しました

七夕の2015年7月7日、金沢のホテル日航金沢で行われた北陸IBMユーザー研究会様の総会で「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題して90分の講演をさせていただきました。

ちょうど2年前までの30年間、日本IBM社員でした。日本IBMのお客様であるユーザー会でお話しするのはとても名誉なことです。

約80名の方々が参加されました。

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アンケートでは様々なご意見をいただきました。

・当講演で、新しい視座を得ることができました。今後の企画に活用したいと思います。

・久しぶりにメモを取らずに拝聴しました。

・なぜ使ってもらえないかが、よくわかりました。

・予想以上の話で参考になりました。本を買ってみようと思います。

・具体的な事例が豊富で、わかりやすい講演でした。

・弊社の強みについて、改めて考えさせれる内容で、大変参考になりました。

・素晴らしい講演でした。考え方の部分で見直しをしていきたい。

懇親会では、数十名の方々と名刺交換しました。その多くが経営を担う方々。経営者ならではの悩みやお抱えになっておられる課題を話し合う一方、かつて在籍していた日本IBMの現役社員・役員の方々とも近況を話し合うことができ、有意義な一日でした。

 

このような機会をいただき、感謝致します。

 

「お客様が買う理由」の答えは、社員が持っている

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講演後の質疑応答で、若い男性が手を挙げました。

「『お客様自身も気がつかない課題』を把握して、自社ならではの『お客様が買う理由』を作り上げるには、社内にどのような仕組みを作っていけばいいのでしょうか?」

お話しを伺うと、お父様が創業された会社の二代目として、若くして経営にあたっておられるとのこと。まなざしは、真剣そのものです。

 

「『お客様自身も気がつかない課題』なんて、あるのか?」と思いがちですが、意外と身近に数多くあります。

たとえば掃除機。かつて「掃除機はゴミを吸い取れば十分」と思っていた方は多いのではないでしょうか?しかし今や、

「スイッチポン」で勝手に掃除をしてくれるロボット掃除機、
ハウスダストのような細かいゴミも取れるサイクロン掃除機、
快適な睡眠のための布団専用掃除機、
音が出ないので気兼ねなく掃除できる静音掃除機など、

「私たち自身も気づかなかった課題」を解決した掃除機が数多く生まれています。

つまり、私たちはニーズや課題を持っていたのですが、私たち自身は気づいていなかったということです。

 

冒頭の若い経営者は、「では、そのような課題に対応するには、社内の仕組みをどのようにすればいいのか?」と問いかけられたのです。

 

お客様自身も気がつかない課題やその解決策のヒントは、社員が持っています。

ただし、バラバラな状態になっているのです。

たとえば営業は、お客様との日々の会話から様々な課題のヒントを得ています。しかし一営業にとって、それらをフォローするのは大きな負担です。経営者なら組織を動かし率先対応することは可能ですが、営業一人で組織を動かすことは至難の業で持て余してしまうことも多いのです。さらに「営業の仕事は売ることだ」と考える会社も多いので、客先で新商品のヒントがあっても優先順位を落とし、販売活動を優先せざるを得ない人も多いのが現実なのです。

一方で開発部門にいる技術者は、企業の強みの源泉になる「中核技術」を持っています。中核技術を活かして顧客に対する様々な解決策を作ることもできます。しかし必ずしもお客様の現実的な課題を把握していないこともまた、多いのです。「顧客はこんなことで困っている筈」と想定しながらも、実際に顧客に十分な検証をせずに、顧客不在のものづくりに走ってしまうことも決して少なくありません。

このようにある程度の大きさの企業になると、「お客様が買う理由」を作るヒントは社内の至る所にあります。しかしバラバラになっているのが現実です。

必要なことは、営業が現場で見つけてきた「お客様が買う理由」のヒントを、技術者と共有して解決策に結びつけて、会社としてフォローできる仕組みを作ることです。

 

たとえば1つの方法は、定期的に営業部門と開発部門が集まり、営業が現場で拾ってきたお客様の声を、開発部門の技術者と共有し、どのように解決できるかを、一緒に頭を捻りながら考える場を作ることです。

これを仕組み化している会社もあります。私が講演や著書などでよくご紹介する、業務用ミラー専業メーカーのコミーです。

コミーはユーザーのことをより深く理解するために、年に一回、全従業員でユーザー訪問をしています。正社員とパート社員2人一組でチームを作り、一組で10件程度のユーザーを回って使用状況を徹底調査しています。そしてその結果を全社員で共有し対応策を議論しています。毎年これを繰り返して、ユーザー自身が気づかない真の課題を把握し、商品開発に活かす仕組みを作っているのです。

 

スーパーマンの経営者が1人で会社を牽引するのは、確かに素晴らしいことです。しかしスーパーマンは希有の存在です。

会社の継続的な発展のためには、社員の力を結集し、チームで「お客様が買う理由」を作り上げる仕組みを構築することが必要なのです。

 

私はお客様に一通り説明した上で、質問いただいた方にこのようにお伝えしました。

「素晴らしいアイデアの原石が、社員一人一人の頭の中に必ず散りばめられているはずです。経営者が一人でそのアイデアをまとめるのは至難の業ですが、それらの原石を繋げて、互いに磨きあう仕組みを作ることは、できるのではないでしょうか?」

 

社員同士で互いに智恵を交換しながら「お客様が買う理由」を考え、リアルなお客様に検証し続け、社員の誰もが「これはあのお客様の課題に応える、自分の商品だ」と心から思える経験を積み重ねていけば、会社は確実にマーケティング志向に変わっていくのです。

 

「当社の強みは、ブランド」は、危険な幻想

数年前、講演の合間にワークショップを行いました。そこで発表いただいた女性が、こうおっしゃいました。

「当社の強みは、ブランドです」

東京のお洒落な街にある、名前を聞けば誰でも知っているブランドショップに勤めているというご本人も、そのブランドを象徴するような上品なファッションに身を包んでおられます。

私は質問しました。

「具体的に、何が強みですか?」

その方は、(あれ、ウチのブランドのことを知らないのかな?)と戸惑った様子で、お答えになります。

「当社は、世界的に圧倒的に強い高級ブランドです。値下げもしません。価格勝負ではなく、価値勝負ができる、ということです」

 

このように「強みはブランド」と考えがちですが、実は危険な幻想です。

ブランドとは「結果」だからです。

 

鍾乳洞の神秘的なイメージに圧倒されたご経験はありませんでしょうか?

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石灰を含んだ地下水が、数千年から数万年という時間をかけてゆっくりと一滴ずつ滴り、徐々に石灰岩が形作られ、巨大な鍾乳洞が作られていきます。

ブランドも同様です。「顧客満足」という事実を長年積み重ね、徐々に蓄積することで、強いブランドが作られます。

「一滴の地下水=顧客満足」が蓄積して、「鍾乳洞=ブランド」が出来上がる、と考えれば、イメージできるのではないでしょうか?

 

では、ブランドのもととなる顧客満足は、どのように生まれるのでしょうか?

顧客満足は次の式で表されます。

顧客満足(CS)= 提供価値−期待価値

たとえば、100点を期待するお客様に、100点の価値を提供すると、 顧客満足は、100引く100なので0点です。

お客様の期待をはるかに超える200点の価値を提供してはじめて、お客様は100点の顧客満足を感じます。

CSの図

市場が成熟した現代では、圧倒的な価値を提供する企業はますます増えています。お客様は、そのようなライバルとあなたの会社を比べています。

期待通りの価値を提供するのは当たり前。お客様の期待を上回る圧倒的な価値を提供し続けなければ、プラスの顧客満足は生まれません。

 

では、「当社の強みはブランド」と考えるとどうなるでしょうか?

冒頭で紹介した例では、お客様にどのような具体的な価値を提供するのかが語られていません。このように「自社のブランド」に頼ると、お客様にどのような価値を提供するのか、具体的に考え抜くのを怠り勝ちです。

ブランドに頼り、具体的な価値を提供できないと、お客様の期待を上回ることはできません。顧客満足はマイナスです。

鍾乳洞では、1滴の地下水がゼロ滴になると、石灰岩が形作られなくなり、徐々に崩壊していきます。

ブランドも同様です。ゼロまたはマイナスの顧客満足は、いくら積み重ねてもゼロまたはマイナス。ブランドは崩壊していきます。マイナスだとお客様の失望が溜まり、ブランドの崩壊はさらに加速します。過去のブランド・伝統・歴史は急速に食い潰されます。そしてブランドの価値は、徐々に、あるいは何かの象徴的な出来事である日突然失われるのです。

実際に、老舗ブランドに頼り、不祥事がきっかけで急速に経営危機に陥った企業は、いくつも思い出されると思います。

 

「当社の強みは、ブランド」と考えている状況は、言い換えれば、思考停止している状況です。

ブランドを受け継ぎ、さらに強化するためには、顧客の期待を圧倒的に上回る価値を提供し続けて、常に顧客満足をプラスにする必要があるのです。

だから、イノベーションに挑戦する社風を持つ、歴史ある老舗企業が少なくないのです。このような老舗企業は、挑戦する社風があるから、歴史を超えて老舗ブランドを維持できてきたのです。

 

電気自動車テスラモーターズや民間ロケット会社スペースX社を経営する起業家イーロン・マスクは、このように述べています。

 「「会社の名前で製品は売れているのだ」と思い込んでいる人がいるが、それは間違っている。まずは、素晴らしい製品があって会社のブランドを築く。ブランドは信頼であり、消費者は信頼に基づいて製品を購入してくれる。製品が先にあるのだ」

(「イーロン・マスクの挑戦 人類を火星に移住させる」別冊宝島、P.73より)

 

「当社の強みは ブランド」と考えるのは、イーロン・マスクの言葉を借りれば「会社の名前に頼っている」ということ。

ブランドに頼らず、商品やサービスを通じて、常に具体的な顧客の価値を愚直に創り出し続けることが必要なのです。

そのためにも、当ブログで常に提唱し続けている「お客様が買う理由」を、日々の仕事で、常に考え続け、検証し続けることが必要なのです。

 

 

オムニマネジメント2015年7月号に連載第2回『問うべきは、「それは手段か?目的か?」』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年7月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第2回目『問うべきは、「それは手段か?目的か?」』が掲載されました。

オムニ201507

 

すべての仕事は、必ず「目的」があって行われます。

「目的」を達成する方法が、「手段」です。

しかし手段が目的化しているケースがとても多いのが現実です。

あるいは目的だけが設定され、具体策がないので、実行できないケースもあります。

これは、決して若手ビジネスパーソンだけが陥る罠ではありません。シニアマネジメントもこの罠に陥ることが多いのです。

本論文では、「手段のあり/なし」、「目的のあり/なし」の4つの組み合わせで、「あるべき戦略の姿」「手段の自己目的化」「机上の空論」「妄想」にわけて、考察しています。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

「ものづくり万能」は幻想。では、どうするか?

ものづくり

「新商品の企画を考えたので、相談したい」というご依頼で話し合いを始めてから、かなり時間が経ちました。

「やはり丁寧にきっちりといいものを作れば、お客さんが喜ぶと思うんですよね」

学生時代からこの道のプロフェッショナルを志して研鑽を積まれ、既に10年になるというその方は、このように言いながら企画書に目を落としています。

「だから売れると思ってます。他社商品も調べましたが、この分野は他社も手薄です」

データを見せながら、誠実そうな笑顔でお話しされます。きっと普段の仕事ぶりも丁寧なのでしょう。そこで、私はお聞きしました。

「お客さんがこの商品を買う理由って、何でしょうね?」

「この課題で困っている人はたくさんいます。だから買う人も多いと思いますよ」

「他社商品が手薄ということですが、お客さんから見て、この商品を買わなければならない理由は、何でしょう?」

「困っている人がいるし、他社はあまりやっていない。丁寧に作っていい商品を出せば、必ず売れます」

「どの位の数字を目指していますか?」

実現すれば確実に業界で「ヒット商品」と呼ばれるような、かなり大きい数字を目指す、とのこと。

「夢というか、目標は大きいに超したことはないですから」

「なるほど。ではその数字を実現するための具体的な方法は何でしょうか?」

「営業も頑張りますし、販促プロモーションも力を入れますし、予算もつけて広告も出します」

詳細を説明いただきましたが、率直に言うと、他の商品とあまり変わらない販促施策にように思えました。そこで質問を変えてみます。

「御社でそのようにして売れた商品、どのようなものがありますか?」

数年前にこの企業様で売れた商品〇〇〇の名前が挙がりました。

「あ、あの商品ですか。私も名前を聞いたことがあります。ただ御社の他商品の多くは、失礼ながらそこまで売れていないものがほとんどですよね。その商品〇〇〇は、どうして売れたのでしょうか?」

「やはり、担当者が頑張っていましたからね」

「御社の皆さんは、どなたも例外なく頑張っておられると思います。おそらく御社の他商品も、今ご相談しているこの商品と同様、『必ず売れる』と確信して企画し、開発・販売を頑張られたのではないでしょうか?」

「ううむ。たしかにそうですね」

「ですから、数年前に商品〇〇〇が売れたのは頑張ったことだけが理由じゃないと思うんですよね。どのような成功要因があったのでしょうか?」

「うーん、それは、その担当者に聞いてみないとわからないですね……」

 具体的な案件がわからないように一部を変えていますが、この時のやり取りを再現してみました。

 

この企業様は、業界の中でもいわゆる「名門」と呼ばれています。企業ブランドがあるので優秀な人材が数多く集まります。しかしこの10年間、ほとんどの商品があまり売れずに低迷を繰り返しています。

なぜ低迷が続いているのか。お話しを聞いていてわかってきました。

それは商品(あるいはサービス)の開発パターンです。

1.「いいモノやサービスを作れば、売れるはず」と考える
2.頭を捻って企画を考え、立ち上げる
3.丁寧にじっくり作り込む
4.出来上がったら、販売する。しかし、当初考えたようには売れない
5.「うーん、ダメか。じゃぁ、次の挑戦だ。今度こそいいモノ作るぞ!」と、次の挑戦をする

こうして次々と挑戦をするのですが、あることが欠落しています。

 

それが「具体的な顧客を想定した、仮説構築と検証」です。

先の商品開発パターンの問題は、

■「いいモノを作れば、売れるはず」と考えているが、その仮説の踏み込みが甘い。具体的な顧客と課題想定が不十分なので、解決策を掘り下げて考えていない
■そして、その掘り下げて考えた仮説を、顧客に対して検証していない
■さらに、仮説検証結果を組織で共有していない

たまにヒット商品が生まれても、それは「たまたま」。再現性がありません。

失敗しても、その失敗を当初の仮説に立ち戻って検証していないので、学ぶことがありません。

だから、いくら挑戦を繰り返しても、成功の可能性が上がらないのです。

 

では、どのようにすればよいのか?

当ブログで繰り返し紹介してきたとおり、「お客様が買う理由」を徹底的に考えること。つまり、

1.自分たちの強みが何で、
2.その強みを必要とするのは、誰で、
3.その人は、何を必要としていて、
4.どうすれば、自社を選んでいただけるか?

これらを、曖昧さを排除して具体的に徹底的に考え抜き、その仮説をリアルなお客様に検証することです。

 

「ものづくり思考」で行き詰まっているケースでは、この「お客様が買う理由」の追求が甘く、学びの蓄積もないことが問題なのです。

この問題は、製造業だけでなく、サービス業・流通業を含むあらゆる業界で共通して起こっています

「うちはサービス業だから関係ない」と思っていても、気がつかない間に同じパターンに陥っていることも多いのです。

 

「ものづくり」という言葉は、心地よい言葉です。「いいものを作っていれば成功する」という幻想を与えるからです。

しかし今も昔も「ものづくり」で成功している企業や人は、お客様視点で「ものづくり」を徹底的に考えています。

あらゆる業界で「ものづくり万能」の甘い幻想から脱し、その先にある「顧客づくり」も含めて、リアルに考えることが必要なのです。

 

その後、この方とは、話し合いを重ねていきました。

「具体的な顧客を想定した、仮説構築と検証」は、頭で理解しても、仕事で実践できないことが多いのです。

日々の実業務で試行錯誤を繰り返し、自ら気づきを得ることで、この方法論を体得することができます。

そのちょっとした「自らの気づき」が、「ものづくり万能」の幻想から脱するカギなのです。

「マス市場」は幻想。解決策は、自分の中にある

マス市場 640

講演が終わり、質疑応答の時間。質問をいただきました。

「永井さんは、『マス市場』をどのように攻めるべきだと思いますか?」

私はこのように答えました。

「『マス市場』というものは、存在しないんですよ」

質問された方は、怪訝そうな顔をしています。そこで私は講演会場にいる皆様に問いかけてみました。

「この部屋には、数十名の方がいらっしゃいますよね」

参加者は、お互いの顔を確認しています。

「皆さん、今回の講演に興味を持たれた、という点では共通です。では、皆さんが商品企画担当者だと想定しましょう。ここにいる人たちへ、どんな商品を企画したら、売れると思いますか?」

ここで私は話しを区切り、皆さんからのお答えを待ちました。

一同、「うーん」と考えられています。しかし、いい答えを思いついた方はおられないようです。

私は続けました。

「ここにいる数十人だけを考えても、皆さん1人1人は違うので、全員が買うような商品を作るのは至難の業ですよね。この数十人を、数百万人から数億人の規模に拡大したのが、『マス市場』です。しかし実際にはその中の一人一人はみな違いますし、多様なニーズを持っています。全員のニーズに応えるのは不可能です。だから『マス市場』は、幻想だと私は思っています」

 

多くの企業は、10人の顧客がいれば、10人全員の課題に応えようとします。このようにして「マス市場向け」の商品が生まれます。

しかしそのような商品を開発しても差別化はできません。顧客は「うーん、悪くはないんだけど、他にも同じような商品はあるからね」と考え、最後は価格勝負になってしまうのです。

 

「iPhoneのような、皆が欲しがるマス市場向けの商品があるじゃないか」と思う方もおられるかもしれません。

しかしiPhoneも誕生当初は、多くの専門家が「ボタンがないこんな奇妙な商品は失敗する」と予想していたのです。

確かにスティーブ・ジョブスはiPhone発表時に、「電話を再定義する」と高らかに宣言しました。

しかしその後、Appleが実際にiPhoneでやったことは、ニッチ市場へのターゲッティングです。そしてiPhoneは地道なイノベーションを積み重ね、時間をかけてマス市場向けの商品に成長したのです。最初からマス市場向けの商品として販売されたのではありません。

 

では、私たちはどうすればいいのか?

「お客様が買う理由」、言い換えれば、リアルな顧客が本当に必要とする「具体的な解決策」を提供することです。

iPhoneも、市場に10人中1人(あるいは100人中1人)しかいない「ぜひ欲しい」という顧客に向き合い、時間をかけて顧客開拓を続けた結果、現在の「スマートフォン市場」を生み出し、世の中を変えたのです。

 

私が講演や研修で実感することがあります。

企業にいるビジネスパーソンは、この「お客様が買う理由」を作る源泉となる「自社ならではの強み」「顧客の課題」を、暗黙知として実は経験的によくわかっているということ。

しかし、それらは日々の仕事で当たり前になっているので、なかなか言葉にできず、改めて深く考え掘り起こし、互いに議論する機会がないこと。

そしてほとんどの企業が、それらを活かす方法論を持っていない、ということです。

 

方法論を学び、時間をかけたワークショップなどを通じてお互いに議論を重ねることで、「当たり前」と思っていて見過ごしていた「自社ならではの強み」「顧客の課題」に気づき、「お客様が買う理由」を創り上げることができます。

他人から「こう考えたら?」と指摘されている間は、自分で問題解決できません。

自分で気づきを得られれば、その後は他人の助けを得なくても、問題解決できるようになるのです。

他人から指摘されるのではなく、たとえ時間がかかっても、実は自分たちが持っていたモノについて自らが気づくことが大切なのです。

 

世の中には「マーケティングというと難しそうだ」という一種のアレルギーがあるので、私は「マーケティング」という言葉はなるべく使わないようにしています。

しかし私は著書や、講演や研修を通して、「マーケティング思考」を世の中に定着させたいと常に思っています。

「マス市場」の幻想から脱却して、「マーケティング思考」が定着すれば、企業や個人がより高い価値を生み出せるようになり、よりよい世の中になっていくと思っています。

「何でも対応できます」は、「価値ある仕事はできません」と同じ意味

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映画「バットマン」で、バットマンの表の顔・ブルース・ウェインを支える執事アルフレッド・ペニーワース (Alfred Pennyworth)をご存じでしょうか?クリストファー・ノーラン監督のバットマンシリーズでは、マイケル・ケインがアルフレッド役を演じています。

アルフレッドはあらゆる難題に対応できる、まさに「万能の執事」。

ウェイン家のあらゆる雑事をこなす傍らで、バットモービルを製作・保守し、武器を調達、敵の情報を調べ上げ、戦いで傷ついたブルースを治療するなど、バットマンの戦いを裏で支えます。さらにとても美味しい紅茶を入れて、癒やしてくれます。

 

さて、アルフレッドのように、あらゆる難題に対して素晴らしいアウトプットを生み出す人は、あくまで映画の中だけの話。しかしこのようにおっしゃる企業様に出会うことがあります。

「弊社の強みは、お客様のあらゆるご要望に真摯に対応することです」

「お客様のあらゆる課題に、いかようにでも対応できます」

実際にはあらゆることに対応できる筈もありません。そしてその特定分野の一流と比べると、大きく見劣りするアウトプットしか出てこないのが、現実です。

 

ほとんどの場合、「何でもできます」の意味は、こういうことです。

「何でもできます」
=「明確な専門分野を持っていません」
=「自分には、『売り』も『強み』もありません」
=「誰でも出来ることしか、できません」

「自社ならでは」の高い価値を提供できないので、他社との体力勝負になります。こうなるとライバルに勝てる要素は価格だけ。競合して運良く最安値で受注しても、「忙しいけど、稼げない」ということになります。

 

本来企業には、何らかの「強み」や「売り」があります。たとえば、

・顧客スキル:ある業界の顧客企業のプロジェクトを長年やっていれば、その業界のことにはかなり精通しています
・ソリューションスキル:特定ソリューションを担当していれば、その強みも弱みも、他社よりは分かっています
・職種スキル:経理や会計、マーケティング、セールスといった職種でスキルを深めている場合もあるでしょう

これを考え抜くことで、自社の得意科目は何で、苦手科目は何かが、わかってきます。

 

学校では、苦手科目でもテストがあります。しかしビジネスでは、苦手科目は避けられます。苦手科目を求めてくるお客様は辞退し、得意科目に絞って勝負することで、価格勝負や消耗戦を避けて、価値で勝負できるようになります。

しかし、実際に企業の方々とお話しすると、「自社の強み?うーん、何だろう?特にないですね」とお答えになる方が実に多いのが現実です。

つまり時間をかけて自社の得意科目を考えている企業は、実に少ないのです。こうなると消耗戦や価格勝負は避けられません。

 

ほとんどの人は、アルフレッドのようなスーパーマンではありません。

「あなたの強みは?」と訊かれた時は、具体的に即答できるように、いつも考えたいものです。

 

メットライフ全国代理店会連合会様 東海ブロックセミナーで講演しました

2015年5月28日、メットライフ生命様と、その全国代理店連合会様・東海地区の代理店様が集まるセミナーで、「お客様が買う理由をいかに作るか?『ニーズ断捨離時代』に求められる思考の変革」と題して講演しました。

 

当日は東海地区のメットライフ生命様の保険代理店が200名以上が、愛知県蒲郡市にお集まりになりました。

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このように、業界を支える皆様が集まり、業界全体で価値を生み出そうとするムーブメントは素晴らしいですね。

 

講演では、ニーズ断捨離が生まれた背景と、生命保険代理店様が、生命保険会社様といかにお互いの強みを相互補完し、「お客様が買う理由」を創り上げるかを、事例を通してお話ししました。

 

今回の講演では、メットライフ生命様と、東海地区でブロック長の宮田様とお打合せを重ねて講演内容の準備を行い、生命保険業界について学びを深めることができました。

皆様に感謝致します。

 

「宣伝会議」2015年7月号に、寄稿記事『“差別化”という発想を脱する新時代の「買う理由」のつくり方』を掲載いただきました

「宣伝会議」2015年7月号の特集『付加価値の正体とは何か? コモディティ時代に選ばれるブランド』に、『“差別化”という発想を脱する新時代の「買う理由」のつくり方』という記事を寄稿しました。

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当記事では、「お客様が買う理由」を作ることが、いかに企業のブランドと繋がっていくのかについて考察しています。

Web記事でもお読みいただけます。

“差別化”という発想を脱する新時代の「買う理由」のつくり方

掲載をいただき感謝です。

 

 

海外事業へのアプローチ方法が、個別案件ベースになっている

Best Internet Concept of global business

日経ビジネス2015.5.25号の特集は「Japan Rushing 世界の企業は日本を目指す」です。

この特集の冒頭で、様々な外資系企業が日本市場に参入している様子を描いています。

■テスラ・モーターズ:日本に急速充電できる設備を展開
■米国IBMとアップル:日本郵政と組み、iPadを活用した新事業を展開

たとえば、IBM・アップル・日本郵政の協業では、IBM ジニ・ロメッティCEO、アップル ティム・クックCEO、日本郵政 西室泰三社長3者そろい踏みで記者会見に臨みました。以前なら考えられない構図です。私もかつてIBMに勤めていましたので、グローバル3社のCEOが絡むイベントの準備に、関係者の皆様のご苦労は大変だったと想像します。

 

気がついたのは、多くの外資系企業で、個別案件ベースで、海外にある本社が投資判断をしているのが共通点であること。

かつては、まず日本法人を作り、個別案件開拓は日本法人に任せる、というスタイルが主流でした。

インターネット普及などで、遠い地域間のコミュニケーションコストが下がり、さらに様々なモノの流れもますます自由化されている中で、世界各国の個別案件に対して本社主導で進められるようになってきた、ということですね。

海外事業へのアプローチも、以前と比べて大きく変わってきています。

「『お客様が買う理由』を考えられれば、苦労しないよ」と思うから、苦労する

いつも講演や研修などで、「『お客様が買う理由』をしっかり考えましょう」とご提案しています。

具体的には、『お客様が買う理由』は次の項目を考えていきます。

①自社の事業は、何か?
②自社ならではの強みは、何か?
③その強みを必要とするお客様は、誰か?
④そのお客様は、何を必要としているか?
⑤お客様が自社を選ぶためには、どうすればよいか?

 

これを考え抜くのは大変です。

時々いただくご意見が、「『お客様が買う理由』を考えられれば、苦労しないよ」。

このご意見、ある意味、とても当たっています。
『お客様が買う理由』を徹底的に考え抜き、実際にリアルのお客様で検証して確立すると、業績もアップし、日々の仕事で苦労しなくなるのです。

しかし逆もまた正しいのです。
つまり『お客様が買う理由』を考え抜かずに仕事をしているから、苦労をしてしまうのです。

Expressions

 

『お客様が買う理由』を考えるのに苦労して、日々の仕事の苦労を楽にするか?
『お客様が買う理由』を考えず、日々の仕事で苦労するか?

できれば前者で行きたいものです。

実は商品やサービスの模倣は、リスクが大きい

私たちは、成功したライバル企業の商品やサービスが、どうしても気になります。そしてその成功要因を分析し、採り入れようとします。その際に、ライバル企業の商品やサービスを模倣する場合もあります。

 

しかしライバル企業は、その会社ならではの強みを持っているので、その商品やサービスを生み出しているのです。

商品やサービスを模倣しようとしても、その会社の強みを100%模倣することは不可能です。

そこで付加価値をつけて差別化しようとします。

Businessman putting last block to the tower

しかし先日のブログで書きましたように、その付加価値はお客様から見て単なるオマケに過ぎないこともまた、多いのです。

結局「劣化版コピー」にしかならず、成功している企業の商品やサービスの「安価な代替品」にしかならない場合が多いのです。

 

我々は、「実は商品やサービスの模倣は、リスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

先行している企業の商品やサービスを学ぶことは決して悪いことではありませんが、模倣するのではなく、自分たちならではの価値を生み出すことに時間と労力を使いたいところです。

顧客第二主義を貫き、最高の顧客満足度を維持するサウスウエスト航空

1967年創業、1971年運行開始のサウスウエスト航空は、格安航空会社(LCC)のパイオニアです。米国同時多発テロ以降、航空産業は大きく冷え込みましたが、米国の航空会社でレイオフを行っていない唯一の大手航空会社です。

高い収益率を誇り、顧客満足度も航空業界トップの常連でもあります。

 

まさに「優良企業」のサウスウエスト航空ですが、意外なことに「顧客第二主義」を掲げています。

なぜ「顧客第二主義」なのに、最高の顧客満足度を維持しているのでしょうか?

 

それは、「従業員満足第一主義」を貫いているからです。

たとえば、サウスウエストはLCCとして様々なコスト削減を行っていますが、人件費の削減は行っていません。

サウスウエスト航空のサイトには、CEOのこんな言葉が紹介されています。

“Our people are our single greatest strength and most enduring longterm competitive advantage.”   Gary Kelly, CEO Southwest Airlines

「私たちの同僚は、私たちの唯一で最高の強みです。それは最も永続的で長期間にわたる競争優位性をもたらします」 ゲリー・ケリー、サウスウエストCEO

従業員を大切にすることが、最高の顧客サービスの提供を可能とし、サウスウエストの長期間に渡る好業績を生み出しているのです。

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一方で、「従業員を大切にする」ことがいつの間にか「従業員の既得権益」になり、顧客満足を大きく下げることもあります。

かつてIBMも企業理念で「個人の尊重」をうたっていましたが、1990年代初頭に経営危機に陥った際にIBMを立て直したガースナーが挑戦したのは、この「個人の尊重」を「既得権益」と考え、変わろうとしない企業体質の変革でした。

 

かつて日本企業も、従業員を大切にすると言われてきました。しかしともすると「従業員を大切にする」ことが、かつてのIBMのように「従業員の既得権益」となってしまうこともあります。一方で日本企業ではバブル崩壊後の成果主義導入や経営の欧米化で、従業員を大切にするという文化が薄れている企業もあります。

我々もこのかつての日本企業のよさを、新たな視点で見直すべき時期に来ているのではないでしょうか?

 

「ヘッドピンの存在を信じる」マツダ スカイアクティブ成功の裏側

Ten Pin Bowling Pins And Ball

マツダは4年連続赤字やフォードの出資比率低下による信用低下などによる苦境を乗り越え、現在好調です。このマツダの好調に大きく貢献しているのがスカイアクティブ・テクノロジーです。

しかしマツダは業界トップのトヨタと比べると規模は1/10以下。エンジン周りの開発人員に至っては、フォードとの共同開発案件に駆り出されていたこともあって、数十分の一でした。そんな状況で、「燃費を30%以上改善しながら、走りの楽しさも実現する」という目標を立てて、スカイアクティブ・テクノロジーが開発されました。

 

マツダのスカイアクティブ・テクノロジーの挑戦については、「100円のコーラを1000円で売る方法2」や当ブログでも何回か紹介しました。

開発本部長としてこの開発を陣頭指揮された、マツダ・常務の人見 光夫さんが、著書を出されました。

「答えは必ずある---逆境をはね返したマツダの発想力」(人見 光夫著)

マツダの挑戦については、これまで主にマスコミの記事で報じられていましたが、人見さんご自身が何を語られるのかとても興味があり、拝読しました。

 

やはり現場で格闘されている人の言葉には重みがあります。

いくつかご紹介したいと思います。

—(以下、引用)—

もっとも、私たちの「選択と集中」は前述のとおり、多くの選択肢の中からどれかよさそうなものを選んでそこに集中するということではなく、さまざまな課題に共通している主要共通課題を賢く選択して、その部分の解決に集中するという意味である。 ボウリングのように、後ろのピンがすべて倒れるようにヘッドピンにうまく当てるのが理想だ。

(中略)

最も重要なことは、ヘッドピンの存在を信じることだ。 常に、そうした目でものごとを見るという習慣が何よりも大事だ。そうすれば、必ず見えてくる。一人ではダメでも、チーム力を駆使すればそれができる。

—(以上、引用)—

本書ではこの「ヘッドピン」という言葉がよく出てきます。

自動車開発に限らず、実に多くのケースでこの「ヘッドピン」というのは存在する、ということは、私も実感します。

ともすると私たちは、常識に囚われたりして、表面的な現象を問題の原因と考えがちです。しかし、様々な視点でその奥深くに潜む本当の原因は何かを徹底的に考えることが必要になります。

様々な現象の本当の原因を徹底的に考え、シンプルな原因に辿り着くことで、ヘッドピンが見えてくるのです。

逆に言えば、対策が10個もある状態では、まだまだ思考が不足している証でもあるのです

 

競争について語っている箇所もあります。

—(以下、引用)—

自動車業界を見渡せば、現在でもそうした後追いはある。なぜ後追いをするのか。不安だからだ。不安になるから真似をする。

—(以上、引用)—

「不安だから真似をする」というのは、まさにその通りだと思います。

日本企業に限らず、世界を見渡しても、成功している他社の模倣をする企業はとても多くあります。

しかし成功企業の真似をしようとしても、100%真似をするのは不可能です。成功企業は独自の強みを持っているからです。だからコピーしたつもりでも「劣化版コピー」にしかならず、「安価な代替品」になってしまうことも少なくありません。

我々は、「模倣は、実はリスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

 

仕事のあり方についても、語っている箇所があります。

—(以下、引用)—

だから、私はできるだけものごとをシンプルに考えて、仕事は減らさないといけないと言っている。もちろん、ラクをするためではない。無駄をなくし、より重要で、全体最適に貢献する仕事をするためだ。 そこを解決すれば、品質もよくなるし、性能もアップする。そしてコストも安く済む。そうした課題を見つけるという発想で課題を探し、ソリューションを考える。それがつまり、仕事を減らすということの意味だ。

—(以上、引用)—

「品質と性能をアップし、コストを削減し、仕事を減らす」

相矛盾するように聞こえますが、実はシンプルな理想形を徹底追求すると、不可能なことではありません。

無駄を排除すること、言い換えれば、不要な様々なモノを切り捨てればよいのです。

それは仕事だったり、製品だったり、あるいはお客様だったりします。

しかし私たちは、この「不要な様々なモノを切り捨てる」ことがなかなかできません。企業は組織ですから、当然ながら利害関係者の反対もあります。

そのためには、価値観と、全体最適の姿を徹底的に共有するチームワークが大切になってきます。

 

スーパーマンのように見える人見さんですが、先行開発部での仕事が長く、ご自身のキャリアの中で、実際の商品開発には関わってこられなかったため、このように語っておられる箇所もあります。

—(以下、引用)—

すでにそれなりの年齢になっていたのに、特に満足感や達成感が得られないまま過ごしているという焦燥感も強かった。自分の仕事がなかなか商品化されない。たとえ商品化されたとしても、技術者としてどれだけのことをしたのかと問われた時に説明ができない。山のようにある技術のうちの数種類に携わったというだけのことでしかないという虚しさだ。

(中略)

考え方、技術のとらえ方を変えないと、「何もできないまま、サラリーマン人生終わりだな」と日に日に強く感じるようになっていた。

—(以上、引用)—

会社に務められて、同じような気持ちを抱えながら仕事をしている方は多いのではないかと思います。

 

等身大で語られる本書から、私たちが学べることは多いと思います。

責任感と法令遵守精神が強すぎるから、日本企業は斬新なビジネスを立ち上げられない、という意見

businessman looking through keyhole

海外のベンチャー企業は様々な革新的なビジネスを立ち上げる一方で、日本からはなかなか斬新なアイデアが出てこない、と言われています。

 

たとえば、ハイヤーの配車サービスを提供するUberというサービスがあります。スマホで配車依頼をすると、個人でサービスを提供しているドライバーと引き合わせ、決裁も安全に行えます。

欧米ではUberのように斬新なサービスに挑戦する会社は少なくありませんが、日本では「そうはいっても、タクシーやハイヤーのサービスがあるし、法律的に色々と面倒なので、やめておこう」と思いがちです。

日本でこのような発想が出ない一つの要因として、「リスクにチャレンジしないから」という意見があります。

しかしそのような性格的な面だけでは、今ひとつ腹オチしませんよね。

 

先日読了した、「競争戦略としてのグローバルルール」(藤井敏彦著、東洋経済新報社)で、そのことがわかりやすく書かれていました。著者の藤井さんは、経済産業省の現役政府交渉官として世界的なルール策定に数多く関わってきた方です。

本書で「なるほど」と思ったのは、日本人は「法は守るもの」と考える傾向が極めて強いのに対して、欧州では「法は目標」と考える、という点。だから海外企業は「法はいくらでも変えられる」と考えて自由な発想でイノベーションを生み出しているのです。

 

たとえば本書では、著者と欧州議会議員が、実現が困難な環境規制について議論したエピソードが書かれています。

著者「…実際に遵守できないことがわかりながら規制するのは適切なこととは思えません」
議員「法は目標なのです。法のめざす方向に社会が動いていけばそれでよいのです」

 

また、非現実的な規制が設定されたエピソードが紹介されています。日本企業であれば「この規制は達成不可能だ。ヨーロッパ市場から撤退をするしかない」と悩むところですが、著者が欧米企業とどのように対処するか議論したところ、最終的な結論は「放っておこう。どうせ誰もこの義務は果たせない」。

本書では、このように書かれています。

—(以下、p.107より引用)—

国際ルールづくりの現場には日本人であればとうていできないような考え方が渦巻いているのだ。日本的に言えば単なる無責任であり、彼らに言わせれば未来志向である。

—(以上、引用)—

また元サッカー日本代表チームのオシム監督が、日本選手がゴールを積極的にねらえない理由として「責任感が強すぎるから」と述べたエピソードも紹介されています。裏を返せば「失敗を叱責しすぎる」ということです。

法令違反をした場合、日本だと「誰がやったのか?」という責任追及になりがちですが、欧米企業では「罰金はいくらだ?」になります。法令遵守のコストより安ければ罰金を払って済ませます。もちろんこの背景には、社会的バッシングが日本よりも少ないこともあります。

 

本書を読んで、過度な責任感の強さや法令遵守精神が日本企業の停滞を生み出しているとすれば、企業側が積極的に働きかけてその責任を企業側で負い、もっと社員に失敗前提でチャレンジすることを奨励すべきなのではないか、と改めて思いました。

また、規制緩和が成長戦略のために政府ができる最大の貢献であることも実感しました。

現状打破の意外なポイントは、まだまだありそうです。

Google/Appleは自動車業界を制覇するのか?

TechCrunchで、「自動車業界は1985年のIBMと同じ道を辿ろうとしている」という記事が掲載されています。

1985年当時のIBMは、コンピュータ業界で最強とも言える巨人でした。絶好調のパソコン事業では、OSはMicrosoft、CPUはIntelをパートナーとして組んでいました。しかしその後、Wintel連合が業界を牛耳ることになりました。

当記事の主張は、現在、自動車業界がダッシュボードをGoogleとAppleに明け渡そうとしているのは同じことである、という点です。

 

当時、私は新入社員としてIBMにいました。業界の中でリアルタイムにこの怖さを肌身で感じた世代です。

新規事業立ち上げの際に、自社に足りない部分を他社に頼る判断はよく行われます。「新技術でよくわからない分野はベンチャーや専門家に任せて、自分たちは現時点で大金を生み出すキャッシュカウに集中しよう」という考え方ですね。

そして任せた部分がいつの間にか業界標準プラットホームになり、各社がこのプラットホームに準拠しなければならなくなり、将来莫大なキャッシュフローを生み出すプラットフォームを明け渡してしまうのです。

 

今、自動車業界で起こっている変革は、人工知能、センサー機能、膨大な数のセンサーから生み出される巨大なビッグデータへの対応、自動運転、ロボット技術、など、かなり膨大なテクノロジーの集合体です。30年前にIT業界で起こっていたCPUやOSといったものと比較するとかなり大がかりな資本と人材を必要とします。

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現在アナログな自動車業界がデジタル化した時点を見据えて、Googleは莫大な資金と人材をこの分野に投入しています。

 

また現代では、企業や組織の壁を越えて、様々な技術を持ち寄って、イノベーションを推進していく「オープンイノベーション」も主流になりつつあります。

30年前と同様、少数企業がプラットホームを独占し業界を牛耳るのか?

それとも自動車業界や電機業界などのメーカー主導でいくつかの業界標準が生まれ、群雄割拠の状況になるのか?

大きな分かれ目でもあると思います。

 

IoT (Internet of Things)の時代になり、同じことは急速に様々な業界で起こりつつあるように感じています。

「顧客の声が届いていて、ちゃんと理解しているか」が大きな分かれ目になる

日経ビジネスオンラインの記事で、ユーグレナ社長 出雲充氏のインタビューが掲載されています。

なるほど、と思ったのは次の箇所。

—(以下、引用)—

技術にこだわる会社は、直接お客様の声が自分たちに届く仕組みを手放してしまうと急におかしなことになると。これは、いろいろな会社の経営者とお話ししていて実感したことです。

—(以上、引用)—

どの商品やサービスも機能的には大きな違いがない中で、最近感じるのは、「いかに顧客の声が届いていて、顧客の課題を理解しているか」が、価値を創り出す上で、とても大きな分かれ目になるということです。

Mecanismo

「そんなのは当たり前だ」と思われがちですが、実際にお客様が何で困っているかを尋ねてみると、ちゃんと答えられない企業は少なくありません。

顧客のことは販売を仲介している取引先に聞かないとわからないケースもあったりします。

 

自分が顧客の立場で考えると、自分の悩みをちゃんと理解してくれる会社だったら、安心ですよね。

私の場合、著書を読んでいただいた読者の方々の感想はかなりマメにネットでチェックしていますし、講演や研修での皆様の感想は常に把握するようにしています。

チャネル戦略の設計も、顧客の声が届く仕組みをしっかりと残したいものです。

目的を考えた人が、手段も考えるべきである

第二次世界大戦中にこんな笑い話があります。

米軍は大西洋でドイツ軍のUボートに多数の船を撃沈されて困っていました。

ちなみにUボートというのはこんな潜水艦です。
U-Boat

そこである米国の俳優が記者にこう語りました。

「Uボート退治は簡単だ。海水を沸騰させれば、浮いてくる。そこを捕らえるのさ」

記者はこう尋ねました。

「素晴らしい!でもどうやって沸騰させるのでしょうか?」

俳優はこう答えました。

「解決策は教えたよ。考えるのはあなたがただ」

笑い話ですが、実は笑えない話でもあります。似たようなことはビジネスの場でも起きているからです。

 

組織トップが大きな問題意識を持ち、

「もっと顧客志向になろう」

「徹底的なコスト削減を進めよう」

とメッセージを出す企業は多くあります。しかしこう言われた部下は戸惑います。

「言っていることはわかるが、具体的にどうすればいいかわからない」

そしてこう考えます。

「今日も忙しいから、まずあの件を片づけよう」

この結局、何も変わらないことが多いのです。しかしトップはこの状況をなかなか理解できません。

「目的は明確に示した。手段を考えるのが部下の仕事なのに、なんでやらないのだろう」

 

先の米国俳優とこの組織トップの共通点は、「手段を考えるのは、自分の仕事ではない」と考えている点です。

違いは、米国俳優は手段は存在しないと知っていてジョークで発言しているのに対して、組織トップは目的を達成するための手段は存在すると信じ、その手段を考えるのが部下の仕事と考えていることです。

「目的」という大きな花火を打ち上げますが、その目的を達成するための具体的な手段は考えていないのです。だから「机上の空論」になってしまうのです。

特に現代は、戦略を実行するスピードが勝負の分かれ目になっています。言い換えれば、戦略を迅速に実行することも、戦略を立てた人の責任であると考えるべきなのです。

細かい詳細な手段や箸の上げ下げまでトップが考える必要はありませんが、部下や関係者が実際の行動に移せるための具体的な手段までを考えるのは、目的を考えた人の責任と考えるべきなのです。