仮説検証プロセスでバリューセットを刷新する、日本マクドナルドの挑戦

マクドナルド

消費者離れが続き、苦戦する日本マクドナルドですが、挑戦を続けています。

2015/5/15の日本経済新聞の記事「マクドナルド、セット刷新 サイドメニュー4品から選択」によると、5月下旬に主力のセットメニュー「バリュー セット」の刷新を予定しています。

特に私が「なるほど」と思ったのが、次の部分。

—(以下、引用)—

新メニューは複数の店で数カ月にわたって試験的に導入し、来店客の反応や店内作業の見直しを繰り返し確認した。その結果、来店客には「好みに合わせて選べる仕組みが大変好評だった」(下平篤雄副社長兼最高執行責任者)といい、収益面でも一定の効果を確かめることができたようだ。

—(以上、引用)—

つまり、

・ターゲット顧客を、「家族客」と定義し、この家族客を呼び戻すために、
・顧客の課題の仮説として、「ファストフードにも 健康に配慮した品ぞろえを強く求める」を考え、
・解決策の仮説として、「健康志向と幅広いセットメニュー」が必要と考えました。

その仮説を実際に数ヶ月に渡って実際の店舗で検証し、収益面での効果を確認した上で、今回の発表に至っている、という点です。
価格も大半を300円で統一するわかりやすい方針に変更しました。

自社の強み→対象顧客・課題・解決策の仮説構築→プロトタイプの検証

と着実にステップを踏んで展開をしています。

新たにCOOに就任された現場に強い下平副社長が牽引されている点も、要注目だと思います。

今回の日本マクドナルドの新たな挑戦は、期待できるのではないかと思いました。

吉野家、健康志向へ挑戦

昨日、当ブログのエントリーで牛丼の価格アップについて書きました。

ちょうどその昨日、吉野家が新しい商品を発表しました。

2015/5/15の日本経済新聞の記事「吉野家、野菜たっぷり丼 健康志向、パプリカなど11種」によると、発売するのは3種類です。

「ベジ丼」(530円)…11種類の温野菜を盛りつけ。肉類なし
「ベジ牛」(650円)…小盛りサイズの牛丼に温野菜
「ベジカレー」(650円)…カレーと温野菜を組み合わせ

ベジ丼

 

吉野家は昨年、630円の「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」を発売、昨年の売上アップを牽引しました。

そして今、原材料費や人件費がアップする中で、新たな高付加価値化への挑戦です。

 

「吉野家と言えば、牛丼」というイメージがあるように、吉野家は牛肉にこだわり続けてきました。

「ベジ牛」というメニューがあるのも、そのこだわりの部分だと思います。

このこだわりは、「企業としての強み」にも繋がっています。

「マックと言えば、ハンバーガー」というイメージがあるマクドナルドも、コーヒーブームに乗ろうと「マックカフェ」に挑戦し、マクドナルドの強みが十分に活かせず、苦戦してきました。

そんな中で今回吉野家が繰り出した、牛肉を使わない「ベジ丼」がどの程度消費者に受け容れられるのか?

今後、吉野家が高付加価値化への挑戦を続ける上で注目されるところだと思います。

日経MJで、牛丼業界における価格と価値について、コメントを掲載いただきました

牛丼

昨日2015/5/13発行の日経MJ(旧・日経流通新聞)の記事「牛丼、300円台、常連2割の乱―会社員、懐厳しく、牛丼各社、顕著に客離れ、根強い 節約志向」で、コメントを掲載いただきました。

 

円安による原材料価格上昇や人件費アップで、長らく200円台の価格競争を繰り広げていた牛丼業界は価格アップを余儀なくされています。

価格アップに伴い、すき家は20%増量する商品リニューアルも同時に行ったりしていますが、客足は遠のいています。同記事によると、すき家の4月の来店客数は昨年同月比13.7%減。吉野家の来店客数も3月は昨年同月比18.4%減、4月は16%減でした。

厳しい状況ですね。

 

数日前の5月11日に当ブログ「価格を上げつつ、顧客離れを防ぐ方法は、一つしかない」でも書いたように、価格を上げて顧客離れを防ぐには、価値を上げるしかありません。

記事では、1960年代の米国コーヒー業界を例に、価格競争から価値競争へシフトした事例をお話ししました。ファーストウェイブからセカンドウェイブへの移行ですね。

 

他にも事例があります。

吉野家が昨年販売を開始した630円の「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」は、まさに価格を上げて価値も上げた事例です。(→詳しくは2014年12月16日の当ブログエントリー「価格勝負から価値勝負へのシフトのカギは、「吉野家らしさ」の追求が出発点だった」を参照ください)

消費税増税に際して「安くはないけど高品質」が売りのセブンプレミアムの品揃えを強化したセブンも、価格を上げて価値も上げた事例です。

 

果てしない価格勝負の果てには、市場縮小と、それに伴う企業の大絶滅しか待っていません。

価格を下げて価格勝負するのと比べて、価格と価値を上げて価値勝負をするのは簡単ではありませんが、どのように価格勝負を徹底的に回避して価値勝負に持ち込むか、常に考えていきたいものです。

 

ルンバ大成功の裏にあった、14の新規事業失敗の意味。日本の電機メーカーは「ルンバという製品」でなく、「アイロボット社の考え方」を学ぶべき

iRobotロゴ

おそうじロボット「ルンバ」は、現在、アイロボット社の主力商品です。

この結果だけを見ると、

「なるほど。ロボット技術を活かして、自働おそうじロボットか。アイロボット社も、いいところに目を付けた。ラッキーだな」

と思いがちですよね。

 

しかし実際には、アイロボット社は偶然「おそうじロボット」を作ったのではありません。

2014年には全世界で売上5.57億ドル (約668億円) / 利益0.38億ドル (46億円)を稼ぎ出すアイロボット社は、自社の強みであるロボット技術を「儲かるビジネス」になかなか繋げられずに、苦しんだ時期があるのです。

2015年3月4日付のITmedia Life Styleの記事『困難に直面しても「楽しかった」――「ルンバ」登場までの軌跡』では、2014年に明治大学で講演したコリン・アングルCEOが儲からなかった時期について語っている様子を紹介しています。

この記事に掲載されたチャートによると、アイロボット社は下記14件の新規事業を計画しては止めることを繰り返していました。

Failed Business Models over time

1. Sell Movie Rights to and then perform to a Robotic mission to the moon
2. Sell Research Robots to Universities and Hobbyists
3. Earn Royalties on Robotic Toys
4. Develop and license technology for nano-robots to clean plaques from blood vessels
5. Sell Robots to the oil industry to stimulate production in wells
6. Sell Nuclear Power Plant Inspection Robots
7. Sell Educational Robots to Museums
8. License Technology for Industrial Floor Cleaning robots
9. Develop and Sell Smart Home solutions to supermarkets
10. Create and sell “Robot Wars” style location based entertainments experiences
11. Sell Landmine clearance robots
12. Develop and License a Robot Operating system
13. Sell Robots you can control over the internet to data centers
14. Develop and sell planetary rovers to the Ballistic Missiles

上記を日本語に訳してみました。

過去失敗したビジネスモデル

1. 映画化権利を反した上で、月面へのロボットミッションを遂行する
2. 研究段階のロボットを大学や愛好家に売る
3. おもちゃのロボットのロイヤルティで稼ぐ
4. 血管で血小板をきれいにする極小ロボットを開発し技術をライセンス供与する
5. 油田の生産工場のために石油業界にロボットを売る
6. 原子力発電所の検査用ロボットを売る
7. 博物館に教育ロボットを売る
8. 工場のフロアを掃除するロボットの技術をライセンス供与する
9. スーパーマーケットへスマートホーム·ソリューションを開発し販売する
10. 「ロボット戦争」スタイルの位置情報付きエンターテイメント体験を売る
11. 地雷除去ロボットを売る
12. ロボット用のオペレーティングシステムを開発しライセンスする
13. インターネット経由でデータセンターを管理できるロボットを売る
14. 惑星探査機を開発して売る

1/2/4/7/10/13/14などは、「こんなプロジェクトまで考えていたのか!」と驚きますね。

一方で、6の技術は福島第一原発に提供されましたし、11.の地雷除去ロボットもいいところまでいっています。

 

改めて思ったのは、アイロボット社がおそうじロボット「ルンバ」を成功させたのは、単なる幸運ではなかったということ。

ルンバ成功の過程で生み出されたのが、この14の新規事業の失敗。しかし実際には失敗とも言い切れず、継続してビジネスに繋がりかけているプロジェクトもあります。

アイロボットは自社の技術的な強みを活かして、いかに顧客を絞り込んで、その顧客の課題を解決することで、ビジネスに繋げるか、アイロボット社は考え抜いてきたのです。

つまり「ものづくり思考」ではなく、「マーケティング思考」なのです。

 

日本の電機業界も、「ルンバという製品」を学ぶのではなく、「アイロボット社の考え方」を学ぶべきではないでしょうか?

 

Business Journal連載第7回目『縮小する国内家電業界で、海外メーカーが続々参入し躍進する理由 日本企業が失った「力」』

Business Jornal様の連載第5回目の記事が掲載されました。

縮小する国内家電業界で、海外メーカーが続々参入し躍進する理由
日本企業が失った「力」

昨日当ブログでご紹介した文化放送「オトナカレッジ」でお話しした「黒船家電メーカーに学ぶ、『買う理由』の作り方」を、別の視点で深掘りした内容になっています。両者あわせると理解が進むかと思います。

エルゴスリー

 

よろしければご一読いただければ幸いです。

文化放送「オトナカレッジ」に出演しました

昨日2015/5/7(木)の文化放送「オトナカレッジ 90分マーケティング学科SP!!」に出演しました。

前半45分はマーケティングライターとして大活躍の牛窪恵さんで。「なぜ今『プチ商品』と『ぼっちウェディング』が売れるのか?」 。とてもわかりやすいお話しでした。

私はの担当は、後半45分た。テーマは「黒船家電メーカーに学ぶ、『買う理由』の作り方」

白物家電市場で成長している黒船家電メーカーを例に、いかに「お客様が買う理由」を作るかについてお話ししました。

 

番組を進行された砂山圭大郎さんとのツーショットです。

IMGP1495

リスナーの皆様からも、iPhone、マツダのロータリーエンジン、ダイソンのルンバのおそうじロボット対決、ハイアールの洗濯機、お好み焼き店経営の方など、色々なご質問をいただきました。

ありがとうございました。

ITエンジニアがマーケティング思考を身につければ、ビッグデータ活用で大きな成果を生み出せる

Big Data

ビッグデータ時代のいま、ITエンジニアに求められているのは、ITに関する技術だけではなくマーケティング思考力。そのことを感じた記事がありました。

日本経済新聞デジタル版に、日経情報ストラテジー編集部から転載された記事「1ピクセル5億円…顧客呼ぶヤフーのこだわり分析」(会員のみ閲覧可能)が掲載されています。

【事例】ヤフージャパン
対象顧客:スマホサイトの検索利用者(月間 約600億PV)
方法:A/Bテストで検証した結果、検索窓の枠を1ピクセル太くした。
結果:検索広告で5億円増収

【事例】東急百貨店
対象顧客:電子クーポン機能を使う、主要顧客である40代以上の女性
方法:複数枚の電子クーポンを配付しても1枚しか使わない。データ分析の結果、一番上に表示されるクーポンしか認識しないことがわかったので、クーポンを表示する瞬間、微妙に動かし複数枚あることを気づかせるようにした
効果:クーポン利用率は3割増加

【事例】ドリコム
対象顧客:通勤時間帯にゲームを楽しむソーシャルゲームユーザー
方法:数十テラバイトに上るログデータにより、このユーザー群は土日もゲームにはまっていることを把握。「同じ人数同士のチーム戦は最も楽しい」ので、先々のユーザー数を予測し、チーム対戦ゲームで、同じ人数のチーム同士が戦えるように対戦相手を最適化する仕組みを新開発。
効果:購入金額を1割向上

 

実際、私も小さなサイトをいくつか運営していますが、かなり頻繁にデザインを変えています。

サイトを運営していると、実際のアクセスデータでユーザーの挙動を見ながら、サイトを細かく手直しするのは常識です。

これが企業レベルになると、扱うデータも巨大になる一方で、ビジネス規模も巨大で、かつリアルタイム性を求められます。

 

ここで必要なのが、マーケティング思考です。

マーケティング思考の原点は、「お客様が買う理由」を創り出すこと。

この「お客様が買う理由」は、次の仮説検証プロセスを通じて作っていきます。

1.自社の強みは何か? (徹底検証)
→2.その強みを必要とする対象顧客、顧客の課題、解決策は何か?(仮説)
→3.対象顧客と顧客の課題の仮説は、正しいか? (検証。×なら2.に戻る)
→4.解決策の仮説は、正しいか? (検証)   (検証。×なら2.に戻る)

一見難しいように見えますが、上記事例にもあるように、ネット業界の多くの成功事例ではこれらを普通に行っています。

 

マーケティング思考と組み合わせることで、ビッグデータの活用はビジネス直結の成果を生み出します。

そのためには、単にビッグデータ活用技術を導入するだけではなく、「お客様が買う理由」を仮説検証するプロセスや思考方法も、一緒に定着させることが必要になります。

ビッグデータ時代には、ITエンジニアも、マーケティング思考が求められるのです。

昨年、当ブログでグロースハッカーの考え方をご紹介しましたが、まさにその考え方とも通じる話ですね。

技術的な卓見性を兼ね備えた戦略を立てて、愚直に実行するイーロン・マスクの凄さ

イーロン・マスクについては、当ブログでも何回かご紹介してきました。

宇宙ビジネス・電気自動車・太陽エネルギーに挑戦するイーロン・マスクの実像。「モノゴトに魔法はない。志を持って実行するのみ」

火星移住に向けて着実に宇宙ロケット技術を進化させているイーロン・マスク

 

このイーロン・マスクの取り組みからは、実に色々なことを学ばされます。

その一つが、

①最初にぶれない戦略を立てること
②そして、それを愚直に実行すること

 

たとえばスペースX社では、このように考えました。

SpaceX_logo.svg

現状:既存のロケットは特注品であり、材料コストは2%。一方、民生品でたとえばパソコンは材料コストは90%。しかもロケットは再利用せず使い捨て
戦略:ロケットの総コストは1/100程度に引き下げることは可能。民生品を使用し、再利用する。
実行:3回の失敗を重ね、創業8年目に独自開発の宇宙ロケットを軌道投入して回収。民間の宇宙船としては史上初。さらにロケット回収技術も試行錯誤を繰り返しながら開発中。

 

電気自動車を開発販売するテスラでは、このように考えました。

tesla2

現状:電気自動車はコストが高く、エコカーとしてなかなか普及が進まない。
戦略:まずプレミアムカーとして10万ドルを超える高級車を発売。次に5万ドル程度のミドルクラスの4ドアセダン。最後は大衆の手に届く2万ドルクラスのエントリー車を大量に生産。
実行:レーシングカーの名門・英国ロータス社と共同開発契約を締結。納期遅れとコスト増で苦しみ顧客の前払い金を私財で保証までしながら電気自動車を開発。その経験に基づき蓄積した技術を活かして、ミドルクラスに広げる。量産効果でエントリー車を量産。

 

そのテスラで最近発表したTesla Energyブランドの蓄積型バッテリーユニットでは、このように考えました。

現状:原子力発電と比較して太陽光発電が劣るのは、発電の安定性。昼間の太陽が照る時間しか発電できない。
戦略:高信頼性があり、スケーラブルなバッテリーを低コストで量産すれば、太陽光エネルギーの不安定性を補える。これを20億台展開できれば、全人類のエネルギーを太陽光発電で代替できる。現在世界で20億台の自動車があるので実現不可能な数字ではない。
実行:テスラーの電気自動車で試行錯誤しながらバッテリーを実装。

 

イーロン・マスクはある雑誌のインタビューでこのように語っています。

「革命的なブレークスルーによってではなく、コツコツと地道な努力を積み重ねることで成し遂げたんだ」

技術的な卓見性を兼ね備えた戦略性に、日本企業のお家芸でもあった愚直な仮説検証の積み重ねが加わったイーロン・マスク。

今後も目が離せません。

成功体験の賞味期限が短くなっている。だから成功体験の否定力が重要

GEが、2003年には全社営業利益の56%を占めた金融事業の比率を、2016年に25%まで下げる方針を打ち出しています。金融事業からの事実上の撤退です。

その背景には、金融ビジネスの収益悪化と、GEの本業である製造業における「インダストリアル・インターネット」への自信があります。

 

かつて総合スーパー業界の優等生であったイトーヨーカ堂も苦しんでいます。セブン&アイの鈴木会長も、日経ビジネス2015/4/27-5/4合併号で、このように語っています。

「伊藤雅俊・名誉会長から受けた教育が伝統になってしまっている」

そして、伊藤会長以来の成功モデルであり聖域となっていたチェーンストアという考え方を否定しようとしています。

 

日本のIT業界では、この7-8年、クラウドによる既存ITビジネスモデルの破壊が喧伝されています。

しかし一方で、ITサービスや製品を提供側の企業とお話ししていると、かつて成功体験であったSI受注型モデルの発想からなかなか脱却できない企業も多いように感じています。

 

成功体験には賞味期限があります。いつの間にか食べられない状態になっています。

賞味期限Dollarphotoclub_44931774 のコピー

そして変化が激しくなっている現代、賞味期限はますます短くなっています。

かつて栄華を誇っていた恐竜が徐々に数を減らして大絶滅したように、成功体験に溺れた企業も新しい成功体験を得た企業に淘汰されます。

 

かつての成功体験を、いかに否定するか?

GEやセブン&アイのような巨大企業では、成功体験は全社の津々浦々まで染み渡っています。業界レベルでも同様です。

そして人の行動を変えるのは、一朝一夕には進みません。それは成功体験が各自の頭の中に存在しているからです。成功体験は、忘れることはできないのです。

仮にトップが「このように変われ」と言っても、そして頭ではわかっていても、成功体験が染みついているために、日々の行動を急激に変えるのはなかなか難しいのです。

だからこそ企業変革にあたっては、トップが明確に目指すべき方向性をメッセージとして出し続けると共に、経営戦略やマーケティング戦略だけに留まらず、業務変革戦略・人事戦略・人材育成戦略・オペレーション戦略などとシームレスに連携しながら、新しい成功体験を作っていく方向に持っていくことが必要であると、ますます感じています。

「ガス抜き」では、問題は解決できない

昔のことです。

ある案件で問題が発生しました。その担当者に「このような問題があって、あなたが担当しているこれが原因のようなのですが、対応を検討していただけますか?」と相談しました。

担当者は「じゃぁ、一緒に飲みながらお話ししましょう」とおっしゃって、数日後に飲みに行くことになりました。

飲み会でその件を話すと、「いやぁ、色々としがらみがあるんですよ」と悩んでいることを話します。しかしなかなか本題に入ろうとしません。

なぜかそこには彼の後輩も参加していました。彼がお手洗いに立つと後輩は「xxさん、とてもいい先輩で、こんな人なんです……」とエピソードを語ってくれます。

結局、その日は問題について具体的に踏み込んで話ができませんでした。

 

翌日、その担当者に再び電話しました。

「それで、あの問題の件、どうします?」

と話したところ、

「え?昨日飲みにいったばかりじゃないですか」

との返事。結局、この案件の問題は解決できませんでした。

 

不満が溜まっている人たちに、「ガス抜き」と称して、話を一通り聞いたり、飲み会などのエンターテイメント系イベントを行ったりします。

彼が私に対して行っていたのが、実はこの「ガス抜き」でした。

この言葉はビジネスの世界で、「彼らも不満が溜まっているようだ。ちょっとガス抜きした方がいいんじゃないか?」といったような文脈で使われます。

ちょうど空気が溜まってパンク寸前の風船から空気を抜くように、溜まった不満(=ガス)を吐き出させるということですね。

Colorful balloons

 

ただこの「ガス抜き」という言葉は、人に対するリスペクトがあまり感じられない言葉でもあります。

もし誰かが自分に対して「あいつ、ガス抜きしておこう」と言っているのを聞いたら、あまりいい気がしませんよね。

 

また「ガス抜き」は、問題解決を先延ばしにし、うやむやのままにします。

本来は、不満が溜まっている人と対話し、何が不満なのかを明らかにし、こちらの状況も伝えた上で、双方が納得する解決策を探っていくことが必要です。そのためには手間がかかりますが、「ガス抜き」で問題から逃げるよりも、問題が解決することで成果もあがることが多いのです。

 

「ガス抜き」という言葉は、ビジネスの場では禁止用語にした方がいいのではないかと思う、今日この頃です。

外資系企業のよさ、日本企業のよさ、両者の共通点

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ある取材で、外資系企業と日本企業のマーケティング思考の違いについてインタビューを受ける機会があり、色々と考えることになりました。(「外資系企業」の定義は、ここでは「海外に本社があり、日本でビジネスをしている会社」とします)

考えてみて改めてわかったのは、「外資系には外資系の良さがあり、日本企業には日本企業の良さがあり、大切なのは共通」という当たり前のこと。

 

日本に進出してくる外資系企業の多くは、本社レベルでしっかりとした戦略があります。

そして多くの外資系日本法人が悩むのは、日本市場へのローカライゼーション。この部分で日本法人と本社がお互いにコミュニケーションが円滑にでき、日本市場に合わせた展開ができた企業は成功しています。

その典型的な成功例は、1975年に日本IBM社長 に就任した椎名武雄社長時代の日本IBMでしょう。「セルIBMイン・ジャパン、セル・ジャパン・インIBM」というスローガンを掲げ、IBMの良さを日本市場に売り込むと共に、日本事業のプレゼンスをIBM全社に売り込み、ときに喧嘩のような状態になりながらも説得し、本社を動かしました。

現代では、日本の白物家電市場で元気ないわゆる黒船家電(ダイソン、アイロボット、エレクトロラックス)なども成功例ではないでしょうか?日本市場の顧客が「是非買いたい」と思う商品を展開し、グローバル展開を見据えて商品を磨き上げています。

 

一方で日本企業が得意なのは、顧客が買う理由を愚直に追求し続ける点。

セブンのあくなき仮説検証の追求は有名ですし、セブンカフェ、セブンゴールド・セブンプレミアムはその成果です。

中小企業では、徹底的にユーザー視点で考え続け、業務用ミラーでシェアNo.1のコミーのような企業もあります。

 

とは言え、現代では外資系企業と一括りにはできなくなりました。かつては外資系企業≒米国企業+いくつかの欧州企業でしたが、今や外資系企業は様々な国を本拠地にしており、価値観も多様です。またイーロン・マスクが率いるテスラやXスペースは、技術開発において日本企業が得意だったあくなき愚直な仮説検証を繰り返しています。

 

しかしいずれにしても、外資系企業・日本企業、いずれのケースでも、

「顧客の課題」+「技術の強み」→「解決策」(=製品)

を徹底的に追求している企業が、成功しているのは共通です。

結局大切なことは、どこでも同じなのだと思います。

5月7日(木)の文化放送「オトナカレッジ」に出演します

スクリーンショット 2015-04-29 午後8.16.27

5月7日(木)夜に、文化放送「オトナカレッジ」特番に出演することになりました。→『文化放送Special Program』スケジュール

この日の特番は2部構成のマーケティング特集で、私の出演は20時45分から21時30分になります。

 

昨年11月28日に「1杯のコーヒーに学ぶビジネス戦略!」でお話しして以来のオトナカレッジ出演ですね。

今回も身近な話題でマーケティングのお話しをさせていただく予定です。

 

Radikoを使えば、インターネット経由でも簡単にお聴きになれます。よろしければ是非どうぞ。

 

「営業は確率戦」というアウトバウンドコールで、失うもの

Confused businessman holding the phone

仕事中に、会社へ営業のお電話をいただくことがよくあります。いわゆる中小企業に限らず、名の通った大企業の場合もあります。

こんな感じで、多くの場合は若い方がやや慣れない調子で電話してこられます。

「〇×△□社の××と申しますが、永井様でしょうか?」

コールセンターのオペレーターではなさそうですし、会社名を名乗られるので、最初に企業様からの仕事のご依頼と想定して電話に出ます。

「はい。永井でございます」

「弊社はxxxxの業務を行っておりまして、是非永井様にご覧をいただきたく、お電話を差し上げました」

微妙な言い回しなので、「ご相談したい」「取材したい」という仕事の電話か、「製品を紹介したい」という営業の電話かの判断が付きません。そこで単刀直入に、要件は仕事のご依頼なのか、商品やサービスの紹介(営業)なのかを丁寧にお伺いします。実際には9割程度の確率で営業のお話しなので、その時点でお断りします。

ホームページを検索したり、名簿を使ったりして、次々と電話をされているようです。いわゆる「アポなしアウトバウンドコール」ですね。

 

このような営業方法を企画し実行を指示している方は、次の2段階で考えておられるのではないかと思います。

(1)沢山チャレンジしたものが勝つ。

(2)加えて営業は確率戦だ。1%の成約確率があるのであれば、100人に声をかければ1人契約が取れる。

確かに(1)「沢山チャレンジしたものが勝つ」は正しいと思います。いきなり見ず知らずの人に電話するのは勇気がいりますよね。世の中には、チャレンジせずに諦めるケースが多い中で、果敢にチャレンジされているのは素晴らしいと思います。

 

一方で、(2)「営業は確率戦」は危険な考え方だと思います。それは1%の成約確率でOKしている点。

仮に100人に声をかけて1人成約を取る裏に、99人の失注があります。この99人のブランド認知は確実に下がっています。実際に私も「あの有名な〇×△□社さんがこんな営業をするのか…」とちょっと残念に感じました。

加えて電話をかける方も、何回電話しても断られてばかりでは心が折れてしまいかねません。私は丁重にお断りするようにしていますが、数多く電話をかける中には、多忙な仕事中にかかってきて感情的に断られるケースもあるでしょう。

 

一方でこんな私も、相手先からの電話をお受けする場合もあります。

それは事前に電話をいただくことを予め了承しているケース。この裏には、顧客獲得のために設計されたマーケティングプロセスがあり、アウトバウンドコールの専任スペシャリストが電話しています。

「営業は確率戦だ。100人に1人でも契約が取れればOK。だから経験を積ませる意味でも、若い新人に電話をかけさせよう」という発想とは異なり、周到に考えられ準備されているのです。顧客側も納得して電話を受けているので、ブランド認知も下がりません。

 

いわゆる「ローラー作戦」ではなく、本当に必要とする見込み客にピンポイントでコンタクトしたいものです。

そのためには、当ブログでも何回か書いていますように、自社の強みを考え抜き、その強みを必要とするターゲット顧客と、その顧客ニーズを明確にした上で、「お客様が買う理由」を創り上げることが前提になるのだと思います。

 

「潮目を読み切る社長がいる会社は元気、空気を読む社長のところはダメ」…違いはなぜ生まれるのか?

週刊東洋経済2015/5/2-9号で「トヨタ!進撃を再開する巨大企業」という渾身の特集をしています。

この特集の中に、東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏教授のインタビュー記事「日本の製造業がトヨタから学べること」が掲載されています。

インタビューの中で、藤本先生はこのように語っておられます。

「おおむね、潮目を読み切る社長がいる会社は元気、空気を読む社長のところはダメな傾向がある」

「藤本先生、さすが名言だな」と思いました。

確かに前者では、トヨタ、ファーストリテイリング、セブン、復調中のパナソニック……と色々と思い浮かびます。

同時に後者では、現在業績不振で経営再建に苦しんでいる様々な企業が思い浮かびます。

 

これは「リーダーシップの有無」ともちょっと違うような気がします。

 

「潮目を読み切る力」は、「社長の戦略構築力」とも言い換えられます。戦略を部下任せにしてきたか、自分で考え抜いているかの違いが、業績に繋がってるということではないでしょうか。

確かに先に例に挙げた、トヨタの豊田章男社長、ファーストリテイリングの柳井社長、セブンの鈴木会長、パナソニックの津賀社長、いずれのリーダーも、自分の言葉で戦略を語っています。自分で戦略を考え抜き、決断しているのです。

一方で業績不振の企業の多くは「今、皆で力を合わせている」という言葉が多く聞かれ、あまり戦略性を感じません。

 

現代の市場でビジネスをするのは、激動する荒波で船がどこに向かうかを決断するようなもの。

Composite image of businessman in boat with binoculars

記事を拝読し、まさに「潮目を読み切る」戦略力がますます重要になっていると感じました。

「差別化」と思っていたのが、お客様から見ると実は「単なるオマケ」だったという私の体験

20年ほど前の自分の体験談です。

自分が企画を担当し、開発チームが頑張って出荷された製品を、セールスとしてお客様にご提案していました。

ちょうどその製品市場が立ち上がり始めた時期で、競合も出始めていました。そこで競合製品と徹底的に機能比較し機能面ではまったく遜色なく、加えて高い保守性・安全性でデータをしっかり守るという高付加価値をあわせ持った製品が出来ました。

しかし販売してみると案件で競合することも多く、勝ったり負けたりを繰り返していました。

そんな中でも採用されたお客様も多くおられました。

 

一通り採用が決まった後は開発担当になり、ユーザーになったお客様とのおつき合いも増えました。ある日、お客様とのお打合せで、お客様がさりげなくこうおっしゃいました。

「いや、あの製品ね。実は機能面よりも、価格形態が評価ポイントだったんですよ」

ここで補足しますと、当時他社製品はソフトを導入したパソコンの台数分費用が発生していたのに対し、私たちの製品はサーバーへの接続数だけで課金していました。お客様にとってパソコンへの導入ソフトのライセンス管理は結構大変なので、私たちの方が管理が楽だった(しかも多くの場合、安かった)のです。

「高い保守性・安全性でデータをしっかり守ることが、私たちの製品の高い付加価値」と思っていた私は、こう質問しました。

「保守性とか安全性とかは、どう評価されているのでしょうか?」

「データがなくなれば、バックアップから戻せばいいでしょ。せいぜい半日分のデータが消えるだけですから」

現代ではデータが消えるのは大ごとですが、20年前はこのような認識だったのですね。

つまり製品提供側の立場で「大きな差別化ポイントだ」と思い込んでいたのは、実はお客様にとっては「単なるオマケ」だったのです。

当時の私は、このことは事実として受け容れましたが、なぜそうなってしまうのか、どうすればいいのか、なかなか納得できませんでした。

Hand with target 2

 

その後、マーケティング職に異動して「バリュープロポジション」の考え方を知り、自分がいかに製品中心に考えていたかが納得できました。つまりバリュープロポジション(=「お客様が買う理由」)を徹底的に考えていなかったのですね。

 

当時の私に「ちゃんと『お客様が買う理由』を徹底的に考えた方がいいですよ」と言ったら、「ちゃんと考えています。高い保守性とか安全性です」と答えていたと思います。

でも、これはあくまで仮説。お客様に検証していません。実際、売り始めて「差別化だ」と思った機能が単なる「オマケ」だったわけですね。そして実際には多くの場合、出荷した後であっても、「実はオマケだった」という状況は、なかなかわからないのです。

 

検証していない「お客様が買う理由」は、仮説でしかありません。

自分の経験を振り返って、やはり企画段階で「自社ならではの強み」を踏まえた上で、「ターゲットの顧客」、「ニーズ」、「解決策」をそれぞれ仮説として考え、ちゃんと個別に検証することが重要なのだ、と改めて感じています。

ジャパネットたかたが、なぜSPA(製造小売り)になるのか?

ジャパネットたかたでは、あの創業者である高田明さんが社長を引退し、2015年1月から息子さんの高田旭人さんが社長に就任されています。

まだまだお若い高田明さんが社長を後進に譲ったジャパネットたかたは注目度が高く、今週は週刊東洋経済2015年4月25日号で8ページの特集が組まれたほか、日経ビジネス2015年4月20日号の記事「新社長の独白」でも、新社長・高田旭人さんへのインタビューが掲載されています。

この日経ビジネスのインタビュー記事で、「なるほど」と思いました。

高田旭人社長は、「世の中に埋もれている良い商品を発掘することが私たちの存在価値だということです」と前置きした上で、このようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—

良い商品がなければメーカーとの共同開発を増やしていこうと考えています。アフターサービスも自前で手掛けるようにしました。目指すのは通販業界のSPA(製造小売り)なのかもしれません。

—(以上、引用)—

SPAとは、ユニクロやGAPのように、商品の製造から消費者への小売までを手がけるビジネス形態のことです。

現在、ジャパネットたかたは、小売の部分をしっかり押さえていて、消費者が欲しいものを敏感に感じ取り、厳選した商品を通販で消費者に届けています。

通販

さらに、消費者が「欲しい」と思うような商品がない場合は、自ら企画して作って、売る。

「顧客が求める良い商品を届ける」という原点を共有した上で、創業者である高田明さんが作ったモデルを、さらに進化させています。

30代後半の若きリーダー・高田旭人社長が率いる新生ジャパネットたかたがどのように発展するのか、楽しみです。

 

「競合の問題ではなく、お客様のニーズとの競争だ」–セブン&アイ鈴木会長インタビューから考える顧客中心主義

週刊東洋経済2015年4月25日号に、セブン&アイホールディングス鈴木敏文会長のインタビュー記事「流通の巨人 すべてを語る」が掲載されています。このインタビューの中に、次の言葉があります。

—(以下、引用)—

コンビニ業界全体で既存店売上高が減少しているのは、お客様が欲しい商品がないということ。競合店の問題ではなく、お客様のニーズとの競争だ。

—(以上、引用)—

これは言い換えれば、「満たされていないお客様のニーズを追いかけ続け、解決し続けること」ということ。

 

会社は、社会に価値を生み出すために存在します。

そしてお客様のニーズは常に変わり続けます。

だから、競合と競争するのではなく、お客様ニーズと競争する。

他社のことには脇目もふらず、常に顧客ニーズを追いかけ続けてきた鈴木会長ならではの言葉です。

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鈴木会長の言葉は、会社があるべき姿の本質でもあると思います。

今月の「私の履歴書 似鳥昭雄」が面白すぎます

4月は「私の履歴書」から目が離せません。

今月は、ニトリ創業者の似鳥昭雄さんです。ハラハラさせて、ちょっと失礼かもしれませんが、あまりにも面白すぎます。

ニトリ

最近、日経はまず「私の履歴書」から読むようになりました。

 

4月1日の連載第1回を読みかえすと、1972年の100店・売上高1000億円という30年計画を2003年に達成、今は3000店/3兆円という次の30年計画へ向けて動いており、成功の秘訣は「ロマンとビジョンを掲げ、他社より5年先をゆく経営を進めてきた結果」と書かれた後に、こんなことが書いていました。

—(以下、引用)—

………こう話すと頭脳明晰(めいせき)な経営者のイメージを与えるかもしれないが、実は逆。飲み込みが悪く、子供の頃はすさまじい劣等生だった。

—(以上、引用)—

「かなり謙遜なさっておられるのだろうな」と思っていたら、実際には本当に凄まじい状況でした。

 

—(以下、引用)—

……だらしない性格も変わっていない。逆に何もできないから、色々な人の力を借りながら成功できたと思う。家内からは「あなたは人が普通にできることはできないけど、人がやらないことはやるわね」とからかわれる。

—(以上、引用)—

「なるほど。つまり自分で実行せず、マネジメントに徹してきた、ということなのか」と思って読んでいたら、さにあらず。本当にやることなすこと失敗ばかり。苦手な営業から解放されたのも、社交的な奥様と結婚されておかげでした。

 

—(以下、引用)—

幼少期、青年期はいじめにも遭ったが、忘れっぽい性格も事業には向いていたかもしれない。七転八倒の人生で、今では信じられないような「悪さ」もやらかした。人並みのことができない問題児の若気の至りと受け止めていただければ、幸いである。

—(以上、引用)—

このいじめや悪さも、現代だったら確実に社会問題になっていたであろうという凄いモノです。

 

「こんなこと書いていて大丈夫だろうか?」と心配になったりしますが、伝わるところによると、実際にはこれでもかなりセーブしておられるようです。

似鳥さんのお話を読んで感じるのは、「他人がやっていないことをやること」の大切さ。

奥様がおっしゃるように、似鳥さんがやっているのは、他人がやろうとしないことばかりです。失敗ばかりしていますが、その中で成功もある。それが結果的に、ブルーオーシャンを開拓しているのかな、と思います。

 

今月の私の履歴書は、まだ2週間ほど残っています。毎日楽しみにしたいと思います。

『バリュー・プロポジション・デザイン』邦訳版が届きました

3月30日の当ブログでご紹介しました通り、翔泳社様より『バリュー・プロポジション・デザイン』邦訳版が4月17日に発売されますが、昨日、本書が届きました。

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私が書いた解説文は、本書の冒頭にあります。

VPD解説20150414

「バリュープロポジションとは、ひと言で言うと、何か?」、「ビジネス上、どんな意味があるのか?」、「日本企業で適用する際の考慮点は何か?」などを2ページにまとめています。

 

本書は会社でバリュープロポジションを具体的に作成する際に役立つ実践書です。是非ご活用ください。

 

 

 

 

お金をかけてもブランドは創れない。ではいかにブランドを創ればよいのか? 2015年ブランド1位の、あの会社から学ぶ

Brand

日経BPコンサルティングが設立する「ブランド・ジャパン企画委員会」が選ぶ「ブランド・ジャパン2015」の結果が、3月27日に発表されました。→リンク

BtoC編「総合力」ランキングの首位は、昨年の11位から大きく順位を上げて、91.7ポイントを獲得したセブン-イレブン。セブンはBtoB編の「総合力」でも第2位を獲得しています。

なぜセブンがブランド1位を獲得できたのでしょうか?

2015/4/13の日経ビジネスの記事「ブランド・ジャパン2015 “親しみ”増してセブンが初首位」によると、同委員会の委員長である一橋大学大学院国際企業戦略研究科の阿久津聡教授は次のように語っておられます。

—(以下、引用)—

「商品開発などを地道に継続してきたことが消費者に認知され、その商品を実際に買って“経験”する人が増えた。広くブランドが浸透した結果であり、満を持しての首位獲得と言える」

—(以上、引用)—

実際に私の周りの人に聞いても、「コンビニの中でも、セブンは他と比べて高品質」という印象を持っている人は多いのです。それはセブンカフェをはじめ、セブンゴールド、セブンプレミアムなど、「最安値ではないけど、そこそこの値段で、高品質」という実績を積み重ねた結果です。

まさに阿久津先生がおっしゃるように「満を持しての受賞」ですね。

 

20世紀初頭、大量生産・大量流通が始まった時代は、お金をかけて大量の広告や宣伝を行い、ブランドの認知度を向上させ、効果を上げる事例が数多く生まれました。しかし情報が氾濫し消費者が賢くなった現代では、ブランドはお金をかけても創れません。

ブランドとは実績であり、事実の積み重ねです。企業は新たな価値・顧客満足を創り続けていくことが問われており、この蓄積がブランドを創り上げているのです。

ネット時代=透明な時代の現代では、よりピュアな形でブランドの本質が問われています。

 

つまり「お客様が買う理由」を創り続けること。そのためには、リアルな顧客に対して仮説検証を愚直に繰り返すことが必要なのです。

 

愚直に仮説検証を繰り返している企業の筆頭が、今回受賞したセブンです。

セブンの店舗では高校生のアルバイトでも発注を任されていますが、そこで行われるのが仮説検証です。販売実績や天気や地域の行事を基に明日の売れ筋の仮説を立てて発注、そして販売結果をPOSシステムで検証し、仮説が間違っていたらそれを次の仮説に活かしています。

商品の開発でも同様。セブンカフェを大成功させるまでに、セブンは実に4回の挑戦を通して仮説検証を繰り返してきています。

 

今回セブンがブランド1位を獲得したのは、セブンが長年に渡ってリアルな顧客に対してひらすら愚直に仮説検証を繰り返し、「お客様が買う理由」を創り上げる努力を積み重ね、消費者に認知を拡げていった結果に他ならないのです。

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (6) エアウィーヴは、なぜ成功したか?

昨日のブログの続きで、今回はエアウィーヴの経営戦略と成功した理由についてです。

 

YouTubeに、グロービス知見録という、グロービス経営大学院のナレッジライブラリーがあります。

このグロービス知見録に、2013年にエアウィーヴの高岡本州会長と田所邦雄取締役が講演された内容が掲載差入れています。

【前編:高岡本州会長講義へのリンク】

【後編:田所邦雄取締役講義へのリンク】

それぞれ30分、合計1時間の講義で、とても聞き応えがあります。

 

前編の高岡会長のお話のお話は既にご紹介した内容も多いので、今回は後編の田所取締役のお話の中から、ご紹介していきます。

 

田所取締役は、「エアウィーヴ事業の基本戦略」を次のようにお話ししています。

【基本的な考え方】
・独自の素材を用い、消費者のニーズに対応した差別化・優位性のある質の高い製品を開発し、市場に投入する

【コミュニケーション】
・製品の効能とともにアスリート等による使用実績を紹介し、AWブランドを高級で信頼感の高い寝具として効果的に訴求する

・購買経験のない消費者が実際に商品を体感できる使用機会を提供する(高級百貨店やホテル)

・安易な製品や販路拡大、販売を制限し、ブランド価値を厳しく管理する。

・広告と共に、信頼度の高いPRによるコミュニケーションを強化する。

これらの施策によって、従来プッシュ型で販売されてきた寝具市場をプルに変える。エアウィーヴ・ブランドとその商品への関心を高め、ブランドの認知度・信頼度を向上し、プル型の販売を実現する

 

この戦略を見て、自分のエアウィーヴ経験を振り返り、「なるほど」と腑に落ちました。

最近、私の家の近所にあるデパートにも、エアウィーヴの販売コーナーが出来ました。

エアウィーヴに興味を持っていたこともあり見に行きました。とてもいい商品でした。

「いつも使っている2年前に買った寝具の上に、エアウィーヴのマットレスパットを載せればいい筈」と思って店員さんに聞いたところ、私が使っている寝具とは相性が悪いので、「一緒に使わない方がいい」とのお答えでした。

この店員さんは、エアウィーヴの社員でした。

もし私がエアウィーヴのマットレスパットを買っていたら、「あれ、意外とよくないじゃん」と思っていたはずです。

まさに「安易な製品や販路拡大、販売を制限し、ブランド価値を厳しく管理する」ということが徹底されていることを実感しました。

 

前々回のブログで買いましたように、エアウィーヴは2009年にPRチームを作り、田所邦雄さん(現取締役)がアドバイザーとして加わりました。その2年後の2011年、マーケティング戦略を転換しています。

田所取締役は、次のようにお話ししています。

・認知が高まり、市場が成長期に入った2011年からマーケティングを転換した。「一流」のポジショニングは維持しながら、顧客層を拡大する。そのためには、

* 引き続きトップアスリート、高級ホテルにアプローチし、「一流」を訴求する。

* 高級百貨店と同時に、一流の訪問販売、通信販売など、販路を拡大する

* 広範な消費者に対応するため、セグメントを明確にした新商品を投入する。

そこで2011年6月、かねてからエアウィーヴを愛用していたフィギュアスケートの浅田選手とブランドアンバサダー契約を締結した。浅田選手のもつ知名度・親しみやすさ・一流のアスリートというイメージを活かし、「一流の寝具」というブランド・イメージを作りながら、ブランドの認知度を高めていくことをコミュニケーションの目標とした。

このYouTubeの講演では、どのようにマーケティング戦略が進化したのかをまとめた図がありましたので、引用します。

AWマーケティング戦略の進化

 

改めてエアウィーヴ社の売上推移を見ると、2011年-2012年から急成長していることがわかります。

airweave-sales

 

このマーケティング戦略の転換が、急成長の大きな要因の1つと言えそうです。

 

実際に、 田所取締役は、そのエアウィーヴが成功した要因として4つを挙げておられます。

(1)新しい市場を創造した

* 独自の素材を用い、消費者のニーズに対応し、これまでの寝具にない4つの特長・価値(復元性、通気性、体圧分散、洗える)を活かした差別性・優位性のある質の高い製品を開発し、市場に投入した

* 従来のマットレスにない機能・便益(極細繊維状樹脂を三次元的に組み合わせた素材がもたらす空気の上で眠っているような快眠環境)を提供することで、新しい需要・市場を創造し、独自のポジションを築くことに成功した

* さらに、革新的な製品を次々と投入し話題を集め市場をリードした (エアウィーヴ→ライト→ピロー→AW90(F・ベッド)→四季布団→KIDS)

自社の強み→ターゲット顧客、課題、解決策の仮説構築→ひたすら仮説検証の継続を繰り返し、市場を創造したと言うことですね。

 

(2)事業領域の選択と集中を行った

*事業(業務)領域を適切に選択・集中し、経営資源を分散することなく、効率的な事業運営を行った。自社で展開するBtoC市場はオーバーレイマットレスに限定、広範な販路・ロジスティックスが必要なマットレスはBtoB(法人向けOEM)で展開した。さらに自社はコア材の製造に専念し、カバー類は外部から調達。加えて当初、マーケティングはPR活動に集中した。このように事業領域を選択・集中し、シンプルな事業モデルとした。

この結果、限られた経営資源を効果的に活用し、短期間で他社から明確に差別化し、市場での独自性・優位性を維持することが可能になった

高岡社長は、「2007年創業当時から工場キャパは55億円程度あった。このおかげで300%〜400%の成長を続けることが出来た。現在、工場キャパを増強中だ」と補足しておられます。

メーカーにも関わらず高成長を続けられたのは、周到なマーケティング戦略に加えて、業態転換前の既存工場を温存していたために、生産能力この需要の伸びに追従できたからなのですね。

(3)強いブランド力の構築

* 製品の効能と共に、アスリートたちによる使用実績を紹介し、AWブランドを効果的に訴求した。「一流」の使用・採用がAWブランドの効能・価値を保証した

* AWブランドとその商品への関心が高まり、ブランドの認知・信頼が向上、ブランドで消費者を引きつけるプル型販売を実現した

* 安易な商品や販路拡大、販売を制限し、ブランドを厳しく管理した。(素材研究、効能にこだわった製品開発、高島屋への進出、値下げ販売の禁止……)

ブランド戦略については、昨日のブログでもご紹介した通りです。

 

(4)Early AdopterからEarly Majorityへの拡大

2011年頃にいわゆる「キャズム」に嵌まりそうになったのを、先にご紹介した2011年のマーケティング戦略の転換で乗り越えたことを指しています。

特に、浅田真央選手の戦略的な活用が効果的でした。浅田選手は「一流のアスリート」というイメージと共に、「浅田選手が嫌い」という人はほとんどいません。広範な消費者に愛される希有なキャラクターが、エアウィーヴを愛用して素晴らしい実績を重ねている。これは強いですね。

田所取締役は、加えてこの図を示しています。

エアウィーヴ事業成功の主要な要因

「新市場を創造」「選択と集中」「強いブランド力」は必要条件ですが、これだけで不十分。高岡会長の夢と情熱があって、この事業が成功した、とおっしゃっています。

「夢と情熱」は意外と見逃されがちですが、事業を進める上で必ず出会う様々な困難を乗り越えるためには、とても重要な要因だと思います。

 

ちなみに、株式非公開のエアウィーヴ社の株は、高岡会長が100%持っておられます。

講演の最後に、高岡会長はこのようにおっしゃっています。

「株式公開はしたくない。他の人にお金は出して欲しくない。自分が好きなようにやりたい」

 

エアウィーヴは2007年から2010年までの苦境にあっても、常にポジティブに考えてエアウィーヴ事業に取り組むことで、現在の高成長を実現しました。

もしエアウィーヴが公開企業だったとしたら、どうだったか?

企業の「株式上場コスト」についても、考えさせられます。

 

 

この講演に興味がある方は、YouTube上にある本講義をご参照下さい。

【前編:高岡本州会長】

【後編:田所邦雄取締役】

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3)急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

(5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

(6) エアウィーヴは、なぜ成功したか?

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

昨日のブログの続きです。

引き続き、ナゴヤラジオでのエアウィーヴの高岡本州社長(当時)のインタビューから引用してまとめます。(詳しく知りたい方は、リンク先のインタビューをお聴き下さい)

 

本日は、エアウィーヴがブランド作りに挑戦してきたかをご紹介します。

—(以下、引用)—

事業を開始した頃に、「ブランドを作りたい」と考えて、どうやればブランドを作れるか広告会社の社長に聞いた。その的確なアドバイスが今でも当社の重要な方針になっている。

『ブランドは広告では作れない。ブランドは、実績の積み重ねである。

実績とは、「起こったこと」の積み重ね。年月が必要。

たとえばエルメスは、バーキンが使い、グレース・ケリーが使い、………と、1800年代からの実績の積み重ねがちゃんと見える。ティファニーもそう。それも1つだけの実績でない。沢山ある実績の積み重ねだ。それらが見えることで、価値を持っている。高い次元の実績を積み重ねないと、ブランドにならない。』

—(以上、引用)—

「ブランドはお金では買えない。顧客に対して信頼を積み重ねた結果が、ブランドである」ということは、まさに私も常々思っていることなので、深く共感しました。

顧客への地道な価値提供と、仮説検証による継続的な価値向上が、ブランディングに繋がります。(そして最近の異物混入事件やその後の対応による顧客離れを見てもわかるように、企業への信頼は一瞬で崩壊してしまいます)

 

では、高岡会長はエアウィーヴのブランドをどのように創り上げていったのでしょうか?

—(以下、引用)—

当社事業を「生活インフラ事業」と考え、「では一番高い睡眠を求めているのは誰か」と考えたら、それがオリンピック選手だった。そこでオリンピック選手で実績を積み重ねていった。

しかしオリンピック選手の実績を一般の人に持っていっても、「ちょっと自分は違うし」と考える人も多いのが現実だ。

たとえば、「真央ちゃんも使っていますよ」と言っても、「私、スケートしないから、関係ない」となってしまう。

つまり「真央ちゃんが使っているから」買う顧客は確かに存在する。しかしすべての顧客がそうではない。

一方で、寝具はすべての人が対象。だからすべての人に訴求したいと考えた。

 —(以上、引用)—

浅田真央選手をブランドアンバサダーとして起用するのは、ブランド戦略上で大きな意味がありましたが、高岡会長は「これだけでは顧客は買わない」としっかり認識していました。

では、エアウィーヴではどのようにブランド戦略を展開していったのでしょうか?

 

実はブランドを2軸で考えたところにヒントがあります。

—(以下、引用)—

エアウィーヴのブランディングは「実績を積み重ねる」ことが基本。ではどのように行ったか?

航空会社のファーストクラスで使ってもらったのは、ブランディング上、とても大きな意味があった。

航空会社のファーストクラスは、誰もが「すごく高い」と知っている。そして飛行機に乗ると、降りるときに必ずファーストクラスを通るので、誰もが「ああ、いつも飛行機に乗って通るあのファーストクラスで、真央ちゃんが使っているエアウィーヴを使っているのか」と連想できる。

つまり、自分よりもはるかに遠いところにある真央ちゃんよりも、ちょっと近いところにエアウィーヴを置けたということだ。

 

このように、ブランドでは、「認知性」だけでなく、「自分との関係性」も重要だ。

つまり、顧客に近いところにエアウィーヴを置いていくことが、「関係性」を訴求する上で必要ということ。

 

さらにリッツカールトンや加賀屋の特別室などの超一流ホテル・旅館でも、エアウィーヴを使うようなった。

100万円以上するファーストクラスは、普通はなかなか体験できない。しかし5-7万円程度の超高級ホテル・旅館であれば、ちょっと何かあって大きく奮発すれば体験できるかもしれない。

つまり、ファーストクラスよりもさらに関係性が近くなる。

 

「あ、真央ちゃんも使っているけど、加賀屋さんも使っているのか」と、より近いところで連想いただけるようにする。

このように、認知性が高い世界から、より関係性が近い一流の世界に徐々に置いていくことで、エアウィーヴのブランディングを作っていった。

—(以上、引用)—

このように、ブランドを「関係性」「認知性」という2つの構造に分割して考え、相乗効果を上げることで、エアウィーヴは着実にブランドを構築していきました。

認知性と関係性

 

このように考えると、なぜ浅田真央選手だけでなく、他のスポーツ選手とも契約しているかがわかります。

—(以下、引用)—

さらにエアウィーヴを使っているテニスの錦織圭さんやゴルフの宮里美香さんにも、広告に出ていただいている。

こうすることで、

「真央ちゃんなら別世界だけど、テニスならやったことがある。錦織圭選手も使っているのか」

「私は錦織くんはよく知らないけど、ゴルフはやる。宮里美香さんも使っているのか」

というように、より幅広い人に親近感を持っていただけるようになる。

 —(以上、引用)—

 

このように、本連載の第1回の最後でご紹介したように、エアウィーヴでは、私が提唱している「お客様が買う理由」を作るフレームワーク、つまり

(1)自社の強みを徹底的に考え、
(2)ターゲット顧客、その課題、解決策を仮説として立てて、
(3)愚直なまでに仮説検証を繰り返す

を継続して実践され、この蓄積によって、その延長線上で「一流」のブランド作りに成功しているのです。

そして一流のブランド作りのために、「どの顧客にどの順番で使ってもらい、どの事例を、情報発信するか」を、「『認知性』と『関係性』にわけて」考え抜いているのです。

ここからも、顧客について考え抜くことがとても重要なことがわかります。

 

では、全体の事業戦略はどのようになっているのでしょうか?

実はそこには、本連載の中にも出てきた高岡会長の懐刀でもある田所邦雄氏(現・エアウィーヴ取締役)が重要な役割を担っておられます。

 

そこで次回は高岡会長のインタビューから切り替えて、田所氏の講演内容からエアウィーヴの戦略を見てみたいと思います。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3)急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

(5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

昨日のブログの続きです。

引き続き、ナゴヤラジオでのエアウィーヴの高岡本州社長(当時)のインタビューから引用してまとめます。(詳しく知りたい方は、リンク先のインタビューをお聴き下さい)

 

発売初年度の2007年に180枚しか売れなかったエアウィーヴは、どのように戦略を進化させていったのでしょうか?

—(以下、引用)—

初年度の2007年、販売した180名の顧客のうち、反応が来た顧客があった。アスリートだった。

そこで「アスリートはいいモニターになるのでは」と考えた。

その翌年の2008年、北京オリンピックがあった。オリンピック選手は4年に1回のチャンスに、すべてのものを犠牲にしてチャンスに向かう。そこで「一番尖った人のフィーリングが欲しい」と思った。

既に製品としてのエアウィーヴには自信を持っていたので、「決勝の前日にエアウィーヴを選ぶようにしてもらいたい」と考えた。

—(以上、引用)—

初年度180名にしか売れなかったエアウィーヴですが、その中からアスリートというリアルな顧客の反応を得て、その検証結果を元に、「アスリートはいいモニターになるのでは」という新たな仮説を立てています。

「顧客から愚直に学ぶ大切さ」が、このエピソードからもわかります。

「顧客から愚直に学んでいる」のですが、「顧客の言いなり」になってはいない点が、とても重要です。

これも、「快適な睡眠を提供できる」という仮説を、販売前に試作品でユーザーに事前に確認し、確信を持った上でのこと。

自社ならではの仮説をキチンと持ち、その仮説を検証して新たな仮説を立てて、さらに新たな仮説を検証することが必要であることが、エアウィーヴのこの取り組みからもわかります。

 

エアウィーヴの挑戦はさらに続きます。

—(以下、引用)—

オリンピックアスリートに使ってもらうために、国立スポーツ科学センター(JISS)の低酸素室80部屋のうち半分の40部屋にエアウィーヴを入れた。するとエアウィーヴを入れた部屋に寝た選手から、「明らかに違う」との反応があった。

そして2008年の北京オリンピックで水上・陸上の選手が使った。これが一番最初の大きなきっかけだった。

嬉しかったのは、北島康介選手が金メダルを掲げて成田空港に降り立った際に、カートの上にエアウィーヴがあったこと。

「やった!これで売れる!」と思った。

しかし若干報道されたが、世の中で話題になるほどではなく、売上には繋がらなかった。

実績があっても、こちらからキチンと伝えないと、売上には繋がらない。当時の当社には、その能力も知見もなかった。

「いいモノを作れば売れる」と思っていたが、それでは売れないことがわかった。

このようにして、2008年も伸び悩んだ。

—(以上、引用)—

 

つまり、2007年に「アスリートがいいモニターになる」と考え、翌年2008年は数多くのオリンピック選手が使ったものの、まだ売上には繋がらなかったということです。

しかしこの年、北島康介選手が使うなど、その後のビジネスが伸びる芽が、確実に植えられています。

Taking breath swimming butterfly isolated black background

また、「アスリートに使ってもらい話題を作るだけでは、まだ不十分だ」「まだ能力が足りない」という新たな学びも得られています。

 

エアウィーヴの戦略は、さらに進化していきます。

—(以下、引用)—

北京オリンピックでオリンピック選手約70名がエアウィーヴを持っていったが、それだけでは認知は広がらなかった。

また北京オリンピックのスポンサーではなかったので、広告では「オリンピックで使った」という実績は出せなかった。

第三者にで発信してもらうことが重要であり、「PR活動が必要だ」と痛感した。

そこで北京オリンピックの後、「PRをキッチリやろう」と考え、PRチームを作り、加えて(外資系化粧品会社などの日本法人社長を務めたブランディングのプロの)田所邦雄さんにアドバイザーとして加わっていただき、広告主体からPR主体で実績を話すように変えるようにした。

しかし当時話せるネタは北京オリンピックくらいで、しかも既に終わった話だ。

 2010年2月のバンクーバー冬季オリンピックがあった。この時、選手の間でエアウィーヴの話が伝わっていた。2009年の秋にスキーのトレーナーにエアウィーヴを紹介したところ、気に入っていただき「是非使いたい」という話になった。

その話を受けたところ別のトレーナーにも話が行き、広がっていった。

ただ会社として資金負担がある。北京で売上に乗らないという苦い経験もあったし、経営も厳しいかったので、実はあまり乗り気ではなかった。しかし、日本人としての血が騒ぐ。

2009年末にスキーやスケートなどの要請があった選手に全て提供した。その中に、その後エアウィーヴのブランドアンバサダーとなる浅田真央さんもいた。

結局、日本選手100人中7割が自分の意思でバンクーバーに持っていった。このことは広告契約はしていないが、マスコミに事前に紹介できた。

そこでTV局から「こんな話聞いたんだけど」と取材要請があり、若干テレビでも紹介され、店舗にも活況が出た。

—(以上、引用)—

「アスリートはいいモニターになるのでは」と考えたのが、2007年。

ひらすら仮説検証を重ねて、取り組みを続け、目に見える成果が出始めたのが、2010年。

つまりここまで3年間かかっていることになります。

ひたすらリアルな顧客に対して愚直に仮説検証しながら学んでいく大切さは、ここからもわかるのではないでしょうか?

 

エアウィーヴのビジネスは、ここから徐々に加速していきます。

 —(以下、引用)—

また、「航空会社のファーストクラスでは是非使って欲しい」と考えて、2009年から航空会社と話を続けていた。

2010年4月から、全日空の国際線ファーストクラスのマットレスパットとして採用した。

 

さらに2010年6月、サッカーワールドカップの代表選手向けにエアウィーヴを30本渡した。

このようにして「バンクーバーオリンピック」「全日空ファーストクラス」「サッカーワールドカップ代表選手」の3つの採用実績を、PRに乗せることができた。

これで話題になり、少しずつ一般ユーザーの売上が伸びるようになった。

売上が上がると、寝具売場のスペースも拡げていただけるようになった。2008年は売場の角にある棚の端っこだったのが、ベッド1台、さらに2台、と徐々に広がっていった。

 —(以上、引用)—

 このように、エアウィーヴの好循環が回り始め、驚異の売上成長に繋がっていきました。

 

高岡会長は、寝具市場の難しさについても語っておられますので、ご紹介します。

—(以下、引用)—

従来の寝具は、寝具が必要な人が、予算・お得感・触感・ブランドで判断して決める。寝るのは買った後になる。試し寝はしない。だから商品同士を比較することはない。つまり顧客は実際に寝てみた結果で商品の優劣を判断できない。ここが特殊である。

一方でエアウィーヴが重視しているのは、買った後のリピーター。たとえば奥さんが買って、ご主人や子どもに勧める、といった形だ。

このためプッシュ型ではなくプル型マーケティングを展開している。つまり、「買いたい」というお客さんに来てもらうようにしている。

実際にエアウィーヴを使ってみると、早い人は一晩寝れば効果がわかる。遅い人でも1週間でわかる。日曜日に遅寝すると普通は疲れるが、エアウィーヴでは疲れないからだ。そのことを、実際に買って寝る前にわかるようにすることが必要だ。

このような特性があるので、我々はうまくできたけれども、寝具市場は、新規参入は非常に難しい市場だ。

—(以上、引用)—

 

この「寝具市場の難しさ」は、恐らく既存の寝具メーカーにとっては、当たり前になっていたのでしょう。

一方で寝具市場で急成長を続けているエアウィーヴは、寝具市場への新規参入者です。新規参入者だからこそ、既存の枠組みや考え方に囚われずに、新しい取り組みを展開できたのでしょう。

しかし新規参入者だから既存の枠組みに囚われずに挑戦できるということは「言うは易し」ですが、ここまででご紹介したことからもわかるように、実行するのはとても大変です。

そのカギは、やはり「自社の強みを見極めて」、「ターゲット顧客」「その顧客の課題」「解決策」の仮説を立てて、愚直に顧客に検証し続けることなのです。

 

実はエアウィーヴは、ここまでの取り組みの延長で、一流のブランド作りにも成功しています。

次回は、いかにエアウィーヴが一流のブランド構築をしてきたかについてご紹介していきます。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3) 急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (3) 急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

昨日のブログの続きです。本日はエアウィーヴの初期の取り組みを深掘りしたいと思います。

 

約2年前の2013年7月、名古屋の第一線で活躍しておられるキーパーソンを紹介しているナゴヤラジオで、エアウィーヴの高岡本州社長(当時)がインタビューを受けておられます。

その全7話をネットで聞くことができます。→リンク

 

合計1時間に及ぶインタビューはとても貴重なお話しで、とても参考になりました。そこでメモを取った内容をまとめてみたいと思います。(詳しく知りたい方は、リンク先のインタビューをお聴き下さい)

—(以下、引用)—-

もとは叔父から引き継いだ事業で、プラスティックスを溶かして細い糸状にする射出成形の機械を作っていた。プラスティックスの糸が絡まり面白いクッション性があるものが出来た。

2004年頃、機械製造から素材製造へのシフトを図っている段階で引き継いだ。

当初、2004年から2年間はソファなど緩衝材・衝撃吸収材のクッション材の製造をB2Bで売っていた。しかし素材製造だけでは事業が成り立たず、2年間は赤字だった。

—(以上、引用)—

高岡社長が引き継いだ2004年の時点で、既に既存事業が行き詰まっていて事業転換を考えており、「クッション性のあるプラスティックス素材」という「自社の強み」(=コア技術)を活かして何かできないか、2年間模索し始めていたことがわかります。

まず、「機械製造→素材製造」の転換の模索を図っていたのですね。

しかし2004年からの2年間は、用途が絞れず赤字が続きました。

 

そこで高岡社長はこのように考えました。

—(以下、引用)—-

B2B向けにベット用の素材を提供していたので、寝具用の素材としては可能性があると思っていた。そこでマットレスやベットマットを作ってみた。

B2B向けのクッション材の製造から、B2C向けのマットレスに切り替えた理由は、B2Bだけでは消費者の声が聞こえないからだ。ユーザーの声を聞かなければ製品開発はできないし、技術は発展しない、と考えた。

—(以上、引用)—

ここでもう1つの転換、「B2B(企業)顧客→B2C(消費者)顧客」への転換を模索し始めました。そのヒントは、メーカー向けへのベット用素材提供で可能性を把握し、実際の消費者の声を把握する必要性を認識したことです。

 

つまりエアウィーヴは最初の2年間で、事業の転換(機械製造→素材製造)と、ターゲット顧客の転換(B2B→B2C)と、2段階の転換を図っていることがわかります。

 

そして、高岡社長は、新たにB2C向けにどのように取り組むかを考え始めます。

—(以下、引用)—-

当初ベット用マットレスで売ることを考えたが、そのためには、顧客からベット用マットレスを回収しなければならない。マットレスの場合は大きな在庫スペースがいるし配送も必要だ。つまり事業参入には大きな資本と手間を要するし、大変なので、これは止めた。

一方で、寝具市場ではベッドパット市場が伸びていた。当時、売れていたベットパット商品は、ウレタンの低反発のものだった。顧客は寝具を手触りで選ぶ傾向がある。ウレタンは低反発は感触はいい。しかし実際に寝てみると、ウレタンは空気を通さないので通気性が悪く臭いも残る。さらに低反発なので寝返りがきつい。

そこで当社の素材を使ってベットパットを試作してみたところ、好評だった。2006年頃、「ベットパットに絞れば行けるかもしれない」と考えた。

そこで既存ビジネスは採算に乗らないので、全部中止。2006-2007年にかけてベットパットに集中した。

知り合いに体験してもらったら、いい評判だった。「絶対売れる」と思った。

そして2007年6月にベットパッドを販売し始めた。

—(以上、引用)—

素材の強みを活かしてB2C市場に取り組むことを決めた後、このように「ターゲット顧客」「課題」「解決策」を絞り込んで、ベットパット市場への挑戦が始まりました。

ちなみにベットパットとはこんな商品です。(ポータブルタイプの商品を、エアウィーヴのサイトから引用しています)

AirWeave-写真

 

では、販売を開始した結果、どうだったのでしょうか?

—(以下、引用)—-

東京の展示会に出展、同じ日にウェブや広告を出し、電話が殺到すると考えてコールセンターも用意した。

万全の体制で臨んだが、実際には2日間でかかってきた電話は1本。1ヶ月で売れたのは2枚。今でこそ1日で1,000枚売れているが、1年目は1年間で180枚しか売れなかった。

1年目は雑誌広告も出した。存在を知ってもらうために、女性をターゲットに「快適な睡眠で美容」を訴求した。しかし全然届かない。

調べてみると、寝具の購買行動は通常の商品とは異なるということがわかった。

寝具は頻繁に買う商品ではない。「何となく買う」商品でもない。引っ越し、結婚、進学など、買うタイミングが決まっている目的買いの商品だ。必要な時には必ず買いに来るが、必要がなければまず買わない。だからデパートなどでも、高い階に店がある。客は店まで一直線に来るからだ。

言い換えれば、購買するためのハードルは、とても高い。

だから寝具の場合は、売場の売り場面積をどれだけ確保するかが重要になる。そして選ぶ基準は、価格帯とブランド。新たな商品メーカーが出て売れるものではなかった。

この1年間で寝具の市場を学んだ。そしてこんな時期が3年間続いた。

—(以上、引用)—

 

昨日のブログで、 「4000万円投資して1000万円しか売れなかった」と書きました。

その時に起こった内容を、高岡社長は詳しくお話ししておられます。

まさに「4000万円かけて、自社しか得られない学びを得た」のですね。

 

 

「ターゲット顧客」「課題」「解決策」を絞り込んで仮説を立てて、その仮説を検証した結果、エアウィーヴの挑戦はさらに進化していきます。

この続きは、次回のブログでご紹介します。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3) 急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

昨日のブログの続きです。

昨晩2015/4/7の「ガイアの夜明け」でも、米国進出の取り組みが紹介されていましたが、エアウィーヴはメディアでの情報がまだまだ限られています。そこでメディア記事をいくつか引用しながら、考えてみたいと思います。

 

「エアウィーヴ・高岡会長 眠れる会社を見事に覚醒の快“寝”撃」(zakzak 2015年1月27日)では、高岡会長がエアウィーヴの前身となる会社を引き継いだ頃の話をなさっています。

—(以下、引用)—

 「私はおやじの跡を継いで配電機器の会社を経営していますが、伯父から『自分の創業した合成樹脂の射出成型機メーカーを引き受けてくれ』と頼まれた。これがエアウィーヴの前身です。機器メーカーとしての寿命は尽きていたが、造る樹脂素材には見るべきものがあり、ベッドのクッション材などに使えるのではないかと考えたのです。で、BtoB(法人相手)で寝具メーカーなどに売り込もうとしましたが、全然売れなかった」

 「この素材は高反発のクッション材で、これを独自ブランドでBtoC(個人相手)で売ってみようと考えた。当時寝具では既存の寝具に重ねるだけのマットレスパッド分野だけが急成長していましたが、低反発のもので体に負担がかかる。だから高反発のものを作ると絶対売れると確信した。しかもマットレスパッドはベッドのように10年に一度の買い替え需要ではなく買い足し商品。市場としても参入しやすい。そこで3年余りで開発し、07年に『エアウィーヴ』ブランドで売り始めたのです」

—(以上、引用)—

 

まさに「自社ならではの強みを見極め」「ターゲットの顧客」「その課題」「解決策」を徹底的に考え抜き、さらに販売チャネルの特性までも考慮して、万全の体制で臨んだわけですね。

 

なお、ここからはエアウィーヴの商品特性を理解することが必要なのでご紹介しますと、エアウィーヴの商品としての強みは、次の4点です。

■体重を押し返す力が強いため、身動き・睡眠時の寝返りが楽

AW-高反発

■優れた体圧分散で、体に負担がかからない

AW-体圧分散

■通気性抜群で、夏は蒸れにくく、冬は空気断熱で暖かい

AW-空気

■マットレスパッドの中のエアウィーヴ素材まで洗えて清潔である

AW-水洗い

(文章と写真は、エアウィーヴのHPから引用)

 

では、エアウィーヴ発売初年度の結果は、どうだったのでしょうか?

—(以下、引用)—

「散々でした。女性を意識して雑誌広告中心に4000万円を投じましたが、1年で売れたのはわずか1000万円。………

—(以上、引用)—

実は、当初の仮説は間違っており、大失敗をしたのです。

「うわ!身に覚えがある!」という方も多いのではないでしょうか?

かく言う私も「まったく同じ経験、無数にしてきたなぁ」と思いました。

 

別の記事「地域未来構想 愛知県 一流に愛されるブランド戦略で活路」(事業構想 2014年2月号)では、この初年度の挑戦の様子が、もう少し詳しく書かれています。

—(以下、引用)—-

同社の製品は樹脂製の釣り糸や魚網の製造機だったが、糸を絡めながら固めてクッション材を作る技術も持っていた。そこで高岡社長はこの技術を改良し、マットレスパッドを開発することを決意。1年間の試行錯誤を経て、「エアウィーヴ」を開発した。

200枚の試作品を知り合いに配布、使い心地を聞いて回ったところ大好評で、特にスポーツの経験者ほど製品の良さを実感していた。

製品に自信を持った高岡社長は2007年、販売用のウェブサイトを立ち上げてコールセンターを整備し、販売に乗り出した。しかし消費者の反応はさっぱりで、初年度に売れたのは200枚足らずだった。

「優れた製品であれば売れる、という考えは全く通じないことを、痛感させられました」

—(以上、引用)—

知り合いに試作品を200枚配布し反応はとても好評。

多くの人は、「コレで行ける!」と思うのではないでしょうか?

 

しかし初年度の販売はたった200枚。実際に寝具を買う消費者は、買わなかったということですね。

両記事には書かれていませんが、実は寝具を買う消費者の行動は、他商品と比べてやや特殊だったのです。(明日の本ブログで紹介します。皆様もちょっと考えてみて下さい)

 

戦略を立てることは大切です。

しかし逆説的になりますが、戦略が当初の目論見どおりにコトが進むことは、滅多にないのです。

では「戦略は不要なのか」というと、そんなことはありません。

戦略を立てることは大切ですが、当初の戦略はあくまで「仮説」です。「仮説」なので、外れることも多いのです。だからこのように「当初の戦略はまったく間違っていた」という話を聞くと、多くの人が「うわ、身に覚えがある」となるのですね。

 

では、どうするか?

顧客のリアルな反応から学び、戦略を進化させていくことが必要なのです。

月並みな言い方で言うと「失敗は成功の母」ということになりますが、これはまさに真実なのです。

エアウィーヴの場合、「4000万円投資して1000万円しか売れなかった」のは、「4000万円の失敗をした」のではなく、「4000万円かけて、自社しか得られない学びを得た」と前向きに捉えたということなのでしょう。

そして事前に試作品で「使い心地は大好評。特にスポーツ関係者ほど製品の良さを実感していた」という学びも得ています。製品自体は大きな価値を持っていることをしっかり検証していたのは、その後の展開でとても重要でした。

 

仮説を検証して、戦略を進化させる必要性に気がついた高岡社長は、新たな挑戦を始めます。さらに事業構想 2014年2月号の記事から引用します。

–(以下、引用)—-

どんなに商品が優れていても、それが消費者に伝わらなければ買ってもらえない。そう考えた高岡社長は「エアウィーヴ」の知名度を高めることにした。その際、高岡社長が重視したのが商品の”ブランド”だった。

「どんなに優れた技術でも、数年間で競合する技術が生まれます。技術力だけでライバルに勝ち続けるのは難しい。であれば、早い段階でトップブランドの地位を確立して市場に浸透することが重要です」

—(以上、引用)—

この時点でエアウィーヴは、技術上は他社の寝具とは明確に差別化できていたものの、「技術だけでは差別化は不十分」と考えていたのです。

仮説検証から学びを得て、新たな対応策としてブランディングを考え始めた、ということです。

—(以下、引用)—-

実際に「エアウィーヴ」を使用して寝心地の良さを実感している人や導入実績をPRする方向に転換、一番初めのターゲットにオリンピック選手を選んだ。

「オリンピック選手は4年に1度の大会に照準を合わせて体調を整えます。そうした選手に『1億円あげるから大会の前日に当社の製品を使ってくれ』と言っても断られるでしょう。逆に選手から選ばれ続けるような製品を作ることにより、大きなブランドになると考えたわけです」

—(以上、引用)—

この後、水泳選手など数多くのオリンピックアスリートが自ら使い始め、さらにサッカーワールドカップの選手などに拡がり、浅田真央選手がブランドアンバサダーに就任、さらに超一流ホテルや有名老舗旅館でも採用されるようになります。

一方で、海外の睡眠研究所と睡眠時の環境が運動のパフォーマンスに及ぼす影響についての研究にも着手し始めます。

 

このようにして、エアウィーヴの快進撃が始まります。

エアウィーヴの物語は、成熟市場の中で、新事業立ち上げに挑戦しようとしている数多くの日本企業にとって、とても参考になる学びが詰まっています。

 

一方で私は、こう思いました。

「当初の段階から本格的な立ち上げの段階にかけて、エアウィーヴがどのような試行錯誤をしてきたのか、もう少し突っ込んだ具体的な話を知りたい」

実際には、新規事業は試行錯誤の連続です。言い換えれば、失敗からの学びの連続なのです。

一方でネットメディアの記事は、読者がわかりやすく理解できることを最優先に書かれています。このため、詳細な情報は割愛されることもあります。詳しく書くと、ともすると冗長になり、多くの読者が飽きて途中から読まなくなるからです。

そこでエアウィーヴのように新奇性がある話題では、ネットメディアの記事では、そのビジネスの凄さに主な焦点が当たることも多いのです。

 

とは言っても、高岡会長は2つの会社を経営している極めてご多忙な方。私が簡単にインタビューできる方ではありません。

色々と調べたところ、生々しいお話しをしている情報を見つけることができました。

 

そこで次回は、もう少し突っ込んで、エアウィーヴが事業立ち上げ段階でどのような試行錯誤をしてきたのかをご紹介したいと思います。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (1) エアウィーヴの凄さは何か?

フィギュアスケートの浅田真央選手も使っているベットマット「airweave (エアウィーヴ)」のCMを覚えている方は、多いのではないでしょうか?

 

この商品を作っている株式会社エアウィーヴは急成長しています。会社のホームページからの売上推移です。

airweave-sales

2009年は売上1億円で2014年は120億円なので、成長は100倍以上。

ネット企業ではなくメーカーであることを考えると、この成長率は実に驚異的です。

 

エアウィーヴについては、先日のブログ「種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」」でも、日経ビジネスの記事を引用して簡単にご紹介しました。

この会社の前身は、株式会社中部化学機械製作所です。当時、プラスティックス射出成形機メーカーとして釣り糸などを作っていましたが、海外勢に押されて経営が悪化していました。

当時、高岡本州さんは日本高圧電気という会社を経営されていましたが、2004年に叔父様から中部化学機械製作所の経営を譲り受けました。そして寝具へ大きく業態転換を果たし、社名も新たに株式会社エアウィーヴに変えたのです。

 

 

この会社のことを学ばせていただき、素晴らしい取り組みをなさっていることに驚きました。

特に私が興味を持った理由は、かねてより私が提唱している

(1)自社の強みを徹底的に考え、
(2)ターゲット顧客、その課題、解決策を仮説として立てて、
(3)愚直なまでに仮説検証を繰り返す

ということを実践しておられ、さらにこの蓄積の結果により、「一流」のブランド作りに成功している点です。

 

そこでこれから何回かに分けて、エアウィーヴについて学んだことをまとめていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

 

ご参考までに、「エアウィーヴ」にご興味がある方は、浅田真央さんが出演されているこの4分間の動画を見ると概要がわかります。

動画を見ていると、「快適な睡眠」を約束してくれるエアウィーヴを欲しくなってしまいますね。

 

なお、本日4月7日(火)の「ガイアの夜明け」でも、エアウィーヴの海外進出の挑戦が紹介される予定です。

 

ダイヤモンドオンラインに、インタビュー記事が掲載されました

ダイヤモンドオンラインに、インタビュー記事を掲載いただきました。

「マーケティングでまず考えるべきは
「顧客」よりも「自社の強み」
『戦略は「一杯のコーヒー」から学べ!』著者・永井孝尚氏インタビュー」

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昨年9月に出版した、『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』の舞台裏についてお話しをさせていただきました。

一杯のコーヒー1024

「100円のコーラを1000円で売る方法」との位置づけの違いもお話ししています。

ご興味がある方はご一読いただければ幸いです。

 

 

 

 

模倣はヨクナイ。 では、なぜ「単なる模倣品」は売れないのか?

人類は、先人の学びの上に、新たな学びを積み重ねて発展してきました。

膨大な「過去の学び」の蓄積に、「新たな学び」を上乗せしているわけですね。

たとえてみると、科学技術は「創造的な模倣」により、あたかも山を登るように学びを積み重ねているのです。

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先日のブログでも、知財の専門家の下記の言葉を紹介しました。

「方法・手法に、法律は、著作権を認めませんでした。……それは、私たちの文化を発展させるために、それらは自由に流通させた方が、社会全体のためになると法律が考えているためです……」

これも「創造的な模倣」による社会の進化を狙ってのことと思います。

 

しかし一方で、世の中に出てくる商品やサービスを見ていて、ちょっと残念に思ったり、悲しくなる時があります。

それは「新たな価値」を積み重ねていない、「単なる模倣品」を見る時。

「単なる模倣品」は、名称・外観・機能などで、「ああ、あの商品の模倣だな」とすぐに気がつきます。

 

企業もビジネスですから、先行ライバルの好調さに商機を見つけて、その模倣を図ろうとするお考えも理解できます。

しかし先行企業が考えに考え抜いた結果に世に出した商品に対して、中身が変わり映えせず、形や名前だけを真似した商品を出しても、先行企業を追い抜くのは至難の業です。

 

模倣を図る企業の中には、「これは『単なる模倣品』ではない。ちゃんとこのような新たな価値を追加している。これは『創造的な模倣』である」と主張されるケースもあります。しかし売れないケースが多い。

では、「創造的な模倣」「単なる模倣品」とわけるものは何でしょうか?

 

それは結局、「その新たな価値の差で、顧客が本当に買いたいと思うかどうか」という点なのではないかと思います。

「創造的な模倣」の場合、新たな価値の差だけでも、顧客が買いたくなります。

「単なる模倣品」の場合、企業側が「新たな価値を加えた」と思っていても、顧客にとってその差はほとんど意味がありません。そして顧客は実績がある先行メーカーを選ぶのです。

その結果、「単なる模倣品」では売れないのです。

言い換えれば、山を一歩も上がっていない状態なのです。

 

先行メーカーの中にはこのことがわかっていて、「自社の模倣品が出ることは、むしろ先行メーカーとしての自社の認知度が高まるチャンス」と歓迎するしたたかな企業もあります。

そういう企業は、予め自社の強みを徹底的に考え抜き、他社が簡単に模倣できないように商品を作っています。ですから形だけ模倣しても、追いつけないのです。

言い換えれば、自社の強みを徹底して考え抜いていない場合、他社に模倣されると、あっという間に追い抜かれることもあります。

 

「自社の強み」を常に考え抜き、それを「顧客の価値」と結びつけることが大切なのです。

 

 

「バリュー・プロポジション・デザイン」邦訳版(翔泳社)の解説を執筆しました

日本で10万部突破し、30カ国以上で出版された世界的ベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』の続編、『バリュー・プロポジション・デザイン』邦訳版(翔泳社)が、4月17日に発売されます。

このたびご縁があって、本書の解説を執筆しました。

 

本書の帯にも、私の名前を紹介いただいています。

VPD

本書はタイトルの通り、バリュープロポジション(お客様が買う理由)を具体的に創り上げるための実践的なガイドです。

リーンスタートアップ、顧客開発プロセス、デザイン思考などの最新の方法論も採り入れており、私が日々後提唱している方法論ととても近く、さらに職人技に頼らず万人が実践できる方法論として体系化されている点で本書が優れています。

まさに米国流プラグマティズムの真骨頂とも言えます。

 

「なかなか差別化ができない」と悩んでいる多くの日本企業の現場で、本書を縦横に活用していただければと願っています。

VPD解説20150414

 

「お客様」の定義

講演後の懇親会で、参加されたお客様とお話ししていて、「当社もお客様からの値引き要請が厳しいんですよ」という話をお聞きすることがあります。

この「お客様」という表現、たとえば卸売業者のことだったり、小売のバイヤーだったり、見込み客だったり、消費者だったり、ケースバイケースで色々な意味があります。

 

日本語では、顧客のことは一般に「お客様」という一つの言葉で表現されます。

英語でもお客様=customerが一般的ですが、他にも色々な表現があります。

 

以下は英辞郎 on the WEBからの訳です。

■client: 専門家に助言を求める〕依頼人◆【語源】ラテン語client(忠告を聞く人)

■account:〔企業と取引のある〕得意先、顧客

■guest:〔家などに迎える〕(来)客◆無償で歓待を受ける人。

■prospect: 見込み客、潜在顧客 (将来見込みがある、という意味)

■user: 使用する人[もの]、利用者、ユーザー

■end-user: エンドユーザー、最終[さいしゅう][末端]使用者[利用者・消費者]

■consumer: 消費者、購入者、消費する[枯渇させる]もの

■dealer: 販売業者、ディーラー

■visitor: 訪問者、観光客、見舞人、滞在客

■buyer: 買い手、バイヤー、購入者、買い方、買主

■shopper: 買い物客、顧客、買い物代理人

■audience: 〔集合的に〕聴衆、観客、観衆◆講演会、演劇、コンサートなどの実演を目の前にした、また映画などを見るために集まった観衆。

 

たとえば日本語で、「お客さんのニーズを特定する」という表現は、英語では”identify customer’s needs”よりも、”identify prospect’s needs.”の方がより正確です。

 

一概に「お客様」と言いますが、どのお客様なのかを明確にして考えると、考えが整理されると思います。

「理論は机上の空論」ではない。ビジネスパーソンこそ、理論を学ぶと応用範囲が圧倒的に広がる

Red path across labyrinth

私たちビジネスパーソンの多くは、体験的に「仕事の現場に真実がある」ということを実感しています。

私も確かにその通りだと思います。

一方でともすると、「理論は現実の後追い」だから「理論は机上の空論」と考え、理論を軽視しがちです。

しかし、ハーバードビジネスレビューで早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が書いておられる「世界標準の経営理論」という連載を読むと、必ずしもそうとは限らないことがわかります。

 

ハーバードビジネスレビュー2015年2月号に掲載された連載第6回「理論ドリブンと現象ドリブン 経営学はけっして「現実の後追い」ではない」で、入山准教授は次のように述べています。

—(以下、引用)—

さて、ここで知っていただきたいのは、その当事者である経営学者には、「理論を思考の出発点にするタイプ」と「現象を思考の出発点にするタイプ」がいることだ。

……筆者の知る限り、現存するすべてのMBAの経営学教科書は現象ドリブンで構成されている。書店に並ぶほとんどの経営書もそうだろう。おそらくこの現象ドリブンの構成は、教科書の作成者(多くはビジネス・スクールの教授)が、ビジネスパーソン向けに「わかりやすくする」ために用いているのだろう。しかし筆者は、実はこれはまったく逆の効果ではないかと考えているのだ。

—(以上、引用)—-

 

よく知っている事例を最初に紹介され、その現象を元に理論が説明されると、納得する方が多いと思います。

実際に私も著書でこの手法をよく使います。わかりやすいからです。

その手法に対して、入山准教授は「逆効果である」とおっしゃっています。

そして、リアルなビジネス現象が、複数の経営学の理論で説明可能であることを実例で挙げた上で、次のように書いておられます。

—(以下、引用)—

ここまで来れば、既存のMBA教科書・経営書の課題が理解いただけたのではないだろうか。……「この事象は、あの理論でも、この理論でも、あっちの理論でも、はたまたこんな理論でも説明できます」と書かれているのだ。当然、それぞれの理論的な説明は薄くなり、読者の理解は浅くなる。

…本連載が目指しているのは、それとはまったく逆のベクトルだ。すなわち、世界標準の経営理論を根本から説明することで、それらを腹落ちして理解いただき、皆さんを取り巻くあらゆるビジネス事象の理解・考察・予測のための「思考の軸」にして欲しいのだ。本連載の対象となる三つの戦略の範囲なら、それらを説明する主要理論の数は20程度だ。この程度なら、忙しいビジネスパーソンでも学習は十分に可能な筈はずだ。

そして一つの理論を理解できれば、それを思考の軸にしてさまざまなビジネス事象に応用できる。……それどころか、学者では思いつかない「理論→現象」の応用を、むしろ皆さんが思いつくことも十分ありうるだろう。特定のビジネス事象に詳しいのは、学者ではなくビジネスパーソンなのだから。

このように「理論→現象」の思考軸で経営学を学ぶことこそ、はるかに効率的で、応用範囲も圧倒的に広がるのだ。

—(以上、引用)—-

 

実際に私も理論を学ぶことで現象をより深く理解できることを実体験しています

「現象(事例)→理論」で経営理論の面白さに目覚めた方は、理論を学んでみると、より考え方が深まると思います。

 

その際に、ハーバードビジネスレビューに入山准教授が連載されている「世界標準の経営理論」は、とても参考になると思います。

 

音色や品質をアピールしてもさっぱり売れなかったピアノが、飛ぶように売れるようになった理由

40年以上前、タイトルは失念しましたが色々なウンチクが書いてある本で、次のような話を読みました。

あるピアノメーカーが、高級ピアノを売り出しました。
広告で「素晴らしい音色」「最高級のピアノ」とアピールしましたが、さっぱり売れませんでした。
そこである人のアドバイスでコピーを変えたところ、ピアノは飛ぶように売れました。

「あなたのお子様を、レディにする」

当時、小学生か中学生だった私は、「なるほど、商売ってそうなっているのか」と思った記憶があります。

 

今、改めてこのことを考えると、この逸話は「製品志向」「顧客志向」の違いを実に的確に表現した事例だったことがわかります。

 

前者の「素晴らしい音色」「最高級のピアノ」は、製品であるピアノの機能や品質をアピールしています。しかしその価値が顧客にとってどのような意味があるかはアピールしていません。

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後者の「あなたのお子様を、レディにする」は、顧客の価値をダイレクトにアピールしています。

 

 

後者をもう少し分析すると、

ターゲット顧客:ちょっと余裕があり教育熱心な親
ニーズ:子ども(主に女の子)が大人になった時に、恥ずかしくない素養を身につけさせたい

と考えた結果、このターゲット顧客のニーズに訴えかけるように、「あなたのお子様を、レディにする」というメッセージを届けています。

さらにこのようにターゲット顧客とニーズを捉えると、ピアノだけでなく、お子様をレディにするための解決策として、音楽教室を展開することで、顧客へ提供する価値をより高めて、ビジネスも拡大できます。

実際、カワイ音楽教室やヤマハ音楽教室は有名ですね。

 

40年前は子どもが沢山いて、日本も経済的に余裕が出るようになった時代だったので、ピアノメーカーはこのような形でビジネスを展開し、成長しました。

現代では少子高齢化が進み、子どもの習い事も多様化しているので、ピアノメーカーは子どもだけを相手にしていてはビジネスは低迷する一方です。そこでシニア層を狙って「大人の音楽教室」へと多角化しています。

 

世の中で流行っているビジネスと伸び悩むビジネスを、改めて「顧客志向」「製品志向」の視点で考えてみると、新しい発見があると思います。

ドンキもドワンゴも、強みの源泉は、その強みを明確に説明できないこと

ドンキ

ドン・キホーテ(以下、ドンキ)の店内に入って、その密林のような商品展示に驚かれた方も多いと思います。

ドンキは2015年6月期で26期連続の増収増益、年商6000億円超が見込まれ、絶好調です。

ドンキの強みの秘密は何なのでしょうか?

 

週刊東洋経済2015年3月21号に、今年6月にCEO職を現社長に譲り引退することを発表した創業者・安田隆夫会長のインタビュー『ドン・キホーテ 安田隆夫 激白 わが「勇退」』が掲載されています。

ドンキの強みの一端を理解する上で、参考になりました。

—(以下、引用)—

SPA(製造小売業)と違い商品に独自性があるわけではない。単なる編集と演出をしているだけです。そうして成功している。にもかかわらず、新規参入がない。…この理由を、多くの経済学者を含めて誰も解き明かせないでいる。

最初は皆「あの会社、何なんだろう。ある種、ゲテモンなんやな」と思っていた。しかしそのゲテモンが年間6000億円も売り上げていると話が違ってくる。しかも、北海道から沖縄まで満遍なく繁盛し、都心の一等地でも、ほとんど人が住んでいないような地域でも繁盛している。その理由を考えて、最終的には 消化不良に陥って「もういいや、あの会社のことは」となる。そこがドンキの強さだ

—(以上、引用)—

 

安田会長は「強みがよくわからないことが、ドンキの強さだ」とおっしゃっています。

奇しくもKADOKAWA・DWANGO会長の川上量生さんも、ドワンゴ会長当時に執筆された著書「ルールを変える思考法」でこのようにおっしゃっています。

川上会長

—(以下、引用)—

独自性を保つ上では、明快で他社が追随しやすい差別化を行うよりも、何が差別化なのか、ちょっと考えただけでは理解できないものであり続けることが大切だというのが僕の考えです。  そのためには、自分自身が理解できることであってもダメなんじゃないかと実は思っています。なぜなら、自分が理解できるものは、他人も理解できる可能性が高いからです。自分でもわからないものであれば、他人もわかりようがありません。

…理解できそうで理解できないぎりぎりの境界線上に答えがあるというのが僕の結論です。

—(以上、引用)—

 

一方で安田会長は、もう少し踏み込んだ質疑応答をされています。

—(以下、引用)—

—-安田会長はその理由を知っている。編集、演出のほかに何があるのですか。

それがまさに権限委譲であり、一 人ひとりが商店主である。あるいは商品のファンドマネジャーといってもいい。ドン・キホーテはファンドマネジャーの集大成という、過去にはない流通業態のあり方なんです。

ただし、権限委譲はよほどうまくやらないかぎり、組織崩壊します。

一時期、業界問わず、どこもかしこも権限委譲がはやった。「個店対応」というキーワードで。個店対応はすごくいい。いいんだが、本当に個店対応するには、個店に主権がないといけない。そうでないかぎり、 個店修正ぐらいにしかならない。  一方で権限委譲ばかりやるとばらばらになって、スケールメリットが まったく発生しない。組織のていをなさなくなり、単なる烏合の衆になりかねない。 組織か現場か、ではなく、双方を「アンド」の精神で生かしていく。 「オア」ではなくて。その手法を長年かけて作ってきた。

—(以上、引用)—

 

ここから読み取れるのは、品物・立地・店舗といった目に見える業態よりも、店舗従業員との関わり方といった目に見えないところに強みの源泉がある、ということです。…ただ一方で、まだ十分に明確ではなく「モヤモヤ」っとしますね。

 

ジェイ・B・バーニーというマーケティング学者は、企業の競争優位性の源泉となる資源を分析するために「VRIO」というフレームワークを提唱しています。

Value: 顧客にとって価値がある
Rarity: 希少性がある
Inimitability: 模倣しにくい
Organization: 組織的な取り組みがある

インタビューからわかることは、ドンキもドワンゴも、このVRIOをちゃんと持っており、かつ、お二人の経営者ともそれについては確信を持っておられるようです。

 

グローバル化社会と言われてから、多くの日本企業は単純明快な戦略を徹底して攻めてくるグローバル企業に押されている面がありました。

その単純明快さは、「ローコンテキスト文化」(文化的背景が違うので、言語化しないと通じない文化)に根ざしたものです。

一方の日本企業は、「ハイコンテキスト文化」(文化的背景を共有するので、あうんの呼吸で通じる文化)なので、なかなか単純明快な戦略を徹底できない面がありました。

しかし安田さんや川上さんのお話しからは、このハイコンテキスト文化を逆手に取って、強みを活かしていることが読み取れます。

 

 

外部から分析しようとしても、ドンキもドワンゴも、強みを見極められない。
しかし実は、真似できない確かな強みを持っている。
そして実は強みを明確に言語化できず(あるいは行わず)、モヤモヤするところに本当の強みがある。

 

そのように思いました。

 

このように考えると、「強みを明確に説明できないドンキだからこそ、ドンキが永続するためには、自分が元気なうちに後進に経営を譲り、後進が独り立ちできるように支援する必要がある」という安田会長ならではの問題意識を読み取ることもできます。

エレクトラックスが価格競争に陥らない理由

「黒船家電の掃除機」というと、ダイソンとアイロボットが有名です。それぞれ「吸引力」や「自働ロボット」といった尖った機能を売りにしています。

実は他にも、国内掃除機市場で伸びている黒船家電があります。北欧のエレクトラックスです。

この会社の売りは、「音が静かなこと」。

「掃除機は音がうるさい」という常識を覆し、赤ちゃんが寝ていたり、家族がテレビを見ていても、安心して掃除機をかけることができます。

 

日経ビジネス2015年3月9日号『企業研究:エレクトロラックス 「音」で打倒ダイソン』という記事で、詳しく紹介されています。

—(以下、引用)—

確かに、「音」は、日本の掃除機市場を牽引する外資2大勢力、ダイソン及びルンバシリーズの数少ない弱点の一つだ。サイクロン方式と強力なモーターでゴミを吸引するダイソン製掃除機は、その構造上、静粛性を追求するには限界がある。ルンバも在宅の際に利用すると、稼働音は人によっては気になるレベルに達しかねない。

 一方、エルゴスリーの運転音は約43デシベル。一般的な掃除機(約70デシベル)の6割程度で、例えると図書館や深夜の市街地レベルしかないという。この静粛性へのこだわりこそが、エルゴスリーが日本で評価を高めている原動力となっている。……

—(以上、引用)—

補足すると、実際には10デシベル違うと大きさは1/10になります。つまり43デシベルのエルゴスリーは、70デシベルの一般的な掃除機よりも、音量が数百分の一。

圧倒的な静音ですね。

 

成熟市場のように思われがちな白物家電ですが、エレクトロラックスはどのように考えてこのような製品を出しているのでしょうか?

記事ではその点についても言及しています。

—(以下、引用)—

 ……なぜエレクトロラックスは家電事業を拡大させようとするのか。その背景には、「白物家電には膨大な改良余地が残されており、そこをクリアすれば需要は掘り起こせる」という独自の発想がある。

 ……ある1つの信念で結び付いている。「現状の家電はまだまだ使う人に心地よくない部分が残っている」だ。

 同社の開発部隊は、掃除機の運転音に限らず、「現状の家電が持つ人に優しくない部分」を根絶するため、日々、異常とも言える実験を続けている。

—(以上、引用)—

 

記事では、経営幹部の言葉を紹介しています。

—(以下、引用)—

掃除機などのデザインを担当するペルニラ・ヨハンソンVPは説明する。

 仮に白物家電市場が成熟しつつあっても、“使って心地よい家電”を追求していくことには広大なフロンティアが残されていると考える。「これからも音や重さ、デザインなどに限らず、ユーザー自身さえ気が付いていない不快の源やニーズを探っていく」。

—(以上、引用)—

 

まさに消費者自身も「当たり前」と思っていて気がつかない困っている課題を先取りし、解決することで伸びているのですね。

しかし改めて、なぜ白物家電なのか?

そこにはしたたかな戦略があります。

—(以下、引用)—

実はそこには、「使う人にとって心地よい白物家電はまだ改良の余地がある」という思想に加え、もう一つ、重要な理由がある。「白物家電市場はデジタル家電に比べ安定している」(マクローリンCEO)がそれだ。

 冷蔵庫や洗濯機、掃除機、調理家電は、「清潔に生活したい」「おいしいものが食べたい」など人間の根源的欲求を満たす製品で、市場が消えることはない。買い替え需要が発生するし、新たな付加価値を打ち出し顧客に認められれば、高くても買ってくれる顧客がいる。

……着実に成長を遂げることができたのは、「主戦場は白物家電」「作るのは人に優しい家電」という2つの絶対軸をかたくななまでに貫き続けた結果だ。

—(以上、引用)—

 

顧客が気がつかないニーズを掘り起こし、応え続ければ、差別化を続けることができ、価格競争に陥らない、ということですね。

 

あらためて、「顧客が気がつかないニーズを掘り起こし続け、自社の強みを活かして、応えること」が、差別化の源泉になるということがわかります。

これは家電業界に限らず、ほとんどの業界で共通なことだと思います。

「安かろう、悪かろうのLCCは時代遅れ」

「格安航空会社」とも言われるLCCは、1970年代に米国で生まれました。1967年に設立され1971年に就航したサウスウェスト航空はその代表格。それから40年以上経過し、今、数多くのLCCが生まれています。

そしてともすると、「LCCは価格勝負に陥っている」とも言われます。

実際のところ、どうなのでしょうか?

 

週刊東洋経済 2015/3/21号の記事「この人に聞く ピーチ・アビエーションCEO 井上慎一 安かろう、悪かろうのLCCは時代遅れだ」で、井上CEOが次のようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—-

LCCの事業モデルを日本流にカスタマイズした。原則としてLCCは払い戻しに応じないが、それでじゃお客様に対して愛がない。そこでチケット代金の10%分を支払えば、一定の条件下で全額を補償する保険をつけた。また、LCCは払い戻しには機内エンターテイメントがない。そこでお客様のスマートフォンなどに、事前に映画や音楽をダウンロードし、機内で楽しめるようにした。

—(以上、引用)—-

 

「なるほど」と思いました。

前者は、払い戻しに応じつつ、ちゃんと収益が出るモデルにしています。

後者は、搭乗客のスマホを画面として使うことで、テレビを各席に装備するコスト増を避けながら、実質的なサービス強化を図っています。

知恵を出して、価値を生み出しておられます。

 

では、なぜこのようなチャレンジが必要なのでしょうか?

井上CEOはこの問いについても答えておられます。

—(以上、引用)—-

……われわれも機材繰りなど基本的なプラットフォームは従来のLCCモデルを踏襲している。それに加えて何か「おもしろいこと」が必要だ。お客様の期待が世界的に変わりつつある。

—(以上、引用)—-

 

お客様の期待は、常に変わっています。

それはLCCに限らず、全てのビジネスでも同様です。

だからこそ現状に留まらず、常に頭に汗をかき、自社の強みを意識しつつお客様から学び続け、価値向上を図っていくことが大切なのだと思います。

ユーオス・グループ様で講演しました

2015年3月17日、IBM様のユーザーグループであるユーオスグループ様・関東支部会で講演しました。

UOS20150317

 

日本IBM様のAVルームでお話しするのは、日本IBM社員だった2年前以来です。

IT業界では、「ソリューションセールス」という言葉があります。

本来は、お客様ご自身も気がつかない課題に、自社ならではの強みで応えることが、「ソリューション」。

しかしともすると、「お客様の言いなりになるのがソリューション」と考えてしまっているケースが少なくありません。

そこで今回の講演は、いつもお話しする「お客様が買う理由をいかに作るか?」に沿った上で、IT業界の状況に合わせてお話ししました。

 

皆様からご感想をいただきました。

□現在のビジネスからの離脱を検討している中、非常に参考になりました。

□要望に応えるのが仕事と思っていましたが、考えを改めました。

□弊社が取り組んでいる方向とまったく一致するものでした。進めているアプローチに間違いないと自信が持てました。ありがとうございました。

□顧客中心主義という原点が大切と感じ、発想の転換と深く客先のことを考える重要性を再認識しました。

□わかりやすい話し方とプレゼンでした。管理職に向けた会議やセミナーで参考にしたいと思います。

□弊社が推進している事業と通じることが多く、たいへん共感致しました。ありがとうございました。

□戦略を立てる上で非常に役立つと感じました。ありがとうございました。

□机上の話ではなく、実際の話がメインであり、大変参考になった。

□ちょっとした工夫が成功に役立つと感じました。仮説検証の繰り返しのターゲットを決めようと思いました。

□聴き入ってしまいました。とても面白いお話しでした。必ずしも汎用的である必要はないんだと思いました。必要とするお客様に必要なソリューションを届けたいです。

 

ご参加された皆様、ありがとうございました。

 

企業が短期志向に走るのも、同族企業が非同族企業よりもの業績がよいのも、「エージェンシー理論」で説明できる、という話

ハーバードビジネスレビュー2015年4月号に、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授の連載「世界標準の経営理論 第8回 エージェンシー理論 人が合理的だからこそ、組織の問題は起こる」が掲載されています。

昨日書いたブログ『「経営者の年収は、上限2000万円でいい」という話』の問題を整理する上で参考になりましたので、ご紹介します。

 

エージェンシー理論では、まず経済主体(プリンシパル)がある行為を代理人(エージェント)に依頼して代わりに行動してもらっている状況を考えます。こんな感じですね。

Principle-Agent

ここで、

(1)両者の「利害不一致」と、

(2)プリンシパルがエージェントの細かい行動をチェックできないこと(「情報の非対称性」)により、

エージェントが合理的に行動することで、結果的にプリンシパルに不利益な行動を取ってしまうことがあります。(「モラルハザード」と呼びます)

エージェンシー理論は、これをどのように回避するかという理論です。

(なお、「モラルハザード」というと倫理的・精神的に捉えがちでしが、ここではそのような議論はしていません。あくまで「情報非対称性」「利害の不一致」によるエージェントの合理的な行動の結果として、プリンシパルにとって不利益な行動を取ってしまう状況を「モラルハザード」と呼んでいます)

 

ちょっとわかりにくいので、例で説明します。

たとえば「会社は株主のもの」という考えのもとでは、株主というプリンシパルが「株主価値最大化」という行為を、経営者というエージェントに依頼しています。

 

ここでまず「利害の不一致」が起こります。

株主は株主価値最大化を経営者に期待していますが、経営者はリスクが高い戦略を採って失敗すると職を失う可能性があります。そこで大きなリスクを伴う経営判断を避けて無事に任期を終えたいと考えがちです。

株主としては、ある程度リスクを取って株主価値最大化を図って欲しいわけですね。

そこで作ったのが、ストックオプションという動機付け(インセンティブ)の仕組みです。株主価値が上がると、経営者も金銭的収入が入ることになります。

 

また、「情報の非対称性」の問題が起こります。

株主は経営者に株主価値最大化を期待していますが、日々の経営者の行動をチェックできません。

収益最大化により株主価値最大化を実現するには、人員整理や給与カットなどの痛みを伴う判断もしなければなりません。しかし痛みは避けたいですよね。そこで経営者は売上増などの規模拡大を追求します。売上が伸びていれば、人員整理や給与カットは避けられます。

そこで作ったのが、コーポレートガバナンスという考え方。たとえば大株主が取締役会に参加するなどして、株主の価値に見合った経営をしているかモニタリングしています。

 

つまり、利害の不一致という問題をインセンティブの仕組みで、情報の非対称性という問題をモニタリングという仕組みで、解消を図っているのですね。

 

プリンシパル=株主、エージェント=経営者、という考え方では、このようになるわけです。

一方で株主などの機関投資家は、長期志向よりも短期志向になりがちです。

昨日のブログでご紹介した城南信用金庫の吉原毅理事長は、まさに「長期的視点よりも短期的視点を優先し、目先の経営にこだわることが問題だ」とおっしゃっています。

このことはどのように考えればよいのでしょうか?

 

これを考える上で、一つのヒントがあります。

「創業家が大手株主で、経営陣に入っている同族企業の方が、非同族企業よりも業績がよい」という結果が、多くの実証研究で得られています。

株式会社の基本は所有と経営の分離ですが、これによりモラルハザードが起こります。

同族企業であれば、株主と経営者の「利害の不一致」と「情報の非対称性」がきれいに埋まり、大胆な戦略を採っても解任リスクは少ないのです。

実際、創業者が大手株主で経営している会社で、長期的視点で大胆な戦略を採り、成功している企業も多いのです。

 

このように、エージェンシー理論に基づいて、誰が経済主体(プリンシパル)で、誰が代理人(エージェント)かを見極め、どのようなモラルハザード(プリンシパルに対する不利益な行動)が発生しているのかを考えると、組織の問題を整理する思考の軸が確立できます。

日々直面する組織の問題を整理する考え方として、身につけたいものです。

詳しく知りたい方は、ハーバードビジネスレビュー2015年4月号の入山准教授の連載をご一読を。

ユーシーシーフーヅ主催の展示会「WHO’S FOODS」(神戸/名古屋/東京)で講演、のべ300名にご参加いただきました

「WHO’S FOODS」は、ユーシーシーフーヅ様が主催する、国内最大のコーヒーを中心とした食の展示会です。

この「WHO’S FOODS」で行われたセミナーで、講演しました。

2015/02/17 神戸 (@ 神戸国際展示場)
2015/03/03 名古屋 (@ ポートメッセ名古屋)
2015/03/10 東京 (@ 五反田TOC)

東京会場の様子です。ありがたいことに満員で通路にも椅子を並べていただきました。

UCC-UF講演20150310

こちらは神戸会場で講演前の様子。

UCC-UF講演20150217

 

講演では、「お客様が買う理由をいかに作るか?『ニーズ断捨離時代』に求められる思考の変革」と題して、顧客中心主義の考え方や、価格競争の恐ろしさ、コーヒー産業の大きな可能性と飲食業にとってのメリット、さらに「コーヒー + α」という今回の展示会のテーマに沿って、コーヒーと各飲食店舗の強みを活かした価値創造の方法論を中心にお話ししました。

 

参加された皆様のご感想です。

■内容がとても盛り沢山なのに、多くの調査や事例、コーヒーの歴史に触れながら、わかりやすくお話しくださったので、一つ一つがとても心に残りました。来月に店をオープンするので、自分の店の強みは何かということを確認したり、さらに深く広く考えたいと思ったり、……とても参考になりました。ありがとうございました。

■「過去」のことを考えている意識を変えられるよい機会になりました。やりたいから、やる。とても大切なことに気付かされました。一緒に働く同僚や先輩にも「やりたいこと」を聞いて、新しい提案をしていけそうです。どうもありがとうございました。

■消費者の視点に立ったときの価値創造の仕方がわかり、とても勉強になりました。また、今回学んだことを実践し活かしていきたいと思います。ありがとうございました。

■今回のセミナーに参加して、顧客が何を望み、何を期待しているのか、考えさせられました。まずは自分の強みを理解し、ニーズを見つけていくことから始めたいと思います。

■部下や店長に対して価値を考える指針となった。負のスパイラル(悪循環)、正のスパイラル(好循環)を選ぶのは、自分自身だと感じた。

■全く予備知識がない状態で受講致しましたが、とてもわかりやすく、聞きやすく、時間が経つのがあっという間でした。ありがとうございました。

■「未来を見据え、今を生きる」には感動した。

■どう考えればいいかがわかったような気がします。……難しいですが、今を変えたいです。ありがとうございました。

■価値の高め方に具体性が伴っており、意識をスタッフで共有できた。またプレゼンテーションそのものがエンターテイメントでとても楽しみながら学べました。

■とてもわかりやすく何かをやりたいと思わせていただけるセミナーでした。お客様のニーズに応えすぎないなど、物事の考え方を変えるよいタイミングになりました。商品を企画する上でモチベーション3.0(やりたいことをやる)というのはとても心打たれました。今までやってみたい・良いと思うぐらいで意見が止まっていたので、今後発言を増やしていきたいですし、今後も新しいメニューや企画を考えられるように努めたいと思います。

■とてもおもしろかったです。やはり間違っていなかったと確信しました。チャレンジの大切さ、自分のやりたいことをやってみたいと思いました。その中で試行錯誤していき、失敗を怖れず認めて、成長していく。価値を違う観点から考えようと思いました。

■今まで価格のことばかり考えていましたが、これからはお客様の立場で考えようと思いました。

■お仕事もそうですが、人生において貴重なお話しをいただけたと思います。成功する方は自分の大事な時間を使い、やりたいことをするのだと思いました。よい刺激になりました。今後の人生において……。

■企業側とお客様側の考えの出発点が違うため、「言いなりになっても、お客様の心は掴めない」ということはよくあります。世の中に強いものが生き残るのではなく、変化するものが生き残ることがよくわかりました。ありがとうございます。

 

今回参加されたのは、神戸が120名、名古屋が80名、東京が120名。参加者のべ300名超でした。いずれも定員を大幅に上回ったそうです。

セミナーを企画・運営いただいたユーシーシーフーヅ様に感謝です。

 

Business Journal連載第6回目『なぜあの製品は、標準の1.4倍の価格でもヒットしたのか?価格競争から脱出する方法』

Business Jornal連載「企業の現場で使えるビジネス戦略講座」第6回目の記事が掲載されました。

「なぜあの製品は、標準の1.4倍の価格でもヒットしたのか?
価格競争から脱出する方法」

色々とお話しすると、「品質は自信があるのだけれども、値下げ圧力が強くて困っている」とお嘆きの方がとても多いのです。

なぜこうなるのか?

営業が日々会っている方々を見ると、ヒントがあります。

今回は、そのことについて書きました。

ご一読いただければ幸いです。

新事業にこそ、活路がある:自社の強みと足りないスキルを見極め、新常識を既存市場に持ち込み、差別化を図る

昨日のブログ「業種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」」の続きです。

 

日経ビジネス2015年3月2日号の特集「業態転換 常識のウソ・ホント 中小でも富士フイルムになれる」の掲載事例に共通するのは、自社のコア技術(強み)と、新事業で足りないスキルの見極めです。

それぞれの事例をまとめてみました。

■ブランチ
コア技術:建設業で培った店舗の施工・設計
従来製品:建設業
新製品:カフェ・コーヒー豆の輸入販売
足りなかったスキル:カフェ運営スキル
差別化ポイント:カフェ開業したいオーナーに、元建設業の経験を生かし、設計図面の段階から最適な設備を提案可能

■太田組
コア技術:建設業時代の道具。機械の扱い
従来製品:建設業
新製品:農業+自社栽培のタマネギ/ショウガ/ニンニクを原料とした焼肉のタレの製造・販売
足りなかったスキル:農産品の販売
差別化ポイント:自家製のたれのレシピ再現のため、機械扱い技術を活かし、専用の調理設備を導入。

■エアウィーブ
コア技術:ブラスティックス成形加工技術
従来製品:プラスティックス射出成形機
新製品:寝具
差別化ポイント:寝ている人の疲れを軽減できる

■ディージータカノ
コア技術:高い加工精度と設計力
従来製品:業務用ガスレンジの火力調節つまみ
新製品:省エネ機能付き水道部品
足りなかった技術:水関連技術。そこでエキスパートを結集
差別化ポイント:水の勢いを変えないまま水量を10分の1に節水

■幸和産業
コア技術:シルバーカーや車椅子で培った軽量化、安定化、タイヤの形状工夫スキル
従来製品:乳母車/シルバーカー
新製品:高齢者向け歩行器(介護補助対象商品)
足りなかった技術:販路。介護補助対象商品はGMSやスーパーでは販売していない
差別化ポイント:「重い」「不安定」「タイヤが溝にはまる」という3つの不満解消

■オオアサ電子
コア技術:液晶加工技術
従来製品:液晶表示装置加工
新製品:ハイレゾスピーカーやスマホ保護カバーガラス、タッチパネル式看板
足りなかったスキル:営業(ずっと下請けで来たため)
差別化ポイント:部屋のどこでも同じ音質で音楽を楽しめる全方位型スピーカー。ハンマーでも割れないiPhone保護ガラス。大手電機メーカーも販売

 

これらの事例は、市場参入前こそ門外漢ですが、門外漢だからこそ市場の常識に囚われずに新らたなスキル(自社の強み)を市場に持ち込み、学びながら足りないスキルを身につけて、新しい常識を生み出し、その結果差別化を実現しています。

新市場にこそ、活路がある

自社に当てはめて考えると、学びがあるのではないかと思います。

 

改めて感じるのは、様々な状況で新事業への転換を図っているということ。

オオアサ電子長田社長が「事業転換なんてきれいなもんじゃない。ドラマなら面白いかもしれないが、これほど苦しいことはなかった」とおっしゃっている言葉には、当事者しかわからない重みがあります。