付加価値の意味は、マンション修繕とキーエンスから学べ

よく「商品の機能をアピールするのはやめて、付加価値をアピールしよう。ポイントは、顧客の痛みをどのように解決するかだ」と言われます。でも「抽象的すぎて、今一つハラ落ちしない」という方も多いのが現実です。

先日テレビのニュース番組を見ていたら、まさにそのものズバリの事例があったので、ご紹介したいと思います。

建て売りマンションに住んでいる方は多いと思います。

マンションは貴重な資産です。でも10-20年と放置するとボロボロになります。そこで大規模修繕のために、マンション住民は毎月「修繕積立金」を積み立てています。

しかし多くの修繕積立金は「段階増額積立方式」といって、当初は安く、徐々に増額する方式で組まれています。かくいう私も、今は賃貸住まいですが、かつて住んでいた持ち家のマンションは、当初の修繕積立金1万円が10年後には2万円になりました。

しかしそれでも、世の中にあるマンションの1/3は修繕積立金が不足です。

貴重な資産であるマンションがボロボロになるのは困ります。何よりも危険ですよね。

そこで多くのマンションの管理組合では、マンション住民の同意を得て修繕積立金を増額しています。それでも、積立金が逼迫するマンションも多いのが現実です。

大規模修繕では数千万円、場合によっては数億円の費用が発生します。

そもそも大規模修繕は、色々と面倒です。建設会社からの詳細なレポートや見積書を見ても、素人の住民は「工事が必要なのか?」「見積もりが適切な範囲なのか?」「誰に相談すればいいのか?」などの判断ができません。このため多くの場合、マンション管理組合はマンション管理会社に全てお任せでした。でもお金がない。これは困りますよね。

そこで、この問題を解決するサービスが立ち上がっています。
「スマート修繕」は、そんなスタートアップの一つです。

建築士の資格を持つ修繕コンサルタントが、マンションの外壁を道具で叩きながら劣化診断して、プロの目で修繕が必要な場所などをチェックした上で、第三者の立場で「大規模修繕のコストを削減するにはどうすればいいか」をアドバイスしていきます。

管理会社が提示した大規模修繕費用6000万円が、発注先を独立系に変えたり、工事内容を見直したり、複数の工事業者に見積もりを出したりすることで、費用を2/3となる4000万円に抑えられた、という事例も紹介されていました。

このスマート修繕は

「大規模修繕費用を減らし、修繕積立金を抑制しつつ、マンションの資産価値を維持したい」というマンション住民の痛みに対して、

「第三者のプロの視点で、大規模修繕の費用を大幅に削減する」という提案を行っています。

「削減したコスト」(先の例では6000万円−4000万円=2000万円)が、具体的な付加価値です。

(以上は、テレビ東京ワールドビジネスサテライト「【追跡】国も見直し着手 どうする!? マンション修繕」 2023/11/8放送を参照)

似たような事例は、沢山あります。

国内時価総額ランキング5位のキーエンス(時価総額13兆円)は、営業利益率は54%、粗利は80%、さらに社員の平均年収は2200万円を超えています。

キーエンスも、まさに「顧客の痛み」に対して高付加価値の提案を行っています。

キーエンスは、中小製造業が抱える課題に対して、コストを大幅に削減する提案を行っています。

たとえば製造業にとって、部品の寸法を正確に測定することは、加工精度や高い品質を実現する上で必須です。しかしこれまで熟練作業者であっても、正確に測定するには長時間を要していました。

そこでキーエンスは「3D形状測定器」を開発しました。この機械に部品を置けば、レンズで撮影して部品の画像を取り込み、正確に寸法測定ができます。

これまで半年から2年間の訓練を受けた社員が数時間かけて行っていた作業が、新入社員でも部品を置いてボタンを押すだけで、数秒で完了できます。

もしこの会社が毎日10回検査があれば、1年間で人件費だけでも大幅に短縮できる上に、開発スピードも上がります。

「3D形状測定器」が高価格でも、コスト削減額とメリットが明確ですから、中小製造メーカーは喜んで買う訳です。

この場合の付加価値は、「削減コストと、作業の迅速化」です。

キーエンスの常識外れの粗利(80%)・営業利益率(54%)・平均年収(2200万円超)は、様々な製造業の現場で、このような高付加価値提案を行った結果です。(以上は「キーエンス 高付加価値経営の論理」延岡健太郎著を参照)

お客様が求めているのは商品ではなく付加価値であり、そこで必要になるのが「顧客の痛みの理解と、解決」なのです。

いずれのケースも、この付加価値はほぼ100%確実に実現できます。顧客側には痛みがあり、確実に痛みを減らせます。だから顧客は安心して買う訳です。
・マンション修繕…コストを6000万円から4000万円に削減
・3D形状測定器…人件費削減と作業の迅速化

しかし多くの場合、提案側が「付加価値」と思っても、顧客側はそう思っていません。痛みがなかったり、痛みが減らせるかどうか確実でないからです。たとえば「御社の売上を確実に2倍にします」と言っても、実際に詳しく話を聞くと色々な前提条件があって、机上の空論なことも多いのです。

お客様が求めているのは商品ではなく付加価値であり、そこで必要になるのが「顧客の痛みの理解と、確実な解決」なのです。

   

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仕事で忙しいのに、なんで抽象的な思考が必要なの?

仕事で忙しいのに、なんで抽象的な思考が必要なの?

ビジネス書を読むと、抽象的な思考を求められる言葉が色々と出てきます。

「お客の言いなりになるな。お客が本当に望んでいることは何か?」
「当社の使命とは、何だろう?」
「当社の本質的な強みって、何だろう?」

私が企業様に提供している研修でも、同じように抽象的な思考が必要となる課題を考えていただいています。

しかしこんな抽象的なテーマについて議論していると、こう言う人もいます。

「ビジネスで日々忙しいのに、なんでこんな抽象的なことを考えなきゃいけないですか?」

理由は実にシンプルです。
「言動や判断が首尾一貫するから」です。

あなたは、次の二人のうち、どちらの下で働きたいですか?

A課長 「言うことがそのたびにコロコロ変わる上司」
B課長 「言動・判断がブレない上司」

A課長の下で働きたい、という人は、恐らく少ないでしょう。
ほとんどの人は、B課長の下で働きたいと思うはずです。

A課長は、脳内の99%が「今日中に取引先X社にご挨拶に行って、午後には会議に出て、夕方までに明日の役員会議の資料を作成しなきゃ…」という目先の仕事が占拠しています。「当社の使命は○○○だよね」なんて抽象的なことを考える余裕はありません。

中核となる考えがないので、A課長の判断は、その場その場で場当たり的な判断になりがちです。

B課長も、A課長と同様に「今日中にこれやってあれやってこっちも片づけて」と目先の仕事で忙しいわけですが、並行して「でも当社の使命って○○○なんじゃないか? これってやるべきなの? どうなの?」ということも考えています。つまり抽象的な思考をしています。

たとえばファーストリテイリングの使命は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」です。同社CEOの柳井正さんは、ことあるごとにこの使命に立ち返って、次に何をやるべきかを考え続けています。だから言動や判断にブレがないのです。

だからビジネスパーソンにこそ、抽象的な思考が求められるのです。

   

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廃棄されていたいびつな真珠が、高く売れる理由

バロックパールってご存じでしょうか?

「知らない…」という人の多くは、おそらく男性。
「知ってる、知ってる」という人の多くは、おそらく女性でしょう。

バロックパールとは、ゆがんだ形の真珠のことです。

真珠は完璧に「真円」の形のものが好まれ、流通しています。しかし真珠は、アコヤガイという貝で養殖された天然物です。天然物なので「真円」の真珠は全体の約2割。8割はいびつな形だったり突起があったりするバロックパール=いびつな真珠は、これまで廃棄されていました。実にもったいないことですよね。

いま、そのバロックパールが人気なのです。

まだ大手メディアでほとんど取り上げられていないので、新聞記事や一般雑誌記事にはあまり掲載されていません。しかし女性誌では取り上げられています。

試しにX (旧Twitter)で「バロックパール」で検索してみてください。色々と出てきます。

バロックパールをブランディングしている会社もあります。

その一つが「ボンマジック」のバロックパールジュエリー

パロックパールを2つ使ったピアスは8〜12万円、ネックレスは30万円以上です。知人から聞いた情報ですが、ネットに掲載されるとすぐに売り切れるそうです。

なぜ廃棄されていた「いびつな真珠」が、何十万円で飛ぶように売れるのでしょうか?

「真円」の真珠は、冠婚葬祭や豪華なディナーなどのフォーマルなドレスに似合います。

一方でコロナ禍で、白いシャツや黒のパンツ・デニムなどのカジュアルでシンプルなファッションを着こなす機会が増えました。しかし真円の真珠は、こんなファッションにはちょっとフォーマル過ぎて、ちょっと堅苦しい感じもします。もっとシンプルなファッションにあった、自分らしいジュエリーの方がファッションにフィットしますよね。

そこでこのバロックパールが注目されているのです。

注目されている理由は「その形が世界に一つしかない」からです。過度にフォーマルではない一方で、自分らしい絶妙な存在感を表現できます。

もう一つは「抜け感」。高級ブランド真珠は肩に力が入っている感じがします。でもバロックパールなら、それなりに「お金は困ってないんだけど、これでいいわ」という独特の抜け感が演出できます。

つまり「(いびつな)バロックパール」に、「世界に一つしかない自分らしい存在感と抜け感」という意味を与えることで、「ボンマジック」のバロックパールジュエリーは飛ぶように売れているのです。

バロックパールの例は、他にもあります。

ジュエリーブランド“SEVEN THREE.”(三重県伊勢市)が手掛ける「金魚真珠」です。この会社の社長・尾崎さんは、祖父が伊勢志摩で真珠の養殖に60年間従事していました。養殖真珠はできるまで3年かかりますが、流通するのは「真円」の2割だけ。「この形は、いい」と思っても買ってくれる人がいませんでした。

ある日、真珠の選別をしていると、全体の1割ほどの突起がある真珠が、尾びれをなびかせて泳ぐ金魚に見えました。そこでそんな真珠を「金魚真珠」と名付けて、ECサイトに掲載したところ、数万円で売れるようになりました。(以上、金魚真珠は「日経クロストレンド」2021/9号 p.2-4を参照)

生産・流通業者から見ると「いびつな真珠」は、流通に乗せられない欠陥商品でした。

しかし顧客目線で「顧客にとっての価値」を考えた結果、「いびつな真珠」「自分らしさと抜け感が表現できる普段使いのボンマジック・バロックパール」、あるいは「同じモノは2つとない特別な金魚真珠」と再定義して、高くても飛ぶように売れるようになったわけですね

全く違う分野でも同じような話があります。「土用丑の日」の鰻です。

実は、土用丑の日の鰻が美味しいわけではありません。江戸時代に夏に売れない鰻を売りたいと相談を受けた平賀源内が、「『本日丑の日』と店頭に貼るといいよ」とアドバイスして、その店が繁盛し、周囲の鰻屋も真似し始めた、と言われています。(所説あります)

これも顧客の視点から、「夏場の鰻」を「丑の日に『う』がつくものを食べると夏バテしない」と再定義した発想です。

フランスの哲学者ジョン・ボードリヤールは、消費社会が到来した1970年に刊行した著書「消費社会の神話と構造」で、「商品とは『記号』である」と述べました。

現代社会では、あなたの商品に、どのような記号を付けるかが問われているのです。

あなたの商品には、どんな記号が付けられていますか?

   

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南太平洋の孤島に、靴の市場はあるか?

ある会社が、南太平洋の孤島に社員を派遣しました。

一人目の使者は、ご用聞き。彼はこのように報告してきました。

「島の人間は靴を履きません。市場はありません」

会社はさらに使者を送りました。二人目の使者はセールス。彼は、このように報告してきました。

「島の人間は靴を履いていません。もの凄い市場がありますよ!」

そして会社はさらに使者を送りました。三人目の使者はマーケター。彼は、このように報告してきました。

『島の人間は靴を履いていません。そのため彼らの足は傷つき、痣もできています。部族長に「靴を履けば足の悩みから解放される」と説明したところ、もの凄く乗り気でした』①

『1足1,000円なら「島民10万人の7割が買う」とのことです』②

『初年度は口コミで2,000足売ります。全コストは600円なので、初年度売上は200万円で利益80万円。営業利益率40%です。 その後は販促を強化、5年で累計7万足、売上7000万円、利益2800万円です』③

『近隣の島々の市場規模は10倍、売上7億円です』④

『他社がいない今がチャンス。参入しましょう』⑤

3人が見ているのは、まったく同じ南太平洋の孤島です。しかし三人目の「マーケター」は、一人目の「御用聞き」、二人目の「セールス」とは違うモノが見えていることが、おわかりになりますでしょうか?

①は、現場目線の市場分析、顧客ニーズ。
②は、市場規模把握。
③は、事業の規模感。
④は、将来のビジネス機会。
⑤は、経営陣への提案です。

そしてこのマーケターのように見て考える力は、決して才能やセンスの問題ではありません。スキルの問題です

そしてスキルの問題ですから、学べば身につけることができます。

私が永井経営塾や企業研修を行っているのも、日本のビジネスパーソンに大きく欠けていて、早急に学ぶべき最優先スキルが、マーケタースキルだからです。

そしてマーケタースキルの本質は、新たな価値を創り出すことです。

「日本は技術大国」と言われて久しいですが、世界全体で見ると、米国には追いつけず、アジアの各国に次々と抜かれています。国民一人当たりGDPも国民所得も下がり続けています。

この大きな原因の一つが、マーケター・スキルがないがために、新たな価値を創り出せないことです。

日本のあらよる職種のビジネスパーソンがマーケタースキルを身につければ、日本が本来持っている力を解放でき、日本は大きく成長できるはずです。

マーケティングを、学びましょう。

(なお上記の事例は、フィリップ・コトラー著「コトラーのマーケティング・コンセプト」(p.207)の内容を、わかりやすく修正したものです。ご興味ある方はぜひご一読を)

   

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銭湯代行業が若者を魅了、売上4倍

日本には「斜陽産業」と呼ばれる業界がいろいろとあります。その筆頭の一つが銭湯でしょう。銭湯の数は、1968年は17,999軒。2023年は1,755軒。なんと1/10に落ち込んでいます。

銭湯入浴料は物価統制令で都道府県ごとに上限あり、東京は520円。自由に価格を上げられません。さらに経営者の高齢化や、最近はエネルギー価格の高騰で、廃業が相次いでいます。

しかしこの銭湯業界で、まったく新しい挑戦をしている会社があります。

2023年9月29日のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」で、その会社の紹介をしていたので、紹介したいと思います。

この会社は「ニコニコ温泉」という銭湯の経営代行を手掛ける会社。

たとえば品川に「東京浴場」という銭湯があります。70年の歴史がありましたが、経営者の高齢化で、4年前に閉店しました。

そこでニコニコ温泉は、銭湯のオーナーに賃料を払って「東京温泉」の経営代行を始めました。

この銭湯、午前2時まで営業しています。取材した時間帯は夜でしたが、客は全員20代。お客は「仕事を終えて、風呂を浴びるとサッパリする」「週3回来る」。

ひと風呂浴びた後は、マンガなど7000冊ある巨大な本棚。さながら非日常な秘密基地で、お客はゆっくりマンガを読んだり、大学の課題などをやったりしてくつろいでいます。

さらに売上アップする様々な工夫をしています。

たとえば周囲を気にせずに入れる一人用サウナを設置。90分で1100円ですが利用が多く、これで月70万円の売上です。

さらに風呂上がりに、クラフトビール飲み比べセット980円や、SNS映えするクリームソーダ550円を提供しています。

銭湯のロビーの一角には、お客さんが本などを販売できる幅30cm程度の棚があります。名付けて「フロナカ書店」。全部で70個あり、月額4000円で貸し出しています。

こうしてお客の増加と入浴料以外の収入で、売上4倍になりました。

経営代行をするニコニコ温泉・真神友太郎社長は、船井総研で旅館や温浴のコンサルタントを15年間行ってきました。そして7年前に、銭湯の経営代行業を立ち上げたのです。

番組で真神社長はこうおっしゃっています。

「銭湯は小さいので、利益が出やすい。オールナイト営業などもできる。地方で24時間コンビニが成り立つのと同じ」

「銭湯のオーナーさんにとって、銭湯は先祖代々の大事な資産です。だから手放せないし、家族に引き継いでいきたい。でも経営がキツいのが悩み。そこで私たちが賃料をオーナーに払って、経営代行を行っています。銭湯の運営を任せてもらうわけです。銭湯オーナーさんとのWin−Winになります」

これは星野リゾートとまったく同じビジネスモデルですね。

ホテルは「ホテルという資産」を持つ不動産経営の側面と、「ホテルの運営」というサービス業の側面があります。日本では、従来の多くホテルは、両方手掛けてきました。

星野佳路社長は「いずれホテル経営の負荷に耐えられずに、経営を手放すホテルが増える」と読み、1990年代に星野リゾートの不動産を手放し、ホテル経営に特化することにしました。資産を手放したおかげで身軽になり、俊敏に経営を策定して実行できるようになりました。OMOやBEBなどの新ブランドを次々と立ち上げられるのも、このためです。

ニコニコ温泉も、銭湯という不動産を持たずに、「銭湯経営代行」という新しいビジネスモデルを立ち上げているわけですね。

番組では、ニコニコ温泉が手掛ける昭島の富士見湯の取り組みも紹介されていました。

ここは22時間営業ですが、燃料代高騰が経営を直撃しました。燃料を薪にして乗り切ろうとしましたが、ガス代が2倍になって吸収できません。

そこで無料だったサウナを、整うことに集中してもらう空間「暗闇瞑想サウナ」にリニューアル。300円にした結果、サウナの売上は月0円から100万円にアップしました。

さらに何もなかった屋根の上に、外気浴できる有料スペース「展望休憩所」を作りました。利用者は「外の空気が感じられてとても気持ちいい」。200円ですが、サウナ客の半分がここを利用します。他にも、有料の寝転びゾーンを作ったりして好評です。

また浴場の中にあるタイルを、イラストやマンガ・写真の展示に使う試みも始めています。実際に展示した人たちからは「有償でいいからやって欲しい」との声も上がっています。

こうして何もなかった場所を稼ぎ頭にして、経営引継ぎ前と比べて、売上は7倍になりました。

銭湯の面積は狭いのですが、天井は高く作られています。こうした空間を全て使い倒せば、すべて売上に使えるわけです。一つ一つの取り組みの積み重ねが、黒字化に繋がっていくわけですね。

このニコニコ温泉、若い世代の働き手が集まっています。

アルバイトの半分が20代を占めます。あるアルバイトの方(29歳)は「35歳までに店を持ちたいと思って準備している」。またある銭湯を任されている店長は、ニコニコ温泉のSNSを見て脱サラしました。

真神社長はそんな若手社員に、仕事の合間に経営のノウハウを伝える「経営塾」を行っています。「短所を伸ばしても効率が悪く結果がでない。だから、長所を必ず伸ばす」というようなことを、時間を決めてオフィスにいる若手社員に伝えてます。

真神社長は「モチベーションが高いので、自分が思いつかないようなアイデアを次々と出してくれる。休憩ゾーンとかサウナ、タイルも、そうやって出てきたアイデアです」

ニコニコ温泉はまだ4店舗と小さなベンチャーですが、実に学びの多い挑戦です。

衰退産業には、実は大きな可能性が眠っていますし、視点を変えれば、売上の機会は至る所にあり、お客様は喜んでお金を払います。

さらにモチベーションが高い職場を作ることで、トップが思いつもかないような斬新なアイデアが次々と湧きだしてくるようになります。そうした組織づくりそのものが、経営戦略になりえるのですね。

   

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こんな広告に大金を使っていいの?

先日見た、あるビジネス週刊誌の1ページに掲載された広告は、こんな感じでした。

・大きく二ケタの数字が書かれています。一瞬わからなかったのですが、よく読むと創立○○周年でした。この広告にはこの数字が4−5箇所に書かれています。情報が重複しています。
・同じ意味の文章が2〜3箇所に書かれてますが、何を言いたいのか、よくわかりません。
・写真の中で一番大きな写真が、社長の写真です。でもこの写真を載せる意味がわかりませんでした。
・さらに見ると小さな写真が6〜7個掲載されています。創立以来の同社の歩みを振り返る写真のようですが、小さすぎて何なのかよく見てもわかりませんでした。(何かの模様に見えました)

「結局この会社、何をこの広告で伝えたかったんだろう?」と思ってしまいました。会社名も印象に残りませんでした。

巷では、こんな広告を実によく見かけます。そのたびに、つい思ってしまいます。

「この媒体ってお金がかかるよね。こんな広告に大金を使っていいんだろうか?」

「広告の父」と称されたデイヴィット・オグルヴィは、1983年に刊行した歴史的名著「売る広告」で、広告に必要なポイントを挙げています。いくつか抜粋しましょう。

①「広告は、効能を語れ」 これが本書で一番重要。もう一度読み返して欲しい。
→効能を語っていない広告はあまりにも多いのが現実です。すべてお金の無駄遣いです。

②広告の基本は、商品を知り、ポジショニングせよ
→事実に基づき、説得力ある形で説明し、違いを示すのが広告の役割です。多くの広告は、機能説明(何をやるか)だけで終わっています。

③自画自賛よりも、誰かの推薦
→誰かの推薦の方が、人は納得します

オグルヴィは、印刷媒体の広告で成功する方法も述べています。

④ヘッドラインを読む人は、本文を読む人の5倍。具体的なメッセージで売り込まないと、広告費の8割がムダ
→現実には、ヘッドラインが抽象的で、何をいいたいのかわからない広告ばかりです。

⑤イラストよりも写真の方が、人を惹き付ける。1枚の写真は1000語の言葉と同じ値打ちがある
→現実には冒頭の広告のように、写真を活かさない広告が多いのが現実です

⑥広告の配置。人は、図版→ヘッドライン→本文の順に読むので、各要素をこの順で配置。図版の下にヘッドライン。そして図版には必ず説明のキャプション
→これも無頓着な広告が多いですね。

「でも永井さんが見た広告って、創立○○周年の感謝を伝える広告でしょ? そもそも『売る広告』とは違うんじゃないの?」と言われるかもしれませんが、それは違います。

「感謝を伝える広告」も確かに大事です。しかしその場合も、その「感謝の気持ち」を的確に相手に伝える基本は、「売る広告」と同じです。

①「効能を語れ」 →その○○年間で、御社はどんな効能を提供し続けてきたのか?
②商品を知り、ポジショニングせよ →その○○年間で、御社はどんな違いを提供してきたのか?
③自画自賛よりも誰かの推薦 →その○○年間で培った、お客様との絆を見える化できないか?
④ヘッドライン →その○○年間の想いは、どんな短い言葉に集約できるのか?
⑤写真 →その○○年間の想いを伝える象徴的な一枚の写真は、何か?
⑥広告の配置 →その○○年間の感謝を伝えるには、どんな配置がベストなのか

オグルヴィの指摘は40年前のものであり、広告では基本中の基本です。しかしいまだに、これが出来ていない広告が多いことに改めて驚かされます。

一方でこれは逆に、私たちに大きなチャンスを教えてくれます。

私の感覚ですが、世の中の広告の9割は、オグルヴィが指摘した広告の基本を踏まえていません。

基本を踏まえない広告が多いということは、逆に基本を踏まえた広告を出せば、大きな成果があがる可能性がグンと高まるということなのです。

御社の広告は、成果は出ているでしょうか? そしてその広告は、広告の基本に忠実でしょうか?

   

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投資1000億円のホンダ新規プロジェクト。「ムリ」と思ったら快諾された理由

会社で大規模な新規事業を立ち上げる際には、経営トップの承認が必要です。
しかしともすると超巨額投資が必要で「こんなの、絶対やめろと言われる」と思われがちです。

しかし、社員の目線と経営トップの目線は、全く違うものです。

そのことを実感した記事がありました。日経産業新聞に2023年9月4日に掲載された「ものづくり記 ホンダ・和光研究所(6) ジェットエンジンの強み生かせ」という記事です。

「空飛ぶクルマ」と言われるeVTOL(電動垂直離着陸機)は、現在、世界中で、キティホーク社などのスタートアップがしのぎを削っている分野です。再来年2025年の大阪万博でも、eVTOLの試験運用を行うと言われています。

ホンダジェットで航空業界に参入したホンダは、このeVTOLに勝機を見いだしています。

その武器がジェットエンジン。ガスタービンを電池への発電用に使うハイブリッド式パワーユニット(ガスタービンHV)を作ろうと考えています。バッテリーだけだとせいぜい飛行距離は100Km。ガスタービンHVでバッテリーを補えば、400Kmの飛行が可能です。

当初、ホンダは自社ガスタービンHVを、eVTOLメーカーに外販する交渉をしていました。交渉が難航する中で、「もしかしたら自分たちで機体も動力もやった方が、いいんじゃないか?」と考え始めました。では、なぜそう考えたか?

航空機で必要な大きな2つの技術が、機体設計とエンジンです。
航空業界では、機体とエンジンは完全に分業されています。
そして意外と知られていませんが、実はホンダは、この2つを単独で手掛ける世界唯一のメーカーなのです。

そして本田技術研究所内で、自社のガスタービン搭載VTOLの開発が始まりました。しかし投資金額は1000億円を超えることがわかりました。
開発メンバーは「絶対にやめろって言われる」という意見が大勢。
当時の本田技術研究所の社長は、現在のホンダ社長の三部敏宏さんでした。

この様子を、記事ではこのように書いています。

—(以下、記事より引用)—

結局、そのまま三部にぶつけることにした。三部の反応は意外なものだった。

「こんなにかかるのはうちだけか?」
「いや、うちだけじゃないです」
「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」

現在は雨後のたけのこのように世界中でeVTOLのスタートアップが名乗りを上げているが、その中で本当にTCを取って事業化までたどりつけるのは何社あるだろうか。実際、この後にキティホークは事業化を断念した。高い参入障壁は、それを乗り越えた者への先行者利益を保証する。三部は多くを語らなかったが、暗にそう言いたかったのだろう。

—(以上、記事より引用)—

このエピソードは、会社員が新規事業に取り組む際に、大きな示唆を与えてくれます。

新規事業は、しがらみを持たずに迅速に動けるスタートアップの方が、圧倒的に有利に思えます。しかしスタートアップは、1000億円を超えるような投資を得ることは至難の業です。

大企業であれば、自社の強みが活かせるのであれば、キャッシュフローの範囲内で、大規模な投資を長期間行うことが可能です。

たとえば花王のソフィーナ。1976年に研究を開始し、一時は累積赤字が最高250億円にも達しましたが、2000年に黒字化し、売上700億円です。

東レは1961年に「航空機の構造体で使えるかも」というアイデアで炭素繊維の研究を始めました。製品化は1971年でしたが、当初は「鉄の1/4の軽さで10倍の強度」を訴求して釣り竿やゴルフクラブに展開していました。その技術が自動車で培われ、今では航空機で使われています。炭素繊維も数十年掛けています。

ホンダジェットも数十年の投資が実った例です。

以上のことは、まさに「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」という三部さんの言葉に凝縮されています。

三部さんは2021年の社長就任会見で、いきなり「2040年までに、ホンダの世界販売を100%、EVとFCVにする」と発表して、大きな話題になった経営トップです。

大企業には、大企業の戦い方がある。

そして「会社を本気で変えたい」と考える経営トップは、現場社員とは全く違う目線を持っているのです。

   

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堺雅人がVIVANT出演を快諾した理由がわかれば、マーケティングもわかる

TBS系で放映中のドラマ「VIVANT」、実に面白いですね。

才能とお金を惜しみなくふんだんに掛けた作品に仕上がっています。

主演の堺雅人さんを筆頭に、阿部寛さん、役所広司さん、松坂桃季さん、二階堂ふみさんといった超主役級の俳優を擁し、練りに練った、意外性だらけだけど破綻がない脚本に加えて、安易にCGに頼らない本格的な現地ロケ。

堺雅人さんについて、私は2020年刊行の拙著「世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた」(以下「MBAマーケ50冊」)で、バイロン・シャープの最新マーケティング理論を紹介する際に、事例として紹介しました。

VIVANTを見て、この事例の考察をアップデートする必要があると思いましたので、まとめたいと思います。

まず「MBAマーケ50冊」でご紹介したのは、下記でした。

—(以下、サマリー)—

・『強いブランドは「このブランドと言えば○○」という強いポジショニングを確立している」と思われがちだが、「これは間違い」と言うのが、バイロン・シャープ。
・バイロン・シャープはむしろ「強いブランドとは、より多くの商品購買シーンで思い出されるブランド」と主張する。このような購買シーンのことをCEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)と呼ぶ。
・これがよく分かるのが、堺雅人さんの事例。
・堺雅人さんは2013年のドラマ「半沢直樹」で大ブレイク。視聴率45%。
・しかし続編は2020年。7年かかった理由は不明だが、この7年間は堺さんにとって意味があった
・続編を翌2014年に放映したら、大ヒットになった筈だが、その後、役者として演じられる役が狭まった可能性がある
・天才肌の役者だった渥美清さんは、「男はつらいよ」の寅さん役が大ヒットし、何をやっても「寅さん」に見えるようになった
・「ウルトラセブン」でモロボシ・ダンを演じた森次晃嗣さんも、その後何を演じても「ダン」としか見てもらえず、苦しんだ経験があった
・堺さんはその後、NHK大河ドラマ「真田丸」で主演を演じた上で、半沢直樹続編を受けた
・しかしもともと堺さんは、クセの強い『南極料理人』『クヒオ大佐』『ツレがうつになりまして。』などの頼りなくクセがある役や、『リーガル・ハイ』の毒舌で偏屈な弁護士役などを演じられる、実に幅がある役者
・しかし「堺雅人=半沢直樹」というブランド連想が強くなりすぎると、「渥美清=寅さん」や「森次晃嗣=ダン」のように、演じられる役が狭まる
・だから「半沢直樹」続編に7年置いたのは、堺さんの役者生命を考えると、大いに意味があった

—(以上、サマリー)—

そして2020年の半沢直樹続編の後、堺さんはあまり目立った活動はなさっていませんでした。

「次は何を演じるんだろう?」と思っていたところで、今回のVIVANT主演です。ネタバレになるのであまりここでは書きませんが、実に幅広い役を演じておられます。

ここで参考になるのが、現在U-NEXTなどで配信されている「VIVANTナビ」でのインタビューです。堺さんはこう語っておられます。

—(以下、インタビュー内容)—

(シナリオを見て)
今まで見せたことのない堺の色々な顔を出させたいという ものすごい愛情を感じたんですよね。 僕自身把握していなかった、僕の新しい一面を発見していく物語なので…

—(以上、インタビュー内容)—

このインタビューを見て、なぜ堺さんが今回の役を受けたのか、少し分かったような気がしました。

堺さんのインタビューから感じるのは、VIVANT企画側が、この堺さんのお立場に真正面から応える役を用意した上で、作品も大ヒットも両立させるという、考え抜かれた周到な戦略です。

全10回中、現時点で第7回まで見た感想ですが、VIVANTではこれまで堺雅人さんが演じてきた様々な顔が出てきます。これだけの様々な顔を演じられる役者さんは、堺さんだけでしょう。

冒頭の話に戻ると、バイロン・シャープは「強いブランドとは、より多くの商品購買シーン(CEP)で思い出されるブランド」と考えました。

これだけの様々な顔を演じられる堺さんが出演して、はじめてVIVANTが作品として成立していますし、私たちも楽しんでいます。堺さんにとっても「半沢直樹」に勝るとも劣らぬ代表作になり、ご自分の新しい可能性を発掘できた作品になったでしょう。またブランド論的に言えばこの作品は堺さんのCEPを一気に増やす可能性も高いと思います。

一ファンとしても、今後の展開が楽しみですね。

※当ブログは、放送全10回のうち、8回分が放送された9月4日(月)の時点の情報に基づいて書いています。

   

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「リスキリング=DX」という勘違い

最近のメディア記事を見て、「これヤバいよ」と実感するのが

リスキリング=DX

となっていることです。

本来リスキリングとは、企業のビジネス力を上げるために行うもの。「DXも大事だけど、その前に色々あるよね」と思っていました。

そう思っていましたら、日経ビジネスの今週号(2023.8.21号)の特集「残念なリスキリング」の中で、『日本企業の間では「リスキリング=DXについて学ぶもの」という発想が根強い』と紹介されてた上で、こんな言葉が紹介されています。

『デロイトトーマツコンサルティングの小野隆執行役員は「日本はとにかくテクノロジーに関するノウハウを学ばせようとしがちだが、実際には仮説を検証したり、周りを巻き込んでプロジェクトを遂行したりするスキルも必要」と話す』

そして記事では「スキル開発は事業戦略に連携させるべき」ということが述べられています。

ここ1〜2年、メディアがリスキリングを取り上げる際には「リスキリング=DX」と結びつけて紹介されることが多かったので、その反省と軌道修正が行われつつあることを感じる記事でした。

私はこの十数年間、人材育成に携わってきましたが、まさに「人材育成は事業戦略そのもの」です。

私が人材育成に携わるきっかけは、日本IBM社員時代に事業戦略責任者として事業本部長をサポートしていた際に、事業本部長から「来月から人材育成責任者をやってほしい」と言われたことでした。

「これまでマーケティング戦略や営業戦略で色々と手を打ってきた。でも人材戦略はちゃんとやっていない。ウチの事業部の人材が、事業戦略に沿ったスキルを身につければ、業績がアップするはずだ。永井さんとボクは一緒に事業戦略を作ってきたから、今度は人材育成で事業戦略を実現してくれないか?」

と言われて、人材育成を担当することになりました。

こうして人材育成の現場で実感したのは、事業戦略に沿って人材育成を行うことで、業績が向上する上に、社員も経営陣もハッピーになることです。現場で次々と起こる新しい問題に直面して、社員も困っています。しかしそんな問題と闘う武器を人材育成プログラムを通じて手に入れられることは、当然のことながら社員にとってもよいことです。

そして、そこで必要になるのはDXスキルではありません。
必要なのは、ビジネススキルです。

それは小野執行役員もおっしゃっているような仮説検証力だったり、マネジメント力、マーケティング力だったりします。

「リスキリング」でグーグル検索すると、ほとんどがDXと紐付いた結果が出てきます。 まさに「リスキリング=DX」になっているのが、日本の現状です。これでは大金と膨大な労力を投じて人材育成しても、なかなか成果には繋がりません。

この3年間、私がKadokawaさんとの協業で永井経営塾を推進しているのも、本来必要とされるリスキリングの場を整備し、リーズナブルな料金で広くご提供するためです。

今週号の日経ビジネスの特集が、「リスキリング=DX」という風潮を見直す一つのきっかけになればと願っています。

   

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なぜ迅速な商品開発ができるのか?

アイリスオーヤマは、新商品を矢継ぎ早に出して急成長しています。
2012年に2500億円だった売上は、昨年2022年には7800億円。
10年間で3倍の成長です。

同社の成長を支えるのは、1年で1000品目の新商品です。
この1000商品は、すべて社長が承認しています。
「そんなのムリでしょ」と思いがちですが、これを仕組みで回しています。
それが、毎週月曜日に終日行われる新商品開発会議(プレゼン会議)。
経営幹部が全員集まり、現場担当者が商品企画を5分で説明。これを1日で50商品やります。そしてその場で社長が却下したりゴーサインが出ます。

却下の場合、その場で明確に次回提案のための改善点を指摘するので、社員は再挑戦できます。

さらに実施の場合、経営幹部や主な関係者全員が会議に同席しているので、根回し不要で、新商品開発に猛スピードで取りかかれます。

最近、世界のEV(電気自動車)市場で台頭しているのが、中国のBYDです。
今年の生産台数は、テスラに次ぐ第2位で急成長中。
テスラのイーロンマスクも「最大の脅威はBYD」と言っています。
このBYDの成長を支えるのも、意志決定の速さです。

アイリスオーヤマも、BYDも、迅速な新商品開発を支えるのは、迅速な意志決定なのです。

1970年代に「日本企業の強みは、組織で合意を徹底する根回しプロセスにある」と言ったのは、ピータードラッカーでした。

確かに大きなプロジェクトや、全社方針を決定するには、いまでも組織全体での徹底した根回しが重要でしょう。

商品開発の現場がどんなに頑張ったとしても、このプロセスを、日々の新商品開発全てに当てはめると、商品開発のスピードが途端に遅くなります。

意志決定スピードの差が、企業の競争力に直結する時代なのです。

この問題を解決する一つの方法が、「OODAループ」という考え方です。これは次の4つの活動からなります。

❶観察(Observe)……あらゆる情報を取ってくる
❷情勢判断(Orient)……最重要ステップ。情報を経験や価値観と組み合わせ、洞察を得る
❸意思決定(Decide)……方針を決める
❹行動(Act)……実際の行動に移る

実は、このO→O→D→Aの4ステップを踏むのは、OODAループではまだまだ初心者レベルだと言われています。本当のOODAループは、Dを省略し、O→O→Aで動くことで、真価が発揮されます。

ちょうど宮本武蔵のような剣豪が、敵を瞬時に斬るイメージです。
相手の刹那を感じ(観察 Observe)、攻撃を察知(情勢判断 Orient)した瞬間、相手を斬る(行動 Act)わけです。考える(意思決定:Decide)プロセスを極限まで短くし、O→O→Aを一瞬で行い、敵をスピードで圧倒して斬るわけです。

アイリスオーヤマの新商品開発会議(プレゼン会議)も、まさにこの意志決定を組織全体で瞬時に行う仕組みを作り、OODAループ全体を高速で回しているわけです。

9月6日(水)の朝活永井塾は、このOODAループがテーマです。
もしよろしければ、ぜひご参加下さい。(メルマガでご案内中です)

   

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暑い日にコーラが200円だと、少しイラッとしてしまう

最近、タクシーを利用する際に愛用しているのがGOというアプリです。いままでタクシーをつかまえるのは大変でしたが、GOを使うと近くにいるタクシーがすぐに来てくれます。

ただ、なかなか空車がない場合もあります。こんな場合は少々料金がかかりますが、「優先パス」を使えば優先して配車してくれます。私は納得して使いますが、SNSを見ていると「これで料金を取るなんでケシカラン」という人もいました。なかなか難しいものです。

やや古い記事ですが、6月26日の日本経済新聞にこんな記事がありました。

『広がる「変動価格」、消費者不満も』

最近流行のダイナミックプライシングについての記事です。

需要が高いと価格を高く設定し、需要が低いと価格を下げる、という価格設定のメカニズムです。

GOの優先パスは、使うかどうかはユーザーに委ねられているので、実に巧みにダイナミックプライシングを活用していると思うのですが、それでも不満な人がいます。

たとえば暑い日に、いつも自販機で150円で買えるコーラが、200円になっていたりすると、「暑いからって、そこで儲けるの? それって違うでしょ」って思って、ちょっと「イラッ」としますよね。これは実際に米国コカ・コーラが実験して批判され、頓挫したそうです。

ホテルや航空機などではダイナミックプライシングはある程度定着していますが、他の分野では見直しも増えてきています。

たとえばプロバスケットボールチームのレバンガ北海道では、変動価格制をやめて、試合日ごとに異なる二種類の価格に見直しました。

清水エスパルスもJ2降格で客が減り「席が埋まっていないのに高い」との反発があり、「儲けばかり求めているとみられるとファンが離れる」として、2〜3割の試合を定価に戻しました。

一方で食品ロスを減らすために賞味期限間近の商品を集めて安く販売するサービスが、中国で若者中心に受けて成長しているそうです。中国では若者の失業率が20%にもなっています。「確かに食品がムダなのはよくないよね」という大義名分と、「収入が低いから安い方が助かる」というホンネにアピールしています。

ビッグデータやAIを活用したダイナミックプライシングの手法は、まだ始まったばかりです。今後、試行錯誤を繰り返しながら、ダイナミックプライシングが定着していくのではないかと思います。

   

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人が集まる場は、お金を生むメディアに変わる

画像はファミリーマートサイトより

最近、ファミマに入って目立つのが、店の天井近くにある大きなディスプレイです。これ、電子看板(デジタルサイネージ)っていいます。

ファミマはこのデジタルサイネージを将来の収益の柱に育てようとしています。

2023年7月14日の日経MJの記事で、ファミマのデジタルサイネージの最新状況が紹介されています。

・ファミマ店舗には一日1500万人以上が訪れる
・コーラとファミチキの販促企画では併買率は6〜7倍に
・広告収入はFC加盟店舗に還元
・現時点で、全店舗の3割弱となる4600店舗に設置
・23年内に1万店に増やし、加盟店の売上増の一手とする
・5年後に事業利益100億円を目指す

ここから学べることは、「人が集まる場は、お金を生むメディアに変わる」ということです。

ファミマには、ファミマで商品を買う気になっているお客が来ています。分かりやすく言えば、「普段は固い財布の口が、半分開いている状態」です。そこで特定商品のメッセージを流すことで、その商品を買う可能性が一気にアップします。

永井経営塾6月のライブで詳しくお話ししましたが、他にも様々なモノが広告として収益を生み出しています。たとえば

ゴルフカート…ゴルフする人に、ディスプレイでCMを見せます。ゴルフ場でカートに乗っている時間は合計60-90分。ゴルフをする人は富裕層や経営層。購買力が強い人たちに、ピンポイントでリーチ可能です。「ゴルフカートビジョン」という会社は、9ゴルフ場587台のカートを展開中、月間リーチ人数は27000人です。

商業施設やオフィスの個室トイレ…トイレの落書き、つい見てしまいますよね。公衆トイレの中はお一人様時間。しかも性別が分かれてます。オフィスビルなら年収水準や仕事などの属性も絞り込み可能。

アパホテルのプール広告…アパホテルは、経営難のホテルを買収し、黒字化させています。買収するホテルの多くは、屋外プールがあります。そこでプール黒字化のために、企業名を付ける広告事業を展開しています。たとえばポカリスエットプール、ビックリマンプール、味ぽんプールなど。

あなたの会社でも、「共通の属性を持つ人たちが集まる場を、お金を生むメディアにできないか」と考えてみると、面白いかも知れませんね。

   

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サイバーエージェントが、生成AIを脅威に思う理由

生成AIは、様々な業界を再編する起爆剤になりつつあります。

ネット系広告で国内最大手の代理店であるサーバーエージェントも、生成AIの登場に強い危機感を持つ企業の一つです。

「サーバーエージェントってIT企業だから、チャンスと思うかもしれないけど、脅威はいい過ぎじゃないの?」と思ってしまいますが、実は本当にヤバいのです。

日経産業新聞2023.6.29号に、サーバーエージェント内藤貴仁常務のインタビューが紹介されています。内藤さんは、広告分野でのAI DX事業を統括しています。

ネット系広告メディアは、グーグルやメタ(Facebook)が圧倒的シェアを握っています。サーバーエージェントの仕事は、企業がこれらの広告メディアで効果的な広告を出すのを支援することです。

しかしグーグルやメタも、生成AIに大規模に投資しています。彼らが生成AIを使って企業に効果的な広告を自動提案できるようになると、サーバーエージェントの存在意義は消滅してしまいます。

つまり企業と広告媒体が直接繋がってしまう、いわゆる「中抜き現象」が起こる可能性があることになります。これって、サイバーエージェントにとって、凄くヤバい状況です。

改めて、「広告仲介者としてのサーバーエージェントの価値とは何か?」を突き詰めた上で、具体的な価値を顧客に分かりやすく示すことが必要になってきます。

そこで同社は日本語の大規模言語モデル(LLM)を公開し、スーパーコンピュータ富岳の活用で大学とも連携しています。そしてAIでキャッチコピーを作ったり、広告効果を予測したり、画像生成AIの活用も推進しています。

つまり「どうすれば、グーグルやメタよりも価値あるネット系広告の提案ができるか」を必死に考えているわけですね。

「でもLLMって技術のカギでしょ。公開しない方がいいのでは?」と思いがちですが、内藤さんは「自分たちだけでいいものを作るよりも、大学を含めて多くの研究者の力を活用して作る方が、良いモノができる可能性が高い」と判断しています。まさにクローズド・イノベーションではなく、オープンノベーションのアプローチです。

振り返ると、ECが流行始めた頃も、「企業と消費者が直接繋がり、仲介者は不要になるのではないか」と言われました。しかし結果として、アマゾンや楽天のように企業と消費者の間を仲介する企業が成長しました。

1990年代前半にIBMが倒産しかけた時もそうでした。当時はマイクロソフト、デル、オラクルなどの強い専業会社が次々と登場し、全て手掛けるIBMは個別製品で戦うと負ける、という状況が続き、IBMを小さな会社に分社化する動きが始まっていました。しかしこの時、外部からCEOに就任したガースナーは「違う。いまや顧客が様々なIT商品を統合しなければならない。顧客にとってこれは困る。IBMなら全領域を熟知しているので、顧客システムを統合できる。問題はその統合スキルを活かしていないことだ」と考えて、分社化の動きをストップ。逆に統合化を進め、サービス事業とソフトウェア事業を立ち上げました。IBMもIT商材を統合する仲介者としてのポジションを見いだして、復活したわけです。

サーバーエージェントの取り組みのように生成AIの登場で、今後様々な業界で再編が進んでいく可能性が高くなっています。

この機会に、あなたの業界では、顧客から見て生成AIが自社のどんな業務を代替し、その結果、自社にどのような影響があるかを具体的に考えてみてはいかがでしょうか?

   

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監視技術は、人類の価値観を変える?

2023年6月30日の日本経済新聞一面に、こんな特集がありました。考えさせられる内容でした。

『テクノ新世 「ビッグ・ブラザー」姿現す日』

ポイントをピックアップすると…

・中国の監視カメラによる監視技術が、アフリカ諸国などに浸透中
・中国は政府主導で、この2005年以降40ヶ国に輸出
・西側諸国は「監視技術? プライバシー侵害でイヤだよね」となりがち
・アフリカ諸国は「中国製のカメラで監視?別にいいよ。犯罪がなくなり暮らしやすくなった。何が問題?」
・作家オーウェルは1949年にディストピア小説「1984年」で、あらゆる言動を国家が監視する近未来を描いた。しかし今や監視社会は安心安全の理想郷の姿を装う
・一方で使途を逸脱すれば権力の暴走の危険もはらむ。法の支配と人権の配慮は?

…という内容です。

歴史の経緯を考えると、悩ましい問題ですね。

西側諸国もかつて犯罪が多発してきました。しかし数百年間かけて「犯罪は厳罰」「倫理的に振る舞うべきだ」という価値観が徐々に浸透して、信頼社会が構築されました。

しかしデジタルの仕組みを使えば、すぐに「犯罪すると損」という社会が構築できます。そして国民も「安心して歩けるようになった」と歓迎しています。

監視技術を導入する国は、西側諸国から「権力の暴走を生む」と言われてもピンとこないでしょう。国内犯罪は減りますし、政権側からすると権力強化はむしろ歓迎されるかも知れません。

監視技術を輸出する中国政府は、彼らの課題に確実に応えているわけです。中国政府からすると「みんなハッピーで、誰も困っていないじゃん。何が悪いの?」なのかもしれません。

00年代に中国で電子マネーが普及した時のこと。アリババが電子マネーの決済履歴を活用し、融資の際に借り手の信用度を貸し手に提供する「芝麻信用」というサービスを始めました。

「個人情報を勝手に使うのってダメでしょ」と思われがちですが、信用スコアが高い人は有利な条件で融資を受けられるので、利用者は積極的に情報を提供したそうです。現実的な判断ですよね。

一方で西側諸国がこのような監視技術を懸念しているのは…

・よき振る舞いは、倫理観に基づくものなのか?
・よき振る舞いは、損得勘定に基づくものなのか?

この辺りの価値観の違いが生まれてくる懸念が、根底にあるのかもしれません。

「損得勘定でよき振る舞いをしよう」という考え方は、「損しなければ、勝手に振る舞ってもいいんだ」となりがちです。

現在、デジタル監視技術を導入しているのは、人口が急増する発展途上国です。デジタル技術の活用で、従来の西側諸国とは違う価値観を持つ国が、急速に増えつつあることに対する不安が背景にあるようにも思います。

そして50年〜100年後に振り返ると、人間の価値観が大きく変わっていく過渡期がこのタイミングなのかもしれませんね。

   

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ヒョンデEV戦略成功のカギは、サービスマーケティング

2023年6月5日のテレビ東京「ワールド・ビジネス サテライト」で、韓国ヒョンデ(現代自動車)のEV戦略が紹介されていました。

ヒョンデは20年前にも日本市場に参入しましたが、撤退しています。この時の反省が「日本市場に合わせていなかった」。そこでEV時代を迎えて、満を持しての日本市場再参入です。

この戦略が、実に興味深いものでした。

まず、オンライン販売のみです。

現時点でEVを買うのは、キャズム理論でいうところの新しいモノに抵抗がない「イノベータ」「アーリーアダプター」です。だったらアーリーマジョリティやレイトマジョリティが重視する店舗展開は不要、との判断なのでしょう。

さらに、災害が多い日本市場に併せて外部電源機能付きモデルを投入。ちなみに日本で人気のテスラは、外部給電機能はないそうです。電気代が安い夜間などに充電すれば、電気代を抑制することもできます。

以上は商品戦略とチャネル戦略ですが、さらにカギとなるのがサービスマーケティング戦略。

買う側からすると「店舗がないとしたら、保守サービスはどうなるの?」となるわけですが、ヒョンデは、整備拠点から来た出張整備士が各家庭を訪問しています。

EVはガソリン車よりも部品点数が少ないのが特徴。だから出張整備で修理が間に合うことも多いのです。

そんなヒョンデは、1年でこの新型EVのアイオニック5を700台を販売したそうです。

これは、まさにEVの特性を考えたサービスマーケティングですね。

デジタル時代になって、本格的にモノとサービスが融合し始めています。

このモノとサービスの融合について、慶応大学名誉教授の井関先生は、「牛肉の赤身=モノ、脂身=サービス」にたとえて、次の3段階でわかりやすく説明しています。

■第1段階 すき焼きと脂身(顧客の要望で脂身)
この段階ではサービスは必要悪です。従来の店舗での保守サービスはこちらですね。

■第2段階 サーロインステーキ(脂身は赤身に付随するが分離)
サービスは差別化要素です。ヒュンデの出張サービスはこの段階です。

■第3段階 松阪牛(赤身と脂身は霜降り)
サービス/モノが一体化します。EVで言えば、自動運転サービスになるとこの段階ですね。

いまやモノづくり企業こそ、サービスマーケティング戦略の巧拙が問われる時代。自社が展開可能なサービスがどの段階にあり、将来はどの段階に進化できるかを考える上で、参考になる考え方だと思います。

   

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ムラ社会こそ、日本企業の強み

日本社会は「ムラ社会」と言われます。

これは農村社会のイメージです。周りの人は、子供の頃から知っている人ばかり。誰がどんな人なのか、皆がよく分かっています。だからあうんの呼吸でコミュニケーションできます。

日経ビジネス最新号(2023.6.12号)で、半導体用シリコンウェハーで信越化学工業と世界トップを競うSUMICOの橋本会長のインタビューが掲載されています。

この記事で橋本会長は「このムラ社会こそ我々の強み」とおっしゃっています。ムラ社会の強みが、最先端技術の半導体材料で活きるのは、意外なことですよね。さっそく一部引用してみましょう。

—(以下、引用)—

シリコンウェハーは日本人に最も向いている事業だと思います。ウェハーには(インゴットを円盤状にスライスしたり、研磨したりする)多くの工程がありますが、擦り合わせ技術だらけです。隣のヒトと協力して和気あいあいと、いいモノを作ろうというメンタリティーが大事なんです。中国の人には「俺だけが」という意識が強いし、米国もスタンドプレーが好きですよね。日本のムラ社会的なメンタリティは特別だとつくづく思います」

—(以上、引用)—

ちなみにシリコンウェハーは極めて高純度と高精度が求められます。たとえると、「九州2個分の面積に、一円玉が数個転がっている程度の異物しかない精度」だそうです。この精度は、他の国ではなかなか真似できません。

この品質を維持し、かつ高い歩留まりを維持できるのは、お互いがあうんの呼吸で連携できる日本のムラ社会のおかげだというのは、確かに納得できます。

日本企業が強みを発揮できるのは、この擦り合わせ技術です。

1990年代まで日本の電機業界が世界を制したのも、当時の電機業界の主流がアナログ家電で、擦り合わせ技術の固まりだったからです。しかしその後、電機業界は擦り合わせ技術が不要になり、部品の組み合わせで完成品が作れるデジタル家電が主流になって、日本の家電メーカーは衰退しました。

当時の電機業界の衰退は、自分たちの強みは十分に見極められなかったから、という見方もできます。

日本企業の強みは、この擦り合わせ技術にあり、その要因は組織がムラ社会だからだ、ということですね。

一方でムラ社会にも課題があります。

閉鎖的で、ともすると組織に協力しない人が村八分扱いになることです。これが行き過ぎると、組織内の不正が表面化しにくくなります。最近、日本企業の不正や不祥事隠蔽が増えているのも、日本が古いムラ社会のままだからです。

今後、少子高齢化が進んでくると、企業には様々な地域や価値観を持つ多様な人材が入ってきますし、人材も流動化していきます。

こんな時代だからこそ、日本企業はムラ社会の連帯感という強みを活かす一方で、ルールや透明性(ダメなものはダメ)、ビジョン(≒パーパス)の明確化と共有によって、進化していく必要があるのだと思います。

  

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クルマの製造コスト半減に挑戦するテスラ

Tesla発表より

2023年3月、テスラがEVの新しい生産方法「Unboxed Process」を発表しました。これでEVの生産コストが半減する、と言っています。

2023年6月1日の日経産業新聞に詳しい解説記事がありますので、これを参考に見ていきましょう。

とてもひらたく言うと、Unboxed Processとは、車を6つのモジュールに分解し、各モジュールを組み立てて、最後に完成車を作るという方法です。

従来の車作りは、シャーシ(骨格)とボディ(車体)が一体化した車両構造(箱)を作り、そこに外板を取り付けていく、という流れ作業のプロセス。基本は100年以上前のT型フォードの生産方式と同じです。世界に名だたるトヨタ生産方式も、基本的にこの方法です。車の基本的な生産方式は、100年間変わりませんでした。

テスラのUnboxed Processは、名前の通り「箱」を作らずに、6つのサブラインで各モジュールを作り、最後にメインのラインで完成車を組み立てます。

この結果、作業性が向上します。たとえてみれば、ユニットバスのようなものです。マンションで風呂を作り込むのではなく、工場でバス設備一式を予め作っておき、マンションで組み立てて設置する感じです。

テスラはこれで大幅なコスト削減を狙っています。テスラは、現在の最廉価版EV「モデル3」と比べて半額のEVを作ろうとしています。そのためのコスト削減なわけですね。

一方で自動車の専門家は「コストはさほど下がらないのでは?」という意見。組立て工程コストは5割減らせますが、部品・材料を考えるとそれほどならないし、モジュール接続の材料で高くなる部分もある、と指摘します。

一方で工場の専門家は「組み合わせ型からモジュラー型に移行することで、コスト半減の可能性は十分ある」との意見です。実際、パソコンやデジタル家電はまさに同じ事が起こっていますね。

ちなみに7月の朝活永井塾のテーマ「学習する組織」で、経営学者ピーター・センゲはこんな事例を紹介しています。

米国自動車会社の重役が日本の自動車会社の工場を見学しました。 その重役は「本物の工場は見せてくれなかった」と不満顔です。在庫がなかったからです。

重役曰く、「私は製造業に30年携わってきたからわかる。在庫ゼロなんて視察用の芝居に決まっている」

その工場とは、在庫ゼロを実現したあのトヨタ生産方式の工場でした。「工場には在庫がある」と思い込む彼の目には、その後、米国自動車会社を圧倒した最新工場の真の姿が見えなかったのです。

業界への新規参入者は、ときに想像を超えた手を打ってきます。しかしその手は、業界で昔からやってきた人には非常識かもしれませんが、新規参入者にとっては当たり前の常識であることも多いのです。

テスラも、自動車業界の常識には囚われません。

たとえば今では多くの自動車メーカーが取り組んでいるソフトウェアでクルマの機能を追加するOTA (Over The Air)という技術も、もとはテスラが始めたものです。

長年自動車に関わってきた技術者は「クルマの機能追加は、カーディーラーで行うべき」と考えるのではないでしょうか? クルマの機能追加を無線ネットワークで更新するなんて発想は、なかなか難しかったでしょう。

しかしイーロン・マスクが熟知するIT業界では、ネットワーク経由での機能追加は常識。イーロン・マスクは、彼にとっての常識を自動車業界で行っているだけなのかも知れません。

これは新市場を開拓する際に、私たちも参考にすべき考え方だと思います。

自分たちが熟知する常識が、その新市場では非常識であれば、それは大きな武器になり得る、ということです。

テスラの挑戦は、私たちもぜひ参考にしたいものです。

  

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英国で大絶賛。「とにかく明るい安村」から学べ!

「安心してください。はいてますよ」
と言えば、あのとにかく明るい安村さん。

実は今、海外でブレイク中です。

英国の人気オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演。あの芸を披露し、拍手喝采でなんとスタンディングオベーション。審査員全員が合格判定したのです。

ステージでは、サッカー選手、競馬騎手、ジェームズ・ボンド、スパイス・ガールズのネイキッド・ポーズを披露しました。このネタ、改めてよく見て下さい。全て英国向けに周到にカスタマイズされたネタばかりです。

ステージ上では、コテコテの正統派ジャパニーズ・イングリッシュで語った安村さん。

あの独特のノリに、審査員もノリノリ。

決めセリフ“Don’t worry. I’m wearing.” (「安心してください。はいてますよ」)と言うと、 審査員の女性二人は立ち上がって、大声で“Pants!”

ちなみに”wear”は英語で他動詞。”I’m wearing.”は英語として不完全。英国人は、他動詞で目的語(O)がないとムズムズするのかもしれません。(英語の第3文型SVOですね)

で、審査員の女性二人は”Pants!”と叫んだのではないか、と思ったりします。まぁ、安村さんの勢いとノリに乗せられたのですね。

まさにボケとツッコミ。そこまで考えて”Don’t worry. I am wearing”と言っていたとしたら、安村さん畏るべしです。

安村さんの芸は、誰でも一目見ればすぐに面白さがわかります。つまりハリウッド映画のように、世界の誰が見ても理解できる「ロー・コンテキスト」なコンテンツです。かつて世界的にブレイクしたピコ太郎も、一瞬でおかしさが伝わる点でロー・コンテキストです。

逆に日本でウケても、世界でウケないコンテンツもあります。たとえばシン・ゴジラは日本でウケましたが、世界ではウケませんでした。ゴジラが市街地にいるのに自衛隊が攻撃できない理由は、日本人ならわかりますが、海外の人からすると意味不明。「攻撃すればいいのに、ホワーィ?」となるわけです。つまりシン・ゴジラは、日本人しかわからない「ハイ・コンテキスト」なコンテンツだったわけです。これでは海外に持っていっても、なかなか難しいですよね。

安村さんの場合、ロー・コンテキストな一発芸を、さらに英国風にわかりやすくアレンジして磨き上げて、ウケるようにしたわけですね。

安村さんの勇気ある挑戦から、私たちが学べることは大きいと思います。

日本で一時ブームになったモノなら、海外用に少々カスタマイズして持っていけば、ブレイクする可能性があるかもしれない、ということです。

勝負を分けるポイントは、「やるか、やらないか」の勇気
そして「数で勝負」。そもそも成功するかどうかなんて、いくら考えても絶対にわからないわけで、どんどん数をこなし、うまくいかなかったら原因を探して再挑戦です。

この二つに尽きるのではないでしょうか?

私は高速に仮説検証を回して学びを積み重ねて進化していく「トルネード式仮説検証」を提唱していますが、まさにそれを実践することですね。

失敗しても、多くの人は気付きません。
でも成功すれば、多くの人の目に止まります。
そして人々が覚えているのは、成功の方なのです。

ぜひ挑戦したいものです。

安村さんにおかれましては、次の挑戦先としてエンターテイメントの本場であるラス・ベガスか、巨大市場・中国への横展開を期待したいところです。

ちなみに安村さん、女性用ビキニのパンツを後ろ前に履いているそうです。

また一時期は仕事が増えたせいで体重が5Kgほど減って腹が引っ込み、パンツが隠しきれなくなって「パンツ見えてる」と客から突っ込まれたため、体型には気を遣っているそうです。

安村さんも色々と工夫をしているのですね。私たちも見習いたいものです。

 

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最新商品は、1〜2年で陳腐化する

永井経営塾では、毎月テーマを決めて様々な経営・マーケ理論の講義動画を配信しています。

このために私が講義資料の叩き台を作り、運営チームの皆さんとかなり時間をかけて話し合いながら、講義内容をチューニングしています。おかげさまでの会員の皆様からは高評価をいただいています。

先日、来月配信分講義の打ち合わせをした時のこと。

私の講義はパターンがあり、必ず聴き手の問題意識から入るようにしています。

今回もそのパターンで叩き台を作ったのですが、運営チームの皆さんはビミョーな様子で「うーん。ちょっと違うかも…」という反応。

叩き台は、5年前に多くの企業様からのご依頼でお話しした内容を元に作りました。5年前はとても好評でした。そしてしばらくこのテーマではお話ししていませんでした。つまりわずか5年間で、完全に賞味期限が切れていたということです。

私は10年前に独立してマーケティング戦略の講演をやってきましたが、確かに振り返ると、当初は好評な内容でも1〜2年経つと、同一内容でお客様も違うのに、お客様の満足度が着実に下がるのです。そして最新の知見を入れて内容をバージョンアップすると、お客様の満足度が回復します。

1〜2年で満足度低下が見えるのですから、5年前のプレゼン資料が賞味期限切れするのは当然ですよね。

これはプレゼン資料の話ですが、プレゼン資料は弊社の商品でもあります。
つまりこの話は、多くの商品に当てはまる話です。
たった1〜2年で、商品は陳腐化するということです。
そしてこれは、お客様の満足度をリアルタイムに測定していれば、確実に把握できることです。

御社の数年前の最新商品、賞味期限切れを起こしていませんでしょうか?
そしてお客様の変化を、把握しておられるでしょうか?

 

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宇宙ロケットの各社失敗から学べること

この数ヶ月で宇宙関係の失敗のニュースが続きました。

昨年10月18日 JAXAのイプシロン6号機、打ち上げ失敗。

3月7日 JAXAのH3初号機、Ⅱ段目が着火せずに打ち上げ失敗。

4月20日 イーロン・マスク率いるスペースXの「スターシップ」が、第2段目を分離できず地上からの指令で空中爆発。

4月26日 宇宙ロケットではありませんが、ispaceの月面着陸失敗。(成功すれば民間企業として世界初)

注目したいのが、その後の対応です。

■JAXAのイプシロン:JAXAで原因究明中。原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定。今後の原因是正処置を検討中。次回打ち上げ未定。

■JAXAのH3:原因絞込み中。現行のH−ⅡAへの影響評価も継続。次回打ち上げ未定。

■スペースXのスターシップ:数ヶ月後に次回テスト。当初から「成功確率は半々」と言っていました。今回の失敗でもイーロン・マスクは「次のテストに向けて多くのことを学んだ」と述べています。もともとスペースXは、当初は打ち上げは失敗続きでしたが、失敗からデータを取得して地道に改善を続けたことが今のビジネスに繋がっています。(ちなみにスターシップは、人類の火星移住のために開発された完全再使用型の超大型ロケットで、従来ロケット比で打ち上げコスト1/100を目指しています)

■ispace: 袴田CEOは会見で明るい顔で「着陸するまでのデータを取得しているのは非常に大きな達成で、次のミッションに向けた大きな一歩だと考えている」。今回得られた知見を活かし、2024年に2回目、2025年に3回目の着陸船打ち上げを計画。将来的には月面への定期輸送サービスの収益化を目指します。


いまや宇宙開発は、日本の国策です。JAXAや関連企業で、現場で宇宙開発に携わっておられる技術者の皆様の苦労は大変なものとお察しします。

しかしその一方で、いくら完璧を目指して検討を重ねても、机上でできることには限界もあります。実際にやってみることで、多くの学びが得られます。

そして宇宙ビジネスは競争が激化し、スピード勝負の世界になりつつあります。

高いリスクがある競争をスピードで制するためには、迅速に仮説を立てて→すぐ実行し→迅速に学んで対策を立てて→また試すこと。これに尽きます。

スペースXやispaceは、この大切さを知り抜き、現場からの学びを重視するアプローチを徹底しています。

JAXAも現在の「完璧な計画を立てる」というアプローチを、大きく見直すべき時期に来ているように感じます。

同様に「完璧を期す」という新規事業のアプローチを変えないばかりに、なかなかビジネスが立ち上がらない企業も多いように感じます。

あなたの会社は、スペースX/ispace型でしょうか? JAXA型でしょうか?


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chatGPTの社内活用判断は、鳥取県庁に学べ

chatGPTが相変わらず大きな話題です。実に興味深いのは、組織によって対応が様々なことです。

まず組織で活用する事例が次々と出てきています。

・パナソニックHD:同社傘下のパナソニックコネクトが開発した対話型AIを国内グループ企業で活用できるようにしたと発表。9万人が対象。情報漏洩を防ぐため、社内情報や営業秘密、個人情報を入力しない利用ルールも整備。

・横須賀市:実証実験を開始。文章作成・要約・誤字脱字チェックから。

・農林水産省:一部業務(ウェブサイトのマニュアル書き換えなど)で活用開始。業務効率化を狙う。公表済みの情報のみ

・広島市:県行政で活用。庁内向けプレゼン資料作成、県民サービス広報を目指し活用方法・課題を探る。

・総務省:情報の取扱いに留意しつつ、試行開始。

・東京都:小池知事が「都政における活用のあり方について検討を深める」

・東大:太田副学長より「傍観せずに変化を先取りせよ」

一方で情報漏洩リスクから社員に注意を喚起している会社も多くいます。

・ソフトバンク:業務利用のルールを周知徹底。

・アマゾン:機密情報を入力しないように注意喚起

・みずほFGなどの大手銀行:社員が業務端末からアクセスできないように設定

明確に禁止する組織もあります。

・ニューヨーク市:公立学校の学内ネットワークで使用禁止

・中国当局:国内主要IT企業にChatGPTのサービスを提供しないように指示。(政権に批判的な回答をしかねないため)

・イタリア:一時的に禁止。個人情報保護の対策中。

・鳥取県庁:答弁資料作成、予算編成、政策決定などの件の業務で使用することを当面禁止。

一方で色々な企業様のお話しを伺っていると、現実には「ChatGPTって使ったことがないので、よくわからない。どうも情報漏洩するらしいが、それは困る。だから念のため社内使用は禁止しておこう」という企業様も結構多いようです。

このように整理すると、世の中でchatGPTの問題として大きく取り上げられているのは、情報漏洩ですね。

しかし情報漏洩は、しかるべき対策を取れば対応可能な問題です。実際にパナソニックHDではそのような対策を取っているようです。

私は、chatGPTを組織で展開する上での問題は、もう一段深いところにあると思います。

ここで参考になるのが、chatGPT禁止を打ち出した鳥取県・平井知事の発言です。

『「charGPT」じゃなくて「ちゃんと地道」に。自治体の意志決定に関わることは機械任せにしない。議会答弁で使うとか色々な構想が語られているが、それは民主主義の自殺だ。入力情報には個人情報も含まれるので、秘密保持の観点でも課題がある』

平井知事は、chatGPTの本質をよく考え抜いた上で判断しているように思います。

いまやAIは、それらしい回答をすぐに作ることができます。しかしこれは、全て過去の情報に基づいています。

そしてAIが答えるのは、ネット上にある「誰それがこう言った」というの「事実」に基づく情報のみ。言い換えれば、「真実」を検証しません。

「事実」と「真実」は異なります。

その「事実」(誰それがこう言った)が「真実」なのか、そして「人として正しいことなのか」を検証できるのも、人間だけです。

そして未来のことを考えられるのも、人間だけです。

つまりchatGPTを業務で活用するには、「chatGPTは、間違っている可能性が高い」という前提で使える人が、組織にどれだけいるのか、という問題に辿り着きます。

現実にはSNSのフェイクニュースに騙される人は、決して少なくありません。お恥ずかしいことに、私もフェイクニュースに騙され、Twitterでリツィートしてしまったことがあります。(後ほどお詫びとともに訂正しました)

「chatGPTの回答は、間違っている」という前提で検証し、活用できることが必要です。

そこで必要なのが「仮説検証思考」です。
「間違っているかもだけど、仮に答えを○○○としておこう」と考え、○○○を実際に検証し、間違っていたら即座に修正し、再度確かめる、という思考法です。

現実には、この仮説検証思考を身につけている方は、多くありません。そこで社内のchatGPT展開とあわせて、この機会に仮説検証思考の習得を社内で徹底し、chatGPT活用との相乗効果を図るのも、一つの方法だと思います。

私が気になるのは、chatGPT活用の解禁や禁止を発表する組織の中で、このことを明言しているのが「議会答弁でchatGPTを使うのは、民主主義の自殺」とまで踏み込んで発言する鳥取県の平井知事しかいないことです。

いまやAIビジネス活用の判断は、待ったなし。
だからこそ、私たちはAIの本質を考えていく必要があるのだと思います。

御社の社内では、chatGPTをどのように活用しますか?


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仮面ライダーが教えてくれる「危機は、飛躍のチャンス」

映画「シン・仮面ライダー」がヒット中ですね。
そのオリジナルが、1971年にテレビ放送された「仮面ライダー」。
当時小学生3年生の私は、本郷猛が変身する仮面ライダー1号と、一文字隼人が変身する仮面ライダー2号に夢中。この世代の男の子たちはほぼ例外なく、何かあるとみな「ヘンシン」と言いながら変身ポーズをしていました。

仮面ライダーが大ヒットした要因はいくつかありますが、個人的には、この「変身ポーズ」とライダー1号・2号の存在だと思います。

しかしこの「変身ポーズ」と1号と2号、当初の設定にはありませんでした。
大トラブルの末に編み出された、実は苦肉の策だったのです。

まず仮面ライダー制作が決定した時点で、2号の設定はありませんでした。
本郷猛(1号)を「藤岡弘、」さん(当時は「藤岡弘」さん)が演じる設定でした。

しかし放送前の第9話・10話の撮影中、オートバイの転倒による大事故で、藤岡さんはなんと全治3〜6ヶ月の重傷を負い、その後の撮影ができなくなりました。

未完成分はすでに撮影済の映像でなんとか繋いだものの、その後の話が続きません。そこで色々な案が出されました。

①本郷猛を、交代させる
②本郷猛は、死んだ設定にする
③いっそのこと、仮面ライダーを巨大化させてしまう

結局「子供たちの夢を潰すのはよくない」「(当時、再起不能と言われていた)藤岡さんの復活を待とう」ということになり、本郷猛は海外のショッカー支部との戦いに赴くことになり、後を継ぐ者として、一文字隼人の仮面ライダー2号が登場する設定になりました。

ちなみに一文字隼人役の候補には三浦友和さんも選ばれたのですが、三浦さんの所属事務所が断り、藤岡さんと同じ劇団に所属する佐々木剛さんが演じることになりました。

また当初、藤岡弘さん演じる本郷猛は、仮面ライダー1号に変身する時はバイクで加速し、その風をベルトで受けて、仮面ライダーに変身する設定でした。

しかし2号を演じることになった佐々木さんは、バイクの免許を持っていませんでした。これでは「バイクで加速して変身」ができません。

そこで編み出されたのが、あの手を大きく回す変身ポーズ。

これが社会現象になって、日本中の子供たちが変身ポーズをやるようになりました。こうして小学4年生だった私も、変身ポーズをやっていたわけです。

自分が仮面ライダーのプロデューサーで、主役の藤岡さんが事故で半年入院とか、代役がバイク乗れないという事態に直面することを想像するだけで、思わず頭を抱えたくなります。恐らく当時の製作陣も全く同じだったのではないでしょうか?

こんな時、「ヤバいなぁ。どう考えてもコレ、詰んでいるよね」と思いがちです。

しかしこんな時こそ、知恵の出しどころ。諦めなければ、解決策があるのですね。

「危機は、飛躍のチャンスになりうる」ということを、仮面ライダーのプロジェクトは教えてくれます。


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他は割とどうでもいいけど、大事なのは首尾一貫性

私はIBMで駆け出しマーケターから経験を積み始めただった頃の話しです。

IBMには昔からプロフェッショナル認定制度がありました。

部下がいなくても、専門分野のプロフェッショナルとして認定されれば、役員待遇になったりする制度です。当時新設されたばかりのマーケティング職でもこのプロフェッショナル認定制度がありました。そこでこの認定に挑戦しました。認定されれば部長職になれます。

しかしなかなか受かりません。「三度目の正直」と思って挑戦した三回目も見事落ちました。

この認定プログラムは何段階もステップがあります。その中のペーパーテストが難関で、3回挑戦して全滅でした。このテストはハーバード・ビジネススクールのケーススタディをIBM用に書き換えた事例が出されて、その戦略を3時間以内に作成して答える、という問題が出されます。

このプログラムは世界全体のIBMで行われました。
不思議なことに、日本人の合格率は10%、海外では40-50%なのです。
「英語のハンディがあるからでは?」という話もあって対策したのですが、変わりません。

私はたまたま、過去の海外のIBM社員の合格答案と、日本人の不合格答案を見る機会がありました。これで分かりました。

合格している人が書いた戦略は、こんな感じです。
・戦略の全体の方針を決める(例:顧客に最高の価値を届ける)
→その方針の下で分析して、基本戦略を決める
→その基本戦略に基づいて、各施策(製品戦略/価格戦略/販促戦略/チャネル戦略)を決める
→各施策は首尾一貫させる
→そして各施策の達成状況をモニターする方法も明記する

戦略自体はスゴいことは書いていません。当たり前のことを当たり前に書いているだけです。しかし首尾一貫しています。要は、「凡事徹底」なのです。

不合格な人(多くの日本人)が書いた戦略は、こんな感じです。
・いきなり各施策を説明する。
・施策は凝りに凝っている。スゴいアイデアも結構ある。
・しかし各施策は首尾一貫していない。
・そして、そもそも基本戦略が弱い。結局、何をしたいのかが分からない

各施策のアイデア作りにものすごく力を入れていることは伝わってくるのですが、バラバラなのです。そして実行段階のモニタリングにいたってはほとんどノータッチ。

審査する側の視点で両者の答案を比較して、「なるほど、これでは落ちる筈だよなぁ」と、不合格の理由がよくわかりました。(ちなみに私はこのことが分かったので、再挑戦して無事認定されました)

単なるペーパーテストの話ですが、これはビジネスでも極めて大事なことだと思います。

一生懸命やってスゴいアイデアも出すのに、なぜか成果が出ない人がいます。
一方で地道にコツコツやっているだけに見えるのに、いつの間にか成果が出る人がいます。

前者の人は、努力の方向性が間違っているのです。
本当に必要なのは、後者の首尾一貫性なのです。

もちろん、戦略のスジがいいことは大前提です。しかしその上で、首尾一貫して全体が繋がることを意識して、凡事徹底することが何よりも大事なのです。

ところで、この不合格体験で「首尾一貫性の大切さ」を学んだことが、今では自分の大きな財産になっています。思い返せば不合格のたびにガックリと落ち込みましたし、「もうやめようかな」とも思いましたが、挫折経験から学べることは実に多いですね。


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ChatGPTから、ナレッジを守れ

ChatGPT3が話題ですが、早くも先週、バージョンアップ版のChatGPT4が発表されて使えるようになりました。

実際にCharGPT4を使ってみると、これまでのChatGPTで不満に思っていた部分がかなり解消されています。伊藤穰一さんはYouTubeで「感覚的には、ChatGPT3がまぁまぁ頭がいい小学生だとしたら、ChatGPT4は大学生レベル」とたとえておられましたが、全くその通りだと思います。

ChatGPT3は、これまでの常識を超えて人間並みの回答をしていました。でも間違いもありました。
CharGPT4は、より長い文章をより深く理解できます。

いまSNSなどを見ていると、テック系の方々が夢中になってChatGPTの様々な使い方に挑戦しています。それらを見ていると「こんなことができるのか!?」と驚くばかりです。

ChatGPTに限らず、今後もAIは機能強化が続いていくでしょう。

このような世の中になって、私たちは情報発信戦略も改めて考え直す時期に来ているように思います。

これまでのネットの世界の常識は、「情報はネット上でどんどん発信しよう」でした。この考え方の前提は、「デジタル情報で表現できる知識は形式知だ。形式知情報をどんどん発信しても、それらを統合してまとめ上げられるのは自分だけ。だから情報発信しても大丈夫」でした。

しかしいまやAIの機械学習は、ChatGPTのように、私たちが発信した情報を取り込んでまとめ上げることが出来るようになっています。情報発信の前提が崩れているわけです。

今後、ネット上の情報は、確実にAIの機械学習の対象になります。わかりやすく言えば「貪欲なAIの餌」になるわけです。あなたが頭を捻って考え出したオリジナル情報も、AIの学習対象になって取り込まれ、AIがあなたに成り代わって世界中の人に受け答えするようになる、ということです。

こうなると「情報発信はメディアを選ぼう」という戦略が必要になります。
これから企業や個人では、AIの機械学習からナレッジを守る戦略が必要になっていくと思います。これまでの「なんでも情報発信しよう」というおおらかな情報戦略から、今後はしたたかな情報戦略への転換が求められているのです。

ちなみにChatGPT社内使用については、既にソフトバンク、富士通、アマゾン、みずほFG、JPモルガンなどは、社内でChatGPTを使用制限したり使用禁止にしています。ChatGPTは、ユーザーの質問も学習しています。業務上の質問をすると、業務上の機密がダダ漏れしてしまうわけです。「これは困ったことになる」と判断した企業は、使用禁止にしているわけですね。一方でパナソニックコネクトのように、マイクロソフトと「入力情報をAI学習などに二次利用しない」という契約を結んだ上で、社内活用する会社もあります。

「ChatGPTをいかに活用するか」という攻めの戦略も重要ですが、同時に「ChatGPTからいかにナレッジを守るか」という守りの戦略も早急に必要だと思います。


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1989年の雑誌Brutusの「美人特集」

本棚を整理していたら、雑誌Brutusの古い特集号が出てきました。

『美しき隣人たち、ジャパニーズ・ビューティ。』 1989年5月15日号
『侃々諤々 美人論。』1991年5月15日号

当時の女優さんやモデルさん、アーティスト、アスリート、知識人といった女性たち数十名が、それぞれモノクロポートレート写真1枚に収められた特集です。

どれも作品として素晴らしい写真ばかりです。
当時15歳の後藤久美子さんが出ていたりしています。
当時20代だった黒木瞳さんも出ています。驚くべきことに、今とほとんど印象が変わりません。

人気女優たち23名を、ゲイのピーコさんとマンディさんが「性別に由来する偏見や社会的束縛がない」という立場で、辛辣に一刀両断に診断するという6ページの対談特集もあります。この対談は都内の会員限定ホテルの1室を300,000円で借りて行われています。(ちなみにこのお二人によると、1位は大地真央さん、2位は宮沢りえさん、番外で浅野温子さんと浅野ゆう子さんだそうです)

読んでいて実に面白く、思わず見入ってしまいます。
誌面全体からすごくお金をかけていることが伝わってきます。
今はこんな特集は、なかなか作れないかもしれません。

当時はバブルだったことに加え、まだインターネットがありませんでした。
新鮮な情報を入手する主な手段は、雑誌でした。
だから雑誌作りにお金をかけることができました。
そしていい雑誌ほどお金をかけられるので、良質な情報が凝縮されていました。

今はネットのおかげで情報はタダで入手できる時代です。
情報はコモディティー化してしまいました。
お金をかけて情報を編集することは、ますます難しくなっています。

そして消費者の目は、逆に肥えています。
情報はあっという間に消費されてしまうのです。

しかしこの特集を見て改めて思うのは、「十分な手間と時間をかけて作られた情報は、やはり面白いし、深い」ということです。

情報がコモディティ化し、多くの情報発信者が手間と時間をかけなくなった現代だからこそ、ジックリと手間と時間をかけた情報は、相対的に大きな価値を持つことができ、差別化できるのでしょう。

この特集を見て、改めてそんな情報を発信する必要性を感じました。


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「SDGsって、結局金儲けしたいんでしょ」というご意見

最近は、私たちの日々の仕事でもSDGsについて色々と言われるようになりました。

一方でこんな話しもあります。

「SDGsで騒いでいるのは日本だけ。欧米はそんなに騒いでないよ。グーグルトレンドで調べても、いまSDGsを検索しているのは日本だけだし」

実は日本は、SDGsの流れに周回遅れなのです。

もともとSDGs(持続可能な達成目標)は、2015年の国連サミットで採択されたものです。17の目標がセットされて2030年達成を目指し、多くの企業が一斉にSDGs達成に走り始めました。

欧米社会では00年代の中頃からSDGsに向けた合意形成が始まり、2015年のSDGsに繋がっています。競争戦略を提唱していたあのマイケル・ポーターも、2011年に「社会課題の解決と、企業としての経済的価値の両立を目指すべきだ」としてCSV (共有価値の創造)を提唱しました。

しかしSDGsは採択された2015年頃、日本企業の反応はこうでした。

「SDGsって何? 17の目標って何のこと?」

しかしいまや欧州などでは、SDGsに取り組み姿勢を見せていない企業は、そもそも取引に参加できなくなっていますし、SNSでも叩かれます。

ここ数年で、お尻に火がつき始めました。

だから日本ではSDGsを検索する人が多く、海外で検索する人が少ないのでしょう。 これって、今さら「スマホ」とか「インターネット」を検索する人はほとんどいないのと同じですね。

一方で、こんなご意見もあります。

「でもさ、きれい事を言ってるけど、要は金儲けしたいんでしょ」

このご意見へのお答えは、「まさしくその通り。で、それで何か問題がありますか?」

この底流に流れているのは、「社会課題解決の収益化」というしたたかな問題意識と算盤勘定です。

一例を挙げると、「人類を救う起業家」と言われてきたあのイーロン・マスクもそうです。

2006年8月2日に、彼が書いた「ここだけの話し」というブログがあります。結構長いのですが、要約してみましょう。

彼は、まずテスラの戦略を述べています。

「テスラの計画は、まずスポーツカーを作り、そのお金でハイエンドのファミリーカーを作り、そのお金で大衆車を作る。」

実際にその後、テスラはセレブ向けのロードスターを作り、2012年にはリッチ層向けのモデルSを作り、2019年には大衆向けのモデル3を作りました。

ただ、このブログを書いた2006年当時のエコカーの代表格はプリウスでした。そこで彼はさらにこう述べています。

「しかもテスラのEVは、石油を使ってもエネルギー効率はプリウスの2倍だ。EVは、火力発電所(高エネ効率60%)の電気を使う。プリウスは、エンジン(エネ効率は25%で劣る)で電気を起こす。現在の化石燃料を使っても2倍の効率。今後、テスラは太陽光発電のソーラーシティの電気を使えるように展開するので、100%自然エネルギーになる」

人生をかけて「地球を救う」と真剣に考えるイーロン・マスクは、収益化によって自分のビジネスを持続可能にすることも真剣に考えているのです。

このように、SDGsで必要なのは「社会貢献と利益の両立」です。

人間は空気と水がないと生きられませんが、空気と水のために生きているわけではありません。

同様に企業も、利益がないと存続できませんが、本来は利益のために生きているわけではありません。

SDGsは、改めて私たちにビジネスのあり方を深く問いかけているのです。

御社はSDGs達成のために、どんな貢献を行いますか?


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「おぱんちゅうさぎ」と「100日後に死ぬワニ」で考えたブランディング

私はテレビをほとんど見ないのですが、唯一、録画して必ず観る番組があります。
テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」です。

先日、この番組で取り上げたのが、こちらでした。

おぱんちゅうさぎ

いま、10〜20代の女性を中心に大人気だそうです。
皆さん、ご存じでしたか? 私は全く知りませんでした。

TikTokを使っている方は、ためしに「おぱんちゅうさぎ」で検索してみると、妙にテンションが高い歌声とBGMでおばんちゅうさぎが出てきます。

人のためにひたむきに奮闘して純粋。健気。
みんなのために頑張るけど報われない。

そんなキャラが、大きなウルウルした目で伝わってきますね。

おばんちゅうさぎをプロデュースしているのが、CHOCOLATEという会社です。番組ではCHOCOLATE代表の渡辺裕介さんが「おぱんちゅうさぎのなぜ?」として3つのキーワードを挙げておられます。

①Z世代はビジネス臭を嫌う。→打算的で作り込まれたものを敏感に感じ取ってしまいます

②作者の業。→作者の徹底したこだわりや背負っているものが、キャラに滲み出てきます

③カギは「接触時間」。→毎日会う人は愛着が湧くように、SNSで日常的なコンテンツを出しつつ、世界観を伝えるために絵本、アニメ、音楽などで五感を刺激していきます

特に①「Z世代はビジネス臭を嫌う」は、「なるほどなぁ」と思いました。

ここで思い出したのが、3年前に流行った「100日後に死ぬワニ」(略称「100ワニ」)です。このブログでも書きました。→記事

Twitterでワニの何げない日常を描く漫画ですが、「死ぬまで99日」「…98日」とカウントダウンしていき、大人気になりました。3月20日の最終回でワニは死んでしまい、多くの人が「泣いた」「感動した」「ありがとう」とコメントしました。

しかし最終回が終わると「書籍化決定、映画化決定、グッズ・イベント」などが矢継ぎ早に発表され、ショップも開店すると、今度は逆に批判が集まりました。

あくまで当初は作者個人のTwitterのつぶやきだったわけですが、多くのファンが付いたことで、「100ワニ」はもはや個人のモノを超えたブランドになってしまったわけですね。

「おぱんちゅうさぎのなぜ?」の3つのキーワードで「100ワニ」現象を読む解くと、色々と見えてきます。

①Z世代はビジネス臭を嫌う。→おぱんちゅうさぎもグッズ展開しているわけですが、ターゲットである若い女性達が欲しいというタイミングで上手に出しています。「グッズ販売も、結局商売でしょ」と思いがちですが、カギはそれを相手が受け容れる状態か否かの見極めかもですね。

②作者の業。→100ワニの作者によると、100ワニを書くきっかけは、友人の事故死で「何があるかわからない。時間を大切にしてほしい」という想いだったそうです。この作者が抱える業が、100ワニを通して伝わったのですね。

③カギは「接触時間」。→おぱんちゅうさぎはこの辺りが実に巧みで、システム化されているように思いました。100ワニもこの辺りをうまくすればいい感じに展開できたかもしれません。(ちなみに「100日後に死ぬワニ」は、その後「100日間生きたワニ」として映画化されています)

SNS時代のブランディングのあり方として、とても参考になると思いました。


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ChatGPTって使えるの? 私の仕事なくなるの?

この1週間でChatGPTがメディアに取り上げられることが急に増えました。私の周囲にいるIT関係者の間でも、いま一番ホットな話題です。

そもそもChatGPTとは何でしょうか?

『ChatGPTは、OpenAIが開発した自然言語処理の大規模なAIモデルです。人工知能による自然な会話ができ、文章の生成や回答、文章の意図理解などを行います。様々な分野において活躍し、自然言語処理の発展に寄与しています。』

上の『』の文章は、Chat GPTに『ChatGPTを知らない人にも分かりやすく100文字で紹介してください』と質問して、ChatGPTが数秒後に返した文章です。

ちょっと驚きですよね。人間が調べるよりも速いし、日本語もAIが作ったとは思えないほど自然ですね。

このChatGPT、無料で使えます。登録もカンタンです。

たとえばこんな質問をしてみました。

質問①『永井孝尚が主催する「永井経営塾」を、中小企業の経営者向けに効果的に宣伝するメッセージを100文字以内で作って下さい。』

回答は下記でした。

回答①『永井経営塾で、あなたのビジネスを成功へ導きましょう。中小企業の経営者向けに、永井孝尚が直接指導する、現場に即した経営トレーニングを提供します。創業期からの経営課題や成長戦略にも対応。自社の強みを最大限に生かし、競争力のあるビジネスを築きましょう。』(123文字)

試しに、顧客ターゲットを中小企業経営者から企業のマネジャーに変えてみました。

質問②『では永井孝尚が主催する「永井経営塾」を、企業のマネジャー向けに効果的に宣伝するメッセージを100文字以内で作って下さい。』

回答は下記でした。

回答②『永井経営塾で、あなたのマネジメント力を飛躍的に向上させましょう。企業のマネジャー向けに、永井孝尚が直接指導する、実践的な経営トレーニングを提供します。人材育成、組織開発、戦略策定など、経営に必要なスキルを効率的に学び、即戦力として活躍できるようになりましょう。他社に差をつけるマネジメント力を手に入れ、キャリアアップを目指しましょう』(166文字)

このまま使えそうなレベルの文章が戻ってきました。
回答①と②を比較してみてください。
ちゃんと経営者とマネジャーの関心テーマを使い分けているあたりがニクいですね。(文字数オーバーですが、そこは大目に見ましょう)

3月の朝活永井塾で取り上げる道元についても質問してみました。

質問③『道元が書いた正法眼蔵を分かりやすく100文字で紹介する文章を作って下さい。』

回答③『正法眼蔵は、鎌倉時代に禅宗の僧侶・道元によって書かれた禅の教典です。直接的な言葉で表現できない禅の世界を、独自の表現力で描写しており、広く禅の教えの根本として受け継がれています。禅の初心者から熟練者まで幅広く読まれる書であり、現代においても、その智慧や啓示は多くの人々に愛され続けています。』

的確なサマリーですね。唸ります。

ただ、要注意の回答もあります。

質問④『内田和成著「論点思考」について100文字で紹介してください』

回答④『「論点思考」は、内田和成による論理思考の入門書です。本書では、問題解決に必要な論理的思考力を養うための手法や、議論の基本的なルールについて解説しています。また、著者独自の視点から、日本人が持つ「仏教的な思考回路」や「情動的な思考回路」の問題点にも触れ、より論理的な思考を身につけるためのアドバイスを提供しています。読者が自分で考え、意見を主張する力を身につけるための一冊です。』

それらしい回答です。でも間違いも多いですね。「おいおい、キミは本を読んでいないだろう」と言いたくなります。

実は、ChatGPTが凄いのはこの後です。こんな質問を返しました。

質問⑤『その答えは間違いです。この本で書かれている論点とは「解くべき問題」であり、論点思考とは「解くべき問題を定義するプロセス」です。本書のメッセージは「論点の設定を間違えると、いくら頑張っても、成果は出ない」ということであって、仏教的な思考回路などの問題点は指摘していません。ちゃんと調べて、100文字以内で紹介してください。』

回答⑤『おっしゃる通りで申し訳ありません。内田和成著「論点思考」は、論点の設定方法について詳しく解説しています。論点とは、解決すべき問題や課題の本質を捉え、それに対する答えを探求するために必要な枠組みです。本書では、論点の設定の重要性や方法、具体的な例を紹介すると同時に、論点を明確にすることで、自分や他者との議論がより建設的になることを伝えています。読者が自分で考え、問題を解決するための一冊です。』

実に素直ですね。ちゃんと反省して、ほぼ正解になりました。

そこで改めて質問④をしてみました。

質問⑥『内田和成著「論点思考」について100文字で紹介してください』

回答⑥『内田和成著『論点思考』は、問題解決に必要な論点を明確に設定することの重要性とその方法について解説しています。論点とは、問題の本質を捉え、その解決策を探求するための枠組みであり、その設定が正確でなければ解決につながらないと内田氏は主張します。具体的な例を用い、論点思考の重要性や効果的な方法を紹介しながら、自分自身や他者との議論においても論点設定を意識することで、より建設的な解決が可能となることを示唆しています。』

なんと、ちゃんと学習しています。ほぼ満点の回答です。

私の感想ですが、現時点では、アウトプットをそのまま使うのはちょっと怖いですね。

感覚的にいうと、上司から質問されると、とりあえずネットでそれらしい答えを検索して答えるような、ちょっとズルくて要領がいい見習いリサーチャーが相棒になった、という感じです。

だから手間は大きく削減できます。そしてこちら側にチェックする力があれば、それなりに使えます。

加えて、質問に対するアドバイスで素直に学習して、精度を上げていく能力もあります。しかも人間と違ってコンピューターは忘れません。疲れることも知りません。時間の経過とともに常に学習し続けて、どんどん賢くなっていく可能性が高いでしょう。(ただ間違った思想やフェイクニュースを正しいと学習してしまうという怖さもあります)

ChatGPTを開発したのは、オープンAIという会社です。この会社にはマイクロソフトが出資していて、同社のオフィス製品にもこの機能を搭載する予定だそうです。

さて、とうとうこんなAIが登場してしまいました。
私たちのホワイトカラーの仕事はかなり代替されそうです。

では私たちビジネスパーソンは、どうすればいいのでしょうか?

ここで参考になるのが、既に数年前にAIの猛威を受けた将棋や囲碁の世界です。
AI開発企業のDeepMind社が開発したAlphaGoは、既に2017年に人間の世界トップ棋士に勝っています。

一方で、弱冠20歳にして将棋五冠(竜王、王位、叡王、王将、棋聖)に輝く藤井聡太さんは、早い時期からAIを活用し、経験をAIで補って素養を開花しました。

この藤井聡太さんの成長と活躍は、AI時代に私たちがどのようにAIを活用するかを見せてくれます。

ありていにいえば、「AIを使い倒した人が勝つ」ということです。

ChatGPTを体験すると「AIって凄いなぁ。人間の価値とはなんだろう?」と思ってしまいますが、実はAI自体は、まったく何も考えていません。

哲学者ジョン・R・サールが提唱した「中国語の部屋」と呼ばれる思考実験をご存じでしょうか?

まず、中国語を理解できない英国人を、小部屋に閉じ込めます。
小部屋には小穴があって、外と紙切れだけをやり取りできます。
外から中国語の文字列が書かれた紙が差し入れられます。
英国人の彼には、「●×△□※★」という記号にしか見えません。
彼の手元には、どんな質問にも答えられる分厚い中国語の辞書があります。
辞書には各記号に対応した、別の記号が書かれています。
彼の仕事は、紙に書かれた記号に対応する記号を辞書で見つけること。
そして、紙に書き足して小穴から戻すことです。
こんな感じです。「●×△□※★」→「■▽→※」
小部屋の外にいる人はこう思います。
「この小部屋の中に、中国語を理解する博識の人が入っているぞ」
しかし英国人は、中国語も質問の内容もわからず、定型作業をしているだけです。

実は現代のAIがやっているのは、基本的にこの「中国語の部屋+英国人」と同じです。これをとてつもないスケールで巨大クラウド上でやっているだけです。ChatGPTも例外ではありません。

ですから過度に恐れる必要はありません。
ChatGPTといえども、あくまで道具に過ぎないのです。

まずは自分の仕事でどう使えるか、試してみることがお勧めです。


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生活が超快適になったお勧めグッズ。ビジネスモデルも凄かった

私はアレルギー性体質で、鼻がよく詰まるのが悩みです。
睡眠中も鼻づまりで鼻から息を吸えず、口呼吸していました。
口呼吸していると、喉がカラカラになります。
そして時々夜中に起きてしまい、熟睡できません。
結果、昼間はすぐ眠くなるので、知的生産性が落ちてしまいます。

時々、たまに鼻詰まりがなく快適に鼻から呼吸できる時もあります。
こんな時は、まるで別世界のように快適。

「いつも鼻から呼吸して眠れるといいなぁ」と思っていました。

鼻呼吸は、実は身体にとっても大事です。
まず吸い込んだ空気を適温に暖め、湿り気を与えて適切な湿度にし、異物もフィルタリングしてくれます。口呼吸だとこの3つがなくなるので、身体にも悪いわけですね。

そんな時に、家族が耳鼻科の先生から勧められたのがこれです。

「ハナクリーン」

私はこの会社から対価をもらっていませんのでリンクは貼りませんが、アマゾンでも買えるのでご興味があったらチェックしてみてください。

これは体温と同じ温度の塩水を約150cc入れて、鼻腔を洗える道具です。
鼻腔は鼻の穴の奥に拡がる空間です。
ここに花粉とか空気中の埃などの色々なモノが溜まり、鼻づまりが起こります。
ハナクリーンはここを塩水で洗い流してくれるわけですね。

就寝前に鼻を洗うと、鼻がスッキリして熟睡できるようになりました。
昼間に眠くなることも少なくなりました。

ポイントは体温と同じ温度の塩水を使うところ。水で洗うと鼻が何かに突かれたように痛くなりますし、普通の温度の水だと刺激が強すぎます。

そこでハナクリーンでは、絶妙な塩分濃度になるように洗浄剤もセットで販売しています。

ちなみに器具は、ハンディタイプ(ボディプッシュ式)で約3,000円。
洗浄剤は1回分を1.5gの塩+少量のペパーミント&メントールで小包装したもので、1回あたり約20円です。
「食塩を調合しても大丈夫なのでは?」と思いがちですが、ハナクリーンのサイトによると、長期使用すると、食塩に入っているミネラル分が鼻粘膜に悪影響を与えるそうです。

この製品、なかなかよくできたビジネスモデルを実現しています。

・顧客の悩みに、ストライクゾーンで答えている
・消耗品ビジネスモデルを実践している(本体は安く、消耗品で高収益。値ごろ感もほどほど)
・長期間使用するほど満足

ということで、我が家ではこの数年間、使い続けています。
こんなビジネスモデル、作ってみたいですね。


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あの蔦屋書店が進化して、シェアラウンジになった

蔦屋書店の雰囲気、私は大好きです。
やや照明を落としたいい感じの雰囲気と、落ち着いた空気感。
スタバが併設されていることも多く、つい長居をしがちです。

六本木駅近くにある「文喫」もいい感じです。閉店した青山ブックセンターの跡地に2018年年末に開業した、入場料1650円を取る書店です。ゆったりした空間で本が読み放題。食事もできます。

「こんな空間が拡がればいいなぁ」と思っていたら、2023年1月27日の日経MJに、こんな記事がありました。

「CCC、シェアラウンジ出店加速」

CCCとは、TSUTAYAや蔦屋書店を展開する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」のこと。そしてシェアラウンジとは、ラウンジとシェアオフィスの機能を兼ね備えた空間のことです。

CCCが、このシェアラウンジの出店を加速しているのです。

丸の内では、TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHI SHARE LAUNGE(ツタヤブックストア丸の内シェアラウンジ)を書店に併設する形で開業。3〜4階の吹き抜け空間に、個室17室、会議室2室、220席を備えます。

基本料金は、60分1,650円、1日5,500円、月額利用55,000円。

フリードリンク、フリースナック&ブレッド。つまり飲み物と軽食は無料です。高速Wifi/電源もあり、本も読み放題。

2025年末までに首都圏で100店舗体制を目指すとのこと。

これは、なかなか凄い戦略です。

全く新しい会社が「当社はシェアラウンジを始めます」と言っても、私たちはなかなかイメージできません。でも蔦屋書店が「シェアラウンジを始めます」と言われると、どんなものになるかイメージできます。

よく考えてみると、これはものすごいブランド資産です。
ブランド資産は、消費者の脳内に作られます。一度このようなブランド資産が作られると、ライバルはなかなかそれを上書きできません。CCCはこの蔦屋書店で作り上げたブランド資産を、シェアラウンジで活用しているのです。

いま、シェアオフィスは成長市場です。コロナ禍でリモートワークが普及したおかげで、シェアオフィス市場は2026年には2300億円(2020年の3倍)の規模になると見込まれています。

ちなみに冒頭で紹介した2018年年末開業の「文喫」は、出版取次の最大手である日本出版販売(日販)が運営しています。日販は書店ビジネスが生命線。だから書店の価値を高める挑戦をしています。文喫はそんな挑戦の一つです。

CCCも2019年から渋谷で、ラウンジとシェアオフィスの機能を兼ね備えたシェアラウンジを開業していました。

書店業界では、コロナ禍前から様々な試行錯誤をしていたわけですね。

そしてCCCは試行錯誤した結果、「これはイケる」との確信を得て、スロットルを本格的に踏み込んでいます。蔦谷書店で培ったブランド資産を武器に、本格的に「シェアラウンジ」というコロナ禍で生まれた新市場を開拓しようとしています。

コロナ禍は一段落した今、新しく根付いた生活スタイルによって生まれた新市場が様々な業界で生まれています。大きなチャンスがやってきています。

御社は、どんな新市場を開拓しようとしておられますか?


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「独禁法で、値引き禁止はムリ」を突破したパナソニック

日経ビジネスの今週号(2023年1月23日号)の特集「殻を破れ!Panasonic」で、実にいいお話しがありました。記事の一部をオンラインでも読むことができます。

さらば家電の安売り パナソニック、マイナーチェンジ地獄脱す

この記事のポイントは…

・パナソニックの商品は、競争力があっても常に量販店で値引き販売されていた
・そこで「値引き販売は一切禁止にしよう」ということになった
・ここで問題になるのが「独占禁止法」。独禁法があるので「メーカーが販売店に価格を強制するのはNG」が常識だと思っていた
・そこで公正取引委員会に確認した。回答は「パナソニックが在庫リスクを引き受ければ、販売店に価格を指定してもOK」
・販売店が在庫を抱えれば、独禁法にひっかかる。しかしパナソニックが在庫を抱える形にすれば、販売店は単なる取次になり、パナソニックが直販する形になって独禁法にひっかからない
・そこで、価格を指定して販売店に納品、返品を常に引き受ける体制にした

私たちは「独禁法があるから、値引き禁止なんてムリ」という常識に陥りがちです。しかしこんな常識に縛られると、打つ手が限られてジリ貧に陥ります。そこで必要なのが、あらゆる常識を疑ってかかること。

この記事はその常識を疑う大切さを教えてくれます。

ちなみに現在のパナソニックの代理店販売に大きく影響を与えたのが、1964年に行われた「熱海会談」。熱海のニューフジヤホテルで、創業者・松下幸之助さんと主要代理店が二昼夜徹して行った伝説の意見交換の合宿です。

ある販売代理店の創業社長が苦情を言ったら、松下幸之助さんは…

「あなた、血の小便が出るまでやっていますか。私はやっていますよ。そこまでやってから言いなさい」

共存共栄という理念についても…

「共存共栄というのは、強い者同士でしか成立しませんよ。あなた方は強い者じゃないですね」

まさに真っ正面から本音で喧々諤々の議論をしたわけです。
最後の最後、決裂になるかと思った時に、松下幸之助さんは涙をこぼして…

「本当に申し訳なかった。改革をやります。しばらく時間を下さい」

そして自ら営業本部長代行を兼務。69歳で現場に復帰。「一つの県に代理店は一つ」「現金販売は報奨金」などの大改革を行いました。

松下幸之助さんは「松下の商いは3割減る。年間利益150億円は2年間なくなるので300億円。それで済んだら安いもんや」とハラを括り、徹底して経費節減して、合理化分は販売代理店に還元。

しかし2年間で300億円の損失を覚悟した改革は、2年間で487億円の利益を生み出しました。

松下さんは役員に、のちにこう言っています。

「そもそも一店舗のナショナルショップが10個買うてくれたら、全国で50万個売れる仕掛けを作ってあるのや。その製品が、小売店の倉庫に止まっているのか、お客さんの手元にまで届けられているのか。要は、わしが作った仕組みがちゃんと機能しているかどうかを見るのが、お前たちの仕事や」

※以上、熱海会談は、下記文献を参照しました。
「松下電器の経営改革」(伊丹敬之・田仲一弘・加藤俊彦・中野誠著、有斐閣)p.306
「血族の王 松下幸之助とナショナルの世紀」(岩瀬達哉著、新潮文庫)p.295-301

しかしこの仕掛けも、のちに家電量販店が登場して危機に直面します。「経営の神様」と称される松下幸之助さんが完璧に作り上げた仕掛けですら、時代ととも賞味期限が切れるわけです。

しかし大きな会社ほど「現在の仕組みは大前提で変えられない」と思い込みがちなので、常識にがんじがらめに縛られているのです。

そこで必要なのが、今の常識を全て疑い続けること。だから外部の人や、新しく組織に入ってきた人の「素朴な疑問」は、実は問題の核心を突いていることが多いのです。

そして大きな組織は「賞味期限が切れた常識」が至る所にあります。

値引き禁止・定価販売に舵を切ったこのパナソニックの取り組みは、そんな大切さを教えてくれます。

あなたの組織は、どんな「賞味期限が切れた常識」に挑戦していますか?


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D2C時代のリアル店舗戦略

スマホであるアパレルショップのサイトを見ていた妻が言いました。
「この服、いいなぁ…」

でもその場では買いませんでした。
「念のためお店でチェックするね」

散歩のついでに私も近所の店について行きました。

実際に妻が店で試着したところ、微妙なフィット感や色合いがイマイチ。
一方で前々から買おうと狙っていた服を試着したところ、ベストフィット。
結局、フィットする方を買うことにしました。
ちなみにこのお店からは、妻が欲しそうな商品が入荷すると、LINEでメッセージが届きます。

いまやありとあらゆる商品がスマホで売れます。
あの数百万円のテスラも、スマホでテスラ社から直接買えます。アマゾンで本を買うのと同じ感覚です。
私も昨日、4万円の加湿器をバルミューダ社のサイトからスマホで買いました。
そんなわけで、製造メーカーが直接消費者に売るD2C企業(Direct to Consumer)が増えています。

一方でD2C企業にも悩みがあります。
触ってみないとわからない実商品の場合、スマホではその感触がなかなか伝わらないのです。

妻の服はまさにそんな例です。

私の場合は、昨年発表されたApple Watch Ultraです。
私はネットで新商品発表を知ると、即「これ欲しいスイッチ」が入りました。
デザインもいい。機能も沢山。しかも電池の持ちが2倍です。
ただ毎日身につけて使うものです。念のためアップルストア表参道で実商品を付けてみたら、意外とアウトドア志向。「ビジネスシーンで身につけるには違和感があるなぁ」と感じました。結局、Apple Watch Ultraは購入を見送りました。

こうやって確認出来るのも、リアル店舗があるおかげですね。

そこで多くのD2C企業は、次々とリアル店舗を展開しています。

彼らは、ネット以外の販路を開拓して売上拡大するためにリアル店舗を出しているのではありません。
顧客に商品を実体験してもらい、顧客の満足度を上げて、全体の売上をかさ上げするために、リアル店舗を出しているのです。

現代の消費者は、ある程度こだわる商品を買う場合は、色々な形でスマホを使います。ですからチャネル戦略も、デジタルを大前提に考えていく必要があるのです。

御社のチャネル戦略は、デジタルを大前提に構築されているでしょうか。


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EV化の裏で静かに進む、水平 vs.垂直の戦い

街を歩いていると、気がつかない間にクルマがスーッと横を通り過ぎることが増えました。クルマがEV化で静かに走るようになったおかげです。最近、街中でもEVをよく見かけるようになりましたね。

世界全体で見ると、この1〜2年でEV化が一気に進んでいます。
各地域別のEV普及率はこうなっています。

【世界全体】 21年 8.1%
【欧州市場】 19年 1.9% → 20年 5.6% → 21年 11% (対前年比64%増 119万台)
【中国市場】 20年4.4% → 21年 13% (対前年比69%増 352万台)
【米国市場】 20年 1.6% → 21年 2.9%
【日本市場】 21年 0.9% → 22/1H 1%超

こうして全体を眺めてわかることは、

・欧州と中国は2022年に、普及の壁=キャズム(普及率16%)を突破している感じですね。

・米国と日本は、欧州・中国を2-3年遅れで追いかけています。

ガソリン車→EV化で、クルマの構造が大きく変わります。
大胆に単純化して言えば、こんな感じです。

【ガソリン車】ガソリンを燃やしてエンジンで動力発生→シャフトで車輪に動力を分配→車輪を回す
【EV】各車輪にモーターを付けて、電気制御して車輪を回す

このためEVではガソリン車で必要だった部品が一気に減る上に、電気でクルマの動きを自由に制御できます。

こんな状況の中で、クルマ業界内とクルマ業界外のメーカーが入り乱れて起こっていることが、水平統合と垂直統合の戦いです。

ガソリン車は複雑な構造なので、品質を高めるには、エンジン、ポンプ、トランスミッション、シャフト、サスペンション、ブレーキなどで微妙な擦り合わせ調整が必要でした。

日本企業が得意なのがこの「擦り合わせ技術」です。クルマ業界では、この擦り合わせで大成功したのが日本が誇るトヨタです。

このような擦り合わせを「垂直統合」といいます。細かい部品一つ一つから最終製品までを、メーカーで細かく統合していくわけです。

ところがEV化でクルマの構造がシンプルになりました。一時期は「CPU,メモリー、マザーボード、電源などの部品を買ってきてパソコンを組み立てるのと同じ感覚で、クルマも作れるようになる」と言われた時期もありました。(実際にはEVの場合でも、そこまで単純ではないようですが…)

このように、部品同士の擦り合わせ作業が少なく、部品を組み合わせることで最終製品に統合できることを「水平統合」といいます。

EV化によってクルマ業界で起こっているのは、まさにこの垂直統合と水平統合の戦いです。

トヨタなどのガソリン車の王者は、ガソリン車で確立した垂直統合の仕組みをEVでも実現した方が、自社の既存の強みを活かせるので有利です。ですので、バッテリーなども含めてできる限りEV関連の部品を内製化して、垂直統合モデルにより高品質化を極めようとします。

一方で中国自動車メーカーのようなクルマ業界の新規参入者にとって、参入障壁が一気に下がるEV化は大きなチャンスです。そこで様々なEVの部品メーカーとできる限り部品を標準化して外部調達することで、水平統合モデルにより低コスト化・デリバリー迅速化を図ろうとします。

そして世の中は、水平統合の方向に大きく進んでいます。この中でどうするかが、垂直統合の覇者・トヨタのジレンマでもあります。

日本でも、水平統合で勝負を賭けている会社は数多くあります。

ソニー・ホンダモビリティ(ソニーとホンダによるEV合弁会社)も、水平統合を志向しています。

日本電産は、永守会長が「EVのモーター供給会社となり、EVの価格を1/5にする」と言っています。

さらに日本のスタートアップ「ティア・フォー」は、EV用の基本ソフト(OS)である「オートウェア」をなんとオープンソースソフトウェアにより提供しようとしています。オートウェアは、台湾の鴻海精密工業が進めるEVの自動運転用プラットホームで、OSとして採用されました。

この垂直統合 vs. 水平統合の勝負は、これから3〜5年ほど続くでしょう。注目していきたいと思います。


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今年どうなるかは予想できない。ではどうする?

今年はどんな年になるのでしょうか?

1つだけ確実に言えることがあります。今年の年末、「今年の年初には、こんなことは想像もできなかったですね」と振り返っているだろう、ということです。

ナシーム・ニコラス・タレブが著書「ブラック・スワン」で述べたように、想像もしない出来事が起こり、グローバル規模で想定外の大きな影響を与える時代です。タレブはこのような出来事のことを「黒い白鳥(ブラック・スワン)」と呼びました。

現代ではごく少数のブラック・スワンが社会に甚大な影響を与え、私たちは翻弄されます。昨年だけでも「ウクライナ紛争」「中国のゼロコロナ政策」、それらに伴う「超ドル高=超円安」「エネルギー危機」「米国のインフレ」など様々なブラック・スワンが発生しました。

ブラック・スワンの影響力は、ますます高まっています。
ブラック・スワンの予見は、そもそもムリ。
では、どうするか?

まず「誰も未来を予想できない」と理解すること。
そして想定外が起こった場合は、それを強かに利用することを考えること。
そのために、全体でリスクを取る部分は10-15%程度に留め、残りについてはリスクを徹底的に回避することです。

リスクを取らない部分を見極めてリスクを徹底回避しておけば、「想定外」が起こっても余裕を持てますし、逆に「想定外」をチャンスに変えることができます。

資産投資にたとえると、日経平均が1/10に落ちても、資産の9割をキャッシュで持っていれば、超底値で株式を買えるようなものです。

たとえばコロナ禍の場合、研修業の人たちは対面研修が全部キャンセルになり、大変な目に遭いました。しかしいち早くオンライン研修に切り替えた人は、逆にこれをチャンスに切り替えて、いち早く新規事業を立ち上げることができました。(手前味噌ですが、完全オンラインの永井経営塾もそうやってKadokawaさんとの協業で2021年年初から立ち上げたビジネスです)

このためには、日頃から余裕がある経営を心がける必要があります。

現代では「想定外は予想できない」ことを強かに利用していく思考が求められる時代になったのです。

今年の年末も、こころ穏やかに迎えたいものですね。


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意味のない「差別化」をしていませんか?

「これがウチの差別化ポイントです!」

このようにアピールしている会社をよく見かけます。一方で、意味のない差別化をしているケースが実に多いのも現実です。たとえば…

①機能の違いをアピールする

例:「ユニクロのジャケットはフードが外れます。当社のジャケットはフードと一体化しました」
→でも、「フードが外れないからこの商品買おう」という人はあまりいませんよね。

顧客にとって意味のない機能をいくら追加しても、差別化にはなりません。

②ライバルよりも目立たせる

例:ライバルは「90日で成果が出る英語レッスン」ってアピールしているから、当社は「30日で成果が出る英語レッスン」とアピールしよう
→そのうち「1週間で…」「1日で…」「10分で…」なったりします。言ったもん勝ちの世界ですよね。

でも消費者はバカではないので、この手の意味のない数字ごっこには騙されません。

③ライバルと比べた優位性をアピールする

例:「全国ゆるキャラグランプリで、申込み3000件中、うちは10位です!」
→ 2021年時点でゆるキャラは全国に1553体あるそうです。ゆるキャラは地域のイベントを盛り上げる効果がありますが、ゆるキャラ自体は差別化にはなりません。

ライバルと比べて少々優位性があっても、顧客にとって意味がなければ差別化にはなりません。

④技術をアピールする

例「業界では誰も採用していない最先端のWeb3技術を活用して、後継者問題に悩む中小企業と若い起業家を結びつけることができます」
→何かとても有り難いものに思えてしまいますが、その中小企業の経営者と、若い起業家がその技術を使えないと、意味がありません。

課題の見極めの前に解決策を前提に考えてしまうと、最先端技術を使っても、大抵はスジの悪いビジネスになります。(頭脳が優秀な人ほど陥りやすい罠です)

これらの「イタい差別化」に共通しているのは、差別化というものをそもそも勘違いしていることです。

「要は、相手と違えば、差別化だよね」

これは差別化ではありません。

差別化戦略は、1980年頃に経営学者マイケル・ポーターが提唱しました。

本来の差別化は…

「このニーズに応えられるのは当社だけ」という状況を作ること

そのニーズが大きいほど、消費者は喜んで買うようになります。

たとえば、以下は差別化の例です。

ゴディバ →定番のバレンタイン本命チョコ
ブラックサンダー →定番の義理チョコ
エアウィーヴ →「質」の高い睡眠環境

そのお客様の課題やお困りごとに対して、業界でベストの解決策になることが、本当の「差別化」なのです。

御社は、差別化ができているでしょうか?


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アサヒ「白湯」のブルーオーシャン戦略

「これは参りました!(笑)」と思いました。
先月(2022年11月)、こんな商品が発売されていたのです。

『アサヒ おいしい水 天然水 白湯』

白湯(さゆ)です。
要は、ミネラルウォーターを温めて店頭に出したドリンクです。

「え?それだけ?」と思ってしまいますよね。
私は、ありがちな会社の社内会議でこの商品企画を提案するとどうなるか、つい想像してしまいます。

担当者「白湯を提案します」
部長 「天然水を温めただけじゃん。こんなんで売れるの?」

しかしこの商品、ヒットしているのです。

Twitterで「アサヒ 白湯」で検索してみると、こんな声が次々と出てきます。

「本当美味しい よく分かってるアサヒ」
「これからの季節に嬉しい!」
「水筒持ち歩かないからペットボトルの白湯ありがたい。Asahiに感謝」
「ついに出た!!ペット白湯〜!! ずっと欲しかったからコンビニで見かけて即買い!」
「美味しくてビックリ」

ちなみにコンビニやスーパーのホット飲料コーナーで、白湯の適温(約50~60℃)に温めた状態で販売されています。

アサヒの発表によると、白湯の飲用経験率は2009年の11.8%から、2022年には61.0%と5倍になっています。男性の飲用経験率も54.4%。なんと13年で5倍に成長する、隠れた超成長市場だったのです。

どんな時に飲むかというと、女性は「冬場の冷えや寒さ対策」「体に良さそう」、男性は「朝からカフェインを取りすぎないように、意識して白湯を飲んでいる」、といった感じです。健康志向ですね。

確かに私も白湯を飲むと、身体がリラックスした感じになります。

でも飲みたいときに買えないんですよね。

まさに「ありそうでなかった、とても欲しいモノ」ですね。

「既存知×既存知」がイノベーションと言われますが、この商品も「天然水×ホット飲料コーナー」という既存知同士の掛け算で生まれたイノベーションとも言えると思います。

この商品には、ポイントが2つあると思いました。

まず「白湯」というネーミング。実は2014年に「ホット天然水」という商品を出したのですが、売れなかったそうです。確かに機能面を考えると「温めた天然水=ホット天然水」ですが、健康志向を考えると「白湯(さゆ)」の方が消費者の心に刺さりますよね。

もう一つはタイミング。6割の人が白湯の飲用経験を持つ2022年という絶好のタイミングだからこそのヒットなのでしょう。

「レッドオーシャン」と思われがちな市場でも、消費者の隠れた不満は必ずあります。その隠れた不満の発見がブルーオーシャンになることを、この商品は教えてくれているように思います。


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タクシーに乗って、DXの本質を知る

先日、タクシーでやや長距離を移動したときのこと。

私は長距離は、なるべく個人タクシーを使うようにしています。
運転が丁寧ですし、道に迷うことがまずないからです。
しかしこの時はラッシュ時で、個人タクシーが掴まりません。
そこでタクシーアプリの「GO」で、日本交通のタクシーを呼びました。

5分程度で来てくれました。運転手は20代の若い男性です。いつも通り道順を伝えると…。

「その道順よりも、こっちの道順の方が3分ほど早く着きますが、いかがしましょう?」

GOでタクシーを呼ぶ際、目的地の住所指定をしたので、行き先はカーナビに自動セットされているのですね。(ちなみにタクシーを呼ぶ時は住所入力は不要で、地図上で建物をクリックするだけです)

お任せしたところ、「こんな道あったの?」と思うほどの抜け道を走り、あっという間に到着しました。

でもこの若い運転手が、抜け道を知っているわけではありません。カーナビの通りに走ったわけですね。

2022年11月18日のテレビ東京・ワールドビジネスサテライトを見ていたら、まさにこのことを紹介していました。

番組に登場した20代の女性運転手は、乗務歴4ヶ月。でも既に売上は営業所の平均です。その秘密が、GOの活用。

これまでタクシー運転手は、空車の時には流しで運転し客を掴まえるのに独特の勘が必要でした。運転には土地勘も必要でした。つまりタクシー業界は、ベテラン運転手が稼げる市場だったわけです。

しかしGOなら、自動的に乗客と車両をマッチングして、行き先も丁寧に教えてくれます。つまり知識がなくても稼げるわけです。しかもタクシー運転手は、比較的時間に拘束されずに自由に働けます。ですので20代でタクシー運転手になる人も増えています。

GOを運営するMOT(モバイルテクノロジーズ)の中島宏社長によると、タクシー会社に入社して数ヶ月で年収600万円稼げる方も出てきているそうです。

このため、GOでは決済システム、配車アプリ、タクシーに乗せるタブレットなどが全て連動しています。この結果、タクシーは利用者にとっても実に使いやすくなりました。

・乗車率 6割(GO開始前)→9割(GO開始後)
・支払い時間 40秒(車内決済)→15秒(GO決済)
・待ち時間 6分半(電話配車)→3.4分(アプリ配車)

この先のビジネスもあります。

GOに登録する全国15,000台のタクシーは、常にドライブレコーダーで道路の状況を撮影して走っています。そこで撮影画像から標識や信号をAIが自動検知し、地図会社と連携して地図データ更新に活用しています。1日で地球10週分の走行距離の情報量。まさにビッグデータです。

さらにこのデータを活用して、自動運転の研究も進めています。

DXの本質は、ケタ違いの利便性と大きな価値を生み出して、業界を変革し、市場を拡大して、新たなビジネスを創造することです。

これまでタクシーは不便が沢山ありました。しかしその不便さは、同じ業界にいる人ほど、ある意味で当たり前でした。その不便を解決したのがGOでした。

GOの前身は、ジャパンタクシーというタクシー会社である日本交通が設立した会社です。10年前に「このままでは日本のタクシー業界は、ぜんぶUberにやられる」という危機感を持った日本交通トップ・川鍋一朗さんが、タクシー配車アプリを始めたのがきっかけです。

このGOの挑戦は、まさにDXの本質です。

あなたの業界では、どのような危機感を持っていますか?
その危機を克服するために、どんな取り組みをしていますでしょうか?

 

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ダイヤモンド「銃・病原菌・鉄」から考えた、昆虫食

「昆虫食」をご存じでしょうか? 牛や豚に代わって、コオロギや蚕を蛋白源にしよう、という考え方が登場し、昆虫食ビジネスを手掛けるスタートアップ企業が注目を集めています。

「コオロギや蚕を食べるの? ムリムリ」と思うかもしれませんが、粉末状にしたりして無理なく食べる技術も開発されています。

ジャレド・ダイヤモンドの名著「銃・病原菌・鉄」を読んでいたら、この昆虫食が優れていることを裏付けるヒントが書かれていました。

本書は壮大な人類史の進化について書かれた本です。1997年刊行なので、当然のことながら昆虫食については何も書かれていません。

一方で本書には、人類が家畜を飼うようになった経緯の一節があります。人類は野生動物を家畜化したわけですが、家畜化するには次の5つの条件をすべて満たす必要がある、と書かれています。

①餌の問題 草食哺乳類は体重の10倍の餌が必要になります。肉食哺乳類は、餌の動物を育てるために体重の100倍の餌が必要。なので肉食哺乳類は効率が悪いため家畜化できません。

②成長速度 牛や豚は早く成長します。ゴリラや象は成長に15年かかるので、家畜としては効率が悪いのです。

③繁殖上の問題 家畜は繁殖させる必要があります。しかしチータのように人前で交尾しない動物は繁殖できません。人前で交尾を恥ずかしがらないことが家畜の条件です。

④気性の問題 大型哺乳類は人を殺せるので、気性が穏やかでないと危険です。熊は実は美味しいそうです。でも人を殺すので家畜化できません。

⑤序列ある集団を作るか 群れを作る動物は序列が明確なので、人間が頂点に立てば支配できます。山羊の群れとかはまさにそうですよね。

昆虫をこの5つの条件に当てはめてみると、こうなります。

①餌の問題 2013年に国連食糧農業機関が発表した昆虫食に関する報告書によると、タンパク質1Kgを生産するために必要なエサの重量は、コオロギは1.7Kgだそうです(ただし諸説あり)。資源効率化が問われる現代では、この効率性は極めて重要です。

②成長速度 コオロギは卵から1ヶ月で3cmに育ちます。従来の家畜と比べて、もの凄く速いですね。

③繁殖上の問題 昆虫の繁殖は、哺乳類と比べて比較的簡単です。

④気性の問題 昆虫は適切に管理すれば人に危害を与えません。

⑤序列ある集団を作るか これも適切に人間が管理できます。

こうして整理してみると、コオロギや蚕などの昆虫は、驚くべきことに理想的な家畜であることがわかります。

少し見方を変えることで、今まで私たちが当たり前に見ていたモノが、大きな可能性があるビジネスに変わります。ビジネス・チャンスは、この潮目を見極められるかどうかにあるのですね。

 

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発破をかけるほど、イノベーションは起きない

仕事で大手企業の経営幹部の方とお話しすると、時々こんなお悩みをお伺いします。

「イノベーションを生もうとして、私は社員に発破を掛けているんですよ。でもねぇ。社員からなかなかいい提案が挙がってこないんですよ。困ったもんです」

実は大手企業で成果が挙がらない最大の原因の一つは、「その企業の心理的安全性の低さ」にあると常々感じています。こういう会社、実に多いのです。

心理的安全性とは「ここでは何でも言える。心置きなくリスクが取れる」と感じる雰囲気のことです。経営学者のエイミー・エドモンドソンが提唱した概念です。

たとえば現場社員が、手間と労力をかけて新事業アイデアを考え、経営幹部に提案する、ということはよくあります。「自分たちのビジネスを少しでも良くしたい」という想いですね。実に素晴らしいことです。

しかしそんな提案に、こんな対応をする経営幹部もよく見かけます。

「うーん。ダメだね。話にならん」
「こんなの何も目新しくないよ」
「あなた、今のお客さんを何だと思っているの? 無責任な発言はやめよう」

実はこう言っている経営幹部は、心の中でこう考えていることもよくあります。

「その心意気、いいね。実は提案もいい線行っているんだけどね。もう少し鍛えてやれば、よくなるな」

しかし厳しく言われた社員は、発言を額面通りに受け取って、こう思ってしまうのです。

「自分の力不足か。提案しない方がよかったのかなぁ」
「この会社、もう何を言ってもダメなのかな。…転職考えようかなぁ」

このような会社が「心理的安全性が低い会社」です。

終身雇用だった昭和の時代は終わっています。今の会社員は、転職の選択肢があります。やる気がある社員ほど「提案すると厳しく言われてチェックされるけど、なかなか話しが進まない」心理的安全性の低い職場から、「何でも言えてリスクも取れて、サクサク挑戦できる」心理的安全性が高い職場へと、次々と流れていきます。

そして心理的安全性が低い職場には、言われたことしかやらない社員が残ります。これで新しいイノベーションを起こすなんて、ムリです。

「発破かけているんだけど成果が挙がらない。困ったもんです」と苦笑いする経営幹部は、実は自分自身が原因であることに気付いていません。

これは日本企業独特の問題ではありません。あくまで、その会社の問題です。

エドモンドソンは心理的安全性を提唱した名著「恐れのない組織」で、「福島第一原発事故の根本原因は、権威に異を唱えず盲目的服従をする日本文化に深く染みついた慣習が問題」という調査委員会の報告書に対し、こう反論しています。

「それは日本文化に限ったものではない。心理的安全性のレベルが低い文化に特有のものだ」

しかしこう言うと、こんな声も聞こえてきそうです。

「いやぁ。でもウチの会社はそういう社風ですからねぇ」

そのような社風だと、発破をかければかけるほどイノベーションが生まれなくなり、心ある社員が離れていきます。そのまま放置していいのでしょうか? いいわけ、ありませんよね。

あなたの会社は、心理的安全性は高いでしょうか?

 

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どうすれば学びが定着するのか

色々と本を読んだり講義を受けたりしてマーケティングを勉強している。
でもなかなか身につかない。
こんなお悩みをお持ちの方、多いかも知れませんね。

ちょうど先週、永井経営塾を受講されている方から、こんなご質問をいただきました。

「学びを定着するための良い方法があれば、教えてください」

永井経営塾では毎月2時間、様々なマーケティングや経営戦略理論を講義動画でお伝えしています。そこでいい機会なので、回答内容を共有したいと思います。

現実には、座学だけではなかなか身につきません。そこで私はこんなことを心がけてきました。

①実際に学んだ事を仕事で使ってみる

理論を頭で理解したつもりでも、十分に自分の中で消化していないと、仕事で使えません。頭で理解したことと、実際にやってみるのとは、全く違うからです。

たとえば、泳げない人が泳ぎ方を本で学んだとします。でもそれだけでは、プールに入っても泳げません。身体がちゃんと動かないからです。本で学んだ方法をプールの中で実際に試して、身体で覚えることで、泳げるようになります。

ここで大事なのは本で学んでおくということ。

本で学ばずにプールに飛び込み自己流で色々やってる人でも、いつか泳げるようになるでしょう。でも、予め本で学んだ人と比べると、泳げるようになるのは遅いですよね。

マーケティング理論や経営戦略理論も同じです。
理論を学んだ上で、実際に仕事で使ってみることが大事なのです。

実際に仕事で使ってみると、色々とうまくいかない部分が出てきます。
泳ぎ方マニュアルの通りに身体が動かないのとまったく同じです。
そして試行錯誤しながら調整していくと、学びが定着していきます。

②学んだ事をアウトプットする

私の企業研修を受講された方で、学んだ内容を元に、営業所内や自分の課で勉強会を開いている方が多くいらっしゃいます。これは実に素晴らしい方法です。

何かを学んだらそれを人に教えて、質疑応答して学びを深めることは、自分自身の学び定着のためにも有効です。しかもチームの力も向上します。

人に教えるためには、自分が教える内容の本質を理解する必要があります。本質とは「要は、こういうこと」と一言で言えて、相手がハラ落ちすることです。この教える準備をする過程で、理解が進み、知識が定着します。

一方向に教えるだけでなく、できれば教えた後に相手から率直な意見をもらうことをオススメします。これで教える側の自分の理解度も確認できます。

私も会社員時代、社内の勉強会を引き受けてお話ししたり、学んだ事をブログに書いてアウトプットしていました。

学んだ事はどんどん仕事で使ってみて成果を出し、あわせてアウトプットする。

こうすることで学びは定着していくのです。

 

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