商品づくりよりも、組織づくり

ソニーの創業は1946年。
戦争が終わってまだ1年。日本は焼け野原でした。
当時のソニーは、東京通信工業という社名でした。

この時、ソニーはラジオの修理や改造をする傍ら、様々な商品を開発していました。

たとえば電気炊飯器。木のお櫃(ひつ)にアルミ電極を貼り合わせたものです。でもお米は炊けませんでした。失敗作第1号です。

電気座布団も開発しました。紙の間にニクロム線を入れて温かく過ごせる、というもの。温度調節もできないしろものでしたが、売れに売れました。ただ自社の名前を付けるのは気が引けて、「銀座ネッスル(熱する)商会」という名前を付けました。

この間、創業者の井深大(まさる)さんは商品開発よりも恐らく大事にしていた仕事がありました。それは、こんな文章で始まる「設立趣旨書」です。

「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき
 自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」

そうして東京通信工業(のちのソニー)は、まさにこの趣旨書にあるような創意溢れる技術者たちが集まり、様々なイノベーションを起こしていきます。

時は60年以上が経過して、2012年。

成長を続けて大企業になったソニーは、業績低迷で苦しんでいました。この時、ソニーの舵取りを任されたのが、平井一夫CEOです。

平井さんは、井深さんが作った設立趣旨書を穴が開くほど読みました。ここに書いていることは、まさにソニーの原点。しかし平井さんは、この設立趣旨書は時代に併せてアップデートする必要がある、と感じました。そして考えに考えた末に、新たなソニーのあるべき姿を一言にまとめました。

「感動 KANDO」

既にソニーはグローバル・カンパニー。日本人以外の海外社員が過半数です。そこで平井さんは、世界中のソニーの拠点を回ってタウンミーティングを続けて、『ソニーは「感動 KANDO」を生み出す会社なんだ』ということを、日本語で、時に流暢な英語で、語り続けました。

そしてソニーは見事、復活しました。

「ビジョナリー・カンパニー」を書いたジム・コリンズは、業界トップを何十年も維持する超一流企業を「ビジョナリー(未来志向)・カンパニー」と名付け、世界で18社のビジョナリーカンパニーを選び、共通する8つの基本原則を本書にまとめました。その最初の基本原則がこれです。

『時を告げるのではなく、時計をつくる』

「時」とは、商品づくりのたとえです。

トップが陣頭指揮で商品作りしても、商品には必ず寿命があります。トップがいないと商品が作れない組織は、トップがいなくなると途端に低迷を始めます。

しかしトップが社員の創造性を引き出し、優れた商品を次々生み出せるような優れた組織を作れば、会社は成長し続けることができます。(なお「組織作り」とは、単に「組織図を作ればいい」ということではありません。「組織作り」とは、組織の行動原理や使命、基本理念を作るということです)

ソニーはまさに、創業時に井深大さんが『時を告げるのではなく、時計をつくる』ことに注力して成長しました。そして低迷した時に、再び平井一夫さんが『最新型の時計にアップデートする』ことで復活したのです。

あなたの会社は、時計を作っているでしょうか?

 

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ワインボトルを変えたら、CO2排出量&物流費が半分に!

写真は https://packamama.com より

実は私、お酒を飲みません。 以前は少々たしなんでいましたが、飲まなくなってもう10年ほど経ちました。

飲んでいた頃はワインを買って飲むこともありました。ワインの問題は、ボトルです。店で買って家に持ち帰る際の重いこと。しかも割れやすいし、かさばりますよね。いつも持ち帰りが大変でした。

現在のガラス製ワインボトルは、17世紀に英国で生まれた丸いボトルが原型(写真の左)で、19世紀にフランスのブルゴーニュとボルドーで現在の形状(写真の真ん中)が生まれました。

21世紀なのに、私たちは19世紀のボトルを使っているわけです。

2022年7月24日付の日経産業新聞の記事「平らなワインボトル、豪で新風」で、この世界を変える挑戦を紹介しています。

オーストラリアで、平たくて軽いプラスティックのワインボトル(写真の右)が普及を始めているのです。

英国企業パッカママが開発したもので、厚みは3.5cm、重さ63グラム。店の同じ棚面積に2倍の本数を並べることができます。さらに空間をムダにせずに並べられるので、運送用物流パレットに搭載できる本数は通常のワインボトルの2倍。物流費高騰の今、これは有り難いですね。

同社CEOによると、ワインのカーボンフットプリント(CO2排出量)の68%は、ボトル由来だそうです。

新ボトルでワインの品質を保てるのは、19ヶ月間。ボトル内で熟成させる高級ワインには向きませんが、値ごろ感重視のワインであれば物流コストを大幅に削減できます。

記事で書かれているのは以上ですが、ガラス製のワインボトルの問題は他にもあります。捨てるのが大変です。家でパーティなんかしようものなら、大量の空き瓶を捨てるのは重労働です。さらにそんな空き瓶を回収するのにもコストがかかるわけです。

レストランの裏口にワインの空き瓶が大量に溜まっている…なんてこともなくなります。

このように考えると、先進テクノロジーは一切使っていませんが、これは素晴らしいイノベーションですね。

同社はワイン小売をしていましたが、重さと形状が物流上の悩みの種。そこで自社商品向けにエコフラットボトルを開発したそうです。

世の中に大きなインパクトを与えるイノベーションのヒントは、意外と私たちの身の丈の悩みの中に転がっていることを、改めて教えてくれる取り組みだと思います。

 

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デル・モデルを実現・進化させたテスラ

成長を続けるテスラは、テクノロジーに注目が集まりがちですが、最近こんな記事がありました。

『【記者の目】テスラ、製造業で異例の「運転資金不要」』
(日本経済新聞、2022年6月23日)

じっくり読むとなかなか凄いお話しなので、解説しながらご紹介したいと思います。

普通はモノを作る時、まず原材料調達や生産にお金を払った後に、商品を売って売掛金を回収します。この「お金を払ってから、売上を回収するまでの期間」を、会計ではキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)といいます。

この自動車業界ではこのCCCは、記事によるとトヨタが31日フォルクスワーゲン(VW)が74日。世界に冠たる「トヨタ生産方式」を推進するトヨタがVWの半分というのは、さすがです。トヨタの方がVWよりも効率的にお金を回せるということです。

しかしテスラは、なんとCCCはマイナス15日。

つまり、お客からお金をもらい、そのお金で生産しているということです。こうなると運転資金が不要になり、余剰資金が生まれます。その分の資金を新たな投資に回して、成長できるわけですね。

記事によると、テスラは様々な方法を駆使してこれを実現しています。

【ものづくり革新】ガソリン車の部品は3万点ですが、EVは2万点に減ると言われています。テスラはさらに少ない1万点程度。たとえばクルマを制御するECU(電子制御装置)は、通常のクルマでは50〜70個ですが、テスラは数個だけ。おかげで配線も少なくて済みます。複雑な形状の大型部品も一度に成形できる巨大な鋳造設備も導入しました。さらに車種も絞り込んでいます。モデル3とモデルYのⅡ機種で生産台数の95%。内装もシンプル。メーターやボタンはなく、中央にタッチパネルがあるだけです。

【地産地消】テスラはEVが成長する中国でも、現地に工場を作りました。おかげで生産して販売までの時間が短くなります。

【自社直販】自社店舗の販売をやめて、オンラインでお客に直販します。

こうして、調達・生産から顧客に届けるまでのバリューチェーン(価値連鎖)を最短化することで、CCCをマイナスにしているのです。

一見すると、これは1980年代にPC業界で、デルが確立した「デル・モデル」です。デルも…

・販売店やディーラーを通さずに、顧客に直販
・全てお客の希望にあわせてカスタマイズする注文販売
・サプライチェーンマネジメントを徹底効率化。在庫を徹底追求
・自社は技術を持たず、他社の最新汎用技術を採用し、いち早く製品化

こうしてデルも、PC業界で唯一CCCマイナスを実現しました。デルはデル・モデルを磨き込み続け、2001年にパソコン業界で世界トップシェアを獲得。その原資で、今やIT総合ベンダーに進化中です。

テスラは、このデル・モデルを自動車業界で実現した、という見方もできます。
しかもテスラは、デル・モデルを進化させています。

・最新汎用技術を採用したデルとは異なり、テスラは自社で先進技術を研究開発し続けています

・さらに一台当たりの単価は、デルは10万円。テスラは500万円。50倍です。デルモデルも様々な業界にインパクトを与えましたが、実にすそ野が広い自動車業界で新たなモデルを実現することによるインパクトは計り知れません。

・単品PCのデルとは異なり、テスラのクルマは様々な仕組み(自動運転や充電ステーションなど)と連動することで価値を発揮します。クルマはその一手段にすぎません。

テスラが創りだした「テスラ・モデル」とも言うべきこのビジネスモデルは、今後大きな影響力を持ってくると思います。

 

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マーケティングはビジネスパーソンの必須科目

私がマーケティングの仕事を始めたのは、1990年代です。

当時、私はIBM社員でした。1994年、破綻寸前に追い込まれたIBMは、ガースナーがCEOに就任。様々な手を打って復活を果たしたのですが、その一つがマーケティングの強化でした。このためにガースナーはアメックス社長時代にマーケティング分野の右腕だった元部下(アビー・コンスタン)をIBMに招き、マーケティング部門を任せたのです。

「マーケティング専門職を育成しよう」と考えたアビーは、IBM社内でマーケティング専門職を育成することにしました。

この時、製品開発マネジャーだった私は異動して、マーケティング専門職の一期生になりました。IBMはマーケティング専門職の人たちの人材育成に戦略的に投資しました。

当時、マーケティングはマーケティング専門職の人が学ぶものだったのです。

これが、現代ではまったく変わりました。
あらゆる仕事で、マーケティングは必須科目になったのです。

私は企業向けにマーケティング研修を行っています。営業、商品開発、生産、管理、人事など、様々な職種の方々が参加していますが、マーケティングを学ぶと例外なくこうおっしゃいます。

「早くマーケティングを学べば良かった。これ、自分の仕事ですぐに役立ちます」

永井経営塾にも、実に様々な職種の方々が参加しておられます。

理容・美容店の美容師さんたちも拙著「100円のコーラを1000円で売る方法」を読んでいます。理由を聞くと、「だって100円のコーラを1000円で売りたいじゃないですか」。

これはマーケティングが「顧客の潜在ニーズを見つけ出し、価値を創り出して、顧客に提供し、ビジネスにすること」を、首尾一貫した方法論でまとめた考え方だからです。

モノを作れば売れる時代はとうの昔に終わりました。
現代は価値を創らないと売れない時代です。
だからマーケティングがわかれば、一気に仕事力がアップします。

最近注目されているリスキリングで、DXやITだけでなくマーケティングにも注目が集まっているのは、こんな理由です。

ただマーケティングを学ぶ上での大きな壁が、横文字の専門用語や一見難しそうに見える理論。この壁が意外に大きくて、多くの方々が挫折してしまうのです。

実はマーケティングは、いったん理解してしまえば、その本質は子どもでもわかるほどシンプルなものです。難しいことは、本質を理解した上で実践していくうちに次第に分かってきます。

ビジネスパーソンにとって大事なのは、限られた時間と労力の投資で、仕事で成果を挙げること。

そのためにも、いまやビジネスでは必須科目となったマーケティングを一人でも多くのビジネスパーソンに学んでいただける環境作りをしていきたいと思います。

 

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イノベーションは、「猿まね」で起こせ

2022/5/31付の日本経済新聞 経済教室で、早稲田大学の井上達彦教授がこんな論文を寄稿しておられます。

「【経済教室】日本企業、戦略不全からの脱出(上) 「猿まね」批判を恐れるな」

本論文で井上教授は、日本企業が長期の戦略不全状態でイノベーションが起こらない原因は「イミテーション実践力=模倣力の喪失である」と述べています。

そして『世界的に見て日本は「模倣的創造」にたけた民族である』として、下記の例を挙げています。

・トヨタ生産方式(ジャスト・イン・タイム方式)は、大野耐一さんが米国のスーパーマーケットの仕組みを応用したもの

・セブン・イレブンも、米国で展開していたセブン・イレブンの考え方を取り入れつつ、マニュアルを全て日本流に作り変えたもの

「模倣的創造力」は日本人の強みなのだから、自ら捨てる必要はない、ということです。

シュンペーターが100年前に「イノベーションは既存知の新しい組み合わせ」といいました。こう考えると、「創造的模倣」がイノベーションを生むという考え方は納得です。むしろ「模倣的創造が、イノベーションの本質」とも言えるかもしれません。

思い返せば1980年代まで日本企業が成長していた頃、海外からは「日本製品は猿まねばかり」とよく言われていました。しかしその猿まねは、実は「模倣的創造」だった、と解釈すれば、本論文の指摘はとても腹落ちします。

当時は「欧米に追いつき追い越せ」が原動力になり、海外から必死に学びつつ、日本流に作り変えることが「創造的模倣」になり、結果としてイノベーションを生み出したのでしょう。

現在の日本は、「失われた30年」といわれる停滞に陥っています。これは裏を返せば、「海外には学ぶべき先行事例が山のようにある」ということです。

いまこそ日本人の強みである「模倣的創造力」を発揮する絶好のタイミングなのかもしれません。

そのためには、

・「イノベーション=全く新しいものを創造すること」という思い込みを、まず捨てる

・アジアを含む海外から、謙虚に好奇心を持って学んでいく

ということが必要なのだと思います。

 

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値上げと企業ブランディング

原材料費の高騰、なかなか厳しいですよね。「ウチも値上げしないと厳しいなぁ」とお考えの方も多いのではないかと思います。

一方で、値上げは消費者に痛みを強います。ですので値上げが企業ブランディングにどんな影響を与えるかも考える必要があります。では、どのように考えれば良いのでしょうか?

世界的なブランドの大家であるデービッド・アーカーは、1980年代に「これまでのマーケティング活動の蓄積が、いまのブランドを創り上げている」というブランド資産(ブランド・エクイティ)の概念を提唱しています。

アーカーは1996年にこの考えをさらに進化させ、『「われわれはこんなブランドを目指すのだ」と考え、あるべきブランドの姿に向かってマーケティング戦略を考えるべきだ』というブランド・アイデンティティという概念も提唱しています。

ブランド資産「マーケティング活動の結果(ゴール)」です。ブランドアイデンティティは逆に「マーケティング活動の出発点」になります。

値上げを考える際には、この2つの視点で考えると、わかりやすく整理できます。

■私たちは「強いブランドなら、値上げしても理解は得られるのでは?」と考えがちです。

しかしこれは間違いです。一般論ですが、値上げは顧客に痛みを強いるために、ブランド資産を毀損します。
「強いブランド(=既にブランド資産がある状態)」ならば、弱いブランドよりも理解が得られやすい可能性があります。しかし値上げはブランド資産を毀損するわけですから、その毀損を最小限に留める努力は必須です。

■また、私たちは「ステルス値上げならブランド価値は守れるのでは?」とも考えがちです。

ステルス値上げとは、価格据え置きで商品量を減らすような隠れた値上げのことです。確かに気付かれにくい面がありますが、これは好ましくありません。

プライシングスタジオ株式会社が2022年6月2日に「ステルス値上げに関する調査」(調査数341件、回収期間4月1〜15日)を発表しています。→リンク

・ステルス値上げを知っている人は66%
・ステルス値上げが増えていると感じる人は69%
・「不快に感じる人」は26-35歳が最も多く63%。一番少ない46歳以上は43%
・「仕方ないと思う人」は46歳以上が最も多い57%。一番少ない26-35歳は38%

つまり消費者は、意外とステルス値上げに気がついています。しかも一定数の人が不快に感じてます。これらの人たちには「この企業は誠実ではない(=消費者が気づかぬように損失を与えている)」という印象を与えているわけで、ブランド資産が毀損していることを示しています。これってあまりいいことではありませんよね。

一方で数年前と比較して、現在は原材料などの高騰が社会的に広く共有されています。誠実に説明をすることで、消費者が値上げを受け容れる素地が整っています。透明性ある説明をすることにより、逆に消費者に誠実さを訴求する機会となり、ブランド資産の毀損を最小限に留められる可能性が高いと思います。

■「値上げが続いているので、環境対応とかのメッセージを大々的に訴求すれば、値上げも理解を得られるのでは?」と考える人もいます。

ここで重要なのが「ブランドで何よりも大切なのは、顧客から見た首尾一貫性(言行一致)だ」ということです。

そのメッセージが、会社が常日頃言い続けているビジョンや使命(目指すブランドのあり方を示すブランド・アイデンティティ)と首尾一貫していれば、確かに受け容れられる可能性があります。

しかし「環境対応はブームみたいだから、取りあえずこれと組み合わせればいい」という企業の安易な姿勢は、確実に消費者に足下を見られます。

値上げは苦渋の決断です。そんな場面だからこそ企業の姿勢が問われます。対応次第では「お里が知れますよ」っていうことですね。

なお、ここまでの話はあくまで値上げ発表とブランディングについて考察したものです。

消費者が店頭でどのような反応をするかは、別途詳細な検討が必要です。たとえば消費者が商品棚にあるA商品とライバルのB商品を見比べて、お値打ち感があるB商品を選ぶ…ということが起こります。

ともあれ、原材料高騰は、長いことデフレが続いてきた日本経済にとって一大転機になり得ます。この値上げを、長期低迷が続いていた人件費アップに繋げて、日本を豊かにするチャンスに転じたいですね。

 

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内田和成著「イノベーションの競争戦略」は、イノベーションの教科書

多くの人は「イノベーションは、画期的な商品やサービスを生み出すことだ」と考えています。そして画期的な商品を作ろうとしますが、空振りします。そしてこんな反省をします。

「敗因は、新たな価値を生み出せなかったことだな…」

これは正しいのでしょうか?

先月末(2022年4月)の新刊「イノベーションの競争戦略」(東洋経済新報社)の著者・内田和成先生は、国内外のイノベーション事例を1000件近く調べた末に、こんな結論を提示しています。

『世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスは、企業におけるイノベーションの必要条件ではない。それよりも新しい製品・サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそがイノベーションの本質である』

2001年、ビル・ゲイツ、ジョブズ、ベゾスといった大物達が「人の移動を変える革命的商品」と絶賛した商品が発売されました。「セグウェイ」です。人が立ったまま乗るボードの両側に2つ車輪が付き、真ん中にハンドルがついて、立ち乗りで最高時速19Km/hで走れます。当時の画期的技術でした。

しかし交通ルール上、乗る場所が限られていましたし、価格も100万円近くておいそれと買えません。結局普及せず、世紀の大失敗になりました。

一方で、2007年に登場したiPhone。携帯電話も、インターネット用デバイスも、iPodも既存技術。画期的技術は何もありません。

しかしiPhoneは、説明不要で誰にでも使える優れたユーザーインターフェイスで様々なアプリを使えました。その後ウーバー、Airbnb、メルカリなどの新しいサービスが立ち上がり、世の中を大きく変えるイノベーションになりました。

内田先生は、本書でこのように述べています。

『「顧客の価値観・態度が変わって、結果として生活やビジネス上の行動が変わったか?」という問いに対する答えが「YES」のものがイノベーションなのだ』

では、どのようにすればよいのでしょうか?

本書では「イノベーションストリーム」という概念を紹介しています。次の4ステップです。

①価値創造のドライバー

②価値創造

③態度変容

④行動変容

具体的に見ていきましょう。

①価値創造のドライバー… 価値創造を受け容れる世の中の変化を見極めます。たとえばコロナ禍で人々の行動は大きく変わり、様々な変化を受け容れるようになりました。

②価値創造… 技術革新・社会構造・心理変化を見極めて、新しい価値を提供します。たとえば「レストランの宅配サービスの提供」。

しかし残念ながら、多くの企業はこの②で留まっています。イノベーションを起こすには、しつこく③と④を追求することが必要です。

③態度変容… 「お、これ使えるね」というように顧客の態度が変わることです。たとえば外出できない中で「外食したい」という人が「なるほど、宅配サービスであの店のメニューを自宅で食べられるのはいいなぁ」と考えるようになりました。

④行動変容… 実際に顧客の行動が変わり、定着することです。「実際に出前館やウーバーイーツを使って注文する」という行動が定着することです。

ここで紹介したiPhoneもウーバーイーツも出前館も、新しい技術は何もありません。しかし人々の行動変容を起こしたイノベーションです。

誤解を恐れずに言えば、イノベーションが起こせれば、技術革新とか新しい価値創造とかは、はっきり言ってどうでもいいのです。イノベーションで重要なのは、顧客の行動変容を生み出したか否かです。

もう12年も前の話ですが、2010年1月16日の日本経済新聞の1面「企業 強さの条件」に、中国企業や政府に広がるこんな言葉が紹介されていました。

「三流企業がものをつくり、二流企業が技術を開発、一流企業がルールを決める」

日本は自分たちを「技術先進国」と思っています。確かに技術は大事です。しかし技術はイノベーションの一要素です。このことがわかっている人たちにとって、日本の先進技術はイノベーションを起こすための「単なる燃料」に過ぎないのかもしれません。

「イノベーション」は1956年の経済白書で取り上げられ、日本で広く知られるようになった、と言われています。しかしこの時、「イノベーション=技術革新」と訳しました。この世紀の誤訳が、日本人のイノベーション下手を招いているのかも知れません。

内田先生はこのように書いています。

「トンビに油揚げをさらわれるという格言があるが、油揚げをさらったものがイノベーターである」

シュンペーター曰く「イノベーションとは既存知と既存知の新しい組み合わせ」です。それを「油揚げをさらったものがイノベーターである」と表現するあたりが、いかにも内田流です。

そして内田先生はこのように続けます。

「…となるとポイントは新しい価値を自社で生み出すことではなく、その価値をいかに顧客に根づかせるか、にあるということが理解できるだろう。そのためには自社の資源にこだわることなく、使えるものは何でも使うという考え方に行きつく。それができないのが日本企業の弱いところである」

その上で本書では次の4つの提言をしています。

【提言1】行動変容にコミットする…新しい価値を生むよりも、人々の態度変容と行動変容を起こせ

【提言2】イノベーションを見るレンズを変える…態度変容と行動変容の種を探せ

【提言3】事業継続に強くこだわる…ユーザーの態度・行動が変わるところまで継続できるかがカギ

【提言4】自前主義を放棄する…イノベーションを分業で実現せよ


実は内田先生には、本書刊行の2ヶ月前に永井経営塾のゲストライブに登壇いただき、本書の内容を特別にお話しいただきました。

この時も直接内田先生からお話しをお伺いして「なるほど」と思ったのですが、本書を実際に読んで「行動変容を起こすのがイノベーションだ」という考え方がストンと腹落ちしました。1000件近くの事例を分析した成果なので、事例も実に豊富です。

現代におけるイノベーションの教科書として、ビジネスに関わるあらゆる人たちに強くオススメしたいと思います。

 

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デパ地下で体験した「俺の」戦略

写真は「俺のEC」より

近所のデパ地下の特設コーナーに、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」が出店していました。お店のメニューが8種類ほど冷凍食品で売られています。

早速購入し、その晩、家で食べてみて驚きました。「俺のフレンチ」で食べるのと全く同じクオリティなのです。

「でも特設コーナー、5月末まで。この後どうしよう? もしかしたらECサイトがあるかも…」

検索したら「俺のEC」というサイトがありました。しかもメニューは数十種類。

そこで考えました。「これって次世代店舗戦略そのものだ…」

最近、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)に特化したネット直販企業が様々な分野で台頭しています。

D2Cは問屋・小売店を通さないので、流通コストは最小限。消費者と直接繋がり、消費者も深く理解できます。一見万能。ただ致命的なジレンマがあります。

リアル顧客の接点がないので、体験を提供できません。体験の提供という点で、リアル店舗は圧倒的に優位です。

そこでD2C企業は、リアル店舗を展開し始めています。米国で男性用スーツを提供するD2C企業IndochinoのCEOは、こう言っています。

「街に出店するたびに、その地域の認知度や売上がオンラインだけの場合と比べて4倍に伸びた」

消費者認知が広がり、売上が伸びるのです。

私もデパ地下で「俺のフレンチ」体験をしなければ、「俺のEC」を検索しませんでした。リアル店舗で体験した結果、「ECで買おう」と考えたわけです。

「俺のEC」では「俺のサブスク」もあります。毎月、食パン15個(月額4,298円税込)、またはスープ8食(月額3,218円税込)を配送します。抜かりないですね。

当初、「俺の」はリアル店舗の客を高回転で入れ替え、薄利多売で高収益を狙う戦略が大当たりしました。

しかしコロナ禍で、店に人が来なくなりました。

そこで「一流シェフによる美味しい料理を、リーズナブル価格で楽しめる」という自社の強みを活かして、リアル店舗に依存しない戦略を進めているのでしょう。これを実現するには、冷凍食品でも味が劣化しない調理法の模索など、裏では様々な工夫をしているのではないかと思います。

そこで「一流シェフの美味しい料理を、リーズナブル価格で…」という強みを活かし、「…自宅で楽しめる」という新戦略を進めているのだと思います。

この戦略実現には、冷凍食品でも味が劣化しない調理法など、裏では様々な工夫をしていると想像します。

デパ地下の「俺の」体験で、色々と学ぶことができました。おかげで体重も少し増えてしまいました。

 

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生産性向上では成長せず、売上は下がる


こんな発言をよく見かけます。

「我が社は徹底的な生産性向上を追求して、成長する」
「日本は生産性向上を徹底して、成長しなければいけない」

確かに生産性向上は大切です。効率を上げることは、ビジネスの必須課題です。

しかし生産性向上だけでは、成長はしません。むしろ縮小します。これは簡単な計算でわかります。

売上1億円を達成するために、コスト5000万円かけていたとします。
営業利益は1億円-5000万円=5000万円。ですので営業利益率は50%ですよね。

ここで生産性向上を頑張って、コストを3000万円に下げたとします。しかし当然ながら、ライバルも生産性向上に励んでいます。そこで多くの場合、値下げしなければなりません。

でも値下げしても、営業利益率(=儲け)は維持したいですよね。そこで営業利益50%を維持する、と仮定しましょう。

 売上 = コスト + 営業利益
 営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上

ですよね。

コスト3000万円で営業利益率50%を達成する場合の売上は、この式にあてはめて考えると6000万円になります。(計算式は省略します)

つまり生産性向上を頑張ったのに、売上は1億円→6000万円に下がってしまいました。

実はこれが、日本の「失われた30年」の正体です。生産性向上は必要です。でも生産性向上だけでは、売上は下がるのです。しかしこんな反論がありそうです。

「でも日本って、生産性向上でずっと成長してきたんじゃないの?」

その通りです。ただし、それは高度成長期までの話。市場が成長していて、日本の生産性がまだ低かったので、ライバルよりも頑張って生産性向上すれば、成長して新たに生まれた市場をゴッソリ獲得できました。しかし現代では市場は成長していません。

問題は、もはや市場が成長していないのに、高度成長期に生まれたこの成功パターンを続けていることです。

生産性向上は常に行っていく必要がありますが、それだけではダメなのです。

いま必要なのは、新しい価値を生み出すこと。つまり価値創造です。

いまのやり方を改善するのは必要なことですが、長い目で見ると、それだけではジリ貧に陥ります。

いまのやり方をむしろ忘れて、全く新しい商品やサービスを生み出すチャンスはないか?

お客様は本当は何を熱望していて、喜んでお金を払おうと考えているのか?

低成長時代のいまこそ、「ウォンツ(潜在的ニーズ)の発掘」が必要なのです。

 

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強みを活かして業界常識を否定し、シェア倍増したプリンター会社

ビジネスプリンター業界の鉄則は、「販売後の補修や保守管理で稼ぐ」。いわゆる「ジレットモデル」(髭剃りのように、本体を低価格で売って替え刃で儲けるモデル)です。

この市場で、OKIのプリンターのシェアは4%程度に甘んじていました。OKIのプリンターはLED方式。ビジネスプリンターの主流であるレーザー方式よりも部品が少なくシンプルな構造、かつコンパクトでした。しかしこの強みが活かせず、大手と価格勝負に陥っていたのです。

そこでOKIの国内営業部長はこう考えました。

「部品数が少なく、構造がシンプルなら、故障は少ないはず。保守モデル自体がナンセンスだ」

そこでOKIは、常識の真逆を行く大胆な方針を打ち出しました。

「5年間無償保証」

結果、4%だったシェアは、2013年には10%と倍増しました。

この営業部長が、2022年4月1日に取締役を経ずに執行役員から12人抜きでOKIの新社長に就任した森孝廣氏です。(詳細は、今週発売の日経ビジネス2022年4月18日号(p.92)に掲載されていますので、ぜひご覧下さい)

この話は、自分たちが持つ強みを徹底的に見直した上で、業界の常識を「そもそもそれって違うんじゃないの?」と疑うことが、大きなチャンスをもたらしてくれるということを教えてくれます。

現在の常識は、神様が決めたことではありません。過去にどこかの会社にいる誰かが「自分たちの強みを活かせば、こんなおいしい商売ができる」と考え、それが顧客に受け容れられた結果、出来上がったモノです。

だから業界の常識は、私たちが自分に有利なように自由に上書きしてもまったく問題はないのです。それが顧客のお困りごとを解決できれば、新しい常識として定着します。いまの常識は上書きされるためにあります。そして、世の中はこうして常に進歩していきます。

御社で生かし切れていない、他社にはない強みは、何でしょうか?
その強みで、業界の常識はどのように変えられるでしょうか?

 

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30年ぶりのアサヒ新スーパードライ号

アサヒスーパードライ発売は、日本が元気だったバブル期前夜の1987年。この時期、アサヒビールは販促の一環で、全国で飛行船「スーパードライ号」を飛ばしました。

当時、空を見上げると、銀色のボディに「スーパードライ」と書かれた飛行船が青い大空に浮かんでいました。40代以降の方は、当時のことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか?

この頃、私は東京湾岸の写真撮影に凝っていました。1993年頃、早朝の横浜の大黒ふ頭に停泊しているスーパードライ号を撮影したのが、この写真です。

なかなか存在感があります。

そんなアサヒですが、このたびスーパードライをフルリニューアル。味も変えました。その販促の一環で、日本列島の空に新スーパードライ号を飛ばしています。

「空を見上げようよ!」

というメッセージは、新型コロナで家に籠もりがちだったり、戦争などの暗い話題が多い中、分かりやすいですね。反響も大きいようです。

一方でヒット商品の味を変えるのは、鬼門です。

■1996年、キリンは主力商品ラガービールを生化しました。

当時、キリンは新商品「一番搾り生ビール」がヒットしていましたが、スーパードライが「生売上No.1」を訴求して一番搾りを攻撃してきました。そこでキリンは「スーパードライの生売上No.1は阻止すべし。世の中は熱処理のラガーでなく生を求めている → よってラガーを生にしよう」と考えたようです。

しかしラガービールのファンは「オレのラガーに何してくれた」と激怒。離れてしまいました。これがきっかけで、キリンはビール業界トップシェアの座をアサヒに譲り渡しました。

■1980年代、コカ・コーラも味を変えてニュー・コークを発売しました。

当時、ライバルのペプシが「ペプシチャレンジ」という目隠しテストキャンペーンで、消費者がコークでなくペプシを選んでいる様子をCMで大量に流し、コカ・コーラのシェアを奪い続けていました。

コカ・コーラは「だったら、ペプシよりも美味しくしよう」と素直に考え、消費者テストを重ねて、より美味しいニュー・コークを発売したわけです。

しかしコークファンは「オレのコークに何をする!」と大反発。不買運動にまで発展してしまいました。

そこでコカ・コーラは半年後に誤りを率直に認め、ニューコークを撤回し、オリジナルのコークを「クラシックコーク」という名前で発売しました。これでコークファンが一気に戻り、コカコーラは業績を拡大しました。

では、なぜブランドリニューアルは鬼門なのか?

消費者のブランド認知は、消費者の脳内にあります。ヒット商品ほど、このブランド認知は消費者の脳内に強くこびりついています。

「ブランドは企業の所有物」と勘違いするビジネスパーソンが多いのですが、ブランド認知は消費者の脳内にあるわけですから、ブランドの所有者は消費者です。ですので企業が勝手にブランド認知を書き換えることは、本来はご法度なのです。

当然のことながら、マーケティング巧者のアサヒはすべて熟知した上で、スーパードライをリニューアルし、周到な手を打っているはずです。

新しいスーパードライの味は、SNSを見る限り好評のようです。当初のアサヒの狙いだった「スーパードライを知らない若い世代への訴求」は、ひとまずは順調のようです。

一方でスーパードライのコアファンは、おそらく1990年頃のアサヒ・スーパードライ号を見ていた50〜80代のシニア層でしょう。大多数の彼らは、あまりSNSをやりません。サイレントマジョリティである彼らは、どのように反応しているのでしょうか?

果たしてスーパードライの大胆なリニューアルは、吉と出るのか、凶と出るのか。

今後の動きを注目していきたいと思います。

 

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「マーケティングなんぞ、やらん」という社長


こんなご相談をいただきました。

「社長に『ウチもマーケティングやりましょうよ』と提案したら、烈火のごとく怒り始めたんですよ。『ウチはそんなものはやらんぞ!』というんです。どうしたもんでしょうか?」

実は、こんな人は少なくありません。

そもそも一言で「マーケティング」といいますが、人によって捉え方は様々です。

「マーケティングって、要は販売促進でしょ」
「広告や宣伝がマーケティングだよね」
「マーケティング、日々やってますよ。ボク、セールスですから」
「市場調査のことだよね」

残念ながら、これはみな大きな勘違いです。

ひらたく言うと、マーケティングとは新たな価値を創り出し、その価値を相手に伝えて、価値を届ける方法です。

販促、広告・宣伝、セールス、市場調査、ブランディングなどは、マーケティング活動の一環です。

ちなみに日本マーケティング協会は1990年にこのように定義しています。

「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。」

しかし現実にはマーケティングを正しく理解している人は、世の中にはあまりいません。

この社長さんは、恐らく次のように思っている可能性大です。

「マーケティングなんて、要は安いもののブランドイメージを高めて、高い値段で騙して売る方法だ」

確かにこう思っていたら「ウチはそんなものはやらんぞ!」ってなりますよね。でもマーケティングの考えって抽象的なので、なかなか説明してもわかってもらえないもの。なかなか悩ましいですよね。

そこでこんな人に会った時にオススメの方法があります。「マーケティング」という言葉を使わずに、マーケティングの概念を考えながら対話をするのです。こんな感じです。

「そもそも社長って、どんなお客さんの問題を解決しようと思っているんですか?」
「そりゃ、○○○で困っているお客さんだよ。この会社を始めたのも、A社さんがこの問題で困っていたのがきっかけなんだ」
「なるほど、その問題って、ウチの会社でどうやれば解決できるんですか」
「前から取り組んでいた技術があってね。これを使えば△△△できるんだよね」
「いいですね。ではそのお客さんって、この世の中にどのくらいいますかね?」
「オレの感覚ではものすごく多いよ。A社さん以外にも、業界で最低1000社くらいいるんじゃないかな? みんな困っているんだよな」
「どのくらいの効果が出るものなんですか?」
「かなりコスト削減できるんだ。生産コストを1割下げて、生産時間も2割短縮できるね」
「すごいですね。どの位で売れるものなんでしょうか?」
「そうだなぁ。生産コスト削減分の2〜3割程度の価格だったら売れるから、300万円くらいかな」
「案件1件あたり300万円で、最低1000社ですから、30億円くらいの市場規模ってことですね。じゃぁ、そのお客さんにどのようにすれば知ってもらえますかね」
「そうだな。お客さんの社長がよく読んでいる業界紙があるんだ。これで取り上げもらえば、お客さんに知ってもらえると思うな。業界初の商品だから、きっと記者さんも興味があると思うんだ」
「じゃぁ、その業界紙に連絡を取って、取材してもらいましょうよ。私の知り合い経由で頼んでみますよ」
「お! いいね。そうしよう」

かなり端折って書いていますが、こんな感じで社長と会話を続けて、実際に仕事を進めることで、マーケティングの考え方が社内で根付いていきます。成果が出始めたら…

「ところで社長、このやり方を、世の中ではマーケティングって言うらしいですよ」

と言えば、社長も、

「へぇ。オレがいつもやっているやり方が、マーケティングっていうのか」

と思ってくれるかもしれません。

ちなみに先日、獺祭で有名な旭酒造の桜井会長と永井経営塾ゲストライブで対談した時も、桜井会長は「ウチはマーケティング、やらないんですよ」とおっしゃっていましたが、実に自然にマーケティングをやっておられる最強のマーケターでした。マーケティングという言葉を使わなくても、出来る方は当たり前にやっておられるのですね。
→詳細は『本気でお客様を考えれば、自ずから最強のマーケティングになる』

 

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PRは、広告ではありません

「あ、PRね。広告のことでしょ。でもウチは宣伝しないんだよね」

マーケティングの仕事をしている方でも、こんなことを言う人がいます。

これは大きな勘違い。PRと広告は、全く違います。
「正反対」と言っても過言ではありません。
しかし意外と多くの方が、このことをご存じないようです。

PRはパブリック・リレーション(public relation)の略です。
ひらたく言えば「広報活動」のことです。(実際にはより広い概念ですが)

よく新製品発表などで、記者やメディア関係者を集めて製品説明会を行いますよね。
そして記者たちは新聞・雑誌・Web記事などでその様子を記事にします。
テレビのニュースで流れることもあります。
これは典型的なPRの活動です。

広告とPRを比較すると、こんな違いがあります。

        【広告】   【PR】
伝達手段    広告枠    メディア、SNS
メディア支払い 有り     無料
発信者     企業     メディアや消費者
企業による管理 100%管理可能 全く管理不可
代理店     広告代理店  PR会社
メディア担当者 広告部    記者・編集者
信頼度     低い     比較的高い

このように説明すると、「お。PRって無料なんだな。つまり無料の広告ってことだね。わかった」という人がいたりするのですが、これは大きな勘違いです。

広告とは違って、PRはどんな形で世の中に情報が出るかは管理できません。「まったく無反応」ということは少なくありませんし、伝え方が悪いと大きく誤解された情報が出回り、現場が苦労することもあります。

「だったらメディアに出す情報を事前チェックすればいい」という方もいるのですが、これはまさに「PR=無料の広告」という勘違いです。記者やメディア担当者が客観性を持って報道することが、読者や視聴者に対する信頼感に繋がります。情報発信者に対して第三者のスタンスを維持する必要があるのです。ですのでPRでは基本的に事前チェックはできません。このようなメディアの洗礼を受けた末に世の中に出されるので、PRは信頼度が広告よりも高いのです。

なかには「おカネと手間をかけて発表会をしたのに、どこも取り上げない」と言う人もいます。

記者やメディア担当者は、読者や視聴者にとって価値がある情報を発掘しようとしています。

あなたはニュースを見ていて、「お!これ凄いゾ」と思って見入るのは、どんなニュースでしょうか?
「どこぞの大企業が新商品を発表した…」とかいうニュースは興味ないはずです。「これまでになかった商品」とか「これが欲しかったんだ」「驚いた」「世界最高」といったニュースなら、見ようとするのではないでしょうか?

記者やメディア担当者も同じです。労力をかけて取材をするのは、価値がある情報を世の中に届けたいからです。どこもニュースで取り上げてくれないのは、「ニュースバリューがない」と思われた結果なのです。

実際には、巧みなPR活動で商品を広く世の中に認知させる企業は少なくありません。

その典型がアップル。新商品が出るとこぞってメディアでは詳細を報道します。これは消費者がアップルの新商品情報を求めているからです。

「それ、アップルだからでしょ? 参考にならないよ」という方もおられるかもしれませんね。

しかし資金力に劣る小さな会社や組織だからこそ、ニュースバリューさえあれば、PR活動は実に有効です。

バルミューダの寺尾玄社長は、新商品を出す度に記者会見で商品の思いを語ります。
「子供たちの目を守りたかった。だからBALUMUDA THE LIGHTを作った」
「パンが美味しくなるなら、ご飯も美味しくなるはずだと考えた。だから18ヶ月かけて、BALUMUDA THE GOHANを作った」

鳥取県の平井知事は「ダジャレ知事」で有名です。
「鳥取にはスタバはないですけれども、日本一のスナバ(鳥取砂丘)があります」
「私たちは、カニはあるけど、カネはない。(だから知恵を出している)」

また「日本一の星空の村」として今や全国ブランドの阿智村でプロジェクトリーダーを務める松下さんとお話しした時に、100名以上が記載されているメディア関係者リストを見せていただいたことがあります。松下さんは何か星にまつわる阿智村のニュースがあるたびに、それをメディアで取り上げられやすい形に加工して、プレスリリースにしてこのメディア関係者に送っています。阿智村が「日本一の星空」ブランドを獲得したのは、こんな地道な努力を重ねた結果です。

広告とPRの違いを理解し、PR活動を地道に積み重ねることで、強いブランドが築き上げられるのです。

 

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日本の大企業は、顧客体験で圧倒的に負けている現実を知るべきだ

最近、何かと注目の顧客体験。CX (Customer eXperience)とも言われます。

「CXねぇ。スマホアプリとかの世界でしょ。ウチは関係ないなぁ」

と思ったら、要注意。御社は知らない間に、既に顧客体験で圧倒的に負けていて、ビジネスを失っている可能性があります。

最近もこのことを実感しました。

日本を代表する大手保険会社との契約が満期になりました。
この解約→払戻金を受け取る、という簡単な作業が、一苦労なのです。

まず数ヶ月前、書類が届きました。でも何をすればいいか書いていません。

1週間後、担当者から電話がありました。解約・払い戻しの意向を伝えましたが、「当社ルールで、電話だけでは承れませんので、対面でご説明します。空いているお時間をください」とのこと。

そこでオンラインでの打合せをお願いしました。

打合せはZoomでなく、この会社独自仕様のオンライン会議システムでした。
しかしこれが繋がらないのです。先方から電話を受けつつ、15分間試行錯誤をしましたが、結局繋がらず。「こちらでZoom会議セットしましょうか?」と提案しましたが「当社はZoomは使えないので」。

結局、電話での説明を受けることになりました。30分かけて書類を1枚1枚丁寧に説明を受け、解約・払い戻しの意向を再度伝えました。

1ヶ月後、この会社からなぜか契約再延長の書類が届きました。なぜか振込用紙に金額も記入されてます。

「あれ?なんだろう、これ?」

念のため担当者にメールで確認したところ、満期のお客さん全員に送っているとのこと。これまでのやり取りは一体、何だったのでしょうか?

書類の文面は生命保険用語満載でとてもわかりずらいので、よくわからない人は「払えばいいのね」と振込用紙記載の金額を払ってしまう可能性大でしょう。確かに売上が上がるかもしれません。しかし控えめに言っても品がよいとは言えないやり方ですよね。

…ということで、いまだに解約できておりません。日本を代表する大手保険会社なのですが、これはお世辞にも優れた顧客体験とは言えませんよね。

私はネット系の保険会社と契約していたことがあります。こちらの解約は、数個のクリックだけで完了。実にスムーズでした。

もし知人に保険を勧めるとしたら、私はネット系の保険会社の方を勧めるでしょう。この大手保険会社は、知らぬ間に既に顧客体験で圧倒的に負けており、ビジネスを失いつつあるのです。

問題は、この大手保険会社が時代の2つの変化を、いまだに知らないことです。

1つ目は、現代の消費者が、手間がかかることを嫌悪するようになったこと。

一例を挙げると、ほんの十年前にウェブサイトでモノを買うとき、私たちは3〜4回のクリック+文字入力を当たり前に受け容れていました。いまはスマホで1回ポチるだけ。3〜4回のクリック+文字入力が必要だと、「このサイト、使いにくいから、パス」です。

マシュー・ディクソンは著書「おもてなし幻想」で、顧客努力(顧客が問い合わせに要した努力)の違いで、顧客ロイヤルティ(再購入率)がどの程度下がったかを、消費者97,176人に調査しました。結果は…

・顧客努力を強いられる問い合わせ 96%の顧客が下がった
・顧客努力を強いられない問い合わせ 9%の顧客が下がった

つまり顧客努力が強いられると、次はほぼ確実に買わなくなる、ということです。

さらに顧客努力の減少は、売上に直結します。

・高努力を強いられる場合 再購入率4%、購入拡大率4%
・低努力で済む場合    再購入率94%、購入拡大率88%

顧客努力を減らすことで、売上が増える、ということです。

世の中で使いやすいサイトや使いやすいサービスが成長しているのは、使いやすくなるように地道な努力を続けた結果なのです。

2つ目は、「顧客の口コミ」が圧倒的に強くなっていること。

顧客体験の第一人者であるジョン・グッドマンが提唱した「ジョン・グッドマンの法則」というものがあります。

第1法則… 不満客の中で、苦情を言って解決に満足した客の再購入率は、苦情しない客よりも極めて高い

第2法則… 苦情処理に不満な客の非好意的口コミの影響は、満足客の好意的な口コミの影響に比較して、2倍強く販売の足を引っ張る

この法則は数十年前に提唱されました。いまや消費者の声は、SNSでさらに強くなっています。

しかし大きな企業ほど、そんな状況は蚊帳の外。社内事情しか目に入りません。そのため現場の担当者だけでなく、意志決定をするマネージャーや責任者ほど「消費者は手間がかかるのを嫌悪する」「悪い噂はSNSで拡散する」という状況に疎いようです。

大きな企業に勤める方ほど、もう少し世界を外に向けて、自分の判断が世の中の動きとギャップがないかを確認した方がいいのではないかと思います。

 

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9割のメッセージは伝わらない。だからWHYから語れ

全く伝わらないマーケティングメッセージ、実に多いですよね。
感覚的には世の中の9割が全く伝わらずスルーされる感じです。

たとえば…

・業界最軽量のカメラを新発売
・扉が開いていたらスマホで通知する冷蔵庫
・プロがこだわり抜いた食材を使った逸品

どれも真心こめて開発された商品やサービスなのだと思いますが、残念ながらどれもメッセージが心に残らないので、スルーされがちです。結果、膨大なライバルのメッセージに埋もれてしまい、売れません。

一方で、伝わるマーケティングメッセージもあります。

たとえばジョブスは2007年、当時世の中に氾濫していたボタンだらけの「スマートフォン」と呼ばれていた写真を見せながら…

「スマホっていうけど、キーボードって全然スマートじゃないよね」

と言った上で、

「だからiPhoneを作ったのさ」

と言いました。

さらに他社の分厚いノートパソコンの写真を見せながら…

「薄型ノートっていうけど、分厚いよね」

と言った上で、大型封筒を取り上げて

「だからMacBook Airを作ったのさ」

と言いながら、封筒から超薄型のMacBook Airを見せました。

またバルミューダの寺尾玄社長は、

「子供たちの目を守りたかった」

と言った上で、

「だからBALUMUDA THE LIGHTを作った」

と言いながら、定価37,000円の卓上ライトを発売しました。

伝わらないメッセージと伝わるメッセージの違いを解明する上で参考になるのが、サイモンシネックが著書「WHYから始めよ」で提唱した「ゴールデン・サークル・モデル」です。これはメッセージを「WHY」「HOW」「WHAT」という3つの円(サークル)を重ねたものです。

伝わるマーケティング・メッセージは、WHYから語っています。

WHYとは、マーケティング的に言えば、「顧客の便益」(カスタマーベネフィット)です。

1割の伝わるメッセージは、WHY→HOW→WHATの順で語ります。こんな構造になっています。

①まず顧客の便益から語る。(WHY)
②その実現のために、どうしたかを語る。(HOW)
③その結果、どんな商品やサービスに仕立てたかを語る。(WHAT)

逆に冒頭の9割の伝わずスルーされるメッセージは、WHATから語っています。WHYはなかったり、あっても最後にオマケで付いている程度。こんな構造です。

①どんな商品やサービスかを語る。(WHAT)
②どうやって作ったかを語る。(HOW)
③顧客の便益を語る。(WHY)←そもそもこれがないものも多い

WHY(=顧客の便益)から語るようにすれば、あなたのメッセージは伝わるようになるのです。言われてみれば実に当たり前のことなのですが、実際には9割のメッセージができていないのもまた、現実なのです。

いまの御社のメッセージ、WHYから始めていますでしょうか? この機会に、ぜひチェックしてみて下さい。

 

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「目からウロコ」のイノベーションは、例外中の例外

2月24日に行った永井経営塾ゲスト・ライブは、いつもたいへんお世話になっている早稲田大学ビジネススクール・内田和成先生をお迎えして、1時間の対談でした。とても学びが多く濃い時間でした。

その中の1トピックをピックアップしたいと思います。

内田先生は、4月1日に東洋経済新報社から『イノベーションの競争戦略: 「0→1」を狙うか? 横取りするか?』を刊行されます。その内容について、先取りしてお話しいただきました。

内田先生は、2年半かけて1000件もの世の中の様々なイノベーション事例を調べて、本書を書かれたそうです。

そしてわかったのは、「目からウロコの大発明」が成功するケースはまったく少数派だということ。

実際のイノベーション成功事例は、多くは、

・地道にやり続けたらようやく到達した
・最初に発明した人が途中で力尽きたプロジェクトを横取りしたら、成功した

…というものが、圧倒的に多かったそうです。

イノベーションとは、「新しいことを生み出すことだ」と言われます。ただこれは必要条件に過ぎません。

それに加えて、「新しいことを定着させて、消費者の態度や行動の変容を生み出すこと」がイノベーションの十分条件になってくる、ということです。

まとめると、イノベーションを生み出すには、

・新しいことを生み出す
・それを定着させて、消費者の態度や行動の変容を生み出す

この二つが必要なのだ、というのが、内田先生の新刊のメッセージです。

つまり、お客さんを変えることがカギ。

これは納得のお話しでした。

お話しを伺って思い出したのが、あのイーロン・マスクでした。テスラを創業してEV(電気自動車)で世界トップシェアを獲得、さらにスペースXを立ち上げて宇宙ビジネスを軌道に乗せ、さらに都市間交通システムハイパーループや、脳とコンピューターを繋げるニューラリンクも立ち上げています。

イーロン・マスクを見ると、「目からウロコの大発明」を次々と成功させているように見えますが、そのイーロン・マスクもこう言っています。

・「すごいアイデア」や「最高の戦略」は全体の5%
・95%は、ひたすら愚直な積み重ねの繰り返し。(仮説→検証→再試行)
・正しい方向を戦略で定めて、愚直に学び、修正し続ければ、成功する可能性はどんどん高まる。

要は「しつこさ」「愚直さ」が成功のカギということです。

「自分は地道にしつこく続けている」という方は、多いのではないでしょうか? 意外なことにイノベーションはそんな先に待っているのかもしれません。

 

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「…で?」の「残念なSWOT分析」からは卒業しよう

ビジネスで勝つにはまず自社の立ち位置の状況把握。
そこでマーケティングでは定番の分析方法があります。

その一つが「SWOT分析」。外部環境(機会と脅威)と内部環境(強みと弱み)を分析して、打ち手を見つけ出します。SWOTは強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字です。

たとえばEV(電気自動車)世界最大手のテスラが2003年に創業した時のSWOTは、こんな感じでした。

【強み】イーロン・マスクを筆頭に、テクノロジーに強い人材が集まっている。
【弱み】創業したてで、実績は皆無。
【機会】EV市場は、将来大きな成長の可能性がある。
【脅威】2003年時点で、EV市場はほとんど存在していない。

(注…実際には4項目毎に、主な要素を数件ほど箇条書きします)

多くの人のSWOT分析が、これで終わってしまいます。
でもこれだけだと何をすればいいか、全く分かりませんよね。
上司や社長にこれだけ見せても、「…で?」と言われてしまいます。

実はSWOT分析は、これが出発点。この先があるのです。

次に内部環境(強みSと弱みW)と外部環境(機会Oと脅威T)を掛け算して、「勝てる打ち手」を導き出します。2×2なので全部で4通りですよね。

具体的には、SWOTを「強み×機会」「強み×脅威」「弱み×機会」「弱み×脅威」と掛け算して「クロスSWOT分析」を行います。

先のテスラのSWOT分析は、このように展開します。

【強み×機会→自社の強みを最大限に活かす方法を考える】
テスラの強みは「テクノロジー」、機会は「市場成長の可能性」でした。テスラはソフトウェア技術を徹底活用して、EVの新基準を確立しました。たとえばテスラのクルマは、ネット経由でバージョンアップすることで、新機能を追加できます。

【強み×脅威→脅威を機会に変える戦略を考える】
テクノロジーに強いテスラの脅威は「(2003年時点で)EV市場がないこと」。逆に競合も不在ですので、EVを少数出荷すれば、大きな市場シェアが獲得でき、認知度が上がります。そこでまずセレブ向けにスポーツカー「ロードスター」を発売しました。

【弱み×機会→弱みを強みに変える戦略を考える】
成長市場にいるテスラの弱みは「実績皆無」なこと。逆にこれはしがらみがないことの裏返しです。自由に様々なクルマ会社と提携できますよね。そこでテスラは「ロードスター」開発のために、英国ロータスと組みました。創業間もない頃には、トヨタとも提携していました。

【弱み×脅威→最悪を回避する戦略を考える】
「実績皆無」で「EV市場がない」というテスラにとって、売上が伸びない時期が続くと資金切れで倒産です。そこでイーロン・マスクは、先日紹介した周到なマーケティング戦略を立てた上で、分厚い資金を調達しました。大衆車モデル3では、生産が軌道に乗らずに一時は倒産もささやかれましたが、イーロン・マスクは私財を投じて資金を手当。さらに自ら工場に寝泊まりして技術面の問題を乗り切り、凌ぎました。

分かりやすいように単純化しましたが、実際にはSWOTの4項目毎に数件の要素があるので、それらを色々と組合せながら「勝てる打ち手」を導き出していくことになります。

SWOT分析は、次の理由で成果を出さないケースが多いのが現実です。

①クロスSWOT分析をせず、具体的行動を決めていない。対策がない分析は、NGですよね。
②憶測や推測、先入観や固定概念、希望的観測でSWOT分析している。思い込みは徹底排除して、事実をしっかり見極めることが必要です。

SWOTの4項目を書くだけの「残念なSWOT分析」に陥らないようにしましょう。

 

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『成功の方程式:席数×回転数』が崩壊したモスバーガーの、次の一手

日経ビジネスオンラインでこのような記事が掲載されています。

「狙いは住宅地 モスバーガー、逆張りのキッチンカー戦略」

記事のポイントは、
・モスバーガーは新業態キッチンカーを営業開始(実証実験)
・初期投資1000万円。客単価は通常モスバーガー800-1200円に対して1000-1500円
・ハンバーガーの価格帯も430-710円と高い
・人員2名、メニュー5種類のみ。仕込みは母店(近隣路面店)
・住宅街のテイクアウトを狙う
・「店よりも高い。わざわざキッチンカーに客が集まるのか」という声も。

とのこと。以上が記事のサマリーです。

以下は、私の意見です。

これまで、飲食店では『勝利の方程式』がありました。

席数 × 回転率

より多くの席数で、より多くの回転数を稼げば、売上が最大化します。このため大きな店で営業時間を長く取り、売上最大化を図っていました。あの『俺のフレンチ』『俺のイタリアン』は、まさに『席数×回転率』の勝者です。

しかしコロナ禍で、お客さんは店に来なくなり、この『勝利の方程式」は破綻しています。今や『席数が多い店』は、大きな負債です。

悩ましいのは、この破綻しているのが一時的なモノなのか、恒久的なモノなのか、見極められないこと。恒久的なモノなのであれば、新たな『勝利の方程式』を編み出さなければなりません。

そこで必要なのは、小さな試行錯誤を繰り返して、新たな『勝利の方程式』を探り当てること。

このような状況を踏まえると、このキッチンカーは次のような戦略を考えているのではないかと思います。

❶従来店内にあったカウンター(=キッチンカー)を、お客さんがいる場所(住宅地)に移動し、食事を提供する機動力をアップすることで、中食需要を拡大させて取り込む
❷商店街で店を選ぶ消費者は価格を比較するが、住宅街の消費者は価格を比較する対象がない。そこで「住宅街の消費者は、価格では選ばない(だろう)」という仮説の下で、やや高めに価格設定する
❸加えて、従来のモスバーガー店舗は個人客が多かったが、住宅街では在宅ワークの会社員を含めたファミリーが対象になるので、高い顧客単価を想定する

記事では「逆張り」と書いていますが、これまで成功していた『成功の方程式』が逆回転していて現時点で機能していないわけで、「新たな成功の方程式確立を、仮説検証をせざるを得ない」という状況。むしろ『正攻法』とも言えるのではないかと思います。

コロナ禍で、これまでの『成功の方程式』が崩壊した業界は実に多いと思います。しかしこんな時こそ、新たな『成功の方程式」を見つければ、大きな飛躍のチャンスになり得ます。

御社では、どのような新たな『成功の方程式』を模索しておられますか?

 

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テスラが20年間続けた、イノベーター理論の基本戦略

テスラは現時点で、世界で最も売れているEVです。
テスラの基本戦略は、EVがまったく普及していなかった2003年の創業時に、創業者イーロン・マスクがイノベータ理論に従って考え抜いて作りました。

ここでイノベーター理論を軽くおさらいです。
皆さんの知人で「最新型」という言葉に弱く、いつも一番乗りでモノを買って周囲に見せびらかす人はいませんか? あるいはいまだに「スマホはイヤ」という人もいますよね。この購入タイミングで人を分けるのが、「イノベーター理論」です。

次の5タイプがいて、市場のどの程度の普及率で買うかが決まっています。

【①イノベーター(普及率 0-2.5%)】新しモノ好き。常に一番乗り。別名、人柱。
【②アーリー・アダプター(2.5-16%)】「これ、よさげ」と思ったら、買います。
【③アーリー・マジョリティ(16-50%)】他人がいいと言ったら、買います。
【④レイト・マジョリティ(50-84%)】普及し終えたら、やっと買います。
【⑤ラガード(84-100%)】最後まで文句を言い続けますが、結局買いません。

テスラ創業の2003年時点で、EV課題は生産コストが高いことでした。そこでイーロン・マスクは、

①まずプレミアムカーとして、1000万円を超える高級スポーツカーを発売。
②その売上で、600万円のミドルクラスの4ドアセダンを作る。
③その売上で、大衆の手に届く300万円の大衆車を大量生産する。

…と考えました。(実はこの内容を、イーロン・マスクは2006年に「ここだけの秘密です」といってブログに書いています。なかなかお茶目な人です)

イノベーター理論がわかれば、イーロン・マスクがこの基本戦略に沿って市場をセグメンテーションして、ターゲット顧客を攻略してきたことがわかります。

①創業当時、EV最大の欠点は航続距離。バッテリーを大量に載せると車内が狭くなります。そこで狭い車内が当たり前の高級スポーツカーにバッテリーを大量に載せて航続距離を確保。2008年、テスラは『ロードスター』を発売しました。当時、高級スポーツカーでEVはロードスターだけ。環境意識が高いレオナルド・デカプリオのような米国のセレブ(イノベーター)がこぞって買いました。

②2012年、5人乗りのセダン『モデルS』を発売。オーソドックスなセダンで、最高速322キロ。価格600万円。ちょうどEVが一部で普及し始めた時期。BMWやアウディに対抗できるEVとして、準富裕層のアーリー・アダプターに売れました。

③2019年、大衆車『モデル3』の大量生産を開始。EV本格普及のタイミングを迎えて、豊富な実績があるテスラが生産する低価格な小型セダンとして、米国や中国を中心にアーリー・マジョリティが買うようになりました。

もしテスラは創業時にいきなり大衆車を出していたら、確実に失敗していたでしょう。テスラはセオリー通りにイノベーター理論に沿って、20年もの間、基本戦略を忠実に実践したおかげで、EV普及に合わせて大きく発展していったのです。

大切なのは最初はターゲットを絞り込み、攻略に成功した後はターゲットを広げ、ターゲット変更に合わせて戦略を変えることなのです。

 

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ビジネスパーソンは、骨太な本を読め

2022年1月31日に日本経済新聞の特集『Biz Frontier 書籍が開く人的資本経営』で、世界のビジネス書の動向についてインタビュー記事を取り上げていただきました。このような機会をいただき、光栄です。

そこでここでは、ページの関係で記事に掲載されなかった読書に関するお話しをしたいと思います。

現代は「先が見えない時代」です。いまの成功パターンはすぐに賞味期限が切れます。あのタピオカブームもあっという間に終わりました。

たとえると、私たちは数ヶ月毎に地形がどんどんと変わり、見知らぬ猛獣が潜むジャングルの密林を、目的地に向かって探検している探検隊です。

こんな時代に必要なのが、現場で学びながら、勝ちパターンを掘り当てること。ここで必要なのが「考える力」。考える力を深める上で、ビジネス書は強力な武器です。ビジネス書は密林探検の際のコンパスであり、難路を切り拓くジャックナイフです。

では、どんな本をよめばいいのか?

日本のビジネスパーソンは、手軽で読みやすいノウハウ本を手に取りがちです。しかし手軽なノウハウ本は当面の目的には役立ちますが、考える力が深まるとは限りません。

世界のビジネスリーダーが読む本は、ネットで検索すればわかります。ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどが推薦する本はすぐにわかります。彼らは骨太な理論書や偉人の伝記を読んでいます。このような本は「考え方」そのものが書かれているので、読み手の思考を深めてくれます。

さらに異分野の読書でも根っ子で共通する学びがあり、相乗効果で学びは指数関数的に増殖します。たとえば『成功はゴミ箱の中に』(レイ・クロック著)と『企業家とは何か』(J・A・シュンペーター著)を読むと、『レイ・クロックはマクドナルドをフランチャイズ展開して、シュンペーターが提唱した「イノベーション5つの新結合」の4つ目「新しい販売市場をつくる」を実践したのだな』とわかります。

ただ理論書は専門用語が多く、敷居が高いのが難点。そこでまずは、敷居が低い入門書から入るのがお勧めです。入門書とノウハウ本はともに手軽に読めますが、異なる点は、入門書は理論書の入口になることです。

たとえば会計なら『稲盛和夫の実学―経営と会計』、マーケティングなら拙著『100円のコーラ』シリーズ。専門用語を理解すれば、スムーズに理論書に入れます。また拙著『MBA 50冊シリーズ』も、良書を選ぶ上で役立てて欲しいと考えて執筆を続けています。

さて、ビジネス書はこの100年間のスパンで考えると、「人間と社会のあり方を真剣に考えよう」という大きなトレンドの中にあります。

20世紀前半からの20世紀末までの多くのビジネス書は、テイラーを起点にした「科学的手法」のビジネス書(数値化して計画・管理すれば最適解が得られる)が多い印象でした。その集大成が1980年刊行のポーター「競争の戦略」といえるでしょう。

一方で1960年代に「自己実現」という考え方を出発点に、理想の企業のあり方を追求したマズローの思想を始点に、人間の心のあり方に焦点を当てた流れが20世紀後半から台頭し始め、ビジネスと融合しています。

たとえば1980年代に「インテルを偉大な企業にしたい。でも従来の経営論はダメだ」と考えたアンディ・グローブは、マズローに心酔し、普通の人から最大の成果を引き出す経営手法OKRを編み出しました。OKRは創業2年目のグーグルで採用され爆発的成長を生み出し、シリコンバレーに広がり、最近では日本でも花王が採用しています。

さらに経営理論の世界では、ポジティブ心理学(チクセントミハイやデシ→アダム・グラント)や、行動経済学(カーネマンやアリエリー)の知見も取り入れ、脳科学などと組み合わさり20世紀末のロングセラー「EQ」を起点に唯物論と唯心論の融合が起こり始めています。

「社会的共通資本」を提唱した経済学者・宇沢弘文を起点に、「地球という社会的共通資本の枠内で、いかに全人類が幸せになるか」という流れが現在のSDGsに繋がり、1980年代には科学的経営に寄っていたポーターもCSVを提唱するようになりました。

「人間と社会のあり方を真剣に考えよう」とトレンドは、世界で台頭するZ世代の価値観でもあります。この流れはますます強まっていくと思います。

このように、ビジネス書の守備範囲は、大きく広がっています。これはビジネスパーソンに、高く広い視点で「考える力」が求められるようになってきたからです。

そのような骨太な本は、読めば読むほど、相乗効果で「考える力」が増殖していきます。

骨太な本を読みましょう。

 

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「運も実力のうち」の本当の意味

よく「運も実力のうち」といいます。

スピリチュアルな感じもしますが、これをマジメに研究した人がいます。 英国の心理学者リチャード・ワイズマンです。

ワイズマンは、いつも運がいい人と運が悪い人がいることに興味を抱きました。そこで8年間かけて数百人の運がいい人と悪い人に対してインタビューを続けて、実験したのです。

当初ワイズマンは「もしかしたら、運は予知能力ではないか?」という仮説を考えました。

そこで、運がいい人と悪い人700名に宝くじの当選番号を予想してもらいました。結果は、当選率はまったく同じでした。運は予知能力ではなかったのですね。

しかし実験で発見がありました。運のいい人は、運の悪い人の2倍以上「当選する自信がある」と答えていたのです。

そこでワイズマンは「運は自信と関係があるのでは…」と仮説を変更。考え方や行動を分析し始めました。

その結果、発見した次の4つの法則を、著書『運のいい人の法則』(Kadokawa)にまとめています。(拙著『世界の起業家が学んでいるMBA経営理論の必読書50冊を1冊にまとめてみた』では43冊目で紹介しています)

【第1法則】チャンスを広げる … 運のいい人は、日常生活で「運のネットワーク」を広げています。多くの人と出会い、偶然のチャンスに出会う確率を高めているのです。要は人付き合いがよく、人から好かれる仕草や表情で人を惹き付けるということです。

【第2法則】直感を信じる … 運のいい人は自分の直感に頼ります。直感は驚くほど頼りになります。運の悪い人は自分の直感を無視して後で悔やみます。ここで必要なのは、「これ、何となくヤバいことになりそうだなぁ」という「虫の知らせ」を無視しないということです。「虫の知らせ」とは、いわば「ヤバそうなコトのセンサー」のことですね。

【第3法則】幸運を期待する … 運のいい人は楽観的です。「不運は長続きせず、すぐ終わる」と考え、少しでも可能性があれば努力し、手を替え品を替えて挑戦します。運の悪い人は、逆に「幸運な出来事はすぐ終わり、不運が起こる」と考え、悲観的です。失敗すると思い込み努力も工夫もせず、失敗が現実になります。

【第4法則】不運を幸運に変える … 著者の「銀行強盗に遭遇し腕を撃たれた。運がいいか?悪いか?」という質問に、運の悪い人は「質問が変だ。運が悪いに決まってる」と即答。しかし運のいい人は「幸運。頭だと即死だ。腕でよかった」と答えました。運のいい人は、悪いことがあってもより不運な可能性を考えてダメージを減らし、将来に高い期待を抱いて幸運になります。運の悪い人は、運のいい人と自分を比較して嘆き、ダメージを引きずります。

この4つを改めて眺めると、「あの人、何か持っているよね」という人は、大抵この通り行動している人が多いことに気付きます。

これら4つの法則は、マーケティング戦略の実践で、仮説検証を繰り返していく場合でも、大切な心得ですよね。

第2法則の「直感を信じる」のは非科学的に思えるかもしれません。しかしこれは、今年1月2日に当ブログ『商品開発では、お客様に問うな。自分に問え』で書いた、『自分に問い続けて直観を掘り下げろ』ということでもあります。

本書は自分の幸運のスコアを診断できるテストも付いています。私は第2〜4法則はハイスコア、第1法則は普通でした。「人付き合いを広げると、もっと運がよくなる」という診断でした。

私たちも意識して考え方や行動を変えることで、「運のいい人」になれるのです。

 

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サラリーマン起業は脱サラせず、ゆるく副業で始めよう

「生半可な覚悟で起業に挑戦するなんて論外だ。オレの経験では、自ら退路を断ち、いちばん乗りを目指し、アイデアを絞り込んで本気で取り組まない限り、起業は成功しないね」

このように自分の成功体験を語る起業家は、世の中に少なくありません。

しかし元々、起業とは成功確率が低いもの。

「退路を断って起業するぞ」と脱サラして、失敗して再就職しようとすると、なかなか就職できないのが現実です。日本では脱サラして起業に失敗した人が再就職するのは難しいのが、厳しい現実なのです。

サラリーマンの起業は、いわゆる起業家の起業とは若干事情が異なります。そこでぜひお勧めしたいのが、最近話題の「副業」による起業。

これは私自身の経験でもあります。

30代の頃から独立を考え、週末を使って写真家を目指したりと、色々とあれこれ試行錯誤していました。やっと具体的になったのが40代後半。会社の承認を得て、マーケティングの本を副業で書き始めたときです。

執筆を始めて3年目に『100円のコーラを1000円で売る方法』がベストセラーになりましたが、素人芸人が一発芸で話題になり独立後は全然売れないという話も多いので、「独立はまだ早いな」と思って会社員と執筆の二足のわらじを続けていました。

そのうち講演・研修依頼をいただくようになりました。平日の依頼は勤務中なので丁重に辞退しましたが、週末の依頼は会社と利益相反しない限り、無償で引き受けていました。

ある日、「ぜひ謝礼を払いたい」という会社がありました。 当時、私は人材育成部長として外部に社員研修を発注する立場。その発注額と同額でした。
「IBMを辞めても、私に依頼しますか」と尋ねると、「独立してくれると、お願いしやすくなるので助かる」というご返事。

ちょうど『100円のコーラ』第3弾の刊行直前でした。第2弾の感触から確実に売れると予想できましたし、著書刊行後に講演・研修依頼が急増することも予想できました。

そこでこのタイミングで独立。今年で起業9年目ですが、おかげさまでビジネスは常に順調です。

実はこの方法、「ハイブリッド起業」と名付けられています。

組織心理学者のアダム・グラントの著書『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(三笠書房)で、成功する起業家は後発で、リスクを徹底的に避け、アイデアの量で勝負していることを、圧倒的な数の事例と研究で実証しています。

また経営学者の入山章栄教授は著書「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」で、スウェーデンのハイブリッド起業に関する研究結果を引用して、「会社勤務と並行して起業するハイブリッド起業は、起業リスクを軽減できる。現代の日本は、脱サラして起業に失敗した人が再就職するのは難しい。ハイブリッド起業は、起業の失敗リスクを大きく軽減できる可能性がある」と述べています。

起業で大事なのはリスクを取ることではありません。リスクのバランスを取ることです。ある分野で収入を確保しておくことで、別分野で大胆にオリジナリティを発揮する自由が得られます。中途半端な状態で焦ってビジネスを始めるプレッシャーからも逃れることができます。

一方で時間もかかるので、人生の中での時間を含めたリスクのバランスをどう考えるかも重要です。

このテーマは、2月2日の朝活永井塾でも取り上げます。もしよろしければ、ぜひどうぞ。

   

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永井さんは、なぜ強者が多い出版業界で勝負しているの?

ある企業様の講演会で、こんなご質問をいただきました。

『「自社の強みを探せ」ということですが、難しさも感じています。永井さんは出版業界という強者が多い業界で、どのようにご自分の強みや自分にしかできないことを見つけたのですか?』

実に的確なご質問で、しばし自分のこれまでを顧みてから、お答えしました。

結論から言うと、まず「これをやりたい」という気持ちが出発点で、試行錯誤を繰り返していくうちに気がついたら収まるところに収まっていた、という感じです。

まず現在までに至った経緯を簡単にまとめます。

■2006〜2008年頃…当時は日本IBM社員でした。IBMのマーケティング・プロフェッショナルとしてソリューションやソフトウェアビジネスに関わる一方、社内マーケティングコミュニティの活性化もしていました。そんな活動をするうちに、「マーケティングの本を出版したい」と考えるようになりました。しかし出版社には全て断られました。そこで『戦略プロフェッショナルの心得』を自費出版しました。自分がマーケティングの現場で学んだ事を理論で裏付けした本です。

■2009年頃…本を1冊書き上げて刊行したことで、「この人は一冊書き上げる力はありそうだな」と思って下さった出版社からお声が掛かりました。編集者と何度も話し合い、試案を何回か破棄した末に、「物語形式にしよう」ということになり、書き上げて出版しました。しかし残念ながら全く売れず、1年半で絶版になりました。

■2011年頃…出版社の担当編集者から、「絶版は残念でした。でもいい本なので、書き直して他出版社から出しては?」というアドバイスがありました。そこで中経出版(のちにKADOKAWAと統合)から全面的に書き直して出版しました。それが『100円のコーラを1000円で売る方法』。ありがたいことにシリーズ60万部を達成しました。

■2013〜15年頃…IBMを退職、独立しました。編集者と話していくうちに「永井の強みは、物語でマーケティングを語ることでは?」ということになり、100円のコーラ・シリーズ後も、ストーリー形式のマーケティング本を何冊か出版しました。マーケ理論を物語に落とす力量は恐らく徐々に向上していたと思います。しかしビジネス書分野でストーリー本が氾濫して「レッドオーシャン化」し始め、徐々にこの路線では売れないことがわかりました。(たった3-4年で市場が一変するのですから、世の中の流れは速いものです)

■2016年以降…さらに色々な編集者と話したり意見を伺っているうちに、『永井さんの強みは「難しい理論を噛み砕いて、面白く分かりやすく書ける」というように、もっと広く捉えた方がいい』というところに落ち着きました。おかげさまでその後、『これいったい、どうやったら売れるんですか』『なんで、その価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」』、さらにMBA50冊シリーズを出版するに至っています。

改めてふり返ると、「これ(=本の出版)を何としてもやりたい」と夢中になるものがあることが出発点だったことです。

本を書き始めた頃は、IBMのマネジャーとして会社では多忙な日々を過ごしつつ、夜は帰宅後毎日ブログを書き、週末は合唱団の事務局長として団の運営をしながら、1年1冊のペースを崩さずに執筆を続けました。

これもシンプルに、「どうしても本を書きたかったから」。

こうして夢中でやるうちに、自分ならではの「個性や強み」が徐々に見えてきます。ありていにいえば「実行した結果から学びが得られる」ということです。さらに私が様々な編集者と話し合いを繰り返したように、第三者の視点は実に参考になります。こうすることで、次第に自分の強みも見えてきます。

一方で強みには賞味期限があるので、常に見直しが必要です。私の場合も「マーケティングを物語形式で書く」という力の賞味期限は、3〜4年間と意外と短期間でした。

「自分の強みはコレ」と決め打ちするのもいいのですが、強みかどうかを判断するのはあくまでもお客様や市場状況なので、あまり強く拘らずに柔軟に見直していくことが必要ではないかと思います。

ところでご質問では「強者が多い出版業界で…」という部分があります。

実は私は、ライバルについてはあまり考えませんでした。これは当初からマーケティング発想で「自分のバリュープロポジションがあることが大事」と考えていたためです。

ライバルのことはそれなりにチェックしました。目的は「ライバルのやり方を取り込む」のではなく、「ライバルがやっていないことをやる」ためです。この発想の違いが生む結果は、実に大きいと思います。私はライバルが自分と同じことをし始めると「そろそろ河岸を変えるタイミングかなぁ」と警戒し始めるようにしています。

ですのでご質問にある「出版業界は、強者が多い業界」と言うことはほとんど意識はしませんでした。

おかげさまで強者が多いビジネス書の分野で出版した本はコンスタントに売れ続けて、現在は累計106万部を超えましたので、この戦略はそんなに間違っていないのではないかと思います。

企業が商品開発を考える際も、このパターンは同じではないかと思います。ご参考になれば幸いです。

   

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商品開発では、お客様に問うな。自分に問え

商品開発をする時、多くの人は「まず市場調査だ」とか「顧客に聞いて情報を集めよう」と考えます。しかしこのやり方は上手くいかないことが多いのです。

成功する商品開発では、お客様に質問しません。

ジョブズは顧客に聞いたり、市場調査しなかったことで有名です。彼自身が最も厳しいアップル商品のユーザーだったからです。自分が欲しい商品を作り続けました。

ソニーの盛田昭夫さんは、ウォークマン発売10周年のビデオでこう語っています。

『「カセットプレイヤーを持ち歩いて音楽を聴きたい。録音機能を外し軽いヘッドホンを作ったら楽しめるのでは?」と井深さんが言うんですよね。周囲は「録音機能のないプレイヤーは売れたためしがない」といっていましたけど、考えてみたらカーステレオも録音できない。「それならば持ち歩くステレオも、プレイヤーだけでいい」と考えたんですよ』

盛田さんも、お客様に質問しませんでした。

家電でヒット商品を連発するバルミューダの寺尾玄社長も、お客様に質問しません。競合商品のことも考えません。自分で「どんな商品が求められているか」をひたすら考え抜いて商品を開発し、商品発表会ではその物語を語ります。

彼らは必ずしも百発百中ではありません。しかしヒット商品を生み出す打率はライバルを圧倒しています。

彼らがライバルと違うのは、お客様に問うのではなく、自分に問い続けている点です。

「お客様に問うのが正しい」と考える人は、「答えはお客様が持っている」と考えて、「どんな商品欲しいですか?」「どうすれば買いますか?」と問い続けています。しかし現実にはお客様は答えを持っていないことが多いのです。

「自分に問い続けるのが正しい」と考える人は、「答えは自分が持っている」と考え、「なんで自分はそう考えたのか?」「どうすればいいのか?」と自分の直観を掘り下げます。顧客の情報は、考えるための一つのきっかけであり、材料なのです。

しかしこの方法は、商品アイデアを生み出す段階でのみ有効です。
商品を世の中に出した後は、モードを反転させる必要があります。

常にお客様の声に耳を澄ませて、果てしない商品改良が始まります。ただしここでも、そのお客様が正しいお客様なのかを判断することが重要になります。すべてのお客様に対応しようとすると、個性を失った商品になり果ててしまうのです。だからあえてお客様を切り捨てる判断も必要になります。

あなたは商品開発で、自分に徹底的に問い続けていますか?

   

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ウィズ・コロナで自ら顧客体験を損なうサービス

コロナ禍の先行きは予断を許しませんが、そんな中でも苦しいのがサービス業。お客様がコロナ前まで戻らない中、売上確保に苦戦しておられます。

私がとても気になるのが、売上を確保しようとして、顧客体験を大きく損なっているサービス業があることです。それを実感したのが、妻が美容院から帰ってきた時のこの一言です。「もうあの美容室、行くのイヤかも」

この美容院はややお高めですが、ゆったりしたソファーで順番待ち。店の居心地も良く、リラックスして髪をいい感じにセットしてくれていました。

コロナ禍で妻はなかなか美容室に行けませんでしたが、先日久しぶりに髪をカットに行きました。

まず驚いたのが、それまでお客が座っていたソファがある場所に、美顔器や化粧品、シャンプー、ドライヤーなどの様々な商品がズラッと並んでいたこと。

お客は入口近くにあるパイプ椅子に座って順番待ちです。売り物の商品にお客が押し出されている感じがします。

順番が来てカットを始めると、美容師さんからの売り込みが始まります。

「このシャンプーお勧めですよ。当店でも売ってます」

「このドライヤーもいいですよ。当店で売ってますよ」

「こんど当店でアロマセラピーのお教室をやるんです。とてもいいですよ〜。ぜひどうですか?」

妻が「そのお教室、どんな感じなんですか?」と聞くと…

「…私は参加したことがないんです。でも、とってもいいそうです!」

販売は確率戦なので、こうして売り込むと、買うお客さんが一定数出てきます。数字だけ見ると一時的に売上は上がるでしょう。しかし「居心地が良く、リラックスして髪をいい感じにセットしてくれる」という顧客体験は、大きく損なわれています。

妻は「ずっとこの店でお世話になったけど、変わっちゃった。もう行きたくないかも」。こうして一定の確率で客離れも上昇するわけで、長期的に見ると客離れが増え、売上は下がっていきます。

ちなみにこの店で腕利きのある美容師スタッフは、お店から独立を決めました。しかもこの店から徒歩5分の場所に店を出します。このスタッフは自分のお客に「独立するので、ぜひ来て下さいね」としっかりと声をかけています。この店の様子を見て(チャンス)と思ったのかもしれません。

さて、売上データで見ると、この状況は次のように見えます。

①売上が激減する(コロナ禍で来店客が減ったため)
②一時的に平均顧客単価が上昇し、売上が上昇する(接客中の営業のおかげ)
③ゆっくり顧客数が減り、売上が減る(顧客体験を損なうことによる客離れ)
④腕のいいスタッフが辞め、顧客がゴッソリ消える(見切りを付けたスタッフ離れ+顧客の大規模離脱)

確かに顧客単価を上げることは必要なことです。しかし同時に大事なことは、絶対に顧客体験を損なわないことです。

ウィズ・コロナの時代は、むしろそれまで出来なかったより高い顧客体験を提供するチャンスです。髪のコンディションをいい感じに維持するための仕組みは、スマホやサブスクと連動させれば色々と実現できる可能性があります。

逆に顧客体験を犠牲にして、目の前の売上を追いかけてしまうと、奈落の底に落ちてしまうのです。

あなたの会社では、ウィズ・コロナで自ら顧客体験を損なっていませんでしょうか?

   

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「ウチはリピート客が多い。既存客に販促しよう」が、ジリ貧になる理由

ワークショップ研修でこんな意見をいただきました。

「当社は市場トップシェアです。市場調査すると、当社は競合よりもリピート客比率が多いんですよね。だから既存客を意識した販促を行いたいと思います」

このように考える会社はとても多いのですが、この考え方で販促すると、ジリ貧になって市場シェアが落ちます。

これはバイロン・シャープが著書「ブランディングの科学」で指摘していることです。この本は実に素晴らしい内容なのですが、内容がやや難しいので、なかなか理解が広まっていません。とても残念に思っています。

そこで噛み砕いてご説明します。

まず、業界トップシェアの会社ほど、顧客離反率が低くなります。

単純化して、市場に顧客が100人いて、A社が80名(シェア80%)、B社が20名(シェア20%)の顧客を持っていると仮定します。市場全体では、常に一定比率で顧客が入れ替わっています。仮に今年、顧客10人が入れ替わたとすればと、A社(シェア80%)の顧客離反率は10÷80=12.5%、B社(シェア20%)の顧客離反率は10÷20=50%になります。

このように市場をモデル化して考えると、市場シェアが高いと顧客離反率が低いことがわかります。でもこれは机上の計算。現実にはどうなのでしょうか?

バイロンシャープは著書の中で、米国の車ブランド、オーストラリアの金融機関、英国とフランスの車ブランドで市場シェアと顧客離反率を調査した詳細な結果を示しています。下記はそこからの一部抜粋です。

■米国車ブランド(1989-91年)
 1位 ポンティアック シェア 9%、顧客離反率 58%
 ↓
 9位 ホンダ シェア 4%、顧客離反率 71%

■オーストラリア金融機関
 1位 CBA シェア 32.0%、顧客離反率 3.4%
 ↓
 7位 Adelaide Bank シェア 0.8%、顧客離反率 7.0%

■英国車ブランド(1986-89年)
 1位 フォード シェア 27%、顧客離反率 31%
 ↓
 11位 ホンダ  シェア 1%、顧客離反率 53%

実際の市場データを調べても、トップシェアのブランドは顧客離反率が低いことがわかります。逆に言うと、トップシェアのブランドは顧客定着率も高いということです。

つまり冒頭の「リピート率が高い」のは、必ずしもその会社のお客様の特性ではなく、単にその会社の市場シェアがトップだからなのです。

では、なぜ既存客だけを意識した販促でジリ貧になるのでしょうか?

バイロン・シャープは著書でその理由も説明しています。

次の図は、バイロン・シャープの著書から引用したもので、英国のコーラ購買者の分析です。横軸に年間購入回数、縦軸に全体の人数の比率を取っています。

左側のユーザーがライトユーザー、右側のユーザーがヘビーユーザーです。

一般に「パレートの法則で、上位20%の購買客が売上の80%を占める」といわれますが、これはミスリーディングです。

実際に数年程度の長期間で調べると、売上の50%は稀に買うライトユーザーによるものです。そして実際に調べてみると、実に多くのブランドでは同じパターンになっています。

さらにこの分布の中で、ヘビーユーザーとライトユーザーは頻繁に入れ替わっています。つまりある特定のヘビーユーザーが、急にライトユーザーになったり、全く買わなくなったりするということです。

せっかく得意客を意識した販促をしていても、そのお客さんが離脱するのであれば、販促の効果は出ませんよね。

むしろ販促では、この図で左側に固まっているライトユーザーや、この図に現れない非ユーザーをターゲットにした方が、はるかに効果が出ます。

冒頭の「当社は競合よりもリピート客比率が多いので、既存客を意識した販促を行う」だと、市場のごく狭い範囲だけにしか販促できません。この結果、ジリ貧になって市場シェアが下がり続けるのです。

必要なのは、もっと市場全体に視野を広げたマーケティング戦略なのです。

   

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仮説検証、どこまでやるの?

ある企業の事業本部で講演と研修を行ったところ、後日、参加者からこんなご質問をいただきました。

 『「仮説検証は何度もやるものだ」ということですが、どこまでやれば良いのでしょうか?』

これはお近くにあるセブンの店舗をよく観察すると、わかります。

セブンの強みは「仮説検証」です。

コンビニでは一店舗に3000品目しか陳列できませんので、「その店で売れる商品」を発注することが収益を大きく左右します。言い換えれば、1日に数回行う商品発注が生命線なのです。

セブンではこの商品発注でも、毎回「何が売れるのか?」という仮説を立てて発注し、実際に発注して売り上げた結果を検証しています。

セブンのすごいところは、この商品発注を高校生のアルバイトでもできるように権限委譲していること。そのための仕組みも持っています。「何が売れそうか」という仮説を立てたり、売上結果をすぐに検証できるような発注端末を開発し、そこで必要なデータも用意しています。

そして店舗を運営する間は、四六時中この仮説検証プロセスを回しています。

このセブンの取り組みを見ると、このご質問の答えがわかると思います。

仮説検証はビジネスを行う以上は、常に行い続けるべきプロセスなのです。

   

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誰にも注目されない零細企業が、世の中に知られる方法

永井経営塾でこんな質問をいただきました。

「当社は零細企業で、メディアも注目してくれません。どうすればいいでしょうか?」

零細企業はお金もないので広告も打てません。しかしそもそも広告を一本打っただけでは、翌日には忘れられます。これではコスパは悪いですよね。

そこで必要なのがPR(パブリックリレーション)、つまり広報活動です。
新聞やWebニュース会社などのメディア各社にニュース価値がある情報を提供して、取り上げていただく方法です。

そこで2つの観点で、誰にも注目されない零細企業が、世の中に知られる方法をまとめたいと思います。かく言う私もIBM社員時代にやっていた方法なので、大企業の担当者もぜひ参考にして下さい。

①伝えるコンテンツ

絶対間違ってはいけないのは「メディアはお金がかからない広告だ」…とは考えないこと。

広告ならばメッセージを100%自分でコントロールできるので、伝えたいことをストレートに言えます。

しかしPRでは、メディア会社が自社視点でメッセージを作ります。自分が情報を提供した後は、メッセージを全くコントロールできません。「情報出したけど掲載してくれたメディアはゼロ」ということも多いですし、最悪の場合はネガティブ情報として掲載される場合すらあります。

メディア各社は「読者や視聴者にとって価値がある」と感じていただける情報を常に探しています。まずはメディア会社が持つ外部視点で、自分の会社にどんなニュースバリューがあるかを考えること。

メディアが欲しがるのはこんな具体的な情報です。

・世界、国内、業界で初
・世界、国内、業界で最大(又は最小)

一方で、こんな情報はメディアには無視されます。

・自社の新戦略や新しいビジョン

GAFA級の超大企業の全社戦略ならば別ですが、普通の会社の戦略やビジョンには、メディア会社は興味ありません。(ちなみに私もIBM社員時代、担当する事業の新戦略をメディアにお伝えしましたが、ほとんど掲載いただけませんでした)

②担当者リストを、リッチにしていく

あなたは連絡を取るべきメディア会社の担当者リストを持っているでしょうか?
メディア会社のリストではありません。個人名が入った担当者のリストです。

会社という組織は、判断しません。
情報掲載の可否を判断するのは、メディア会社の担当者です。
ですから、まずは担当者リストを作ることです。

「日本一の星空の村」として全国区ブランドになった長野県阿智村の仕掛け人である松下さんも、担当者リストを持っていました。この挑戦は2012年から始めましたが、新しい挑戦を始めると、メディアの視点で記事情報を整理し、マメに担当者リストに基づいて情報を配信。最初は信濃毎日新聞などの地方紙に取り組みを取り上げられました。

さらに新しいメディア担当者の名前を追加したり、担当者が異動したら新任担当者に差し替えたりしているうちに、担当者リストは次第にリッチになり、日経や朝日新聞などの全国紙、さらにテレビ局などにも取り上げられるようになりました。

①と②を地道に続けながら、メディアが取り上げたくなるような情報に加工した情報を、②の担当者にマメに発信することです。たとえば…

「今年、阿智村の『日本一の星空』を見るために、10万人が来場!」

メディア会社の担当者が「この分野は、この人からの情報が役立つ。手間と時間をかけてでも話を聞く価値がある」と思われるようになると、しめたもの。メディアで情報が掲載されるようになります。

正しい方向を決め、具体的な活動を地道に続けることが王道なのです。

   

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それは「日本特有の問題」ではなく「アナタの組織の問題」です

色々な方々から、こういうご相談をよくいただきます。

「これって、日本特有の問題ですよね」

たとえば「なかなか意見を言えない、言わない」「情報や不祥事の隠蔽」「新しいことに挑戦しない」。これらをすべて「日本特有の問題」で一括り。言外に(だからどうしようもないんですよ…)というニュアンスを匂わします。

東京電力・福島第一原発事故でも、黒川清委員長は事故報告書にこんな言葉を残しています。

「根本原因は日本文化に深く染みついた慣習──盲目的服従、権威に異を唱えないこと、『計画を何がなんでも実行しようとする姿勢』、集団主義、閉鎖性──のなかにある」

私は、これらはすべて真の原因から目を背けて、見たくないモノを見ようとしていない、「単なる言い訳」だと思います。

真の原因から目を背けている間は、問題は解決できません。

2018年刊行の著書”The Fearless Organization” (邦訳『恐れのない組織』英治出版)で「心理的安全性」という概念を提唱した組織心理学者のエイミー・エドモンドソンは、福島第一原発の事故報告書についてこう述べています。

「黒川が挙げた『深く染みついた慣習』は、いずれも日本文化に限ったものではない。それは、心理的安全性のレベルが低い文化に特有の慣習だ」

(エドモンドソンが提唱する「心理的安全性」については、東洋経済オンラインに寄稿した記事に詳しく書きましたのでご興味ある方はご一読下さい)

確かに中根千枝著『タテ社会の人間関係』や山岸俊男著『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』にあるように、日本文化は特有の性格を持っています。しかしそれは様々な性格を持つ人間がいるのと同じであり、単なる「性格の特徴」でしかありません。

日本文化特有の性格を活かして好業績を上げ続ける企業もあります。トヨタはその筆頭でしょう。

トヨタは生産現場で問題があれば一作業員でも製造ラインを止める権限を与えられています。ボトムアップで社員の力を引き出し、積極的に失敗と改善策を見つけるトヨタ生産方式(TPS)も、かつて「日本型経営」と呼ばれていました。そしてこのTPSは、古いGM工場 + 元GM米国社員で構成されたGMとの合弁工場NUMMIでも見事に稼働して、生産性を大きくアップしました。いまやTPSは中国、東南アジア、欧州の工場でも現地社員により実践されています。日本型経営と言われたTPSは、世界的に普遍性があったのです。

「これは日本特有の問題だ」という単なる言い訳が、現在の日本企業の閉塞状態を生んでいるのです。

あまり精神論の話はしたくないのですが、この問題の本質は「やる気」の問題です。

日本特有の問題はありません。
その組織(=企業)に特有の問題があるだけなのです。

   

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お客様の声、聞くべきか? 聞かないべきか?


永井経営塾ライブで、獺祭を製造・販売する旭酒造の桜井会長にご登壇いただいたときのこと。桜井会長はこのようにおっしゃいました。

「お客様の声は、聞かないんですよ」

一見、常識外れに聞こえますが、お客様は「辛口がいい」「やっぱり自分は甘口だな」「美味しさよりも安い方がいい」というように色々なことをおっしゃったりします。こういう話を一つ一つ聞くと、酒造りがブレます。だから桜井会長は、あえてお客様の意見を聞かずに、自分たちが「これが最高のお酒」と納得できるお酒造りを追求しているのです。

このようなお話しを紹介すると、こう思う人もおられるかもしれません。

「なるほど。お客様の声は聞かなくてもいいんだな。やはりいい製品づくりに邁進しよう」

実は「お客様の声を聞かずにいい製品づくりに邁進する」という姿勢は、必ずしもあらゆる状況で正しいわけではありません。

日本酒のように、お客様に価値を提供する単体製品で「美味しさ」というシンプルな評価基準がある場合は、「最高の製品づくりを追求する」という姿勢が成功のカギです。

また全く新しい商品を創り出す時は、お客様の声は参考になりません。アステリアの平野社長も、永井経営塾ライブに登壇された時に「お客さんの声は聞かないで、先を見据えて自分たちが必要だと信じた商品を開発しますね」とおっしゃってます。

一方で、パナソニックの樋口泰行専務は日経ビジネスのインタビューでこのように語っています。

「2018年春ごろから、パナソニックはソフトも重視しなければ生き残れないことを社長の津賀一宏に言い続けてきました。…例えばソリューションビジネスでは、顧客から相談を受けた後でコンサルティングをして、システムを構築していくという流れです。ただし国ごとにビジネススタイルが異なるため、ノウハウを一朝一夕に蓄積することは難しい。この感覚は、いい製品さえ作れば、国境を越えて販売していけるというビジネスを経験してきたパナソニックの幹部には理解しづらいのです」(日経ビジネス 2021/10/25号)

現実に多くの製造業がサービス化しています。「製造業のサービス化」という流れです。たとえばGE。長年ジェットエンジンを製造していますが、今やジェットエンジンにセンサーを付けてモニタリングすることで、性能や故障を事前予測し、エンジンの稼働率向上を支援するサービスを提供しています。エンジンの稼働率向上は、顧客である航空会社の収益に直結します。

樋口専務がおっしゃっているのは、このようなソリューションビジネスでは、こちら側ではなかなかわからないお客様の課題把握が、成功のカギになっているということです。

そして残念ながら、お客様の課題について思い違いをしていることも多いのです。そのような場合は、お客様の声をちゃんと聞いて理解する必要があります。

ちなみに「全く新しい商品を開発する時は、お客様の声は聞かないですね」とおっしゃるアステリアの平野社長も、商品を出した後はお客様の声を真剣に聞いています。

ものづくりメーカーでも、今や好むと好まざるとに関わらずソリューションビジネスの分野に足を踏み入れています。しかしものづくりの成功体験が邪魔をして、本来はお客様の話を聞かなければいけないのに、お客様の話を聞こうとしないところに、ものづくりメーカーが陥っている低迷の原因があるのかもしれません。

  

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「は? QB…って何?」という美容師さん

知人(女性)が美容室で体験した話です。美容室で髪をカットしてもらっている最中に、美容師さんからこう聞かれました。

「ご主人、最近いらっしゃらないですね」

かつて知人の夫は、その美容室の常連でした。その美容室は腕も確かでサービスもよかったのですが、予約制で、カットに1時間かかります。

知人の夫は多忙なビジネスマン。「1時間もかかるのは嫌だな」と思っていた数年前、自宅近くにQBハウスができました。10分でカットできます。どうもカットの品質もいいようです。(ちなみに料金は1200円)

彼が試しに近所にできたそのQBハウスで、以前美容室でカットした直後の写真を見せて、「こうして下さい」をお願いしてカットしてもらったところ、十分に満足いく仕上がりだったそうです。

その後、彼はQBハウスでカットするようになりました。店を変えた最大の理由は、1時間かかっていたカットが10分で済む点と、美容師さんとの煩わしい会話をせずに済む点だったそうです。

さて、美容師さんに聞かれた彼女は、正直にこう答えました。

「最近、QBハウスでカットしてますよ。結構忙しいので、家の近所だし、カットが10分だからいいそうですよ」

「は? QB…。それってなんですか?」

「10分カットの散髪屋さんですけど」

「はぁ…」

美容師さんは(よくわからない話ね)と思ったようで、別の話題を話し始めました。その美容師さんは、美容師を数十名抱える美容室チェーンで、その店を任された店長さんだったのでしたが、どうもQBハウスを知らなかったようです。

私はこの話を聞いて、こう思いました。

「色々な意味で、この店、ちょっとヤバいんじゃないかなぁ」

まず、美容師さんがQBハウスを知らない点。その美容室は男性もカットしています。多くの男性客は、知人の夫のようにQBハウスも選択肢に入れてカットする店を選んでいます。QBハウスはその美容室のかなり強力な競争相手なのです。しかしその強力な競争相手を、店長である美容師さんは認識していません。

もう一つは、知人が「10分カット」と言った時点で、全く興味を失っている点。

この美容師さんは、恐らくこう考えているのではないでしょうか?

「は? 10分カット? そんなQBなんとか言うのなんて、敵じゃないわ。だって10分カットって、髪を切るだけでしょ。ウチの美容室の方がずっとサービスが豊富だし。ウチはカットだけじゃなくって、シャンプー、整髪、マッサージ、ドライヤーの仕上げもあるし、マッサージも念入りだし、お客様との会話も気をつかっているわ」

確かに店が提供するサービスだけを比較すると、確かにQBハウスは一見はるかに見劣りします。しかしこれは機能中心にサービスを見ているからです。言い換えれば製品中心の視点で見ているのです。

顧客である知人の夫から見ると、まったく違う風景が見えてきます。

「あの美容院、確かにサービスは素晴らしいんだけどね…。シャンプーとか整髪とかは過剰サービスで、いらないんだよね。疲れているから寝ていたいのに、話しかけられるのも面倒だし。そもそも予約しなきゃいけないとか、1時間もカットにかかるとか、ほんとカンベンして欲しい。QBハウスなら、好きな時に行って10分でカットできるから、もし料金が高くても、こっちの方がいいね」

知人の夫の視点は、顧客中心の視点です。

どんなに店がゴージャスで高級サービスを提供していても、顧客中心視点がなければ、お客は質素でも顧客中心の店を選ぶのです。

自分が気がつかないうちに、美容師さんのような製品中心の視点で考えている人は、私も含めて、意外と多いかもしれません。気をつけたいですね。

  

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本気でお客様を考えれば、自ずから最強のマーケティングになる

先週土曜の朝は、月1回の永井経営塾ゲストライブ。獺祭で有名な旭酒造の桜井博志会長にお話しをお伺いしました。

冒頭、桜井会長は「ウチはマーケティングやらないんですよ」。「マーケティング=販促」とお考えだったのでこのご発言だったのですが、実は桜井会長は最強のマーケターでした。

社長就任の1984年に9700万円だった売上を、社長退任の2016年に108億円と100倍以上にした桜井会長の挑戦は、先週のブログでも書きました。

ゲストライブでは素晴らしいお話しを沢山伺いましたが、その中の一つがチャネル戦略です。

獺祭が世の中で急に人気になった時のことです。どの酒屋も品薄になって品切れするようになりました。品薄で人気な状況だと、登場するのが転売ヤー。定価の3〜4倍で売られるようになりました。

「獺祭を飲みたいお客さんが、こんな価格で買わなければいけないのは問題だ」

そう思った桜井会長は、問屋に「獺祭はもっと出荷できます。品薄の酒屋に獺祭を卸してもらえませんか」とお願いしました。すると問屋は「他の造り酒屋さんとのお付き合いもあるので、獺祭だけを売るわけにはいきません」とやんわり断られました。

でもこれでは、困りますよね。

そこでこれをきっかけに、桜井会長は旭酒造で、問屋を通さずに小売店と直取引を始めました。当時の日本酒業界では、小売店との直取引は非常識でしたが、今では造り酒屋と小売店の直取引は一般的になりました。

桜井会長は、「流通と生産者の間には、どうしても溝があるものです。そこで必要なのは、どうしたらお客様に一番快適にモノをお届けできるかを、一緒に探ること。よく私が酒屋さんに申し上げているのは、『ウチとあなたはイコールパートナーです。お客様は、お酒を飲む人たちですよね。だからお客様にお届けして両者が利益を出せるようにしましょう』と言ってます。ちょっと偉そうかもしれませんけどね」とおっしゃっているそうです。

でも普通に考えると「お客様=消費者」は当たり前ですよね。ですので、もしかしたら桜井会長の「お客様は消費者です」というお話しは、流通ビジネスに関わっていない方には、「それって当たり前じゃないの?」と思われるかもしれません。でも、現実にはそうなっていないことがとても多いのです。

数年前に、私がある食品メーカー関係者が集まる会で講演を行い、その後に懇親会をした時のこと。ある食品メーカーの部長さんからお叱りをいただきました。

「永井さんは『価値で勝負しろ』っておっしゃいますが、私に言わせればそれって理想論です。現実は値引きばかりですよ」

そこで、私はこんな質問をさせていただきました。

「なるほど…。ところで御社の商品の品質はどうなんでしょうか?」
「絶品ですよ。いまの人は本物を知りません。ウチの商品を食べると、皆が驚きますよ」
「御社の商品は本物で美味しいのに、値引きする理由は何ですか?」
「あれ…。うーん、そう言えば……ナゼナンダロウ……」

詳しくお話しを伺うと、部下のセールスの方々は、消費者にはほとんど会わないそうです。普段の商談相手は問屋。この会社のセールスにとって、「お客様=問屋」なのです。このようなメーカーって、意外に多いのですよね。

桜井会長は、チャネル関係者を巻き込み、パートナーとして、一直線で消費者に価値を提供しています。

ハーバードビジネススクールで、V・カストゥーリ・ランガン教授という流通チャネルの専門家がいます。ランガン教授はこうおっしゃっています。

「チャネル戦略のすべての始点は、顧客ニーズだ。チャネルメンバー全員が一体となり、レーザービームのように消費者に焦点を当てて、顧客価値最大化を考え、顧客ニーズを満たすためにチャネルを構築せよ」

桜井会長が行っていることは、まさにランガン教授が提唱するチャネル戦略を実践しておられることがわかります。

ただ意外なことに、桜井会長はマーケティング理論は学んだことはないそうです。

桜井会長の全て活動の出発点にあるのは、「より美味しいお酒を、お客様にお届けしたい」という強い想いです。

桜井会長のお話しをお伺いして、マーケティングとは決して複雑なことではなく、「本気でお客様を考えれば、自ずからマーケティングになる」というとてもシンプルで単純なことであることが、改めて実感できました。

そしてこのシンプルで単純なことを、徹底的に首尾一貫して実践し続けられるかどうかが、私たちに問われているのですね。

  

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常識を疑い、売上9700万円から100倍以上に成長した獺祭・旭酒造

先日、獺祭で有名な桜酒造の桜井博志会長が書かれた著書「獺祭の口ぐせ」を読み感銘を受けました。

桜井会長はお父様が亡くなられた1984年、旭酒造の社長を継ぎました。この時、売上9700万円。しかし2016年の売上は108億円。なんと100倍以上の成長です。日本酒業界は1973年をピークに売上規模が1/3に縮小していることを考えると、これは凄いことです。

あえて一言で言えば、これは「お客様が幸せになる酒造り」「もっと美味しいお酒をお客さんにお届けしたい」を出発点に、あらゆる業界の常識を疑ったこと。同社のあらゆる活動は、この出発点に繋がっています。

旭酒造が行っていることは、業界の常識を大きく外していることがとても多いのです。

たとえば日本酒造りは、酒造りの最高製造責任者である杜氏(とうじ)が中心になって行うのが常識です。しかし旭酒造には杜氏がいません。

桜井会長が社長に就任した時、酒造りに色々と口を出すほうでした。高品質な酒造りを求めたからです。しかし旭酒造がある事業で経営危機に陥った時、杜氏は会社に見切りを付けて辞めてしまいました。そこで桜井会長は「自分たちで酒を造ろう」と考えました。

杜氏は60〜70代が多いのですが、この時に同社で酒造りに挑戦したのは、桜井会長以外には4人。全く酒造りに経験がない若手社員ばかり。そこで精米、洗米、蒸米、麹作り、仕込み、上槽、瓶詰めといった酒造りの各プロセスの様々な情報をデータ化。酒造りを徹底的に「見える化」しました。そうして作った日本酒は吟醸酒らしい香りが出ました。「今にして振り返れば、杜氏に逃げられてよかった」と桜井会長はおっしゃいます。

また従来の日本酒造りの常識は、冬場に行われるものでした。しかし獺祭を仕込む旭酒造では、四季醸造。発酵室は365日24時間、5度に保って、春夏秋冬どの季節も同じ環境で酒造りをしています。「勘と経験」に頼らない酒造りのおかげで、純米大吟醸を安定的に通年で造ることができるようになりました。加えて需要変動にも柔軟に対応できるようになりました。

こうして獺祭は徐々に人気になってきましたが、品薄になることが増え、取引がない店で獺祭が定価の3−4倍の価格で売られるようになりました。「獺祭を飲みたい」というお客さんに商品がスムーズに届かなくなってしまったのです。

問屋が獺祭を積極的に売らなくなったためでした。一つの理由は、問屋は一つのブランドが突出して売れると、他の酒蔵から文句を言われるために、都合が悪いこと。そこで旭酒造は問屋を通さずに、直接小売店とお付き合いするようにしました。すると小売店は取引を維持してくれただけでなく、逆に多くの注文がはいるようになり、販売が増え、品切れの問題は徐々に解消に向かいました。

一升2500円という値付けも、お客様視点で決めました。居酒屋で2000円でお酒を飲むには、お酒はとっくり2本で1000円に抑える必要があります。一本(0.8号)で価格500円にするには、0.8合の原価を200円にする必要があります。だからまず一升2500円という価格を先に決めました。

このような桜井さんの様々な戦略は、

「お客様が幸せになる酒造り」
「もっと美味しいお酒をお客さんにお届けしたい」

これが出発点なのです。

市場規模が1/3に縮小する中、徹底的な顧客目線で常識を根本的に疑って、100倍以上に成長した旭酒造を見ていて、感じることがあります。

伝統に固執し、低迷する業界は、逆に大きなチャンスが眠っている。

そのような業界では、多くの場合、顧客目線を失っています。 その古い常識を見直して、新しいことをやれば、大きく成長できるのです。

これは、まさに今の日本で求められていることだと思います。

10月23日(土)の永井経営塾のゲストライブでは、その旭酒造の桜井博志をお招きして、1時間お話しを伺う予定です。永井経営塾の会員の方は、ぜひご参加ください。桜井会長へのご質問も大歓迎です。

  

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AIで、店舗の出来事を全て把握できるか?

先週水曜朝の朝活永井塾は「ショッピングの科学」でした。テキストはパコ・アンダーヒル著「なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学」です。

ショッピングの科学とは、買い物客が購入したくなるように店や商品を変えていく考え方です。著者のパコさんは、店舗で何が起こっているのかを調査員に全て記録させ、膨大な記録を分析し、商品を買うヒントを炙り出します。このためパコさんは「ショッピング界のシャーロック・ホームズ」とも評されています。

たとえばパコさんが会社を創業した頃、こんな話がありました。

百貨店の入口で買い物客を観察していました。特に人通りが多い所にネクタイ売場があったのですが、パコさんは、ネクタイの品定めをする客が後ろから他の客に少し押されると、そこでネクタイ探しを諦めることに気がつきました。売り場の売り上げも低い状態でした。

そこでパコさんは「売上が低いのは、尻がぶつかるからだ」と報告。驚いた店長が、即刻ネクタイの棚を移動したところ、売上は急上昇。パコさんは、後ろから押されると買い物を諦めるこの現象を「尻こすり効果」と名付けました。

朝活永井塾では、このショッピングの科学について、様々な事例を交えてご紹介しました。するとプレゼン後のQ&Aで、こんな質問をいただきました。

「最近はAIのおかげで、店舗の色々なことがわかるようになりました。AIの登場で、ショッピングの科学は変わるのでしょうか?」

今回は、この時にお答えした内容をご紹介したいと思います。

確かにAIカメラやスマートショッピングカートの登場で、店舗内のお客さんの様々な行動がわかるようになりました。しかしながら、「尻こすり効果」のような現象をAIが発見できるかどうかは、まだ難しいのではないかと思います。

パコさんは「ショッピング界のシャーロック・ホームズ」と呼ばれていますが、仮にAIに名探偵ホームズが持つ様々なデータを読み込ませて、ホームズと同じ結論を導き出せるかというと、恐らくムリでしょう。なぜなら、ホームズは膨大な知識を元に様々なデータの相関関係を読み解き、さらに直観を働かせて仮説を導き出しているからです。そして導き出した仮説を容疑者や関係者にぶつけて検証し、真犯人をあぶり出します。

おそらくショッピングの科学も同じです。データを元に仮説を考えて検証するのは人間しかできません。

一方で「ショッピングの科学」の作業の中で、AIやITが代替できることもあります。たとえば従来調査員が手間をかけて行っていた店舗の入店人数や性別・年齢層・店内の導線などの記録作業は、AIが自動的に記録してくれるようになるので、人手が大幅に削減できる可能性があります。おかげで、人間は仮説を考えて検証する作業に集中できるようになります。

このように考えると、AIのおかげでショッピングの科学はさらに進化していくのではないかというのが、私の結論です。

皆様はどのように考えますでしょうか?

  

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朝活永井塾 第56回「ショッピングの科学」を行いました

10月6日は、第56回の朝活・永井塾でした。全国からのご参加をいただき、有り難うございます。

テーマは『ショッピングの科学』でした。

かつて企業は広告を使って消費者に「この商品を買いたい」と思わせ、来店させて売っていました。しかし現代の私たちは、たとえばコンビニや書店になんとなく入って、何となく店内で何を買うか決めています。

 売る側の人たちは、意外なほどこのような客のことを知りません。 この秘密を解明したのが、マーケティング・コンサルタント会社エンバイロセル社の創業者・CEOのパコ・アンダーヒルです。

たとえば彼は、百貨店のネクタイ売場で品定めする客が、他の客に尻を押されると、そこで買い物をやめることを発見しました。そこで、売場を通路から離れた場所に移すと売上は急上昇。同じ現象がさまざまな売場で起こっていました。

売上に悩む店は少なくありませんが、パコ・アンダーヒルは 「ほんの少しの工夫で、店の売上はグンと伸びる」 と言います。彼の会社は全世界でサービスを展開し、『フォーチュン』誌の上位100社の3分の1がクライアントです。 

そんな彼が書いた『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』は世界的なベストセラー。海外のMBAでも教科書として使われています。 

副題のショッピングの科学とは、買物客が購入したくなるように店や商品を変える考え方です。彼の会社は企業の依頼を受け、訓練された調査員がさまざまな店で気づかれぬように買物客を尾行し、全行動を記録・分析して、客が商品を買うためのヒントをあぶり出していきます。

マーケティングというと大がかりなマーケティング戦略に目が行きがちです。しかし実際には、現場での実践がビジネスの結果を大きく左右することも多いのです。

そこで今回の朝活永井塾では、下記をテキストにお店での施策を考えていきました。

 『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』(パコ・アンダーヒル著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回の朝活勉強会「永井塾」は11月10日(水)。

テーマは「失敗の科学と偶然の科学」です。申込みはこちらからどうぞ。

お客様に刺さるマーケティングメッセージは、コミュニケーションから生まれる

一昨日(10月3日)の「永井経営塾ライブ」のテーマは、「マーケティングコミュニケーション」「お客様に刺さるメッセージをいかに作るか」について議論しました。

お客様の心に刺さるメッセージを作るには、「WHAT(何ができるか?)」からではなく「WHY(なぜ必要なのか?)」から語ることが必要です。

例えばジョブスは、2007年にiPhoneを発表した時、こう言いました。

「スマホっていうけど、世の中にあるスマホって大きなキーボードが付いている。全然スマートじゃないよね」(WHY)

「だから、iPhoneを作ったんだ」(WHAT)

MacBook Airを発表した時、こう言いました。

「世の中のノートPCって、薄型ノートっていうけど分厚いよね」(WHAT)

「(封筒から製品を出しながら…)だからMacBook Airを作ったのさ」(WHY)

一方で当日の永井経営塾ライブでは、こんな質問がありました。

『現実の新商品や新サービス発表では往々にして、「はて? この製品のWHYって、何だっけ?」と悩む状況になったりします。こんな場合、どうすればいいのでしょうか?』

これは色々な原因が考えられますが、その一つが、社内コミュニケーション不全です。

製品を開発した人は多くの場合、「こんな問題を解決したい」と考えて製品を開発しています。しかし往々にして大手企業では、製品発表の担当はマーケティング部門や営業部門。その人たちに、製品を開発した人たちのこの強い想いが伝わっていないことが多いのです。(私も製品開発にいた時、よく経験しました)

本来、ジョブスのように、作った本人が影響力を持って製品への深い想いを語り尽くすべきなのでしょう。

しかしあくまで一般的な話ですが、大手家電メーカーでは数十人にチームで役割分体して商品企画、商品開発、テスト、発表、販促、セールスをしています。その結果、「このメッセージじゃないよ〜」ということも、よく起こるのです。

一方で最近は、大手家電メーカーを退職して新興家電メーカーに転じる熟練技術者も増えています。

転職先の新興家電メーカーでは人が少ないので、一人で商品企画→商品開発→テスト→発表→販促→セールスをしたりします。「一人で全部やるの? 大変だ」と思いがちですが、いい点もあります。商品企画時点の想いを、首尾一貫して市場に発信し、お客様に直接語れることです。

これは一つのヒントになると思います。

たとえば現在、湖池屋社長の佐藤章さんは、キリンビバレッジのマーケティング部長時代にFIREなどのヒット商品を量産しました。佐藤さんはチームを徹底して重視し、商品コンセプトからパッケージ、広告までを一手に手掛けました。

大手企業でも、商品チーム内でコミュニケーション重視で常に密接にやり取りすることで、WHY(なぜ必要なのか?)から語れるようになり、その結果、顧客に刺さるメッセージが作れるようになって、マーケティングメッセージ力は格段に上がっていきます。

「WHYから語る」という目的意識を持って、チームでメッセージを首尾一貫して作り込んでいくことが必要なのだと思います。

 

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経営陣が悪い戦略を指示してきた。マネジャーはどうする?

先日のオンラインセミナーで、「良い戦略、悪い戦略」(ルメルト著)をテーマにお話しをところ、こんなご質問をいただきました。

「自社の経営陣が悪い戦略を指示してきた時、現場部門の管理職はどのように行動すればいいのでしょうか?」

講義の時にお答えした内容と、その後に考えたことをまとめたいと思います。

まず良い戦略と悪い戦略について、ザックリご説明します。(講義では数十分かけてご説明したのですが、さわりの部分です)

良い戦略は、単純明快です。非常に複雑で錯綜している状況の中で、1つか2つの決定的要素を見極め、狙いを絞り込んで、全リソースを投入し、首尾一貫した行動で攻めます。

ただ単純明快ですが、考え抜くことが必要です。

ルメルトが良い戦略の例として紹介しているのが、1805年の英国海軍の戦い。この時期、欧州を制覇したフランスのナポレオンは英国侵攻を計画し、英仏海峡で物量に勝るフランス・スペイン艦隊が、英国艦隊と戦うことになりました。この艦隊決戦で英国が負けると、港で待ち構えている35万人のフランス軍が、一気に英国本土に上陸します。

海戦では物量に勝る艦隊が圧倒的有利です。英国、絶体絶命です。

ここで英国海軍のネルソン提督は、従来の艦隊決戦の常識を覆し、「少数の艦隊で敵の真ん中を突き破る」というシンプルな戦略を立てました。「敵の練度は低いし、当日は荒波なので、正確に打てない。先頭は危険だが、被弾は少ないはず」と考え抜いた末の結論です。

結果は、英国艦隊の大勝利。英国は危機を脱しました。ただ、先頭で戦い続けたネルソン提督は銃撃で戦死。亡くなる際に、ネルソンは兵士たちへの感謝の言葉を述べたそうです。ネルソンは英国の歴史上、祖国を救った英雄になりました。

このネルソンの戦略は、良い戦略の代表例です。

一方で悪い戦略は、一言で言うと狙いが絞り込めていません。たとえば、目標と戦略を取り違えている(例:「当社の戦略は売上1兆円達成。皆で頑張りましょう」)。あるいは、重要な問題を無視する(例:各部門に資料を作らせて立派な戦略資料を作ったけど、資料のどこにも問題や解決策が書いていない)。こんな戦略で成功する訳がありません。

そこで冒頭の話に戻ります。ご質問の内容は、「では経営陣が悪い戦略を指示してきたら、どうすればいいのか?」ということです。

まず最もダメな方法は、「そんな戦略、ぜんぜんダメです。こっちの方がいいですよ」というパターン。これでは何も解決しません。その上、お声もかからなくなります。(ちなみにこれ、私が若い頃によくやらかしていたパターンでもあります。今から思えば、とてもイタい奴でした)

経営学者アダム・グラントは、ハーバード・ビジネス・レビュー2021年8月号への寄稿論文「耳を貸さないリーダーに聞く耳を持たせる方法」で、アップルのジョブスを取り上げて一つの解決策を示しています。

ジョブスは頑固で気難しいことで有名です。実はiPhoneについても、何年間も「携帯電話は絶対に作らない」「スマホなんてダサいオタクの持ち物だよ」と言い続けて反対でした。

しかしiPhone開発チームは真正面から衝突しませんでした。その代わり、粘り腰で様々な質問をジョブスに投げかけて、ジョブスが「これはボクのアイデアだ」と思えるように働きかけたのです。

まず反対するジョブスに対して、部下たちは「確かにスマホ、ダサいですよね。でもアップルが携帯電話を作れば、美しく洗練されたものができるんじゃないですか?」と言ったり、「いずれウィンドウズを搭載した携帯電話が登場するのでは?」とジョブスのマイクロソフトへの闘争心を刺激しました。

その一方で秘かに試作品を作ってジョブスにデモしたり、デザインを練り直したりして、少しずつジョブスが賛成するように変えていきました。

一方でアップルが携帯電話ビジネスをするには大きな問題がありました。当時、通信会社が圧倒的に携帯電話メーカーに強い影響力を持っていました。彼らの言いなりになっていると、中途半端な携帯電話しか作れません。

そこでチームメンバーがジョブスにこう問いかけました。
「携帯電話会社に、こちらの希望を飲ませることなんてできますかね」

考えるジョブスに対して、チームリーダーがこのように畳みかけました。
「強力な製品があれば、こちらの言い分を全て相手に認めさせて、問題が一掃できるはずですよ」

iPhone開発チームは、時間をかけて様々な質問をジョブスに投げかけながら、ジョブスが「iPhoneはボクのアイデアで、ボクが育てたんだ」と考えるようにしたのです。ジョブスが強い当事者意識を持てるようにしたわけですね。その後のiPhoneの大成功は、ご存じの通り。

経営陣が悪い戦略を立てた場合でも、「真正面から敵対せずに、様々な質問を投げかけていく」というこの方法は有効だと思います。

必要なのは、忍耐力と強い当事者意識。じっくり時間をかけて、悪い戦略を良い戦略に変えていきたいものです。

 

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チャネル戦略で、大きな差が付く

ある日本を代表するメーカーは、海外進出の販路確保のために数千億円を投資し、海外販社を買収しました。

しかし買収で難しいのが、買収後に買収した会社を自社に統合する作業。全く違う企業文化や社内業務、人事施策を持つ会社が一緒になるのはなかなか難しいものです。

このメーカーは数千億円を投じたものの、買収後の統合が上手くいきませんでした。結果、数千億円を投資したにもかかわらず海外進出は頓挫。会社は大きな損失を出しました。

世の中の買収は「成功確率は半分以下」と言われており、そもそもリスクが高いのです。

しかしここで「自社で販路を持とう」ということに固執するのはやめて、マーケティング発想で「自社で売らずに売上を拡大しよう」と考えれば、新たな可能性が見えてきます。

それは、チャネル戦略を考えること。

たとえば通信機器大手シスコシステムズは、優れたチャネル戦略で成長してきました。

創業直後は直販9割でしたが、付加価値再販業者(VAR)と呼ばれる販売パートナー経由で売上の9割をあげるようになりました。

そのシスコは、当初売上が大きな販売パートナーに対して値引率を高く設定していました。売れば売るほどシスコからの卸値が安くなり儲かるわけです。これでシスコは成長しました。

しかし2001年、ITバブルが崩壊して市場が縮小。同じシスコの販売パートナー同士で、売上を伸ばすために値引き合戦をするようになってしまいました。これってパートナー同士は消耗戦ですし、顧客も一見安くなりますがサポートレベルは下がりかねません。長期的に見てシスコも困ります。

そこでシスコは売上で販売パートナーの値引率を高くするのはやめて、新技術スキルを積極的に獲得する販売パートナーの値引率を高くするようにしました。

この結果、3年後には自社も販売パートナーも業績は回復しました。

シスコは、販売パートナーを育てる優れたチャネル戦略を構築し、常に変革し続けることで業績をあげたわけです。

日本から海外へ進出するメーカーの中にも、進出先で現地に合わせた優れたチャネル戦略を構築し、成果を挙げている会社もあります。

マーケティング戦略の中で、つい疎かになりがちなのがチャネル戦略です。

後回しにされがちな理由の一つは、チャネル戦略には利害関係者が多いためです。

たとえばシスコのように販売パートナーに「これから売上での値引きはやめて、新技術スキル獲得での値引きに変えます」と言ったりすると、販売パートナーから…

「儲けが減るじゃないか!」
「変えられると困るんだよ!」
「これまでのお付き合い、何だったのよ!」

というクレームが殺到しがちです。

そこで問われるのが、顧客価値最大化のために、

「それでもやる!」

という、迎合しない断固たるリーダーシップです。

ちなみにシスコが先に書いたチャネル戦略を変革した時は、販売パートナーの半分がパートナーを辞めてしまいました。しかし3年後、残った販売パートナーの運転資本利益率は3倍増。顧客満足度も大きくアップしました。「顧客の価値最大化」に賛同して新技術に投資したパートナーは利益を大きく上げ、顧客もそのことを高く評価したわけです。

後回しにされがちだからこそ、チャネル戦略はやる気次第で一気に差が付くのです。

明日9月8日(水)の朝活永井塾のテーマは、このチャネル戦略についてです。今回も多くの方々と、このテーマについて一緒に考えていきます。

 

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一番乗りを目指すな。後発を目指せ

多くの起業家は一番乗りを目指します。しかし「これは間違い」という研究があります。

組織心理学者のアダム・グラントは著書「ORIGINALS」で、マーケティング研究者ピーター・ゴールダーとジェラルド・テリスが「先発企業」と「後発企業」を比較した研究を紹介しています。

彼らが30以上のカテゴリーで数百のブランドを分析した結果はこうなりました。

■先発企業は、失敗率が6倍
先発企業…47%
後発企業…8%

■生き残った場合、後発企業の市場占有率は3倍近い
先発企業…10%
後発企業…28%

なんと先発企業は失敗率が後発企業よりも6倍高い上に、生き残ってもシェアも1/3に留まります。

先発企業でも、iPhoneのように大成功することもあります。「iPhoneは大成功した。だから一番乗りがいいんだ」と思いがちです。しかしこの研究が示しているのは、「市場全体を見た場合、確率的に言うと後発の方が圧倒的に有利」ということです。

先発者は未知の分野ですべてを自分で試行錯誤して学ぶ必要がある上に、市場参入時期が早すぎると失敗します。リスクは非常に高いのです。対して後発企業は先発者が試行錯誤した結果を学べます。タイミングも見計らえます。Googleもネット検索で13番目の後発でした。

一番乗りにこだわりすぎると、失敗するということです。
要は「顧客が求めるベスト・タイミングで、他よりも優れていればいい」のです。

「既に先発企業がいるから、この市場は諦めよう」と早々に結論を出さずに、じっくりとその市場を観察することが必要なのです。

 

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「方針を決めた。皆で頑張ろう」は戦略ではありません

時々、こんなトップを見かけます。

「経営陣で戦略を話し合った。2030年の目標を○○○とした。みんなで知恵を出し合って頑張ろう」

えーと。あのー。ちょっと待ってください。
それって戦略って言わないんですけど。

「戦略は明確だ。○○○を達成することだ。あとは現場に頑張ってもらう」

真剣にこう考えているトップをみかけます。
しかし目標設定は、戦略ではありません。
単なる願望です。

戦略とは、その目標をどのように達成するかという方法です。

でもこう言うと…

「それはキミ、明確だよ。2023年には□□□を達成して、2025年には◇◇◇を達成、2028年には◎◎◎、そして2030年には○○○を達成するんだ。しっかり決めているよ」

と真剣な顔をして反論する人もいます。

うーん。これも違います。これは目標を細分化しているだけ。
目標をどのように達成するかは、相変わらず何もありません。

でもこれは目標を細分化しているだけ。
目標をどのように達成するかは、相変わらず何もありません。

問題は、目標と戦略を取り違えていることです。
世の中ではこれを「希望的観測」と呼びます。
「いかに目標を達成するか」をトップが考えずに、部下に丸投げしている状態なのです。

戦略とは具体的で明確なものです。

たとえば、もはや古典的な事例になりましたが、私が在籍していたIBMが破綻寸前に陥っていた時にCEOに就任したガースナーは、戦略を明確に示しました。

ガースナーに与えられた課題は、破綻寸前のIBMを復活させ、成長させることでした。

当時、IBMは大型コンピュータ主体の会社でしたが、世の中の動きについて行けずに低迷していました。当時の圧倒的多数派の意見は「IBMは図体が大きすぎる。解体すべし」でした。これを受けて、IBMも分社化の準備を進めていました。

しかしガースナーはCEO就任前にIBMの大手ユーザー企業のトップでした。彼はこう考えました。

「コンピュータ業界では、ソフト、ハード、データベース、PCなど、様々な分野への細分化が進行中だ。みなバラバラで顧客は困っている。一方でIBMは全分野に通じている。これは顧客にとっていいことだ」

その上で、彼はこう考えました。

「IBMの問題はこの総合的なスキルを活かしてないことだ。むしろ統合化を進めるべきだ。バラバラなIT製品を統合する顧客向けソリューションを提供しよう」

そこでこんな方針を出しました。
「顧客向けにオーダーメイドのソリューションを提供する」

さらにこの方針を実現するために、こんな施策を立てて実行しました。
・既存のハードウェア事業部とは別に、新たサービス事業とソフトウェア事業を立ち上げる。
・従来のIBMのタブーを破って、他社製品も取り扱いを開始する
・これまでの地域別・製品別の組織では世界で展開したい大手顧客を支援できないので、顧客別の組織へ再編する

このように本来の戦略とは、課題を解決するために、具体的で、首尾一貫しており、さらにビジネスの場合は顧客目線であることです。

改めて言うと「方針決めたので皆で頑張ろう」は戦略ではありません。

最近気のせいか、色々なところでますます多く見かけるような気がします。特に政府の発表に多い気がします。

自分たちは気をつけたいものですね。

     

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