永井孝尚ブログ

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ChatGPTから、ナレッジを守れ

ChatGPT3が話題ですが、早くも先週、バージョンアップ版のChatGPT4が発表されて使えるようになりました。

実際にCharGPT4を使ってみると、これまでのChatGPTで不満に思っていた部分がかなり解消されています。伊藤穰一さんはYouTubeで「感覚的には、ChatGPT3がまぁまぁ頭がいい小学生だとしたら、ChatGPT4は大学生レベル」とたとえておられましたが、全くその通りだと思います。

ChatGPT3は、これまでの常識を超えて人間並みの回答をしていました。でも間違いもありました。
CharGPT4は、より長い文章をより深く理解できます。

いまSNSなどを見ていると、テック系の方々が夢中になってChatGPTの様々な使い方に挑戦しています。それらを見ていると「こんなことができるのか!?」と驚くばかりです。

ChatGPTに限らず、今後もAIは機能強化が続いていくでしょう。

このような世の中になって、私たちは情報発信戦略も改めて考え直す時期に来ているように思います。

これまでのネットの世界の常識は、「情報はネット上でどんどん発信しよう」でした。この考え方の前提は、「デジタル情報で表現できる知識は形式知だ。形式知情報をどんどん発信しても、それらを統合してまとめ上げられるのは自分だけ。だから情報発信しても大丈夫」でした。

しかしいまやAIの機械学習は、ChatGPTのように、私たちが発信した情報を取り込んでまとめ上げることが出来るようになっています。情報発信の前提が崩れているわけです。

今後、ネット上の情報は、確実にAIの機械学習の対象になります。わかりやすく言えば「貪欲なAIの餌」になるわけです。あなたが頭を捻って考え出したオリジナル情報も、AIの学習対象になって取り込まれ、AIがあなたに成り代わって世界中の人に受け答えするようになる、ということです。

こうなると「情報発信はメディアを選ぼう」という戦略が必要になります。
これから企業や個人では、AIの機械学習からナレッジを守る戦略が必要になっていくと思います。これまでの「なんでも情報発信しよう」というおおらかな情報戦略から、今後はしたたかな情報戦略への転換が求められているのです。

ちなみにChatGPT社内使用については、既にソフトバンク、富士通、アマゾン、みずほFG、JPモルガンなどは、社内でChatGPTを使用制限したり使用禁止にしています。ChatGPTは、ユーザーの質問も学習しています。業務上の質問をすると、業務上の機密がダダ漏れしてしまうわけです。「これは困ったことになる」と判断した企業は、使用禁止にしているわけですね。一方でパナソニックコネクトのように、マイクロソフトと「入力情報をAI学習などに二次利用しない」という契約を結んだ上で、社内活用する会社もあります。

「ChatGPTをいかに活用するか」という攻めの戦略も重要ですが、同時に「ChatGPTからいかにナレッジを守るか」という守りの戦略も早急に必要だと思います。


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1989年の雑誌Brutusの「美人特集」

本棚を整理していたら、雑誌Brutusの古い特集号が出てきました。

『美しき隣人たち、ジャパニーズ・ビューティ。』 1989年5月15日号
『侃々諤々 美人論。』1991年5月15日号

当時の女優さんやモデルさん、アーティスト、アスリート、知識人といった女性たち数十名が、それぞれモノクロポートレート写真1枚に収められた特集です。

どれも作品として素晴らしい写真ばかりです。
当時15歳の後藤久美子さんが出ていたりしています。
当時20代だった黒木瞳さんも出ています。驚くべきことに、今とほとんど印象が変わりません。

人気女優たち23名を、ゲイのピーコさんとマンディさんが「性別に由来する偏見や社会的束縛がない」という立場で、辛辣に一刀両断に診断するという6ページの対談特集もあります。この対談は都内の会員限定ホテルの1室を300,000円で借りて行われています。(ちなみにこのお二人によると、1位は大地真央さん、2位は宮沢りえさん、番外で浅野温子さんと浅野ゆう子さんだそうです)

読んでいて実に面白く、思わず見入ってしまいます。
誌面全体からすごくお金をかけていることが伝わってきます。
今はこんな特集は、なかなか作れないかもしれません。

当時はバブルだったことに加え、まだインターネットがありませんでした。
新鮮な情報を入手する主な手段は、雑誌でした。
だから雑誌作りにお金をかけることができました。
そしていい雑誌ほどお金をかけられるので、良質な情報が凝縮されていました。

今はネットのおかげで情報はタダで入手できる時代です。
情報はコモディティー化してしまいました。
お金をかけて情報を編集することは、ますます難しくなっています。

そして消費者の目は、逆に肥えています。
情報はあっという間に消費されてしまうのです。

しかしこの特集を見て改めて思うのは、「十分な手間と時間をかけて作られた情報は、やはり面白いし、深い」ということです。

情報がコモディティ化し、多くの情報発信者が手間と時間をかけなくなった現代だからこそ、ジックリと手間と時間をかけた情報は、相対的に大きな価値を持つことができ、差別化できるのでしょう。

この特集を見て、改めてそんな情報を発信する必要性を感じました。


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朝活永井塾 第73回 『「悟り」の世界を、道元「正法眼蔵」から学ぼう」を行いました

3月8日は、第73回の朝活・永井塾。テーマは『「悟り」の世界を、道元「正法眼蔵」から学ぼう』でした。

私たちは、ビジネスでもプライベートでも、例外なく悩みや迷いを抱えて生きています。「迷いがなくなるといいなぁ」という方も多いのではないでしょうか?

そんな方にお勧めしたいのが、鎌倉時代の曹洞宗の開祖・道元が書いた「正法眼蔵」です。本書は「悟り」や「禅」の世界について書かれた本です。

今、ハーバードビジネススクールや米国のMBAでは「禅」「東洋思想」「道徳」をテーマにした講義が人気です。かのジョブズも、禅を学びました。最先端のビジネスの世界ではいま、東洋思想から新たな指針を得ようとしています。

しかし本家である私たち日本人は、意外と東洋思想について学んだ事がないのではないでしょうか。 

本書は講談社学術文庫版で全8巻合計3412ページという難解な大著ですが、本書が一貫して追及しているのは「モノゴトの道理とは何か?」を見抜く力、つまり「悟りの世界」についてです。

 私たちビジネスパーソンは、常に仕事で常に迷いつつも、必死に取り組んでいます。「迷いが消えれば、楽なのになぁ」と思うこともありますが、「迷いが消滅した世界」なんてありません。

道元も「迷いが消えれば、悟りが開ける」とは考えませんでした。
迷いと悟りとは全く別物。悟りを得た人は「迷いの現実こそが本来の姿」と覚悟を決め、目の前の現実に立ち向かいます。そしてビジネスでは、迷いこそがビッグチャンスになることも多いのです。 

正法眼蔵にある「悟り」の世界を学ぶことで、仕事への向き合い方や、自分の能力を発揮するためのヒントが得られます。 

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本を使って「悟りの世界」を学びました。

 『正法眼蔵(一〜八)』(道元著、増谷文雄訳)
『道元禅入門』(田里亦無著)
『禅で生きぬけ』(田里亦無著)
『正法眼蔵入門』(頼住光子著)
 

これまでマーケティングやマネジメント系のテーマを中心に取り上げた朝活永井塾ではちょっと異色のテーマですが、ビジネスの世界でマーケティングやマネジメントに取り組む上でも、役立つ内容だったと思います。 

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回4月5日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『「無知の知」なんていっていない? 「ソクラテスの弁明」を正しく学ぼう』です。申込みはこちらからどうぞ。

「SDGsって、結局金儲けしたいんでしょ」というご意見

最近は、私たちの日々の仕事でもSDGsについて色々と言われるようになりました。

一方でこんな話しもあります。

「SDGsで騒いでいるのは日本だけ。欧米はそんなに騒いでないよ。グーグルトレンドで調べても、いまSDGsを検索しているのは日本だけだし」

実は日本は、SDGsの流れに周回遅れなのです。

もともとSDGs(持続可能な達成目標)は、2015年の国連サミットで採択されたものです。17の目標がセットされて2030年達成を目指し、多くの企業が一斉にSDGs達成に走り始めました。

欧米社会では00年代の中頃からSDGsに向けた合意形成が始まり、2015年のSDGsに繋がっています。競争戦略を提唱していたあのマイケル・ポーターも、2011年に「社会課題の解決と、企業としての経済的価値の両立を目指すべきだ」としてCSV (共有価値の創造)を提唱しました。

しかしSDGsは採択された2015年頃、日本企業の反応はこうでした。

「SDGsって何? 17の目標って何のこと?」

しかしいまや欧州などでは、SDGsに取り組み姿勢を見せていない企業は、そもそも取引に参加できなくなっていますし、SNSでも叩かれます。

ここ数年で、お尻に火がつき始めました。

だから日本ではSDGsを検索する人が多く、海外で検索する人が少ないのでしょう。 これって、今さら「スマホ」とか「インターネット」を検索する人はほとんどいないのと同じですね。

一方で、こんなご意見もあります。

「でもさ、きれい事を言ってるけど、要は金儲けしたいんでしょ」

このご意見へのお答えは、「まさしくその通り。で、それで何か問題がありますか?」

この底流に流れているのは、「社会課題解決の収益化」というしたたかな問題意識と算盤勘定です。

一例を挙げると、「人類を救う起業家」と言われてきたあのイーロン・マスクもそうです。

2006年8月2日に、彼が書いた「ここだけの話し」というブログがあります。結構長いのですが、要約してみましょう。

彼は、まずテスラの戦略を述べています。

「テスラの計画は、まずスポーツカーを作り、そのお金でハイエンドのファミリーカーを作り、そのお金で大衆車を作る。」

実際にその後、テスラはセレブ向けのロードスターを作り、2012年にはリッチ層向けのモデルSを作り、2019年には大衆向けのモデル3を作りました。

ただ、このブログを書いた2006年当時のエコカーの代表格はプリウスでした。そこで彼はさらにこう述べています。

「しかもテスラのEVは、石油を使ってもエネルギー効率はプリウスの2倍だ。EVは、火力発電所(高エネ効率60%)の電気を使う。プリウスは、エンジン(エネ効率は25%で劣る)で電気を起こす。現在の化石燃料を使っても2倍の効率。今後、テスラは太陽光発電のソーラーシティの電気を使えるように展開するので、100%自然エネルギーになる」

人生をかけて「地球を救う」と真剣に考えるイーロン・マスクは、収益化によって自分のビジネスを持続可能にすることも真剣に考えているのです。

このように、SDGsで必要なのは「社会貢献と利益の両立」です。

人間は空気と水がないと生きられませんが、空気と水のために生きているわけではありません。

同様に企業も、利益がないと存続できませんが、本来は利益のために生きているわけではありません。

SDGsは、改めて私たちにビジネスのあり方を深く問いかけているのです。

御社はSDGs達成のために、どんな貢献を行いますか?


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「おぱんちゅうさぎ」と「100日後に死ぬワニ」で考えたブランディング

私はテレビをほとんど見ないのですが、唯一、録画して必ず観る番組があります。
テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」です。

先日、この番組で取り上げたのが、こちらでした。

おぱんちゅうさぎ

いま、10〜20代の女性を中心に大人気だそうです。
皆さん、ご存じでしたか? 私は全く知りませんでした。

TikTokを使っている方は、ためしに「おぱんちゅうさぎ」で検索してみると、妙にテンションが高い歌声とBGMでおばんちゅうさぎが出てきます。

人のためにひたむきに奮闘して純粋。健気。
みんなのために頑張るけど報われない。

そんなキャラが、大きなウルウルした目で伝わってきますね。

おばんちゅうさぎをプロデュースしているのが、CHOCOLATEという会社です。番組ではCHOCOLATE代表の渡辺裕介さんが「おぱんちゅうさぎのなぜ?」として3つのキーワードを挙げておられます。

①Z世代はビジネス臭を嫌う。→打算的で作り込まれたものを敏感に感じ取ってしまいます

②作者の業。→作者の徹底したこだわりや背負っているものが、キャラに滲み出てきます

③カギは「接触時間」。→毎日会う人は愛着が湧くように、SNSで日常的なコンテンツを出しつつ、世界観を伝えるために絵本、アニメ、音楽などで五感を刺激していきます

特に①「Z世代はビジネス臭を嫌う」は、「なるほどなぁ」と思いました。

ここで思い出したのが、3年前に流行った「100日後に死ぬワニ」(略称「100ワニ」)です。このブログでも書きました。→記事

Twitterでワニの何げない日常を描く漫画ですが、「死ぬまで99日」「…98日」とカウントダウンしていき、大人気になりました。3月20日の最終回でワニは死んでしまい、多くの人が「泣いた」「感動した」「ありがとう」とコメントしました。

しかし最終回が終わると「書籍化決定、映画化決定、グッズ・イベント」などが矢継ぎ早に発表され、ショップも開店すると、今度は逆に批判が集まりました。

あくまで当初は作者個人のTwitterのつぶやきだったわけですが、多くのファンが付いたことで、「100ワニ」はもはや個人のモノを超えたブランドになってしまったわけですね。

「おぱんちゅうさぎのなぜ?」の3つのキーワードで「100ワニ」現象を読む解くと、色々と見えてきます。

①Z世代はビジネス臭を嫌う。→おぱんちゅうさぎもグッズ展開しているわけですが、ターゲットである若い女性達が欲しいというタイミングで上手に出しています。「グッズ販売も、結局商売でしょ」と思いがちですが、カギはそれを相手が受け容れる状態か否かの見極めかもですね。

②作者の業。→100ワニの作者によると、100ワニを書くきっかけは、友人の事故死で「何があるかわからない。時間を大切にしてほしい」という想いだったそうです。この作者が抱える業が、100ワニを通して伝わったのですね。

③カギは「接触時間」。→おぱんちゅうさぎはこの辺りが実に巧みで、システム化されているように思いました。100ワニもこの辺りをうまくすればいい感じに展開できたかもしれません。(ちなみに「100日後に死ぬワニ」は、その後「100日間生きたワニ」として映画化されています)

SNS時代のブランディングのあり方として、とても参考になると思いました。


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