銭湯代行業が若者を魅了、売上4倍

日本には「斜陽産業」と呼ばれる業界がいろいろとあります。その筆頭の一つが銭湯でしょう。銭湯の数は、1968年は17,999軒。2023年は1,755軒。なんと1/10に落ち込んでいます。

銭湯入浴料は物価統制令で都道府県ごとに上限あり、東京は520円。自由に価格を上げられません。さらに経営者の高齢化や、最近はエネルギー価格の高騰で、廃業が相次いでいます。

しかしこの銭湯業界で、まったく新しい挑戦をしている会社があります。

2023年9月29日のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」で、その会社の紹介をしていたので、紹介したいと思います。

この会社は「ニコニコ温泉」という銭湯の経営代行を手掛ける会社。

たとえば品川に「東京浴場」という銭湯があります。70年の歴史がありましたが、経営者の高齢化で、4年前に閉店しました。

そこでニコニコ温泉は、銭湯のオーナーに賃料を払って「東京温泉」の経営代行を始めました。

この銭湯、午前2時まで営業しています。取材した時間帯は夜でしたが、客は全員20代。お客は「仕事を終えて、風呂を浴びるとサッパリする」「週3回来る」。

ひと風呂浴びた後は、マンガなど7000冊ある巨大な本棚。さながら非日常な秘密基地で、お客はゆっくりマンガを読んだり、大学の課題などをやったりしてくつろいでいます。

さらに売上アップする様々な工夫をしています。

たとえば周囲を気にせずに入れる一人用サウナを設置。90分で1100円ですが利用が多く、これで月70万円の売上です。

さらに風呂上がりに、クラフトビール飲み比べセット980円や、SNS映えするクリームソーダ550円を提供しています。

銭湯のロビーの一角には、お客さんが本などを販売できる幅30cm程度の棚があります。名付けて「フロナカ書店」。全部で70個あり、月額4000円で貸し出しています。

こうしてお客の増加と入浴料以外の収入で、売上4倍になりました。

経営代行をするニコニコ温泉・真神友太郎社長は、船井総研で旅館や温浴のコンサルタントを15年間行ってきました。そして7年前に、銭湯の経営代行業を立ち上げたのです。

番組で真神社長はこうおっしゃっています。

「銭湯は小さいので、利益が出やすい。オールナイト営業などもできる。地方で24時間コンビニが成り立つのと同じ」

「銭湯のオーナーさんにとって、銭湯は先祖代々の大事な資産です。だから手放せないし、家族に引き継いでいきたい。でも経営がキツいのが悩み。そこで私たちが賃料をオーナーに払って、経営代行を行っています。銭湯の運営を任せてもらうわけです。銭湯オーナーさんとのWin−Winになります」

これは星野リゾートとまったく同じビジネスモデルですね。

ホテルは「ホテルという資産」を持つ不動産経営の側面と、「ホテルの運営」というサービス業の側面があります。日本では、従来の多くホテルは、両方手掛けてきました。

星野佳路社長は「いずれホテル経営の負荷に耐えられずに、経営を手放すホテルが増える」と読み、1990年代に星野リゾートの不動産を手放し、ホテル経営に特化することにしました。資産を手放したおかげで身軽になり、俊敏に経営を策定して実行できるようになりました。OMOやBEBなどの新ブランドを次々と立ち上げられるのも、このためです。

ニコニコ温泉も、銭湯という不動産を持たずに、「銭湯経営代行」という新しいビジネスモデルを立ち上げているわけですね。

番組では、ニコニコ温泉が手掛ける昭島の富士見湯の取り組みも紹介されていました。

ここは22時間営業ですが、燃料代高騰が経営を直撃しました。燃料を薪にして乗り切ろうとしましたが、ガス代が2倍になって吸収できません。

そこで無料だったサウナを、整うことに集中してもらう空間「暗闇瞑想サウナ」にリニューアル。300円にした結果、サウナの売上は月0円から100万円にアップしました。

さらに何もなかった屋根の上に、外気浴できる有料スペース「展望休憩所」を作りました。利用者は「外の空気が感じられてとても気持ちいい」。200円ですが、サウナ客の半分がここを利用します。他にも、有料の寝転びゾーンを作ったりして好評です。

また浴場の中にあるタイルを、イラストやマンガ・写真の展示に使う試みも始めています。実際に展示した人たちからは「有償でいいからやって欲しい」との声も上がっています。

こうして何もなかった場所を稼ぎ頭にして、経営引継ぎ前と比べて、売上は7倍になりました。

銭湯の面積は狭いのですが、天井は高く作られています。こうした空間を全て使い倒せば、すべて売上に使えるわけです。一つ一つの取り組みの積み重ねが、黒字化に繋がっていくわけですね。

このニコニコ温泉、若い世代の働き手が集まっています。

アルバイトの半分が20代を占めます。あるアルバイトの方(29歳)は「35歳までに店を持ちたいと思って準備している」。またある銭湯を任されている店長は、ニコニコ温泉のSNSを見て脱サラしました。

真神社長はそんな若手社員に、仕事の合間に経営のノウハウを伝える「経営塾」を行っています。「短所を伸ばしても効率が悪く結果がでない。だから、長所を必ず伸ばす」というようなことを、時間を決めてオフィスにいる若手社員に伝えてます。

真神社長は「モチベーションが高いので、自分が思いつかないようなアイデアを次々と出してくれる。休憩ゾーンとかサウナ、タイルも、そうやって出てきたアイデアです」

ニコニコ温泉はまだ4店舗と小さなベンチャーですが、実に学びの多い挑戦です。

衰退産業には、実は大きな可能性が眠っていますし、視点を変えれば、売上の機会は至る所にあり、お客様は喜んでお金を払います。

さらにモチベーションが高い職場を作ることで、トップが思いつもかないような斬新なアイデアが次々と湧きだしてくるようになります。そうした組織づくりそのものが、経営戦略になりえるのですね。

   

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こんな広告に大金を使っていいの?

先日見た、あるビジネス週刊誌の1ページに掲載された広告は、こんな感じでした。

・大きく二ケタの数字が書かれています。一瞬わからなかったのですが、よく読むと創立○○周年でした。この広告にはこの数字が4−5箇所に書かれています。情報が重複しています。
・同じ意味の文章が2〜3箇所に書かれてますが、何を言いたいのか、よくわかりません。
・写真の中で一番大きな写真が、社長の写真です。でもこの写真を載せる意味がわかりませんでした。
・さらに見ると小さな写真が6〜7個掲載されています。創立以来の同社の歩みを振り返る写真のようですが、小さすぎて何なのかよく見てもわかりませんでした。(何かの模様に見えました)

「結局この会社、何をこの広告で伝えたかったんだろう?」と思ってしまいました。会社名も印象に残りませんでした。

巷では、こんな広告を実によく見かけます。そのたびに、つい思ってしまいます。

「この媒体ってお金がかかるよね。こんな広告に大金を使っていいんだろうか?」

「広告の父」と称されたデイヴィット・オグルヴィは、1983年に刊行した歴史的名著「売る広告」で、広告に必要なポイントを挙げています。いくつか抜粋しましょう。

①「広告は、効能を語れ」 これが本書で一番重要。もう一度読み返して欲しい。
→効能を語っていない広告はあまりにも多いのが現実です。すべてお金の無駄遣いです。

②広告の基本は、商品を知り、ポジショニングせよ
→事実に基づき、説得力ある形で説明し、違いを示すのが広告の役割です。多くの広告は、機能説明(何をやるか)だけで終わっています。

③自画自賛よりも、誰かの推薦
→誰かの推薦の方が、人は納得します

オグルヴィは、印刷媒体の広告で成功する方法も述べています。

④ヘッドラインを読む人は、本文を読む人の5倍。具体的なメッセージで売り込まないと、広告費の8割がムダ
→現実には、ヘッドラインが抽象的で、何をいいたいのかわからない広告ばかりです。

⑤イラストよりも写真の方が、人を惹き付ける。1枚の写真は1000語の言葉と同じ値打ちがある
→現実には冒頭の広告のように、写真を活かさない広告が多いのが現実です

⑥広告の配置。人は、図版→ヘッドライン→本文の順に読むので、各要素をこの順で配置。図版の下にヘッドライン。そして図版には必ず説明のキャプション
→これも無頓着な広告が多いですね。

「でも永井さんが見た広告って、創立○○周年の感謝を伝える広告でしょ? そもそも『売る広告』とは違うんじゃないの?」と言われるかもしれませんが、それは違います。

「感謝を伝える広告」も確かに大事です。しかしその場合も、その「感謝の気持ち」を的確に相手に伝える基本は、「売る広告」と同じです。

①「効能を語れ」 →その○○年間で、御社はどんな効能を提供し続けてきたのか?
②商品を知り、ポジショニングせよ →その○○年間で、御社はどんな違いを提供してきたのか?
③自画自賛よりも誰かの推薦 →その○○年間で培った、お客様との絆を見える化できないか?
④ヘッドライン →その○○年間の想いは、どんな短い言葉に集約できるのか?
⑤写真 →その○○年間の想いを伝える象徴的な一枚の写真は、何か?
⑥広告の配置 →その○○年間の感謝を伝えるには、どんな配置がベストなのか

オグルヴィの指摘は40年前のものであり、広告では基本中の基本です。しかしいまだに、これが出来ていない広告が多いことに改めて驚かされます。

一方でこれは逆に、私たちに大きなチャンスを教えてくれます。

私の感覚ですが、世の中の広告の9割は、オグルヴィが指摘した広告の基本を踏まえていません。

基本を踏まえない広告が多いということは、逆に基本を踏まえた広告を出せば、大きな成果があがる可能性がグンと高まるということなのです。

御社の広告は、成果は出ているでしょうか? そしてその広告は、広告の基本に忠実でしょうか?

   

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投資1000億円のホンダ新規プロジェクト。「ムリ」と思ったら快諾された理由

会社で大規模な新規事業を立ち上げる際には、経営トップの承認が必要です。
しかしともすると超巨額投資が必要で「こんなの、絶対やめろと言われる」と思われがちです。

しかし、社員の目線と経営トップの目線は、全く違うものです。

そのことを実感した記事がありました。日経産業新聞に2023年9月4日に掲載された「ものづくり記 ホンダ・和光研究所(6) ジェットエンジンの強み生かせ」という記事です。

「空飛ぶクルマ」と言われるeVTOL(電動垂直離着陸機)は、現在、世界中で、キティホーク社などのスタートアップがしのぎを削っている分野です。再来年2025年の大阪万博でも、eVTOLの試験運用を行うと言われています。

ホンダジェットで航空業界に参入したホンダは、このeVTOLに勝機を見いだしています。

その武器がジェットエンジン。ガスタービンを電池への発電用に使うハイブリッド式パワーユニット(ガスタービンHV)を作ろうと考えています。バッテリーだけだとせいぜい飛行距離は100Km。ガスタービンHVでバッテリーを補えば、400Kmの飛行が可能です。

当初、ホンダは自社ガスタービンHVを、eVTOLメーカーに外販する交渉をしていました。交渉が難航する中で、「もしかしたら自分たちで機体も動力もやった方が、いいんじゃないか?」と考え始めました。では、なぜそう考えたか?

航空機で必要な大きな2つの技術が、機体設計とエンジンです。
航空業界では、機体とエンジンは完全に分業されています。
そして意外と知られていませんが、実はホンダは、この2つを単独で手掛ける世界唯一のメーカーなのです。

そして本田技術研究所内で、自社のガスタービン搭載VTOLの開発が始まりました。しかし投資金額は1000億円を超えることがわかりました。
開発メンバーは「絶対にやめろって言われる」という意見が大勢。
当時の本田技術研究所の社長は、現在のホンダ社長の三部敏宏さんでした。

この様子を、記事ではこのように書いています。

—(以下、記事より引用)—

結局、そのまま三部にぶつけることにした。三部の反応は意外なものだった。

「こんなにかかるのはうちだけか?」
「いや、うちだけじゃないです」
「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」

現在は雨後のたけのこのように世界中でeVTOLのスタートアップが名乗りを上げているが、その中で本当にTCを取って事業化までたどりつけるのは何社あるだろうか。実際、この後にキティホークは事業化を断念した。高い参入障壁は、それを乗り越えた者への先行者利益を保証する。三部は多くを語らなかったが、暗にそう言いたかったのだろう。

—(以上、記事より引用)—

このエピソードは、会社員が新規事業に取り組む際に、大きな示唆を与えてくれます。

新規事業は、しがらみを持たずに迅速に動けるスタートアップの方が、圧倒的に有利に思えます。しかしスタートアップは、1000億円を超えるような投資を得ることは至難の業です。

大企業であれば、自社の強みが活かせるのであれば、キャッシュフローの範囲内で、大規模な投資を長期間行うことが可能です。

たとえば花王のソフィーナ。1976年に研究を開始し、一時は累積赤字が最高250億円にも達しましたが、2000年に黒字化し、売上700億円です。

東レは1961年に「航空機の構造体で使えるかも」というアイデアで炭素繊維の研究を始めました。製品化は1971年でしたが、当初は「鉄の1/4の軽さで10倍の強度」を訴求して釣り竿やゴルフクラブに展開していました。その技術が自動車で培われ、今では航空機で使われています。炭素繊維も数十年掛けています。

ホンダジェットも数十年の投資が実った例です。

以上のことは、まさに「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」という三部さんの言葉に凝縮されています。

三部さんは2021年の社長就任会見で、いきなり「2040年までに、ホンダの世界販売を100%、EVとFCVにする」と発表して、大きな話題になった経営トップです。

大企業には、大企業の戦い方がある。

そして「会社を本気で変えたい」と考える経営トップは、現場社員とは全く違う目線を持っているのです。

   

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経験すべき「良い失敗」と、経験不要な「悪い失敗」


こんなことを言うオジさん、多いですよね。
「若いうちは失敗をどんどんした方がいいよ」

でもこの言葉、額面通りに受け取るのは危ういと思います。

日本経済新聞2023.8.16号に、東京大学の畑村洋太郎名誉教授の対談が載っています。 畑村さんは「失敗学のすすめ」などの著書もある失敗学の提唱者です。

この記事を読んで「なるほど」と思った部分を紹介します。

—(以下、引用)—

――失敗には「良い失敗」と「悪い失敗」があるそうですね。違いは。

「悪い失敗は手抜きや不注意に基づく失敗で、これは経験する必要がない。良い失敗は人の成長に必要な失敗だ」

「新しい価値の創造には仮説を立て、検証することの繰り返しが必要で、それは良い失敗と表裏一体だ」

—(以上、引用)—

この言葉に尽きますね。

「失敗はどんどんした方がいいよ」と言われて、手抜きしたり不注意で失敗を繰り返しても、学びはほとんどありません。周囲に迷惑を掛けるだけです。これは「悪い失敗」です。

むしろ「成功するにはどうすればよいか」を考えた上で、仮説を立てて、全力で実行してみる。そしてもし失敗したら、仮説のどこが悪かったのか、実行段階のどこで問題があったのかを考える。これが「良い失敗」です。

経験すべき「良い失敗」とは、「成功しよう」と努力した上での失敗なのです。

ここでのカギは、ムリめなストレッチ目標を持つこと。

ほぼ100%達成可能な目標を立てて、「成功しよう」と考えて実行すると、失敗はほとんどないでしょう。しかし自分の能力もそれほど上がりません。

むしろ自分の精一杯の能力を超えた挑戦をして、成功するために考え抜いて挑戦する。その失敗から得られた経験こそが「良い失敗」なのです。

冒頭の「若いうちは失敗をどんどんした方がいいよ」というオジさんの言葉の危うさは、ここにあります。

能力を超えた挑戦をすべきなのは「若いうち」だけではありません。そう言う当のオジさんも対象者であって、どんどん挑戦して「良い失敗」をするべきなのです。

「良い失敗」を積み重ねていくとともに、「良い失敗」を楽しみ、「良い失敗」をした人を賞賛する文化も定着させていきたいものです。

   

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「リスキリング=DX」という勘違い

最近のメディア記事を見て、「これヤバいよ」と実感するのが

リスキリング=DX

となっていることです。

本来リスキリングとは、企業のビジネス力を上げるために行うもの。「DXも大事だけど、その前に色々あるよね」と思っていました。

そう思っていましたら、日経ビジネスの今週号(2023.8.21号)の特集「残念なリスキリング」の中で、『日本企業の間では「リスキリング=DXについて学ぶもの」という発想が根強い』と紹介されてた上で、こんな言葉が紹介されています。

『デロイトトーマツコンサルティングの小野隆執行役員は「日本はとにかくテクノロジーに関するノウハウを学ばせようとしがちだが、実際には仮説を検証したり、周りを巻き込んでプロジェクトを遂行したりするスキルも必要」と話す』

そして記事では「スキル開発は事業戦略に連携させるべき」ということが述べられています。

ここ1〜2年、メディアがリスキリングを取り上げる際には「リスキリング=DX」と結びつけて紹介されることが多かったので、その反省と軌道修正が行われつつあることを感じる記事でした。

私はこの十数年間、人材育成に携わってきましたが、まさに「人材育成は事業戦略そのもの」です。

私が人材育成に携わるきっかけは、日本IBM社員時代に事業戦略責任者として事業本部長をサポートしていた際に、事業本部長から「来月から人材育成責任者をやってほしい」と言われたことでした。

「これまでマーケティング戦略や営業戦略で色々と手を打ってきた。でも人材戦略はちゃんとやっていない。ウチの事業部の人材が、事業戦略に沿ったスキルを身につければ、業績がアップするはずだ。永井さんとボクは一緒に事業戦略を作ってきたから、今度は人材育成で事業戦略を実現してくれないか?」

と言われて、人材育成を担当することになりました。

こうして人材育成の現場で実感したのは、事業戦略に沿って人材育成を行うことで、業績が向上する上に、社員も経営陣もハッピーになることです。現場で次々と起こる新しい問題に直面して、社員も困っています。しかしそんな問題と闘う武器を人材育成プログラムを通じて手に入れられることは、当然のことながら社員にとってもよいことです。

そして、そこで必要になるのはDXスキルではありません。
必要なのは、ビジネススキルです。

それは小野執行役員もおっしゃっているような仮説検証力だったり、マネジメント力、マーケティング力だったりします。

「リスキリング」でグーグル検索すると、ほとんどがDXと紐付いた結果が出てきます。 まさに「リスキリング=DX」になっているのが、日本の現状です。これでは大金と膨大な労力を投じて人材育成しても、なかなか成果には繋がりません。

この3年間、私がKadokawaさんとの協業で永井経営塾を推進しているのも、本来必要とされるリスキリングの場を整備し、リーズナブルな料金で広くご提供するためです。

今週号の日経ビジネスの特集が、「リスキリング=DX」という風潮を見直す一つのきっかけになればと願っています。

   

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なぜ迅速な商品開発ができるのか?

アイリスオーヤマは、新商品を矢継ぎ早に出して急成長しています。
2012年に2500億円だった売上は、昨年2022年には7800億円。
10年間で3倍の成長です。

同社の成長を支えるのは、1年で1000品目の新商品です。
この1000商品は、すべて社長が承認しています。
「そんなのムリでしょ」と思いがちですが、これを仕組みで回しています。
それが、毎週月曜日に終日行われる新商品開発会議(プレゼン会議)。
経営幹部が全員集まり、現場担当者が商品企画を5分で説明。これを1日で50商品やります。そしてその場で社長が却下したりゴーサインが出ます。

却下の場合、その場で明確に次回提案のための改善点を指摘するので、社員は再挑戦できます。

さらに実施の場合、経営幹部や主な関係者全員が会議に同席しているので、根回し不要で、新商品開発に猛スピードで取りかかれます。

最近、世界のEV(電気自動車)市場で台頭しているのが、中国のBYDです。
今年の生産台数は、テスラに次ぐ第2位で急成長中。
テスラのイーロンマスクも「最大の脅威はBYD」と言っています。
このBYDの成長を支えるのも、意志決定の速さです。

アイリスオーヤマも、BYDも、迅速な新商品開発を支えるのは、迅速な意志決定なのです。

1970年代に「日本企業の強みは、組織で合意を徹底する根回しプロセスにある」と言ったのは、ピータードラッカーでした。

確かに大きなプロジェクトや、全社方針を決定するには、いまでも組織全体での徹底した根回しが重要でしょう。

商品開発の現場がどんなに頑張ったとしても、このプロセスを、日々の新商品開発全てに当てはめると、商品開発のスピードが途端に遅くなります。

意志決定スピードの差が、企業の競争力に直結する時代なのです。

この問題を解決する一つの方法が、「OODAループ」という考え方です。これは次の4つの活動からなります。

❶観察(Observe)……あらゆる情報を取ってくる
❷情勢判断(Orient)……最重要ステップ。情報を経験や価値観と組み合わせ、洞察を得る
❸意思決定(Decide)……方針を決める
❹行動(Act)……実際の行動に移る

実は、このO→O→D→Aの4ステップを踏むのは、OODAループではまだまだ初心者レベルだと言われています。本当のOODAループは、Dを省略し、O→O→Aで動くことで、真価が発揮されます。

ちょうど宮本武蔵のような剣豪が、敵を瞬時に斬るイメージです。
相手の刹那を感じ(観察 Observe)、攻撃を察知(情勢判断 Orient)した瞬間、相手を斬る(行動 Act)わけです。考える(意思決定:Decide)プロセスを極限まで短くし、O→O→Aを一瞬で行い、敵をスピードで圧倒して斬るわけです。

アイリスオーヤマの新商品開発会議(プレゼン会議)も、まさにこの意志決定を組織全体で瞬時に行う仕組みを作り、OODAループ全体を高速で回しているわけです。

9月6日(水)の朝活永井塾は、このOODAループがテーマです。
もしよろしければ、ぜひご参加下さい。(メルマガでご案内中です)

   

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ハリウッドのストは、自分ごとで考えよう

映画の都・ハリウッドで、脚本家と俳優によるストライキが続いています。

日本から見ていると「AIの台頭に反対しているなんて、古いよね」「昔のラッダイト運動と同じだ」という意見もよく聞かれます。

実際のところ、どうなのでしょうか?

そのことがよく分かる記事があります。2023年8月7日(月)の日経産業新聞に掲載された下記記事です。

「動画配信番組の待遇改善を」米映画スト、日本人俳優に聞く

ハリウッドで活躍する日本人俳優・松崎悠希さんへのインタビューです。

映画俳優は常に仕事がある訳でないので、印税収入という仕組みがあります。
映画に出演すると、TV放送やDVD化で二次使用料として印税が入ります。

松崎さんは映画「硫黄島からの手紙」の出演料は280万円、TV放送やDVD化の印税は700万円でした。

しかしNetFlixなどの配信はブラックボックス。出演料はやや高めでも印税は少ないのです。DVDから配信に変わって、松崎さんの収入は激減しました。

さらに映画製作会社は、AI俳優化を進めています。
自分の姿が360度スキャンされ、映画に使われるわけです。

スキャンで支払われるのは1日分のギャラですが、そのデータを印税の取り決めもせずに映画製作会社は永遠に使えるわけです。こうなると、俳優の仕事自体が消滅しかねません。

現在のAIテクノロジーでは、良質な学習データが不可欠です。しかし映画製作会社は、学習データの取扱いがグレーなまま、われ先に大量の学習データをかき集めています。そしてこれは映画俳優の生活を根こそぎ奪いかねないわけです。長期的な視点で考えると、これは映画ビジネスの将来にとって決してよいことではありません。

このことに危機感を感じたクリエイター側が声を挙げているのが、現在ハリウッドのストで起こっていることです。

AI台頭に伴って、AIがもたらす果実をいかに公正に配分する仕組みを作るか、ということが、現在ハリウッドのストで起こっていることなのです。

歴史を振り返ると、実は同じ事が繰り返されています。それが著作権です。著作権は英語でcopy rightと言います。「複製する権利」という意味ですね。

印刷技術が出現し、本が無秩序に複製されるようになりました。そこで著者に一定期間の権利を与えて、その間に印税などで複製した売上の一部を印税として支払う仕組みができました。

松崎さんが出演した映画も、ソフトウェアも、あるいは私の著書も、この著作権により印税が支払われています。

人類の歴史では新たなメディアが生まれる度に、喧々ガクガクの議論をした末に、この著作権や印税を新解釈することで、価値を共有する仕組みが導入されてきたわけです。

今回議論されているAIの学習データについても、同じことが起こる可能性があります。

AIはあまりにも急に成長を続けています。現在のビジネスの仕組みでは追いつけない部分が多々あります。だからこそ「AIに学習させる学習データの権利をどのように公正に分配するか」という視点で考えると、私たちもビジネスでも同じ問題があるのではないでしょうか。

ハリウッドのストは、決して対岸の火事ではないのです。今こそ自分ごとで考えることが必要なのです。

   

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暑い日にコーラが200円だと、少しイラッとしてしまう

最近、タクシーを利用する際に愛用しているのがGOというアプリです。いままでタクシーをつかまえるのは大変でしたが、GOを使うと近くにいるタクシーがすぐに来てくれます。

ただ、なかなか空車がない場合もあります。こんな場合は少々料金がかかりますが、「優先パス」を使えば優先して配車してくれます。私は納得して使いますが、SNSを見ていると「これで料金を取るなんでケシカラン」という人もいました。なかなか難しいものです。

やや古い記事ですが、6月26日の日本経済新聞にこんな記事がありました。

『広がる「変動価格」、消費者不満も』

最近流行のダイナミックプライシングについての記事です。

需要が高いと価格を高く設定し、需要が低いと価格を下げる、という価格設定のメカニズムです。

GOの優先パスは、使うかどうかはユーザーに委ねられているので、実に巧みにダイナミックプライシングを活用していると思うのですが、それでも不満な人がいます。

たとえば暑い日に、いつも自販機で150円で買えるコーラが、200円になっていたりすると、「暑いからって、そこで儲けるの? それって違うでしょ」って思って、ちょっと「イラッ」としますよね。これは実際に米国コカ・コーラが実験して批判され、頓挫したそうです。

ホテルや航空機などではダイナミックプライシングはある程度定着していますが、他の分野では見直しも増えてきています。

たとえばプロバスケットボールチームのレバンガ北海道では、変動価格制をやめて、試合日ごとに異なる二種類の価格に見直しました。

清水エスパルスもJ2降格で客が減り「席が埋まっていないのに高い」との反発があり、「儲けばかり求めているとみられるとファンが離れる」として、2〜3割の試合を定価に戻しました。

一方で食品ロスを減らすために賞味期限間近の商品を集めて安く販売するサービスが、中国で若者中心に受けて成長しているそうです。中国では若者の失業率が20%にもなっています。「確かに食品がムダなのはよくないよね」という大義名分と、「収入が低いから安い方が助かる」というホンネにアピールしています。

ビッグデータやAIを活用したダイナミックプライシングの手法は、まだ始まったばかりです。今後、試行錯誤を繰り返しながら、ダイナミックプライシングが定着していくのではないかと思います。

   

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「父親と絶交すべきか、悩んでいます」というお悩み相談

新聞で私がよく読むのが、お悩み相談コーナー。

「こんな悩みがあるのか」という驚きがあったり、回答される方の深い洞察に唸ったりして、新しい発見の宝庫です。

先日読んだ新聞で、30代女性のこんなお悩みがありました。

「父親と絶交すべきか、悩んでいます」

相談者さん曰く、実家に帰る度に「早く結婚しろ」と言われ、親戚の集まりでも晒し者になってつくづく嫌になった。そのうち殴って黙らせてしまうかもしれない。その前に絶交した方がいいかも、というご相談でした。

私も結婚は遅かったのですが、結婚する前は、同僚・上司・親戚・友人とあらゆる周囲の人々から…

「早く結婚しなきゃね」
「なんで結婚しないの?」
「なんか信念でもあるの?」
「異性へのアピールが足りないんじゃないの? 地味だしね」

と言われ続けました。

皆さん例外なく「あなたのために親身に思って言っているですよ」とおっしゃるのですが、私は言われるたびに内心で(放っておいてください〜)と思っていたので、とても共感します。

最近、やっとこれがハラスメントとして認知されるようになりました。つくづく、いい世の中になったと思います。

さて、そこでこの相談者さんのお悩みです。
一見よくある光景ですが、根深いですね。

父親は娘の幸せを願っています。
しかし「女性の幸せは結婚しかない」と信じ込んでいます。
そして娘のことを理解しようとしていません。

一方で、この相談者さんのお悩み相談からは「父親に自分を理解してもらいたい」という心の叫びが聞こえてきます。

ではそもそも、私たちは他人を理解できるのでしょうか?

「他人を理解しましょう」とよく言われますが、家族といってもしょせん他人です。いつも一緒にいる夫婦だって、しょせん他人です。

相手のことを理解する努力は、必要です。
でも相手のことを100%理解するなんて、絶対にできません。
なにしろ、自分のことだって100%理解できている人は、まずいません。
他人なら尚更ですね。

問題は、本当はあまり理解できていないのに、「私はこの人のことをよく理解できている」と考えてしまうことです。

たとえば「うちのチームの部下のことは、よく理解できている。だから発破をかけている」というマネジャーは、その典型です。

ワンオンワンをどんなに頻繁にやっても、部下を100%理解することなんて不可能です。

ではワンオンワンは意味がないかというと、全く違います。
100%理解はできませんが、理解しようと努力することはとても大事なのです。

こう考えると、相談者さんの本当の悩みは

「父親が、私のことを理解しようと努力してくれない」

ということなのでしょう。

一方で問題は、この相談者さんが父親のことをどれくらい理解しようとしているか、ということです。

「自分を理解して欲しい」というだけで、父親のことを理解しようとしていないとしていたら、実は父親とあまり変わらないのかもしれません。

この相談者さんと父親が

「実は自分は、この人のことを全く分かっていないのではないか」

と認識した時に、本当の関係修復が始まるのだと思います。

あなたは、あなたの周囲の人をどの程度わかっているでしょうか?
そして、理解するためにどんなことをしているでしょうか?

   

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人が集まる場は、お金を生むメディアに変わる

画像はファミリーマートサイトより

最近、ファミマに入って目立つのが、店の天井近くにある大きなディスプレイです。これ、電子看板(デジタルサイネージ)っていいます。

ファミマはこのデジタルサイネージを将来の収益の柱に育てようとしています。

2023年7月14日の日経MJの記事で、ファミマのデジタルサイネージの最新状況が紹介されています。

・ファミマ店舗には一日1500万人以上が訪れる
・コーラとファミチキの販促企画では併買率は6〜7倍に
・広告収入はFC加盟店舗に還元
・現時点で、全店舗の3割弱となる4600店舗に設置
・23年内に1万店に増やし、加盟店の売上増の一手とする
・5年後に事業利益100億円を目指す

ここから学べることは、「人が集まる場は、お金を生むメディアに変わる」ということです。

ファミマには、ファミマで商品を買う気になっているお客が来ています。分かりやすく言えば、「普段は固い財布の口が、半分開いている状態」です。そこで特定商品のメッセージを流すことで、その商品を買う可能性が一気にアップします。

永井経営塾6月のライブで詳しくお話ししましたが、他にも様々なモノが広告として収益を生み出しています。たとえば

ゴルフカート…ゴルフする人に、ディスプレイでCMを見せます。ゴルフ場でカートに乗っている時間は合計60-90分。ゴルフをする人は富裕層や経営層。購買力が強い人たちに、ピンポイントでリーチ可能です。「ゴルフカートビジョン」という会社は、9ゴルフ場587台のカートを展開中、月間リーチ人数は27000人です。

商業施設やオフィスの個室トイレ…トイレの落書き、つい見てしまいますよね。公衆トイレの中はお一人様時間。しかも性別が分かれてます。オフィスビルなら年収水準や仕事などの属性も絞り込み可能。

アパホテルのプール広告…アパホテルは、経営難のホテルを買収し、黒字化させています。買収するホテルの多くは、屋外プールがあります。そこでプール黒字化のために、企業名を付ける広告事業を展開しています。たとえばポカリスエットプール、ビックリマンプール、味ぽんプールなど。

あなたの会社でも、「共通の属性を持つ人たちが集まる場を、お金を生むメディアにできないか」と考えてみると、面白いかも知れませんね。

   

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サイバーエージェントが、生成AIを脅威に思う理由

生成AIは、様々な業界を再編する起爆剤になりつつあります。

ネット系広告で国内最大手の代理店であるサーバーエージェントも、生成AIの登場に強い危機感を持つ企業の一つです。

「サーバーエージェントってIT企業だから、チャンスと思うかもしれないけど、脅威はいい過ぎじゃないの?」と思ってしまいますが、実は本当にヤバいのです。

日経産業新聞2023.6.29号に、サーバーエージェント内藤貴仁常務のインタビューが紹介されています。内藤さんは、広告分野でのAI DX事業を統括しています。

ネット系広告メディアは、グーグルやメタ(Facebook)が圧倒的シェアを握っています。サーバーエージェントの仕事は、企業がこれらの広告メディアで効果的な広告を出すのを支援することです。

しかしグーグルやメタも、生成AIに大規模に投資しています。彼らが生成AIを使って企業に効果的な広告を自動提案できるようになると、サーバーエージェントの存在意義は消滅してしまいます。

つまり企業と広告媒体が直接繋がってしまう、いわゆる「中抜き現象」が起こる可能性があることになります。これって、サイバーエージェントにとって、凄くヤバい状況です。

改めて、「広告仲介者としてのサーバーエージェントの価値とは何か?」を突き詰めた上で、具体的な価値を顧客に分かりやすく示すことが必要になってきます。

そこで同社は日本語の大規模言語モデル(LLM)を公開し、スーパーコンピュータ富岳の活用で大学とも連携しています。そしてAIでキャッチコピーを作ったり、広告効果を予測したり、画像生成AIの活用も推進しています。

つまり「どうすれば、グーグルやメタよりも価値あるネット系広告の提案ができるか」を必死に考えているわけですね。

「でもLLMって技術のカギでしょ。公開しない方がいいのでは?」と思いがちですが、内藤さんは「自分たちだけでいいものを作るよりも、大学を含めて多くの研究者の力を活用して作る方が、良いモノができる可能性が高い」と判断しています。まさにクローズド・イノベーションではなく、オープンノベーションのアプローチです。

振り返ると、ECが流行始めた頃も、「企業と消費者が直接繋がり、仲介者は不要になるのではないか」と言われました。しかし結果として、アマゾンや楽天のように企業と消費者の間を仲介する企業が成長しました。

1990年代前半にIBMが倒産しかけた時もそうでした。当時はマイクロソフト、デル、オラクルなどの強い専業会社が次々と登場し、全て手掛けるIBMは個別製品で戦うと負ける、という状況が続き、IBMを小さな会社に分社化する動きが始まっていました。しかしこの時、外部からCEOに就任したガースナーは「違う。いまや顧客が様々なIT商品を統合しなければならない。顧客にとってこれは困る。IBMなら全領域を熟知しているので、顧客システムを統合できる。問題はその統合スキルを活かしていないことだ」と考えて、分社化の動きをストップ。逆に統合化を進め、サービス事業とソフトウェア事業を立ち上げました。IBMもIT商材を統合する仲介者としてのポジションを見いだして、復活したわけです。

サーバーエージェントの取り組みのように生成AIの登場で、今後様々な業界で再編が進んでいく可能性が高くなっています。

この機会に、あなたの業界では、顧客から見て生成AIが自社のどんな業務を代替し、その結果、自社にどのような影響があるかを具体的に考えてみてはいかがでしょうか?

   

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監視技術は、人類の価値観を変える?

2023年6月30日の日本経済新聞一面に、こんな特集がありました。考えさせられる内容でした。

『テクノ新世 「ビッグ・ブラザー」姿現す日』

ポイントをピックアップすると…

・中国の監視カメラによる監視技術が、アフリカ諸国などに浸透中
・中国は政府主導で、この2005年以降40ヶ国に輸出
・西側諸国は「監視技術? プライバシー侵害でイヤだよね」となりがち
・アフリカ諸国は「中国製のカメラで監視?別にいいよ。犯罪がなくなり暮らしやすくなった。何が問題?」
・作家オーウェルは1949年にディストピア小説「1984年」で、あらゆる言動を国家が監視する近未来を描いた。しかし今や監視社会は安心安全の理想郷の姿を装う
・一方で使途を逸脱すれば権力の暴走の危険もはらむ。法の支配と人権の配慮は?

…という内容です。

歴史の経緯を考えると、悩ましい問題ですね。

西側諸国もかつて犯罪が多発してきました。しかし数百年間かけて「犯罪は厳罰」「倫理的に振る舞うべきだ」という価値観が徐々に浸透して、信頼社会が構築されました。

しかしデジタルの仕組みを使えば、すぐに「犯罪すると損」という社会が構築できます。そして国民も「安心して歩けるようになった」と歓迎しています。

監視技術を導入する国は、西側諸国から「権力の暴走を生む」と言われてもピンとこないでしょう。国内犯罪は減りますし、政権側からすると権力強化はむしろ歓迎されるかも知れません。

監視技術を輸出する中国政府は、彼らの課題に確実に応えているわけです。中国政府からすると「みんなハッピーで、誰も困っていないじゃん。何が悪いの?」なのかもしれません。

00年代に中国で電子マネーが普及した時のこと。アリババが電子マネーの決済履歴を活用し、融資の際に借り手の信用度を貸し手に提供する「芝麻信用」というサービスを始めました。

「個人情報を勝手に使うのってダメでしょ」と思われがちですが、信用スコアが高い人は有利な条件で融資を受けられるので、利用者は積極的に情報を提供したそうです。現実的な判断ですよね。

一方で西側諸国がこのような監視技術を懸念しているのは…

・よき振る舞いは、倫理観に基づくものなのか?
・よき振る舞いは、損得勘定に基づくものなのか?

この辺りの価値観の違いが生まれてくる懸念が、根底にあるのかもしれません。

「損得勘定でよき振る舞いをしよう」という考え方は、「損しなければ、勝手に振る舞ってもいいんだ」となりがちです。

現在、デジタル監視技術を導入しているのは、人口が急増する発展途上国です。デジタル技術の活用で、従来の西側諸国とは違う価値観を持つ国が、急速に増えつつあることに対する不安が背景にあるようにも思います。

そして50年〜100年後に振り返ると、人間の価値観が大きく変わっていく過渡期がこのタイミングなのかもしれませんね。

   

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ヒョンデEV戦略成功のカギは、サービスマーケティング

2023年6月5日のテレビ東京「ワールド・ビジネス サテライト」で、韓国ヒョンデ(現代自動車)のEV戦略が紹介されていました。

ヒョンデは20年前にも日本市場に参入しましたが、撤退しています。この時の反省が「日本市場に合わせていなかった」。そこでEV時代を迎えて、満を持しての日本市場再参入です。

この戦略が、実に興味深いものでした。

まず、オンライン販売のみです。

現時点でEVを買うのは、キャズム理論でいうところの新しいモノに抵抗がない「イノベータ」「アーリーアダプター」です。だったらアーリーマジョリティやレイトマジョリティが重視する店舗展開は不要、との判断なのでしょう。

さらに、災害が多い日本市場に併せて外部電源機能付きモデルを投入。ちなみに日本で人気のテスラは、外部給電機能はないそうです。電気代が安い夜間などに充電すれば、電気代を抑制することもできます。

以上は商品戦略とチャネル戦略ですが、さらにカギとなるのがサービスマーケティング戦略。

買う側からすると「店舗がないとしたら、保守サービスはどうなるの?」となるわけですが、ヒョンデは、整備拠点から来た出張整備士が各家庭を訪問しています。

EVはガソリン車よりも部品点数が少ないのが特徴。だから出張整備で修理が間に合うことも多いのです。

そんなヒョンデは、1年でこの新型EVのアイオニック5を700台を販売したそうです。

これは、まさにEVの特性を考えたサービスマーケティングですね。

デジタル時代になって、本格的にモノとサービスが融合し始めています。

このモノとサービスの融合について、慶応大学名誉教授の井関先生は、「牛肉の赤身=モノ、脂身=サービス」にたとえて、次の3段階でわかりやすく説明しています。

■第1段階 すき焼きと脂身(顧客の要望で脂身)
この段階ではサービスは必要悪です。従来の店舗での保守サービスはこちらですね。

■第2段階 サーロインステーキ(脂身は赤身に付随するが分離)
サービスは差別化要素です。ヒュンデの出張サービスはこの段階です。

■第3段階 松阪牛(赤身と脂身は霜降り)
サービス/モノが一体化します。EVで言えば、自動運転サービスになるとこの段階ですね。

いまやモノづくり企業こそ、サービスマーケティング戦略の巧拙が問われる時代。自社が展開可能なサービスがどの段階にあり、将来はどの段階に進化できるかを考える上で、参考になる考え方だと思います。

   

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「AIだからマチガイないと思うの。だってAIなんでしょ」

先日、テレビニュースを見ていたら「うわッ」と思いました。
それはAIを活用した何かのサービスについて、街頭でインタビューする場面でした。家庭の主婦と思われる女性が、こう答えているのです。

「これ、AIだからマチガイないと思うの」

この時、こう思いました。

「うわッ! これが普通の反応なんだなぁ。でもそりゃ、そう思うよね」

chatGPTを使った人はわかると思いますが、AIは実によく間違えます。

数ヶ月前、charGPTに『永井孝尚が書いた「100円のコーラを1000円で売る方法」について教えてください』と聞いた時も、『永井孝尚は「100円のコーラを1000円で売る方法」を書いていません』という回答が戻ってきて「おいおい。違うよ」と思いました。(先ほど念のためchatGPTで試してみたら、なぜか直っていましたが…)

先日6月12日に行った永井経営塾のゲストライブで、元Microsoftシニアプロジェクトマネジャーの板垣政樹さんをお招きして話し合ったときにも、この「AIよく間違う問題」が話題になりました。

そもそもAIはウソを付こうと思っていません。
AIが間違えるのは、AIの仕組みのためです。

AIは、世の中のある大量の情報を集めて、その中からパターンを見つけます。
そして質問に対して回答候補をいくつか作って、質問への整合性が高い順に答えます。
でも集めた情報の中に答えがあることもあれば、情報が間違っていたり、情報はなかったりすることもあります。
だから正解率が100%のこともあるし、10%だったり0.1%のこともあります。

AIはこんな仕組みで、決して「わかりません」とは言わずに、単に回答候補を並べるだけなのです。

でも普通の人は、こんなAIの仕組みは知りません。
だからこう思うわけです。

「この答え、AIだからマチガイないと思うの。だってAIなんでしょ」

普通の人はAIに100%正解を期待するわけです。

今はまだAIがそれほど一般的ではないので、笑い話で済みます。

でもAIが本格的に普及する近い将来、実はよく間違うAIを「AIだからマチガイない」と思うことは、実に危ういことです。

確かにAIによる自動運転のように、100%に限りなく近い絶対的な正確さが求められるAI活用場面もあります。

一方で、自動運転のようにパターン化できる状況とは異なり、答えが色々あったり、そもそも答えがない状況もあります。たとえば自分の将来の進路だったり、人間関係の問題です。

そのような答えがない状況こそ、私たちはいろいろと考え続けて、場合によってはAIを相談相手にしたりしながら考え続けつつ、自分なりの答えを見つけていく必要があります。

しかしそんな時に、自分で考えずにAIに思考を丸投げし、返ってきた答えを「AIだから正しい」と信じることは、実に危ういことです。

今後、AIを活用したサービスを売り物にする会社も増えていきます。
サービス提供者はともすると「AIは間違うこともありますよ」なんてやぶ蛇なことは言わずに、「AIが答えるので、人間よりも安心です」ということを売り物にする可能性が高いでしょう。これはこれで、問題ですよね。

AIが普及していく近い将来で必要なのは、この「AIは実はよく間違う仕組みになっている」というAIリテラシーを高めることではないかと思った次第です。

  

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ムラ社会こそ、日本企業の強み

日本社会は「ムラ社会」と言われます。

これは農村社会のイメージです。周りの人は、子供の頃から知っている人ばかり。誰がどんな人なのか、皆がよく分かっています。だからあうんの呼吸でコミュニケーションできます。

日経ビジネス最新号(2023.6.12号)で、半導体用シリコンウェハーで信越化学工業と世界トップを競うSUMICOの橋本会長のインタビューが掲載されています。

この記事で橋本会長は「このムラ社会こそ我々の強み」とおっしゃっています。ムラ社会の強みが、最先端技術の半導体材料で活きるのは、意外なことですよね。さっそく一部引用してみましょう。

—(以下、引用)—

シリコンウェハーは日本人に最も向いている事業だと思います。ウェハーには(インゴットを円盤状にスライスしたり、研磨したりする)多くの工程がありますが、擦り合わせ技術だらけです。隣のヒトと協力して和気あいあいと、いいモノを作ろうというメンタリティーが大事なんです。中国の人には「俺だけが」という意識が強いし、米国もスタンドプレーが好きですよね。日本のムラ社会的なメンタリティは特別だとつくづく思います」

—(以上、引用)—

ちなみにシリコンウェハーは極めて高純度と高精度が求められます。たとえると、「九州2個分の面積に、一円玉が数個転がっている程度の異物しかない精度」だそうです。この精度は、他の国ではなかなか真似できません。

この品質を維持し、かつ高い歩留まりを維持できるのは、お互いがあうんの呼吸で連携できる日本のムラ社会のおかげだというのは、確かに納得できます。

日本企業が強みを発揮できるのは、この擦り合わせ技術です。

1990年代まで日本の電機業界が世界を制したのも、当時の電機業界の主流がアナログ家電で、擦り合わせ技術の固まりだったからです。しかしその後、電機業界は擦り合わせ技術が不要になり、部品の組み合わせで完成品が作れるデジタル家電が主流になって、日本の家電メーカーは衰退しました。

当時の電機業界の衰退は、自分たちの強みは十分に見極められなかったから、という見方もできます。

日本企業の強みは、この擦り合わせ技術にあり、その要因は組織がムラ社会だからだ、ということですね。

一方でムラ社会にも課題があります。

閉鎖的で、ともすると組織に協力しない人が村八分扱いになることです。これが行き過ぎると、組織内の不正が表面化しにくくなります。最近、日本企業の不正や不祥事隠蔽が増えているのも、日本が古いムラ社会のままだからです。

今後、少子高齢化が進んでくると、企業には様々な地域や価値観を持つ多様な人材が入ってきますし、人材も流動化していきます。

こんな時代だからこそ、日本企業はムラ社会の連帯感という強みを活かす一方で、ルールや透明性(ダメなものはダメ)、ビジョン(≒パーパス)の明確化と共有によって、進化していく必要があるのだと思います。

  

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クルマの製造コスト半減に挑戦するテスラ

Tesla発表より

2023年3月、テスラがEVの新しい生産方法「Unboxed Process」を発表しました。これでEVの生産コストが半減する、と言っています。

2023年6月1日の日経産業新聞に詳しい解説記事がありますので、これを参考に見ていきましょう。

とてもひらたく言うと、Unboxed Processとは、車を6つのモジュールに分解し、各モジュールを組み立てて、最後に完成車を作るという方法です。

従来の車作りは、シャーシ(骨格)とボディ(車体)が一体化した車両構造(箱)を作り、そこに外板を取り付けていく、という流れ作業のプロセス。基本は100年以上前のT型フォードの生産方式と同じです。世界に名だたるトヨタ生産方式も、基本的にこの方法です。車の基本的な生産方式は、100年間変わりませんでした。

テスラのUnboxed Processは、名前の通り「箱」を作らずに、6つのサブラインで各モジュールを作り、最後にメインのラインで完成車を組み立てます。

この結果、作業性が向上します。たとえてみれば、ユニットバスのようなものです。マンションで風呂を作り込むのではなく、工場でバス設備一式を予め作っておき、マンションで組み立てて設置する感じです。

テスラはこれで大幅なコスト削減を狙っています。テスラは、現在の最廉価版EV「モデル3」と比べて半額のEVを作ろうとしています。そのためのコスト削減なわけですね。

一方で自動車の専門家は「コストはさほど下がらないのでは?」という意見。組立て工程コストは5割減らせますが、部品・材料を考えるとそれほどならないし、モジュール接続の材料で高くなる部分もある、と指摘します。

一方で工場の専門家は「組み合わせ型からモジュラー型に移行することで、コスト半減の可能性は十分ある」との意見です。実際、パソコンやデジタル家電はまさに同じ事が起こっていますね。

ちなみに7月の朝活永井塾のテーマ「学習する組織」で、経営学者ピーター・センゲはこんな事例を紹介しています。

米国自動車会社の重役が日本の自動車会社の工場を見学しました。 その重役は「本物の工場は見せてくれなかった」と不満顔です。在庫がなかったからです。

重役曰く、「私は製造業に30年携わってきたからわかる。在庫ゼロなんて視察用の芝居に決まっている」

その工場とは、在庫ゼロを実現したあのトヨタ生産方式の工場でした。「工場には在庫がある」と思い込む彼の目には、その後、米国自動車会社を圧倒した最新工場の真の姿が見えなかったのです。

業界への新規参入者は、ときに想像を超えた手を打ってきます。しかしその手は、業界で昔からやってきた人には非常識かもしれませんが、新規参入者にとっては当たり前の常識であることも多いのです。

テスラも、自動車業界の常識には囚われません。

たとえば今では多くの自動車メーカーが取り組んでいるソフトウェアでクルマの機能を追加するOTA (Over The Air)という技術も、もとはテスラが始めたものです。

長年自動車に関わってきた技術者は「クルマの機能追加は、カーディーラーで行うべき」と考えるのではないでしょうか? クルマの機能追加を無線ネットワークで更新するなんて発想は、なかなか難しかったでしょう。

しかしイーロン・マスクが熟知するIT業界では、ネットワーク経由での機能追加は常識。イーロン・マスクは、彼にとっての常識を自動車業界で行っているだけなのかも知れません。

これは新市場を開拓する際に、私たちも参考にすべき考え方だと思います。

自分たちが熟知する常識が、その新市場では非常識であれば、それは大きな武器になり得る、ということです。

テスラの挑戦は、私たちもぜひ参考にしたいものです。

  

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英国で大絶賛。「とにかく明るい安村」から学べ!

「安心してください。はいてますよ」
と言えば、あのとにかく明るい安村さん。

実は今、海外でブレイク中です。

英国の人気オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演。あの芸を披露し、拍手喝采でなんとスタンディングオベーション。審査員全員が合格判定したのです。

ステージでは、サッカー選手、競馬騎手、ジェームズ・ボンド、スパイス・ガールズのネイキッド・ポーズを披露しました。このネタ、改めてよく見て下さい。全て英国向けに周到にカスタマイズされたネタばかりです。

ステージ上では、コテコテの正統派ジャパニーズ・イングリッシュで語った安村さん。

あの独特のノリに、審査員もノリノリ。

決めセリフ“Don’t worry. I’m wearing.” (「安心してください。はいてますよ」)と言うと、 審査員の女性二人は立ち上がって、大声で“Pants!”

ちなみに”wear”は英語で他動詞。”I’m wearing.”は英語として不完全。英国人は、他動詞で目的語(O)がないとムズムズするのかもしれません。(英語の第3文型SVOですね)

で、審査員の女性二人は”Pants!”と叫んだのではないか、と思ったりします。まぁ、安村さんの勢いとノリに乗せられたのですね。

まさにボケとツッコミ。そこまで考えて”Don’t worry. I am wearing”と言っていたとしたら、安村さん畏るべしです。

安村さんの芸は、誰でも一目見ればすぐに面白さがわかります。つまりハリウッド映画のように、世界の誰が見ても理解できる「ロー・コンテキスト」なコンテンツです。かつて世界的にブレイクしたピコ太郎も、一瞬でおかしさが伝わる点でロー・コンテキストです。

逆に日本でウケても、世界でウケないコンテンツもあります。たとえばシン・ゴジラは日本でウケましたが、世界ではウケませんでした。ゴジラが市街地にいるのに自衛隊が攻撃できない理由は、日本人ならわかりますが、海外の人からすると意味不明。「攻撃すればいいのに、ホワーィ?」となるわけです。つまりシン・ゴジラは、日本人しかわからない「ハイ・コンテキスト」なコンテンツだったわけです。これでは海外に持っていっても、なかなか難しいですよね。

安村さんの場合、ロー・コンテキストな一発芸を、さらに英国風にわかりやすくアレンジして磨き上げて、ウケるようにしたわけですね。

安村さんの勇気ある挑戦から、私たちが学べることは大きいと思います。

日本で一時ブームになったモノなら、海外用に少々カスタマイズして持っていけば、ブレイクする可能性があるかもしれない、ということです。

勝負を分けるポイントは、「やるか、やらないか」の勇気
そして「数で勝負」。そもそも成功するかどうかなんて、いくら考えても絶対にわからないわけで、どんどん数をこなし、うまくいかなかったら原因を探して再挑戦です。

この二つに尽きるのではないでしょうか?

私は高速に仮説検証を回して学びを積み重ねて進化していく「トルネード式仮説検証」を提唱していますが、まさにそれを実践することですね。

失敗しても、多くの人は気付きません。
でも成功すれば、多くの人の目に止まります。
そして人々が覚えているのは、成功の方なのです。

ぜひ挑戦したいものです。

安村さんにおかれましては、次の挑戦先としてエンターテイメントの本場であるラス・ベガスか、巨大市場・中国への横展開を期待したいところです。

ちなみに安村さん、女性用ビキニのパンツを後ろ前に履いているそうです。

また一時期は仕事が増えたせいで体重が5Kgほど減って腹が引っ込み、パンツが隠しきれなくなって「パンツ見えてる」と客から突っ込まれたため、体型には気を遣っているそうです。

安村さんも色々と工夫をしているのですね。私たちも見習いたいものです。

 

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なぜいまだに紙の決算資料を投函するのか?

5月のGW明けは決算発表のピーク。
ということでニュースを何の気なしに見ていたら、驚愕したことがありました。

東京証券取引所(東証)の記者クラブで、企業の担当者が、決算資料をマスコミ各社ごとに忙しそうに投函している場面が映ったのです。当然、紙です。

実際には、企業の情報開示は東証が用意している適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で開示した時点で、投資家に開示したと見なされるので、紙資料を投函しなくても全く問題はないそうです。

念のため過去を調べてみると、大企業を中心に「投函を取りやめる」というニュースも散見されます。

■「トヨタ、決算資料の投函とりやめ」(日本経済新聞、2019年4月11日)  …トヨタは記者クラブの投函をやめる方向で検討。TDnetを通じて公開、ペーパーレス化を進める。

■「日立のある決断で、東証記者クラブ消滅の危機?」(Business Journal, 2015年5月2日) …日立は資料投函を中止すると記者クラブに申し入れ。理由はコスト削減。

しかし2023年になっても相変わらず多くの企業が紙の資料の投函を続けられています。地方の企業もわざわざ手間をかけて資料投函に来たりします。このため投函代行サービスというサービスを提供している会社もあるようです。

実は私がこの場面を見た後、もっと驚いたのが、番組の報道キャスターがそれを当たり前のように報じていたことです。

日頃は「日本のDXなかなか進まないのはナゼ!?」という論調で日本企業の姿勢を嘆いているマスコミ各社が、自分たちマスコミ向けの紙の決算資料投函については、あたかも季節の風物詩のように普通に報道しているわけです。

本来は継続する必要はないのに、今でも紙の投函を継続する人たちにも、恐らくそれなりの理由があると思います。

しかし本来のDXは、このような紙の投函作業の効率化をするのではなく、このような紙の投函作業自体をやめることです。

このようなことが起こる理由は、自分が日々行っていることは、それが当たり前になっているので、外部から言われないと気がつかないためなのでしょう。

振り返ると、私たち自身の身の回りにも、そのような「当たり前=外から見るとおかしいこと」が意外と多いかも知れません。

 

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最新商品は、1〜2年で陳腐化する

永井経営塾では、毎月テーマを決めて様々な経営・マーケ理論の講義動画を配信しています。

このために私が講義資料の叩き台を作り、運営チームの皆さんとかなり時間をかけて話し合いながら、講義内容をチューニングしています。おかげさまでの会員の皆様からは高評価をいただいています。

先日、来月配信分講義の打ち合わせをした時のこと。

私の講義はパターンがあり、必ず聴き手の問題意識から入るようにしています。

今回もそのパターンで叩き台を作ったのですが、運営チームの皆さんはビミョーな様子で「うーん。ちょっと違うかも…」という反応。

叩き台は、5年前に多くの企業様からのご依頼でお話しした内容を元に作りました。5年前はとても好評でした。そしてしばらくこのテーマではお話ししていませんでした。つまりわずか5年間で、完全に賞味期限が切れていたということです。

私は10年前に独立してマーケティング戦略の講演をやってきましたが、確かに振り返ると、当初は好評な内容でも1〜2年経つと、同一内容でお客様も違うのに、お客様の満足度が着実に下がるのです。そして最新の知見を入れて内容をバージョンアップすると、お客様の満足度が回復します。

1〜2年で満足度低下が見えるのですから、5年前のプレゼン資料が賞味期限切れするのは当然ですよね。

これはプレゼン資料の話ですが、プレゼン資料は弊社の商品でもあります。
つまりこの話は、多くの商品に当てはまる話です。
たった1〜2年で、商品は陳腐化するということです。
そしてこれは、お客様の満足度をリアルタイムに測定していれば、確実に把握できることです。

御社の数年前の最新商品、賞味期限切れを起こしていませんでしょうか?
そしてお客様の変化を、把握しておられるでしょうか?

 

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「AIでバックオフィス職30%削減」のIBM発表から学べること

世界の金融ニュースを配信するBloombergでこんな記事が掲載され、大きな話題になっています。

「AIが5年で代替へ、バックオフィス職の30%-IBMのCEO予想」

ポイントをまとめますと、

・IBMのクリシュナCEOは5月1日のインタビューで、AIで代替可能な職務は、今後数年間、新規採用を一時停止すると言明

・バックオフィス部門(人事など)で顧客に接しない業務に携わる従業員26,000人のうち、5年間で30%がAI/自動化で代替すると想像→雇用7,800名に相当

私は長年IBMに勤務してきて感じることは、IBMが経営で取り組んでいることは、ほぼ5-10年遅れで世の中に波及していく、ということです。たとえば…

・全社統一CRM
 → IBMでは90年代にプロジェクト開始、00年頃から運用 → 日本では00年代後半から本格化

・コモディティ化した事業の売却
 → IBMではlenovoへのPC事業売却は2004年 → 日本では10年代から本格化

・オフショア化(インドなどへのリソースシフト)
 → IBMでは90年代前半に試行、00年代から本格化 → 日本では00年代後半から本格化

・人事評価へのAI活用試行(ワトソン)
 → IBMでは10年代前半から試行 → 日本では現在試行開始?

IBMで一貫しているのは、徹底した事業の効率化とムダの削減です。現場の努力に頼らずに、トップダウンで仕組み化して効率化を進めているのです。さらにIBMは先進AIテクノロジーも持っています。

そんなIBMが「この5年間でAIによって多くの職務を代替する」とCEO自ら言明しました。今後5-10年で、AIによる職務代替は確実に本格化していくでしょう。

では、何が残るか? そのヒントもインタビューに書かれています。

・(クリシュナCEOによると) 具体的には人事業務のうち、雇用証明発行、部署間人事異動は自動化される。一方で従業員構成や生産性評価などは今後10年間で代替されないと予測。またソフトウェア開発部門と顧客対応業務での採用は継続する

つまり事業戦略に関わる業務、開発業務、顧客に直接接する業務などは、AI時代でも価値を生むということです。むしろこれらの業務は、AI活用で著しく価値を高める可能性もあります。

人類の歴史は、テクノロジーの進化とともにより大きな価値にシフトしていった歴史でもあります。たとえば…

18世紀… 産業革命で動力が生まれ、奴隷制度がなくなり、第二次産業が生まれました。

19世紀… 蒸気機関車が生まれ、駅馬車がなくなり、大量消費社会が生まれました。

20世紀… コンピュータが生まれ、計算業務が消滅し、知識労働が生まれました。

今回の発表も、この流れの中にあるのだと考えると理解しやすいかもしれません。

問題は、私たちビジネスパーソンがこの時代の激流の中にあってどうするか、です。これは抽象的な言い方になりますが、結局は「お客様が必要としている、自分だけの価値」を提供することに尽きるのではないか、と思います。

AIが異次元の進化をしているいま、自分自身のマーケティング戦略が問われる時代になったとつくづく感じます。

 

引用記事リンク  「AIが5年で代替へ、バックオフィス職の30%-IBMのCEO予想」(Bloomberg.com)

 

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宇宙ロケットの各社失敗から学べること

この数ヶ月で宇宙関係の失敗のニュースが続きました。

昨年10月18日 JAXAのイプシロン6号機、打ち上げ失敗。

3月7日 JAXAのH3初号機、Ⅱ段目が着火せずに打ち上げ失敗。

4月20日 イーロン・マスク率いるスペースXの「スターシップ」が、第2段目を分離できず地上からの指令で空中爆発。

4月26日 宇宙ロケットではありませんが、ispaceの月面着陸失敗。(成功すれば民間企業として世界初)

注目したいのが、その後の対応です。

■JAXAのイプシロン:JAXAで原因究明中。原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定。今後の原因是正処置を検討中。次回打ち上げ未定。

■JAXAのH3:原因絞込み中。現行のH−ⅡAへの影響評価も継続。次回打ち上げ未定。

■スペースXのスターシップ:数ヶ月後に次回テスト。当初から「成功確率は半々」と言っていました。今回の失敗でもイーロン・マスクは「次のテストに向けて多くのことを学んだ」と述べています。もともとスペースXは、当初は打ち上げは失敗続きでしたが、失敗からデータを取得して地道に改善を続けたことが今のビジネスに繋がっています。(ちなみにスターシップは、人類の火星移住のために開発された完全再使用型の超大型ロケットで、従来ロケット比で打ち上げコスト1/100を目指しています)

■ispace: 袴田CEOは会見で明るい顔で「着陸するまでのデータを取得しているのは非常に大きな達成で、次のミッションに向けた大きな一歩だと考えている」。今回得られた知見を活かし、2024年に2回目、2025年に3回目の着陸船打ち上げを計画。将来的には月面への定期輸送サービスの収益化を目指します。


いまや宇宙開発は、日本の国策です。JAXAや関連企業で、現場で宇宙開発に携わっておられる技術者の皆様の苦労は大変なものとお察しします。

しかしその一方で、いくら完璧を目指して検討を重ねても、机上でできることには限界もあります。実際にやってみることで、多くの学びが得られます。

そして宇宙ビジネスは競争が激化し、スピード勝負の世界になりつつあります。

高いリスクがある競争をスピードで制するためには、迅速に仮説を立てて→すぐ実行し→迅速に学んで対策を立てて→また試すこと。これに尽きます。

スペースXやispaceは、この大切さを知り抜き、現場からの学びを重視するアプローチを徹底しています。

JAXAも現在の「完璧な計画を立てる」というアプローチを、大きく見直すべき時期に来ているように感じます。

同様に「完璧を期す」という新規事業のアプローチを変えないばかりに、なかなかビジネスが立ち上がらない企業も多いように感じます。

あなたの会社は、スペースX/ispace型でしょうか? JAXA型でしょうか?


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chatGPTの社内活用判断は、鳥取県庁に学べ

chatGPTが相変わらず大きな話題です。実に興味深いのは、組織によって対応が様々なことです。

まず組織で活用する事例が次々と出てきています。

・パナソニックHD:同社傘下のパナソニックコネクトが開発した対話型AIを国内グループ企業で活用できるようにしたと発表。9万人が対象。情報漏洩を防ぐため、社内情報や営業秘密、個人情報を入力しない利用ルールも整備。

・横須賀市:実証実験を開始。文章作成・要約・誤字脱字チェックから。

・農林水産省:一部業務(ウェブサイトのマニュアル書き換えなど)で活用開始。業務効率化を狙う。公表済みの情報のみ

・広島市:県行政で活用。庁内向けプレゼン資料作成、県民サービス広報を目指し活用方法・課題を探る。

・総務省:情報の取扱いに留意しつつ、試行開始。

・東京都:小池知事が「都政における活用のあり方について検討を深める」

・東大:太田副学長より「傍観せずに変化を先取りせよ」

一方で情報漏洩リスクから社員に注意を喚起している会社も多くいます。

・ソフトバンク:業務利用のルールを周知徹底。

・アマゾン:機密情報を入力しないように注意喚起

・みずほFGなどの大手銀行:社員が業務端末からアクセスできないように設定

明確に禁止する組織もあります。

・ニューヨーク市:公立学校の学内ネットワークで使用禁止

・中国当局:国内主要IT企業にChatGPTのサービスを提供しないように指示。(政権に批判的な回答をしかねないため)

・イタリア:一時的に禁止。個人情報保護の対策中。

・鳥取県庁:答弁資料作成、予算編成、政策決定などの件の業務で使用することを当面禁止。

一方で色々な企業様のお話しを伺っていると、現実には「ChatGPTって使ったことがないので、よくわからない。どうも情報漏洩するらしいが、それは困る。だから念のため社内使用は禁止しておこう」という企業様も結構多いようです。

このように整理すると、世の中でchatGPTの問題として大きく取り上げられているのは、情報漏洩ですね。

しかし情報漏洩は、しかるべき対策を取れば対応可能な問題です。実際にパナソニックHDではそのような対策を取っているようです。

私は、chatGPTを組織で展開する上での問題は、もう一段深いところにあると思います。

ここで参考になるのが、chatGPT禁止を打ち出した鳥取県・平井知事の発言です。

『「charGPT」じゃなくて「ちゃんと地道」に。自治体の意志決定に関わることは機械任せにしない。議会答弁で使うとか色々な構想が語られているが、それは民主主義の自殺だ。入力情報には個人情報も含まれるので、秘密保持の観点でも課題がある』

平井知事は、chatGPTの本質をよく考え抜いた上で判断しているように思います。

いまやAIは、それらしい回答をすぐに作ることができます。しかしこれは、全て過去の情報に基づいています。

そしてAIが答えるのは、ネット上にある「誰それがこう言った」というの「事実」に基づく情報のみ。言い換えれば、「真実」を検証しません。

「事実」と「真実」は異なります。

その「事実」(誰それがこう言った)が「真実」なのか、そして「人として正しいことなのか」を検証できるのも、人間だけです。

そして未来のことを考えられるのも、人間だけです。

つまりchatGPTを業務で活用するには、「chatGPTは、間違っている可能性が高い」という前提で使える人が、組織にどれだけいるのか、という問題に辿り着きます。

現実にはSNSのフェイクニュースに騙される人は、決して少なくありません。お恥ずかしいことに、私もフェイクニュースに騙され、Twitterでリツィートしてしまったことがあります。(後ほどお詫びとともに訂正しました)

「chatGPTの回答は、間違っている」という前提で検証し、活用できることが必要です。

そこで必要なのが「仮説検証思考」です。
「間違っているかもだけど、仮に答えを○○○としておこう」と考え、○○○を実際に検証し、間違っていたら即座に修正し、再度確かめる、という思考法です。

現実には、この仮説検証思考を身につけている方は、多くありません。そこで社内のchatGPT展開とあわせて、この機会に仮説検証思考の習得を社内で徹底し、chatGPT活用との相乗効果を図るのも、一つの方法だと思います。

私が気になるのは、chatGPT活用の解禁や禁止を発表する組織の中で、このことを明言しているのが「議会答弁でchatGPTを使うのは、民主主義の自殺」とまで踏み込んで発言する鳥取県の平井知事しかいないことです。

いまやAIビジネス活用の判断は、待ったなし。
だからこそ、私たちはAIの本質を考えていく必要があるのだと思います。

御社の社内では、chatGPTをどのように活用しますか?


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運は待ってもやってこない

「あー、自分は運が悪いなぁ」と嘆きたくなる時ってありますよね。

いいご縁に恵まれて成功する人を見て、「自分にもいい運が巡ってこないかなぁ」と思う時もあります。

こんな時は、成功した人を観察することですね。

実際に成功した経営者の多くが、「私は運が良かった」と語っています。

ダイソー創業者・矢野博丈社長は、日経ビジネス2017.12.11号で、こう述べています。

『昔は入社式で新入社員に「この会社、いつ潰れるか分からん」って言っとりました。最近は言うのをやめました。今は「運を付けなさい」と言っています。ワシは運が良かったんです。』

松下電器創業者の松下幸之助さんは、こう言っています。

「今日までの自分を考えてみると、やはり、90パーセントが運命やな。しみじみ運命やと思うな」

お話を聞くと、この二人は運が良かったように思えます。

一方で京セラ創業者の稲盛和夫さんは、創業時は悲運の連続でしたが、こう言っています。

「絶対に自分の将来は不幸だと思ってはなりません。自分の未来にはバラ色の幸運が待ち受けていると信じることが大切です」

さらにマクドナルド創業者のレイ・クロックは、こう述べています。

「幸運は汗への配当だ。汗をかけばかくほど、幸運を手にできる」

この二人の話を聞くと、どうやら運は待っていても、与えられるモノではなさそうです。

実際には「運が良かった」と言うダイソーの矢野社長も、かなり苦労されています。「食べることができれば…」と考えて起業したものの、会社がつぶれかけたり、夜逃げしたりして、40歳まで実家に生活の面倒を見てもらっていました。「自分は能力がないから、一生懸命目の前のことをやる以外に手がなかった」と述べています。こうした積み重ねの上で「運が良かった」とおっしゃっているわけです。

「90%が運命やな」という松下幸之助さんも、創業時は病弱で逆境の連続。身近にいた義弟の井植歳男さん(のちの三洋電機創業者)は、「働く熱意は人並み外れているが才能は平凡」と言ったほどです。しかし逆境のたびに危機をチャンスに変えて成長しました。

彼らは運を待つのではなく、運に働きかけているのです。

過去に起こったことは、どう転んでも変えられません。しかし未来は変えられます。

そして過去は変えらませんが、過去の解釈ならば、私たちの考え次第でいかようにも変わります。

そうして行動すれば、未来は変えることができるのです。

運がいい人は、そうやって運を作りだしているのです。

そしてそれは、私たちでもできることなのです。

運は待ってもやってきません。
自分で作り出すものなのです。


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仮面ライダーが教えてくれる「危機は、飛躍のチャンス」

映画「シン・仮面ライダー」がヒット中ですね。
そのオリジナルが、1971年にテレビ放送された「仮面ライダー」。
当時小学生3年生の私は、本郷猛が変身する仮面ライダー1号と、一文字隼人が変身する仮面ライダー2号に夢中。この世代の男の子たちはほぼ例外なく、何かあるとみな「ヘンシン」と言いながら変身ポーズをしていました。

仮面ライダーが大ヒットした要因はいくつかありますが、個人的には、この「変身ポーズ」とライダー1号・2号の存在だと思います。

しかしこの「変身ポーズ」と1号と2号、当初の設定にはありませんでした。
大トラブルの末に編み出された、実は苦肉の策だったのです。

まず仮面ライダー制作が決定した時点で、2号の設定はありませんでした。
本郷猛(1号)を「藤岡弘、」さん(当時は「藤岡弘」さん)が演じる設定でした。

しかし放送前の第9話・10話の撮影中、オートバイの転倒による大事故で、藤岡さんはなんと全治3〜6ヶ月の重傷を負い、その後の撮影ができなくなりました。

未完成分はすでに撮影済の映像でなんとか繋いだものの、その後の話が続きません。そこで色々な案が出されました。

①本郷猛を、交代させる
②本郷猛は、死んだ設定にする
③いっそのこと、仮面ライダーを巨大化させてしまう

結局「子供たちの夢を潰すのはよくない」「(当時、再起不能と言われていた)藤岡さんの復活を待とう」ということになり、本郷猛は海外のショッカー支部との戦いに赴くことになり、後を継ぐ者として、一文字隼人の仮面ライダー2号が登場する設定になりました。

ちなみに一文字隼人役の候補には三浦友和さんも選ばれたのですが、三浦さんの所属事務所が断り、藤岡さんと同じ劇団に所属する佐々木剛さんが演じることになりました。

また当初、藤岡弘さん演じる本郷猛は、仮面ライダー1号に変身する時はバイクで加速し、その風をベルトで受けて、仮面ライダーに変身する設定でした。

しかし2号を演じることになった佐々木さんは、バイクの免許を持っていませんでした。これでは「バイクで加速して変身」ができません。

そこで編み出されたのが、あの手を大きく回す変身ポーズ。

これが社会現象になって、日本中の子供たちが変身ポーズをやるようになりました。こうして小学4年生だった私も、変身ポーズをやっていたわけです。

自分が仮面ライダーのプロデューサーで、主役の藤岡さんが事故で半年入院とか、代役がバイク乗れないという事態に直面することを想像するだけで、思わず頭を抱えたくなります。恐らく当時の製作陣も全く同じだったのではないでしょうか?

こんな時、「ヤバいなぁ。どう考えてもコレ、詰んでいるよね」と思いがちです。

しかしこんな時こそ、知恵の出しどころ。諦めなければ、解決策があるのですね。

「危機は、飛躍のチャンスになりうる」ということを、仮面ライダーのプロジェクトは教えてくれます。


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他は割とどうでもいいけど、大事なのは首尾一貫性

私はIBMで駆け出しマーケターから経験を積み始めただった頃の話しです。

IBMには昔からプロフェッショナル認定制度がありました。

部下がいなくても、専門分野のプロフェッショナルとして認定されれば、役員待遇になったりする制度です。当時新設されたばかりのマーケティング職でもこのプロフェッショナル認定制度がありました。そこでこの認定に挑戦しました。認定されれば部長職になれます。

しかしなかなか受かりません。「三度目の正直」と思って挑戦した三回目も見事落ちました。

この認定プログラムは何段階もステップがあります。その中のペーパーテストが難関で、3回挑戦して全滅でした。このテストはハーバード・ビジネススクールのケーススタディをIBM用に書き換えた事例が出されて、その戦略を3時間以内に作成して答える、という問題が出されます。

このプログラムは世界全体のIBMで行われました。
不思議なことに、日本人の合格率は10%、海外では40-50%なのです。
「英語のハンディがあるからでは?」という話もあって対策したのですが、変わりません。

私はたまたま、過去の海外のIBM社員の合格答案と、日本人の不合格答案を見る機会がありました。これで分かりました。

合格している人が書いた戦略は、こんな感じです。
・戦略の全体の方針を決める(例:顧客に最高の価値を届ける)
→その方針の下で分析して、基本戦略を決める
→その基本戦略に基づいて、各施策(製品戦略/価格戦略/販促戦略/チャネル戦略)を決める
→各施策は首尾一貫させる
→そして各施策の達成状況をモニターする方法も明記する

戦略自体はスゴいことは書いていません。当たり前のことを当たり前に書いているだけです。しかし首尾一貫しています。要は、「凡事徹底」なのです。

不合格な人(多くの日本人)が書いた戦略は、こんな感じです。
・いきなり各施策を説明する。
・施策は凝りに凝っている。スゴいアイデアも結構ある。
・しかし各施策は首尾一貫していない。
・そして、そもそも基本戦略が弱い。結局、何をしたいのかが分からない

各施策のアイデア作りにものすごく力を入れていることは伝わってくるのですが、バラバラなのです。そして実行段階のモニタリングにいたってはほとんどノータッチ。

審査する側の視点で両者の答案を比較して、「なるほど、これでは落ちる筈だよなぁ」と、不合格の理由がよくわかりました。(ちなみに私はこのことが分かったので、再挑戦して無事認定されました)

単なるペーパーテストの話ですが、これはビジネスでも極めて大事なことだと思います。

一生懸命やってスゴいアイデアも出すのに、なぜか成果が出ない人がいます。
一方で地道にコツコツやっているだけに見えるのに、いつの間にか成果が出る人がいます。

前者の人は、努力の方向性が間違っているのです。
本当に必要なのは、後者の首尾一貫性なのです。

もちろん、戦略のスジがいいことは大前提です。しかしその上で、首尾一貫して全体が繋がることを意識して、凡事徹底することが何よりも大事なのです。

ところで、この不合格体験で「首尾一貫性の大切さ」を学んだことが、今では自分の大きな財産になっています。思い返せば不合格のたびにガックリと落ち込みましたし、「もうやめようかな」とも思いましたが、挫折経験から学べることは実に多いですね。


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1989年の雑誌Brutusの「美人特集」

本棚を整理していたら、雑誌Brutusの古い特集号が出てきました。

『美しき隣人たち、ジャパニーズ・ビューティ。』 1989年5月15日号
『侃々諤々 美人論。』1991年5月15日号

当時の女優さんやモデルさん、アーティスト、アスリート、知識人といった女性たち数十名が、それぞれモノクロポートレート写真1枚に収められた特集です。

どれも作品として素晴らしい写真ばかりです。
当時15歳の後藤久美子さんが出ていたりしています。
当時20代だった黒木瞳さんも出ています。驚くべきことに、今とほとんど印象が変わりません。

人気女優たち23名を、ゲイのピーコさんとマンディさんが「性別に由来する偏見や社会的束縛がない」という立場で、辛辣に一刀両断に診断するという6ページの対談特集もあります。この対談は都内の会員限定ホテルの1室を300,000円で借りて行われています。(ちなみにこのお二人によると、1位は大地真央さん、2位は宮沢りえさん、番外で浅野温子さんと浅野ゆう子さんだそうです)

読んでいて実に面白く、思わず見入ってしまいます。
誌面全体からすごくお金をかけていることが伝わってきます。
今はこんな特集は、なかなか作れないかもしれません。

当時はバブルだったことに加え、まだインターネットがありませんでした。
新鮮な情報を入手する主な手段は、雑誌でした。
だから雑誌作りにお金をかけることができました。
そしていい雑誌ほどお金をかけられるので、良質な情報が凝縮されていました。

今はネットのおかげで情報はタダで入手できる時代です。
情報はコモディティー化してしまいました。
お金をかけて情報を編集することは、ますます難しくなっています。

そして消費者の目は、逆に肥えています。
情報はあっという間に消費されてしまうのです。

しかしこの特集を見て改めて思うのは、「十分な手間と時間をかけて作られた情報は、やはり面白いし、深い」ということです。

情報がコモディティ化し、多くの情報発信者が手間と時間をかけなくなった現代だからこそ、ジックリと手間と時間をかけた情報は、相対的に大きな価値を持つことができ、差別化できるのでしょう。

この特集を見て、改めてそんな情報を発信する必要性を感じました。


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「SDGsって、結局金儲けしたいんでしょ」というご意見

最近は、私たちの日々の仕事でもSDGsについて色々と言われるようになりました。

一方でこんな話しもあります。

「SDGsで騒いでいるのは日本だけ。欧米はそんなに騒いでないよ。グーグルトレンドで調べても、いまSDGsを検索しているのは日本だけだし」

実は日本は、SDGsの流れに周回遅れなのです。

もともとSDGs(持続可能な達成目標)は、2015年の国連サミットで採択されたものです。17の目標がセットされて2030年達成を目指し、多くの企業が一斉にSDGs達成に走り始めました。

欧米社会では00年代の中頃からSDGsに向けた合意形成が始まり、2015年のSDGsに繋がっています。競争戦略を提唱していたあのマイケル・ポーターも、2011年に「社会課題の解決と、企業としての経済的価値の両立を目指すべきだ」としてCSV (共有価値の創造)を提唱しました。

しかしSDGsは採択された2015年頃、日本企業の反応はこうでした。

「SDGsって何? 17の目標って何のこと?」

しかしいまや欧州などでは、SDGsに取り組み姿勢を見せていない企業は、そもそも取引に参加できなくなっていますし、SNSでも叩かれます。

ここ数年で、お尻に火がつき始めました。

だから日本ではSDGsを検索する人が多く、海外で検索する人が少ないのでしょう。 これって、今さら「スマホ」とか「インターネット」を検索する人はほとんどいないのと同じですね。

一方で、こんなご意見もあります。

「でもさ、きれい事を言ってるけど、要は金儲けしたいんでしょ」

このご意見へのお答えは、「まさしくその通り。で、それで何か問題がありますか?」

この底流に流れているのは、「社会課題解決の収益化」というしたたかな問題意識と算盤勘定です。

一例を挙げると、「人類を救う起業家」と言われてきたあのイーロン・マスクもそうです。

2006年8月2日に、彼が書いた「ここだけの話し」というブログがあります。結構長いのですが、要約してみましょう。

彼は、まずテスラの戦略を述べています。

「テスラの計画は、まずスポーツカーを作り、そのお金でハイエンドのファミリーカーを作り、そのお金で大衆車を作る。」

実際にその後、テスラはセレブ向けのロードスターを作り、2012年にはリッチ層向けのモデルSを作り、2019年には大衆向けのモデル3を作りました。

ただ、このブログを書いた2006年当時のエコカーの代表格はプリウスでした。そこで彼はさらにこう述べています。

「しかもテスラのEVは、石油を使ってもエネルギー効率はプリウスの2倍だ。EVは、火力発電所(高エネ効率60%)の電気を使う。プリウスは、エンジン(エネ効率は25%で劣る)で電気を起こす。現在の化石燃料を使っても2倍の効率。今後、テスラは太陽光発電のソーラーシティの電気を使えるように展開するので、100%自然エネルギーになる」

人生をかけて「地球を救う」と真剣に考えるイーロン・マスクは、収益化によって自分のビジネスを持続可能にすることも真剣に考えているのです。

このように、SDGsで必要なのは「社会貢献と利益の両立」です。

人間は空気と水がないと生きられませんが、空気と水のために生きているわけではありません。

同様に企業も、利益がないと存続できませんが、本来は利益のために生きているわけではありません。

SDGsは、改めて私たちにビジネスのあり方を深く問いかけているのです。

御社はSDGs達成のために、どんな貢献を行いますか?


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「おぱんちゅうさぎ」と「100日後に死ぬワニ」で考えたブランディング

私はテレビをほとんど見ないのですが、唯一、録画して必ず観る番組があります。
テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」です。

先日、この番組で取り上げたのが、こちらでした。

おぱんちゅうさぎ

いま、10〜20代の女性を中心に大人気だそうです。
皆さん、ご存じでしたか? 私は全く知りませんでした。

TikTokを使っている方は、ためしに「おぱんちゅうさぎ」で検索してみると、妙にテンションが高い歌声とBGMでおばんちゅうさぎが出てきます。

人のためにひたむきに奮闘して純粋。健気。
みんなのために頑張るけど報われない。

そんなキャラが、大きなウルウルした目で伝わってきますね。

おばんちゅうさぎをプロデュースしているのが、CHOCOLATEという会社です。番組ではCHOCOLATE代表の渡辺裕介さんが「おぱんちゅうさぎのなぜ?」として3つのキーワードを挙げておられます。

①Z世代はビジネス臭を嫌う。→打算的で作り込まれたものを敏感に感じ取ってしまいます

②作者の業。→作者の徹底したこだわりや背負っているものが、キャラに滲み出てきます

③カギは「接触時間」。→毎日会う人は愛着が湧くように、SNSで日常的なコンテンツを出しつつ、世界観を伝えるために絵本、アニメ、音楽などで五感を刺激していきます

特に①「Z世代はビジネス臭を嫌う」は、「なるほどなぁ」と思いました。

ここで思い出したのが、3年前に流行った「100日後に死ぬワニ」(略称「100ワニ」)です。このブログでも書きました。→記事

Twitterでワニの何げない日常を描く漫画ですが、「死ぬまで99日」「…98日」とカウントダウンしていき、大人気になりました。3月20日の最終回でワニは死んでしまい、多くの人が「泣いた」「感動した」「ありがとう」とコメントしました。

しかし最終回が終わると「書籍化決定、映画化決定、グッズ・イベント」などが矢継ぎ早に発表され、ショップも開店すると、今度は逆に批判が集まりました。

あくまで当初は作者個人のTwitterのつぶやきだったわけですが、多くのファンが付いたことで、「100ワニ」はもはや個人のモノを超えたブランドになってしまったわけですね。

「おぱんちゅうさぎのなぜ?」の3つのキーワードで「100ワニ」現象を読む解くと、色々と見えてきます。

①Z世代はビジネス臭を嫌う。→おぱんちゅうさぎもグッズ展開しているわけですが、ターゲットである若い女性達が欲しいというタイミングで上手に出しています。「グッズ販売も、結局商売でしょ」と思いがちですが、カギはそれを相手が受け容れる状態か否かの見極めかもですね。

②作者の業。→100ワニの作者によると、100ワニを書くきっかけは、友人の事故死で「何があるかわからない。時間を大切にしてほしい」という想いだったそうです。この作者が抱える業が、100ワニを通して伝わったのですね。

③カギは「接触時間」。→おぱんちゅうさぎはこの辺りが実に巧みで、システム化されているように思いました。100ワニもこの辺りをうまくすればいい感じに展開できたかもしれません。(ちなみに「100日後に死ぬワニ」は、その後「100日間生きたワニ」として映画化されています)

SNS時代のブランディングのあり方として、とても参考になると思いました。


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ChatGPTって使えるの? 私の仕事なくなるの?

この1週間でChatGPTがメディアに取り上げられることが急に増えました。私の周囲にいるIT関係者の間でも、いま一番ホットな話題です。

そもそもChatGPTとは何でしょうか?

『ChatGPTは、OpenAIが開発した自然言語処理の大規模なAIモデルです。人工知能による自然な会話ができ、文章の生成や回答、文章の意図理解などを行います。様々な分野において活躍し、自然言語処理の発展に寄与しています。』

上の『』の文章は、Chat GPTに『ChatGPTを知らない人にも分かりやすく100文字で紹介してください』と質問して、ChatGPTが数秒後に返した文章です。

ちょっと驚きですよね。人間が調べるよりも速いし、日本語もAIが作ったとは思えないほど自然ですね。

このChatGPT、無料で使えます。登録もカンタンです。

たとえばこんな質問をしてみました。

質問①『永井孝尚が主催する「永井経営塾」を、中小企業の経営者向けに効果的に宣伝するメッセージを100文字以内で作って下さい。』

回答は下記でした。

回答①『永井経営塾で、あなたのビジネスを成功へ導きましょう。中小企業の経営者向けに、永井孝尚が直接指導する、現場に即した経営トレーニングを提供します。創業期からの経営課題や成長戦略にも対応。自社の強みを最大限に生かし、競争力のあるビジネスを築きましょう。』(123文字)

試しに、顧客ターゲットを中小企業経営者から企業のマネジャーに変えてみました。

質問②『では永井孝尚が主催する「永井経営塾」を、企業のマネジャー向けに効果的に宣伝するメッセージを100文字以内で作って下さい。』

回答は下記でした。

回答②『永井経営塾で、あなたのマネジメント力を飛躍的に向上させましょう。企業のマネジャー向けに、永井孝尚が直接指導する、実践的な経営トレーニングを提供します。人材育成、組織開発、戦略策定など、経営に必要なスキルを効率的に学び、即戦力として活躍できるようになりましょう。他社に差をつけるマネジメント力を手に入れ、キャリアアップを目指しましょう』(166文字)

このまま使えそうなレベルの文章が戻ってきました。
回答①と②を比較してみてください。
ちゃんと経営者とマネジャーの関心テーマを使い分けているあたりがニクいですね。(文字数オーバーですが、そこは大目に見ましょう)

3月の朝活永井塾で取り上げる道元についても質問してみました。

質問③『道元が書いた正法眼蔵を分かりやすく100文字で紹介する文章を作って下さい。』

回答③『正法眼蔵は、鎌倉時代に禅宗の僧侶・道元によって書かれた禅の教典です。直接的な言葉で表現できない禅の世界を、独自の表現力で描写しており、広く禅の教えの根本として受け継がれています。禅の初心者から熟練者まで幅広く読まれる書であり、現代においても、その智慧や啓示は多くの人々に愛され続けています。』

的確なサマリーですね。唸ります。

ただ、要注意の回答もあります。

質問④『内田和成著「論点思考」について100文字で紹介してください』

回答④『「論点思考」は、内田和成による論理思考の入門書です。本書では、問題解決に必要な論理的思考力を養うための手法や、議論の基本的なルールについて解説しています。また、著者独自の視点から、日本人が持つ「仏教的な思考回路」や「情動的な思考回路」の問題点にも触れ、より論理的な思考を身につけるためのアドバイスを提供しています。読者が自分で考え、意見を主張する力を身につけるための一冊です。』

それらしい回答です。でも間違いも多いですね。「おいおい、キミは本を読んでいないだろう」と言いたくなります。

実は、ChatGPTが凄いのはこの後です。こんな質問を返しました。

質問⑤『その答えは間違いです。この本で書かれている論点とは「解くべき問題」であり、論点思考とは「解くべき問題を定義するプロセス」です。本書のメッセージは「論点の設定を間違えると、いくら頑張っても、成果は出ない」ということであって、仏教的な思考回路などの問題点は指摘していません。ちゃんと調べて、100文字以内で紹介してください。』

回答⑤『おっしゃる通りで申し訳ありません。内田和成著「論点思考」は、論点の設定方法について詳しく解説しています。論点とは、解決すべき問題や課題の本質を捉え、それに対する答えを探求するために必要な枠組みです。本書では、論点の設定の重要性や方法、具体的な例を紹介すると同時に、論点を明確にすることで、自分や他者との議論がより建設的になることを伝えています。読者が自分で考え、問題を解決するための一冊です。』

実に素直ですね。ちゃんと反省して、ほぼ正解になりました。

そこで改めて質問④をしてみました。

質問⑥『内田和成著「論点思考」について100文字で紹介してください』

回答⑥『内田和成著『論点思考』は、問題解決に必要な論点を明確に設定することの重要性とその方法について解説しています。論点とは、問題の本質を捉え、その解決策を探求するための枠組みであり、その設定が正確でなければ解決につながらないと内田氏は主張します。具体的な例を用い、論点思考の重要性や効果的な方法を紹介しながら、自分自身や他者との議論においても論点設定を意識することで、より建設的な解決が可能となることを示唆しています。』

なんと、ちゃんと学習しています。ほぼ満点の回答です。

私の感想ですが、現時点では、アウトプットをそのまま使うのはちょっと怖いですね。

感覚的にいうと、上司から質問されると、とりあえずネットでそれらしい答えを検索して答えるような、ちょっとズルくて要領がいい見習いリサーチャーが相棒になった、という感じです。

だから手間は大きく削減できます。そしてこちら側にチェックする力があれば、それなりに使えます。

加えて、質問に対するアドバイスで素直に学習して、精度を上げていく能力もあります。しかも人間と違ってコンピューターは忘れません。疲れることも知りません。時間の経過とともに常に学習し続けて、どんどん賢くなっていく可能性が高いでしょう。(ただ間違った思想やフェイクニュースを正しいと学習してしまうという怖さもあります)

ChatGPTを開発したのは、オープンAIという会社です。この会社にはマイクロソフトが出資していて、同社のオフィス製品にもこの機能を搭載する予定だそうです。

さて、とうとうこんなAIが登場してしまいました。
私たちのホワイトカラーの仕事はかなり代替されそうです。

では私たちビジネスパーソンは、どうすればいいのでしょうか?

ここで参考になるのが、既に数年前にAIの猛威を受けた将棋や囲碁の世界です。
AI開発企業のDeepMind社が開発したAlphaGoは、既に2017年に人間の世界トップ棋士に勝っています。

一方で、弱冠20歳にして将棋五冠(竜王、王位、叡王、王将、棋聖)に輝く藤井聡太さんは、早い時期からAIを活用し、経験をAIで補って素養を開花しました。

この藤井聡太さんの成長と活躍は、AI時代に私たちがどのようにAIを活用するかを見せてくれます。

ありていにいえば、「AIを使い倒した人が勝つ」ということです。

ChatGPTを体験すると「AIって凄いなぁ。人間の価値とはなんだろう?」と思ってしまいますが、実はAI自体は、まったく何も考えていません。

哲学者ジョン・R・サールが提唱した「中国語の部屋」と呼ばれる思考実験をご存じでしょうか?

まず、中国語を理解できない英国人を、小部屋に閉じ込めます。
小部屋には小穴があって、外と紙切れだけをやり取りできます。
外から中国語の文字列が書かれた紙が差し入れられます。
英国人の彼には、「●×△□※★」という記号にしか見えません。
彼の手元には、どんな質問にも答えられる分厚い中国語の辞書があります。
辞書には各記号に対応した、別の記号が書かれています。
彼の仕事は、紙に書かれた記号に対応する記号を辞書で見つけること。
そして、紙に書き足して小穴から戻すことです。
こんな感じです。「●×△□※★」→「■▽→※」
小部屋の外にいる人はこう思います。
「この小部屋の中に、中国語を理解する博識の人が入っているぞ」
しかし英国人は、中国語も質問の内容もわからず、定型作業をしているだけです。

実は現代のAIがやっているのは、基本的にこの「中国語の部屋+英国人」と同じです。これをとてつもないスケールで巨大クラウド上でやっているだけです。ChatGPTも例外ではありません。

ですから過度に恐れる必要はありません。
ChatGPTといえども、あくまで道具に過ぎないのです。

まずは自分の仕事でどう使えるか、試してみることがお勧めです。


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上高地の自然は、100年間かけて人が丁寧に育てたものだった

写真展「水の景色 – 時間のアート、上高地 」(富士フイルムフォトサロン/2015)より

長野県・上高地は、私が大好きな場所です。
上高地の豊かな自然に接すると、本当に心が洗われますね。

「やっぱり自然っていいなぁ」と思ってしまいます。

でも意外かも知れませんが、上高地の自然は100年間以上かけて多くの人が育てて来たものなのです。

江戸時代、上高地では松本藩による木の伐採事業が行われていました。現在の安曇村に住む人々が松本藩から割り当てられた量の木を伐採し、伐採した木は上高地を通る梓川の川の流れを使って松本まで運ばれました。

明治維新で上高地一帯の森林は、松本藩の藩有林から国有林になりました。でも伐採は続いていました。

明治の末になると自然保護の機運が高まり、1909年に高山植物が採取禁止され、1916年に学術参考保護林に指定されて、森林伐採が取りやめになりました。そして1914年からカラ松の植林が始まります。

いまの上高地ではカラ松が多く見られますが、あれは100年以上前から人が植林したものなのです。

一方で、上高地は観光地として人気が高まり始めました。
大正から昭和にかけて登山者が増え、1933年にバス運行が始まって上高地を訪れる人が増えていきました。1969年には安曇村に4つのダムができたのに伴って、上高地に入る国道158号が完成しました。

道路ができたことで1960年代からクルマで上高地に来る人が増え、上高地の道路はクルマで渋滞するようになります。路肩駐車も増えて植物が踏み荒らされるようになりました。そこで1975年から夏期の上高地へのマイカー乗り入れ規制が始まり、1996年には年間を通じて一般車の乗り入れが全面禁止になりました。

さらに観光客が増え始め、ゴミが目立ち始めました。そこで1963年、地元有志により上高地を美しくする会が結成。1970年からヘリコプターが山小屋のゴミを回収を始め、1974年からは、山小屋のゴミ預かり所へゴミを持ち寄る呼びかけが行われるようになり、現在は「自分のゴミは自分で持ち帰ろう」運動が定着しています。

【参考】上高地の人と歴史(上高地ビジターセンター)
https://www.kamikochi-vc.or.jp/learn/history/

上高地を訪れると「人の手が全く入っていない自然って、いいなぁ」と思ってします。しかし現実には、人間がいるだけで自然は甚大なダメージを受け続けているのです。だからこそ自然を維持するには、人間が努力し続けて自然を守ることが必要だということを、100年以上に渡る上高地の自然保護運動は教えてくれます。

そしてこの100年以上の上高地の挑戦は、SDGsやESGがビジネスで求められている背景も教えてくれるように思います。

ご参考までに。上高地で撮った写真作品で、2015年に東京ミッドタウンにある富士フイルムフォトサロンで写真の個展を行いました。
こちらで全作品がご覧になれます。よろしければ、気分転換にご覧下さい。


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生活が超快適になったお勧めグッズ。ビジネスモデルも凄かった

私はアレルギー性体質で、鼻がよく詰まるのが悩みです。
睡眠中も鼻づまりで鼻から息を吸えず、口呼吸していました。
口呼吸していると、喉がカラカラになります。
そして時々夜中に起きてしまい、熟睡できません。
結果、昼間はすぐ眠くなるので、知的生産性が落ちてしまいます。

時々、たまに鼻詰まりがなく快適に鼻から呼吸できる時もあります。
こんな時は、まるで別世界のように快適。

「いつも鼻から呼吸して眠れるといいなぁ」と思っていました。

鼻呼吸は、実は身体にとっても大事です。
まず吸い込んだ空気を適温に暖め、湿り気を与えて適切な湿度にし、異物もフィルタリングしてくれます。口呼吸だとこの3つがなくなるので、身体にも悪いわけですね。

そんな時に、家族が耳鼻科の先生から勧められたのがこれです。

「ハナクリーン」

私はこの会社から対価をもらっていませんのでリンクは貼りませんが、アマゾンでも買えるのでご興味があったらチェックしてみてください。

これは体温と同じ温度の塩水を約150cc入れて、鼻腔を洗える道具です。
鼻腔は鼻の穴の奥に拡がる空間です。
ここに花粉とか空気中の埃などの色々なモノが溜まり、鼻づまりが起こります。
ハナクリーンはここを塩水で洗い流してくれるわけですね。

就寝前に鼻を洗うと、鼻がスッキリして熟睡できるようになりました。
昼間に眠くなることも少なくなりました。

ポイントは体温と同じ温度の塩水を使うところ。水で洗うと鼻が何かに突かれたように痛くなりますし、普通の温度の水だと刺激が強すぎます。

そこでハナクリーンでは、絶妙な塩分濃度になるように洗浄剤もセットで販売しています。

ちなみに器具は、ハンディタイプ(ボディプッシュ式)で約3,000円。
洗浄剤は1回分を1.5gの塩+少量のペパーミント&メントールで小包装したもので、1回あたり約20円です。
「食塩を調合しても大丈夫なのでは?」と思いがちですが、ハナクリーンのサイトによると、長期使用すると、食塩に入っているミネラル分が鼻粘膜に悪影響を与えるそうです。

この製品、なかなかよくできたビジネスモデルを実現しています。

・顧客の悩みに、ストライクゾーンで答えている
・消耗品ビジネスモデルを実践している(本体は安く、消耗品で高収益。値ごろ感もほどほど)
・長期間使用するほど満足

ということで、我が家ではこの数年間、使い続けています。
こんなビジネスモデル、作ってみたいですね。


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「独禁法で、値引き禁止はムリ」を突破したパナソニック

日経ビジネスの今週号(2023年1月23日号)の特集「殻を破れ!Panasonic」で、実にいいお話しがありました。記事の一部をオンラインでも読むことができます。

さらば家電の安売り パナソニック、マイナーチェンジ地獄脱す

この記事のポイントは…

・パナソニックの商品は、競争力があっても常に量販店で値引き販売されていた
・そこで「値引き販売は一切禁止にしよう」ということになった
・ここで問題になるのが「独占禁止法」。独禁法があるので「メーカーが販売店に価格を強制するのはNG」が常識だと思っていた
・そこで公正取引委員会に確認した。回答は「パナソニックが在庫リスクを引き受ければ、販売店に価格を指定してもOK」
・販売店が在庫を抱えれば、独禁法にひっかかる。しかしパナソニックが在庫を抱える形にすれば、販売店は単なる取次になり、パナソニックが直販する形になって独禁法にひっかからない
・そこで、価格を指定して販売店に納品、返品を常に引き受ける体制にした

私たちは「独禁法があるから、値引き禁止なんてムリ」という常識に陥りがちです。しかしこんな常識に縛られると、打つ手が限られてジリ貧に陥ります。そこで必要なのが、あらゆる常識を疑ってかかること。

この記事はその常識を疑う大切さを教えてくれます。

ちなみに現在のパナソニックの代理店販売に大きく影響を与えたのが、1964年に行われた「熱海会談」。熱海のニューフジヤホテルで、創業者・松下幸之助さんと主要代理店が二昼夜徹して行った伝説の意見交換の合宿です。

ある販売代理店の創業社長が苦情を言ったら、松下幸之助さんは…

「あなた、血の小便が出るまでやっていますか。私はやっていますよ。そこまでやってから言いなさい」

共存共栄という理念についても…

「共存共栄というのは、強い者同士でしか成立しませんよ。あなた方は強い者じゃないですね」

まさに真っ正面から本音で喧々諤々の議論をしたわけです。
最後の最後、決裂になるかと思った時に、松下幸之助さんは涙をこぼして…

「本当に申し訳なかった。改革をやります。しばらく時間を下さい」

そして自ら営業本部長代行を兼務。69歳で現場に復帰。「一つの県に代理店は一つ」「現金販売は報奨金」などの大改革を行いました。

松下幸之助さんは「松下の商いは3割減る。年間利益150億円は2年間なくなるので300億円。それで済んだら安いもんや」とハラを括り、徹底して経費節減して、合理化分は販売代理店に還元。

しかし2年間で300億円の損失を覚悟した改革は、2年間で487億円の利益を生み出しました。

松下さんは役員に、のちにこう言っています。

「そもそも一店舗のナショナルショップが10個買うてくれたら、全国で50万個売れる仕掛けを作ってあるのや。その製品が、小売店の倉庫に止まっているのか、お客さんの手元にまで届けられているのか。要は、わしが作った仕組みがちゃんと機能しているかどうかを見るのが、お前たちの仕事や」

※以上、熱海会談は、下記文献を参照しました。
「松下電器の経営改革」(伊丹敬之・田仲一弘・加藤俊彦・中野誠著、有斐閣)p.306
「血族の王 松下幸之助とナショナルの世紀」(岩瀬達哉著、新潮文庫)p.295-301

しかしこの仕掛けも、のちに家電量販店が登場して危機に直面します。「経営の神様」と称される松下幸之助さんが完璧に作り上げた仕掛けですら、時代ととも賞味期限が切れるわけです。

しかし大きな会社ほど「現在の仕組みは大前提で変えられない」と思い込みがちなので、常識にがんじがらめに縛られているのです。

そこで必要なのが、今の常識を全て疑い続けること。だから外部の人や、新しく組織に入ってきた人の「素朴な疑問」は、実は問題の核心を突いていることが多いのです。

そして大きな組織は「賞味期限が切れた常識」が至る所にあります。

値引き禁止・定価販売に舵を切ったこのパナソニックの取り組みは、そんな大切さを教えてくれます。

あなたの組織は、どんな「賞味期限が切れた常識」に挑戦していますか?


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D2C時代のリアル店舗戦略

スマホであるアパレルショップのサイトを見ていた妻が言いました。
「この服、いいなぁ…」

でもその場では買いませんでした。
「念のためお店でチェックするね」

散歩のついでに私も近所の店について行きました。

実際に妻が店で試着したところ、微妙なフィット感や色合いがイマイチ。
一方で前々から買おうと狙っていた服を試着したところ、ベストフィット。
結局、フィットする方を買うことにしました。
ちなみにこのお店からは、妻が欲しそうな商品が入荷すると、LINEでメッセージが届きます。

いまやありとあらゆる商品がスマホで売れます。
あの数百万円のテスラも、スマホでテスラ社から直接買えます。アマゾンで本を買うのと同じ感覚です。
私も昨日、4万円の加湿器をバルミューダ社のサイトからスマホで買いました。
そんなわけで、製造メーカーが直接消費者に売るD2C企業(Direct to Consumer)が増えています。

一方でD2C企業にも悩みがあります。
触ってみないとわからない実商品の場合、スマホではその感触がなかなか伝わらないのです。

妻の服はまさにそんな例です。

私の場合は、昨年発表されたApple Watch Ultraです。
私はネットで新商品発表を知ると、即「これ欲しいスイッチ」が入りました。
デザインもいい。機能も沢山。しかも電池の持ちが2倍です。
ただ毎日身につけて使うものです。念のためアップルストア表参道で実商品を付けてみたら、意外とアウトドア志向。「ビジネスシーンで身につけるには違和感があるなぁ」と感じました。結局、Apple Watch Ultraは購入を見送りました。

こうやって確認出来るのも、リアル店舗があるおかげですね。

そこで多くのD2C企業は、次々とリアル店舗を展開しています。

彼らは、ネット以外の販路を開拓して売上拡大するためにリアル店舗を出しているのではありません。
顧客に商品を実体験してもらい、顧客の満足度を上げて、全体の売上をかさ上げするために、リアル店舗を出しているのです。

現代の消費者は、ある程度こだわる商品を買う場合は、色々な形でスマホを使います。ですからチャネル戦略も、デジタルを大前提に考えていく必要があるのです。

御社のチャネル戦略は、デジタルを大前提に構築されているでしょうか。


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EV化の裏で静かに進む、水平 vs.垂直の戦い

街を歩いていると、気がつかない間にクルマがスーッと横を通り過ぎることが増えました。クルマがEV化で静かに走るようになったおかげです。最近、街中でもEVをよく見かけるようになりましたね。

世界全体で見ると、この1〜2年でEV化が一気に進んでいます。
各地域別のEV普及率はこうなっています。

【世界全体】 21年 8.1%
【欧州市場】 19年 1.9% → 20年 5.6% → 21年 11% (対前年比64%増 119万台)
【中国市場】 20年4.4% → 21年 13% (対前年比69%増 352万台)
【米国市場】 20年 1.6% → 21年 2.9%
【日本市場】 21年 0.9% → 22/1H 1%超

こうして全体を眺めてわかることは、

・欧州と中国は2022年に、普及の壁=キャズム(普及率16%)を突破している感じですね。

・米国と日本は、欧州・中国を2-3年遅れで追いかけています。

ガソリン車→EV化で、クルマの構造が大きく変わります。
大胆に単純化して言えば、こんな感じです。

【ガソリン車】ガソリンを燃やしてエンジンで動力発生→シャフトで車輪に動力を分配→車輪を回す
【EV】各車輪にモーターを付けて、電気制御して車輪を回す

このためEVではガソリン車で必要だった部品が一気に減る上に、電気でクルマの動きを自由に制御できます。

こんな状況の中で、クルマ業界内とクルマ業界外のメーカーが入り乱れて起こっていることが、水平統合と垂直統合の戦いです。

ガソリン車は複雑な構造なので、品質を高めるには、エンジン、ポンプ、トランスミッション、シャフト、サスペンション、ブレーキなどで微妙な擦り合わせ調整が必要でした。

日本企業が得意なのがこの「擦り合わせ技術」です。クルマ業界では、この擦り合わせで大成功したのが日本が誇るトヨタです。

このような擦り合わせを「垂直統合」といいます。細かい部品一つ一つから最終製品までを、メーカーで細かく統合していくわけです。

ところがEV化でクルマの構造がシンプルになりました。一時期は「CPU,メモリー、マザーボード、電源などの部品を買ってきてパソコンを組み立てるのと同じ感覚で、クルマも作れるようになる」と言われた時期もありました。(実際にはEVの場合でも、そこまで単純ではないようですが…)

このように、部品同士の擦り合わせ作業が少なく、部品を組み合わせることで最終製品に統合できることを「水平統合」といいます。

EV化によってクルマ業界で起こっているのは、まさにこの垂直統合と水平統合の戦いです。

トヨタなどのガソリン車の王者は、ガソリン車で確立した垂直統合の仕組みをEVでも実現した方が、自社の既存の強みを活かせるので有利です。ですので、バッテリーなども含めてできる限りEV関連の部品を内製化して、垂直統合モデルにより高品質化を極めようとします。

一方で中国自動車メーカーのようなクルマ業界の新規参入者にとって、参入障壁が一気に下がるEV化は大きなチャンスです。そこで様々なEVの部品メーカーとできる限り部品を標準化して外部調達することで、水平統合モデルにより低コスト化・デリバリー迅速化を図ろうとします。

そして世の中は、水平統合の方向に大きく進んでいます。この中でどうするかが、垂直統合の覇者・トヨタのジレンマでもあります。

日本でも、水平統合で勝負を賭けている会社は数多くあります。

ソニー・ホンダモビリティ(ソニーとホンダによるEV合弁会社)も、水平統合を志向しています。

日本電産は、永守会長が「EVのモーター供給会社となり、EVの価格を1/5にする」と言っています。

さらに日本のスタートアップ「ティア・フォー」は、EV用の基本ソフト(OS)である「オートウェア」をなんとオープンソースソフトウェアにより提供しようとしています。オートウェアは、台湾の鴻海精密工業が進めるEVの自動運転用プラットホームで、OSとして採用されました。

この垂直統合 vs. 水平統合の勝負は、これから3〜5年ほど続くでしょう。注目していきたいと思います。


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今年どうなるかは予想できない。ではどうする?

今年はどんな年になるのでしょうか?

1つだけ確実に言えることがあります。今年の年末、「今年の年初には、こんなことは想像もできなかったですね」と振り返っているだろう、ということです。

ナシーム・ニコラス・タレブが著書「ブラック・スワン」で述べたように、想像もしない出来事が起こり、グローバル規模で想定外の大きな影響を与える時代です。タレブはこのような出来事のことを「黒い白鳥(ブラック・スワン)」と呼びました。

現代ではごく少数のブラック・スワンが社会に甚大な影響を与え、私たちは翻弄されます。昨年だけでも「ウクライナ紛争」「中国のゼロコロナ政策」、それらに伴う「超ドル高=超円安」「エネルギー危機」「米国のインフレ」など様々なブラック・スワンが発生しました。

ブラック・スワンの影響力は、ますます高まっています。
ブラック・スワンの予見は、そもそもムリ。
では、どうするか?

まず「誰も未来を予想できない」と理解すること。
そして想定外が起こった場合は、それを強かに利用することを考えること。
そのために、全体でリスクを取る部分は10-15%程度に留め、残りについてはリスクを徹底的に回避することです。

リスクを取らない部分を見極めてリスクを徹底回避しておけば、「想定外」が起こっても余裕を持てますし、逆に「想定外」をチャンスに変えることができます。

資産投資にたとえると、日経平均が1/10に落ちても、資産の9割をキャッシュで持っていれば、超底値で株式を買えるようなものです。

たとえばコロナ禍の場合、研修業の人たちは対面研修が全部キャンセルになり、大変な目に遭いました。しかしいち早くオンライン研修に切り替えた人は、逆にこれをチャンスに切り替えて、いち早く新規事業を立ち上げることができました。(手前味噌ですが、完全オンラインの永井経営塾もそうやってKadokawaさんとの協業で2021年年初から立ち上げたビジネスです)

このためには、日頃から余裕がある経営を心がける必要があります。

現代では「想定外は予想できない」ことを強かに利用していく思考が求められる時代になったのです。

今年の年末も、こころ穏やかに迎えたいものですね。


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「謙虚さ」は、リーダーと組織を成長させる

私たちは、部下がいるいないに関わらず、リーダーのお役目をいただくことがあります。

たとえば、仕事でプロジェクトチームのとりまとめ役になる。
宴会の幹事を拝命する。
バンドのライブを任される。
マンションの管理組合の幹事になる。

どれもリーダーの仕事です。

そこでありがちなのが、「デキるリーダーにならなきゃ」と勘違いすること。これはたいてい不幸の始まりです。何か偉そうにしているけど、どこかイタい。的確にアドバイスしようとして、実は間違いだらけ。そんな人にチームの人たちはなかなかついていこうとはしません。

そこで必要なのが「謙虚さ」です。

でも「謙虚さ」は、さんざん使い古された言葉ではありますが、意外とちゃんと理解されていません。

「謙虚さ」とは、「自分はすべて答えを持っているわけではないし、未来も見通せない」と認めることです。そして自分を偽らずに誠実に行動し、自分がわからないことはわからないと認め、他人に対してリスペクトすることです。

「そんなのでいいの? 頼りにならないじゃん」と思うかもしれませんが、研究によると、リーダーが謙虚さを示すと、チームは学習行動の積極性を増すことが確かめられています。

謙虚なリーダーは、チームメンバーの意見に真剣に耳を傾けます。するとチームの人たちは自分で考えるようになり、チーム全体で自ら学ぶ習慣がついていきます。そして耳を傾けるリーダーも学んで成長していきます。

この「謙虚さ」の出発点は、繰り返しになりますが、「自分はすべて答えを持っているわけではないし、未来も見通せない」と認めることです。

常に謙虚でありたいものです。


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意味のない「差別化」をしていませんか?

「これがウチの差別化ポイントです!」

このようにアピールしている会社をよく見かけます。一方で、意味のない差別化をしているケースが実に多いのも現実です。たとえば…

①機能の違いをアピールする

例:「ユニクロのジャケットはフードが外れます。当社のジャケットはフードと一体化しました」
→でも、「フードが外れないからこの商品買おう」という人はあまりいませんよね。

顧客にとって意味のない機能をいくら追加しても、差別化にはなりません。

②ライバルよりも目立たせる

例:ライバルは「90日で成果が出る英語レッスン」ってアピールしているから、当社は「30日で成果が出る英語レッスン」とアピールしよう
→そのうち「1週間で…」「1日で…」「10分で…」なったりします。言ったもん勝ちの世界ですよね。

でも消費者はバカではないので、この手の意味のない数字ごっこには騙されません。

③ライバルと比べた優位性をアピールする

例:「全国ゆるキャラグランプリで、申込み3000件中、うちは10位です!」
→ 2021年時点でゆるキャラは全国に1553体あるそうです。ゆるキャラは地域のイベントを盛り上げる効果がありますが、ゆるキャラ自体は差別化にはなりません。

ライバルと比べて少々優位性があっても、顧客にとって意味がなければ差別化にはなりません。

④技術をアピールする

例「業界では誰も採用していない最先端のWeb3技術を活用して、後継者問題に悩む中小企業と若い起業家を結びつけることができます」
→何かとても有り難いものに思えてしまいますが、その中小企業の経営者と、若い起業家がその技術を使えないと、意味がありません。

課題の見極めの前に解決策を前提に考えてしまうと、最先端技術を使っても、大抵はスジの悪いビジネスになります。(頭脳が優秀な人ほど陥りやすい罠です)

これらの「イタい差別化」に共通しているのは、差別化というものをそもそも勘違いしていることです。

「要は、相手と違えば、差別化だよね」

これは差別化ではありません。

差別化戦略は、1980年頃に経営学者マイケル・ポーターが提唱しました。

本来の差別化は…

「このニーズに応えられるのは当社だけ」という状況を作ること

そのニーズが大きいほど、消費者は喜んで買うようになります。

たとえば、以下は差別化の例です。

ゴディバ →定番のバレンタイン本命チョコ
ブラックサンダー →定番の義理チョコ
エアウィーヴ →「質」の高い睡眠環境

そのお客様の課題やお困りごとに対して、業界でベストの解決策になることが、本当の「差別化」なのです。

御社は、差別化ができているでしょうか?


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アサヒ「白湯」のブルーオーシャン戦略

「これは参りました!(笑)」と思いました。
先月(2022年11月)、こんな商品が発売されていたのです。

『アサヒ おいしい水 天然水 白湯』

白湯(さゆ)です。
要は、ミネラルウォーターを温めて店頭に出したドリンクです。

「え?それだけ?」と思ってしまいますよね。
私は、ありがちな会社の社内会議でこの商品企画を提案するとどうなるか、つい想像してしまいます。

担当者「白湯を提案します」
部長 「天然水を温めただけじゃん。こんなんで売れるの?」

しかしこの商品、ヒットしているのです。

Twitterで「アサヒ 白湯」で検索してみると、こんな声が次々と出てきます。

「本当美味しい よく分かってるアサヒ」
「これからの季節に嬉しい!」
「水筒持ち歩かないからペットボトルの白湯ありがたい。Asahiに感謝」
「ついに出た!!ペット白湯〜!! ずっと欲しかったからコンビニで見かけて即買い!」
「美味しくてビックリ」

ちなみにコンビニやスーパーのホット飲料コーナーで、白湯の適温(約50~60℃)に温めた状態で販売されています。

アサヒの発表によると、白湯の飲用経験率は2009年の11.8%から、2022年には61.0%と5倍になっています。男性の飲用経験率も54.4%。なんと13年で5倍に成長する、隠れた超成長市場だったのです。

どんな時に飲むかというと、女性は「冬場の冷えや寒さ対策」「体に良さそう」、男性は「朝からカフェインを取りすぎないように、意識して白湯を飲んでいる」、といった感じです。健康志向ですね。

確かに私も白湯を飲むと、身体がリラックスした感じになります。

でも飲みたいときに買えないんですよね。

まさに「ありそうでなかった、とても欲しいモノ」ですね。

「既存知×既存知」がイノベーションと言われますが、この商品も「天然水×ホット飲料コーナー」という既存知同士の掛け算で生まれたイノベーションとも言えると思います。

この商品には、ポイントが2つあると思いました。

まず「白湯」というネーミング。実は2014年に「ホット天然水」という商品を出したのですが、売れなかったそうです。確かに機能面を考えると「温めた天然水=ホット天然水」ですが、健康志向を考えると「白湯(さゆ)」の方が消費者の心に刺さりますよね。

もう一つはタイミング。6割の人が白湯の飲用経験を持つ2022年という絶好のタイミングだからこそのヒットなのでしょう。

「レッドオーシャン」と思われがちな市場でも、消費者の隠れた不満は必ずあります。その隠れた不満の発見がブルーオーシャンになることを、この商品は教えてくれているように思います。


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Facebook「いいね」機能は、経営陣は反対だった

SNSに投稿する人たちがどうしても気になるのが「いいね」の数ですね。「いいね」の機能は、FacebookがSNSの世界で初めて実装しました。Facebook急成長の1つの要因はこの「いいね」機能でした。いまやTwitterやInstragranなどの多くのSNSが「いいね」機能を標準装備しています。

でもこの機能、当初は経営陣が反対していたことをご存じでしょうか。

この機能は2007年に、同社のプロダクトマネジャーだったリア・パールマンが中心になって開発した機能です。

当時のFacebookは創業3年目。問題を抱えていました。人気投稿にはコメントが沢山つきますが「すごい」「おめでとう」という簡単なモノが多く、意味のあるコメントが埋もれていたのです。

パールマンたちは「解決策はないか?」と社内で議論を繰り返し、9ヶ月かけて辿り着いたのが「awesome (すごい)」というボタンを付けること。実際にプログラムを作って動かしてみたら、社内の評判も上々です。

しかし2007年年末、ザッカーバーグCEOなどの経営陣に最終承認を得ようとしたところ、「簡単に応答できてしまうと、ちゃんとしたコメントが減るんじゃないの? あとawesome(すごい)よりは、like(いいね)がいいと思う」と反対されてしまいました。

そこで開発チームは「この機能でユーザー同士のやり取りは増える」という実データを見せて、経営陣を説得。そして「awesome(すごいね)」は「like(いいね)」に変更しました。

2009年2月、ザッカーバーグの最終承認の後、2009/2/10、「いいね」機能は発表されました。当時の発表文はこちら

この「いいね」機能のおかげで、Facebookは極めて強い拡散力を獲得し、GAFAの一角を占めるまでに成長しました。

(以上は、こちらの記事を参考にしました)

当時、Facebookの開発チームも経営陣も、この小さな「いいね」機能が、SNS全体をここまで変貌させる強力な機能だったとは知りませんでした。

このように「実際にやってみないとわからない」という話は、世の中にたくさんあります。

マクドナルドがビッグマックの肉を大幅増量した「メガマック」を発売した際にも、「ヘルシー志向の世の流れと逆行するのでは?」という反対もありました。しかし大ヒットしました。

さらに昔でいうと、日本ビクターが開発したVHSビデオも当初は社内で大反対のお荷物プロジェクト。しかし大成功して、ビデオデッキの標準になりました。

商品が成功するかどうかなんて、事前にはなかなかわかりません。サケの産卵のようなものです。サケは3000個の卵を産みますが、成魚になるのは2-3匹。卵を一つ一つ選別しても、それが成魚になるかなんてわからないのと同じです。でも「成功確率は2/3000で低いから、産卵なんてやめよう」ともしサケが考えたとしたら、サケは絶滅してしまいます。

だから大ヒット商品を生み出すには、現場社員が様々なことに自由に挑戦し、意思決定者(日本企業では部長や部門長レベル)が反対しても現場社員が対等に反論できるような組織文化が必要です。

あなたの組織はいかがでしょうか?

 

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プレゼンは事実でなく、インサイトを示せ

多くの人のプレゼンを見てきました。

感覚的な話しですが、全体の8〜9割くらいの人が「プレゼン資料で、このポイントを改善するだけで、説得力が格段に上がるのになぁ」と感じることがあります。

それは、事実だけを述べていること。

たとえばプレゼンで、こんなチャートをよく見かけます。

でもこれだけの情報を見せられても、聴き手は「で?」なんですよね。

こんな事実を次々と列挙する話を延々と聞かされて終わり…というプレゼンも、たまにあります。確かに事実は大事なのですが、プレゼンで事実を伝えるだけでは、聴き手の時間をムダにしています。

プレゼンの目的は、聴き手を動かすこと。
聴き手が知りたいのは、「だから、要はナニ?」なのです。

このように資料を変えると、資料にメッセージが宿ります。(これは先週のコラムで紹介したGOの事例を、私がチャートに書き起こしたものです)

ポイントは、「この事実には、こんな意味がある。だから私はこうしたい」なのです。

聴き手がそのメッセージに共感すれば、聴き手は動きます。「聴き手を動かす」という目的を達成できるプレゼンとは、事実ではなく、インサイト(洞察)を伝えるプレゼンなのです。

そのためには、その事実を元に「これはどういう意味か?」→「自分はこの事実を元に、何をしたいのか?」を考えて、言葉にすることです。

あなたの今度のプレゼンに、インサイトはありますか?

今一度考えてみるだけでも、今度のプレゼンの説得力は、大きく変わってくると思います。

 

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