永井孝尚ブログ
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当社の方が高品質。でもなぜライバルが高評価なの?
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ある製造業に勤めるヤマダさんが、不満そうにこうおっしゃっています。
「当社商品の品質は、業界随一です。業界トップのライバル某社をはるかに凌いでいます。実際、品質に厳しいお得意先数社からも、『御社はライバル某社の商品よりずっといいよ』と評価いただいているので、間違いありません。でも世の中に出回っている市場調査レポートでは、どれも当社よりもライバル某社の評価の方が、評価も満足度もずっと高いんですよね。納得できません」
このような状況は、実によく耳にします。
かく言う私も、日本IBMに勤めていて様々な商品を担当していて、まったく同じ事を実体験しました。機能や品質面で明らかに劣っているライバル商品の方が、なぜか私が担当している商品よりも、市場評価が高いのです。当時は、どうしても納得できませんでした。
これはマーケティング的に考えると、理由がわかります。
実は市場における技術面の評価は、技術力とは無関係です。 高品質なのに、市場で高品質と評価されていないのは、「単に多くの人に知られていないから」なのです。
このあたりのことが芹澤連著「戦略ごっこ」に詳しく書かれているので、簡単に紹介しましょう。
ここで簡単な思考実験をしてみます。
・人口1000人の町にレストランA店とB店の2つしかないと仮定します。
・A店とB店は、メニュー・味・店の雰囲気は全く同じ
・違いは店を知っている人数がA店が900人、B店が300人、ということだけ
(町の人口は1000人なので、A店とB店を両方知っているのは、200人になります)
この場合、900人に知られているA店がライバル某社、300人に知られているB店がヤマダさんの会社、ということです。
さて、ここで住民に『町で美味しいレストランは?』と聞くと、どうなるでしょうか?
A店しか知らない700人は「A店」、B店しか知らない100名は「B店」と答えますよね。
A店とB店を両方知っている人が200人いますが、この200名は半々の100名ずつ「A店」「B店」と答える、としましょう。
さて、調査結果はどうなるでしょうか?
■A店については:A店を知っている900人中、A店を選ぶのは800名(700名+100名)で、『美味しい』という人の比率は89%になります (=(800÷900)×100)。
■B店については:B店を知っている300人中、B店を選ぶのは200人(100名+100名)で、『美味しい』という人の比率は67%になります (=(200÷300)×100)
つまりA店とB店は、メニュー・味・店の雰囲気が全く同じなのに、単に「知っているかどうか」の違いだけで、市場評価は89%と66%にわかれる、つまり全く変わる、ということです。
このように『好き』『気に入っている』という状態を、マーケティングで『プレファランス』といいます。
このプレファランスで大事なのは広く『知られていること』です。確かに品質は大事ですが、単に品質が良いだけでは、プレファランスは高まりません。
市場評価を高めるには、まず品質を高めた上で、多くの人にその品質の高さが知られるように日々努力することが必要なのです。
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試したら、GPT-4oが仕事で十分使えるレベル!
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ChatGPTを開発するOpen.AI社が、5/13(月)にGPT-4oを発表しました。
既にこの1週間、様々なニュースで取り上げられているように、人間と同等の会話が可能という驚くべきレベルに仕上がっています。(なお音声モードは数週間以内にアルファ版を提供後、Plusユーザー向けに早期アクセスが出来るようにする、とのことです)
一方でOpen.AIは、スマホ版ChatGPTを提供しています。私は1年前からパソコン向けの有償版ChatGPT-Plusを使っていたのですが、主にアイデア出しに使っていました。
今回のGPT-4o発表は、主にスマホでデモをしていました。
そこで私も試しにスマホ版ChatGPTをインストールして、有償サービスに入ってみました。音声対応が出来ないこと以外、GPT-4oの機能が使えます。使ってみて、驚きました。
「なにこれ! 仕事で十分に使えるじゃん」
いくつか例を上げて紹介します。
■まずはお試し。下記の手書きメモを写真に撮って「これはなんですか?」と聞いてみた結果です。
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—(以下、回答)—
この写真は、手書きのメモが書かれた紙の画像です。内容は以下の通りです:
お仕事おつかれさまです。
よろしくれば、いつでもどうぞ。
このメモは、誰かに対して「お疲れ様です」と労いの言葉をかけ、「もしよろしければ、いつでもどうぞ」と何かを勧めている内容です。仕事仲間や同僚に対して、休憩や手助けなどを促すために書かれたものかもしれません。全体として、丁寧で親切なメッセージです。
—(以上、回答)—
手書き文字をほぼ読み取った上で、その文字が書かれた状況を類推して答えてくれます。
■いつも愛用しているコーヒーカップの写真を撮って「これは何か教えてください」と聞いたところ、こんなウンチクと共に答えが返ってきました。
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—(以下、回答)—
この写真に写っているのは、日本の伝統的なデザインが施された陶器のマグカップです。花の模様や鳥のイラストが描かれており、色鮮やかな装飾が特徴的です。このようなデザインは、日本の伝統工芸品である九谷焼(くたにやき)や有田焼(ありたやき)などでよく見られます。
—(以上、回答)—
ChatGPT-4o先生、なかなか博識です。
■「教養書100冊」執筆で、教養書1冊ごとに本の内容をA3見開き2ページで手書きでビッシリと書いてまとめていたので、試しにこの見開きの手書きページを写真に撮って、「ここにある情報を要約してください」とお願いしたところ、かなりわかりやすく要約してくれました。「教養書100冊」執筆時にこの機能が使えたら、もう少し負担が減ったかもしれません。
■画像は省きますが、「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎の写真を撮って「これは何ですか?」と聞いてみたら、「竈門炭治郎」と認識して詳しい情報を教えてくました。松田聖子さんが二十歳前後で出したCDの顔写真も、松田聖子さんと認識した上で松田聖子さんの詳しい情報を教えてくれました。ただ最近の松田聖子さんの写真は「女性のポートレイト写真」として認識されました。学習データが少ないのでしょうね。いずれにしても、顔の特徴を把握した上で、個人を認識出来ています。
■最近英語で書いた自分のレジュメをチェックしてもらいました。かなり的を得たアドバイスが戻ってきました。通常お金を払ってプロにお願いするレベルでした。
ということで、昨年のChatGPT-3.5が新卒レベル、ChatCPT-4.0がプロフェッショナル直前のレベルとすれば、今はそこそこプロフェッショナルレベルという感じですね。
危機感を感じる人も当然いると思います。
しかし考えようによっては、これまでプロに高いお金を払ってお願いしていたことが、簡単にできてしまうわけです。
そして使うこなす上では、アプリをスマホにインストールするだけのスキルがあれば、それ以上の技術的スキルは一切不要です。要は「本当に使い始めるか否か」で、今後は意外と大きな差が付きそうです。
このあたりは、かつてのパソコン、インターネット、スマホと同じですね。
活用いただくと、自分ならではの使い方が見つかると思います。
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「ガセ情報に騙されず正しい判断ができる方法を教えて」というご質問
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先日、こんなご質問をネットで拝見しました。
「世の中、ガセ情報が多いですよね。一般常識でも、間違いもよくあります。こんなガセ情報に騙されずに正しく判断するには、どうすればいいんでしょうか?」
この質問に対しては色々な回答があり、興味深く拝読しました。回答を大まかに二つに分類すると、
①「ガセ情報にはこんなパターンがあるから、こうすれば騙されなくなるよ」みたいな手軽なノウハウを教える回答(回答多数)
②「本格的な教養を、地道に付けることですよ」という回答(回答少数)
でした。
しかし①の方法は限界があります。そもそもガセ情報を広げている本人が、ガセ情報と思っていないケースもあるからです。
2世紀、ギリシャの医学者が考えた「瀉血(しゃけつ)療法」という血液の一部を抜き取る排毒療法が、欧州に広がりました。現実には病弱な患者はさらに体力を奪われてしまい逆効果だったのですが、欧州では19世紀まで広く使われました。
瀉血療法はガセ情報だったわけです。でもほとんど全ての人が1700年間も「真実」と考えていたのです。ちなみに瀉血療法は、一般的にABテストと呼ばれる統計学の「ランダム化比較実験」(19世紀末〜20世紀初に確立)を行うと、間違いだとわかります。
このようにガセ情報を見抜いて、正しく判断するのはなかなか難しいのが現実です。そこで騙されにくくする唯一の方法は、私は②の「教養を広く学ぶこと」しかないと思っています。
瀉血療法は、統計学の知識があればガセだとわかります。しかし統計学で森羅万象がわかるわけではありません。
たとえば、大国の思惑の裏を知るには「地政学」、多数決が本当に正しい意志決定かを考えるには「ルソーの一般意志」の概念、欧米人の意志決定ロジックを知るには「ヘーゲルの弁証法」が役立ちます。
ガセ情報に絶対騙されない方法はありませんが、幅広く深い教養を身につけることで、ガセ情報に騙されにくくなります。
では、教養を身につけるには、どうすればいいのでしょうか?
いまやネットには森羅万象の情報があります。だから「ネットを見続ければ教養が身につく」と考える人もいるかもしれません。
しかし残念ながら、現代のネット情報は、必ずバイアスがかかる仕組みになっています。それが「フィード」という概念です。
情報提供者は、ビジネスとして情報提供しています。彼らはユーザー滞在時間を最大化して、その時間を広告収入などに変えて稼ぐために、私たちの過去の閲覧履歴から私たちの嗜好を把握し、私たちが夢中になって読みそうな情報を選んで、表示しています。検索エンジンの検索結果や、アマゾンの検索でも、同じことをやっています。
つまりネット情報だけに接していると、自分の興味分野に最適化された情報が次々とフィードされるようになります。
例えば「岸田さんはケシカラン」と思っている人には、「岸田さん頑張って」という応援の声はすべて排除され、「岸田さんケシカラン」というその人が好む情報だけが集まり、その人はますます「世の人はみな岸田さんケシカランと言っている。自分は正しいんだ」と信じ込むようになります。
こうしてネットだけを見ている人たちは、自分の知らない領域が存在することに気付かない状態に陥ります。つまり現代では、ネットしか見ていないと、偏った知識が付く仕組みになっているのです。
そこで現代で重要になってきているのが「読書の習慣を身につけること」です。
本に書かれた知識は、個人の嗜好に合わせていません。むしろ「その分野で知るべき知識」が集まっています。自分の興味分野で読書を続けることで、興味分野で知るべき知識が効率よく入ってくるようになります。そして「世の中は知らないことばかりだ」とわかるようになり、知らない領域への興味が広がっていきます。
読書に限らず、新聞や雑誌でも同様です。先の岸田さんの例でいうと、新聞やビジネス誌を何紙か読むことで、岸田さんに厳しい論調と、岸田さん寄りの論調をバランス良く知ることができます。
読書で読むべき本の中でも、骨太な教養書は人類の叡智の結晶です。そのような本を読むことで、私たちはよりよく生きていく上で必要な教養を効率よく手に入れることができます。
昨年11月に「世界のエリートが学んでいる教養書100冊を1冊にまとめてみた」を刊行したのも、少しでもそのお役に立てればと願ってのことでした。
ガセ情報に騙されず正しい判断が必ずできる方法はありませんが、より騙されにくくなり、より正しく判断できるようになる上で、教養書を読むことは必ず役立つのです。
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朝活永井塾 第87回『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』を行いました
5月8日は、第87回の朝活・永井塾。テーマは『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』でした。
「細部への徹底的なこだわりこそが日本流」
「快適さと安心感で、おもてなし」
私たちが「日本の強み」だと信じ込んでいるこれらが、実は「日本の深刻な弱み」だとしたら、どうでしょうか?
実はまさにこういう指摘をしているのが、『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』(井関利明/山田眞次郎著、学研プラス)です。
著者の井関利明氏は、慶應義塾大学名誉教授。山田眞次郎氏は様々なものづくり企業の経営者をなさった方です。本書によると「日本の技術は半世紀遅れ。しかも認識されていない。細部のこだわりもイノベーションを阻んできた」。
これは、私たちが普段認識していることの真逆です。
幕末の黒船、そして敗戦と、日本は外圧で変わってきました。しかし、現代の黒船は世界を大きく変えたのに、古いメガネで世界を見ている私たちの目には見えません。
私たちはまず現代の黒船の存在を認識した上で、自分たちの問題を知ることが必要です。 日本経済に明るい兆しが見え始めた今こそ、私たちは自分たちの弱みがどこにあるのかを現実的に見定めていく必要があります。
そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、日本で何が起こっているのか、わたしたちはどう考えればいいのかについて学んでいきました。
『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』(井関利明/山田眞次郎著、学研プラス)
ご参加下さった皆様、有り難うございました。
【プレゼン部分】
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またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。
次回・6月5日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『会社に縛られない時代の 「サルトルの実存主義」』です。申込みはこちらからどうぞ。
「まんだらけ」の集中戦略は、グローバルへ
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マンガ専門の古本屋「まんだらけ」という店をご存じでしょうか?
いわゆる普通の古本屋とはかなり違っていて、コアなファンに特化しています。
マンガ関連グッズも多く、海外からのコアなファン層がお目当てのトレカやマンガのフィギュアを物色したりしています。BL(ボーイズラブ)系の品揃えも豊富で、意外なことに店内には若い女性客も多くいます。
店員の何名かは、マンガの世界のコスプレです。「うる星やつら」のラムちゃんのような目のやり場に困る女性店員や、フリフリのエプロンを着たロリータファッションの女性店員もいて、店内ではコスプレ店員の人気ランキングをつけていたりします。
この「まんだらけ」ですが、東証スタンダードに上場しており、最近の売上推移はこんな感じです。
2018年 98.7億円 (対前年 2.9%)
2019年 100.6億円 (対前年 +1.9%)
2020年 90.2億円 (対前年 -10.3%)
2021年 96.3億円 (対前年 +6.7%)
2022年 105.9億円 (対前年+10.0%)
2023年 128.4億円 (対前年+21.2%)
コロナ禍で売上が10%落ち込みましたが、最近は絶好調ですね。昨年からは株価も急騰中です。
競争戦略を提唱したマイケル・ポーターは「競争の3つの基本戦略」を提唱しています。
【差別化戦略】顧客の特定ニーズに対して売れるようにする
【コストリーダーシップ戦略】ライバルより低コストにする
【集中戦略】対応する顧客やニーズを狭める
集中戦略のカギは、顧客や提供する製品を徹底的に絞り込み、その絞り込んだ領域でライバルの誰も真似できないレベルまで価値を高めることです。徹底的に絞り込むことで、より低コストで価値を高めることができます。
まんだらけの戦略はまさに「集中戦略」です。
他では決して出会えないレアなマンガに出会えます。秘蔵レア本を持っている人にとっても、そのレア本の価値を正当に評価して買い取ってくれます。これはなかなか他の古本屋は真似できません。
マンガの古本という徹底的に絞り込んだ製品の領域で、コアなマンガ愛好家という徹底的に絞り込んだ顧客に対して、圧倒的な価値を提供しています。まさに無双状態です。
一方でコロナ禍でビジネスのデジタル化が進み、ECもすっかり当たり前になりました。そこでまんだらけは世界全体でのビジネス拡大を目指して、販売サイトが英語、簡体中国語、スペイン語に対応したり、「まんだらけSAHRA」というWeb通信販売、さらに電脳マーケット「ありある」などで販路拡大を勧めています。
しばらく低迷が続いていたまんだらけでしたが、日本市場に特化して最適化しているうちに、世界のマニアックな顧客を吸引する力を身につけて、グローバル展開が始まっているように見えます。
今後に注目したいですね。
集中戦略の本質は「徹底的に絞り込んだ製品・顧客へ、低コストで徹底的に最適化すること」です。そして日本以外にその顧客の数が多くいるのならば、その集中戦略はグローバル展開可能です。
そしてネット活用により、グローバル展開のハードルは思っていたよりもずっと低いのです。
御社のビジネスで、集中戦略→グローバル展開ができないか、考えてみてはいかがでしょうか?
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