永井孝尚ブログ

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売ってくれないバーキンを、マーケ的に分析してみる

https://www.hermes.com/jp/ja/content/297706-birkin/ より引用 (2024/12/23閲覧)

エルメスの「バーキン」というバッグをご存じでしょうか?
とても入手困難であり、非常に希少性が高いバッグで、定価140万円以上します。

「そりゃ高いなぁ。でも直営店だったら買えるんでしょ」

と思ってしまいますが、直営店に商品がディスプレイされていても、それはディスプレイ用の商品であって、まず売ってくれません。

バーキンを買うには、直営店舗に常にお顔を出して店員さんと顔なじみになり、深い関係を構築して、やっと買えるのです。

ちなみに米国では「エルメスは他商品を多数購入した実績がないと、バーキンを販売してもらえない。他商品の購入強制はおかしい」という訴訟まで起きています。

「でも、ネットなら入手できるでしょ」となるわけですが、「バーキン 値段」でネット検索すると、360万円とか400万円とかの商品が出てきます。どれも中古です。ちなみにこれはバッグ1個の、しかも中古の価格です。あまりに入手困難なので、プレミアムが付いているのです。

ちなみに英国では、1日2万円でバーキンをレンタルできるサービスがあります。

実はバーキンは、不定期に直営店にバーキンが入荷されることもあるので、うまくそのチャンスに遭遇すれば、直営店で深いリレーションがなくても、一見さんのお客でも買えてしまうこともあるそうです。

そこで「エルパト」という言葉が生まれました。「エルメスパトロール」の略です。直営店を何店舗も巡って、バーキンの入荷がないか尋ねるわけですね。入荷の事前情報は極秘なので、直営店に出向くしかないわけです。

当然ながら、他にもエルパトする多くの客がいます。ですので順番待ちになります。運良く入荷されても、自分の前に待っていた客が買ったら、買えません。

もし運良くバーキンに出会っても、色やデザインが自分の好みとは限りません。でもこの時に買わないとバーキンには二度と出会えないかもしれない。買わなければ次の人が買うわけです。

つまりエルパトをしても、強運に恵まれないと買えないわけです。

このバーキン、マーケティング的には実にネタ満載です。そこで分析してみましょう。

 

①バーキンの商品価値は「記号」である

そもそもバーキンという商品は、どんな価値を持っているのでしょうか?

150年前、カール・マルクスは古典的名著「資本論」で、「商品には欲望充足が目的の使用価値と、どんな量の商品と交換できるかを示す交換価値がある」という商品論を提唱しました。このマルクスの商品論でバーキンを分析すると、

【使用価値】「モノを収納すること」で、100円ショップで売っている商品と変わらない
【交換価値】直営店で入手して中古で転売すると確実に儲かるが、バーキンが欲しい多くの人は、転売目的では買わない

つまりマルクスの商品論では、バーキン現象は説明できません。

そこで役立つのが、1970年にボードリヤールが書いた『消費社会の神話と構造』です。

本書でボードリヤールは、消費社会になって、社会構造がどう変わったのかを考察しました。そして「消費社会では、商品という記号を消費することで、差異化を図っている」と見抜いたのです。

ボードリヤールの記号論マーケティング的に考察すると、バーキンが与えてくれるのは、

・特権的な地位や富を示すステータスとしての記号であり、
・洗練された趣味や文化的な理解を持っていることを示す記号であり、
・所有者が「選ばれた者」であることを示す記号であり、
・自分が特別な存在であることを示す記号なのです。

1000万円を超えるローレックスを持ったり、1億円を超えるフェラーリを乗る男性も、ほぼ同じですね。「成功した、特別な自分としての記号」を買っているわけです。

そしてこれがブランド論と繋がっています。

 

②膨大なブランドエクイティ(ブランド資産)

1980年代前半まで、多くの人たちは「ブランドは、要は看板でしょ。広告代理店に任せればいいよ」と考えていました。

そして1985年、のちにブランドの大家と称されるデービッド・アーカーは「ブランドは企業にとって、商品や人材と同様に、資産価値を持っている。だからブランド戦略をちゃんと考えるべきだ」と考えて、「ブランドエクイティ」(ブランド資産)という概念を提唱しました。

バーキンも、購入する前のワクワク感、購入したときの高揚感、実際にバッグを使っている時に受ける羨望の眼差し、所有し続けることの安心感など、顧客に様々な満足を提供しています。

さらに各界のセレブたちもバーキンを普段使いしています。バーキンを持つ人たちは、彼らと同じ世界に浸れるわけです。

こうしてバーキンは長い年月をかけて、莫大なブランドエクイティを構築してきたのです。

そしてバーキンがブランドエクイティを構築する上で重視した要素が、次にご紹介する供給のコントロールです。

 

③莫大な需要に対して、わずかな供給

エルメスはバーキンで、需要と供給のバランスを大きく崩しています。

「エルパトして、店に100回通ってでも欲しい」「少々プレミアムが付いてもOK」という顧客がとても多いのに、エルメスは砂漠に水を垂らすほどのバーキンしか提供していません。

供給を意図的に制限することで希少性を演出し、手に入れること自体をステータスに変えているわけですね。

これは、フェラーリやデビアスと同じ手法です。

フェラーリの生産台数は「限定499台」といったように端数です。これはフェラーリの創業者・エンツォ・フェラーリの「欲しがる客の数よりも1台少なく作れ」という言葉に従ったものです。

ゲーム理論的に言えば、商品をどうしても欲しいという顧客の数よりも少ない商品を供給すれば、商品の価値が上がり、売り手の顧客は言いなりになります。

ダイヤモンドの世界流通の85%を支配し、ダイヤモンドを事実上独占販売するデビアスも、このことを熟知しています。

ダイヤモンドの供給量はデビアスが決定。販売会には150業者を招待して割当を提示します。業者の選択肢はYESかNOの二択で、交渉の余地はありません。

バーキン、フェラーリ、デビアスのように「どうしても欲しい」という顧客を創り出した上で、その顧客への供給が自社だけであるという状況を生み出せば、需要と供給の関係はいかようにもコントロールできるわけです。

こうして見ると、エルメスはブランドという概念の本質を理解した上で、実に老獪なマーケティング戦略を実践していることがよくわかりますね。

 

ちなみに私は、時計は10万円のApple Watchですし、バッグは5万円のPorter(吉田カバン)です。どちらも品質が高く、価格は少々高いもののその価値の割には納得価格なので、買い替え続けて使っています。年間500Km程度しか乗らなかったクルマは、10年以上前に手放してしまいました。

こんな私を記号論マーケティング的に考察すると、「実質的で等身大な自分として記号として、Apple WatchやPorterを買っている」という感じで分析できるかもしれませんね。

 

     

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新商品開発は、大きい市場は捨てて、”弱いシグナル”を感じ取れ

多くの企業は新商品開発で、大きな市場を狙い、その市場で勝とうとします。

「大きな市場には、多くのお客様がいるし、お金も使っている。だからチャンスも大きい」というわけです。

しかし大きな市場にはライバルもいます。
市場が魅力的なほど、強いライバルも多いわけです。
そんな市場に新規参入しても。勝つのは極めて困難です。

そこで考えを180度変えてみると、新たな可能性が広がります。

まず大きな市場は捨てます。

そして将来大きな市場になりそうな、小さな市場または存在しない市場を見つけます。

このためには、アンテナを張り巡らし、実際に「お客様の生の声」を掴みます。そして、変化の兆候をいち早く見つけて確信が持てたらば、そこに全力で投資するのです。

1987年創刊の料理系雑誌『レタスクラブ』は「まじめで丁寧な暮らし」をコンセプトに、食に関心が高く一生懸命な主婦に支持されて部数を伸ばしてきましたが、一時、最盛期の1/5にまで部数を落とし、低迷していました。

そこで読者8名を選び、LINEやオフ会などで徹底的に本音を聞いたところ、夫への不満・借金・不妊など、少人数だからこそ話せる悩みや本音が次々と出てきたのです。

創刊当時とは違って現代の読者は多忙で、ワーママに限らず専業主婦も「何とか買い物に行く時間を確保している」という状態でした。求めていたのは、「まじめで丁寧な暮らし」ではなく、「なるべく楽をして、毎日を楽しむ」ことだったのです。

雑誌の内容と読者の本音との間には、大きなギャップがあったのですね。

こんな本音は、表面的な読者アンケート調査や短時間のインタビューではわかりません。少数読者の本音に向き合い、徹底的に聞き続けたからこそ、引き出せたわけです。

2017年3月、『レタスクラブ』は隔週刊を月刊に切り替えました。このタイミングで、コンセプトを「考えない、悩まない。あなたの生活をもっとラクに、楽しく!」に一新。

夏休みの手抜きご飯特集では「暑いから! 調理時間を半分に!」「これを料理と呼んでいいのか?」

今までタブーだった離婚やセックスレスもテーマに取り上げました。

すると3号連続で完売。2018年上期には発行部数でライバルの『オレンジページ』を抜き、料理系雑誌でトップに立ったのです。

 

今をときめくエヌビディアもそうです。
同社の時価総額は、現在3兆ドル超。なんと日本のGDPと並んでいます。
2兆ドルから3兆ドルまで、わずか96日。
まさに爆速で成長しています。

エヌビディアが成長したのは、現代の生成AI市場で必須となる半導体チップ「GPU」を事実上独占していることです。

そしてエヌディアもお客様に向き合い、変化の兆候をいち早く見つけて、そこに全力で投資したのです。

最新の日経ビジネス2024.12.16号の特集「エヌビディア  ジェンスン・ファンの世界最速経営」で、その経緯が紹介されています。

もともとエヌビディアは、1990年代にゲームなどの画像処理に特化した半導体チップGPUを開発していたニッチメーカーでした。

この画像処理というプロセスは、単純だけれども、膨大な量の計算を、できるだけ高速に処理しなければいけません。GPUはこのプロセスに特化していたのです。

2006年、同社はこのGPUを高速化する開発環境「CUDA(クーダ)」を公開しました。もともとCUDAは、GPUを画像処理以外の汎用的な計算で利用することを狙っていました。(当時はAI前提ではありませんでした)

2008年、同社のインターンだったブライアン・カタンザーロ氏は、「GPUは、AIの分析技術である機械学習に、非常に適しているのではないか」と考えました。

機械学習も、単純だけれども膨大な量の計算を、できるだけ速く処理する必要があります。ゲームの画像処理と同じ性質を持っていました。

2011年、カタンザーロ氏は同社に正式入社すると、機械学習の一種であるディープラーニングとGPUについて研究を始めました。

2012年、のちに2024年のノーベル物理学賞を受賞するヒントン氏らが、たった2基のGPUを使ってAI画像処理コンテストで優勝する、という出来事が起こりました。AI界隈ではこのことは大きな話題になりました。

この頃から、カタンザーロ氏を中心とする同社エンジニアチームは、デュープラーニング向けにしたCUDAを開発。

そして2013年、カタンザーロ氏は米スタンフォード大学と共同で、グーグルの1000台のCPUを、わずか3台のGPUで置き換える実験に成功しました。GPUの圧倒的な性能を示したわけです。

カタンザーロ氏は、こうして盛り上がっている様子を、ファンCEOに報告。

そして2014年3月、同社の年次イベントで、ファンCEOはそれまでほとんど語っていなかったAIやディープラーニングについて語り始めました。

エヌビディアがAI市場に大きく舵を切ったのは、まさにこのタイミングです。

こして2013年当時はごく小さかった市場は急速に成長を始めて、同社はその市場をGPUで独占したわけです。

 

大きな市場にいる多数のお客様から得られる平均的な意見は、すでにライバルも知っている表面化したニーズです。ですから、ライバルとの消耗戦に陥りがちです。

ヒット商品のヒントは、まだ多くの人が気づいていない潜在的なニーズの中にあります。

レタスクラブとエヌビディアに共通するのは、市場の変化を示す”弱いシグナル”をいち早く掴み、まだ小さい市場に全力投球していることです。

そしてその市場には、他の選択肢がなくて困っている少数のお客様がいます。

そのお客様に徹底して向き合うことです。

御社は、お客様が発する”弱いシグナル”を感じとっていますでしょうか?

     

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朝活永井塾 第94回「マルクス『資本論』 」を行いました

12月4日は、第94回の朝活・永井塾。テーマは「マルクス『資本論』 」でした。

現代社会は「資本主義」の社会です。私たちにとって、資本主義は常識です。

しかし資本主義社会が生まれたのは、ほんの200-300年前。

今回取り上げた『資本論』は、150年前にカール・マルクスが、その資本主義の本質について洞察した1冊です。

『資本論』がわかれば、資本主義の限界や課題も見えてきます。 さらにマルクスが本書を執筆した時代〜150年が経ち、世の中は大きく変わりました。『資本論』が理解できれば、現代の私たちビジネスパーソンが、自分自身のキャリアをどうすべきかも、見えてくるのです。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、仕事に役立つヘーゲル哲学について学んでいきました。

『資本論』(マルクス著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

来年の朝活永井塾は、隔月で偶数月の開催になります。

次回・2025年2月5日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「『会計』と『財務』のキホン」です。申込みはこちらからどうぞ。

吉野家がダチョウ丼に注目する理由を、ポーター「競争戦略」で検証する

吉野家は、2024年8月にダチョウ関連事業への参入を発表しました。

・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む

実際に吉野家は、2024年8月にダチョウ肉を使用した「オーストリッチ丼」を期間限定で販売しています。

「なんで吉野家がダチョウを?」と思ってしまいますよね。

これはポーターの「5つの力」で分析すると、理由がわかります。

「5つの力」は、業界内の競争状況を、下記の5つの視点で分析する方法論です。

・同業者の競争
・売り手の競争力
・買い手の競争力
・新規参入の脅威
・代替品の脅威

「5つの力」では、この5要素について競争状況を把握した上で、対策を立てます。牛丼業界を「5つの力」でザックリ分析すると、こうなります。

・同業者の競争:一時期は泥沼の価格競争(最近は回避しつつある)
・売り手の競争力:中国の需要増などで牛肉が品薄に【対売り手で弱い立場】
・買い手の競争力:買い手の選択肢は多様【対買い手で弱い立場】
・新規参入の脅威:新規参入は難しい【対新規参入で強い立場】
・代替品の脅威:選択肢は多い【対代替品には、要注意】

上記の分析から、対策が必要なのは

【課題1】対買い手:消費者の要望に応えるようにする
【課題2】対売り手:牛肉の入手先を増やして、原材料調達リスクを下げる

課題1については、牛丼チェーン各社はメニューの多様化を図ってきました。

【吉野家】豚丼、から揚げ丼、カレー、…
【すき家】海鮮丼、カレー、定食、…
【松屋】定食メニュー、カレー、豚カルビ丼、…

問題は、課題2の原材料調達リスクです。

吉野家は米国産の牛のバラ肉に徹底的にこだわって使用しています。これが吉野家のこだわりであり、強みでもあります。しかしこの原材料の調達リスクが、長年頭痛の種でした。

実際に吉野家は牛肉相場に翻弄されてきました。
1980年には牛肉が調達できずに会社更生法の適用を申請。
現在も牛肉相場で業績が左右されています。

牛肉調達が、経営の首根っこを押さえているわけです。

そこで注目したのが、ダチョウなのです。

日経ビジネス2024年12月9日号で、吉野家HD社長の河村泰貴社長は、こう述べています。

『きっかけは25年ぐらい前にダチョウ肉を食べて「(味はほとんど)牛肉じゃないか」と思ったことです。そのことが記憶に残っていて、環境課題と事業課題の双方を解決する答えの一つとしてダチョウに注目しました』

それにしても、なぜダチョウなのでしょうか? 記事ではその理由も述べられています。

『ダチョウは飼育効率が非常に優れている。単純化すると牛肉が11倍、つまり1Kgの肉を増やすのに11Kgの餌が必要で、豚肉が6Kg、鶏肉が4Kgといわれています。ダチョウの飼育効率は3倍といわれており、理論上は地球環境に優しい畜産と言えます」

そこで、国内でダチョウの飼育に挑戦しています。

現在の自社農場は500羽程度。まだ収益化していません。

そこで生産コストを下げるために、ダチョウの肉以外の部分が収益化できないか探っています。

色々挑戦する中で探り当てたのが、スキンケア。ダチョウの脂は、人間の皮脂と親和性が高いのです。この化粧品事業も、あくまで生産コストを下げるのが目的です。

ダチョウの飼育ビジネスを将来的に黒字化するには、10倍の5000羽規模にする必要があります。現時点では、ふ化率やひなの生存率が低いという問題がありますので数年から10〜20年かける挑戦になります。

改めて吉野家の戦略を見直すと…

・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む

すべて「原材料調達リスクを下げる」という目的で、首尾一貫した戦略であることがよくわかります。

10年後、吉野家で「オーストリッチ丼」が普通に食べられるようになる頃には、吉野家の経営はかなり安定しているかもしれませんね。

     

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2024-12-09 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : takahisanagaicom

新規事業の市場規模と売上は「円柱」をイメージせよ

私は様々な企業様で、新規事業立ち上げのワークショップを行っています。
ここで皆さんが苦労されることがあります。それは…

「新規事業の市場規模と売上を見積もること」

色々な市場調査データを探して、数字を引っ張ってきて、色々と計算する人もいます。かく言う私も、若手製品プランナー時代はそうやっていました。

でも、いくら市場データを調査しても、なかなか上手くいかないものです。

ここで市場規模と売上を予測するコツがあります。

それは、円柱をイメージすること。

図のように、

・円柱の体積 = 市場規模
・底面積 = 顧客の数
・高さ = 課題の深刻さ
・円柱の水の高さ=自社シェア
・水の量 = 自社の売上

と考えると、

円柱の体積(市場規模) = 底面積(顧客の数) × 高さ(課題の深刻さ)
水の量(自社の売上)  = 市場規模 × 自社シェア

になります。

具体的な例で考えてみましょう。ペットフード市場です。

・日本国内で犬や猫といったペットの数は、約1600万匹です。
・ペット一匹にかかるペットフードの支出を、年間4万円程度と想定します。
・市場規模は、1600万匹 × 4万円 = 6400億円です。
・自社がペットフード市場で強みがあり、シェア20%が取れれば、売上1280億円です。

ちなみに矢野経済研究所によると、2022年のペットフード市場規模は6083億円です。こんな大雑把な計算でも、市場規模の見積りはほぼ合っています。

この円柱がイメージできれば、色々なパターンが考えられるようになります。

【残念なパターン】
顧客は多いけど、顧客に刺さらないパターンです。市場を大きく取りすぎて、自社の強みが活きないのです。

多くの人は「市場規模は1兆円だ。シェア1%取るだけで、売上100億円になる!」というように考えがちですが、市場では激しい競争が繰り広げられています。たいていの場合、強みがなければ1%すら取れずに、失敗プロジェクトとなります。

【新市場開発パターン】
逆に顧客にはすごく刺さるのですが、ターゲット顧客数が少ないパターンです。ニッチ戦略により、まだ勝者がいない市場で強みを活かしてダントツのシェアを確保し、市場を押さえます。

その市場に成長性があれば、化ける可能性もあります。1998年頃にニッチ市場で混戦状態だったネット検索市場で、後発にもかかわらず技術的優位性を活かし、市場を制覇して巨大化したグーグルはまさにこのパターンです。

さらに隣接する市場で数をこなしていけば、無双化する可能性もあります。最初に書籍オンライン販売市場を制覇した後、CD/DVDオンライン販売市場に進出し、徐々に商品群を広げたアマゾンはこのパターンです。

【理想パターン】
既存市場で、顧客はそこそこいて、かつ顧客に刺さるパターンです。ここではウォンツ(=ありそうでなかったモノ)の発掘が必要になります。

成熟している家電商品市場で、コードレス掃除機、サイクロン掃除機、速乾性能と髪ダメージを軽減したヘアドライヤー、羽根がない扇風機など、様々なヒット商品を生み出しています。

改めて、新規事業を考える際には、この円柱をイメージしてみてはいかがでしょうか?

     

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