カローラ価格指数から見る、日本が貧しくなった原因と対策

「カローラ価格指数」をご存じでしょうか?

カローラの価格を平均年収で割った指数であり、年収に対して大衆車カローラがどれほど手に入りやすいかを示す指数です。つまり、豊かさや購買力を測る基準になります。

2025/2/27付の日本経済新聞記事「〈NEO‐COMPANY〉カローラを買えない日本」に詳しく書かれてますが、カローラ価格指数の推移を見ると、日本人の豊かさがどう変わってきたかがわかります。

1966年 初代カローラ。カローラ価格指数 0.90
(年収54.6万円、カローラ49.5万円)

1979年 4代目カローラ。カローラ価格指数 0.30
(年収279万円、カローラ85万円)

1982年 4代目カローラ。カローラ価格指数 0.27
(年収319万円、カローラ85万円)

2019年 12代目カローラ。カローラ価格指数 0.55
(年収436万円、カローラ240万円)

カローラ価格指数は、1982年の0.27から、2019年は0.55と約2倍に上昇しています。 比較のために米国では、2023年の平均年収8万ドルに対して、カローラは2.7万ドルで、カローラ価格指数は0.30です。

このカローラ価格指数からは、日本が相対的に貧しくなっていることが見えてきます。

なぜ日本は貧しくなったのでしょうか?

よく「バブル崩壊後の長期低迷が原因」と言われます。

しかし私は、より本質的な問題は、日本企業が短期的なコスト削減を重視するあまりに、価値創造への投資を怠ったことだと考えています。

1990年代前半にバブルが崩壊して以降、多くの日本企業が「安くていいモノを提供することは、善である」と信じ込み、ひたすらコスト削減に取り組んできました。

・原材料費の削減
・生産工程の見直し
・人件費の圧縮

確かに継続的なコスト削減は、企業にとって必要なことです。

実際にこれらの取り組みにより、多くの企業が短期的に利益を生み出しました。

しかし結果として、「お客様がどうしても欲しい」と思うような高付加価値の商品を生み出す力は、徐々に失われてしまいました。

その結果が、このカローラ価格指数0.55。日本は貧しくなってしまいました。若い人たちの中には、「海外の方がずっと効率よく稼げる」という合理的な考え方で、日本を出て海外移住する人も出るようになりました。

この「安くていいモノを提供することは善」という考え方の中には、「少々価格が高くてもお客様が『どうしても欲しい』と思うモノを提供しよう」という価値創造の発想がありません。

しかしながら、価値創造に成功した日本企業もあります。

その代表例がキーエンスです。

キーエンスは、中小製造業向けに高付加価値製品を提供して成長してきました。

彼らは、顧客である製造業の業務課題を徹底的に分析し、設計・開発・生産工程を見直し、大きなコスト削減が可能な解決策を提供することで、高付加価値を生み出しています。

たとえば設計工程のムダを効率化することで、年間で1億円削減し、設計期間も数日から数時間に短縮できる製品を提供することで、お客様は製品価格は1000万円でも喜んで買うわけです。大きなコスト削減で利益は上がり、かつ設計時間も短縮できて製品の競争力も上がるからです。

キーエンスはこのように価格をはるかに上回る価値を提供することで、抜群に高い利益率を誇る企業となり、平均年収2000万円と日本企業の中でもダントツの高賃金を実現しています。

では、日本が豊かになるためには、何が必要なのでしょうか?

それはマーケティング思考の強化です。

・お客様は、誰か?
・そのお客様の課題は、何か?
・どんな解決策を提供すればいいか?
・どのように値付けするのか?

この4つを考え抜く力を身につけて、単なるコスト削減ではなく、価値創造へとシフトすることが、いまの日本企業には求められているのです。

カローラ価格指数が0.27から0.55になった根本原因は、単なる経済の低迷ではなく、日本企業が「価値創造」に投資せずに、コスト削減だけに注力した結果です。

価値創造の力を取り戻すには、日本企業は今一度「マーケティング思考」を経営の中核に据えるべきなのです。

     

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トランプ登場で露呈した、額縁の「パーパス経営」

「パーパス経営」と言う言葉は、既に日本でも広がっています。

パーパスとは、企業の存在意義のことです。今や企業では多くの従業員が「自分がこの会社で働く意味って、なんだろう?」と考えるようになりました。そこで経営者は、「会社が存在する理由=パーパス」を、社外だけでなく、社内に対しても積極的に語り始めています。

しかし「パーパス経営が流行ってるから、うちもパーパスを決めよう」と考えてパーパスを作ったものの、作って終わりだったり、そもそも経営者自身がパーパスが何か覚えてないことも、少なくありません。

そうした作っただけで実践されないお飾りのパーパスを、名和高司さんは「額縁パーパス」と呼んでいます。パーパスで「社会貢献」を掲げつつ、実際には短期的利益だけを最優先、というケースなどがその典型です。

嘆かわしいことに最近、米国の名だたる大企業で、この「額縁パーパス」が続々と露呈しています。

たとえば従来、多くの米国企業がDEI (多様性・公平性・包括性)という価値感を自社のパーパスに組み込んできました。

DEIの尊重は、民主主義の根幹でもある「機会の平等」と深く結びついてます。たとえば米国では1964年の公民権法の成立以降、企業は積極的に多様性を受け入れて、より広範な才能を採用し、イノベーションを促進してきました。

有史以来の人類の歩みを振り返ると、「新たな真実」は必ず少数意見から生まれてきました。だからたとえ少数派であっても、多様な価値観を尊重することが、イノベーション促進に繋がるわけです。

しかしトランプ大統領は就任初日に「DEIプログラムと優遇措置を廃止する」という大統領令に署名しました。曰く「これからは、性は男性と女性の二つだけだ」。

この方針を受けて、Googleは多様性採用目標を撤廃し、DEI関連のプログラムも再評価すると発表しました。Meta (旧Facebook)やAmazonなども、DEI施策の縮小や廃止を検討しています。

これまでこれらの企業は、高らかに企業のパーパス(存在意義)としてDEIを掲げ、多様性と包括性の推進を強調していました。シリコンバレー発祥のGoogleやMetaのようなテクノロジー企業も、そうして生まれたわけです。

しかし、政治環境の変化にある意味迅速に適応して、短期的利益を優先し、自社が掲げてきたパーパスに反する行動をしているわけです。

まさに「額縁パーパス」。実に嘆かわしいことです。

本来のパーパスは「企業の存在意義そのもの」であり、企業の使命に関わることです。誰が何を言おうと、短期的利益が少々犠牲になろうと、そう簡単に変えるべきではないのです。

社会が激変する現代だからこそ、揺るぎない企業の価値感の礎となるべきパーパスが重要なのです。

では、どうすればいいのか?

『ハーバード・ビジネスレビュー』2022年6月号に『パーパス策定の原則』(ジョナサン・ノウルズほか)という論文が掲載されています。

この論文によると、パーパスには3タイプあります。

①大義型…どんな社会的善を実現したいのか?
例:パタゴニアの「故郷である地球を救う」

②コンピタンス型…自社製品・サービスは何を果たすのか?
例:ソニーの「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」

③企業文化型…どんな想いで事業運営しているのか?
例:ソフトバンクの「情報革命で人々を幸せに」

重要なことは、パーパスがどのタイプであっても、この3つの要素間に矛盾がないことです。

たとえば①大義型であるパタゴニア。

②のコンピタンスでは、コストが高くても地球に優しい商品しか提供しません。

③の企業文化では、たとえ糾弾されても(いいか悪いかは別として)時に過激な活動もする環境保護団体・シーシェパードを支援しています。

だからパタゴニアの「故郷である地球を救う」は「本物」と見なされるわけです。

しかし中には、3要素が相矛盾する企業もあります。

たとえばFacebookのパーパスは「コミュニティづくりを支援し人と人がより身近になる世界を実現する」という大義型。

しかし②のコンピタンス(提供サービス)は、基本的に広告モデルです。

より多くの広告を見せるために、ユーザーが長時間滞在するように最適化された結果、社会の分断化やフェイクニュース拡散を助長する結果となり、本来のパーパスと矛盾が生じています。

これらは、揺るぎないパーパスを作り上げ維持する上で、大きなヒントを与えてくれます。

■まず自社の存在意義や使命を、「大義」「コンピタンス」「企業文化」の視点で、明確に見直してみる。

■見直したパーパスに基づいて、一貫性がある意志決定や行動をする。

■そして短期的な利益や圧力に左右されずに、長期的な視点で価値を生み出すために、パーパスを徹底する。

今回のトランプ登場は、企業のパーパスが本物なのか、あるいは単なる額縁なのかを試す「リトマス試験紙」となりました。

そして自分が働く職場を選ぶ人たちも、そうした企業の行動を静かに見ているのです。

経営者であっても社員であっても、パーパスに基づいて、理念と行動を一致させることが必要なのです。

     

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MECEにこだわりすぎて、仕事が進まない?

「この議論、なんかさっきから整理ばっかりしてるけど、結局これって、何を決めるんだっけ?」

話が進まずに膠着している会議で、つい、こんな疑問を感じたことって、ありませんか?

「問題をロジカルに整理しよう」と考えるあまり、「分類の議論」ばかりが延々と続き、肝心の問題分析や意思決定が進まない…ということが、よくあります。

特に、MECE(ミッシー)にこだわりすぎると、こんな現象が起きがち です。

MECEとは”Mutually Exclusive and Collective Exhaustive”の略で、「漏れなく、ダブりなく」モノゴトを整理する思考法です。ロジカルシンキングの代表的な手法として、コンサル業界でよく使われています。

たとえば「売上が減っている原因」をMECEで考える際には、4Pのフレームワークを使って次のように分類できます。

「製品に問題がある」 Product
「価格設定に問題がある」 Price
「販促方法に問題がある」 Promotion
「販売方法に問題がある」 Place (Channel)

確かにこうすると、売上減少の要因を漏れなく分析できそうですよね。

しかし実際のビジネスでMECEにこだわりすぎると、時間がかかりすぎて、議論が進まないことも多いのです。

確かにMECEは、4Pのような既存フレームワークを使える場合は便利なのですが、あらゆる問題がMECEを適用できるわけではありません。

たとえば売上減少の原因が、4Pの中で「製品に問題がある」とわかったとします。では製品の問題をどのようにMECEで分類すればいいのでしょうか?

多くの人が、ここで「ハタ」と止まります。
製品の問題をMECEで分類できるフレームワークが存在しないからです。

・「どんな軸で分けようか?」
・「この分け方、もしかしてダブってない?」
・「これって、本当に漏れがないかな?」

こんな「本来の問題分析の議論」ではなく、「漏れなくダブりないか議論」が延々と続くわけです。

これって誰が見ても、本末転倒ですよね。 でも当の本人たちはそのことに気付かずに真剣に議論が続き、時間だけが経っていき、成果はほとんど出ない、というドツボにハマっているわけです。

どうすればいいのでしょうか?

MECEは、単なる一つの方法論に過ぎません。必要なのは「完璧な分類法」ではなく、「問題解決のスピード」です。

MECEで分けるフレームワークが使えないリアルなビジネスでは、MECEにこだわらずに、スピード重視で「タブるけど、漏れはない」アプローチでリストアップして考えるのが現実的です。

こんな感じでまず大カテゴリー(■)を作り、その中で要因(・)を挙げていきます。

■機能・性能の問題
・競合製品に比べて機能が劣る
・顧客ニーズに合っておらず、不要な機能が多く、必要な機能がない
・品質が不安定で不良品が多い

■デザイン・使いやすさの問題
・見た目が時代遅れでダサい
・UX/UIが悪く、使いにくい
・サイズや重量が大きすぎ

■ブランド・イメージの問題
・ブランドのイメージがターゲット層とズレている
・高級ブランドなのに、見た目チープ

■安全性・健康の問題
・…

■付随サービスの問題
・…

(以下、続く…)

こうしてMECEにこだわらずに、スピーディに要因をリストアップした方が、実務では圧倒的にスピーディに全体像を掴んで、より早く実行段階に移せます。

MECEは確かに有用ですが、「何のために分類するのか?」という目的を見失うと、スピードが落ちて成果も出ません。

MECEを使うべき状況は、

・既存のフレームワークが使える場合(4P、SWOT分析、3Cなど) →「どの軸で分類すべきか」と悩む必要がなくなります。

・分類軸が明確で、かつ問題を切り分けて、アクションに繋げたい場合 →たとえば4Pで切り分けられれば、アクションの責任の所在も明確になります

MECEを使わない方がいい状況は、

・問題が複雑で、分類軸が明確に立てられない場合 →たとえば「なぜ社員のモチベーションが低いのか?」

・分類軸が不明確で、かつスピードを重視する場合 →分類論に議論の時間を使わずに、可能性がありそうな原因を素早く一通り洗い出して、解決策の仮説を立てます。

MECEは強力なツールですが、万能ではありません。

「議論が進まないな」と感じたら、いったんMECEを脇に置いて、「ダブっていいから、漏れなく要因を出す」アプローチを試してください。

リアルなビジネスでは、議論のスピードが圧倒的に上がり、次のアクションも立てられるようになります。

     

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1部屋だけ増やし、効率2倍のクリニック

私が慢性の肩痛で、通っているクリニックがあります。このクリニックは「腕がいい」と評判で、遠方からもスポーツ選手などの患者さんが来ます。

このため、当然ながら混んでいます。診断するドクターの先生は一人だけ。他に実際に施術する理学療法士が10人ほど、看護師さんも10人近くいます。

診断はドクターの先生が一人で行っています。

このドクターはもの凄いスピードで患者さんを次々と診断して、的確に症状を判断し、時に注射などの必要な措置もした上で、理学療法士さんの施術に送り出します。

このドクターは経験豊富で診断するスピードも実に速いのですが、それだけではありません。このクリニックは、そこからさらにスピードを倍速化する仕組みを作っています。

それが「診察室を二つ用意すること」です。

患者は診察室に呼ばれると、まず看護師さんが問診して、今の症状をパソコン上の診断アプリに入力していきます。

入力が終わった頃に、隣の診察室で診察を終えたドクターが、診察室の間仕切りを越えて現れます。

そして看護師さんの説明と入力内容を聞きます。そして患者の話を聞き、問診内容を再確認。患部を触診して症状を判断。治療方針を決定します。ここまで15〜20秒。そして方針を決め、患者と看護師さんに伝え、必要なら施術。この間、看護師さんがカルテを記入。

施術を終えたドクターは、カルテをチェック。そして隣の診断室に移動して、既に問診を終えた患者さんを診察します。

この仕組みを見て、私は少々驚きました。

「このドクター、すごい。TOC理論に沿ってボトルネックを最適化している」

TOC理論(制約条件の理論)とは、ロングセラー『ザ・ゴール』の著者エリヤフ・ゴールドラットが提唱した、全体最適の考え方です。

TOC理論のカギは「ボトルネックの見極めと対応」なのです。

「ボトルネック」とは瓶の首のことです。瓶を逆さにしても、瓶の首に妨げられて水が全部一気に流れ出さないように、ボトルネックは全体の流れを滞らせます。瓶に限らずあらゆるプロセスに、全体のプロセスの速度を決めるボトルネックがあります。

このクリニックのボトルネックは、ドクターの診察時間です。言い換えれば、このクリニックで最も高価なリソースは、ドクターの時間なのです。

そこでこのクリニックは、ドクターの時間を最大限に有効活用することを考えています。

クリニックでは、診断は次のように進みます。

①問診→②カルテ記入→③患者を診断→④施術→⑤結果をカルテに記入

通常のクリニックは、これらすべてをドクターが行います。

①問診(ド)→②カルテ記入(ド)→③患者を診断(ド)→④施術(ド)→⑤結果をカルテ記入(ド)

このクリニックでは、このプロセスでドクターしかできないことを特定し、他は看護師が補助する仕組みにしています。

①問診(看)→②カルテ記入(看)→③患者を診断(ド)→④施術(ド)→⑤結果をカルテ記入(看)

こうしてドクターが③と④に特化することで、ドクターの時間を最大限に有効活用し、クリニック全体で対応可能な患者数を増やしているのです。

この病院は、ホームページで「患者さんを長時間お待たせする状況を改善し、緊急対応にもできるだけ応じられるようにして、患者さんにじっくり寄り添いたい、と考えてクリニックを作った」というドクターのメッセージが掲載されています。

組織のパーパスとこの施策は、連動しているわけですね。

あらゆるプロセスにはボトルネックがあります。もしボトルネックが見つかれば、その効率を上げる方法を見つけることで、全体の効率は飛躍的に上がるのです。

(補足…これは医療の素人である私の目線で見ています。実際には医師法などで「カルテ記入はドクターが責任を負う」などの規則がありますし、このドクターも診断中にカルテをチェックしているので、実際に細かく見ると、カルテ記入と最終確認はドクター、看護師は補助、といったルールで、医師法に沿った運用をしているものと思います)

     

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朝活永井塾 95回「『会計』と『財務』のキホン 」を行いました

2月5日は、第95回の朝活・永井塾。テーマは「『会計』と『財務』のキホン 」でした。

「ぶっちゃけ、会計とか財務はよくわからないんで、経理にすべてお任せです」

こんな方は少なくありません。経営者の中にもいます。これってきわめて危険です。

知人のある起業家は、立ち上げた会社を数回潰しています。いつも同じパターンです。立ち上がりは華々しく順調です。しかし次第に資金が枯渇し、金策に走り回る日々が続き、耐えきれなくなり終わるのです。この知人は、テクノロジーや新規事業の勘は鋭いのですが、会計や財務を学ぼうとしません。

会計も財務も知らない起業家は、ほぼ確実に失敗します。

かく言う私もお金関係は大の苦手でした。

しかし会社員を辞めて会社を立ち上げた後に、最低限必要な「会計と財務のキホン」を学びました。おかげさまで経営は極めて順調です。

「会計と財務のキモ」と言っても、別に簿記とか帳簿の付け方を学ぶ必要は全くありません。そこは専門家に任せればOKです。

必要なのは「ビジネスで、お金のどんなポイントを押さえればよいのか」を学ぶことです。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストに、「会計」と「財務」のキモについて学んでいきました。

「稲盛和夫の実学」稲盛和夫著
「起業のファイナンス」磯崎哲也著

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・2025年4月2日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「現代中国を、建国〜現代の歴史から理解する」です。申込みはこちらからどうぞ。

「論点思考」と「なぜ5回」を、使い分けよう

前回のコラムで、「論点思考」を紹介しました。おさらいすると、

・議論の際に、意見が発散することがある
・大きな理由の1つは。「何の問題を解決するか」が設定されていないから
・まず「解決すべき問題」の設定が大事。これが「論点思考」
・論点とは「解決すべき問題」のことで、必ず打ち手とセットである
・たとえば「昨晩泥棒が入った」のは現象。論点ではないので議論しても答えは出ない。
・「泥棒が入って損害が発生した」が論点で、「損害を算定し、最少化する」が打ち手
・論点は、置かれた状況で変わる

ということです。

ある企業様の研修でこの論点思考の説明をしたところ、こんなご質問をいただきました。

「よく『”なぜ5回”を繰り返して根本原因を特定せよ』って言いますよね。『論点思考』って、『なぜ5回』と何が違うんですか?」

これは大事なポイントなので、このコラムで皆様とシェアします。

「なぜ5回」は、トヨタが問題の原因追及の方法論として活用している考え方です。

たとえば「生産機械が止まった」という問題の場合、こう考えます。

❶「なぜ機械が止まったか?」→「過負荷がかかり、ヒューズが切れたから」
❷「なぜ過負荷がかかったか?」→「軸受部の潤滑が十分でないから」
❸「なぜ十分に潤滑しないのか?」→「潤滑ポンプが十分くみ上げていないから」
❹「なぜ十分くみ上げないのか?」→「ポンプの軸が摩耗しガタガタになったから」
❺「なぜ摩耗したのか?」→「ろ過器がついておらず、切粉が入ったから」
→対策:「ろ過器を付ける」

こうした対策を取れば、同じ問題の再発は防げますよね。

このように「論点思考」と「なぜ5回」は、使うべき場面が違うのです。

たとえば突発的なトラブルが起こって問題が拡大し続けているのに、「この根本原因は何なのだろう? なぜ5回で考えよう」と悠長にやっていると、業績は悪化し続けるばかりです。

こんな場合は迅速な対応が必要なので、状況悪化を食い止めるためにいくつかの論点を素早く見極め、優先順位を付けて、迅速に対策を取るべきですよね。

逆に、似たようなトラブルが何度も再発する現場は少なくありません。企業でも、同じような不祥事を何度も繰り返す企業があります。こんな場合は性急な問題解決に走らずに、再発防止を図るためにチームで知恵を出し合って「なぜ5回」を考え抜いて、根本的な対応策を考えるべきです。

このように、「論点思考」も「なぜ5回」も、ともに問題解決の方法論ですが、目的と適用する分野が異なります。まとめるとこうなります。

【目的】
・論点思考…効率的な意志決定のため、問題を正しく定義し、議論すべき論点を明確にする
・なぜ5回…再発を防ぐために、問題の根本原因を特定し、改善策を導き出す

【適用する分野】
・論点思考…経営判断、業務改善の優先順位付け、緊急な問題対応、議論の整理と意志決定
・なぜ5回…トラブルの再発防止、品質管理、業務改善

【よい点】
・論点思考…問題の全体像を短時間で整理し、ムダな議論を省き、意志決定スピードが向上する
・なぜ5回…根本原因に辿り着きやすく、問題の再発防止ができる。考え方がシンプル

【悪い点】
・論点思考…迅速な意志決定を優先するために、因果関係を分析せずに表面的な論点で留まり、根本原因を見落とすリスクあり
・なぜ5回…因果関係を過度に単純化すると誤った原因に辿り着くリスク。狭い視野になりがち

「論点思考」も「なぜ5回」も問題解決の道具です。

そして道具は万能ではありません。

クルマは移動の道具として万能に見えますが、自宅から徒歩2分のコンビニに行くには、クルマよりも徒歩という手段が優れています。遠い場所に行く時でも、天気が良く荷物も軽ければ、クルマよりも自転車の方がいい場合もあります。

問題解決の手段は色々とあります。それぞれの目的と性質を理解した上で、使いこなしたいものです。

     

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「話し合いで意見がまとまらない」というお悩み

私は企業研修で、チームに分かれて自社の様々な課題を話し合うワークショップを行っています。先日の研修でこんなご質問をいただきました。

「時間内に意見を取りまとめるのに苦労しています。ゴールが明確でない状況で話が横にズレたりするので、どうしたらいいのか困っています」

確かに研修に限らず実際の会議でも、延々と時間を掛けて話し合ううちに「あれ? 何を話し合っているんだっけ?」という状況は起こりがちですよね。

こういうことが起こる大きな原因の一つは、自分たちが何の問題を話し合っているのかが見えなくなっていることです。

このご質問でも、まさに「ゴールが明確でない状況で…」とありますよね。

ワークショップでも会議でもほとんどの場合、話し合う目的は「どんな問題を解決するか?」です。

最初に解決すべき問題を決めないと、話し合いは延々と迷走し続けます。
ですからまず最初に「どんな問題を解決するのか?」を決めることが必要です。

この「解決すべき問題」の設定を間違えると、話し合いは迷走します。

ここで参考になるのが内田和成著「論点思考」という名著です。本書にある事例を紹介してみましょう。

ある食品メーカーの営業が、こんなことで延々と悩んでいました。

「どんな広告を打てば、コンビニに商品を置いてくれるだろう?」

話を伺うと、こうおっしゃいます。

「コンビニのバイヤーさんが『オタクの商品、TV CMやってないから置かないよ』って言うんですよ」

しかし現実には、TV CMには膨大なお金がかかりますし、TV CMなしで置いている商品も沢山あります。そもそもTV CMしても、必ずしもコンビニが商品を置いてくれるとは限りません。

これは問題の設定が間違っているのです。
このセールスが考えるべき正しい問題設定は…

「コンビニにウチの商品を置いてもらうには、どうするか?」

です。

かのドラッカーはこんな言葉を残しています。

「経営における最も重大な過ちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ。正しい答えではなく、正しい問いが必要である。」

この「正しい問い」のことを、内田和成氏は著書「論点思考」で「論点」と呼んでいます。

論点とは「解決すべき問題」のことで、必ず「打ち手」とセットになっています。

たとえば、「昨晩会社に泥棒が入った」という状況を考えてみましょう。

「昨晩泥棒が入った」のは一見すると大きな問題に見えますが、いくら延々と議論しても、「昨晩泥棒が入った」という事実は解消しようがありませんよね。つまりこれは現象であって、論点(=解決すべき問題)ではないのです。

この場合の論点と打ち手は、たとえば次のようになります。

論点①:防犯体制に不備があった →打ち手①:防犯体制作りをどうするか

論点②:損害が発生した →打ち手②:損害を算定し最少化しよう

論点③:報告体制不備で翌日夕方に知った →打ち手③:報告体制を整備しよう

論点④:会社の評判が落ちた →打ち手④:イメージ向上の対応をしよう

論点は、置かれた状況によって変わります。会社の資金繰りが厳しい時は②「損害が発生した」が論点になりますし、会社が不祥事で叩かれている時は④「会社の評判が落ちた」が論点になります。

チームでまず「解決すべき問題」を話し合って合意するように習慣づけることで、話し合いが高い生産性を生み出すようになると思います。

     

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自分の天職を掴むのは、焦る必要はない

「自分がやりたいことを早く見つけなきゃダメだよ」

このように、学校に通う子どもや孫に言う親が少なくありません。

素直な子どもだったりすると「ボクはまだ自分が何をやりたいのか全然わからないんだけど、これってダメなのかなぁ」と思って、悩んだりします。

安心してください。
自分がやりたいことなんて、そう簡単に見つかりません。
まして「天職」などを見つけるのは、なかなか難しいものです。

確かに、学生時代に天職を見つける人もいます。これは極めて幸運に恵まれた方でしょう。

「これって面白そうだな」と思って始めたはいいけど、外から見た印象と現実は全く違うことがほとんど。 「何か違う」と思っても軌道修正の連続で、やっと見つかることも少なくありません。

かく言う私が、天職のマーケティングに出会ったのは、36歳でした。

私は新卒で「IT業界は急成長しているし面白そうだ」と思って、IBMに入社しました。

最初は研究開発部門のエンジニアを希望して配属されましたが、適性がないことがわかり、早々に見切りました。

その後、アジア地域の企画職の仕事が空いていたので、「プランナーって面白そうだ」と考えて異動しました。しかし現実の企画職は、地味な管理業務の連続。それでも29歳になるまで6年間続けました。おかげで海外の部門を巻き込んで地味な管理業務を回すのは上手になりました。

「でも、何か違う…」と考え、再び希望して開発部門の製品企画職に異動。

製品企画は楽しいもので「これは天職かもしれない」と思いましたが、最初の頃は、企画した製品がなかなか売れず。どぶ板営業を続けて何とか売れるようになり、担当製品の開発マネジャーにもなりました。

しかし今度は大人の事情で担当した製品は開発中止に。この時、「なんかよくわからないけど、製品開発だけなのも違う気がする…」と思い始めました。この時、私は36歳になっていました。

ちょうどその頃、IBMが経営不振で潰れかかり、外部から新たなIBMのCEOとしてルー・ガースナーが就任しました。

IBMに来て「IBMにはマーケティング専門職がいない」と驚いたガースナーは、昔の同僚であるマーケティングのプロをIBMに招いて、「マーケティング・マネジャー」という職種を新設。社内で人材の募集が始まりました。

当時の私は「マーケティングとセールスって、どう違うの?」みたいな感じだったのですが、直感的に「もしかしたら、これは自分のモヤモヤしている感じを解消できる仕事かもしれない」と考えて、三度目の正直でマーケティング職に異動しました。

最初の2年間はチンプンカンプンでした。しかし次第にマーケティングの面白さが分かり始め、異動して6年後の42歳に日本IBMのCRMソリューションのマーケティング戦略を担当し、大きな成果をあげることができました。

こうして私が天職であるマーケティングに出会ったのは36歳。「これは天職だ」と確信したのは42歳でした。かなり遅いですよね。

その後もマーケティングの仕事を続けて、IBM会社員を続けながら49歳の時に書いた『100円のコーラを1000円で売る方法』がシリーズ60万部になったり、その後、50歳で人材育成部長になって人材育成が第2の天職になったりした後、51歳で独立。マーケティング戦略コンサルタントになり、様々な企業様のご支援を続けながら、今に至っています。

 

かのフィリップ・コトラーがマーケティングを天職にしたのも、30歳過ぎでした。

20代のコトラーは、経済学が専門でした。

1961年秋、コトラーがノースウエスタン大学経営大学院で教えることになった際に、「経済学とマーケティングのどちらを教えるかを君が決めてくれ」と言われました。当時のコトラーはマーケティングを正式に学んでおらず、経済学の応用分野の一つとしてマーケティングに触れていた程度でした。

この時、コトラーをノースウエスタン大学経営大学院に誘った友人は、「経済学は既に発展した分野だ。独自の理論を生み出せる可能性はマーケティングの方が高いだろう」と言いました。

そこでコトラーはマーケティングを既に研究している教授に話を聞きました。

心理学や広告を研究していたブリット教授は、彼にこう言いました。

「広告をせずに事業を営むのは、暗闇で女の子にウィンクするのに等しい。自分が何をしているか、まわりにはまったく伝わらない」

さらに世界のマーケティング研究の実態も調べました。

2013年12月に日本経済新聞でコトラーが連載していた「私の履歴書」の連載第9回で、コトラーはこう書いています。

『経済学を教えることより、「マーケティング理論や実践の研究に人生を懸ける」のが結論だ。この決断を悔やんだことは一度もない」

当時30歳のコトラーはこうして天職を掴みました。そしてマーケティングの研究を通して、世界に大きな影響を与える様々な仕事を達成。私たちはその成果を学んでいるわけです。

 

大事なことは、たとえ与えられた仕事であっても、自分自身で納得してその仕事をやりることです。

「この仕事をやりたい」と考えてその仕事についても、実際にやり始めてみると「思っていた仕事と違う」ということもよくあります。

しかしこれは実によくあることです。そんな仕事でも、やり続けて自分のスキルが上がると、別の景色が見えることもあります。だからまずは数年間程度やり続けてみる。その上で「やはり何か違う」と思ったら、軌道修正することです。

そうしているうちに、次第に天職に近づいていくと思います。

そして数年間試行錯誤した経験も決してムダではなく、必ず天職で活きます。

私も、アジア地域の企画職や、製品開発部門での企画・営業・開発マネジャーといった寄り道経験は、いまの仕事でおおいに役立っています。50歳を過ぎて経験した人材育成の仕事は、企業研修という形で第2の天職になっています。

大切なのは、一見寄り道に見える試行錯誤の経験が、自分にとってどんな意味を持つのかを、自分でじっくり考えることだと思います。

ということで、自分の天職を掴むのは、焦る必要はありません。
常に考えながら、じっくり掴んでいきましょう。

     

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まず4Pが生まれ、次にSTPが生まれた

マーケティングを最初に学ぶ時に出てくるが、「STP」と「4P」です。

「STP」とは、セグメント、ターゲッティング、ポジショニングの略です。

よく「市場」と呼ばれますが、現実には市場の中には色々な顧客がいます。そこで市場を分析して細分化(セグメント)して、顧客を絞込み(ターゲッティング)、その顧客に自社をどんな位置づけ(ポジショニング)で認識してもらうことを考えるのが、STPの概念です。

STPで狙いを定めたら、次に「4P」を考えます。

4Pは、「製品」「価格」「チャネル」「販売促進」の4つの英語Product、Price、Place、Promotionの頭文字です。実際に行うマーケティング施策はこの4つでほぼ漏れなく網羅できるのです。

そこでマーケティングの基本を学ぶ際には、「まずSTP、次に4P」と教えられるわけです。

しかし最初にマーケティングの世界で広がったのは、4Pでした。

数日前に古い書類を整理していたら、マーケティングの父・フィリップ・コトラーが2013年12月に日本経済新聞で連載していた「私の履歴書」の新聞切り抜きが出てきました。当時夢中になって読みふけったことを思い出しました。

この連載の第8回目に4Pの話が出てきます。一部引用します。

『この学問(注:マーケティング)の進化を語る上で「4P」(製品、価格、場所、販売促進)は重要な用語である。これを最初に提唱したのはジェリー・マッカシーだ。昨日、ここ(注:この連載)で紹介したフォード財団がハーバード大学で主催したプログラムのマーケティング・グループとして一緒に机を並べていた彼は、60年に初めて「4P」を使った教科書を出した。

この4Pには原型がある。彼の恩師であるノースウエスタン経営大学院のリチャード・クルウェット教授が「3つのP」(製品、価格、販売促進)と「1つのD」(流通=ディストリビューション)を使っていた。

ジェリーは自らマーケティングを教えるようになり、Dをプレイスに換えて「4P」という枠組みを作ったのだった。日本では「4P」の最初の提唱者が私だと思っている読者がいるが、ちゃんと先達がいた。私はこの4Pを様々な分野に活用、実践した』

ということで、1960年にマッカシーが4Pの概念を提唱しました。

コトラー本人も言っているように「4Pはマーケティングの父・フィリップ・コトラーが提唱した」と思っている人が多いですが、実はこれは違うわけです。

1960年頃は、消費社会が始まったタイミングです。大量に商品を生産して売れば、売れた時代です。

そこで『より多く売るために、「製品」「価格」「チャネル」「販売促進」をしっかり考えよう』ということで4Pが広がりました。

しかし消費社会が成熟していくと、様々な商品が提供されるようになり、消費者の目が肥えてきました。こうなると商品を提供するだけでは売れません。

そこで「4Pを具体的に考える前に、そもそも消費者のニーズが何かをまず理解しよう」ということになり、既にマーケティングの世界で個別に議論されていた「セグメンテーション」「ターゲッティング」「ポジショニング」の概念を統合して、コトラーがSTPの概念を確立したのです。

コトラーは連載第11回目に、1960年代に「マーケティングの対象範囲をビジネス以外に広げよう」と考えて様々な活動をしていたことを紹介しています。一部引用します。

『(マーケティングを様々な分野に応用することは)宗教では批判を受ける可能性があるのもよくわかっていた。そこで、宗教団体が信徒のニーズを理解し、信仰や宗教活動によってそれを満たすことで信徒の獲得や維持につながることを示そうとした。

4Pの活動の前にS(セグメント)、T(ターゲッティング)、P(ポジショニング)という概念を応用し、高い評価を得ることができた。』

こうして「まずSTPを考え、次に4Pを考えよう」ということが、マーケティングの基本中のキホンになりました。

『マーケティングの基本はSTP+4P』と言われるとチンプンカンプンですが、こうした歴史の流れが理解できれば、STP+4Pの考え方がスムーズに理解できると思います。

     

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アニマルスピリットを発揮しよう

ますます不確実性が増す2025年、私たちはどうすべきでしょうか?

私は、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが約100年前に提唱した「アニマルスピリット」が、再びそのカギを握ると思っています。

ケインズは、著書『雇用、利子、お金の一般理論』でこう語っています。

『たぶん、かなりたってからでないと結果の全貌がわからないようなことを積極的にやろうという人々の決断は、ほとんどがアニマルスピリットの結果でしかないのでしょう。(中略)アニマルスピリットが衰えて自然発生的な楽観論が崩れ、数学的な期待以外あてにできなくなると、事業は衰退して死にます』

アニマルスピリットとは、不確実な状況を恐れずに挑戦する精神のこと。

かつて日本企業はこのアニマルスピリットを体現し、戦後の復興期や高度経済成長期、世界市場へ果敢に挑戦を続けました。

しかりバブル崩壊後は「企業を守ること」が最優先になり、挑戦する精神は失われ、日本は「失われた30年」と呼ばれる苦難の時期を過ごしてきました。

しかし「失われた30年」で、アニマルスピリットを体現して成長を続けた企業もあります。

・ファーストリテイリングは、「Life Wear」という新たな価値感で、3兆円企業に成長

・キーエンスは、中小製造業の生産プロセスを革新する高付加価値な提案を続けて、平均給与は日本トップ

・ソニーは、低迷を克服し、エンタメとテクノロジーの融合で、再び世界をリード

・楽天は、携帯電話事業で苦戦しながら、ビジネスモデルを大胆に変革中

・さらにこの10年間、日本国内のスタートアップ環境が整備され、多くのスタートアップが育っています

「何が起こるかわからない」ことを私たちはネガティブに捉えがちですが、考えを変えてみると、決して悪いことではありません。想定外の良いことも起こりえからです。

想定外なことを良いことに変えるために必要なのが、不確実性な状況を楽しむアニマルスピリットです。

では、私たちは何から始めるべきでしょうか?

1,小さな挑戦を始めてみる

経営学者ジョン・コッターは、著書『企業変革力』で、「変革の8段階のプロセス」を提唱しています。コッターが提唱しているのも、小さなことでいいので、まず新しい行動で成果を出すことです。

2.失敗を許容する

新しいことほど失敗は付きものですが、実際にやってみて学べることも多いものです。「失敗は勉強代」と思って、挑戦することです

3.学びを継続する

新しいスキルや知識は、新たな挑戦を行う際に、大きな武器になります

私たちがアニマルスピリットを意識して、小さくても挑戦を始めることで、可能性は大きく広がっていくと思います。私自身も、アニマルスピリットをテーマにした新著を準備中です。

2025年が皆様にとって挑戦と成長の一年となることを心より願っています。

     

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不安を煽る金融コンサルに、どう対処する?

先日、あるパーティに参加していたら、途中で「あなたの資産形成をお手伝いします」というテーマで、金融コンサルタントのプレゼンが始まりました。そのプレゼン内容は、典型的な「不安商法」。話の流れはこんな感じでした

・自身の身の上話:自分の家は貧しかった。両親は不仲。大変苦労した。お金の大切さを身に染みて感じました。

・そして、世の中の動向。

・昨今の報道のように、凶悪犯罪が急増。あなたの家の防犯は大丈夫ですか?

・そして、投資の重要性。10年前に持っていた100万円は、普通預金に預けてもせいぜい100万1000円。しかしテスラの株を買えば、1億7000万円。ビットコインを買えば71億円になる。自分も、10年前に買ったタワマンの価格が2倍になった。賢い運用が不可欠です。

・少子高齢化と相続:今、ご家族が円満でも、何もしないと、残された家族が大変な目に遭います。→悲惨な事例をいくつか紹介。

こうした話を続けた後、最後に、

「私は、金融コンサルタントとして、皆様の大事な資産をお守りし、素晴らしい人生を守るお手伝いを致します。ぜひお気軽にお声がけください。会社員の皆様の金融リテラシー教育も行っています。皆様の会社にお招きいただければ、無料でご相談に乗りますよ」

この方は、卓越した販売業績を上げた生命保険・金融プロフェッショナルに与えられるMDRT (Million Dollar Round Table)を何回も受賞した、優秀な金融プロフェッショナルだそうです。

参加者を見ると、熱心に聞き続ける人がいる一方で、聞き流している人もいました。

これは、実は極端な事例を取り上げて、不安をいだかせて、商売に繋げる典型的な不安商法です。具体的に見ていきましょう。

【凶悪犯罪は、逆に減っている】

この方は「凶悪犯罪増えてますよね」といってます。現実にメディアでは凶悪犯罪が連日報道されていますよね。でも犯罪は、過去数十年間で大幅に減っています。

法務省統計によると、令和4年(2022年)の刑法犯は601,331件。平成15年(2003年)と比べて-78.4%です。

国別に見ても、2020年の殺人の発生率(人口10万人当り)は、日本が0.3人、韓国は0.6人、フランスは1.1人、ドイツは0.9人、英国は1.0人、米国は6.4人。世界的に見ても、日本はかなり安全です。

もちろん防犯に注意することに越したことはありません。しかし20年前と比べてその必要性はかなり減っているのです。

【資産運用の現実】

この方が取り上げたテスラやビットコインは、過去の成功例です。急騰した金融商品のトップをピックアップし、自分の体験を付加して信憑性を高めています。

作家の橘玲氏は、著書『臆病者のための億万長者入門』や複数のインタビューで、経済の不確実性に備えるための資産運用戦略として「普通預金が最強の金融商品」と述べています。

あるいは「ドルコスト平均法」といって、破綻リスクが少ない日経平均ETFのような商品に何も考えず積み立てする方法が、長期的に見ると確実にお金が増える、という考え方もあります。

つまり資産形成には色々な考え方があるということです。

【相続対策の必要性】

相続については、現実には法律で定められた法定相続分があるので、資産が特に大きくない場合や相続人同士の関係が良好ならば、トラブルが起こる可能性は低いのです。

たとえば、相続税の基礎控除額は法定相続人が2人だと4200万円。多くの場合、相続額はこの範囲内に収まるので相続税の心配は不要です。むしろ余分な節税対策でコストがかかる可能性すらあります。(相続資産が多く、相続人同士で利害衝突がある場合は、対策が必要かもしれません)

 

「詐欺」と言うほどではありませんが、あえて極端な事例ばかりを取り上げて、不安を煽る手法ですね。

 

こうした手法に振り回されないためには、相手の「主張」「根拠」「ロジック」を検証する力が必要です。たとえばスマホで「日本の犯罪率推移」と検索すれば、犯罪傾向の事実を把握できます。

さらに生成AIならば…

「凶悪犯罪は増えていますか? 根拠も明示してください」
「お金を増やす方法は、ビットコイン、株投資、普通預金など様々です。比較して論評してください」
「金融コンサルタントに相続対策を勧められましたがアドバイスください」

と聞けば、意外と的確で専門家レベルのアドバイスが返ってきます。

ただし生成AIを駆使するには、『相手の「主張」は、「根拠」と「ロジック」で検証すればいい』という論理的思考する際に最低限必要な情報リテラシーを身につけることが必要です。

こうして「なるほど。この人、不要に危機感を煽って、商売に繋げようとしているんだな」とすぐにわかります。

AI時代だからこそ、こうした情報リテラシーを高めることが、健全な判断をする上で、最強の武器となるのです。

     

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売ってくれないバーキンを、マーケ的に分析してみる

https://www.hermes.com/jp/ja/content/297706-birkin/ より引用 (2024/12/23閲覧)

エルメスの「バーキン」というバッグをご存じでしょうか?
とても入手困難であり、非常に希少性が高いバッグで、定価140万円以上します。

「そりゃ高いなぁ。でも直営店だったら買えるんでしょ」

と思ってしまいますが、直営店に商品がディスプレイされていても、それはディスプレイ用の商品であって、まず売ってくれません。

バーキンを買うには、直営店舗に常にお顔を出して店員さんと顔なじみになり、深い関係を構築して、やっと買えるのです。

ちなみに米国では「エルメスは他商品を多数購入した実績がないと、バーキンを販売してもらえない。他商品の購入強制はおかしい」という訴訟まで起きています。

「でも、ネットなら入手できるでしょ」となるわけですが、「バーキン 値段」でネット検索すると、360万円とか400万円とかの商品が出てきます。どれも中古です。ちなみにこれはバッグ1個の、しかも中古の価格です。あまりに入手困難なので、プレミアムが付いているのです。

ちなみに英国では、1日2万円でバーキンをレンタルできるサービスがあります。

実はバーキンは、不定期に直営店にバーキンが入荷されることもあるので、うまくそのチャンスに遭遇すれば、直営店で深いリレーションがなくても、一見さんのお客でも買えてしまうこともあるそうです。

そこで「エルパト」という言葉が生まれました。「エルメスパトロール」の略です。直営店を何店舗も巡って、バーキンの入荷がないか尋ねるわけですね。入荷の事前情報は極秘なので、直営店に出向くしかないわけです。

当然ながら、他にもエルパトする多くの客がいます。ですので順番待ちになります。運良く入荷されても、自分の前に待っていた客が買ったら、買えません。

もし運良くバーキンに出会っても、色やデザインが自分の好みとは限りません。でもこの時に買わないとバーキンには二度と出会えないかもしれない。買わなければ次の人が買うわけです。

つまりエルパトをしても、強運に恵まれないと買えないわけです。

このバーキン、マーケティング的には実にネタ満載です。そこで分析してみましょう。

 

①バーキンの商品価値は「記号」である

そもそもバーキンという商品は、どんな価値を持っているのでしょうか?

150年前、カール・マルクスは古典的名著「資本論」で、「商品には欲望充足が目的の使用価値と、どんな量の商品と交換できるかを示す交換価値がある」という商品論を提唱しました。このマルクスの商品論でバーキンを分析すると、

【使用価値】「モノを収納すること」で、100円ショップで売っている商品と変わらない
【交換価値】直営店で入手して中古で転売すると確実に儲かるが、バーキンが欲しい多くの人は、転売目的では買わない

つまりマルクスの商品論では、バーキン現象は説明できません。

そこで役立つのが、1970年にボードリヤールが書いた『消費社会の神話と構造』です。

本書でボードリヤールは、消費社会になって、社会構造がどう変わったのかを考察しました。そして「消費社会では、商品という記号を消費することで、差異化を図っている」と見抜いたのです。

ボードリヤールの記号論マーケティング的に考察すると、バーキンが与えてくれるのは、

・特権的な地位や富を示すステータスとしての記号であり、
・洗練された趣味や文化的な理解を持っていることを示す記号であり、
・所有者が「選ばれた者」であることを示す記号であり、
・自分が特別な存在であることを示す記号なのです。

1000万円を超えるローレックスを持ったり、1億円を超えるフェラーリを乗る男性も、ほぼ同じですね。「成功した、特別な自分としての記号」を買っているわけです。

そしてこれがブランド論と繋がっています。

 

②膨大なブランドエクイティ(ブランド資産)

1980年代前半まで、多くの人たちは「ブランドは、要は看板でしょ。広告代理店に任せればいいよ」と考えていました。

そして1985年、のちにブランドの大家と称されるデービッド・アーカーは「ブランドは企業にとって、商品や人材と同様に、資産価値を持っている。だからブランド戦略をちゃんと考えるべきだ」と考えて、「ブランドエクイティ」(ブランド資産)という概念を提唱しました。

バーキンも、購入する前のワクワク感、購入したときの高揚感、実際にバッグを使っている時に受ける羨望の眼差し、所有し続けることの安心感など、顧客に様々な満足を提供しています。

さらに各界のセレブたちもバーキンを普段使いしています。バーキンを持つ人たちは、彼らと同じ世界に浸れるわけです。

こうしてバーキンは長い年月をかけて、莫大なブランドエクイティを構築してきたのです。

そしてバーキンがブランドエクイティを構築する上で重視した要素が、次にご紹介する供給のコントロールです。

 

③莫大な需要に対して、わずかな供給

エルメスはバーキンで、需要と供給のバランスを大きく崩しています。

「エルパトして、店に100回通ってでも欲しい」「少々プレミアムが付いてもOK」という顧客がとても多いのに、エルメスは砂漠に水を垂らすほどのバーキンしか提供していません。

供給を意図的に制限することで希少性を演出し、手に入れること自体をステータスに変えているわけですね。

これは、フェラーリやデビアスと同じ手法です。

フェラーリの生産台数は「限定499台」といったように端数です。これはフェラーリの創業者・エンツォ・フェラーリの「欲しがる客の数よりも1台少なく作れ」という言葉に従ったものです。

ゲーム理論的に言えば、商品をどうしても欲しいという顧客の数よりも少ない商品を供給すれば、商品の価値が上がり、売り手の顧客は言いなりになります。

ダイヤモンドの世界流通の85%を支配し、ダイヤモンドを事実上独占販売するデビアスも、このことを熟知しています。

ダイヤモンドの供給量はデビアスが決定。販売会には150業者を招待して割当を提示します。業者の選択肢はYESかNOの二択で、交渉の余地はありません。

バーキン、フェラーリ、デビアスのように「どうしても欲しい」という顧客を創り出した上で、その顧客への供給が自社だけであるという状況を生み出せば、需要と供給の関係はいかようにもコントロールできるわけです。

こうして見ると、エルメスはブランドという概念の本質を理解した上で、実に老獪なマーケティング戦略を実践していることがよくわかりますね。

 

ちなみに私は、時計は10万円のApple Watchですし、バッグは5万円のPorter(吉田カバン)です。どちらも品質が高く、価格は少々高いもののその価値の割には納得価格なので、買い替え続けて使っています。年間500Km程度しか乗らなかったクルマは、10年以上前に手放してしまいました。

こんな私を記号論マーケティング的に考察すると、「実質的で等身大な自分として記号として、Apple WatchやPorterを買っている」という感じで分析できるかもしれませんね。

 

     

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新商品開発は、大きい市場は捨てて、”弱いシグナル”を感じ取れ

多くの企業は新商品開発で、大きな市場を狙い、その市場で勝とうとします。

「大きな市場には、多くのお客様がいるし、お金も使っている。だからチャンスも大きい」というわけです。

しかし大きな市場にはライバルもいます。
市場が魅力的なほど、強いライバルも多いわけです。
そんな市場に新規参入しても。勝つのは極めて困難です。

そこで考えを180度変えてみると、新たな可能性が広がります。

まず大きな市場は捨てます。

そして将来大きな市場になりそうな、小さな市場または存在しない市場を見つけます。

このためには、アンテナを張り巡らし、実際に「お客様の生の声」を掴みます。そして、変化の兆候をいち早く見つけて確信が持てたらば、そこに全力で投資するのです。

1987年創刊の料理系雑誌『レタスクラブ』は「まじめで丁寧な暮らし」をコンセプトに、食に関心が高く一生懸命な主婦に支持されて部数を伸ばしてきましたが、一時、最盛期の1/5にまで部数を落とし、低迷していました。

そこで読者8名を選び、LINEやオフ会などで徹底的に本音を聞いたところ、夫への不満・借金・不妊など、少人数だからこそ話せる悩みや本音が次々と出てきたのです。

創刊当時とは違って現代の読者は多忙で、ワーママに限らず専業主婦も「何とか買い物に行く時間を確保している」という状態でした。求めていたのは、「まじめで丁寧な暮らし」ではなく、「なるべく楽をして、毎日を楽しむ」ことだったのです。

雑誌の内容と読者の本音との間には、大きなギャップがあったのですね。

こんな本音は、表面的な読者アンケート調査や短時間のインタビューではわかりません。少数読者の本音に向き合い、徹底的に聞き続けたからこそ、引き出せたわけです。

2017年3月、『レタスクラブ』は隔週刊を月刊に切り替えました。このタイミングで、コンセプトを「考えない、悩まない。あなたの生活をもっとラクに、楽しく!」に一新。

夏休みの手抜きご飯特集では「暑いから! 調理時間を半分に!」「これを料理と呼んでいいのか?」

今までタブーだった離婚やセックスレスもテーマに取り上げました。

すると3号連続で完売。2018年上期には発行部数でライバルの『オレンジページ』を抜き、料理系雑誌でトップに立ったのです。

 

今をときめくエヌビディアもそうです。
同社の時価総額は、現在3兆ドル超。なんと日本のGDPと並んでいます。
2兆ドルから3兆ドルまで、わずか96日。
まさに爆速で成長しています。

エヌビディアが成長したのは、現代の生成AI市場で必須となる半導体チップ「GPU」を事実上独占していることです。

そしてエヌディアもお客様に向き合い、変化の兆候をいち早く見つけて、そこに全力で投資したのです。

最新の日経ビジネス2024.12.16号の特集「エヌビディア  ジェンスン・ファンの世界最速経営」で、その経緯が紹介されています。

もともとエヌビディアは、1990年代にゲームなどの画像処理に特化した半導体チップGPUを開発していたニッチメーカーでした。

この画像処理というプロセスは、単純だけれども、膨大な量の計算を、できるだけ高速に処理しなければいけません。GPUはこのプロセスに特化していたのです。

2006年、同社はこのGPUを高速化する開発環境「CUDA(クーダ)」を公開しました。もともとCUDAは、GPUを画像処理以外の汎用的な計算で利用することを狙っていました。(当時はAI前提ではありませんでした)

2008年、同社のインターンだったブライアン・カタンザーロ氏は、「GPUは、AIの分析技術である機械学習に、非常に適しているのではないか」と考えました。

機械学習も、単純だけれども膨大な量の計算を、できるだけ速く処理する必要があります。ゲームの画像処理と同じ性質を持っていました。

2011年、カタンザーロ氏は同社に正式入社すると、機械学習の一種であるディープラーニングとGPUについて研究を始めました。

2012年、のちに2024年のノーベル物理学賞を受賞するヒントン氏らが、たった2基のGPUを使ってAI画像処理コンテストで優勝する、という出来事が起こりました。AI界隈ではこのことは大きな話題になりました。

この頃から、カタンザーロ氏を中心とする同社エンジニアチームは、デュープラーニング向けにしたCUDAを開発。

そして2013年、カタンザーロ氏は米スタンフォード大学と共同で、グーグルの1000台のCPUを、わずか3台のGPUで置き換える実験に成功しました。GPUの圧倒的な性能を示したわけです。

カタンザーロ氏は、こうして盛り上がっている様子を、ファンCEOに報告。

そして2014年3月、同社の年次イベントで、ファンCEOはそれまでほとんど語っていなかったAIやディープラーニングについて語り始めました。

エヌビディアがAI市場に大きく舵を切ったのは、まさにこのタイミングです。

こして2013年当時はごく小さかった市場は急速に成長を始めて、同社はその市場をGPUで独占したわけです。

 

大きな市場にいる多数のお客様から得られる平均的な意見は、すでにライバルも知っている表面化したニーズです。ですから、ライバルとの消耗戦に陥りがちです。

ヒット商品のヒントは、まだ多くの人が気づいていない潜在的なニーズの中にあります。

レタスクラブとエヌビディアに共通するのは、市場の変化を示す”弱いシグナル”をいち早く掴み、まだ小さい市場に全力投球していることです。

そしてその市場には、他の選択肢がなくて困っている少数のお客様がいます。

そのお客様に徹底して向き合うことです。

御社は、お客様が発する”弱いシグナル”を感じとっていますでしょうか?

     

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朝活永井塾 第94回「マルクス『資本論』 」を行いました

12月4日は、第94回の朝活・永井塾。テーマは「マルクス『資本論』 」でした。

現代社会は「資本主義」の社会です。私たちにとって、資本主義は常識です。

しかし資本主義社会が生まれたのは、ほんの200-300年前。

今回取り上げた『資本論』は、150年前にカール・マルクスが、その資本主義の本質について洞察した1冊です。

『資本論』がわかれば、資本主義の限界や課題も見えてきます。 さらにマルクスが本書を執筆した時代〜150年が経ち、世の中は大きく変わりました。『資本論』が理解できれば、現代の私たちビジネスパーソンが、自分自身のキャリアをどうすべきかも、見えてくるのです。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、仕事に役立つヘーゲル哲学について学んでいきました。

『資本論』(マルクス著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

来年の朝活永井塾は、隔月で偶数月の開催になります。

次回・2025年2月5日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「『会計』と『財務』のキホン」です。申込みはこちらからどうぞ。

吉野家がダチョウ丼に注目する理由を、ポーター「競争戦略」で検証する

吉野家は、2024年8月にダチョウ関連事業への参入を発表しました。

・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む

実際に吉野家は、2024年8月にダチョウ肉を使用した「オーストリッチ丼」を期間限定で販売しています。

「なんで吉野家がダチョウを?」と思ってしまいますよね。

これはポーターの「5つの力」で分析すると、理由がわかります。

「5つの力」は、業界内の競争状況を、下記の5つの視点で分析する方法論です。

・同業者の競争
・売り手の競争力
・買い手の競争力
・新規参入の脅威
・代替品の脅威

「5つの力」では、この5要素について競争状況を把握した上で、対策を立てます。牛丼業界を「5つの力」でザックリ分析すると、こうなります。

・同業者の競争:一時期は泥沼の価格競争(最近は回避しつつある)
・売り手の競争力:中国の需要増などで牛肉が品薄に【対売り手で弱い立場】
・買い手の競争力:買い手の選択肢は多様【対買い手で弱い立場】
・新規参入の脅威:新規参入は難しい【対新規参入で強い立場】
・代替品の脅威:選択肢は多い【対代替品には、要注意】

上記の分析から、対策が必要なのは

【課題1】対買い手:消費者の要望に応えるようにする
【課題2】対売り手:牛肉の入手先を増やして、原材料調達リスクを下げる

課題1については、牛丼チェーン各社はメニューの多様化を図ってきました。

【吉野家】豚丼、から揚げ丼、カレー、…
【すき家】海鮮丼、カレー、定食、…
【松屋】定食メニュー、カレー、豚カルビ丼、…

問題は、課題2の原材料調達リスクです。

吉野家は米国産の牛のバラ肉に徹底的にこだわって使用しています。これが吉野家のこだわりであり、強みでもあります。しかしこの原材料の調達リスクが、長年頭痛の種でした。

実際に吉野家は牛肉相場に翻弄されてきました。
1980年には牛肉が調達できずに会社更生法の適用を申請。
現在も牛肉相場で業績が左右されています。

牛肉調達が、経営の首根っこを押さえているわけです。

そこで注目したのが、ダチョウなのです。

日経ビジネス2024年12月9日号で、吉野家HD社長の河村泰貴社長は、こう述べています。

『きっかけは25年ぐらい前にダチョウ肉を食べて「(味はほとんど)牛肉じゃないか」と思ったことです。そのことが記憶に残っていて、環境課題と事業課題の双方を解決する答えの一つとしてダチョウに注目しました』

それにしても、なぜダチョウなのでしょうか? 記事ではその理由も述べられています。

『ダチョウは飼育効率が非常に優れている。単純化すると牛肉が11倍、つまり1Kgの肉を増やすのに11Kgの餌が必要で、豚肉が6Kg、鶏肉が4Kgといわれています。ダチョウの飼育効率は3倍といわれており、理論上は地球環境に優しい畜産と言えます」

そこで、国内でダチョウの飼育に挑戦しています。

現在の自社農場は500羽程度。まだ収益化していません。

そこで生産コストを下げるために、ダチョウの肉以外の部分が収益化できないか探っています。

色々挑戦する中で探り当てたのが、スキンケア。ダチョウの脂は、人間の皮脂と親和性が高いのです。この化粧品事業も、あくまで生産コストを下げるのが目的です。

ダチョウの飼育ビジネスを将来的に黒字化するには、10倍の5000羽規模にする必要があります。現時点では、ふ化率やひなの生存率が低いという問題がありますので数年から10〜20年かける挑戦になります。

改めて吉野家の戦略を見直すと…

・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む

すべて「原材料調達リスクを下げる」という目的で、首尾一貫した戦略であることがよくわかります。

10年後、吉野家で「オーストリッチ丼」が普通に食べられるようになる頃には、吉野家の経営はかなり安定しているかもしれませんね。

     

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2024-12-09 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : takahisanagaicom

新規事業の市場規模と売上は「円柱」をイメージせよ

私は様々な企業様で、新規事業立ち上げのワークショップを行っています。
ここで皆さんが苦労されることがあります。それは…

「新規事業の市場規模と売上を見積もること」

色々な市場調査データを探して、数字を引っ張ってきて、色々と計算する人もいます。かく言う私も、若手製品プランナー時代はそうやっていました。

でも、いくら市場データを調査しても、なかなか上手くいかないものです。

ここで市場規模と売上を予測するコツがあります。

それは、円柱をイメージすること。

図のように、

・円柱の体積 = 市場規模
・底面積 = 顧客の数
・高さ = 課題の深刻さ
・円柱の水の高さ=自社シェア
・水の量 = 自社の売上

と考えると、

円柱の体積(市場規模) = 底面積(顧客の数) × 高さ(課題の深刻さ)
水の量(自社の売上)  = 市場規模 × 自社シェア

になります。

具体的な例で考えてみましょう。ペットフード市場です。

・日本国内で犬や猫といったペットの数は、約1600万匹です。
・ペット一匹にかかるペットフードの支出を、年間4万円程度と想定します。
・市場規模は、1600万匹 × 4万円 = 6400億円です。
・自社がペットフード市場で強みがあり、シェア20%が取れれば、売上1280億円です。

ちなみに矢野経済研究所によると、2022年のペットフード市場規模は6083億円です。こんな大雑把な計算でも、市場規模の見積りはほぼ合っています。

この円柱がイメージできれば、色々なパターンが考えられるようになります。

【残念なパターン】
顧客は多いけど、顧客に刺さらないパターンです。市場を大きく取りすぎて、自社の強みが活きないのです。

多くの人は「市場規模は1兆円だ。シェア1%取るだけで、売上100億円になる!」というように考えがちですが、市場では激しい競争が繰り広げられています。たいていの場合、強みがなければ1%すら取れずに、失敗プロジェクトとなります。

【新市場開発パターン】
逆に顧客にはすごく刺さるのですが、ターゲット顧客数が少ないパターンです。ニッチ戦略により、まだ勝者がいない市場で強みを活かしてダントツのシェアを確保し、市場を押さえます。

その市場に成長性があれば、化ける可能性もあります。1998年頃にニッチ市場で混戦状態だったネット検索市場で、後発にもかかわらず技術的優位性を活かし、市場を制覇して巨大化したグーグルはまさにこのパターンです。

さらに隣接する市場で数をこなしていけば、無双化する可能性もあります。最初に書籍オンライン販売市場を制覇した後、CD/DVDオンライン販売市場に進出し、徐々に商品群を広げたアマゾンはこのパターンです。

【理想パターン】
既存市場で、顧客はそこそこいて、かつ顧客に刺さるパターンです。ここではウォンツ(=ありそうでなかったモノ)の発掘が必要になります。

成熟している家電商品市場で、コードレス掃除機、サイクロン掃除機、速乾性能と髪ダメージを軽減したヘアドライヤー、羽根がない扇風機など、様々なヒット商品を生み出しています。

改めて、新規事業を考える際には、この円柱をイメージしてみてはいかがでしょうか?

     

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P&Gが製品販促で、P&Gブランドを重視しない理由

日本では、特にB2Cマーケティングの世界では、P&G出身者が大活躍です。P&Gが世界的な消費財メーカーであり、B2Cの世界でダントツのマーケティング力を持っているからです。

でも、P&Gがどんな製品を売っているのかは、意外と一般的には知られていません。P&Gが製品販促で「P&Gブランド」をP&Gの名前を極力目立たせないようにしているからです。

実はこれは、P&Gの用意周到なブランディング戦略なのです。

このことを理解するには、最初に簡単な「ブランドの構造」を理解する必要があります。

 

■ブランド構造の3つのパターン

ブランド構造には主に以下の3つのパターンがあります。

これは図のように、テーブルの天板(企業ブランド)と、天板を支えるテーブルの脚(製品ブランド)の関係で考えるとわかります。

①単一ブランド戦略

企業全体で1つの強力な企業ブランドを訴求します。単一事業を展開する企業に適しています。代表例はBMWやメルセデスです。

②複数ブランド戦略(エンドースト型)

企業ブランドと製品ブランドを組み合わせます。ソニーのように、企業ブランドが安心感を与えつつも、製品ブランドも個性を発揮します。

③個別ブランド戦略

企業ブランドは控えめにして、製品毎に強いブランドを育てる戦略です。幅広い商品カテゴリーを持つ企業に適しています。代表例がP&Gです。

 

■P&Gが「P&Gブランド」を強調しない理由

「個別ブランド戦略」のP&Gは、製品で独自ブランドを立ち上げ、製品毎に異なるポジショニングを打ち出します。理由は2つあります。

理由1:製品ポジショニングを最優先に考えているため

P&Gは、自社製品ブランドが消費者の特定のニーズに応えるために、市場で明確に差別化されることを最重要視します。そのために「P&G」の企業ブランドを強調せず、製品ブランドを強調しているのです。

理由2:ブランドイメージの希釈化を避けるため

ある一つのブランドが複数の製品にまたがると、消費者のそのブランドの認知がぼやけてしまうリスクがあります。これが「ブランドの希釈化」です。これを回避するため、P&Gは製品ごとに新しいブランドを立ち上げているのです。

■P&Gの実際の事例

具体的なP&Gの商品事例を見てみましょう。

【洗剤カテゴリー】
「洗浄力重視」のTideとは異なる「香り重視」のブランドとして、GAINを展開。

【シャンプーカテゴリー】
「フケ予防」のhead&shouldersに対し、「美髪ケア」をテーマにPANTENEを展開。

【食器洗剤カテゴリー】
「油汚れ特化」のDAWNとは異なり、「泡立ちと香り」を重視したJOYを展開。

【紙おむつカテゴリー】
「高品質追求」のPampersとは別に、「高コスパ」のLUVSを新たに展開。

このように、P&Gは一つの商品カテゴリーで複数のブランドを展開し、それぞれ異なるポジショニングを持たせているわけです。

でもついこう思ってしまいますよね。

「ブランド立ち上げって、莫大な予算が必要だよね。製品毎にブランドを立ち上げるって、ムダが多くない?」

■P&Gが「ブランド拡張」を採用しない理由

様々な企業のブランド戦略を見ていると、多くの企業はこの真逆をやっています。強力な既存ブランドを活かして、類似製品を展開する「ブランド拡張」を行っているのです。

例えば、強力なPampersの既存ブランド力を活かして、「Pampers light」のような高コスパ版を出す方法です。

一見、効率的な方法に思えます。

しかし、P&Gはこの方法を嫌います。ブランド拡張はブランドの希釈化を招き、既存の強力ブランドのイメージを損なう可能性があるからです。

高コスパ版「Pampers light」が世に出ると、「Pampers」の「高品質追求」という消費者のブランド認知は大きく損なわれてしまうわけです。

そして企業の想定する以上に、破壊的にブランドイメージが損なわれます。効率的どころか、逆に大きな損失を生んでしまうリスクがあるのです。

「ポジショニング」という概念を確立したマーケティングの大家アル・ライズ「ブランド拡張はNG」と指摘しています。

このようにP&Gが製品販促で「P&Gブランド」を重視しないのは、製品ブランドの希釈化を防ぎつつ、各製品ごとに明確なポジショニングを確立するためなのです。

こうしてP&Gは多様な商品群を抱えながらも、それぞれが消費者にとって明確な価値を持つブランドとして認識されることを狙っています。だからP&Gの商品群は強いのです。

     

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185店舗から、10年後に1000店舗に急成長を目指すワタミのSUBWAY戦略

2週間前に本コラムで、ワタミのSUBWAY日本事業買収について書きました。ポイントは下記でした。

・ワタミは米SUBWAYから日本サブウェイを買収、国内外食事業での成長を目指す
・渡辺美樹会長は「ゴール逆算思考」で、長期目標から逆算して戦略を立てて買収を決断した
・健康志向のSUBWAYのサンドイッチは、ワタミの有機野菜生産と組み合わせることで、マクドナルドに対抗する独自の強みを築こうとしている
・長期的には国内SUBWAY3000店舗を目指す

11月14日に行われたワタミの決算発表で、渡辺社長が今後のSUBWAYの事業について語っておられます。

先日のブログで書いた内容をさらに解像度を高めて考察できるので、ご紹介したいと思います。

・SUBWAY買収から3週間が経過した。強いブランドで、手応えを感じている

・SUBWAYトップと2時間会議し、「日本で味を決めてもよい」という権利を勝ち取った。美味しいものを提供できるので、これは大きい。

・現行の国内SUBWAY店舗185店舗は1店も赤字がない。2000万円の投資で6000万円の売上を上げている強い収益力をもった業態である

・そして小さな商圏で成り立っている。

・そこで日本全土を3000店舗から逆算し、どの地域にどういう出し方をすれば3000店舗になるかを検討し始めている。・SUBWAYの中国、韓国のFCオーナーとの交流も始めている

その上で、国内SUBWAYの店舗数計画も発表しています。

2025年 215店舗 (+35店舗)
2026年 265店舗 (+50店舗)
2027年以降は100店舗ずつ新規出店
2034年には、1065店舗

先日のブログでも紹介したように、SUBWAYの国内展開についても、渡辺社長はまさに「ゴール逆算思考」で考えていることがよくわかります。

□長期的に、国内3000店舗を展開
→そのために、2034年までに1000店舗
→そのために、2027年以降から100店舗毎に出店
→そのために、2026年は50店舗出店
→そのために、来年2025年は35店舗出店
→これらを実現するために、SUBWAYの小さい商圏を前提に、日本全土への3000店舗の出店計画を策定
→そのために、まずはSUBWAYトップと、「日本で味を決めてもよい」と合意

当然ながら、まだ渡辺社長が公にしていない「長期的なゴール」もあるはずです。

そもそもワタミは、グローバルカンパニーを目指しています。

それはもしかしたら、ワタミ自身がグローバルなSUBWAY事業を展開する姿なのかもしれません。

ちなみに渡辺社長は決算発表でも「ワタミ=SUBWAYですね、と世の中の人が言ってく入れるようになった」と嬉しそうにおっしゃっています。SUBWAYという強いブランドが伝える立場を手に入れたことが、いかに自社の強みになるのか、よく理解しておられることがわかります。

実はSUBWAYは2023年に米投資ファンドと買収で合意しており、当時の入札額は96億ドル(1.5兆円)と言われています。一方でワタミの時価総額は現在400億円。ワタミはSUBWAYの1/40程度で、ビジネス規模はまだまだ雲泥の差です。

こんな状態で「将来、ワタミが米SUBWAYを買収するかも」と言うと、確実に「あり得ない」と一笑に付されるでしょう。

しかし今後「ゴール起点思考」で指数関数的なビジネス成長が実現出来れば、超長期的には可能性があるかもしれません。


そんなことも妄想しながらワタミのSUBWAY事業をみてみると、なかなか面白いと思います。

     

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製品の差別化はすぐ追いつかれる。ではどうする?

ライバルがいないブルーオーシャン市場で、斬新な製品を出して、顧客に支持されて、売れたとします。

しかし成功が大きいほど、ライバル企業が多数その市場に参入して、その斬新な製品を模倣してきます。

こうなると数年〜10年程度で、ブルーオーシャン市場はレッドオーシャン市場と化して、競争が激化します。

どうすればいいのでしょうか?

エアウィーヴは2007年、最初の製品『マットレスパッド』を発売しました。

当時市場になかった高反発素材を使った寝具を開発し、試しに使った顧客からも「よく眠れる」と高評価でした。しかし残念ながら、初年度は売れませんでした。

この時、エアウィーヴは、色々と反省しました。

まずライバルにない製品機能で売ろうとしたのですが、それでは売れなかったわけです。

実は寝具市場は特殊で、お客さんはまず「寝具を買おう」と考えて、特にどの商品を買うかを決めずに、デパート最上階などにある寝具売り場に行きます。こんな買い方をするので、デパートなどの売り場でどれだけ商品陳列面積を取るかで勝負が決まる世界だったのです。最後発のエアウィーヴは、売り場がほとんど取れていませんでした。

売り場面積を最後発で押さえるのはとても難しいので、エアウィーヴは「指名買いされるようにしよう」と考えました。つまりブランドを確立する、ということです。

そこで経営者の高岡社長がブランドの専門家に相談したところ、「ブランドって実績だよ」と言われました。

一方で初年度に製品はあまり売れませんでしたが、「質の良い睡眠」を求めるアスリートたちから高評価を得ました。当時、「質の良い睡眠のための寝具」という製品=市場はなかったのです。

「質の高い睡眠を求める人たちがいる」と気がついたエアウィーヴは、アスリートに特化して製品改良を始め、オリンピック選手も使うまでに実績を積み上げました。

この実績をPR(パブリックリレーション)活動で広げ、ある程度認知が広がったところで、さらに大規模に広告戦略で訴求を拡げていきました。

そして「Quality Sleep = エアウィーヴ」というブランド認知を築き上げました。

一方でエアウィーヴが売れ始めると、5-10年ほど遅れて、ライバルの寝具メーカーも「質の良い睡眠のための寝具」の市場に次々と参入してきました。

いまやライバル達も独自の技術を使っていかに質の高い睡眠を実現するかを考えています。そしていまや、この市場は広く認知されるようになりました。

その中でも、エアウィーヴのブランド認知は高く評価されています。

このエアウィーヴの戦略は、「斬新な製品は模倣される」というジレンマへの対抗策を教えてくれます。

最初の段階では、機能の差別化が有効です。エアウィーヴがアスリートに支持されたのも、当時は質の高い睡眠を実現する寝具がなかったからです。

しかし商品が広がっていくと、類似の機能を持つライバル商品が増えてきます。この段階で必要なのは、商品に対する顧客の認知、つまりブランディングです。

つまり「斬新な製品は模倣される」というジレンマへの対抗策は、最初からブランディングを考えて、実績を着実に積み上げることなのです。

御社の斬新な新製品は、どのように実績を積み上げてブランディングを実現するか、考えているでしょうか?

     

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朝活永井塾 第93回「世の中の裏構造が見えてくる『ヘーゲルの精神現象学』 」を行いました

11月6日は、第93回の朝活・永井塾。テーマは「世の中の裏構造が見えてくる『ヘーゲルの精神現象学』 」でした。

ヘーゲルの弁証法がわかれば、これまで見えなかったことが見えてきます。社会の裏にある構造が見えるようになり、ビジネスも見通せるようになって、自分の思考に「骨太さ」が宿るようになります。

しかしヘーゲル哲学を理解するには、大きな壁が二つあります。

一つ目は、日本ではヘーゲル哲学が誤解されていること。「ヘーゲル哲学は、正反合でアウフヘーベン」という人が知識人の中にも多いですし、困ったことに教科書にも書かれているのですが、これは実は大間違い。ヘーゲルは「正反合」なんて言ってません。

二つ目は、ヘーゲルの主著書である『精神現象学』が超難解で、読みこなせている人が少ないこと。哲学の世界でも、カントの『純粋理性批判』、ハイデガーの『存在と時間』に本書『精神現象学』を「三大難解書」として挙げられたりします。

しかしヘーゲル哲学の本質は、色々な解説書を読みながら学んでいくと、実は意外と難しくないのです。難解だが、挑戦し甲斐もある。それがヘーゲル哲学です。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、仕事に役立つヘーゲル哲学について学んでいきました。

『精神現象学』(ヘーゲル著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・12月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「資本主義が限界に突き当たる現代でこそ理解すべき 『マルクスの資本論』」です。申込みはこちらからどうぞ。

ワタミのSUBWAY日本事業買収は、「ゴール逆算思考」の結果

先週の2024年10月29日、居酒屋チェーン大手のワタミが、サンドイッチチェーン世界最大手SUBWAYのフランチャイズ(FC)店を展開するというニュースが発表されました。

ワタミは10月25日付けで、米SUBWAYから日本で180店舗を展開する日本サブウェイを買収しました。10年で店数を2倍強の430店舗に、長期的には3000店舗を目指します。

つい「何で居酒屋のワタミが、サンドイッチをやるの?」と思ってしまいますが、私はこの発表を見て、思わず唸ってしまいました。

「この戦略は凄い。まさに『ゴール逆算思考』だ」

『ゴール逆算思考』とは、まず長期的に目指すゴールを考えた上で、そこから時系列的に逆算して「いつ、何をやるか」を考え抜き、その上で「今何をやるか」を考える思考方法です。

『ゴール逆算思考』は、ハロルド・ジェニーンが著書『プロフェッショナル・マネジャー』に書いた方法論です。

ジェニーンは米国でITTという企業のCEOに就任して58四半期連続増益を達成、18年後に辞任するまでに売上/利益20倍に成長させ、「フォーチュン500」で第11位の企業に育てた経営者です。

本書にはその方法論が書かれており、ファーストリテイリングの柳井社長は本書を「ボクのバイブル」と賞賛し、経営に取り入れています。

ワタミのサブウェイ日本事業買収は、『ゴール逆算思考』によって、ワタミが目指すゴールから逆算し、考え抜いた上で、チャンスを掴み取った結果なのです。

■そもそもワタミの経営課題は?

まずワタミの経営課題を考えてみましょう。

ワタミは1984年に居酒屋「つぼ八」のFC加盟店として創業・自社ブランドの居酒屋「和民」で成長し、シニア向け弁当宅配などにも参入しました。

しかしコロナ禍で本業の居酒屋事業は壊滅状態に。唐揚げブームに乗って「から揚げの天才」なども展開しましたが、唐揚げブームが去ると失速しました。

今後の成長をどうするかが、大きな経営課題だったわけです。

■ワタミはどう考えたか?

2024年10月30日の日経MJの記事「サブウェイFC マック対抗軸に」よると、ワタミの渡辺美樹会長兼社長は、日本経済新聞の取材に対し「総合外食企業を目指す。マクドナルドの対抗軸になりたい」と述べています。

この渡辺会長の戦略思考は、まさに『ゴール逆算思考』そのもの。そこで本記事を参考に、私なりに解釈してまとめたいと思います。

まず渡辺会長は、長期的なゴールをこう考えています。

→88歳で引退する24年後の2048年までに、グループ売上1兆円を実現したい

そして、ゴール地点の事業構成を、こう考えています。

→そのためには国内外食で3000億円、宅食で2000億円、アジアで1500億円、米国で3500億円

そして、「国内外食で3000億円」をどう実現するかを考えました。

→外食で主力業態を作り、国内3000店舗を展開する

しかし日本は人口が減り、市場は縮小します。
祖業である居酒屋は守りますが、もはや居酒屋だけでは成長できません。
日本の外食でダントツに強いのはマクドナルドです。
そこで、 マクドナルドに対抗するブランドを展開することを考えました。

そこで渡辺会長は、米国の人気バーガーチェーン『イン・アンド・アウト・バーガー』や『チックフィレイ』に接触していたそうです。

そしてその最中に、サブウェイが日本でパートナーを探している話が来て、「これだ!」と思いました。

■なぜサブウェイを買収したのか?

日本ではマックは、圧倒的なマーケットリーダーです。多くのハンバーガーチェーンがマックに挑んできましたが、巨人マックになかなか勝てません。ワタミがハンバーガーで戦っている限り、同じ状況に陥る可能性がきわめて大です。

しかしサンドイッチ対ハンバーガーの構図を作れば、「健康の軸」で対抗できます。 しかもワタミは、『ワタミファーム』で有機野菜を自社で作っています。サンドイッチならば、この強みも活かせます。

渡辺会長は記事でこう述べています。

「成長するためには何か武器が必要だった。このまま居酒屋や焼き肉の店舗をじわじわと増やしていっても、大きな成長は見込めない。拡大が見込める市場であるサンドイッチで勝負していこうと考えた。約300キロカロリーで(健康的な)おいしいものが食べられるというのはなかなかない」

サブウェイとの交渉には1年以上かかりましたが、ワタミが外食や野菜栽培といった現場と市場を知っており、さらに現場のオペレーションができることが評価されたようです。

「なぜ居酒屋がサンドイッチのフランチャイズを?」と思ってしまうワタミのサブウェイ日本事業買収は、渡辺会長が徹底した『ゴール逆算思考』を考え抜き、出会ったチャンスをしっかりモノにした結果だったのです。

「サブウェイがパートナーを探している」というタイミングに出会ったのは、一見すると偶然の幸運に見えます。しかしこの幸運を引き寄せられたのも、『ゴール逆算思考』を積み重ねて、この幸運がワタミにとって具体的に何を意味するかが見えたからです。

『ゴール逆算思考』で考え抜けば、偶然の幸運を引き寄せ、目指すゴールを実現する可能性をより高めることができるのです。

     

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ネトフリから学ぶ「辞めた若手社員は、どこに行く?」

私は企業の若手リーダー研修で、実ビジネスの課題を話し合うワークショップをよく行います。

たとえば「心理的安全性」「内発的動機付け」「組織文化」「変革の方法論」などの考え方を学んでいただいた上で、自社の具体的な問題をどう解決するかを議論します。

ここで、多くの会社でよく出てくるテーマがあります。
それは「すぐに辞める若手社員」。

時間をかけて採用し、1〜2年かけて育てた若手社員がかなりの比率で辞めてしまうのは、現場のリーダーにとっても、経営の観点でも、大きな損失です。

では彼らはどこに行くのでしょうか?

その1つのヒントが、2024年10月25日の日本経済新聞の記事『ネトフリ、日本で働き方改革』にありました。内容は、ネットフリックスが日本の映像制作の現場を変えつつあるという話です。

私も数ヶ月前にネットフリックスへ加入し、よく観ています。コンプラ重視のがんじがらめでマンネリ気味のテレビドラマと違って、実に面白いですね。

一方でこの記事によると、かつて日本の映像制作現場は、こんな感じだったそうです。

・昼食の休憩時間を確保できず作業を続ける
・寝る時間がない(「朝まで撮るぞ!」)
・罵声も飛び交う(「何やってんだバカヤロー」)
・セクハラも横行(父親役が娘役に「二人だけで稽古しよう」)

「映像製作の現場で仕事をしたい」という人は多いでしょうけれども、実際の職場環境がコレではなかなか辛いですよね。

ネットフリックスでは、これを大きく見直しました。

・1日12時間を超える撮影は辞め、週1回は撮影休止
・相手に敬意を持つ言動をするよう講習を義務づけ(リスペクトトレーニング)
・性的なシーンでは俳優と制作の間に調整役となるインティマシー・コーディネーターを日本で初めて配置

職場の様々な課題を、具体的な仕組みで改善する手を次々と打つことで、労働環境を大きく改善しているわけです。

記事の中でも、ヒットドラマ「地面師たち」の高橋信一プロデューサーの『(コストは増えスケジュールは長くなるが)スタッフや俳優を守るためなら最低限の必要経費。(中略)搾取に近い形の労働で成り立つ作品は認めない』という言葉を紹介しています。

では、日本の映像製作現場でできないことが、なぜネットフリックスでは可能なのでしょうか?

記事ではこの部分についても分析しています。

ネットフリックスでは、各部門毎に現場を熟知する人材が制作側に集まっています。

一方で日本では、原作権利を持つ出版社やテレビ局、配給会社が資金を出して製作委員会を作って、制作会社に委任します。ただ製作委員会には必ずしも現場経験者がいません。予算オーバーは製作委員会の理解が得られないので、制作会社は決められた制作費の範囲でやりくりします。その結果、しわよせは現場に行く構造になっているのです。

こうして両者を比較すると、ネットフリックスの職場環境の方が魅力的です。

ネットフリックス上陸前までは「映像製作の現場で働きたい」という人は我慢するしかなかったのですが、ネットフリックス上陸後は、優秀な人材ほど、自分の才能が活かせる場を求めてネットフリックスに移るのは明らかです。

こうしてネットフリックスは「職場環境を改善する→多くの才能の持ち主が集まる→面白い作品が生まれる→収益が上がる」という好循環を生み出しているのです。

 

同じ事は、あらゆる業界で起きつつあります。

いま様々な業界で、働きやすく、社員の能力を引き出して、成長する会社が増えています。

「すぐ辞める社員」は、「辛い職場」「自分に合わない職場」「停滞する企業」から、「働きやすい職場」「自分の才能を活かせる職場」「成長する企業」へと、大移動しているのかもしれません。

私だったら、貴重な人生の時間を投資して働くのならば、後者の企業を選びたいと思います。

あなたの職場は、働きやすく、自分の才能を活かせるでしょうか?

もしそうでなければ、その問題は、今後改善することでビジネスを大きく成長させる「伸びしろ」なのかもしれません。

     

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2024-10-28 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : takahisanagaicom

変わりつつある日本企業と、変わらない日本企業

今月の日本経済新聞「私の履歴書」は、KKR創業者のヘンリー・クラビスです。

昨今の企業の買収劇でも、KKRの名前はよく出てきますよね。

KKRはグローバルな投資会社で、業績不振で成長余地がある企業に投資し、経営変革を行って企業価値を高めて、最終的に売却やIPO(上場)を行うことで、利益を得る、というビジネスを行っています。

欧米で成功したKKRは日本市場進出を検討し、2006年に東京に拠点を設けました。

2024年10月17日掲載の「私の履歴書」で、クラビスさんは日本市場進出を始めた頃のことを回想しています。

—(以下、引用)—

(日本では)若手が活躍する場も限られている。日本企業との会議で、多くの若手は無言でメモを取っている。握手の順番も後になりがちだ。ジョージは会食で、隣の会長ではなく遠くに座る若い人と話して気まずい雰囲気になった。

KKRの投資決定会議では、最も若手から意見を述べる。多くの面で、若手は企業を一番知っている。若手が先輩に遠慮して言いたいことが言えないのはやや危険だ。

—(以上、引用)—

私は長い間、外資系IT企業に在籍して日本の大企業や官公庁のお客様とビジネスしてきましたし、2013年に独立後も、外資系や日本企業のお客様に研修やコンサルティングをご提供してきました。

ですので長年、外資系企業と日本企業の両面を見る立場にいます。

クラビスさんのご指摘は、いまも日本企業と接していて感じる事です。

よい言い方をすると、日本企業の社員は年長者の意見を尊重して聴きます。しかし言い方を変えれば、年長者に忖度して、自分の意見をほとんど言わない傾向もあります。世の中の変化を掴んでいるのは現場で働く若者です。これではなかなか変化に対応出来ません。

外資系企業では「各自は独立した自由な個人」という価値観が浸透しているためか、若手でも割と自由に発言ができる雰囲気もあります。

この数年間、超名門といわれた多くの日本の大企業で、信じられないような不祥事隠しをしてきたことが発覚するようになりました。

そこで「高い心理的安全性が大事」(=本音で議論できる組織にしないといけない)という危機意識が、企業のマネジメント層を中心に浸透して始めています。

そして多くの日本企業でこの傾向がだいぶ変わりつつあることも、私は感じます。

クラビスさんもこう述べています。

—(以下、引用)—

それでも日本企業は変わった。女性や外国人の登用も徐々に増え、最高経営責任者(CEO)を外部から受け入れた会社もある。訪日のたびに若い起業家と会食をするが、変化に対する意欲も明らかに高まってきた。

—(以上、引用)—

ここでのポイントは「変化はまだら模様で起こっている」といことです。
言い換えれば、急速に変わり始めている日本企業と、なかなか変わろうとしない日本企業があるのです。

私は有り難いことに、様々な企業様からマーケティング研修のご依頼をいただきます。

この際に心がけているのは、最初に経営幹部とお話しをさせていただき、まずその企業の組織文化について理解することです。

経営幹部が「本音で議論できる組織に変えたい」と本気で考えている場合は、マーケティング研修を実施した結果、社員のスキルが上がり、成果につながります。

しかし中には経営幹部が、言葉には出さないものの「従来のやり方が正しい。何も変える気はない」とお考えの企業様もおられます。こういう企業様の場合、仮に社員がマーケティング研修を新たなスキルとして学んでも、その力を活かす場が与えられずに、結局、成果につながりません。ですので、このような企業様のご依頼は辞退をさせていただくこともあります。

今後10年単位で考えた場合、成長して生き残る企業はどちらかは、自明ですよね。

あなたの会社は、「本音で議論できる組織に変わろう」としているでしょうか?
「従来のやり方が正しい。何も変えない」と思っているでしょうか?

     

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「ロボットカンパニー」への変貌を宣言したテスラ

source https://www.youtube.com/live/6v6dbxPlsXs より(2024/10/14閲覧)

10月10日、テスラは”We, Robot”というイベントを行いました。

国内の新聞では「テスラ、3万ドル以下の自動運転タクシー 26年生産開始」と報じられています。

当日の様子はネットで見ることができますが、実際に見てみると、内容は日本で報じられているものとかなり違った印象を受けます。

この日、テスラを率いるイーロン・マスクが出したメッセージは「テスラはEVメーカーではない。ロボットメーカーだ」という宣言です。

会場でお披露目したのは次の3つです。

■サイバーキャブ
無人タクシーの試作車。ハンドルやペダルがなく、認識や制御はカメラとAIで行い、完全無人で走ります。2026年の生産を目指し、価格は3万ドル以下。会場には20台のサイバーキャブが登場し、来場者は自由に乗れました。

■ロボバン
20人乗りの大量輸送用。会場には1台だけ登場。詳細は発表されず。

■オプティマス第2世代
ヒト型ロボット。これまでのオプティマスは、私たちは動画でデモを見るだけでした。今回は会場に数十台の人型ロボットが登場。5台で完璧に同期してダンスしたり、実際に会場の中を歩き回ったり、来場者にお土産を手渡したりしていました。

ちなみに会場は、カリフォルニア州のワーナーブラザーズのスタジオ。未来のイメージを見事にアピールしています。このあたりの演出はうまいですね。

イーロン・マスクは、冒頭のプレゼンでは、こう語っています。

「今日の輸送はクソだ。コストがかかるし、安全でないし、持続可能性もない。そもそも自家用車は、1週間168時間のうち10時間程度しか使われてない」とした上で、「自動運転にすれば5倍から10倍は使われる可能性がある。つまり5〜10倍の価値を生む。しかも人間より10倍安全だ」

そして、クルマの自動運転のために開発してきた蓄電池、モーター、AIなどの技術は、ヒト型ロボット「オプティマス」にも使えるとしています。

一方で、「マスクは楽観的すぎるのでは?」という批判もあります。

実際に2019年にも「2020年までにロボタクシーを運用する強い自信がある」と言ってましたが、これはまだ実現していません。

マスクはビジョナリーであり、「こんなのムリでしょ」という難題にオーバーコミットして挑戦してきた経営者です。スペースXやスターリンクのように成功させたモノもあれば、サイバートラックのようになかなか上手くいかないモノもあります。初の大量量産に挑戦した小型車モデル3も、当初は生産に手こずって、マスクは自ら工場に寝泊まりしながら技術的課題を解決していきました。

本当に2026年に、マスクが言う通りこれらが提供されるかはまだ未知数ですが、「テスラはロボットメーカーになる」と宣言した意味は大きいと思います。もはやマスクにとって、テスラはEVメーカーではなく、ロボットメーカーなのです。

当然ながら「現在のEV市場の低迷」という現実的な問題も考慮した上でのことだと思います。

ちなみにマスクは現在、実に様々な未来への道具を手にしています。

【テスラ】EV、ロボット、AI、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵システム
【スペースX】ロケット(スターシップなど)、衛星通信網
【X(旧Twitter)】SNS、人のネットワーク、将来は金融取引の仕組み
【ニューラリンク】脳とコンピュータのインターフェイス (BMI: Brain Machine Interface)
【ハイパーループ】真空チューブ型高速輸送システム

現時点では、マスクが手にしているこれらの事業は「点」の状態です。

今後、これらの事業が繋がって「面」として展開していくことで、想像も出来ない全く新しい社会インフラが生まれる可能性もあります。

このような観点でも、改めて「イーロン・マスクはいま、最も注目すべき人物だ」と思いました。

     

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高級カメラをしのぐスマホ。他人事ではない

「イノベーションのジレンマ」という言葉があります。

実はこの言葉は邦訳する過程で印象を強めるために意訳した言葉で、実は英語のオリジナルでは「イノベーターのジレンマ」です。英語オリジナルの方がより正確なので、ここでは「イノベーターのジレンマ」で統一します。

「イノベーターのジレンマ」とは、イノベーションを起こし業界リーダーになった企業が改良だけに注力する傍らで、新興企業が新たなイノベーションで新しい顧客を獲得し、技術を進化させて成長し、業界リーダーを市場から追い落としてしまう理由を説明した理論です。

2024年9月30日に日本経済新聞に掲載された記事「スマホ、高級カメラのみ込む」は、まさにこの「イノベーターのジレンマ」を実感させる内容でした。ご興味がある方は、ぜひお手元の新聞記事をあわせてご覧になると面白いと思います。

この記事では、同じ被写体を、2023-2024年発売の最新スマホ(iPhone16 ProとXiaomi(シャオミ)14 Ultra)と、日本メーカーが2019年に発売した高級コンパクトデジカメで撮影して、画像を比較しています。

高級コンパクトデジカメのセンサーサイズは、スマホと比べてはるかに大きいので、従来は「高級コンパクトデジカメはスマホよりも画質は圧倒的に優れている」と言われてきました。

しかし本記事に掲載された画像は、ほとんど違いが感じられません。記事ではこんなことが書かれています。

・3つとも新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真
・SNSを活発に利用する高校生10人に聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」
・別の被写体を最大ズームで撮影すると、スマホの画像は平たんで絵の具で塗りつぶした絵画のような画像になっている。

これは、通常のデジカメとスマホカメラの違いによるものです。

スマホカメラは「センサーサイズが小さい」という弱点がありますが、「スマホの演算能力はデジカメよりもはるかに高い」という強みもあります。そこでスマホは強力な演算能力にモノを言わせて、撮影した画像を短時間のうちにあの手この手で加工しまくり、見映えがいい画像に仕上げているのです。

その結果、普通に見る分には高級コンパクトデジカメを凌ぐ画像を叩き出します。しかし拡大すると色々加工しまくった粗が目立ってくるわけです。

一方でスマホは、携帯性と無限といってもよいアプリとの連携というの圧倒的な利点を持っています。

つまり、このスマホカメラの特性を理解して使うことで、これまで高級コンパクトデジカメでカバーしていた領域をほとんどカバーできるわけです。

たとえば私はこの数十年間、年賀状では自分の写真作品をポストカードにしてきました。10年前まではデジカメ一眼レフで撮影した写真を使ってましたが、数年前からはスマホで撮影した写真を使っています。

庵野監督は映画「シン・仮面ライダー」で、戦闘シーンを撮影する際に、通常の映像用カメラに加えて、十数台のiPhoneで同時に動画撮影して、一部の映像はiPhoneで撮影した動画を採用しています。つまり商業用映画でもスマホ動画は十分に使える、ということです。

デジカメはかつて、まさに「イノベーター」として、カメラ市場を席巻しました。しかし記事によると、デジカメの総出荷額は2008年の2兆円超から、直近では7000億円台に沈んでいます。

一方でiPhoneが2007年に登場した頃、スマホのカメラは「こんなのはオモチャ。たいして使えない」と言われてきました。しかし十数年が経過し、その「オモチャ」にデジカメ市場は壊滅させられつつあるわけです。

まさに「イノベーターのジレンマ」です。

この「イノベーターのジレンマ」は、様々な市場で起こってきました。

・古くはフィルムカメラも、デジカメに壊滅させられました。
・ビデオレンタルも、Netflixのようなストリーミングサービスに壊滅させられました。
・日本のi-modeなどの携帯電話も、iPhoneやアンドロイドのようなスマホで壊滅しました
・電卓、腕時計、手帳、お財布なども、スマホに置き換わりました
・最近では、コロナ禍で対面型セミナーも、オンラインセミナーに突然置き換わりました

技術は常に進化し続けます。 「イノベーターのジレンマ」は、私たちにも突然襲いかかる可能性があるのです。

あなたの業界では、この「スマホ」に相当するモノは何でしょうか?
あなたはこの「イノベーターのジレンマ」に、どのように対処しますか?

     

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朝活永井塾 第92回「マーケッターが学ぶべきボードリヤールの『消費社会の神話と構造』」を行いました

10月2日は、第92回の朝活・永井塾。テーマは「マーケッターが学ぶべきボードリヤールの『消費社会の神話と構造』」でした。

ロレックスの腕時計は数百万円します。しかし時間を知るだけなら、100円ショップの腕時計で十分です。

では、なぜ高級腕時計が売れるのでしょうか?

この仕組みを解明して消費社会の本質を示したのが、1929年生まれのポスト構造主義の哲学者でもある社会学者ボードリヤールです。

本書の刊行は半世紀前の1970年。20世紀後半に生産中心の社会から消費社会に変わり、ボードリヤールは「消費社会の社会構造がどう変わったかを解明しよう」と考えたのです。

現代社会のあり方を予言した50年以上前の本書は、今読んでも多くの学びがあります。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、消費社会におけるマーケティングの本質を学んでいきました。

『消費社会の神話と構造』(ボードリヤール著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・11月6日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『世の中の裏構造が見えてくる ヘーゲル「精神現象学」』です。申込みはこちらからどうぞ。

ドーナツ市場に再挑戦するセブン。ミスドはどう対抗する?

「セブンが来年2025年2月までにドーナツを全国販売する」というニュースが流れました。2024年9月に首都圏5,000店舗で販売したところ、2週間で240万個売上と好調だった結果を受けてのことだそうです。

でも、こう思った人もいるのではないでしょうか?

「あれ? そう言えばコンビニはついこの前まで、大々的にドーナツ売ってたよね。最近見かけなくなったけど」

2014年、コンビニ業界は大規模にドーナツを売っていたのです。

当時、ドーナツ業界でシェア8割を占めるドーナツ市場最強のミスタードーナッツ(以下ミスド)は、年間売上500億円弱。

このドーナツ市場に、セブンは「年間6億個/売上600億円」という販売目標を掲げて参入。ローソンとファミマも参戦。「ドーナツ戦争」とも呼ばれました。

コンビニとしては、コンビニの100円コーヒーのお供にドーナツは相性がいいので、合わせ買い需要が狙えるわけです。

ミスドは「ドーナツ市場では最強」とは言え、当時の店舗数は1,400店舗弱。
大手コンビニ3社の店舗数は、50,000店舗を超える規模で、ミスドの40倍弱。
大きな目で見ると、まさに弱者ミスドと、強者コンビニの闘いです。

当時、「さすがに専業のミスドは潰れるのでは?」と思う人も少なくありませんでした。

結果は?

コンビニドーナツは予想したほど売れませんでした。
2年後にはドーナツ特製の棚も撤去。ドーナツは単品売りになりました。

2014年当時、私もコンビニドーナツを買ったことがあります。
でも正直言って、味はイマイチ。「ドーナツを食べ過ぎるとカロリー過多だ。しょっちゅう食べられるわけではない。限られた数少ないチャンスでドーナツを食べるなら、美味しいミスドがいいな」と思いました。

つまり「専門店と比べて味がイマイチ」だったために、コンビニドーナツは失敗したわけです。ミスドは、死に物狂いでドーナツの強みを尖らせ続けました。

そして2025年、セブンは改めて、ドーナツ市場に再挑戦するわけです。

今回は、店内調理による「揚げたてドーナツ」を武器に展開するとのことです。一度発行させた生地を加熱後、冷凍して工場から各店舗に供給、店舗で揚げる最終工程を行い、ふわふわ食感と風味を維持する仕組みです。

さらにドーナツ以外にも、メロンパン・クロワッサンなどの温かい焼きたて風パンを提供します。

これらは恐らく、前回の反省を踏まえて施策ことだと思います。

この愚直な仮説検証がセブンの強みです。セブンはコンビニコーヒーも1980年代から挑戦を繰り返し、2010年代に5度目の挑戦となるあの「セブン・カフェ」で大成功しました。

2013年の「ドーナツ戦争」では、ミスドは防戦一方でした。コンビニでのドーナツ大量販売の影響でドーナツが飽きられてしまったこともあり、売上は2013年の488億円から、2019年は354億円と27%も減少。赤字が続き、不採算店舗の整理で店舗数も減りました。

しかしミスドはここを耐え忍び、ムダを徹底して省きました。2020年のコロナ禍でテイクアウト需要が起こると、店舗あたりの売上は2017年の6850万円を底に、2022年は9490万円まで伸びました。

結果としては、実質的にドーナツ市場から撤退したコンビニ各社に対して、ドーナツ市場を守り抜いたミスドの辛勝と言えるでしょう。

2025年、果たしてセブンのドーナツ市場への再挑戦は成功するのか?
ミスドはどう対抗するのか?

今後を見守りたいと思います。

     

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水をサービスで提供し、成長する栗田工業

半導体ビジネスに、いま世界的に注目が集まっていますよね。

日本の半導体メーカーはかつてと比べて今一つ元気がなく、官民挙げて投資が始まっています。

一方で日本がいまだに圧倒的に強いのが、半導体製造プロセス。最先端半導体は何十段階もの細かい製造プロセスを経て、生産されます。この領域で、様々な企業が各フェーズで世界トップシェアを取っています。

その中には、意外な企業もあります。「超純水」を提供する栗田工業です。

半導体製造工程では、各工程で洗浄作業があります。ただ超微細加工です。普通の水だと不純物が含まれるので、半導体の配線にゴミがはいり、不良品になってしまいます。

そこで栗田工業は、超純水を作る製造装置や分析装置を作っています。その純度はドーム球場一杯の水に砂糖1グラムという純度レベル。

ここで注目したいのが、栗田工業は「超純水を売っている」のではなく、「超純水をサービスとして提供している」という点です。

超純水は、生産プロセスのちょっとした変化で純度が下がります。こうなると製品の歩留まりは一気に悪化します。素早い対応が必要になります。そこで栗田工業は、生産工程に入り込んで、常に高純度の超純水を提供するようにしています。

日経ビジネス2024.9.23号に掲載されている栗田工業の特集で、このようなビジネスにした経緯が書かれています。一部抜粋します。

—(以下、引用)—

半導体メーカーからすれば、一度栗田工業の超純水設備を採用すると他社の装置に切り替えづらい。同社は顧客の信頼を得て長期的な利益につなげるという意味で、「顧客親和性」という言葉を重視する。

(中略)

装置ではなく水を売る継続課金型のサービスも広げる。保守・運用まで一体で引き受ける。10年程度の契約を結び、水野供給量に応じて収益を得る。

(中略)

天野執行役は「単純なモノ売りだとレッドオーシャンから脱却できない」と語る。サービスなら装置の価格競争を避けて利益率を高められる。超純水は顧客工場の稼働にかかわらず一定量を消費するため、安定成長を見込める。

—(以上、引用)—

栗田工業は半導体工場以外にも、製油所、自動車工場、製紙工場、製鉄所、食品・飲料工場など、国内で2万件の顧客を抱えています。栗田工業の2024年3月期売上は3848億円。10年前から倍増し、営業利益率は2.8倍です。

さて、モノ製品の宿命は「コモディティ化」です。どんなに素晴らしいモノ製品も、いつか価格勝負になります。

そこでマーケティング分野で、21世紀になって急速に発展する分野が「サービスマーケティング」です。この中でも重要な概念が「製造業のサービス化」であり、それを実現するための「サービス・イノベーション」です。

サービス・イノベーションでは、長期的に顧客をより深く満足させる卓越したサービス提供の仕組みを作っていきます。

サービス・イノベーションで重要なポイントが、「いい商品を提供する」(栗田工業の場合は「いい超純水製造装置を提供する」)という「モノ売り発想」から、「いい体験価値を提供する」(栗田工業の場合は「常に超純水を提供して不良品ゼロを実現する」)という「顧客との価値共創の発想」への転換です。

あなたの会社は、「モノ売り発想」でしょうか?
それとも、「顧客との価値共創の発想」でしょうか?

     

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新規事業のチャンスは、意外と足下に転がっている

「新規事業を立ち上げよう」

こう考えても、「さて、何をやろうか?」と考え始めると、なかなか難しいものです。そして堂々巡りに陥って「何をやればいいのか、さっぱりわからない」という状況になりがちです。

ここでヒントになるのが、自分自身の何げない体験です。実際に、新規事業のきっかけは、ささやかな体験がきっかけということが多いのです。

たとえばAirBnBは、お金がなかった創業者たちが、家賃が払えずにアパートを追い出されそうになったので、家賃を工面するために、当時アパートの近所で予定されていた大規模イベントで、ホテルが満室が宿泊場所がつけられなかった人たちに寝室のベッドと朝食を提供したことが、起業のきっかけになりました。

Dropboxは、バス停でノートパソコンで大事な仕事を始めようとした創業者が、自宅にUSBメモリーを忘れたことに気づき、「どこでもデータにアクセスできるクラウドストレージが欲しい」と思ったことが起業のきっかけです。

相乗りサービス「ニアミー」は、創業者が埼玉方面にある自宅に帰る際に、最終バスを逃した人たちでタクシーに行列ができていて、「帰宅する方向は同じなのにタクシーに乗るのが一人一台なのはもったいないな」と思ったのがきっかけです。

そして「シェアして乗れば、安くなり、待ち時間も減り、タクシー会社も複数組乗せることで、走行距離が伸びて嬉しいはず」と考え、まずはハイヤー会社と組んで、2019年から需要の多い空港輸送を始めました。新宿駅と羽田空港間は、通常タクシーで7300円のところ、2980円で済みます。(参考記事:「気詰まりの壁 崩せた?ニアミー」日経MJ 2024.9.13)

簡単にネットショップを開設できる「BASE」は、大分県で小売業を営む創業者の母親が「ネットショップを始めたい」と言い始めたのがきっかけです。「ネットに詳しくない母親も、ネットショップを作りたい時代なんだな」と思ったわけですが、「待てよ。誰でも簡単にネットショップで商品を売れる仕組みがないぞ」と気付き、BASEを立ち上げました。

かくいう私が、「永井経営塾」を立ち上げたのも、同じです。

当初は2019年末にKADOKAWAさんとの協業で、リアルで対面の研修コース(一人当りの参加費は年間で数十万円)として、「永井経営塾」を立ち上げようと考えていました。しかし翌年2020年からのコロナ禍で、中断を余儀なくされました。

この時期、私は大手食品メーカー様の年間研修も対面で行っていました。しかしコロナ禍で、途中からZoomによるオンライン期に切り替えました。すると受講者の満足度が10ポイントも上がったのです。講義を動画で何回も見ることができて理解が深まり、かつ自宅から参加できて利便性と受講の負荷も低くなったためでした。

この発見のおかげで、KADOKAWAさんと「永井経営塾も完全オンライン前提に再設計した方がいい」と合意して、2021年に現在の「永井経営塾」を立ち上げました。おかげさまで会員数は順調に伸びています。

新規事業で何よりも大切なのは、こういった「ウォンツ」の発見です。

「ウォンツ」とは「みんなが欲しいのに、ありそうで、実はないモノ」のことです。

多くの人は「ウォンツの卵」を発見しても、それ以上考えるのは面倒なのでスルーします。だからこそ、自分が身近に感じた何げない体験や「困りごと」を突き詰めて考えると、意外と「ウォンツの発見」に直結して、新規事業の種になるのです。

あなたの足下にも、「ウォンツの卵」はないでしょうか?

     

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ネットで知名度爆上がりの新人候補が、なぜ惨敗したのか

現職のベテラン市長。
任期満了間際で汚職疑惑。
市長選挙では選挙カーを走らせたり地味な街頭演説を繰り返すばかりで、演説には20人も集まりません。

一方で若い新人候補。
無党派ですが好感度抜群。SNSフォロワー数も急上昇。
ネットで叩かれてもいますが、知名度は爆上がり。
「騒がしい選挙カーなんて迷惑なだけで逆効果」と考えて、ネット中心で選挙活動。動画配信には毎回100人単位で集まり、リアル会場で行った決起集会は大盛り上がりです。

で、選挙結果は…。

現職のベテラン市長の圧勝。新人候補は惨敗です。

この話は、週刊モーニングに連載中の「票読みのヴィクトリア」の第1回・2回からの抜粋です。(まだコミック化されておらず週刊モーニング 2024/6/20号と2024/6/27号で読めます)

この作品、マーケティング視点でも実に面白いので、一推しです。

さて、あなたは選挙で投票する際に、事前に候補者のことを、ネットや動画できめ細かく調べるでしょうか?

もちろんそういう熱心な方もおられると思います。しかし現実には、選挙当日になって「あ〜。今日は選挙か。行かなきゃな。候補者誰だっけ?」という人も多いと思います。

マジメな人は、当日おもむろに選挙公報を見たり、スマホでちょっとだけ検索すると思います。でも「とりあえずこの人、名前は知ってるなぁ」と思って投票する人も多いものです。

有権者全員が熱心に選挙を考えるのが理想であることは、言うまでもありません。しかし現実の認識もまた、大事です。

ほとんどの人にとって選挙は「面倒くさい」のです。

選挙で勝つためには、まずこの事実を認識することが出発点です。

この物語の主人公である選挙コンサルタントは、こうなった結果を語っています。ポイントは下記です。

・全体の票数の中で、新人候補が期待できる票数は、無党派・若年層がもつ1割弱。本来、新人候補に必要なのは、ここから多数派に浸透する戦略である。しかしやったのは真逆

・最大の敗因は、SNSに頼り切ったこと。ほとんどの有権者はSNSなんて見ない。いくら盛り上がっても、票のごく一部である

・大多数の有権者にアプローチして印象づける方法は、地味な電話や選挙カー。新人候補はこれを「有権者に迷惑だから」と全部をやめた。一方の現職ベテラン候補は地道にやりきった

・本当に意識すべきは「顔が見えない大多数」。彼らに候補者自らが懐に飛び込む必要がある

・つまり現職ベテラン候補は、地道に大多数へアプローチした。新人候補はごく一部のSNSユーザーだけにしかアプローチしなかった。選挙結果は必然だった。

この話、マーケティング視点で考えると、実に納得します。

実は最近のマーケティングで実にありがちな間違いが、「顧客を絞り込むこと」なのです。

「え? 顧客を絞り込むって、マーケティングの基本じゃん」と思ったとしたら、要注意です。

現実には「顧客を絞り込んでいる」つもりで、現実には「顧客のごく一部にしかアプローチしていない」ということが多いのです。まさにこの新人候補がやっていることですよね。

やるべきことは、

① まず市場全体を俯瞰して、その市場にいる顧客を細分化してそれぞれの特徴を見極める

② 自社のビジネス目標を達成するためには、それら細分化した市場でどれだけの顧客を獲得すればよいかを、把握する

③ ②で把握した顧客を獲得するために、様々なマーケティング施策を考えた上で、実行する

これを地道にやっていくことが必要なのです。

一時期、マーケティングの世界では「マスマーケティングはもう古い」と言われてきました。確かに市場全体を一つと考えて、単一のマーケティング施策(たとえば大がかりなテレビCM)でガッと市場を獲る戦略は、もう時代遅れかもしれません。

しかし、マスマーケティングはいまだに有効です。以前とは違うのは、マス市場を獲るためには、市場を細分化して、それぞれの細分化した市場に合ったきめ細かなマーケティング施策を考え、実行していく必要があることなのです。

皮肉なことに「マスマーケティングはもう古い」という考え方自体が、実はもう古いのです。

ただここで、勘違いしがちな点もあるので最後に補足したいと思います。

「顧客を無意味に絞り込む」のはNGですが、「顧客の課題を絞り込むこと」はいまだにとても大事だということです。

「顧客の課題を絞り込むこと」と「顧客そのものを絞り込むこと」は、全く違います。

例えば1990年代、散髪はどこも数千円で1時間かかっていました。多くの男性が内心、「10分/1000円で髪をカットしてほしいな」と思っていました。この課題に絞り込んで成長しているのが、QBハウスです。

QBハウスは「顧客を絞り込む」のではなく、「顧客の課題を絞り込む」ことで、大きく成長しています。

顧客の課題を絞り込みつつも、マスマーケティングをきめ細かく展開することがカギなのです。

     

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朝活永井塾 第91回『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズとフリードマンの経済学』を行いました

9月4日は、第91回の朝活・永井塾。テーマは『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズとフリードマンの経済学』でした。

この二人を取り上げた理由は、現代では、政府の経済政策はケインズとフリードマンの経済理論に基づいているからです。

しかし両方とも難解です。

1929年の大恐慌を機に「経済学を作り直そう」と考えて書かれたケインズの主著書「雇用、利子、お金の一般理論」は、当時の大多数派を占める古典派経済学者の論敵を論破するために、やたらと詳細に書かれています。

もう一方のフリードマンの主著書「資本主義と自由」は、1970年代のスタフグレーション(猛烈なインフレと失業が同時に起こる現象)の最中に書かれました。

フリードマンの主張はケインズとは真逆で一見すると過激ですが、当時、経済立て直しが急務だった米国と英国で経済施策の柱になり、日本でも小泉純一郎内閣の「聖域なき構造変革」の柱になりました。 しかし「フリードマンは貧富の差を拡大した張本人」と批判する人もいます。

このケインズとフリードマンの理論が理解できると、自分の仕事と経済政策を結びつけて考えられるようになります。

そこで今回は、下記の本をテキストに、ビジネスパーソンの視点で、現代の経済学の基本を学びました。

『雇用、利子、お金の一般理論』(ジョン・メイナード・ケインズ著)
『資本主義と自由』(ミルトン・フリードマン著) 

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・10月2日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『マッケターのための ボードリヤール「消費社会の神話と構造」』です。申込みはこちらからどうぞ。

普通の人が天才に対抗する唯一の武器は、「仮説検証」の徹底継続

世の中には「天才」と呼ばれる人たちが数多くいます。

一方で世の中の99%の人、言い換えれば私たちは、「普通の人」です。
しかし「普通の人」でも、「天才」に勝てる武器があるのです。

科学者ニュートンと言えば、私たちは「天賦の才能の持ち主」と思いがちです。実際にニュートンは、ニュートン力学を確立し、微積分法を発見し、英国造幣局長として兌換率も決定しました。凄い業績ですよね。

しかしアンジェラ・ダックワース著「やり抜く力 GRIT」によると、ニュートンのIQは130くらいだった、という調査があります。

IQ 130は、50人に1人の割合です。普通の中学や高校で、同学年が150人いたとして、学年で上位3人目くらいのレベルです。

確かにニュートンは頭がいい人ではありましたが、「世間離れをしている知能の持ち主」という程ではありません。実は意外と普通の人だったのです。

ダックワースはこの著書で「現実の偉人は、そこそこの才能の持ち主が、コツコツ努力し、偉大な成果を生んだケースが多い」と述べています。

では、どのようにコツコツ努力すればいいのでしょうか?

そのカギが「仮説検証の徹底継続」です。

「仮説検証? もう耳タコだよ」という人もいるかもしれませんね。

でも意外とやっている人は少ないのです。

①まず「こうすれば上手くいく」という仮の答え(仮説)を立てる
②できる限り早く、実際にサクッと実行して、結果を出してみる
③①の「仮の答え(仮説)」と②の「結果」を照合し、改善すべき点を見つける
④改善すべき点を反映して、新たに仮の答え(新しい仮説)を立てて、上記の②に戻る(再び実行する)

これを何回も何回も、しつこく行い続けることで、学びが急速に進化し続けて、成功に近づきます。

ニュートンがやっていたことも、仮説検証です。

①ニュートンは惑星の運動やリンゴが落ちる現象を見て「全ての物体はお互いに引き合うんじゃないかな」と考え、「万有引力」という仮説を立てました。
②そこでケプラーの惑星運動の法則や、実際に地上での物体の落下現象の観測データで、仮説を検証し続けました
③観測結果は仮説と一致しましたが、一部合わない部分もありました。惑星の軌道が完全な円ではなく楕円の場合、当てはまらないのです
④そこで楕円軌道でも説明できるように法則を修正し、再び②に戻って検証しました

ニュートンは、こういったことを何回も愚直に繰り返したわけです。

ニュートンを例に挙げると「すごく遠い話」に聞こえてしまいますが、私たちの仕事でも基本はまったく同じです。

たとえばあなたが「新しいオンラインサービスの販促」を検討中だとします。

①たとえば「見込客が試用できる無料体験プログラムを提供すると、課金ユーザーが増えるかも」という仮説を立てます。そこで予算を組み、目標の課金ユーザー獲得人数を設定し、ウェブ広告を出してみます。
②ウェブ広告などで集客し、無料体験プログラムを実際に提供します。この際、実際の広告金額、ウェブ広告表示回数、クリック数、無料体験申込み人数、課金ユーザー数などのKPIも記録しておきます
③結果(広告金額、広告表示回数、クリック数、無料体験申込み人数、課金ユーザー数)を確認し、①の目標値と照合して、KPIを見て改善点を把握します。たとえばクリック数が少ないのは広告メッセージが弱いのかもしれませんし、クリック数は多いのに無料体験申込み人数が少ないのは、申込みページがわかりにくいのかもしれません。
④③の改善策を反映した上で、再び②に戻って検証します

これを何回も繰り返すことで、販促効果が急速に上がっていきます。

この「仮説検証サイクル」は回数勝負です。短い時間内に仮説検証サイクルをできる限り数多く回して、より多くの学びを積み重ねることで、ライバルよりも多くの学びを得て、有利に立ちます。

つまり「まずやってみる」「結果を検証する」「改善してまたやってみる」をひたすら繰り返し、実行した結果から学び続けるのです。

「そんなことで、本当に天才に勝てるの?」と思うかもしれません。

実は天才を含む大多数の人は、仮説検証サイクルを愚直に回し続けません。途中で飽きて、やめてしまうのです。

「ウサギとカメ」の逸話をご存じかと思います。

走るのが速いウサギに鈍いカメが勝てるのは、カメが突然速く走れるようになるからではありません。ウサギが途中で休んでしまうのに、カメが歩き続けるからです。言い換えれば、カメは時間を味方に付けているのです。

仮説検証プロセスは、カメが時間を味方に付けてウサギに勝つように、普通の人が時間を味方につけて天才に勝つ仕組みなのです。

     

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「対話」できないビジネスパーソン

あなたのチームは「対話」ができていますか?

この10年間、大企業を中心に分かてリーダーやマネジャーに、マーケティングやマネジメントの研修をワークショップ形式で行ってきましたが、実感することがあります。

それは「なかなか対話できない組織が多い」ということです。
そしてこのことが、企業の競争力を大きく下げているのです。

会社は、顧客課題に対して、様々な社員が集まって知恵を集めて、解決策を編み出して提供しています。

知恵を集めるためには、チームで対話することが必要です。

このチームの対話は、突き詰めると2段階で進みます。

第1段階:アイデア発散フェーズ アイデアを否定せずどんどん出します
第2段階:アイデア収束フェーズ 出したアイデアを絞込んで1つにします

多くのチームは、第1段階では色々なアイデアが出てきます。
しかし第2段階のアイデア収束が、とても苦手です。その理由は、出てきた様々なアイデアを取捨選択し、多くの場合、捨てたり否定する必要があるからです。

私たちはこの「否定する」「捨てる」が苦手です。

この際に必要なのが「対立しているのは私たちの意見であって、私たち自身は対立していない」と考えることです。

でもこれって、ちょっと分かりづらいかもしれないので、もう少し深くご説明しましょう。

話し合いには、2種類あります。

■ディスカッション(議論)やディベート(論戦)

→意見を主張して、議論に勝つことが目的です。勝者と敗者が生まれます

■ダイアログ(対話)

→各自の考えを明確にして、チームの解決策を作り、全員で勝者を目指すことが目的です。

仕事で必要なのは、厳密に言うと「ディスカッション(議論)」ではなく、「ダイアログ(対話)」です。

組織学習の第一人者であるピーター・センゲは、著書「学習する組織」で、「ダイアログで必要な3点」を挙げています。

①自分の考えは「叩き台」。意見に固執しない
②参加者は仲間。肩書きや序列はもち込まない
③全員でひとつの答えを探求する

この3点、一見すると簡単そうに見えますが、現実の対話を見ていると、現実にはなかなかできていません。

必要なのは「意見対立を恐れない」ことです。そして「誰が正しいか」ではなく、「何が(どのアイデアが)正しいか」という基準で、正しいモノを突き詰めることです。

ここで意見の対立を恐れて、「ここは丸く収めましょう」なんてやっていると、チームは何も学習できません。当然ながらビジネスの競争力も落ちます。場合によっては不祥事が野放しになります。

しかし現実には、事実に基づいて意見を対立させて対話すべきなのに、意見の対立を恐れて、相手を誉めるばかり…という人は、むしろ増えているのが現実です。

「相手の言うことは、絶対に否定しない」いう人もいたりします。

実は最近流行の「心理的安全性が高い組織」とは、この「意見対立を恐れない組織」のことです。しかし多くの人が「心理的安全性が高い組織とは、意見対立がない組織である」という逆の理解をしています。

相手を誉めてばかりいるチーム、相手を絶対に否定しないチーム、意見対立を回避し続けるチームは、居心地がいいかもしれませんが、実は「対話」ができていません。

この結果、何が正しいかを見極めることができません。

ビジネスの競争力が落ち、場合によっては不祥事が起こっても見て見ぬふりをするようになり、組織は衰退していきます。

私はマーケティングやマネジメントの企業向けワークショップ研修を行う際には、この点を常に意識していただくように、最初の受講される皆様にガイドするようにしています。

さて改めてお尋ねします。あなたのチームは「対話」ができていますか?

     

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新規事業のマーケティング戦略と、最初に狙うべき市場は、全く異なる

商品や事業は永遠ではありません。必ず寿命があり、いつかは終わります。
そこで企業にとって必要なのが、新規事業開発を続けることです。

新規事業では、どんなターゲットお客様のどのようなお悩みに、いかなる解決策を提供するかを考えるわけですね。

これがマーケティング戦略の基本STP(セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング)です。

しかし新規事業で、よくありがちな間違いがあります。
製品を市場にリリースして立ち上げる初期段階で、STPの「T=ターゲット」の顧客に売り込もうとすることです。

でもこう言うと、こんな反論が聞こえてきそうです。

「え? マーケティング戦略をSTPで考え抜いたから、そこで考えたターゲット顧客に売り込めばいいんじゃないの? 戦略って首尾一貫すべきでしょ」

実はマーケティング戦略(STP)で考えたターゲット顧客と、実際に製品を市場にリリースして最初に攻めるべき市場は、ちょっと違うのです。

具体的に言うと、最初に攻めるべき市場は、STPで考えたターゲット市場の中でも、特にお客様の課題が明確、かつ小さい市場で、できれば自社の強みが活きる市場です。

たとえばアマゾンは、インターネットが急速に普及し始めた1993年に、創業者のジェフ・ベゾスがインターネット物販の可能性を予見し、「世界最大のオンラインストアを作ろう」と考えて作られた会社です。

しかしベゾスは、最初からあらゆる商品を揃えませんでした。逆に「オンライン販売可能な商品」を20種類挙げた後、5種類(CD、コンピュータハード、コンピュータソフト、ビデオ、書籍)に絞込んで、最終的に書籍に決めたのです。

当時、オンライン販売最大の障壁は「人は実際に商品を手に取らないと、なかなか買わない」。しかし書籍ならば、書籍タイトルが同じ新品の書籍ならば、どれも同じ商品です。

そしてアマゾンは書籍オンライン販売を制覇した後、同じ商品の性質があるCDに商品を広げて、再び制覇しました。そして次第に書品ラインアップを広げて、今に至っています。

セブン-イレブンも、1974年に東京江東区豊洲で一号店を開店しました。この時の合い言葉は「江東区から一歩も出るな」。江東区の市場を制覇した後、徐々に商圏を拡げて行きました。47都道府県に全て出店したのも、ローソン・ファミマの後でした。

このように、市場参入時には、市場を広げるのではなく、逆に徹底的に絞り込むことが重要なのです。

市場を絞り込めば、たとえその市場が小さくても、その市場の中では圧倒的強者になり、ライバルは対抗できなくなります。そしてその市場に安住せずに、徐々に周辺市場に拡げていき、周辺市場を制覇する。これをひたすら繰り返していくのです。

このような「絞り込んだ市場」のことを、「TAM」(Total Addressable Market)と呼びます。

多くの新規事業では、初期段階はリソースが十分にありません。だからこそ、市場参入には、マーケティング戦略(STP)で考えたターゲット市場の中でも、ターゲット顧客と顧客ニーズが明確かつ自社の強みが活きるTAMをまず選び抜いて、リソースを全投入して制覇することがカギなのです。

     

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「都内23区は億ションだらけ」のウソ

最近、「マンション価格が高騰している」と言われていますね。

2023年、東京23区の新築マンションは、ついに平均価格1億円を超えて、1億1483万円になりました。

「もう都内でマンションに住むのはムリ!」と思ってしまいますよね。

でもちょっと待ってください。これは、実は統計のトリックなのです。

2024年8月10日の日本経済新聞の記事「東京23区、億ションだらけは誤解」に詳しく解説されています。この記事のソースである不動産経済研究所の調査も深掘りしながら、解説したいと思います。

世の中では、様々な新築マンションが売られています。価格はバラバラです。

ただ、バラバラにデータを見ても、人間は何が何だかわかりませんので、統計学では、データのバラツキと特徴を見る方法がいくつかあります。

平均値…一般的に使われるのが、コレ。全体の合計を取って、サンプル数で割ります。「東京23区の新築マンションは、ついに平均価格1億1483万円」は、これですね。

実は平均値には問題があります。大き過ぎたり、小さ過ぎる数字があると、その影響を受けてしまうのです。

たとえば一番高いマンションは「三田ガーデンヒルズ」の45億円(専有面積376.6平米)でした。2023年の東京23区の供給戸数は11,909戸。大雑把に見ると、この1戸だけで平均を約37万円も底上げしています。他にも10億円超の超高額物件が多かったので、平均が上がったのですね。

中央値…バラバラなデータを大きい数字から小さい数字へと順番に並べてみて、ちょうど真ん中にある数字のこと。東京23区の中央値は8200万円です。

中央値で見ると、「極端に大き過ぎる、または小さ過ぎる」数字の影響はなくなって、実態に近い数字になります。

そして平均値と中央値の差を見ると、どれだけ極端な数字の影響があるかがわかります。2023年の東京23区では、3283万円です。

ちなみに過去の推移は、不動産経済研究所のサイトで確認出来ます。

    平均値  中央値  差
2023年 11,483万  8,200万 3,283万
2022年  8,236万  6,898万 1,338万
2021年  8,293万  6,830万 1,463万
2020年  7,712万  6,592万 1,120万
2019年  7,142万  6,298万  844万
2018年  7,089万  6,250万  839万

2014年  5,994万  5,408万  496万

2023年は、超高額物件の影響を大きく受けていることがよくわかりますね。

超セレブ層の人たちでない限り、10億円を超える物件に住むことはないでしょうから、今のところ「23区内のマンションは、もう1億円超えた。住むのはムリ」と悲観する必要はなさそうです。

「平均値」「中央値」という考え方は、小学校6年の算数で学ぶ統計学の初歩なので、思い出した方も多いかもしれません。

こういったちょっとした統計の知識があれば、メディアでセンセーショナルに報道される数字に惑わされることは減ると思います。

     

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朝活永井塾 第90回『ビジネスの本質が学べる アダム・スミス「国富論」』を行いました

8月7日は、第90回の朝活・永井塾。テーマは『ビジネスの本質が学べる アダム・スミス「国富論」』でした。

テスラCEOのイーロン・マスクは2018年、X (Twitter)にこんなポストをしています。

「アダム・スミス、最高」
(“Adam Smith FTW” FTW は”For The Win”の頭文字で「最高」という意味です)

「経済学の父」と称されるアダム・スミスの主著書『国富論』は、イーロン・マスクの愛読書です。

250年前の本ですが、現代社会でも通用するビジネスの本質が学べる本書は、ビジネスパーソンの必読書です。

ただ残念なことに「国富論? 市場で利己的に行動すれば適正価格が決まる『見えざる手』が書いてある本でしょ」と言う人が多いのが現実です。これはアダム・スミスの意図とはだいぶ違うのです。

本書が英国で刊行された1776年当時、英国では商品や貨幣の交換の場として「市場」が急成長していました。しかし当時は「経済学」という概念はなく、市場の概念をうまく説明できる理論も存在しませんでした。この難題に挑戦したのが、スミスです。

スミスは「どうすれば国家は豊かになるのか?」と考え、膨大な経済の出来事をベーコン以来伝統のイギリス経験論を駆使して地道に調べ上げて考え抜き、10年かけて書き上げたのが本書です。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、ビジネスパーソンの視点で、仕事で役立つ経済学の源流を学んでいきました。

『国富論』 (アダム・スミス著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・9月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズ経済学とフリードマン経済学』です。申込みはこちらからどうぞ。

「お金と時間」の管理術

お金と時間。

全く違うものですが、似ている点があります。
両方とも予定を立てて管理しないと、いつの間にか消滅することです。

「あれ? お金があんなにあったのに、いつの間にか減ってる」という体験をしている人は、多いのではないでしょうか?

また小学生の頃に「夏休みが40日か。いっぱいあるなぁ」と思っていても、いつの間にか8/31になって終わった、ということは誰でも経験していると思います。

一方で、お金と時間は、まったく違う点もあります。

時間は放っておくと、つい使わないままに、どんどん減ります。だから時間はちゃんと使う必要があります。

お金は放っておくと、減りません。でも人はついお金を使いたくなります。そして使い始めると減ってしまいます。だから意外なことかもしれませんが、お金は使わないことがポイントです。

つまり時間とお金は、それぞれの特性にあわせて、使い方をうまく管理する必要があるわけです。

では、どうするか?

■時間をうまく管理するには「よい習慣」を身につけることです。

「よい習慣」を身につければ、無意識に「よい行動」を行うようになります。

「よい習慣」とは、読書の習慣、身体を動かす習慣、学んでアウトプットする習慣、人に感謝する習慣、などです。

時間が経過するとともに、こういった行動は蓄積していき、知らない間に大きな成果につながったり、能力が上がったり、その人の人格をつくりあげていきます。

■お金をうまく管理するには、お金は「必要最低限しか入ってこないもの」と考えた上で、出ていくお金をその金額を超えないように維持することです。

お金が貯まる人は、収入が多い人ではありません。入ってくるお金よりも、出ていくお金が少ない人です。

年収2000万円でも、豪華タワマンに住みお金がかかる暮らしをして、年間2000万円の出費がかかると、20年経ってもお金は1円も貯まりません。

しかし年収500万円でも、質素で慎ましい身の丈生活をして出費を年間350万円に抑える生活をすれば、20年経てば3000万円貯まっています。

こうして「一定収入以下で暮らしを維持するようにする」のも、ある意味で「よい習慣」ですね。

もちろん人によって別の考え方があるでしょう。

たとえば「ケチケチせずに、有り金は全部使っていい体験をすれば、自分への投資になる」という考え方もあります。

もしそういう考え方が自分に合うのであれば、「有り金は全部使う」という考え方で生きていくことで、納得のいく人生になるでしょう。ただお金は貯まらないことも納得した上で、そういう人生を過ごすことです。

人生100年時代です。
私たちは膨大な時間が与えられている素晴らしい時代になりました。

人生は必ずしも時間やお金だけではありませんが、時間とお金をうまく管理できれば、いい人生を送れるようになる可能性がグッと高まります。

時間を制する者が、人生を制する時代です。そしてお金と時間は密接な関係があります。うまく時間を使えば、膨大なお金が得られます。

自分流の時間とお金の管理方法を身につけたいものです。

     

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マーケティングの基本「STPと4P」で陥りがちな罠

マーケティングの基本はSTPと4Pです。

しかし日本企業では、マネージャーや経営幹部レベルでも「STP? 4P? それって何ですか?」という人が多いのが現実です。

さらにSTPと4Pを考える上で、多くの人が陥りがちな罠があります。

そこでその「陥りがちな罠」について紹介する前に、そもそもSTPと4Pとは何かを紹介しましょう。

■STPと4Pとは何か?

STPでは、次の3要素に分けて「どの市場をどう攻めるか」を考えます。

セグメンテーション(Segmentation):市場をどのように細分化し…
ターゲッティング(Targetting):その中でターゲットにするお客を決めて…
ポジショニング(Positioning):そのお客にどう認識してもらうかを考えること。

このSTPが「戦略策定」です。そしてこのSTPに基づいて、具体的なマーケティングを実施するための施策が4Pです。

製品戦略 (Product):どんな価値を顧客に提供するのか?
プロモーション戦略 (Promotion): どうやって製品の価値を伝えるのか?
価格戦略 (Price):その価値にどんな値付けをするのか?
チャネル戦略 (Place):その価値をいかに提供するのか?

つまりSTPで「どの市場をどう攻めるか」を考えた上で、具体的に市場を攻める施策を4Pで考えるわけです。

マーケティングでは、このSTPと4Pを考えるのが出発点です。

海外の先進国にいるマネジメントレベルのビジネスパーソンにとっては、マーケティングは必須科目であり、この「STP+4P」の概念は普通に通じます。

なぜなら、商品開発戦略、営業戦略、さらに経営戦略をちゃんと考えるには、このSTPと4Pが必須になるからです。彼らにとってSTPと4Pは「読み書き算盤」なのです。

しかし先述のように、日本ではマネジャーレベルでも「STP? 4P? それっておいしいの?」状態。そこで私は企業向けマーケティング研修では、先ずSTPと4Pの考え方をお伝えした上で、自社の既存商品のマーケティング戦略をSTPと4Pで読み解くことを考えていただくようにしています。

ただここで大きな課題があるのです。

■STPと4Pを策定する前段階のプロセスがある

STPと4Pをしっかり考えて成果を生み出すには、次の4ステップが必要です。

【ステップ1】顧客の課題とターゲット顧客を考える
【ステップ2】STPを考える
【ステップ3】4Pを考える
【ステップ4】STP+4Pで相乗効果が出てるか、確認する

しかし実に多くの場合、ステップ1の「顧客の課題とターゲット顧客を考える」ができていないのです。具体的には、「顧客は誰なのか?」「何に困っているか?」が見えてこないのです。

マーケティングの出発点は「顧客視点」です。顧客が抱えている誰も解決できない「生の悩み」を発見して、誰よりもいち早く解決策を提供した企業が、市場で勝利します。

つまりSTPを考える前段階にあるのが「顧客の課題とターゲット顧客の把握」なのです。STPはそこで見つけた顧客の課題を、ブレイクダウンして表現したものなのです。

「いや、私はお客様の課題はよくわかってますよ。ただ表現していないだけです」とおっしゃる人も多いのですが、「では、お客様の課題を教えて下さい」というと、うまく説明できないことも多いのです。

実は「わかっているつもり」と「説明できること」の間には、大きなギャップがあります。「わかっているつもり」のことは、言語化できない限り、説明できないのです。そして多くのビジネスパーソンが弱いのが、この「顧客の課題を、わかりやすく表現できる言語化能力」なのです。

この「顧客の課題を、わかりやすく表現できる言語化能力」が弱いので、顧客不在の商品が量産されてしまうのです。

これはスキルです。スキルですから、トレーニングで鍛えることができます。

ですので、「顧客は誰なのか?」「何に困っているか?」を常に言語化した上で、考え続ける習慣をつけましょう

そこでマーケティング研修では、私は受講生の皆様に「お客様は、誰なのですか?」「そのお客様は、何にお困りなのですか?」と常に問いかけ続けて、自分の言葉で言語化するのをお手伝いするようにしています。

私のマーケティング研修を受講されるビジネスパーソンの皆様は、実は答えを自分の中に持っています。それを引き出すお手伝いをしているわけです。言わばマーケティングのコーチングですね。

そうして「ターゲット顧客」と「その顧客の課題」を、考え続ける習慣をつけていただくのです。

これができることが、強いSTPと4Pを考えて、強いマーケティング戦略を策定する出発点になるのです。

     

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衰退市場はない。努力しない会社があるだけだ

企業に勤めるビジネスパーソンの皆様とお話ししていると、こんな話をよく伺います。

「ウチの業界って、衰退市場なんですよね。色々と頑張っているんですけど、市場がシュリンクしているのでどうしようもないんですよ」

今から64年前の1960年に「それは大間違いだ」と言ったのが、マーケティングの大家セオドア・レビットです。こうおっしゃる方は、昔からいたようですね。

レビットは歴史的論文「マーケティング近視眼」でこう述べています。

『事業衰退の原因は経営の失敗にある』

『成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである。失敗の原因は経営者にある。つまるところ、責任ある経営者とは、重要な目的と方針に対応できる経営者である』

『実は成長産業といったものは存在しない、と私は確信している。成長のチャンスを創り出し、それに投資できるように組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できるのだ。何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する』

確かに、自社が成長しないのを市場のせいにしている会社の方とお話ししていると、受け身でビジネスしていることが実に多いのです。

「お客さんから値引きの要請ばかり。困ったもんだ」
「コストが増えたけど、価格に転嫁できないんですよね」
「『価値を創れ』なんてアナタは言うけど、そんなの現場を知らない理想論ですね」

そんな方に、「でもいまの商品って必ず寿命がありますよね。新たなビジネスを立ち上げるために、何していますか?」とお伺いすると、「忙しくってそんなヒマ、あるわけはないよ」

まさにレビットが『何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する』と言った通りになっていますよね。

成長する会社は、成長市場にいるから成長するのではありません。

成長する会社は、成長するための努力をした結果、成長市場を創り出し、成長しているのです。

ネットフリックスはビデオレンタル業界で創業しましたが、創業間もない弱小企業だった時期に「この市場の正体はヤバい」と考えて、ネット配信の切り替えました。その結果、いまやあのGAFAMに準ずるほどの規模に成長しています。

一方で、ネットフリックスがこの判断をした際に規模が100倍ほどあったビデオレンタル業界最大手のブロックバスターは、リアル店舗運営にこだわり続けた末に衰退を続けて、2010年に破産しました。

ブロックバスターが破産したのは、衰退産業にいたからではありません。ネットフリックスのような努力を怠ったからです。

あなたがいる業界は、衰退産業ですか?
そしてあなたは、成長するためにどんな努力をしていますか?

     

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セブンとマクドナルド、接客技術を競う全国大会から学べること

https://www.mcdonalds.co.jp/sustainability/people/hamburger_university/ajcc/ より引用

セブン-イレブンが接客技術を競う全国大会を行っていることをご存じでしょうか?

2024/7/1付の日経MJに、詳しい記事が掲載されています。

特定の研修を終えた全国63,000人のうち、2,476人が各地の地方大会に出場。決勝では22人が「来店客に対してレジ前で日常会話しながら会計する接客」と「店内に常連客におすすめ商品を提案する接客」という二つの接客を行い、審査員が五項目で採点しました。

優勝は、神戸三宮駅南店(神戸市)の店員で、ベトナム出身のレ・ティ・フン・タオさんでした。

記事では大会の狙いを次のように紹介しています。

「接客大会は、接客の技術を磨くほかに、従業員の定着率を高める狙いがある。セブンによると、人手不足の店舗では、人材が定着せず、採用や退職する人数が多い傾向があるという。接客のレベルを評価する大会や制度を設けることで、外国人も含めて従業員のやりがいを高める」

実はこの大会、第2回目です。第1回目は、昨年の2023年。

その時の優勝者インタビューが、セブンのホームページに『日本一を目指して!お店全体の接客スキルが向上「接客コンテスト」』というタイトルで掲載されています。

この時の優勝者は、長岡中島7丁目店の小西翠さん。小西さんはインタビューで次のように語っています。

「もともとセブン-イレブンの商品が好きで、前職での接客の経験も活かせることからこの仕事を始めました。発注作業を任されるようになると、ますますやりがいを感じ、ご年配のお客様も多いことから、接客に関してもお声かけや対応も自分なりに工夫するようになりました。」

店舗オーナーである藤田浩士さんのインタビューも掲載されていました。

「周辺には競合店や似たような商品・サービスを提供する店が多く、売り上げは今ひとつ。どうしたら差別化が図れるか考えてたどり着いたのが、積極的なお声がけに始まる、徹底したフレンドリーサービスです。」

このセブンの接客大会、素晴らしいですね。

日本マクドナルドも、AJCC(オール・ジャパン・クルー・コンテスト)という全国のクルー(店舗従業員)のオペレーションコンテストがあります、全国店舗から勝ち抜いて年間最優秀者を選びます。

このAJCCが始まったのは1977年。毎年開催していてもうすぐ50年。累計参加者数はなんと300万人です。

7年前に著書執筆の際に、日本マクドナルドさんのご厚意で、私はこのAJCCを取材する機会をいただきました。

都内にある実店舗で、全国選出の精鋭クルーが集まり、実際の接客を審査員が採点していきます。参加クルーは10代後半から20代。

その夜はホテルに集まり、接客各部門の表彰式。

笑顔でガッツポーズする人や、感動のあまり泣き出す人も出て、最後に「今日の店舗の売上は、これまでの最高の○○○万円でした」と発表があると、全員がコンサート会場のように拍手喝采。まるで甲子園で優勝したチームメイトでした。

マクドナルドには「ハンバーガー大学」という研修施設もあります。ここでクルーはハンバーガーの作り方以外に、コーチングの実際のやり方、店舗マネジメントの方法など、実に様々なことを学べます。さらに同社では、新人アルバイトとしてクルーを始めて、店長になるまでのキャリアの道のりも明確です。

これらの仕組みがあってこそ、マクドナルドのクルーは育っていくのですね。

サービスの現場では、職場でやる気にあふれた従業員によって顧客満足が生まれます。従業員満足が、顧客満足を生み出すのです。

そこで大事なのが、内発的動機づけの仕組みを理解することです。

内発的動機づけで重要なのは「自己決定感」です。そして「自己決定感」で重要なのが、「自律性」(「これは自分で選んだことだ」という意識)と「有能感」(「自分ならできる」という意識)です。

セブンの接客大会や、マクドナルドのAJCCや様々な仕組みは、従業員のスキル向上と内発的動機づけを生み出していく仕組みでもあるのです。

さて、いまどき「お客様満足が大事だ」ということを知らない人はいないでしょう。

そしてサービス業に携わる多くの方々は、「お客様満足のためには、従業員のスキル向上と、従業員満足が大事」ということも、百も承知です。

問題は、それをいかに実現するかです。

「お客様満足が大事」「従業員スキル向上と従業員満足が大事」という掛け声だけは勇ましいけども、現実にはコスト削減で頭が一杯。「従業員のスキル向上の仕組みに投資すること」など、頭の片隅にもない…、という会社ほど、「売上減少→コスト削減→モチベーションとスキル低下→さらなる売上減少」という悪循環にはまっていることが、実に多いのが現実です。そしてその先にあるのは、廃業です。

そんな状況を避けるには、今の状況で、どんな仕組みが作れるのか、真剣に考えていくことが必要なはずです。

セブンやマクドナルドの取り組みから、私たちが学べることは、多いのではないでしょうか?

    

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