
「カローラ価格指数」をご存じでしょうか?
カローラの価格を平均年収で割った指数であり、年収に対して大衆車カローラがどれほど手に入りやすいかを示す指数です。つまり、豊かさや購買力を測る基準になります。
2025/2/27付の日本経済新聞記事「〈NEO‐COMPANY〉カローラを買えない日本」に詳しく書かれてますが、カローラ価格指数の推移を見ると、日本人の豊かさがどう変わってきたかがわかります。
1966年 初代カローラ。カローラ価格指数 0.90
(年収54.6万円、カローラ49.5万円)
1979年 4代目カローラ。カローラ価格指数 0.30
(年収279万円、カローラ85万円)
1982年 4代目カローラ。カローラ価格指数 0.27
(年収319万円、カローラ85万円)
2019年 12代目カローラ。カローラ価格指数 0.55
(年収436万円、カローラ240万円)
カローラ価格指数は、1982年の0.27から、2019年は0.55と約2倍に上昇しています。 比較のために米国では、2023年の平均年収8万ドルに対して、カローラは2.7万ドルで、カローラ価格指数は0.30です。
このカローラ価格指数からは、日本が相対的に貧しくなっていることが見えてきます。
なぜ日本は貧しくなったのでしょうか?
よく「バブル崩壊後の長期低迷が原因」と言われます。
しかし私は、より本質的な問題は、日本企業が短期的なコスト削減を重視するあまりに、価値創造への投資を怠ったことだと考えています。
1990年代前半にバブルが崩壊して以降、多くの日本企業が「安くていいモノを提供することは、善である」と信じ込み、ひたすらコスト削減に取り組んできました。
・原材料費の削減
・生産工程の見直し
・人件費の圧縮
確かに継続的なコスト削減は、企業にとって必要なことです。
実際にこれらの取り組みにより、多くの企業が短期的に利益を生み出しました。
しかし結果として、「お客様がどうしても欲しい」と思うような高付加価値の商品を生み出す力は、徐々に失われてしまいました。
その結果が、このカローラ価格指数0.55。日本は貧しくなってしまいました。若い人たちの中には、「海外の方がずっと効率よく稼げる」という合理的な考え方で、日本を出て海外移住する人も出るようになりました。
この「安くていいモノを提供することは善」という考え方の中には、「少々価格が高くてもお客様が『どうしても欲しい』と思うモノを提供しよう」という価値創造の発想がありません。
しかしながら、価値創造に成功した日本企業もあります。
その代表例がキーエンスです。
キーエンスは、中小製造業向けに高付加価値製品を提供して成長してきました。
彼らは、顧客である製造業の業務課題を徹底的に分析し、設計・開発・生産工程を見直し、大きなコスト削減が可能な解決策を提供することで、高付加価値を生み出しています。
たとえば設計工程のムダを効率化することで、年間で1億円削減し、設計期間も数日から数時間に短縮できる製品を提供することで、お客様は製品価格は1000万円でも喜んで買うわけです。大きなコスト削減で利益は上がり、かつ設計時間も短縮できて製品の競争力も上がるからです。
キーエンスはこのように価格をはるかに上回る価値を提供することで、抜群に高い利益率を誇る企業となり、平均年収2000万円と日本企業の中でもダントツの高賃金を実現しています。
では、日本が豊かになるためには、何が必要なのでしょうか?
それはマーケティング思考の強化です。
・お客様は、誰か?
・そのお客様の課題は、何か?
・どんな解決策を提供すればいいか?
・どのように値付けするのか?
この4つを考え抜く力を身につけて、単なるコスト削減ではなく、価値創造へとシフトすることが、いまの日本企業には求められているのです。
カローラ価格指数が0.27から0.55になった根本原因は、単なる経済の低迷ではなく、日本企業が「価値創造」に投資せずに、コスト削減だけに注力した結果です。
価値創造の力を取り戻すには、日本企業は今一度「マーケティング思考」を経営の中核に据えるべきなのです。
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