185店舗から、10年後に1000店舗に急成長を目指すワタミのSUBWAY戦略

2週間前に本コラムで、ワタミのSUBWAY日本事業買収について書きました。ポイントは下記でした。

・ワタミは米SUBWAYから日本サブウェイを買収、国内外食事業での成長を目指す
・渡辺美樹会長は「ゴール逆算思考」で、長期目標から逆算して戦略を立てて買収を決断した
・健康志向のSUBWAYのサンドイッチは、ワタミの有機野菜生産と組み合わせることで、マクドナルドに対抗する独自の強みを築こうとしている
・長期的には国内SUBWAY3000店舗を目指す

11月14日に行われたワタミの決算発表で、渡辺社長が今後のSUBWAYの事業について語っておられます。

先日のブログで書いた内容をさらに解像度を高めて考察できるので、ご紹介したいと思います。

・SUBWAY買収から3週間が経過した。強いブランドで、手応えを感じている

・SUBWAYトップと2時間会議し、「日本で味を決めてもよい」という権利を勝ち取った。美味しいものを提供できるので、これは大きい。

・現行の国内SUBWAY店舗185店舗は1店も赤字がない。2000万円の投資で6000万円の売上を上げている強い収益力をもった業態である

・そして小さな商圏で成り立っている。

・そこで日本全土を3000店舗から逆算し、どの地域にどういう出し方をすれば3000店舗になるかを検討し始めている。・SUBWAYの中国、韓国のFCオーナーとの交流も始めている

その上で、国内SUBWAYの店舗数計画も発表しています。

2025年 215店舗 (+35店舗)
2026年 265店舗 (+50店舗)
2027年以降は100店舗ずつ新規出店
2034年には、1065店舗

先日のブログでも紹介したように、SUBWAYの国内展開についても、渡辺社長はまさに「ゴール逆算思考」で考えていることがよくわかります。

□長期的に、国内3000店舗を展開
→そのために、2034年までに1000店舗
→そのために、2027年以降から100店舗毎に出店
→そのために、2026年は50店舗出店
→そのために、来年2025年は35店舗出店
→これらを実現するために、SUBWAYの小さい商圏を前提に、日本全土への3000店舗の出店計画を策定
→そのために、まずはSUBWAYトップと、「日本で味を決めてもよい」と合意

当然ながら、まだ渡辺社長が公にしていない「長期的なゴール」もあるはずです。

そもそもワタミは、グローバルカンパニーを目指しています。

それはもしかしたら、ワタミ自身がグローバルなSUBWAY事業を展開する姿なのかもしれません。

ちなみに渡辺社長は決算発表でも「ワタミ=SUBWAYですね、と世の中の人が言ってく入れるようになった」と嬉しそうにおっしゃっています。SUBWAYという強いブランドが伝える立場を手に入れたことが、いかに自社の強みになるのか、よく理解しておられることがわかります。

実はSUBWAYは2023年に米投資ファンドと買収で合意しており、当時の入札額は96億ドル(1.5兆円)と言われています。一方でワタミの時価総額は現在400億円。ワタミはSUBWAYの1/40程度で、ビジネス規模はまだまだ雲泥の差です。

こんな状態で「将来、ワタミが米SUBWAYを買収するかも」と言うと、確実に「あり得ない」と一笑に付されるでしょう。

しかし今後「ゴール起点思考」で指数関数的なビジネス成長が実現出来れば、超長期的には可能性があるかもしれません。


そんなことも妄想しながらワタミのSUBWAY事業をみてみると、なかなか面白いと思います。

     

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製品の差別化はすぐ追いつかれる。ではどうする?

ライバルがいないブルーオーシャン市場で、斬新な製品を出して、顧客に支持されて、売れたとします。

しかし成功が大きいほど、ライバル企業が多数その市場に参入して、その斬新な製品を模倣してきます。

こうなると数年〜10年程度で、ブルーオーシャン市場はレッドオーシャン市場と化して、競争が激化します。

どうすればいいのでしょうか?

エアウィーヴは2007年、最初の製品『マットレスパッド』を発売しました。

当時市場になかった高反発素材を使った寝具を開発し、試しに使った顧客からも「よく眠れる」と高評価でした。しかし残念ながら、初年度は売れませんでした。

この時、エアウィーヴは、色々と反省しました。

まずライバルにない製品機能で売ろうとしたのですが、それでは売れなかったわけです。

実は寝具市場は特殊で、お客さんはまず「寝具を買おう」と考えて、特にどの商品を買うかを決めずに、デパート最上階などにある寝具売り場に行きます。こんな買い方をするので、デパートなどの売り場でどれだけ商品陳列面積を取るかで勝負が決まる世界だったのです。最後発のエアウィーヴは、売り場がほとんど取れていませんでした。

売り場面積を最後発で押さえるのはとても難しいので、エアウィーヴは「指名買いされるようにしよう」と考えました。つまりブランドを確立する、ということです。

そこで経営者の高岡社長がブランドの専門家に相談したところ、「ブランドって実績だよ」と言われました。

一方で初年度に製品はあまり売れませんでしたが、「質の良い睡眠」を求めるアスリートたちから高評価を得ました。当時、「質の良い睡眠のための寝具」という製品=市場はなかったのです。

「質の高い睡眠を求める人たちがいる」と気がついたエアウィーヴは、アスリートに特化して製品改良を始め、オリンピック選手も使うまでに実績を積み上げました。

この実績をPR(パブリックリレーション)活動で広げ、ある程度認知が広がったところで、さらに大規模に広告戦略で訴求を拡げていきました。

そして「Quality Sleep = エアウィーヴ」というブランド認知を築き上げました。

一方でエアウィーヴが売れ始めると、5-10年ほど遅れて、ライバルの寝具メーカーも「質の良い睡眠のための寝具」の市場に次々と参入してきました。

いまやライバル達も独自の技術を使っていかに質の高い睡眠を実現するかを考えています。そしていまや、この市場は広く認知されるようになりました。

その中でも、エアウィーヴのブランド認知は高く評価されています。

このエアウィーヴの戦略は、「斬新な製品は模倣される」というジレンマへの対抗策を教えてくれます。

最初の段階では、機能の差別化が有効です。エアウィーヴがアスリートに支持されたのも、当時は質の高い睡眠を実現する寝具がなかったからです。

しかし商品が広がっていくと、類似の機能を持つライバル商品が増えてきます。この段階で必要なのは、商品に対する顧客の認知、つまりブランディングです。

つまり「斬新な製品は模倣される」というジレンマへの対抗策は、最初からブランディングを考えて、実績を着実に積み上げることなのです。

御社の斬新な新製品は、どのように実績を積み上げてブランディングを実現するか、考えているでしょうか?

     

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朝活永井塾 第93回「世の中の裏構造が見えてくる『ヘーゲルの精神現象学』 」を行いました

11月6日は、第93回の朝活・永井塾。テーマは「世の中の裏構造が見えてくる『ヘーゲルの精神現象学』 」でした。

ヘーゲルの弁証法がわかれば、これまで見えなかったことが見えてきます。社会の裏にある構造が見えるようになり、ビジネスも見通せるようになって、自分の思考に「骨太さ」が宿るようになります。

しかしヘーゲル哲学を理解するには、大きな壁が二つあります。

一つ目は、日本ではヘーゲル哲学が誤解されていること。「ヘーゲル哲学は、正反合でアウフヘーベン」という人が知識人の中にも多いですし、困ったことに教科書にも書かれているのですが、これは実は大間違い。ヘーゲルは「正反合」なんて言ってません。

二つ目は、ヘーゲルの主著書である『精神現象学』が超難解で、読みこなせている人が少ないこと。哲学の世界でも、カントの『純粋理性批判』、ハイデガーの『存在と時間』に本書『精神現象学』を「三大難解書」として挙げられたりします。

しかしヘーゲル哲学の本質は、色々な解説書を読みながら学んでいくと、実は意外と難しくないのです。難解だが、挑戦し甲斐もある。それがヘーゲル哲学です。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、仕事に役立つヘーゲル哲学について学んでいきました。

『精神現象学』(ヘーゲル著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・12月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは「資本主義が限界に突き当たる現代でこそ理解すべき 『マルクスの資本論』」です。申込みはこちらからどうぞ。

ワタミのSUBWAY日本事業買収は、「ゴール逆算思考」の結果

先週の2024年10月29日、居酒屋チェーン大手のワタミが、サンドイッチチェーン世界最大手SUBWAYのフランチャイズ(FC)店を展開するというニュースが発表されました。

ワタミは10月25日付けで、米SUBWAYから日本で180店舗を展開する日本サブウェイを買収しました。10年で店数を2倍強の430店舗に、長期的には3000店舗を目指します。

つい「何で居酒屋のワタミが、サンドイッチをやるの?」と思ってしまいますが、私はこの発表を見て、思わず唸ってしまいました。

「この戦略は凄い。まさに『ゴール逆算思考』だ」

『ゴール逆算思考』とは、まず長期的に目指すゴールを考えた上で、そこから時系列的に逆算して「いつ、何をやるか」を考え抜き、その上で「今何をやるか」を考える思考方法です。

『ゴール逆算思考』は、ハロルド・ジェニーンが著書『プロフェッショナル・マネジャー』に書いた方法論です。

ジェニーンは米国でITTという企業のCEOに就任して58四半期連続増益を達成、18年後に辞任するまでに売上/利益20倍に成長させ、「フォーチュン500」で第11位の企業に育てた経営者です。

本書にはその方法論が書かれており、ファーストリテイリングの柳井社長は本書を「ボクのバイブル」と賞賛し、経営に取り入れています。

ワタミのサブウェイ日本事業買収は、『ゴール逆算思考』によって、ワタミが目指すゴールから逆算し、考え抜いた上で、チャンスを掴み取った結果なのです。

■そもそもワタミの経営課題は?

まずワタミの経営課題を考えてみましょう。

ワタミは1984年に居酒屋「つぼ八」のFC加盟店として創業・自社ブランドの居酒屋「和民」で成長し、シニア向け弁当宅配などにも参入しました。

しかしコロナ禍で本業の居酒屋事業は壊滅状態に。唐揚げブームに乗って「から揚げの天才」なども展開しましたが、唐揚げブームが去ると失速しました。

今後の成長をどうするかが、大きな経営課題だったわけです。

■ワタミはどう考えたか?

2024年10月30日の日経MJの記事「サブウェイFC マック対抗軸に」よると、ワタミの渡辺美樹会長兼社長は、日本経済新聞の取材に対し「総合外食企業を目指す。マクドナルドの対抗軸になりたい」と述べています。

この渡辺会長の戦略思考は、まさに『ゴール逆算思考』そのもの。そこで本記事を参考に、私なりに解釈してまとめたいと思います。

まず渡辺会長は、長期的なゴールをこう考えています。

→88歳で引退する24年後の2048年までに、グループ売上1兆円を実現したい

そして、ゴール地点の事業構成を、こう考えています。

→そのためには国内外食で3000億円、宅食で2000億円、アジアで1500億円、米国で3500億円

そして、「国内外食で3000億円」をどう実現するかを考えました。

→外食で主力業態を作り、国内3000店舗を展開する

しかし日本は人口が減り、市場は縮小します。
祖業である居酒屋は守りますが、もはや居酒屋だけでは成長できません。
日本の外食でダントツに強いのはマクドナルドです。
そこで、 マクドナルドに対抗するブランドを展開することを考えました。

そこで渡辺会長は、米国の人気バーガーチェーン『イン・アンド・アウト・バーガー』や『チックフィレイ』に接触していたそうです。

そしてその最中に、サブウェイが日本でパートナーを探している話が来て、「これだ!」と思いました。

■なぜサブウェイを買収したのか?

日本ではマックは、圧倒的なマーケットリーダーです。多くのハンバーガーチェーンがマックに挑んできましたが、巨人マックになかなか勝てません。ワタミがハンバーガーで戦っている限り、同じ状況に陥る可能性がきわめて大です。

しかしサンドイッチ対ハンバーガーの構図を作れば、「健康の軸」で対抗できます。 しかもワタミは、『ワタミファーム』で有機野菜を自社で作っています。サンドイッチならば、この強みも活かせます。

渡辺会長は記事でこう述べています。

「成長するためには何か武器が必要だった。このまま居酒屋や焼き肉の店舗をじわじわと増やしていっても、大きな成長は見込めない。拡大が見込める市場であるサンドイッチで勝負していこうと考えた。約300キロカロリーで(健康的な)おいしいものが食べられるというのはなかなかない」

サブウェイとの交渉には1年以上かかりましたが、ワタミが外食や野菜栽培といった現場と市場を知っており、さらに現場のオペレーションができることが評価されたようです。

「なぜ居酒屋がサンドイッチのフランチャイズを?」と思ってしまうワタミのサブウェイ日本事業買収は、渡辺会長が徹底した『ゴール逆算思考』を考え抜き、出会ったチャンスをしっかりモノにした結果だったのです。

「サブウェイがパートナーを探している」というタイミングに出会ったのは、一見すると偶然の幸運に見えます。しかしこの幸運を引き寄せられたのも、『ゴール逆算思考』を積み重ねて、この幸運がワタミにとって具体的に何を意味するかが見えたからです。

『ゴール逆算思考』で考え抜けば、偶然の幸運を引き寄せ、目指すゴールを実現する可能性をより高めることができるのです。

     

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ネトフリから学ぶ「辞めた若手社員は、どこに行く?」

私は企業の若手リーダー研修で、実ビジネスの課題を話し合うワークショップをよく行います。

たとえば「心理的安全性」「内発的動機付け」「組織文化」「変革の方法論」などの考え方を学んでいただいた上で、自社の具体的な問題をどう解決するかを議論します。

ここで、多くの会社でよく出てくるテーマがあります。
それは「すぐに辞める若手社員」。

時間をかけて採用し、1〜2年かけて育てた若手社員がかなりの比率で辞めてしまうのは、現場のリーダーにとっても、経営の観点でも、大きな損失です。

では彼らはどこに行くのでしょうか?

その1つのヒントが、2024年10月25日の日本経済新聞の記事『ネトフリ、日本で働き方改革』にありました。内容は、ネットフリックスが日本の映像制作の現場を変えつつあるという話です。

私も数ヶ月前にネットフリックスへ加入し、よく観ています。コンプラ重視のがんじがらめでマンネリ気味のテレビドラマと違って、実に面白いですね。

一方でこの記事によると、かつて日本の映像制作現場は、こんな感じだったそうです。

・昼食の休憩時間を確保できず作業を続ける
・寝る時間がない(「朝まで撮るぞ!」)
・罵声も飛び交う(「何やってんだバカヤロー」)
・セクハラも横行(父親役が娘役に「二人だけで稽古しよう」)

「映像製作の現場で仕事をしたい」という人は多いでしょうけれども、実際の職場環境がコレではなかなか辛いですよね。

ネットフリックスでは、これを大きく見直しました。

・1日12時間を超える撮影は辞め、週1回は撮影休止
・相手に敬意を持つ言動をするよう講習を義務づけ(リスペクトトレーニング)
・性的なシーンでは俳優と制作の間に調整役となるインティマシー・コーディネーターを日本で初めて配置

職場の様々な課題を、具体的な仕組みで改善する手を次々と打つことで、労働環境を大きく改善しているわけです。

記事の中でも、ヒットドラマ「地面師たち」の高橋信一プロデューサーの『(コストは増えスケジュールは長くなるが)スタッフや俳優を守るためなら最低限の必要経費。(中略)搾取に近い形の労働で成り立つ作品は認めない』という言葉を紹介しています。

では、日本の映像製作現場でできないことが、なぜネットフリックスでは可能なのでしょうか?

記事ではこの部分についても分析しています。

ネットフリックスでは、各部門毎に現場を熟知する人材が制作側に集まっています。

一方で日本では、原作権利を持つ出版社やテレビ局、配給会社が資金を出して製作委員会を作って、制作会社に委任します。ただ製作委員会には必ずしも現場経験者がいません。予算オーバーは製作委員会の理解が得られないので、制作会社は決められた制作費の範囲でやりくりします。その結果、しわよせは現場に行く構造になっているのです。

こうして両者を比較すると、ネットフリックスの職場環境の方が魅力的です。

ネットフリックス上陸前までは「映像製作の現場で働きたい」という人は我慢するしかなかったのですが、ネットフリックス上陸後は、優秀な人材ほど、自分の才能が活かせる場を求めてネットフリックスに移るのは明らかです。

こうしてネットフリックスは「職場環境を改善する→多くの才能の持ち主が集まる→面白い作品が生まれる→収益が上がる」という好循環を生み出しているのです。

 

同じ事は、あらゆる業界で起きつつあります。

いま様々な業界で、働きやすく、社員の能力を引き出して、成長する会社が増えています。

「すぐ辞める社員」は、「辛い職場」「自分に合わない職場」「停滞する企業」から、「働きやすい職場」「自分の才能を活かせる職場」「成長する企業」へと、大移動しているのかもしれません。

私だったら、貴重な人生の時間を投資して働くのならば、後者の企業を選びたいと思います。

あなたの職場は、働きやすく、自分の才能を活かせるでしょうか?

もしそうでなければ、その問題は、今後改善することでビジネスを大きく成長させる「伸びしろ」なのかもしれません。

     

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2024-10-28 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : takahisanagaicom

変わりつつある日本企業と、変わらない日本企業

今月の日本経済新聞「私の履歴書」は、KKR創業者のヘンリー・クラビスです。

昨今の企業の買収劇でも、KKRの名前はよく出てきますよね。

KKRはグローバルな投資会社で、業績不振で成長余地がある企業に投資し、経営変革を行って企業価値を高めて、最終的に売却やIPO(上場)を行うことで、利益を得る、というビジネスを行っています。

欧米で成功したKKRは日本市場進出を検討し、2006年に東京に拠点を設けました。

2024年10月17日掲載の「私の履歴書」で、クラビスさんは日本市場進出を始めた頃のことを回想しています。

—(以下、引用)—

(日本では)若手が活躍する場も限られている。日本企業との会議で、多くの若手は無言でメモを取っている。握手の順番も後になりがちだ。ジョージは会食で、隣の会長ではなく遠くに座る若い人と話して気まずい雰囲気になった。

KKRの投資決定会議では、最も若手から意見を述べる。多くの面で、若手は企業を一番知っている。若手が先輩に遠慮して言いたいことが言えないのはやや危険だ。

—(以上、引用)—

私は長い間、外資系IT企業に在籍して日本の大企業や官公庁のお客様とビジネスしてきましたし、2013年に独立後も、外資系や日本企業のお客様に研修やコンサルティングをご提供してきました。

ですので長年、外資系企業と日本企業の両面を見る立場にいます。

クラビスさんのご指摘は、いまも日本企業と接していて感じる事です。

よい言い方をすると、日本企業の社員は年長者の意見を尊重して聴きます。しかし言い方を変えれば、年長者に忖度して、自分の意見をほとんど言わない傾向もあります。世の中の変化を掴んでいるのは現場で働く若者です。これではなかなか変化に対応出来ません。

外資系企業では「各自は独立した自由な個人」という価値観が浸透しているためか、若手でも割と自由に発言ができる雰囲気もあります。

この数年間、超名門といわれた多くの日本の大企業で、信じられないような不祥事隠しをしてきたことが発覚するようになりました。

そこで「高い心理的安全性が大事」(=本音で議論できる組織にしないといけない)という危機意識が、企業のマネジメント層を中心に浸透して始めています。

そして多くの日本企業でこの傾向がだいぶ変わりつつあることも、私は感じます。

クラビスさんもこう述べています。

—(以下、引用)—

それでも日本企業は変わった。女性や外国人の登用も徐々に増え、最高経営責任者(CEO)を外部から受け入れた会社もある。訪日のたびに若い起業家と会食をするが、変化に対する意欲も明らかに高まってきた。

—(以上、引用)—

ここでのポイントは「変化はまだら模様で起こっている」といことです。
言い換えれば、急速に変わり始めている日本企業と、なかなか変わろうとしない日本企業があるのです。

私は有り難いことに、様々な企業様からマーケティング研修のご依頼をいただきます。

この際に心がけているのは、最初に経営幹部とお話しをさせていただき、まずその企業の組織文化について理解することです。

経営幹部が「本音で議論できる組織に変えたい」と本気で考えている場合は、マーケティング研修を実施した結果、社員のスキルが上がり、成果につながります。

しかし中には経営幹部が、言葉には出さないものの「従来のやり方が正しい。何も変える気はない」とお考えの企業様もおられます。こういう企業様の場合、仮に社員がマーケティング研修を新たなスキルとして学んでも、その力を活かす場が与えられずに、結局、成果につながりません。ですので、このような企業様のご依頼は辞退をさせていただくこともあります。

今後10年単位で考えた場合、成長して生き残る企業はどちらかは、自明ですよね。

あなたの会社は、「本音で議論できる組織に変わろう」としているでしょうか?
「従来のやり方が正しい。何も変えない」と思っているでしょうか?

     

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「ロボットカンパニー」への変貌を宣言したテスラ

source https://www.youtube.com/live/6v6dbxPlsXs より(2024/10/14閲覧)

10月10日、テスラは”We, Robot”というイベントを行いました。

国内の新聞では「テスラ、3万ドル以下の自動運転タクシー 26年生産開始」と報じられています。

当日の様子はネットで見ることができますが、実際に見てみると、内容は日本で報じられているものとかなり違った印象を受けます。

この日、テスラを率いるイーロン・マスクが出したメッセージは「テスラはEVメーカーではない。ロボットメーカーだ」という宣言です。

会場でお披露目したのは次の3つです。

■サイバーキャブ
無人タクシーの試作車。ハンドルやペダルがなく、認識や制御はカメラとAIで行い、完全無人で走ります。2026年の生産を目指し、価格は3万ドル以下。会場には20台のサイバーキャブが登場し、来場者は自由に乗れました。

■ロボバン
20人乗りの大量輸送用。会場には1台だけ登場。詳細は発表されず。

■オプティマス第2世代
ヒト型ロボット。これまでのオプティマスは、私たちは動画でデモを見るだけでした。今回は会場に数十台の人型ロボットが登場。5台で完璧に同期してダンスしたり、実際に会場の中を歩き回ったり、来場者にお土産を手渡したりしていました。

ちなみに会場は、カリフォルニア州のワーナーブラザーズのスタジオ。未来のイメージを見事にアピールしています。このあたりの演出はうまいですね。

イーロン・マスクは、冒頭のプレゼンでは、こう語っています。

「今日の輸送はクソだ。コストがかかるし、安全でないし、持続可能性もない。そもそも自家用車は、1週間168時間のうち10時間程度しか使われてない」とした上で、「自動運転にすれば5倍から10倍は使われる可能性がある。つまり5〜10倍の価値を生む。しかも人間より10倍安全だ」

そして、クルマの自動運転のために開発してきた蓄電池、モーター、AIなどの技術は、ヒト型ロボット「オプティマス」にも使えるとしています。

一方で、「マスクは楽観的すぎるのでは?」という批判もあります。

実際に2019年にも「2020年までにロボタクシーを運用する強い自信がある」と言ってましたが、これはまだ実現していません。

マスクはビジョナリーであり、「こんなのムリでしょ」という難題にオーバーコミットして挑戦してきた経営者です。スペースXやスターリンクのように成功させたモノもあれば、サイバートラックのようになかなか上手くいかないモノもあります。初の大量量産に挑戦した小型車モデル3も、当初は生産に手こずって、マスクは自ら工場に寝泊まりしながら技術的課題を解決していきました。

本当に2026年に、マスクが言う通りこれらが提供されるかはまだ未知数ですが、「テスラはロボットメーカーになる」と宣言した意味は大きいと思います。もはやマスクにとって、テスラはEVメーカーではなく、ロボットメーカーなのです。

当然ながら「現在のEV市場の低迷」という現実的な問題も考慮した上でのことだと思います。

ちなみにマスクは現在、実に様々な未来への道具を手にしています。

【テスラ】EV、ロボット、AI、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵システム
【スペースX】ロケット(スターシップなど)、衛星通信網
【X(旧Twitter)】SNS、人のネットワーク、将来は金融取引の仕組み
【ニューラリンク】脳とコンピュータのインターフェイス (BMI: Brain Machine Interface)
【ハイパーループ】真空チューブ型高速輸送システム

現時点では、マスクが手にしているこれらの事業は「点」の状態です。

今後、これらの事業が繋がって「面」として展開していくことで、想像も出来ない全く新しい社会インフラが生まれる可能性もあります。

このような観点でも、改めて「イーロン・マスクはいま、最も注目すべき人物だ」と思いました。

     

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高級カメラをしのぐスマホ。他人事ではない

「イノベーションのジレンマ」という言葉があります。

実はこの言葉は邦訳する過程で印象を強めるために意訳した言葉で、実は英語のオリジナルでは「イノベーターのジレンマ」です。英語オリジナルの方がより正確なので、ここでは「イノベーターのジレンマ」で統一します。

「イノベーターのジレンマ」とは、イノベーションを起こし業界リーダーになった企業が改良だけに注力する傍らで、新興企業が新たなイノベーションで新しい顧客を獲得し、技術を進化させて成長し、業界リーダーを市場から追い落としてしまう理由を説明した理論です。

2024年9月30日に日本経済新聞に掲載された記事「スマホ、高級カメラのみ込む」は、まさにこの「イノベーターのジレンマ」を実感させる内容でした。ご興味がある方は、ぜひお手元の新聞記事をあわせてご覧になると面白いと思います。

この記事では、同じ被写体を、2023-2024年発売の最新スマホ(iPhone16 ProとXiaomi(シャオミ)14 Ultra)と、日本メーカーが2019年に発売した高級コンパクトデジカメで撮影して、画像を比較しています。

高級コンパクトデジカメのセンサーサイズは、スマホと比べてはるかに大きいので、従来は「高級コンパクトデジカメはスマホよりも画質は圧倒的に優れている」と言われてきました。

しかし本記事に掲載された画像は、ほとんど違いが感じられません。記事ではこんなことが書かれています。

・3つとも新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真
・SNSを活発に利用する高校生10人に聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」
・別の被写体を最大ズームで撮影すると、スマホの画像は平たんで絵の具で塗りつぶした絵画のような画像になっている。

これは、通常のデジカメとスマホカメラの違いによるものです。

スマホカメラは「センサーサイズが小さい」という弱点がありますが、「スマホの演算能力はデジカメよりもはるかに高い」という強みもあります。そこでスマホは強力な演算能力にモノを言わせて、撮影した画像を短時間のうちにあの手この手で加工しまくり、見映えがいい画像に仕上げているのです。

その結果、普通に見る分には高級コンパクトデジカメを凌ぐ画像を叩き出します。しかし拡大すると色々加工しまくった粗が目立ってくるわけです。

一方でスマホは、携帯性と無限といってもよいアプリとの連携というの圧倒的な利点を持っています。

つまり、このスマホカメラの特性を理解して使うことで、これまで高級コンパクトデジカメでカバーしていた領域をほとんどカバーできるわけです。

たとえば私はこの数十年間、年賀状では自分の写真作品をポストカードにしてきました。10年前まではデジカメ一眼レフで撮影した写真を使ってましたが、数年前からはスマホで撮影した写真を使っています。

庵野監督は映画「シン・仮面ライダー」で、戦闘シーンを撮影する際に、通常の映像用カメラに加えて、十数台のiPhoneで同時に動画撮影して、一部の映像はiPhoneで撮影した動画を採用しています。つまり商業用映画でもスマホ動画は十分に使える、ということです。

デジカメはかつて、まさに「イノベーター」として、カメラ市場を席巻しました。しかし記事によると、デジカメの総出荷額は2008年の2兆円超から、直近では7000億円台に沈んでいます。

一方でiPhoneが2007年に登場した頃、スマホのカメラは「こんなのはオモチャ。たいして使えない」と言われてきました。しかし十数年が経過し、その「オモチャ」にデジカメ市場は壊滅させられつつあるわけです。

まさに「イノベーターのジレンマ」です。

この「イノベーターのジレンマ」は、様々な市場で起こってきました。

・古くはフィルムカメラも、デジカメに壊滅させられました。
・ビデオレンタルも、Netflixのようなストリーミングサービスに壊滅させられました。
・日本のi-modeなどの携帯電話も、iPhoneやアンドロイドのようなスマホで壊滅しました
・電卓、腕時計、手帳、お財布なども、スマホに置き換わりました
・最近では、コロナ禍で対面型セミナーも、オンラインセミナーに突然置き換わりました

技術は常に進化し続けます。 「イノベーターのジレンマ」は、私たちにも突然襲いかかる可能性があるのです。

あなたの業界では、この「スマホ」に相当するモノは何でしょうか?
あなたはこの「イノベーターのジレンマ」に、どのように対処しますか?

     

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朝活永井塾 第92回「マーケッターが学ぶべきボードリヤールの『消費社会の神話と構造』」を行いました

10月2日は、第92回の朝活・永井塾。テーマは「マーケッターが学ぶべきボードリヤールの『消費社会の神話と構造』」でした。

ロレックスの腕時計は数百万円します。しかし時間を知るだけなら、100円ショップの腕時計で十分です。

では、なぜ高級腕時計が売れるのでしょうか?

この仕組みを解明して消費社会の本質を示したのが、1929年生まれのポスト構造主義の哲学者でもある社会学者ボードリヤールです。

本書の刊行は半世紀前の1970年。20世紀後半に生産中心の社会から消費社会に変わり、ボードリヤールは「消費社会の社会構造がどう変わったかを解明しよう」と考えたのです。

現代社会のあり方を予言した50年以上前の本書は、今読んでも多くの学びがあります。

そこで今回の朝活永井塾では、下記書籍をテキストにして、消費社会におけるマーケティングの本質を学んでいきました。

『消費社会の神話と構造』(ボードリヤール著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・11月6日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『世の中の裏構造が見えてくる ヘーゲル「精神現象学」』です。申込みはこちらからどうぞ。

ドーナツ市場に再挑戦するセブン。ミスドはどう対抗する?

「セブンが来年2025年2月までにドーナツを全国販売する」というニュースが流れました。2024年9月に首都圏5,000店舗で販売したところ、2週間で240万個売上と好調だった結果を受けてのことだそうです。

でも、こう思った人もいるのではないでしょうか?

「あれ? そう言えばコンビニはついこの前まで、大々的にドーナツ売ってたよね。最近見かけなくなったけど」

2014年、コンビニ業界は大規模にドーナツを売っていたのです。

当時、ドーナツ業界でシェア8割を占めるドーナツ市場最強のミスタードーナッツ(以下ミスド)は、年間売上500億円弱。

このドーナツ市場に、セブンは「年間6億個/売上600億円」という販売目標を掲げて参入。ローソンとファミマも参戦。「ドーナツ戦争」とも呼ばれました。

コンビニとしては、コンビニの100円コーヒーのお供にドーナツは相性がいいので、合わせ買い需要が狙えるわけです。

ミスドは「ドーナツ市場では最強」とは言え、当時の店舗数は1,400店舗弱。
大手コンビニ3社の店舗数は、50,000店舗を超える規模で、ミスドの40倍弱。
大きな目で見ると、まさに弱者ミスドと、強者コンビニの闘いです。

当時、「さすがに専業のミスドは潰れるのでは?」と思う人も少なくありませんでした。

結果は?

コンビニドーナツは予想したほど売れませんでした。
2年後にはドーナツ特製の棚も撤去。ドーナツは単品売りになりました。

2014年当時、私もコンビニドーナツを買ったことがあります。
でも正直言って、味はイマイチ。「ドーナツを食べ過ぎるとカロリー過多だ。しょっちゅう食べられるわけではない。限られた数少ないチャンスでドーナツを食べるなら、美味しいミスドがいいな」と思いました。

つまり「専門店と比べて味がイマイチ」だったために、コンビニドーナツは失敗したわけです。ミスドは、死に物狂いでドーナツの強みを尖らせ続けました。

そして2025年、セブンは改めて、ドーナツ市場に再挑戦するわけです。

今回は、店内調理による「揚げたてドーナツ」を武器に展開するとのことです。一度発行させた生地を加熱後、冷凍して工場から各店舗に供給、店舗で揚げる最終工程を行い、ふわふわ食感と風味を維持する仕組みです。

さらにドーナツ以外にも、メロンパン・クロワッサンなどの温かい焼きたて風パンを提供します。

これらは恐らく、前回の反省を踏まえて施策ことだと思います。

この愚直な仮説検証がセブンの強みです。セブンはコンビニコーヒーも1980年代から挑戦を繰り返し、2010年代に5度目の挑戦となるあの「セブン・カフェ」で大成功しました。

2013年の「ドーナツ戦争」では、ミスドは防戦一方でした。コンビニでのドーナツ大量販売の影響でドーナツが飽きられてしまったこともあり、売上は2013年の488億円から、2019年は354億円と27%も減少。赤字が続き、不採算店舗の整理で店舗数も減りました。

しかしミスドはここを耐え忍び、ムダを徹底して省きました。2020年のコロナ禍でテイクアウト需要が起こると、店舗あたりの売上は2017年の6850万円を底に、2022年は9490万円まで伸びました。

結果としては、実質的にドーナツ市場から撤退したコンビニ各社に対して、ドーナツ市場を守り抜いたミスドの辛勝と言えるでしょう。

2025年、果たしてセブンのドーナツ市場への再挑戦は成功するのか?
ミスドはどう対抗するのか?

今後を見守りたいと思います。

     

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水をサービスで提供し、成長する栗田工業

半導体ビジネスに、いま世界的に注目が集まっていますよね。

日本の半導体メーカーはかつてと比べて今一つ元気がなく、官民挙げて投資が始まっています。

一方で日本がいまだに圧倒的に強いのが、半導体製造プロセス。最先端半導体は何十段階もの細かい製造プロセスを経て、生産されます。この領域で、様々な企業が各フェーズで世界トップシェアを取っています。

その中には、意外な企業もあります。「超純水」を提供する栗田工業です。

半導体製造工程では、各工程で洗浄作業があります。ただ超微細加工です。普通の水だと不純物が含まれるので、半導体の配線にゴミがはいり、不良品になってしまいます。

そこで栗田工業は、超純水を作る製造装置や分析装置を作っています。その純度はドーム球場一杯の水に砂糖1グラムという純度レベル。

ここで注目したいのが、栗田工業は「超純水を売っている」のではなく、「超純水をサービスとして提供している」という点です。

超純水は、生産プロセスのちょっとした変化で純度が下がります。こうなると製品の歩留まりは一気に悪化します。素早い対応が必要になります。そこで栗田工業は、生産工程に入り込んで、常に高純度の超純水を提供するようにしています。

日経ビジネス2024.9.23号に掲載されている栗田工業の特集で、このようなビジネスにした経緯が書かれています。一部抜粋します。

—(以下、引用)—

半導体メーカーからすれば、一度栗田工業の超純水設備を採用すると他社の装置に切り替えづらい。同社は顧客の信頼を得て長期的な利益につなげるという意味で、「顧客親和性」という言葉を重視する。

(中略)

装置ではなく水を売る継続課金型のサービスも広げる。保守・運用まで一体で引き受ける。10年程度の契約を結び、水野供給量に応じて収益を得る。

(中略)

天野執行役は「単純なモノ売りだとレッドオーシャンから脱却できない」と語る。サービスなら装置の価格競争を避けて利益率を高められる。超純水は顧客工場の稼働にかかわらず一定量を消費するため、安定成長を見込める。

—(以上、引用)—

栗田工業は半導体工場以外にも、製油所、自動車工場、製紙工場、製鉄所、食品・飲料工場など、国内で2万件の顧客を抱えています。栗田工業の2024年3月期売上は3848億円。10年前から倍増し、営業利益率は2.8倍です。

さて、モノ製品の宿命は「コモディティ化」です。どんなに素晴らしいモノ製品も、いつか価格勝負になります。

そこでマーケティング分野で、21世紀になって急速に発展する分野が「サービスマーケティング」です。この中でも重要な概念が「製造業のサービス化」であり、それを実現するための「サービス・イノベーション」です。

サービス・イノベーションでは、長期的に顧客をより深く満足させる卓越したサービス提供の仕組みを作っていきます。

サービス・イノベーションで重要なポイントが、「いい商品を提供する」(栗田工業の場合は「いい超純水製造装置を提供する」)という「モノ売り発想」から、「いい体験価値を提供する」(栗田工業の場合は「常に超純水を提供して不良品ゼロを実現する」)という「顧客との価値共創の発想」への転換です。

あなたの会社は、「モノ売り発想」でしょうか?
それとも、「顧客との価値共創の発想」でしょうか?

     

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新規事業のチャンスは、意外と足下に転がっている

「新規事業を立ち上げよう」

こう考えても、「さて、何をやろうか?」と考え始めると、なかなか難しいものです。そして堂々巡りに陥って「何をやればいいのか、さっぱりわからない」という状況になりがちです。

ここでヒントになるのが、自分自身の何げない体験です。実際に、新規事業のきっかけは、ささやかな体験がきっかけということが多いのです。

たとえばAirBnBは、お金がなかった創業者たちが、家賃が払えずにアパートを追い出されそうになったので、家賃を工面するために、当時アパートの近所で予定されていた大規模イベントで、ホテルが満室が宿泊場所がつけられなかった人たちに寝室のベッドと朝食を提供したことが、起業のきっかけになりました。

Dropboxは、バス停でノートパソコンで大事な仕事を始めようとした創業者が、自宅にUSBメモリーを忘れたことに気づき、「どこでもデータにアクセスできるクラウドストレージが欲しい」と思ったことが起業のきっかけです。

相乗りサービス「ニアミー」は、創業者が埼玉方面にある自宅に帰る際に、最終バスを逃した人たちでタクシーに行列ができていて、「帰宅する方向は同じなのにタクシーに乗るのが一人一台なのはもったいないな」と思ったのがきっかけです。

そして「シェアして乗れば、安くなり、待ち時間も減り、タクシー会社も複数組乗せることで、走行距離が伸びて嬉しいはず」と考え、まずはハイヤー会社と組んで、2019年から需要の多い空港輸送を始めました。新宿駅と羽田空港間は、通常タクシーで7300円のところ、2980円で済みます。(参考記事:「気詰まりの壁 崩せた?ニアミー」日経MJ 2024.9.13)

簡単にネットショップを開設できる「BASE」は、大分県で小売業を営む創業者の母親が「ネットショップを始めたい」と言い始めたのがきっかけです。「ネットに詳しくない母親も、ネットショップを作りたい時代なんだな」と思ったわけですが、「待てよ。誰でも簡単にネットショップで商品を売れる仕組みがないぞ」と気付き、BASEを立ち上げました。

かくいう私が、「永井経営塾」を立ち上げたのも、同じです。

当初は2019年末にKADOKAWAさんとの協業で、リアルで対面の研修コース(一人当りの参加費は年間で数十万円)として、「永井経営塾」を立ち上げようと考えていました。しかし翌年2020年からのコロナ禍で、中断を余儀なくされました。

この時期、私は大手食品メーカー様の年間研修も対面で行っていました。しかしコロナ禍で、途中からZoomによるオンライン期に切り替えました。すると受講者の満足度が10ポイントも上がったのです。講義を動画で何回も見ることができて理解が深まり、かつ自宅から参加できて利便性と受講の負荷も低くなったためでした。

この発見のおかげで、KADOKAWAさんと「永井経営塾も完全オンライン前提に再設計した方がいい」と合意して、2021年に現在の「永井経営塾」を立ち上げました。おかげさまで会員数は順調に伸びています。

新規事業で何よりも大切なのは、こういった「ウォンツ」の発見です。

「ウォンツ」とは「みんなが欲しいのに、ありそうで、実はないモノ」のことです。

多くの人は「ウォンツの卵」を発見しても、それ以上考えるのは面倒なのでスルーします。だからこそ、自分が身近に感じた何げない体験や「困りごと」を突き詰めて考えると、意外と「ウォンツの発見」に直結して、新規事業の種になるのです。

あなたの足下にも、「ウォンツの卵」はないでしょうか?

     

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ネットで知名度爆上がりの新人候補が、なぜ惨敗したのか

現職のベテラン市長。
任期満了間際で汚職疑惑。
市長選挙では選挙カーを走らせたり地味な街頭演説を繰り返すばかりで、演説には20人も集まりません。

一方で若い新人候補。
無党派ですが好感度抜群。SNSフォロワー数も急上昇。
ネットで叩かれてもいますが、知名度は爆上がり。
「騒がしい選挙カーなんて迷惑なだけで逆効果」と考えて、ネット中心で選挙活動。動画配信には毎回100人単位で集まり、リアル会場で行った決起集会は大盛り上がりです。

で、選挙結果は…。

現職のベテラン市長の圧勝。新人候補は惨敗です。

この話は、週刊モーニングに連載中の「票読みのヴィクトリア」の第1回・2回からの抜粋です。(まだコミック化されておらず週刊モーニング 2024/6/20号と2024/6/27号で読めます)

この作品、マーケティング視点でも実に面白いので、一推しです。

さて、あなたは選挙で投票する際に、事前に候補者のことを、ネットや動画できめ細かく調べるでしょうか?

もちろんそういう熱心な方もおられると思います。しかし現実には、選挙当日になって「あ〜。今日は選挙か。行かなきゃな。候補者誰だっけ?」という人も多いと思います。

マジメな人は、当日おもむろに選挙公報を見たり、スマホでちょっとだけ検索すると思います。でも「とりあえずこの人、名前は知ってるなぁ」と思って投票する人も多いものです。

有権者全員が熱心に選挙を考えるのが理想であることは、言うまでもありません。しかし現実の認識もまた、大事です。

ほとんどの人にとって選挙は「面倒くさい」のです。

選挙で勝つためには、まずこの事実を認識することが出発点です。

この物語の主人公である選挙コンサルタントは、こうなった結果を語っています。ポイントは下記です。

・全体の票数の中で、新人候補が期待できる票数は、無党派・若年層がもつ1割弱。本来、新人候補に必要なのは、ここから多数派に浸透する戦略である。しかしやったのは真逆

・最大の敗因は、SNSに頼り切ったこと。ほとんどの有権者はSNSなんて見ない。いくら盛り上がっても、票のごく一部である

・大多数の有権者にアプローチして印象づける方法は、地味な電話や選挙カー。新人候補はこれを「有権者に迷惑だから」と全部をやめた。一方の現職ベテラン候補は地道にやりきった

・本当に意識すべきは「顔が見えない大多数」。彼らに候補者自らが懐に飛び込む必要がある

・つまり現職ベテラン候補は、地道に大多数へアプローチした。新人候補はごく一部のSNSユーザーだけにしかアプローチしなかった。選挙結果は必然だった。

この話、マーケティング視点で考えると、実に納得します。

実は最近のマーケティングで実にありがちな間違いが、「顧客を絞り込むこと」なのです。

「え? 顧客を絞り込むって、マーケティングの基本じゃん」と思ったとしたら、要注意です。

現実には「顧客を絞り込んでいる」つもりで、現実には「顧客のごく一部にしかアプローチしていない」ということが多いのです。まさにこの新人候補がやっていることですよね。

やるべきことは、

① まず市場全体を俯瞰して、その市場にいる顧客を細分化してそれぞれの特徴を見極める

② 自社のビジネス目標を達成するためには、それら細分化した市場でどれだけの顧客を獲得すればよいかを、把握する

③ ②で把握した顧客を獲得するために、様々なマーケティング施策を考えた上で、実行する

これを地道にやっていくことが必要なのです。

一時期、マーケティングの世界では「マスマーケティングはもう古い」と言われてきました。確かに市場全体を一つと考えて、単一のマーケティング施策(たとえば大がかりなテレビCM)でガッと市場を獲る戦略は、もう時代遅れかもしれません。

しかし、マスマーケティングはいまだに有効です。以前とは違うのは、マス市場を獲るためには、市場を細分化して、それぞれの細分化した市場に合ったきめ細かなマーケティング施策を考え、実行していく必要があることなのです。

皮肉なことに「マスマーケティングはもう古い」という考え方自体が、実はもう古いのです。

ただここで、勘違いしがちな点もあるので最後に補足したいと思います。

「顧客を無意味に絞り込む」のはNGですが、「顧客の課題を絞り込むこと」はいまだにとても大事だということです。

「顧客の課題を絞り込むこと」と「顧客そのものを絞り込むこと」は、全く違います。

例えば1990年代、散髪はどこも数千円で1時間かかっていました。多くの男性が内心、「10分/1000円で髪をカットしてほしいな」と思っていました。この課題に絞り込んで成長しているのが、QBハウスです。

QBハウスは「顧客を絞り込む」のではなく、「顧客の課題を絞り込む」ことで、大きく成長しています。

顧客の課題を絞り込みつつも、マスマーケティングをきめ細かく展開することがカギなのです。

     

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朝活永井塾 第91回『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズとフリードマンの経済学』を行いました

9月4日は、第91回の朝活・永井塾。テーマは『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズとフリードマンの経済学』でした。

この二人を取り上げた理由は、現代では、政府の経済政策はケインズとフリードマンの経済理論に基づいているからです。

しかし両方とも難解です。

1929年の大恐慌を機に「経済学を作り直そう」と考えて書かれたケインズの主著書「雇用、利子、お金の一般理論」は、当時の大多数派を占める古典派経済学者の論敵を論破するために、やたらと詳細に書かれています。

もう一方のフリードマンの主著書「資本主義と自由」は、1970年代のスタフグレーション(猛烈なインフレと失業が同時に起こる現象)の最中に書かれました。

フリードマンの主張はケインズとは真逆で一見すると過激ですが、当時、経済立て直しが急務だった米国と英国で経済施策の柱になり、日本でも小泉純一郎内閣の「聖域なき構造変革」の柱になりました。 しかし「フリードマンは貧富の差を拡大した張本人」と批判する人もいます。

このケインズとフリードマンの理論が理解できると、自分の仕事と経済政策を結びつけて考えられるようになります。

そこで今回は、下記の本をテキストに、ビジネスパーソンの視点で、現代の経済学の基本を学びました。

『雇用、利子、お金の一般理論』(ジョン・メイナード・ケインズ著)
『資本主義と自由』(ミルトン・フリードマン著) 

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・10月2日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『マッケターのための ボードリヤール「消費社会の神話と構造」』です。申込みはこちらからどうぞ。

普通の人が天才に対抗する唯一の武器は、「仮説検証」の徹底継続

世の中には「天才」と呼ばれる人たちが数多くいます。

一方で世の中の99%の人、言い換えれば私たちは、「普通の人」です。
しかし「普通の人」でも、「天才」に勝てる武器があるのです。

科学者ニュートンと言えば、私たちは「天賦の才能の持ち主」と思いがちです。実際にニュートンは、ニュートン力学を確立し、微積分法を発見し、英国造幣局長として兌換率も決定しました。凄い業績ですよね。

しかしアンジェラ・ダックワース著「やり抜く力 GRIT」によると、ニュートンのIQは130くらいだった、という調査があります。

IQ 130は、50人に1人の割合です。普通の中学や高校で、同学年が150人いたとして、学年で上位3人目くらいのレベルです。

確かにニュートンは頭がいい人ではありましたが、「世間離れをしている知能の持ち主」という程ではありません。実は意外と普通の人だったのです。

ダックワースはこの著書で「現実の偉人は、そこそこの才能の持ち主が、コツコツ努力し、偉大な成果を生んだケースが多い」と述べています。

では、どのようにコツコツ努力すればいいのでしょうか?

そのカギが「仮説検証の徹底継続」です。

「仮説検証? もう耳タコだよ」という人もいるかもしれませんね。

でも意外とやっている人は少ないのです。

①まず「こうすれば上手くいく」という仮の答え(仮説)を立てる
②できる限り早く、実際にサクッと実行して、結果を出してみる
③①の「仮の答え(仮説)」と②の「結果」を照合し、改善すべき点を見つける
④改善すべき点を反映して、新たに仮の答え(新しい仮説)を立てて、上記の②に戻る(再び実行する)

これを何回も何回も、しつこく行い続けることで、学びが急速に進化し続けて、成功に近づきます。

ニュートンがやっていたことも、仮説検証です。

①ニュートンは惑星の運動やリンゴが落ちる現象を見て「全ての物体はお互いに引き合うんじゃないかな」と考え、「万有引力」という仮説を立てました。
②そこでケプラーの惑星運動の法則や、実際に地上での物体の落下現象の観測データで、仮説を検証し続けました
③観測結果は仮説と一致しましたが、一部合わない部分もありました。惑星の軌道が完全な円ではなく楕円の場合、当てはまらないのです
④そこで楕円軌道でも説明できるように法則を修正し、再び②に戻って検証しました

ニュートンは、こういったことを何回も愚直に繰り返したわけです。

ニュートンを例に挙げると「すごく遠い話」に聞こえてしまいますが、私たちの仕事でも基本はまったく同じです。

たとえばあなたが「新しいオンラインサービスの販促」を検討中だとします。

①たとえば「見込客が試用できる無料体験プログラムを提供すると、課金ユーザーが増えるかも」という仮説を立てます。そこで予算を組み、目標の課金ユーザー獲得人数を設定し、ウェブ広告を出してみます。
②ウェブ広告などで集客し、無料体験プログラムを実際に提供します。この際、実際の広告金額、ウェブ広告表示回数、クリック数、無料体験申込み人数、課金ユーザー数などのKPIも記録しておきます
③結果(広告金額、広告表示回数、クリック数、無料体験申込み人数、課金ユーザー数)を確認し、①の目標値と照合して、KPIを見て改善点を把握します。たとえばクリック数が少ないのは広告メッセージが弱いのかもしれませんし、クリック数は多いのに無料体験申込み人数が少ないのは、申込みページがわかりにくいのかもしれません。
④③の改善策を反映した上で、再び②に戻って検証します

これを何回も繰り返すことで、販促効果が急速に上がっていきます。

この「仮説検証サイクル」は回数勝負です。短い時間内に仮説検証サイクルをできる限り数多く回して、より多くの学びを積み重ねることで、ライバルよりも多くの学びを得て、有利に立ちます。

つまり「まずやってみる」「結果を検証する」「改善してまたやってみる」をひたすら繰り返し、実行した結果から学び続けるのです。

「そんなことで、本当に天才に勝てるの?」と思うかもしれません。

実は天才を含む大多数の人は、仮説検証サイクルを愚直に回し続けません。途中で飽きて、やめてしまうのです。

「ウサギとカメ」の逸話をご存じかと思います。

走るのが速いウサギに鈍いカメが勝てるのは、カメが突然速く走れるようになるからではありません。ウサギが途中で休んでしまうのに、カメが歩き続けるからです。言い換えれば、カメは時間を味方に付けているのです。

仮説検証プロセスは、カメが時間を味方に付けてウサギに勝つように、普通の人が時間を味方につけて天才に勝つ仕組みなのです。

     

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「対話」できないビジネスパーソン

あなたのチームは「対話」ができていますか?

この10年間、大企業を中心に分かてリーダーやマネジャーに、マーケティングやマネジメントの研修をワークショップ形式で行ってきましたが、実感することがあります。

それは「なかなか対話できない組織が多い」ということです。
そしてこのことが、企業の競争力を大きく下げているのです。

会社は、顧客課題に対して、様々な社員が集まって知恵を集めて、解決策を編み出して提供しています。

知恵を集めるためには、チームで対話することが必要です。

このチームの対話は、突き詰めると2段階で進みます。

第1段階:アイデア発散フェーズ アイデアを否定せずどんどん出します
第2段階:アイデア収束フェーズ 出したアイデアを絞込んで1つにします

多くのチームは、第1段階では色々なアイデアが出てきます。
しかし第2段階のアイデア収束が、とても苦手です。その理由は、出てきた様々なアイデアを取捨選択し、多くの場合、捨てたり否定する必要があるからです。

私たちはこの「否定する」「捨てる」が苦手です。

この際に必要なのが「対立しているのは私たちの意見であって、私たち自身は対立していない」と考えることです。

でもこれって、ちょっと分かりづらいかもしれないので、もう少し深くご説明しましょう。

話し合いには、2種類あります。

■ディスカッション(議論)やディベート(論戦)

→意見を主張して、議論に勝つことが目的です。勝者と敗者が生まれます

■ダイアログ(対話)

→各自の考えを明確にして、チームの解決策を作り、全員で勝者を目指すことが目的です。

仕事で必要なのは、厳密に言うと「ディスカッション(議論)」ではなく、「ダイアログ(対話)」です。

組織学習の第一人者であるピーター・センゲは、著書「学習する組織」で、「ダイアログで必要な3点」を挙げています。

①自分の考えは「叩き台」。意見に固執しない
②参加者は仲間。肩書きや序列はもち込まない
③全員でひとつの答えを探求する

この3点、一見すると簡単そうに見えますが、現実の対話を見ていると、現実にはなかなかできていません。

必要なのは「意見対立を恐れない」ことです。そして「誰が正しいか」ではなく、「何が(どのアイデアが)正しいか」という基準で、正しいモノを突き詰めることです。

ここで意見の対立を恐れて、「ここは丸く収めましょう」なんてやっていると、チームは何も学習できません。当然ながらビジネスの競争力も落ちます。場合によっては不祥事が野放しになります。

しかし現実には、事実に基づいて意見を対立させて対話すべきなのに、意見の対立を恐れて、相手を誉めるばかり…という人は、むしろ増えているのが現実です。

「相手の言うことは、絶対に否定しない」いう人もいたりします。

実は最近流行の「心理的安全性が高い組織」とは、この「意見対立を恐れない組織」のことです。しかし多くの人が「心理的安全性が高い組織とは、意見対立がない組織である」という逆の理解をしています。

相手を誉めてばかりいるチーム、相手を絶対に否定しないチーム、意見対立を回避し続けるチームは、居心地がいいかもしれませんが、実は「対話」ができていません。

この結果、何が正しいかを見極めることができません。

ビジネスの競争力が落ち、場合によっては不祥事が起こっても見て見ぬふりをするようになり、組織は衰退していきます。

私はマーケティングやマネジメントの企業向けワークショップ研修を行う際には、この点を常に意識していただくように、最初の受講される皆様にガイドするようにしています。

さて改めてお尋ねします。あなたのチームは「対話」ができていますか?

     

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新規事業のマーケティング戦略と、最初に狙うべき市場は、全く異なる

商品や事業は永遠ではありません。必ず寿命があり、いつかは終わります。
そこで企業にとって必要なのが、新規事業開発を続けることです。

新規事業では、どんなターゲットお客様のどのようなお悩みに、いかなる解決策を提供するかを考えるわけですね。

これがマーケティング戦略の基本STP(セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング)です。

しかし新規事業で、よくありがちな間違いがあります。
製品を市場にリリースして立ち上げる初期段階で、STPの「T=ターゲット」の顧客に売り込もうとすることです。

でもこう言うと、こんな反論が聞こえてきそうです。

「え? マーケティング戦略をSTPで考え抜いたから、そこで考えたターゲット顧客に売り込めばいいんじゃないの? 戦略って首尾一貫すべきでしょ」

実はマーケティング戦略(STP)で考えたターゲット顧客と、実際に製品を市場にリリースして最初に攻めるべき市場は、ちょっと違うのです。

具体的に言うと、最初に攻めるべき市場は、STPで考えたターゲット市場の中でも、特にお客様の課題が明確、かつ小さい市場で、できれば自社の強みが活きる市場です。

たとえばアマゾンは、インターネットが急速に普及し始めた1993年に、創業者のジェフ・ベゾスがインターネット物販の可能性を予見し、「世界最大のオンラインストアを作ろう」と考えて作られた会社です。

しかしベゾスは、最初からあらゆる商品を揃えませんでした。逆に「オンライン販売可能な商品」を20種類挙げた後、5種類(CD、コンピュータハード、コンピュータソフト、ビデオ、書籍)に絞込んで、最終的に書籍に決めたのです。

当時、オンライン販売最大の障壁は「人は実際に商品を手に取らないと、なかなか買わない」。しかし書籍ならば、書籍タイトルが同じ新品の書籍ならば、どれも同じ商品です。

そしてアマゾンは書籍オンライン販売を制覇した後、同じ商品の性質があるCDに商品を広げて、再び制覇しました。そして次第に書品ラインアップを広げて、今に至っています。

セブン-イレブンも、1974年に東京江東区豊洲で一号店を開店しました。この時の合い言葉は「江東区から一歩も出るな」。江東区の市場を制覇した後、徐々に商圏を拡げて行きました。47都道府県に全て出店したのも、ローソン・ファミマの後でした。

このように、市場参入時には、市場を広げるのではなく、逆に徹底的に絞り込むことが重要なのです。

市場を絞り込めば、たとえその市場が小さくても、その市場の中では圧倒的強者になり、ライバルは対抗できなくなります。そしてその市場に安住せずに、徐々に周辺市場に拡げていき、周辺市場を制覇する。これをひたすら繰り返していくのです。

このような「絞り込んだ市場」のことを、「TAM」(Total Addressable Market)と呼びます。

多くの新規事業では、初期段階はリソースが十分にありません。だからこそ、市場参入には、マーケティング戦略(STP)で考えたターゲット市場の中でも、ターゲット顧客と顧客ニーズが明確かつ自社の強みが活きるTAMをまず選び抜いて、リソースを全投入して制覇することがカギなのです。

     

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「都内23区は億ションだらけ」のウソ

最近、「マンション価格が高騰している」と言われていますね。

2023年、東京23区の新築マンションは、ついに平均価格1億円を超えて、1億1483万円になりました。

「もう都内でマンションに住むのはムリ!」と思ってしまいますよね。

でもちょっと待ってください。これは、実は統計のトリックなのです。

2024年8月10日の日本経済新聞の記事「東京23区、億ションだらけは誤解」に詳しく解説されています。この記事のソースである不動産経済研究所の調査も深掘りしながら、解説したいと思います。

世の中では、様々な新築マンションが売られています。価格はバラバラです。

ただ、バラバラにデータを見ても、人間は何が何だかわかりませんので、統計学では、データのバラツキと特徴を見る方法がいくつかあります。

平均値…一般的に使われるのが、コレ。全体の合計を取って、サンプル数で割ります。「東京23区の新築マンションは、ついに平均価格1億1483万円」は、これですね。

実は平均値には問題があります。大き過ぎたり、小さ過ぎる数字があると、その影響を受けてしまうのです。

たとえば一番高いマンションは「三田ガーデンヒルズ」の45億円(専有面積376.6平米)でした。2023年の東京23区の供給戸数は11,909戸。大雑把に見ると、この1戸だけで平均を約370万円も底上げしています。他にも10億円超の超高額物件が多かったので、平均が上がったのですね。

中央値…バラバラなデータを大きい数字から小さい数字へと順番に並べてみて、ちょうど真ん中にある数字のこと。東京23区の中央値は8200万円です。

中央値で見ると、「極端に大き過ぎる、または小さ過ぎる」数字の影響はなくなって、実態に近い数字になります。

そして平均値と中央値の差を見ると、どれだけ極端な数字の影響があるかがわかります。2023年の東京23区では、3283万円です。

ちなみに過去の推移は、不動産経済研究所のサイトで確認出来ます。

    平均値  中央値  差
2023年 11,483万  8,200万 3,283万
2022年  8,236万  6,898万 1,338万
2021年  8,293万  6,830万 1,463万
2020年  7,712万  6,592万 1,120万
2019年  7,142万  6,298万  844万
2018年  7,089万  6,250万  839万

2014年  5,994万  5,408万  496万

2023年は、超高額物件の影響を大きく受けていることがよくわかりますね。

超セレブ層の人たちでない限り、10億円を超える物件に住むことはないでしょうから、今のところ「23区内のマンションは、もう1億円超えた。住むのはムリ」と悲観する必要はなさそうです。

「平均値」「中央値」という考え方は、小学校6年の算数で学ぶ統計学の初歩なので、思い出した方も多いかもしれません。

こういったちょっとした統計の知識があれば、メディアでセンセーショナルに報道される数字に惑わされることは減ると思います。

     

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朝活永井塾 第90回『ビジネスの本質が学べる アダム・スミス「国富論」』を行いました

8月7日は、第90回の朝活・永井塾。テーマは『ビジネスの本質が学べる アダム・スミス「国富論」』でした。

テスラCEOのイーロン・マスクは2018年、X (Twitter)にこんなポストをしています。

「アダム・スミス、最高」
(“Adam Smith FTW” FTW は”For The Win”の頭文字で「最高」という意味です)

「経済学の父」と称されるアダム・スミスの主著書『国富論』は、イーロン・マスクの愛読書です。

250年前の本ですが、現代社会でも通用するビジネスの本質が学べる本書は、ビジネスパーソンの必読書です。

ただ残念なことに「国富論? 市場で利己的に行動すれば適正価格が決まる『見えざる手』が書いてある本でしょ」と言う人が多いのが現実です。これはアダム・スミスの意図とはだいぶ違うのです。

本書が英国で刊行された1776年当時、英国では商品や貨幣の交換の場として「市場」が急成長していました。しかし当時は「経済学」という概念はなく、市場の概念をうまく説明できる理論も存在しませんでした。この難題に挑戦したのが、スミスです。

スミスは「どうすれば国家は豊かになるのか?」と考え、膨大な経済の出来事をベーコン以来伝統のイギリス経験論を駆使して地道に調べ上げて考え抜き、10年かけて書き上げたのが本書です。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、ビジネスパーソンの視点で、仕事で役立つ経済学の源流を学んでいきました。

『国富論』 (アダム・スミス著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・9月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『ビジネスパーソンが現代の経済を理解するための ケインズ経済学とフリードマン経済学』です。申込みはこちらからどうぞ。

「お金と時間」の管理術

お金と時間。

全く違うものですが、似ている点があります。
両方とも予定を立てて管理しないと、いつの間にか消滅することです。

「あれ? お金があんなにあったのに、いつの間にか減ってる」という体験をしている人は、多いのではないでしょうか?

また小学生の頃に「夏休みが40日か。いっぱいあるなぁ」と思っていても、いつの間にか8/31になって終わった、ということは誰でも経験していると思います。

一方で、お金と時間は、まったく違う点もあります。

時間は放っておくと、つい使わないままに、どんどん減ります。だから時間はちゃんと使う必要があります。

お金は放っておくと、減りません。でも人はついお金を使いたくなります。そして使い始めると減ってしまいます。だから意外なことかもしれませんが、お金は使わないことがポイントです。

つまり時間とお金は、それぞれの特性にあわせて、使い方をうまく管理する必要があるわけです。

では、どうするか?

■時間をうまく管理するには「よい習慣」を身につけることです。

「よい習慣」を身につければ、無意識に「よい行動」を行うようになります。

「よい習慣」とは、読書の習慣、身体を動かす習慣、学んでアウトプットする習慣、人に感謝する習慣、などです。

時間が経過するとともに、こういった行動は蓄積していき、知らない間に大きな成果につながったり、能力が上がったり、その人の人格をつくりあげていきます。

■お金をうまく管理するには、お金は「必要最低限しか入ってこないもの」と考えた上で、出ていくお金をその金額を超えないように維持することです。

お金が貯まる人は、収入が多い人ではありません。入ってくるお金よりも、出ていくお金が少ない人です。

年収2000万円でも、豪華タワマンに住みお金がかかる暮らしをして、年間2000万円の出費がかかると、20年経ってもお金は1円も貯まりません。

しかし年収500万円でも、質素で慎ましい身の丈生活をして出費を年間350万円に抑える生活をすれば、20年経てば3000万円貯まっています。

こうして「一定収入以下で暮らしを維持するようにする」のも、ある意味で「よい習慣」ですね。

もちろん人によって別の考え方があるでしょう。

たとえば「ケチケチせずに、有り金は全部使っていい体験をすれば、自分への投資になる」という考え方もあります。

もしそういう考え方が自分に合うのであれば、「有り金は全部使う」という考え方で生きていくことで、納得のいく人生になるでしょう。ただお金は貯まらないことも納得した上で、そういう人生を過ごすことです。

人生100年時代です。
私たちは膨大な時間が与えられている素晴らしい時代になりました。

人生は必ずしも時間やお金だけではありませんが、時間とお金をうまく管理できれば、いい人生を送れるようになる可能性がグッと高まります。

時間を制する者が、人生を制する時代です。そしてお金と時間は密接な関係があります。うまく時間を使えば、膨大なお金が得られます。

自分流の時間とお金の管理方法を身につけたいものです。

     

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マーケティングの基本「STPと4P」で陥りがちな罠

マーケティングの基本はSTPと4Pです。

しかし日本企業では、マネージャーや経営幹部レベルでも「STP? 4P? それって何ですか?」という人が多いのが現実です。

さらにSTPと4Pを考える上で、多くの人が陥りがちな罠があります。

そこでその「陥りがちな罠」について紹介する前に、そもそもSTPと4Pとは何かを紹介しましょう。

■STPと4Pとは何か?

STPでは、次の3要素に分けて「どの市場をどう攻めるか」を考えます。

セグメンテーション(Segmentation):市場をどのように細分化し…
ターゲッティング(Targetting):その中でターゲットにするお客を決めて…
ポジショニング(Positioning):そのお客にどう認識してもらうかを考えること。

このSTPが「戦略策定」です。そしてこのSTPに基づいて、具体的なマーケティングを実施するための施策が4Pです。

製品戦略 (Product):どんな価値を顧客に提供するのか?
プロモーション戦略 (Promotion): どうやって製品の価値を伝えるのか?
価格戦略 (Price):その価値にどんな値付けをするのか?
チャネル戦略 (Place):その価値をいかに提供するのか?

つまりSTPで「どの市場をどう攻めるか」を考えた上で、具体的に市場を攻める施策を4Pで考えるわけです。

マーケティングでは、このSTPと4Pを考えるのが出発点です。

海外の先進国にいるマネジメントレベルのビジネスパーソンにとっては、マーケティングは必須科目であり、この「STP+4P」の概念は普通に通じます。

なぜなら、商品開発戦略、営業戦略、さらに経営戦略をちゃんと考えるには、このSTPと4Pが必須になるからです。彼らにとってSTPと4Pは「読み書き算盤」なのです。

しかし先述のように、日本ではマネジャーレベルでも「STP? 4P? それっておいしいの?」状態。そこで私は企業向けマーケティング研修では、先ずSTPと4Pの考え方をお伝えした上で、自社の既存商品のマーケティング戦略をSTPと4Pで読み解くことを考えていただくようにしています。

ただここで大きな課題があるのです。

■STPと4Pを策定する前段階のプロセスがある

STPと4Pをしっかり考えて成果を生み出すには、次の4ステップが必要です。

【ステップ1】顧客の課題とターゲット顧客を考える
【ステップ2】STPを考える
【ステップ3】4Pを考える
【ステップ4】STP+4Pで相乗効果が出てるか、確認する

しかし実に多くの場合、ステップ1の「顧客の課題とターゲット顧客を考える」ができていないのです。具体的には、「顧客は誰なのか?」「何に困っているか?」が見えてこないのです。

マーケティングの出発点は「顧客視点」です。顧客が抱えている誰も解決できない「生の悩み」を発見して、誰よりもいち早く解決策を提供した企業が、市場で勝利します。

つまりSTPを考える前段階にあるのが「顧客の課題とターゲット顧客の把握」なのです。STPはそこで見つけた顧客の課題を、ブレイクダウンして表現したものなのです。

「いや、私はお客様の課題はよくわかってますよ。ただ表現していないだけです」とおっしゃる人も多いのですが、「では、お客様の課題を教えて下さい」というと、うまく説明できないことも多いのです。

実は「わかっているつもり」と「説明できること」の間には、大きなギャップがあります。「わかっているつもり」のことは、言語化できない限り、説明できないのです。そして多くのビジネスパーソンが弱いのが、この「顧客の課題を、わかりやすく表現できる言語化能力」なのです。

この「顧客の課題を、わかりやすく表現できる言語化能力」が弱いので、顧客不在の商品が量産されてしまうのです。

これはスキルです。スキルですから、トレーニングで鍛えることができます。

ですので、「顧客は誰なのか?」「何に困っているか?」を常に言語化した上で、考え続ける習慣をつけましょう

そこでマーケティング研修では、私は受講生の皆様に「お客様は、誰なのですか?」「そのお客様は、何にお困りなのですか?」と常に問いかけ続けて、自分の言葉で言語化するのをお手伝いするようにしています。

私のマーケティング研修を受講されるビジネスパーソンの皆様は、実は答えを自分の中に持っています。それを引き出すお手伝いをしているわけです。言わばマーケティングのコーチングですね。

そうして「ターゲット顧客」と「その顧客の課題」を、考え続ける習慣をつけていただくのです。

これができることが、強いSTPと4Pを考えて、強いマーケティング戦略を策定する出発点になるのです。

     

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衰退市場はない。努力しない会社があるだけだ

企業に勤めるビジネスパーソンの皆様とお話ししていると、こんな話をよく伺います。

「ウチの業界って、衰退市場なんですよね。色々と頑張っているんですけど、市場がシュリンクしているのでどうしようもないんですよ」

今から64年前の1960年に「それは大間違いだ」と言ったのが、マーケティングの大家セオドア・レビットです。こうおっしゃる方は、昔からいたようですね。

レビットは歴史的論文「マーケティング近視眼」でこう述べています。

『事業衰退の原因は経営の失敗にある』

『成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである。失敗の原因は経営者にある。つまるところ、責任ある経営者とは、重要な目的と方針に対応できる経営者である』

『実は成長産業といったものは存在しない、と私は確信している。成長のチャンスを創り出し、それに投資できるように組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できるのだ。何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する』

確かに、自社が成長しないのを市場のせいにしている会社の方とお話ししていると、受け身でビジネスしていることが実に多いのです。

「お客さんから値引きの要請ばかり。困ったもんだ」
「コストが増えたけど、価格に転嫁できないんですよね」
「『価値を創れ』なんてアナタは言うけど、そんなの現場を知らない理想論ですね」

そんな方に、「でもいまの商品って必ず寿命がありますよね。新たなビジネスを立ち上げるために、何していますか?」とお伺いすると、「忙しくってそんなヒマ、あるわけはないよ」

まさにレビットが『何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する』と言った通りになっていますよね。

成長する会社は、成長市場にいるから成長するのではありません。

成長する会社は、成長するための努力をした結果、成長市場を創り出し、成長しているのです。

ネットフリックスはビデオレンタル業界で創業しましたが、創業間もない弱小企業だった時期に「この市場の正体はヤバい」と考えて、ネット配信の切り替えました。その結果、いまやあのGAFAMに準ずるほどの規模に成長しています。

一方で、ネットフリックスがこの判断をした際に規模が100倍ほどあったビデオレンタル業界最大手のブロックバスターは、リアル店舗運営にこだわり続けた末に衰退を続けて、2010年に破産しました。

ブロックバスターが破産したのは、衰退産業にいたからではありません。ネットフリックスのような努力を怠ったからです。

あなたがいる業界は、衰退産業ですか?
そしてあなたは、成長するためにどんな努力をしていますか?

     

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セブンとマクドナルド、接客技術を競う全国大会から学べること

https://www.mcdonalds.co.jp/sustainability/people/hamburger_university/ajcc/ より引用

セブン-イレブンが接客技術を競う全国大会を行っていることをご存じでしょうか?

2024/7/1付の日経MJに、詳しい記事が掲載されています。

特定の研修を終えた全国63,000人のうち、2,476人が各地の地方大会に出場。決勝では22人が「来店客に対してレジ前で日常会話しながら会計する接客」と「店内に常連客におすすめ商品を提案する接客」という二つの接客を行い、審査員が五項目で採点しました。

優勝は、神戸三宮駅南店(神戸市)の店員で、ベトナム出身のレ・ティ・フン・タオさんでした。

記事では大会の狙いを次のように紹介しています。

「接客大会は、接客の技術を磨くほかに、従業員の定着率を高める狙いがある。セブンによると、人手不足の店舗では、人材が定着せず、採用や退職する人数が多い傾向があるという。接客のレベルを評価する大会や制度を設けることで、外国人も含めて従業員のやりがいを高める」

実はこの大会、第2回目です。第1回目は、昨年の2023年。

その時の優勝者インタビューが、セブンのホームページに『日本一を目指して!お店全体の接客スキルが向上「接客コンテスト」』というタイトルで掲載されています。

この時の優勝者は、長岡中島7丁目店の小西翠さん。小西さんはインタビューで次のように語っています。

「もともとセブン-イレブンの商品が好きで、前職での接客の経験も活かせることからこの仕事を始めました。発注作業を任されるようになると、ますますやりがいを感じ、ご年配のお客様も多いことから、接客に関してもお声かけや対応も自分なりに工夫するようになりました。」

店舗オーナーである藤田浩士さんのインタビューも掲載されていました。

「周辺には競合店や似たような商品・サービスを提供する店が多く、売り上げは今ひとつ。どうしたら差別化が図れるか考えてたどり着いたのが、積極的なお声がけに始まる、徹底したフレンドリーサービスです。」

このセブンの接客大会、素晴らしいですね。

日本マクドナルドも、AJCC(オール・ジャパン・クルー・コンテスト)という全国のクルー(店舗従業員)のオペレーションコンテストがあります、全国店舗から勝ち抜いて年間最優秀者を選びます。

このAJCCが始まったのは1977年。毎年開催していてもうすぐ50年。累計参加者数はなんと300万人です。

7年前に著書執筆の際に、日本マクドナルドさんのご厚意で、私はこのAJCCを取材する機会をいただきました。

都内にある実店舗で、全国選出の精鋭クルーが集まり、実際の接客を審査員が採点していきます。参加クルーは10代後半から20代。

その夜はホテルに集まり、接客各部門の表彰式。

笑顔でガッツポーズする人や、感動のあまり泣き出す人も出て、最後に「今日の店舗の売上は、これまでの最高の○○○万円でした」と発表があると、全員がコンサート会場のように拍手喝采。まるで甲子園で優勝したチームメイトでした。

マクドナルドには「ハンバーガー大学」という研修施設もあります。ここでクルーはハンバーガーの作り方以外に、コーチングの実際のやり方、店舗マネジメントの方法など、実に様々なことを学べます。さらに同社では、新人アルバイトとしてクルーを始めて、店長になるまでのキャリアの道のりも明確です。

これらの仕組みがあってこそ、マクドナルドのクルーは育っていくのですね。

サービスの現場では、職場でやる気にあふれた従業員によって顧客満足が生まれます。従業員満足が、顧客満足を生み出すのです。

そこで大事なのが、内発的動機づけの仕組みを理解することです。

内発的動機づけで重要なのは「自己決定感」です。そして「自己決定感」で重要なのが、「自律性」(「これは自分で選んだことだ」という意識)と「有能感」(「自分ならできる」という意識)です。

セブンの接客大会や、マクドナルドのAJCCや様々な仕組みは、従業員のスキル向上と内発的動機づけを生み出していく仕組みでもあるのです。

さて、いまどき「お客様満足が大事だ」ということを知らない人はいないでしょう。

そしてサービス業に携わる多くの方々は、「お客様満足のためには、従業員のスキル向上と、従業員満足が大事」ということも、百も承知です。

問題は、それをいかに実現するかです。

「お客様満足が大事」「従業員スキル向上と従業員満足が大事」という掛け声だけは勇ましいけども、現実にはコスト削減で頭が一杯。「従業員のスキル向上の仕組みに投資すること」など、頭の片隅にもない…、という会社ほど、「売上減少→コスト削減→モチベーションとスキル低下→さらなる売上減少」という悪循環にはまっていることが、実に多いのが現実です。そしてその先にあるのは、廃業です。

そんな状況を避けるには、今の状況で、どんな仕組みが作れるのか、真剣に考えていくことが必要なはずです。

セブンやマクドナルドの取り組みから、私たちが学べることは、多いのではないでしょうか?

    

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自社オーダースーツ+革靴で、槍ヶ岳縦走に挑戦する社長の話

写真はhttps://youtu.be/dJ5R0bUKy5gから引用

以前、ある有名な老舗オーダースーツ屋さんの関係者から聞いたお話です。ここは100万円を超える高価格なことでも有名なお店です。 

「価格ですか? お客の顔を見て決めますね。お金持ちそうだったら当然、高く取りますよ」 

この話し、あなたはどう思いましたか?

私はお話を聞いていて(こういう姿勢って、一体どうなのかなぁ)と思いつつ、(この店では、自分はスーツは作りたくないなぁ)と思いました。

オーダースーツって本当に適正価格なのか、疑いだしたらキリがありません。

そんなことを常々考えていたら、こんな動画が話題になっていました。

【登山】オーダースーツで槍ヶ岳に登ってみた【オーダースーツSADA】【さだ社長】

槍ヶ岳は、飛騨山脈にある標高3180mの山です。先が尖っているので「槍」の名がついています。切り立った稜線と足場の悪いガレ場が続く超難関コースです、時々、滑落事故で死亡者が出ます。私もたまに山登りをしますが、「槍ヶ岳は絶対ムリ」と思ってますので、絶対に寄りつきません。

しかし動画の「さだ社長」は、なんとビジネススーツ+Yシャツ+ネクタイ+革靴+ビジネスバッグというお姿で、ふもとの上高地を出発し、槍ヶ岳の山頂に到達。さらにその先にある奥穂高岳、さらに西穂高岳の縦走に挑戦しているのです。

私はその一番最初のポイントである涸沢ヒュッテまで登ったことがあります。この初心者コースでも、こんな格好ではとてもムリです。

しかし「さだ社長」は、この通勤姿で、並みいる完全装備の登山者を次々と追い越して難所もすいすい登ります。凄い身体能力です。

この「さだ社長」、1961年創業の「オーダースーツSADA」の社長で、その前進である服飾雑貨卸商から数えて4代目です。

なぜこんなことをやっているかというと、「SADAのオーダースーツの耐久性と運動性を確認するため」だそうです。

この動画の最後で、一通り縦走を終えた西穂高山荘の前で「さだ社長」は、こう語っています。

「どうですか? 見てください。このままビジネスミーティングに出られるレベルを維持できていると思いませんか? SADAのオーダースーツは槍ヶ岳、穂高岳、西穂高岳を縦走しても大丈夫です! 以上です!」

実際に自社のオーダースーツを着て、難所の縦走に挑戦し、見事クリアしています。なかなか凄い説得力です。

ちなみにSADAのオーダースーツは、「良いものを適正な価格で市場に提供する」ことを目指して、19,800円からオーダーできるそうです。

そのためにお客さん一人一人のパターンを起こして、CAD上でパターンを設計して、職人のハンドメイドではなくマシーンメイドでフルオーダースーツを作れるようにしています。

サイト上の「有名人お仕立て実績集」には、元首相の菅義偉さんをはじめ、スポーツ選手、芸能人等、様々な人が掲載されています。

現代のマーケティングコミュニケーションは、20年前と比べて大きく変わり、「ありのまま正直かつ誠実に伝えること」が重視されるようになりました。

その理由は、現代では「ウソはいつか必ずバレる」からです。

ネットが存在しなかった20世紀までは、企業は情報をある程度は隠蔽できました。だから消費者と企業に間には情報格差がありました。この情報格差を「情報非対称性」とも言います。

しかしネットやSNSが普及した今、情報格差=情報非対称性は消滅しました。

これまで隠蔽し続けられてきた情報でも、社内で(これってどうなのかなぁ)と疑問を感じた正義感ある社員や取引先によって、いつの間にか社外に漏れたりします。最近の企業の不祥事って、このパターンが多いですよね。

そしてウソがバレると、企業が長年かけて築き上げたブランドは、大きく崩壊します。

自社オーダースーツを着て槍ヶ岳を縦走する「さだ社長」は、このことを身体で完璧に理解していると思いました。

現代のマーケティングコミュニケーションで必要なのは、「過度に盛る」ことではありません。「正直に、誠実に、ありのまま伝えること」です。

あなたの会社のマーケティングコミュニケーションは、正直、誠実で、ありのまま伝えているでしょうか?

    

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朝活永井塾 第89回『悪いヤツに騙されないための「影響力の武器」』を行いました

7月3日は、第89回の朝活・永井塾。テーマは『悪いヤツに騙されないための「影響力の武器」』でした。

私たちは自分で考えているつもりでも、実はかなり他人の影響を受けています。その仕組みと対処法を紹介した世界的なロングセラーが、米国を代表する社会心理学者チャルディーニの著書『影響力の武器』です。

本書にはセールスや募金勧誘業などへのリアルな潜入体験が盛りだくさん。だから説得力があります。

私たちは普段の生活で「思考の近道」を使っています。常に考え続けると疲れてしまうので、思考を省略してもいい時、人は簡便法を使うのです。

たとえば私たちが商品を買う時、品質が価格に見合うかを詳しく調べず「高いからいい商品なのだろう」というスイッチが入るのはその一例です。このおかげで私たちは、日々の生活で大量の判断が必要でも対応できます。

ただ中には、この思考の近道を悪用し詐欺まがいの方法で相手にイエスと言わせる者もいます。そこで本書は相手にイエスと言わせる戦術を心理学の原理に基づき分類して紹介しています。

私たちビジネスパーソンは、日々の仕事で常に交渉しています。 そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、相手の攻撃パターンを理解し、よりよき交渉をするためにも、「影響力の武器」から学んでいきました。

『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・8月7日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『ビジネスの本質が学べるビジネスパーソン必読書 アダム・スミス『国富論』』です。申込みはこちらからどうぞ。

「1on1やってるけど何かダメ」の原因

部下やチームメンバーを持つビジネスパーソンの方々とお話しすると、様々なご相談をいただきます。

その中でも多いのが「チームがうまくまとまらない」というもの。

会社からは、自分のチームに方針が降ってきます。
一方で自分のチームには色々な人がいて、まとまりません。
「こういう方針だから」と伝えても、伝わったのかどうかよくわからず…。
定例会議をしても、誰も意見を言いません。
チームメンバーは一体、何を考えているんでしょうか?

…こんな感じです。

こんな状況を打開すべく、チームメンバーを理解するために最近広がっているのが「1on1ミーティング」(以下、1on1)です。ちゃんと時間を取って、チームメンバー一人一人と向き合って話す場を定期的につくる、というものです。

しかし、こんな人が多いのも現実です。

「1on1? やってるんですけど、何かダメですね」

実は、これには原因があります。

「1on1やってもダメ」という人にお話しを伺うと、多くの場合、コーチングとティーチングの違いをまったく理解していないのです。そしてコーチングスキルを学ばないまま、ティーチングの方法論で1on1をやっているのです。

「え? コーチングとティーチングって、同じでしょ?」と思ったとしたら、要注意です。こんな状態だと、1on1をやればやるほど逆効果です。

■ティーチングの基本は「知らないことを教える」ことです。

基本は「答えは、私が知っている。だから教えてあげよう」。 たとえば、部下から「○○○で困ってて…」という相談を受けて、「□□□するといいよ」と答えます。

■コーチングの基本は「その人の中の答えを引き出す」です。

基本は「答えは、私でなくその人の中にあるから、その答えを見つけられるように支援しよう」。 たとえば、部下から「○○○で困ってて…」という相談を受けて、「問題は何だと思う?」と尋ねます。「△△だと思います」という答えに対して「なるほどねぇ。ではどうしようか?」というように進みます。

つまりティーチングとコーチングは、正反対なのです。

でも「なんでそんな面倒くさいことやるの? ティーチングの方が手っ取り早いでしょ」と思うかもしれませんね。

実は長い目で見ると、コーチングの方が圧倒的なパフォーマンスを生み出すのです。

たとえばお客様でトラブルが発生したときの対応を考えてみましょう。

ティーチングだとこうなります。

部下「お客様からクレームです」
上司「□□□をしなさい」
部下「了解です」

手間は少なく最短で問題解決ですが、部下は受け身なので学びは少なく、当事者意識も育ちません。

コーチングだとこうなります。

部下「お客様からクレームです」
上司「どう対応すればいいと思いますか」
部下「☆☆なので、△△だと思います」
上司「なるほど。他に代替案はありますか?」

手間はややかかりますが、部下に当事者意識が生まれ、学びも深まります。

ほとんどの企業は、例外なく「社員のやる気を重視している」とおっしゃいます。この「やる気」、つまり心の中から「これをやりたい」と感じる内発的動機付けは、ご本人の自律性と有能感から生まれてきます。

コーチングは、相手の自律性と有能感(≒内発的動機)を重視した方法論なのです。

逆にティーチングは、やり方を間違うと部下の自律性と有能感(≒内発的動機)を損ないかねないのです。

1on1も同じです。

「1on1やってるけど、何かダメ」という方は、多くの場合、マネジャーの独演会になっていたりします。つまり部下は黙ったまま、マネジャーがずっと話しているのです。

皆さんが部下の立場で、こういう1on1はどう感じるでしょうか?

私だったら「この1on1、意味不明だなぁ。早く終わらないかなぁ」と思ってしまいます。

つまり1on1がうまくいかない最大の理由は「マネジャーのスキル不足」に尽きるのです。

ここで一点、補足があります。「ティーチングがダメ」というわけではありません。

ティーチングとコーチングのどちらが適切かは、職務レベルとご本人の能力の関係で決まります。

職務レベルに比べて部下の能力が未熟な場合は、部下自身が答えを持っていないことも多いので、ティーチングが適切です。しかし職務レベルと部下の能力が見合っている場合は、コーチングが適切です。

そして現代では、マネジャーが現場のすべての状況を把握するのは困難です。現場は現場を熟知する部下が一番わかっています。ですので、デフォルトはコーチングから入り、必要ならティーチングに切り替えるのが現実的でしょう。

 

いずれにしても、「1on1やってるけど、何かダメ」という方は、コーチングのやり方をしっかり学ぶことをオススメします。(永井経営塾にご入会の方は、「必修カリキュラム30」の27番目にありますので、ぜひご覧下さい)

    

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21年ぶりのフィルムカメラ「Pentax 17」は、なぜ生まれたのか?

ほんの20年前まで、写真はフィルムカメラで撮影することが当たり前でした。

フィルムカメラは厄介です。撮影しても、写っているかはわかりません。フィルム現像後、はじめて撮影できているかがわかります。フィルム現像を確認する時は、ちょっとしたワクワク感があります。よく写っていると「やったー!」となりますが、私の場合、7〜8割は「ピンボケだ…」「シャッターチャンスを逃した…」とガックリしていました。

デジカメになって撮影結果がすぐ確認できるようになりました。撮影し直しも簡単。便利になり失敗もなくなりましたが、現像前のあのワクワク感はなくなってしまったように思います。

さらにフィルムカメラの写真は、アナログ独特の手触り感もありました。デジカメになって、この手触り感がなくなりました。(これって何なのかなぁ?)と思いますが、写真を拡大した時、デジカメだと各画素が規則正しく正方形の形状になります。でも自然界にはこんな規則正しさはありません。これに対して、アナログ写真を拡大すると、銀塩フィルム独特のゴツゴツした不規則な粒状性を残しています。これがアナログ写真を自然に感じる独特の手触り感に繋がっているのかもしれません。

こんな中で、2024年6月18日、リコーが「国内で21年ぶりとなるフィルムカメラの新型機を発売する」と発表しました。それが

Pentax 17

です。ちなみに往年の名機Pentaxを世に出し続けた旭光学工業は、現在はリコーの子会社であるリコーイメージングとなっています。

このカメラは、当プロジェクトのプランニングとデザインを担当されたTKOさん(鈴木タケオさん)さんが、2022年12月からユーチューブで「ペンタックスフィルムプロジェクトストーリー」として情報発信し続けてきて、情報発信開始から1年半かけて形になったものです。(TKOさんは製品発表時に、YouTubeでこのカメラにかけた熱い思いを語っています。→リンク

「今さらフィルムカメラ?」と思ってしまいますが、現代でもデジタルカメラで失われたあの手触り感を求めてフィルムカメラを愛用する人たちはいます。

一方で問題もあります。

まず現在のフィルムカメラは、中古しかありません。価格は上がっていますし、メーカー保証もありません。故障したら直せないわけです。ちなみに我が家の物置にも、使っておらず動くかどうかもわからない古いフィルムカメラがゴロゴロあります。(笑)

カメラメーカーでも、技術も失われつつあります。

フィルムカメラの図面は残っていますが、製品は図面だけでは作ることはできません。技術者が持つ独特の感覚や技術といった暗黙知は、図面という形式知だけでは表現できないからです。そしてそんな暗黙知を持つ技術者が、定年を迎えて引退しつつあります。

失われつつある技術を伝承し、フィルムカメラを残しているタイミングは、今しかなかったわけです。

そこでフィルムカメラ独特の手動操作の感覚を復活させるために、現代の技術を活用して、引退した技術者も話を聞きながら設計し直したのが、Pentax 17です。

このカメラ、ハーフサイズです。36枚撮りフィルムで72枚撮影できます。

昔フィルムカメラを使った人たちからすると「ハーフサイズカメラ=初心者向け」と思いがちですが、Pextax 17をハーフサイズにしたのは二つ理由があったそうです。

理由1:ハーフサイズだと写真は横長でなく縦長になる。スマホで縦位置で撮影している人が増えているので、現代では違和感なくSNSなどでアップできる
理由2:撮影コストが減らせる

ちなみにPextaxでは伝統的にカメラ名にフィルムサイズを入れることがあります。たとえばPentax 67、Pentax 645、Pentax Auto 110というカメラは、どれもフィルムサイズがカメラ名になっています。

「Pentax 17」という名称も、フィルムのハーフサイズを意味しています。ハーフサイズなので36mm x 24mmの半分。かつてハーフサイズカメラを量産したリコーでは、このサイズを24mm x 17mmにしていました。ここからPentax 17という名前になったそうです。

色々と制約がある中で、カメラ性能にはこだわっています。

まずレンズの性能。いろいろと試した結果、クリアな描写が再現できる名機エスピオミニのレンズを元に再設計しました。

露出は自動です。一方でバルブも可能なので、花火も撮影できます。

またピントは手動になります。「ゾーンフォーカス」といって、「1人」「3人」「山」といった絵にあわせて目測でピント合わせをします。

ボディは、名機と言われたPextax LXチタンのカラーを再現し、マグネシウムの軽量・堅牢な外装。カメラの正面に使うネジも、精密機器らしさを表現するために、工場にかなりムリを言ってプラスネジではなくマイナスネジを使ったとのこと。

マーケティング的に考えても、かつてフィルムカメラ市場は超レッドオーシャン市場でしたが、現代では新たなフィルムカメラは20年以上なかったわけで、真っ新のブルーオーシャン市場になっています。

発表の翌日2024/6/19、リコーはホームページ上で『ハーフサイズフォーマット単焦点フィルムコンパクトカメラ「PENTAX 17」 お届け予定についてのお知らせ』というニュースを掲載しています。

–(以下、抜粋)–
当初の想定を大幅に上回るご予約をいただいており、現在の供給状況から製品のお届けまでにかなりの時間を要する見込みです。既にご注文いただきましたお客様につきましても、発売日以降の商品お届けとなる場合がございます(中略)

…リコーイメージングストアをはじめ公式ECサイトでは、製品供給に一定の見通しが立つまで、ご注文の受付を一時停止させていただきます。受注再開の時期に関しましては、弊社ECサイト等にてあらためてご案内いたします。
–(以上、抜粋)—

熱狂的なファンに支持されている様子が伝わってきます。実際にネットを見ると、実際にPentax 17を先行して使った熱狂的ファンの体験記がアップされています。

フィルムカメラ市場が急拡大することはないと思いますが、意外と温度が熱いニッチ市場に育つ可能性があるかもしれません。

プランニングを担当されたTKOさん(鈴木タケオさん)さんはYouTubeで、「アナログの世界を広げるためには、一歩一歩。一足飛びにはハイエンドまで行けません。少しづつ仲間を作り実績を作りながらなんです」と語っておられます。

このプロジェクトから私たちが学ぶべきことは、

「大きな志を持って、まず最初の小さな一歩を刻むこと」

この「ビッグピクチャーを心に描きながら、スモールスタートで始める」ことがとても大事なことではないかと思いました。

    

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コロナ禍のハイネケンのシャッター広告が秀逸

参照 https://youtu.be/HrHk94Af5oo

コロナ禍で、多くの飲食店が休業を余儀なくされました。
これはビール会社にとっても大きな危機でした。

特にビール会社の広告部門は、広告宣伝に大金を投じています。
コロナ禍で、広告宣伝をどうすればいいのか?
ありがちな手が「とりあえず自粛する」です。

しかしハイネケンは大胆な手を打ちました。

その広告が、2024年6月6日の日本経済新聞の連載『【十選】世界を変えた公共広告(4)ハイネケン「Shutter Ads」』で紹介されています。

それまでハイネケンは、ビルボードなどの野外広告に750万ユーロ(約13億円)を使っていました。

これを見直し、欧州と南米で休業する5,000店を超えるバーのシャッターをメディアとして購入し、そこにこんなビールの広告を出稿したのです。

See this ad today, enjoy this bar tomorrow.
(今日はこの広告を見ておいて、明日はこのバーで楽しみましょう)

この広告で、コロナ禍でダメージを被ったバーに合計13億円がそのまま入るわけで、資金的に大きな支援になりました。さらにキャンペーンとしても大きな話題を提供しました。ちなみに競合のビール会社も競って同じ取り組みを始めました。こういう模倣は、困っているバーを助けるわけで、とてもいいですね。

ハイネケンのブランドパーパスは

私たちは、より良い世界の実現のために、真の一体感ある喜びを醸造します
We brew the Joy of True Togetherness to inspire a better world

です。

この広告は、まさにブランドパーパスを体現した施策です。

「危機の時ほど、何をすべきかを考えるには、自社のパーパスに立ち返るべき」ということを、この広告の事例は教えてくれると思います。

    

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数学の基本的な解き方がわかれば、TOEICもビジネス課題も解ける

ビジネスでも勉強でも、その本質は「問題解決」です。
何らかの問題が与えられ、その問題をいかに解くかが問われるのです。
そして問題解決には、鉄壁の原理原則があります。

その原理原則が書かれているのが、「世界のエリートが学んでいる教養書必読100冊を1冊にまとめてみた」のBook 92でご紹介した、数学者G.ポリアが1945年に書いた名著「いかにして問題をとくか」です。

数学教育に尽力した著者ポリアの生徒に、のちにコンピュータの基本原理を作った天才フォン・ノイマンがいました。現在のコンピューターのほとんどはノイマンが考えた原理に沿って動く「ノイマン型コンピューター」です。

本書はポリアが、抜群に頭の回転が速かった天才ノイマンの才能に恐怖を抱き、「ノイマンのような天才がなぜ誰も解けない問題を簡単に解けるのか」を20年間考え続けた結果をまとめた本、といわれています。

そのカギは本書の冒頭40ページに具体的な例とともにまとまっています。

問題を解くには、下記4ステップを行うことです。

❶ 問題の理解:まず問題を正しく理解する
何が未知か? 何が与えられたか? 何が条件か?

❷ 計画を立てる
既知の事実で何か使えるか検討。❶の未知をよく見て「過去に似た問題はないか?」「問題言い換えられないか?」「問題を分割できないか?」を考える。

❸ 計画の実行
計画に沿って各段階を一歩一歩進める。❷の計画を忘れないことが大事。

❹ 振り返り
常に誤りの可能性があるので、必ず検証する。全データを使ったか? 別のやり方では?

「え? これだけ? 当たり前じゃん」と思ってしまう人は多いのではないでしょうか? しかし実際に出来ている人は意外と少ないのです。逆にこの4ステップを確実に身につけることができれば、あらゆる難問が解決できるようになります。

そこで、数学、TOEIC問題、ビジネスの課題に当てはめて考えてみましょう。

【数学の問題例】
底辺10cm、高さ5cmの三角形の面積を求めなさい。

❶ 問題の理解:まず問題を正しく理解する
→未知:三角形の面積
→与えられた情報:底辺10cm、高さ5cm

❷ 計画を立てる
→既知の事実で使える情報:三角形の面積を求める公式「底辺×高さ÷2」
→問題言い換え、問題分割は不要

❸ 計画の実行
→公式に数値を代入して計算
→10cm×5cm÷2 = 25cm2

❹ 振り返り
全データを使ったか?→使った

 

【TOEICの問題例】
Select the best answer.

The meeting __ postponed until next week.
(A) was (B) were (C) have (D) has

❶ 問題の理解:まず問題を正しく理解する
→未知:空所に入る適切な単語
→与えられた情報:文全体。A-Dの選択肢(動詞の変形)

❷ 計画を立てる
→既知の事実で使える情報:
・主語が「The meeting」と単数→適切な動詞を選ぶ
・「postponed」が過去分詞形なので受動態→適切な動詞を選ぶ

❸ 計画の実行
→(A)〜(D)で単数形対応の動詞は(A)wasと(D)has
→(A)〜(D)で受動態対応の動詞は(A)wasと(B)were
→両方を満たすのは(A)was

❹ 振り返り
完成文”The meeting was postponed”が正しい文章かを確認する

 

【ビジネスの問題例】
社員の残業時間が増加している。残業削減の対策を考えて、実施せよ

❶ 問題の理解:まず問題を正しく理解する
→未知:「残業が増加している原因」と「効果的な対策」
→与えられた情報:「残業が増加している」という現象

❷ 計画を立てる
→残業増加の原因を特定する調査方法を検討する
・社員インタビュー:各部署の社員数名に、残業理由/業務負担をヒアリング
・業務プロセス分析:業務プロセスを洗い出し、ムダな作業を特定
・データ分析:勤怠データを分析し、残業時間推移やピーク時間帯を把握

❸ 計画の実行
→❷の計画を、下記の通り実施。期限や優先順位を考慮し、作業人数を割り当てる
・社員インタビュー:残業理由や業務負担について深掘りするインタビューガイドを作成し、1週間かけてインタビューを実施。
・業務プロセス分析:業務フローを可視化し、各ステップの時間を実測。2週間かけて時間がかかる業務や無駄な手順を洗い出す。
・データ分析:勤怠システムから過去6ヶ月のデータを抽出。1週間かけて残業時間の推移をグラフ化。ピーク時間帯や特定の部署の残業時間を特定する

→これら調査結果に基づき、ムダな作業削減・撤廃、ピーク時間シフトなどの対策案を立てて、実行する。

❹ 振り返り
→❸の実行結果を評価する。
・効果測定:勤怠データを分析、残業減少度合いを把握し、実施対策が残業時間に与えた影響を確認する。
・フィードバック収集:定期的なアンケートやミーティングを実施し、現場の声を聞いて、対策の効果や問題点を確認。。
・対策の調整:効果不十分な場合や新たな問題が発生したら、対策を再評価して修正。(例:追加トレーニング、リソース再配分)
・定期的モニタリング:残業時間削減が継続的に維持されているかを確認し、必要に応じて追加対策

 

このように、問題解決の原理原則(4ステップ)は、様々な分野で応用が効きます。ぜひ身につけたいですね。

    

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朝活永井塾 第88回『会社に縛られない時代の「サルトルの実存主義」』を行いました

6月5日は、第88回の朝活・永井塾。テーマは『会社に縛られない時代の「サルトルの実存主義」』でした。

サルトルを読むと、たとえばこんな言葉が出てきます。

「実存は本質に先立つ」

「人間は自由の刑に処せられている」

「人間はみずからつくるところのもの以外の何ものでもない」

私は会社員生活を30年続けた後に独立した時、まさにサルトルが言う「人間は自由の刑に処せられている」ということを、リアルに実感しました。

独立すると、24時間365日すべて自分の自由です。

一方で会社という組織の保護膜で覆われて守られてきた一切のモノがなくなります。たとえば「毎月、確実に給料が振り込まれる」という状態は消滅しますし、病気して働けなくなっても自己責任です。

現代では、終身雇用制は事実上なくなっています。会社に縛られない時代になりました。自分の生き方は、自分で決める時代でもあります。

こんな会社に縛られない時代だからこそ、「人間は自由といかに向き合うべきなのか?」を考えたサルトルの実存主義は、役に立ちます。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、会社に縛られない時代にいかに生きるかについて、サルトルの実存主義から学んでいきました。

『実存主義とは何か』(サルトル著/伊吹武彦・海老坂武・石崎春己訳、人文書院)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・7月3日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『「影響力の武器」を学ぼう』です。申込みはこちらからどうぞ。

コーチングとティーチング、実は正反対

弊社では色々な企業様にマネジメント研修を提供していますが、共通して体験するのが、ティーチングとコーチングの違いが理解されていないことです。

「ティーチングもコーチングも、同じだよね」という人が実に多いのです。実は両社は正反対です。

ティーチングの基本は、「相手が知らないことを教える」。この前提は「答えは自分が知っているから、その答えを教えてあげよう」ということです。だからこんな会話になります。

部下「○○で困っているんです」
上司「□□するといいよ」

コーチングの基本は、「その人の中にある答えを引き出す」。この前提は「答えは既にその人の中にあるのだから、その答えを見つけられるように支援する」ということです。だからこんな会話になります。

部下「○○で困っているんです」
上司「問題は何かな?」
部下「△△だと思います」
上司「なるほどね。じゃぁ、どうすればいいと思いますか?」

でもこう感じる人は多いのではないでしょうか?

「ティーチングの方が手っ取り早いじゃん。コーチング、コスパ悪すぎ」

確かに、短期に見るとコーチングは手間がかかります。
でも長期的に見ると、コーチングの方がはるかにコスパがよくなります。

たとえば顧客のトラブル対応を考えてみましょう。

ティーチングだと…

部下「お客様でトラブル発生です」
上司「□□するといい」
部下「了解です」→問題解決

手間は少ないですが、部下の学びは少なく、当事者意識も生まれません。

コーチングだと…

部下「お客様でトラブル発生です」
上司「そのトラブルの原因は何だろう?」
部下「うーん、恐らく△△だと思います」
上司「へぇ。そういうことがあるんだね。どう対応すればいいかな?」
部下「原因は△△ですから、○○するといいように思います」

手間はかかりますが、部下の学びはありますし、当事者意識も高まります。

現代では、あらゆるビジネスがサービス化しています。

従来、「商品を売って終わり」だった製造業も、販売後のサポートや、サブスク型ビジネスで顧客体験(CX)を高めることを、収益に繋げています。こうしたサービスを提供するのは、現場です。ですので、顧客と接する現場で、臨機応変な対応ができることがますます重要になっています。

さらにビジネス環境が激変しているので、上司や経営幹部が知り得ないことがビジネスの現場で起こっています。ですから現場の人が、上司に頼らずに自分で問題を見つけて解決する力が必要になっています。

こんな環境で、上司が部下にティーチングで「こうすればいい」とやり続けるとどうでしょうか? 最も大きな弊害が、部下が自分で考える力が失われてしまうこと。加えて上司の昔の経験は的外れになっている可能性もあります。

ですのでコーチングを通じて、部下が自分で考える力を身につけ、現場で的確な判断が出来るようにする必要があるのです。

偉そうに書いていますが、かくいう私も実は両者の違いがわかっていませんでした。違いを知ったのは20年前。IBMのマーケティングコミュニティで、後進のマーケティングマネジャーの育成を組織的に行おうとした時です。この時、同僚のマーケティングマネジャーが「コーチング手法で、自分で考えられるような人材を育てるべきだ」と提案しました。私はこの時にコーチングの威力を初めて知りました。そしてマーケティング人材育成、その後はソフトウェア事業での人材育成に、コーチング手法を活用していきました。

世の中は凄いスピードで変わっています。かつて上司や経営幹部が現場にいた頃にはあり得ないような変化が、現場では起こっています。

こんな状況で、昔の経験で「こんな場合は、こうした方がいいよ」とティーチングしても、トンチンカンな解決策になりがちです。加えて上司のアドバイスは一種の強制力もあるので、素直な部下ほど言われたとおり従います。だから成果が出ないのです。

また優秀な部下ほど心得ているので、上司の言うことを素直に聞いているように見せかけながら、「ああ、この人はわかっていないんだな」と内心で上司を値踏みして、チャンスがあると会社を離れたりします。

ですから部下と接するときに必要なのは…、

■まず「自分は現場で何が起こっているかがよくわかっていないのだ」と自覚すること

■そしてコーチングを通して一緒に問題を考えながら、部下が持っている答えを引き出していくこと

なのです。

一方で、ティーチングも有効な場合があります。それは求められるスキルレベルに対して、現状のスキルレベルが低い場合です。こんな状況では、ティーチングが有効です。

つまりコーチングとティーチングをうまく使い分ける必要があるのです。

御社の皆様は、コーチングとティーチングの違いを知った上で、使い分けているでしょうか?

    

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当社の方が高品質。でもなぜライバルが高評価なの?

ある製造業に勤めるヤマダさんが、不満そうにこうおっしゃっています。

「当社商品の品質は、業界随一です。業界トップのライバル某社をはるかに凌いでいます。実際、品質に厳しいお得意先数社からも、『御社はライバル某社の商品よりずっといいよ』と評価いただいているので、間違いありません。でも世の中に出回っている市場調査レポートでは、どれも当社よりもライバル某社の評価の方が、評価も満足度もずっと高いんですよね。納得できません」

このような状況は、実によく耳にします。

かく言う私も、日本IBMに勤めていて様々な商品を担当していて、まったく同じ事を実体験しました。機能や品質面で明らかに劣っているライバル商品の方が、なぜか私が担当している商品よりも、市場評価が高いのです。当時は、どうしても納得できませんでした。

これはマーケティング的に考えると、理由がわかります。

実は市場における技術面の評価は、技術力とは無関係です。 高品質なのに、市場で高品質と評価されていないのは、「単に多くの人に知られていないから」なのです。

このあたりのことが芹澤連著「戦略ごっこ」に詳しく書かれているので、簡単に紹介しましょう。

ここで簡単な思考実験をしてみます。

・人口1000人の町にレストランA店とB店の2つしかないと仮定します。
・A店とB店は、メニュー・味・店の雰囲気は全く同じ
・違いは店を知っている人数がA店が900人、B店が300人、ということだけ
(町の人口は1000人なので、A店とB店を両方知っているのは、200人になります)

この場合、900人に知られているA店がライバル某社、300人に知られているB店がヤマダさんの会社、ということです。

さて、ここで住民に『町で美味しいレストランは?』と聞くと、どうなるでしょうか?

A店しか知らない700人は「A店」、B店しか知らない100名は「B店」と答えますよね。

A店とB店を両方知っている人が200人いますが、この200名は半々の100名ずつ「A店」「B店」と答える、としましょう。

さて、調査結果はどうなるでしょうか?

■A店については:A店を知っている900人中、A店を選ぶのは800名(700名+100名)で、『美味しい』という人の比率は89%になります (=(800÷900)×100)。

■B店については:B店を知っている300人中、B店を選ぶのは200人(100名+100名)で、『美味しい』という人の比率は67%になります (=(200÷300)×100)

つまりA店とB店は、メニュー・味・店の雰囲気が全く同じなのに、単に「知っているかどうか」の違いだけで、市場評価は89%と66%にわかれる、つまり全く変わる、ということです。

このように『好き』『気に入っている』という状態を、マーケティングで『プレファランス』といいます。

このプレファランスで大事なのは広く『知られていること』です。確かに品質は大事ですが、単に品質が良いだけでは、プレファランスは高まりません。

市場評価を高めるには、まず品質を高めた上で、多くの人にその品質の高さが知られるように日々努力することが必要なのです。

   

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試したら、GPT-4oが仕事で十分使えるレベル!

ChatGPTを開発するOpen.AI社が、5/13(月)にGPT-4oを発表しました。

既にこの1週間、様々なニュースで取り上げられているように、人間と同等の会話が可能という驚くべきレベルに仕上がっています。(なお音声モードは数週間以内にアルファ版を提供後、Plusユーザー向けに早期アクセスが出来るようにする、とのことです)

一方でOpen.AIは、スマホ版ChatGPTを提供しています。私は1年前からパソコン向けの有償版ChatGPT-Plusを使っていたのですが、主にアイデア出しに使っていました。

今回のGPT-4o発表は、主にスマホでデモをしていました。

そこで私も試しにスマホ版ChatGPTをインストールして、有償サービスに入ってみました。音声対応が出来ないこと以外、GPT-4oの機能が使えます。使ってみて、驚きました。

「なにこれ! 仕事で十分に使えるじゃん」

いくつか例を上げて紹介します。

■まずはお試し。下記の手書きメモを写真に撮って「これはなんですか?」と聞いてみた結果です。

—(以下、回答)—
この写真は、手書きのメモが書かれた紙の画像です。内容は以下の通りです:

お仕事おつかれさまです。
よろしくれば、いつでもどうぞ。

このメモは、誰かに対して「お疲れ様です」と労いの言葉をかけ、「もしよろしければ、いつでもどうぞ」と何かを勧めている内容です。仕事仲間や同僚に対して、休憩や手助けなどを促すために書かれたものかもしれません。全体として、丁寧で親切なメッセージです。
—(以上、回答)—

手書き文字をほぼ読み取った上で、その文字が書かれた状況を類推して答えてくれます。

■いつも愛用しているコーヒーカップの写真を撮って「これは何か教えてください」と聞いたところ、こんなウンチクと共に答えが返ってきました。

—(以下、回答)—
この写真に写っているのは、日本の伝統的なデザインが施された陶器のマグカップです。花の模様や鳥のイラストが描かれており、色鮮やかな装飾が特徴的です。このようなデザインは、日本の伝統工芸品である九谷焼(くたにやき)や有田焼(ありたやき)などでよく見られます。
—(以上、回答)—

ChatGPT-4o先生、なかなか博識です。

■「教養書100冊」執筆で、教養書1冊ごとに本の内容をA3見開き2ページで手書きでビッシリと書いてまとめていたので、試しにこの見開きの手書きページを写真に撮って、「ここにある情報を要約してください」とお願いしたところ、かなりわかりやすく要約してくれました。「教養書100冊」執筆時にこの機能が使えたら、もう少し負担が減ったかもしれません。

■画像は省きますが、「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎の写真を撮って「これは何ですか?」と聞いてみたら、「竈門炭治郎」と認識して詳しい情報を教えてくました。松田聖子さんが二十歳前後で出したCDの顔写真も、松田聖子さんと認識した上で松田聖子さんの詳しい情報を教えてくれました。ただ最近の松田聖子さんの写真は「女性のポートレイト写真」として認識されました。学習データが少ないのでしょうね。いずれにしても、顔の特徴を把握した上で、個人を認識出来ています。

■最近英語で書いた自分のレジュメをチェックしてもらいました。かなり的を得たアドバイスが戻ってきました。通常お金を払ってプロにお願いするレベルでした。

ということで、昨年のChatGPT-3.5が新卒レベル、ChatCPT-4.0がプロフェッショナル直前のレベルとすれば、今はそこそこプロフェッショナルレベルという感じですね。

危機感を感じる人も当然いると思います。

しかし考えようによっては、これまでプロに高いお金を払ってお願いしていたことが、簡単にできてしまうわけです。

そして使うこなす上では、アプリをスマホにインストールするだけのスキルがあれば、それ以上の技術的スキルは一切不要です。要は「本当に使い始めるか否か」で、今後は意外と大きな差が付きそうです。

このあたりは、かつてのパソコン、インターネット、スマホと同じですね。

活用いただくと、自分ならではの使い方が見つかると思います。

   

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2024-05-20 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : takahisanagaicom

「ガセ情報に騙されず正しい判断ができる方法を教えて」というご質問


先日、こんなご質問をネットで拝見しました。

「世の中、ガセ情報が多いですよね。一般常識でも、間違いもよくあります。こんなガセ情報に騙されずに正しく判断するには、どうすればいいんでしょうか?」

この質問に対しては色々な回答があり、興味深く拝読しました。回答を大まかに二つに分類すると、

①「ガセ情報にはこんなパターンがあるから、こうすれば騙されなくなるよ」みたいな手軽なノウハウを教える回答(回答多数)

②「本格的な教養を、地道に付けることですよ」という回答(回答少数)

でした。

しかし①の方法は限界があります。そもそもガセ情報を広げている本人が、ガセ情報と思っていないケースもあるからです。

2世紀、ギリシャの医学者が考えた「瀉血(しゃけつ)療法」という血液の一部を抜き取る排毒療法が、欧州に広がりました。現実には病弱な患者はさらに体力を奪われてしまい逆効果だったのですが、欧州では19世紀まで広く使われました。

瀉血療法はガセ情報だったわけです。でもほとんど全ての人が1700年間も「真実」と考えていたのです。ちなみに瀉血療法は、一般的にABテストと呼ばれる統計学の「ランダム化比較実験」(19世紀末〜20世紀初に確立)を行うと、間違いだとわかります。

このようにガセ情報を見抜いて、正しく判断するのはなかなか難しいのが現実です。そこで騙されにくくする唯一の方法は、私は②の「教養を広く学ぶこと」しかないと思っています。

瀉血療法は、統計学の知識があればガセだとわかります。しかし統計学で森羅万象がわかるわけではありません。

たとえば、大国の思惑の裏を知るには「地政学」、多数決が本当に正しい意志決定かを考えるには「ルソーの一般意志」の概念、欧米人の意志決定ロジックを知るには「ヘーゲルの弁証法」が役立ちます。

ガセ情報に絶対騙されない方法はありませんが、幅広く深い教養を身につけることで、ガセ情報に騙されにくくなります。

では、教養を身につけるには、どうすればいいのでしょうか?

いまやネットには森羅万象の情報があります。だから「ネットを見続ければ教養が身につく」と考える人もいるかもしれません。

しかし残念ながら、現代のネット情報は、必ずバイアスがかかる仕組みになっています。それが「フィード」という概念です。

情報提供者は、ビジネスとして情報提供しています。彼らはユーザー滞在時間を最大化して、その時間を広告収入などに変えて稼ぐために、私たちの過去の閲覧履歴から私たちの嗜好を把握し、私たちが夢中になって読みそうな情報を選んで、表示しています。検索エンジンの検索結果や、アマゾンの検索でも、同じことをやっています。

つまりネット情報だけに接していると、自分の興味分野に最適化された情報が次々とフィードされるようになります。

例えば「岸田さんはケシカラン」と思っている人には、「岸田さん頑張って」という応援の声はすべて排除され、「岸田さんケシカラン」というその人が好む情報だけが集まり、その人はますます「世の人はみな岸田さんケシカランと言っている。自分は正しいんだ」と信じ込むようになります。

こうしてネットだけを見ている人たちは、自分の知らない領域が存在することに気付かない状態に陥ります。つまり現代では、ネットしか見ていないと、偏った知識が付く仕組みになっているのです。

そこで現代で重要になってきているのが「読書の習慣を身につけること」です。

本に書かれた知識は、個人の嗜好に合わせていません。むしろ「その分野で知るべき知識」が集まっています。自分の興味分野で読書を続けることで、興味分野で知るべき知識が効率よく入ってくるようになります。そして「世の中は知らないことばかりだ」とわかるようになり、知らない領域への興味が広がっていきます。

読書に限らず、新聞や雑誌でも同様です。先の岸田さんの例でいうと、新聞やビジネス誌を何紙か読むことで、岸田さんに厳しい論調と、岸田さん寄りの論調をバランス良く知ることができます。

読書で読むべき本の中でも、骨太な教養書は人類の叡智の結晶です。そのような本を読むことで、私たちはよりよく生きていく上で必要な教養を効率よく手に入れることができます。

昨年11月に「世界のエリートが学んでいる教養書100冊を1冊にまとめてみた」を刊行したのも、少しでもそのお役に立てればと願ってのことでした。

ガセ情報に騙されず正しい判断が必ずできる方法はありませんが、より騙されにくくなり、より正しく判断できるようになる上で、教養書を読むことは必ず役立つのです。

   

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朝活永井塾 第87回『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』を行いました

5月8日は、第87回の朝活・永井塾。テーマは『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』でした。

「細部への徹底的なこだわりこそが日本流」

「快適さと安心感で、おもてなし」 

私たちが「日本の強み」だと信じ込んでいるこれらが、実は「日本の深刻な弱み」だとしたら、どうでしょうか?

実はまさにこういう指摘をしているのが、『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』(井関利明/山田眞次郎著、学研プラス)です。

著者の井関利明氏は、慶應義塾大学名誉教授。山田眞次郎氏は様々なものづくり企業の経営者をなさった方です。本書によると「日本の技術は半世紀遅れ。しかも認識されていない。細部のこだわりもイノベーションを阻んできた」。

これは、私たちが普段認識していることの真逆です。

幕末の黒船、そして敗戦と、日本は外圧で変わってきました。しかし、現代の黒船は世界を大きく変えたのに、古いメガネで世界を見ている私たちの目には見えません。

私たちはまず現代の黒船の存在を認識した上で、自分たちの問題を知ることが必要です。 日本経済に明るい兆しが見え始めた今こそ、私たちは自分たちの弱みがどこにあるのかを現実的に見定めていく必要があります。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、日本で何が起こっているのか、わたしたちはどう考えればいいのかについて学んでいきました。

『思考 日本企業再生のためのビジネス認識論』(井関利明/山田眞次郎著、学研プラス)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回・6月5日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『会社に縛られない時代の 「サルトルの実存主義」』です。申込みはこちらからどうぞ。

2024-05-12 | カテゴリー : nagaijuku | 投稿者 : takahisanagaicom

「まんだらけ」の集中戦略は、グローバルへ

マンガ専門の古本屋「まんだらけ」という店をご存じでしょうか?

いわゆる普通の古本屋とはかなり違っていて、コアなファンに特化しています。

マンガ関連グッズも多く、海外からのコアなファン層がお目当てのトレカやマンガのフィギュアを物色したりしています。BL(ボーイズラブ)系の品揃えも豊富で、意外なことに店内には若い女性客も多くいます。

店員の何名かは、マンガの世界のコスプレです。「うる星やつら」のラムちゃんのような目のやり場に困る女性店員や、フリフリのエプロンを着たロリータファッションの女性店員もいて、店内ではコスプレ店員の人気ランキングをつけていたりします。

この「まんだらけ」ですが、東証スタンダードに上場しており、最近の売上推移はこんな感じです。

2018年 98.7億円 (対前年 2.9%)
2019年 100.6億円 (対前年 +1.9%)
2020年 90.2億円 (対前年 -10.3%)
2021年 96.3億円 (対前年 +6.7%)
2022年 105.9億円 (対前年+10.0%)
2023年 128.4億円 (対前年+21.2%)

コロナ禍で売上が10%落ち込みましたが、最近は絶好調ですね。昨年からは株価も急騰中です。

競争戦略を提唱したマイケル・ポーターは「競争の3つの基本戦略」を提唱しています。

【差別化戦略】顧客の特定ニーズに対して売れるようにする
【コストリーダーシップ戦略】ライバルより低コストにする
【集中戦略】対応する顧客やニーズを狭める

集中戦略のカギは、顧客や提供する製品を徹底的に絞り込み、その絞り込んだ領域でライバルの誰も真似できないレベルまで価値を高めることです。徹底的に絞り込むことで、より低コストで価値を高めることができます。

まんだらけの戦略はまさに「集中戦略」です。

他では決して出会えないレアなマンガに出会えます。秘蔵レア本を持っている人にとっても、そのレア本の価値を正当に評価して買い取ってくれます。これはなかなか他の古本屋は真似できません。

マンガの古本という徹底的に絞り込んだ製品の領域で、コアなマンガ愛好家という徹底的に絞り込んだ顧客に対して、圧倒的な価値を提供しています。まさに無双状態です。

一方でコロナ禍でビジネスのデジタル化が進み、ECもすっかり当たり前になりました。そこでまんだらけは世界全体でのビジネス拡大を目指して、販売サイトが英語、簡体中国語、スペイン語に対応したり、「まんだらけSAHRA」というWeb通信販売、さらに電脳マーケット「ありある」などで販路拡大を勧めています。

しばらく低迷が続いていたまんだらけでしたが、日本市場に特化して最適化しているうちに、世界のマニアックな顧客を吸引する力を身につけて、グローバル展開が始まっているように見えます。

今後に注目したいですね。

集中戦略の本質は「徹底的に絞り込んだ製品・顧客へ、低コストで徹底的に最適化すること」です。そして日本以外にその顧客の数が多くいるのならば、その集中戦略はグローバル展開可能です。

そしてネット活用により、グローバル展開のハードルは思っていたよりもずっと低いのです。

御社のビジネスで、集中戦略→グローバル展開ができないか、考えてみてはいかがでしょうか?

   

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チョコザップに入会して驚愕し、マーケティング視点で考察した

私はコロナ禍でしばらくフィトネスクラブを休んでましたが、コロナ禍も終わったので、今年年初から週2〜3回のペースで会員制の老舗フィトネスクラブに行くようになりました。

最近、そのフィトネスクラブの近くに、巷で話題の「チョコザップ」新店舗ができました。

チョコザップはライザップが始めた格安フィトネスジムです。完全無人店舗で、月会費2,980円(税別)を実現。安いこともあり、チョコザップ体験をするために、「モノは試し」と思って入会してみました。

以下は、実際に入会してわかったことです。

・入会してスマホアプリに個人登録すれば、店舗にスマホ認証して入店できます

・店内はコンビニ程度の広さ。完全無人店舗で、店内にはAI監視カメラが多数設置され、セキュリティも万全だそうです

・着替えずに普段着・土足で「チョコっと」運動できます。通勤帰り、買い物帰りの「ついでの運動」にいいですね。着替えコーナーもあります

・店内は意外と人が多く、夕方に行くと主婦と思われる女性たちがトレッドミルやバイクをしていたり、会社帰りと思われる若い男性ビジネスパーソンもいます

・マシンは割と簡素。ウェイトも軽く、本格的に鍛えたい人は物足りないかもです

普通のフィトネスクラブに慣れた人は「これはオモチャ」と思う人もいるでしょうけれども、運動習慣がない人にはこれで十分だと思いました。

通常のフィトネスクラブにはないサービスもあります。

特に「スゴい」と思ったのが「スターターキット」。入会すると、ヘルスメーターとヘルスウォッチがもらえます。

ヘルスメーターでは、体重、BMI、体脂肪率、基礎代謝量、筋肉量、内臓脂肪レベル、体水分量、骨量、タンパク質量、体内年齢、除脂肪体重が測定できます。ヘルスウォッチでは、心拍数、消費カロリー、歩数、睡眠が常時測定できます。データは常にスマホアプリに記録され、チョコザップを運営するライザップのサーバーに転送されて履歴も記録されるわけです。

このスターターキット、恐らく相当のお金がかかってます。ユーザーにとってもかなりお得。チョコザップは最初は少々赤字でも、こうした個人データを集める大切さをわかっているのでしょう。

日々の運動データと、身体に関する日々のデータを長期間収集し、ライザップ事業で磨き上げたトレーニングプログラムの豊富な知識を活かして、データに基づいて個人毎に最適化した健康習慣プログラム・アドバイスを行えるようにしているのです。

さらにチョコザップオンラインストアでは、プロテインなどのオリジナル商品や、ライザップ管理栄養士によってタンパク質や糖質などの栄養価を調整したフードも提供しています。現在チョコザップ会員数は100万人を突破しました。その3%がこのサービスを利用するだけで、3万人の購買客を確保できます。

またスマホアプリでいつも行く店舗を登録すれば、時間帯別に店舗の混雑状況予測と、リアルタイムな混雑状況もわかります。AIカメラで無人店舗の状況を自動的に把握しているおかげです。

チョコザップはデジタル技術を駆使し、あらゆるデータを収集する仕組みを構築していることが、よくわかりました。

以上を一通り実体験して、私は感じました。

「チョコザップは、まさに健康習慣サービス業界の破壊的技術だ」

チョコザップは、経営学者クリステンセンが著書「イノベーションへの解」で書いた「破壊的技術」であり「新市場型破壊」なのです。

「新市場型破壊」では、それまで商品を使わなかった無消費者が使い始めます。チョコザップも、フィトネスクラブの既存ユーザーから見ると「こんなのオモチャ」というレベルかもしれませんが、無消費者だった「運動習慣がない人」にとっては、必要十分。まさに彼らのためのサービスなのです。

クリステンセンはハーバード・ビジネス・レビュー2015年8月号で、「破壊的イノベーションを評価する5つの質問」というコラムを書いています。この5つの質問でチョコザップを検証すると、より高い解像度で「チョコザップの正体」が見えてきます。

① 過剰にサービスされている顧客が、ターゲットか?

→月会費1万円程度の既存フィトネスジムは、運動習慣がなく「ちょこっとだけ運動したい」という運動無関心層の人たちには過剰サービスで、会費も高すぎでした。チョコザップはそんな人達に、月会費3000円強でサービスを提供しています。

② 時間とともに高性能化するが、既存プレイヤーは戦う気がないか?

→24時間ジム「エニタイムフィトネス」の山辺清明社長は、2024/4/19の日経MJに掲載されたインタビューで「チョコザップは完全無人化を進めています。エニタイムはどうしますか」という質問に「我々は人をなくす方向にはいきません。接客はエニタイムの強みの1つです」と答えています。このように既存プレイヤーであるほとんどの大手フィトネスジムは、チョコザップのような無人化の方向で戦う気はないように見えます。

③ 低コスト構造を維持。顧客の期待に応える速度で、性能改善できるか?

→完全デジタル化した無人店舗に加え、健康に関する個人データを徹底収集するチョコザップは、今後、様々なサービスを追加して『総合健康習慣サービス』へ、より高性能化して進化していく可能性があります。

④ 販売チャネルなど、新しい価値ネットワークを創造するか?

→チョコザップ店舗はフランチャイズでなく、すべて直販店舗です。2022年7月にサービスを開始し、17ヶ月後の2023年11月には単月黒字化を達成、18ヶ月後の同年12月には1225店舗まで展開。もの凄い勢いでまったく新しい価値ネットワークを展開中です。圧倒的なスピードで一気に「運動初心者なら、チョコザップ」という認知を獲得する戦略ですね。

⑤ すべての既存企業を破壊するか?

今後のチョコザップの進化次第では、フィトネスジムに留まらずに、健康サービス産業全体が大きな影響を受ける可能性があります。

 

実は現時点でも、チョコザップはまだその全貌が十分に見えていません。

いまやフィットネスに留まらずに、セルフエステ、セルフ脱毛、さらにカラオケ、ランドリーなどのサービスも続々追加し、チョコザップ会員は追加料金なしで使えます。

「カラオケやランドリー?」と驚いてしまいますが、これらのサービスはチョコザップ事業に関わるライザップ社員が次々とアイデアを出し、「そのアイデアは本当に有効なのか?」を猛スピードでリアルデータに基づいて仮説検証を繰り返すことで検証して、進化を続けています。

ダーウィンが「種の起源」で提唱した「変異、生存競争、自然淘汰」と同じロジックで、チョコザップはあたかも一つの生命の種であるかのように進化を続ける最中なのです。

現在ライザップはチョコザップ事業立上げのため、様々な手段でお金を調達していますが、新店舗展開の大展開や、スターターキットをはじめとするプログラムのために一気に投資しているようです。

今後、チョコザップがどのように進化していくか、要注目だと思います。

   

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米国進出にキッコーマンが成功し、いいちこが当初失敗した理由は「行動変容」

ここは南海の孤島。島の住民は誰も靴を履きません。
靴会社にとって、これは大きなチャンス。
住民が靴を履けば、足が傷ついたり痣ができることがなくなるからです。

私たちビジネスパーソンは、こんな状況に出会うことがよくあります。「自社の技術で、これまでの市場にない画期的な顧客体験ができる商品を開発した」という場合です。この商品を使えば、お客は全く新しい体験ができます。

こういった商品は、成功しやすいように見えます。
「さあ、あとは靴を市場に出すだけだ」と盛り上がります。

でも残念ながら多くの場合、こういうパターンは失敗に終わるのです。

たとえば、2007年の3Dテレビ。
「映像が画面から飛び出して立体的に見える」という3次元ディスプレイがウリで、3Dテレビ用番組も制作され、一時期の家電売場を席巻しました。立体的に見るためには専用メガネが必要だったのですが、多くの人は裸眼で見続けたために普及せず、2017年には市場から消え去りました。

あるいは、1996年のAPSカメラ。
「撮影データを記録でき、フィルムカートリッジもカメラも超コンパクト」という世界標準規格の新しい写真システムがウリでした。技術的にはなかなかの優れモノでしたが、多くの人は使い慣れた35mmフィルムを使い続け、間もなくデジカメも普及し、市場から消え去りました。

なぜこういった画期的な商品が失敗しているかを解明したのが、2022年に刊行された「イノベーションの競争戦略」(内田和成著)です。

本書で内田先生は、国内外のイノベーション事例を1000件近く調べた末に、こんな結論を提示しています。

『世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスは、企業におけるイノベーションの必要条件ではない。それよりも新しい製品・サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそがイノベーションの本質である』

つまり市場にない全く新しい商品が定着するには、顧客の行動変容を起こさなければならないということです。

しかし人は、なかなか行動を変えようとしません。
だから画期的な商品が、なかなか成功できないのです。

『「商品を出せば、お客は飛びつき、行動を変える」と安易に考えてはいけない』ということです。

行動変容を起こす仕掛けを考えなければならないのです。

では、どうすればいいのでしょうか?

ここでは二つの対策を、事例をご紹介したいと思います。

対策① 行動変容を最小化して、顧客に合わせる
対策② 時間をかけて顧客の行動を変容させる(

順番に説明しましょう。

対策① 行動変容を最小化して、顧客に合わせる(いいちこの挑戦)

麦焼酎「いいちこ」の三和酒類は、2014年に米国法人を立ち上げ、米国市場進出に挑戦中です。しかし米国人は、そもそも焼酎そのものを知りません。ここが大問題でした。

日本国内では、焼酎は居酒屋か日本食レストランで飲まれています。そこで当初、三和酒類の方々は「焼酎の主戦場は米国でも居酒屋か日本食レストラン」と考え、日本食レストランと居酒屋で販促をかけました。しかし結局日本人しか飲まずに実績は横ばい。

米国人が日本食レストランで焼酎を飲んでも、顔をしかめて「うわ。強いお酒だ。日本酒の方がいい」。

日本人にとって焼酎は「食事と一緒に飲むもの」。でも米国人は食事と一緒に飲むのは醸造酒(ワイン、日本酒、ビール)であって、蒸留酒(焼酎やウィスキー)はバーで飲むものでした。

さらに日本は焼酎を水や果汁ジュースで割ってチューハイで飲みます。しかし米国ではこんな習慣はなく、別の酒とかけあわせるカクテルで飲みます。

つまり日本は「割る(÷)文化」、米国は「ミックス(×)文化」だったのです。知らぬ間に「文化の押しつけ」をしていたわけです。

「これでは売れるわけがない」と気づき、全米各地のバーで取り扱ってもらうように働きかけました。しかしここで問題になったのが、焼酎のアルコール度。

焼酎のアルコール度は25%です。食事と一緒に楽しむためなのですが、バーに並ぶ蒸留酒(ウォッカ、ジン、テキーラ、ラム)は40%以上。25%だとカクテルにした場合、他素材に負けてしまうのです。

そこで三和酒類の米国チームは本社と交渉し、2019年に43%のカクテル向け焼酎を開発。いいちこの販売量は米国進出の9年間で1.8倍になり、コロナ禍を経て焼酎の認知も進み始めています。

以上をまとめると、『いいちこは、米国の飲酒文化に合わせて、バーを攻めるために、アルコール度が高い商品を開発した』というわけです。

(以上、日経クロストレンド 2023/6号 p.34-39を参照)

対策② 時間をかけて顧客の行動を変容させる(キッコーマン)

醤油メーカーのキッコーマンは、実に長い時間をかけて米国市場に進出しました。

第二次世界大戦後、1950年代初めまで日本には300万人の米国人がやってきて、日本の醤油の味を覚えました。

そこでキッコーマンは1957年に米国サンフランシスコに販社を設立し、活動を開始。肉と醤油の相性の良さに注目し、スーパーマーケットの店頭で醤油をつけた肉を焼き試食するデモストレーションを行い、さらに醤油を使ったレシピも開発や、レシピカードを醤油につけて売る、といった活動を繰り返し、浸透を図りました。

そんな活動の中で、日本の「照り焼き」を由来とする「Teriyaki」料理が注目されたりして、米国向けに醤油が現地化していきました。

米国では醤油を「ソイソース」と呼びますが、いまやキッコーマンは「ソイソース」に変わる普通名詞になっています。

以上をまとめると、「キッコーマンはじっくり時間をかけて米国人の行動を変容させた」ということです。ただし、そのきっかけとなったのが、第二次世界大戦後に日本で醤油の味を覚えた米国人が300万人いたことです。

 

その市場にはない画期的な商品を投入する際には、その技術の素晴らしさをアピールするだけでは、たいていは失敗します。

「いかに顧客の行動変容をスムーズに起こすか」も必ずあわせて考えていく必要があるのです。

御社の画期的な新商品は、お客様の行動変容もしっかり考えているでしょうか?

   

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「下請け」は、「価値を共創して分け合うパートナー」

今年、賃金が上がったことがニュースになっています。ただこれは大企業中心の話。全体的に見ると、中小企業の賃金はまだまだ増えていません。その理由の一つが「中小企業は大企業の下請け」という根強い意識。多くの下請け中小企業がなかなか価格転嫁できずに、従業員の賃金を上げられないのです。

実はこの状態は、長期的に見ると「下請け扱い」する大企業も苦しむことになります。

日本の大企業が中小企業を下請けに使うようになったのは、高度成長期だと言われています。増大し続ける生産量を補うため、中小企業に一部生産を委託しました。

しかし今や国内生産量はそれほど増えません。一方で原材料コストは上昇しています。大企業は自社社員の賃金も上げなければなりません。

そのしわ寄せが、下請け企業に行っているわけです。たとえば…

・「原材料コストが上がっているので、価格を上げて欲しい」と言っても却下
・一方で、設計情報を他の下請け企業に横流しする
・無償の追加作業を強要する

こういった「いびつな取引」が横行しています。

実は弊社も零細企業であり、企業様からの社員研修を受託しているので、他人事ではありません。

独立して仕事を始めた当初は、「言い値でやって欲しい」と言われたり、「社員研修を相談したい」と言われて提示した研修案が結局発注されず研修案だけ使われたり、当初の話にない追加作業を次々と無償で要請されたり、ということは日常茶飯事でした。

こういう手痛い失敗をし、都度対策を考えて対応することを繰り返した末、至った結論は…

「弊社を下請けでなく、パートナーとして考える企業様とお付き合いする」

ということでした。つまり、

・まず、発注先を主体的に選べるように、自社の価値を上げる
・そして弊社が発注先企業を選べる状態を作る。(= 辞退できるようにする)

ということです。

こうすることで、弊社が発注先企業様に最大限の価値を提供できるようにベストが尽くせる状態ができ、発注先企業様から見てもメリットが得られるようになります。

ここまではいわゆる「下請け企業からの目線」ですが、これを大企業の立場で考えると、「下請けでなく、価値を共創して分け合うパートナーとして考えよう」ということになります。

「下請け発想」「自分たちが手を下すまでもない業務を、下請けに発注してやろう」という「上から目線」から生まれます。

しかし実際には、そんな業務を自分たちでやろうとすると、意外とちゃんとできないことも多いのです。

そこで「自分たちでは手が回らず知識もない業務を、より短期でより高品質に仕上げるプロに依頼しているのだ」と考えてみると、捉え方は変わるのではないでしょうか。

そして「下請け」という発想から脱皮して、「ともに新しい価値を共創し合うパートナーである」と考えて、創造した価値をパートナー同士で分け合うことを考えるべきなのです。(かく言う私も、IBM社員時代に発注する立場のマネジャーだったので、このことを実感しています)

現代の企業はますます洗練された価値が高い商品やサービスを提供することが求められます。

こんな時代こそ、いわゆる「下請け」を「価値を共創して分け合うパートナー」と捉える会社が成長していきます。

そもそもビジネスとは、お互いに自分が持たない価値を交換しあう対等関係を前提にした取引です。下請けと発注元に上下関係があるわけではありません。

逆に「下請け」を「下請け扱い」し続ける大企業は、次第に自社だけで高い価値を提供できなくなるのです。

   

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「マーケティング部門、廃止しました」という会社

先日、知人と話をしていましたら、有名企業に勤める社員の方から、こんな話を聞いたそうです。

『ウチの会社、「マーケティング部門は何の役にも立っていない」っていうことで、マーケティング部門を廃止したんですよ』

なんでもセールス部門がとても強いそうです。

日本企業の深い病が垣間見えたように思いました。

会社によって様々な事情があるでしょうが、私が知る範囲では、多くの場合こんなパターンのようです。

①その会社は、営業部門がとても強い。顧客企業との強いリレーションを使い、寝技を駆使しながら案件を獲得してきた

②一方で世の中は「マーケティングが大事」という方向。そこで試しにマーケティング部門を作ってみた

③マーケティング部門から様々な情報を市場に出し始める。イベントを開催したり、SNSで情報発信したり、メルマガを送り始める

④しかしそれまで自分が社の代表として顧客に全情報を伝えていた営業からすると「オレのお客様に、オレが関与しないところでマーケティング部門が勝手に情報を送るのは、ケシカラン」となる

⑤「マーケティング部門は、百害あって一利なし。ビジネスにも貢献していない」が営業部門の総意となる

⑥かくして、マーケティング部門が廃止となる

こういった事案、ツッコミどころが満載です。

■「リレーション中心で、本当にいいの?」という問題

まず上記①「顧客とのリレーションが強い」こと自体は、必ずしも悪いことではありません。ただ、セールスでそれしか能がないとしたら、大問題。人事異動で人は変わりますし、リレーションだけで案件が獲得できるわけでないからです。

世界数千社の企業について法人販売の実態を調査したマシュー・ディクソンは著書「チャレンジャー・セールス・モデル」で、セールスを次の5つに分けました。

タイプ① 論客型……論議を怖れず顧客に自己主張する
タイプ② 一匹狼型……自信家。個人独自の技で我が道を行く
タイプ③ 勤勉型……誰よりも多く電話し顧客訪問する
タイプ④ 受動的問題解決型……要望には必ず対応する
タイプ⑤ 関係構築型……顧客のためなら必死に働く

そしてディクソンは全世界で6000名のセールスを調査して、各タイプ別のパフォーマンスを明らかにしました。

私たちは「セールスは、関係構築型が理想だ」と思いがちですが、実は最も業績が悪かったのが「タイプ⑤関係構築型」でした。逆に突出して好業績なのが「タイプ①論客型」でした。

この話を聞くと「それは米国の話でしょ。日本は違うよ」と思ってしまうかもしれません。確か日本では「タイプ⑤関係構築型」のセールスはいまだに多いのが現実でしょう。

しかしそんな日本でも、法人セールスで顕著な業績を挙げ、平均給与2200万円を誇るキーエンスのセールスは、まさに「タイプ①論客型」です。

「関係構築型セールスが多い」ということが、必ずしも「関係構築型セールスが理想の販売方法」とは限らない、ということです。

そして社内の全セールスを「タイプ①論客型」にする上で、「顧客の課題を解決する上で、自社製品・サービスが提供できる価値は何か?」を考え続けるマーケティング部門は、大きな力を発揮できるのです。

■「よく考えずにマーケティング部門を作るな」という問題

②で「世の中の流れだから、とりあえずマーケ部門を作ってみよう」というのも大問題です。本来のマーケティングは、会社の経営全体に関わることですし、経営企画、製品開発から製造・流通、さらに販売まで幅広く関わるからです。

もちろん③のように「最初はマーケティングコミュニケーションからやってみよう」というのもアリです。

その場合でも、「本来のマーケティングはこの範囲だけど、まずはここに絞ってやる」と考えた上で、「マーケティングから全社メッセージを出すために、他部門とも密接に協力・連携する」という視点は欲しいですね。

■「そのお客さん、アナタの所有物ではありません」という問題

④のように、会社を代表して特定の顧客企業を担当するセールスのことを「クライアント・レップ (Client Representative)」と呼んだりします。

この人は、お客様企業に対して、まさに自社を代表する役割を担っている訳です。

この結果、「オレのお客様に、オレが関与しないところでマーケティング部門が勝手に情報を送るのは、ケシカラン」となり勝ちなのですが、これはあくまでその人が担っている単なる役割です。

それにお客様は、クライアント・レップの所有物ではありません。1980年代ならば話は別ですが、現代のお客さんは、様々なメディアで情報を集めています。もはやセールス一人(または複数)で、お客さんが接する情報を独占できる時代ではありません。

加えてマーケティング部門が出す情報は、何らかの事業戦略に基づいて出されています。むしろそういった情報を、セールスなりの視点で解釈した上で、「私がマーケティング部門と交渉して、こういう戦略にしました」くらいの強かさが欲しいところです。

■「マーケティングの成果とは?」という問題

マーケティング部門の大きな役割の一つが、膨大な市場の中から、自社製品・サービスが想定する課題を抱える顧客を見つけ出し、案件締結まで繋げることです。

この仕組みを作るには、従来のセールスを変える必要があります。当然ながらセールス部門の協力は必須です。

しかし②のようにあまり考えずにマーケティング部門を作った会社は、この仕組みはまず作れません。ですので成果が上がらないのです。

 

かくして最悪の場合、「マーケティング部門は廃止」となったり、(廃止はあまりにも対外的にみっともないなぁ)と考える会社の場合は「マーケティング部門は規模を大幅縮小」となります。

こうしてビジネスはジリ貧になっていきます。

 

「マーケティング部門を作ったけども、イマイチ成果が出ない」という方がおられたら、改めて上記の視点で見直してみてはいかがでしょうか?

   

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