オムニマネジメント2015年8月号に連載第3回『新規事業は、顧客ニーズで判断せよ』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年8月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第3回目『新規事業は、顧客ニーズで判断せよ』が掲載されました。

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新規事業は、顧客ニーズで判断する。

一見すると当たり前のことだと思いがちですが、実際にはそうなっていないことが多いのです。

 

今回は新規事業の判断について、「顧客から見たニーズ充足度」「企業から見たニーズの把握」の2つの観点で、次の4象限で事例をご紹介しながら整理してみました。

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もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

「『お客様が買う理由』なんて作れれば、苦労しないよ」というご意見。正しいです

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講演後の質疑応答。ご意見をいただきました。

参加者「要は、『お客様が買う理由』を作るには、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値を考え抜け』ということですか?」

永井「はい。おっしゃるとおりです」

参加者「うーん。お客様から無理難題を言われ、とても苦労しているのが、営業の現実です。『お客様が買う理由』なんて都合のいいものが作れれば、こんな苦労しないんですけどね。それは理想論ではないでしょうか」

 

これは、ある意味で、実に正しいご意見です。

 

お客様から無理難題を言われ苦労しているのは、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値』が提供できていないから。そのような状況で苦労しても、必ずしも報われないことも多いのです。

同じ苦労をするのならば、『お客様が買う理由』を作ることで、報われる苦労をしたいですよね。

 

立場を変えてみるとわかると思います。

店頭で販売員や営業に、「これいいですよ!」といくら勧められても、乗り気になっていなければ、買わない人がほとんどです。

逆に「あの商品、欲しいなぁ」と常に思うような商品なら、少々高くても買う人は多いのではないでしょうか?

後者が、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値』を創り出し、『お客様が買う理由』を生み出している状態です。そのような商品は、「売る」ことに注力しているのでなく、「欲しくなる」ことに注力しています。

 

言い換えれば、「いかに売るか」というセールス視点から、「いかに買う理由を作るか」というマーケティング視点へ、発想を転換することが必要なのです。

かつての大量生産・大量販売の時代だった高度成長期は、「いいモノを作れば売れた」ので、「いかに売るか」という発想が有効でした。

しかしモノが余るようになり、ニーズが微細化・ナノ化した現代では、「いかに売るか」だけを考えても消費者は振り向いてくれません。だから「いかに買う理由を作るか」というマーケティング視点がますます大切になっているのです。

 

このように考えると、「『お客様が買う理由』を作れれば、理想だし、苦労しないよ」というご意見は、まさに本質を理解したご意見なのです。

重要なのは、それは「単なる理想」ではなく「実現すべき理想」であること。

そして、ちゃんと方法論が存在するということ。ポイントは当ブログでも繰り返しお伝えしている通り、

「自分たちの強みの見極め」

→「顧客の絞り込み」

→「継続的な試行錯誤」

なのです。

 

当ブログで前回と前々回ご紹介した、南信州・阿智村石川県・白山市の挑戦は、そんな取り組みの一例です。

「お客様が買う理由」の答えは、社員が持っている

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講演後の質疑応答で、若い男性が手を挙げました。

「『お客様自身も気がつかない課題』を把握して、自社ならではの『お客様が買う理由』を作り上げるには、社内にどのような仕組みを作っていけばいいのでしょうか?」

お話しを伺うと、お父様が創業された会社の二代目として、若くして経営にあたっておられるとのこと。まなざしは、真剣そのものです。

 

「『お客様自身も気がつかない課題』なんて、あるのか?」と思いがちですが、意外と身近に数多くあります。

たとえば掃除機。かつて「掃除機はゴミを吸い取れば十分」と思っていた方は多いのではないでしょうか?しかし今や、

「スイッチポン」で勝手に掃除をしてくれるロボット掃除機、
ハウスダストのような細かいゴミも取れるサイクロン掃除機、
快適な睡眠のための布団専用掃除機、
音が出ないので気兼ねなく掃除できる静音掃除機など、

「私たち自身も気づかなかった課題」を解決した掃除機が数多く生まれています。

つまり、私たちはニーズや課題を持っていたのですが、私たち自身は気づいていなかったということです。

 

冒頭の若い経営者は、「では、そのような課題に対応するには、社内の仕組みをどのようにすればいいのか?」と問いかけられたのです。

 

お客様自身も気がつかない課題やその解決策のヒントは、社員が持っています。

ただし、バラバラな状態になっているのです。

たとえば営業は、お客様との日々の会話から様々な課題のヒントを得ています。しかし一営業にとって、それらをフォローするのは大きな負担です。経営者なら組織を動かし率先対応することは可能ですが、営業一人で組織を動かすことは至難の業で持て余してしまうことも多いのです。さらに「営業の仕事は売ることだ」と考える会社も多いので、客先で新商品のヒントがあっても優先順位を落とし、販売活動を優先せざるを得ない人も多いのが現実なのです。

一方で開発部門にいる技術者は、企業の強みの源泉になる「中核技術」を持っています。中核技術を活かして顧客に対する様々な解決策を作ることもできます。しかし必ずしもお客様の現実的な課題を把握していないこともまた、多いのです。「顧客はこんなことで困っている筈」と想定しながらも、実際に顧客に十分な検証をせずに、顧客不在のものづくりに走ってしまうことも決して少なくありません。

このようにある程度の大きさの企業になると、「お客様が買う理由」を作るヒントは社内の至る所にあります。しかしバラバラになっているのが現実です。

必要なことは、営業が現場で見つけてきた「お客様が買う理由」のヒントを、技術者と共有して解決策に結びつけて、会社としてフォローできる仕組みを作ることです。

 

たとえば1つの方法は、定期的に営業部門と開発部門が集まり、営業が現場で拾ってきたお客様の声を、開発部門の技術者と共有し、どのように解決できるかを、一緒に頭を捻りながら考える場を作ることです。

これを仕組み化している会社もあります。私が講演や著書などでよくご紹介する、業務用ミラー専業メーカーのコミーです。

コミーはユーザーのことをより深く理解するために、年に一回、全従業員でユーザー訪問をしています。正社員とパート社員2人一組でチームを作り、一組で10件程度のユーザーを回って使用状況を徹底調査しています。そしてその結果を全社員で共有し対応策を議論しています。毎年これを繰り返して、ユーザー自身が気づかない真の課題を把握し、商品開発に活かす仕組みを作っているのです。

 

スーパーマンの経営者が1人で会社を牽引するのは、確かに素晴らしいことです。しかしスーパーマンは希有の存在です。

会社の継続的な発展のためには、社員の力を結集し、チームで「お客様が買う理由」を作り上げる仕組みを構築することが必要なのです。

 

私はお客様に一通り説明した上で、質問いただいた方にこのようにお伝えしました。

「素晴らしいアイデアの原石が、社員一人一人の頭の中に必ず散りばめられているはずです。経営者が一人でそのアイデアをまとめるのは至難の業ですが、それらの原石を繋げて、互いに磨きあう仕組みを作ることは、できるのではないでしょうか?」

 

社員同士で互いに智恵を交換しながら「お客様が買う理由」を考え、リアルなお客様に検証し続け、社員の誰もが「これはあのお客様の課題に応える、自分の商品だ」と心から思える経験を積み重ねていけば、会社は確実にマーケティング志向に変わっていくのです。

 

「当社の強みは、ブランド」は、危険な幻想

数年前、講演の合間にワークショップを行いました。そこで発表いただいた女性が、こうおっしゃいました。

「当社の強みは、ブランドです」

東京のお洒落な街にある、名前を聞けば誰でも知っているブランドショップに勤めているというご本人も、そのブランドを象徴するような上品なファッションに身を包んでおられます。

私は質問しました。

「具体的に、何が強みですか?」

その方は、(あれ、ウチのブランドのことを知らないのかな?)と戸惑った様子で、お答えになります。

「当社は、世界的に圧倒的に強い高級ブランドです。値下げもしません。価格勝負ではなく、価値勝負ができる、ということです」

 

このように「強みはブランド」と考えがちですが、実は危険な幻想です。

ブランドとは「結果」だからです。

 

鍾乳洞の神秘的なイメージに圧倒されたご経験はありませんでしょうか?

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石灰を含んだ地下水が、数千年から数万年という時間をかけてゆっくりと一滴ずつ滴り、徐々に石灰岩が形作られ、巨大な鍾乳洞が作られていきます。

ブランドも同様です。「顧客満足」という事実を長年積み重ね、徐々に蓄積することで、強いブランドが作られます。

「一滴の地下水=顧客満足」が蓄積して、「鍾乳洞=ブランド」が出来上がる、と考えれば、イメージできるのではないでしょうか?

 

では、ブランドのもととなる顧客満足は、どのように生まれるのでしょうか?

顧客満足は次の式で表されます。

顧客満足(CS)= 提供価値−期待価値

たとえば、100点を期待するお客様に、100点の価値を提供すると、 顧客満足は、100引く100なので0点です。

お客様の期待をはるかに超える200点の価値を提供してはじめて、お客様は100点の顧客満足を感じます。

CSの図

市場が成熟した現代では、圧倒的な価値を提供する企業はますます増えています。お客様は、そのようなライバルとあなたの会社を比べています。

期待通りの価値を提供するのは当たり前。お客様の期待を上回る圧倒的な価値を提供し続けなければ、プラスの顧客満足は生まれません。

 

では、「当社の強みはブランド」と考えるとどうなるでしょうか?

冒頭で紹介した例では、お客様にどのような具体的な価値を提供するのかが語られていません。このように「自社のブランド」に頼ると、お客様にどのような価値を提供するのか、具体的に考え抜くのを怠り勝ちです。

ブランドに頼り、具体的な価値を提供できないと、お客様の期待を上回ることはできません。顧客満足はマイナスです。

鍾乳洞では、1滴の地下水がゼロ滴になると、石灰岩が形作られなくなり、徐々に崩壊していきます。

ブランドも同様です。ゼロまたはマイナスの顧客満足は、いくら積み重ねてもゼロまたはマイナス。ブランドは崩壊していきます。マイナスだとお客様の失望が溜まり、ブランドの崩壊はさらに加速します。過去のブランド・伝統・歴史は急速に食い潰されます。そしてブランドの価値は、徐々に、あるいは何かの象徴的な出来事である日突然失われるのです。

実際に、老舗ブランドに頼り、不祥事がきっかけで急速に経営危機に陥った企業は、いくつも思い出されると思います。

 

「当社の強みは、ブランド」と考えている状況は、言い換えれば、思考停止している状況です。

ブランドを受け継ぎ、さらに強化するためには、顧客の期待を圧倒的に上回る価値を提供し続けて、常に顧客満足をプラスにする必要があるのです。

だから、イノベーションに挑戦する社風を持つ、歴史ある老舗企業が少なくないのです。このような老舗企業は、挑戦する社風があるから、歴史を超えて老舗ブランドを維持できてきたのです。

 

電気自動車テスラモーターズや民間ロケット会社スペースX社を経営する起業家イーロン・マスクは、このように述べています。

 「「会社の名前で製品は売れているのだ」と思い込んでいる人がいるが、それは間違っている。まずは、素晴らしい製品があって会社のブランドを築く。ブランドは信頼であり、消費者は信頼に基づいて製品を購入してくれる。製品が先にあるのだ」

(「イーロン・マスクの挑戦 人類を火星に移住させる」別冊宝島、P.73より)

 

「当社の強みは ブランド」と考えるのは、イーロン・マスクの言葉を借りれば「会社の名前に頼っている」ということ。

ブランドに頼らず、商品やサービスを通じて、常に具体的な顧客の価値を愚直に創り出し続けることが必要なのです。

そのためにも、当ブログで常に提唱し続けている「お客様が買う理由」を、日々の仕事で、常に考え続け、検証し続けることが必要なのです。

 

 

オムニマネジメント2015年7月号に連載第2回『問うべきは、「それは手段か?目的か?」』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年7月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第2回目『問うべきは、「それは手段か?目的か?」』が掲載されました。

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すべての仕事は、必ず「目的」があって行われます。

「目的」を達成する方法が、「手段」です。

しかし手段が目的化しているケースがとても多いのが現実です。

あるいは目的だけが設定され、具体策がないので、実行できないケースもあります。

これは、決して若手ビジネスパーソンだけが陥る罠ではありません。シニアマネジメントもこの罠に陥ることが多いのです。

本論文では、「手段のあり/なし」、「目的のあり/なし」の4つの組み合わせで、「あるべき戦略の姿」「手段の自己目的化」「机上の空論」「妄想」にわけて、考察しています。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

「マス市場」は幻想。解決策は、自分の中にある

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講演が終わり、質疑応答の時間。質問をいただきました。

「永井さんは、『マス市場』をどのように攻めるべきだと思いますか?」

私はこのように答えました。

「『マス市場』というものは、存在しないんですよ」

質問された方は、怪訝そうな顔をしています。そこで私は講演会場にいる皆様に問いかけてみました。

「この部屋には、数十名の方がいらっしゃいますよね」

参加者は、お互いの顔を確認しています。

「皆さん、今回の講演に興味を持たれた、という点では共通です。では、皆さんが商品企画担当者だと想定しましょう。ここにいる人たちへ、どんな商品を企画したら、売れると思いますか?」

ここで私は話しを区切り、皆さんからのお答えを待ちました。

一同、「うーん」と考えられています。しかし、いい答えを思いついた方はおられないようです。

私は続けました。

「ここにいる数十人だけを考えても、皆さん1人1人は違うので、全員が買うような商品を作るのは至難の業ですよね。この数十人を、数百万人から数億人の規模に拡大したのが、『マス市場』です。しかし実際にはその中の一人一人はみな違いますし、多様なニーズを持っています。全員のニーズに応えるのは不可能です。だから『マス市場』は、幻想だと私は思っています」

 

多くの企業は、10人の顧客がいれば、10人全員の課題に応えようとします。このようにして「マス市場向け」の商品が生まれます。

しかしそのような商品を開発しても差別化はできません。顧客は「うーん、悪くはないんだけど、他にも同じような商品はあるからね」と考え、最後は価格勝負になってしまうのです。

 

「iPhoneのような、皆が欲しがるマス市場向けの商品があるじゃないか」と思う方もおられるかもしれません。

しかしiPhoneも誕生当初は、多くの専門家が「ボタンがないこんな奇妙な商品は失敗する」と予想していたのです。

確かにスティーブ・ジョブスはiPhone発表時に、「電話を再定義する」と高らかに宣言しました。

しかしその後、Appleが実際にiPhoneでやったことは、ニッチ市場へのターゲッティングです。そしてiPhoneは地道なイノベーションを積み重ね、時間をかけてマス市場向けの商品に成長したのです。最初からマス市場向けの商品として販売されたのではありません。

 

では、私たちはどうすればいいのか?

「お客様が買う理由」、言い換えれば、リアルな顧客が本当に必要とする「具体的な解決策」を提供することです。

iPhoneも、市場に10人中1人(あるいは100人中1人)しかいない「ぜひ欲しい」という顧客に向き合い、時間をかけて顧客開拓を続けた結果、現在の「スマートフォン市場」を生み出し、世の中を変えたのです。

 

私が講演や研修で実感することがあります。

企業にいるビジネスパーソンは、この「お客様が買う理由」を作る源泉となる「自社ならではの強み」「顧客の課題」を、暗黙知として実は経験的によくわかっているということ。

しかし、それらは日々の仕事で当たり前になっているので、なかなか言葉にできず、改めて深く考え掘り起こし、互いに議論する機会がないこと。

そしてほとんどの企業が、それらを活かす方法論を持っていない、ということです。

 

方法論を学び、時間をかけたワークショップなどを通じてお互いに議論を重ねることで、「当たり前」と思っていて見過ごしていた「自社ならではの強み」「顧客の課題」に気づき、「お客様が買う理由」を創り上げることができます。

他人から「こう考えたら?」と指摘されている間は、自分で問題解決できません。

自分で気づきを得られれば、その後は他人の助けを得なくても、問題解決できるようになるのです。

他人から指摘されるのではなく、たとえ時間がかかっても、実は自分たちが持っていたモノについて自らが気づくことが大切なのです。

 

世の中には「マーケティングというと難しそうだ」という一種のアレルギーがあるので、私は「マーケティング」という言葉はなるべく使わないようにしています。

しかし私は著書や、講演や研修を通して、「マーケティング思考」を世の中に定着させたいと常に思っています。

「マス市場」の幻想から脱却して、「マーケティング思考」が定着すれば、企業や個人がより高い価値を生み出せるようになり、よりよい世の中になっていくと思っています。

「何でも対応できます」は、「価値ある仕事はできません」と同じ意味

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映画「バットマン」で、バットマンの表の顔・ブルース・ウェインを支える執事アルフレッド・ペニーワース (Alfred Pennyworth)をご存じでしょうか?クリストファー・ノーラン監督のバットマンシリーズでは、マイケル・ケインがアルフレッド役を演じています。

アルフレッドはあらゆる難題に対応できる、まさに「万能の執事」。

ウェイン家のあらゆる雑事をこなす傍らで、バットモービルを製作・保守し、武器を調達、敵の情報を調べ上げ、戦いで傷ついたブルースを治療するなど、バットマンの戦いを裏で支えます。さらにとても美味しい紅茶を入れて、癒やしてくれます。

 

さて、アルフレッドのように、あらゆる難題に対して素晴らしいアウトプットを生み出す人は、あくまで映画の中だけの話。しかしこのようにおっしゃる企業様に出会うことがあります。

「弊社の強みは、お客様のあらゆるご要望に真摯に対応することです」

「お客様のあらゆる課題に、いかようにでも対応できます」

実際にはあらゆることに対応できる筈もありません。そしてその特定分野の一流と比べると、大きく見劣りするアウトプットしか出てこないのが、現実です。

 

ほとんどの場合、「何でもできます」の意味は、こういうことです。

「何でもできます」
=「明確な専門分野を持っていません」
=「自分には、『売り』も『強み』もありません」
=「誰でも出来ることしか、できません」

「自社ならでは」の高い価値を提供できないので、他社との体力勝負になります。こうなるとライバルに勝てる要素は価格だけ。競合して運良く最安値で受注しても、「忙しいけど、稼げない」ということになります。

 

本来企業には、何らかの「強み」や「売り」があります。たとえば、

・顧客スキル:ある業界の顧客企業のプロジェクトを長年やっていれば、その業界のことにはかなり精通しています
・ソリューションスキル:特定ソリューションを担当していれば、その強みも弱みも、他社よりは分かっています
・職種スキル:経理や会計、マーケティング、セールスといった職種でスキルを深めている場合もあるでしょう

これを考え抜くことで、自社の得意科目は何で、苦手科目は何かが、わかってきます。

 

学校では、苦手科目でもテストがあります。しかしビジネスでは、苦手科目は避けられます。苦手科目を求めてくるお客様は辞退し、得意科目に絞って勝負することで、価格勝負や消耗戦を避けて、価値で勝負できるようになります。

しかし、実際に企業の方々とお話しすると、「自社の強み?うーん、何だろう?特にないですね」とお答えになる方が実に多いのが現実です。

つまり時間をかけて自社の得意科目を考えている企業は、実に少ないのです。こうなると消耗戦や価格勝負は避けられません。

 

ほとんどの人は、アルフレッドのようなスーパーマンではありません。

「あなたの強みは?」と訊かれた時は、具体的に即答できるように、いつも考えたいものです。

 

オムニマネジメント連載「半歩深く考える仕事術」が始まりました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年6月号より、連載「半歩深く考える仕事術」が始まりました。

連載第1回目は、「仕事で狙うべきは100点満点か?80点か?」

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実はこれは難しい問題です。

特に「仕事は修業」と考える日本人は、すべての仕事で100点満点を狙いがちです。

このことについて、4象限で考えてみました。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

「『お客様が買う理由』を考えられれば、苦労しないよ」と思うから、苦労する

いつも講演や研修などで、「『お客様が買う理由』をしっかり考えましょう」とご提案しています。

具体的には、『お客様が買う理由』は次の項目を考えていきます。

①自社の事業は、何か?
②自社ならではの強みは、何か?
③その強みを必要とするお客様は、誰か?
④そのお客様は、何を必要としているか?
⑤お客様が自社を選ぶためには、どうすればよいか?

 

これを考え抜くのは大変です。

時々いただくご意見が、「『お客様が買う理由』を考えられれば、苦労しないよ」。

このご意見、ある意味、とても当たっています。
『お客様が買う理由』を徹底的に考え抜き、実際にリアルのお客様で検証して確立すると、業績もアップし、日々の仕事で苦労しなくなるのです。

しかし逆もまた正しいのです。
つまり『お客様が買う理由』を考え抜かずに仕事をしているから、苦労をしてしまうのです。

Expressions

 

『お客様が買う理由』を考えるのに苦労して、日々の仕事の苦労を楽にするか?
『お客様が買う理由』を考えず、日々の仕事で苦労するか?

できれば前者で行きたいものです。

「ヘッドピンの存在を信じる」マツダ スカイアクティブ成功の裏側

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マツダは4年連続赤字やフォードの出資比率低下による信用低下などによる苦境を乗り越え、現在好調です。このマツダの好調に大きく貢献しているのがスカイアクティブ・テクノロジーです。

しかしマツダは業界トップのトヨタと比べると規模は1/10以下。エンジン周りの開発人員に至っては、フォードとの共同開発案件に駆り出されていたこともあって、数十分の一でした。そんな状況で、「燃費を30%以上改善しながら、走りの楽しさも実現する」という目標を立てて、スカイアクティブ・テクノロジーが開発されました。

 

マツダのスカイアクティブ・テクノロジーの挑戦については、「100円のコーラを1000円で売る方法2」や当ブログでも何回か紹介しました。

開発本部長としてこの開発を陣頭指揮された、マツダ・常務の人見 光夫さんが、著書を出されました。

「答えは必ずある---逆境をはね返したマツダの発想力」(人見 光夫著)

マツダの挑戦については、これまで主にマスコミの記事で報じられていましたが、人見さんご自身が何を語られるのかとても興味があり、拝読しました。

 

やはり現場で格闘されている人の言葉には重みがあります。

いくつかご紹介したいと思います。

—(以下、引用)—

もっとも、私たちの「選択と集中」は前述のとおり、多くの選択肢の中からどれかよさそうなものを選んでそこに集中するということではなく、さまざまな課題に共通している主要共通課題を賢く選択して、その部分の解決に集中するという意味である。 ボウリングのように、後ろのピンがすべて倒れるようにヘッドピンにうまく当てるのが理想だ。

(中略)

最も重要なことは、ヘッドピンの存在を信じることだ。 常に、そうした目でものごとを見るという習慣が何よりも大事だ。そうすれば、必ず見えてくる。一人ではダメでも、チーム力を駆使すればそれができる。

—(以上、引用)—

本書ではこの「ヘッドピン」という言葉がよく出てきます。

自動車開発に限らず、実に多くのケースでこの「ヘッドピン」というのは存在する、ということは、私も実感します。

ともすると私たちは、常識に囚われたりして、表面的な現象を問題の原因と考えがちです。しかし、様々な視点でその奥深くに潜む本当の原因は何かを徹底的に考えることが必要になります。

様々な現象の本当の原因を徹底的に考え、シンプルな原因に辿り着くことで、ヘッドピンが見えてくるのです。

逆に言えば、対策が10個もある状態では、まだまだ思考が不足している証でもあるのです

 

競争について語っている箇所もあります。

—(以下、引用)—

自動車業界を見渡せば、現在でもそうした後追いはある。なぜ後追いをするのか。不安だからだ。不安になるから真似をする。

—(以上、引用)—

「不安だから真似をする」というのは、まさにその通りだと思います。

日本企業に限らず、世界を見渡しても、成功している他社の模倣をする企業はとても多くあります。

しかし成功企業の真似をしようとしても、100%真似をするのは不可能です。成功企業は独自の強みを持っているからです。だからコピーしたつもりでも「劣化版コピー」にしかならず、「安価な代替品」になってしまうことも少なくありません。

我々は、「模倣は、実はリスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

 

仕事のあり方についても、語っている箇所があります。

—(以下、引用)—

だから、私はできるだけものごとをシンプルに考えて、仕事は減らさないといけないと言っている。もちろん、ラクをするためではない。無駄をなくし、より重要で、全体最適に貢献する仕事をするためだ。 そこを解決すれば、品質もよくなるし、性能もアップする。そしてコストも安く済む。そうした課題を見つけるという発想で課題を探し、ソリューションを考える。それがつまり、仕事を減らすということの意味だ。

—(以上、引用)—

「品質と性能をアップし、コストを削減し、仕事を減らす」

相矛盾するように聞こえますが、実はシンプルな理想形を徹底追求すると、不可能なことではありません。

無駄を排除すること、言い換えれば、不要な様々なモノを切り捨てればよいのです。

それは仕事だったり、製品だったり、あるいはお客様だったりします。

しかし私たちは、この「不要な様々なモノを切り捨てる」ことがなかなかできません。企業は組織ですから、当然ながら利害関係者の反対もあります。

そのためには、価値観と、全体最適の姿を徹底的に共有するチームワークが大切になってきます。

 

スーパーマンのように見える人見さんですが、先行開発部での仕事が長く、ご自身のキャリアの中で、実際の商品開発には関わってこられなかったため、このように語っておられる箇所もあります。

—(以下、引用)—

すでにそれなりの年齢になっていたのに、特に満足感や達成感が得られないまま過ごしているという焦燥感も強かった。自分の仕事がなかなか商品化されない。たとえ商品化されたとしても、技術者としてどれだけのことをしたのかと問われた時に説明ができない。山のようにある技術のうちの数種類に携わったというだけのことでしかないという虚しさだ。

(中略)

考え方、技術のとらえ方を変えないと、「何もできないまま、サラリーマン人生終わりだな」と日に日に強く感じるようになっていた。

—(以上、引用)—

会社に務められて、同じような気持ちを抱えながら仕事をしている方は多いのではないかと思います。

 

等身大で語られる本書から、私たちが学べることは多いと思います。

責任感と法令遵守精神が強すぎるから、日本企業は斬新なビジネスを立ち上げられない、という意見

businessman looking through keyhole

海外のベンチャー企業は様々な革新的なビジネスを立ち上げる一方で、日本からはなかなか斬新なアイデアが出てこない、と言われています。

 

たとえば、ハイヤーの配車サービスを提供するUberというサービスがあります。スマホで配車依頼をすると、個人でサービスを提供しているドライバーと引き合わせ、決裁も安全に行えます。

欧米ではUberのように斬新なサービスに挑戦する会社は少なくありませんが、日本では「そうはいっても、タクシーやハイヤーのサービスがあるし、法律的に色々と面倒なので、やめておこう」と思いがちです。

日本でこのような発想が出ない一つの要因として、「リスクにチャレンジしないから」という意見があります。

しかしそのような性格的な面だけでは、今ひとつ腹オチしませんよね。

 

先日読了した、「競争戦略としてのグローバルルール」(藤井敏彦著、東洋経済新報社)で、そのことがわかりやすく書かれていました。著者の藤井さんは、経済産業省の現役政府交渉官として世界的なルール策定に数多く関わってきた方です。

本書で「なるほど」と思ったのは、日本人は「法は守るもの」と考える傾向が極めて強いのに対して、欧州では「法は目標」と考える、という点。だから海外企業は「法はいくらでも変えられる」と考えて自由な発想でイノベーションを生み出しているのです。

 

たとえば本書では、著者と欧州議会議員が、実現が困難な環境規制について議論したエピソードが書かれています。

著者「…実際に遵守できないことがわかりながら規制するのは適切なこととは思えません」
議員「法は目標なのです。法のめざす方向に社会が動いていけばそれでよいのです」

 

また、非現実的な規制が設定されたエピソードが紹介されています。日本企業であれば「この規制は達成不可能だ。ヨーロッパ市場から撤退をするしかない」と悩むところですが、著者が欧米企業とどのように対処するか議論したところ、最終的な結論は「放っておこう。どうせ誰もこの義務は果たせない」。

本書では、このように書かれています。

—(以下、p.107より引用)—

国際ルールづくりの現場には日本人であればとうていできないような考え方が渦巻いているのだ。日本的に言えば単なる無責任であり、彼らに言わせれば未来志向である。

—(以上、引用)—

また元サッカー日本代表チームのオシム監督が、日本選手がゴールを積極的にねらえない理由として「責任感が強すぎるから」と述べたエピソードも紹介されています。裏を返せば「失敗を叱責しすぎる」ということです。

法令違反をした場合、日本だと「誰がやったのか?」という責任追及になりがちですが、欧米企業では「罰金はいくらだ?」になります。法令遵守のコストより安ければ罰金を払って済ませます。もちろんこの背景には、社会的バッシングが日本よりも少ないこともあります。

 

本書を読んで、過度な責任感の強さや法令遵守精神が日本企業の停滞を生み出しているとすれば、企業側が積極的に働きかけてその責任を企業側で負い、もっと社員に失敗前提でチャレンジすることを奨励すべきなのではないか、と改めて思いました。

また、規制緩和が成長戦略のために政府ができる最大の貢献であることも実感しました。

現状打破の意外なポイントは、まだまだありそうです。

「大卒→新卒就職→出世競争」の崩壊

私が新社会人になった1980年代、多くの若者が

大卒→新卒就職→出世競争→部長→退職

が成功パターンだと考え、企業に就職しました。そして新入社員として入社した同期が並んで一斉に出世競争をスタートしていました。経済も成長していて、会社も成長していたので昇進ポストも次々と生まれ、競争の結果、出世も約束されていた時代です。

Successful business man jumping over charts on background

一方で現代は低経済成長の時代です。「社内出世をしようにも、経営合理化で管理職ポストは逆に減っている」と言われています。

しかし、「これは本当なのか?」と考えて、調べてみました。

 

調べてみたら、日本労働組合総連合会「役職別の人員構成と賃金」という調査結果が見つかりました。継続的に調査をしてるので、時系列的な変化がわかります。

この調査によると、100人以上の企業で大卒男子で、50~54歳にどのような役職に就いているのかがわかります。1985年からリーマンショック直後の2009年の変化は次の通りです。

部長級 35.7% → 18.9%
課長級 18.2% → 22.6%
係長級 3.0% → 6.0%
他役職 23.2% → 14.2%
非役職 19.9% → 38.3%

かつて50代の1/3以上が部長に就任していましたが、リーマンショック後はわずか6人に1人。逆に役職についていない人が倍に増えて40%近くもいます。(2014年はやや改善していますが同様の傾向です)

 

各役職の平均年齢についても、変遷がわかります。100人以上の企業で大卒男子で、1985年からリーマンショック直後の2009年の変化は次の通りです。

部長級 49.1歳 → 50.9歳
課長級 44.5歳 → 47.1歳
係長級 40.5歳 → 43.1歳
非役職  34.2歳 → 37.2歳

「若手抜擢人事」は一般的でなく、逆に役職就任は2-3歳遅くなっています。

 

これらのデータから、出世競争はより一層と厳しくなり、出世するタイミングも遅くなっており、社内で競争し「大卒→係長→課長→部長→退職」という昔のパターンは崩壊していることが読み取れます。

つまり「現代では、出世競争だけが、会社人生ではない」ということです。

 

とは言え、企業に勤める目的は出世だけではありません。

スキルを磨く、仲間と一緒に働く、個人または小さな会社ではできない大きなプロジェクトに取り組む、人間として成長する、など、様々な意味があります。私自身も日本IBMで30年間仕事をしたことで、まだまだ未熟ながらも人間として成長させていただきました。

自分が働く意味を、今一度自分自身に問うことが必要な時代になったということではないでしょうか?

「とりあえず企画を通してから考えよう」では成功しない

新たなビジネスを立ち上げる場合、まず企画から始まります。

そして多くの場合、企画を進めるためには、企画が承認されないと進められません。

そこでこう考えがちです。

「とりあえず企画を通してから考えよう」

しかしこの考え方では、成功の確率はグッと少なくなります。

 

建物を建築する場合を考えてみるとよくわかります。

最初に、どのような建物が必要なのか、依頼主と話し合います。そして要望を反映して建物を設計し、依頼主がOKを出せば、材料を調達し、建築していきます。

建築しながら適宜修正するのは至難の業です。たとえば部屋の壁を作っている段階で、建物に新たな部屋を作るということはできません。本当に新たな部屋を作るには、一旦作った部分を壊して、作り直しになります。工期も遅れますし、建物の強度設計上も問題が出てきます。つまり、工程の後になればなるほど、修正のコストがかかるのです。

不動産経営

だから最初の企画の段階で、あらゆることを考え抜く必要があるのです。

たとえば先の例で新たな部屋を作る場合、最初の企画の段階であれば、全体の間取りを調整することは容易です。

 

企画を通すのは大変なので、私たちは「とりあえず企画を通してから考えよう」という誘惑に負けがちです。しかし、企画が正否を握ることも多いのです。時間が許す限り、企画は考え抜きたいものです。

目的を考えた人が、手段も考えるべきである

第二次世界大戦中にこんな笑い話があります。

米軍は大西洋でドイツ軍のUボートに多数の船を撃沈されて困っていました。

ちなみにUボートというのはこんな潜水艦です。
U-Boat

そこである米国の俳優が記者にこう語りました。

「Uボート退治は簡単だ。海水を沸騰させれば、浮いてくる。そこを捕らえるのさ」

記者はこう尋ねました。

「素晴らしい!でもどうやって沸騰させるのでしょうか?」

俳優はこう答えました。

「解決策は教えたよ。考えるのはあなたがただ」

笑い話ですが、実は笑えない話でもあります。似たようなことはビジネスの場でも起きているからです。

 

組織トップが大きな問題意識を持ち、

「もっと顧客志向になろう」

「徹底的なコスト削減を進めよう」

とメッセージを出す企業は多くあります。しかしこう言われた部下は戸惑います。

「言っていることはわかるが、具体的にどうすればいいかわからない」

そしてこう考えます。

「今日も忙しいから、まずあの件を片づけよう」

この結局、何も変わらないことが多いのです。しかしトップはこの状況をなかなか理解できません。

「目的は明確に示した。手段を考えるのが部下の仕事なのに、なんでやらないのだろう」

 

先の米国俳優とこの組織トップの共通点は、「手段を考えるのは、自分の仕事ではない」と考えている点です。

違いは、米国俳優は手段は存在しないと知っていてジョークで発言しているのに対して、組織トップは目的を達成するための手段は存在すると信じ、その手段を考えるのが部下の仕事と考えていることです。

「目的」という大きな花火を打ち上げますが、その目的を達成するための具体的な手段は考えていないのです。だから「机上の空論」になってしまうのです。

特に現代は、戦略を実行するスピードが勝負の分かれ目になっています。言い換えれば、戦略を迅速に実行することも、戦略を立てた人の責任であると考えるべきなのです。

細かい詳細な手段や箸の上げ下げまでトップが考える必要はありませんが、部下や関係者が実際の行動に移せるための具体的な手段までを考えるのは、目的を考えた人の責任と考えるべきなのです。

質問の意味を知らずに、答える社長

疑問おじいちゃん
1998年頃のことだったと記憶しています。

当時日本IBM社員だった私は、個人でIT系の社外勉強会に参加していました。

この勉強会を仕切っていた方はIT業界に知己が多く、楽天を創業したばかりの三木谷さんや、創業3ヶ月後でまだヤフージャパンの営業本部長だった井上雅博さん(その後社長に就任)など、今から振り返ると凄い方々が登壇されました。

 

そんな勉強会に、あるIT企業の社長が登壇されました。年の頃は60歳を超えた位の紳士でした。

一通り自社サービスの説明をした後、質疑応答の時間になりました。1998年でいわゆる「2000年問題」が話題になっていた頃なので、会を仕切っている司会者から、こんな質問が出ました。

「御社は2000年問題に、どのように対応しておられますか?」

社長さんはペースを崩さずに答えます。

「弊社としても2000年に向けて様々な問題を抱えており、一つ一つ問題解決に当たっているところでございます。未来の予測が難しい現代ですので、……」

3-4分ほどお話しされた後に、司会者が手を挙げました。

「コンピューターが古いプログラムのロジックの問題で、2000年1月1日午前0時に誤作動する可能性が指摘されていますよね。御社はどのように対応をお考えですか?」

よどみなく答えておられた社長さんに、一瞬間が空きました。

その時、社長さんに同行していた役員の方が手を挙げて、

「はい。弊社としても順次対応を進めているところです。具体的には…」

社長さんから回答を引き継がれました。

 

当時、30代後半だった私は、「IT企業で2000年問題も知らないのはいかがなものか?」と感じました。

しかし15年以上が経過した今、当時のことを想い出して、別のことを考えます。

それは経営者が自分が知らない問題について答えなければならない時、どうすべきか、という課題です。

社長は、会社に関するあらゆることに責任を持っており、常に社外から問い続けられています。この2000年問題に限らず、自分がよく知らない問題に出会うこともあります。

この社長は「2000年問題?よく知らないけど、多分『それは何ですか?』では済まされない問題のようだな」と直観したのかもしれません。その上で「これなら、多分そつがないだろう」と思われる回答をしたのかもしれません。

「IT企業で重要テーマとなっている2000年問題を知らないのはいかがなものか」、「回答が的外れで無責任」という是非は一旦脇に置いておいて、社長としての覚悟を感じた次第です。

 

とは言え、自分が持っている課題はすべて洗い出した上で、自分が知らない質問に対しては「知らない。それは何か?」と、常に自信を持って尋ねられるようにありたい、とも思った次第です。

「四象限思考」…四象限で考えると色々なことが見えてくる

モノゴトを考える際に、一つの視点だけで考えるのはちょっと危険です。

別の視点があることに気がつかないからです。

たとえば4月24日に当ブログのエントリー「仕事では、100点満点を狙うか?80点主義でよしとするか?」を例にとって考えてみます。

仕事では100点満点を目指すべきか?
仕事では80点主義でよしとするか?

この視点だけで考えていては、なかなか結論が出ませんし、結論らしき答えが出ても主観的になりがちです。

 

そこで二つの軸を考えてみます。

「提供する仕事の品質」で、100点と80点をわける
「アウトプットの要求品質」で、100点と80点をわける

こうすると、当ブログで書いたように、四象限にわけて考えることができます。

仕事の品質名前未記入

ここでそれぞれの四象限の意味を考えてみます。

「ここはどういう意味だろう?」と、自分の頭であれこれと考えることが大切です。

私が考えた結果は下図です。(詳しい解説は先日のブログを参照下さい)

仕事の品質

このように四象限で考えてみると、比視点が偏るのを避けて、較的簡単に短時間で半歩深く考えることができます。

 

ちょっとしたコツです。習慣づけたいですね。

ITエンジニアがマーケティング思考を身につければ、ビッグデータ活用で大きな成果を生み出せる

Big Data

ビッグデータ時代のいま、ITエンジニアに求められているのは、ITに関する技術だけではなくマーケティング思考力。そのことを感じた記事がありました。

日本経済新聞デジタル版に、日経情報ストラテジー編集部から転載された記事「1ピクセル5億円…顧客呼ぶヤフーのこだわり分析」(会員のみ閲覧可能)が掲載されています。

【事例】ヤフージャパン
対象顧客:スマホサイトの検索利用者(月間 約600億PV)
方法:A/Bテストで検証した結果、検索窓の枠を1ピクセル太くした。
結果:検索広告で5億円増収

【事例】東急百貨店
対象顧客:電子クーポン機能を使う、主要顧客である40代以上の女性
方法:複数枚の電子クーポンを配付しても1枚しか使わない。データ分析の結果、一番上に表示されるクーポンしか認識しないことがわかったので、クーポンを表示する瞬間、微妙に動かし複数枚あることを気づかせるようにした
効果:クーポン利用率は3割増加

【事例】ドリコム
対象顧客:通勤時間帯にゲームを楽しむソーシャルゲームユーザー
方法:数十テラバイトに上るログデータにより、このユーザー群は土日もゲームにはまっていることを把握。「同じ人数同士のチーム戦は最も楽しい」ので、先々のユーザー数を予測し、チーム対戦ゲームで、同じ人数のチーム同士が戦えるように対戦相手を最適化する仕組みを新開発。
効果:購入金額を1割向上

 

実際、私も小さなサイトをいくつか運営していますが、かなり頻繁にデザインを変えています。

サイトを運営していると、実際のアクセスデータでユーザーの挙動を見ながら、サイトを細かく手直しするのは常識です。

これが企業レベルになると、扱うデータも巨大になる一方で、ビジネス規模も巨大で、かつリアルタイム性を求められます。

 

ここで必要なのが、マーケティング思考です。

マーケティング思考の原点は、「お客様が買う理由」を創り出すこと。

この「お客様が買う理由」は、次の仮説検証プロセスを通じて作っていきます。

1.自社の強みは何か? (徹底検証)
→2.その強みを必要とする対象顧客、顧客の課題、解決策は何か?(仮説)
→3.対象顧客と顧客の課題の仮説は、正しいか? (検証。×なら2.に戻る)
→4.解決策の仮説は、正しいか? (検証)   (検証。×なら2.に戻る)

一見難しいように見えますが、上記事例にもあるように、ネット業界の多くの成功事例ではこれらを普通に行っています。

 

マーケティング思考と組み合わせることで、ビッグデータの活用はビジネス直結の成果を生み出します。

そのためには、単にビッグデータ活用技術を導入するだけではなく、「お客様が買う理由」を仮説検証するプロセスや思考方法も、一緒に定着させることが必要になります。

ビッグデータ時代には、ITエンジニアも、マーケティング思考が求められるのです。

昨年、当ブログでグロースハッカーの考え方をご紹介しましたが、まさにその考え方とも通じる話ですね。

経験から得られる暗黙知が大事な理由

書物やネットから得る知識と、経験で得る知識。

前者の「書物やネットから得る知識」は、幅広く色々なものを手っ取り早く仕入れることができます。このような知識は「形式知」と呼ばれます。

私もついスマホばかり見てしまうことも多いのですが、ネット上には色々な面白い情報がころがっています。ともすると、一日中スマホなどを長めながら、そのような情報を見て学んだつもりになってしまうことも、なきにしもあらずです。

Couple not talking to each other typing on mobile phones

後者の経験で得る知識は、そうはいきません。限られた時間でありとあらゆるものを経験できることはできませんので、得られる知識は限定的です。

しかし決定的に異なる点があります。経験で得られる知識は、言葉にできないことが得られるのです。このような知識は「暗黙知」と呼ばれます。

 

たとえば組織のリーダーとしての役割を担う場合。

人間の集団である組織は、生き物です。ともすると参加メンバーのエゴがぶつかり合ったり、メンバーのメンタル面のきめ細かいフォローをしたり、あるいは志をともにして素晴らしい何かを目指したりと、リーダーの立場でなければ得られない経験と学びがあります。楽しいことばかりではなく、苦しいことも多いのです。

このような学びは時間はかかります。しかしネットや書物に書かれているリーダーシップ論を学ぶよりも、はるかに大きなことを学ぶことができます。

 

では、この「経験で得られる知識」を得るためには、どうすればよいのでしょうか?
答えは字の通り、「経験を重ねること」。
つまり、「実際に行動すること」、言い換えれば「行ずること」に尽きると思います。

 

ネット社会になり、一見面白おかしい形式知が氾濫する現代だからこそ、実際に行動することと、その経験から生まれる「暗黙知」がますます大切になってきています。

 

では形式知を軽視していいかというと、これはまた行きすぎです。
自宅にいながら、ネットで大量の形式知が得られる時代は、かつてありませんでした。この利便性は享受すべきでしょう。

 

形式知が大量に得られる時代ですが、形式知だけは不十分。
暗黙知は経験から得られますが、経験論だけでも不十分。

結局、両者のバランスが必要であることを認識することが必要なのだと思います。

 

 

「一緒に仕事をしていて気持ちがよい人」の共通点を考えると、見えてくるモノ

仕事は、一人ではできません。

仕事は、色々な人たちとの共同作業で進んでいきます。

ですので仕事をする際には、必ず誰かと一緒に仕事をすることになります。

できれば一緒に仕事をしていて気持ちがよい人と仕事をしたいですね。

ガッツポーズをするビジネスマンとビジネスーマン

 

そこで「一緒に仕事をしていて気持ちがいい人」の共通点を考えてみました。

■返事が速い。

■常に前向きで、愚痴も、他人の悪口も言わない。

■誠実である。一度口にしたことは実行し、できなかった場合はちゃんと理由を説明する。

■ウソをつかない。隠し事もしない。間違ったら素直に詫びる。

■少々言いにくいことであっても、リスペクトしつつ、率直に話してくれる。

■自分の立場だけでなく、こちらの立場を十分に配慮してくれる。

■プロフェッショナルであり、仕事はキチンとこなす。

■「神は細部に宿る」ことを知っており、きめ細かい気遣いを忘れない。

■言ってることが首尾一貫しており、ぶれることがない

■常に仕事に対して真摯で、真面目。

 

実は考えてみると、これらは相手から見た自分の姿でもあります。ですので自分自身も、「一緒に仕事をしていて気持ちがいい」という人でありたいですね。

加えて、こんな人と一緒に仕事ができたら、こちらも「自分もちょっと頑張ろう」と思います。

上記のようなちょっとしたことの積み重ねが、周囲の人たちからも「運気」を呼び込み、「あの人って、運がいいよね」と言われるようになるのではないでしょうか?

 

 

自分の夢を実現するために、今日から始められる、意外と簡単で現実的な方法。

もしあなたが、「こうしたい」「こうなったらいいな」という具体的な夢を持っていたら、それを実現する意外と簡単な方法があります。

毎日、「×××××するぞ」「×××できた」と、毎日言葉に出して、言い続けること。

喜ぶ女性

 

「いくらなんでも、それだけじゃ無理じゃない?」「永井さんのブログも、いよいよオカルト系に走り始めたか」と思う方もおられるかもしれませんが、意外とこれは真実です。

私自身、20代の頃は毎日、「よし、写真展やるぞ」と独り言を言い続けていました。そして27歳の時、銀座キャノンサロンで個展を開催しました。

そして40代の頃は、「マーケティングの本を出すぞ」と独り言を言い続けていました。今は十数冊の本を出しています。

(今から思えば、周囲の人は「変な独り言を言い続ける、ちょっと変な人」と思ったかもしれませんね)

 

世の中には色々な商品やサービスが溢れかえっています。

それらは一つ残らず、以前は存在しておらず、誰かが自分の心の中に描いていたものです。

だから、まず「自分の心に、『こうしたい』と思い描くこと」が出発点です。

 

「こうしたい」という夢を思い描ければ、目指す山頂に向かって、山の中腹まで来たようなものです。

そこからは実現するだけです。

 

そして実現するためには、行動に繋げることが必要です。そこで重要になるのが、自分の潜在意識。

人間の多くの行動は、顕在意識でなく、潜在意識がコントロールしています。

だから潜在意識が、夢に向かって本気になることが、自分の具体的な行動に繋がります。

 

ここで大切なことがあります。潜在意識には「人称」がない、ということです。

たとえば、「あの人、ダメじゃん」と言葉に出した場合、その言葉は潜在意識には、人称部分の「あの人」がキレイさっぱり削除された上で、「ダメじゃん」という自分を攻撃する言葉に変換されてインプットされてしまいます。

怖いですよね。

 

常にポジティブな言葉・きれいな言葉を使った方がいいのは、知らない間にその言葉が、自分の潜在意識に刷り込まれてしまうからなのです。

だから、何かいいモノに出会ったら、「ダメだね。自分だったらこうする」というのではなく、「素晴らしい。自分も出来る」と思うことが大事なのです。

 

また私たちはともすると「悪い方へ悪い方へ」とネガティブに考えがちです。

たとえば「×××××したいけど、自分にはできっこない」と思うと、潜在意識にはそれが既成事実として刷り込まれてしまうのです。

ですので、ポジティブに考えることが必要なのです。

これは、訓練です。

 

しかし意識的に潜在意識に働きかけようとしても、潜在意識は受け付けません。

だから潜在意識なのですね。

では、どういう状態で受け付けるかというと、リラックスしたり、ボーッとした状態。

この状態の方が、自分の潜在意識は暗示にかかりやすいのです。

ちなみに、視聴者がTV CMをボーッとしながら眺めるために、企業がTV局に大金を払うのは、この理由です。

 

ここまでお読みになれば、なぜ

毎日、「×××××するぞ」「×××できた」と、毎日言葉に出して言い続けること。

が、夢を実現する方法なのか、おわかりいただけると思います。

「×××××するぞ」は、実現する意識付けのため。

「×××できた」は、実現した自分をイメージし、そこからさかのぼって具体的に何を行うべきかをイメージするため。

つまりこれは、潜在意識に夢を刷り込み、その実現のための行動に繋げるための方法論なのです。

 

ということで、夢を持っていたら、まず「×××××するぞ」「×××できた」と、毎日言葉に出して、言い続けてみましょう。

何よりも自分の潜在意識が助けてくれますし、もしかしたら、本当に助けてくれる人が現れるかもしれません。

 

 

当エントリーは、2年半前に当ブログで書いた「潜在意識の力を活用すると願いは実現できる、という話」を大幅に書き直したものです。

「自信がある人」と「傲慢な人」の違い

先日、尊敬する日本IBMの大先輩とお話しする機会がありました。

そこで教えていただいたのが、「自信がある人」「傲慢な人」の違い。

一見似ているけど実は違う、というお話しです。

 

「自信がある人」は、他人の意見をちゃんと聞きます。その意見が正しいと思えば自分の考えに採り入れますし、間違っていると思えば「それは違うんじゃない?」と反論します。池上彰さんをイメージすると近いかもしれませんね。

自信

「傲慢な人」は、他人の意見を聞こうとしません。「まず自分の意見ありき」で自分の意見を曲げようとしないので、相手の意見が正しくても受け容れることは少ないのです。

傲慢

 

なるほどな、と思いました。

これは以前当ブログで書いた「議論には、2種類ある。混同すると火傷する」にある、弁証法とディベートの違いにも相通じるものがあると思います。

 

他人の意見を謙虚に聞ける人間は、常に学び続け、成長できます。

常に謙虚でありたいものです。

 

仕事では、100点満点を狙うか?80点主義でよしとするか?

1年半前に当ブログで「80点主義 vs. 100点主義」というエントリーを書きましたが、これをもう少し考えてみました。

「仕事では常に100点満点を狙う」
「それでは続かないので平均80点を狙う」

これは常にどちらか一方が正しいとは言えません。

 

80点の仕事を100点満点にするには、60点を80点に上げるのと比べて10倍の手間と時間がかかります。つまり100点の仕事は、「時間」という貴重な経営資源を80点の仕事の10倍消費します。

一方で、「ここではどうしても100点の仕事が必要」という場面もあります。

だから、ここで考えるべきなのは仕事で必要とされている要求品質を知ること。

 

たとえばアイデア出しで必要な叩き台を用意するのに、「叩き台」なのですから、100点の案を用意する必要はないのは明らかです。60点で十分です。一方で社運をかけた製品の発表では、ジョブスのように100点満点を目指して準備する必要があります。

前者で時間をかけて100点の仕事をするのは過剰品質ですし、後者で80点の仕事をするのは問題です。

これを絵にすると、こんな感じになります。

仕事の品質

アウトプットの要求品質を自分で考えて、提供する仕事の品質をコントロールしたいものです。

富士重工業様の社内報「秀峰」に、タイムマネジメント術のインタビューを掲載いただきました

富士重工業様の社内報「秀峰」にインタビューを掲載いただきました。

こちらの記事にもありますように、「秀峰」は富士重工業様の会社設立3年後の1956年に創刊され毎月発行され続けています。59年も続いている、歴史ある社内報です。

富士重工業様の社名は、前身である中島飛行機の創業者・中島知久平氏が富士山をこよなく愛したことから、日本最高峰の秀峰「富士山」にちなんで付けられました。社内報の「秀峰」もそのような意味がこめられています。

インタビューを掲載いただいたのは711号。とても名誉なことで有り難いです。

秀峰IMG_3894

『目的達成のための「タイムマネジメント術」』という特集の冒頭で、インタビューを中心に4ページ掲載いただきました。

秀峰1

秀峰2

取材にご尽力をいただいた皆様に感謝致します。

似鳥昭雄さんの私の履歴書より、「うさぎより亀が勝つ」

一昨日のブログに続き、似鳥昭雄さんの私の履歴書からです。

2015/4/18の「私の履歴書」で、「なるほど」と思ったのが、「うさぎより亀が勝つ」という部分。

非科学的で、行き当たりばったりの人海戦術だった似鳥さんは、チェーンストア経営の大家である渥美俊一先生に出会い、研究会に入会し、学んでいきます。そこで渥美先生がおっしゃったのが、この冒頭の言葉。

—(以下、引用)—

それでも先生は「うさぎより亀が勝つ」というのが口癖だった。「賢いやつは慢心するし、できると怠けたりする。素直に柔軟にこつこつとやるのが大事だ。鈍重たれ」と話していた。父から「のろまで頭が悪い」と言われていただけに、この言葉は勇気を与えてくれた。

—(以上、引用)—

似鳥さんは「のろまで頭が悪い」と言わてきた、と振り返っておられます。

私も子どもの頃はそれほど出来は良くありませんでしたし、会社に入ってからも、優秀で要領が良い同期と比べ昇進は遅い方でした。

 

そんな中でも成長する黄金ロールがあるとすれば、「好きなことを、コツコツやる」だと実感しています。

才能だけでやった優秀な人を、コツコツ続ける並の人が凌ぐことはよくあるのです。

「ひたすら愚直に続けろ」と言われると「自分にはちょっと無理」と感じたりしますが、「うさぎより亀が勝つ」と考えると、「亀の自分も、もしかしたらやれるかも」と勇気が沸きますよね。

渥美俊一先生の「うさぎより亀が勝つ」という言葉は、まさに顧客視点の言葉なのだな、と感じました。

ウミガメ

 

 

 

 

荻阪哲雄著「リーダーの言葉が届かない10の理由」 ビジョンを創り、組織に浸透させ、変革を実現する実践書

従来の多くの日本企業では、「これまでこうやってきた。だから次はこれをやろう」という考え方で経営戦略を考えてきました。しかし今は世の中の変化が速く、従来の常識が通用しない状況が増えています。この方法ではすぐに賞味期限切れを起こすのです。

そこで必要になるのが、経営の教科書に書いているように、未来に何が起こるかを見据え、未来の目標(=ビジョン)を定め、そのビジョンを達成するための戦略を考え、組織を動かし実行すること。

しかし実際には、これはなかなかうまくいかないのが現実です。

ちょうど大型タンカーが舵を切ってもなかなか方向転換しないように、「これをやっていたから、次はこれ」という発想に慣れた多くの日本企業では、組織が従来の方法を変えることが、極めて難しいのが現実です。

そして「とりあえずビジョン作りは誰かに任せておいて、本業は本業で従来どおり進めよう」と考え、やり方を変えないのです。

つまりビジョンが他人事になってしまうのです。そして、なかなかビジョンを立てられない → トップがビジョンを語れない →組織に浸透できない →組織が実行できない →反省と学びができない、という悪循環に陥ってしまうのです。

そして、何も変わらないまま時が過ぎ、企業の競争力が、徐々に、あるいは急速に、落ちていきます。

 

ではいかにこれを解決すべきなのか?

最近、荻阪哲雄著「リーダーの言葉が届かない10の理由」(日本経済新聞出版社)を読了しました。

荻坂さんの本

本書では、この問題に対する具体的な解決方法を提示しています。

 

著者の荻阪さんは、二十年以上にわたリ組織の変革系コンサルティングに従事してこられました。本書はその豊富なコンサル経験をベースに、具体的な事例と変革の方法論が紹介されています。

本書の前半1/3では、サザンZ社という架空の会社を舞台に、物語形式でビジョンが浸透しない様子が描かれています。そして真ん中では、それを受けて著者の考えが紹介されています。

そして後半は、荻阪さんが提唱する、ビジョンを創り、届けるために、自分たちの行動へと変えていく実践手法「バインディング・アプローチ」の具体的な方法が紹介されています。

本書からは、リアルな企業変革の現場に数多く立ち会った荻阪さんならではの洞察が散りばめられています。

本書から、私が特に参考になった箇所を引用します。(順番はわかりやすいように並び替えています)

 

■「志」という字を見てください。十を一つにまとめた心と書きます。暗黙のうちにめざしているものが十あったとしても、それをビジョンへと進める(一つの)方向を定める…… (p.91)

■「たしかに共有は大切ですが、共有ばかりしていても、先に物事は進んでいません。なぜなら、共有は手段で、目的ではないのです。どこか、共有していることで安心感だけを得ようとしているように感じます」(p.110)

■著者は、ビジョンを「未来の目的地」と定義する。

■一言で表せば、ビジョンを、リーダーとメンバーで一緒に、仕事の「決め方」と「働き方」に浸み透らせることだ。これが著者の、浸透の定義である。(p.124)

■「日本企業は、協創の文化で、世界に貢献する」……新たな「目的」そのものを仲間と協力し合って創る「協創の組織文化」を育み、協創の企業に変わることをめざせばよいのだ。それによって、日本を変えていく方向が必要と考えている。(p.129-130)

■日本は、「世界一の結束力」を持った国である。(p.131)

■この「大きな目的(ビジョン)に、互いに結びつきたい」という欲求に根ざした人間と組織の根底にある「力」とは、一体どのような力なのか? ……その力を、一言で表したもの、それが「職場結束力」である。つまり、ビジョンは、職場結束力を生み出し、高めて、強くしていかない限り、浸透していかないのである。(p.160)

■……自分で描き、自分で周囲に語り始めると、自分が目の前から逃れられなくなる。その結果、ビジョンを語ることが、やり続けるエンジンに変わったのである。(p.139)

■気づかせようというコントロールの発想を持つと、相手の「自ら変わるエネルギー」は生まれない。(p.152)

■ビジョンを実現するためには、やらない戦略を決断することだ。(p.174)

■実践のビジョンは、仕事を通してやっていくものである。つまり、ビジョンは仕事で行わない限り、浸透しないのだ。(p.193)

■組織の反省は、成果を変えることができる (p.95)

■上司から始まる反省は達成の方法を育てる (p.97)

■反省を語るのは、勇気がいることだ。しかし、責任を持つ人から先にやることで、結果は驚くほど変わる。(p.232)

■三割のリーダーが「バインディング・アプローチ」を実践する協働の姿を見せれば、ビジョンは浸透できる。(p.237)

■「温度差があることをよし」とすることです。……温度差があるからこそ、「実践のビジョン」=「未来の目的地」が必要であり、「温度差の原因を探っていくことによって、実践のヒント、手がかりが見つかる」のです。(p.259-260)

 

実際に変革プロジェクトの当事者として悪戦苦闘しておられる経営者・マネージャー・リーダーの方々は、本書からご自身の悩みを解決するヒントが得られると思います。

今月の「私の履歴書 似鳥昭雄」が面白すぎます

4月は「私の履歴書」から目が離せません。

今月は、ニトリ創業者の似鳥昭雄さんです。ハラハラさせて、ちょっと失礼かもしれませんが、あまりにも面白すぎます。

ニトリ

最近、日経はまず「私の履歴書」から読むようになりました。

 

4月1日の連載第1回を読みかえすと、1972年の100店・売上高1000億円という30年計画を2003年に達成、今は3000店/3兆円という次の30年計画へ向けて動いており、成功の秘訣は「ロマンとビジョンを掲げ、他社より5年先をゆく経営を進めてきた結果」と書かれた後に、こんなことが書いていました。

—(以下、引用)—

………こう話すと頭脳明晰(めいせき)な経営者のイメージを与えるかもしれないが、実は逆。飲み込みが悪く、子供の頃はすさまじい劣等生だった。

—(以上、引用)—

「かなり謙遜なさっておられるのだろうな」と思っていたら、実際には本当に凄まじい状況でした。

 

—(以下、引用)—

……だらしない性格も変わっていない。逆に何もできないから、色々な人の力を借りながら成功できたと思う。家内からは「あなたは人が普通にできることはできないけど、人がやらないことはやるわね」とからかわれる。

—(以上、引用)—

「なるほど。つまり自分で実行せず、マネジメントに徹してきた、ということなのか」と思って読んでいたら、さにあらず。本当にやることなすこと失敗ばかり。苦手な営業から解放されたのも、社交的な奥様と結婚されておかげでした。

 

—(以下、引用)—

幼少期、青年期はいじめにも遭ったが、忘れっぽい性格も事業には向いていたかもしれない。七転八倒の人生で、今では信じられないような「悪さ」もやらかした。人並みのことができない問題児の若気の至りと受け止めていただければ、幸いである。

—(以上、引用)—

このいじめや悪さも、現代だったら確実に社会問題になっていたであろうという凄いモノです。

 

「こんなこと書いていて大丈夫だろうか?」と心配になったりしますが、伝わるところによると、実際にはこれでもかなりセーブしておられるようです。

似鳥さんのお話を読んで感じるのは、「他人がやっていないことをやること」の大切さ。

奥様がおっしゃるように、似鳥さんがやっているのは、他人がやろうとしないことばかりです。失敗ばかりしていますが、その中で成功もある。それが結果的に、ブルーオーシャンを開拓しているのかな、と思います。

 

今月の私の履歴書は、まだ2週間ほど残っています。毎日楽しみにしたいと思います。

11年前に書いた自分の文章を読んで考えた。「文章を書き残すことは、未来の自分への贈り物」

私がブログデビューしたのは2006年2月です。その2年前、2004年から2005年にかけて、メルマガを発行していました。当時は隔週で合計50通ほどを600名の読者に配信していました。もう11年前になりますね。

先日、このメルマガをすべて読みかえす機会がありました。実に色々な発見がありました。

正直に申し上げて、文章力はやや未熟ですし、論理展開もやや冗長です。このメルマガが終了した翌年にブログデビューし毎日ブログを書くようになり、さらに本も何冊か出版していますので、今と比べると文章執筆の蓄積量が圧倒的に少ないことが理由でしょう。

しかし「42歳の当時、自分はこんなことを考えていたのか!」と、現在53歳の私にとって驚きがありました。

わずか11年前とは言え、当時頭を捻って考え抜いて書いたことは、既に忘れていることも多く、記憶の彼方にあったことが一気に想い出されました。

 

文章を書き続けることは、未来の自分への贈り物でもあるのだな、と感じた次第です。

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「朝シフト」が、低い労働生産性に悩む日本企業を救う

これまで日本企業は残業を減らす努力を十分にしてきたとは言えませんでした。

2008年2月にgooリサーチ(現・NTTコムリサーチ)が行った「残業と仕事の効率化に関する意識調査」という調査によると、「どのようなツールを用いて仕事の効率化を実現しているか」という質問に対して、66%が「特に何もしていない」と回答しています。

 

そして2週間前に当ブログで書いた「良くなってきた景気に、残業時間増で対応している日本企業」で紹介したように、「好景気で仕事が増えると残業で対応」、「不景気で仕事が減ると残業が減る」、というパターンを繰り返してきました。

景気判断の指標となる日銀短観上の景気の山と谷は、残業時間の山と谷と、このように見事に一致しています。

残業時間推移

「景気が良くなると残業が増える」というのは、雇用慣習を含めて、日本企業の構造的な問題でもあります。

 

しかし一方で、労働生産性が国際的に大きく見劣りするというデータもあります。

2015/4/9に日本経済新聞に掲載された記事「労働生産性 仕事の効率、世界に見劣り」によると、2013年の1時間あたりの労働生産性は日本は41.3ドル。OECD(経済協力開発機構)加盟34ヶ国中20位。トップのノルウェイ87ドルの半分以下、4位の米国66ドルの2/3以下です。

 

雇用慣習はなかなか変えられませんが、生産性向上の余地はまだまだ大きいですし、努力はすべきですよね。

 

最近になって、取り組む日本企業も増えてきました。

3週間前に当ブログで書いたエントリー『「残業=カッコいい」から、「残業=カッコ悪い」の時代へ』で紹介したように、システム開発大手のSCSKでは、残業時間を短くした人の方が得をする人事制度を7月に導入します。

また、2015/4/9の日本経済新聞の記事「残業削減へ朝型勤務 東ソー、早朝は割増金 東京海上、17時半に退社 政府が助成金検討」では、このような各社事例を紹介しています。

東ソー:早朝勤務に対し割増金の支給を開始。さらに一部職場を除き午後8時以降の残業を原則禁止

コニカミノルタ:午後8時以降の残業は申請を求める

サトーホールディングス:「完全フレックスタイム制」開始。午後8時以降の残業は原則禁止。導入後の昨年12月の総残業時間は例年より3割減。

東京海上日動火災保険:若手・中堅社員を対象に週1回の頻度で午後5時半の退社を求める制度を導入。

伊藤忠商事:午後8時以降の残業を原則禁止し、早朝の時間外手当割増率を25%から50%に。

ユニ・チャーム:始業・就業時間を1時間繰り上げ (通年サマータイム)

 

このように、生産性向上が必要と認識している企業は、既に取り組みを始めています。

そして労働生産性を向上するヒントの1つが、朝シフトです。

上記の企業の多くが、「夜に残業する」という常識を「朝に残業する」という常識に変える挑戦を行っておられるのも、偶然ではありません。上記記事でも、政府が経団連や日本商工会議所、全国中小企業団体中央会に取り組みを要請する方針であることを紹介しています。

日本企業の労働時間が長い1つの要因が、「付き合い残業」。企業としては「付き合い残業は止めましょう」と言うだけでなく、それを抑制し具体的に生産性を上げる施策が必要です。

 

4年前に出版した拙著「残業3時間を朝30分で片づける仕事術」でも、朝シフトを提唱し、個人で出来る具体的な取り組みをご紹介しました。

私自身も、2年前に会社員を卒業しましたが、今も変わらず朝シフトを続けており、その生産性の高さは実感しています。

本書が出版されてから4年が経った今も、朝シフトや時間管理に関する取材を数多くいただくのも、企業の問題意識を反映していると思います。

 

 

個人の生産性向上は、企業の競争力強化に繋がり、その結果、企業は成長していく筈です。

今後、このような取り組みを始める企業が増えることを願っています。

 

星新一は、いかにして1000編以上の作品を遺したか?

昨日のブログの続きで、雑誌「Esquire (エスクァイア)」にあった言葉からです。

 

私が「本は面白い」と思い読書をするようになったきっかけは、星新一のショートショートと呼ばれる短編小説を読み始めてからでした。

星新一

 

星新一は、生涯で1000編の作品を残したと言われています。多作な人です。

その透明な文体から、泉が湧き出るかのようにスラスラと書いているように見えますが、実際には、艱難辛苦・悪戦苦闘の末、作品を生み出し続けたそうです。

 

先日読んだこの文章も、学生時代以来、久しぶりに読みました。

無から有を生み出すインスピレーションなど、
そうつごうよく簡単にわいてくるわけがない。
メモの山をひっかきまわし、腕組みして歩きまわり、溜息をつき、
無為に過ぎてゆく時間を気にし、焼き直しの誘惑と戦い、
思いつきをいくつかメモし、そのいずれにも不満を感じ、
コーヒーを飲み、自己の才能がつきたらしいと絶望し、
目薬をさし、石けんで手を洗い、またメモを読みかえす。
けっして気力をゆるめてはならない

 

この作業を1000回も積み重ねて、数え切れない珠玉の作品を生み出し続けた、星新一の凄さ。

不思議なご縁で文章を書くことが私の仕事の一部となり、著者の端くれとなった今、星新一のこの言葉は、重く感じます。

 

新社会人の皆様へ。99.9%の「つまらない仕事」を、おもしろい仕事に変えるには?

新社会人の皆様、
社会人への門出、おめでとうございます

毎年4月に、ブログで新社会人の皆様にメッセージを書くことが多いのですが、今回も書きます。

 

先日、いつも行っているスポーツクラブに雑誌「Esquire (エスクァイア)」が置いてあったので、何の気なしに読んでいたら、いい言葉が色々とあり、思わずメモってしまいました。映画監督だった黒澤明さんの言葉です。

つまらないと思うものでも、
一生懸命やってみろ、と。
一生懸命やってりゃ、
おもしろくなってくる。
おもしろいから努力しちゃう。

 

「まず、あれこれ考えず、やってみること」

この大切さは実感しますね。

先日当ブログでご紹介した東村アキコ「かくかくしかじか」でも、日高先生の「描け」という言葉がありました。

 

これから何十年と続く社会人人生は、たとえてみれば長距離走のようなもの。

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私たちはついモノゴトに意味を求めてしまいがちですが、「ひたすら行ずること」は意外と大切です。

その時間の積み重ねは、「頭脳が優秀」とか「リーダーシップがある」といった素養の差を軽々と乗り越えてしまいます。

 

そもそも、社会人一年目に、いきなりおもしろい仕事が与えられることは、ほぼ皆無です。
恐らく99.9%、最初の仕事は「つまらない仕事」でしょう。

しかし実は、社会人10年目、20年目でも、おもしろい仕事が与えられることは少ないのです。

「つまらない仕事」を「おもしろい仕事」に変えることが出来るのは、仕事をする本人次第。

社会人30年目を超えた私の実感です。

 

黒澤明監督もおっしゃるように、まずは、目の前のつまらない仕事にも一生懸命取り組んでみる。

すべては、そこから始まると思います。

 

 

「余計な仕事」が、社員全体のやる気を下げている。では「余計な仕事」はどうして生まれるのか?

経営者や管理職とお話しして実感するのは、「社員のやる気をどうすれば上げられるか?」といつも考えている方がとても多いこと。

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これについて、考えるヒントがありました。

ハーバードビジネスレビュー2015年2月号に、LINE代表取締役社長CEO(当時)の森川亮さんへの「会社の成長に計画は不要である」というインタビューが掲載されています。

—(以下、引用)—

[編集部] ヒット商品を生むには組織の活性化が必要で、それには社員のモチベーションを上げることが重要だといわれます。これについてどうお考えですか?

企業はプロフェッショナルを採用しているわけですから会社にモチベーションを上げてもらわなければならないような人はプロとして失格です。これは社会全体が幼稚化していると思うのですが、みずから学ぼう、みずから何かを起こそうという気持ちのない人は、新しいものを生み出せないと思います。そういう気のある人が喧々諤々の議論をしながらいいものを世に送り出すのが本来の姿です。

—(以上、引用)—

 

このような意見に対して、「LINEのような企業だから、プロフェッショナルを採用できるのだろう」という意見も聞かれます。

中小企業は確かに厳しい採用環境ですので、その通りなのかもしれません。

しかし本来は人材を見極めて採用しているはずの大企業でも、同じ意見を聞くことがあります。

これは、いい人材を採用しても、社内で人材をスポイルしてしまっている、ということの裏返しです。

 

この点に関しても、大企業に勤務された経験がある森川さんは、次のようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—

大企業の人から、マネージャー・クラスの人が疲れているという話を耳にします。部下の教育や評価もしなければならないし、決算もしなければならないし、リポートも書かなければならない。しかも一日中会議だらけで、家に持ち帰って仕事をしなければとても追いつかないというのです。これは優秀な人の使い方を誤っていると思います。

……

いい成果を生み出すためには、優秀な人が余計なことに惑わされず、速いスピードで動ける環境が大事なのです。しかしいま申し上げた大企業のやり方では、優秀な人ほど余計な仕事が増え、面倒を見なければならないモチベーションが低い部下を抱えさせられてしまう仕組みです。やがて疲れ切って諦めてしまうのは、当然のことでしょう。

—(以上、引用)—

「『余計な仕事』が、社員全体のやる気を下げている」ということですね。

私も大企業で30年間仕事をしていましたので、おっしゃっていることはよくわかります。

 

社内の「余計な仕事」は、主管部門が責任者の承認を得て一旦ルールを決めると、「社員がやらなければならない仕事」となることが多いのです。

やっかいなのは、この「余計な仕事」を作り出している人たち自身が、「余計な仕事を作っている」という自覚はほとんどない点。むしろ「これは必要な仕事」と信じ込んでいることも多いのです。

しかし実際に突っ込んで話し合うと、「その仕事でどのような成果(価値)を生み出そうとしているのか」、「その『成果を生み出す』とする根拠は何か」が希薄な場合も多いのです。

実際には、社内で作られる新たな仕事は「余計な仕事」であることが少なくなく、そのような「余計な仕事」が積み重なると社員のモチベーションが下がってしまうのです。

 

社内で新たな仕事を作ろうとする場合、「どのような価値を創ろうとしているのか?」「その根拠は何か?」「本当に『余計な仕事』ではないのか?」を、改めて考え抜く必要があります。

 

「バリュープロポジション」を考え抜く大切さは、社内業務であってもまったく同じなのです。

 

 

東村アキコ「かくかくしかじか」……ひたすら行ずることの大切さ

東村アキコさんはとても好きな漫画家の一人です。

その東村アキコさんが「かくかくしかじか」という作品でマンガ大賞2015を受賞したとのことで、早速Kindle版で第1巻をダウンロード。2日間で一気に全5巻を読了しました。(第5巻のみまだKindle化されておらず、紙の本で読みました)

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話は東村アキコさんが宮崎の高校生だった時代から始まります。スパルタ美術教室の日高先生と出会い、美大に入り、社会人となり、漫画家になるまでの日高先生との8年間を描いた実話です。

厳しい日高先生は、常に「描け」と言います。とにかく手を動かして描く。描く意味や、自分が何を描きたいかなどは考えず、ひたすら目の前のものを描く。

日高先生の最後の言葉も、「描け」でした。

そして真剣に生きる。

 

ひたすら目の前の課題に対して行ずる大切さ。

行じた意味は、あとから付いてくるかもしれない。(しかし、ついてこないかもしれない)

これは絵に限らずに、生きることすべてに共通な、大切なことだと思います。

それがなかなか出来ないのも、人間の弱さ。

東村アキコさんは、その自分の姿も、本作品でありのまま描いています。

 

このように書くとシリアスなストーリーに思われるかもしれませんが、基本は東村アキコさんのいつもの作品通り、コメディ路線です。

 

「たまにはビジネス書から離れた本を読んでみたい」という方にはお勧めです。

 

週1回の上級経営陣による業績レビューのコスト、全社で年間8億円! 「時間」という経営資源は管理されていない。ではどうするか?

今や「時間」は、第5の経営資源。

しかし現実には、多くの企業でその貴重な資源は管理されていません。

無駄な会議がいかに多いことか。

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ハーバードビジネスレビュー2015年2月号で、「組織の時間も予算管理せよ」という論文が掲載されています。

ここで掲載されているある企業の事例は驚くべきものです。

この企業では上級経営陣が週1回の事業全体の業績レビューを行っています。

会議自体に要する時間…7,000人時/年
会議準備で各ビジネスユニットの会議に要する時間…20,000人時/年
事前に情報を集めクロスチェックする会議時間…63,000人時/年
その準備会議の時間…210,000人時/年

つまり週1回の上級経営陣の会議のために、300,000人時/年を費やしていました。(データ収集や関連作業時間は含んでいません)

仮に一人当たり平均年収500万円(年間実働1800時間)として人件費を計算すると、年間8億3300万円かかっていることになります。実際には幹部が関わっているので人件費はもっと大きくなりますね。

 

本論文では、「時間管理に関する規律を強化することで、企業全体の持ち時間のうち、少なくとも20%を解放できる可能性がある」として、8つの方法を紹介しています。

そのうち2つを紹介します。

□ 明確かつ的を絞ったアジェンダを作る。たとえばジョブスは今後1年でアップルが最優先すべき事項を10項目挙げさせ、そのリストから下位7項目を削除し「我々が実行できるのは3つだけだ」と宣言した。

□ 全組織的な時間管理の規律を構築する。開始時間を厳守、事前準備の徹底、明確な目的の設定を徹底する。ジョブスは出席者の準備が不十分だと会議を一方的にキャンセルすることで、期待する成果が出そうもない会議に時間と金を無駄にするのを防いだ。

この2つを徹底するだけでも、かなり企業内の無駄な時間は削減できるはず。

 

ほとんどの企業が「時間」という資源を管理していないということは、そこにコスト削減のための膨大なチャンスが眠っていると言うことでもあります。

多くの企業が残業削減に取り組んでいるのも、単に残業代削減だけではなく、企業として「時間」という経営資源を効率化するためです。

 

改めて「時間」という視点で無駄を見直してみたいものです。

「バリュー・プロポジション・デザイン」邦訳版(翔泳社)の解説を執筆しました

日本で10万部突破し、30カ国以上で出版された世界的ベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』の続編、『バリュー・プロポジション・デザイン』邦訳版(翔泳社)が、4月17日に発売されます。

このたびご縁があって、本書の解説を執筆しました。

 

本書の帯にも、私の名前を紹介いただいています。

VPD

本書はタイトルの通り、バリュープロポジション(お客様が買う理由)を具体的に創り上げるための実践的なガイドです。

リーンスタートアップ、顧客開発プロセス、デザイン思考などの最新の方法論も採り入れており、私が日々後提唱している方法論ととても近く、さらに職人技に頼らず万人が実践できる方法論として体系化されている点で本書が優れています。

まさに米国流プラグマティズムの真骨頂とも言えます。

 

「なかなか差別化ができない」と悩んでいる多くの日本企業の現場で、本書を縦横に活用していただければと願っています。

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「理論は机上の空論」ではない。ビジネスパーソンこそ、理論を学ぶと応用範囲が圧倒的に広がる

Red path across labyrinth

私たちビジネスパーソンの多くは、体験的に「仕事の現場に真実がある」ということを実感しています。

私も確かにその通りだと思います。

一方でともすると、「理論は現実の後追い」だから「理論は机上の空論」と考え、理論を軽視しがちです。

しかし、ハーバードビジネスレビューで早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が書いておられる「世界標準の経営理論」という連載を読むと、必ずしもそうとは限らないことがわかります。

 

ハーバードビジネスレビュー2015年2月号に掲載された連載第6回「理論ドリブンと現象ドリブン 経営学はけっして「現実の後追い」ではない」で、入山准教授は次のように述べています。

—(以下、引用)—

さて、ここで知っていただきたいのは、その当事者である経営学者には、「理論を思考の出発点にするタイプ」と「現象を思考の出発点にするタイプ」がいることだ。

……筆者の知る限り、現存するすべてのMBAの経営学教科書は現象ドリブンで構成されている。書店に並ぶほとんどの経営書もそうだろう。おそらくこの現象ドリブンの構成は、教科書の作成者(多くはビジネス・スクールの教授)が、ビジネスパーソン向けに「わかりやすくする」ために用いているのだろう。しかし筆者は、実はこれはまったく逆の効果ではないかと考えているのだ。

—(以上、引用)—-

 

よく知っている事例を最初に紹介され、その現象を元に理論が説明されると、納得する方が多いと思います。

実際に私も著書でこの手法をよく使います。わかりやすいからです。

その手法に対して、入山准教授は「逆効果である」とおっしゃっています。

そして、リアルなビジネス現象が、複数の経営学の理論で説明可能であることを実例で挙げた上で、次のように書いておられます。

—(以下、引用)—

ここまで来れば、既存のMBA教科書・経営書の課題が理解いただけたのではないだろうか。……「この事象は、あの理論でも、この理論でも、あっちの理論でも、はたまたこんな理論でも説明できます」と書かれているのだ。当然、それぞれの理論的な説明は薄くなり、読者の理解は浅くなる。

…本連載が目指しているのは、それとはまったく逆のベクトルだ。すなわち、世界標準の経営理論を根本から説明することで、それらを腹落ちして理解いただき、皆さんを取り巻くあらゆるビジネス事象の理解・考察・予測のための「思考の軸」にして欲しいのだ。本連載の対象となる三つの戦略の範囲なら、それらを説明する主要理論の数は20程度だ。この程度なら、忙しいビジネスパーソンでも学習は十分に可能な筈はずだ。

そして一つの理論を理解できれば、それを思考の軸にしてさまざまなビジネス事象に応用できる。……それどころか、学者では思いつかない「理論→現象」の応用を、むしろ皆さんが思いつくことも十分ありうるだろう。特定のビジネス事象に詳しいのは、学者ではなくビジネスパーソンなのだから。

このように「理論→現象」の思考軸で経営学を学ぶことこそ、はるかに効率的で、応用範囲も圧倒的に広がるのだ。

—(以上、引用)—-

 

実際に私も理論を学ぶことで現象をより深く理解できることを実体験しています

「現象(事例)→理論」で経営理論の面白さに目覚めた方は、理論を学んでみると、より考え方が深まると思います。

 

その際に、ハーバードビジネスレビューに入山准教授が連載されている「世界標準の経営理論」は、とても参考になると思います。

 

中原淳著『研修開発入門』…網羅的で実践的な企業研修のガイド

中原淳著『研修開発入門 会社で「教える」、競走優位を「つくる」』(ダイヤモンド社)を読了しました。

本書は、企業での研修を企画・実施する方法論を、とても網羅的・実践的に書いています。

自分の人材開発マネージャーの経験と照らし合わせて知識の棚卸しができましたし、現在の自分に足りない部分も色々と見つかり、とても勉強になりました。

人材開発に携わる方は、是非ご一読をお勧めします。

 

もう一つ、本書のあとがきで「なるほど!」と深く腹オチした言葉がありました。

著者の中原先生が、知財専門の法律事務所の先生から聞いた言葉が紹介されている箇所です。

—(以下、引用)—

「方法・手法に、法律は、著作権を認めませんでした。中原さん、それはなぜかおわかりですか? それは、私たちの文化を発展させるために、それらは自由に流通させた方が、社会全体のためになると法律が考えているためです。そのことで、『不利益を生じる個人』が、もしかすると生まれるかもしれません。でも、社会全体の功利を考えれば、方法、手法は流通した方がよいのです。方法・手法は流通することを待っているのです。」

—(以上、引用)—

 

ともすると、「研修や講演でビジネスしよう」と考えると、自分のノウハウを出し惜しみしがちです。

しかし実際には、そのノウハウを広く世の中に情報発信して拡げることで、よりよい世の中を創ることができます。

 

改めて、情報発信の継続が必要だと認識しました。

 

良くなってきた景気に、残業時間増で対応している日本企業

国内景気も、だいぶ良くなってきました。

しかし一方で、景気改善には、長時間労働で対応しているのが現実のようです。

 

2015年3月23日の日本経済新聞に「なぜ減らない、長時間労働 昨年、正社員の残業最長に 長く働けば昇進? 意識改革進まず」という記事が掲載されています。

—(以下、引用)—

日本人の長時間労働が減らない。2014年のデータを見ると残業時間は年173時間で前年より7時間、20年前より36時間増え、統計をさかのぼれる1993年以来、最長になった。

—(以上、引用)—

記事では、長時間労働の理由の一つに、終身雇用を挙げ、受注の増減で社員を増減する米国企業と異なり、「今いる社員の労働時間を増やしたり減らしたりして対応するのが一般的」な日本企業の考え方を挙げています。

確かに労働流動性の問題は根深いですね。

 

試しに、記事中にあった1994年から2014年までの年間残業時間と、景気との関連性を見るために、日銀短観と重ねてみました。

結果はこの通り。

残業時間推移

山と谷が見事なほど重なっていて、「景気が良くなれば、残業時間を増やして対応する」という仮説を裏付ける結果となっています。

 

また、「働く時間が長い人を評価する企業風土」も挙げています。

—(以下、引用)—

山本勲・慶大教授の調査によると、長く働く人ほど、出世する傾向があった。課長の手前の大卒社員を継続調査したところ、週の労働時間が10時間延びるごとに、翌年に課長に昇進する確率が3%上がるという結果が出た。

—(以上、引用)—

 

「より短い時間で、高い生産性を」と提唱してまいりましたが、道のりはまだまだ遠く、「景気改善→残業増で対応」「景気悪化→仕事量減量で対応」という考え方を改める必要がありそうです。

 

記事では、「朝残業」を取り入れて効率性を高めて、残業を減らした伊藤忠の例も紹介しています。

また先日のブログで紹介したように、残業しない方が時間単位給与が上がる仕組みを取り入れたSCSKのような事例も出てきています。

 

まだ統計の数字には出ないレベルで、ゆっくりとではありますが、日本企業も変わっていこうとしているのではないかと思います。

 

 

ユーオス・グループ様で講演しました

2015年3月17日、IBM様のユーザーグループであるユーオスグループ様・関東支部会で講演しました。

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日本IBM様のAVルームでお話しするのは、日本IBM社員だった2年前以来です。

IT業界では、「ソリューションセールス」という言葉があります。

本来は、お客様ご自身も気がつかない課題に、自社ならではの強みで応えることが、「ソリューション」。

しかしともすると、「お客様の言いなりになるのがソリューション」と考えてしまっているケースが少なくありません。

そこで今回の講演は、いつもお話しする「お客様が買う理由をいかに作るか?」に沿った上で、IT業界の状況に合わせてお話ししました。

 

皆様からご感想をいただきました。

□現在のビジネスからの離脱を検討している中、非常に参考になりました。

□要望に応えるのが仕事と思っていましたが、考えを改めました。

□弊社が取り組んでいる方向とまったく一致するものでした。進めているアプローチに間違いないと自信が持てました。ありがとうございました。

□顧客中心主義という原点が大切と感じ、発想の転換と深く客先のことを考える重要性を再認識しました。

□わかりやすい話し方とプレゼンでした。管理職に向けた会議やセミナーで参考にしたいと思います。

□弊社が推進している事業と通じることが多く、たいへん共感致しました。ありがとうございました。

□戦略を立てる上で非常に役立つと感じました。ありがとうございました。

□机上の話ではなく、実際の話がメインであり、大変参考になった。

□ちょっとした工夫が成功に役立つと感じました。仮説検証の繰り返しのターゲットを決めようと思いました。

□聴き入ってしまいました。とても面白いお話しでした。必ずしも汎用的である必要はないんだと思いました。必要とするお客様に必要なソリューションを届けたいです。

 

ご参加された皆様、ありがとうございました。

 

「仕事の失敗は、人材教育である」という考え方

最近は少なくなりましたが、社内で部下や同僚を激しく怒る方が、たまにおられます。(叱ると怒るの違いを考え始めるとまた深いテーマですが、当ブログではこのことには触れません)

この是非を考える上で、2015年3月3日の日本経済新聞に掲載されたコラム「森下幸典と経営書を読む なぜ、わかっていても実行できないのか(4) 知識を行動に変えるには 背景の考え方、正しく理解」は、とても参考になりました。

—(以下、引用)—-

 十分な計画ができていなくても、まず行動を起こして様々な経験をしながら修正した 方が良いのです。行動すれば間違いも起きますが、これを寛容に受け入れ、人材教育の機会と捉えることが企業にとって重要です。

叱責ばかりしていては、人は失敗を恐れて行動しなくなります。組織に恐怖心を植え付けるのも、解放するのもトップの行動次第です。現実的に組織には階層が存在します が、むやみに権力の差を見せつけない配慮が、恐怖心からの解放につながります。

フェファーらは「個人として社内の競争に勝利することと、組織ぐるみで市場の戦い に勝つことを混同してはならない」と強調しています。……同僚を打ち負かすという行為 は無用なのです。

—(以下、引用)—-

 

「なるほど」と思いました。

 

世の中が激しく変わっているので、計画通りに行くことはまずありません。

そこで現代では、「仮説を立てて検証する」という試行錯誤、「新しいことに積極的に挑戦し、失敗から学ぶ」ことが、ますます重要になっています。

新しいことに挑戦し、失敗しても、その原因を深掘りして自分の言葉で説明できるようにする。

計画外のことからの学びを、推奨することが必要です。

Confident Businessman

 

このような状況なのに、人の失敗を責め始めると、人は挑戦しなくなり、失敗からも学ばなくなります。

 

「仕事の失敗は、人材教育」という考え方、身につけたいですね。

「残業=カッコいい」から、「残業=カッコ悪い」の時代へ

私が20代の会社員だった頃の飲み会で、管理職だった団塊世代の先輩社員が、こう言いました。

「同じアウトプットを出すAさんとBさんなら、私は夜遅くまで頑張ったAさんを評価する」

私はこう反論しました。

「それはおかしい。早く仕上げたBさんを評価すべきだ」

今なら笑い話ですが、高度成長期の終わりにさしかかっていた当時は、「夜遅くまで頑張った人間は、偉い」「愛社精神の証」と評価する傾向が高かったように思います。

「残業=格好いい」という時代だったのですね。

よく考えてみると先の例では同じ仕事を仕上げても、定時に仕上げたBさんは残業代なし。夜遅くまで頑張ったAさんは残業代をもらえて収入も増えています。同じようなことは、企業の中でよく起こっているのではないでしょうか?

 

2015年3月6日の日本経済新聞に、「SCSK、残業手当を高めに一律支給 「しない人」も対象 生産性アップめざす」という記事が掲載されています。

—(以下、引用)—

システム開発大手のSCSKは残業手当の支給額を一律にして、残業時間を短くした 人の方が得をする人事制度を7月に導入する。

…入社7年以上の中堅社員には裁量労働制を適用し、月 給に34時間分の残業手当を一律で上乗せする。残業時間 がゼロならば、34時間分の手当を余分に受け取れる。反 対に50時間の残業をすると16時間分の手当は得られずに 損をする仕組みだ。

…SCSKは以前は深夜の残業などが多く、2012年度の 平均残業時間は月26時間だった。13年度には残業を減ら した職場は翌夏のボーナスを上乗せする制度を導入し、14年度の平均残業時間を月18 時間に減らした。

7月からはボーナス支給を毎月の手当に切り替える。残業をしない方が得をする効果を従業員が実感しやすくなり、残業時間の抑制効果が高まるとみている。

—(以上、引用)—

 

個人毎への仕事の割り当てが課題になってきますが、残業をしない方が時間単位給が今よりも増えて得をする仕組みは、よく考えられています。

「時代も変わったなぁ」と実感しました。

 

このように企業の考え方が変わってきたのは、仕事の性質がこの30年間で大きく変わってきたことが背景にあります。

私が20代だった時代はインターネット普及前夜でした。大量生産・大量販売時代の名残もあり、時間をかけて頑張ればできる仕事が多くありました。

「知識社会」と言われる現代、かつて手作業で処理していた多くの仕事がITで自動化されています。時間をかけて頑張ればできる仕事は、次々とITに置き換わっています。一方で増えてきたのは、アイデアを生み出す仕事。夜遅くまで頑張っても、必ずしもいいアイデアは生まれません。むしろ心身健康でいい状態を保ち、適切な休みを取った方が、いいアイデアが生まれます。

企業側もこのことがわかっているので、社員に残業をさせないようにし、知的生産性を高める方向に舵を切っているのですね。

 

「残業=カッコいい」から、「残業=カッコ悪い」の時代へ変わっていけば、企業の生産性も向上し、私たちもより充実した人生を送れるようになると思います。